(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のエレクトロクロミック材料からなる薄膜を透明導電性基板上に具備する色可変電極を含み、電気化学的酸化還元反応により青色−無色透明に色変化する補色薄膜を組み合わせて黒色−無色透明に色変化することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック素子(ECD)とは、電気化学的酸化還元により物質の色が変化するエレクトロクロミック材料(EC材料)を用いた色可変素子である。車載用ミラーに搭載し、色変化により反射率を制御する目的や、車や建物の窓に使用し、日射や赤外線などの透過率を制御し、空調効率を高める目的などで使用されている。さらには、ディスプレイ、サングラスなどの用途も検討されている。
【0003】
近年では特に建材、乗り物用の調光ガラスへの応用が盛んに検討されている。調光ガラスをはじめとするECDの用途では、その色が極めて重要な意味を持つ。特に黒、グレー、ブラウン(茶色)などの実現が望まれている。一方、現在市販化されているECDではその多くが青−透明の色変化である。これらのECDで使用されている材料としては、酸化タングステンに代表される酸化物(特許文献1)、ビオロゲンに代表される小分子(特許文献2)、PEDOT−PSSに代表される高分子(特許文献3)、金属シアノ錯体に代表される配位高分子(特許文献4)がある。これらを用い、現在市販化されているものでは青−透明の色変化を示すものである。
【0004】
近年、ブラウンや黒色を実現するエレクトロクロミック材料としては、有機高分子を中心に開発が進んでいる(特許文献5、非特許文献1)。また、最近では銀ナノ粒子を利用したECDも開発されている(非特許文献2)。しかしながら、有機高分子材料は一般的に耐光性に課題を抱えることが多く、調光ガラス用途には向いていない。銀ナノ粒子ECDは開発が始まったところでもあり、耐光性などの評価も公にはなっていない。
【0005】
そのような耐光性などの観点からは、無機材料に一定の優位性があると考えられる。無機材料のなかでは金属酸化物と金属シアノ錯体がすでに商用化されている。特に、金属シアノ錯体は金属置換により多彩な色の実現が可能であり(特許文献6)、多色化への有力な材料と考えられる。ただし、調光ガラス用途の場合、着色時の色だけでなく、消色時に無色透明になることが求められる。さらに、散乱を避けるため、平滑な薄膜を透明電極上に成型する必要がある。しかしながら、現時点では黒−透明の材料は報告されていない。
【0006】
また、茶色―透明の材料としては、コバルト−鉄シアノ錯体が挙げられる。コバルト−鉄シアノ錯体は、酸化状態で褐色を示すことが知られている。還元状態では、内包するアルカリイオンの種類、組成によって色が変化することが知られている。
コバルト−鉄シアノ錯体の組成の一般式は下記のとおりである。
A
xCo[Fe(CN)
6]
y・zH
2O (1)
ここで、Aはナトリウム、カリウムなどのアルカリイオン元素である。特にアルカリイオンとしてカリウムを使用し、組成としてx=2、y=1の場合に、450ナノメートル以上の光吸収がほぼ0となり、透明に近い色となるとされている。しかしながら、塩化コバルト水溶液にフェロシアン化カリウム水溶液を滴下して作製したコバルト−鉄プルシアンブルー型錯体をゲル状にした後にスライドガラスに塗布する方法で作製したとすると、膜厚も50μmと厚く、平滑な薄膜を製作することは難しい。また、金属シアノ錯体の組成はいつも簡便に制御できるわけではなく、金属イオン水溶液とヘキサシアノ鉄イオン水溶液を所望の比率で混合させても、その通りの比率の金属シアノ錯体を調製できるわけではない。特に、y=1に近づくほど、その調整は困難であると考えられている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明における金属シアノ錯体とは、その組成がA
xM[M’(CN)
6]
y・zH
2Oで表されるものを言う。また、M、M’が同定されている場合、M−M’シアノ錯体と呼ぶ。例えば、M=コバルト、M’=鉄の場合、コバルト−鉄シアノ錯体という。
【0020】
