特許第6971034号(P6971034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6971034-分析用器材 図000004
  • 特許6971034-分析用器材 図000005
  • 特許6971034-分析用器材 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971034
(24)【登録日】2021年11月4日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】分析用器材
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20211111BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G01N33/543 525W
   B32B27/30 D
   G01N33/543 525U
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-10350(P2017-10350)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-118415(P2018-118415A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】大坂 享史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康夫
(72)【発明者】
【氏名】室田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智之
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−249439(JP,A)
【文献】 特表2009−522134(JP,A)
【文献】 特開平11−028787(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0248294(US,A1)
【文献】 特開平03−203640(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00、
G01N33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子の蛍光観察に使用するものであり、
基材上に生体分子吸着層が設けられた積層体を、支持体上に備え、前記支持体と前記基材と前記生体分子吸着層とがこの順で積層した分析用器材であって、
前記生体分子吸着層の厚さが10nm以上5μm以下であり、
前記積層体の全光線透過率が90%以上であり、
前記生体分子吸着層は、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)層であり、
前記生体分子吸着層の表面に、生体分子を含む試料を添加した場合に、生体分子が前記生体分子吸着層に捕捉される、分析用器材
【請求項2】
前記PVDF層は、フッ化ビニリデンの重合体、又は、フッ化ビニリデンとエチレン、プロピレン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種との共重合体を含む請求項1に記載の分析用器材
【請求項3】
前記PVDF層は、更に、フッ化ビニリデンと酸性基を有する重合性不飽和化合物との共重合体、又は、フッ化ビニリデンと、エチレン、プロピレン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種と、酸性基を有する重合性不飽和化合物との共重合体を含む請求項2に記載の分析用器材
【請求項4】
前記酸性基を有する重合性不飽和化合物が、炭素数4〜8の不飽和二塩基酸、メタクリル酸、及びアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の分析用器材
【請求項5】
前記基材と前記生体分子吸着層との間に密着層を備えた請求項1〜4のいずれか一項に記載の分析用器材
【請求項6】
目的の疾患に有効な薬剤のスクリーニング用である請求項1〜5のいずれか一項に記載の分析用器材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、積層体の製造方法、表面処理液、表面処理方法、生体分子吸着層、及び分析用器材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)膜は、ウェスタンブロットでのタンパク質吸着や、ELISpotでのサイトカイン吸着で広く使われている。
【0003】
特許文献1には、ポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜に結合する検体センサ分子を用いた検体の濃度を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−545739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のポリフッ化ビニリデンからなる多孔質膜を用いた微小アレイでは、タンパク質の吸着量は多いが、アレイ自体の透明性が低く、明視野での顕微鏡観察及びマーカーとして蛍光物質を用いた場合の観察が難しい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い透明性を有し、蛍光観察に適した積層体、積層体の製造方法及び分析用器材を提供する。また、本発明は、高い透明性を有し、蛍光観察に適した積層体の製造に利用可能な表面処理液、及び表面処理方法、並びに生体分子吸着層を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、基材と、前記基材上に、生体分子吸着層とを備え、前記生体分子吸着層は、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)層であることを特徴とする積層体である。
【0008】
本発明の第2の態様は、基材に密着剤を塗布し、密着層を形成する工程と、前記密着層に生体分子吸着溶液を塗布し、生体分子吸着層を形成する工程と、を備えることを特徴とする前記積層体の製造方法である。
【0009】
