(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一の配管部が備える前記給液口の総開口面積に対し、前記一の配管部が他の配管部と重なる領域にある前記給液口の総開口面積の比が、1/4以上となるように配置されていることを含む請求項1に記載の電解装置。
前記排液部と前記排液配管とに接続され、前記電解液の液面よりも下方となる底面を備え、前記底面に前記排液配管の出口が接続され、前記排液配管内の前記電解液を汲み上げ可能な排液ボックスを更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る電解装置及び電解方法について説明する。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の構造、配置及び手順等を下記のものに特定するものではない。
【0015】
(電解装置)
本発明の実施の形態に係る電解装置は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、電解液を収容するための直方体状の電解槽1を備える。電解槽1のサイズとしては、例えば、電解槽1の長さ(長手方向Xの内径)が5200〜5900mm、幅(短手方向Yの内径)が1095〜1110mm、深さが1275〜1510mmとなるように形成することができる。
【0016】
電解槽1は、長手方向Xに平行な方向に延びる第1の側壁11と、第1の側壁11に対向する第2の側壁12と、長手方向Xの一端において第1の側壁11及び第2の側壁12に垂直に延びる第3の側壁13及び長手方向Xの他端において第1の側壁11及び第2の側壁12に垂直に延び、第3の側壁13に対向する第4の側壁14を有する。
【0017】
図1(b)に示すように、電解槽1の第1の側壁11の上方には、電解槽1内に収容される電解液の液面もしくは液面近傍となる高さにおいて電解槽1の長手方向Xに沿って延びる給液配管2が配置されている。給液配管2は、電解槽1の第3の側壁13の上方に配置された供給部20に接続されている。供給部20は、
図1(a)及び
図1(b)に示す電解槽1の他に、電解槽1以外の他の電解槽に対しても電解液を給液することが可能な給液主管と、供給主管から給液配管2へ電解液を分岐させる分岐配管とを備えることができるが、この例に制限されないことは勿論である。
【0018】
給液配管2には、長手方向Xに沿って複数の給液口21a、21b・・・21xが好ましくは等間隔に設けられている。電解液の混合状態を改善するためには、複数の給液口21a、21b・・・21xは、電解液面から400mm以内の高さ、より好ましくは200mm以内の高さ、さらに好ましくは50mm以内の高さに配置されることが好ましい。
【0019】
給液配管2は、電解液の供給流量を20〜100L/分となるように電解槽1内へ供給することが好ましい。電解液の供給流量が20L/分未満では添加剤が電解槽1内に行き渡る前に分解してしまい、電着した金属の平滑性が損なわれる場合や、不動態化を起こす場合がある。電解液の供給流量は電解効率の面から高い方が好ましいが、電解液の供給流量が100L/分を超えると、電解槽1内の殿物が巻き上げられてカソード板表面へ付着する場合がある。
【0020】
本実施形態に係る電解装置では、電解液を第1の側壁11の上側から供給し、第2の側壁12の下側から排出する方式を採用するとともに、供給流量を20〜100L/分とすることで、殿物の巻き上げを抑制しながら電解槽1内に給液される電解液の混合状態をより改善することができ、より効率の高い電解精製を実施することができる。なお、電解液の供給流量は、30〜90L/分とすることが好ましく、30〜70L/分とすることがより好ましく、50〜70L/分とすることが更に好ましい。
【0021】
図1(b)に示すように、給液配管2は、長手方向に沿って全体に均等間隔に配置して給液口21a、21b・・・21xを備える1本の配管で構成することが可能である。しかしながら、給液配管2の長さが長くなると、給液配管2の上流側から多くの電解液が給液され、下流側先端部(
図1(b)の給液口21x付近)からは十分に電解液が給液されていない場合がある。
【0022】
