特許第6969503号(P6969503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6969503粘着剤組成物、粘着偏光板および液晶表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969503
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着偏光板および液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20211111BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20211111BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20211111BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20211111BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20211111BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20211111BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C09J133/00
   C09J11/06
   C09J7/38
   C08G18/62 016
   C08G18/80 090
   G02B5/30
   G02F1/1335 510
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-106928(P2018-106928)
(22)【出願日】2018年6月4日
(65)【公開番号】特開2019-210364(P2019-210364A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−059114(JP,A)
【文献】 特開2011−137160(JP,A)
【文献】 特開2010−095603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08G 18/62,18/80
G02B 5/30
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)架橋可能な官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマーと、(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物とを含み、
前記架橋可能な官能基が、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、およびアルコキシシリル基から選ばれる1種または2種以上の基であり、
前記(A)成分100質量部に対し、(B)成分が、0.001〜10質量部含まれ、
前記(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物が、下記式(2)、(8−a)、(8−b)、(9−a)または(9−b)で表されることを特徴とする粘着剤組成物。
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または1価の有機基を表すが、R3とR4が互いに連結して環構造を形成していてもよく、mは、1〜3の整数を表し、Meは、メチル基を意味し、Etは、エチル基を意味する。)
【請求項2】
前記(A)架橋可能な官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマーが、(a)モノマーと(b)モノマーとの共重合物であり、
前記(a)モノマーが、(メタ)アクリル酸の非置換炭素原子数1〜12アルキルエステルモノマーであり、
前記(b)モノマーが、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基およびアルコキシシリル基から選ばれる1種または2種以上の基を有する、ビニル系モノマー並びに(メタ)アクリル系モノマーの少なくとも一方のモノマーであり、
前記(a)モノマーと(b)モノマーとの合計100質量部に占める(b)モノマーの量が0.1〜10質量部である請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(a)モノマーが、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、およびイソノニル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーである請求項2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(b)モノマーが、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸二量体、イタコン酸、マレイン酸、およびマレイン酸無水物からなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーである請求項2または3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
(C)イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物および金属キレート系化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上の多官能性架橋剤を、前記(A)成分100質量部に対して0.01〜10質量部含む請求項1〜4のいずれか1項記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
偏光フィルムと、この偏光フィルムの片面または両面に積層された粘着剤層を有し、
前記粘着剤層が、請求項1〜5のいずれか1項記載の粘着剤組成物から形成された粘着偏光板。
