(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように脂肪族ポリカーボネート樹脂で形成された隔壁パターンを有する基板を用いて配線基板を製造する場合、配線材料であるインクとしては水系インクがしばしば使用される。これは、脂肪族ポリカーボネート樹脂が有機溶剤により溶解、膨潤するおそれがあるため、隔壁の崩壊等を回避する必要があるからである。
【0005】
しかしながら、従来の脂肪族ポリカーボネート樹脂(例えば、ポリプロピレンカーボネート樹脂)は撥水性が低いため、インク浸漬等によって基材にインクを乗せた際、隔壁材料である脂肪族ポリカーボネート樹脂上にもインクが乗りやすかった。そのため、配線基板の製作にあたってインクを溝にのみ留まらせることが困難であり、所望の配線パターンを精度よく形成させることが困難であった。このような観点から、従来よりもさらに撥水性に優れる脂肪族ポリカーボネート樹脂の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、撥水性に優れる脂肪族ポリカーボネート樹脂を提供することを目的とする。さらには、本発明は、隔壁材料、基板及びその製造方法、配線基板の製造方法、並びに、配線形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、脂肪族ポリカーボネート樹脂に含まれる繰り返し構成単位を特定の構造とすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
下記一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を示し、Xはフッ素原子を有する置換基を示し、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位を含み、かつ、
水に対する接触角が90°以上である、脂肪族ポリカーボネート樹脂。
項2.Xがトリフルオロメチル基を含む基である、上記項1記載の脂肪族ポリカーボネート樹脂。
項3.式(1)で表される構成単位の含有量が、全構成単位の総モル数に対して0.05〜5モル%である、上記項1又は2記載の脂肪族ポリカーボネート樹脂。
項4.下記一般式(2):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R
4、R
5、R
6及びR
7はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、R
4、R
5、R
6及びR
7は同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位をさらに含む、上記項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリカーボネート樹脂。
項5.隔壁形成用の脂肪族ポリカーボネート樹脂である、上記項1〜4のいずれか一項に記載の脂肪族ポリカーボネート樹脂。
項6.上記項5に記載の脂肪族ポリカーボネート樹脂を含む、隔壁材料。
項7.上記項5に記載の脂肪族ポリカーボネート樹脂で形成された隔壁を有する、基板。項8.上記項7に記載の基板の製造方法であって、
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料の塗膜を設けて隔壁を形成する工程を具備する、基板の製造方法。
項9.上記項7に記載の基板を用いて形成される配線基板の製造方法であって、
前記基板上に配線材料を設けて配線を形成する工程を具備する、配線基板の製造方法。
項10.前記基板に溝を形成する工程と、
前記溝に配線材料を設けて配線を形成する工程と、
を具備する、項9に記載の配線基板の製造方法。
項11.上記項6に記載の隔壁材料を使用して配線を形成させる、配線形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る脂肪族ポリカーボネート樹脂は、撥水性能が従来から知られている公知の脂肪族ポリカーボネート樹脂よりも優れている。そのため、例えば、本発明に係る脂肪族ポリカーボネート樹脂を隔壁材料として使用して隔壁を形成した場合において、水系インクを確度高く所望の部分のみに留まらせることができる。
【0014】
本発明に係る隔壁材料は、上記ポリカーボネート樹脂を含むので、水系インクを確度高く所望の部分のみに留まらせることができる隔壁を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0016】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、
下記一般式(1):
【0018】
(式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、Xはフッ素原子を有する置換基であり、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位を含み、かつ、水に対する接触角が90°以上である。
【0019】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂は、特定構造の構成単位を含むことにより、撥水性能が従来の脂肪族ポリカーボネート樹脂よりも優れる。そのため、上記脂肪族ポリカーボネート樹脂によれば、例えば、隔壁材料として使用して隔壁を形成した場合において、水系インクを確度高く所望の部分のみに留まらせることができる。
【0020】
式(1)中、R
1、R
2及びR
3としての炭素数1〜10のアルキル基の種類は、直鎖及び分岐鎖状のいずれであってもよく、また、アルキル基は一以上の置換基を有していてもよい。炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0021】
上記アルキル基は炭素数が1〜4であることがより好ましい。
【0022】
式(1)中、R
1、R
2及びR
