特許第6971471号(P6971471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6971471成形型、成形体の製造方法、および成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971471
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】成形型、成形体の製造方法、および成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/42 20060101AFI20211111BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20211111BHJP
   B29C 70/54 20060101ALI20211111BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B29C41/42
   B29C70/46
   B29C70/54
   B29C33/38
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-22910(P2018-22910)
(22)【出願日】2018年2月13日
(65)【公開番号】特開2019-136957(P2019-136957A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】島本 太介
(72)【発明者】
【氏名】杉本 慶喜
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕司
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−256630(JP,A)
【文献】 特開昭61−134305(JP,A)
【文献】 特開平02−006107(JP,A)
【文献】 特表2011−521044(JP,A)
【文献】 特開2015−027772(JP,A)
【文献】 特開平01−101108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/42
B29C 70/46
B29C 70/54
B29C 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化用繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを被成形物として成形して成形体を形成するための成形型であって、
前記被成形物を収容する空間を形成する成形面を備える一対の造形体を有し、
前記一対の造形体は、それぞれの前記成形面が対向するように配置され、
前記造形体は、石膏を含んで形成される多孔質体であり、
前記造形体の熱浸透率が、100J/(m1/2K)以上1300J/(m1/2K)未満であり、
前記成形面に、シリコーンゴムを含む被覆層が形成されていることを特徴とする、成形型。
【請求項2】
前記造形体の吸水率が、0%を超え30%以下である、請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
前記被覆層の厚さが、0.1mm以上1mm以下である、請求項1または2に記載の成形型。
【請求項4】
前記造形体が、複数の造形部材を組み合わせることにより構成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形型。
【請求項5】
強化用繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを被成形物として成形して成形体を形成するための成形型の製造方法であって、
前記被成形物を収容する空間を形成する成形面を備える一対の造形体は、石膏を含んで形成される多孔質体であり、
前記造形体の熱浸透率が、100J/(m1/2K)以上1300J/(m1/2K)未満であり、
記成形面に、シリコーンゴムを含む被覆層を形成することを特徴とする、成形型の製造方法。
【請求項6】
強化用繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを被成形物として成形する成形方法であって、
請求項1〜のいずれか1項に記載の成形型が備える一対の造形体一対の成形面で形成された空間に配置された、強化用繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグにマイクロ波を照射して、前記プリプレグに含まれる前記マトリックス樹脂を加熱する工程を含むことを特徴とする成形方法。
【請求項7】
前記マトリックス樹脂が、熱硬化性樹脂であって、硬化剤を含む場合に、
前記プリプレグに含まれる前記熱硬化性樹脂は、前記熱硬化性樹脂の推奨硬化時間よりも早く硬化する、請求項に記載の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型、成形体の製造方法、および成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの強化用繊維にマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を半硬化状態で含浸させたプリプレグから得られる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの機械物性、耐熱性および耐食性などに優れている。そのため、繊維強化複合材料は、航空機、自動車、鉄道、船舶、土木建築およびスポーツ用品など様々な分野において使用されている。