本発明の第3の態様は、PVDF溶液を備えたことを特徴とする表面処理液である。
【0010】
本発明の第4の態様は、前記表面処理液を基材に塗布する工程を有することを特徴とする表面処理方法である。
【0011】
本発明の第5の態様は、PVDF層からなることを特徴とする生体分子吸着層である。
【0012】
本発明の第6の態様は、全光線透過率が90%以上であることを特徴とする生体分子吸着層である。
【0013】
本発明の第7の態様は、少なくとも一部の面上に、前記積層体を備えたことを特徴とする分析用器材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体、積層体の製造方法及び分析用器材を提供することができる。また、本発明によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体の製造に利用可能な表面処理液、及び表面処理方法、並びに生体分子吸着層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の積層体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の分析用器材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」と称する場合がある。)について詳細に説明する。以下に示す本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0017】
≪積層体≫
一実施形態において、本発明は、基材と、前記基材上に、生体分子吸着層とを備え、前記生体分子吸着層は、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)層である積層体を提供する。
【0018】
本実施形態の積層体は、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察等に適した分析用器材等を提供することができる。
【0019】
なお、本明細書における「生体分子」としては、例えば、DNA、mRNA、miRNA、siRNA、人工核酸(例えば、LNA(Locked Nucleic Acid)、BNA(Bridged Nucleic Acid))等の核酸(天然由来であってもよく、化学合成したものであってもよい。);リガンド、サイトカイン、ホルモン等のペプチド;受容体、酵素、抗原、抗体等のタンパク質;細胞、ウイルス、細菌、真菌等が挙げられ、タンパク質が好ましい。
生体分子を含む試料としては、例えば、血液、血清、血漿、尿、パフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液、細胞抽出液、細胞培養上清等が挙げられる。
【0020】
<構造>
本実施形態の積層体の構造について、以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1では、基材1及び生体分子吸着層2がこの順で積層されている。
【0021】
積層体10は、全光線透過率が90%以上であることが好ましく、93%以上であることが特に好ましい。
また、積層体10は、ヘーズが30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
なお、本明細書における「全光線透過率」(total luminous transmittance)及び「ヘーズ」(曇り度)は、日本工業規格(JIS K7136)により測定することができる。全光線透過率を高くし、さらにヘーズを低くすることにより、本実施形態の積層体を用いた場合における生体分子の観察性を確保することができる。
【0022】
図1に示す積層体10は、例えば、生体分子吸着層2の表面に生体分子を含む溶液等を添加し、該生体分子を捕捉するために、使用される。
【0023】
図2は、本発明の積層体の他の実施形態を模式的に示す断面図である。なお、図2において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0024】
ここに示す積層体20は、密着層3を備えている点以外は、図1に示す積層体10と同じものである。すなわち、積層体20においては、基材1、密着層3、及び生体分子吸着層2がこの順で積層されている。
【0025】
図2に示す積層体20は、例えば、生体分子吸着層2の表面に生体分子を含む溶液等を添加し、該生体分子を捕捉するために、使用される。
【0026】
本発明の積層体は、図1、2に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、図1、2に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
【0027】
例えば、図1及び2に示す積層体においては、生体分子吸着層が基材上に部分的に積層された構造であってもよい。
次に、積層体を構成する各層の構成材料について、さらに詳細に説明する。
【0028】
<構成材料>
(基材)
基材は、生体分子を蛍光顕微鏡等により観察を行う観点から、透明性を有することが好ましい。また、透明性を高めるために、フィラー(アンチブロッキング剤)を含まないことが好ましい。
基材の材料としては、透明な低自家蛍光物質が好ましい。透明な低自家蛍光性物質の好適な例としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、及びポリアクリレート(アクリル樹脂)等が挙げられる。
【0029】
前記ポリアクリレート(アクリル樹脂)としてより具体的には、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)等が挙げられる。
【0030】
基材を構成する材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0031】
基材は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよく、複数層からなる場合、これら複数層の構成材料及び厚さは、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
なお、本明細書においては、基材の場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよく、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0032】