図2は、給液配管2を1本で構成した場合の電解液へ添加されるニカワ等の添加剤の電解槽1長手方向に沿った濃度分布のシミュレーション結果の例を表す。
図2に示すように、電解槽1長手方向の上流側から下流側に進むにつれて添加剤の濃度が低くなっており、電解槽1の第4の側壁14側の端部には、ほどんど添加剤が供給されない領域が生じる。
【0023】
本発明の実施の形態に係る電解装置では、
図3に示すように、給液配管2が、電解槽1の少なくとも上流側及び下流側に対し、電解液をそれぞれ独立して給液可能な2本以上の配管部21、22、23を備える。なお「上流側」とは、電解液を排液する第4の側壁14側を「下流側」とした場合に、相対的に上流側となる位置であり、典型的には第3の側壁13側を意味する。
【0024】
図3に示すように、複数の配管部21、22、23を長手方向に沿ってそれぞれ配置し、複数の配管部21、22、23からそれぞれ独立に電解液を排液することにより、
図1(b)で示すような給液配管2を1本で構成する場合に比べて、電解液の混合状態を改善でき、電解液に添加される添加剤の槽内全体における濃度均一性をより向上させることが可能となる。
【0025】
配管部21は、第3の側壁13の上方から下方へと延びる根本部(不図示)と、根本部から電解槽1内に収容される電解液の液面の高さ又は液面近傍となる高さにおいて、電解槽1の長手方向Xに沿って(
図3の紙面左右方向)延びる先端部221を備える。配管部21は、長手方向Xに沿って給液口21a、21b・・・21xが配置されている。
【0026】
配管部22は、第3の側壁13の上方から下方へと延び、更に電解槽1の長手方向Xに沿って電解槽1の下流側、即ち第4の側壁近傍まで延びる根本部222、電解槽1の下方から上方へ延びる中間部223、中間部223から電解液の液面もしくは液面近傍となる高さにおいて長手方向Xに沿って延びる先端部221を備える。先端部221には、長手方向Xに沿って給液口22a、22b・・・22xが配置されている。
【0027】
配管部23は、配管部21と配管部22との中間に長手方向Xに沿って延びている。配管部23は、第3の側壁13の上方から下方へと延び、更に電解槽1の長手方向Xに沿って延びる根本部232、電解液の液面もしくは液面近傍となる高さに配置された先端部231、及び根本部232と先端部231との間を接続する中間部233を備える。先端部231には、長手方向Xに沿って給液口23a、23b・・・23xが配置されている。
【0028】
配管部21、22、23は、その端部同士が、電解槽1内において上下に一部重なる領域200、201を有することが好ましい。配管部21、22、23により、電解液の供給領域を少なくとも上流側と下流側とで分配することによって、
図1(a)に示すような一本の給液配管2とする場合よりも各領域における電解液の供給液量をより均一にすることができる。その一方で、配管部21、22、23内においても電解液の給液状態にムラが生じる。特に、各配管部21、22、23の先端部分は、電解液の供給量が根本部分に比べて少なくなる傾向にある。
【0029】
本発明の実施の形態に係る電解装置によれば、
図3に示すように、配管部21、22、23の端部同士が、電解槽1内において上下に一部重なるように配置されるため、配管部21、22、23の端部における電解液の供給不足の問題を複数の配管部21、22、23による供給で補って、所定の給液量を達成することができる。
【0030】
領域200、201の大きさは、電解槽1の大きさや、配管部21、22、23を何本に分割するかによって変わってくるが、一の配管部21、22、23が備える給液口21a、21b・・・23xの総開口面積に対し、一の配管部21、22、23が他の配管部21、22、23と重なる領域200、201にある給液口21a、21b・・・23xの総開口面積の比が1/4以上、より好ましくは1/3以上、更に好ましくは1/2以上となるように配置されることができる。
【0031】
或いは、各配管部21、22、23の電解液が出る部分の長さの1/4以上、更には1/3、よりさらには1/2以上の長さとなるように、第1の側壁11の上下で配管部21、22、23同士を重ね合わせ、領域200、201を形成することにより、給液配管2が1本の場合に比べて、電解槽1全体に渡ってより均一な給液が行える。領域200、201の長手方向Xの長さは互いに異なっていてもよい。
