特許第6970178号(P6970178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6970178ポリケトン樹脂組成物およびポリケトン樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6970178
(24)【登録日】2021年11月1日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】ポリケトン樹脂組成物およびポリケトン樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 73/00 20060101AFI20211111BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20211111BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C08L73/00
   C08L69/00
   C08L67/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-503442(P2019-503442)
(86)(22)【出願日】2017年12月27日
(65)【公表番号】特表2019-521239(P2019-521239A)
(43)【公表日】2019年7月25日
(86)【国際出願番号】KR2017015579
(87)【国際公開番号】WO2018124745
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2019年1月22日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0180048
(32)【優先日】2016年12月27日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0180269
(32)【優先日】2017年12月26日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】パク、スン−ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン−キョン
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−001601(JP,A)
【文献】 特開2006−335909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリケトン100重量部に対して、
1重量部以上100重量部未満のポリアルキレンカーボネートと、
1乃至30重量部のポリラクチドを含み、
前記ポリアルキレンカーボネートは、ポリエチレンカーボネートであり、
前記ポリケトンは、下記化学式1で表される繰り返し単位を1種以上含む脂肪族ポリケトンである、ポリケトン樹脂組成物。
【化1】
前記化学式1において、
Rは、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、またはブチレン単位である。
【請求項2】
前記ポリケトンは、二元共重合体または三元共重合体である、請求項1に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリケトンは、重量平均分子量が10,000乃至1,000,000g/molである、請求項1または2に記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアルキレンカーボネートは、重量平均分子量が10,000乃至1,000,000g/molである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリラクチドは、重量平均分子量が10,000乃至1,000,000g/molである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項6】
240℃に露出した時、600秒以内の粘度上昇率が10%以下である、請求項1〜のいずれかに記載のポリケトン樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載のポリケトン樹脂組成物を利用して製造される、ポリケトン樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2016年12月27日付韓国特許出願第10−2016−0180048号および2017年12月26日付韓国特許出願第10−2017−0180269号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として組み含まれる。
【0002】