【請求項7】
保護層、反射層、位相差板、光視野角補償フィルムおよび輝度向上フィルムから選ばれる1種以上の機能層を有する請求項6記載の粘着偏光板。
【請求項8】
一対のガラス基板と、これらの間に封入された液晶とを備える液晶セル、およびこの液晶セルの片面または両面に貼着された、請求項6または7記載の粘着偏光板とを有する液晶パネルを含む液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、粘着偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、分子中に2つ以上の異なる官能基を有し、通常では結合させにくい有機質材料と無機質材料とを連結させる仲介役として作用する。
シランカップリング剤が有する官能基の一方は、加水分解性シリル基であり、水の存在によりシラノール基を生成し、このシラノール基が無機材質表面の水酸基と反応することで、無機材質表面と化学結合を形成する。また、他の官能基は、各種合成樹脂のような有機質材料と化学結合を形成するビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基等の有機反応基である。
これらの反応基の特性を利用して、有機・無機樹脂の改質剤、接着助剤、各種添加剤等として幅広く用いられている。
【0003】
シランカップリング剤の用途の中でも、粘着剤の接着性改質剤としての用途はその代表的なものであり、例えば、液晶セルと光学フィルムを貼り付ける際の粘着剤は、液晶表示装置(LCD)のサイズの大型化、ワイド化に伴い、求められている接着性能が高度なものとなっている。
例えば、LCDの場合、20インチ以上の大型化が困難であるといった当初の予想に反し、急速な大型化が進んでいる。主要メーカーは、これまで20インチ以下の小型パネルの生産を主力としてきたが、近年の流れを受けて最新技術を積極的に導入し、製品範囲を20インチ以上の大型サイズへと展開している。
【0004】
このように、諸般の光学フィルムにおいて、液晶表示板の製造時に使用されるガラスは大型化される趨勢である。このような状況下、初期貼り付け時に不良製品が発生し、液晶セルから光学用フィルムを除去して液晶セルを洗浄した後、それを再使用する必要が生じた場合、従来の高粘着力を有する粘着剤では、その強い接着力のため、光学フィルムの再剥離や除去が困難であるだけでなく、高価な液晶セルを破壊する可能性が大きく、結果的に生産コストを大幅に上げてしまうことになる。
【0005】
したがって、LCDの大型化に伴い、接着性、リワーク性等の諸粘着性能を両立する高機能性の粘着剤を開発しようとする試みが継続している。
例えば、特許文献1では、高温多湿の環境下における耐久性に優れた偏光板を提供する目的で、エポキシシランを含有するアクリル系粘着剤組成物が提案されている。
また、基板表面に偏光板を良好な接着強度で接着できるのみならず、必要に応じて、基板に損傷を与えたり、粘着剤を残留させたりすることなく、基板の表面から偏光板を剥離可能とするために、特許文献2および特許文献3では、アクリル系ポリマーと、β−ケトエステル基および加水分解シリル基を有する化合物、またはその加水分解縮合物を含む粘着剤組成物が提案され、特許文献4〜7では、アクリル系ポリマーと、複素環構造基、ウレタンまたは尿素連結基および加水分解シリル基を有する化合物を含む粘着剤組成物が提案されている。
さらに、特許文献8〜10では、初期接着力が低く、リワーク性に優れる一方、貼り付け後は高温多湿下で接着力が増強され、長期的に耐久性に優れる粘着剤として、ポリエーテル末端にアルコキシシリル基を持った有機ケイ素化合物を含むアクリル系粘着剤が提案されている。
【0006】
以上のようなシラン化合物を含む粘着剤を用いることで、基板と偏光板とは、実際使用される環境で要求される程度の適切な接着強度を保持することができるものの、その接着強度は加熱等によって過度に高くならず、液晶素子に損傷を与えることなく、容易に偏光板を剥離することができるとされている。
【0007】
しかし、LCDの大型傾向を支えるために粘着剤に求められる性能は、ガラスに貼り付ける際の初期接着力が低く、リワーク性に優れるというだけでなく、高温多湿下で高接着力が発現される必要があり、そうでない場合は、気泡や剥離現象等が生じて耐久性が脆弱になるおそれがある。
この点、特許文献11では、高温多湿下においても凝集力および接着力の経時変化が小さく、曲面接着力にも優れる粘着剤組成物を提供するために、シラン系化合物の存在下でアクリル系モノマーを重合して得られるアクリル系樹脂に硬化剤を配合する技術が提案されている。
このシラン化合物を配合することによって、基板と偏光板は、実際使用される環境で要求される程度の適切な接着強度を保持することができ、接着強度は、加熱等によって過度に高くならず、液晶素子に損傷を与えることもなく、容易に偏光板を剥離することが可能であると記載されている。
【0008】
しかし、高温多湿下で凝集力および接着力の経時変化が小さいことよりも、接着力が高く、気泡や剥離現象がなく、かつ耐久性に優れるものが好ましいといえる。すなわち、ガラスに貼り付けた初期には再剥離ができるほどの適正な初期接着力を示すが、時間が過ぎるにつれて剥離する必要性がなくなるため、強化され、安定化された接着力を保持することが必要であるといえる。
【0009】
こういった観点では、上記特許文献2〜10に記載される有機ケイ素化合物からなる接着性改質剤では改良できるリワーク性、貼り付け後の耐湿特性、接着力等が十分なものとは言えず、改良の余地が残されている。
以上のことから、初期のリワーク性が良好であるとともに、高温多湿下における高い接着強度を保持するバランスの取れた粘着剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3022993号公報
【特許文献2】特許第3533446号公報
【特許文献3】特許第5262672号公報
【特許文献4】特許第4771102号公報
【特許文献5】特許第5365609号公報
【特許文献6】特許第5365610号公報
【特許文献7】特表2008−506028号公報
【特許文献8】特開2011−219765号公報
【特許文献9】特許第4840888号公報