【0032】
図1(b)に示すように、電解槽1の第2の側壁12の下方側には、長手方向Xに沿って延びる排液配管3が配置されている。排液配管3は配管等で構成することができる。排液配管3には、長手方向Xに沿って複数の排液口31a、31b・・・31xが互いに所定の間隔を有して設けられている。複数の排液口31a、31b・・・31xは、複数の給液口21a、21b・・・23xよりも相対的に下方となるように、好ましくは等間隔に配置されている。このように、第1の側壁11側から第2の側壁12側へ向けて、電解液を上方から下方へ流すように給液配管2及び排液配管3が配置されることによって、電解液が上方から下方へと流れるため、電解槽1の底部に沈積する殿物の巻き上げを抑制しながら、電解液の混合状態、特に電解液中の金属イオンや添加剤の混合状態をより良好にすることができる。
【0033】
複数の排液口31a、31b・・・31xは、底部に近づけすぎると電解槽1の底部の殿物などを巻き込んで排液口31a、31b・・・31xの詰まり或いは不具合等を生じさせる場合がある。排液口31a、31b・・・31xは、例えば、電解槽1内に収容される電極の下端部を起点に、上方に100mm、下方に300mmの範囲に配置されることが好ましく、より好ましくは上方に100mm、下方に100mmの範囲に配置される。
【0034】
図4に示すように、給液口21a、21b、21c・・・の開口面積よりも排液口31a、31b、・・・の開口面積が大きくなるように形成されていることが好ましい。排液口31a、31b、・・・の開口面積を大きくとることによって、排液配管3内の電解液を電解槽1外へ排出させる際の圧力損失の影響をより小さくすることができる。以下に限定されるものではないが、排液口31a、31b、・・・の各開口面積を給液口21a、21b、21c・・・の各開口面積を1〜400倍、より典型的には100〜200倍大きくすることができる。これにより、排液口31a、31b、・・・から電解槽1内の電解液を効率よく排液することができる。
【0035】
排液配管3の管径は、給液配管2の管径よりも大きく形成されることが好ましい。排液配管3側の管径を給液配管2の管径よりも大きくすることによって、排液ボックス32から電解液のヘッド圧差を利用して電解液を電解槽1外へ排出させる際に、排液配管3の圧力損失の影響をより小さくすることができる。これにより、より円滑に給液配管2内に吸い上げられた電解液を電解槽1の外へ排出しやすくできる。
【0036】
排液配管3の管径は、給液配管2の管径よりも1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、更に好ましくは4倍以上大きくすることができる。
【0037】
給液配管2及び排液配管3の管径、給液口21a、21b、21c・・・及び排液口31a、31b、・・・の形状、穴径(スリット径)及び間隔は、電解槽1の大きさ等に応じて適宜調整することができる。
図4に示す例では、給液口21a、21b、21c・・・は円形状又は楕円形状を有し、互いに間隔d1を空けて配置されている。排液口31a、31b、・・・は、スリット径d2を有する長円或いは略長方形状を有し、互いに間隔d3を空けて配置されている。
【0038】
以下に制限されないが、
図4の例では、給液配管2には、間隔d1が50mm間隔で穴径が5φの円又は楕円形状の給液口21a、21b、21c・・・が形成されている。排液配管3には、幅10mm、スリット径(d2)400mmの長円形状又は略矩形形状の排液口31a、31b、・・・が、200mmの間隔d3を有して配置されている。
【0039】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、電解槽1の第4の側壁14には、電解液を電解槽1外へ排液する排液部30が配置されている。排液部30には、
図1(a)に示すように、その上部に電解槽1内の電解液を排出するための排出口300が設けられている。排液口31aの下方には、
図5に示すように、電解液を電解槽1外へ排出するために排出口300に接続された排出配管301が設けられている。
