(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ホスホン酸化合物は、エチレンジアミン四エチレンホスホン酸、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五エチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五メチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六エチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六メチレンホスホン酸、プロパンジアミン四エチレンホスホン酸、およびプロパンジアミン四メチレンホスホン酸、ならびにこれら酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
前記スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物は、スルホン酸基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸基含有ポリスチレン、スルホン酸基含有ポリ酢酸ビニル、スルホン酸基含有ポリエステルおよび(メタ)アクリル基含有モノマー−スルホン酸基含有モノマーの共重合体ならびにこれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミン塩、およびアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物の表面を処理するために用いられる。なお、本明細書において、「表面処理」とは、以下で詳説するように、例えば、研磨済研磨対象物に対する洗浄処理およびリンス研磨処理を含む概念である。したがって、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、洗浄用組成物やリンス研磨用組成物として用いられる。
【0011】
なお、本明細書において、「タングステンを含む層」を、単に「タングステン層」または「W層」と、「タングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物」を、単に「研磨済研磨対象物」と、「本発明の一形態に係る表面処理組成物」を、単に「表面処理組成物」とも称することがある。
【0012】
化学的機械的研磨(CMP)工程後に行われる洗浄工程は、半導体基板(研磨済研磨対象物)の表面に残留する不純物(パーティクル、金属汚染、有機物残渣、パッド屑などの異物)を除去することを目的として行われる。この際、例えば国際公開第2013/162020号(米国特許出願公開第2015/140820号明細書に対応)に開示された洗浄剤を用いて洗浄することで、これら異物が除去されうる。しかし、本発明者は、かような洗浄剤を用いてタングステン層を有する研磨済研磨対象物を洗浄する際、タングステン層の溶解を抑制する効果が十分でないことを見出した。そして、鋭意検討した結果、本発明の一形態に係る表面処理組成物により表面処理を行う際、研磨済研磨対象物の表面に備えられたタングステン層の溶解が効果的に抑制されることを見出した。
【0013】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物と、水と、を含み、pHが6以下である。
【0014】
本発明者は、本発明によって上記課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0015】
上記タングステン層の溶解は、研磨済研磨対象物の表面に形成されたタングステン層が、洗浄剤(洗浄に用いる組成物)中に含まれる水と水和物(W
XO
YA−)を形成して、溶解しやすくなっていることに起因すると考えられる。このようなタングステン層の溶解は、pHが高いとき(すなわち、アルカリ性であるとき)や、研磨済研磨対象物の電位が高いときに、より顕著となる。
【0016】
これに対し、本発明の表面処理組成物は、窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物を含むため、当該ホスホン酸化合物がタングステン層に吸着して、当該層の表面を保護することができると考えられる。具体的には、本発明に係るホスホン酸化合物は、窒素原子を2以上含み、当該窒素原子によってタングステン層の表面に配位する。そして、これらの窒素原子が安定して配位することで、ホスホン酸基(−P(O)(OH)
2)と共にタングステン層表面に不溶性の錯体が形成される結果、水和を抑制し、ホスホン酸化合物がタングステン層の溶解を抑制するインヒビター(溶解抑制剤)として機能すると推測される。
【0017】
また、本発明の表面処理組成物は、pHが6以下(酸性)であるため、pHが高い時に顕著となるタングステン層の溶解を抑制することができると考えられる。したがって、本発明によれば、表面処理を行う際、研磨済研磨対象物に備えられたタングステンを含む層の溶解を抑制することができる手段が提供される。
【0018】
このように、本発明の表面処理組成物を用いることにより、タングステン層の溶解を抑制することができる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0019】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行う。
【0020】
<表面処理組成物>
以下、表面処理組成物に含まれる各成分について説明する。
【0021】
[窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物(本明細書中、単に「ホスホン酸化合物」とも称する)を含む。当該ホスホン酸化合物は、上述のように、タングステン層の溶解の抑制に寄与する。すなわち、本発明に係るホスホン酸化合物は、タングステン層の溶解等を抑制する溶解抑制剤(以下、単に「インヒビター」や「抑制剤」とも称することがある)として機能する。
【0022】
また、ホスホン酸化合物は、表面処理を行う際、研磨済研磨対象物(具体的には、タングステン層)の表面粗さの増大(平均表面粗さRaの値の増大)の抑制にも寄与しうる。タングステン層の表面粗さの増大は、粒界腐食に起因すると考えられる。これに対し、上述のように、ホスホン酸化合物のインヒビターとしての効果により、タングステン層の溶解が抑制されることで、同時にタングステン層の粒界における溶解が抑制される。その結果、タングステン層表面の平滑性が良好に維持されると考えられる。
【0023】
ホスホン酸化合物は、2以上の窒素原子および1以上のホスホン酸基(−P(O)(OH)
2)を有する化合物であれば、特に制限されない。なお、表面処理組成物中、ホスホン酸基は、ホスホン酸塩基(−P(O)(OM
1)
2または−P(O)(OM
1)(OH);ここで、M
1は、有機または無機の陽イオンである)の状態で含まれていてもよい。
【0024】
本発明に係るホスホン酸化合物の窒素原子数は、2以上である。窒素原子の数が多いほど、ホスホン酸化合物がタングステン層に配位しやすくなり、タングステン層の溶解等を抑制する観点から好ましい。一方、窒素原子数の上限は特に制限されないが、表面処理後のタングステン層からホスホン酸化合物自体を除去しやすくなるという観点から、8以下であると好ましい。さらに、タングステン層の溶解等の抑制と、表面処理後におけるホスホン酸化合物の除去の容易性とのバランスから、窒素原子数は、2以上6以下であると好ましく、2以上4以下であるとより好ましく、2または3であると特に好ましい。
【0025】
本発明に係るホスホン酸化合物のホスホン酸基の数は、1以上であれば特に制限されないが、タングステン層の溶解等の抑制と、表面処理後におけるホスホン酸化合物の除去の容易性とのバランスから、1以上10以下であると好ましく、2以上6以下であるとより好ましい。
【0026】
なかでも、表面処理組成物に含まれるホスホン酸化合物は、下記式(1)で表される化合物またはその塩であると好ましい:
【0028】
前記式(1)中、
Y
1およびY
2は、それぞれ独立して、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を表し、
nは、0以上4以下の整数であり、
R
1〜R
5は、それぞれ独立して、水素原子、置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、
この際、R
1〜R
5のうち、1個以上はホスホン酸基で置換されたアルキル基である。
【0029】
上記式(1)中、Y
1およびY
