特許第6969749号(P6969749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969749
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】水生生物忌避用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/04 20060101AFI20211111BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20211111BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20211111BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20211111BHJP
【FI】
   C09D129/04
   C09D5/14
   C09D7/61
   C09D7/20
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-527551(P2018-527551)
(86)(22)【出願日】2017年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2017024717
(87)【国際公開番号】WO2018012381
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2020年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-136901(P2016-136901)
(32)【優先日】2016年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】000237112
【氏名又は名称】富士シリシア化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519007396
【氏名又は名称】亀山 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】福原 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小川 光輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 睦弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 義夫
(72)【発明者】
【氏名】亀山 明夫
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−065431(JP,A)
【文献】 特開平07−252110(JP,A)
【文献】 特開平04−337369(JP,A)
【文献】 特開2003−147257(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/077738(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/116155(WO,A1)
【文献】 特開平11−080615(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/021071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 129/04
C09D 5/14
C09D 7/61
C09D 7/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん化度が65モル%を超え88モル%未満であるビニルアルコール系重合体(A)、無機酸化物(B)及び溶媒(C)を含有し、
無機酸化物(B)が、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化リン、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、及び酸化ケイ素からなる群から少なくとも1種であり、
無機酸化物(B)の平均粒子径が、0.10〜100μmであり、
溶媒(C)が、グリセリン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、n−ブタノール、及びプロピルアルコールからなる群から少なくとも1種である、
水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項2】
ビニルアルコール系重合体(A)の20℃における4質量%水溶液粘度が2.5mPa・sを超え150mPa・s未満である、請求項1に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項3】
ビニルアルコール系重合体(A)と無機酸化物(B)の質量比(A)/(B)が10/90〜90/10である、請求項1又は2に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項4】
無機酸化物(B)が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項5】
溶媒(C)の沸点が25℃以上250℃未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項6】