本発明においては、褐色−透明に色変化するEC材料としては、コバルト−鉄シアノ錯体であるが、それと複合体を形成する対材料、またはECDを作製する際の対極にも金属シアノ錯体を利用する場合がある。その場合、金属シアノ錯体の組成は必要とする色変化挙動に合わせて選ぶことができ、金属原子Mは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子が好ましく、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子がより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子が特に好ましい。金属原子M’は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子が好ましく、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、白金からなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子がより好ましく、鉄、コバルトからなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子がより好ましい。
【0021】
Aはコバルト−鉄シアノ錯体、または対材料または/および対極に使用する金属シアノ錯体ともに、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、アンモニウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の陽イオン元素である。
【0022】
また、水以外の溶媒や、不純物として他のイオン等、明記しない材料が含まれていてもよい。
【0023】
金属シアノ錯体の結晶構造は、
図1に示した面心立方構造が一般的であるが、必ずしもそれに制限されない。例えば、K
0.67Zn[Fe(CN)
6]
0.67・zH
2Oは六方晶を取る。また、M’に配位するシアノ基は6個が一般的であるが、その一部がニトロ基などに置換されていてもよいし、4から8個以内であれば問題はない。
【0024】
公知のように、コバルト鉄シアノ錯体は特にコバルトと鉄の組成比、つまりyの値によって還元状態の色が変化する。一般的には、yが1より小さな値をとる場合、
図1の面心立方構造から、一部のヘキサシアノ鉄イオンが抜け、欠陥となると考えられている。ここで重要な点は、いったんyが1より小さなコバルト−鉄シアノ錯体の微結晶を合成したのちに、ヘキサシアノ鉄イオンを添加することにより、従来方法で合成したy=1と同様の可視光吸収スペクトルを生じ得るという点である。
【0025】
本発明のコバルト−鉄シアノ錯体の合成法は、米国特許US 8,349,221 B2に記載の公知の方法が使用できる。ここでは、第一工程として、金属MAイオンの水溶液と金属としてMBを有するヘキサシアノ金属イオン水溶液を混合することで、MA、MBがシアノ基で架橋されたシアノ錯体、すなわちMA−MBシアノ錯体を合成し、そのうえで第二工程として、金属としてMCを有するヘキサシアノ金属錯体の水溶液を添加する方法が記載されている。この方法を使用することで、金属シアノ錯体のナノ粒子を水などの極性溶媒に分散させることが目的と述べている。金属MBとMCが同種の金属を使用する場合、第二工程によって金属比yが変化することは明らかである一方、その方法により光学特性が変化することは明記されていない。実際に、MA=MB=MC=Feのプルシアンブルーの場合、この第二工程による光学特性の変化は見られない。
【0026】
しかしながら、MA=Co、MB=Feとしたコバルト−鉄シアノ錯体においては、第二工程で添加するヘキサシアノ鉄錯体を組成比に組み込んだ形を用いて議論できることが判明した。その理由は必ずしも定かではないが、以下の可能性が考えられる。
【0027】
還元状態で緑色を発色するyが1より十分小さなコバルト−鉄シアノ錯体における緑色の起源である600ナノメートルから700ナノメートルに生じる吸収が、もともと結晶表面に露出しているコバルトイオン起源であり、表面にヘキサシアノ鉄イオンが配位することで、その吸収が消失すること、または、水中で微結晶とイオンを混合させて攪拌する間にコバルト−鉄シアノ錯体の中に添加したヘキサシアノ鉄イオンが取り込まれるなど、内部構造までふくめた再構成が起こっていることなどが考えられる。
【0028】
第二工程で添加するヘキサシアノ鉄錯体の量としては、添加前に含まれる金属モル数に対し、6〜20%が好ましく、8〜18%がより好ましく、8〜15%が特に好ましい。つまり、添加前の組成をA
xCo[Fe(CN)
6]
y0・zH
2Oとした場合、100a%の添加量の場合、最終的な組成は以下の通りとなる。
A
xCo[Fe(CN)
6]
(y0+(1+y0)a)・zH
2O
つまり、最終的な組成式におけるyと添加前の組成式中y0、添加率aの関係はy=y0+(1+y0)a で示される。
【0029】