2としての、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基としては、特に制限はなく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基等の直鎖または分岐鎖のアルキレン基がある。これらのうち、炭素数1以上4以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキレン基がより好ましい。さらに、タングステンの溶解等の抑制効果や、入手容易性という観点から、炭素数1または2のアルキレン基、すなわち、メチレン基、エチレン基がより好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0030】
上記式(1)中のnは、(−Y
1−N(R
5)−)の数を表し、0以上4以下の整数である。タングステンの溶解等の抑制効果の向上や、入手容易性という観点から、nは、0以上2以下の整数であると好ましく、0または1であると特に好ましい。なお、nが2以上の場合、n個の(−Y
1−N(R
5)−)は、同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
上記式(1)中、R
1〜R
5としての、置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基としては、特に制限はなく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基がある。これらのうち、置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上4以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、置換されているかもしくは非置換の炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましい。さらに、タングステンの溶解等の抑制効果や、入手容易性という観点から、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0032】
ここで、アルキル基について「置換されているかもしくは非置換の」とは、アルキル基の一以上の水素原子が他の置換基で置換されていても、置換されていなくてもよいことを意味する。ここで、置換しうる置換基としては、特に限定されない。例えば、フッ素原子(F);塩素原子(Cl);臭素原子(Br);ヨウ素原子(I);ホスホン酸基(−PO
3H
2);リン酸基(−OPO
3H
2);スルホン酸基(−SO
3H);チオール基(−SH);シアノ基(−CN);ニトロ基(−NO
2);ヒドロキシ基(−OH);炭素数1以上10以下の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等);炭素数6以上30以下のアリール基(例えば、フェニル基、ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基);炭素数3以上20以下のシクロアルキル基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基)などの置換基が挙げられる。
【0033】
上記式(1)中、R
1〜R
5のうち、1個以上はホスホン酸基で置換されたアルキル基(ホスホン酸基で置換された、炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基)である。
【0034】
「ホスホン酸基で置換されたアルキル基」とは、一以上のホスホン酸基で置換された炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であって、例えば、(モノ)ホスホノメチル基、(モノ)ホスホノエチル基、(モノ)ホスホノ−n−プロピル基、(モノ)ホスホノイソプロピル基、(モノ)ホスホノ−n−ブチル基、(モノ)ホスホノイソブチル基、(モノ)ホスホノ−s−ブチル基、(モノ)ホスホノ−t−ブチル基、ジホスホノメチル基、ジホスホノエチル基、ジホスホノ−n−プロピル基、ジホスホノイソプロピル基、ジホスホノ−n−ブチル基、ジホスホノイソブチル基、ジホスホノ−s−ブチル基、ジホスホノ−t−ブチル基等が挙げられる。これらのうち、1個のホスホン酸基で置換された炭素数1以上4以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、1個のホスホン酸基で置換された炭素数1以上3以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基がより好ましい。さらに、タングステンの溶解等の抑制効果や、入手容易性という観点から、(モノ)ホスホノメチル基、(モノ)ホスホノエチル基がより好ましく、(モノ)ホスホノメチル基が特に好ましい。
【0035】
上記式(1)中、R
1〜R
5のうち、4個以上がホスホン酸基で置換されたアルキル基であるとより好ましい。さらに、タングステンの溶解等の抑制効果の観点から、R
1〜R
4の全てが、ホスホン酸基で置換された炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であると好ましく、R
1〜R
4およびn個のR
5の全てが、ホスホン酸基で置換された炭素数1以上5以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基であると特に好ましい。
【0036】
本発明の一形態に係る表面処理組成物において、特に好適に用いられる化合物としては、エチレンジアミン四エチレンホスホン酸、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))、ジエチレントリアミン五エチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五メチレンホスホン酸(ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸))、トリエチレンテトラミン六エチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六メチレンホスホン酸、プロパンジアミン四エチレンホスホン酸、およびプロパンジアミン四メチレンホスホン酸、ならびにこれら酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩が挙げられる。すなわち、本発明に係るホスホン酸化合物は、上記のホスホン酸化合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいると好ましい。
【0037】
なかでも、タングステン層の溶解等を抑制する効果や、入手容易性等を考慮すると、ホスホン酸化合物は、エチレンジアミン四エチレンホスホン酸、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五エチレンホスホン酸およびジエチレントリアミン五メチレンホスホン酸ならびにこれら酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいるとより好ましく、さらに、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸およびジエチレントリアミン五メチレンホスホン酸ならびにこれら酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいると特に好ましい。
【0038】
なお、ホスホン酸化合物は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0039】
ホスホン酸化合物の含有量は、特に制限されないが、ホスホン酸化合物の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。ホスホン酸化合物の含有量が0.01質量%以上であると、タングステン層の溶解等を抑制する効果が向上する。
【0040】
同様の観点から、ホスホン酸化合物の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましく、0.06質量%以上であることがさらにより好ましく、0.08質量%以上であることが特に好ましい。また、ホスホン酸化合物の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましい。ホスホン酸化合物の含有量が5質量%以下であると、表面処理後のホスホン酸化合物自体の除去が容易となる。同様の観点から、ホスホン酸化合物の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%未満であることが特に好ましい。
【0041】
