特許第6968104号(P6968104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968104
(24)【登録日】2021年10月28日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】細胞培養装置及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20211108BHJP
   C12M 3/02 20060101ALI20211108BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20211108BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20211108BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20211108BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20211108BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12M3/02
   C12M3/06
   C12N5/07
   C12N5/0735
   C12N5/0775
   C12N5/10
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-562460(P2018-562460)
(86)(22)【出願日】2018年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2018001631
(87)【国際公開番号】WO2018135633
(87)【国際公開日】20180726
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-8911(P2017-8911)
(32)【優先日】2017年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 英俊
(72)【発明者】
【氏名】後藤 俊
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/117615(WO,A1)
【文献】 特開2007−312668(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/117925(WO,A1)
【文献】 特表2013−517771(JP,A)
【文献】 特表2015−502747(JP,A)
【文献】 特表2003−521877(JP,A)
【文献】 特表2016−529897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を供給する細胞供給部と、
培地を供給する培地供給部と、
未分化細胞を分化誘導するための添加剤を供給する添加剤供給部と、
前記細胞、前記培地及び前記添加剤の少なくとも2つを含む処理対象物を撹拌する撹拌部と、
前記細胞を含む細胞懸濁液に対して膜分離処理を行う分離部と、
前記細胞を培養する培養容器と、を有するとともに、
前記細胞供給部、前記撹拌部、前記分離部及び前記培養容器をこの順序で経由する循環ルートを形成する第1の流路と、
前記培地供給部を、前記撹拌部よりも上流側において前記第1の流路接続する第2の流路と、
前記添加剤供給部を、前記撹拌部よりも上流側において前記第1の流路に接続する第3の流路と、
前記第1の流路、前記第2の流路及び前記第3の流路を介した送液を制御する制御部と、
を含み、
前記分離部は、それぞれの膜面に設けられた開口のサイズが互いに異なる複数のフィルタ膜を含み、前記複数のフィルタ膜の開口のサイズが、分化誘導の各段階における細胞のサイズに対応している
細胞培養装置。
【請求項2】
前記分離部は、
前記未分化細胞と死細胞とを膜分離する第1のフィルタ膜、前記未分化細胞が分化細胞に分化される前の中間体と前記未分化細胞とを膜分離する第2のフィルタ膜、及び前記中間体と前記分化細胞とを膜分離する第3のフィルタ膜を有する
請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
記制御部は、前記複数のフィルタ膜のいずれかによる膜分離処理を選択的に行うように、前記細胞を含む細胞懸濁液の送液の制御を行う
請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記添加剤と前記培地との混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、前記細胞を含む細胞懸濁液と前記混合物とを合流させて前記撹拌部に移送する制御を行う
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記第1の流路の途中の、前記細胞供給部と前記撹拌部との間に設けられた貯留容器を更に含み、
前記制御部は、前記貯留容器と前記撹拌部との間で前記混合物を循環させることにより前記混合物にせん断応力を加えた後に、前記細胞懸濁液と前記混合物とを前記貯留容器内において合流させて前記撹拌部に移送する制御を行う
請求項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記第1の流路の途中の、前記細胞供給部と前記撹拌部との間に設けられた貯留容器を更に含み、
前記制御部は、配管中に前記混合物を流すことにより前記混合物にせん断応力を加えた後に、前記細胞懸濁液と前記混合物とを前記貯留容器内において合流させて前記撹拌部に移送する制御を行う
請求項に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記混合物の粘度が所定の粘度になるまで前記混合物にせん断応力を加えるための送液を連続的に行う
請求項から請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記添加剤供給部は、
Wntシグナル活性化剤を含む第1の添加剤を供給する第1の添加剤供給部と、
Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤を供給する第2の添加剤供給部と、
を含む
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記培養容器を収容し、前記培養容器の周囲温度を一定に保つインキュベータと、
前記インキュベータの内部と外部との温度差によって前記第1の流路に沿って生じる温度勾配を緩和する温度勾配緩和機構と、
を更に含む請求項1から請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の細胞培養装置を用いて前記細胞を培養する細胞培養方法であって、
前記制御部が、前記細胞供給部から供給される前記細胞、前記添加剤供給部から供給される前記添加剤及び前記培地供給部から供給される前記培地を含む混合物を、前記撹拌部及び前記分離部を経由して前記培養容器に移送する制御を複数回に亘って行う
細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、細胞培養装置及び細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養に関する処理を実施する細胞培養装置に関する技術として、例えば以下の技術が知られている。
【0003】
例えば、特開2015−100309号公報には、細胞を自動で培養する自動培養装置と、培養された細胞の状態に関する情報を管理する細胞管理部と、を有する自動培養システムと、自動培養装置で培養された細胞の状態を記憶する記憶部と、発注者の元に設置された外部コンピュータと、を備える細胞管理システムが記載されている。
【0004】
国際公開第2013/187359号には、円筒形状の培養槽と、培養槽の底部の内面の中央から直立する支柱と、支柱の上部分に回転可能に取り付けられる取付部にその上部が固着され支柱を回転中心として回転する撹拌翼と、を備える細胞培養装置が記載されている。
【0005】
特表2016−529897号公報には、並進可能なベッド及び可動マルチチャネルピペットを含むロボット液体処理システムを用いて幹細胞を培養するためのオートメーション化された方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
胚性幹細胞(Embryonic Stem cell;ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell;iPS細胞)等の多能性幹細胞を、再生医療用途または創薬支援用途に適用する場合、多能性幹細胞から所望の細胞を作製する分化誘導を行う必要がある。分化誘導の手法として多能性幹細胞に化学的刺激または物理的刺激を与える手法が挙げられる。また、生体内において分化細胞は、外胚葉、中胚葉、内胚葉と呼ばれる三つの胚葉のいずれかから発生する。これに倣い、多能性幹細胞から分化細胞を得る場合、第一段階として、胚葉への分化誘導を行う。
【0007】
上記のような分化誘導に必要とされる一連の処理を、閉鎖系において連続的に実施することにより大量の分化細胞を生産することを可能とした細胞培養装置についてこれまで提案された例はなく、分化細胞の培養スケールを大きくすることは困難とされていた。また、人手が介在する培養手法においては、生物学的な汚染のリスクが高まるとともに、培養によって得られる細胞の均質性が低下するおそれがある。
【0008】
