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特許6966966スパッタリングターゲット材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6966966
(24)【登録日】2021年10月26日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20211108BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20211108BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C28/00 B
   C22C1/02 503N
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-56745(P2018-56745)
(22)【出願日】2018年3月23日
(65)【公開番号】特開2019-167586(P2019-167586A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2020年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瑶輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩由
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0273311(US,A1)
【文献】 特開2017−106091(JP,A)
【文献】 特開2018−006685(JP,A)
【文献】 特開2012−180555(JP,A)
【文献】 特開2012−224910(JP,A)
【文献】 特開2013−022619(JP,A)
【文献】 M.Bono et al,Bonding Low density Nanoporous Metal Foams Using Sputtered Solder,Advanced Engineering Materials,10,2007年,1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 31/06
C22C 1/02
C22C 28/00
B23K 35/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを1〜10原子%含有し、残部がIn及び不可避的不純物から成るスパッタリングターゲット材であって、
酸素濃度が150質量ppm以下であり、
Agの厚み方向の均一性が以下の式で表される、スパッタリングターゲット材:
|B−C|/A×100≦30(%)
ここで、
A:スパッタリングターゲット材全体におけるAgの含有量(原子%)
B:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの一方のAgの含有量(原子%)
C:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの他方のAgの含有量(原子%)。
【請求項2】
Agを1〜10原子%含有し、Cu及び/又はGaを更に含有し、残部がIn及び不可避的不純物から成るスパッタリングターゲット材であって、
酸素濃度が150質量ppm以下であり、
Agの厚み方向の均一性が以下の式で表される、スパッタリングターゲット材:
|B−C|/A×100≦30(%)
ここで、
A:スパッタリングターゲット材全体におけるAgの含有量(原子%)
B:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの一方のAgの含有量(原子%)
C:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの他方のAgの含有量(原子%)。
【請求項3】
Fe濃度が3質量ppm以下である、請求項1又は2のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
AgIn2が存在することを特徴とする、請求項1〜いずれか1項に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット材であって、
バッキングプレート又はバッキングチューブと接合層とを更に備え、
前記接合層は、In、InAg合金、InSn合金、InGa合金、InBi合金、及びInZn合金から選択される1種以上を含む、スパッタリングターゲット材。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
AgとInとを合金化する工程と、
合金化した材料を鋳造する工程と、
を含み、
前記鋳造する工程は、鋳型を水により冷却することを含む、
該方法。
【請求項7】
請求項の方法であって、酸化物スラグを除去する工程を更に含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパッタリングターゲット材及びその製造方法に関する。より具体的には、InとAgを含むスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CIGS系太陽電池は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)の4種類の元素を主原料とする化合物半導体系太陽電池である。CIGSの成膜方法としては、印刷法、同時蒸着法、スパッタ法などが挙げられる。