【特許文献10】国際公開第2010/26995号
【特許文献11】特開平8−199144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ガラス等の被接着体に貼り付ける際には初期接着力が低くてリワーク性に優れ、貼り付けた後に、高温または高温多湿の条件下でガラス等の被接着体との接着力が増加し、長期的耐久性に優れた粘着剤層を与える粘着剤組成物、この組成物から形成された粘着層を有する粘着偏光板、およびこの粘着偏光板を有する液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の架橋可能な官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマーと、ブロック化イソシアネートシラン化合物とを所定割合で含む組成物が、リワーク性に優れ、貼り付けた後に、高温または高温多湿の条件下でガラス等の被接着体との接着力が増加し、長期的耐久性に優れた粘着剤層を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
1. (A)架橋可能な官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマーと、(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物とを含み、前記架橋可能な官能基が、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、およびアルコキシシリル基から選ばれる1種または2種以上の基であり、前記(A)成分100質量部に対し、(B)成分が、0.001〜10質量部含まれることを特徴とする粘着剤組成物、
2. 前記(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物が、下記式(1)で表される1の粘着剤組成物、
【化1】
(式中、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、Lは、2価の連結基を表し、Xは、−O−または−NR2−を表し、Yは、水素原子または1価の有機基を表し、R2は、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基またはYと結合して環構造を形成することが可能な基を表し、mは1〜3の整数を表す。)
3. 前記(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物が、下記式(2)または(3)で表される2の粘着剤組成物、
【化2】
(式中、R1、R2、Yおよびmは、前記と同じ意味を表し、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または1価の有機基を表すが、R3とR4またはR2とYが互いに連結して環構造を形成していてもよい。)
4. 前記(A)架橋可能な官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマーが、(a)モノマーと(b)モノマーとの共重合物であり、前記(a)モノマーが、(メタ)アクリル酸の非置換炭素原子数1〜12アルキルエステルモノマーであり、前記(b)モノマーが、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基およびアルコキシシリル基から選ばれる1種または2種以上の基を有する、ビニル系モノマー並びに(メタ)アクリル系モノマーの少なくとも一方のモノマーであり、前記(a)モノマーと(b)モノマーとの合計100質量部に占める(b)モノマーの量が0.1〜10質量部である1〜3のいずれかの粘着剤組成物、
5. 前記(a)モノマーが、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、およびイソノニル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーである4の粘着剤組成物、
6. 前記(b)モノマーが、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸二量体、イタコン酸、マレイン酸、およびマレイン酸無水物からなる群より選ばれる1種または2種以上のモノマーである4または5の粘着剤組成物、
7. (C)イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物および金属キレート系化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上の多官能性架橋剤を、前記(A)成分100質量部に対して0.01〜10質量部含む1〜6のいずれかの粘着剤組成物、
8. 偏光フィルムと、この偏光フィルムの片面または両面に積層された粘着剤層を有し、
前記粘着剤層が、1〜6のいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着偏光板、
9. 保護層、反射層、位相差板、光視野角補償フィルムおよび輝度向上フィルムから選ばれる1種以上の機能層を有する8の粘着偏光板、
10. 一対のガラス基板と、これらの間に封入された液晶とを備える液晶セル、およびこの液晶セルの片面または両面に貼着された、8または9の粘着偏光板とを有する液晶パネルを含む液晶表示装置
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、接着性改質剤成分として、ブロック化イソシアネートシラン化合物を含む(メタ)アクリル系粘着剤組成物であるため、ガラス等への貼付け時に初期接着力が低いため、リワーク性に優れ、貼り付け後の高温または高温多湿下での湿熱処理によって高接着力を発現され、その接着力の長期耐久性に優れるという特徴を有している。