ここでいう無色透明とは、必ずしも可視光領域の吸光係数が0である必要はない。重要なことは、着色時の吸光度と無色透明時の吸光度に十分な違いがあることであり、着色時の吸光度と、無色透明時の吸光度の比が人の視感度の高い波長450nm〜550nmの間で3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが特に好ましい。
【0030】
組成におけるx、y、zの値としては、工程の途中の値ではなく、最終的に得られた製造物における値によって決定される。yの値としては、0.75以上2未満が好ましく、0.8以上1.5未満が好ましく、0.9以上1.3未満がより好ましい。
【0031】
x、zの値はコバルトシアノ錯体の還元時の色が無色透明であればよく、xは0〜3が望ましく、0〜2.5がより好ましく、0〜2が特に好ましい。zは0〜6が好ましく、0.5〜5.5がより好ましく、1〜5が特に好ましい。ただし、x、y、zは不純物として塩が含まれている場合、プルシアンブルー型錯体の内部構造に取り込まれていない水分を材料が有する場合、さらには例えば製膜するためのバインダなど、ほか材料との複合体として利用する場合などは、その効果を除去して評価されなければならない。
【0032】
金属シアノ錯体の望ましい粒径としては、一般論として、電気化学応答速度が粒径を小さくすることで比表面積を高めるようなものであることが好ましく、また平滑な薄膜を形成するためにも粒径が小さいことが好ましく、その観点から言うと、一次平均粒径は500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。粒径の下限に特に制限はないが、4nm以上であることが実際的である。本発明において、一次粒径とは、一次粒子の直径をいい、その円相当直径を粉末X線構造解析のピークの半値幅より導出したものでもよい。また、配位子などが粒子表面に吸着している場合もあるが、その場合も一次粒径としては、配位子を除いた粒径を指すものとする。
【0033】
コバルト鉄シアノ錯体をEC材料として利用する場合、電極上に薄膜を形成するのが一般的であり、以下、その方法について示す。ただし、目的とする色変化が電気化学的に実現できればその構造に限定されない。例えば、電極に接触させた電解質中にコバルト鉄シアノ錯体を分散させてもよい。
【0034】
コバルト鉄シアノ錯体を具備した電極の構造模式図を
図2に示す。電極は導電材料とEC材料の多層膜からなる。導電性材料は導電性であるとともに、電気化学素子として使用して腐食などの劣化が実用上問題のある程度に発生しないものであれば特に限定はない。例えば、インジウム錫酸化物、酸化亜鉛およびそれにアルミニウムなどの金属をドープしたものなどの導電性酸化物、金、白金などの貴金属、ステンレスなどの腐食対策を施した金属、アルミニウムなどの不働態が発生し、腐食が生じないものなどを利用できる。
【0035】
ただし、調光ガラスの場合など、装置の目的上透明である必要がある。電極の構造は平滑な板状であることが一般的であるが、それに限定されない。特に、EC材料と導電性材料の接触面積を増加させることは速度向上に資することがあり、そのために電極の平滑性を意図的に下げる場合がある。例えば、平滑な導電性材料に導電性材料を具備させて使用してもよい。さらには、導電性材料とEC材料の密着性を向上させる目的や、腐食回避の目的のため、ほかの材料を転嫁してもよい。また、EC材料と導電材料の間に導通が取れていればよく、使用の都合上、EC材料と反対側の導電材料の表面に絶縁材料など、ほかの材料が具備されていてもよい。
【0036】
EC材料1はコバルト−鉄シアノ錯体とほかのEC材料との混合物であってもよい。この場合、電極として、二つのEC材料の色を複合した色変化が実現できる。例えば、コバルト−鉄シアノ錯体とプルシアンブルーとの混合物が挙げられる。この場合、コバルト−鉄シアノ錯体の酸化還元電位は飽和カロメル電極基準で+0.4Vであり、それ以上で酸化状態の褐色、それ以下で還元状態の無色透明が実現する。プルシアンブルーの酸化還元電位は飽和カロメル電極基準で+0.2Vであり、これ以上で青、それ以下で無色透明となる。よって、この二種類のEC材料を複合化させた電極としては、+0.4V以上で褐色と青の複合色である黒、+0.2V以上+0.4V以下で青、+0.2V以下で無色透明となる。
【0037】
コバルト−鉄シアノ錯体と混合する材料としては、その他、ニッケル−鉄シアノ錯体、銅−鉄シアノ錯体などの金属シアノ錯体、ニッケル酸化物、銅酸化物、などの金属酸化物が挙げられる。また、混合する材料は二種類でもよいし、三種類以上でもよい。
【0038】
EC材料の混合法としては、完全に混合させる方法が挙げられる。例えば、コバルト−鉄シアノ錯体とプルシアンブルーのナノ粒子分散液を混合後塗布、製膜することにより、ナノ粒子レベルで二種類のEC材料が混合した膜が得られる。また、
