(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<芳香族ポリスルホン>
本実施形態の芳香族ポリスルホンは、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、スルホニル基(−SO
2−)と、酸素原子とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
【0019】
また、芳香族ポリスルホンは、式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」と言うことがある。)を有することが好ましい。特に、繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホンを芳香族ポリエーテルスルホンと言う。さらに、式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」と言うことがある。)や、式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」と言うことがある。)などの他の繰返し単位を少なくとも1種有していてもよい。
【0020】
−Ph
1−SO
2−Ph
2−O− (1)
[式(1)中、Ph
1およびPh
2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表し;前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。]
【0021】
−Ph
3−R−Ph
4−O− (2)
[式(2)中、Ph
3およびPh
4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表し;前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子で置換されていてもよく:Rは、アルキリデン基、酸素原子または硫黄原子である。]
【0022】
−(Ph
5)n−O− (3)
[式(3)中、Ph
5は、フェニレン基を表し;前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれに独立に、アルキル基、アリール基またはハロゲン原子で置換されていてもよく;nは、1〜3の整数であり、nが2以上である場合、複数存在するPh
5は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0023】
Ph
1〜Ph
5のいずれかで表されるフェニレン基は、それぞれに独立に、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。
【0024】
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基およびn−デシル基が挙げられる。
【0025】
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基であることが好ましい。炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基および2−ナフチル基が挙げられる。
【0026】
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。
【0027】
前記フェニレン基の水素原子がこれらの官能基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基ごとに、それぞれに独立に、2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0028】
Rで表されるアルキリデン基としては、炭素数1〜5のアルキリデン基であることが好ましい。炭素数1〜5のアルキリデン基としては、例えばメチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基および1−ブチリデン基が挙げられる。
【0029】
本実施形態の芳香族ポリスルホンは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、繰返し単位(1)を50モル%以上有することが好ましく、80モル%以上有することがより好ましく、繰返し単位として、実質的に繰返し単位(1)のみを有することがさらに好ましく、繰返し単位(1)のみを有することが特に好ましい。
すなわち、本実施形態の芳香族ポリスルホンは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、繰返し単位(1)を50モル%以上100モル%以下有することが好ましく、80モル%以上100モル%以下有することがより好ましく、100モル%有することが特に好ましい。
なお、芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)〜(3)を、互いに独立に、2種以上有していてもよい。
【0030】
また、芳香族ポリスルホンは、末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを含む。本明細書では、「末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホン」を、単に「高極性官能基を有する芳香族ポリスルホン」と言うことがある。
本実施形態の芳香族ポリスルホンは、1つの側面として、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンと高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンとの混合物であってもよく、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンのみから構成されていてもよい。
【0031】
「高極性官能基」とは、具体的にはカルボキシ基よりも小さい酸かい離定数を有する極性の官能基を意味する。高極性官能基としては、例えばスルホン酸基(−SO
2OH)、スルフィン酸基(−SO
2H)またはそれらの塩などが挙げられる。スルホン酸基、スルフィン酸基またはそれらの塩を含む芳香族ポリスルホンは、芳香族ポリスルホン中の繰返し単位(1)が分解し、空気中または樹脂中の水分と反応することにより生成する。また、後述する重合反応の後に、重合物の末端の官能基(水酸基またはハロゲン原子)を、高極性官能基を有する化合物によって置換することで得ることができる。
