(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6969917
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】多結晶シリコン棒および多結晶シリコン棒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/035 20060101AFI20211111BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
C01B33/035
C01B33/02 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-136073(P2017-136073)
(22)【出願日】2017年7月12日
(65)【公開番号】特開2019-19010(P2019-19010A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2019年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100117444
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 健一
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 秀一
(72)【発明者】
【氏名】星野 成大
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】祢津 茂義
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌彦
【審査官】
小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−003844(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/047259(WO,A1)
【文献】
特開2016−052970(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/125207(WO,A1)
【文献】
特表2014−522799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/035
C01B 33/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相法による析出により育成された多結晶シリコン棒であって、
前記多結晶シリコン棒の直径(2R)が150mm以上であり、
該多結晶シリコン棒の中心領域、R/2領域、および外側領域から採取された板状試料の中心を回転中心として角度φ=180度で面内回転させて得られたX線回折チャートを求めたときに、<220>面からの回折強度の変動の程度を6σn-1/平均値で評価したときに、中心領域においては0.12以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.54以下であることを特徴とする多結晶シリコン棒。
なお、σn-1は標準偏差である。
【請求項2】
前記<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.09以下、R/2領域においては0.15以下、外側領域においては0.20以下である、請求項1に記載の多結晶シリコン棒。
【請求項3】
前記<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.08以下、R/2領域においては0.10以下、外側領域においては0.10以下である、請求項1に記載の多結晶シリコン棒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン棒の結晶成長技術に関し、より詳細には、単結晶シリコンの製造原料として好適な多結晶シリコン棒の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造に不可欠な単結晶シリコンは、CZ法やFZ法により結晶育成され、その際の原料として多結晶シリコン棒や多結晶シリコン塊が用いられる。このような多結晶シリコン材料は多くの場合、シーメンス法により製造される。シーメンス法とは、トリクロロシランやモノシラン等のシラン原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により気相成長(析出)させる方法である。
【0003】
例えば、CZ法で単結晶シリコンを結晶育成する際には、石英ルツボ内に多結晶シリコン塊をチャージし、これを加熱溶融させたシリコン融液に種結晶を漬けて転位線を消滅させ、無転位化させた後に所定の直径となるまで徐々に径拡大させて結晶の引上げが行われる。このとき、シリコン融液中に未溶融の多結晶シリコンが残存していると、この未溶融多結晶片が対流により固液界面近傍を漂い、転位発生を誘発して結晶線を消失させてしまう原因となる。
【0004】
また、特許文献1には、多結晶シリコンロッド(多結晶シリコン棒)をシーメンス法で製造する工程中に該ロッド中で針状結晶が析出することがあり、かかる多結晶シリコン棒を用いてFZ法による単結晶シリコン育成を行うと、上述の不均質な微細構造によって個々の晶子がその大きさに相応して均一には溶融せず、不溶融の晶子が固体粒子として溶融帯域をとおって単結晶ロッドへと通り抜けて未溶融粒子として単結晶の凝固面に組み込まれ、これにより欠陥形成が引き起こされる旨が報告されている。なお、針状結晶については、特許文献2や3も参照されたい。