また、表面処理組成物がスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物(本明細書中、単に「スルホン酸基含有高分子」とも称する)をさらに含む場合、当該スルホン酸基含有高分子に対するホスホン酸化合物の質量比が、0.1以上であると好ましい。当該質量比が0.1以上であると、タングステン層の溶解等の抑制効果を十分に得ることができる。さらに、タングステン層の溶解等の抑制効果を向上させるという観点から、上記質量比は、0.2以上であるとより好ましく、0.4以上であるとさらにより好ましい。
【0042】
さらに、ホスホン酸化合物は、表面処理組成物中に含まれるスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物よりも多く含まれていると好ましい。すなわち、当該スルホン酸基含有高分子に対するホスホン酸化合物の質量比が、1を超える(すなわち、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物:ホスホン酸化合物(質量比)=1:1超である)と好ましい。当該質量比が1を超えると、タングステン層の溶解のみならず、表面粗さの増大を抑制する効果がさらに向上する。かかる理由は、ホスホン酸化合物を多く含むことにより、ホスホン酸化合物がタングステン層と錯体を形成しやすくなり、タングステン層が水和することが抑制されるためであると考えられる。
【0043】
同様の観点から、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物に対するホスホン酸化合物の質量比(ホスホン酸化合物/スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物)は、1.2以上であるとより好ましく、1.5以上であると特に好ましい。当該質量比の上限は特に制限されないが、表面処理後のホスホン酸化合物自体の除去の容易性を考慮すると、10以下であると好ましく、5以下であるとより好ましい。
【0044】
ホスホン酸化合物は、その分子量が1,000未満であると好ましい。分子量が1,000未満であると、研磨済研磨対象物を表面処理した後、ホスホン酸化合物を除去する過程において、除去が容易となるため、好ましい。同様の観点から、ホスホン酸化合物の分子量は、800以下であるとより好ましく、600以下であると特に好ましい。一方、ホスホン酸化合物の分子量の下限値は特に制限されないが、120以上であると好ましい。なお、ホスホン酸化合物の分子量は、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)法、HPLC−タンデム四重極質量分析法などの質量分析(MS)法;高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等により測定することができる。
【0045】
[pH]
本発明の一形態に係る表面処理組成物のpHは、6以下である。pHが6以下であると、タングステン水和物の形成が抑制され、タングステン層の溶解をより抑制することができる。一方、pHが6を超えると、タングステン水和物が形成されやすくなり、タングステン層が溶解する。また、タングステン層の溶解をより抑制するという観点から、pHが4以下であることがより好ましく、4未満であることがさらに好ましく、3以下であることがさらにより好ましく、3未満であることが特に好ましく、2.5以下であることが最も好ましい。また、pHは、1以上であることが好ましい。pHが1以上であると、低pHに調整するための酸の添加量を低減でき、コストを削減するという観点から好ましい。
【0046】
また、以下で詳説するように、表面処理組成物のpHを6以下とする(すなわち、液性を酸性とする)ことにより、研磨済研磨対象物の表面または異物の表面を正電荷で帯電させることができ、静電的な反発により、十分な異物の除去効果が得られうる。
【0047】
なお、表面処理組成物のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認することができる。
【0048】
pHを調整する際、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物の原因となりうるため、できる限り添加しないことが望ましい。よって、表面処理組成物は、上記ホスホン酸化合物、水、および必要に応じて添加されるスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物、酸のみで調製することが好ましい。しかしながら、これらのみによって所望のpHを得ることが困難である場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、任意に添加されうるアルカリ等の他の添加剤を用いて調整してもよい。
【0049】
[分散媒]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、分散媒(溶媒)として水を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、水を含むものであれば時に制限されず、水のみであってもよい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、例えば、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。なかでも、分散媒は、水のみであることが好ましい。
【0050】
水は、洗浄対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100質量ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0051】
[スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物をさらに含んでいると好ましい。スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物(本明細書中、単に「スルホン酸基含有高分子」とも称する)は、表面処理組成物による異物の除去に寄与する。よって、上記スルホン酸基含有高分子を含む表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面処理(洗浄等)において、研磨済研磨対象物の表面に残留する異物(有機物残渣等を含む不純物)を十分に除去することができる。
【0052】
当該スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基以外の部分(すなわち、スルホン酸基含有高分子のポリマー鎖部分)と、異物(特に疎水性成分)との親和性により、ミセルを形成しうる。よって、このミセルが表面処理組成物中に溶解または分散することにより、疎水性成分である異物もまた効果的に除去されると考えられる。
【0053】
また、酸性条件下において、研磨済研磨対象物の表面がカチオン性である場合、スルホン酸基がアニオン化することにより、当該研磨済研磨対象物の表面に吸着しやすくなる。その結果、研磨済研磨対象物の表面には、上記スルホン酸基含有高分子が被覆した状態となると考えられる。他方、残留した異物(特にカチオン性を帯びやすいもの)には、スルホン酸基含有高分子のスルホン酸基が吸着しやすいため、異物の表面がアニオン性を帯びることとなる。よって、その表面がアニオン性となった異物と、研磨済研磨対象物の表面に吸着したスルホン酸基含有高分子のアニオン化したスルホン酸基とが、静電的に反発する。また、異物がアニオン性である場合は、異物自体と、研磨済研磨対象物上に存在するアニオン化したスルホン酸基とが静電的に反発する。したがって、このような静電的な反発を利用することで、異物を効果的に除去することができると考えられる。
【0054】
さらに、研磨済研磨対象物が電荷を帯びにくい場合には、上記とは異なるメカニズムによって異物が除去されると推測される。まず、疎水性である研磨済研磨対象物に対し、異物(特に疎水性成分)は疎水性相互作用によって付着しやすい状態にあると考えられる。ここで、スルホン酸基含有高分子のポリマー鎖部分(疎水性構造部位)は、その疎水性に起因して、研磨済研磨対象物の表面側に向き、他方、親水性構造部位であるアニオン化したスルホン酸基等は、研磨済研磨対象物表面側とは反対側に向く。これにより、研磨済研磨対象物の表面は、アニオン化したスルホン酸基に覆われた状態となり、親水性となると推測される。その結果、異物(特に疎水性成分)と、上記研磨済研磨対象物との間に疎水性相互作用が生じにくくなり、異物の付着が抑制されると考えられる。
【0055】
そして、研磨済研磨対象物の表面に吸着したホスホン酸化合物およびスルホン酸基含有高分子は、さらに水洗等を行うことにより、容易に除去される。
【0056】
なお、本明細書において、「スルホン酸(塩)基」とは、スルホン酸基(−SO
3H))またはスルホン酸塩基(−SO
3M
2;ここで、M
2は、有機または無機の陽イオンである)を表す。
【0057】