すなわち、ブロック化イソシアネート基を有するシランカップリング剤を使用することで、既存技術にて使用されるシランカップリング剤と比較して有機部分の占める割合が多くなる結果、樹脂との相溶性が向上して水酸基を有するマトリックス樹脂との結合力、相互作用が高まり、マトリックス樹脂を含む粘着剤と基材との接着性が向上する。また、ブロック化イソシアネート基を有するシランカップリング剤は、シリル基の加水分解性が低いことから、初期リワーク性を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「シランカップリング剤」は「有機ケイ素化合物」に含まれる。
本発明に係る粘着剤組成物は、(A)架橋可能な官能基を有する(メタ)アクリル系ポリマーと、(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物とを含む。
【0016】
(A)架橋可能な官能基を有するアクリル系ポリマー
(A)成分の架橋可能な官能基を有するアクリル系ポリマーとしては、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、およびアルコキシシリル基から選ばれる1種または2種以上の架橋可能な官能基、好ましくは水酸基を有するアクリル系ポリマーであれば特に限定されるものではないが、本発明では、下記(a)モノマーと(b)モノマーとの共重合体を用いることが好ましい。
(a)モノマー
(メタ)アクリル酸の非置換アルキルエステルモノマー(この非置換アルキル基の炭素原子数は1〜12)
(b)モノマー
水酸基、カルボキシル基、酸無水物基およびアルコキシシリル基から選ばれる1種または2種以上の基を有する、ビニル系モノマー並びに(メタ)アクリル系モノマーの少なくとも1種
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味する。
【0017】
(a)モノマーの(メタ)アクリル酸の非置換アルキルエステルモノマーは、アルキル基が長鎖形態であると粘着剤の凝集力が低下する場合があることから、高温下で凝集力を保持するために非置換アルキル基の炭素原子数が1〜12とされているが、2〜8が好ましい。
(a)モノマーの具体例としては、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
(b)モノマーは、高温または高温多湿の条件下で粘着剤の凝集力の破壊が生じないように化学結合による凝集力または接着強度を与える成分である。
(b)モノマーの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を含むモノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸二量体、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物等のカルボキシル基を含むモノマー;(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシメチルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含むモノマーなどが挙げられ、これらのモノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよいが、少なくとも水酸基を含むモノマーを用いることが好ましい。
【0019】
(b)モノマーの使用量は、(a)モノマーと(b)モノマーとの合計100質量部のうち、0.1〜10質量部が好ましく、1〜9質量部がより好ましい。(b)モノマーの使用量が、0.1質量部以上であると、高温多湿下での凝集破壊を生じにくく、一方、10質量部以下であると、適合性の減少による表面移行、流動性の減少や凝集力の上昇による応力緩和能力の低下を抑制できる。
【0020】
なお、本発明においては、架橋可能な官能基を有するアクリル系ポリマーの製造時に、粘着剤組成物のガラス転移温度を調節し、かつ、その他の機能性を付与するために、その他の共重合性モノマーをさらに使用することができる。
その他の共重合性モノマーの具体例としては、アクリロニトリル、スチレン、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルアセテート等が挙げられる。その他の共重合性モノマーの配合割合は、共重合させる全モノマー100質量部のうち、0.1〜9.9質量部が好ましく、0.5〜8質量部がより好ましい。
【0021】
粘着剤組成物の粘弾性特性は、主に高分子鎖の分子量、分子量分布、または分子構造の存在量に基づき、特に分子量によって決定されるため、本発明に使用される(メタ)アクリル系ポリマーの分子量(重量平均分子量:Mw)は、80万〜200万が好ましく、90万〜190万がより好ましい。このような範囲であれば、所望の粘弾性特性が得られ、ハンドリング容易な粘度とすることができる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0022】
このような(メタ)アクリル系ポリマーは、通常のラジカル共重合過程を経て製造することができる。
本発明において重合体の重合方法は特に限定されず、溶液重合法、光重合法、バルク重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の一般的な方法で製造することができる。これらの中でも溶液重合法が生産性の観点より好ましく、特に、モノマーが均一に混合された状態で開始剤を添加することが好ましい。この場合、重合温度は50〜140℃、反応時間は1〜24時間が好ましい。
【0023】
開始剤の具体例としては、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジプロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2′−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)等のアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、開始剤は、通常、モノマーの合計量100質量部に対して0.01〜10質量部の量で使用される。
【0024】
(B)ブロック化イソシアネートシラン化合物