本発明は、ポリケトン樹脂組成物およびこれを利用して製造されたポリケトン樹脂成形品に関し、具体的に、ポリケトンおよびポリアルキレンカーボネートを特定の含有量で含み、ポリケトンの溶融安定性および加工性を向上させた、ポリケトン樹脂およびポリケトン樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0003】
現代社会では、多くの産業分野で多様な種類の熱可塑性あるいは熱硬化性プラスチック樹脂が用いられており、電子、化学、建築産業などの発展に伴い、優れた物性を有する、高性能プラスチックに対する要求が高まっている。
【0004】
ポリケトン(Polyketone)は、ポリアミド、ポリエステルおよびポリカーボネートなど、多様な産業分野に幅広く用いられるエンジニアリングプラスチックなどと対比すると、原料、重合工程などの側面において経済的に安価である共に、耐熱性、耐化学性、遮断性(耐燃料透過性)および耐摩耗性など物理的化学的物性に優れた特徴がある。
【0005】
そこで、ポリケトンまたはポリケトン樹脂などとして知られている、一酸化炭素系高分子樹脂に対する関心が高まっており、米国特許第4,880,903号などには、一酸化炭素とエチレンと他のオレフィン系不飽和炭化水素、例えばプロピレン(propylene)からなる線状交互ポリケトントターポリマー(polyketone terpolymer)を開示している。
【0006】
このようなポリケトン高分子の製造方法としては、通常、パラジウム(palladium)、コバルト(cobalt)またはニッケル(nikel)の中から選択された第VIII族金属の化合物、非ハイドロハロゲン系酸の陰イオン(non−hydrohalogenic conjugation base)、およびリン、砒素またはアンチモン(Antimon)の配位子を含む触媒組成物を用いて、一酸化炭素およびオレフィン系炭化水素を重合する方法が知られている。
【0007】
しかし、このようなポリケトン高分子は、高温の樹脂溶融条件で溶融された樹脂の粘度が時間により持続的に上昇して、加工性が低下し、パージング(purging)などのために加工設備を頻繁にシャットダウン(shutdown)しなければならないなど、加工条件に多くの制約が発生するという問題点がある。
【0008】
そこで、既存の優れた物性を維持しながらも、高温条件で溶融安定性および加工性に優れたポリケトン樹脂に対する研究が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高温条件で溶融安定性に優れ、これによって加工性に優れた、ポリケトン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリケトン100重量部に対して、1重量部以上100重量部未満のポリアルキレンカーボネートを含む、ポリケトン樹脂組成物を提供する。
【0011】
一例によれば、前記ポリケトンは、下記化学式1で表される繰り返し単位を1種以上含むものであってもよい。
【0012】
【化1】
【0013】
前記化学式1で、
Rは、
炭素数1乃至10の、線状または分岐状アルキレン;炭素数1乃至10の、アリーレン;炭素数1乃至10の、アルキルエーテル;炭素数1乃至10の、アリールエーテル;炭素数1乃至10のアルキルエステル;または炭素数1乃至10の、アリールエステルであり、
nは、10乃至1000の整数である。
【0014】
より具体的に、前記ポリケトンは、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、またはブチレン単位を含む脂肪族ポリケトンであることが好ましくなり得る。
【0015】
発明の一実施例によれば、前記ポリケトンは、二元共重合体または三元共重合体であることがより好ましくなり得る。
【0016】
そして、前記ポリケトンは、重量平均分子量が約10,000乃至約1,000,000g/molであってもよい。
【0017】
発明の他の一実施例によれば、前記ポリアルキレンカーボネートは、下記化学式2で表される繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0018】
【化2】
【0019】
前記化学式2で、
1乃至R4は、それぞれ独立に、水素、炭素数1乃至20の線状または分岐状のアルキル基、炭素数6乃至20のアリール基、炭素数1乃至20のアルケニル基または炭素数3乃至20のシクロアルキル基であり;R1乃至R4のうちの少なくともいずれか二つは、互いに連結されて炭素数3乃至10のシクロアルキル基を形成してもよく;
mは、10乃至1,000の整数である。
【0020】
この時、前記ポリアルキレンカーボネートは、重量平均分子量が10,000乃至1,000,000g/molであってもよく、具体的に例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリペンテンカーボネート、ポリヘキセンカーボネート、ポリオクテンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネートおよびこれらの共重合体からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0021】
