(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記各特許文献記載の技術では、マイクロ波の定在波を形成させるために、空胴共振器には一定の大きさが必要となる。これは、供給されるマイクロ波の波長に応じた定在波を形成するためのマイクロ波照射領域が必要となるためである。空胴共振器が大きいと、当然、マイクロ波処理装置のコンパクト化が実現できない。その結果、マイクロ波処理装置の応用範囲には制約が生じる。ここで空胴共振器とは共振器内部に固体充填物が存在していない空間を有している共振器を指すものとする。
【0006】
本発明は、定在波を利用したマイクロ波処理装置の小型化・軽量化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、空胴共振器に代えてセラミック構造体共振器を得ること、これにより、定在波の形成に必要なマイクロ波の波長を十分に短くできる。その結果、共振器の小型化をしても所望の定在波の形成が可能となることを見出した。また、これまで定在波を形成させるため金属容器製の空胴共振器にかわり、セラミック構造体内に導電性パターンを形成することで空胴共振器の機能を発現させることを見出した。これは、金属容器削減による軽量化の効果がある。
本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
[1]
積層されたセラミック層の焼結体からなるセラミック構造体と、
前記セラミック構造体内に、被処理対象物が配される貫通孔と、該セラミック構造体にマイクロ波の伝搬を可能とする導電体部とを有し、
前記セラミック構造体に供給したマイクロ波により、前記貫通孔内に配された前記被処理対象物をマイクロ波処理するマイクロ波処理装置。
[2]
前記セラミック構造体は、その内部に定在波を形成する前記導電体部の一部を有するセラミック構造体共振器であり、
前記セラミック構造体内に形成される定在波の電界若しくは磁界が極大となる位置に前記貫通孔が配され、前記定在波により前記被処理対象物をマイクロ波処理する[1]記載のマイクロ波処理装置。
[3]
前記マイクロ波処理により前記被処理対象物の温度制御を行う[1]又は[2]に記載のマイクロ波処理装置。
[4]
前記マイクロ波処理により前記被処理対象物を加熱するに[1]〜[3]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[5]
前記貫通孔は前記セラミック構造体の上下面に通じ、
前記導電体部は前記セラミック構造体内にマイクロ波の定在波の形成を可能とし、
前記定在波により前記被処理対象物を加熱する[1]〜[4]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[6]
前記導電体部は、マイクロ波を導入するためのアンテナ機能と、前記セラミック構造体の外部へマイクロ波が散逸することを防ぐための電磁波遮蔽機能とを有する、[1]〜[5]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[7]
前記アンテナ機能を有する導電体部は、前記セラミック構造体の外部から内部に配されたアンテナ線及び該アンテナ線に接続するアンテナである[6]に記載のマイクロ波処理装置。
[8]
前記電磁波遮蔽機能を有する導電体部により定在波形成領域が画定される[6]又は[7]に記載のマイクロ波処理装置。
[9]
前記定在波はTM
0n0モードであり、
前記導電体部は、前記貫通孔の周囲の前記セラミック構造体に、円筒状若しくは角筒状に間隔を置いて複数本が配置されている[1]〜[8]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。但し、nは正の整数とする。
[10]
前記マイクロ波処理装置が、前記被処理対象物をマイクロ波の定在波により加熱して、化学反応を生じさせる化学反応装置である、[1]〜[9]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[11]
前記被処理対象物が流体である、[1]〜[10]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置。
