特許第6968893号(P6968893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968893
(24)【登録日】2021年10月29日
(45)【発行日】2021年11月17日
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/52 20100101AFI20211108BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20211108BHJP
   H01L 23/08 20060101ALI20211108BHJP
【FI】
   H01L33/52
   H01L23/02 F
   H01L23/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-538826(P2019-538826)
(86)(22)【出願日】2017年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2017031199
(87)【国際公開番号】WO2019043840
(87)【国際公開日】20190307
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】306041949
【氏名又は名称】創光科学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【弁理士】
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】平野 光
(72)【発明者】
【氏名】長澤 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】一本松 正道
(72)【発明者】
【氏名】青崎 耕
(72)【発明者】
【氏名】末原 百紀
(72)【発明者】
【氏名】坂根 好彦
【審査官】 本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/022755(WO,A1)
【文献】 特開2009−113353(JP,A)
【文献】 特開平01−139370(JP,A)
【文献】 特開2016−032049(JP,A)
【文献】 特開2009−049177(JP,A)
【文献】 特開平11−227710(JP,A)
【文献】 特開2017−045902(JP,A)
【文献】 特開2017−120837(JP,A)
【文献】 特開2016−006832(JP,A)
【文献】 特表2010−505253(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0138443(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0091146(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
H01L 23/02
H01L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、前記基台上にフリップチップ実装された窒化物半導体発光素子と、前記窒化物半導体発光素子を封止する非晶質フッ素樹脂と、を備えてなる発光装置であって、
出荷形態として、前記発光装置の出荷後の熱処理による前記非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止する形状変化防止層と、
リウムガスまたはアルゴンガスが充填され内部が減圧された気密パッケージと、を備え、
前記形状変化防止層は、熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂が硬化した層で構成され、前記硬化した層が、前記非晶質フッ素樹脂の表面を直接被覆しており、
前記発光装置が前記気密パッケージ内に封入されていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記形状変化防止層が、前記非晶質フッ素樹脂の露出面の内、少なくとも、前記窒化物半導体発光素子から出射される光を集束または拡散させる光学レンズ形状の表面を被覆していることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記形状変化防止層が、シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記形状変化防止層が、ヘリウム、アルゴン、酸素、窒素、及び、水蒸気に対してガス透過性を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の末端官能基がパーフルオロアルキル基であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記窒化物半導体発光素子が、発光中心波長が200nm以上約365nm以下の範囲内にある紫外線発光素子であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の重量平均分子量が700000以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基台上にフリップチップ実装された窒化物半導体発光素子を備える発光装置に関し、特に、発光中心波長が365nm以下の光(紫外線)を出射する窒化物半導体発光素子備える発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発光ダイオードや半導体レーザ等の窒化物半導体発光素子として、サファイア等の基板の主面上にエピタキシャル成長させた複数の窒化物半導体層からなる発光素子構造を形成したものが知られている。窒化物半導体層は、一般式Al1−x−yGaInN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される。
【0003】
窒化物半導体発光素子を実装した発光装置として、窒化物半導体発光素子をフリップチップ実装して、窒化物半導体層で発生する光を基板の裏面(主面の反対側の面)側から取り出す発光装置が知られている。また、このような発光装置の中には、フリップチップ実装された窒化物半導体発光素子における基板の裏面側にレンズを設けたものがある(例えば、下記特許文献1の図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/178288号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、窒化物半導体発光素子を非晶質フッ素樹脂で封止するとともに、当該非晶質フッ素樹脂の表面を球面に成形することでレンズを構成してもよい旨が記載されている。しかしながら、レンズに限らず非晶質フッ素樹脂からなる部材を備えた発光装置に対して、高温の熱処理を伴う工程を適用すると、熱により非晶質フッ素樹脂が軟化して形状が変化してしまう。そのため、非晶質フッ素樹脂を備えた発光装置を購入したユーザ(以下、単に「ユーザ」と称する)は、当該発光装置に対して高温の熱処理を伴う工程を適用することができず、何らかの代替方法を選択せざるを得ないという制約を受けることが問題となる。