【0003】
繊維強化複合材料は、プリプレグを加熱して、プリプレグに含まれる半硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させることで得られる。熱硬化性樹脂を加熱する方法として、熱硬化性樹脂を電気オーブンなどで加熱する方法や、マイクロ波を熱硬化性樹脂に照射する方法などがある。中でも、マイクロ波を熱硬化性樹脂に照射する方法は、プリプレグ内に含まれる熱硬化性樹脂のみを短時間で硬化できるから、繊維強化複合材料の製造方法として、これまで様々な検討が行われている。
【0004】
繊維強化複合材料を製造する際には、プリプレグを成形型などを用いて所望の形状に保持しながら加熱して熱硬化性樹脂を硬化させることで、繊維強化複合材料は所定の形状に成形されている。
【0005】
成形型を用いて、プリプレグを加熱しながら所定の形状を有する繊維強化複合材料を製造する方法として、例えば、レジントランスファーモールディング(RTM:Resin Transfer Molding)法などが用いられる。RTM法は、例えば、成形型の内部に強化用繊維を配置して密閉し、成形型の内部の強化用繊維中に熱硬化性樹脂を圧力を掛けて注入した後、成形型を加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させ、繊維強化複合材料を所定形状に成形する方法である。金属製の成形型で、熱硬化性樹脂の硬化にマイクロ波を照射すると、マイクロ波が成形型で反射してしまう。そのため、成形型の形成材料には、セラミックスなどのように、マイクロ波の透過率が高く、熱膨張率の低い材料が用いられている。
【0006】
例えば、特許文献1には、マイクロ波放射線に対して実質的に透明な材料から形成したモールドベース本体と、作業面上にまたは作業面に近接してマイクロ波放射吸収材料を有するモールドツール面とを含む複合材料物品の成形用モールドが開示されている。
【0007】
特許文献2には、ガラスまたはセラミックスを含み、熱浸透率が1300J/(m1/2K)以上3100J/(m1/2K)以下である成形型が開示されている。一対の成形型に樹脂複合材料を挟み込んでプレス成形する際に、成形型に挟み込まれた樹脂複合材料にマイクロ波を照射している。マイクロ波により樹脂複合材料が加熱されて生じた熱が成形型に逃げるのを抑制し、一対の成形型の型と型との間に熱を封じ込め、熱硬化性樹脂を加熱して硬化させている。
【0008】
特許文献3には、耐熱性よび耐久性が良好な石膏製の成形型を用いて、繊維強化複合材料を硬化させる繊維強化複合材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2011−521044号公報
【特許文献2】特開2017−087550号公報
【特許文献3】国際公開第2011/040602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の成形型では、成形型が多孔質である場合に、成形型の表面にプリプレグを接触させて加熱すると、プリプレグに含まれる熱硬化性樹脂が加熱されることにより熱硬化性樹脂の粘度が低下して、熱硬化性樹脂が成形型の内部に入り込んでしまう場合がある。そのため、プリプレグを加熱して得られる繊維強化複合材料を成形型から取り外し難くなる可能性がある。
【0011】
本発明の一態様は、被成形物の成形体を簡単に取り出すことができる成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様における成形型は、強化用繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを被成形物として成形して成形体を形成するための成形型であって、前記被成形物を収容する空間を形成する成形面を備える一対の造形体を有し、前記一対の造形体は、それぞれの前記成形面が対向するように配置され、前記造形体は、石膏を含んで形成される多孔質体であり、前記造形体の熱浸透率が、100J/(m1/2K)以上1300J/(m1/2K)未満であり、前記成形面に、シリコーンゴムを含む被覆層が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、被成形物の成形体を簡単に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る成形型に繊維強化複合材料を挟んだ状態を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る成形型を開いている状態を示す斜視図である。
図3図2に示す成形型の正面図である。
図4図2に示す成形型の側面図である。
図5】成形体の製造方法の一例の説明図である。
図6】造形体の内部に熱硬化性樹脂が入り込んでいる状態を説明する断面図である。