発明の他の一実施例によれば、前記ポリケトン樹脂組成物は、前記ポリケトン100重量部に対して、ポリラクチド約1乃至約30重量部をさらに含むものであってもよい。
【0022】
そしてこの時、前記ポリラクチドは、重量平均分子量が10,000乃至1,000,000g/molであるものであってもよい。
【0023】
このような特徴的な組成により、前記ポリケトン樹脂組成物は、約240℃で粘度上昇率が約10%以下であってもよい。
【0024】
また、本発明は、前述のポリケトン樹脂組成物を利用して製造される、ポリケトン樹脂成形品を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリケトン樹脂組成物は、溶融安定性が非常に優れ、高温条件でも溶融された樹脂の粘度上昇がほとんど発生しないため、優れた加工性を維持することができ、加工設備の運転時間を画期的に増やすことができるようになり、ポリケトンが有する優れた物理的、化学的物性を多様な産業分野に実際的に応用できるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例および比較例による、ポリケトン樹脂組成物に対して、温度による粘度変化を測定して示した、グラフである。
図2】本発明の実施例および比較例による、ポリケトン樹脂組成物に対して、温度による粘度変化を測定して示した、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のポリケトン樹脂組成物は、ポリケトン100重量部に対して、1重量部以上100重量部未満のポリアルキレンカーボネートを含む。
【0028】
また、本発明のポリケトン樹脂成形品は、前述のポリケトン樹脂組成物を利用して製造される。
【0029】
本発明において、第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明することに用いられ、前記用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみで用いられる。
【0030】
また、本明細書で用いられる用語は、単に例示的な実施例を説明するために用いられたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないと理解されなければならない。
【0031】
本発明は、多様な変更を加えることができ、多様な形態を有することができるところ、特定の実施例を例示し、下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解されなければならない。
【0032】
以下、本発明のポリケトン樹脂組成物およびポリケトン樹脂成形品を詳細に説明する。
【0033】
本発明の一側面によるポリケトン樹脂組成物は、ポリケトン100重量部に対して、1重量部以上100重量部未満のポリアルキレンカーボネートを含む。
【0034】
前記ポリケトンは、下記化学式1で表される繰り返し単位を1種以上含むものであってもよい。
【0035】
【化3】
【0036】
前記化学式1で、
Rは、
炭素数1乃至10の、線状または分岐状アルキレン;炭素数1乃至10の、アリーレン;炭素数1乃至10の、アルキルエーテル;炭素数1乃至10の、アリールエーテル;炭素数1乃至10のアルキルエステル;または炭素数1乃至10の、アリールエステルであり、
nは、10乃至1000の整数である。
【0037】
前記のような構造のポリケトン高分子は、一酸化炭素および不飽和二重結合を含む化合物の反応により製造され、最近は、一酸化炭素および少なくとも1種以上のエチレン性不飽和炭化水素から構成される繰り返し単位が交互に繋がる交互共重合体などに対する関心が高まっている。
【0038】
このようにして得られたポリケトン高分子は、比較的に高い分子量を有し、食品および飲料用容器、電子製品のハウジング、自動車部品のような成形品において、優れた物性を有する高品質の熱可塑性樹脂として多く用いられる。
【0039】
しかし、このようなポリケトン高分子は、分子内に反応性が高いカルボニル炭素を含んでいる構造により、押出および射出成形のような溶融加工時に架橋反応が簡単に行われる。
【0040】
より具体的には、前記ポリケトン内カルボニル作用基にアルドール縮合反応(aldol condensation)が行われ、高分子鎖が互いに連結(crosslinking)されることがあり、そのために、粘度が上昇し、加工性が顕著に低下することがある。
【0041】
本発明の発明者らは、ポリケトン内に特定の含有量のポリアルキレンカーボネートを混合する方法により、ポリケトンの溶融安定性を顕著に上昇させることができるという点を発見し、本発明を完成した。
【0042】