【0006】
この問題の具体例として、上記の発光装置を所望の被実装装置(例えば、紫外線殺菌装置)に実装するためのはんだリフロー工程が挙げられる。例えば、ユーザが、一般的なはんだ(例えば、融点が約220℃であるSnAgCu系はんだ)を使用して、はんだリフロー工程により所望の被実装装置に実装しようとする場合、はんだの十分な濡れ性を確保して確実に接合するためには、発光装置及び被実装装置を260℃程度まで加熱する必要がある。しかし、260℃は、非晶質フッ素樹脂が軟化して形状が変化し得る温度であるから、非晶質フッ素樹脂を備えた発光装置に対しては、このようなはんだリフロー工程を適用することができない。そうなると、ユーザは、非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じない温度であっても確実に接合することができる特殊な実装方法や特殊なはんだを選択せざるを得ないなどの制約を受けることになる。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、出荷後に非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度の熱処理が可能な発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、基台と、前記基台上にフリップチップ実装された窒化物半導体発光素子と、前記窒化物半導体発光素子を封止する非晶質フッ素樹脂と、を備えてなる発光装置であって、前記発光装置の出荷後の熱処理による前記非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止する形状変化防止層を備え、前記形状変化防止層は、熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂が硬化した層で構成され、前記硬化した層が、前記非晶質フッ素樹脂の表面を直接被覆していることを特徴とする発光装置を提供する。
【0009】
この発光装置によれば、熱によって軟化し難い樹脂である、熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂が硬化した層で構成された形状変化防止層で、非晶質フッ素樹脂の表面を直接被覆することで、出荷後の熱処理による非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止することができる。
【0010】
なお、本発明において、AlGaN系半導体は、一般式AlxGa1−xN(xはAlNモル分率、0≦x≦1)で表わされる3元(または2元)化合物を基本とし、そのバンドギャップエネルギがGaN(x=0)のバンドギャップエネルギ(約3.4eV)以上の3族窒化物半導体であり、当該バンドギャップエネルギに関する条件を満たす限りにおいて、微量のIn、P、As等が含有されている場合も含まれる。
【0011】
また、上記特徴の発光装置において、前記形状変化防止層が、前記非晶質フッ素樹脂の露出面の内、少なくとも、前記窒化物半導体発光素子から出射される光を集束または拡散させる光学レンズ形状の表面を被覆していてもよい。
【0012】
この発光装置によれば、形状によって光学的特性が左右される光学レンズ形状である非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止して、発光装置の発光性能が大きく損なわれることを防止することができる。
【0013】
また、上記特徴の発光装置において、前記形状変化防止層が、シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂で構成されていてもよい。
【0014】
また、上記特徴の発光装置において、前記形状変化防止層が、ヘリウム、アルゴン、酸素、窒素、及び、水蒸気に対してガス透過性を有していてもよい。
【0015】
この発光装置によれば、形状変化防止層と非晶質フッ素樹脂との間に、大気中や発光装置の気密パッケージ内に含まれている気体が閉じ込められることによる、形状変化防止層の脱落や非晶質フッ素樹脂の変形を防止することができる。
【0016】
また、上記特徴の発光装置において、前記非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の構造単位が、含フッ素脂肪族環構造を有していてもよい。また、前記非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の末端官能基がパーフルオロアルキル基であってもよい。また、上記特徴の発光装置において、前記窒化物半導体発光素子が、発光中心波長が200nm以上約365nm以下の範囲内にある紫外線発光素子であってもよい。
【0017】
また、上記特徴の発光装置において、前記非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の重量平均分子量が700000以下であってもよい。
【0018】
この発光装置によれば、出荷後の熱処理温度の最大値を260℃と想定した場合において、出荷後の熱処理によって生じる可能性がある非晶質フッ素樹脂の形状変化を、形状変化防止層によって防止することができる。
【0019】
また、上記特徴の発光装置において、出荷形態として、内部が減圧された気密パッケージ内、ヘリウムガスまたはアルゴンガスが充填された気密パッケージ内、または、ヘリウムガスまたはアルゴンガスが充填され内部が減圧された気密パッケージ内に封入されていてもよい。
【0020】
この発光装置によれば、出荷後のユーザによる熱処理の際に、非晶質フッ素樹脂が吸着している酸素、窒素、水蒸気が膨張して、非晶質フッ素樹脂が発泡することを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
