(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969065
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】イオン注入方法、イオン注入装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20211111BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01L21/265 603Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-226077(P2017-226077)
(22)【出願日】2017年11月24日
(65)【公開番号】特開2019-96517(P2019-96517A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】湯瀬 琢巳
(72)【発明者】
【氏名】矢作 充
(72)【発明者】
【氏名】豊田 聡
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−531214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素アルミニウムを気化させて水素化ホウ素アルミニウムガスを生成し、
前記水素化ホウ素アルミニウムガスを分解させてプラズマを形成し、前記プラズマから陽イオンを引き出し、水素イオン、ホウ素イオン、又はアルミニウムイオンの三種類のイオンのうちからいずれか一種の所望の陽イオンを電荷質量比に基づいて選別し、選別した陽イオンを注入対象物に照射して前記注入対象物に注入させるイオン注入方法。
【請求項2】
前記水素化ホウ素アルミニウムの液体を容器内に配置し、前記容器内を真空排気して前記水素化ホウ素アルミニウムガスを生成する請求項1記載のイオン注入方法。
【請求項3】
水素化ホウ素アルミニウムが原料液として配置され、前記原料液を気化して原料ガスを生成するガス供給装置と、
前記ガス供給装置によって気化された前記原料ガスが供給され、前記原料ガスを電離させてプラズマを形成するイオン生成容器と、
前記プラズマから陽イオンを引き出す引出電極と、
前記引出電極によって引き出された陽イオンから、水素イオン、ホウ素イオンまたはアルミニウムイオンの三種類のイオンのうちの所望の一種の陽イオンを通過させる質量分析装置と、
前記質量分析装置を通過した陽イオンが照射される注入対象物が配置される基板配置装置と、
を有するイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源に関し、特に、イオン注入装置に用いるイオン源のメンテナンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既存のシリコン(Si)基板と比較して耐熱性・耐電圧性に優れた炭化ケイ素(SiC)基板の製造方法が確立し、比較的安価に手に入るようになっている。
SiC基板を用いたプロセスではアルミニウムイオンをドーパントとして注入するプロセスがあり、アルミニウムイオンビームを生成するイオン源を有するイオン注入装置が使用されている。
【0003】
図2は、従来のイオン生成室50の内部を示す断面図である。
このイオン生成室50は、真空槽51を有しており、真空槽51の内部にはイオン生成容器52が配置されている。
真空槽51の側壁には開口51bが設けられており、開口51bは蓋部51cによって密閉されている。イオン生成容器52は保持機構54によって蓋部51cに固定されている。
【0004】
真空槽51の外部にはガス供給容器59が配置されている。基板等の注入対象物に注入する原子を有する原材料は、ガス供給容器59に配置されている場合とイオン生成容器52の内部に配置される場合とがあり、ガス供給容器59の内部に配置された場合は原材料はガス供給容器59の内部で気化され、生成された原材料ガスがガス供給容器59からイオン生成容器52に供給される。
【0005】
イオン生成容器52に原材料が配置された場合はガス供給容器59に反応性ガスが配置され、ガス供給容器59から供給された反応性ガスと原材料とがイオン生成溶器52の内部で反応し、気体が生成される。
いずれの場合もイオン生成容器52の内部の気体は電離され、プラズマが形成される。
【0006】
イオン生成容器52の一側壁は真空槽51の壁面と対面して配置されており、対面したイオン生成容器52の一側壁と真空槽51の壁面との間には引出電極53が配置されている。引出電極53は碍子57によって真空槽51に固定されている。
【0007】
イオン生成容器52は、蓋部51cと保持機構54とを介して引出電源56に接続されており、引出電極53は、加減速電源58に接続されている。