ポリケトン高分子構造内に、カルボニル基周辺の水素(carbonyl alpha hydrogen)は、高温溶融条件で簡単に落ちて離れることがあるが、このように作られるイノラート陰イオンが周辺のカルボニル中心炭素を攻撃し、水が抜出しながら硬化が行われる、アルドール縮合反応が起こることがある。
【0043】
アルドール縮合反応が連続的に起こると、樹脂の粘度は持続的に上昇するようになり、これは加工設備の負荷を上昇させ、結局、一定の時間が過ぎると、加工設備をそれ以上運転できなくなる。この場合、設備内樹脂を長時間の間に他の樹脂を利用してパージ(purge)したり、硬化された樹脂を除去した後に再稼働しなければならない。
【0044】
しかし、ポリケトンの場合、その分子構造がポリアルキレンカーボネートと類似するため、樹脂間の相溶性が非常によい。また、ポリケトン周辺にポリアルキレンカーボネートがあれば、高温溶融状態で、カルボニルアルファ水素が除去されて、イノラート陰イオンが形成されても、ポリケトンのカルボニル中心炭素を攻撃する前に、ポリアルキレンカーボネートのカーボネート基と優先的に結合を形成するようになり、架橋硬化(crosslinking)反応による粘度上昇を抑制することができるようになる。
【0045】
したがって、結果的に、ポリアルキレンカーボネートは、ポリケトン間のアルドール縮合反応を抑制することができ、高温条件でもポリケトンの溶融安定性を効果的に維持することができるようになる。
【0046】
本発明の一側面によるポリケトン樹脂組成物は、ポリケトン100重量部に対して、1重量部以上100重量部未満のポリアルキレンカーボネートを含み、前述の原理によりポリケトン内のカルボニル炭素のアルドール縮合反応を効果的に抑制することができる。
【0047】
そのために、ポリケトン高分子の加工時、高温溶融状態で樹脂の粘度が時間により持続的に上昇する現像を効果的に防止することができ、ポリケトンを用いて長時間にかけて加工設備を運転する場合にも、パージや硬化樹脂除去のための運転中断を最小化することができるため、高い加工性を維持することができるようになる。
【0048】
具体的に、本発明の一例によるポリケトン樹脂組成物は、前述した効果のために、ポリケトン100重量部に対して、1重量部以上、より好ましくは、約5重量部または約10重量部以上のポリアルキレンカーボネートを含んでもよく、ポリケトンの基本的な化学的物理的物性を阻害しない範囲で、ポリケトン100重量部に対して、100重量部未満、または約60重量部以下、より好ましくは、約50重量部、または約25重量部以下のポリアルキレンカーボネートを含んでもよい。
【0049】
ポリアルキレンカーボネートが前記範囲より少量で用いられる場合、ポリケトンのアルドール縮合を効果的に抑制することができず、高温で溶融安全性を高めることができる前述した本発明の効果が期待に及ばない問題点が発生することがあり、ポリアルキレンカーボネートが過度に多く用いられる場合、ポリケトンの固有の機械的物性が低下する問題点が発生することがある。
【0050】
発明の一実施例によれば、前記ポリケトンは、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、またはブチレン単位を含む脂肪族ポリケトンであることが好ましく、このような繰り返し単位を一つ以上含む二元共重合体、あるいは三元共重合体の形態を用いることがより好ましくなり得る。
【0051】
そして、前記ポリケトンは、重量平均分子量が約10,000乃至約1,000,000g/molであってもよい。
【0052】
発明の他の一実施例によれば、前記ポリアルキレンカーボネートは、下記化学式2で表される繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0053】
【化4】
【0054】
前記化学式2で、
1乃至R4は、それぞれ独立に、水素、炭素数1乃至20の線状または分岐状のアルキル基、炭素数6乃至20のアリール基、炭素数1乃至20のアルケニル基または炭素数3乃至20のシクロアルキル基であり;R1乃至R4のうちの少なくともいずれか二つは、互いに連結されて炭素数3乃至10のシクロアルキル基を形成してもよく;
mは、10乃至1,000の整数である。
【0055】
この時、前記ポリアルキレンカーボネートは、重量平均分子量が約10,000乃至約1,000,000g/mol、好ましくは、約50,000乃至約500,000g/molであってもよく、前記ポリアルキレンカーボネートが前記重合度および重量平均分子量を有することによって、これから得られる成形品が適切な強度、柔軟性などの機械的物性を示すことができる。
【0056】
このようなポリアルキレンカーボネートは、具体的に例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリペンテンカーボネート、ポリヘキセンカーボネート、ポリオクテンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネートおよびこれらの共重合体からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0057】