[12]
[1]〜[11]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置を用いて、前記貫通孔内の前記被処理対象物をマイクロ波により処理することを含む、マイクロ波処理方法。
[13]
[1]〜[11]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置を用いて、前記貫通孔内の前記被処理対象物をマイクロ波により加熱することを含む、加熱処理方法。
[14]
前記被処理対象物が流体であり、
前記加熱によって、前記流体の状態変化及び化学反応のいずれか一方又は両方を引き起こすことを含む、[13]に記載の加熱処理方法。
[15]
前記状態変化が、前記流体の温度変化又は相変化である[14]に記載の加熱処理方法。
[16]
[1]〜[11]のいずれかに記載のマイクロ波処理装置を用いて、前記貫通孔内の前記被処理対象物をマイクロ波処理することにより化学反応を生じさせることを含む、化学反応方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロ波処理装置は、小型化が可能で応用範囲が広く、また軽量化も可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明のマイクロ波処理装置の好ましい一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
[マイクロ波処理装置]
本発明のマイクロ波処理装置の好ましい一実施形態を、
図1〜3を参照して説明する。
図1〜3に示すように、マイクロ波処理装置1は、セラミック構造体11と、セラミック構造体11に配された貫通孔21と、貫通孔21の一部若しくは全部にマイクロ波を照射するための導電体部31とを有する。
【0013】
セラミック構造体11は、積層されたセラミック層12の焼結体からなる。セラミック層12には、例えば、低温焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co−fired Ceramics)を用いることができる。このLTCCには、種々のものがあるが、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)にガラス成分(例えば、ホウ珪酸ガラス)を混ぜたものがある。上記「低温」とは、配線や接続部に用いる金属(例えば、銀、銅、等)が変形、変質、溶融しない温度であり、例えば、850〜1000℃である。本明細書においては、「セラミック層」とは、シート状、板状、等を含む。また、「焼結体」とは、積層したセラミック層を加熱して一体化したものも含むとする。このように、一般的なセラミックの焼成温度(例えば1500℃)よりもかなり低い温度で焼結(焼成)ができる。このため、配線等に銀、銅、等を用いることができる。例えば、ペースト状にした金属(銀ペースト、銅ペースト、等)を用いることができる。
【0014】
セラミック構造体11では、定在波形成領域13にマイクロ波を供給した際に、空胴よりも誘電率が高いセラミック構造体11内に形成される定在波の波長が、空胴共振器の空胴に形成される定在波の波長よりも短くなる。定在波を形成するのに必要な定在波形成領域13を狭くすることができ、セラミック構造体11の小型化が可能となる。このように、セラミック構造体11は、該セラミック構造体11内に定在波を形成する導電体部31の一部を有する共振器(セラミック構造体共振器ともいう)2を構成する。
この共振器2の小型化を実現するには、セラミック構造体11の誘電率を好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは7以上とする。またセラミック構造体11はマイクロ波の吸収による発熱が生じる。この発熱の影響を少なくするには、セラミック構造体11の誘電正接を、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.002以下、さらに好ましくは0.001以下とする。
【0015】
