【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1] レポーター遺伝子の構築
植物細胞にゲノム編集酵素による変異が導入できることを可視的なマーカー遺伝子を用いて検出できるようにするために、特殊なレポーター遺伝子を構築した(
図1)。レポーター遺伝子は、植物で一般的な高発現プロモーターの支配下で緑色蛍光タンパク質(sGFP)及びルシフェラーゼ遺伝子(ELUC)のコード領域(ORF)が転写される。この際、sGFPのコード領域が転写領域の前(mRNAの5’側)に存在し、スペーサー領域を経て後ろにELUCのコード領域が続く。スペーサー領域には一部改変したイネのWaxy遺伝子の断片が挿入されており、かつ、GFP遺伝子のコード領域とELUC遺伝子のコード領域の読み取り枠があえて異なるように配置されている。真核生物においては、mRNAからタンパク質への翻訳は一部の例外を除き、mRNAの5’側の第一番目の開始コドン(1st ATG)から始まり、終始コドン(ナンセンスコドン)に到達したところで終結する。今回作成した構築物では、スペーサー配列部分で終始コドンが出現するため、本構築物から転写されたmRNAからの翻訳は、sGFP遺伝子部分を翻訳したところで終結し、ELUC遺伝子は発現しない。
【0042】
スペーサー部分を認識するゲノム編集酵素の作用により、当該部分に切断が生じると、細胞内のDNA修復機構によってこの切断は修復される。その際、一定の頻度で塩基の欠失や挿入などの変異が導入される。変異導入なしで修復された場合は、当該部位は再びゲノム編集酵素の標的となるため、結果的に高頻度で変異が導入されることになる。スペーサー部分に欠失もしくは挿入変異が導入されると、1/3の確率でsGFP遺伝子とELUC遺伝子の読み取り枠(フレーム)が一致した融合遺伝子が作成される。この場合、変異が導入された(ゲノム編集が起きた)融合遺伝子から転写されたmRNAは、sGFP-Wxスペーサー-ELUCの配列を持ち、これらの配列を一連のペプチド鎖として翻訳する。このため、ゲノム編集が起きた細胞の1/3はルシフェラーゼ遺伝子の基質であるルシフェリンの添加によって発光する能力を獲得する。
【0043】
このように、本実施例の特殊なレポーター遺伝子が挿入された植物体は、Wxスペーサー配列を標的とするゲノム編集が起きたことを発光を指標に検出できるレポーター植物となる。
【0044】
ELUCをコードする配列は、プライマーEcoRI-ELUC-F及びSpeI-ELUC-R(配列番号:3、4)を用いてpELUC-test(TOYOBO)よりPCR法によって増幅した。PCR産物をZero blunt TOPO PCR cloning kitを用いてクローニングして得られたプラスミドを「Zero-ELUC」と名付けた。このZero-ELUCをEcoRIとSpeIで処理してELUC配列を切り出し、得られたDNA断片を同様にEcoRIとSpeIで処理したpEl2Ω-MCSに挿入して、「pEl2Ω-ELUC」を作成した。当該Wx配列を認識し高効率で切断するTALENs遺伝子は、すでに横井ら(Nishizawa-Yokoi et al., Plant Physiol. 170:653-666(2016))によって作成されている。当該TALENsによって認識されるWx遺伝子断片を含むDNA配列「wTALEN」断片は、2つの一本鎖DNA、「XbaI-wTALEN-EcoRI-F」及び「EcoRI-wTALEN-XbaI-R」(配列番号:1、2)をアニール(対合)させることによって作成した。pEl2Ω-ELUCをXbaIとEcoRIで処理してwTALEN断片をXbaIとEcoRIサイトに挿入して、「pEl2Ω-wTALEN ELUC」を作成した。このpEl2Ω-wTALEN-ELUCをXbaIとSacIで処理し、得られたwTALEN-ELUCを含むDNA断片を、XbaIとSacIで処理したpBI121ベクターに挿入することで「pBI121-wTALEN-ELUC」を作成した。sGFPをコードする配列は、プライマーXbaI-sGFP-F及びXbaI-sGFP-R(配列番号:5、6)を用いてPCR法によって増幅し、XbaIで処理した後、同様にXba1処理したpBI121-wTALEN-ELUCに挿入しpBI121-sGFP-wTALEN-ELUCとした。
【0045】
【表1】
【0046】
作成したpBI121-sGFP-wTALEN-ELUCは、アグロバクテリウム(LBA4404)を中間宿主としてタバコ植物(Nicotiana tabacum cv. Samsun NN)に導入した。sGFP-wTALEN-ELUCを導入した第2世代の個体を実験に用いた。タバコ植物は、25℃に調温し16時間明期/8時間暗期に調光された培養室で生育させた。
【0047】
[実施例2] TELENs遺伝子の構築