図3に示す通り、複数のEC材料を多層膜化してもよい。
【0039】
金属シアノ錯体をEC材料として利用したECDの構造としては、
図4に示した多層構造が最も一般的である。すなわち、EC電極1に前述のものを利用し、別途EC電極2を準備し、電解質を二つのEC電極で挟みこむことでECDを作製する。EC電極2はEC電極1と同様に、EC材料および導電材料からなり、EC電極1と同様の構造自由度があってもよい。例えば、EC材料2も複数のEC材料の混合物であってもよい。また、EC電極1は電気化学的酸化還元を可逆的に起こす材料であればよく、必ずしも酸化状態と還元状態の色が異なる必要はない。
【0040】
ECDは二つの電極間に電圧を印加することによって駆動する。すなわち、EC材料1とEC材料2がそれぞれ酸化状態、還元状態である状態1と、それぞれ還元状態、酸化状態である状態2の間での色変化を電圧印加により実現できる。例えば調光ガラスとして使用する場合は、導電材料1、導電材料2、電解質に透明材料を使用する。これを透過型ECDという。透過型ECDの場合、ECDの色としては、EC材料1とEC材料2の混合色を呈する。一方、導電材料を透明、電解質を白色のものを使えば、EC材料1の色がそのままECDの色となる。これを反射型ECDという。この場合、EC材料2、導電材料2の色は問わない。
【0041】
透過型ECDの場合、EC材料2は安定な電気化学特性を有しているとともに、必要となる色変化を示す材料である必要がある。一方、反射型ECDの場合、安定な電気化学特性を有しているだけでよい。
【0042】
透過型ECDにおいて、EC材料2として、亜鉛−鉄シアノ錯体を使用し、両導電材料、電解質に透明材料を使用した場合は、ECDとして、褐色−無色透明の色変化を呈する。この材料は還元状態、酸化状態ともにほぼ無色透明である。よって、ECDの状態1はEC材料1の酸化状態である褐色となり、状態2はEC材料1の還元状態である無色透明となる。さらに、EC材料1として、透過型ECDのEC材料2として、還元状態がコバルト−鉄シアノ錯体の酸化状態である茶色の補色である青色、酸化状態が無色透明である材料を利用することで、状態1が黒色、状態2が無色透明となるECDを作製することができる。例えば、酸化タングステンはこの要請を満たしている。
【0043】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0044】
<調製例1:コバルト−鉄シアノ錯体分散液の調製>
コバルト−鉄シアノ錯体(M=Co、M’=Fe)分散液を以下の様に調製した。
【0045】
第一工程として、フェリシアン化カリウム1.65gを水15mLに溶解した水溶液に塩化コバルト・6水和物1.19gを水に溶解した水溶液15mLを混合し、3分間攪拌した。析出したコバルト−鉄シアノ錯体の沈殿物を、遠心分離法を用いて水で5回洗浄し、スラリー状試料S1を得た。
【0046】
次に、第二工程として、上記第一工程で製造した試料S1を水30mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェリシアン化カリウム0.49gを水10mLに溶解させて加え、攪拌したところ褐色透明溶液へと変化した。このようにしてコバルト−鉄シアノ錯体の分散液(DCo1)を得た。
【0047】
<調製例2:組成を変えたコバルト−鉄シアノ錯体分散液の調製>
調整例1と同様に、塩化コバルト6水和物と、フェリシアン化カリウムの混合比を変えることで、仕込み組成比の異なるコバルト−鉄シアノ錯体の分散液を調製し、それぞれDCo2,DCo3,DCo4とした。DCo1からDCo4の調整条件およびその条件から期待される組成比yを
図14に示す。
【0048】
<調製例3:コバルト−鉄シアノ錯体分散液の調製>
調整例2と同様に、塩化コバルト6水和物と、フェロシアン化カリウム・3水和物の混合比を変えることで、初期酸化還元状態の異なるコバルト−鉄シアノ錯体の分散液を調製し、それぞれDCo1r、DCo2r,DCo3r,DCo4rとした。DCo1rからDCo4rの調整条件およびその条件から期待される組成比yを
図15に示す。
【0049】
<調整例4:プルシアンブルー(鉄−鉄シアノ錯体)分散液の調製>
プルシアンブルーナノ粒子(M=Fe、M’=Fe)を以下の様に調製した。
【0050】
第一工程として、フェロシアン化ナトリウム・10水和物14.5gを水60mLに溶解した水溶液に硝酸鉄・9水和物16.2gを水に溶解した水溶液30mLを混合し、5分間攪拌した。析出した青色のプルシアンブルー沈殿物を遠心分離し、これを水で3回、続いてメタノールで1回洗浄し、減圧下で乾燥し、試料1を得た。このときの収量は11.0gであり、収率はFe[Fe(CN)