(B)成分のブロック化イソシアネートシラン化合物は、粘着剤組成物の接着性改質剤として作用する成分であり、本発明では、下記式(1)で表されるブロック化イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。
なお、ブロック化イソシアネートシラン単体のほか、加水分解性シリル基部分が一部加水分解している構造や、さらに分子間縮合してオリゴマーとなった部分加水分解縮合物も同様の性能が発現するため本発明の接着性改質成分として使用可能である。
【0025】
【化3】
【0026】
式(1)において、R1は、それぞれ独立して炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、Lは、2価の連結基を表し、Xは、−O−または−NR2−を表し、Yは、水素原子または1価の有機基を表し、R2は、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基またはYと結合して環構造を形成することが可能な基を表し、mは1〜3の整数、好ましくは3を表す。
【0027】
1の炭素原子数1〜8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル基等が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0028】
Lの2価の連結基の具体例としては、アルキレン基、−O−、−S−、−NR−、CO−、―COO−、―NRCO−、−SO2−およびこれらの組合せからなるものが挙げられる。ここで、Rは、水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、水素原子が好ましい。なお、アルキル基としては、上記で例示したアルキル基のうち、炭素原子数1〜4のものが挙げられる、
これらの中でも、有機ケイ素化合物を製造する際の原料の入手性から、二価の連結基としては、−(CH2n−(nは1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4の整数)で表されるアルキレン基、またはこの−(CH2n−のうち1つ以上のメチレン単位が、−O−、−S−、−NH−、−CO−および−COO−に置換されている基が好ましく、−(CH23−(トリメチレン基)がより好ましい。
【0029】
式(1)におけるXは−O−または−NR2−であるが、ブロック化イソシアネートシラン化合物の保護基の一部を形成する基であり、加熱により脱離されるため、特に制限されるものではない。
Xの−NR2−において、R2は水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基またはYと結合して環構造を形成することが可能な基を表す。
2の炭素原子数1〜8のアルキル基としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられるが、中でも直鎖または分岐の炭素原子数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
−NR2−において、R2がYと結合して環構造を形成することが可能な基を表す場合、−NR2−は、式(1)中のYとヘテロ環構造を形成するものが好ましい。このようなヘテロ環構造中におけるヘテロ原子としては、窒素原子を2つ以上含むことが好ましく、窒素原子を2つ含むことがより好ましい。ヘテロ環構造としては、5員環または6員環構造が好ましく、5員環構造がより好ましい。
【0030】
式(1)におけるYは水素原子または1価の有機基であるが、ブロック化イソシアネートシラン化合物の保護基の一部を形成する基であり、加熱により脱離されるため、特に制限されるものではない。
Yの1価の有機基の具体例としては、炭素原子数1〜20の置換基を有していてもよい1価炭化水素基、−OH基(ただし、Xが、−O−の場合を除く。)、N=R5(R5は、炭素原子数6〜20のアリール基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキリデン基を表す。)等が挙げられる。
上記炭素原子数1〜20の1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基等が挙げられる。
上記アルキル基の具体例としては、R1で例示した基に加え、n−ノニル、n−デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、イコシル基等が挙げられる。
上記アリール基の具体例としては、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。
上記アラルキル基の具体例としては、ベンジル、フェニルエチル基等が挙げられる。
また、これらの基は、その水素原子の少なくとも一部がその他の置換基で置換されていてもよく、その他の置換基としては、カルボキシル基、エステル基、水酸基等が挙げられる。
5の、炭素原子数6〜20のアリール基またはヘテロアリール基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキリデン基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチリデン、フェニルメチリデン、ジフェニルメチリデン、エチリデン、プロピリデン、プロパン−2−イリデン、ブチリデン、ブタン−2−イリデン、ペンチリデン、4−メチルペンタン−2−イリデン、ヘキシリデン、シクロヘキシリデン、へプチリデン、オクチリデン、ノニリデン、デシリデン基等が挙げられる。
炭素原子数6〜20のヘテロアリール基の具体例としては、ピロール−1−イル、1H−ピロール−2−イル、イミダゾール−1−イル、イミダゾール−2−イル、ピラゾール−1−イル、ピラゾール−3−イル、ピリジン−2−イル、ピリジン−3−イル基等が挙げられる。
【0031】
特に、上記式(1)で表されるブロック化イソシアネートシラン化合物は、下記式(2)または(3)で表されるものが好ましい。
【0032】
【化4】
(式中、R1、R2、Yおよびmは、上記と同じ意味を表し、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または1価の有機基を表すが、R3とR4またはR2とYが互いに連結して環構造を形成していてもよい。)