【0003】
非特許文献1では、CIGS太陽電池の吸収層へAgを添加することで高効率化が実現できることが報告されている。当該文献では、成膜する方法として、Ag前駆体をSLG/Mo基板上に蒸着させた後、Cu、In、Ga及びSeの各単体を用いて同時蒸着する方法を開示している。
【0004】
特許文献1では、光学高反射鏡鏡、ろう付け材料、銀製装飾品の製造、および半導体パッケージ用の極細銀合金線に用いるInAg合金材料を開示している。当該合金材料は、銀顆粒およびインジウム顆粒を混合し、真空加熱を行い、真空装置で冷却を行い、そして、アニーリングを行うことで得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0376684号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Solar EnergyMaterials&SolarCells146(2016)114−120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように成膜方法としては、同時蒸着法やスパッタ法等が挙げられるが、蒸着法は、小面積で組成を変化させる場合には優れている。一方で、大面積の成膜では、膜厚分布の良さの観点から、スパッタ法の方が優れている。しかし、Agを添加したCIGSの薄膜をスパッタ法により形成する場合おいて、当該スパッタ法に用いることのできるAg及びInを含有するスパッタリングターゲット材は未だ開発されていない。実用化するためには、ターゲットのライフを通して、一定のAg濃度でスパッタできるようにすることが望ましい。そのためには、Agが厚さ方向で均一に分布したAg及びInを含有するスパッタリングターゲット材が望まれる。そこで、本開示の目的は、スパッタ法に用いることができ、Agの分布の均一性の高いAg及びInを含有するスパッタリングターゲット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意研究したところ、合金化、鋳造、急冷等を行うことで、Agが均一に分布したInAgスパッタリングターゲット材を得ることができることを見出した。こうした知見に基づいて、一実施形態に係る発明は以下のように特定される。
【0009】
(発明1)
Agを含有し、残部がIn及び不可避的不純物から成るスパッタリングターゲット材であって、
Agの厚み方向の均一性が以下の式で表される、スパッタリングターゲット材:
|B−C|/A×100≦30(%)
ここで、
A:スパッタリングターゲット材全体におけるAgの含有量(原子%)
B:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの一方のAgの含有量(原子%)
C:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの他方のAgの含有量(原子%)。
(発明2)
Agを1〜10原子%含有する発明1のスパッタリングターゲット材。
(発明3)
酸素濃度が150質量ppm以下である、発明1又は2のスパッタリングターゲット材。
(発明4)
Fe濃度が3質量ppm以下である、発明1〜3いずれか1つに記載のスパッタリングターゲット材。
(発明5)
AgIn2が存在することを特徴とする、発明1〜4いずれか1つに記載のスパッタリングターゲット材。
(発明6)
発明1〜5のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット材であって、Cu及び/又はGaを更に含有する、スパッタリングターゲット材。
(発明7)
発明1〜5のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット材であって、
バッキングプレート又はバッキングチューブと接合層とを更に備え、
前記接合層は、In、InAg合金、InSn合金、InGa合金、InBi合金、及びInZn合金から選択される1種以上を含む、スパッタリングターゲット材。
(発明8)
発明1〜7のいずれか1つに記載のスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
AgとInとを合金化する工程と、
合金化した材料を鋳造する工程と、
を含み、
前記鋳造する工程は、鋳型を水により冷却することを含む、
該方法。
(発明9)
発明8の方法であって、酸化物スラグを除去する工程を更に含む、該方法。
【発明の効果】
【0010】
一側面において、本開示の発明は、Agが特定の分布状態であるInAgスパッタリングターゲット材である。これにより、スパッタの開始から、ライフエンドまで、一定の銀濃度で大面積にスパッタすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スパッタリングターゲット材全体におけるAgの含有量を測定する際のサンプル採取の位置を表す。
図2】スパッタリングターゲット材全体及び一部におけるAgの含有量を測定する際のサンプル採取の範囲を表す。
図3】スパッタリングターゲット材における各成分のXRDにおけるピークを表す。各曲線は、上から順に、Ag10at%、Ag8at%、Ag6at%、Ag3at%、In、AgIn2を表す。