基材の厚さは、例えば50μm以上1500μm以下であればよく、例えば100μm以上1200μm以下であればよく、例えば200μm以上1000μm以下であればよい。
ここで、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基材の厚さとは、基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
基材は、厚さの精度が高いもの、すなわち、部位によらず厚さのばらつきが抑制されたものが好ましい。
【0033】
基材は、上述の主たる構成材料以外に、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、軟化剤(可塑剤)等の公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0034】
基材は、その上に設けられる生体分子吸着層等の他の層との密着性を向上させるために、サンドブラスト処理、溶剤処理等による凹凸化処理や、コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理等が表面に施されたものであってもよい。
【0035】
基材は、公知の方法で製造できる。例えば、樹脂を含有する基材は、前記樹脂を含有する樹脂組成物を成形することで製造できる。
【0036】
(生体分子吸着層)
本実施形態における生体分子吸着層は、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PolyVinylidene DiFluoride;PVDF)層である。
【0037】
前記PVDF層は、フッ化ビニリデンの重合体、又は、フッ化ビニリデンとエチレン、プロピレン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及びフルオロアルキルビニルエーテルからなる群(以下、「フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体」と称する場合がある。)より選ばれる少なくとも1種との共重合体を含むことが好ましい。
前記PVDF層が、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体を含む場合、該共重合体は、フッ化ビニリデンを80質量%以上と、前記フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体を20質量%以下とを含有する単量体を共重合させて得ることができる。
【0038】
前記PVDF層は、更に、フッ化ビニリデンと酸性基を有する重合性不飽和化合物との共重合体、又は、フッ化ビニリデンと、前記フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体より選ばれる少なくとも1種と、酸性基を有する重合性不飽和化合物との共重合体を含んでいてもよい。
【0039】
前記酸性基を有する重合性不飽和化合物としては、例えば、炭素数4〜8の不飽和二塩基酸、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられる。
【0040】
前記炭素数4〜8の不飽和二塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0041】
PVDF層を構成する材料がフッ化ビニリデンと酸性基を有する重合性不飽和化合物との共重合体、又は、フッ化ビニリデンと、前記フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体より選ばれる少なくとも1種と、酸性基を有する重合性不飽和化合物との共重合体である場合、該共重合体は、フッ化ビニリデンを80質量%以上と、必要に応じて、前記フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体を20質量%未満と、を含有する単量体を100質量部と、酸性基を有する重合性不飽和化合物を0.1質量部以上3質量部以下と、を共重合して得られるものが好ましい。
【0042】
フッ化ビニリデン、及び、必要に応じて、前記フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体より選ばれる少なくとも1種の単量体100質量部に対して、酸性基を有する重合性不飽和化合物の割合は、0.1質量%以上3質量%以下であり、0.3質量%以上2質量%以下であることが好ましい。上記下限値以上であることにより、得られる共重合体の基材との接着性等の酸性基導入効果が十分に発揮される。一方、上記上限値以下であることにより、得られる共重合体の耐薬品性が高く保たれる。
また、同様の理由により、得られる共重合体は、1×10−5モル/g以上5×10−4モル/g以下の酸性基を含有することが好ましい。
【0043】
PVDF層を構成する材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0044】
PVDF層は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0045】
PVDF層の厚さは、10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましく、100nm以上1μm以下であることがさらに好ましく、100nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
上記下限値以上であることにより、生体分子を充分に吸着することができ、一方、上記上限値以下であることにより、高い全光線透過率、すなわち高い透明性を保つことができる。
【0046】
ここで、「PVDF層の厚さ」とは、PVDF層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなるPVDF層の厚さとは、PVDF層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
PVDF層は、厚さの精度が高いもの、すなわち、部位によらず厚さのばらつきが抑制されたものが好ましい。
【0047】