【0032】
ここで、高極性官能基の種類は、後述するGPC測定において高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを分画した後、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDIと略することがある)法により特定することができる。
【0033】
高極性官能基は、接着剤または粘着剤の表面、またはその表面に存在する反応性官能基と相互作用して、芳香族ポリスルホンをその表面に化学的または電気的に結合させる。そのため、芳香族ポリスルホンに高極性官能基があまり多く含まれていると、芳香族ポリスルホンの剥離性が低下することがある。
【0034】
本実施形態の芳香族ポリスルホンにおいて、芳香族ポリスルホン全体に占める高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合(すなわち、芳香族ポリスルホンの総質量に対する、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合)は、0.1質量%以上11質量%以下である。また、前記割合は、8質量%以上11質量%以下であってもよい。高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合が上述の範囲内であることにより、芳香族ポリスルホンの剥離性を向上させることができる。
【0035】
ここで、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定される。具体的には、下記条件(測定条件および解析条件)下で、GPC法により測定したとき得られるクロマトグラムにおいて、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナル(以下、「成分A」と称することがある。)の面積を、芳香族ポリスルホンに帰属される全シグナルの合計の面積で除することにより求められる。
【0036】
[測定条件]
試料注入量:5μL
カラム:昭和電工株式会社製「Shodex KF−803」
カラム温度:40℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.5mL/分
検出器:紫外可視分光光度計(UV)
検出波長:277nm
【0037】
[解析条件]
ソフトウエア:株式会社島津製作所製、「LabSolutions」
Width:70秒
Slope:1000uV/分
Drift:0uV/分
最小面積/高さ:1000カウント
解析開始時間:0分
解析終了時間:22分
【0038】
図1は、上記条件下で、GPC法により測定したとき得られるクロマトグラムである。
上記昭和電工株式会社製「Shodex KF−803」は、スチレンビニルベンゼン共重合体樹脂を充填した内径×高さが8.0mm×300mmのゲル浸透クロマトグラフィー用カラムであり、前記スチレンビニルベンゼン共重合体樹脂の粒径は6μmである。
図1に示す成分Aは、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに帰属される。本実施形態において、成分Aの面積を芳香族ポリスルホンに帰属される全シグナルの合計の面積で除することで得られる割合は、成分Aに相当する高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの質量が、芳香族ポリスルホン全体の質量(芳香族ポリスルホンの総質量)に占める割合に対応する。なお、末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンと、末端に高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンとは、その主鎖骨格が同一であるため、検出光(UV:277nm)に対するモル吸光係数が略同一である。したがって、検出されたシグナルの面積と、質量とは対応する。
すなわち、1つの側面として、本実施形態の芳香族ポリスルホンは、末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを含み、上記条件下で、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定したとき得られるクロマトグラムにおいて、前記高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナルの面積を、前記芳香族ポリスルホンに帰属される全シグナルの合計の面積で除した割合が0.1%以上11%以下である、芳香族ポリスルホンである。前記割合は、8%以上11%以下であってもよい。
別の側面として、本実施形態の芳香族ポリスルホンは、末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを含み、上記条件下で、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定したとき得られるクロマトグラムにおける、前記高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナルの面積が、前記芳香族ポリスルホンに帰属される全シグナルの合計の面積に対して、0.1%以上11%以下であり、または8%以上11%以下であってもよい、芳香族ポリスルホンである。
【0039】
通常、極性基を有するポリマーのGPC測定では溶離液に10mM(1mM=1×10
−3mol/L)の濃度で臭化リチウムなどの塩を添加した溶媒を使用するが、本発明における測定条件ではそのような塩を含まない溶離液を使用する。塩を含まない溶離液を用いることで、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンと固定相とが電気的に反発するため、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンは、高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンと比べて保持時間を早くすることができる。これにより、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに由来するピークと高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンに由来するピークとを分離することができ、再現性の高い測定が可能となる。
【0040】