上記特徴の発光装置によれば、形状変化防止層を備えているため、出荷後の熱処理による非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止することができる。したがって、上記特徴の発光装置は、出荷後に非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度の熱処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る発光装置が備える窒化物半導体発光素子の素子構造の一例を模式的に示す断面図。
図2図1に示す窒化物半導体発光素子の平面視形状を模式的に示す平面図。
図3】本発明の実施形態に係る発光装置の一例を模式的に示す断面図。
図4図3に示す発光装置で使用されるサブマウントの平面視形状と断面形状を模式的に示す平面図と断面図。
図5】本発明の実施形態に係る発光装置が実装された被実装装置の一例を模式的に示す断面図。
図6】はんだリフロー工程における温度プロファイルの一例を示す図。
図7】本発明の実施形態に係る発光装置の出荷形態の一例を模式的に示す断面図。
図8】本発明の実施形態に係る発光装置の出荷形態の別例を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る発光装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、説明の理解を容易にするために、一部において要部を強調して模式的に示しているため、各部の寸法比が必ずしも実際の素子及び使用する部品と同じ寸法比であるとは限らない。また、以下では、本発明の実施形態に係る発光装置が備える窒化物半導体発光素子が、発光ダイオードである場合を例に挙げて説明する。
【0024】
<窒化物半導体発光素子>
まず、本発明の実施形態に係る発光装置が備える窒化物半導体発光素子の一例について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る発光装置が備える窒化物半導体発光素子の素子構造の一例を模式的に示す断面図であり、図2は、図1に示す窒化物半導体発光素子の平面視形状を模式的に示す平面図である。
【0025】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る発光装置が備える窒化物半導体発光素子10は、サファイア基板11の主面上に、複数のAlGaN系半導体層からなる半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14を備える。なお、窒化物半導体発光素子10は、後述の図3に示すようにフリップチップ実装され、半導体積層部12からの発光は、サファイア基板11の裏面側から外部に取り出されることが予め想定されている。
【0026】
半導体積層部12は、一例として、サファイア基板11側から順番に、AlN層20、AlGaN層21、n型AlGaNからなるn型クラッド層22、活性層23、p型AlGaNの電子ブロック層24、p型AlGaNのp型クラッド層25、p型GaNのp型コンタクト層26を積層して構成される。n型クラッド層22からp型コンタクト層26により発光ダイオード構造が形成される。サファイア基板11とAlN層20とAlGaN層21は、その上に発光ダイオード構造を形成するためにテンプレートとして機能する。n型クラッド層22より上部の活性層23、電子ブロック層24、p型クラッド層25、及び、p型コンタクト層26の一部が、n型クラッド層22の一部表面が露出するまで反応性イオンエッチング等により除去されている。当該除去後のn型クラッド層22の露出面より上部の活性層23からp型コンタクト層26まで半導体層を、便宜的に、「メサ部分」と称する。活性層23は、一例として、n型AlGaNのバリア層とAlGaNまたはGaNの井戸層からなる単層の量子井戸構造となっている。活性層23は、下側層と上側層にAlNモル分率の大きいn型及びp型AlGaN層で挟持されるダブルヘテロジャンクション構造であればよく、また、上記単層の量子井戸構造を多層化した多重量子井戸構造であってもよい。
【0027】
各AlGaN層は、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法、あるいは、分子線エピタキシ(MBE)法等の周知のエピタキシャル成長法により形成されており、n型層のドナー不純物として例えばSiを使用し、p型層のアクセプタ不純物として例えばMgを使用する。
【0028】
n型クラッド層22の露出した表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn電極13が形成されている。また、p型コンタクト層26の表面に、例えば、Ni/Auのp電極14が形成されている。なお、n電極13及びp電極14を構成する金属層の層数、材質は、上記例示した層数、材質に限定されるものではない。
【0029】
また、図2に示すように、窒化物半導体発光素子10の平面視のチップ形状は正方形で、チップの外周部分において、中央に位置する平面視櫛形形状の上記メサ部分を取り囲むように、n型クラッド層22の表面が露出している。さらに、n電極13が上記メサ部分を取り囲むように環状にn型クラッド層22の露出表面上に形成され、p電極14が上記メサ部分の頂部に形成されている構成例を想定する。図2において、ハッチングを施した部分が、それぞれ、n電極13及びp電極14である。また、メサ部分とn型クラッド層22の露出表面の境界線BLを参照用に示している。
【0030】
本例の窒化物半導体発光素子10では、図2に示すように、チップの4隅においてn電極13の露出面積が広くなっており、フリップチップ実装において、当該4隅において、n電極13がサブマウント上の対応する電極パッドとの間でボンディング材料を介して物理的かつ電気的に接続する構成例を想定する。なお、窒化物半導体発光素子10の平面視のチップ形状、メサ部分の平面視形状、n電極13及びp電極14の個数及び形成位置は、図2に例示した形状、個数、形成位置に限定されるものではない。また、本例の窒化物半導体発光素子では、チップサイズとして、1辺が0.8mm〜1.5mm程度を想定するが、チップサイズは当該範囲内に限定されるものではない。
【0031】
窒化物半導体発光素子10は、サファイア基板11の表面側に形成される半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14は、上記に例示した構成及び構造に限定されるものではなく、種々の公知の構成及び構造を採用し得る。また、窒化物半導体発光素子10は、半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14以外の構成要素、例えば、保護膜等を備えていてもよい。よって、各AlGaN層20〜26、各電極13,14の膜厚等の詳細な説明は割愛する。
【0032】