基材上に生体分子吸着層を形成する方法は特に限定されず、例えば、所定量の材料を基材上に滴下する方法や、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置を用いる方法や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコータ等の非接触型塗布装置を用いる方法等が挙げられる。
【0048】
(密着層)
密着層の構成材料は、無機化合物又は有機化合物と反応可能な官能基を有するものを用いることにより、基材と生体分子吸着層との接着性及び密着性を向上させることができる。
【0049】
密着層の構成材料は、基材構成材料、又は生体分子吸着層を構成する重合体若しくは共重合体等が有する官能基と反応可能な官能基を有する化合物であることが好ましく、シランカップリング剤であることがより好ましい。
【0050】
前記シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルメチルジエトキシシラン、3−(フェニルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン等が挙げられる。
【0051】
密着層を構成する材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0052】
密着層は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0053】
密着層の厚さは、例えば1nm以上1μm以下であればよく、例えば1nm以上0.5μm以下であればよい。
【0054】
ここで、「密着層の厚さ」とは、密着層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる密着層の厚さとは、密着層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
密着層は、厚さの精度が高いもの、すなわち、部位によらず厚さのばらつきが抑制されたものが好ましい。
【0055】
基材上に密着層を形成する方法は特に限定されず、例えば、所定量の材料を基材上に滴下する方法や、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置を用いる方法や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコータ等の非接触型塗布装置を用いる方法等が挙げられる。
【0056】
≪積層体の製造方法≫
一実施形態において、本発明は、基材に密着剤を塗布し、密着層を形成する工程と、前記密着層に生体分子吸着溶液を塗布し、生体分子吸着層を形成する工程と、を備える前記積層体の製造方法を提供する。
【0057】
本実施形態の製造方法によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体を得ることができる。
本実施形態の製造方法の各工程について、以下に詳細に説明する。
【0058】
<密着層形成工程>
まず、基材に密着剤を塗布する。前記密着剤としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(密着層)に記載された構成材料と同様のものが挙げられる。
【0059】
密着剤は、溶媒を含有していてもよい。密着剤は、溶媒を含有していることで、塗布対象面への塗布適性が向上する。
前記溶媒は有機溶媒であることが好ましく、前記有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン;酢酸エチル等のエステル(カルボン酸エステル);テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;シクロヘキサン、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール等が挙げられる。
【0060】
また、密着層の形成方法としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(密着層)に記載された方法と同様の方法が挙げられる。
【0061】
密着剤が溶媒を含有している場合、加熱乾燥させることが好ましく、この場合、例えば、70℃以上130℃以下で10秒以上5分以下の条件で乾燥させることが好ましい。
【0062】
<生体分子吸着層形成工程>
次いで、密着層に生体分子吸着溶液を塗布する。前記生体分子吸着溶液としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(生体分子吸着層)に記載された構成材料を溶媒で希釈したもの等が挙げられる。
前記溶媒としては、有機溶媒であることが好ましく、前記有機溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド(N,N−Dimethylacetamide;DMA)、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide;DMSO)、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン (N−methylpyrrolidone;NMP)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0063】
また、生体分子吸着層の形成方法としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(生体分子吸着層)に記載された方法と同様の方法が挙げられる。
【0064】
形成された生体分子吸着層は溶媒を含むため、加熱乾燥させることが好ましく、この場合、例えば、温度としては70℃以上200℃以下の条件で乾燥させることが好ましく、70℃以上130℃以下の条件で乾燥させることがより好ましい。時間としては10秒以上5分以下の条件で乾燥させることが好ましい。
【0065】
≪表面処理液≫
一実施形態において、本発明は、PVDF溶液を備えた表面処理液を提供する。
【0066】
本実施形態の表面処理液によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体を製造することができる。
【0067】
<PVDF溶液>