溶離液に臭化リチウムを添加する場合には、成分Aは確認されない。換言すると、溶離液に臭化リチウムを添加しない場合には、成分Aは確認される。溶離液に臭化リチウムを添加しないことで、イオン排斥効果によって末端に高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナルよりも保持時間が早いシグナルとして成分Aを確認することができる。
【0041】
ここで、末端に高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンのシグナルは、溶離液に10mM臭化リチウムを添加したN,N−ジメチルホルムアミドを使用したときの芳香族ポリスルホンの保持時間と比較することで確認することができる。すなわち、溶離液に10mM臭化リチウムを添加したN,N−ジメチルホルムアミドを使用したときの芳香族ポリスルホン(末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホン+末端に高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホン)の保持時間と、溶離液に10mM臭化リチウムを添加しないN,N−ジメチルホルムアミドを使用したときの末端に高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンの保持時間とは略同一である。そして、末端に高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンのシグナルよりも保持時間が早いシグナルが、末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンのシグナル(成分A)として帰属される。
【0042】
さらに、本実施形態の芳香族ポリスルホンにおいては、フェノール性水酸基を、式(1)で表される繰返し単位100個あたり0.5個以上10個以下有することが好ましい。式(1)で表される繰返し単位100個あたりの反応性のフェノール性水酸基の数が0.5個以上10以下であることにより、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂と芳香族ポリスルホンをアロイ化する際に、芳香族ポリスルホンを微分散させることができる。
別の側面として、フェノール性水酸基は、式(1)で表される繰返し単位100個あたり1個以上2個以下であってもよく、1個以上1.82個以下であってもよい。
【0043】
ここで、式(1)で表される繰返し単位100個あたりのフェノール性水酸基の数(A)は、NMR法により測定される。具体的には、
1H NMR測定において、繰返し単位(1)中のフェノール基に結合した4つの水素原子に帰属されるシグナルの面積(x)と、フェノール性水酸基の2つ隣の炭素原子とそれぞれ結合した2つの水素原子に帰属されるシグナルの面積(y)とを用いて、下記式(S1)に基づいて算出することができる。
A=(y×100/x)×2 (S1)
【0044】
1H NMR測定における測定溶媒としては、
1H NMR測定が可能であり、芳香族ポリスルホンを溶解し得る溶媒であれば特に限定されないが、重ジメチルスルホキシドなどが好ましい。
【0045】
本実施形態の芳香族ポリスルホンの還元粘度(単位:dL/g)は、0.18以上であることが好ましく、0.22以上0.80以下であることがより好ましい。芳香族ポリスルホンは、還元粘度が高いほど、耐熱性や成形品としたときの強度・剛性が向上しやすいが、あまり高いと、溶融温度や溶融粘度が高くなりやすく、流動性が低くなりやすい。
ここで、還元粘度は、オストワルド型粘度管を使用して、25℃で、N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の樹脂濃度が1.0g/100mlで測定した値である。
本実施形態の芳香族ポリスルホンの数平均分子量(Mn)は、例えば、6000以上、40000以下であることが好ましい。
本実施形態の芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)は、例えば、9000以上、90000以下であることが好ましい。
本実施形態の芳香族ポリスルホンのMw/Mnの値(多分散度)は1.5以上、3.0以下であることが好ましい。
Mn、MwおよびMw/Mnの値は、<後述する芳香族ポリスルホンのMnおよびMwの測定、Mw/Mnの算出>に記載の方法により得ることができる。
【0046】
<芳香族ポリスルホンの製造方法>
本実施形態の芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物をモノマーとして、これらのモノマーを、有機溶媒中、塩基存在下で重縮合反応させることにより製造することができる。
【0047】
[モノマー]
芳香族ジハロゲノスルホン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物は、芳香族ポリスルホンを構成する繰返し単位に対応するものである。そして、芳香族ジハロゲノスルホン化合物は、一分子中に芳香環と、スルホニル基と、2個のハロゲノ基とを有する化合物であればよい。また、芳香族ジヒドロキシ化合物は、一分子中に芳香環と、2個のヒドロキシ基とを有する化合物であればよい。
【0048】
例えば、繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」と言うことがある。)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として、式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」と言うことがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0049】
また、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、化合物(4)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として、式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」と言うことがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0050】
