(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
熱分析等には、ISO、JIS、ASTMなどの標準規格が規定されているものがあり、詳細な測定条件等が予め定められている場合が多い。例えば、熱分析には、示差走査熱量測定(DSC)、示差熱測定(DTA)、熱重量測定(TG)、熱機械的測定(TMA)などがあるが、
図1に示すように、DSCによる比熱容量測定は、ISO 11357-4、JIS K7123、ASTM E1269にそれぞれ標準規格が定められている。
各標準規格による測定の目的や手順はおおむね同様であるが、
図2に示すように、細かい分析条件(加熱パターン、試料の質量等)に差異がある。そして、分析結果を提出する場合には、国内あるいは海外においてそれぞれの地域や分野に応じた公定法に則った標準規格による分析方法が求められることがある。
【0003】
一方、各種分析をルーチンで大量に行う分析機関等では、一連の分析の手順をフローファイルを利用して行うことで、操作者の負担を軽減することができる。そのため、フローを簡易に作成できる技術が開発されている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、操作者が普段から扱って熟知している分析条件であれば、フローを作成することは可能であるものの、複雑な各種標準規格に沿って行う分析について、一々フローを作成することは困難である。
つまり、
図1、
図2に示したように、DSCによる比熱容量測定の場合、ISO 11357-4、JIS K7123、ASTM E1269の複数の標準規格毎に異なる測定条件を逐一入力してフローを作成する必要があり、操作者の負担が大きいと共に、入力する数値等を間違えるヒューマンエラーを誘導し易いという問題がある。又、各標準規格の間で、例えばサンプル重量が微妙に異なっており、勘違いして誤ったサンプル重量で分析してしまう恐れがある。
更に、分析データを解析して目的とする結果を求める際、解析の手順についても標準規格に定められた内容に沿って行う必要があるが、解析手順についても標準規格を読み込んで分析装置に設定する必要があり、操作者の負担がさらに大きくなる。
【0006】
そこで、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、所定の分析手法による分析を標準規格に従って行う際、操作者の負担を軽減し、誤った分析を防止した分析装置及び分析方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の分析装置は、1以上の分析手法毎にそれぞれ分析条件が規定された1以上の標準規格の分析条件を記憶する記憶部と、制御部と、表示部と、入力部と、前記分析手法に応じた分析を行う分析部と、を備えた分析装置であって、前記分析手法が指定されると、前記制御部は、対応した前記標準規格の前記分析条件を読み出し、そのうち前記分析部による分析に必要な分析条件を時系列順に
前記表示部上に一覧表示し、
一覧表示された前記分析条件
のうち、時系列順に早い順に1つの前記分析条件が強調表示された状態で、前記表示部の同一画面上に、この強調表示された前記分析条件に対応する値の入力を促す表示がされ、この表示内に前記値が前記入力部から入力された場合、前記制御部は、入力された前記
値が前記読み出した分析条件
における対応する値に適合するか否かを判定し、肯定判定の場合に、
時系列順に次の分析条件
が強調表示された状態で、前記表示部の同一画面上に対応する値の入力を促す。
【0008】
この分析装置によれば、分析手法に対応した標準規格の分析条件を時系列順に表示することで、操作者にとっては標準規格に準じた分析を行っているかを判断するガイドとなる。又、分析条件
に対応する値の入力を時系列順に促すことで、入力された
値が標準規格の分析条件に適合するか否かをシステム側が判定し、肯定判定の場合に、次の分析条件
に対応する値の入力を促すことで、標準規格に合致しない分析条件で誤った分析をすることを防止する。
これらにより、煩雑な標準規格に従って分析を行う場合であっても、操作者の負担を軽減し、誤った分析を防止できる。
【0009】
前記分析条件は、分析対象となる試料の温度制御情報、試料雰囲気情報、質量、標準試料の組成、及び試料容器の質量を含んでもよい。
【0010】
前記分析条件は、前記分析手法毎の解析方法を含み、前記制御部は、前記分析部による分析結果につき、前記分析手法に対応した解析を前記読み出した分析条件に基づいて自動的に行ってもよい。
この分析装置によれば、分析結果の解析も標準規格に従って分析装置側が自動で行うので、操作者の負担がさらに軽減する。