TALエフェクターのリピート配列は、Golden Gate assembly法(Cermak et al., Nucl. Acids. Res. 39, e82(2011))によって構築した。Wx_TALEN-A1のリピートは、pFUS_AプラスミドにHD1、HD2、NG3、NG4、NI5、NG6、NI7、NI8、NN9、HD10のモジュールを、pFUS_B5プラスミドにNI1、HD2、NI3、NG4、NI5のモジュールを、それぞれ制限酵素BsaI処理とライゲーションによって挿入して繋ぎ合わせることにより構築した。Wx_TALEN-B2は、pFUS_AプラスミドにNN1、NG2、HD3、NN4、HD5、NG6、NI7、NI8、NI9、NI10のモジュールを、pFUS_B8プラスミドにHD1、NG2、HD3、NI4、NI5、NI6、HD7、NI8のモジュールを、それぞれ制限酵素BsaI処理とライゲーションによって挿入して繋ぎ合わせることにより構築した。pZHY500-WxA1は、pZHY500に、Wx_TALEN-A1のpFUS_A及びpFUS_B5プラスミド内で構築されたリピートと最後のモジュール(pLR-NG, ハーフリピート)を制限酵素Esp3I処理とライゲーションによって挿入して繋ぎ合わせることにより構築した。pZHY501-WxB2は、pZHY501にWx_TALEN-B2のpFUS_A及びpFUS_B8プラスミド内で構築されたリピートと最後のモジュール(pLR-NG, ハーフリピート)を制限酵素Esp3I処理とライゲーションによって挿入して繋ぎ合わせることにより構築した。
【0048】
[実施例3] TALEN-A/XccとTALEN-B/Xccの作成
植物体へのIII型分泌装置を用いたタンパク質導入に適した植物-細菌の組み合わせの一例として、本実施例では、タバコと黒腐病菌(Xcc)を用いた。
【0049】
細菌細胞内でのタンパク質発現プロモーター及びIII型分泌装置に認識されるためのシグナル配列について、プロモーターは任意の高発現プロモーターないし感染によって誘導される遺伝子のプロモーターが利用可能であり、III型分泌装置のXcc1072(conserved hypothetical protein[Xanthomonas campestris pv. campestris str. ATCC33913]GenBank:AAM40371.1)のプロモーター及びシグナル配列を用いた。
【0050】
プライマーHind3-XCC1072 51(配列番号:7)及びXcc1072 SpeI SacI(配列番号:8)を用いてPCR法によってXcc1072のプロモーター及びIII型分泌装置におけるシグナル配列部分を増幅し、PCR産物をpCR-BluntII-TOPOにクローニングした。
【0051】
【表2】
【0052】
得られたクローンの配列を確認し、LacZからみて逆方向に挿入されているクローンを選択して、制限酵素HindIII及びKpnIで切断することによって切り出し、これを同様にHindIII及びKpnIで切断したpME6031に挿入し、これをIII型分泌装置による外来遺伝子輸送型発現ベクターXcc#5/pME6031とした。なお、Xcc#5/pME6031の制限酵素HindIIIサイトとSpeIサイトの間には、Xcc1072のプロモーター及びシグナル配列に加え、SpeIサイトに隣接してTALEN遺伝子のXbaIサイトより上流の末端配列(5'-gcttcctcccctccaaagaaaaagagaaag-3'(配列番号:9))が含まれる。
【0053】
Xcc#5/pME6031を制限酵素KpnIで処理後、T4 DNAポリメラーゼによって末端を平滑化し、さらに制限酵素SpeIで切断したものをベクターとした。このベクターに、Wx配列を認識するTALEN遺伝子WxA1及びWxB2を持つプラスミドであるpZHY500-WxA1及びpZHY501-WxB2からSacIで切断後T4 DNAポリメラーゼによって末端を平滑化し、さらに制限酵素XbaIで切断することで得られたTALEN遺伝子を挿入することで、WxA1 TALEN及びWxB2 TALENを細菌に発現させるプラスミドを作成した。作成したプラスミドは、大腸菌において増殖させ、配列確認の後、植物に接種する細菌に再導入した。細菌への導入は、エレクトロポレーション法により行った。これらプラスミドをXccに形質転換して得られた細菌をそれぞれ「TALEN-A/Xcc」及び「TALEN-B/Xcc」と称する。
【0054】
細菌の植物への接種は、シリンジ(針無し注射筒)を用いたインフィルトレーション(浸透)で行った。接種用の懸濁液としては、10mM MgCl2溶液を用いた。接種濃度としては、O.D.600=0.05前後の濃度を、雑菌の表面殺菌には70%エタノール及び次亜塩素酸ナトリウムを、Xccの除菌には抗生物質(リファンピシン)をそれぞれ用いた。
【0055】
[実施例4] ゲノム編集植物の作出法
(1)インフィルトレーション
ゲノム編集植物の作出法の概要を
図2Aに示す。まず、TALEN-A/Xcc及びTALEN-B/XccをそれぞれOD600が0.5-1.0になるようにLB液体培地で1晩培養した。それぞれを3,000rpmで遠心分離して沈殿を回収し、各1mlの10mM MgCl
