特許第6971476号(P6971476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6971476
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】接着剤組成物、硬化物、精密部品
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/00 20060101AFI20211111BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20211111BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C09J4/00
   C09J11/06
   C09J11/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-526304(P2018-526304)
(86)(22)【出願日】2017年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2017023505
(87)【国際公開番号】WO2018008462
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2019年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-132279(P2016-132279)
(32)【優先日】2016年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】新井 克訓
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−045459(JP,A)
【文献】 特開2016−044268(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/005471(WO,A1)
【文献】 特開2000−080252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性の硬化性樹脂と、
1分間半減期温度が100℃未満の有機過酸化物と、
ニトロソアミン化合物であるラジカル重合禁止剤と、
を含み、
前記硬化性樹脂のうち、ラジカル重合に寄与する官能基当量が600〜900のものが40〜60重量%であり、
前記硬化性樹脂、前記有機過酸化物、及び前記ラジカル重合禁止剤の割合が、前記硬化性樹脂:前記有機過酸化物:前記ラジカル重合禁止剤=100:8〜15:0.08〜0.15であり、
25℃、48時間後の増粘率が1.5以下であり、100℃〜180℃、1〜5秒間の加熱で仮硬化が可能であり、仮硬化の後、70℃〜100℃の加熱で本硬化が可能である接着剤組成物。
【請求項2】
前記仮硬化の加熱条件は、120℃、3秒以下であり、前記本硬化の加熱条件は、80℃である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記有機過酸化物は、ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル)のいずれか一つ、またはこれらの組み合わせである請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
ラジカル重合に寄与する官能基当量が600〜900のものが、40〜60重量%含まれる硬化性樹脂と、
ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル)と、
ニトロソアミン化合物と、
を含み、
前記硬化性樹脂、前記ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル)、及び前記ニトロソアミン化合物の割合が、前記硬化性樹脂:前記ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル):前記ニトロソアミン化合物=100:8〜15:0.08〜0.15である接着剤組成物。
【請求項5】
貴金属フィラーを更に含む請求項1〜4のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の接着剤組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項6の硬化物を用いた精密部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、当該接着剤組成物の硬化物、及び当該硬化物を用いた精密部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯機器に用いられるカメラモジュールは、撮影機能の向上と小型化が要求される。従って、カメラモジュールに含まれるCCDやCMOS、レンズ群等の光学部品のサイズを保ちつつ(或いは大型化しつつ)、カメラモジュール全体としては小型化を図りたいという要望がある。このため、接着剤を塗布して組み付けする部分には高い位置精度が要求される。