PVDF溶液は、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(生体分子吸着層)に記載されたPVDF系重合体又は共重合体と、上述の≪積層体の製造方法≫の<生体分子吸着層形成工程>に記載された溶媒とを含む。
【0068】
PVDF溶液に含まれるPVDF系重合体又は共重合体の含有量は、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した生体分子吸着層を形成可能な濃度であればよく、例えば1質量%以上25質量%以下であればよく、例えば1質量%以上10質量%以下であればよい。
【0069】
本実施形態の表面処理液を基材等に塗布し、乾燥させて生体分子吸着層を形成させることで、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体を製造することができる。
【0070】
本実施形態の表面処理液は、さらに、密着剤を備えていてもよい。密着剤を備えていることにより、基材とPVDF溶液により形成される生体分子吸着層との接着性及び密着性を向上させることができる。
密着剤としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(密着層)に記載された構成材料と同様のものが挙げられる。
【0071】
本実施形態の表面処理液は、さらに、密着剤を希釈するための溶媒を備えていてもよい。溶媒としては、上述の≪積層体の製造方法≫の<密着層形成工程>に記載されたものと同様のものが挙げられる。
【0072】
≪表面処理方法≫
一実施形態において、本発明は、上述の表面処理液を基材に塗布する工程を備える表面処理方法を提供する。
【0073】
本実施形態の表面処理方法によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体を製造することができる。
【0074】
<塗布工程>
まず、基材に上述の≪表面処理液≫に記載のものと同様の組成の溶液を塗布する。
使用する基材としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(基材)に記載のものと同様のものが挙げられる。
また、基材に表面処理液を塗布する方法としては、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(生体分子吸着層)に記載された生体分子吸着層の形成方法と同様の方法が挙げられる。
【0075】
本実施形態の表面処理方法は、さらに、塗布工程の後に乾燥工程を備えていてもよい。
乾燥工程では、表面処理液を塗布して形成された生体分子吸着層は溶媒を含むため、該生体分子吸着層を加熱乾燥させる。この場合、例えば、温度としては70℃以上200℃以下の条件で乾燥させることが好ましく、70℃以上130℃以下の条件で乾燥させることがよりこのましい。時間としては10秒以上5分以下の条件で乾燥させることが好ましい。
【0076】
また、本実施形態の表面処理方法において、表面処理液が密着剤も備える場合、まず、溶媒等で適当な濃度に希釈した密着剤を基材等に塗布し、加熱乾燥させ、密着層を形成させる。密着層の形成方法及び加熱乾燥方法は、上述の≪積層体の製造方法≫の<密着層形成工程>に記載の方法と同様の方法を用いればよい。
次いで、上述の<塗布工程>により、PVDF溶液を密着層上に塗布し、加熱乾燥させ、生体分子吸着層を形成させればよい。
【0077】
≪生体分子吸着層≫
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明は、PVDF層からなる生体分子吸着層を提供する。
【0078】
本実施形態の生体分子吸着層によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体又は分析用器材等を得ることができる。
【0079】
(PVDF層)
本実施形態の生体分子吸着層は、PDVF層からなる。本実施形態におけるPVDF層は、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(PVDF層)と同様の構成材料からなる。
【0080】
PVDF層を構成する材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0081】
PVDF層は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0082】
PVDF層の厚さは、10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましく、100nm以上1μm以下であることがさらに好ましく、100nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
上記下限値以上であることにより、生体分子を充分に吸着することができ、一方、上記上限値以下であることにより、高い全光線透過率、すなわち高い透明性を保つことができる。
【0083】
PVDF層は、厚さの精度が高いもの、すなわち、部位によらず厚さのばらつきが抑制されたものが好ましい。
【0084】
PVDF層を形成する方法は特に限定されず、例えば、所定量の材料を基材等の上に滴下する方法や、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置を用いる方法や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコータ等の非接触型塗布装置を用いる方法等が挙げられる。
【0085】
<第二実施形態>
一実施形態において、本発明は、全光線透過率が90%以上である生体分子吸着層を提供する。
【0086】
本実施形態の生体分子吸着層によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体又は分析用器材等を得ることができる。
【0087】
本実施形態の生体分子吸着層は、全光線透過率が90%以上であり、93%以上であることが特に好ましい。
また、生体分子吸着層は、ヘーズが30%以下であり、15%以下であることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
全光線透過率を高くし、ヘーズを低くすることにより、本実施形態の積層体を用いた場合における生体分子の観察性を確保することができる。
【0088】