図7】成形型の他の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。なお、理解の容易のため、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書では、3軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)の3次元直交座標系を用い、成形型の幅方向をX軸方向とし、奥行き方向をY軸方向とし、高さ(厚さ)方向をZ軸方向とする。以下の説明において、成形型の高さ方向の+Z軸側を上または上方といい、―Z軸側を下または下方という場合がある。
【0016】
<成形型>
本発明の実施形態に係る成形型について説明する。本実施形態では、成形型に用いる被成形物が、強化用繊維として炭素繊維にマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグである場合について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る成形型に繊維強化複合材料を挟んだ状態を示す斜視図であり、図2は、本発明の実施形態に係る成形型を開いている状態を示す斜視図であり、図3は、図2に示す成形型の正面図であり、図4は、図2に示す成形型の側面図である。図1図4に示すように、成形型10は、造形体20と、被覆層30とを有する。以下、各構成について説明する。
【0018】
(造形体)
造形体20について説明する。造形体20は、一対の第1造形体20Aおよび第2造形体20Bで構成されている(以下、一対の第1造形体20Aおよび第2造形体20Bをまとめて、造形体20という場合がある)。第1造形体20Aは上側に配置され、第2造形体20Bは下側に配置されている。第1造形体20Aは成形面21Aを有し、第2造形体20Bは成形面21Bを有する。第1造形体20Aおよび第2造形体20Bは、成形面21Aと成形面21Bとが向き合うようにZ軸方向に沿って配置されている。
【0019】
成形面21Aと成形面21Bとの間には、被成形物であるプリプレグ11を収容する空間Sが形成される。空間Sは、第1造形体20Aと第2造形体20Bとを閉じて(成形型10を閉じて)、プリプレグ11を第1造形体20Aと第2造形体20Bとで挟み込んだ状態の時に、成形面21Aと成形面21Bとの間に形成される空間である。
【0020】
プリプレグ11は、空間Sで、成形面21Aと成形面21Bとにより、被覆層30を介して挟み込まれた状態で収容されている。プリプレグ11は、強化用繊維である炭素繊維のクロス(プリフォーム)にマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を含浸させ、熱硬化性樹脂を半硬化状態にした強化プラスチック成形材料である。プリプレグ11の詳細については後述する。
【0021】
造形体20は、多孔質体である。造形体20は、石膏を含んで形成されている。造形体20は、石膏を含むことで、針状結晶で形成された多孔質構造を有する。
【0022】
造形体20は、例えば、焼き石膏の粉末を水に分散させたスラリーを、所望の形状の型容器に入れて乾燥させることにより、容易に形成できる。また、造形体20は、石膏を含んで形成されているため、造形体20を切削したり、造形体20に穴を開けたりするなど後加工を容易に行い易い。そのため、造形体20は複雑な形状に形成し易い。また、石膏の比重は2.3g/cm3であり、他の耐熱性無機材料(例えば、鉄の比重は、7.9g/cm3である)よりも軽量であるため、造形体20は、大型に形成し易い。
【0023】
造形体20の吸水率は、0%を超え30%以下であることが好ましく、0%を超え10%以下であることがより好ましい。造形体20の吸水量が31%以上であると、造形体20の強度が低くなり、造形体20の型崩れや寸法誤差が大きくなりやすい。なお、吸水率とは、「JIS A 1110(粗骨材の密度及び吸水率試験方法)」に準じて測定される値を意味する。
【0024】
造形体20の熱浸透率は、100J/(m1/2K)以上1300J/(m1/2K)未満であることが好ましく、より好ましくは500J/(m1/2K)以上1000J/(m1/2K)以下である。
【0025】
造形体20の熱浸透率が上記範囲内であれば、伝熱が抑制されるため、熱の封じ込め効果を発揮できる。
【0026】
なお、熱浸透率は、熱浸透率をb[J/(m・s1/2・K)]、熱伝導率をκ[W/(m・K)]、密度をρ[kg/m])、比熱容量をC[J/(kg・K)]とすると、下記式(1)より求めることができる。
b=(κ×ρ×C)1/2・・・(1)
【0027】
造形体20の熱伝導率は、定常法の熱流計法(HFM法)を用いて求めることができる。熱伝導率測定装置の熱板温度は、20℃と30℃とする。比熱容量は、室温での値を用いて求める。
【0028】
造形体20は、多孔質構造を形成できれば、他の耐熱性無機材料を含んでもよい。耐熱性無機材料としては、セラミックス、ガラス、コルクまたはセメントなどを用いることができる。これらは、一種含んでもよいし、複数含んでもよい。
【0029】
(被覆層)
被覆層30について説明する。被覆層30は、シリコーンゴムで形成することができる。シリコーンゴムは、マイクロ波を透過する性質を有すると共に、熱硬化性樹脂との密着性が低い性質を有している。また、シリコーンゴムは、優れた気密性および耐薬品性を有している。
【0030】