前記ポリアルキレンカーボネートは、前記化学式で表示される繰り返し単位を含む非結晶性の高分子である。
【0058】
また、前記ポリアルキレンカーボネートは、約40℃以下、例えば、約10乃至約40℃程度の比較的低いガラス転移温度(Tg)を有しながらこの範囲内での調節が可能である。
【0059】
本発明に用いられるポリアルキレンカーボネートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、エポキシド系化合物と二酸化炭素を共重合して得られてもよい。または環状カーボネートの開環重合により得られてもよい。前記アルキレンオキシドと二酸化炭素の共重合は、亜鉛、アルミニウム、コバルトなどの金属錯化合物の存在下で行われてもよい。
【0060】
有機金属触媒の存在下にエポキシド系化合物と二酸化炭素を用いて共重合を通じてポリアルキレンカーボネートを製造する場合、前記エポキシド系化合物は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、シクルロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシドまたはブタジエンモノオキシドなどや、これらの中から選択された2種以上の多様なエポキシド系化合物であってもよいが、これに限定されるのではない。
【0061】
このようなポリアルキレンカーボネートは、前記化学式2で表される繰り返し単位を含む単一重合体であってもよく;または前記化学式2の範疇に属する2種以上の繰り返し単位を含む共重合体であるか、前記化学式2で表される繰り返し単位と共にアルキレンオキシド系繰り返し単位などを含む共重合体であってもよい。
【0062】
ただし、前記化学式2で表される繰り返し単位による特有の物性(例えば強度、伸び率、柔軟性または低いガラス転移温度など)が維持され得るように、前記ポリアルキレンカーボネートは、前記化学式2で表される繰り返し単位の1種以上を約40重量%以上、好ましくは約60重量%以上、より好ましくは約80重量%以上で含む共重合体になり得る。
【0063】
本発明の一実施例によれば、前記ポリアルキレンカーボネートは、例えば、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリペンテンカーボネート、ポリヘキセンカーボネート、ポリオクテンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネート、またはこれらの共重合体であってもよいが、これに限定されるのではなく、前記R1乃至R4は、最終的に得ようとする樹脂の物性およびポリケトンとのブレンドを考慮して適切な作用基で選択されてもよい。
【0064】
例えば、前記作用基が水素であるか、相対的に小さい炭素数を有する作用基である場合には、柔軟性およびポリケトンとの相溶性の側面でより有利になり得、相対的に多くの炭素数を有する作用基である場合、樹脂の強度など機械的物性の側面で有利になり得る。
【0065】
そして、前記ポリアルキレンカーボネートにおいて、前記化学式2で表される繰り返し単位の重合度mは、約10乃至約1,000、好ましくは約50乃至約500になり得る。
【0066】
発明の他の一実施例によれば、前記ポリケトン樹脂組成物は、前記ポリケトン100重量部に対して、ポリラクチド1乃至30重量部をさらに含むものであってもよい。
【0067】
ポリラクチドは、ポリアルキレンカーボネートの熱安定性を一次的に向上させることができ、これによってポリケトンとポリアルキレンカーボネートの混練をより安定的に行えるようにする役割を果たす。ポリラクチドが前記範囲よりも過度に少なく含まれる場合、高温でポリケトンとポリアルキレンカーボネートの混練時、ポリアルキレンカーボネートの分解が起こることがあり、ポリラクチドが前記範囲より過度に多く含まれる場合、ポリケトンの物性が低下する問題点が発生することがある。
【0068】
通常、ラクチドは、L−乳酸からなるL−ラクチド、D−乳酸からなるD−ラクチド、L−形態とD−形態がそれぞれ一つずつからなるmeso−ラクチドに区分され得る。また、L−ラクチドとD−ラクチドが50:50で混合されているものをD、L−ラクチドあるいはrac−ラクチドという。これらラクチドのうち、光学的純度が高いL−ラクチドあるいはD−ラクチドのみを利用して重合を行うと、立体規則性が非常に高いL−あるいはD−ポリラクチド(PLLAあるいはPDLA)が得られると知られており、このようなポリラクチドは、光学的純度が低いポリラクチドに比べて結晶化速度が速く、結晶化度も高いと知られている。ただし、本明細書で「ラクチドモノマー」ということは、各形態によるラクチドの特性差およびこれから形成されたポリラクチドの特性差に関係なしにすべての形態のラクチドを含むものと定義される。