開示の技術は、上記した点に鑑みてなされたものであり、多能性幹細胞の分化誘導に必要とされる一連の処理を、閉鎖系において連続的に実施可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術に係る細胞培養装置は、細胞を供給する細胞供給部と、培地を供給する培地供給部と、未分化細胞を分化誘導するための添加剤を供給する添加剤供給部と、上記細胞、上記培地及び上記添加剤の少なくとも2つを含む処理対象物を撹拌する撹拌部と、上記細胞を含む細胞懸濁液に対して膜分離処理を行う分離部と、上記細胞を培養する培養容器と、を有するとともに、上記細胞供給部、上記撹拌部、上記分離部及び上記培養容器をこの順序で経由する循環ルートを形成する第1の流路と、上記培地供給部を、上記撹拌部よりも上流側において上記第1の流路接続する第2の流路と、上記添加剤供給部を、上記撹拌部よりも上流側において上記第1の流路に接続する第3の流路と、上記第1の流路、上記第2の流路及び上記第3の流路を介した送液を制御する制御部と、を含む。上記分離部は、それぞれの膜面に設けられた開口のサイズが互いに異なる複数のフィルタ膜を含み、上記複数のフィルタ膜の開口のサイズが、分化誘導の各段階における細胞のサイズに対応している。
【0010】
上記分離部は、上記未分化細胞と死細胞とを膜分離する第1のフィルタ膜、上記未分化細胞が分化細胞に分化される前の中間体と上記未分化細胞とを膜分離する第2のフィルタ膜、及び上記中間体と上記分化細胞とを膜分離する第3のフィルタ膜を有していてもよい。
【0011】
記制御部は、上記複数のフィルタ膜のいずれかによる膜分離処理を選択的に行うように、上記細胞を含む細胞懸濁液の送液の制御を行ってもよい。
【0012】
上記第1のフィルタ膜、上記第2のフィルタ膜及び上記第3のフィルタ膜の各々の膜面に設けられた開口のサイズは、互いに異なっていてもよい。
【0013】
上記制御部は、上記添加剤と上記培地との混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、上記細胞を含む細胞懸濁液と上記混合物とを合流させて上記撹拌部に移送する制御を行うことが好ましい。
【0014】
細胞培養装置は、上記第1の流路の途中の、上記細胞供給部と上記撹拌部との間に設けられた貯留容器を更に含んでいてもよい。この場合、上記制御部は、上記貯留容器と上記撹拌部との間で上記混合物を循環させることにより上記混合物にせん断応力を加えた後に、上記細胞懸濁液と上記混合物とを上記貯留容器内において合流させて上記撹拌部に移送する制御を行ってもよい。また、上記制御部は、配管中に上記混合物を流すことにより上記混合物にせん断応力を加えた後に、上記細胞懸濁液と上記混合物とを上記貯留容器内において合流させて上記撹拌部に移送する制御を行ってもよい。
【0015】
上記制御部は、上記混合物の粘度が所定の粘度になるまで上記混合物にせん断応力を加えるための送液を連続的に行ってもよい。
【0016】
上記添加剤供給部は、Wntシグナル活性化剤を含む第1の添加剤を供給する第1の添加剤供給部と、Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤を供給する第2の添加剤供給部と、を含んでいてもよい。
【0017】
細胞培養装置は、上記培養容器を収容し、上記培養容器の周囲温度を一定に保つインキュベータと、上記インキュベータの内部と外部との温度差によって上記第1の流路に沿って生じる温度勾配を緩和する温度勾配緩和機構と、を更に含んでいてもよい。
【0018】
開示の技術に係る細胞培養方法は、上記の細胞培養装置を用いて細胞を培養する細胞培養方法であって、上記制御部が、上記細胞供給部から供給される上記細胞、上記添加剤供給部から供給される上記添加剤及び上記培地供給部から供給される上記培地を含む混合物を、上記撹拌部及び上記分離部を経由して上記培養容器に移送する制御を複数回に亘って行う、というものである。
【発明の効果】
【0019】
開示の技術によれば、多能性幹細胞の分化誘導に必要とされる一連の処理を、閉鎖系において連続的に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】開示の技術の実施形態に係る細胞培養装置の構成を示すブロック図である。
図2】開示の技術の実施形態に係る細胞培養装置において実施される、多能性幹細胞の分化誘導のための処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3】開示の技術の実施形態に係る第1の添加剤を添加する処理を行う場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図4】開示の技術の実施形態に係る培地交換処理を行う場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図5】開示の技術の実施形態に係る第1の添加剤を再添加する場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図6】開示の技術の実施形態に係る培地交換処理を行う場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図7】開示の技術の実施形態に係る第2の添加剤を添加する場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図8】開示の技術の実施形態に係る培地交換処理を行う場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図9】開示の技術の実施形態に係る第2の添加剤を再添加する場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図10】開示の技術の実施形態に係る培地交換処理を行う場合における細胞培養装置の動作を示す図である。
図11】開示の技術の他の実施形態に係る細胞培養装置の構成を示すブロック図である。
図12】開示の技術の他の実施形態に係る細胞培養装置の部分的な構成を示す図である。
図13】開示の技術の他の実施形態に係る細胞培養装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。
【0022】
[第1の実施形態]
図1は、開示の技術の実施形態に係る細胞培養装置100の構成の一例を示すブロック図である。細胞培養装置100は、多能性幹細胞を分化細胞に分化誘導するために必要とされる複数の処理を自動で行い、所望の分化細胞を生産する細胞培養装置である。
【0023】
多能性幹細胞は、自己複製能と、外胚葉、中胚葉および内胚葉のいずれにも分化し得る多分化能とを有する細胞である。多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖細胞(Embryonic Germ cell;EG細胞)、胚性癌細胞(Embryonal Carcinoma cell;EC細胞)、多能性成体前駆細胞(Multipotent Adult Progenitor cell;MAP細胞)、成体多能性幹細胞(Adult Pluripotent Stem cell;APS細胞)、Muse細胞(Multi-lineage differentiating Stress Enduring cell)などが挙げられる。分化細胞は、多能性幹細胞が分化し、特定の形態及び機能を有する細胞である。本実施形態に係る細胞培養装置100を用いて生産される分化細胞としては、特に限定されないが、例えば、心筋細胞、神経細胞などが挙げられる。
【0024】
細胞培養装置100は、細胞供給部11、第1の添加剤供給部12、第2の添加剤供給部13及び培地供給部14を備える。また、細胞培養装置100は、貯留容器20、撹拌部30、粘度測定部41、42、分離部50、培養容器70及び制御部80を備える。
【0025】
細胞供給部11は、細胞培養装置100において培養される細胞を含む細胞懸濁液を、細胞培養装置100の流路内に供給する。細胞供給部11の流出口の近傍には、開閉バルブV1が設けられている。開閉バルブV1は、細胞供給部11から細胞懸濁液を供給する場合に開状態に制御され、それ以外の場合は閉状態に制御される。
【0026】
第1の添加剤供給部12は、多能性幹細胞の分化誘導に必要な、Wntシグナル活性化剤を含む第1の添加剤を細胞培養装置100の流路内に供給する。第1の添加剤供給部12の流出口の近傍には、開閉バルブV2が設けられている。開閉バルブV2は、第1の添加剤供給部12から第1の添加剤を供給する場合に開状態に制御され、それ以外の場合は閉状態に制御される。
【0027】
第2の添加剤供給部13は、多能性幹細胞の分化誘導に必要な、Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤を細胞培養装置100の流路内に供給する。第2の添加剤供給部13の流出口の近傍には、開閉バルブV3が設けられている。開閉バルブV3は、第2の添加剤供給部13から第2の添加剤を供給する場合に開状態に制御され、それ以外の場合は閉状態に制御される。
【0028】
培地供給部14は、細胞の培養に使用する新鮮な培地(培養液)を細胞培養装置100の流路内に供給する。培地供給部14の流出口の近傍には、開閉バルブV4が設けられている。開閉バルブV4は、培地供給部14から培地を供給する場合に開状態に制御され、それ以外の場合は閉状態に制御される。
【0029】
貯留容器20は、細胞供給部11から供給される細胞懸濁液、第1の添加剤供給部12から供給される第1の添加剤、第2の添加剤供給部13から供給される第2の添加剤及び培地供給部14から供給される培地を一次的に貯留しておくための容器である。貯留容器20の形態は、特に限定されず、例えば、ガラス製またはステンレス製の容器、プラスチック製のバッグの形態を有する容器を使用することが可能である。
【0030】
撹拌部30は、流路F2を介して流入する処理対象物を撹拌及び混合する処理を行う処理部である。撹拌部30は、駆動部を有しないスタティックミキサとしての構成を有していることが好ましく、例えば、管状体と、管状体の内部に固定設置され、管状体の内部にらせん状の流路を形成する撹拌エレメントと、を含んで構成され得る。なお、撹拌部30は、撹拌翼を回転駆動することにより撹拌及び混合を行うものであってもよい。
【0031】