従来の金属製の空胴共振器は、一例として密度の軽いアルミニウムを用いて形成される。アルミニウムの密度とアルミナセラミックの密度とを比較すると大差はない。このため、共振器の大きさが同等の場合には、アルミニウムに代えてアルミナセラミックを用いても、大幅な軽量化にはならない。しかし、本発明のように小型化が実現できれば、大幅な軽量化が可能となり、適用の幅が広がる。
【0016】
貫通孔21は、被処理対象物(図示せず)が通る孔であり、セラミック構造体11の、上下面に通じるようにその内部に配されている。図示例では、貫通孔21は直線状に形成されているが、曲線状、例えばらせん状等に形成されているものであってもよい。この貫通孔21には、被処理対象物を通す流通管6が配される場合がある。この場合、貫通孔21は、貫通孔21が配される方向に対して直角方向において電界強度が強く、流通管6が配される方向に電界強度が均一になっていることが好ましい。このような貫通孔21が配されることによって、例えば、貫通孔21内に配される流通管6を電界強度が極大となる部分に合わせることにより、被処理対象物を効率よく、急速加熱することができる。また、流通管6を配さず、貫通孔21内に直接に被処理対象物を配し、若しくは流通させても、流通管6内を通した場合と同様に、被処理対象物を効率よく、急速加熱することができる。
【0017】
セラミック構造体11は、上面導電体、下面導電体および上面電極(図示せず)と下面電極(図示せず)に接続したポスト壁導電体によって囲まれた内部が共振器として作用するよう、設計されている。上面導電体は、a−b線側の面の導電体部31Bであり、下面導電体は、c−d線側の面の導電体部31Bである。ポスト壁導電体は、上面電極(図示せず)と下面電極(図示せず)とに接続した、円筒状に配された複数の導電体部31Bである。これら導電体部分すべて含めたものを導電体部31と呼称する。また、共振器として作用するセラミック構造体11の部分をセラミック構造体共振器2と称す。
導電体部31は、マイクロ波を導入するためのアンテナ機能と、セラミック構造体共振器2の外部へマイクロ波が散逸することを防ぐための電磁波遮蔽機能とを有する。
アンテナ機能を有する導電体部31(31A)は、セラミック構造体11の外側壁側から内部側に配されたアンテナ線41と、マイクロ波供給口となるアンテナ43と、アンテナ43の接地線44とを有する。したがって、アンテナ43は後述する定在波形成領域13内でその外周側に配されている。このアンテナ43から供給されたマイクロ波によって、定在波形成領域13内に定在波が形成される。
電磁波遮蔽機能を有する導電体部31(31B)は、貫通孔21の周囲のセラミック構造体共振器2に、環状に、間隔を置いて複数本が配される。「環状」とは、円筒状又は角筒状を含む意味に用いる。「間隔を置いて」とは、間隔を開けて導電体部31が配されていればよく、例えば、等間隔又は任意に規定された間隔、等を意味する。この導電体部31Bは、セラミック構造体共振器2の上下面に通じるように、棒状体に形成されている。図示例では、円筒状に配された複数の導電体部31Bによって囲まれた部分が定在波形成領域13となり、導電体部31を含めて共振器となる。また、マイクロ波が供給される定在波形成領域13を外界から隔てるために、定在波形成領域13を囲むように導電体部31Bを設けることで、定在波形成領域13の電磁シールドが成される。各導電体部の隣接する導電体部との間隔は狭いほうがよいがセラミック内部に形成される電磁波の波長より十分短ければに特に制限はなく、定在波形成領域13に所望の定在波を形成できるように、セラミックの種類とマイクロ波周波数を考慮して、適宜に設定される。
導電体部31Bにより画されるセラミック構造体共振器2の体積は、0.5〜30cm
3以下が好ましく、1.0〜8.0cm
3がより好ましく、例えば、1.0〜3.0cm
3とすることができる。通常の空胴共振器(マイクロ波周波数が2.45GHz)の場合、定在波を形成するためにおよそ12cmの長さが必要であり、共振器の体積は、180cm
3以上である。
【0018】
上記導電体部31の構成によって、貫通孔21の一部若しくは全部にマイクロ波(定在波)が照射されるようになる。その際、環状に配した導電体部31Bによって定在波形成領域13が画定する。例えば、円筒状に導電体部31Bが配される場合、円筒状の径方向に対向する導電体部31B同士の間隔は、例えば、定在波が形成されるマイクロ波の波長に設定することができる。
【0019】