【0040】
図1(b)に示すように、排液ボックス32は、排液部30と排液配管3との間に接続されている。排液ボックス32は、
図5に示すように、電解液の液面LSよりも下方となる底面32aを備える。底面32aには、排液配管3の出口3Aが接続されている。電解槽1から排液配管3内に排液された電解液は、電解液の液面LSと排液ボックス32内の電解液の液面lsの高さの差Hによるヘッド圧差により汲み上げされる。
【0041】
排液部30と排液配管3との間に排液ボックス32が配置されることにより、ポンプ等の動力を使用せず、且つ電解槽1の底部に沈積する殿物の巻き込みを抑制しながら、電解槽1の下方から電解液を電解槽1の外部へ抜き出すことができる。
【0042】
排液ボックス32の電解液と接する側の側壁32bの上端部の高さは、電解槽1内の電解液の液面LSに対して数mm〜数十mm上方となるように配置されている。排液ボックス32は、電解槽1内に収容された電解液と接する側の側壁32bに、電解槽1内の電解液中の異物を排液ボックス32へ送るための切り欠き部33を備えることが好ましい。この切り欠き部33は、
図5に示すように、電解槽1の上方側から下方側に向かってその開口幅AWが小さくなるような形状を有している。切り欠き部33の形状としては、例えば
図7に示すようなV字形状、U字形状、台形形状等の種々の形状を取り得るが、具体的な形状は特に限定されない。
【0043】
電解槽1内には、電解を行うにつれて電解液面LSにゴミ等の異物が溜まる場合がある。この異物が電解槽1内に留まると、電解に悪影響を与える恐れがある。本発明の実施の形態に係る電解装置によれば、電解槽1の電解液面LS付近にたまるゴミなどの異物を含む電解液を切り欠き部33からオーバーフローさせて排出することができるため、電解槽1内の電解液の液面LS付近のゴミの滞留を抑制することができる。
【0044】
図5に示すように、排液ボックス32と排液部30との間には、排液ボックス32から排液部30へと流れる電解液を堰き止めるように配置された調整板35が配置されている。調整板35が配置されることにより、排液配管3を介して排液ボックス32内に回収された電解液が、調整板35の上端からオーバーフローして排液部30へと流れる。
【0045】
例えば、大きさの異なる調整板35を配置することにより、調整板35の排液ボックス32の底面32aからの高さhを変更することが可能である。調整板35の高さhを変更することにより、電解槽1内の電解液の液面LSと排液ボックス32内の電解液の液面lsとの高さの差Hを調整することができる。これにより、電解槽1内の電解液の液面LSとの電解液の液面lsとの高さの差Hによるヘッド圧差を調整して、どのような給液量であっても電解槽1内の電解液の液面LSの高さを一定に保つことができる
【0046】
図1の電解装置には不図示の電解液の環流機構が設けられている。環流機構は、電解槽1の排液部30から排出された電解液にニカワやチオ尿素等の添加剤を追加するとともに、必要な成分調整と温度調整を行い、調整後の電解液を給液口21a、21b、21c・・・21xから電解槽1内へと環流する。電解装置には不図示の給電機構が設けられている。給電機構は、電解槽1内の長手方向に沿って交互に配置されるアノード板とカソード板とを含む電極の間に直流電流を印加する電源装置と配線とを備えている。
【0047】
アノード板及びカソード板の構成は特に限定されない。アノード板は電解精製もしくは電解採取を行う際の陽極となり、粗金属製の板材で構成される。カソード板は電解精製もしくは電解採取を行う際の陰極となり、導電性に優れた板状の金属で構成される。
【0048】
電解槽1内の電解液の混合状態を改善するために種々の検討が行われてきたが、電解槽1内の長手方向の一端側から長手方向の他端側へと電解液を流す従来の下入れ上抜き方式の電解装置で、は電解液供給方向上流側と下流側で電解液中の銅などの金属イオン濃度及び添加物の濃度に偏りが生じるとともに、電解が進むにつれて電解槽1の上部から底部へいくほど金属イオン濃度が高くなる傾向にあった。
【0049】