3としての炭素数6〜20のアリール基は置換基を有していてもよい。アリール基の具体例としては、フェニル基、トルイル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。
【0023】
上記アリール基は炭素数が6〜14であることがより好ましい。
【0024】
フッ素原子を有する置換基であるXは、フッ素原子であってもよいし、フッ素原子を含む基であってもよい。フッ素原子を含む基であるXとしては、炭素数1〜10のフルオロアルキル基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、炭素数1〜10のフルオロアルコキシ基、炭素数1〜10のパーフルオロアルコキシ基、炭素数6〜20のフルオロアリール基又は炭素数6〜20のパーフルオロアリール基等が挙げられる。
【0025】
炭素数1〜10のフルオロアルキル基を構成するフッ素原子の数は一つのみであってもよいし、二つ以上であってもよい。炭素数1〜10のフルオロアルキル基としては、例えば、先に例示した炭素数1〜10のアルキル基において、水素原子の一部がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜10のフルオロアルコキシ基を構成するフッ素原子の数は一つのみであってもよいし二つ以上であってもよい。炭素数1〜10のフルオロアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等において、水素原子の一部がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
【0027】
炭素数6〜20のフルオロアリール基を構成するフッ素原子の数は一つのみであってもよいし二つ以上であってもよい。炭素数6〜20のフルオロアリール基としては、例えば、先に例示した炭素数6〜20のアリール基において、水素原子の一部がフッ素原子に置換された基が挙げられる。
【0028】
フッ素原子を有する置換基であるXには、エーテル基、エステル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、カルボニル基等が含まれていてもよい。
【0029】
フッ素原子を有する置換基であるXは、トリフルオロメチル基(CF
3−)を含む基であることが好ましい。トリフルオロメチル基が含まれていると、表面自由エネルギーの小さいトリフルオロメチル基が最表面に偏析しやすいと推測される。これにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂の撥水性をいっそう向上させることが出来る。
【0030】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、上記式(1)で表される構成単位のみで形成されていてもよいし、あるいは、上記式(1)で表される構成単位以外の他の構成単位を含んで形成されていてもよい。
【0031】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、上記式(1)で表される構成単位の含有量が、全構成単位の総モル数に対して5モル%以下であることが好ましく、また、0.05モル%以上であることが好ましい。この場合、脂肪族ポリカーボネート樹脂を製造するにあたっての重合反応性及び脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶剤への溶解性が良好となりやすく、しかも、所望の撥水性が得られやすくなる傾向がある。本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、上記式(1)で表される構成単位の含有量が、全構成単位の総モル数に対して2モル%以下であることがより好ましい。また、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、上記式(1)で表される構成単位の含有量が、全構成単位の総モル数に対して0.1モル%以上であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、下記一般式(2):
【0034】
(式中、R
4、R
5、R
6及びR
7はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を示し、R
4、R
5、R
6及びR
7は同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位をさらに含むことができる。
【0035】
式(2)中、R
4、R
5、R
6及びR
7としての炭素数1〜10のアルキル基及び炭素数6〜20のアリール基はそれぞれ、式(1)のR
1、R
2及びR
3としての炭素数1〜10のアルキル基及び炭素数6〜20のアリール基と同義である。R
4、R
5、R
6及びR
7としてのアルキル基の炭素数は1〜4であることがより好ましい。R
4、R
5、R
6及びR
7としてのアリール基の炭素数は6〜14であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、上記式(2)で表される構成単位の含有量が、全構成単位の総モル数に対して95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。この場合、脂肪族ポリカーボネート樹脂が優れた撥水性を有するようになる。
【0037】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は、隔壁材料として用いたときの矩形の保持力の観点から、好ましくは50000以上、より好ましくは100000以上である。また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶媒への溶解性の低下による取り扱い性の低下を避ける観点から、脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は、好ましくは1000000以下、より好ましくは500000以下である。