上記セラミック構造体共振器2は、貫通孔21方向(中心軸C方向ともいう)に、共振器内に形成される定在波のエネルギーが極大となり、中心軸C方向に定在波のエネルギーが均一となる。このような貫通孔21に、貫通孔21を貫通する流通管6が配することができる。この場合、流通管6内に被処理対象物が配される。例えば、TM
0n0モード(nは1以上の整数)の定在波が発生する円筒形に導電体部31Bが配されたセラミック構造体共振器2の場合、円筒形の中心軸Cの電界強度が極大となり中心軸Cに沿っては電界強度が均一になる。このため、貫通孔21ないし流通管6は円筒形の中心軸Cに配されることが好ましい。
【0020】
セラミック構造体共振器2には、マイクロ波発生器5(
図1参照)が設けられ、マイクロ波発生器5から、ケーブル45、アンテナ線41及びアンテナ43を介してセラミック構造体共振器2の定在波形成領域13内にマイクロ波が供給される。一般にマイクロ波周波数は2.45GHzを中心としたSバンドが用いられる。
【0021】
上記のマイクロ波処理装置1では、貫通孔21の内部に被処理対象物(図示せず)が存在する、又は被処理対象物が流通する、必要により流通管6を配したセラミック構造体共振器2に対して、マイクロ波発生器5からマイクロ波を供給し、共振器内の定在波形成領域13に定在波を形成する。その定在波の電界強度が極大となる部分に沿って貫通孔を設けておけば、貫通孔21ないし流通管6内の被処理対象物を効率的に、迅速に加熱することができる。上記マイクロ波処理装置1では、セラミック構造体共振器2に設けられたアンテナ43から定在波を形成するマイクロ波が共振器内に供給される。
【0022】
上記マイクロ波処理装置1において、マイクロ波発生器5から供給されるマイクロ波は、周波数を調整して供給される。周波数の調整により、セラミック構造体共振器2内に形成される定在波の電界強度分布を所望の分布状態に制御し、またマイクロ波の出力によって定在波の強度を調整することができる。つまり、被処理対象物の加熱状態を制御することが可能になる。
なお、アンテナ43から供給されるマイクロ波の周波数は、共振器内に特定のシングルモード定在波を形成することができるものである。
本発明のマイクロ波処理装置1の構成について、順に説明する。
【0023】
<共振器(セラミック構造体共振器)>
マイクロ波処理装置1に用いるセラミック構造体共振器(キャビティー)2の形状は、一つのマイクロ波供給アンテナ43を有し、マイクロ波を供給した際にシングルモードの定在波が形成されるものであれば特に制限はない。例えば、導電体部31を円筒形又は角筒形に間隔を置いて配置したセラミック構造体共振器2を用いることができる。本明細書において円筒形とは、該共振器の中心軸Cに直角な断面形状が円形であるものの他、当該断面形状が楕円形若しくは長円形であるものを含む意味に用いる。また、角筒形とは、中心軸Cに直角な断面形状が多角形であるものを意味し、当該断面形状が4〜10角形であることが好ましい。また、多角形の角が、丸みを帯びた形状であってもよい。多角形の場合、さらに角が多い場合には円筒形に近似できる。
セラミック構造体共振器2の大きさも定在波が形成できる大きさであれば小さいほうが望ましいが、目的に応じて適宜に設計することができる。共振器は誘電率の高いものが望ましく、セラミック製が好ましい。一例として、LTCCを用いることができる。LTCCは、酸化アルミニウム(アルミナ)にガラス成分(例えば、ホウ珪酸ガラス)を混ぜたものである。また、導電体部31(31A、31B)には、前述した金属ペーストを用いることができる。さらに、セラミック構造体共振器2の表面に電気抵抗率の小さい物質をめっき、蒸着などによりコーティングしてもよい。コーティングには銀、銅、金、スズ、ロジウムを含む材を用いることが好ましい。
【0024】
<マイクロ波の供給>
本発明のマイクロ波処理装置1は、上述した加熱制御を実施するのに好適な装置である。マイクロ波処理装置1は、マイクロ波を供給するアンテナ43を備えたセラミック構造体共振器2と、該共振器に対し、該共振器内に定在波を形成できる周波数のマイクロ波を供給するマイクロ波発生器5とを有する。マイクロ波発生器5は、マイクロ波増幅器(図示せず)を含む構成としても好ましい。