6]
0.75・3.75H
2Oとして97.4%であった。
【0051】
作製したプルシアンブルー錯体(沈殿物)を粉末X線回折装置で解析したところ、標準試料データベースから検索されるプルシアンブルー、Fe
4[Fe(CN)
6]
3のものと一致した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、このプルシアンブルーは5〜20nmのナノ粒子の凝集体であった。
【0052】
第二工程として、上記第一工程で製造した試料1の0.40gを水8mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェロシアン化ナトリウム・10水和物を80mg加え、攪拌したところ青色透明溶液へと変化した。このようにしてプルシアンブルーのナノ粒子分散液(DFe1)を得た。
【0053】
<調製例5:亜鉛−鉄シアノ錯体分散液の調製>
亜鉛−鉄シアノ錯体(M=Zn、M’=Fe)を以下のいずれかの方法により調製できる。
【0054】
[作製方法1]
第一工程として、フェロシアン化カリウム・3水和物1.69gを水1000mLに溶解した水溶液と塩化亜鉛0.82gを水1000mLに溶解した水溶液を準備した。液温が10度以下にコントロール可能なマイクロミキサー合成機を使用して140mL/分の速度で合成した。なお、合成部の断面積は直径150μmのものを使用した。析出した白色の亜鉛−鉄シアノ錯体沈殿物は遠心分離を繰り返しながら濃縮し、減圧下で乾燥して粉末試料PZn1を得た。
【0055】
作製した亜鉛−鉄シアノ錯体(沈殿物)を粉末X線回折装置で解析したところ、標準試料データベースから検索される亜鉛−鉄シアノ錯体、K
0.66Zn[Fe(CN)
6]
0.66のものと一致した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、この亜鉛−鉄シアノ錯体は50〜200nmのナノ粒子の凝集体であった。
【0056】
第二工程として、上記第一工程で製造した試料1の1.5gを水8.5mLに懸濁させ、亜鉛−鉄シアノ錯体分散液(DZn1)を得た。
【0057】
[作製方法2]
第一工程として、フェリシアン化カリウム3水和物1.69gを水15mLに溶解した水溶液を用意する。また塩化亜鉛1.09gを水に溶解した水溶液15mLを混合したものに濃塩酸を10倍希釈したものを200μL添加する。これら二水溶液を混合し、3分間攪拌した。析出した亜鉛−鉄シアノ錯体の沈殿物を、遠心分離法を用いて水で5回洗浄し、スラリー状試料S1を得た。
【0058】
第二工程として、上記第一工程で製造した試料S1を水30mLに懸濁させた。この懸濁液に、フェリシアン化カリウム3水和物0.51gを水10mLに溶解させて加え、一日攪拌した。その後高速遠心法によって亜鉛−鉄シアノ錯体を二回洗浄し、水40mLに懸濁させ、このようにして亜鉛−鉄シアノ錯体の分散液(DZn2)を得た。
【0059】
[作製方法3]
第一工程として、フェロシアン化カリウム・3水和物1.69gを水1000mLに溶解した水溶液と塩化亜鉛0.82gを水1000mLに溶解した水溶液を冷蔵庫にて液温が10度以下になるまで冷却した。10度以下の冷却を確認後に混合し、5分間攪拌した。析出した白色の亜鉛−鉄シアノ錯体沈殿物を、遠心分離を繰り返しながら濃縮し、減圧下で乾燥して粉末試料PZn1を得た。
【0060】
作製した亜鉛−鉄シアノ錯体(沈殿物)を粉末X線回折装置で解析したところ、標準試料データベースから検索される亜鉛−鉄シアノ錯体、K
0.66Zn[Fe(CN)
6]
0.66のものと一致した。透過型電子顕微鏡で測定したところ、この亜鉛−鉄シアノ錯体は50〜200nmのナノ粒子の凝集体であった。
【0061】
第二工程として、上記第一工程で製造した試料1の1.5gを水8.5mLに懸濁させ、亜鉛−鉄シアノ錯体分散液(DZn3)を得た。
【0062】
<調製例6:コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極の作製>
コバルト−鉄シアノ錯体分散液を使用し、下記のとおり薄膜電極を作製した。調整例1で調製したコバルト−鉄シアノ錯体分散液DCo1を用い、ITO被膜ガラス基板上にスピンコート法によりナノ粒子薄膜を設置して、本発明の電極を作製した。DCo1の固形量を5wt%に調整した。次いで、スピンコーターに25mm角ITO基板を設置し、分散液DCo1を60μL滴下し、1000rpmでの回転を10秒、1200rpmでの回転を60秒で行い、コバルト鉄シアノ錯体薄膜電極TCo1を作製した。同様に分散液DCo2〜DCo4を使用し、薄膜電極TCo2〜TCo4、TCo1r〜TCo4rを作製した。