スルホン酸基含有高分子は、スルホン酸(塩)基を有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。スルホン酸基含有高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をスルホン化して得られる高分子化合物や、スルホン酸(塩)基を有する単量体を(共)重合して得られる高分子化合物等が挙げられる。
【0058】
より具体的には、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(スルホン酸変性ポリビニルアルコール)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸(塩)基含有ポリスチレン、スルホン酸(塩)基含有ポリ酢酸ビニル(スルホン酸変性ポリ酢酸ビニル)、スルホン酸(塩)基含有ポリエステル、(メタ)アクリル酸−スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体等の(メタ)アクリル基含有モノマー−スルホン酸(塩)基含有モノマーの共重合体等が挙げられる。なお、本明細書において、化合物の具体名における表記「(メタ)アクリル」は「アクリル」および「メタクリル」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を表すものとする。上記スルホン酸基含有高分子は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これら高分子が有するスルホン酸基の少なくとも一部は、塩の形態であってもよい。塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。特に、研磨済研磨対象物がCMP工程後の半導体基板である場合には、基板表面の金属を極力除去するという観点から、アンモニウム塩であると好ましい。
【0059】
すなわち、本発明に係るスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物は、スルホン酸基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸基含有ポリスチレン、スルホン酸基含有ポリ酢酸ビニル、スルホン酸基含有ポリエステルおよび(メタ)アクリル基含有モノマー−スルホン酸基含有モノマーの共重合体ならびにこれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミン塩、およびアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいると好ましい。さらに、本発明に係るスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物は、スルホン酸基含有ポリスチレンのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミン塩、およびアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでいるとより好ましい。
【0060】
さらにまた、タングステンを含む層の溶解を抑制する効果が高いという観点から、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、エチレンジアミン四エチレンホスホン酸、エチレンジアミン四メチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五エチレンホスホン酸、ジエチレントリアミン五メチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六エチレンホスホン酸、トリエチレンテトラミン六メチレンホスホン酸、プロパンジアミン四エチレンホスホン酸、およびプロパンジアミン四メチレンホスホン酸、ならびにこれら酸のアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびリチウム塩から選択される少なくとも一種と、スルホン酸基含有ポリスチレンのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アミン塩、およびアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種と、を含んでいると特に好ましい。
【0061】
また、スルホン酸基含有高分子がスルホン酸基含有ポリビニルアルコールである場合は、溶解性の観点から、鹸化度が80%以上であることが好ましく、85%以上であることが好ましい(上限100%)。
【0062】
本発明において、スルホン酸基含有高分子の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましい。重量平均分子量が1,000以上であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、研磨済研磨対象物や異物を覆う際の被覆性がより良好となり、洗浄対象物表面からの異物の除去作用または研磨済研磨対象物表面への有機物残渣の再付着抑止作用がより向上するからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、2,000以上であることがより好ましく、8,000以上であることがさらに好ましい。
【0063】
また、スルホン酸基含有高分子の重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が100,000以下であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、洗浄工程後のスルホン酸基含有高分子の除去性がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、重量平均分子量は、50,000以下であることがより好ましく、40,000以下であることがさらに好ましい。
【0064】
重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。重量平均分子量の測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0065】
スルホン酸基含有高分子としては、市販品を用いていてもよく、例えば、日本合成化学工業株式会社製 ゴーセネックス(登録商標)L−3226、ゴーセネックス(登録商標)CKS−50、東亞合成株式会社製 アロン(登録商標)A−6012、A−6016A、A−6020、東ソー有機化学株式会社製 ポリナス(登録商標)PS−1等を用いることができる。
【0066】
スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。スルホン酸基含有高分子の含有量が0.01質量%以上であると、異物の除去効果がより向上する。かかる理由は、スルホン酸基含有高分子が、研磨済研磨対象物および異物を被覆する際に、より多くの面積で被覆がなされるからであると推測される。これにより、特に異物がミセルを形成しやすくなるため、当該ミセルの溶解・分散による異物の除去効果が向上する。また、スルホン酸(塩)基の数が増加することで、静電的な吸着または反発効果をより強く発現させることができるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましい。スルホン酸基含有高分子の含有量が5質量%以下であると、異物の除去効果がさらに高まる。かかる理由は、洗浄工程後のスルホン酸基含有高分子自体の除去性が良好となるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましく、0.1質量%未満であることが最も好ましい。
【0067】
また、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、スルホン酸基含有高分子に加え、他の高分子化合物を含んでいてもよい。ここで、「高分子化合物」は、その重量平均分子量が1,000以上である化合物をいう。なお、重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される値を採用する。
【0068】
この際、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して80質量%超であることが好ましい(上限100質量%)。スルホン酸基含有高分子の含有量が、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して80質量%超であると、異物の除去効果がより向上する。かかる理由は、洗浄工程後における異物の原因となりうるスルホン酸基含有高分子以外の高分子化合物の量が低減するからである。また、スルホン酸基含有高分子が研磨済研磨対象物および異物を被覆する際に、スルホン酸基含有高分子以外の高分子化合物によって被覆が妨げられることが抑制されるからであると推測される。同様の観点から、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して95質量%超であることがより好ましい。かような場合、異物の除去効果は著しく向上する。