本発明のマイクロ波処理装置1を構成する共振器の構成は、上述の「共振器」で説明したものと同じである。
【0025】
上記マイクロ波発生器5としては、例えば、マグネトロン等のマイクロ波発生器や、半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器を用いることができる。小型かつマイクロ波の周波数を微調整できるという観点から、半導体固体素子を用いたマイクロ波発生器を用いることが好ましい。
【0026】
図1〜3に示したように、マイクロ波処理装置1では、セラミック構造体11内に、共振器を区画する円筒形の側壁にそって、複数の導電体部31Bを等間隔に配したセラミック構造体共振器2を用いることができる。この円筒形の内側が定在波形成領域13となる。その共振器の中心軸Cに平行な面(上記円筒形の内面)又はその近傍には、マイクロ波供給アンテナ(単にアンテナともいう)43が設けられている。一実施形態において、アンテナ43は、高周波を印加することができるアンテナであり、磁界励起アンテナ、例えばループアンテナを用いることが好ましい。アンテナ43は、セラミック構造体共振器2に設けたアンテナ線41が接続され、更にアンテナ線41に電気的に接続されたケーブル45を介してマイクロ波発生器5と接続されている。ケーブル45には、例えば同軸ケーブルが用いられる。この構成では、マイクロ波発生器5から発せられたマイクロ波を、ケーブル45及びアンテナ線41を介してアンテナ43から共振器の定在波形成領域13内に供給する。マイクロ波発生器5とアンテナ43の間には、反射波を抑制するための整合装置(図示せず)やマイクロ波発生器を保護するためのアイソレータ(図示せず)を設置してもよい。
上記アンテナ43の他方の端部は接地線44を介して共振器壁面などの接地電位と接続している。このアンテナ43にマイクロ波(高周波)を印加することで、ループ内に磁界が励振され共振器内の定在波形成領域13に定在波を形成する形態とすることができる。
例えば、上記の円筒形の定在波形成領域13を有する共振器において、TM
010のシングルモード定在波を形成させた場合、中心軸Cにおいて、電界強度が最大になり、中心軸C方向に電界強度が均一になる。したがって、貫通孔21ないし流通管6において、その内部に存在し、又は流通する被処理対象物を、均一に、高効率にマイクロ波加熱することが可能になる。
【0027】
<被処理対象物の加熱>
本発明のマイクロ波処理装置では、被処理対象物(例えば、流通管6の内部に存在し又は流通する被処理対象物)は、セラミック構造体共振器2内部にてマイクロ波処理される。すなわち、被処理対象物は、共振器内の電界強度に対応させて電界強度が強い位置に配される。特に、共振器内に形成された定在波の電界強度が極大になる部分に沿って、比処理対象物を配せば、より効率的な加熱が可能になる。
また、被処理対象物は、セラミック構造体共振器2の内部の磁界強度に対応させて、磁界強度の強い部分に配される。特に、共振器内に形成された磁界強度が極大配せば、より効率的な加熱が可能になる。たとえば、被処理対象物が磁性を有する物質の場合は磁界エネルギーを吸収することで、より効率的な加熱がとなる。被処理対象物が金属やイオンを含む物質などで電気伝導性を有する場合、磁界により物質内に励起された電流によるジュール熱で発熱させることができ、より効率的な加熱が可能になる。
また、セラミック構造体共振器2の厚さが薄い場合には、複数の共振器を中心軸方向に直列に接続することも可能である。接続される共振器は、2個以上数千個程度まで積層することも可能である。
【0028】
図1〜3に示したマイクロ波処理装置1においては、流通管6内に配される被処理対象物に特に制限はなく、液体、固体、粉末およびそれらの混合物を挙げることができる。若しくは、流通管内にあらかじめ設置したハニカム構造体、触媒等を挙げることができる。
被処理対象物が流体の場合、マイクロ波照射による被処理対象物の加熱によって、流体の状態変化及び化学反応のいずれか一方又は両方を引き起こすことに用いてもよい。状態変化には、流体の温度変化又は相変化がある。
また被処理対象物を液体、固体、粉末とした場合は、流通管内にポンプ等で搬送することで、加熱処理された被処理対象物を連続的に取り出すことができる。多くの化学反応は温度により反応の進行を制御することができるため、本発明のマイクロ波処理装置は化学反応の制御に用いることができる。