本実施形態の生体分子吸着層の構成材料としては、全光線透過率が上記範囲となるものであればよく、特別な限定はない。具体的には、上述の≪積層体≫の<構成材料>の(PVDF層)と同様の構成材料が挙げられる。
【0089】
生体分子吸着層を構成する材料は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0090】
生体分子吸着層は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0091】
生体分子吸着層の厚さは、10nm以上10μm以下であることが好ましく、50nm以上5μm以下であることがより好ましく、100nm以上1μm以下であることがさらに好ましく、100nm以上500nm以下であることが特に好ましい。
上記下限値以上であることにより、生体分子を充分に吸着することができ、一方、上記上限値以下であることにより、高い全光線透過率、すなわち高い透明性を保つことができる。
【0092】
生体分子吸着層は、厚さの精度が高いもの、すなわち、部位によらず厚さのばらつきが抑制されたものが好ましい。
【0093】
生体分子吸着層を形成する方法は特に限定されず、例えば、所定量の材料を基材等の上に滴下する方法や、ロールコータ、リバースコータ、バーコータ等の接触転写型塗布装置を用いる方法や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコータ等の非接触型塗布装置を用いる方法等が挙げられる。
【0094】
≪分析用器材≫
一実施形態において、本発明は、少なくとも一部の面上に、前記積層体を備えた分析用器材を提供する。
【0095】
本実施形態の分析用器材は、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察等に好適である。
まず、本実施形態の分析用器材の構造について、以下に詳細に説明する。
【0096】
<構造>
図3は、本発明の分析用器材の一実施形態を模式的に示す断面図である。図3では、支持体5及び積層体20(基材1、密着層3、及び生体分子吸着層2からなる)がこの順で積層されている。さらに、分析用器材Aは、積層体20と孔を有する天面部材7とに挟まれ、側面部材6で区切られた空間を有する。生体分子を含む試料を添加した場合に、前記空間に生体分子が入り込み、生体分子吸着層2に捕捉される。
【0097】
また、分析用器材Aは、積層体を少なくとも一部の面上に備えていればよく、全面に備えていてもよい。
【0098】
図3に示す分析用器材Aは、例えば、生体分子吸着層2の表面に生体分子4を含む溶液等を添加すると、該生体分子4を捕捉し、さらに生体分子4に特異的に結合する蛍光物質8bが結合した抗体8b(すなわち、蛍光物質結合抗体8)を添加し、蛍光物質結合抗体8が捕捉された生体分子4に特異的に結合することにより該生体分子4を検出する。
【0099】
本発明の分析用器材は、図3に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、図3に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
【0100】
例えば、図3に示す分析用器材においては、図1に示す密着層を含まない積層体であってもよい。
次に、分析用器材を構成する各層の構成材料について、さらに詳細に説明する。
【0101】
<構成材料>
(積層体)
本実施形態の分析用器材が備える積層体は、上述の≪積層体≫において記載されたものと同様のものが挙げられる。蛍光観察等では、主に下面から観察及び撮像されるため、積層体の全光線透過率が90%以上であり、93%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
光線透過率を高くすることにより、本実施形態の分析用器材による生体分子の観察性を充分に確保することができる。
【0102】
(支持体)
本実施形態の分析用器材が備える支持体は、生体分子を蛍光観察等する観点から、透明性を有することが好ましい。
支持体の材料としては、透明な低自家蛍光物質が好ましい。透明な低自家蛍光性物質の好適な例としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、及びポリアクリレート等が挙げられ、特別な限定はない。
【0103】
(側面部材)
本実施形態の分析用器材が備える側面部材は、生体分子を蛍光観察等する観点から、透明性を有することが好ましい。
側面部材の材料としては、上述の(支持体)と同様のものが挙げられる。
【0104】
(天面部材)
本実施形態の分析用器材が備える天面部材は、生体分子を蛍光観察等する観点から、透明性を有することが好ましい。
天面部材の材料としては、上述の(支持体)と同様のものが挙げられる。
【0105】
<形態>
本実施形態の分析用器材の形態は特別な限定はなく、例えば、細胞培養用器材、プレパラート、マイクロデバイス等が挙げられる。細胞培養用器材としては、任意の数のウェルが配置されたマルチウェルプレート、シャーレ等が挙げられる。ウェルの数としては、プレート1枚当たり、たとえば、6、12、24、96、384、1,536個等が挙げられる。
【0106】
<その他>
本実施形態の分析用器材は、さらに、生体分子の懸濁若しくは溶解、又は分析用器材の洗浄等に用いられる緩衝剤を備えていてもよい。
前記緩衝剤としては、例えば、HEPES−KOH、Tris−HCl、酢酸−酢酸ナトリウム、クエン酸−クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、MES、PIPESHEPES−KOH、Tris−HCl、酢酸−酢酸ナトリウム、クエン酸−クエン酸ナトリウム、リン酸、ホウ酸、MES、PIPES等が挙げられ、これらに限定されない。
【0107】
また、本実施形態の分析用器材は、さらに、生体分子の検出試薬を備えていてもよい。
前記検出試薬としては、特別な限定はなく、例えば、目的の生体分子に特異的に結合する抗体等であればよい。
目的の生体分子に特異的に結合する抗体は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
また、目的の生体分子に特異的に結合する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、さらに抗体の機能的断片であってもよい。なお、ここでいう「抗体」には、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラスが含まれる。