【0069】
さらに、スルホン酸基含有高分子の含有量は、表面処理組成物に含まれる高分子化合物の総質量に対して100質量%であると特に好ましい。すなわち、表面処理組成物に含まれる高分子化合物は、スルホン酸基含有高分子のみからなることが特に好ましい。
【0070】
なお、本発明の一形態に係る表面処理組成物に含まれる、上記「他の高分子化合物」としては、後述の他の添加剤として用いられる高分子化合物が挙げられる。
【0071】
[酸]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、さらに酸を含むことが好ましい。なお、本明細書において、スルホン酸基含有高分子はここで述べる添加剤としての酸とは異なるものとして取り扱う。酸は、主として表面処理組成物のpHを調整する目的で添加される。上述のように、表面処理組成物のpHを6以下とする(酸性とする)ことにより、タングステンの溶解等を抑制することができる。また、酸は、研磨済研磨対象物が窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む場合、当該研磨済研磨対象物の表面や、異物の表面を正電荷で帯電させる役割を担うと推測される。したがって、酸を添加することにより、静電的な反発効果がより促進され、表面処理組成物による異物の除去効果がより向上する。
【0072】
酸としては、無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等が挙げられる。
【0073】
これらの中でも、研磨済研磨対象物の表面および異物の表面を正電荷で帯電させる効果がより良好となり、異物の除去性を高めるという観点から、マレイン酸または硝酸であることがより好ましく、マレイン酸であることがさらに好ましい。
【0074】
なお、酸は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0075】
酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましい。酸の含有量が0.01質量%以上であると、異物の除去効果がより向上する。かかる理由は、研磨済研磨対象物の表面および異物の表面を正電荷で帯電させる効果がより良好となるからであると推測される。同様の観点から、酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、0.02質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましい。また、酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましい。酸の含有量が5質量%以下であると、コストを削減するという観点から好ましい。同様の観点から、酸の含有量は、表面処理組成物の総質量に対して、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0076】
[他の添加剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物の原因となりうるため、できる限り添加しないことが望ましい。よって、必須成分以外の成分は、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、砥粒、アルカリ、防腐剤、溶存ガス、還元剤、酸化剤およびアルカノールアミン類等が挙げられる。なかでも、異物除去効果のさらなる向上のため、表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する砥粒の含量が0.01質量%以下である場合をいう。
【0077】
[タングステン層の溶解抑制効果]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物のタングステン層の溶解を抑制する効果が高いほど好ましい。加えて、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面粗さの増大を抑制する効果が高いほど好ましい。
【0078】
タングステン層の溶解を抑制する効果について、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面処理を行った際、タングステン層のエッチング速度が小さいほど好ましい。具体的には、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、30分当たりの溶解膜厚が50Å以下であると好ましく、45Å以下であるとより好ましく、40Å以下であると特に好ましい。一方、上記エッチング速度は小さいほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、実質的には、30分当たりの溶解膜厚が0.1Åである。
【0079】
また、タングステン層の表面粗さの増大を抑制する効果について、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面処理を行った後、研磨済研磨対象物の平均表面粗さ(Ra)が小さいほど好ましい。具体的には、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した後の平均表面粗さが12.5Å以下であると好ましく、10Å以下であるとより好ましく、5Å以下であると特に好ましい。一方、平均表面粗さは小さいほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、実質的には、0.1Åである。
【0080】
なお、上記エッチング速度および上記平均表面粗さの値は、実施例に記載の方法により表面処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0081】
[異物除去効果]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面上の異物を除去する効果が高いほど好ましい。すなわち、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面処理を行った際、表面に残存する異物の数が少ないほど好ましい。具体的には、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、異物の数が6000個以下であると好ましく、3000個以下であるとより好ましく、2000個以下であるとさらにより好ましく、1500個以下であると特に好ましい。一方、上記異物の数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、実質的には、100個である。
【0082】
なお、上記異物の数は、実施例に記載の方法により表面処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0083】
<表面処理組成物の製造方法>
上記表面処理組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物および水を混合することにより製造できる。すなわち、本発明の他の形態によれば、窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物および水を混合することを含む、上記表面処理組成物の製造方法もまた提供される。上記ホスホン酸化合物の種類、添加量等は、前述の通りである。さらに、本発明の一形態に係る表面処理組成物の製造方法においては、必要に応じて、上記スルホン酸(塩)基を有する高分子化合物、酸、他の添加剤、水以外の分散媒等をさらに混合してもよい。これらの種類、添加量等は、前述の通りである。
【0084】
上記各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。上記各材料を、一括してもしくは別々に、段階的にもしくは連続して加えてもよい。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましくは、上記表面処理組成物の製造方法は、窒素原子を2以上含むホスホン酸化合物と、必要に応じて添加されるスルホン酸(塩)基を有する高分子化合物または酸と、を順次添加し、水中で撹拌することを含む。加えて、上記表面処理組成物の製造方法は、pHが6以下となるように、表面処理組成物のpHを測定し、調整することをさらに含んでいてもよい。
【0085】
<研磨済研磨対象物>