被処理対象物をハニカム構造体とした場合には、マイクロ波処理装置は、例えば、ハニカム構造体を通過するガス状物質の温度制御をするために用いることができる。また、被処理対象物を触媒とした場合には、後述するように、触媒の作用による化学反応を生じさせるために用いることができる。触媒は、ハニカム構造体に担持させた形態とすることも好ましい。
上記化学反応としては、転移反応、置換反応、付加反応、環化反応、還元反応、酸化反応、選択的触媒還元反応、選択的酸化反応、ラセミ化反応、開裂反応、接触分解反応(クラッキング)等が例示されるが、これらに限定されず種々の化学反応が挙げられる。
化学反応の具体例を挙げると、揮発性有機物質を酸化分解する反応、窒素酸化物を窒素と酸素に還元する反応、硫黄酸化物をカルシウムに固定化する反応、重油を軽質化する反応等を挙げることができる。
【0029】
本発明の化学反応方法において、反応時間、反応温度、反応基質、反応媒体等の条件は、目的の化学反応に応じて適宜に設定すればよい。例えば、化学ハンドブック(鈴木周一・向山光昭編、朝倉書店、2005年)、マイクロ波化学プロセス技術II(竹内和彦、和田雄二監修、シーエムシー出版、2013年)、特開2010−215677号公報等を参照し、化学反応条件を適宜に設定できる。
【0030】
図1に示した形態において、定在波の周波数は、共振器内に定在波を形成できれば特に制限はない。例えば、マイクロ波を供給するためのアンテナ43からマイクロ波を供給した場合に、セラミック構造体共振器2内にTM
0n0モードやTE
10nモードの定在波が形成される周波数とすることができる。ただし、nは正の整数である。
上記TM
0n0モードの定在波は、例えばTM
010、TM
020、TM
030のモードが挙げられ、なかでもTM
010の定在波であることが好ましい。
【0031】
次に、上記セラミック構造体共振器の製造方法の一例について、以下に説明する。
セラミック構造体共振器のセラミック構造体の大きさにLTCCをシート状に成形する。この成形数は、セラミック構造体を形成するセラミック層の積層数とする。セラミック層の1層は、0.01mm〜0.3mmの厚さを有し、好ましくは0.035mm〜0.130mmの厚さであり、より好ましくは0.1mm〜0.13mmの厚さを有する。
成形したシートにレーザ光による打ち抜き加工を施すことによって、貫通孔及び導電体部を形成する導電体用の孔を形成する。貫通孔は、定在波形成領域の中央に形成し、貫通孔の周囲に、円筒状かつ等間隔に、TM
010用キャビティーパターンとなる複数の導電体用の孔を形成する。また、アンテナを形成する層には、マイクロ波照射用の、アンテナ線形成用の溝、アンテナ形成用の溝を形成する。更に必要とするセラミック層にはアンテナから接地する接地線用孔を形成する。
次に、各孔及び各溝の内部には導電性材料を充填する。例えば、銀ペースト、銅ペースト等を充填することが好ましい。
なお、アンテナやアンテナ線は導電性パターンの印刷によって形成することも好ましい。その場合、上記充填後に行うことが好ましい。それは、孔内に充填した導電性材料と印刷によって形成した導電性パターンとを確実に接続をするためである。
次に、セラミック構造体をなすように、セラミック層を積層する。その際、孔等に形成した導電体部が互いに接続するように、位置合わせして積層する。例えば厚さ5mmのマイクロ波処理装置を形成する場合には、30枚〜50枚のセラミック層を積層する。
また必要に応じて、積層体の表面を導電性材料によって被覆することも好ましい。
その後、積層したセラミック層を焼結して接合する。なお、本明細書では、セラミックシート等のセラミック層を積層して熱によって接合することも焼結の範ちゅうとする。
焼結の温度は850℃〜1000℃であり、配線や接続部に用いる金属の銀、銅等が変質、溶融することはない。したがって、配線や接続部の形状を維持した状態で焼結が可能になる。また、必要に応じて、焼結体を切断、研削等により、セラミック構造体11の大きさに形成する。または、セラミック構造体11のサイズに形成してから焼結してもよい。