【0005】
ここで言う針状結晶とは、その長軸方向を、多結晶シリコン棒の析出方向(多結晶シリコン棒の長軸方向に垂直な方向)とする針状の結晶である。針状結晶の長軸方向の長さは長いものでは数mm程度にもなる。このような針状結晶は、多結晶シリコンが析出する過程で発生した局所的に不均質な結晶が、析出工程が進むにつれて相互に連結することで一体化することで形成されるものと考えられる。このような局所的不均質結晶や針状結晶が内在する多結晶シリコン棒を用いてFZ法による単結晶シリコンの結晶育成を行うと、局所的不均質結晶や針状結晶がシリコン融液中に浮遊することとが起こり、結晶成長に不具合が生じる。このため、局所的不均質結晶や針状結晶を含まない多結晶シリコン棒の育成技術が求められることとなる。なお、結晶学的には、針状結晶は、ミラー指数にて比較すると、<220>が<111>よりも優位(X線回折による検出量を比較すると、検出量が<220>の方が多い。)である特徴を有しており、針状結晶が存在しない領域は、<111>が優位である。
【0006】
特許文献4には、<111>を主面とする局所的不均質結晶は、多結晶シリコン棒の中心部(芯線に近い部分)に発生し易いことが報告されている。一方、結晶粒径の測定をEBSDにより行うと、局所的不均質結晶は、その外観とは別に、不均質結晶を構成する結晶方位まで計数するが、不均質であることの情報を得ることが出来ない。局所的不均質結晶を検出するための最も良い方法は、フッ酸、硝酸混合、水溶液によるエッチングを行い、光学顕微鏡にて観察する方法である。光学顕微鏡により100倍程度の倍率で観察をすると、多くの場合、局所的不均質結晶は、長径が10μm以上の結晶部分として確認できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−285403号公報
【特許文献2】特開2013−193902号公報
【特許文献3】特開2014−028747号公報
【特許文献4】特開2016−150885号公報
【特許文献5】特開2015−003844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
言うまでもなく、CZ法にせよFZ法にせよ、育成される単結晶シリコンは大型化しており、現在では直径は6インチから8インチのものが主流であり、このような大口径化に伴い、多結晶中に存在する不均質部位が単結晶化の工程で及ぼす悪影響(結晶線の消失、結晶線の湾曲や乱れなど)が顕著になってきた。このため、製造用原料として用いられる多結晶シリコンには、これまで以上の高い結晶均質性が求められるようになってきている。具体的には、針状結晶を含まず、局所的不均質結晶を含まないことである。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコンを提供し、単結晶シリコンの安定的製造に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコン棒は、化学気相法による析出により育成された多結晶シリコン棒であって、前記多結晶シリコン棒の長軸方向に垂直な方向の粒径d
Vが前記多結晶シリコン棒の長軸方向に平行な方向の粒径d
Pよりも大きい(d
V>d
P)形状の針状結晶を含まないことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る多結晶シリコン棒は、化学気相法による析出により育成された多結晶シリコン棒であって、多結晶シリコン棒の長軸方向に垂直な方向を主面の方向とするように採取された板状試料の表面をフッ酸と硝酸の混合液でエッチングした際に、当該エッチング面において10μm以上の粒径の局所的不均質結晶を含まないことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る多結晶シリコン棒は、化学気相法による析出により育成された多結晶シリコン棒であって、多結晶シリコン棒の直径(2R)が150mm以上であり、該多結晶シリコン棒の中心領域、R/2領域、および外側領域から採取された板状試料の中心を回転中心として角度φ=180度で面内回転させて得られたX線回折チャートを求めたときに、<220>面からの回折強度の変動の程度を6σ
n-1/平均値で評価したときに、中心領域においては0.15以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.58以下である、ことを特徴とする。なお、σ
n-1は標準偏差である。
【0013】
好ましくは、前記<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.12以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.54以下である。
【0014】
より好ましくは、前記<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.09以下、R/2領域においては0.15以下、外側領域においては0.20以下である。
【0015】