【0003】
高い位置精度を保つためには、接着剤塗布後の不用意なズレを抑制する必要がある。このようなズレを抑制する手法として、仮硬化及び本硬化の2段階の硬化過程を経て接着する方法がある。たとえば、FPC基板に接着剤を塗布した後、スティフナーの載置と同時に、ヒータで短時間熱を加えることにより接着剤を仮硬化させ、FPC基板に対してスティフナーの位置を仮固定する。その後、オーブン等を用いて時間をかけて本硬化を行うことで、FPC基板に対してスティフナーを組み付ける。
【0004】
また、このような2段階の方法において、UV硬化性のラジカル重合系樹脂と熱硬化性樹脂を併せた接着剤を用いる例がある。この例では、最初にUVを照射することでラジカル重合系樹脂を硬化させて仮固定し(仮硬化)、次に熱を加えることで熱硬化性樹脂を硬化させる(本硬化)。仮硬化を速やかに行うためには、このような反応性の高いラジカル重合性の樹脂を用いることが好ましい。一方、意図しないラジカル重合(硬化反応)を防ぐため、特許文献2に記載されたような重合禁止剤を用いる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−082836号公報
【特許文献2】特開2006−045459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように、エポキシ樹脂とラジカル硬化性樹脂という硬化反応が異なる2種類の樹脂を混合した接着剤は、仮硬化と本硬化で異なる手段(UVまたは熱)を用いる必要があり煩雑である。また、硬化時の熱が光学部品等の精密部品に影響を与えないよう、長時間行われる本硬化は低温で行われることが好ましい。
【0007】
そこで、短時間で行う仮硬化を高温で行い、より時間を要する本硬化を仮硬化よりも低温で行うことが考えられる。この場合、仮硬化の時点で十分に熱を加えてラジカルを発生させないと、仮硬化を行うことができない。しかし、高温の場合には消費されるラジカル開始剤の量が増えるため、その後に行う低温での本硬化時に必要とするラジカル開始剤が不足するという事態が起こりうる。
【0008】
このような事態を防ぐために大量のラジカル開始剤を添加することが考えられる。しかし、大量のラジカル開始剤を添加した場合、意図しないラジカル重合が進行する可能性(たとえば、室温下における硬化反応の開始)があるため、接着剤組成物のポットライフが短くなるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、接着剤として使用する組成物であって、ポットライフが長く、且つ仮硬化及び本硬化の二段階で使用する際に、仮硬化時よりも低温で本硬化が可能となる接着剤組成物、その硬化物及びその硬化物を用いた精密部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための主たる発明は、ラジカル重合性の硬化性樹脂と、1分間半減期温度が100℃未満の有機過酸化物と、ラジカル重合禁止剤と、を含み、25℃、48時間後の増粘率が1.5以下であり、100℃〜180℃、1〜5秒間の加熱で仮硬化が可能であり、仮硬化の後、70℃〜100℃の加熱で本硬化が可能である接着剤組成物である。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接着剤組成物は、ポットライフが長く、且つ仮硬化及び本硬化の二段階で使用する際に、仮硬化時よりも低温で本硬化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
==開示の概要==
本明細書の記載により、上記主たる発明の他、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0013】
すなわち、前記仮硬化の加熱条件が120℃、3秒以下であり、前記本硬化の加熱条件が80℃である接着剤組成物が明らかとなる。このような接着剤組成物は、ポットライフが長く、且つ仮硬化時の温度(120℃)よりも低温(80℃)で本硬化が可能となる。
【0014】
また、前記ラジカル重合禁止剤がニトロソアミン化合物である接着剤組成物が明らかとなる。ラジカル重合禁止剤としてニトロソアミン化合物を用いることにより、意図しないラジカル重合の発生を抑制し、接着剤組成物のポットライフを長くすることができる。
【0015】
また、前記有機過酸化物が、ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル)のいずれか一つ、またはこれらの組み合わせである接着剤組成物が明らかとなる。これらの有機過酸化物は、半減期温度が低いため、低温の硬化反応に用いることができる。
【0016】
また、前記硬化性樹脂のうち、ラジカル重合に寄与する官能基当量が600〜900のものが40〜60重量%である接着剤組成物が明らかとなる。このような硬化性樹脂を用いることにより、接着剤組成物の接着強度をより向上させ、且つポットライフをより長くすることができる。ラジカル重合に寄与する官能基当量が600未満の樹脂が多すぎる場合には、硬化収縮が大きくなり界面剥離が起こりやすくなる。一方、官能基当量が900超の樹脂が多すぎる場合には、架橋密度が小さくなり、硬化物自体の強度が低下しやすくなる。