【0038】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂の水に対する接触角は90°以上である。この場合、脂肪族ポリカーボネート樹脂は所望の撥水性を示す。脂肪族ポリカーボネート樹脂の水に対する接触角は95°以上であることが好ましい。上記接触角は、通常、180°未満(例えば、150°未満)である。
【0039】
本明細書でいう接触角は、以下の手順で測定された値で定義される。まず、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂を、濃度が2.5質量%になるようにアセトンに溶解させ、得られた溶液にガラス基板を浸し、その後、溶液から引き上げたガラス基板(表面に溶液が付着したガラス基板)を25℃で24時間乾燥することで、接触角測定用のサンプルを調製する。得られた測定サンプル上に、液滴径が2mmになるように蒸留水をマイクロシリンジで1滴落とし、接触角を測定する。この測定は、温度25℃、湿度50%RHの環境下で行う。このような接触角の測定は、市販の接触角計を用いて測定することが可能である。
【0040】
尚、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂には、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、他の種類のポリカーボネート樹脂やその他の樹脂成分が含まれていてもよい。
【0041】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、例えば、脂肪族ポリカーボネート樹脂を溶解可能な溶媒に溶解させて、用いることができる。
【0042】
脂肪族ポリカーボネート樹脂を溶解可能な溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ターピネオール、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、テキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート等が挙げられる。なかでも、適度に沸点が高く、焼結時に均一に揮発しやすいという観点から、N−メチル−2−ピロリドン、ターピネオール、ターピネオールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール、及びプロピレンカーボネートが好ましい。なお、これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上記溶媒の使用量(配合量)は、得られる溶液(本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶液)のハンドリングのし易さの観点から、脂肪族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部、より好ましくは200〜1500質量部、さらに好ましくは300〜1000質量部である。
【0044】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法等が挙げられる。
【0045】
上記エポキシドの種類を選定することで、式(1)で表される構成単位を有し、さらに必要に応じて式(2)で表される構成単位を有する脂肪族ポリカーボネート樹脂が得られる。
【0046】
式(1)で表される構成単位を形成するために用いられるエポキシドとしては、例えば、下記の一般式(3)
【0048】
(式中、R
8はフッ素原子又はフッ素原子を含む1価の有機基であり、Qは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基である)
で表されるエポキシドが挙げられる。なお、当該エポキシドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
式(3)において、Q−R
8部位は、式(1)におけるXに相当する。
【0050】
R
8がフッ素原子を含む1価の有機基である場合、R
8としては、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,1−3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基等のフルオロアルキル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基等のパーフルオロアルキル基、4−フルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基等のフルオロアリール基、ペンタフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基等のパーフルオロアリール基等が例示される。
【0051】
式(3)中、Qがフッ素原子を含まない2価の連結基である場合、アルキレン基、エーテル性酸素原子、エステル基、カーボネート基、アミノ基、アミド基、カルボニル基を含むアルキレン基が好ましく、アルキレン基またはエーテル性酸素原子を含むアルキレン基がより好ましい。アルキレン基としては、メチレン基(−CH
2−)、エチレン基(−CH
2CH
2−)、プロピレン基(−CH
2CH
2CH
2−)等の炭素数1以上の直鎖アルキレン基が好ましく、炭素数1〜5の直鎖アルキレン基が特に好ましい。エーテル性酸素原子を含むアルキレン基としては、前記アルキレン基の炭素−炭素間に酸素原子が挿入された基、前記アルキレン基の末端部(R
8側の末端部)に酸素原子が挿入された基が好ましく、炭素数1〜4の直鎖アルキレン基の末端部(R
8側の末端部)に酸素原子が結合した基、または炭素数2〜4の直鎖アルキレン基の炭素−炭素間の1〜2箇所に酸素原子が挿入された基(たとえば、−CH