銅元素及び/又は亜鉛元素の含有量が10ppm未満である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項7】
水生生物忌避用塗料組成物が複合体(X)を含有し、複合体(X)がビニルアルコール系重合体(A)と無機酸化物(B)とを含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
【請求項8】
けん化度が65モル%を超え88モル%未満であるビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)を含有する複合体(X)を有し、
無機酸化物(B)が、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化リン、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、及び酸化ケイ素からなる群から少なくとも1種であり、
無機酸化物(B)の平均粒子径が、0.10〜100μmである、水生生物忌避塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物忌避効果に優れた塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水生生物には、船舶、魚網等の水中構造物に付着して有害な影響を与えるものが存在する。例えば、フジツボ、イガイ、ヒドロ虫等は、水中に曝される船舶に付着して生育することがあり、これによって船底の表面粗度が増加し、船舶の速度が低下する、燃費が増大する等の不利益をもたらす。これに対し、水生生物の付着を抑制する塗料を水中構造物へ塗布する対策が行われている。
【0003】
このような水生生物の付着を抑制する方法としては、例えば、特許文献1のように、亜酸化銅等の金属防汚成分を含有させた組成物を用いる方法が挙げられる。しかしながら、このような組成物を用いる場合、塗料として船底等の水中構造物に塗布した後、水中への金属成分の拡散、溶出等による自然環境の汚染、及び製造時に有価な銅等の金属資源を消費してしまう問題が生じる。また、特許文献2では、架橋性反応基を導入した高分子化合物とともに、錫やある種の硬化剤を用いて強固な塗膜を形成することにより水生生物の忌避効果を発現させているが、有害な錫を用いること及び硬化剤を用いる等、塗膜の形成までの作業が煩雑であることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−265107号公報
【特許文献2】特開2002−327064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分散安定性に優れ、かつ水生生物に対する忌避効果を長期間に亘って維持できる水生生物忌避用塗料組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、銅元素及び/又は亜鉛元素を含有する化合物を実質的に用いず、環境汚染の恐れがない水生生物忌避用塗料組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、硬化剤及び触媒を用いることなく簡便に製造可能な、水生生物忌避用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のけん化度の範囲を有するビニルアルコール系重合体、無機酸化物及び溶媒を含有する水生生物忌避用塗料組成物によって、前記課題を解決できることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1]けん化度が65モル%を超え88モル%未満であるビニルアルコール系重合体(A)、無機酸化物(B)及び溶媒(C)を含有する、水生生物忌避用塗料組成物。
[2]ビニルアルコール系重合体(A)の20℃における4質量%水溶液の粘度が2.5mPa・sを超え150mPa・s未満である、前記[1]に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
[3]ビニルアルコール系重合体(A)と無機酸化物(B)の質量比(A)/(B)が10/90〜90/10である、前記[1]又は[2]に記載の水生生物忌避用塗料組成物。
[4]無機酸化物(B)が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含む、前記[1]〜[3]のいずれかの水生生物忌避用塗料組成物。
[5]溶媒(C)の沸点が25℃以上250℃未満である、前記[1]〜[4]のいずれかの水生生物忌避用塗料組成物。
[6]銅元素及び/又は亜鉛元素の含有量が10ppm未満である、前記[1]〜[5]のいずれかの水生生物忌避用塗料組成物。
[7]水生生物忌避用塗料組成物が複合体(X)を含有し、複合体(X)がビニルアルコール系重合体(A)と無機酸化物(B)とを含有する、前記[1]〜[6]のいずれかの水生生物忌避用塗料組成物。
[8]けん化度が65モル%を超え88モル%未満であるビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)を含有する複合体(X)を有する、水生生物忌避塗膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、分散安定性に優れ、かつ水生生物に対する忌避効果を長期間に亘って維持できる水生生物忌避用塗料組成物を提供できる。また、本発明の水生生物忌避用塗料組成物は、銅元素及び/又は亜鉛元素を含有する化合物を実質的に用いないため、環境汚染の恐れがない。さらに、本発明の水生生物忌避用塗料組成物は、硬化剤及び触媒を用いることなく簡便に製造できる。