後述するように、本発明の実施形態に係る発光装置は、サブマウント等の基台に窒化物半導体発光素子10がフリップチップ実装されるとともに非晶質フッ素樹脂で封止されている構成において、発光装置の出荷後における非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止する構成に特徴がある。よって、サファイア基板11の表面上に形成される半導体積層部12、n電極13、及び、p電極14については、本発明の本旨ではなく、また、具体的な素子構造として種々の変形例が考えられ、周知の製造方法により製造可能であるので、窒化物半導体発光素子10の製造方法についての詳細な説明は割愛する。
【0033】
<発光装置>
次に、本発明の実施形態に係る発光装置について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、本発明の実施形態に係る発光装置の一例を模式的に示す断面図である。図4は、図3に示す発光装置で使用されるサブマウントの平面視形状と断面形状を模式的に示す平面図と断面図である。
【0034】
図3に示すように、窒化物半導体発光素子10は、サファイア基板11の主面側がサブマウント30に載置されるように実装される(フリップチップ実装される)。なお、図3を参照した以下の説明では、サブマウント30の載置面を基準として窒化物半導体発光素子10側の方向を上方向とする。
【0035】
図4において、(A)はサブマウント30の平面視形状を示す平面図であり、(B)は当該平面図(A)におけるサブマウント30の中心を通過するサブマウント30の表面に垂直な断面での断面形状を示す断面図である。サブマウント30の一辺の長さは、窒化物半導体発光素子10を搭載して、その周囲に封止樹脂を形成できる余裕があれば、特定の値に限定されるものではない。一例として、平面視正方形のサブマウント30の一辺の長さは、例えば、搭載する同じく平面視正方形の窒化物半導体発光素子10のチップサイズ(一辺の長さ)の1.5〜2倍程度以上が好ましい。なお、サブマウント30の平面視形状は正方形に限定されるものではない。
【0036】
サブマウント30は、絶縁性セラミックス等の絶縁材料からなる平板状の基材31を備え、基材31の表面側に、アノード側の第1金属電極配線32とカソード側の第2金属電極配線33がそれぞれ形成されてなり、基材31の裏面側にリード端子34,35が形成されている。基材31の表面側の第1及び第2金属電極配線32,33は、上記基材31に設けられた貫通電極(図示せず)を介して、基材31の裏面側のリード端子34,35と、各別に接続している。サブマウント30を別の配線基板等の上に載置する場合に、当該配線基板上の金属配線とリード端子34,35との間で電気的な接続が形成される。また、リード端子34,35は、基材31の裏面の略全面を覆い、ヒートシンの機能を果たしている。
【0037】
第1及び第2金属電極配線32,33は、図4に示すように、基材31の中央部分の窒化物半導体発光素子10が搭載される箇所及びその周囲に形成され、互いに離間して配置され、電気的に分離している。第1金属電極配線32は、第1電極パッド320とそれに接続する第1配線部321で構成される。また、第2金属電極配線33は、4つの第2電極パッド330とそれらに接続する第2配線部331で構成される。第1電極パッド320は、窒化物半導体発光素子10のp電極14の櫛形の平面視形状の外枠(櫛形の凹部にもメサ部分があると仮定した場合の形状の外周)より僅かに大きい平面視形状を有し、基材31の中央部分の中心に位置している。第2電極パッド330の平面視形状、個数、及び配置は、窒化物半導体発光素子10のp電極14が第1電極パッド320と対面するように窒化物半導体発光素子10を配置した場合に、n電極13のチップの4隅の露出面積が広くなっている部分が第2電極パッド330とそれぞれ対面するように設定されている。図4(A)において、第1電極パッド320と第2電極パッド330にそれぞれハッチングを付している。なお、第1及び第2金属電極配線32,33の平面視形状は、図4(A)に示す形状に限定されるものではなく、p電極14が第1電極パッド320と対面し、n電極13の4隅が第2電極パッド330と対面できる平面視形状であれば、種々の変形が可能である。
【0038】
サブマウント30の基材31は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)等の紫外線被曝によって劣化しない絶縁材料で形成される。なお、基材31は、放熱性の点でAlNが好ましいが、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)、または、窒化ホウ素(BN)であっても良く、また、アルミナ(Al)等のセラミックスであってもよい。また、基材31は、上記絶縁材料の無垢材に限らず、シリカガラスをバインダーとして上記絶縁材料の粒子を密に結合させた焼結体でも良く、さらに、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜、工業用ダイヤモンド薄膜等でもよい。
【0039】
なお、サブマウント30が、基材31の裏面側にリード端子34,35を設けない構成の場合、基材31は、絶縁材料だけで構成するのではなく、金属膜(例えば、Cu、Al等)と上述の絶縁材料からなる絶縁層の積層構造としてもよい。
【0040】
第1及び第2金属電極配線32,33は、一例として、銅の厚膜メッキ膜と、当該厚膜メッキ膜の表面(上面及び側壁面)を被覆する1層または多層の表面金属膜で構成される。当該表面金属膜の最外層は、厚膜メッキ膜を構成する銅よりイオン化傾向の小さい金属(例えば、金(Au)または白金族金属(Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt、または、これらの内の2以上の合金)または金と白金族金属の合金)で構成される。
【0041】
図3に示すように、窒化物半導体発光素子10は、n電極13とp電極14を下向きにして、p電極14と第1電極パッド320、n電極13の4隅と4つの第2電極パッド330が、それぞれ対向してAuSnはんだや金バンプ等のボンディング材料B1を介して電気的及び物理的に接続して、基材31の中央部分上に載置され固定されている。なお、ボンディング材料B1をAuSnはんだ等のはんだ材料で構成する場合において、p電極14とn電極13の各頂面(図3中の下面)が同一平面となるように高さを揃えて形成し、はんだリフロー等の周知のはんだ付け方法で、p電極14と第1金属電極配線32、n電極13と第2金属電極配線33を、物理的かつ電気的に接続してもよい。さらに、この場合、p電極14とn電極13の各頂面が同一平面となるように高さを揃える方法として、例えば、p電極14と電気的に接続し、絶縁保護膜を介して、上記メサ部分の頂面(図3中の下面)及び側面を覆うようにp側のメッキ電極を形成し、当該p側のメッキ電極から離間して、n電極13と電気的に接続するn側のメッキ電極を、p側のメッキ電極と同じ高さに、電解メッキ法等により形成する方法が考えられる。当該メッキ電極の詳細については、国際公開第2016/157518号の明細書等の記載が参考になる。