【0063】
<調製例7:コバルト−鉄シアノ錯体とプルシアンブルーの混合薄膜電極の作製>
コバルト−鉄シアノ錯体分散液とプルシアンブルー分散液を使用し、下記のとおり薄膜電極を作製した。調整例1で調製したコバルト−鉄シアノ錯体分散液DCo2と、調整例3で調製したプルシアンブルー分散液を、それぞれの固形量濃度が82wt%:18wt%となるように混合し、分散液DCo2Fe1を調製した。スピンコーターに25mm角ITO基板を設置し、分散液DCoFe1を滴下し、1000rpmでの回転を10秒、1200rpmでの回転を60秒で行い、コバルト鉄シアノ錯体−プルシアンブルー混合薄膜電極TCoFe1を作製した。また、別途300rpmでの回転を600秒での作製も行い、混合薄膜電極TCoFe2を作製した。
【0064】
<調製例8:亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極の作製>
亜鉛−鉄シアノ錯体分散液を使用し、下記のとおり薄膜電極を作製した。調整例1で調製した亜鉛−鉄シアノ錯体分散液DZn1およびDZn2を用い、ITO被膜ガラス基板上に各々スピンコート法によりナノ粒子薄膜を設置して、本発明の電極を作製した。具体的にはDZn1およびDZn2を各15wt%に調整した。次いで、スピンコーターに25mm角ITO基板を設置し、分散液DZn1を各60μL滴下し、1000rpmでの回転を10秒、1500rpmでの回転を10秒で行い、亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極TZn1を作製した。分散液DZn2においても同様の方法を用い、亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極TZn2を作製した。
【0065】
<調製例9:コバルト−鉄シアノ錯体/亜鉛−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子の作製>
褐色−無色透明のエレクトロクロミック素子を作製するため、コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極と、亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極TZn2からなるエレクトロクロミック素子を以下のとおり作製した。電解質は濃度0.1mol/Lのカリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(KTFSI)―炭酸プロピレン溶液を用いた。この電解質を、DCo2をスピンコート法で酸化状態において波長500ナノメートルの透過率が50パーセントとなるように製膜したTCo2と酸化還元に要する電荷量が26ミリクーロンとなるように製膜したTZn2で挟み込み、エレクトロクロミック素子ECD(Co,Zn)を作製した。
【0066】
<調製例10:(コバルト−鉄シアノ錯体、プルシアンブルー)/亜鉛−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子の作製>
黒色−無色透明のエレクトロクロミック素子を作製するため、コバルト−鉄シアノ錯体とプルシアンブルーの混合薄膜電極と、亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極TZn1からなるエレクトロクロミック素子を以下のとおり作製した。濃度0.1mol/LのKTFSIとポリメタクリル酸メチルを炭酸プロピレン溶液に溶解させ、それぞれの濃度が2.7重量部、30.0重量部となる電解質を調製した。この電解質を薄膜電極TCoFe1、TZn1で挟み込み、エレクトロクロミック素子ECD(CoFe,Zn)を作製した。
【実施例1】
【0067】
<コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極の可視光光学特性の組成依存性>
調整例5で作製したコバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極を電解質に浸した状態の可視光透過率を、オーシャンフォトニクス製分光器USB4000を用いて評価した結果を
図5に示す。電解質は濃度0.1mol/LのKTFSI―炭酸プロピレン溶液を用いた。TCo1からTCo4は褐色で、TCo1rからTCo4rは無色透明に見えた。特にTCo1rからTCo4rは非特許文献5で示された、y=0.5のような1から離れた場合に現れる波長600ナノメートルから700ナノメートルの吸収は見られなかった。これは薄膜が緑色ではなく無色透明であることを示している。