本明細書において、水生生物に対する忌避効果とは、単に水生生物を寄せ付けないという効果だけでなく、水生生物忌避用塗料組成物が水中で徐々に溶出するため、塗料組成物が塗布された水中構造物に対する水生生物の付着を抑制できる効果も含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の詳細を述べる。本発明の水生生物忌避用塗料組成物(以下、「塗料組成物」と略称する場合がある)は、けん化度が65モル%を超え88モル%未満であるビニルアルコール系重合体(A)、無機酸化物(B)及び溶媒(C)を含有する。当該塗料組成物を水中構造物に塗布し、溶媒(C)を乾燥除去することで、ビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)を含有し、水中構造物に水生生物忌避効果に優れる複合体(X)層を形成させることができる。この複合体(X)層が水中に徐々に溶出していくことで、水生生物が付着する足場を作らせないことが重要である。通常、ビニルアルコール系重合体(A)単独では、けん化度が高すぎると、皮膜にした場合に分子間の水素結合量が多くなったり、結晶性が高いために、ある程度けん化度が低い場合の方が水に溶出しやすいはずである。しかしながら、ビニルアルコール系重合体(A)が無機酸化物(B)と複合体(X)を形成することにより、けん化度がある程度低い方が高いものと比較して水への溶出率が低下するという、驚くべき結果を得た。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。また、本明細書において、塗料組成物に関する記載は、特に不都合を生じない限り、上記水生生物忌避用塗料組成物から溶媒(C)を乾燥除去して得られる水生生物忌避塗膜にも適用できる。
【0010】
[ビニルアルコール系重合体(A)]
本発明に用いられるビニルアルコール系重合体(A)としては、けん化度が塗料組成物の調製面、分散安定性及び塗布後の性能の面から、65モル%を超え88モル%未満であることが重要であり、無機酸化物(B)と複合体(X)を形成した際に、より長期に亘る徐放性が得られる点から、65モル%を超え85モル%以下が好ましく、65モル%を超え83モル%以下がより好ましい。けん化度が65モル%以下の場合、ビニルアルコール系重合体(A)の水溶性が低すぎて塗料の調製が困難となる場合があり、また水生生物忌避効果が発揮できない等の問題が生じる場合がある。88モル%以上の場合、塗料とした際の分散安定性が低下し、沈殿を生じたり、水生生物忌避効果が発揮できない場合がある。
【0011】
ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定し得られる値である。
【0012】
ビニルアルコール系重合体(A)の粘度は、取り扱い、塗料の調製面、分散安定性面から、20℃における4%水溶液粘度が2.5mPa・sを超え150mPa・s未満であることが好ましく、3.0mPa・sを超え120mPa・s未満であることがより好ましい。前記粘度は、20℃における4質量%水溶液の値であり、JIS K 6726(1994年)に記載された方法で測定できる。測定機器としては、B型回転粘度計が挙げられる。
【0013】
ビニルアルコール系重合体(A)の重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)の値は5以下が好ましく、生産効率の観点から4以下がより好ましい。
【0014】
ビニルアルコール系重合体(A)は、ラジカル重合によってビニルエステル単量体を重合させた後、けん化を行い製造されることが好ましい。ビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。中でも酢酸ビニルが最も好ましい。けん化の方法は、例えば、アルカリけん化触媒、酸けん化触媒を用いて、公知の方法を使用できる。けん化条件も公知の方法を使用できる。
【0015】
ビニルアルコール系重合体(A)は、未変性ビニルアルコール系重合体であってもよく、本発明の趣旨を損なわない範囲で前記ビニルエステル単量体との共重合等で合成された変性ビニルアルコール系重合体であってもよい。変性ビニルアルコール系重合体に含まれる単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。これらの変性基の含有量は、0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜8.0モル%がより好ましく、0.1〜5.0モル%がさらに好ましい。ビニルアルコール系重合体(A)は、触媒を用いて架橋構造を形成する等の工程が必要なく、簡便に製造できる。
【0016】
ビニルアルコール系重合体(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
[無機酸化物(B)]
本発明に用いられる無機酸化物(B)としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化リン、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)及び酸化ケイ素等の粒子が挙げられる。これらのうち、性能面から、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含むものが好ましく、酸化ケイ素としては、二酸化ケイ素(シリカ)が好ましい。シリカとしては、例えば、非晶質性シリカ(乾式シリカ、湿式シリカ)等が挙げられる。無機酸化物(B)の形状は、例えば、非球状、球状等の形状が挙げられる。非球状の無機酸化物(B)としては、例えば、非球状シリカが挙げられる。非球状シリカは、ケイ酸をゲル化させた三次元形状のコロイド状シリカで、非晶質性であり、且つ、多孔質性の非球状シリカである。非球状シリカは、走査型電子顕微鏡を用いて観察した場合、多孔質シリカであること及び三次元の立体的形状であることが観察でき、平板上ではなく、且つ、球状ではない。