分離部50は、流路F3を介して流入する処理対象物(細胞懸濁液)に含まれる成分を分離する処理を行う処理部である。分離部50は、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、第3のフィルタ部53を含んで構成されている。第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、第3のフィルタ部53は、それぞれ、細胞懸濁液が通過する膜面に形成された開口のサイズが互いに異なるフィルタ膜を備えている。すなわち、第1のフィルタ部51が備えるフィルタ膜の開口サイズが最も小さく、第3のフィルタ部53が備えるフィルタ膜の開口サイズが最も大きい。第2のフィルタ部52が備えるフィルタ膜の開口サイズは、第1のフィルタ部51が備えるフィルタ膜の開口サイズよりも大きく且つ第3のフィルタ部53が備えるフィルタ膜の開口サイズよりも小さい。第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53は、それぞれ、流路F3を介して流入する処理対象物(細胞懸濁液)に対してフィルタ膜による膜分離処理を行う。
【0032】
第1のフィルタ部51は、多能性幹細胞が分化を開始する前の培養の初期段階において使用される。第1のフィルタ部51は、生存している未分化細胞と死細胞とを膜分離するのに好適な開口サイズのフィルタ膜を有する。多能性幹細胞において、生存している未分化細胞は、複数の細胞の凝集体である細胞塊を形成し、死細胞は細胞塊から離脱して単一細胞となる。従って、膜分離処理によって生存している未分化細胞と死細胞とを分離することが可能である。第1のフィルタ部51は、生存している未分化細胞(細胞塊)と死細胞とを含む細胞懸濁液の中から死細胞を除去し、未分化細胞を残す目的で使用される。
【0033】
第2のフィルタ部52は、多能性幹細胞が心筋細胞等の分化細胞に分化する前の中間体(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に分化した段階で使用される。第2のフィルタ部52は、中間体に分化しない未分化細胞と中間体とを膜分離するのに好適な開口サイズのフィルタ膜を有する。中間体のサイズは、未分化細胞のサイズよりも大きいので、膜分離処理によって未分化細胞と中間体とを分離することが可能である。第2のフィルタ部52は、未分化細胞と中間体とを含む細胞懸濁液の中から未分化細胞を除去し、中間体を残す目的で使用される。
【0034】
第3のフィルタ部53は、多能性幹細胞が心筋細胞等の分化細胞に分化した段階で使用される。第3のフィルタ部53は、分化細胞に移行しない中間体と、分化細胞とを膜分離するのに好適な開口サイズのフィルタ膜を有する。心筋細胞等の分化細胞のサイズは、外胚葉、中胚葉、内胚葉等の中間体のサイズよりも大きいので、膜分離処理によって分化細胞と中間体とを分離することが可能である。第3のフィルタ部53は、分化細胞と中間体とを含む細胞懸濁液の中から中間体を除去し、分化細胞を残す目的で使用される。
【0035】
第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53は、それぞれ、処理対象物(細胞懸濁液)がフィルタ膜の膜面に沿って流れるタンジェンシャルフローフィルタの構成を有していてもよい。また、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53は、それぞれ、処理対象物(細胞懸濁液)の流れ方向が、フィルタ膜の膜面に対して交差する方向となるデッドエンドフローフィルタの構成を有していてもよい。
【0036】
第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53には、それぞれ回収容器61、62及び63が接続されている。第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53において、フィルタ膜を透過した濾液は、それぞれ、回収容器61、62及び63に回収される。
【0037】
本実施形態に係る細胞培養装置100において、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53は、培養期間中における所定のタイミングで選択的に使用される。すなわち、流路F3を介して分離部50に流入する処理対象物(細胞懸濁液)は、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53のいずれかのフィルタ膜を通過する。
【0038】
第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53の流入口の近傍には、それぞれ、開閉バルブV8、V9及びV10が設けられている。開閉バルブV8は、第1のフィルタ部51による膜分離処理を行う場合に開状態に制御され、それ以外の場合は、閉状態に制御される。開閉バルブV9は、第2のフィルタ部52による膜分離処理を行う場合に開状態に制御され、それ以外の場合は、閉状態に制御される。開閉バルブV10は、第3のフィルタ部53による膜分離処理を行う場合に開状態に制御され、それ以外の場合は、閉状態に制御される。
【0039】
ここで、分化誘導のための細胞培養において生じる、死細胞(シングルセル)(〜20μm)、未分化細胞の一例であるiPS細胞の凝集体(50〜150μm)、中間体の一例である中胚葉の凝集体(500〜600μm)及び分化細胞の一例である心筋細胞の凝集体(200〜300μm)を、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52、及び第3のフィルタ部53において膜分離する場合における、各フィルタ部のフィルタ膜の好ましい開口サイズ及び膜分離後の移送先を、下記の表1に例示する。
【表1】

なお、第1のフィルタ部51のフィルタ膜のより好ましい開口サイズは30μmであり、第2のフィルタ部52のフィルタ膜のより好ましい開口サイズは170μmであり、第3のフィルタ部53のフィルタ膜のより好ましい開口サイズは400μmである。
【0040】
培養容器70は、細胞を培養するための容器である。培養容器70の形態は、特に限定されず、例えば、ガラス製またはステンレス製の容器やプラスチック製のバッグの形態を有する容器を使用することが可能である。培養容器70は、例えば、温度30℃〜40℃(好ましくは37℃)且つCO濃度2%〜10%(好ましくは5%)に制御され且つ密閉されたインキュベータ71内に収容されている。
【0041】
粘度測定部41は、細胞供給部11に収容される細胞懸濁液の粘度を測定し、測定結果を制御部80に通知する。同様に、粘度測定部42は、貯留容器20に収容される液体の粘度を測定し、測定結果を制御部80に通知する。
【0042】
本実施形態に係る細胞培養装置100は、細胞供給部11、貯留容器20、撹拌部30、分離部50及び培養容器70をこの順序で経由する循環ルートを形成する循環流路F0を有する。循環流路F0は、流路F1、F2、F3、F4及びF5を含んで構成されている。流路F1は、細胞供給部11の流出口と貯留容器20の流入口とを接続する流路である。流路F2は、貯留容器20の流出口と撹拌部30の流入口とを接続する流路である。流路F3は、撹拌部30の流出口と分離部50の流入口とを接続する流路である。流路F4は、分離部50の流出口と培養容器70の流入口とを接続する流路である。流路F5は、培養容器70の流出口と細胞供給部11の流入口とを接続する流路である。なお、循環流路F0は、開示の技術における第1の流路の一例である。
【0043】
第1の添加剤供給部12は、流路F11を介して循環流路F0(流路F1)に接続され、第2の添加剤供給部13は、流路F12を介して循環流路F0(流路F1)に接続されている。培地供給部14は、流路F13を介して循環流路F0(流路F1)に接続されている。なお、流路F13は、開示の技術における第2の流路の一例である。流路F11及びF12は、開示の技術における第3の流路の一例である。
【0044】
貯留容器20と撹拌部30との間に設けられた流路F2には開閉バルブV5及びV6が設けられている。開閉バルブV5及びV6は、それぞれ、貯留容器20から撹拌部30に向けて送液を行う場合に開状態に制御され、それ以外の場合に閉状態に制御される。
【0045】
また、撹拌部30と分離部50との間に設けられた流路F3には開閉バルブV7が設けられている。開閉バルブV7は、撹拌部30から分離部50に向けて送液を行う場合に開状態に制御され、それ以外の場合に閉状態に制御される。
【0046】
細胞培養装置100は、撹拌部30の流出口と貯留容器20の流入口とを直結する流路F20を有する。すなわち、流路F20の一端は、流路F1に接続され、流路F20の他端は、流路F3に接続されている。流路F20には、開閉バルブV13及びV14が設けられている。開閉バルブV13及びV14は、撹拌部30から貯留容器20に向けて送液を行う場合に開状態に制御され、それ以外の場合に閉状態に制御される。
【0047】
細胞培養装置100は、流路F1〜F5、F11〜F12及びF20を介した送液を行う複数のポンプ(図示せず)を備えている。なお、細胞供給部11、第1の添加剤供給部12、第2の添加剤供給部13、培地供給部14、貯留容器20、撹拌部30、分離部50、培養容器70の各々の内部の圧力を調整することによって、これらの各要素間における送液を行ってもよい。
【0048】
制御部80は、開閉バルブV1〜V14の開閉制御及びポンプ(図示せず)の駆動制御を行うことにより、流路F1〜F5、F11〜F12及びF20を介した送液の制御を行う。
【0049】
本実施形態に係る細胞培養装置100において実施される多能性幹細胞の分化誘導のための処理は、多能性幹細胞をWntシグナル活性剤を含む培地中で培養する第1の工程と、第1の工程で得られた細胞をWntシグナル阻害剤を含む培地中で培養する第2の工程と、を含む。なお、上記の第1の工程及び第2の工程を含む分化誘導の方法の詳細は、例えば、国際公開第2013/111875号に記載されている。
【0050】
図2は、細胞培養装置100において実施される、多能性幹細胞の分化誘導のための処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0051】
ステップS1において、Wntシグナル活性剤を含む第1の添加剤を添加した培地中で細胞を培養する。
【0052】
第1の添加剤を添加した培地中での培養の開始から所定時間が経過した後、ステップS2において培地交換を行う。なお、培養を開始してから最初に行われる培地交換処理を培地交換[1]とする。培養開始から培地交換[1]が完了するまでの期間は、例えば0.5日〜2日程度である。