真空槽51は接地電位に接続されており、イオン生成容器52は引出電源56によって正電圧が印加され、引出電極53には加減速電源58によって負電圧が印加されるようになっている。
【0008】
ここでは、イオン生成容器52の内部には、アルミナイトライドが原材料として配置されており、ガス供給容器59からイオン生成容器52にPF
3ガスが反応性ガスとして供給されるようになっており、イオン生成容器52の内部で原材料と反応性ガスとが反応し、アルミニウムを含む化合物ガスが生成され、電子線照射等によって、プラズマが生成される。
【0009】
互いに対面したイオン生成容器52の一側壁と真空槽51の壁面と、また、その間に配置された引出電極53とには、それぞれ引出孔52a、51a、53aが設けられており、イオン生成容器52の内部で生成されたイオンは、引出電極53とイオン生成容器52とが形成する電界によって、イオン生成容器52の外部に引き出され、真空槽51の引出孔51aから真空槽51の外部に射出される。
【0010】
このようなイオン生成室50において、アルミニウムイオンを生成する場合には、ガス供給容器59にフッ素系ガス(例えばPF
3)を反応性ガスとして配置すると共に、イオン生成容器52の内部にアルミナイトライド又はアルミナを原材料として配置し、イオン生成容器52の内部に反応性ガスを導入し、反応させてAlイオンを生成し、引出孔52a、53a、51aを通過させて真空槽51の外部に放出する。
【0011】
しかし、このようなアルミナイトライド等とPF
3を反応させる方法では副生成物として絶縁性のフッ化アルミニウム(AlF
x)が発生し、この発生したフッ化アルミニウムが、真空槽51内の内壁面に付着して絶縁膜60、61を形成すると、真空槽51内において異常放電が発生するという問題がある。
【0012】
このような異常放電が発生すると、イオンビーム電流が変動して注入対象物の歩留まりが低下することに加え、電磁ノイズによってイオン注入装置の電源や真空ポンプの故障を引き起こすこともある。
【0013】
このため、従来は、異常放電が頻発した場合にはイオン生成室50の真空槽51を大気に開放して絶縁膜60、61を除去するようにしているが、従来技術では、このようなメンテナンスを頻繁に行わなければならず、生産効率を悪化させるという課題があった。
【0014】
そこで、絶縁膜を発生させない原材料が求められており、Alイオンの発生源としてAl(CH
3)
3があるが、この化合物については気化させて電離させると電荷質量比の値がAlイオンと同じ”27”の炭化水素イオン(C
2H
3+)が発生し、分離させることが困難である。
【0015】
他方、注入するイオンとして、半導体単結晶ウェハーに数ミクロンの深さで高濃度に注入する水素が注目されており、注入後、熱処理するとシリコン結晶の結合が切断され、単結晶ウェハーの全表面をミクロン寸法の厚みで剥がすことができる(スマートカット技術)。また、水素注入は、LiNbO
3基板等の薄膜加工や次世代太陽電池用の単結晶シリコン薄膜などの作製にも用いられるようになっている。
【0016】
従って、水素をドーパントとしたイオン注入も注目されている。
また、ホウ素はSiパワー半導体の不純物としてSi基板表面に導入されており、これらのことから異なるイオンを注入する多種類の注入対象物に簡単に対応できるイオン注入装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平5−182623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、イオン源での異常放電を発生させないイオン注入装置を提供することにある。
また、本発明は、原材料を交換せずに、アルミニウムイオンとホウ素イオンと水素イオンとのうちからイオンの種類を選択して注入することができるイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するためになされた本発明は、水素化ホウ素アルミニウムを気化させて水素化ホウ素アルミニウムガスを生成し、前記水素化ホウ素アルミニウムガスを分解させてプラズマを形成し、前記プラズマから陽イオンを引き出し、水素イオン、ホウ素イオン、又はアルミニウムイオンの三種類のイオンのうちからいずれか一種の所望の陽イオンを電荷質量比に基づいて選別し、選別した陽イオンを注入対象物に照射して前記注入対象物に注入させるイオン注入方法である。
また本発明は、前記水素化ホウ素アルミニウムの液体を容器内に配置し、前記容器内を真空排気して前記水素化ホウ素アルミニウムガスを生成するイオン注入方法である。