2O−、−CH
2OCH
2−、−CH
2OCH
2CH
2−)がより好ましい。
【0052】
なお、式(3)において、Qが単結合である場合は、R
8はエポキシ基の炭素原子に直接結合している。
【0053】
式(2)表される構成単位を形成するために用いられるエポキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシドが挙げられる。なかでも、高い反応性を有する観点から、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドが好ましい。なお、当該エポキシドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
金属触媒としては、例えば、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、クロム系触媒、コバルト系触媒等が挙げられる。これらの中では、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において、高い重合活性および広い基質汎用性を有することから、亜鉛系触媒が好ましい。
【0055】
亜鉛系触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;一級アミン、2価のフェノール(ベンゼンジオール)、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒等が挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒が好ましく、酸化亜鉛とグルタル酸と酢酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒がより好ましい。
【0056】
前記重合反応には、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。なお、これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
反応溶媒の使用量は、反応を円滑に進行させる観点から、エポキシド100質量部に対して、100〜10000質量部が好ましい。
【0058】
エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法としては、特に限定されない。例えば、オートクレーブに、エポキシド、金属触媒、及び必要により助触媒、反応溶媒等を仕込み、これらを混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0059】
前記重合反応において用いられる二酸化炭素の使用量は、エポキシド1モルに対して、好ましくは1〜10モル、より好ましくは1〜5モル、さらに好ましくは1〜3モルである。
【0060】
前記重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、反応を円滑に進行させる観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であり、使用圧力に見合う効果を得る観点から、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下である。
【0061】
前記重合反応における重合反応温度は、反応時間短縮の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、副反応を抑制し、収率を向上させる観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0062】
重合反応時間は、重合反応条件により異なるために一概には決定できないが、通常、1〜40時間程度である。
【0063】
上記脂肪族ポリカーボネート樹脂は、多種の用途に使用することができる。
【0064】
例えば、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、隔壁を形成するための脂肪族ポリカーボネート樹脂(隔壁形成用の脂肪族ポリカーボネート樹脂)として、即ち、隔壁材料の構成成分として使用され得る。
【0065】
隔壁材料は、上記脂肪族ポリカーボネート樹脂を含むが、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、隔壁材料に従来から用いられている溶剤、バインダー、光安定剤、感光剤、光増感剤等が挙げられる。溶剤の種類は例えば、隔壁材料として従来から使用されている溶剤と同様とすることができる。
【0066】
本実施形態の隔壁材料が上記脂肪族ポリカーボネート樹脂の他、溶剤を含む場合、溶剤100質量部あたり、脂肪族ポリカーボネート樹脂の含有量を5〜30質量部とすることができる。
【0067】
上記隔壁材料を使用して基材上に所望形状の隔壁パターンを形成することで、本発明に係る脂肪族ポリカーボネート樹脂で形成された隔壁を有する基板を得ることができる。このような隔壁は、例えば、本発明に係る脂肪族ポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料の塗膜で形成され得る。
【0068】
上記隔壁材料を用いると、上述の脂肪族ポリカーボネート樹脂を含んでいるので、水系インクを確度高く所望の部分のみに留まらせることができる隔壁を形成することができる。そのため、上記隔壁材料によれば、例えば、高精度に制御された配線パターンを有する配線基板を形成することができる。つまり、上記隔壁材料で形成された隔壁は撥水性が高いので、このような隔壁が形成された基材に水系インクを乗せた際に隔壁上に水系インクが乗りにくくなり、これにより、所望の配線パターンを精度よく形成させることが可能となる。
【0069】
以上より、上記隔壁材料は、高精度に制御された微細配線を形成するための材料として好適である。