【0053】
ステップS3において、Wntシグナル活性剤を含む第1の添加剤を培地中に再添加する。
【0054】
第1の添加剤を再添加してから所定時間が経過した後、ステップS4において培地交換を行う。なお、第1の添加剤を再添加した後に行われる培地交換処理を培地交換[2]とする。
【0055】
ステップS5において、第1の添加剤の再添加及び培地交換[2]を含む一連の処理を1単位とする処理サイクルのサイクル数が、所定のサイクル数に達したか否かを判定する。処理サイクル数が、所定のサイクル数に達するまで、第1の添加剤の再添加及び培地交換[2]を含む一連の処理が繰り返し行われる。第1の添加剤の再添加及び培地交換[2]を含む一連の処理の1サイクル期間は、例えば1日〜5日程度である。
【0056】
ステップS6において、Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤を添加した培地中で細胞を培養する。
【0057】
第2の添加剤を添加してから所定時間が経過した後、ステップS7において培地交換を行う。なお、第2の添加剤を添加してから最初に行われる培地交換処理を培地交換[3]とする。第2の添加剤を添加してから培地交換[2]が完了するまでの期間は、例えば0.5日〜2日程度である。
【0058】
ステップS8において、Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤を培地中に再添加する。
【0059】
第2の添加剤を再添加してから所定時間が経過した後、ステップS9において培地交換を行う。なお、第2の添加剤を再添加した後に行われる培地交換処理を培地交換[4]とする。
【0060】
ステップS10において、第2の添加剤の再添加及び培地交換[4]を含む一連の処理を1単位とする処理サイクルのサイクル数が、所定のサイクル数に達したか否かを判定する。処理サイクル数が、所定のサイクル数に達するまで、第2の添加剤の再添加及び培地交換[4]を含む一連の処理が繰り返し行われる。第2の添加剤の再添加及び培地交換[4]を含む一連の処理の1サイクル期間は、例えば1日〜5日程度である。
【0061】
以下に、上記の各ステップに対応する細胞培養装置100の動作について説明する。なお、説明の煩雑さを回避する観点から、以下の説明では、開閉バルブV1〜V14の開閉制御に関し、これらの開閉バルブV1〜V14を開状態に制御する場合のみについて言及する。開閉バルブV1〜V14を開状態に制御された後、適宜閉状態に制御されるものとする。
【0062】
<第1の添加剤の添加>
図3は、図2に示すステップS1において実施される処理、すなわち、第1の添加剤を添加する処理を行う場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図3において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。なお、細胞供給部11には、細胞培養装置100を用いて分化誘導を行う多能性幹細胞を含む細胞懸濁液が収容されているものとする。また、細胞供給部11に収容された細胞懸濁液の粘度が粘度測定部41によって測定され、測定結果が制御部80に通知されているものとする。
【0063】
ステップA1において、制御部80は、開閉バルブV2及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、Wntシグナル活性化剤を含む第1の添加剤が、第1の添加剤供給部12から貯留容器20に供給されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。これにより、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20に収容される。貯留容器20に収容された第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。
【0064】
ここで、貯留容器20に収容されている第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、細胞供給部11に収容されている細胞懸濁液の粘度よりも高いことが想定される。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物及び細胞懸濁液は、後に混合されることになるが、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と細胞懸濁液との粘度差が大きいと良好な混合状態が得られない場合がある。従って、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度を、細胞懸濁液の粘度と同等にした後、両者を混合することが好ましい。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、チキソ性を有しており、せん断応力を加えることで粘度を低下させることが可能である。そこで、制御部80は、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、細胞懸濁液と上記混合物とを合流させて撹拌部30に移送する制御を行う。具体的には、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を循環させることにより上記の混合物にせん断応力を加える。
【0065】
すなわち、ステップA2において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、貯留容器20に収容されている第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が流路F2を経由して撹拌部30に移送される。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌されることで、せん断応力が加えられ、粘度が低下する。
【0066】
続いて、ステップA3において、制御部80は、開閉バルブV13及びV14を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、撹拌部30を通過した第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、流路F20を経由して貯留容器20に戻される。貯留容器20に収容された第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。制御部80は、粘度測定部42から通知される混合物の粘度と、粘度測定部41から通知される細胞懸濁液の粘度との差分値が所定値以下になるまで、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を連続して行う。なお、制御部80は、粘度測定部41から通知される細胞懸濁液の粘度とは無関係に粘度測定部42から通知される混合物の粘度の値が所定値以下になるまで、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を連続して行ってもよい。また、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を、予め定められたサイクル数に達するまで連続して行ってもよい。
【0067】
第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液が完了すると、ステップA4において、制御部80は、開閉バルブV1を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞供給部11に収容されている細胞懸濁液が、流路F1を経由して貯留容器20に移送され、粘度調整がなされた第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と合流する。
【0068】
ステップA5において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌、混合される。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えて粘度調整を実施しておくことで、細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物において良好な混合状態を得ることができる。
【0069】
ステップA6において、制御部80は、開閉バルブV7及びV8を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第1のフィルタ部51に供給される。細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、第1のフィルタ部51において膜分離処理が施され、生存している細胞と死細胞とが分離される。第1のフィルタ部51のフィルタ膜を透過した死細胞を含む濾液は回収容器61に回収される。
【0070】
ステップA7において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、死細胞が除去された細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、第1のフィルタ部51から流路F4を経由して培養容器70に供給される。多能性幹細胞がWntシグナル活性化剤を含む第1の添加剤が添加された培地とともに培養容器70に収容されることで、分化誘導のための培養が開始される。
【0071】
<培地交換[1]>
図4は、図2に示すステップS2において実施される処理、すなわち、培地交換[1]を行う場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図4において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている
【0072】