さらに好ましくは、前記<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.08以下、R/2領域においては0.10以下、外側領域においては0.10以下である。
【0016】
また、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、化学気相法による析出により直径が150mm以上の多結晶シリコン棒を製造する方法であって、反応炉内に複数対のシリコン芯線を配置し、前記多結晶シリコン棒の最終直径の平均値をD(mm)とし、前記複数対のシリコン芯線の相互間隔をL(mm)としたときに、D/Lの値を0.40未満の範囲に設定する、ことを特徴とする。
【0017】
好ましくは、多結晶シリコンの析出工程中の反応圧力を0.2MPa以上に設定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る多結晶シリコン棒を用いてFZ法により結晶育成を行ったり、多結晶シリコンブロックから得られた塊を用いてCZ法により結晶育成することにより、部分的な溶融残りの局部的な発生が抑制され、単結晶シリコンの安定的な製造に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】化学気相法で析出させて育成された多結晶シリコン棒からの、X線回折プロファイル測定用の板状試料の採取例について説明するための図である。
【
図1B】化学気相法で析出させて育成された多結晶シリコン棒からの、X線回折プロファイル測定用の板状試料の採取例について説明するための図である。
【
図2】板状試料からのX線回折プロファイルをφスキャン法で求める際の測定系例の概略を説明するための図である。
【
図3A】D/Lの値が0.69の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料の<220>面からのX線回折チャートである。
【
図3B】D/Lの値が0.36の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料の<220>面からのX線回折チャートである。
【
図4A】
図3Aに示した板状試料の表面をフッ酸と硝酸の混合液によりエッチングして光学顕微鏡観察した結果である。
【
図4B】
図3Bに示した板状試料の表面をフッ酸と硝酸の混合液によりエッチングして光学顕微鏡観察した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明者らは、特開2015−3844号公報(特許文献5)において、単結晶シリコンを高い歩留まりで安定的に製造するためには、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコンを、高い定量性と再現性で選別する高度な技術が求められている現状に鑑み、単結晶シリコン製造用原料として用いる多結晶シリコン棒をX線回折法により選択するための方法の発明を提案し、当該発明は特許第5947248号として登録されている。
【0022】
この方法では、化学気相法による析出により育成された多結晶シリコン棒から、径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を採取し、該板状試料を第1のミラー指数面<111>からのブラッグ反射が検出される位置に配置し、スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように該板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度(φ)依存性を示すチャートを求め、該チャートからベースラインの回折強度値(I
B<111>)を求め、さらに、同様の手法により、第2のミラー指数面<220>から得られるφスキャン・チャートからベースラインの回折強度値(I
B<220>)を求め、前記I
B<111>値と前記I
B<220>値の大小関係が下記の2条件を同時に満足する場合に、単結晶シリコン製造用原料として選択するというものである。
【0023】
なお、上記の2条件とは、条件1:「半径Rの前記多結晶シリコン棒の径方向の中心からR/3以内の位置から採取した前記板状試料で得られた前記I
B<111>と前記I
B<220>が、I
B<111>>I
B<220>を満足する。」、および、条件2:「半径Rの前記多結晶シリコン棒の径方向の中心から2R/3以上で3R/3以内の位置から採取した前記板状試料で得られた前記I
B<111>値と前記I
B<220>値が、I
B<111><I
B<220>を満足する。」というものである。
【0024】
ミラー指数面<111>を主面とする局所的不均質結晶が多く含まれているほど、上述のφスキャン・チャートには、ベースラインの強度を超えるミラー指数面<111>からの回折ピークが認められるようになる。同様に、ミラー指数面<220>を主面とする針状結晶や局所的不均質結晶が多く含まれているほど、上述のφスキャン・チャートには、ベースラインの強度を超えるミラー指数面<220>からの回折ピークが認められるようになる。そして、このような回折ピークの存在は、φスキャン・チャートから評価し得るミラー指数面<111>や<220>の回折強度のバラツキとして評価することが可能である。よって、このような回折強度のバラツキを定量的に評価できれば、ミラー指数面<111>や<220>を主面とする針状結晶や局所的不均質結晶含まれている程度の指標とすることが可能である。