本発明の実施の形態に係る電解装置によれば、電解槽1の幅(X)方向、即ち、電解槽1の第1の側壁11側から第2の側壁12側へと電解液を供給するように構成するとともに、第1の側壁11側の給液口21a、21b・・・23xの設置位置が第2の側壁12側の排液口31a、31b・・・31xよりも相対的に上方となるように構成した、いわゆる、「横入れ上入れ下抜き方式」を採用する。その結果、電解槽1の底部の銅イオン濃度などの金属イオン濃度の上昇を効果的に抑制できるとともに、電解液中に含まれる種々の添加剤の濃度分布を電解槽1内全体でより均一化することができる。
【0050】
さらに、電解槽1において上方から下方へと電解液を流すことにより、殿物の巻き上げの恐れも少なくなる。そのため、電解液の供給流量を大きくしても殿物の巻き上げを抑制しながら電解液の混合状態を改善することができ、電着物の電着効率も従来に比べて改善させることができる。さらに、電着物の表面性状に影響を及ぼすニカワなどの添加物を電解槽全体にわたって均一に行き渡らせることができるため、電解槽1全体において品質の揃った電着物が得られる。
【0051】
更に、給液配管2を複数の配管部21、22、23に分け、それぞれの配管部21、22、23で給液できる区間を給液配管2を一本で構成する場合よりも短くすることによって、電解槽1の長手方向全体にわたってより均一に電解液を供給することができる。特に、電解液に添加する添加剤を電解槽1の長手方向全体に供給することができるため、表面の荒れの少ないより高品質な電着物が得られるようになる。
【0052】
更に、配管部21、22、23の端部同士が、電解槽1内において一部上下に重なるように配置されることにより、配管の先端部分の給液量の少ない部分を複数の配管部21、22、23で補完することができ、槽全体にわたってほぼ均一に給液できるようになる。
【0053】
(電解方法)
本発明の実施の形態に係る電解装置を用いて電解液を電気分解することにより、複数のカソード板に銅などの金属を電着させることができる。以下においては、本発明の実施の形態に係る電解装置を用いて電気分解する例として粗銅を精錬する場合について説明する。
【0054】
まず、例えば純度が99mass%程度の粗銅の板材をアノード板とし、純度が99.99mass%程度の銅の板材又はステンレス板をカソード板として、複数のアノード板と複数のカソード板とを交互に板厚方向に間隔を空けて、電極板の下端が電解槽1の底面から所定の間隔が空くように電解槽1内に配置する。電解槽1の第1の側壁11上には
図4に示すように、電解槽1の長手方向上流側に電解液を供給する配管部21と、長手方向下流側に電解液を供給する配管部22と、中間部に電解液を供給する配管部23を含む給液配管2を配置し、各配管部21、22、23が備える複数の給液口21a、21b・・・23xから硫酸銅及び硫酸の混合水溶液にニカワやチオ尿素などの添加剤を添加した電解液を供給し、環流機構によって、電解液を循環させる。
【0055】
給電機構を用いてアノード板とカソード板との間に直流電流を印加し、アノード板の銅を電解液中にイオンとして溶出させてカソード板へ電着させる。このとき、アノード板及びカソード板の側面と対向する電解槽1の第1の側壁11の上方から電解液を電解槽1内へ供給し、第1の側壁11と対向する電解槽1の第2の側壁12の下方で電解液を排液配管3内へ排液させるようにして液流を発生させる。
【0056】
排液配管3内へ排液された電解液は、排液ボックス32により汲み上げられて、排液部30を介して排液される。電解槽1内の電解液の上層に浮遊するゴミなどの異物は、排液ボックス32が備える切り欠き部33から越流により排液ボックス32内へ収容され、電解槽1の外部へ排出される。
【0057】
本発明の実施の形態に係る電解方法によれば、電解槽1の短手方向Yの一端から短手方向Yの他端側へ、且つ上方から下方へ向けて電解槽1の長手方向Xに沿った複数箇所から電解液を流すことにより、電解槽1の長手方向Xの一端側から他端側へと電解液を流す従来の方式と比べて、電解槽1内の電解液の混合状態をより良好にすることができる。
【0058】
特に、本発明の実施の形態に係る電解方法によれば、電解槽1下部の銅イオンなどの金属イオン濃度の上昇を抑制し、金属イオンを液中により均一に分散できるため、高い電流密度又は不純物濃度の高い材料をアノード板に用いて電解精製を実施した場合の不動態化現象をより効率的に抑制することが可能となる。