ステップB1において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより使用済み培地を含む細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0073】
ステップB2において、制御部80は、開閉バルブV1及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、使用済み培地を含む細胞懸濁液が、細胞供給部11から流路F1を経由して貯留容器20に移送されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。
【0074】
ステップB3において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、撹拌部30において撹拌、混合される。
【0075】
ステップB4において、制御部80は、開閉バルブV7及びV8を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第1のフィルタ部51に供給される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、第1のフィルタ部51において膜分離処理が施され、使用済み培地及び新鮮な培地を含む混合物の一部が、死細胞とともに除去される。第1のフィルタ部51のフィルタ膜を透過した死細胞を含む濾液は回収容器61に回収される。
【0076】
ステップB5において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、膜分離処理済みの細胞懸濁液が、第1のフィルタ部51から流路F4を経由して培養容器70に供給され、培地交換処理が完了する。
【0077】
<第1の添加剤の再添加>
図5は、図2に示すステップS3において実施される処理、すなわち、第1の添加剤を再添加する場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図5において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。
【0078】
ステップC1において、制御部80は、開閉バルブV2及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、Wntシグナル活性化剤を含む第1の添加剤が、第1の添加剤供給部12から貯留容器20に供給されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。これにより、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20に収容される。貯留容器20に収容された第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。
【0079】
ここで、貯留容器20に収容されている第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、培養容器70に収容されている細胞懸濁液の粘度よりも高いことが想定される。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物及び細胞懸濁液は、後に混合されることになるが、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と細胞懸濁液との粘度差が大きいと良好な混合状態が得られない場合がある。従って、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度を、細胞懸濁液の粘度と同等にした後、両者を混合することが好ましい。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、チキソ性を有しており、せん断応力を加えることで粘度が低下させることが可能である。そこで、制御部80は、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、細胞懸濁液と上記混合物とを合流させて撹拌部30に移送する制御を行う。具体的には、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を循環させることにより上記の混合物にせん断応力を加える。
【0080】
すなわち、ステップC2において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、貯留容器20に収容されている第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が流路F2を経由して撹拌部30に移送される。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌されることで、せん断応力が加えられ、粘度が低下する。
【0081】
続いて、ステップC3において、制御部80は、開閉バルブV13及びV14を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、撹拌部30を通過した第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、流路F20を経由して貯留容器20に戻される。貯留容器20に収容された第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。制御部80は、粘度測定部42から通知される混合物の粘度の値が所定値以下になるまで、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を連続して行う。なお、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を、予め定められたサイクル数に達するまで連続して行ってもよい。
【0082】
第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液が完了すると、ステップC4において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0083】
ステップC5において、制御部80は、開閉バルブV1を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞供給部11に収容されている細胞懸濁液が、流路F1を経由して貯留容器20に移送され、粘度調整がなされた第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と合流する。
【0084】
ステップC6において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌、混合される。第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えて粘度調整を実施しておくことで、細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物において良好な混合状態を得ることができる。
【0085】
ステップC7において、制御部80は、開閉バルブV7及びV9を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第2のフィルタ部52に供給される。細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、第2のフィルタ部52において膜分離処理が施され、中間体(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に分化しない未分化細胞及び死細胞と、中間体とが分離される。第2のフィルタ部52のフィルタ膜を透過した未分化細胞及び死細胞を含む濾液は回収容器62に回収される。
【0086】
ステップC8において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、未分化細胞及び死細胞が除去され、中間体が残された細胞懸濁液、第1の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、第2のフィルタ部52から流路F4を経由して培養容器70に供給される。
【0087】
<培地交換[2]>
図6は、図2に示すステップS4において実施される処理、すなわち、培地交換[2]を行う場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図6において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。
【0088】
ステップD1において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより使用済み培地を含む細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0089】
ステップD2において、制御部80は、開閉バルブV1及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、使用済み培地を含む細胞懸濁液が、細胞供給部11から流路F1を経由して貯留容器20に移送されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。
【0090】
ステップD3において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、撹拌部30において撹拌、混合される。
【0091】
ステップD4において、制御部80は、開閉バルブV7及びV9を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第2のフィルタ部52に供給される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、第2のフィルタ部52において膜分離処理が施され、使用済み培地及び新鮮な培地を含む混合物の一部が、死細胞及び未分化細胞とともに除去される。第2のフィルタ部52のフィルタ膜を透過した死細胞及び未分化細胞を含む濾液は回収容器62に回収される。