【0011】
本発明の分析方法は、1以上の分析手法毎にそれぞれ分析条件が規定された1以上の標準規格の分析条件を記憶しておき、前記分析手法に応じた分析を行う分析方法であって、前記分析手法が指定されると、対応した前記標準規格の前記分析条件を読み出し、そのうち前記分析に必要な分析条件を時系列順に
前記表示部上に一覧表示す
る第1過程と、
一覧表示された前記分析条件
のうち、時系列順に早い順に1つの前記分析条件が強調表示された状態で、前記表示部の同一画面上に、この強調表示された前記分析条件に対応する値の入力を促す表示がされ、この表示内に前記値が所定の入力部から入力された場合、入力された前記
値が前記読み出した分析条件
における対応する値に適合するか否かを判定し、肯定判定の場合に、
時系列順に次の分析条件
が強調表示された状態で、前記表示部の同一画面上に対応する値の入力を促す第2過程と、を有する。
【0012】
本発明の分析方法において、前記分析条件は、分析対象となる試料の温度制御情報、試料雰囲気情報、質量、標準試料の組成、及び試料容器の質量を含んでもよい。
【0013】
本発明の分析方法において、前記分析条件は、前記分析手法毎の解析方法を含み、前記分析部による分析結果につき、前記分析手法に対応した解析を前記読み出した分析条件に基づいて自動的に行う第3過程をさらに有してもよい。
【0014】
本発明の分析方法において、前記第2過程で否定判定の場合、所定の警告を報知する第4過程をさらに有してもよい。
【0015】
本発明の分析方法において、前記警告は、前記第2過程で肯定判定となるような前記分析条件の報知を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、所定の分析手法による分析を標準規格に従って行う際、操作者の負担を軽減し、誤った分析を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図3は本発明の実施形態に係る分析装置100の構成を示すブロック図、
図4、
図5は分析装置100内で行う処理フローを示す図、
図6〜
図17は表示部に表示される画面遷移例である。
なお、本例では、分析装置100は、示差走査熱量測定(DSC)装置である。
【0019】
図3に示すように、分析装置100は、DSC測定を行う分析部120と、コンピュータ110とを備えている。コンピュータ110は例えばパーソナルコンピュータからなり、ハードディスク等の記憶部102と、CPU等の制御部104と、液晶モニタ等の表示部106と、キーボードやタッチパネル等の入力部108と、を備えている。又、コンピュータ110は分析部120と接続され、制御部104は分析部120による分析動作をも制御している。
【0020】
記憶部102は、1以上の標準規格の分析条件を記憶する。ここで、標準規格とは、所定の分析手法における分析条件の公的な規定、規格であり、例えば
図1のISO 11357-4、JIS K7123、ASTM E1269等が例示される。
分析条件は、例えば
図2に示すように、分析対象となる試料の加熱パターン(温度制御情報)、試料雰囲気情報(試料室に導入するガス種別およびガス流量)、質量、標準試料の組成、試料容器の質量等を含むが、標準規格に規定されているものであればこれらに限られない。
又、「分析手法」とは、実際に分析を行う試験法であり、本例では「DSCによる比熱容量測定」に相当する。分析手法も標準規格に規定されている。
【0021】
そして、
図4に示すように、例えば操作者が入力部108から分析手法を指定すると(ステップS2)、制御部104は、記憶部102から対応した標準規格の分析条件を読み出して時系列順に表示し、又は分析条件の入力を時系列順に促す(ステップS4)。又、分析条件が決まると、制御部104は、分析手法に応じた分析を行うよう、分析部120の動作を制御する。
さらに、分析部120による分析終了後に、制御部104は、分析手法に対応した標準規格に準じた解析を自動的に行う(ステップS6)。
【0022】
なお、
図4では、ステップS2にて、分析手法の他、その分析手法が準拠する標準規格も指定(選択)するようになっている。これは、
図1に示したように、例えば「DSCによる比熱容量測定」は複数(3つ)の標準規格に準拠するためであり、分析手法が1つの標準規格のみに準拠する場合は、分析手法のみを指定すれば済む。
【0023】
次に、
図5を参照し、ステップS4の処理を詳細に説明する。
なお、本例では、「DSCによる比熱容量測定」を標準規格「ISO 11357-4」に準じて行うものとし、これらがステップS2で指定されたものとする。