シリコーンゴムは、分子骨格としてシロキサン結合(Si−O結合)を有するゴム状シリコーン樹脂である。シリコーンゴムとしては、例えば、メチルシリコーンゴム、ビニル・メチルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、ビニルシリコーンゴムなどを用いることができる。市販品として、具体的には、KE−1308(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
シリコーンゴムは、シリコーンゴム組成物を硬化(架橋)させることにより得られる。シリコーンゴム組成物が、室温(通常、25℃±10℃)において自己流動性を有するオルガノポリシロキサンを主剤(ベースポリマー)とする液状シリコーンゴム組成物である場合、硬化剤を加えることで、シリコーンゴムが得られる。
【0032】
硬化剤は、主剤と共に加熱した時に主剤を硬化させる特性を有している。硬化剤は、熱硬化性樹脂であるシリコーンゴム用の硬化剤であれば使用することができる。硬化剤として、例えば、付加反応硬化剤、または有機過酸化物硬化剤などを用いることができる。市販品として、具体的には、CE62(モーメンティブ社製)などを使用することができる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0033】
硬化剤の配合量は、主剤の種類や配合量に応じて適宜設定されると共に、硬化剤が通常使用される範囲内において成形条件や特性などに応じて適宜設定される。
【0034】
シリコーンゴム組成物は、上記成分の他に、必要に応じて、各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、補強材、充填剤、軟化剤、老化防止剤、安定剤、接着促進剤、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、無機フィラー、粘着付与性樹脂、可使用時間延長剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、防黴剤、増粘剤、可塑剤、顔料などの着色剤などを併用してもよい。
【0035】
シリコーンゴム組成物の調製方法としては、1液型、または2液型のいずれをも採用可能である。なお、1液型の調製方法とは、すべての配合成分を予め配合したのち密封保存し、施工後空気中の湿気により硬化するものをいう。2液型の調製方法とは、硬化剤および溶媒と、必要に応じて、充填剤や可塑剤などの成分を配合しておき、主剤と硬化剤とを施工前に混合するものをいう。
【0036】
シリコーンゴム組成物が1液型の場合、全ての成分が予め配合されているため、シリコーンゴム組成物中に水分が存在すると貯蔵中に硬化が進行することがある。そこで、水分を含有する成分を予め脱水乾燥してから添加するか混合した状態で減圧するなどにより、脱水するのが好ましい。
【0037】
シリコーンゴム組成物が2液型の場合、主剤に硬化剤を配合する必要があるのでシリコーンゴム組成物中には若干の水分が含有されていても硬化の進行(ゲル化)の心配は少ないが、長期間の貯蔵安定性が必要とされる場合は、脱水乾燥するのが好ましい。
【0038】
被覆層30は、重合反応させる前のシリコーンゴム組成物を造形体20の成形面21に塗布して、所定の温度で硬化させることで、成形面21に被覆層30が形成される。
【0039】
被覆層30の厚さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1mm以上0.5mm以下である。厚さがこの範囲であれば、プリプレグ11を成形して得られる繊維強化複合材料脱型し易く、被成形物の寸法誤差も小さい。なお、本実施形態において、厚さとは、被覆層30の接触面に対して垂直方向の層の長さをいう。また、被覆層30の厚さは、例えば、被覆層30の断面において、任意の場所で数カ所(例えば、3か所程度)測定した時の、これらの測定箇所の厚さの平均値でもよい。
【0040】
(成形型の製造方法)
次に、成形型10の製造方法について説明する。焼き石膏の粉末を水に分散させたスラリーを、所望の形状の型容器に供給して乾燥させることにより、一対の第1造形体20Aおよび第2造形体20Bで構成される造形体20を製造する。その後、第1造形体20Aの成形面21Aおよび第2造形体20Bの成形面21Bにシリコーンゴム組成物を塗布する。
【0041】
シリコーンゴム組成物の塗布方法は、特に限定されない。シリコーンゴム組成物の塗布方法として、例えば、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、リバースコート、バーコート、スクリーンコート、ブレードコート、エアーナイフコート、ディッピング、ディスペンシングなどの方法を用いることができる。
【0042】
成形面21Aおよび成形面21Bにシリコーンゴム組成物を塗布した後、シリコーンゴム組成物が塗布された造形体20を所定温度で加熱することで、シリコーンゴム組成物が硬化し、造形体20の成形面21Aおよび成形面21Bに被覆層30の形成された成形型10が製造される。
【0043】
シリコーンゴム組成物が塗布された造形体20の加熱温度は、シリコーンゴム組成物を硬化させることができる温度であればよく、例えば、20〜150℃である。
【0044】
<繊維強化複合材料の製造方法>