【0018】
無機酸化物(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
無機酸化物(B)の平均粒子径は、例えば、0.10〜100μmが好ましく、1.10〜50μmがより好ましい。本明細書において、平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法により求めることができる。具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2300:島津製作所製)により測定できる。
【0020】
無機酸化物(B)は、市販品を使用してもよい。市販品としては、サイリシア310P、サイリシア320、サイリシア350等のサイリシアシリーズ(富士シリシア化学株式会社製)、アドソリダー(フロイント産業株式会社製)等の非球状シリカ;A−21、A−26、A−210、A−260N、AN−210(住友化学株式会社製)等の酸化アルミニウム(アルミナ)等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる溶媒(C)としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット等の炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレグリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n−ブタノール、プロピルアルコール等のアルコール等が挙げられる。これらのうち、沸点が25℃を超え250℃未満であるものが塗料として塗布する際の塗りやすさ、乾燥しやすさの面で好ましい。
【0022】
溶媒(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の塗料組成物にはビニルアルコール系重合体(A)、無機酸化物(B)及び溶媒(C)が含まれるが、塗料組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、(1)溶媒(C)に対し、ビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)の粉末を直接加える方法;(2)ビニルアルコール系重合体(A)を200℃〜230℃程度の高温で溶融させた後、無機酸化物(B)を加えその複合体(X)を冷却、粉砕し、次いで溶媒(C)に添加する方法;(3)ビニルアルコール系重合体(A)の水溶液に無機酸化物(B)を加えた懸濁液を凍結、融解を繰り返すことでゲルとし、得られたゲルを粉砕することで得た複合体(X)を溶媒(C)に加える方法;(4)ビニルアルコール系重合体(A)の水溶液に無機酸化物(B)を加えた懸濁液を乾固して乾固物を得て、該乾固物を粉砕して複合体(X)を得た後、溶媒(C)に加えて得る方法等が挙げられる。中でも、前記(4)の方法が簡便であり、ビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)がより均一に混合されやすい点から、好ましい。
【0024】
本発明の塗料組成物の他の実施形態としては、上記のように、塗料組成物が複合体(X)を含有し、複合体(X)がビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)を含有するものが挙げられる。複合体(X)を形成することによって、経時的な水中での溶出率(%)をより抑えることができ、より長期的な水生生物忌避効果を得ることができる。また、上記塗料組成物から溶媒(C)を乾燥除去して得られる、けん化度が65モル%を超え88モル%未満であるビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)を含有する複合体(X)を有する水生生物忌避塗膜も、本発明の別の実施形態である。
【0025】
本発明の塗料組成物におけるビニルアルコール系重合体(A)と無機酸化物(B)の質量比(A)/(B)は、特に制限されないが、塗料として用いる際の分散液の安定性の面から、10/90〜90/10の範囲にあることが好ましく、20/80〜80/20の範囲にあることがより好ましく、30/70〜70/30の範囲にあることがさらに好ましい。また、本発明の好適な実施形態としては、複合体(X)において、ビニルアルコール系重合体(A)と無機酸化物(B)の質量比(A)/(B)が前記数値範囲であることが、水生生物忌避効果が発揮され、かつ適切な徐放性が得られることから、好ましい。
【0026】
[銅元素及び/又は亜鉛元素を含有する化合物]
本発明の塗料組成物は、従来より水生生物忌避成分として用いられてきた銅化合物、亜鉛化合物等を実質的に含有しないことが好ましい。すなわち、本発明の塗料組成物に含まれる銅元素及び/又は亜鉛元素の含有量は、環境に対する影響面から、各微少量不純物として含まれる程度であることが好ましく、塗料組成物全体に対して、10ppm未満であることがより好ましく、5ppm未満であることがさらに好ましく、3ppm未満であることが特に好ましい。前記ppmは、質量ppmを意味する。
【0027】