まず、制御部104は、空容器情報の入力を促す(ステップS41)。ここでは、
図1、
図2には記載されていないが、後述する加熱パターンにおける到達温度に応じて容器の材質(耐熱性)が指定されている。そこで、空容器情報としては、容器の選択(
図8)として、容器の材質を指定する(
図9の「パン」)。例えば、到達温度が室温〜600℃の設定ならアルミパン、それ以上の温度なら白金パンを指定する。
なお、本例では、容器として、レファレンス側の容器、空容器、標準物質を収容する容器、及び測定試料を収容する容器の合計4つを用いる。レファレンス側の容器は、後者3つの測定を通して同一のものが使用される。
又、DSC測定では、レファレンス側に空の容器を設置した状態で、サンプル側にそれぞれ(1)何も入れない容器(空容器)を設置、(2)標準物質を収容した容器を設置、(3)測定試料を収容した容器を設置して測定を行う(合計3回の測定)。
【0024】
次に、制御部104は次の分析条件である「測定条件」の入力を促す(ステップS42)。測定条件は、加熱パターン(温度制御情報)であり、後述する表示部106の画面(
図10)のように、予め加熱パターン(スタート温度、加熱速度、ホールド時間等)やが記録されたメソッドファイルを開き、その中の数値を操作者が必要に応じて変更することで入力できる。
図10の画面で操作者が「次へ」をクリックすると、制御部104は、加熱パターンの各数値等が、記憶部102から読み出した分析条件(
図2参照)に適合するか否かを判定する。そして、肯定判定の場合に、制御部104は、以下の空容器のDSC測定を行う(ステップS43)。ステップS43については後述する。
一方、上記判定が否定判定(No)であれば、制御部104はステップS43に進まず、表示部106の画面は
図10のままとなるので、操作者は画面が進行するよう、加熱パターンの各数値を調整する。
【0025】
次に、制御部104は、空容器によるDSC測定を行う(ステップS43)。ステップS43では制御部104は、
図11のように、実際の測定手順を表示ボックスに表示させ、操作者へのガイドとする。操作者が「測定開始」をクリックすると、制御部104は、分析部120の動作を制御して空容器のDSC測定を行う。
【0026】
ステップS43が終了すると、制御部104は、次の分析条件である「標準物質情報」を表示する(ステップS44)
図12のように、操作者は「サンプル名」と「サンプル重量」を入力する。
なお、ステップS44では、「標準物質」の分析条件である
図2の「純度99.9%以上のα−アルミナ(合成サファイアなど)」を、後述する表示部106の画面(
図12)に表示するに留まり、「標準物質」の組成が実際に分析条件に適合するか否かは判定しない。
このように、分析条件を表示するだけでも、操作者にとっては標準規格に準じた分析を行っているかを判断するガイドとなる。
【0027】
次に、制御部104は、標準物質のDSC測定を行う(ステップS45)。ステップS45では制御部104は、後述する表示部106の画面(
図13)にて、実際の測定手順を表示ボックスに表示させ、操作者へのガイドとする。操作者が「測定開始」をクリックすると、制御部104は、分析部120の動作を制御して標準物質のDSC測定を行う。
【0028】
次に、制御部104は、次の分析条件である「測定試料情報」の入力を促す(ステップS46)。測定試料情報は、分析条件である測定試料の質量(
図2のサンプル重量)であり、後述する表示部106の画面(
図14)にて、サンプル重量の入力を促す入力ボックスを表示させる。なお、試料の重量はオフラインで天秤により操作者が秤量し、その値を入力する。
次に、制御部104は、入力されたサンプル重量が、記憶部102から読み出した分析条件(
図2参照;サンプル重量2〜40mg)に適合するか否かを判定する。そして、肯定判定の場合に、制御部104は、測定試料のDSC測定を行う(ステップS47)。ステップS47では制御部104は、後述する表示部106の画面(
図15)にて、実際の測定手順を表示ボックスに表示させ、操作者へのガイドとする。操作者が「測定開始」をクリックすると、制御部104は、分析部120の動作を制御して測定試料のDSC測定を行う。
一方、上記判定が否定判定(No)であれば、制御部104はステップS47に進まず、表示部106の画面は
図14のままとなるので、操作者は画面が進行するよう、サンプル重量を調整する。
【0029】