本発明において、研磨済研磨対象物(本明細書中、「洗浄対象物」とも称することがある)は、タングステンを含む層を有する。ここで、「研磨済研磨対象物がタングステンを含む層を有する」とは、研磨対象となる面がタングステンを含む形態であれば、いかなる態様であってもよい。このため、研磨済研磨対象物は、タングステンから構成される基板、タングステンを含む層またはタングステンから構成される層を有する基板(例えば、高分子もしくは他の金属の基板上にタングステンを含む層またはタングステンから構成される層が配置されてなる基板)であってもよい。好ましくは、研磨済研磨対象物は、タングステンから構成される層を有する研磨済研磨対象物(例えば、基板)である。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、タングステンから構成される層を有する研磨済研磨対象物の表面処理(洗浄等)に使用されると好ましい。
【0086】
また、本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0087】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、上記タングステンを含む層と共に、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物の表面に残留する異物を効果的に低減することができる。酸化珪素を含む研磨済研磨対象物としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)や、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等を有する研磨済研磨対象物が挙げられる。
【0088】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。ここで、異物や表面の粗さは半導体デバイスの性能低下の原因となりうる。したがって、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の洗浄工程において、異物や表面の粗さをできる限り低減することが望まれる。本発明の一形態に係る表面処理組成物は、異物を除去する効果を十分に有するため、かような研磨済半導体基板の表面処理(洗浄等)に好適に用いることができる。
【0089】
かかる研磨済研磨対象物の具体例としては、タングステン上に窒化珪素膜または酸化珪素膜が形成された構造を有する研磨済半導体基板や、タングステン部分と、窒化珪素膜と、酸化珪素膜とが全て露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0090】
ここで、本発明の奏する効果の観点から、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、タングステンを含む層と、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンとを含む研磨済研磨対象物の表面処理に好適に用いられる。窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物は、半導体デバイスの製造において、厳密な異物の除去が要求されるが、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、十分な異物の除去能を有するため、このような要請にも十分適応可能である。
【0091】
<表面処理方法>
本発明の他の一形態は、上記表面処理組成物を用いてタングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法である。本発明のさらに他の一形態は、上記表面処理組成物を用いて、タングステンを含む層と、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンとを含む研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法である。本明細書において、表面処理方法とは、研磨済研磨対象物の表面における異物を低減する方法をいい、広義の洗浄を行う方法である。
【0092】
本発明の一形態に係る表面処理方法によれば、タングステンを含む層の溶解を抑制しつつ、残留する異物を十分に除去することができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、上記表面処理組成物を用いてタングステンを含む層を有する研磨済研磨対象物を表面処理する、研磨済研磨対象物の表面における異物低減方法が提供される。
【0093】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、上記表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。
【0094】
表面処理方法としては、主として、(I)リンス研磨処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理は、リンス研磨または洗浄によって行われると好ましい。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(パーティクル、金属汚染、有機物残渣、パッド屑など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。上記(I)および(II)について、以下、説明する。
【0095】
(I)リンス研磨処理
本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において好適に用いられる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨対象物の表面上の異物の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる。このとき、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、研磨済研磨対象物表面の異物は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。異物のなかでも、特にパーティクルや有機物残渣は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、パーティクルや有機物残渣を効果的に除去することができる。
【0096】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の研磨済研磨対象物表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済半導体基板とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物(リンス研磨用組成物)を供給しながら研磨済研磨対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0097】
リンス研磨処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、リンス研磨用組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。研磨装置のリンス研磨処理時の稼働条件は特に制限されず、当業者であれば適宜設定可能である。
【0098】
(II)洗浄処理
本発明に係る表面処理組成物は、洗浄処理において好適に用いられる。洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、または、上記リンス研磨処理を行った後、研磨対象物の表面上の異物の除去を目的として行われる。なお、洗浄処理と、上記リンス研磨処理とは、これらの処理を行う場所によって分類され、洗浄処理は、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外した後に行われる表面処理である。洗浄処理においても、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上の異物を除去することができる。
【0099】
洗浄処理を行う方法としては、例えば、(i)研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシを研磨済研磨対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら洗浄対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、超音波処理や撹拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨対象物表面の異物は、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や撹拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。