【0042】
また、図3に示すように、サブマウント30上に実装された窒化物半導体発光素子10は、封止樹脂40によって封止されている。具体的には、窒化物半導体発光素子10の上面と側面、及び、サブマウント30の上面(第1及び第2金属電極配線32,33の上面及び側面、第1及び第2金属電極配線32,33間に露出した基材31の表面)が、封止樹脂40によって被覆され、サブマウント30と窒化物半導体発光素子10の間の間隙部に封止樹脂40が充填されている。さらに、封止樹脂40の上面は、封止樹脂40と同じフッ素樹脂製のレンズ41で覆われている。なお、レンズ41は、窒化物半導体発光素子10から出射される光を少なくとも集束または拡散させる光学レンズ形状であり、その形状は発光装置1の目的に応じて適宜設計される。
【0043】
封止樹脂40及びレンズ41は、耐熱性、紫外線耐性、及び、紫外線透過性に優れた非晶質フッ素樹脂で構成される。非晶質フッ素樹脂としては、結晶性ポリマーのフッ素樹脂を共重合化してポリマーアロイとして非晶質化させたものや、パーフルオロジオキソールの共重合体(デュポン社製の商品名テフロンAF(登録商標))やパーフルオロブテニルビニルエーテルの環化重合体(旭硝子社製の商品名サイトップ(登録商標))が挙げられる。
【0044】
非晶質フッ素樹脂は、金属に対して結合性を呈する反応性の末端官能基を有している結合性の非晶質フッ素樹脂と、当該反応性の末端官能基を有していない非結合性の非晶質フッ素樹脂とに大別される。当該反応性の末端官能基は、一例として、カルボキシル基(COOH)またはエステル基(COOR)である。ただし、Rはアルキル基を表す。
【0045】
電極の周囲に形成される封止樹脂40は、電極を構成する金属のマイグレーションの要因となり得る反応性の末端官能基を有していない非結合性の非晶質フッ素樹脂で構成すると、当該マイグレーションによる短絡を防止することができるため、好ましい。例えば、重合体または共重合体を構成する構造単位が含フッ素脂肪族環構造を有し、末端官能基が金属等に対して難結合性を呈するCF等のパーフルオロアルキル基である非結合性の非晶質フッ素樹脂を使用して、封止樹脂40を構成すると、好ましい。また、レンズ41は、結合性及び非結合性のいずれの非晶質フッ素樹脂で構成してもよいが、本発明の実施形態に係る発光装置1では、レンズ41が封止樹脂40と同様に非結合性の非晶質フッ素樹脂で構成されているものとする。
【0046】
含フッ素脂肪族環構造を有する構造単位としては、環状含フッ素単量体に基づく単位(以下、「単位A」)、または、ジエン系含フッ素単量体の環化重合により形成される単位(以下、「単位B」)が好ましい。なお、非晶質フッ素樹脂の組成及び構造は、本願発明の本旨ではないため、当該単位A及び単位Bに関する詳細な説明は割愛するが、当該単位A及び単位Bに関しては、本願と同じ出願人による国際公開第2014/178288号の段落[0031]〜[0058]に詳細に説明されているので、参照されたい。
【0047】
なお、上記単量体の環化重合方法、単独重合方法及び共重合方法としては、例えば特開平4−189880号公報等に開示された公知の方法を適用できる。そして、上記単量体の重合(環化重合、単独重合、共重合)時における上記単量体の濃度の調整、開始剤の濃度の調整、添加移動剤の添加等の方法により、所望の重量平均分子量である非晶質フッ素樹脂が得られる。また、以下では、非晶質フッ素樹脂を構成する重合体または共重合体の重量平均分子量を、単に非晶質フッ素樹脂の重量平均分子量として説明している。
【0048】
また、重合処理後の非晶質フッ素樹脂の末端官能基には、上述の反応性の末端官能基やその他不安定な官能基が形成されている可能性がある。そのため、末端官能基がCFである非結合性の非晶質フッ素樹脂を得る場合は、例えば、特開平11−152310号公報等に開示された公知の方法を用いて、フッ素ガスを当該重合処理後の非晶質フッ素樹脂と接触させることで、これらの反応性の末端官能基や不安定な末端官能基を非反応性の末端官能基であるCFに置換する。
【0049】
非結合性の非晶質フッ素樹脂の市販品の一例として、サイトップ(旭硝子社製)等が挙げられる。なお、末端官能基がCFであるサイトップは、下記の化1に示す上記単位Bの重合体である。
【0050】
【化1】
【0051】
<発光装置の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る発光装置の製造方法について説明する。
【0052】
まず、ダイシングされた窒化物半導体発光素子10のベアチップを、サブマウント30の第1及び第2金属電極配線32,33上に、周知のフリップチップ実装により固定する。具体的には、p電極14と第1金属電極配線32が、AuSnはんだや金バンプ等のボンディング材料B1を介して、物理的かつ電気的に接続し、n電極13と第2金属電極配線33が、ボンディング材料B1を介して、物理的かつ電気的に接続する(工程1)。
【0053】
引き続き、非結合性の非晶質フッ素樹脂を、含フッ素溶媒、好ましくは、非プロトン性含フッ素溶媒に溶解した塗工液を準備する(工程2)。
【0054】
引き続き、工程2で準備した塗工液をサブマウント30及び窒化物半導体発光素子10上に、剥離性の良いテフロンニードル等を用いて注入した後、塗工液を徐々に加熱しながら溶媒を蒸発させて、窒化物半導体発光素子10の上面と側面、サブマウント30の上面(第1及び第2金属電極配線32,33の上面及び側面、第1及び第2金属電極配線32,33間に露出した基材31の表面)、及び、サブマウント30と窒化物半導体発光素子10の間の間隙部に、非結合性の非晶質フッ素樹脂である封止樹脂40が形成される(工程3)。なお、工程3における溶媒の蒸発に当たっては、封止樹脂40内に気泡が残らないように、溶媒の沸点以下の低温域(例えば、室温付近)から溶媒の沸点以上の高温域(例えば、200℃付近)まで徐々に加熱して、溶媒を蒸発させる。
【0055】
引き続き、非結合性の非晶質フッ素樹脂の分解が開始する温度(約350℃)以下の温度範囲、例えば、150℃〜300℃、より好ましくは、200℃〜300℃の温度範囲で、封止樹脂40を加熱して軟化させ、窒化物半導体発光素子10の上面の封止樹脂40を窒化物半導体発光素子10側に向けて押圧する(工程4)。
【0056】