また本発明は、水素化ホウ素アルミニウムが原料液として配置され、前記原料液を気化して原料ガスを生成するガス供給装置と、前記ガス供給装置によって気化された前記原料ガスが供給され、前記原料ガスを電離させてプラズマを形成するイオン生成容器と、前記プラズマから陽イオンを引き出す引出電極と、前記引出電極によって引き出された陽イオンから、水素イオン、ホウ素イオンまたはアルミニウムイオンの三種類のイオンのうちの所望の一種の陽イオンを通過させる質量分析装置と、前記質量分析装置を通過した陽イオンが照射される注入対象物が配置される基板配置装置と、を有するイオン注入装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、イオン生成室内には絶縁膜が堆積されないので、絶縁膜の付着を原因とするイオン源での異常放電の発生が無い。
本発明は、アルミニウムイオンとホウ素イオンと水素イオンとを含有するプラズマが生成されるので、質量分析装置の磁界強度を変更するだけで、アルミニウムイオンとホウ素イオンと水素イオンとのうちのいずれかのイオンを通過させて注入対象物に注入することができる。
【0021】
また、炭化水素イオンが発生せず、炭化水素が注入対象物に注入されることがない。
水素化ホウ素アルミニウムは室温でも真空雰囲気中に置くだけで蒸気を得ることができるので、気化装置を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のイオン源を用いたイオン注入装置の全体を示す概略構成図
【
図2】従来のイオン源の一例の内部構成を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1の符号2は、本発明の一例のイオン注入装置である。
このイオン注入装置2は、イオン生成室12と、主真空室11と、注入室13と、を有している。イオン生成室12と注入室13とは主真空室11によって接続されている。
【0024】
少なくとも注入室13には真空排気装置19が接続されており、イオン生成室12の内部と主真空室11の内部と注入室13の内部とは真空雰囲気にされている。
注入室13の内部には、基板配置装置36が配置されている。
図1では、基板配置装置36には、イオンを注入する基板である注入対象物15が配置されている。
【0025】
イオン生成室12の内部にはイオン生成容器22が配置されており、イオン生成室12の外部にはガス供給装置21が配置されている。
ガス供給装置21は容器状であり、イオン生成容器22に接続されており、イオン生成容器22は主真空室11に接続されている。
【0026】
ガス供給装置21には液体の水素化ホウ素アルミニウム(Al(BH
4)
3)である原料液が配置されている。この原料液の化合物はアルミニウムボロヒドリド(aluminium borohydride)とも呼ばれている。
【0027】
水素化ホウ素アルミニウムの沸点は45℃であり、イオン生成室12や主真空室11が真空排気されてイオン生成容器22の内部とガス供給装置21の内部も真空排気され、原料液が真空雰囲気中に置かれると、原料液は気化されて原料ガスが生成される。原料液が室温であっても原料液が真空雰囲気に置かれるだけで気化は発生し、ガス供給装置21の内部は原料ガスで充満される。
【0028】
ガス供給装置21の内部の原料ガスは、ガス供給装置21からイオン生成容器22に移動し、イオン生成容器22の内部で電子線が照射されて分解し、Al
+とH
+とB
+とが含有されたプラズマが形成される。
【0029】
Al(BH
4)
3は炭素原子が含有されておらず、分解されても炭素を含むイオンは生成されず、固体の絶縁物は発生しないので、絶縁物の膜は堆積されず、ガス管等の閉塞や異常放電は発生しない。
【0030】
イオン生成容器22は主真空室11の走行部14に接続されており、走行部14の内部には、スリット20とイオン引出電極23とが配置されている。
【0031】
主真空室11と、注入室13と、イオン生成室12とは接地電位に接続され、イオン生成容器22には正電圧が印加され、イオン引出電極23には負電圧が印加されている。符号31はイオン生成容器22とイオン引出電極23とに電圧を印加する電源である。
【0032】
イオン引出電極23とイオン生成容器22とによって形成された電界により、イオン生成容器22の内部に形成されたプラズマから陽イオンがスリット20を通過して走行部14の内部に引き出され、引き出された陽イオンは走行部14の内部を進行する。
【0033】
引き出された陽イオンの進行方向前方の主真空室11には質量分析装置24が設けられている。
質量分析装置24は電磁石25a、25bを有している。
【0034】
主真空室11の外部には、制御装置18と分析用電源32とが配置されており、電磁石25a、25bには分析用電源32から電流が供給され、質量分析装置24の内部に磁界が形成される。
【0035】