【0092】
ステップD5において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、膜分離処理済みの細胞懸濁液が、第2のフィルタ部52から流路F4を経由して培養容器70に供給され、培地交換処理が完了する。
【0093】
<第2の添加剤の添加>
図7は、図2に示すステップS6において実施される処理、すなわち、第2の添加剤を添加する場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図7において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。
【0094】
ステップE1において、制御部80は、開閉バルブV3及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤が、第2の添加剤供給部13から貯留容器20に供給されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。これにより、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20に収容される。貯留容器20に収容された第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。
【0095】
ここで、貯留容器20に収容されている第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、培養容器70に収容されている細胞懸濁液の粘度よりも高いことが想定される。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物及び細胞懸濁液は、後に混合されることになるが、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と細胞懸濁液との粘度差が大きいと良好な混合状態が得られない場合がある。従って、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度を、細胞懸濁液の粘度と同等にした後、両者を混合することが好ましい。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、チキソ性を有しており、せん断応力を加えることで粘度を低下させることが可能である。そこで、制御部80は、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、細胞懸濁液と上記混合物とを合流させて撹拌部30に移送する制御を行う。具体的には、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を循環させることにより上記の混合物にせん断応力を加える。
【0096】
すなわち、ステップE2において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、貯留容器20に収容されている第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が流路F2を経由して撹拌部30に移送される。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌されることで、せん断応力が加えられ、粘度が低下する。
【0097】
続いて、ステップE3において、制御部80は、開閉バルブV13及びV14を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、撹拌部30を通過した第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、流路F20を経由して貯留容器20に戻される。貯留容器20に収容された第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。制御部80は、粘度測定部42から通知される混合物の粘度の値が所定値以下になるまで、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を連続して行う。なお、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を、予め定められたサイクル数に達するまで連続して行ってもよい。
【0098】
第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液が完了すると、ステップE4において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0099】
ステップE5において、制御部80は、開閉バルブV1を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞供給部11に収容されている細胞懸濁液が、流路F1を経由して貯留容器20に移送され、粘度調整がなされた第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と合流する。
【0100】
ステップE6において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌、混合される。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えて粘度調整を実施しておくことで、細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物において良好な混合状態を得ることができる。
【0101】
ステップE7において、制御部80は、開閉バルブV7及びV9を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第2のフィルタ部52に供給される。細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、第2のフィルタ部52において膜分離処理が施され、中間体(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に分化しない未分化細胞及び死細胞と、中間体とが分離される。第2のフィルタ部52のフィルタ膜を透過した未分化細胞及び死細胞を含む濾液は回収容器62に回収される。
【0102】
ステップE8において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、未分化細胞及び死細胞が除去され、中間体が残された細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、第2のフィルタ部52から流路F4を経由して培養容器70に供給される。
【0103】
<培地交換[3]>
図8は、図2に示すステップS7において実施される処理、すなわち、培地交換[3]を行う場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図8において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。
【0104】
ステップG1において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより使用済み培地を含む細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0105】
ステップG2において、制御部80は、開閉バルブV1及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、使用済み培地を含む細胞懸濁液が、細胞供給部11から流路F1を経由して貯留容器20に移送されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。
【0106】
ステップG3において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、撹拌部30において撹拌、混合される。
【0107】
ステップG4において、制御部80は、開閉バルブV7及びV9を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第2のフィルタ部52に供給される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、第2のフィルタ部52において膜分離処理が施され、使用済み培地及び新鮮な培地を含む混合物の一部が、死細胞及び未分化細胞とともに除去される。第2のフィルタ部52のフィルタ膜を透過した死細胞及び未分化細胞を含む濾液は回収容器62に回収される。
【0108】
ステップG5において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、膜分離処理済みの細胞懸濁液が、第2のフィルタ部52から流路F4を経由して培養容器70に供給され、培地交換処理が完了する。
【0109】
<第2の添加剤の再添加>
図9は、図2に示すステップS8において実施される処理、すなわち、第2の添加剤を再添加する場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図9において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。
【0110】
ステップH1において、制御部80は、開閉バルブV3及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、Wntシグナル阻害剤を含む第2の添加剤が、第2の添加剤供給部13から貯留容器20に供給されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。これにより、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20に収容される。貯留容器20に収容された第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。