引き続き、封止樹脂40の上部に、封止樹脂40と同じ非結合性の非晶質フッ素樹脂製のレンズ41を、例えば射出成形、トランスファー成形、圧縮成形等の周知の成形方法により、窒化物半導体発光素子10を覆うように形成する(工程5)。当該各成形用の成形型は、金属型、シリコーン樹脂型、または、これらの組み合わせを使用できる。
【0057】
なお、工程4の加熱及び押圧処理は、工程5のレンズ41の形成時に同時に行ってもよい。あるいは、工程4で加熱処理だけを行い、押圧処理を工程5のレンズ41の形成時に行ってもよい。また、ボンディング材料B1をAuSnはんだ等のはんだ材料で構成する場合、工程3〜5における温度がボンディング材料B1の融点(AuSnはんだの場合はおよそ280℃)を超えないように設定すると、ボンディング材料B1が融解して窒化物半導体発光素子10とサブマウント30との接続が損なわれることを防止することができるため、好ましい。
【0058】
<ユーザによる発光装置の利用態様>
次に、ユーザによる本発明の実施形態に係る発光装置1の利用態様について図面を参照して説明する。図5は、本発明の実施形態に係る発光装置が実装された被実装装置の一例を模式的に示す断面図である。
【0059】
図5に示すように、ユーザは、所望の被実装装置(例えば、紫外線殺菌装置)50に対して発光装置1を実装する。例えば、SnAgCu系はんだ等のボンディング材料B2を介して、被実装装置50におけるランド51と発光装置1におけるリード端子34とが物理的かつ電気的に接続されるとともに、被実装装置50におけるランド52と発光装置1におけるリード端子35が物理的かつ電気的に接続されることで、発光装置1が被実装装置50に実装される。
【0060】
被実装装置50に対する発光装置1の実装は、例えば、はんだリフロー工程によって行われる。はんだリフロー工程は、例えば、SnAgCu系はんだ等のボンディング材料B2が表面に形成されたランド51上にリード端子34が位置するとともに、ボンディング材料B2が表面に形成されたランド52上にリード端子35が位置するように、被実装装置50に対して発光装置1を載置した状態で、発光装置1及び被実装装置50を加熱する工程である。より具体的には、所定の温度プロファイルを有するリフロー炉内において、ベルトコンベア等の移動装置を用いて、発光装置1を載置した被実装装置50を進行させることによって、発光装置1及び被実装装置50を加熱する。
【0061】
ここで、はんだリフロー工程における温度プロファイルについて、一例を挙げて説明する。図6は、はんだリフロー工程における温度プロファイルの一例を示す図である。なお、図6に示す温度は、ボンディング材料B2付近(例えば、被実装装置50における実装面付近)の温度である。また、図6に示すような温度プロファイルは、例えば、発光装置1が熱によって損傷することを防止する目的で、発光装置1のメーカによって設定される。
【0062】
図6に例示する温度プロファイルは、P1〜P5の期間に分かれている。期間P1〜P3は昇温期間、期間P4は最高温度である温度T2を維持する期間、期間P5は降温期間である。ただし、期間P2における昇温勾配は、期間P1及びP3のそれぞれにおける昇温勾配よりも緩やかであり、期間P2の終了時点における温度T1は、ボンディング材料B2の融点以下である。また、温度T2は、ボンディング材料B2の融点以上である。
【0063】
例えば、ボンディング材料B2が、一般的なはんだであって融点が220℃であるSnAgCu系はんだである場合、温度T1は200℃程度、温度T2は260℃程度に設定される。
【0064】
ただし、260℃という温度は、非晶質フッ素樹脂が軟化して形状変化が生じ得る温度である。また、はんだリフロー工程に限らず、ユーザが、非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度での熱処理を希望することもあり得る。そして、発光装置1に対してこのような温度での熱処理が行われた場合、封止樹脂40及びレンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂の形状が変化することで、発光装置1の性能が損なわれ得る。特に、形状によって光学的特性が左右されるレンズ41の形状が変化すれば、発光装置1の発光性能が大きく損なわれ得る。
【0065】
そこで、本発明の実施形態に係る発光装置1は、以下説明するように、非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度での熱処理が可能になるような形態で出荷する。これにより、ユーザは、非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度での熱処理を行うことが可能になる。
【0066】
<発光装置の出荷形態>
非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度での熱処理が可能な発光装置1の出荷形態について、図面を参照して説明する。図7は、本発明の実施形態に係る発光装置の出荷形態の一例を模式的に示す断面図である。
【0067】
図7に示すように、出荷時における発光装置1は、出荷後の熱処理による非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止する形状変化防止層60を備えている。形状変化防止層60は、非晶質フッ素樹脂の表面を直接被覆するように形成されている。例えば、形状変化防止層60は、非晶質フッ素樹脂の露出面の内、少なくとも、光学レンズ形状の表面を直接被覆するように形成される。具体的に例えば、レンズ41の表面の全面と、レンズ41の周辺部分に相当する封止樹脂40の表面とのそれぞれを被覆するように、形状変化防止層60が形成される。
【0068】
形状変化防止層60は、少なくとも、非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じる下限温度において安定な材料(例えば、形状変化及び分解が生じ難い材料)で構成される。例えば、形状変化防止層60は、260℃において安定な材料で構成される。具体的に、形状変化防止層60は、熱によって軟化し難い樹脂である、熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂(常温よりも高い温度で紫外線硬化する紫外線硬化樹脂も含む)を硬化させた層で構成すると、好ましい。例えば、形状変化防止層60を、シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂を硬化させた層で構成すると、好ましい。
【0069】