【0017】
また、ラジカル重合に寄与する官能基当量が600〜900のものが、40〜60重量%含まれる硬化性樹脂と、ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル)のいずれかと、ニトロソアミン化合物とを含む接着剤組成物が明らかとなる。このような接着剤組成物は、ポットライフが長く、且つ仮硬化及び本硬化の二段階で使用する際に、仮硬化時よりも低温で本硬化が可能となる。
【0018】
また、貴金属フィラーを更に含む接着剤組成物が明らかとなる。このような接着剤組成物は導電性を有する。
【0019】
更に、上記の接着剤組成物を硬化させた硬化物が明らかとなる。このような硬化物の元となる接着剤組成物は長時間のポットライフを有する。従って、その硬化物は様々な対象物に利用できる。
【0020】
また、上記硬化物を用いた精密部品が明らかとなる。硬化物の元となる接着剤組成物は長時間のポットライフを有する。従って、その硬化物は様々な精密部品に利用できる。
【0021】
==実施形態==
[接着剤組成物の組成]
本実施形態の接着剤組成物は、少なくともラジカル重合性の硬化性樹脂、ラジカル重合開始剤、及びラジカル重合禁止剤を含む。
【0022】
本実施形態において、「仮硬化」とは、接着剤組成物に対して熱を短時間加えることにより、組成物を部分的に硬化させることをいう。たとえば、接着剤組成物を塗布した被接着物に対して接着物を載置し、短時間熱を加えることにより、被接着物に対して接着物を仮固定した状態をいう。仮硬化時の接着強度としては、たとえば0.1kgf/mm2〜1kgf/mm2である。「本硬化」とは、接着剤組成物に熱を長時間加えることにより、組成物を完全に硬化させることをいう。たとえば、仮固定した被接着物及び接着物に対してオーブン等で長時間(仮硬化よりも長い時間)熱を加えることにより、被接着物に対して接着物を完全に固定した状態をいう。本硬化時の接着強度としては、たとえば0.5kgf/mm2〜3kgf/mm2である。「ポットライフ」とは、接着剤組成物の作製後、当該接着剤組成物が使用可能な状態を維持している時間をいう。「増粘率」とは、接着剤組成物の作製直後の粘度に対する所定時間経過後における粘度変化の割合をいう。
【0023】
(ラジカル重合性の硬化性樹脂)
ラジカル重合性の硬化性樹脂は、接着剤組成物に接着性、及び硬化性を付与する。ラジカル重合性の硬化性樹脂とは、ラジカル重合の進行により硬化する樹脂をいう。ラジカル重合性の硬化性樹脂は、重合速度が速いため仮硬化等を速やかに行うことができる。このような硬化性樹脂は、ラジカル重合性を有するものであれば特に限定されるものではない。市販品としては、たとえば、BMI−1500(ビスマレイミド樹脂。Designer molecules Inc製)、ライトアクリレートPO−A(アクリル樹脂。共栄社化学株式会社製)、HEAA(アクリル樹脂。KJケミカル株式会社製)を用いることができる。接着剤組成物の硬化物の安定性(耐熱性、耐湿性)や柔軟性という観点からは、アクリル系樹脂やビスマレイミド樹脂を含むことが好ましい。
【0024】
また、硬化性樹脂のうち、ラジカル重合に寄与する官能基当量が600〜900のものが40〜60重量%であることが好ましい。官能基当量が大きい場合、分子中の官能基の数が少なくなるため、ラジカル重合性が低くなる(ラジカル重合の進行が遅くなる。すなわち、樹脂の硬化反応が進みにくくなる)。従って、接着剤組成物の保管時等に意図しないラジカル重合により増粘率が向上することを抑制できる(すなわち、ポットライフを長くできる)。このような硬化性樹脂が40重量%よりも少なくなるとポットライフに影響を与える。一方、このような硬化性樹脂が60重量%より多くなると、接着剤組成物の硬化性が悪くなる。
【0025】
更に、ラジカル重合性の硬化性樹脂は、液状であることが好ましい。液状の硬化性樹脂を用いることにより、溶剤が不要となるため、接着剤組成物を使用する際のボイドの発生を防止することができる。溶剤は、接着剤組成物中、3重量%未満であることが好ましく、より好ましくは1重量%未満であるが、最も好ましいのは、無溶剤である。硬化性樹脂は、1種類のみ(たとえばアクリル系樹脂のみ)を用いてもよいし、2種以上(たとえばアクリル系樹脂とビスマレイミド樹脂)を併用してもよい。
【0026】
(ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤は、所定の温度で開裂することにより活性種ラジカルを発生する。この活性種ラジカルにより上記硬化性樹脂のラジカル重合反応が開始される。本実施形態におけるラジカル重合開始剤は、1分間半減期温度が100℃未満の有機過酸化物である。具体的には、87℃〜99℃である。これらの有機過酸化物は、100℃未満の低温で開裂するため、低温での硬化に用いることが可能となる。これらの有機過酸化物としては、ペルオキシビス(ぎ酸プロピル)、ペルオキシビス(ぎ酸イソプロピル)、ペルオキシ二炭酸ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、ペルオキシビス(ぎ酸sec−ブチル)などを挙げることができる。市販品としては、たとえば、パーロイルTCP(1分間半減期温度:約92℃。日油株式会社製。「パーロイル」は登録商標)を用いることができる。