銅元素及び/又は亜鉛元素の含有量は公知の元素分析法を用いて測定できる。公知の元素分析法としては、例えば、ICP 質量分析法 (ICP-MS: Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP 発光分析法 (ICP-AES: Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法 (AAS: Atomic Absorption Spectrometry)等が挙げられる。
【0028】
[その他の添加剤]
本発明の趣旨を損なわない範囲で、塗料の安定性向上、pH調整等の面から、界面活性剤、pH調整剤、可塑剤、顔料等を添加しても差し支えない。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、これらの添加剤を添加しても、添加後の塗料組成物及び水生生物忌避塗膜において、銅元素及び/又は亜鉛元素は、実質的に含有しないことが好ましく、銅元素及び/又は亜鉛元素を含有する場合であっても、環境に対する影響面から、上述した数値範囲内であることがより好ましい。
【0029】
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、エーテル類(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等);エステル類(ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等);アミド類(オレイン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド;ラウリン酸モノエタノールアミド等の脂肪酸モノエタノールアミド;ラウリン酸モノイソプロパノールアミド等の脂肪酸モノイソプロパノールアミド等);ポリオキシエチレン誘導体(オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等)等が挙げられる。
【0031】
カチオン界面活性剤としては、例えば、アミン塩(N−アシルアミノエチルジエチルアミン塩等);第4級アンモニウム塩(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルコキシアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0032】
アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸塩(高級脂肪酸(炭素数12〜18)のカルボン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸塩等);硫酸エステル塩(アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等);スルホン酸塩(アルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルアミドスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等);リン酸エステル塩(アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等)等が挙げられる。
【0033】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0034】
両性界面活性剤としては、例えば、グリシン塩(アルキルグリシン塩、カルボキシメチルグリシン塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルグリシン塩、アルキルポリアミノポリカルボキシグリシン塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アルキルイミノジプロピオン酸塩、N−アシルアミノエチル−N−2−ヒドロキシエチルプロピオン酸塩等);スルホベタイン類;ホスホベタイン類;カルボキシベタイン類(アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン等);スルホン酸塩(N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−プロピルスルホン酸塩、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩、N−脂肪酸アミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム−N−(2−ヒドロキシプロピル)スルホン酸塩等)等が挙げられる。
【0035】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アルキルアラルキルポリエーテル変性シリコーン、エポキシポリエーテル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、スルホン酸変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、リン酸変性シリコーン、アンモニウム塩変性シリコーン、スルホベタイン変性シリコーン等が挙げられる。
【0036】
pH調整剤としては、例えば、酸性化合物、又は塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、オルトリン酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、テトラホウ酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。酸性化合物としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸;クエン酸、クエン酸三ナトリウム等の有機酸が挙げられる。