2で再懸濁した。さらに3,000rpmで遠心分離して沈殿を回収し、OD600=0.05になるように10mM MgCl2で再懸濁した。TALEN-A/XccとTALEN-B/Xccの溶液を等量になるように混合し、その混合物をsGFP-wTALEN-ELUC植物にシリンジでインフィルトレーションした。陰性対照として空ベクター(pME6031)を有するXccを同様にインフィルトレーションした。
【0056】
(2)静菌的条件下での組織培養
インフィルトレーションした葉を直ちに70%エタノール、1%次亜塩素酸ナトリウムで表面殺菌したのち、Xcc接種部分を0.5-1cm角に切り、MS培地を基本としショ糖は添加せず、セフォタックスを添加したカルス・再分化誘導培地[1x Murashige and Skoog(MS)、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, 200μg/ml セフォタックス, 8.5g/L 寒天, pH5.8]上に並べ、28℃で16時間明期/8時間暗期下に3日間置いた(静菌的培養)。
【0057】
(3)殺菌的条件下での組織培養と植物体の再生
3日後に葉を50μg/ml リファンピシンと100μg/ml カナマイシンを含むカルス形成培地に移し、1週間ごとに新しい培地に移した。なお、1か月後まではリファンピシン入りのカルス・再分化誘導培地で、それ以降はリファンピシンを含まないカナマイシン入りのカルス・再分化誘導培地を使用した。シュートが形成された個体を100μg/ml カナマイシン入りの発根培地[1x MS, 1x MSビタミン, 30g/L ショ糖, 200μg/ml セフォタックス, 8.5g/L 寒天, pH5.8]に移した。発根した個体をバーミキュライトを入れたポットに移し、25℃で16時間明期/8時間暗期下で生育させた。
【0058】
ゲノム編集された個体の選別はルシフェラーゼ活性を指標に行われた。具体的には、1mMルシフェリンを含むリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を葉にスプレーし、LAS-3000でルシフェラーゼ活性を観察した(
図2B、C)。
【0059】
また、本実施例における静菌的培養の培地として、カルス・再分化誘導培地[1x MS、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, 200μg/ml セフォタックス, 30g/L ショ糖、8.5g/L 寒天, pH5.8]ないし[1x MS、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン、8.5g/L 寒天, pH5.8]を用いた場合でも、同様にゲノム編集された個体が得られることが確認された。
【0060】
なお、細菌の感染後、静菌的条件での共存培養を経ることなく、そのまま培養した場合には、変異導入効率が悪く(すなわち、発光が検出される部分は小さくて少ない)、その後、発光再分化個体の取得には成功しなかった。
【0061】
(4)様々な組織培養条件下での検証
(a)静菌的条件下での組織培養のための培地として、MS培地を基本とし、ショ糖およびセフォタックスを添加したカルス・再分化誘導培地[1x Murashige and Skoog(MS)、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, 30g/L ショ糖, 200μg/ml セフォタックス, 8.5g/L 寒天, pH5.8]を用いて、上記と同様に実験を行い、様々な培養期間(培養1日後、2日後、5日後)で、葉片におけるゲノム編集の発生をルシフェラーゼ活性を指標に検出した。その結果、培養1日後、2日後、5日後のいずれでも、TALENによるゲノム編集が確認された(
図3)。
【0062】
(b)静菌的条件下での組織培養のための培地として、MS培地を基本としショ糖を添加せず、セフォタックスを添加したカルス・再分化誘導培地[1x Murashige and Skoog(MS)、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, 200μg/ml セフォタックス, 8.5g/L 寒天, pH5.8]を用いて、上記と同様の実験を行い、様々な培養期間(培養1日後、2日後、5日後、6日後)で、葉片におけるゲノム編集の発生をルシフェラーゼ活性を指標に検出した。その結果、培養1日後および2日後では、TALENによるゲノム編集が確認されたが、5日後および6日後では確認されなかった(
図4)。6日後では、葉が死滅し始めていた。
図2B(培養3日後)における結果も考え併せると、ショ糖を含まない培地における静菌的培養の期間は、5日未満が好ましいことが判明した。
【0063】