【0070】
本発明に係る脂肪族ポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料で形成された隔壁を有する基板を製造する方法は、例えば、前記脂肪族ポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料の塗膜を設けて隔壁を形成する工程を具備する製造方法によって、上記基板を製造することができる。
【0071】
具体的には、まず、隔壁パターンを形成するための基材を準備し、この基材表面の所定の箇所に、液状の隔壁材料を塗布する等の処理を行う。次いで、必要に応じて加熱処理や紫外線等の照射処理をして本発明に係るポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料の塗膜を形成することで隔壁パターンが形成される。これにより、隔壁を有する基材が形成され得る。
【0072】
本発明に係るポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料の塗膜を形成する箇所は、例えば、その基材表面に配線パターンを形成することを予定している部分及びその周縁部とすることができる。
【0073】
基材の種類は、例えば、従来から電子基板等の配線基板を形成するために用いられている基材を使用することができる。
【0074】
上記基板を用いれば、各種電子部品等に組み込むことができる配線基板を製造することができる。
【0075】
配線基板を製造する方法は、例えば、上記基板上に配線材料を設けて配線を形成する工程を具備する製造方法によって、配線基板を製造することができる。より具体的には、前記基板に溝を形成させる工程と、前記溝に配線材料を設けて配線を形成させる工程とを具備する製造方法によって、配線基板を製造することができる。
【0076】
上記溝は、例えば、フォトリソグラフィー等の方法によって形成することができる。溝の形成方法は、その他、従来から行われている方法を採用することができる。上記溝は、目的とする配線パターンの形状と同様の形状となるように形成すればよい。
【0077】
上記のように形成された溝に配線材料を設ける方法としては、例えば、配線材料を溝に流し込む方法が挙げられる。配線材料を溝に流し込む方法は、例えば、溝が形成された基板を液状の配線材料に浸漬する方法、溝が形成された基板に液状の配線材料を塗布する方法、あるいは、溝が形成された基板に配線材料をインクジェット印刷する方法等が挙げられる。
【0078】
一方、基板に溝を形成させることなく、インクジェット印刷等により前記基板に配線材料を塗布して配線を形成させる工程を具備する方法によっても、配線基板を製造することができる。
【0079】
上記配線材料の種類は特に限定的ではなく、例えば、配線を形成するために従来から使用されている金属インク等の水系インクを使用できる。
【0080】
上記基板では、上述の脂肪族ポリカーボネート樹脂で形成された隔壁が形成されており、この隔壁は撥水性に優れるので、配線材料を確度高く所望の溝のみに留まらせることができる。
【0081】
上記のように基板上に配線材料を設けた後、その基板を配線材料が焼結する温度で加熱することで、配線材料が焼成されて配線が形成される。焼結温度は、使用している配線材料の種類に応じて適宜設定できる。上記焼結の処理によって、隔壁パターンを形成している脂肪族ポリカーボネート樹脂が焼失する。
【0082】
上記焼結処理を経ることで、配線基板が製造される。このように形成される配線基板は、配線パターンが高精度に制御されているので、電子部品等の性能を大きく向上させることが可能である。
【0083】
以上のように、上述の脂肪族ポリカーボネート樹脂を含む隔壁材料を使用した配線の形成方法によれば、簡易な方法で精度よく微細配線を形成させることができ、各種電子部品を構築するための方法として有用である。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0085】
本実施例及び比較例では、各物性は以下に示す方法で評価した。
【0086】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量(Mw)〕
脂肪族ポリカーボネート樹脂の濃度が0.5質量%であるN,N−ジメチルホルムアミド溶液を調製し、高速液体クロマトグラフを用いて測定した。測定後、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量を算出した。測定条件は、
カラム:GPCカラム(昭和電工株式会社の商品名、Shodex OHPac SB-800シリーズ)カラム温度:40℃
溶出液:0.03mol/L臭化リチウム−N,N−ジメチルホルムアミド溶液
流速:0.65mL/min
とした。
【0087】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂の接触角〕
脂肪族ポリカーボネート樹脂を樹脂濃度が2.5質量%になるようにアセトンに溶解させ、得られた溶液にガラス基板を浸した。その後、このガラス基板を溶液中から取り出して25℃で24時間、乾燥することで、脂肪族ポリカーボネート樹脂をコーティングしたガラス基板を作製した。このガラス基板上に、液滴径が2mmになるように、蒸留水をマイクロシリンジで1滴落とし、協和界面科学社製接触角計「CA−S 150型」を用いて、接触角を目視で測定した。この測定は、温度25℃、湿度50%RHの環境下で行った。
【0088】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂の熱分解開始温度〕
日立ハイテクサイエンス社製「TG/DTA7220」を用い、窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度で室温から500℃まで昇温して、熱分解開始温度を測定した。熱分解開始温度は、試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線と、分解曲線における屈曲点間の勾配が最大となるように引いた接線との交点とした。