【0037】
可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレンジリン酸、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルスズラウリレート、ジブチルスズラウリレート等の有機スズ系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等が挙げられる。
【0038】
複合体(X)としては、複合体(X)の20℃における水への溶出率(%)が、水中での攪拌開始から100日後時点で、80%以下であるものが好ましく、60%未満であるものがより好ましく、55%以下であるものがさらに好ましく、50%以下であるものが特に好ましい。溶出率(%)の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0039】
また、複合体(X)としては、複合体(X)の20℃における水への溶出率(%)が、水中での攪拌置開始から200日後時点で、90%以下であるものが好ましく、70%未満であるものがより好ましく、65%以下であるものがさらに好ましく、60%以下であるものが特に好ましい。溶出率(%)の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
【0040】
複合体(X)としては、水中構造物に塗布した際に水生生物忌避効果を発揮する均一な膜を形成できる観点から、粒子径が1000μm以下であることが好ましい。前記粒子径は、公知の粉砕機、破砕機を用いて粉砕することで調整できる。複合体(X)の粒子径はタイラー(Tyler)メッシュ基準の金網を使用して、JIS Z 8815:1994に記載の乾式篩法により粒度分布を測定する。その結果からロジン・ラムラー(Rosin-Rammler)プロットを用いて算出する。
【0041】
本発明の塗料組成物を使用する水中構造物としては、例えば、船舶、漁業資材(例:ロープ、漁網、浮き子、ブイ)、海底トンネル、港湾設備等が挙げられる。
【0042】
本発明の塗料組成物は、アオサ、フジツボ、イガイ、ヒドロ虫、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水生生物の付着を長期間継続的に防止できる。
【0043】
[塗料組成物の塗布方法]
本発明の塗料組成物の水中構造物への塗布方法に制限はない。スプレー等を用いて噴霧しても、ハケ等を用いての塗布でも構わない。
【0044】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」はそれぞれ「質量部」、「質量%」を意味する。
【0046】
[複合体(X−1)の製造]
けん化度80モル%、4%粘度(20℃における4質量%水溶液の粘度)が32mPa・sであるビニルアルコール系重合体(A)5部を室温下、蒸留水95部に加え完全に溶解するまで攪拌し5%ビニルアルコール系重合体(A)水溶液を得た。得られた水溶液に無機酸化物(B)として非球状シリカ(商品名:サイリシア350;平均粒子径3.9μm、富士シリシア化学株式会社製)7.5部を加え室温下10分攪拌し分散させた。得られた分散液を110℃の乾燥機に入れ乾固させた。得られた乾固物を粒子径1000μm以下に粉砕することでビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)を含有する複合体(X−1)を得た。
【0047】
得られた複合体(X−1)は溶媒(C)に加え塗料組成物とした後、水中構造物に塗布し、溶媒(C)を乾燥除去することで水中構造物に水生生物忌避効果のある複合体(X−1)層を形成させる。この複合体(X−1)層が水中に徐々に溶出していくことで、水生生物が付着する足場を作らせないことが重要である。水への溶出が多すぎれば、水生生物忌避効果に優れる複合体(X−1)層の絶対量が短期間で減少するため、長期間に亘る水生生物忌避効果が不十分となる。一方、水への溶出が少なければ水生生物忌避効果が弱いため、水生生物の付着足場が形成されやすくなる。したがって、水生生物忌避効果を発揮できる程度に適当な量を長期間に亘って徐放していくことが重要である。そこで、上記複合体(X−1)の水への溶出について以下の方法で評価した。
【0048】
[複合体(X−1)の水への溶出性]
上記のようにして得られた複合体(X−1)を水中にて攪拌した。攪拌開始から150rpmで攪拌を継続し、表1に示される各日数の時点において、複合体(X−1)を取り出し、取り出した複合体(X−1)について、以下の方法で水への溶出率を評価した。
複合体(X−1)5gを蒸留水45gに20℃で攪拌分散させ、任意の時間攪拌を継続した後、遠心分離により固体部分と液体部分に分離し、液体部分を乾固させることで、複合体中から蒸留水に溶出したビニルアルコール系重合体(A)の割合を次式により算出した。結果を表1に示す。徐々に溶出率が増加し、水中での攪拌開始から200日後の溶出率は46%であった。
溶出率(%)=(遠心分離後の液体部分に含まれる固形分(g)/複合体(X)に含まれるビニルアルコール系重合体(A)の質量(g))×100
【0049】
[複合体(X−2)〜(X−11)の製造]