形状変化防止層60は、例えば射出成形、トランスファー成形、圧縮成形等の周知の成形方法により、非晶質フッ素樹脂の表面に対して上述の樹脂材料を成形することで形成される。当該各成形用の成形型は、金属型や、形状変化防止層60を構成する樹脂材料とは親和性が低い(離型し易い)樹脂型などを使用できる。ただし、形状変化防止層60を成形する際の温度は、非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じる下限温度よりも低い温度であると、好ましい。
【0070】
形状変化防止層60は、発光装置1を被実装装置50に対して実装するはんだリフロー工程などの熱処理を伴う工程が終了した後に、ユーザによって、例えばピンセットや針などを用いて剥離するなどの物理的な方法や、溶媒に溶かすなどの化学的な方法、あるいは、これらの両方の方法により除去される。また、物理的な方法で形状変化防止層60を除去することを想定する場合、非晶質フッ素樹脂から剥離可能な程度に非晶質フッ素樹脂に対する親和性が低い材料で形状変化防止層60を形成すると、好ましい。
【0071】
以上のように、発光装置1は、熱によって軟化し難い樹脂である、熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂が硬化した層で構成された形状変化防止層60で、非晶質フッ素樹脂の表面を直接被覆することで、出荷後の熱処理による非晶質フッ素樹脂の形状変化を防止することができる。したがって、発光装置1は、出荷後に非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じ得る温度の熱処理が可能である。
【0072】
特に、図7に示すように、少なくともレンズ41(光学レンズ形状の部分)の表面を被覆するように形状変化防止層60を設けることで、形状によって光学的特性が左右されるレンズ41の形状変化を防止して、発光装置1の発光性能が大きく損なわれることを防止することができる。
【0073】
なお、形状変化防止層60は、上述のように非晶質フッ素樹脂の表面に対して樹脂材料を成形することによって形成してもよいが、レンズ41の外形に嵌合するように別途作製したキャップ状の形状変化防止層をレンズ41に被せてもよいし、レンズ41の成形時に使用した型(例えば、シリコーン樹脂型)をレンズ41の成形後も除去せずに残すことで、形状変化防止層60として利用してもよい。
【0074】
また、図7では、レンズ41の表面の全面と、レンズ41の周辺部分に相当する封止樹脂40の露出部分の表面とのそれぞれを被覆するように、形状変化防止層60が形成される場合を例示しているが、非晶質フッ素樹脂の露出面の全面(レンズ41及び封止樹脂40のそれぞれの露出面の全面。サブマウント30の端部付近における封止樹脂40の側面も含む。)を被覆するように、形状変化防止層を形成してもよい。この場合、レンズ41の形状変化だけでなく、封止樹脂40の形状変化も防止することができる。
【0075】
また、ユーザが物理的な方法で形状変化防止層60を除去することを想定する場合、形状変化防止層60の除去を容易にするためのハンドル部を形状変化防止層60に設けてもよい。ここで、ハンドル部を有する形状変化防止層を備えた発光装置の一例について、図面を参照して説明する。図8は、本発明の実施形態に係る発光装置の出荷形態の別例を模式的に示す断面図である。
【0076】
図8に示すように、形状変化防止層60Aには、形状変化防止層60Aを把持し易くするために突出したハンドル部61が設けられている。特に、ハンドル部61には、ピンセットの先端や針などの細長い治具を挿通して把持するための貫通孔611が設けられている。なお、図8に例示するハンドル部61の形状は一例に過ぎず、形状変化防止層60Aの把持を容易にするための形状であれば、どのような形状であってもよい。例えば、ハンドル部61が、貫通孔611を備えない形状であってもよい。また、図8では、ハンドル部61が形状変化防止層60Aの周辺部分に設けられる場合について例示しているが、例えばレンズ41の頂上付近に設けてもよい。
【0077】
<変形等>
[1] 発光装置1が長時間大気に曝されるなどして、封止樹脂40やレンズ41を構成する非晶質フッ素樹脂が酸素、窒素、水蒸気を十分に吸着している場合、出荷後のユーザによる熱処理の際に、非晶質フッ素樹脂が吸着している酸素、窒素、水蒸気が膨張して、非晶質フッ素樹脂が発泡することがあり得る。
【0078】
このような発泡を防止するために、発光装置1を、非晶質フッ素樹脂が酸素、窒素、水蒸気を吸着しにくいパッケージで出荷すると好ましい。例えば、発光装置1を、内部が大気圧よりも減圧された気密パッケージ、ヘリウムガスまたはアルゴンガスが充填された気密パッケージ、または、ヘリウムガスまたはアルゴンガスが充填され内部が大気圧よりも減圧された気密パッケージ内に封入して出荷すると、好ましい。また、気密パッケージは、例えば、樹脂材料(例えば、ポリエチレンやポリプロピレン)にアルミを蒸着したシートで構成される。
【0079】
上記のような気密パッケージ内に発光装置1を封入して出荷すると、ユーザが気密パッケージを破って発光装置1を取り出して熱処理をする際に、非晶質フッ素樹脂が吸着している酸素、窒素、水蒸気を、発光装置1を大気中に十分曝した場合よりも減少させることができる。例えば、ユーザが発光装置1を熱処理する際における非晶質フッ素樹脂が吸着している酸素、窒素、水蒸気の量を、大気中に発光装置1を曝した場合において非晶質フッ素樹脂が吸着し得る最大量よりも少なく、好ましくは当該最大量の2分の1以下、さらに好ましくは3分の1以下にすることができる。また例えば、ユーザが発光装置1を熱処理する際における非晶質フッ素樹脂が吸着している酸素、窒素、水蒸気の量を、非晶質フッ素樹脂が吸着しているヘリウムガスまたはアルゴンガスの量よりも少なくすることができる。
【0080】
なお、発光装置1の出荷形態として、非晶質フッ素樹脂の発泡を防止するための気密パッケージのみを採用し、上述した形状変化防止層60を設けなくてもよい。
【0081】
また、形状変化防止層60を設けた上で、上述の気密パッケージを採用してもよい。この場合、形状変化防止層60が、ヘリウム、アルゴン、酸素、窒素、及び、水蒸気に対してガス透過性を有していると、形状変化防止層60と非晶質フッ素樹脂との間に気体が閉じ込められることによる形状変化防止層60の脱落や非晶質フッ素樹脂の変形などの問題を回避することができるため、好ましい。
【0082】
また、上述した非晶質フッ素樹脂の発泡は、発泡が生じるような高温での熱処理を行う前に脱気処理することによっても、抑制することが可能である。脱気処理として、例えば、120℃で2時間の真空脱気処理や、図6に示したはんだリフロー工程における期間P2の昇温勾配を10℃/時間などと極めて緩やかにするという処理が挙げられる。ただし、これらの処理は、非晶質フッ素樹脂の変形や発泡を防止するために、長時間を要するという問題がある。
【0083】