【0069】
ポリラクチドの分子構造としては、L−乳酸、D−乳酸またはL、D−乳酸から重合されるものであってもよい。ポリラクチドは、ラクチドモノマーの開環重合により下記繰り返し単位を形成する段階を含んで製造されてもよく、このような開環重合および繰り返し単位の形成工程が完了された後のポリマーを前記ポリラクチドと称すことができる。この時、ラクチドモノマーの範疇には前述のようにすべての形態のラクチドが含まれ得る。
【0070】
本発明の一実施例によれば、前記ポリラクチドは、重合度が好ましくは約50乃至500になることができ、約10,000乃至約1,000,000g/molの重量平均分子量を有することができる。前記ポリラクチドが前記重合度および重量平均分子量を有することによって、これからポリケトン樹脂組成物がポリケトンの基本的な物性を維持することができ、高温溶融状態でも熱安定性に優れた効果を得ることができる。
【0071】
前記「ポリラクチド」と称され得るポリマーの範疇には、前記開環重合および繰り返し単位の形成工程が完了された後のすべての状態のポリマー、例えば、前記開環重合が完了された後の未精製または精製状態のポリマー、製品成形前の液状または固形状の樹脂組成物に含まれているポリマー、または製品成形が完了されたプラスチックまたは織物などに含まれているポリマーなどがすべて含まれ得る。
【0072】
ポリラクチドの製造方法としては、乳酸を直接縮重合したり、前記ラクチドモノマーを有機金属触媒下に開環重合(ring opening polymerization)する方法が知られている。ラクチドモノマーの開環重合方法は、乳酸からラクチドモノマーを先に製造しなければならないため、縮重合に比べて製造工程が複雑で、高い単価を要するが、有機金属触媒を利用したラクチド開環重合を通じて相対的に大きい分子量の樹脂を比較的に容易に得ることができ、重合速度の調節が有利であるため、商業的に適用されている。
【0073】
このような特徴的な組成によって、本発明の一例によるポリケトン樹脂組成物は、約240℃で粘度上昇率が約10%以下であってもよい。より具体的に、前記ポリケトン樹脂組成物は、約240℃の温度条件に露出した時、300秒以内に粘度上昇率が約10%以下、あるいは約0乃至約10%で、粘度がほとんど上昇しないか、粘度がむしろ低下して、加工性が非常に優れている。
【0074】
本発明のポリケトン樹脂組成物には、用途により各種の添加剤を添加することができる。例えば、改質用添加剤、着色剤(顔料、染料など)、充填剤(カーボンブラック、酸化チタン、滑石、炭酸カルシウム、クレイなど)などが挙げられ、これに限定されない。改質用添加剤としては、分散剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化促進剤などが挙げられる。各種添加剤は、ポリアルキレンカーボネート樹脂組成物からペレットを製造する時、またはペレットを成形して成形体を製造する時に添加することもできる。
【0075】
本発明のポリケトン樹脂組成物の製造方法としては、公知の各種方法を用いることができる。均一な混合物を得る方法としては、例えば、前述のポリケトン、ポリアルキレンカーボネート、およびポリラクチドなどを一定の比率で添加し、ヘンシェルミキサー、リボン混合器(ribbon blender)、混合器(blender)などにより混合する方法が挙げられる。
【0076】
溶融混練方法としては、バンバリーミキサー(VAN Antonie Louis Barye mixer)、一軸または二軸圧縮機などを利用することができる。本発明の樹脂組成物の形状は特別な制限がなく、例えば、混合物が溶融された流体状(compound)、ストランド(strand)、シート状(sheet)、平板状(film)、ペレット状(pellet)などで加工したものであってもよい。
【0077】
本発明のまた他の一側面によれば、前述のポリケトン樹脂組成物を利用して製造される、ポリケトン樹脂成形品が提供される。
【0078】
このような成形品は、例えば、フィルム、フィルム積層体、シート、フィラメント、不織布、射出成形品などを含んでもよい。
【0079】
本発明のポリケトン樹脂組成物を成形して成形品を得る方法は、例えば、射出成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法、ガス注入射出成形法、発泡射出成形法、インフレーション法(inflation)、Tダイ法(Tdie)、カレンダー法(Calendar)、ブロー成形法(blow)、真空成形、圧空成形などが挙げられ、その他にも本発明が属する技術分野における一般に用いられる加工方法を特別な制限なしに用いることができる。
【0080】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が決められるのではない。
【0081】
<実施例>
(ポリエチレンカーボネート樹脂の製造)