【0111】
ここで、貯留容器20に収容されている第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、培養容器70に収容されている細胞懸濁液の粘度よりも高いことが想定される。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物及び細胞懸濁液は、後に混合されることになるが、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と細胞懸濁液との粘度差が大きいと良好な混合状態が得られない場合がある。従って、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度を、細胞懸濁液の粘度と同等にした後、両者を混合することが好ましい。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、チキソ性を有しており、せん断応力を加えることで粘度を低下させることが可能である。そこで、制御部80は、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、細胞懸濁液と上記混合物とを合流させて撹拌部30に移送する制御を行う。具体的には、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を循環させることにより上記の混合物にせん断応力を加える。
【0112】
すなわち、ステップH2において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、貯留容器20に収容されている第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が流路F2を経由して撹拌部30に移送される。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌されることで、せん断応力が加えられ、粘度が低下する。
【0113】
続いて、ステップH3において、制御部80は、開閉バルブV13及びV14を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、撹拌部30を通過した第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、流路F20を経由して貯留容器20に戻される。貯留容器20に収容された第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。制御部80は、粘度測定部42から通知される混合物の粘度の値が所定値以下になるまで、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を連続して行う。なお、制御部80は、貯留容器20と撹拌部30との間で上記の混合物を循環させる送液を、予め定められたサイクル数に達するまで連続して行ってもよい。
【0114】
第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液が完了すると、ステップH4において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0115】
ステップH5において、制御部80は、開閉バルブV1を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞供給部11に収容されている細胞懸濁液が、流路F1を経由して貯留容器20に移送され、粘度調整がなされた第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と合流する。
【0116】
ステップH6において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌、混合される。第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えて粘度調整を実施しておくことで、細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物において良好な混合状態を得ることができる。
【0117】
ステップH7において、制御部80は、開閉バルブV7及びV10を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第3のフィルタ部53に供給される。細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、第3のフィルタ部53において膜分離処理が施され、分化細胞に移行しない中間体(外胚葉、中胚葉、内胚葉)、中間体に分化しない未分化細胞及び死細胞と、分化細胞とが分離される。第3のフィルタ部53のフィルタ膜を透過した中間体、未分化細胞及び死細胞を含む濾液は回収容器63に回収される。
【0118】
ステップH8において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、中間体、未分化細胞及び死細胞が除去され、分化細胞が残された細胞懸濁液、第2の添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、第3のフィルタ部53から流路F4を経由して培養容器70に供給される。
【0119】
<培地交換[4]>
図10は、図2に示すステップS9において実施される処理、すなわち、培地交換[4]を行う場合における細胞培養装置100の動作を示す図である。図10において、処理対象物(細胞懸濁液、培地、添加剤及びこれらの混合物)の各処理部への供給順序が示されている。
【0120】
ステップI1において、制御部80は、開閉バルブV12を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより使用済み培地を含む細胞懸濁液が、培養容器70から流路F5を経由して細胞供給部11に移送される。
【0121】
ステップI2において、制御部80は、開閉バルブV1及びV4を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、使用済み培地を含む細胞懸濁液が、細胞供給部11から流路F1を経由して貯留容器20に移送されるとともに、新鮮な培地が、培地供給部14から貯留容器20に供給される。
【0122】
ステップI3において、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、撹拌部30において撹拌、混合される。
【0123】
ステップI4において、制御部80は、開閉バルブV7及びV10を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、新鮮な培地が追加された細胞懸濁液が、撹拌部30から流路F3を経由して分離部50の第3のフィルタ部53に供給される。新鮮な培地が追加された細胞懸濁液は、第3のフィルタ部53において膜分離処理が施され、使用済み培地及び新鮮な培地を含む混合物の一部が、中間体(外胚葉、中胚葉、内胚葉)、未分化細胞及び死細胞とともに除去される。第3のフィルタ部53のフィルタ膜を透過した中間体、未分化細胞、死細胞は回収容器62に回収される。
【0124】
ステップI5において、制御部80は、開閉バルブV11を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、膜分離処理済みの細胞懸濁液が、第3のフィルタ部53から流路F4を経由して培養容器70に供給され、培地交換処理が完了する。
【0125】
以上のように、細胞培養装置100は、循環ルートを形成する環状流路F0の途中に設けられた処理部(撹拌部30及び分離部50)、培養容器70、細胞供給部11を有する。また、循環ルートを形成する環状流路F0には、分化誘導に必要な添加剤を供給する第1の添加剤供給部12及び第2の添加剤供給部13並びに新鮮な培地を供給する培地供給部14が接続されている。また、細胞培養装置100は、細胞培養装置100に設けられた各流路を介した送液を制御する制御部80を有する。上記の構成を有する細胞培養装置100によれば、多能性幹細胞の分化誘導に必要とされる一連の処理を、閉鎖系において連続的に実施することが可能となる。
【0126】
また、本実施形態に係る細胞培養装置100によれば、分離部50が、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52及び第3のフィルタ部53を含んで構成され、これらのフィルタ部は、それぞれ、開口のサイズが互いに異なるフィルタ膜を備える。第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52及び第3のフィルタ部53は、培養期間中における所定のタイミングで選択的に使用される。これにより、培養期間中に生じる、死細胞、未分化細胞、中間体及び分化細胞を、適切に分離することが可能となる。
【0127】
また、本実施形態に係る細胞培養装置100によれば、添加剤を添加または再添加する場合、制御部80は、添加剤と新鮮な培地との混合物にせん断応力を加えるための送液を行った後に、細胞懸濁液と上記の混合物とを合流させて撹拌部30に移送する制御を行う。すなわち、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度を、細胞懸濁液の粘度に近づけた後に、上記の混合物と細胞懸濁液との混合を行う。これにより、細胞懸濁液、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を混合する場合に、良好な混合状態を得ることができる。
【0128】
なお、本実施形態では、分離部50が、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52及び第3のフィルタ部53の3種類のフィルタ部を有する場合を例示したが、この態様に限定されるものではない。分離部50は、第1のフィルタ部51、第2のフィルタ部52及び第3のフィルタ部53のうちの少なくとも1つを含んでいればよい。