図4】円筒形スパッタリングターゲット材の製造方法を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本開示の発明の理解を促進するためのものである。即ち、本開示の発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0013】
1.ターゲット材
1−1.組成
一実施形態において、本開示のスパッタリングターゲット材は、Agを含有し、残部がIn及び不可避的不純物から成るスパッタリングターゲット材であってもよい。
【0014】
Agの含有量の下限値は1原子%以上(より好ましくは、2原子%以上)であってもよい。一方で、Agの含有量の上限値は10原子%以下(より好ましくは、8原子%以下)であってもよい。1原子%以上であることで、CIGS層へのAg添加による効果を十分に得ることができる。一方で、10原子%を超えるAgを配合しても、CIGS層へのAg添加による効果が大きく増えず、ターゲットを作製するコストが増加してしまう。また、Ag分布均一性確保の観点からも10原子%以下であることが好ましい。
【0015】
上記Ag及びIn以外に、CIGSの構成成分である、Cuおよび/またはGaを配合してもよい。Cuの含有量の下限値については、例えば、質量ppmであれば、30質量ppm以上、より好ましくは、50質量ppm以上であってもよい。また、Cuの含有量の上限値については、質量ppmであれば、2000質量ppm以下、より好ましくは、1000質量ppm以下であってもよい。Gaの含有量の下限値については、質量ppmであれば、10質量ppm以上、より好ましくは、20質量ppm以上であってもよい。また、Gaの含有量の上限値については、質量ppmであれば、1000質量ppm以下、より好ましくは、500質量ppm以下であってもよい。
【0016】
1−2.不純物
一般的に、スパッタリングターゲット材において、不純物が少ない方が望ましい。一例として、酸素濃度は、150質量ppm以下(より好ましくは、120質量ppm以下)であってもよい。150質量ppm以下であることで、吸収層における不純物起因の効率低下の可能性を抑えることができる。酸素濃度の下限値については、特に限定されないが、典型的には0質量ppm以上である。
また、不純物として、Feを5質量ppm以下に抑えることが好ましい。より好ましくは、3質量ppm以下に抑えることが好ましい。下限値については、特に限定されないが、典型的には0質量ppm以上である。Feは特にCIGS太陽電池の効率を低下させる元素である。
【0017】
1−3.合金化
本開示の一実施形態におけるスパッタリングターゲット材において、AgIn2の化合物が形成されてもよい。即ち、少なくともIn相と、AgIn2相とが形成されてもよい。AgIn2相が形成されることで、スパッタリングターゲット材において、Agの分布の均一化を実現することができる。なお、AgIn2相等の存在は、XRD測定で固有のピークの存在を検出することで確認することができる。
上記XRDの測定条件は、例えば、以下の通りであってもよい。
・X線回折装置:株式会社リガク製の全自動水平型多目的X線回折装置SmartLab(X線源:Cu線)
・ゴニオメータ:Ultima IV
・管電圧:40kV
・管電流:30mA
・スキャンスピード:10°/min
・ステップ:0.02°
例えば、XRDで測定することで図3に示すAgIn2固有のピークが検出できる。
【0018】
1−4.Agの分布
本開示の一実施形態におけるスパッタリングターゲット材において、厚み方向におけるAgの均一性が高いことが好ましい。より具体的には、当該均一性は、以下の式で表すことができる。
|B−C|/A×100≦30(%)(より好ましくは、16%以下)
ここで、
A:スパッタリングターゲット材全体におけるAgの含有量(原子%)
B:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの一方のAgの含有量(原子%)
C:スパッタリングターゲット材を厚み方向に二分割したときの他方のAgの含有量(原子%)
【0019】
ここで、Aの値については、材料の複数の箇所からサンプルをとり測定する。サンプルを採取する箇所を図1に示す(図1の斜線部)。スパッタリングターゲット材の形状が円形の平板である場合には、円周を4等分する場所からサンプルをとる。スパッタリングターゲット材の形状が矩形の平板である場合には、角部4か所からサンプルをとる。スパッタリングターゲット材の形状が円筒形である場合には、両端部の円周を4等分する場所(合計8か所)からサンプルをとる。BとCの値についても、同様である。
【0020】
次に、Aの値、Bの値、Cの値について、厚み方向でのサンプルの取り方を図2を参照しながら説明する。ターゲット材の厚みをT(mm)とする。当該厚みは、バッキングプレート(又はバックチューブ)側の1mmを除外した長さとする。除外する理由は、スパッタリングターゲット材とバッキングプレートの界面には接合層が存在し、当該接合層の成分(例:In、InAg合金、InSn合金、InZn合金、InBi合金、InGa合金など)がスパッタリングターゲット材に拡散する可能性があるからである(即ち、ろう材からのコンタミネーション部分を除外するため)。
【0021】
Aの値は、サンプルの厚みがT(mm)となるようサンプルを取得することで測定する。一方で、B及びCの値は、サンプルの厚みがT/2(mm)となるようサンプルを取得することで測定する。