また、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、化合物(4)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として、式(7)で表される化合物(以下、「化合物(7)」と言うことがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0051】
X
1−Ph
1−SO
2−Ph
2−X
2 (4)
[式(4)中、X
1およびX
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph
1およびPh
2は、前記と同義である。]
【0052】
HO−Ph
1−SO
2−Ph
2−OH (5)
[式(5)中、Ph
1およびPh
2は、前記と同義である。]
【0053】
HO−Ph
3−R−Ph
4−OH (6)
[式(6)中、Ph
3、Ph
4およびRは、前記と同義である。]
【0054】
HO−(Ph
5)
n−OH (7)
[式(7)中、Ph
5およびnは、前記と同義である。]
【0055】
X
1およびX
2で表されるハロゲン原子としては、前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子と同じものが挙げられる。
【0056】
化合物(4)の例としては、ビス(4−クロロフェニル)スルホンおよび4−クロロフェニル−3’,4’−ジクロロフェニルスルホンが挙げられる。
【0057】
化合物(5)の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホンおよびビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)スルホンが挙げられる。
【0058】
化合物(6)の例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィドおよびビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルが挙げられる。
【0059】
化合物(7)の例としては、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、フェニルヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよび4,4’−ジヒドロキシ−p−クオターフェニルが挙げられる。
【0060】
化合物(4)以外の芳香族ジハロゲノスルホン化合物の例としては、4,4’−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニルが挙げられる。
【0061】
本実施形態においては、芳香族ジハロゲノスルホン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物の全部または一部に代えて、4−ヒドロキシ−4’−(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニルなどの、分子中にハロゲノ基およびヒドロキシ基を有する化合物を用いることもできる。
【0062】
本実施形態においては、目的とする芳香族ポリスルホンの種類に応じて、芳香族ジハロゲノスルホン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物は、いずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
[塩基、有機溶媒]
芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との重縮合は、塩基として炭酸のアルカリ金属塩を用いて行われることが好ましい。また、重縮合溶媒として有機溶媒中で行われることが好ましく、塩基として炭酸のアルカリ金属塩を用い、かつ、有機溶媒中で行われることがより好ましい。
【0064】
炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリ(すなわち、アルカリ金属の炭酸塩)であってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(すなわち、炭酸水素アルカリ、アルカリ金属の炭酸水素塩)であってもよいし、これら(炭酸アルカリおよび重炭酸アルカリ)の混合物であってもよい。炭酸アルカリとしては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが好ましい。重炭酸アルカリとしては、例えば重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウムともいう)、重炭酸カリウム(炭酸水素カリウムともいう)などが好ましい。
【0065】
有機溶媒の種類は、特に限定されるものではないが、非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。また、有機溶媒の沸点は、特に限定されるものではないが、例えば100℃以上400℃以下であることが好ましく、100℃以上350℃以下であることがより好ましい。
【0066】
このような有機溶媒としては、例えばジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド;スルホラン(1,1−ジオキソチランともいう)、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホンなどのスルホン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノンなどの、窒素原子に結合している水素原子が置換されていてもよい尿素骨格を有する化合物が挙げられる。
【0067】
なかでも、有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン、ジフェニルスルホンまたは1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホランまたは1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンがより好ましい。
【0068】
これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
[重合]