【0027】
(ラジカル重合禁止剤)
ラジカル重合禁止剤は、ラジカル重合を抑制し、接着剤組成物のポットライフを長くする。本実施形態におけるラジカル重合禁止剤は、ニトロソアミン化合物である。上述の通り、本実施形態では、低温で開裂するラジカル重合開始剤を使用する。従って、室温等でも意図しないラジカル重合反応が開始される可能性がある。そこで、接着剤組成物中にラジカル重合禁止剤を添加することにより、意図しないラジカル重合反応を防止できる。市販品としては、たとえば、ニトロソアミンのアルミニウム塩であるQ1301(和光純薬工業株式会社製)を用いることができる。ニトロソアミンを用いることで、100℃未満での本硬化の際に、硬化反応を阻害せず、室温(常温)では意図しないラジカル重合反応を防止できる。
【0028】
(その他の添加物)
本実施形態に係る接着剤組成物は、上記の他、シランカップリング剤やフィラーを含んでいてもよい。貴金属フィラー(金フィラー、銀フィラー等)を含むことにより接着剤組成物の導電性を高めることができる。
【0029】
[接着剤組成物の製造方法]
本実施形態に係る接着剤組成物は、少なくともラジカル重合性の硬化性樹脂、ラジカル重合開始剤、及びラジカル重合禁止剤を混合することにより得られる。接着剤組成物の製法は、各材料が十分に混練されれば特に限定されるものではない。各成分の割合は、たとえば、ラジカル重合性の硬化性樹脂:ラジカル重合開始剤(有機過酸化物):ラジカル重合禁止剤(ニトロソアミン化合物)=100:8〜15:0.08〜0.15である。このように本実施形態に係る接着剤組成物においては、ラジカル重合性の硬化性樹脂に対するラジカル重合開始剤及びラジカル重合禁止剤の割合が従来よりも高い。このように大量のラジカル重合開始剤を添加することにより、仮硬化の時点で十分に加熱を行って活性種ラジカルを生じさせたとしても、本硬化に使用できるだけの十分なラジカル開始剤を残存させることができる。また、ラジカル重合禁止剤を大量に添加することにより、大量のラジカル重合開始剤による意図しないラジカル重合反応を防止することができるため、接着剤組成物のポットライフを長くすることができる。具体的には、このように製造された接着剤組成物は、25℃、48時間後の増粘率が1.5以下であり、長時間のポットライフが確保できている。このように長時間のポットライフを確保することにより、接着剤組成物を大量に生産し、保存しておくことが可能となる。また、接着剤組成物の硬化を遅らせるために2液系で保管、輸送等を行う必要もない。すなわち、本実施形態に係る接着剤組成物は1液系とすることができるため扱いが容易となる。
【0030】
[硬化物]
本実施形態に係る接着剤組成物は、高温仮硬化、仮硬化の後、低温本硬化の二段階反応により硬化させ、硬化物を得ることができる。仮硬化や本硬化の具体的な方法は、接着剤組成物を硬化させることができれば特に限定されるものではない。接着剤組成物を用いる部分等に合わせた所望の硬化方法を採用することができる。ここで、本実施形態に係る接着剤組成物の仮硬化の加熱条件は100℃〜180℃、1〜5秒間の加熱である。また、本実施形態に係る接着剤組成物の本硬化の加熱条件は70℃〜100℃の加熱である。より好ましくは、仮硬化の加熱条件は100℃〜140℃、3秒以下であり、本硬化の加熱条件は70℃〜90℃である。
【0031】
このように、本実施形態に係る接着剤組成物は、同一の硬化性樹脂に対して同一のラジカル開始剤を用い、2段階の反応(高温での仮硬化、その後、低温での本硬化)を行うことにより硬化物を生成することができる。従って、特許文献1のように2段階の反応で異なる硬化方法(UV及び熱)を用いる必要がない。
【0032】
[精密部品]
精密部品は、光学部品(カメラモジュール等)や半導体装置に用いられる電子部品、半導体回路(或いはこれらを組み込んだモジュールや電子機器)等を含むものである。これらの部品は、組み付け時に高い位置精度が要求される。本実施形態に係る接着剤組成物を用いることにより、当該要求を満たす精密部品を得ることができる。また、本実施形態に係る接着剤組成物は、長時間を要する本硬化を低温で行うことができるため、精密部品の熱による影響を低減することができる。
【0033】
==実施例==
以下の実施例1〜7、及び比較例1〜6で得られた接着剤組成物について、増粘率、及び硬化性の測定を行った。
【0034】
ラジカル重合性の硬化性樹脂は、以下に示すいずれか2つを組み合わせて使用した。
・「BMI−1500」(液状ビスマレイミド樹脂。Designer molecules Inc製)
・「BMI−3000」(固形ビスマレイミド樹脂。Designer molecules Inc製)
・「ライトアクリレートPO−A」(低分子量ラジカル重合性樹脂。共栄社化学株式会社製)
【0035】
ラジカル重合開始剤は、以下に示すいずれかを使用した。