【0022】
上述した厚みとなるように採取する限り、それ以外のサンプルの寸法については、特に限定されない。分析可能な重量となるようにすることが好ましい(例えば、ICP分析であれば1g以上、典型的には10g以内)。
【0023】
均一性の下限値については特に限定されないが、典型的には0%以上であってもよい。
【0024】
1−5.形状・サイズ等
本開示の一実施形態におけるスパッタリングターゲット材は、例えば、平板(例えば、円形、矩形など)であってもよく、又は、円筒形であってもよい。平板の場合に、厚さは、例えば、4〜25mmであってもよい。ここでいう厚さは、ロウ材のコンタミネーション部分(1mm、図2)を含めた長さである。円形の平板の場合には直径は、φ101.6〜460mmであってもよい。矩形の平板の場合には、長辺は300〜3500mmであってもよく、短辺は100〜500mmであってもよい。円筒形の場合には、長さはL300〜3500mmであってもよく、内径はI.D100〜140mmであってもよく、外径O.D106〜190mmであってもよい。
【0025】
2.製造方法
上述したスパッタリングターゲット材の製造方法について以下説明する。当該方法は、少なくとも以下の工程を包含することができる。
・AgとInとを合金化する工程。
・合金化した材料を鋳造する工程。
【0026】
好ましい実施形態において(例えば、ターゲット材が平板の場合)、上記製造方法は、鋳造した後材料を圧延する工程を更に含むことができる。別の好ましい実施形態において、酸化物スラグを除去する工程を更に含むことができる。
【0027】
これらの各工程について以下詳述する。
【0028】
2−1.合金化
まず、銀のショットあるいはインゴットとインジウムのショットあるいはインゴットを混合する。原料の形状は特に規定されないが、リボン状の場合表面積が多くなるため、酸化されている部分が多く、スラグが多く発生してしまうため、鋳造の工程でスラグ除去を念入りに実施することが好ましい。両者の混合比率は、上述した組成になるよう調整すればよい。得られた混合物は、不活性雰囲気下又は真空下で加熱することができる。これにより、銀とインジウムの化合物(例:AgIn2など)が形成される。加熱条件としては、400℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましい。一方で、あまりに加熱温度を高くし過ぎても効果が変わらず、エネルギーロスが多くなることから、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることが好ましい。また、保持時間は、1時間以上であることが好ましく2時間以上であることがより好ましく、長くし過ぎても効果は変わらないことから10時間以下であることが好ましく、9時間以下であることがより好ましい。例えば500℃、2時間とすることができる。合金化した後は、不活性雰囲気下又は真空下で放置冷却を行い、AgIn合金インゴットを得ることができる。この工程を経由することで、インジウムと銀の合金化をより確実に進めることができ、銀単体相が存在することによる組成ばらつきを防ぐことができる。
【0029】
2−2.鋳造
得られた上述のインゴットを大気中で再溶解させることができる。再溶解させる際の温度条件としては、インジウムと銀の組成に応じた融点よりも、+20℃〜50℃(好ましくは、+20℃〜30℃、例えば、+25℃)であってもよい。
【0030】
次に、溶湯温度±20℃の範囲内、且つ上記組成の融点以上の温度になるよう鋳型を加熱することができ、例えば+5℃とすることができる。そして、当該鋳型に、インゴットを流し込むことができる。
【0031】
鋳型は、冷却効率が良いものが好ましく、例えば、冷却水路を設けることが好ましい。鋳型にインゴットを流し込んだ後は、冷却水を循環させ、インゴットを急冷させることが好ましい。
【0032】
急冷させることで、AgIn2等の合金の粒径を細かくすることができる。また、InとAgIn2の2相状態の場合、先にAgIn2が析出し沈降、あるいは鋳型壁面に析出する可能性がある。その結果、Agの濃度が偏る可能性がある。しかし、急冷させることで、析出したAgIn2が沈降するのを抑制することができる。これにより、厚み方向でのAgの均一性を高めることができる。
【0033】
2−3.圧延
上記鋳造されたAgIn材料は、好ましくは圧延(例えば、冷間圧延)を行うことができる。圧延条件は特に限定されないが、例えば、加工度が10〜90%(好ましくは、30〜70%)であってもよい。
【0034】
2−4.酸化物スラグ除去
溶湯AgInインゴットを鋳型に入れた後、酸化物スラグ除去を行うことが好ましい。これにより、材料中の酸素濃度を低減させることができる。鋳型に溶湯を流し込むと、酸化物スラグは密度が低いため、溶湯上に浮上する。この浮上したスラグを、治具ですくい取ることができる。
【0035】
2−5.他の不純物制御
上述したように、不純物の1つとしてFeが挙げられる。スパッタリングターゲット材のFe量を低減させるため、鋳型表面の表面粗さ低減およびスラグ除去を行うことが好ましい。本鋳造プロセスのような低温(〜300℃)では、In中にFeは固溶しないため、Feのコンタミ源は、主には鋳造鋳型の表面などからの微小片の混入によるものと考えている。そのため、鋳型表面の表面粗さを、例えばRa<4μmにするなどが対応として好ましい。また、本発明者らの研究の結果、Feは、酸化物スラグ側に多く分配するという知見が得られている。スラグ除去をよく行うことで、Feのコンタミ抑制が可能である。