【0033】
上記R3およびR4の1価の有機基としては、炭素原子数1〜20の1価炭化水素基、炭素数6〜20のヘテロアリール基が挙げられる。
炭素原子数1〜20の1価炭化水素基の具体例としては、上記Yで例示した基と同様のものが挙げられるが、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、これらの具体例としても上記と同様のものが挙げられる。
炭素原子数6〜20のヘテロアリール基としては、上記R5で例示した基と同様のものが挙げられる。
3とR4が互いに連結して形成する環構造としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等が挙げられる。
なお、これらの炭化水素基やヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、カルボキシル基、水酸基、エステル基等が挙げられる。
3−メチリデン−R4で表される基としては、上記R5で例示したアルキリデン基が挙げられ、中でも、ジフェニルメチリデン、プロパン−2−イリデン、ブタン−2−イリデン、4−メチルペンタン−2−イリデン、シクロヘキシリデン基が好ましい。
【0034】
2およびYの具体例としては、上記と同様であるが、中でも、これらは互いに結合して窒素原子とともに環構造を形成していることが好ましい。環構造としては、5員環または6員環が好ましく、5員環がより好ましい。
また、この環構造は、窒素原子を2つ有することが好ましく、イミダゾール環、ピラゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環がより好ましく、ピラゾール環がより一層好ましい。
なお、上記環構造は、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、カルボキシル基、水酸基、エステル基、オキソ基(=O)等の置換基を有していてもよい。
好適な環構造としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
【化5】
【0036】
(B)成分のブロック化イソシアネートシラン化合物の好ましい具体例としては、下記の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
【化6】
【0038】
本発明の粘着剤組成物では、(A)成分100質量部に対し、(B)成分が、0.001〜10質量部含まれる。
(B)成分の含有量が、下限値未満である場合、所望の接着性改質効果が発現せず、上限値を超える場合には効果が飽和し、対費用効果が低下するほか、元来のシランカップリング剤が持つ、密着性向上効果の影響が大きくなり、初期密着性が高くなりすぎる虞がある。
【0039】
[粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は、必須成分として上記(A)、(B)成分を含むものであるが、さらに(C)多官能性架橋剤を含有することが好ましい。この(C)成分の多官能性架橋剤は、(A)成分が有するカルボキシル基や水酸基等と反応することで粘着剤の凝集力を高める役割をする。
(C)成分の含有量は、特に限定されるものではないが、粘着剤の凝集力を適度に高めることを考慮すると、(A)成分100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜5質量部が好ましい。
【0040】
多官能性架橋剤は、イソシアネート系、エポキシ系、アジリジン系、金属キレート系架橋剤等が挙げられ、中でも使い易さを考慮すると、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
イソシアネート系架橋剤としては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物が挙げられ、その具体例としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォルムジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、これらとトリメチロールプロパン等のポリオールとの反応物(トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート付加物等)等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物が挙げられ、その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジルエチレンジアミン、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
アジリジン系架橋剤としては、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物が挙げられ、その具体例としては、N,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイド)、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキサイド)、トリエチレンメラミン、ビスイソプロタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
金属キレート系架橋剤の具体例としては、アルミニウム、鉄、亜鉛、スズ、チタン、アンチモン、マグネシウム、バナジウム等の多価金属が、アセチルアセトンまたはアセト酢酸エチルに配位した化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
さらに、本発明の粘着剤組成物には、粘着性能を調節するために、(D)粘着性付与樹脂を添加することができる。
(D)成分の含有量は、特に限定されるものではないが、添加した効果を十分に発揮させるとともに、凝集性の低下を防止するという観点から、(A)成分100質量部に対して1〜100質量部が好ましく、5〜90質量部がより好ましい。