・「パーロイルTCP」(有機過酸化物。1分間半減期温度:92.1℃、日油株式会社製)
・「パーオクタO」(有機過酸化物。1分間半減期温度:124.3℃。日油株式会社製。「パーオクタ」は登録商標)
【0036】
ラジカル重合禁止剤は、以下に示すいずれかを使用した。
・「Q13001」(ニトロソアミンアルミニウム塩。和光純薬工業株式会社製)
・「ヒドロキノン」(ハイドロキノン。和光純薬工業株式会社製)
・「2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ,ラジカル」(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル(TEMPO)。和光純薬工業株式会社製)
【0037】
フィラーとして、銀フィラー(鱗片状、メディアン径(D50):8μm、比表面積:0.7m2/g)を使用した。
【0038】
(実施例1)
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「Q1301」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物aを作製した。
【0039】
(実施例2)実施例1に対し、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合禁止剤の量を少なくした例
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.2質量部、「Q1301」0.012質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物bを作製した。
【0040】
(実施例3)実施例1に対し、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合禁止剤の量を多くした例
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.5質量部、「Q1301」0.016質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物cを作製した。
【0041】
(実施例4)実施例1に対し、ラジカル重合開始剤の量を少なくし、ラジカル重合禁止剤の量を多くした例
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.2質量部、「Q1301」0.016質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物dを作製した。
【0042】
(実施例5)実施例1に対し、ラジカル重合開始剤の量を多くし、ラジカル重合禁止剤の量を少なくした例
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.5質量部、「Q1301」0.012質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物eを作製した。
【0043】
(実施例6)実施例1に対し、液状ビスマレイミド樹脂の量を多くし、低分子量ラジカル重合性樹脂の量を少なくした例
「BMI−1500」5.6質量部、「ライトアクリレートPO−A」8.4質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「Q1301」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物fを作製した。
【0044】
(実施例7)実施例1に対し、液状ビスマレイミド樹脂の量を少なくし、低分子量ラジカル重合性樹脂の量を多くした例
「BMI−1500」8.4質量部、「ライトアクリレートPO−A」5.6質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「Q1301」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物gを作製した。
【0045】
(比較例1)パーオクタOを使用
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーオクタO」1.35質量部、「Q1301」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物hを作製した。
【0046】
(比較例2)ヒドロキノン(ハイドロキノン)を使用
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「ヒドロキノン」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物iを作製した。
【0047】
(比較例3)2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ,ラジカル(TEMPO)を使用
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「TEMPO」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物jを作製した。