【0036】
2−6.加工(研削・切断など)
AgIn材料は、所望の形状に加工することができる。例えば、円筒形のスパッタリングターゲット材であれば、所望の同芯度や、厚さの均一性を達成するために、長手方向端部及び外表面部に対して研削等を行ってもよい。例えば、矩形の平板又は円形の平板のスパッタリングターゲット材であれば、所望の矩形又は円形になるよう端部を切断してもよい。また、厚さの均一性を達成するために両面を研削してもよい。AgInは軟らかいため、予めバッキングプレートやバッキングチューブにボンディングしたのち、最終寸法まで研削するのが好ましい。なお、円筒ターゲットの場合、図4の鋳型断面図に示すように、ボンディング領域にメッキ等でIn層又はInAg層を設けたバッキングチューブを鋳型の一部とし、鋳造とボンディングを同時に行うことも可能である。この場合、引け巣抑制の観点から、チューブ内を冷却水路に活用し、円筒の内側から外側に向かい凝固が進むように設計するのが望ましい。また、接合層としてInAg層を予め設けるのではなく、In層を設けて、InAg溶湯から拡散するAgにより、接合層としてのInAg層を形成してもよい。
【0037】
3.スパッタリング
上記方法で得られたスパッタリングターゲット材は、安定したスパッタリングを行うことを可能にする。限定されるものではないが、以下の条件でスパッタリングを行って薄膜を形成することができる。
・スパッタガス: Ar
・スパッタガス圧: 0.4〜0.7Pa(例:0.5Pa)
・スパッタガス流量: 5〜20SCCM(例:10SCCM)
・スパッタリング温度: R.T.(無加熱)
・投入スパッタパワー密度: 1.0〜3.0W/cm2(例:1.5W/cm2
・基板: コーニング社製イーグル2000、φ4インチ×0.7mmt
【実施例】
【0038】
表1に記載の仕込みAg濃度となるよう、AgショットとInインゴットを混合した(一部の実施例では、更にCuショット及びGaショットを混合した)。これらを、500℃の温度で2時間、Ar雰囲気下で加熱し合金化した。そして、放置冷却してAgInインゴットを得た。
【0039】
その後、インゴットを表1の温度で再溶解し、表1の温度に加熱した鋳型に流し込んだ。その後、酸化物スラグの除去を行った。更に、鋳型に備え付けた冷却水路に冷却水を循環させ急冷を行った(ただし、一部の例では放置冷却した)。
【0040】
冷却後は、表1の形状になるよう切断・研削等の加工を行った。また、一部の例では圧延を実施した(冷間圧延、加工度60%)。
【0041】
得られたターゲット材を上述した方法で部分的に切断し、材料全体のAg濃度測定用のサンプルを採取した(サンプルA)。更に、厚さ方向1/2の位置で切断片を二分割し、厚さ方向に二分割したサンプルを採取した(サンプルB及びC)。そして、これらの材料について、ICP分析を用いてAg、Cu、Ga、Feの組成を分析した。具体的には、採取した材料を酸などで溶解し、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製のSPS3100HV)を用いて分析した。Oについてはターゲットの切断片を加熱しガス化した後に赤外吸光法(LECO社製のTC600)を用いて測定した。
【0042】
次に、得られたスパッタリングターゲット部材を銅製のバッキングプレートもしくはバッキングチューブにボンディングし、下記条件でスパッタを実施した。
【0043】
・スパッタガス: Ar
・スパッタガス圧: 0.5Pa
・スパッタガス流量: 25SCCM
・スパッタリング温度: R.T.(無加熱)
・投入スパッタパワー密度: 1.5W/cm2
・基板: コーニング社製イーグル2000、φ4インチ×0.7mmt
【0044】
いずれもDCスパッタリングが可能であった。
【0045】
結果を表1に示す。なお、スパッタリングされる面を上側とし、反対側の面(バッキングプレート又はバッキングチューブと接する面)を下側とした。
【表1】
【0046】
実施例1〜10では、いずれもAgが厚さ方向に均一に分布していた。一方で、比較例1〜2では、放置冷却を行ったため、厚さ方向でのAg濃度の偏りが大きくなった。また、比較例3〜4では、Ag濃度が大きすぎたため、Agの分布の偏りが大きくなってしまった。
【0047】
本明細書において、「又は」や「若しくは」という記載は、選択肢のいずれか1つのみを満たす場合や、いくつかの選択肢を満たす場合や、全ての選択肢を満たす場合を含む。例えば、「A、B又はC」「A、B若しくはC」という記載の場合、Aのみを満たす場合と、Bのみを満たす場合と、Cのみを満たす場合と、AとBのみを満たす場合と、BとCのみを満たす場合と、AとCのみを満たす場合と、A〜Cすべてを満たす場合等を包含することを意図する。
【0048】
以上、本開示の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本開示の発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に提供することができる。また、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本開示の発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3
図4