ビニルアルコール系重合体(A)及び無機酸化物(B)の種類、並びに使用量を変えたこと以外は複合体(X−1)と同様にして複合体(X−2)〜(X−11)を得た。複合体(X−10)はビニルアルコール系重合体(A)としてけん化度50モル%のものを用いたがけん化度が低すぎたためか水に溶解せず、粘度を測定することはできなかった。表1から、ビニルアルコール系重合体(A)単独では、けん化度が高すぎると、皮膜にした場合に分子間の水素結合量が多くなったり、結晶性が高いために、ある程度けん化度が低い場合の方が水に溶出しやすいはずである。しかしながら、無機酸化物(B)と複合体(X)を形成することにより、けん化度がある程度低い方が、けん化度が高いものと比較して水への溶出率が低下するという、驚くべき結果を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
[実施例1]
得られた複合体(X−1)を10部、溶媒(C)として酢酸ブチル100部を用いて常温攪拌下分散させ塗料組成物1を得た。得られた塗料組成物1を船底に塗布し、常温にて溶媒を揮発させ、岡山県玉野港の海水中に浸漬した。浸漬から200日後の水生生物の付着状況を確認したが、付着はほぼ見られなかった。
【0052】
得られた水生生物忌避用塗料組成物について、以下の方法で評価した。また、塗料組成物1の銅元素及び/又は亜鉛元素)の含有量を公知の元素分析法を用いて測定した。具体的には、塗料組成物1を2g白金るつぼに取り、加熱炭化させたのち、硫酸、硝酸を各1ml加え電気炉(600℃)で完全に灰化させた。次いでフッ化水素酸5mlで加熱溶解させ、蒸発乾固する。固形分を塩酸2mlで溶解させ25mlに蒸留水で希釈する前処理を行った後、ICP−質量分析法を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0053】
[塗料組成物の分散安定性]
複合体(X)を溶媒(C)に分散させた塗料組成物は、放置することによっていずれ沈殿を生じ、層分離する。分散安定性は、得られた塗料組成物を常温下で製造直後から10分放置した際に分散質の層と溶媒の層に分離するかを目視確認して評価した。評価基準は以下のようにした。
A:ほぼ層分離なし
B:層の境目が分散液全体の液面高さに対して5割以上8割以下の高さに見受けられる。
C:層の境目が分散液全体の液面高さに対して5割未満の高さに見受けられる。
塗料組成物の分散安定性が悪いことは、塗料として塗布した際のムラに影響し、水生生物の忌避効果に悪影響を与える。
【0054】
[水生生物忌避活性の評価]
塗料組成物を塗布した船底部分の水生生物の付着具合の200日後の目視による評価基準を以下に示す。
A:付着がほぼ見られない(塗布面の3割未満)
B:塗布面の3割以上5割の面積に付着が見られる
C:塗布面の5割以上8割未満の面積に付着が見られる
D:塗布面のほぼ全ての面積に付着が見られる(塗布面の8割以上)
【0055】
[実施例2〜9]
複合体(X)の種類又は溶媒(C)の種類を変えたこと以外は実施例1と同様にして、水生生物忌避用塗料組成物を作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0056】
[比較例1]
複合体(X−8)を使用したこと以外は実施例1と同様にして評価したが、無機酸化物(B)が含まれていないため、塗料組成物の分散安定性が低く、水生生物の付着も多かった。なお、複合体(X−8)の水への溶出試験結果(表1)でも溶出が早すぎ、水生生物忌避用塗料組成物として耐久性が低すぎる結果となった。
【0057】
[比較例2]
複合体(X−9)を使用したこと以外は実施例1と同様にして評価したが、ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が高すぎるため、塗料組成物の分散安定性が低く、沈殿を生じやすい結果となり、水生生物の付着も多かった。なお、複合体(X−9)の水への溶出試験結果(表1)でも溶出が早すぎ、水生生物忌避用塗料組成物として耐久性が低すぎる結果となった。
【0058】
[比較例3]
複合体(X−10)を使用したこと以外は実施例1と同様にして評価したが、ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が低すぎるため、塗料組成物の分散安定性が低く、水生生物の付着も多かった。なお、複合体の形成時にビニルアルコール系重合体(A)が水に溶解していなかったため、複合体の形成自体うまく成されていない模様であった。
【0059】
[比較例4]
複合体(X−11)を使用したこと以外は実施例1と同様にして評価したが、ビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が高すぎるため、塗料組成物の分散安定性が低く、水生生物の付着も多かった。なお、複合体(X−11)の水への溶出試験結果(表1)でも実施例と比較すると溶出が早く、水生生物忌避用塗料組成物として耐久性が低い結果となった。
【0060】
【表2】
【0061】
上記結果から、本発明の水生生物忌避用塗料組成物は、分散安定性に優れ、かつ水生生物に対する忌避効果を長期間に亘って維持できることが確認できた。さらに、本発明の水生生物忌避用塗料組成物は、銅元素及び/又は亜鉛元素を含有する化合物を実質的に含有しないため、環境汚染の恐れがない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
実施例において示されているように、本発明の水生生物忌避用塗料組成物は優れた分散安定性と水生生物忌避効果を有する。本塗料組成物は、簡便に調整可能であり、かつ、これまでの水生生物忌避用塗料組成物と異なり、銅等の重金属を実質的に含まないため地球環境に優しく、金属資源の浪費を抑制可能である。したがって、本発明の工業的な有用性は極めて高い。