次に、成形型10を用いて、被成形物であるプリプレグから成形体である繊維強化複合材料を製造する製造方法について説明する。成形型10を用いて、プリプレグから繊維強化複合材料を製造する方法としては、例えば、RTM法、真空樹脂含浸法(VaRTM:Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法などを用いることができる。本実施形態では、RTM法を用いてプリフォームからプリプレグを製造し、繊維強化複合材料を製造する場合について説明する。
【0045】
図5は、繊維強化複合材料の製造方法の一例を示す説明図である。図5に示すように、プリプレグ11を構成する炭素繊維のクロス(プリフォーム)111を第2造形体20Bの成形面21Bの被覆層30上に配置した。その後、第1造形体20Aと第2造形体20Bとを閉じて(成形型10を閉じて)、第1造形体20Aの成形面21Aで挟み込んで(型締め、成形型10の空間S内が密閉された状態で、空間S内のプリフォーム111中に圧力を掛けた熱硬化性樹脂を注入する。これにより、第1造形体20Aの成形面21Aと第2造形体20Bの成形面21Bとの間に、プリプレグ11が成形面21Aおよび成形面21Bで挟み込まれた状態で形成される。
【0046】
その後、成形型10およびプリプレグ11にマイクロ波を照射して、プリプレグ11に含まれる半硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、強化用繊維に熱硬化性樹脂の硬化物が含まれる繊維強化複合材料40が形成される。繊維強化複合材料40は、成形面21Aと成形面21Bとの形状に対応して、所定形状に成形される。
【0047】
プリプレグ11に照射するマイクロ波の波長は、300MHz以上3000MHz以下であることが好ましく、500MHz以上2500MHz以下であることが好ましい。マイクロ波の波長が上記範囲内であれば、プリプレグ11にマイクロ波を照射した際、プリプレグに含まれる半硬化状態の熱硬化性樹脂をほぼ均一に加熱できる。
【0048】
成形型10の空間Sに繊維強化複合材料40を形成した後、第1造形体20Aと第2造形体20Bとを開く(成形型10を開く)ことで、成形型10により、所定形状に成形された繊維強化複合材料40が得られる。
【0049】
プリプレグ11にマイクロ波を照射することによって、プリフォーム111を構成する炭素繊維から熱が生じる。この炭素繊維から生じる熱により熱硬化性樹脂の硬化が促進され、熱硬化性樹脂の硬化が早まる。これにより、プリプレグ11に含まれる半硬化状態の熱硬化性樹脂は、強化用繊維を含まない熱硬化性樹脂よりも、より短時間で硬化する。プリプレグ11に含まれる半硬化状態の熱硬化性樹脂は、例えば、炭素繊維を含まない熱硬化性樹脂で推奨されている硬化時間(推奨硬化時間)の1/36以下の加熱時間で硬化させることができる。よって、成形型10を用いた成形方法を用いれば、プリプレグ11をより短時間で硬化させ、繊維強化複合材料40を製造できる。
【0050】
(プリプレグ)
成形型10に用いられるプリプレグ11について詳細に説明する。プリプレグ11は、炭素繊維と、炭素繊維に含浸された、半硬化状態の熱硬化性樹脂とを含んでいる。プリプレグ11は、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱または室温で静置して半硬化状態にした強化プラスチック成形材料である。
【0051】
炭素繊維は、熱硬化性樹脂に表面が覆われた状態で含まれている。炭素繊維は、マイクロ波が照射されると、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する。本実施形態では、強化用繊維として炭素繊維を用いているが、他に、強化用繊維として、セルロース繊維、またはポリエステル繊維、ケブラー繊維、炭化ケイ素繊維などの繊維状補強材を含んでもよい。また、炭素繊維に代えて、繊維状補強材の何れか一種以上を用いてもよい。
【0052】
熱硬化性樹脂は、炭素繊維に含浸されるマトリックス樹脂である。
【0053】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン・尿素・フェノールなどのアミノ系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。これらは、1種類だけ単独で使用されていてもよいし、2種類以上併用されていてもよい。これらの中でも、より短時間で硬化可能である点から、エポキシ系樹脂などが好ましい。
【0054】
上記エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、アクリル酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ系樹脂として、これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
熱硬化性樹脂は、硬化剤を含むことができる。硬化剤としては、例えば、カルボキシル基、またはカルボン酸無水物基を有するカルボン酸系硬化剤(酸無水物系硬化剤);アミノ基、アミド基、ケトイミン基、イミダゾール基、ジシアンジアミド基などを有するアミン系硬化剤;またはフェノールノボラックなどのフェノール基を有するフェノール系硬化剤;などを使用することができる。
【0056】