芳香族ポリスルホンの製造方法では、第1段階として、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と、芳香族ジヒドロキシ化合物とを、有機溶媒に溶解させる。第2段階として、第1段階で得られた溶液に、炭酸のアルカリ金属塩を加えて、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とを重縮合反応させる。第3段階として、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の塩基、副生成物(塩基としてアルカリ金属塩を用いた場合には、ハロゲン化アルカリ)、および有機溶媒を低減して、芳香族ポリスルホンを得る。
【0070】
第1段階の溶解温度は、40℃以上180℃以下であることが好ましい。また、第2段階の重縮合の反応温度は、180℃以上400℃以下であることが好ましい。仮に副反応が生じなければ、重縮合温度が高いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなる。その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなる傾向にある。しかし、実際は、重縮合温度が高いほど、上記と同様の副反応が生じ易くなり、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下する。そのため、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、重縮合温度を調整する必要がある。
【0071】
芳香族ジヒドロキシ化合物に対する、芳香族ジハロゲノスルホン化合物の配合比率は、80モル%以上120モル%以下であることが好ましく、90モル%以上110モル%以下であることがより好ましい。
【0072】
芳香族ジヒドロキシ化合物に対する、炭酸のアルカリ金属塩の使用比率は、アルカリ金属として、90モル%以上130モル%以下であることが好ましく、95モル%以上120モル%以下であることがより好ましい。
【0073】
仮に副反応が生じなければ、炭酸のアルカリ金属塩の使用比率が多いほど、目的とする重縮合が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなる。その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなる傾向にある。
【0074】
しかし、実際は、炭酸のアルカリ金属塩の使用比率が多いほど、上記と同様の副反応が生じ易くなり、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下する。そのため、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、炭酸のアルカリ金属塩の使用比率を調整する必要がある。
【0075】
第2段階の重縮合は、通常、副生する水を低減しながら、有機溶媒の還流温度まで徐々に昇温する。有機溶媒の還流温度に達した後は、さらに所定の時間保温することが好ましい。所定の時間としては、1時間以上50時間以下が好ましく、2時間以上30時間以下であることがより好ましい。仮に副反応が生じなければ、重縮合時間が長いほど、目的とする重縮合が進むので、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が高くなる。その結果、芳香族ポリスルホンは還元粘度が高くなる傾向にある。しかし、実際は、重縮合時間が長いほど、上記と同様の副反応が進行し、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下する。
そのため、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、重縮合時間を調整する必要がある。
【0076】
末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを得るために、重合反応の後に、重合物の末端の官能基を、高極性官能基を有する化合物によって置換してもよい。具体的には、重合物の末端における前記X
1、X
2またはフェノール性水酸基と反応する官能基と高極性官能基とを有する化合物(以下、末端キャップ剤ということがある)を用いて、得られた重合物と反応させることで末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを得ることができる。
【0077】
この反応は、重合反応が終了した時点で、末端キャップ剤を添加することで容易に行うことができる。末端キャップ剤としては、具体的には、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、3−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、(4−ヒドロキシフェニル)ホスホン酸およびそのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0078】
第3段階では、まず、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の炭酸のアルカリ金属塩および副生したハロゲン化アルカリを、ろ過、抽出、遠心分離などで低減することにより、芳香族ポリスルホンが有機溶媒に溶解してなる溶液(以下、「芳香族ポリスルホン溶液」と言うことがある。)を得る。次いで、芳香族ポリスルホン溶液から、有機溶媒を低減することにより、芳香族ポリスルホンが得られる。
【0079】
芳香族ポリスルホン溶液から有機溶媒を低減する方法としては、例えば、芳香族ポリスルホン溶液から直接、減圧もしくは加圧下で有機溶媒を低減する方法が挙げられる。また、別の方法としては、芳香族ポリスルホン溶液と芳香族ポリスルホンの貧溶媒とを混合して、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過や遠心分離などで有機溶媒を低減する方法が挙げられる。本実施形態においては、必要に応じて、析出した芳香族ポリスルホンを、芳香族ポリスルホンの貧溶媒で繰返し洗浄してもよい。
【0080】
こうして得られた芳香族ポリスルホンは、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンと、高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンとが所定の比率で混合した混合物である。
本実施形態では、この混合物に対して所定の操作を行うことにより、芳香族ポリスルホン全体に占める高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合(すなわち、芳香族ポリスルホンの総質量に対する高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合)を調整することができる。