【0025】
本発明者らが検討したところによれば、ミラー指数面<111>の回折強度のバラツキは、多結晶シリコン析出時における電流加熱の負荷が高まる部位(主にシリコン芯線近傍)にて生じ易く、ミラー指数面<220>の回折強度のバラツキは、隣接する多結晶シリコン棒からの輻射熱を受容する部位(主に多結晶シリコン棒の外側)にて生じ易いことが判明した。
【0026】
<111>を主面とする局所的不均質結晶は、多結晶シリコン棒の中心部に発生し易いことが本発明者らにより既に報告されており(特許文献4)、多結晶シリコン棒の中心部の温度設定を適切に制御することにより、ミラー指数面<111>の回折強度のバラツキを抑えることができる。
【0027】
これに対し、<220>を主面とする局所的不均質結晶は、隣接する多結晶シリコン棒からの輻射熱を受容する部位(主に多結晶シリコン棒の外側)に発生し易いから、隣接する多結晶シリコン棒からの輻射熱を考慮することが求められる。
【0028】
本発明者らは、この輻射熱の問題を検討した結果、化学気相法による析出により直径が150mm以上の多結晶シリコン棒を製造するに際し、反応炉内に複数対のシリコン芯線を配置し、前記多結晶シリコン棒の最終直径の平均値をD(mm)とし、前記複数対のシリコン芯線の相互間隔をL(mm)としたときに、D/Lの値を0.40未満の範囲に設定することとすると、<220>を主面とする針状結晶、並びに局所的不均質結晶の発生を効果的に抑制することができるとの知見に至った。
【0029】
具体的には、上記方法により、化学気相法による析出により育成された多結晶シリコン棒であって、前記多結晶シリコン棒の直径(2R)が150mm以上であり、該多結晶シリコン棒の中心領域、R/2領域、および外側領域から採取された板状試料の中心を回転中心として角度φ=180度で面内回転させて得られたX線回折チャートを求めたときに、<220>面からの回折強度の変動の程度を6σ
n-1/平均値で評価したときに、中心領域においては0.15以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.58以下である多結晶シリコン棒を得ることができる。なお、ここではミラー指数面<220>の回折強度のバラツキの程度(<220>面からの回折強度の変動の程度)は6σ
n-1/平均値で評価しており、σ
n-1は標準偏差である。
【0030】
このように、本発明においては、結晶の均質性の程度をミラー指数面<220>の回折強度のバラツキの程度で評価している。以下に、その評価の手順を説明する。
【0031】
[評価試料の採取]
図1A及び
図1Bは、シーメンス法などの化学気相法で析出させて育成された多結晶シリコン棒10からの、X線回折プロファイル測定用の板状試料20の採取例について説明するための図である。図中、符号1で示したものは、表面に多結晶シリコンを析出させてシリコン棒とするためのシリコン芯線である。なお、この例では、結晶均質性を評価すべく3つの部位(CTR:シリコン芯線1に近い部位、EDG:多結晶シリコン棒10の外側面に近い部位、R/2:CTRとEGDの中間の部位)から板状試料20を採取している。なお、この図に示した例では、板状試料20を、多結晶シリコン棒10の長軸方向と垂直な方向からくり抜き採取している。
【0032】
図1Aで例示した多結晶シリコン棒10の直径は150mm以上であり、この多結晶シリコン棒10の外側面側から、直径が概ね20mmで長さが概ね70mmのロッド11を、シリコン芯線1の長手方向と垂直にくり抜く。
【0033】
そして、
図1Bに図示したように、このロッド11のシリコン芯線1に近い部位(CTR)、多結晶シリコン棒10の側面に近い部位(EDG)、CTRとEGDの中間の部位(R/2)からそれぞれ、多結晶シリコン棒10の径方向に垂直な断面を主面とする厚みが概ね2mmの板状試料(20
CTR、20
EDG、20
R/2)を採取する。
【0034】
なお、ロッド11を採取する部位、長さ、および本数は、シリコン棒10の直径やくり抜くロッド11の直径に応じて適宜定めればよく、板状試料20もくり抜いたロッド11のどの部位から採取してもよいが、シリコン棒10全体の性状を合理的に推定可能な位置であることが好ましい。
【0035】
また、板状試料20の直径を概ね20mmとしたのも例示に過ぎず、直径はX線回折測定時に支障がない範囲で適当に定めればよい。なお、結晶の組織観察を光学顕微鏡にて観察するために、板状試料20の表面をラップ研磨した後、フッ酸と硝酸の混合液によりエッチングを行うようにしてもよい。
【0036】
[X線回折チャート]
図2は、板状試料20からのX線回折プロファイルをφスキャン法で求める際の測定系例の概略を説明するための図で、この図に示した例では、板状試料20の両周端に渡る領域にスリットにより定められる細い矩形の領域にX線を照射させ、このX線照射領域が板状試料20の全面をスキャンするように板状試料20の中心を回転中心としてYZ面内で回転(φ=0°〜180°)させる。板状試料20を、<220>面からの回折強度が得られる角度にセットする。スリット30から射出されてコリメートされたX線ビーム40(Cu−Kα線:波長1.54Å)は板状試料20に入射し、板状試料20をYZ平面内で回転させながら(φスキャン測定)、試料回転角度(θ)毎の回折X線ビームの強度を検知器(不図示)で検出してX線回折チャート(φスキャン・チャート)を得る。
【0037】
図3Aおよび