ジエチル−亜鉛触媒を用いてエチレンオキシドと二酸化炭素を共重合してポリエチレンカーボネート樹脂を次の方法で製造した(Journal of Polymer Science B 1969,7,287;Journal of Controlled release 1997,49,263)。
【0082】
攪拌機付きオートクレーブ反応器に乾燥したジエチル−亜鉛触媒(1g)とジオキサン溶媒10mLを入れて徐々に攪拌しながら5mLジオキサン溶媒に薄めた精製数0.1gを入れた。二酸化炭素を10気圧程度充填した後、120℃で1時間攪拌した。以降、精製されたエチレンオキシド(10g)を入れ、二酸化炭素を再び50気圧程度充填した後、温度を60℃に調節して48時間程度反応させた。反応後、未反応エチレンオキシドを低圧下に除去し、ジクロロメタン溶媒に溶かした。塩酸水溶液(0.1M)で洗浄し、メタノール溶媒に沈殿させてポリエチレンカーボネート樹脂を得た。回収した樹脂は15g程度であり、その生成を核磁気共鳴スペクトルで確認し、GPCを通じて分析した重量平均分子量は約174,000g/molであることを確認した。
【0083】
(ポリラクチドブレンディングペレットの製造)
前記製造したポリエチレンカーボネートに、ポリラクチド(NatureWorks PLA 3001D)を混合して、ポリラクチドの含有量が5wt%になるように、ペレットを製造した。
【0084】
(実施例1)
50gのポリアルキレンカーボネート(重量平均分子量:174,000g/mol、NatureWorks PLA 3001D 5wt%含有)ペレットと、450gのポリケトン(HYOSUNG、M620A)ペレットを常温でドライブレンディングした。
【0085】
このように製造した樹脂組成物は、ツインスクリュー押出機(twin screw extruder、BA−19、BAUTECH)を用いてペレット形態に製造し、得られたペレット形態の樹脂組成物を40℃の真空オーブンで一晩中乾燥した後に用いた。
【0086】
(実施例2)
100gのポリアルキレンカーボネート(重量平均分子量:174,000g/mol、NatureWorks PLA 3001D 5wt%含有)ペレットと、400gのポリケトン(HYOSUNG、M620A)ペレットを常温でドライブレンディングした。
【0087】
このように製造した樹脂組成物は、ツインスクリュー押出機(twin screw extruder、BA−19、BAUTECH)を用いてペレット形態に製造し、得られたペレット形態の樹脂組成物を40℃の真空オーブンで一晩中乾燥した後に用いた。
【0088】
(比較例1)
500gのポリケトン(HYOSUNG、M620A)ペレットを40℃の真空オーブンで一晩中乾燥した後に用いた。
【0089】
(比較例2:ポリケトンの再押出)
500gのポリケトン(HYOSUNG、M620A)ペレットをツインスクリュー押出機(twin screw extruder、BA−19、BAUTECH)を用いて再押出し、ペレット形態に製造し、得られたペレット形態の樹脂組成物を40℃の真空オーブンで一晩中乾燥した後に用いた。
【0090】
<実験例>
前記実施例および比較例で製造したペレットを、回転型レオメーター(ARES G2、TA instrument)を用い、240℃で時間による粘度変化を測定した。
【0091】
図1は、本発明の実施例および比較例による、ポリケトン樹脂組成物に対して、温度による粘度変化を10分(600秒)間測定して示した、グラフである。
【0092】
図1を参照すれば、ポリケトンだけを単独で用いた比較例1、およびポリケトンを再押出した比較例2の場合、時間の経過に伴って、持続的に粘度が上昇することを確認することができる。
【0093】
これはポリケトン樹脂において、カルボニルグループに対する、求核添加以降、アルドール縮合反応が起こり、各高分子鎖間の架橋が行われることによって現れる現像である。
【0094】
しかし、本発明の実施例によれば、ポリエチレンカーボネートが添加されて、ポリケトン高分子鎖間のアルドール縮合反応を効果的に抑制することを確認することができる。
【0095】
具体的に実施例1の場合、高温条件で初期には粘度が若干上昇するが、すぐ高い溶融安定性を示し、粘度が低下することを確認することができ、実施例2の場合、初期から粘度上昇がほとんど発生しないことを明確に確認することができる。
【0096】
図2は、本発明の実施例および比較例による、ポリケトン樹脂組成物に対して、温度による粘度変化を1時間(3,600秒)間測定して示した、グラフである。
【0097】
前記図2を参照すれば、短い時間だけでなく、長い期間の間にもポリアルキレンカーボネートの溶融安定性効果が維持されることを確認することができる。
【0098】
これによって、本発明の実施例によるポリケトン樹脂組成物は、長時間の間に高い溶融安定性を有することを確認することができ、成形など、高い温度の加工条件でも優れた加工性を有することができることを推察することができる。
図1
図2