以下、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合を調整する方法の一例について詳述する。
【0081】
まず、芳香族ポリスルホンの混合物と所定の溶媒とを混合する。所定の溶媒としては、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンよりも高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンを溶解しやすい溶媒を用いる。このような溶媒としては、ジクロロメタンやクロロホルムなどが挙げられる。なかでも、これらの芳香族ポリスルホンに対する溶解度の差が大きいことから、ジクロロメタンを用いることが好ましい。
【0082】
芳香族ポリスルホンの混合物と所定の溶媒とを混合すると、芳香族ポリスルホンの混合物の周囲に存在する所定の溶媒に向けて、芳香族ポリスルホンの混合物から高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンが溶出する。このとき、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンも溶出するが、その溶出量は、高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンと比べて少ないため、溶液(芳香族ポリスルホンの一部+所定の溶媒)では、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合が低くなる。一方、溶出せずに残った固体(芳香族ポリスルホンの残部+少量の所定の溶媒)では、高極性官能基を有さない芳香族ポリスルホンの割合が少なくなるので、結果として、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合が高くなる。
【0083】
次いで、この混合物(芳香族ポリスルホンの混合物+所定の溶媒)をろ過や遠心分離などを用いて、固体と溶液に分離する。固体および溶液からそれぞれ所定の溶媒を低減することにより、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを多く含む成分と高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを少なく含む成分とに分離することができる。所定の溶媒を低減する方法としては、第3段階において有機溶媒を低減する方法で例示した方法が挙げられる。
【0084】
このような操作を、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンが所望の割合になるまで繰り返してもよい。また、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合が異なる2種類以上の芳香族ポリスルホンを用意して、目的とする高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合に応じて、適宜配合してもよい。
【0085】
本実施形態の芳香族ポリスルホンに含まれる高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合は、このようにして調整することができる。
【0086】
<芳香族ポリスルホン組成物>
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、上述した芳香族ポリスルホンを含み、さらにフィラーも含むことが好ましい。また、芳香族ポリスルホン以外の樹脂をさらに含んでもよい。
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物中、前記芳香族ポリスルホンの含有量は、前記芳香族ポリスルホン組成物の総質量に対して、20〜95質量%が好ましい。
【0087】
[フィラー]
本実施形態におけるフィラーとしては、例えば繊維状フィラー、板状フィラー、球状フィラー、粉状フィラー、異形フィラー、ウイスカーなどが挙げられる。
【0088】
繊維状フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、その他セラミック繊維、液晶高分子(LCPと略すことがある)繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維が挙げられる。また、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維などのウイスカーも挙げられる。
【0089】
板状フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイトが挙げられる。
【0090】
球状フィラーとしては、例えば、ガラスビース、ガラスバルーンが挙げられる。
【0091】
粉状フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック、導電カーボン、微粒シリカが挙げられる。
【0092】
異形フィラーとしては、例えば、ガラスフレーク、異形断面ガラス繊維が挙げられる。
【0093】
フィラーの含有量は、芳香族ポリスルホン100質量部に対して、0〜250質量部が好ましく、0〜70質量部がより好ましく、0〜50質量部がさらに好ましく、0〜25質量部が特に好ましい。
【0094】
芳香族ポリスルホン以外の樹脂としては、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリケトン、ポリエーテルイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂およびその変性物などが挙げられる。
【0095】
芳香族ポリスルホン以外の樹脂の含有量は、芳香族ポリスルホン100質量部に対して、5〜2000質量部が好ましく、10〜1000質量部がより好ましく、20〜500質量部がさらに好ましい。
【0096】
[有機溶媒]
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、さらに有機溶媒を含んでいてもよい。なお、有機溶媒は芳香族ポリスルホン組成物を調製するときに後から添加してもよいし、芳香族ポリスルホンに予め含まれていてもよい。このような有機溶媒として、本実施形態の製造方法で例示した有機溶媒と同様のものを使用することができる。