酸無水物系硬化剤の具体例としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物などが挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0057】
アミン系硬化剤の具体例としては、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン;イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジンなどのピペラジン型のポリアミン;ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエートなどの芳香族ポリアミン類が挙げられる。また、市販品として、jERキュア ST−11(商品名、三菱ケミカル社製)などが挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0058】
フェノール系硬化剤の具体例としては、フェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を指し、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などが挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。
【0059】
プリプレグ11は、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いているが、熱可塑性樹脂を用いることもできる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、変性アクリル樹脂、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリウレタン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、またはフッ化ビニリデンなどを用いることができる。これらは、1種類だけ単独で使用されていてもよいし、2種類以上併用されていてもよい。
【0060】
以上のように構成された成形型10は、造形体20の成形面21に被覆層30を形成している。造形体20は、多孔質体であるため、図6に示すように、多孔質体の造形体20の表面にプリプレグ11を直接接触させた場合、プリプレグ11に含まれる熱硬化性樹脂112が造形体の内部に侵入する。特に、プリプレグ11に含まれる熱硬化性樹脂112は加熱されることにより、熱硬化性樹脂112の粘度が低下するため、熱硬化性樹脂112は造形体20の内部に侵入し易くなる。造形体20の内部に熱硬化性樹脂112が侵入した状態で、プリプレグ11中の熱硬化性樹脂112が硬化すると、熱硬化性樹脂112が硬化することで得られる繊維強化複合材料は造形体20から取り外し難くなる。本実施形態では、成形型10は、造形体20の成形面21に被覆層30を形成しているため、プリプレグ11に含まれる熱硬化性樹脂が造形体20の表面から内部に侵入して食い込むことを抑制できる。また、被覆層30は、シリコーンゴムを含んで形成されているため、熱硬化性樹脂との密着性が低い性質を有する。そのため、成形型10は、被覆層30の表面に形成した繊維強化複合材料40(図5参照)を簡単に脱離できる。
【0061】
また、成形型10は、上記の通り、石膏を含んで造形体20を形成しているため、成形面21Aおよび21Bを複雑な形状に形成し易い。成形型10は、繊維強化複合材料40を成形面21Aおよび21Bに対応した形状を維持した状態で簡単に脱離できるので、複雑な形状を有する繊維強化複合材料40(図5参照)を簡単に成形できる。そのため、造形体20の成形面21Aおよび21Bに複数の孔や凹凸など模様が施されているような場合でも、繊維強化複合材料40(図5参照)に形成された模様の形状を維持した状態で成形型10から安定して取り出せる。
【0062】
また、被覆層30は、マイクロ波を透過する性質を有するため、成形型10にマイクロ波を照射すると、熱硬化性樹脂を短時間で硬化させることができる。よって、成形型10は、繊維強化複合材料40(図5参照)を短時間で簡単に成形できる。
【0063】
さらに、被覆層30に含まれるシリコーンゴムは、気密性および耐薬品性を有するため、成形型10は、優れた耐久性を有することができる。
【0064】
成形型10は、造形体20の吸水率を、0%以上30%以下にできるため、造形体20の強度が高く、造形体20の型崩れや寸法誤差を低減できる。よって、成形型10は、高い形状安定性を有することができる。
【0065】
成形型10は、造形体20の熱浸透率を、100J/(m1/2K)以上1300J/(m1/2K)未満にできるため、造形体20において熱が外部に放出されることを抑制でき、熱の封じ込め効果を発揮できる。プリプレグ11に熱を封じ込めることで、プリプレグ11に含まれる半硬化状態の熱硬化性樹脂をより短時間で硬化させることができる。
【0066】
成形型10は、上記のような特性を有することから、自動車や鉄道などの車両用部品、または航空機用部品などを形成するための型として好適に用いることができる。本実施形態に係る成形型10を、車両や航空機などに用いられる成形体の製造用に用いることで、車両用部品や航空機用部品を短時間で製造することができる。
【0067】