粘着性付与樹脂の具体例としては、(水添)炭化水素系樹脂、(水添)ロジン樹脂、(水添)ロジンエステル樹脂、(水添)テルペン樹脂、(水添)テルペンフェノール樹脂、重合ロジン樹脂、重合ロジンエステル樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
なお、本発明の粘着剤組成物には、上記各成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で、可塑剤、レベリング剤等の低分子量体や、エポキシ樹脂および硬化剤等を必要に応じて追加成分として配合することができ、また、紫外線安定剤、酸化防止剤、除色剤、補強剤、充填剤、消泡剤、界面活性剤等を一般の目的に応じて添加することができる。
【0045】
本発明の粘着剤組成物は、例えば上述した必須成分および任意成分を通常の方法で混合して得ることができる。
混合条件に特に制限はないが、10〜150℃で10分〜10時間が好ましい。この場合、上記(B)成分のブロック化イソシアネートシラン化合物は、(A)成分のアクリル系ポリマーを重合した後、配合工程で添加しても、(A)成分のアクリル系ポリマーの製造工程中で添加しても同一の効果を示す。
また、(C)成分の多官能性架橋剤は、粘着剤組成物の配合過程において、架橋剤の官能基架橋反応が殆ど生じない場合に均一なコーティングが可能となる。コーティングした後に乾燥および熟成過程を経ると架橋構造が形成されて、弾性があり、凝集力の強い粘着剤層が得られる。
【0046】
このようにして得られた本発明の粘着剤組成物を、ガラス板、プラスチックフィルム、紙等の被接着体に塗布し、好ましくは25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間、より好ましくは40〜80℃、25〜60%RHで10分〜3時間硬化させて粘着剤層を形成することができる。
【0047】
本発明の粘着剤組成物は、内部に揮発成分、反応残留物等の気泡を誘発させる成分を十分に除去した後で使用することが好ましい。
架橋密度や分子量が過度に低く、粘着剤層の弾性率が過度に低い場合には、高温状態でガラス板等の被接着体と粘着剤層との間に存在する小さい気泡が大きくなって、粘着剤層の内部に散乱体を形成するようになる。また、弾性率が過度に大きい粘着剤層を長期間使用する場合には、過度な架橋反応によって粘着剤層(シート)の末端部位に剥離現象が生じるようになる。
【0048】
また、粘着剤層の凝集力と接着耐久性等のバランスを考慮した場合、粘着剤層の架橋密度は、5〜95質量%が好ましく、7〜93質量%がより好ましい。架橋密度は、一般に知られた粘着剤のゲル含量測定法により、溶媒に溶解されない架橋構造を形成した部分の量を質量%で得た値である。
【0049】
[粘着偏光板]
本発明の粘着偏光板は、偏光フィルムまたは偏光素子と、この偏光フィルムまたは偏光素子の片面または両面に貼付された、上記粘着剤組成物から形成される粘着剤層とを有するものである。
偏光板を構成する偏光フィルムまたは偏光素子については特に限定されるものではなく、従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
偏光フィルムの具体例としては、ポリビニルアルコール系樹脂からなるフィルムにヨウ素または異色性染料等の偏光成分を含有させて延伸して得られるフィルム等が挙げられる。偏光フィルムの厚さも限定されず、通常の厚さを採用することができる。
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルフォルマール、ポリビニルアセタール、エチレン・酢酸ビニル共重合体の鹸化物等が使用される。
【0050】
本発明において、偏光フィルムに粘着剤層を形成する方法には特に制限はない。
例えば、偏光フィルムの表面に直接バーコーター等を使用して粘着剤組成物を塗布して乾燥させる方法、粘着剤組成物を一旦剥離性基材表面に塗布して乾燥させた後、この剥離性基材表面に形成された粘着剤層を偏光フィルム表面に転写し、次いで熟成させる方法等が挙げられる。この場合、乾燥は25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間が好ましく、熟成は25〜150℃、20〜90%RHで5分〜5時間が好ましい。
【0051】
粘着剤層の厚さにも特に制限はないが、粘着剤層に要求される効果を適切に発現させることを考慮すると、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましい。
【0052】
なお、このようにして得られた本発明の粘着剤層を有する偏光フィルム(粘着偏光板)には、保護層、反射層、位相差板、光視野角補償フィルム、輝度向上フィルム等の追加機能を提供する層を1種以上積層することができる。
【0053】
特に、粘着剤層を有する偏光フィルムの両面に、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリエーテルスルホン系フィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体のようなポリオレフィン系フィルム等の保護フィルムが積層された多層フィルム等を形成することが好ましい。この際、これら保護フィルムの厚さも特に限定されず通常の厚さを採用すればよい。
【0054】
[液晶表示装置]
本発明の粘着偏光板は、通常の液晶表示装置全般に応用可能であり、その液晶パネルの種類は特に限られない。特に、本発明の粘着偏光板を、一対のガラス基板間に液晶が封入された液晶セルの片面または両面に貼合した液晶パネルを備える液晶表示装置が好ましい。
【0055】
本発明の粘着剤組成物は、上記した偏光フィルム以外に、産業用シート、特に、反射シート、構造用粘着シート、写真用粘着シート、車線表示用粘着シート、光学用粘着製品、電子部品用等、様々な用途に使用できる。
また、多層構造のラミネート製品、つまり一般商業用粘着シート製品、医療用パッチ、加熱活性用等、作用概念が同一である応用分野にも適用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[1](メタ)アクリル系ポリマーの合成