有機溶媒の含有量は、芳香族ポリスルホン100質量部に対して、0〜1質量部が好ましい。
【0097】
[その他の成分]
本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、種々の材料を含むことができる。このような材料としては、例えば着色成分、潤滑剤、各種界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、その他各種安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などが挙げられる。
その他成分の含有量は、芳香族ポリスルホン100質量部に対して、0〜1質量部が好ましい。
【0098】
1つの側面として、本実施形態の芳香族ポリスルホン組成物は、
上述した芳香族ポリスルホンと、
フィラー、芳香族ポリスルホン以外の樹脂、有機溶媒、及びその他の成分からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、を含む。
【0099】
本実施形態によれば、剥離性に優れた芳香族ポリスルホンおよびその芳香族ポリスルホンを含む芳香族ポリスルホン組成物が提供される。
【0100】
本実施形態の芳香族ポリスルホンの別の側面は、
末端に少なくとも一つの高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンを含む芳香族ポリスルホンであって、
前記芳香族ポリスルホンは、
上記式(1)で表される繰返し単位、好ましくは、ビス(4−クロロフェニル)スルホンおよびビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンを縮重合反応させて得られる繰り返し単位を有し;
下記条件下で、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定したとき得られるクロマトグラムにおける、前記高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナルの面積が、前記芳香族ポリスルホンに帰属される全シグナルの合計の面積に対して、0.1%以上11%以下である、または8%以上11%以下であってもよい、芳香族ポリスルホン。
[条件]
試料注入量:5μL
カラム:昭和電工株式会社製「Shodex KF−803」
カラム温度:40℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.5mL/分
検出器:紫外可視分光光度計(UV)
検出波長:277nm
前記芳香族ポリスルホンは、所定の条件で剥離強度を測定したとき、260℃での剥離強度が0.66N/cm
2以下であり、かつ280℃での剥離強度が1.51N/cm
2以下である芳香族ポリスルホンであることが好ましい。
【実施例】
【0101】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本実施例では、芳香族ポリスルホンの測定および評価を、以下の条件により行った。
【0102】
<芳香族ポリスルホンのMnおよびMwの測定、Mw/Mnの算出>
芳香族ポリスルホンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および多分散度(Mw/Mn)は、GPC測定により求めた。なお、MnおよびMwはいずれも2回測定し、その平均値を求めて、それぞれMnおよびMwとし、Mw/Mnの平均値を求めた。
【0103】
[測定条件]
試料:10mM臭化リチウム含有N,N−ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.002gを配合
試料注入量:100μL
カラム(固定相):東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR−H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結
カラム温度:40℃
溶離液(移動相):10mM臭化リチウム含有N,N−ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.8mL/分
検出器:示差屈折率計(RI)+光散乱光度計(LS)
標準試薬:ポリスチレン
分子量算出法:光散乱光度計(LS)の測定結果から絶対分子量を算出
【0104】
<高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有量の測定(含量測定)>
芳香族ポリスルホン全体に占める高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合(すなわち、芳香族ポリスルホンの総質量に対する高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合)は、GPC測定において芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナルの合計の面積で、高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンに帰属されるシグナルの面積を除することにより求めた。
【0105】
[測定条件]
装置:株式会社島津製作所製、「Nexera X2」
試料:N,N−ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.001gを配合
試料注入量:5μL
カラム(固定相):昭和電工株式会社製「Shodex KF−803」(8.0mmφ×300mm)
カラム温度:40℃
溶離液(移動相):N,N−ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.5mL/分
検出器:紫外可視分光光度計(UV)
検出波長:277nm
【0106】
[解析条件]
ソフトウエア:株式会社島津製作所製、「LabSolutions」
Width(W):70秒
Slope(S):1000uV/分
Drift(D):0uV/分
最小面積/高さ(M):1000カウント
解析開始時間:0分
解析終了時間:22分
【0107】
<芳香族ポリスルホンにおけるフェノール性水酸基の数の測定>
式(1)で表される繰返し単位100個あたりのフェノール性水酸基の数(A)は、
1H NMR測定により求めた。具体的には、
1H NMR測定において、繰返し単位(1)中のフェノール基に結合した4つの水素原子に帰属されるシグナルの面積(x)と、フェノール性水酸基の2つ隣の炭素原子とそれぞれ結合した2つの水素原子に帰属されるシグナルの面積(y)とを用いて、下記式(S1)に基づいて算出した。