本実施形態では、造形体20を構成する一対の第1造形体20Aおよび第2造形体20Bは一体に成形されているが、複数の造形部材を組み合わせることにより構成されていてもよい。例えば、図7に示すように、一対の第1造形体20Aおよび第2造形体20Bは、それぞれ、2つの第1造形部材20A−1および20A−2と、第2造形部材20B−1および20B−2とを組み合わせることにより構成されていてもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
<実施例1>
[実施例1−1]
(成形型の作製)
焼き石膏(和光純薬社製)100gと蒸留水70mLとの割合で混合し1分30秒混ぜてスラリーを作製した。スラリーを3分間真空脱泡した後、真空脱泡したスラリーをシリコーンゴム型(内径40mm)に流し入れ、直径40mmの円盤状の石膏を含む、一対の第1造形体および第2造形体からなる造形体を作製した。2時間静置した後、シリコーンゴム型を円盤状の造形体から脱型し、40℃の電気オーブンに造形体を入れ、12時間程度乾燥させた。一対の第1造形体および第2造形体の成形面の表面に、シリコーンゴム(TSE350、モーメンティブ社製)と硬化剤(CE62、モーメンティブ社製)とを混合したシリコーン組成物を厚さが約0.5mmとなるように塗布し、40℃の電気オーブンに入れて、12時間程度硬化させた。これにより、一対の第1造形体および第2造形体の成形面の表面がシリコーンゴムからなる被覆層で被覆された成形型を得た。
(熱硬化性樹脂組成物の塗布)
主剤である熱硬化性樹脂としてビスフェノールA型のエポキシ系樹脂(jER827(登録商標)、三菱化学社製)を用い、硬化剤としてアミン系化合物の硬化剤(jERキュアST−11(登録商標)、三菱化学社製)とを用いた。主剤および硬化剤を混ぜた熱硬化性樹脂組成物を成形型のシリコーンゴムの上に少量塗布した。その後、熱硬化性樹脂組成物を塗布した成形型を120℃の電気オーブンに入れて3時間加熱し、熱硬化性樹脂組成物を硬化させた。なお、硬化剤の推奨硬化条件は、23℃で24時間加熱することに加えて、80℃で3時間加熱することである。
【0070】
[実施例1−2]
実施例1−1において、熱硬化性樹脂組成物に用いた主剤を、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂からビスフェノールF型のエポキシ樹脂(jER806(登録商標)、三菱化学社製)に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして行った。
【0071】
[実施例1−3]
実施例1−1において、熱硬化性樹脂組成物に用いた硬化剤を、アミン系化合物の硬化剤から酸無水物系化合物の硬化剤(jERキュアLV11(登録商標)、三菱化学社製)に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして行った。なお、硬化剤の推奨硬化条件は、23℃で24時間加熱することに加えて、80℃で3時間加熱することである。
【0072】
[実施例1−4]
実施例1−1において、熱硬化性樹脂組成物に用いた主剤を、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂からビスフェノールF型のエポキシ樹脂(jER806、三菱化学社製)に変更した。熱硬化性樹脂組成物に用いた硬化剤を、アミン系化合物の硬化剤から酸無水物系化合物の硬化剤(jERキュアLV11(登録商標)、三菱化学社製)に変更した。それ以外は、実施例1−1と同様にして行った。
【0073】
[比較例1−1]
実施例1−1において、成形型として、表面をシリコーンゴムで被覆していない造形体を準備した。そして、真空脱泡したスラリーをシリコーンゴム型(内径40mm)に流して、直径40mmの円盤状の造形体を作製する際に、予め、直径16mm、厚さ2mmのシリコーンゴムをシリコーンゴム型の底に設置して、直径16mm、厚さ2mmの凹状の溝を備えた円盤状の造形体を作製したこと以外は、実施例1−1と同様にして行った。
【0074】
[比較例1−2]
比較例1−1において、熱硬化性樹脂組成物に用いた主剤を、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂からビスフェノールF型のエポキシ樹脂(jER806、三菱化学社製)に変更したこと以外は、比較例1−1と同様にして行った。
【0075】
[比較例1−3]
比較例1−1において、熱硬化性樹脂組成物に用いた主剤を、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(jER827(登録商標)、三菱化学社製)と酸無水物系化合物の硬化剤(jERキュアLV11(登録商標)、三菱化学社製)を混ぜた熱硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、比較例1−1と同じ方法を用いた。
【0076】
[比較例1−4]
比較例1−1において、熱硬化性樹脂組成物に用いたビスフェノールF型のエポキシ樹脂(jER806(登録商標)、三菱化学社製)と酸無水物系化合物の硬化剤(jERキュアLV11(登録商標)、三菱化学社製)を混ぜたシリコーン組成物を用いたこと以外は、比較例1−1と同じ方法を用いた。
【0077】
[検討]