【0129】
また、本実施形態では、分離部50による分離手段として、膜分離処理を行うフィルタ部を例示したが、この態様に限定されるものではない。分離部50による分離手段として、膜分離手段に代えて、または膜分離手段と併用して、遠心分離手段、加振分離手段、電解分離手段及び磁気分離手段を用いることも可能である。
【0130】
また、本実施形態では、細胞培養装置100が貯留容器20を備える場合を例示したが、貯留容器20を省略することも可能である。貯留容器20を省略する場合、流路を形成する配管に貯留容器としての機能を担わせるようにしてもよい。
【0131】
[第2の実施形態]
図11は、開示の技術の第2の実施形態に係る細胞培養装置100Aの構成を示すブロック図である。上記の第1の実施形態に係る細胞培養装置100においては、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるために、上記の混合物を貯留容器20と撹拌部30との間で循環させる場合を例示した。第2の実施形態に係る細胞培養装置100Aにおいては、添加剤と新鮮な培地との混合物にせん断応力を加えるための送液経路が、第1の実施形態に係る細胞培養装置100と異なる。
【0132】
第2の実施形態に係る細胞培養装置100Aは、添加剤と新鮮な培地との混合物にせん断応力を加えるための送液経路として、貯留容器20の流出口と流入口とを接続する流路F21を有する。制御部80は、流路F21を構成する配管中に添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を流すことにより上記の混合物にせん断応力を加えた後に、細胞懸濁液と上記の混合物とを貯留容器20内において合流させて撹拌部30に移送する。
【0133】
具体的には、制御部80は、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が貯留容器20に収容されている状態において、開閉バルブV5、V13及びV14を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、貯留容器20に収容されている添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が貯留容器20から流出し、流路F21を経由して貯留容器20に戻る。添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、流路F21に流れる間、流路F21を構成する配管内の壁面との摩擦によって、上記の混合物にせん断応力が加えられ、上記の混合物の粘度が低下する。
【0134】
貯留容器20に収容された添加剤及び新鮮な培地を含む混合物の粘度は、粘度測定部42によって測定され、測定結果が制御部80に通知される。制御部80は、粘度測定部42から通知される混合物の粘度と、粘度測定部41から通知される細胞懸濁液の粘度との差分値が所定値以下になるまで、上記の混合物を流路F21を介して循環させる送液を連続して行う。なお、制御部80は、粘度測定部42から通知される混合物の粘度の値が所定値以下になるまで、上記の混合物を流路F21を介して循環させる送液を連続して行ってもよい。また、上記の混合物を流路F21を介して循環させる送液を、予め定められたサイクル数に達するまで連続して行ってもよい。
【0135】
添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための送液が完了すると、制御部80は、開閉バルブV5、V13及びV14を閉状態に制御し、開閉バルブV1を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞供給部11に収容されている細胞懸濁液が、流路F1を経由して貯留容器20に移送され、粘度調整がなされた添加剤及び新鮮な培地を含む混合物と合流する。
【0136】
その後、制御部80は、開閉バルブV5及びV6を開状態に制御するとともに所定のポンプを駆動する。これにより、細胞懸濁液、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物が、貯留容器20から流路F2を経由して撹拌部30に移送される。細胞懸濁液、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物は、撹拌部30において撹拌、混合される。添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えて粘度調整を実施しておくことで、細胞懸濁液、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物において良好な混合状態を得ることができる。
【0137】
なお、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物にせん断応力を加えるための手法として、貯留容器20をプラスチックフィルム等の柔軟な材料で構成し、添加剤及び新鮮な培地を含む混合物を収容した貯留容器20に外部から力を加える方法を用いることも可能である。
【0138】
[第3の実施形態]
開示の技術の実施形態に係る細胞培養装置において、インキュベータ71の内部の温度T1は、例えば37℃一定に保たれており、インキュベータ71の外部の温度T2は、室温(例えば25℃)である。従って、インキュベータ71の内部に収容された培養容器70に細胞懸濁液を流入させる場合、及びインキュベータ71の外部に細胞懸濁液を流出させる場合に、細胞は、12℃の温度差による熱衝撃を受ける。この熱衝撃により、細胞はダメージを受けるおそれがある。
【0139】
図12は、開示の技術の第3の実施形態に係る細胞培養装置の部分的な構成を示す図である。第3の実施形態に係る細胞培養装置は、培養容器70を収容するインキュベータ71の内部と外部との温度勾配を緩和する温度勾配緩和機構91及び92を備えている。
【0140】
温度勾配緩和機構91は、複数の加熱ユニット91a、91b、91c及び91dを含んで構成されている。加熱ユニット91a、91b、91c及び91dは、インキュベータ71内に収容された培養容器70に流入する細胞懸濁液が通過する流路F4に設けられている。加熱ユニット91a、91b、91c及び91dは、それぞれ、独立に加熱温度の設定を行うことが可能であり、互いに異なる温度で流路F4を流れる細胞懸濁液を加熱する。加熱ユニット91a、91b、91c及び91dの設定温度をそれぞれ、T1a、T1b、T1c及びT1dとすると、T2(25℃)<T1d<T1c<T1b<T1a<T1(37℃)となるように、各加熱ユニットの温度設定がなされる。これにより、流路F4を流れる細胞懸濁液の温度は、緩やかにインキュベータ71の内部の温度T1(37℃)に向けて上昇する。すなわち、温度勾配緩和機構91によってインキュベータ71の内外の温度差による細胞懸濁液の時間あたりの温度変化である温度勾配が緩和される。温度勾配は例えば0.1(℃/s)以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、4つの加熱ユニット91a、91b、91c及び91dによって温度勾配緩和機構91を構成する場合を例示したが、所望の温度勾配を実現できるように、加熱ユニットの数は適宜増減することが可能である。
【0141】
一方、温度勾配緩和機構92は、複数の冷却ユニット92a、92b、92c及び92dを含んで構成されている。冷却ユニット92a、92b、92c及び92dは、インキュベータ71内に収容された培養容器70から流出する細胞懸濁液が通過する流路F5に設けられている。冷却ユニット92a、92b、92c及び92dは、互いに独立に冷却温度の設定を行うことが可能であり、互いに異なる温度で流路F5を流れる細胞懸濁液を冷却する。冷却ユニット92a、92b、92c及び92dの設定温度をそれぞれ、T2a、T2b、T2c及びT2dとすると、T2(25℃)<T2d<T2c<T2b<T2a<T1(37℃)となるように、各冷却ユニットの温度設定がなされる。これにより、流路F5を流れる細胞懸濁液の温度は、緩やかにインキュベータ71の外部の温度T2(25℃)に向けて下降する。すなわち、温度勾配緩和機構92によってインキュベータ71の内外の温度差による細胞懸濁液の時間あたりの温度変化である温度勾配が緩和される。温度勾配は、例えば0.1(℃/s)以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、4つの冷却ユニット92a、92b、92c及び92dによって温度勾配緩和機構92を構成する場合を例示したが、所望の温度勾配を実現できるように、冷却ユニットの数は適宜増減することが可能である。
【0142】
以上のように、開示の技術の第3の実施形態に係る細胞培養装置によれば、温度勾配緩和機構91及び92によってインキュベータ71の内外の温度差による細胞懸濁液の温度変化の温度勾配が緩和される。これにより、インキュベータ71の内外の温度差によって細胞が受けるダメージを軽減または解消することが可能となる。
【0143】
[第4の実施形態]
図13は、開示の技術の第4の実施形態に係る細胞培養装置100Bの構成を示す図である。第4の実施形態に係る細胞培養装置100Bは、細胞状態測定部90を更に有する。細胞状態測定部90は、培養容器70内に収容されている細胞を撮像するカメラを備え、撮像によって得られる画像を制御部80に供給する。
【0144】
制御部80は、細胞状態測定部90から供給される画像から培養容器70内に収容されている細胞の状態を検出する。制御部80は、画像から検出した細胞の状態に基づいて、図2に示す各処理ステップへの移行可否を判定する。
【0145】
このように、培養容器70内に収容されている細胞の画像に基づいて各処理ステップへの移行可否を判定することで、分化誘導に必要とされる各処理を適切なタイミングで実施することができ、分化細胞の生産性を高めることができる。
【0146】
なお、2017年1月20日に出願された日本国特許出願2017−008911の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13