分析用電源32は制御装置18に接続されており、分析用電源32が電磁石25a、25bに供給する電流は制御装置18によって制御されている。従って、質量分析装置24の内部に形成される磁界の強度は制御装置18によって制御されている。
【0036】
イオン引出電極23によって引き出されたイオンが質量分析装置24の内部に入射すると、入射したイオンは電磁石25a、25bが形成する磁界によってローレンツ力を受け、イオンの電荷質量比の値と、形成された磁界の強度とに応じてイオンの飛行方向が湾曲される。
【0037】
主真空室11のうち、質量分析装置24が設けられた部分の槽壁は所定方向に湾曲されており、飛行方向が槽壁の湾曲に対応して湾曲されたイオンが質量分析装置24を通過する。イオンのうち、他の湾曲率のイオンは、主真空室11の湾曲した槽壁に設けられた部材に衝突し、質量分析装置24を通過できない。
【0038】
イオンの飛行方向の湾曲は、質量分析装置24の内部に形成された磁界の強度とイオンの電荷質量比の値によって決まる大きさであり、制御装置18が電磁石25a、25bへの通電量を制御することで磁界強度が変化され、所望の電荷質量比を有するイオンを通過させることができる。この場合は他の電荷質量比を有するイオンは質量分析装置24を通過できない。
【0039】
質量分析装置24を通過したイオンは、所定の電荷質量比を有するイオンであり、その進行方向前方の主真空室11には、加速部28が配置されている。
加速部28は、第一スリット26と、第一スリット26よりもイオンの進行方向前方に配置された第二スリット27とを有しており、第一スリット26と第二スリット27との間には、複数の加速電極29が配置されている。
【0040】
各加速電極29には所定の電圧が印加されており、加速部28に入射して第一スリット26を通過したイオンは複数の加速電極29の間を通過する際に加速電極29によって加速され、第二スリット27を通過する。符号37は加速電極29に電圧を印加する電源を示している。
【0041】
第二スリット27を通過したイオンの進行方向前方には、静電スキャン部33が配置されている。
静電スキャン部33の内部には複数の制御電極34が配置されており、各制御電極34には電圧が印加され、静電スキャン部33の内部に電界が形成されている。符号38は制御電極34に電圧を印加する電源を示している。
【0042】
第二スリット27を通過したイオンは静電スキャン部33の内部に形成された電界の中に入射すると、電界によって飛行方向が湾曲されて静電スキャン部33を通過する。
静電スキャン部33を通過したイオンの進行方向前方には、注入室13が配置されており、静電スキャン部33を通過したイオンは注入室13の内部に入射する。
【0043】
注入室13に入射したイオンの進行方向前方には、基板配置装置36が設けられており、注入室13に入射したイオンは、基板配置装置36に配置された注入対象物15に照射され、注入対象物15の表面に注入される。
【0044】
制御電極34に電圧を印加する電源38は制御装置18に接続され、制御電極34に出力する電圧の大きさが制御装置18によって制御されており、イオンの飛行方向の湾曲の大きさが制御装置18によって変化され、基板配置装置36上の所望の位置にイオンが照射されるようになっており、制御装置18によってイオンビームの照射位置が移動され、注入対象物15の片面全部に所定量のイオンが照射され、注入される。
【0045】
注入対象物15の表面へ所定量のイオンが注入されるとその注入対象物15に対するイオン注入作業は終了し、注入室13から外部に搬出される。
【0046】
ここで、電磁石25a、25bが形成する磁界により、Alイオンが質量分析装置24を通過するようにされている場合は、注入対象物15にAlイオンが照射され、Alが注入対象物15の表面に所定量が注入される。Alが注入された注入対象物15が注入室13から搬出された後、Bを注入する注入対象物が注入室13に搬入され、基板配置装置36に配置された場合には、分析用電源32が電磁石25a、25bに供給する電流量が変化され、質量分析装置24をBイオンが通過し、注入対象物に照射される。また、Hを注入する注入対象物が基板配置装置36に配置された場合は、Hイオンが質量分析装置24を通過するように、分析用電源32が電磁石25a、25bに供給する電流量が変化され、注入対象物にHイオンが照射される。
【0047】
このように、本発明のイオン注入装置2の質量分析装置24は、イオン引出電極23によってイオン生成容器22から引き出された陽イオンから、水素イオン、ホウ素イオンまたはアルミニウムイオンの三種類のイオンのうち、所望の一種のイオンを通過させることができるようになっている。
【符号の説明】
【0048】
2……イオン注入装置
12……イオン生成室
15……注入対象物
21……ガス供給装置
22……イオン生成容器
24……質量分析装置