さらに必要に応じて、焼結したセラミック構造体の表面に、定在波を検出用の検波器のための導電性パターンを印刷する。また、めっき処理を行うことも好ましい。このようにして、セラミック構造体が形成され、セラミック構造体共振器として機能させることができる。
上記製造方法に基づいて、セラミック構造体共振器を試作した。本セラミック構造体共振器に、マイクロ波を供給したところ、貫通孔内を通過する液体を加熱制御できた。本セラミック構造体共振器は従来の金属製の空胴共振器より質量、容積とも1/10以下であった。
【0032】
また、上記マイクロ波処理装置1は、貫通孔を通す被処理対象物や流通管内を通す被処理対象物を加熱し、若しくは化学反応を起こさせることができる。又は、流通管内に気体を通し、プラズマを発生させることができる。
【0033】
マイクロ波処理装置1は、セラミック構造体共振器2の共振周波数が工業的に利用できるISMバンド内に収まるよう設計する必要がある。また、共振周波数は被処理対象物の温度変化や組成変化により変動するため、その変動域を考慮したうえでISMバンドに収まる必要がある。「ISM」は、Industry Science Medicalの略であり、ISMバンドは、産業、科学、医療分野で汎用的に使うために割り当てられた周波数の帯域のことである。
【0034】
セラミック構造体共振器2をセラミック層で構成する場合、セラミック層は、誘電損失が小さいものを用いることが好ましい。誘電損失が小さいセラミック層を用いた場合、マイクロ波がセラミック層により吸収されにくくなり、セラミック構造体共振器2の発熱を抑制することができる。これにより、被処理対象物の加熱効率が低下を抑えることができる。また、誘電体の熱変成や発火などトラブルを誘発する危険性が生じる。
【0035】
上記マイクロ波処理装置1のセラミック構造体共振器2は、従来の空胴共振器に対して、大幅の小型化、軽量化を実現できる。
このように、小型化、軽量化が実現できるため、マイクロ波処理装置を他の装置と一体に形成することも可能になる。例えば、医療分野の薬液温度制御などの使い捨て用途にも利用可能性が広がる。
【0036】
さらに上記のマイクロ波処理装置においては、以下のような効果も挙げられる。
(1)小型であることによりエネルギー密度が高められ、より迅速に高温加熱が可能となる。したがって、化学材料の合成を含め、種々の化学反応へと適用範囲が広がる。
(2)比較的安価な低出力マイクロ波発生器を利用しても被処理対象物に十分なマイクロ波エネルギーを供給できる。したがって、装置価格も低減できる。
(3)生産規模の増減に応じて、マイクロ波発生器及びセラミック構造体共振器を段階的に増減することができるため、種々の生産形態に柔軟に対応できる。
(4)セラミック構造体共振器に検波器を設置するなど、所望の機能を組み込むことができる。したがって、例えば、該共振器におけるマイクロ波照射状況や加熱状況を、検波器による定在波の検出、マイクロ波発生器によるマイクロ波の周波数の調整が可能になるので、共振器を制御することができる。その結果、流通管内の被処理対象物のきめ細かい温度管理が可能となる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0038】
[実施例1]
試験体として、
図1〜3に示したマイクロ波処理装置1を、上記製造方法に基づいて作製した。セラミック構造体共振器2には、LTCCからなるセラミック層12を積層(35〜40層)し、焼結して、TM
010共振器(キャビティー)を構築したセラミック構造体を用いた。LTCCには、誘電率が7.8、誘電正接が0.002のセラミック層12を用いた。またセラミック層12には、予め、直径0.1〜0.3mmの導電体部31Bを、直径3mmの貫通孔21の周囲に、円筒状に、等間隔に16個を配した。また、セラミック構造体共振器2の作製に際し、セラミック層12に、予め、マイクロ波供給用のアンテナ43、アンテナ線41、接地線44、及び図示はしていない検波器のアンテナやアンテナ線等を同時に作製した。その結果、体積が8cm
3(4cm×4cm×0.5cm)、質量が25gの小型化されたセラミック構造体共振器2を得ることができた。一方、従来の空胴共振器は、体積が200cm
3(10cm×10cm×2cm)であり、その質量が1.3kgであった。このように、本発明のマイクロ波処理装置1は小型化、軽量化を達成することができた。