実施例1−1〜1−4の成形型では、成形型の表面に塗布したエポキシ樹脂組成物は造形体に吸収されることなく硬化し、シリコーンゴム表面から容易に硬化体の状態で取り除くことができた。一方、比較例1−1〜1−4の成形型では、エポキシ樹脂組成物の一部が造形体の表面から内部に流れて食い込んだ状態で硬化したため、造形体からエポキシ樹脂組成物の硬化物は取り除けなかった。
【0078】
よって、造形体のエポキシ樹脂組成物との接触面にシリコーンゴム組成物からなる被覆層を形成することにより、被覆層の表面に塗布したエポキシ樹脂組成物が造形体の内部に食い込むことなく被覆層の表面で硬化させることができた。これにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物を容易に取り除くことができることが確認された。
【0079】
<実施例2>
[造形体および被覆層の作製]
(造形体の作製)
実施例1−1において、直径60mmのシリコーンゴム型にスラリーを入れたこと以外は、実施例1−1と同様にして行い、厚さ15mmの造形体を作製した。
(被覆層の作製)
被覆層として、実施例1−1と同じシリコーンゴムを用いて、厚さ0.5mm、40mm四角の形状のシリコーンゴムからなるシートを作製した。
(熱伝導率の測定)
定常法(HC−110、英弘精機製)により、これらの熱伝導率を測定した結果、造形体の熱伝導率は、0.36W/m・Kであり、被覆層は0.23W/m・Kであった。
(熱浸透率の測定)
下記式(1)を用いて、造形体の熱伝導率κを0.36W/m・K、造形体の密度ρを1250kg/m、造形体の比熱容量Cを1050J/(kg・K)として、造形体の熱浸透率b[J/(m・s1/2・K)]を計算した。その結果、造形体の熱浸透率は、690J/(m・s1/2・K)であった。下記式(1)を用いて、被覆層の熱伝導率κを0.23W/m・K、被覆層の密度ρを970kg/m、被覆層の比熱容量Cを1600J/(kg・K)として、被覆層の熱浸透率bを計算した。その結果、被覆層の熱浸透率bは、600J/(m・s1/2・K)であった。なお、熱伝導率は、定常法を用いて熱板温度20℃と30℃で測定した。また、比熱容量は、室温での値を用いた。
b=(κ×ρ×C)1/2・・・(1)
【0080】
造形体の熱浸透率は、シリコーンゴムの熱浸透率よりも高かったが、造形体およびシリコーンゴムの熱浸透率は、100J/(m1/2K)以上1300J/(m1/2K)未満であった。そのため、造形体にシリコーンゴムの被覆層を形成すれば、造形体の内部に供給したプリプレグ中の半硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させる際に外部から加えられる熱を封じ込めることができるので、プリプレグ中の半硬化状態の熱硬化性樹脂の硬化時間を短くできることが確認された。
【0081】
<実施例3>
[実施例3−1]
(半硬化状態の熱硬化性樹脂の作製)
VaRTM法を用いて、20層の炭素繊維クロス(型式CO6343、東レ社製)に、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂(jER806(登録商標)、三菱化学社製)とアミン系化合物の硬化剤(jERキャアST11(登録商標)、三菱化学社製)とを混合したエポキシ樹脂組成物を含浸し、室温で8時間静置して、40mm四角においてエポキシ樹脂組成物を半硬化状態にした。なお、硬化剤の推奨硬化条件は、23℃で24時間に加えて80℃で3時間加熱することである。
(マイクロ波を用いた熱硬化性樹脂の硬化)
次に、上記の、実施例2−1で作製した造形体の片面を、厚さ0.5mmのシリコーンゴムで被覆し、一成形型を作製した。一対の成形型でプリプレグを挟み、周波数2.45GHz、50W出力のマイクロ波をプリプレグに5分間照射して、プリプレグに含まれる熱硬化性樹脂を加熱して硬化させ、硬化体である繊維強化複合材料を得た。
【0082】
マイクロ波照射後のプリプレグの端面を赤外線サーモグラフィーで測定したところ、プリプレグの端面は、100〜130℃に加熱され、プリプレグと接触した成形型の表面は70℃であった。
【0083】
よって、実施例3−1では、マイクロ波をプリプレグに照射した場合、成形型への伝熱が抑制され、成形型の空間内に熱が閉じ込められていることが確認された。マイクロ波の照射を停止しして直ぐに造形体を構成する第1造形体と第2造形体とを分離して、放射温度計を用いて繊維強化複合材料の表面温度を測定したところ、94〜132℃に加熱されていた。そして、マイクロ波の照射前にプリプレグの半硬化状態であった熱硬化性樹脂は硬化しており、成形型から容易に分離できた。
【0084】
したがって、成形面にシリコーンゴムからなる被覆層を形成した、一対の造形体でプリプレグを挟み、プリプレグにマイクロ波を照射することで、熱硬化性樹脂を硬化剤の推奨硬化時間よりも短い時間で硬化でき、得られる繊維強化複合材料を容易に分離できることが確認された。
【0085】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
10 成形型
11 プリプレグ
20 造形体
20A 第1造形体
20B 第2造形体
21A、21B 成形面
30 被覆層
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7