【0089】
(製造例1;有機亜鉛触媒の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、ディーンスターク管および還流冷却管を備えた0.3L容の四つ口フラスコに、酸化亜鉛7.73g(95mmol)、グルタル酸12.3g(100mmol)、酢酸0.114g(2mmol)およびトルエン76.0gを仕込んだ。次に、反応系内に50mL/minの流量で窒素を流しながら、55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌して反応させた。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で2時間攪拌して共沸脱水させ水分を除去した後、室温まで冷却して、有機亜鉛触媒を含むスラリー液を得た。
【0090】
(実施例1)
攪拌機、ガス導入管および温度計を備えた1L容量のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、製造例1により得られた有機亜鉛触媒を含むスラリー液39.1g(有機亜鉛触媒を45mmol含む)、炭酸ジメチル192.4g、プロピレンオキシド26.1g(450mmol)および(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ヘプタデカフルオロノニル)オキシラン12.8g(26.9mmol)を仕込んだ。次に、攪拌下、60℃に昇温し、その後、二酸化炭素を加え、反応系内が1.0MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。反応により消費される二酸化炭素を補給しながら10時間重合反応を行った。反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、ろ過した後、減圧乾燥して脂肪族ポリカーボネート樹脂38.6gを得た。得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は354000(Mw/Mn=7.44)、脂肪族ポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構成単位の含有量は1.0モル%であった。
【0091】
(実施例2)
(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ヘプタデカフルオロノニル)オキシラン12.8gを3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルオキシ)−1,2−エポキシプロパン2.9g(6.9mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、脂肪族ポリカーボネート樹脂を41.0g得た。得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は473000(Mw/Mn=8.13)、脂肪族ポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構成単位の含有量は0.2モル%であった。
【0092】
(実施例3)
3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルオキシ)−1,2−エポキシプロパンの使用量を4.5g(10.8mmol)に変更したこと以外は、実施例2と同様に重合を行い、脂肪族ポリカーボネート樹脂を34.6g得た。得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は330000(Mw/Mn=10.73)、脂肪族ポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構成単位の含有量は1.2モル%であった。
【0093】
(比較例1)
(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ヘプタデカフルオロノニル)オキシラン12.8gを用いなかったこと以外は、実施例1と同様に重合を行い、脂肪族ポリカーボネート樹脂40.0gを得た。得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は、301000(Mw/Mn=8.31)であった。
【0094】
各実施例及び比較例で得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の水に対する接触角および熱分解開始温度を表1に示す。なお、表1において「含有量(mol%)」は、脂肪族ポリカーボネート樹脂中の全構成単位の総モル数に対する式(1)で表される構成単位の含有量を示す。また、表1中、「フッ素含有エポキシド」とは、式(1)で表される構成単位を形成するために用いたエポキシドを示す。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例1〜3と比較例1との対比から、脂肪族ポリカーボネート樹脂の側鎖にフッ素原子を有する構造(式(1)におけるX)を導入することにより、水に対する接触角が大幅に向上しており、撥水性が向上していることがわかる。
【0097】
また、これらの構造を導入しても、熱分解温度の上昇はほとんど見られないことから、通常の脂肪族ポリカーボネート樹脂と同様の熱処理によって、焼失させることができることがわかる。
【0098】
以上より、実施例1〜3の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、撥水性に優れることが実証された。このような脂肪族ポリカーボネート樹脂は、例えば、隔壁を形成するための材料として適していることが示された。