上記作製した試験体のマイクロ波(電力)供給側アンテナ43と、検波器側アンテナ(図示せず)それぞれに、SMA端子を取り付け、ネットワークアナライザー(アジレント社製 E5071C(商品名))にて、S21信号の測定を行った。なお、ポート1は電力供給側アンテナ、ポート2は検波器側アンテナとした。
上記試験体のS21信号のスぺクトルを調べると、2.40825GHzの周波数において、S21信号が−29.2dBとなっておりTM
010モードの定在波が形成できることがわかった。
【0039】
次に上記の試験体において、試験体の貫通孔21の中心軸Cを貫通する状態に外径2mm、内径1mmの流通管6としてテトラフルオロエチレン(例えば、テフロン(登録商標))チューブ製の流通管6を挿入した。その結果、S21信号の共振周波数は2.407438GHzと低周波側シフトした。このことから、形成された定在波(電磁波)は貫通孔21部分に供給するものと相互作用を及ぼすことが確認された。2.407438GHzの周波数において、S21信号が−29.2dBとなっていることがわかった。S21信号はチューブ挿入前後では変化していないが、これはテフロン(登録商標)の誘電損失が小さいためマイクロ波吸収がほとんどないことを示している。さらに、上記流通管6内に水を送液したところ、S21信号の共振周波数はさらに低周波側にシフトし、2.391188GHzとなった。この周波数において、S21信号が−30.5dBとなっていることがわかった。送液された水が、形成された定在波(電磁波)を吸収していることが明らかになり、この吸収分が水の発熱作用を引き起こし温度制御が可能となる。
【0040】
次に、試験体1の貫通孔21にシリコンチューブ(外径2mm、内径1mm)を挿入し、シリコンチューブに送液ポンプ(図示せず)にて純水を1mL/hから60mL/hの範囲で供給しながら共振周波数に一致したマイクロ波を、電力供給側のアンテナ43から0Wから90Wの範囲で入射した。共振周波数は、検波器側アンテナ(図示せず)の信号が最大になるよう、照射する周波数を微調整することで調べた。これらの制御を自動で行うためのフィードバック制御を行い、常に共振周波数に一致した所定電力のマイクロ波を供給できるよう、システムを構築した。供給した純水の温度は、シリコンチューブ内部に取り付けた、太さ0.5mmの極細熱電対(坂口電熱製 T−35型 K0.5φ×100)にて計測した。熱電対の先端測温部は試験体1出口から1mm離れた位置に配置した。温度上昇ΔTは、マイクロ波印加前の液体温度と、マイクロ波照射後10秒経過したときの温度とした。また、マイクロ波投入電力ΔPは、電力供給側のアンテナ43の入射波電力から反射波電力を差し引いた実効電力とした。
【0041】
試験体1のポスト壁導電体(導電体部31B)として、貫通孔21の周囲に、円筒状に32個を等間隔に導電体部31Bを配した試験体を用いた。純水の送液速度は6mL/hとした。試験体1への投入電力として17W供給したときの温度の時間変化を
図4に示す。マイクロ波供給前は19.8℃であったが、0秒のタイミングでマイクロ波を照射したところ直ちに温度上昇し、15秒後には23.8℃となった。また、120秒後にマイクロ波照射を止めたところ、温度低下が認められた。このことからマイクロ波照射時間内の温度上昇は、純水のマイクロ波吸収による発熱に起因していることが確認できた。
【0042】
マイクロ波照射による温度上昇をΔTとして、純水の送液速度を1mL/hから60mL/h、マイクロ波投入電力を0W〜30Wの範囲で変化させたときのΔTの値を調べた結果を
図5に示す。純水の流速に応じてマイクロ波投入電力を調整することで、純水の温度調整が可能となることがわかった。
【0043】
試験体1として、別のセラミック構造体共振器を用いた実施例を示す。上面電極と下面電極の導電性を高めるため、試験体1の側壁にも導電性パターン(図示せず)を形成した試験体を用いた。ただし、マイクロ波供給用アンテナ43の周囲および、検波器側アンテナ(図示せず)の周囲については、導電性パターンは形成せず電気的な絶縁を保ってある。この試験体に対して、同じくシリコンチューブ(外径2mm内径1mm)を流通する純水の温度上昇を測定した結果を
図6に示す。この場合も同様にマイクロ波投入電力により純水の温度調整が可能であることを確認できた。