図3Bは、上記手順で得られたX線回折チャートの例で、
図3Aに示したものは、反応炉内に複数対のシリコン芯線を配置し、多結晶シリコン棒の最終直径の平均値をD(mm)とし、複数対のシリコン芯線の相互間隔をL(mm)としたときに、D/Lの値が0.69の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料の<220>面からのX線回折チャート、
図3Bに示したものは、上記D/Lの値が0.36の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料の<220>面からのX線回折チャートである。
【0038】
図3AのX線回折チャートには、ベースラインの強度を超えるミラー指数面<220>からの回折ピークが多数認められる。これに対し、
図3BのX線回折チャートには、ベースラインの強度を超えるミラー指数面<220>からの回折ピークは認められていない。この結果は、D/Lの値が0.69の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料にはミラー指数面<220>を主面とする針状結晶や局所的不均質結晶が多く含まれている一方、D/Lの値が0.36の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料にはミラー指数面<220>を主面とする針状結晶や局所的不均質結晶が殆ど含まれていないことを意味している。
【0039】
図4Aおよび
図4Bは、これら板状試料の表面をフッ酸と硝酸の混合液によりエッチングして光学顕微鏡観察した結果である。D/Lの値が0.69の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料(
図4A)には多くの針状結晶や局所的不均質結晶が認められる一方、D/Lの値が0.36の条件で育成された多結晶シリコン棒から採取された板状試料(
図4B)には斯かる不均質部分が認められない。
【実施例】
【0040】
反応炉内に複数対のシリコン芯線を配置してシーメンス法により多結晶シリコン棒を育成した。多結晶シリコン棒の析出工程後の直径の平均値Dは150〜300mmの範囲に設定した。なお、複数対のシリコン芯線の相互間隔L(mm)は、シリコン芯線の両下端部が収容される2つの電極を結ぶ中心点の相互間距離を変えることで設定した。反応炉は内径1.8mで高さ3mであり、多結晶シリコンの原料であるトリクロロシランのガス濃度は30vol%、希釈用の水素ガスの流量は100Nm
3/時間である。
【0041】
実施例1〜9および比較例1〜5の多結晶シリコン棒の評価結果を、表1および表2に纏めた。なお、表中に「局所的不均質結晶」と記したものは、多結晶シリコン棒の長軸方向に垂直な方向を主面の方向とするように採取された板状試料の表面をフッ酸と硝酸の混合液でエッチングした際に、当該エッチング面において10μm以上の粒径の局所的不均質部分として確認されたものである。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
なお、表1中に示した表面温度は放射温度計にて測定した値であり、高さ方向の中央部であり、あくまでも参考値である。
【0045】
表1に示された結果によれば、実施例1〜4にものは何れも、<220>面からの回折強度の変動の程度を6σ
n-1/平均値で評価したときに、中心領域においては0.15以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.58以下であり、結晶的にも均質であり、これをFZ法による単結晶化の原料として用いた場合にも結晶線の消失は認められていない。
【0046】
また、D/Lの値が小さくなるにつれて、<220>面からの回折強度の変動の程度も小さくなっている。具体的には、実施例2のものでは、<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.12以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.54以下であり、実施例3のものでは、<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.09以下、R/2領域においては0.15以下、外側領域においては0.20以下であり、実施例4のものでは、<220>面からの回折強度の変動の程度が、中心領域においては0.08以下、R/2領域においては0.10以下、外側領域においては0.10以下である。
【0047】
これに対し、比較例のものは何れも、6σ
n-1/平均値で評価したときの<220>面からの回折強度の変動の程度が、「中心領域においては0.15以下、R/2領域においては0.30以下、外側領域においては0.58以下」の条件を満足しておらず、これをFZ法による単結晶化の原料として用いた場合には結晶線の消失が認められている。
【0048】
また、表2に示した結果から、多結晶シリコンの析出工程中の反応圧力を0.2MPa以上に設定することとすると、高い結晶均質性が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコンを提供する。その結果、単結晶シリコンの安定的製造に寄与する。
【符号の説明】
【0050】
1 シリコン芯線
10 多結晶シリコン棒
11 ロッド
20 板状試料
30 スリット
40 X線ビーム