【0108】
本明細書中において、「特異的に結合」とは、抗体が標的タンパク質(抗原)にのみ結合することを意味し、例えば試験管内におけるアッセイ、好ましくは精製した野生型抗原を用いたプラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIAcore、GE−Healthcare Uppsala, Sweden等)における抗体の抗原のエピトープへの結合等により定量することができる。結合の親和性は、ka(抗体−抗原複合体からの抗体結合に関する速度定数)、kD(解離定数)、及びKD(kD/ka)によって規定することができる。抗体が抗原に特異的に結合している場合の結合親和性(KD)は、10−8mol/L以下であることが好ましく、10−9M〜10−13mol/Lであることがより好ましい。
【0109】
本実施形態において、「ポリクローナル抗体」とは、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物を意味する。すなわち、本実施形態の抗体がポリクローナル抗体である場合、O結合型GlcNAc化したセリン40残基を含み、且つ、異なるアミノ酸配列からなるエピトープに対し、特異的に結合する異なる抗体を含み得る。
また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。
また、ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものを意味する。すなわち、本実施形態の抗体がモノクローナル抗体である場合、自然環境の成分から単離された抗体である。
【0110】
本実施形態において、抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的タンパク質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
【0111】
また、目的の生体分子に特異的に結合する抗体は、標識物質が結合していてもよい。
前記抗体の標識物質としては、例えば、安定同位体、放射性同位体、蛍光物質、酵素、磁性体等が挙げられる。
【0112】
安定同位体としては、例えば13C、15N、H、17O、18Oが挙げられ、これらに限定されない。
放射性同位体としては、例えばH、14C、13N、32P、33P、35Sが挙げられ、これらに限定されない。
蛍光物質としては、例えばシアニン色素(例えばCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、TAMRA等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0113】
酵素としては、例えばアルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ(HRP)等が挙げられる。
また、標識物質が酵素である場合、酵素基質を使用することが好ましい。酵素基質としては、アルカリホスファターゼの場合、p−ニトロフェニルリン酸(p−nitropheny phosphase;pNPP)、4−メチルウンベリフェリルリン酸(4−MUP)等を用いることができ、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3’−diaminobenzidine(DAB)、3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine(TMB)、o−phenylenediamine(OPD)、2,2−アジノ−ジ−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)、10−アセチル−3,7−ジヒドロキシフェノキサジン(ADHP)等を用いることができる。
【0114】
磁性体としては、例えばガドリニウム、Gd−DTPA、Gd−DTPA−BMA、Gd−HP−DO3A、ヨード、鉄、酸化鉄、クロム、マンガン、又はその錯体、或いはキレート錯体等が挙げられ、これらに限定されない。
【0115】
また、検出試薬は、目的の生体分子に特異的に結合する抗体に加えて、さらに、前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備えていてもよい。
前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備える場合、抗体測定系によるELISA法、間接蛍光抗体法、抗体測定系によるCLEIA法等を用いて、目的の生体分子を検出及び定量することができる。
【0116】
前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体に対する抗体に標識物質が結合したものとしては、前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体の由来動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ等)に対する抗体であることが好ましい。例えば、前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体の由来がマウスである場合、抗マウス抗体であることが好ましい。また、前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体に対する抗体に標識物質が結合したものには、免疫グロブリンのすべてのクラス及びサブクラスが含まれる。
標識物質としては、上述の「前記目的の生体分子に特異的に結合する抗体」の説明において、例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0117】
<用途>
本実施形態の分析用器材は、例えば、目的の疾患に有効な薬剤のスクリーニング等に用いることができる。
また、本実施形態の分析用器材は、生体分子吸着層が細胞表面の膜タンパク質等を吸着する性質を有することから、接着性細胞の培養等に用いることができる。