(c)静菌的条件下での組織培養のための培地として、MS培地を基本とし、ショ糖およびセフォタックスを添加または無添加のカルス・再分化誘導培地[1x Murashige and Skoog(MS)、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, 30g/L ショ糖(添加または無添加), 200μg/ml セフォタックス(添加または無添加), 8.5g/L 寒天, pH5.8]を用いて、上記と同様に実験を行い、培養3日後に、葉片におけるゲノム編集の発生をルシフェラーゼ活性を指標に検出した。その結果、セフォタックスを添加した場合には、TALENによるゲノム編集が確認された(
図5上)。セフォタックスを無添加の場合には、ショ糖も無添加の条件では、弱いシグナルが検出されたが、ショ糖添加の条件では、シグナルが検出されず、葉の損傷が認められた(
図5下)。
【0064】
(d)静菌的条件下での組織培養のための培地として、MS培地を基本としショ糖を添加せず、様々な濃度のセフォタックスを添加したカルス・再分化誘導培地[1x Murashige and Skoog(MS)、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, セフォタックス(5,10,25,50,100μg/ml), 8.5g/L 寒天, pH5.8]を用いて、上記と同様の実験を行い、培養3日後に、葉片におけるゲノム編集の発生をルシフェラーゼ活性を指標に検出した。その結果、100μg/mlのセフォタックスを添加した場合には、TALENによるゲノム編集が確認されたが、それ以外の濃度では、確認されず、葉の損傷が認められた(
図6)。
【0065】
(5)薬剤耐性遺伝子を利用したゲノム編集個体の選抜
薬剤耐性を指標としてゲノム編集個体を選抜するために、pBI121-sGFP-wTALEN-ELUC(
図1)のルシフェラーゼ遺伝子(ELUC)をハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)に入れ替えたベクター「pBI121-sGFP-wTALEN-HPT」を構築した(
図7)。このベクターを利用して、ゲノム編集植物の作出を行った(概要を
図8Aに示す)。具体的には、sGFP-wTALEN-HPT植物に対して、上記(1)と同様に、インフィルトレーションを行った。その後、上記(2)と同様に、静菌的培養を3日間行った。殺菌的条件下での組織培養と植物体の再生においては、抗生物質としてハイグロマイシンを含む培地を用いた以外は、上記(3)と同様に行った。その結果、接種から7週目の時点でカルスが増殖たことから、ゲノム編集が生じていることが判明した(
図8B)。なお、陰性対照(Vec)は、組織が褐変していた。
【0066】
[実施例5] メガヌクレアーゼを用いたゲノム編集植物の作出
メガヌクレアーゼであるI-SceIは、18塩基配列[5'-TAGGGATAA↓CAGGGTAAT-3'])を認識し、3'-OHの4塩基突出末端を生成する。また、認識配列内で1塩基の置換があっても切断する。ELUC配列の前に、メガヌクレアーゼであるI-SceIの認識配列を配置し(sGFPはなし)、メガヌクレアーゼによる切断とその後の変異導入によって発光する構築物を作成した。このままでは終始コドンができるためにELUCの翻訳が生じないが、青色部分でI-SceIによる切断とそれに続く修復エラーによって挿入もしくは欠失が起きると、下流のELUC遺伝子の配列が翻訳されてルシフェリンを基質とする発光が確認できるようになる。
【0067】
I-SceI遺伝子(Jacquiet and Dujon, Cell, 41:383-394(1985))を、上記の通り、バクテリアでのIII型分泌型タンパク質発現ベクターにクローニングしたものをXccに導入した。このI-SceI発現Xccを培養したものを集菌し、O.D.600=0.05になるように10mMのMgCl2溶液に懸濁したものを、インフィルトレーション法によってレポータータバコ植物に接種した。接種3日後にルシフェリンをスプレーしたのちに、CCDカメラを用いて発光を確認した。その後、接種葉を切り取って表面殺菌し、無菌的にタバコ再分化培地にリファンピシン5μg/ml添加した寒天培地[1x MS、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 0.1μg/ml α-ナフタレン酢酸, 1μg/ml 6-ベンジルアミノプリン, 200μg/ml セフォタックス, カナマイシン 50μg/ml, 30g/L ショ糖、8.5g/L 寒天, pH5.8]に置床して、シュートを再分化させた。細分化シュートにルシフェリンを加えた後に発光を確認し、発光の強いシュートの選抜を繰り返した。得られたシュートを発根培地[1x MS、1x MSビタミン(0.1μg/ml 塩酸チアミン, 0.5μg/ml 塩酸ピリドキシン, 0.5μg/ml ニコチンアミド, 2μg/ml グリシン, 100μg/ml ミオイノシトール), 200μg/ml セフォタックス, カナマイシン 50μg/ml, 30g/L ショ糖、8.5g/L 寒天, pH5.8]に置床することで個体として再生させた。再生個体からDNAを抽出し、配列を解析した結果、ELUC遺伝子の発現回復をもたらす1塩基欠失を確認した(
図9)。