A=(y×100/x)×2 (S1)
【0108】
なお、下記条件で測定したときに得られたスペクトルにおいて、繰返し単位(1)中のフェノール基に結合した4つの水素原子に帰属されるシグナルは、6.5〜6.95ppmに観測された。また、フェノール性水酸基の2つ隣の炭素原子とそれぞれ結合した2つの水素原子に帰属されるシグナルは、7.2〜7.3ppmに観測された。
【0109】
[測定条件]
装置:Varian Inc.製、「Varian NMR System PS400WB」
磁場強度:9.4T(400MHz)
プローブ:Varian Inc.製、「Varian 400 DB AutoX WB Probe」(5mm)
測定法:シングルパルス法
測定温度:50℃
測定溶媒:重ジメチルスルホキシド(TMS含有)
待ち時間:10秒
パルス照射時間:11.9μ秒(90°パルス)
積算回数:64回
外部標準:TMS(0ppm)
【0110】
<芳香族ポリスルホンの製造>
[製造例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽内で、ビス(4−クロロフェニル)スルホン85.46質量部、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン75.08質量部、炭酸カリウム43.54質量部およびN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と言うことがある。)165質量部を混合し、190℃で6時間反応させた。次いで、得られた反応混合溶液を、NMPで希釈し、室温まで冷却して、未反応の炭酸カリウムおよび副生した塩化カリウムを析出させた。これらの無機塩をろ過により低減することで、芳香族ポリスルホンがNMPに溶解してなる芳香族ポリスルホン溶液を得た。さらに、この溶液を水中に滴下し、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過により不要なNMPを低減することで、析出物を得た。得られた析出物を、水で繰返し洗浄し、150℃で加熱乾燥させることで、芳香族ポリスルホンを得た。
【0111】
上記含量測定において、得られたクロマトグラムを
図2に示す。すなわち、
図2は、上記含量測定により得られた製造例1のクロマトグラムである。
図2に示したクロマトグラム中の高極性官能基を有する芳香族ポリスルホン(成分A)を分画した後、MALDI法により分析した結果、高極性官能基はスルホン酸またはスルフィン酸であることがわかった。
【0112】
[実施例1]
製造例1で得られた芳香族ポリスルホン1質量部と、ジクロロメタン約10質量部とを混合し、室温で振とうした後、1時間静置した。静置後、ジクロロメタンに溶解した上層を抜き出し、芳香族ポリスルホンが溶解してなる溶液を得た。この溶液からジクロロメタンを留去し、乾燥させることで、実施例1の芳香族ポリスルホンを得た。
【0113】
[比較例1]
製造例1の芳香族ポリスルホンをそのまま用いた。
【0114】
実施例および比較例の芳香族ポリスルホンのMw、Mw/Mn、式(1)で表される繰返し単位100個あたりのフェノール性水酸基の数(A)を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
[実施例2]
実施例1の芳香族ポリスルホン100質量部および製造例1の芳香族ポリスルホン100質量部を混合することで、実施例2の芳香族ポリスルホンを得た。実施例1および製造例1の混合比から算出した高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合を表2に示す。
【0117】
[実施例3]
実施例1の芳香族ポリスルホン30質量部および製造例1の芳香族ポリスルホン70質量部を混合することで、実施例3の芳香族ポリスルホンを得た。実施例1および製造例1の混合比から算出した高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合を表2に示す。
【0118】
<芳香族ポリスルホンの剥離性の評価>
加熱容器内で、実施例1〜3および比較例の芳香族ポリスルホン15質量部およびNMP85質量部を混合し、60℃で2時間撹拌することで、淡黄色の芳香族ポリスルホン溶液を得た。これを、厚さ3mmのガラス板の一面にフィルムアプリケーターを用いて塗布した後、高温熱風乾燥器を用いて60℃で乾燥することで、芳香族ポリスルホンの塗膜を形成した。この塗膜を、窒素を流しながら、250℃で熱処理することで、ガラス板上に厚さ30μmの芳香族ポリスルホンフィルムを形成した。このフィルムをガラス板から剥離することにより、芳香族ポリスルホンフィルムを得た。
【0119】
次いで、芳香族ポリスルホンフィルムとポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、「カプトン 300H」)とを3MPa、260℃または280℃で30分間圧着した。そして、オートグラフを用いて剥離強度を測定し、芳香族ポリスルホンの剥離性を評価した。なお、芳香族ポリスルホンの剥離強度は、3回測定し、その平均値とした。オートグラフを用いた剥離性の評価の条件は以下の通りであった。
引張速度:5mm/分
温度:23℃
湿度:50%
【0120】
実施例および比較例の芳香族ポリスルホンの剥離性の評価の結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示すように、実施例1〜3の芳香族ポリスルホンは、芳香族ポリスルホン全体に占める高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合(すなわち、芳香族ポリスルホンの総質量に対する高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合)が11質量%以下であるので、260℃および280℃における剥離強度が相対的に低く、剥離性に優れていた。
【0123】
一方、比較例1の芳香族ポリスルホンは、芳香族ポリスルホン全体に占める高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの割合(すなわち、芳香族ポリスルホンの総質量に対する高極性官能基を有する芳香族ポリスルホンの含有割合)が11質量%より大きいので、260℃および280℃における剥離強度が相対的に高く、剥離性に劣っていた。
【0124】
以上の結果より、本発明が有用であることが確かめられた。