また、本実施形態の分析用器材は、例えば、RIA法、EIA法(ECLIA法、ELISA法を含む)、CIA法(CLIA法、CLEIA法を含む)、FIA等の抗原抗体反応を用いたタンパク質検出及び定量系等に用いることができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例及び比較例等を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0119】
[製造例1]積層体1a〜1eの製造
(1)PVDF溶液の作製
まず、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF、分子量2.8×10)(Aldrich社製)を3.3、5.0、6.7、10、及び14.0質量%となるようにN−メチル−2−ピロリドン (N−methylpyrrolidone;NMP)を用いて、5種類の濃度のPVDF溶液を調製した。
【0120】
(2)PVDF層の形成
次いで、ガラス基板(Eagle−XG(登録商標)、0.7mm、Corning社製)に各濃度のPVDF溶液をスピンコートした(条件:回転数は規定膜厚になるよう設定、20秒)。次いで、120℃で1分間加熱し、PVDF層を形成し、膜厚の異なる積層体1a〜1eを製造した。各積層体の膜厚を以下の表1に示す。
【0121】
(3)全光線透過率及びヘーズ値の測定
次いで、(2)で製造された積層体1a〜1eについて、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、HZ−2A)及び光源としてD65を用いて、JIS K7136の方法に準じて、全光線透過率及びヘーズ値の測定を行った。結果を以下の表1に示す。
【0122】
(4)細胞観察
次いで、(2)で製造された積層体1a〜1eに、ナマルバ細胞(リンパ芽球の細胞株)をカルセイン−AMで染色したものを上面(PVDF層が形成されている面)から滴下し、下面(ガラス基板)より顕微鏡観察を行った。また、対照として、PVDF多孔膜(メルクミリポア社製、膜厚130μm)上に細胞を滴下し、下面より顕微鏡観察を行った。結果を以下の表1に示す。
また、細胞観察における評価の観点は以下のとおり行った。
○:顕微鏡による細胞観察への影響なし
△:基板の凹凸が観察される
×:顕微鏡による細胞観察不可
【0123】
[製造例2]積層体2a〜2eの製造
(1)PVDF溶液の作製
PVDF(Aldrich社製)の代わりに、ポリ(ビニリデンフルオリド−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF/HFP、分子量4.6×10)(Aldrich社製)を用いたこと以外は、製造例1の(1)と同様の方法を用いて、5種類の濃度のPVDF溶液を調製した。
【0124】
(2)PVDF層の形成
次いで、製造例1の(2)と同様の方法を用いて、膜厚の異なる積層体2a〜2eを製造した。各積層体の膜厚を以下の表1に示す。
【0125】
(3)全光線透過率及びヘーズ値の測定
次いで、(2)で製造された積層体2a〜2eについて、製造例1の(3)と同様の方法を用いて、全光線透過率及びヘーズ値の測定を行った。結果を以下の表1に示す。
【0126】
[製造例3]積層体3a〜3eの製造
(1)PVDF溶液の作製
PVDF(Aldrich社製)の代わりに、KFポリマー#9130(カルボン酸変性PVDF、分子量2.8×10)(クレハ社製)を用いたこと以外は、製造例1の(1)と同様の方法を用いて、5種類の濃度のPVDF溶液を調製した。
【0127】
(2)PVDF層の形成
次いで、製造例1の(2)と同様の方法を用いて、膜厚の異なる積層体3a〜3eを製造した。各積層体の膜厚を以下の表1に示す。
【0128】
(3)全光線透過率及びヘーズ値の測定
次いで、(2)で製造された積層体3a〜3eについて、製造例1の(3)と同様の方法を用いて、全光線透過率及びヘーズ値の測定を行った。結果を以下の表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1から、PVDF、PVDF/HFP、及びカルボン酸変性PVDFのいずれを用いた積層体においても、全光線透過率は90%を超えていた。また、ヘーズ値は膜厚の上昇と共に上昇する傾向が見られた。
また、PVDFを用いた積層体と比較して、PVDF/HFP、及びカルボン酸変性PVDFを用いた積層体は、ヘーズ値が低い傾向が見られた。
【0131】
[試験例1]タンパク質吸着試験
(1)積層体の準備
製造例1〜3で製造された膜厚0.2μmの積層体1a、2a、及び3aを用いて、タンパク質吸着試験を行った。また、対照として、ガラス基板(Eagle−XG(登録商標)、0.7mm、Corning社製)を用いた。
【0132】
(2)タンパク質の吸着
次いで、各積層体、及びガラス基板に、20μg/mLのAlexa488標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Life Technologies社製、#A11001)を10μL滴下し、1時間静置した。次いで、PBS(−)で3回洗浄し、その後純水で洗浄した。次いで、吸着したタンパク質量を、Typhoon TRIO(GEヘルスケア・ジャパン社製、励起光488nm、フィルター520nm)で蛍光強度を測定した。次いで、各蛍光強度に対し、各積層体、ガラス基板、又はポリスチレンディッシュの自家蛍光強度を差し引き、その値を用いて、ガラス基板との相対強度を算出した。結果を以下の表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
表2から、いずれの積層体においても高い蛍光強度が観察された。また、PVDFを用いた積層体と比較して、PVDF/HFPを用いた積層体では、タンパク質吸着量が低下し、カルボン酸変性PVDFを用いた積層体では、タンパク質吸着量が増加する傾向が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体、積層体の製造方法及び分析用器材を提供することができる。また、本発明によれば、高い透明性を有し、生体分子の蛍光観察に適した積層体の製造に利用可能な表面処理液及び生体分子吸着層を提供することができる。
【符号の説明】
【0136】
1…基材、2…生体分子吸着層、3…密着層、4…生体分子、5…支持体、6…側面部材、7…孔を有する天面部材、8…蛍光物質結合抗体、8a…抗体、8b…蛍光物質、10,20…積層体、A…分析用器材。
図1
図2
図3