【0100】
上記(i)の方法において、表面処理組成物(洗浄用組成物)の研磨済研磨対象物への接触方法としては、特に限定されないが、例えば、ノズルから研磨済研磨対象物上に表面処理組成物を流しながら研磨済研磨対象物を高速回転させるスピン式、研磨済研磨対象物に表面処理組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0101】
短時間でより効率的な汚染除去ができる点からは、洗浄処理は、スピン式やスプレー式を採用することが好ましく、スピン式であることがより好ましい。
【0102】
このような洗浄処理を行うための装置としては、例えば、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置等が挙げられる。これらの中でも、洗浄時間の短縮等の観点から、枚葉式洗浄装置を用いる方法が好ましい。
【0103】
さらに、洗浄処理を行うための装置としては、例えば、研磨定盤(プラテン)から研磨済研磨対象物を取り外した後、当該対象物を洗浄ブラシで擦る洗浄用設備を備えている研磨装置が挙げられる。このような研磨装置を用いることにより、研磨済研磨対象物の洗浄処理を、より効率よく行うことができる。
【0104】
かような研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモータ、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。なお、CMP工程の後、リンス研磨工程を行う場合、当該洗浄処理は、リンス研磨工程にて用いた研磨装置と同様の装置を用いて行うことが、より効率的であり好ましい。
【0105】
洗浄ブラシとしては、特に制限されないが、好ましくは、樹脂製ブラシを使用する。樹脂製ブラシの材質は、特に制限されないが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を使用するのが好ましい。そして、洗浄ブラシとしては、PVA製スポンジを用いることが特に好ましい。
【0106】
洗浄条件にも特に制限はなく、洗浄対象物の種類、ならびに除去対象とする有機物残渣の種類および量に応じて、適宜設定することができる。例えば、洗浄ブラシの回転数は10rpm以上200rpm以下が好ましい。洗浄対象物の回転数は、10rpm以上100rpm以下が好ましい。洗浄対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用されうる。この供給量に制限はないが、洗浄ブラシおよび洗浄対象物の表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。洗浄時間も特に制限されないが、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。このような範囲であれば、異物をより効果的に除去することが可能である。
【0107】
洗浄の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0108】
上記(ii)の方法において、浸漬による洗浄方法の条件については、特に制限されず、公知の手法を用いることができる。
【0109】
上記(i)、(ii)の方法による洗浄処理を行う前、後またはその両方において、水による洗浄を行ってもよい。
【0110】
また、洗浄後の研磨済研磨対象物(洗浄対象物)は、スピンドライヤ等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。また、エアブロー乾燥により洗浄対象物の表面を乾燥させてもよい。
【0111】
<半導体基板の製造方法>
本発明の一形態に係る表面処理方法は、研磨済研磨対象物がタングステンを含む層を有する研磨済半導体基板であるとき、好適に適用可能である。すなわち、本発明の他の一形態によれば、研磨済研磨対象物がタングステンを含む層を有する研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理組成物を用いて表面処理することを含む、半導体基板の製造方法もまた提供される。
【0112】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0113】
また、半導体基板の製造方法としては、タングステン層を有する研磨済半導体基板の表面を、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば特に制限されない。かかる製造方法として、例えば、タングステン層を有する研磨済半導体基板を形成するための研磨工程および洗浄工程を有する方法が挙げられる。また、他の一例としては、研磨工程および洗浄工程に加え、研磨工程および洗浄工程の間に、リンス研磨工程を有する方法が挙げられる。以下、これらの各工程について説明する。
【0114】
[研磨工程]
半導体基板の製造方法に含まれうる研磨工程は、半導体基板を研磨して、研磨済半導体基板を形成する工程である。
【0115】
研磨工程は、半導体基板を研磨する工程であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0116】
研磨用組成物としては、半導体基板の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができる。研磨用組成物としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、酸塩、分散媒、および酸を含むもの等を好ましく用いることができる。かかる研磨用組成物の具体例としては、スルホン酸修飾コロイダルシリカ、硫酸アンモニウム、水およびマレイン酸を含む研磨用組成物等が挙げられる。
【0117】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0118】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0119】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm以上100rpm以下が好ましい。また、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用されうる。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0120】
[表面処理工程]
表面処理工程とは、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面における異物を低減する工程をいう。半導体基板の製造方法において、リンス研磨工程の後、表面処理工程としての洗浄工程が行われてもよいし、リンス研磨工程のみ、または洗浄工程のみが行われてもよい。
【0121】
(リンス研磨工程)
リンス研磨工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程および洗浄工程の間に設けられてもよい。リンス研磨工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(リンス研磨処理方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0122】
研磨装置および研磨パッド等の装置、ならびに研磨条件については、研磨用組成物を供給する代わりに本発明に係る表面処理組成物を供給する以外は、上記研磨工程と同様の装置および条件を適用することができる。
【0123】
リンス研磨工程で用いられるリンス研磨方法の詳細は、上記リンス研磨処理に係る説明に記載の通りである。
【0124】
(洗浄工程)
洗浄工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程の後に設けられてもよいし、リンス研磨工程の後に設けられてもよい。洗浄工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(洗浄方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0125】
洗浄工程で用いられる洗浄方法の詳細は、上記洗浄方法に係る説明に記載の通りである。
【実施例】
【0126】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0127】
<表面処理組成物の調製>
[実施例1:表面処理組成物A−1の調製]