【0059】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。
【0060】
給液配管2及び排液配管3がそれぞれ備える給液口21a、21b・・・23x及び排液口31a、31b・・・31xの位置は、電解槽1内に浸漬されるアノード板及びカソード板が配置される位置との関係で調整することができる。例えば、給液配管2に設けられた複数の給液口21a、21b・・・23x及び排液配管3に設けられた複数の排液口31a、31b・・・31xを、それぞれアノード板とカソード板との間に設けられた隙間に面するように設け、電解液をアノード板とカソード板との空間に供給するように構成することができる。このようにしてアノード板及びカソード板の表面に液流を発生させることにより、高い電流密度又は不純物濃度の高い材料をアノード板に用いて電解精製を実施した場合の不動態化現象をより効率的に抑制することが可能となる。
【0061】
電解槽1内に収容されるアノード板とカソード板との間の空間には、給液口21a、21b・・・23x及び排液口31a、31b・・・31xがそれぞれ1箇所ずつ配置されるだけでなく、アノード板とカソード板との間の空間の広さに対応して給液口21a、21b・・・23x及び排液口31a、31b・・・31xが空間内に複数配置されるようにしてもよい。また、電解液、特に添加剤の混合状態が悪化しやすい電解槽1の長手方向中央側から排液側の給液口21a、21b・・・23x及び排液口31a、31b・・・31xの個数を電解槽1の長手方向中央側から給液側の個数よりも多くするようにしてもよい。
【0062】
給液配管2及び排液配管3がそれぞれ備える給液口21a、21b・・・23x及び排液口31a、31b・・・31xの各開口面積は、基本的には長手方向Xに沿ってそれぞれ等しい大きさとなる例を示しているが、電解槽1の長手方向X上流側と下流側で異なる開口面積を有していてもよい。
【0063】
給液配管2及び排液配管3は複数の配管又は一の配管が長手方向に沿って枝状に分岐した配管を用いることができる。排液配管3が複数本配置される場合は、排液配管3の出口のそれぞれが独立して排液ボックス32に接続されることができる。
【0064】
このように、本発明は上記の開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得る。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の実施例を比較例とともに示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供されるものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0066】
図4に示す構成を有する3本の配管部を備える給液配管を設置した電解槽に対して、各電解槽内に複数のアノード板とカソード板を電解槽の長手方向に沿って交互に互いに間隔を空けて電解液中に浸漬し、電流密度350A/m
2、給液量43L/min(電解槽内滞留時間2.5時間)で電解を実施し、電解槽中央部分における断面Cu濃度分布及びニカワ濃度分布を評価した。
【0067】
図8(a)、
図8(b)に示すように、実施例によれば、槽内で比較的均一なCu濃度分布を得ることができていた。
図8(c)、
図8(d)に示すように、ニカワ濃度分布も槽長手方向全体に渡って均一となり、ニカワが添加されないデッドスペースの存在はみられなかった。
【0068】
図9は、電解槽の給液側、中央、排液側の液面からそれぞれ50mm(上)、525mm(中)、1050mm(下)の合計9点で実施し、給液ニカワ濃度を1.00とした場合の各サンプリング地点の相対的な濃度比を表す。
【0069】
図9の「給液」は、
図1の電解装置の第3の側壁13側に対応し、「排液」は、
図1の電解装置の第4の側壁14側に対応する。
図9からわかるように、実施例では、電解槽下部へニカワが行きわたらない領域は生じておらず、電解槽内の電解液に添加されるニカワの混合状態を改善することができていた。