【実施例2】
【0068】
<コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極のエレクトロクロミック特性>
コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極のエレクトロクロミック特性を調べたところ、褐色−無色透明の色変化を確認できた。具体的には以下の評価を行った。薄膜電極TCo2を用い、対極に白金線、参照極に飽和カロメル電極、電解質に濃度0.1mol/LのKTFSI―炭酸プロピレン溶液を用い、スキャンレート5ミリボルト/秒でサイクリックボルタモグラムを取得したところ、
図2のとおりとなった。このことから、本電極は良好な電気化学特性を有することが分かった。さらに、クロノクーロメトリー測定で終了電位を−0.4V、+0.7Vとして測定し終了時の可視光透過スペクトルを取得した結果を
図7に示した。このことより、+0.7Vの酸化状態では褐色、−0.4Vの還元状態では無色透明を示すことがわかる。
【実施例3】
【0069】
<コバルト−鉄シアノ錯体/亜鉛−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子の特性>
コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極と、酸化還元でいずれもほとんど色を持たない亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極TZn2を対向させ、エレクトロクロミック素子を作製することで、コバルト−鉄シアノ錯体薄膜電極とほぼ同じ色変化を示す。調整例8で作製したECD(Co,Zn)のサイクリックボルタモグラムをスキャンレート5ミリボルト/秒で測定した結果を
図8に示す。これより、作製したECDは良好な電気化学反応を示すことがわかる。次に、クロノクーロメトリー評価において、終了電位を+0.4V、−1.2Vにした際の透過率を
図9に示す。これより+0.4Vの時は褐色、−1.2Vの時は無色透明を示すことがわかる。
【実施例4】
【0070】
<コバルト−鉄シアノ錯体・プルシアンブルー混合薄膜電極の評価>
調整例6で作製した混合薄膜電極の評価として、透過率を測定した結果を
図10に示す。いずれの膜も、可視光領域でほぼ平坦な透過率を有しており、グレーから黒色の色を有していることがわかる。また、薄膜電極TCoFe1を用い、対極に白金線、参照極に飽和カロメル電極、電解質に濃度0.1mol/LのKTFSI―炭酸プロピレン溶液を用いクロノクーロメトリー評価を行った。
図11に、終了電極をそれぞれ−0.3V、+0.92Vの際の可視光透過スペクトルを示す。いずれの電位においても視感度の高い波長450ナノメートルから650ナノメートルの間ではほぼ波長依存性のない透過スペクトルを有しており、透明から灰色(黒)の色変化が生じていることがわかる。
【実施例5】
【0071】
<(コバルト−鉄シアノ錯体、プルシアンブルー)/亜鉛−鉄シアノ錯体エレクトロクロミック素子の評価>
混合薄膜電極においても、対極として色変化のほとんどない亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極TZn1を用い、エレクトロクロミック素子を作製すると、おおむね混合薄膜電極と同様の色変化特性をエレクトロクロミック素子として実現することができる。調整例10で作製したエレクトロクロミック素子ECD(CoFe,Zn)のサイクリックボルタモグラムを評価した結果を
図12に示す。これより、ECD(CoFe,Zn)は良好な電気化学反応を示すことがわかる。また、クロノクーロメトリー評価の終了電圧を−1.2V,0Vとして評価した際の可視光透過スペクトルを
図13に示す。これより、視感度の高い450ナノメートルから650ナノメートルの範囲内でいずれの電圧においても波長依存性の少ないスペクトルを得るとともに、絶対値を大きく変化させることができた。これは、黒または灰色から透明への色変化ができることを示している。また、対極に用いる亜鉛−鉄シアノ錯体薄膜電極はマイクロミキサー合成でもバッチ合成でも同様の効果が得られたが、マイクロミキサー合成の方が応答速度に関しては速かった。
【0072】
本発明を使用することにより、有機エレクトロクロミック材料を使用することなく、黒色−無色透明、褐色−無色透明のエレクトロクロミック素子を実現することができる。この素子は、調光ガラス、ディスプレイ、インジケータ、調光ミラーなどにおける使用が期待される。
【0073】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。