[合成例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、n−ブチルアクリレート(BA)98.1g、アクリル酸(AA)0.6g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)1.3gを納め、溶剤として酢酸エチル100gを仕込み、溶解させた。その後、酸素を除去するために窒素ガスバブリングを1時間行い、反応系中を窒素置換して62℃に保持した。この中に、撹拌しながら重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.03g投入し、62℃で8時間反応させることで(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)を得た。
【0058】
[2]粘着剤組成物の調製および粘着剤層の形成
[実施例1]
合成例1にて得られた(メタ)アクリル系ポリマー(A−1)、下記B−1で示す化合物、(C)トリメチロールプロパントリレンジイソシアネート付加物(TDI)を表1に示す配合組成で混合し、粘着剤組成物を調製した。
【0059】
[実施例2〜7,比較例1〜6]
(B)成分の配合量や種類を表1に示されるように変更した以外は、実施例1と同様にして粘着剤組成物を調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、表1中、略語は以下のとおりである。
B−1:上式(4−a)で表されるシラン化合物
B−2:上式(4−b)で表されるシラン化合物
B−3:上式(8−a)で表されるシラン化合物
B−4:上式(8−b)で表されるシラン化合物
B−5:上式(8−a)で表されるシラン化合物
B−6:上式(8−b)で表されるシラン化合物
B’−1:グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−403)
B’−2:下式で表されるシラン化合物
【0062】
【化7】
【0063】
B’−3:両末端アルコキシシリル変性PO型ポリエーテル化合物(カネカ(株)製、サイリルSAT10)
TDI:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物
【0064】
上記各実施例および比較例で得られた粘着剤組成物を、離型紙にコーティングして乾燥した後、25μmの均一な粘着剤層を得た。このように製造された粘着剤層を、厚さ185μmのヨード系偏光板に粘着加工した後、得られた偏光板を切断し、各評価に使用した。
製造した偏光板のテストピースについては、以下に示す評価試験方法を通じて耐久性、ガラス接着性、リワーク性、高温下および高温多湿下での接着力の変化について評価した。結果を表2,3に示す。
【0065】
評価試験
(1)耐久性
粘着剤がコーティングされた偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)に両面で光学吸収軸がクロスされた状態で貼り付けて試験片を得た。この際、加えた圧力は約5kgf/cm2であり、気泡や異物が生じないようにクリーンルームにて作業を行った。
この試験片の耐湿耐熱特性を評価するために、60℃/90%相対湿度の条件下で1,000時間放置した後、気泡や剥離の生成の有無を確認した。耐熱特性は、80℃/30%相対湿度で1,000時間放置した後、気泡や剥離の様子を観察した。なお、試験片の状態を評価する前に、室温(25℃)で24時間静置している。結果を表2に示す。
耐久性評価についての評価基準は、以下のとおりである。
○:気泡や剥離現象無し
△:気泡や剥離現象わずかに有り
×:気泡や剥離現象多数有り
【0066】
(2)ガラス接着力、高温および高温多湿条件での接着力変化
粘着剤がコーティングされた偏光板を、常温(23℃/60%RH)において7日間熟成させた後、該偏光板をそれぞれ1インチ×6インチサイズに切断し、2kgのゴムローラーを使用して0.7mm厚の無アルカリガラスに貼り付けた。常温で保管した後、1時間後に初期接着力を測定し、次いで50℃で4時間エージングさせ、その後常温で1時間保管後、接着力を測定した。結果を表2に示す。
また、高温および高温多湿条件での接着力上昇の程度を見るために、それぞれ100℃/30%RHの条件で時間に応じてエージング後、常温で1時間放冷し、接着力を測定した。結果を表3に示す。
この際、接着力の測定には引っ張り試験機を用い、300mm/分の速度、180°の角度で剥離強度(gf/in)を測定した。
【0067】
(3)リワーク性
粘着剤がコーティングされた偏光板(90mm×170mm)をガラス基板(110mm×190mm×0.7mm)に貼り付けた後、常温で1時間経過(初期接着力)および50℃×4時間エージングし、常温で1時間放冷した後、偏光板をガラスから剥離した。結果を表2に示す。
リワーク性に対する評価基準は、以下の通りである。
○:容易に再剥離可能
△:再剥離は若干困難
×:剥離不能、ガラス破損
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表2,3に示されるように、比較例1はブロック化イソシアネートシラン化合物の配合がないため、熱キュア後に十分な接着性が発現していないことがわかる。
比較例2は、既存技術であるエポキシシランカップリング剤を使用した場合であり、初期接着力が高すぎてリワーク性が発現しないことがわかる。
比較例3,4は、リワーク性とキュア後の密着に寄与する既存のシラン材料であるが、キュア後の最終密着強度が不十分であり、信頼性に欠けることがわかる。
比較例5は、使用するブロック化イソシアネートシラン化合物成分が少なすぎるため効果が不十分であり、一方、比較例6は当該成分の配合量が多すぎるため、初期から不要な密着性が発現し、リワーク性が不十分となっていることがわかる。
一方、実施例1〜7は、ブロック化イソシアネートシラン化合物を所定量用いているため、各比較例で生じた問題が解消されていることがわかる。
以上より、本発明の組成物が初期リワーク性に優れ、高温および高温多湿処理することで十分なガラスとの接着力を発現し、長期的耐久性に優れた粘着剤組成物であることがわかる。