しかし、形状変化防止層60を備えた発光装置1であれば、ある程度の高温に曝しても、非晶質フッ素樹脂の変形を防止することができる。そのため、発光装置1の場合は、例えば、真空脱気処理の温度を120℃よりも高くして、その分、処理時間を2時間よりも短くするなど、脱気処理における条件設定の自由度を高めることができる。さらに、この場合、形状変化防止層60が、酸素、窒素、及び、水蒸気に対してガス透過性を有していると、真空脱気処理の際に、形状変化防止層60と非晶質フッ素樹脂との間に気体が閉じ込められることによる形状変化防止層60の脱落や非晶質フッ素樹脂の変形などの問題を回避することができるため、好ましい。
【0084】
[2] 非晶質フッ素樹脂は、結合性・非結合性を問わず、重量平均分子量が大きくなるほど溶融粘度が大きくなり、溶融粘度がおよそ100000Pa・sよりも大きくなると流動性が失われて形状変化が生じなくなる。ここで、出荷後の熱処理温度の最大値を260℃と想定した場合、樹脂の溶融粘度比が分子量比の3.4乗に比例すること(粘度の3.4乗則)、重量平均分子量が250000の非晶質フッ素樹脂の260℃における溶融粘度がおよそ3000Pa・sであることから、重量平均分子量が700000よりも大きければ、260℃において非晶質フッ素樹脂の形状変化は生じない(溶融粘度が100000Pa・sよりも大きくなる)と言える。
【0085】
したがって、上述した形状変化防止層60は、重量平均分子量が700000以下である場合に、その効果を発揮し得ることになる。さらに、260℃において非晶質フッ素樹脂の形状変化が生じないほどに溶融粘度が高い場合、成形時における非晶質フッ素樹脂の流動性を確保するために成形温度を高くせざるを得なくなるが、ボンディング材料B1をAuSnはんだ等のはんだ材料で構成する場合、成形温度がボンディング材料B1の融点(AuSnはんだの場合はおよそ280℃)を超えることで、窒化物半導体発光素子10とサブマウント30との接続が損なわれ得る。これらの理由から、非晶質フッ素樹脂の重量平均分子量は、700000以下が好ましい。
【0086】
また、重量平均分子量が150000程度と小さい非晶質フッ素樹脂を用いた場合、ユーザによる熱処理によって非晶質フッ素樹脂の形状が変化する危険が極めて高くなるが、形状変化防止層60を設けることによって、この危険を回避することができる。即ち、形状変化防止層60を設ける場合は、重量平均分子量が150000以上の非晶質フッ素樹脂を用いることが可能である。さらに、封止樹脂40やレンズ41の成形に問題がない限度において、150000よりも小さい重量平均分子量の非晶質フッ素樹脂を用いることも可能である。
【0087】
なお、封止樹脂40及びレンズ41のそれぞれを構成する非晶質フッ素樹脂の重量平均分子量は、同じであってもよいし異なっていてもよい。また、非晶質フッ素樹脂の分子量の推定は極めて困難であるが、重量平均分子量は、例えば、溶融粘度または固有粘度による換算により推定できる。
【0088】
[3] 上記実施形態では、ユーザが熱処理後に形状変化防止層60を除去することを前提としているが、形状変化防止層60の除去を不要にしてもよい。例えば、発光装置1の動作に対してほとんど悪影響を与えない材料及び形状で形状変化防止層60が構成されているなどの場合、形状変化防止層60の除去を不要にしてもよい。
【0089】
[4] 上記実施形態では、1つの窒化物半導体発光素子10をサブマウント30上に載置した発光装置1について説明したが、発光装置1は、サブマウントまたはプリント基板等の基台上に、複数の窒化物半導体発光素子10を載置して構成してもよい。この場合、複数の窒化物半導体発光素子10を封止樹脂40で、まとめて封止しても良く、また、1つずつ個別に封止してもよい。この場合、例えば、基台の表面に、封止する単位の1または複数の窒化物半導体発光素子10の周りを囲む樹脂ダムを形成しておき、その樹脂ダムで囲まれた領域に、例えば、上記実施形態で説明した要領で、封止樹脂40を形成する。また、封止樹脂40と同様に、レンズ41も、複数の窒化物半導体発光素子10に対してまとめて形成してもよいし、1つずつ個別に形成してもよい。さらに、形状変化防止層60も、複数の窒化物半導体発光素子10及び非晶質フッ素樹脂に対してまとめて形成してもよいし、1つずつ個別に形成してもよい。なお、窒化物半導体発光素子10を載置する基台は、サブマウント及びプリント基板に限定されるものではない。
【0090】
また、1つの窒化物半導体発光素子10をサブマウント30上に載置する場合においても、1枚の基材31の表面側に、複数のサブマウント30の第1及び第2金属電極配線32,33を形成し、1枚の基材31の裏面側に、複数のサブマウント30のリード端子34,35を形成し、複数のサブマウント30をマトリクス状に配置したサブマウント板に、複数の窒化物半導体発光素子10をそれぞれ各サブマウント30上にフリップチップ実装し、複数の窒化物半導体発光素子10に対してそれぞれ封止樹脂40または封止樹脂40とレンズ41を形成した後に、当該サブマウント板を個々のサブマウント30に分割して、1つの窒化物半導体発光素子10をサブマウント30上に載置してなる発光装置1を製造してもよい。さらに、この場合、複数の窒化物半導体発光素子10及び非晶質フッ素樹脂のそれぞれに対して形状変化防止層60を形成した後に、サブマウント板を個々のサブマウント30に分割してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る発光装置は、基台上にフリップチップ実装された窒化物半導体発光素子を備える発光装置に利用可能であり、特に、発光中心波長が365nm以下の光(紫外線)を出射する窒化物半導体発光素子備える発光装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1: 発光装置
10: 窒化物半導体発光素子
11: サファイア基板
12: 半導体積層部
13: n電極
14: p電極
20: AlN層
21: AlGaN層
22: n型クラッド層(n型AlGaN)
23: 活性層
24: 電子ブロック層(p型AlGaN)
25: p型クラッド層(p型AlGaN)
26: pコンタクト層(p型GaN)
30: サブマウント(基台)
31: 基材
32: 第1金属電極配線
320: 第1電極パッド
321: 第1配線部
33: 第2金属電極配線
330: 第2電極パッド
331: 第2配線部
34,35:リード端子
40: 封止樹脂
41: レンズ
50: 被実装装置
51,52:ランド
60,60A:形状変化防止層
61: ハンドル部
B1: ボンディング材料
B2: ボンディング材料
T1〜T5:期間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8