有機酸としての濃度30質量%マレイン酸水溶液を0.5質量部(マレイン酸0.18質量部)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7Na塩(ディクエスト(登録商標)2066)0.1質量部、および水(脱イオン水)を合計100質量部となる量で混合することにより、表面処理組成物A−1を調製した。表面処理組成物A−1(液温:25℃)について、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2であった。
【0128】
[実施例2:表面処理組成物A−2の調製]
有機酸としての濃度30質量%マレイン酸水溶液を0.5質量部(マレイン酸0.18質量部)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー有機化学株式会社製 製品名ポリナス(登録商標)PS−1;重量平均分子量10,000〜30,000)を0.066質量部、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5Na塩(ディクエスト(登録商標)2046)0.1質量部、および水(脱イオン水)を合計100質量部となる量で混合することにより、表面処理組成物A−2を調製した。表面処理組成物A−2(液温:25℃)について、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認されたpHは2であった。
【0129】
[比較例1:表面処理組成物C−1の調製]
ポリビニルアルコール(重量平均分子量10,000)0.1質量%、溶媒としての水を加え、酢酸を用いてpH=3に調整して表面処理組成物C−1を調製した。
【0130】
[実施例3および比較例2〜6:表面処理組成物A−3およびC−2〜C−6の調製]
各成分を下記表1に示す種類に変更した以外は、実施例2と同様にして、各表面処理組成物を調製した。なお、表中の「−」は該当する成分を用いなかったことを示す。また、各表面処理組成物のpHを併せて下記表1に示す。
【0131】
[実施例4〜8:表面処理組成物A−4〜A−8の調製]
ホスホン酸化合物(抑制剤)の添加量を下記表2に示す値となるように変更したこと以外は、実施例2または3と同様にして、各表面処理組成物を調製した。なお、表中の「−」は該当する成分を用いなかったことを示す。また、各表面処理組成物のpHを併せて下記表2に示す。
【0132】
<重量平均分子量の測定>
各物質の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した。
【0133】
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD−LTII)
カラム:VP−ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N
2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0134】
<評価>
[異物数の評価]
(研磨済研磨対象物(洗浄対象物)の準備)
下記化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の、研磨済窒化珪素基板を研磨済研磨対象物(洗浄対象物、研磨済基板とも称する)として準備した。
【0135】
≪CMP工程≫
半導体基板である窒化珪素基板について、研磨用組成物M(組成;スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid−functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”,Chem.Commun.246−247(2003)に記載の方法で作製、一次粒子径30nm、二次粒子径60nm)4質量%、硫酸アンモニウム1質量%、濃度30質量%のマレイン酸水溶液0.018質量%、溶媒:水)を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。ここで、窒化珪素基板は、300mmウェハを使用した。
【0136】
−研磨装置および研磨条件−
研磨装置:荏原製作所社製 FREX300E
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0137】
≪洗浄工程≫
上記CMP工程にてウェハ表面を研磨した後、当該ウェハを研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、前記調製した各表面処理組成物(洗浄用組成物)を用いて、洗浄ブラシであるポリビニルアルコール(PVA)製スポンジで上下からウェハを挟み、圧力をかけながら下記条件で各研磨済基板をこする洗浄方法によって、各研磨済基板を洗浄した。
【0138】
−洗浄装置および洗浄条件−
装置:荏原製作所社製 FREX300E
洗浄ブラシ回転数:100rpm
洗浄対象物(研磨済基板)回転数:50rpm
洗浄液の流量:1000mL/分
洗浄時間:60秒間。
【0139】
≪異物数の測定≫
上記洗浄工程によって洗浄された後の各洗浄済基板について、以下の手順によって異物数を測定した。評価結果を表1および表2に示す。
【0140】
各表面処理組成物を用いて、上記に示す洗浄条件で研磨済窒化珪素基板を洗浄した後の、0.09μm以上の異物数を測定した。異物数の測定にはKLA TENCOR社製SP−2を使用した。測定は、洗浄済基板の片面の外周端部から幅5mmまでの部分を除外した残りの部分について測定を行った。なお、表中の「−」は、測定を行わなかったことを示す。
【0141】
[タングステンエッチング速度(Etching Rate)の測定]
タングステン層の溶解抑制効果の指標として、下記操作によりエッチング試験を行った。すなわち、各表面処理組成物300mLを300rpmで攪拌したサンプル容器に、タングステンウェハ(大きさ:32mm×32mm)を60℃で10分間浸漬することで行なった。浸漬後、タングステンウェハを純水で30秒洗浄し、エアーガンによるエアブロー乾燥で乾燥させた。エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)を、手動シート抵抗器(VR−120、株式会社日立国際電気製)によって測定した。下記(エッチング速度の算出方法)により、エッチング試験前後のタングステンウェハの厚み(膜厚)の差をエッチング試験時間で除することによって、エッチング速度(Etching Rate)(Å/分)を求めた。なお、表中には、30分当たりに換算したエッチング速度(Å/30分)を示す。
【0142】
(エッチング速度の算出方法)
エッチング速度(エッチングレート)(Å/分)は、下記数式(1)により計算した。
【0143】
【数1】
【0144】
[表面粗さ(Ra)の測定]
前記[タングステンエッチング速度(Etching Rate)の測定]と同様の操作をして得られたエアブロー乾燥後のタングステンウェハの表面粗さ(Ra)を、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて測定した。なお、SPMとして、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のNANO−NAVI2を使用した。カンチレバーは、SI−DF40P2を使用した。測定は、走査周波数0.86Hz、X:512pt、Y:512ptで3回行い、これらの平均値を平均表面粗さ(Ra)とした。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
表1の結果から、ホスホン酸化合物であっても、2以上の窒素原子を含まない化合物を用いたときには、エッチング速度が大きくなってしまい、タングステン層が溶解することが示された(比較例3〜6)。また、窒素原子を含まず、ホスホン酸基およびカルボン酸基を含む化合物を用いたときも、エッチング速度が大きく、タングステン層が溶解することが判明した(比較例6)。これに対し、2以上の窒素原子を含むホスホン酸化合物を使用すると、タングステン層の溶解に加え、表面粗さの増大が抑制されることが確認できた(実施例1〜3)。
【0148】
また、表1の結果から、ホスホン酸化合物に加え、スルホン酸基含有高分子をさらに含む場合、異物の除去効果が飛躍的に向上することが示された(実施例1と実施例2、3との対比)。
【0149】
さらに、表2の結果から、ホスホン酸化合物の含有量が多いほど、タングステン層の溶解を抑制する効果が高いことが示された。特に、スルホン酸基含有高分子に対するホスホン酸化合物の質量比が1を超えるとき、上記の効果がより顕著となり、また、表面粗さの増大も顕著に抑制されることが示された(実施例2と実施例4、5との対比、および、実施例3と実施例6〜8との対比)。
【0150】
さらに、本出願は、2016年7月26日に出願された日本特許出願番号2016−146627号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。