【0048】
(比較例4)パーロイルTCPの量を実施例よりも少なくした例
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」0.9質量部、「Q1301」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物kを作製した。
【0049】
(比較例5)Q1301の量を実施例よりも多くした例
「BMI−1500」7質量部、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「Q1301」0.02質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物lを作製した。
【0050】
(比較例6)固形の硬化性樹脂を用いた例
「」28質量部(25%濃度溶液)、「ライトアクリレートPO−A」7質量部、「パーロイルTCP」1.35質量部、「Q1301」0.014質量部、「銀フィラー」86質量部を混合し、銀フィラーが液状成分中に均一になるように3本ロールミルを用いて分散し、接着剤組成物mを作製した。
【0051】
(増粘率の算出)
接着剤組成物を作製した直後、及び48時間経過後における室温下(25℃)の粘度を、EHD型粘度計(東機産業株式会社製。3°コーン/R9.7)を用いて10rpmで測定した。そして、作製直後の粘度を1.0とした場合の粘度変化の割合を増粘率として算出した。増粘率が大きい場合、時間経過と共に接着組成物の粘度が高くなっていることを示す。従って、接着剤として使用できない状態に近づいているといえる。逆に、増粘率が小さい場合には、時間経過によって粘度の変化が起きていないことを示す。従って、接着剤として使用できる状態が続いているといえる。すなわち、増粘率が小さい場合には、ポットライフが長いといえる。実施例及び比較例においては、増粘率が1.5以下を「○」とし、1.5より大きい場合を「×」とした。
【0052】
(仮硬化)
接着剤組成物を銅基板(厚み:0.15mm)上にディスペンス塗布し、5mm角正方形のアルミナチップを接着させる。その後、ホットプレートに銅基板を接触させて120℃、1秒間加熱した。そして、圧縮せん断力を加えた場合の接着強度を万能ボンドテスター4000(DAGE社製)で測定した。実施例及び比較例においては、接着強度が0.1kgf/mm2以上を「○」とし、接着強度が0.1kgf/mm2よりも低い場合を「×」とした。
【0053】
(本硬化)
上述と同様の方法で仮硬化を行った試験体を対流式オーブンで80℃、30分間加熱した。そして、圧縮せん断力を加えた場合の接着強度を万能ボンドテスター4000(DAGE社製)で測定した。実施例及び比較例においては、接着強度が0.5kgf/mm2以上かつ、仮硬化後の値と比較して2倍以上になった場合を「○」とし、接着強度が0.5kgf/mm2よりも低いまたは、仮硬化後の値と比較して2倍未満の場合を「×」とした。これは、本硬化後の接着強度の値が、仮硬化後の値の2倍未満だと、仮硬化の時点で硬化がかなり進行していることとなり、敢えて仮硬化と本硬化の二段階とするメリットが小さくなるためである。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示したように、実施例の接着剤組成物は、室温で48時間経過後も十分な増粘率を有していた。すなわち、実施例の接着剤組成物は、ポットライフが長いことが明らかとなった。
【0056】
また、実施例の接着剤組成物は、高温での仮硬化、その後の低温での本硬化によって、確実に接着することができていた。一方、比較例の接着剤組成物は、高温での仮硬化が十分にできなかった。比較例1では、有機過酸化物として1分間半減期温度が100℃を超えるものを使用したため、仮硬化および本硬化の接着強度が低かった。比較例2では、ラジカル重合禁止剤として、ハイドロキノンを使用したため、仮硬化および本硬化の接着強度が低かった。比較例3では、低温硬化性はあったものの、仮硬化を行えなかった。有機化酸化物量が少なすぎる比較例4、ラジカル重合禁止剤が多すぎる比較例5でも、低温硬化性はあったものの、仮硬化を行えなかった。比較例6ではボイドが発生したため、仮硬化後の接着強度が低かった。すなわち、比較例の接着剤組成物は、高い位置精度を必要とする場合には、不適であることが明らかとなった。
【0057】
また、実施例1〜7及び比較例1の結果から、ラジカル重合開始剤は1分間半減期温度が120℃を越えた場合、高温での仮硬化及び低温での本硬化が困難である一方、100℃未満の場合、高温での仮硬化及び低温での本硬化に好ましいことが明らかとなった。
【0058】
以上の結果から、実施例1〜7の接着剤組成物は、比較例1〜6の接着剤組成物に比べ、ポットライフが長く、仮硬化時の温度よりも低温で本硬化が可能となることが明らかとなった。
【0059】
本発明の実施形態及び実施例を説明したが、これらは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。