このようにして、(1)空容器、(2)標準物質、(3)測定試料のDSC測定が終了すると、制御部104は、これらの分析結果(測定データ)を記憶部102に記録する。ここで、本例では、制御部104が記憶部102から読み出した標準規格「ISO 11357-4」の分析条件には、分析結果の解析方法を含まれる。従って、制御部104は、分析結果につき、読み出した分析条件に基づいて解析を自動的に行う(ステップS48)。
【0030】
以上のように、分析手法に対応した標準規格の分析条件を時系列順に表示すれば、操作者にとっては標準規格に準じた分析を行っているかを判断するガイドとなる。又、分析条件
に対応する値の入力を時系列順に促すことで、入力された
値が標準規格の分析条件に適合するか否かをシステム側が判定し、肯定判定の場合に、次の分析条件
に対応する値の入力を促すことで、標準規格に合致しない分析条件で誤った分析をすることを防止する。
これらにより、煩雑な標準規格に従って分析を行う場合であっても、操作者の負担を軽減し、誤った分析を防止できる。
又、分析結果の解析も標準規格に従って分析装置側が自動で行うようにすれば、操作者の負担がさらに軽減する。
【0031】
次に、
図4、
図5のフローによって表示部106に表示される画面遷移例を
図6〜
図17に示す。
まず、
図6に示す画面にて、「ガイダンス機能」を選択して、
図4のフローをスタートさせると、
図7に示す「標準規格・分析手法の選択画面」(
図4のステップS2)が表示される。ここでは、
図7から「比熱容量測定ISO 11357-4」を選択したものとする。
図7で選択が終了すると、
図8の画面にジャンプし、「比熱容量測定ISO 11357-4」の時系列的な全体の手順のガイド情報が表示される。操作者は、
図8の画面で内容を確認し、「次へ」ボタンをクリックすると、
図9の画面にジャンプする。
【0032】
図9の画面では、空容器情報の入力が促される(
図5のステップS41)。操作者は、空容器情報を入力し、「次へ」ボタンをクリックすると、
図10の画面にジャンプする。
図10の画面では、測定条件の入力が促される(
図5のステップS42)。操作者は、画面中央のメソッドファイルを開き、その中の測定条件である加熱パターンの数値を必要に応じて変更し、入力を行う。
図10の画面で操作者が「次へ」をクリックした際、加熱パターンの数値が分析条件に適合すれば、上述のステップS43により、
図11の画面にジャンプし、操作者が「測定開始」をクリックすると、空容器のDSC測定を行う。一方、加熱パターンの数値が分析条件に適合しない場合は、「次へ」をクリックしても入力された数値が規格に適合しない旨の警告画面が表示され、
図11の画面にジャンプしない。
【0033】
測定後、
図10の画面で操作者が「次へ」をクリックすると、
図12の画面にジャンプする。
図12の画面では、「標準物質情報」が表示される(
図5のステップS44)。具体的には「標準物質」の分析条件である「純度99.9%以上のα−アルミナ(合成サファイアなど)」を表示し、操作者へのガイドとする。そして、「次へ」ボタンをクリックすると、
図13の画面にジャンプする。
【0034】
図13の画面では、標準物質のDSC測定を行う際の実際の測定手順(容器の設置順序等)を表示し、操作者へのガイドとする(
図5のステップS45)。そして、「測定開始」をクリックすると測定を開始し、測定終了後に「次へ」ボタンをクリックすると、
図14の画面にジャンプする。
【0035】
図14の画面では、測定試料情報の入力が促される(
図5のステップS46)。操作者が測定試料の質量を入力すると、制御部104は測定試料の質量が分析条件に適合するか否かを判定し、肯定判定の場合、制御部104は
図15の画面にジャンプする制御を行う。一方、否定判定の場合は、
図14の画面の入力ボックスにて、矢印に示すような警告表示を行い、操作者にサンプル重量を調整するよう注意を喚起する。また、「次へ」をクリックしても当該の数値が標準規格に適合しない旨の警告画面が表示され、
図15の画面にジャンプしない。
【0036】
図15の画面では、測定試料のDSC測定を行う際の実際の測定手順(容器の設置順序等)を表示し、操作者へのガイドとする(
図5のステップS47)。そして、「測定開始」をクリックすると測定を開始し、測定終了後に「解析へ」ボタンをクリックすると、
図16、
図17の画面にジャンプし、標準規格に沿った解析結果が自動的に表示される(
図5のステップS48)。
【0037】
なお、本発明の分析方法においては、上述の制御部が実行する処理が、それぞれ第1過程、第2過程、第3過程、第4過程に相当する。
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。