特許第6972350号(P6972350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧 ▶ ユニスト(ウルサン ナショナル インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー)の特許一覧

特許6972350リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法
<>
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000002
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000003
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000004
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000005
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000006
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000007
  • 特許6972350-リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972350
(24)【登録日】2021年11月5日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20211111BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20211111BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20211111BHJP
【FI】
   H01M10/056
   H01M10/058
   !H01M10/052
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-531414(P2020-531414)
(86)(22)【出願日】2018年10月31日
(65)【公表番号】特表2020-532086(P2020-532086A)
(43)【公表日】2020年11月5日
(86)【国際出願番号】KR2018013087
(87)【国際公開番号】WO2019093709
(87)【国際公開日】20190516
【審査請求日】2020年2月19日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0148072
(32)【優先日】2017年11月8日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515351884
【氏名又は名称】ユニスト(ウルサン ナショナル インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー)
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ウンキョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】サン−ユン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ソン−ジュ・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ミンチョル・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・キョン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ボラ・ジュン
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−518001(JP,A)
【文献】 特表2016−524803(JP,A)
【文献】 特開2008−171588(JP,A)
【文献】 特表2016−532992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05−10/0587
H01M10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の相分離固体電解質を含み、
正極側に介在される第1の電解質及び負極側に介在される第2の電解質が互いに接触して層状構造をなしており、
前記第1の電解質は、30以上の誘電定数を有する有機溶媒、リチウム塩、架橋モノマー及び無機粒子を含み、30未満の誘電定数を有する有機溶媒を含まず、
前記第2の電解質は、20以下の誘電定数を有する有機溶媒、リチウム塩、架橋モノマー及び無機粒子を含み、20を超える誘電定数を有する有機溶媒を含まない、リチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項2】
前記第1の電解質における30以上の誘電定数を有する有機溶媒は、スルホン系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、カーボネート系有機溶媒及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項3】
前記第1の電解質におけるリチウム塩は、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアーセネート、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムヘキサフルオロアンチモネート、リチウムジフルオロメタンスルホネート、リチウムアルミネート、リチウムテトラクロロアルミネート、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項4】
前記第1の電解質における架橋モノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、ビスフェノールAエトキシレートジメタアクリルレート、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項5】
前記第1の電解質における無機粒子は、アルミナ(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、バリウムチタン酸(BaTiO)、酸化リチウム(LiO)、フッ化リチウム(LiF)、水酸化リチウム(LiOH)、窒化リチウム(LiN)、酸化バリウム(BaO)、酸化ナトリウム(NaO)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、リチウムアルミネート(LiAlO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スズ(SnO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、炭化ケイ素(SiC)、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項6】
前記第1の電解質の厚さは、100μm以下であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項7】
前記第2の電解質における20以下の誘電定数を有する有機溶媒は、エーテル系有機溶媒、テトラヒドロフラン及びジオキソランからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項8】
前記第2の電解質におけるリチウム塩は、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、リチウムビスフルオロスルホニルイミド、リチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアーセネート、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムヘキサフルオロアンチモネート、リチウムジフルオロメタンスルホネート、リチウムアルミネート、リチウムテトラクロロアルミネート、塩化リチウム、ヨウ化リチウム、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項9】
前記第2の電解質における架橋モノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、ビスフェノールAエトキシレートジメタアクリルレート、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項10】
前記第2の電解質における無機粒子は、アルミナ(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、バリウムチタン酸(BaTiO)、酸化リチウム(LiO)、フッ化リチウム(LiF)、水酸化リチウム(LiOH)、窒化リチウム(LiN)、酸化バリウム(BaO)、酸化ナトリウム(NaO)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、リチウムアルミネート(LiAlO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スズ(SnO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、炭化ケイ素(SiC)、これらの誘導体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項11】
前記第2の電解質の厚さは、100μm以下であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体。
【請求項12】
請求項1に記載の電解質複合体;及び
前記電解質複合体に対向する電極;を含むリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子。
【請求項13】
前記電解質複合体及び電極が一体化され、前記電解質複合体と電極との間の界面抵抗が減少することを特徴とする、請求項12に記載のリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子。
【請求項14】
(a)30以上の誘電定数を有する有機溶媒にリチウム塩を溶解させて第1の電解質溶液を製造し、前記第1の電解質溶液に架橋モノマー及び無機粒子を順次供給した後、撹拌及び分散させて第1の電解液ペーストを製造する段階と、
(b)20以下の誘電定数を有する有機溶媒にリチウム塩を溶解させて第2の電解質溶液を製造し、前記第2の電解質溶液に架橋モノマー及び無機粒子を順次供給した後、撹拌及び分散させて第2の電解液ペーストを製造する段階と、
(c)正極の表面に前記第1の電解液ペーストを塗布した後、重合させて固体状の第1の電解質を形成する段階と、
(d)前記形成された第1の電解質上に前記第2の電解液ペーストを塗布した後、重合させて固体状の第2の電解質を形成する段階と、
(e)前記第2の電解質上に負極を付着する段階と、を含むリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年11月8日付け韓国特許出願第10−2017−0148072号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、電気化学素子に適用可能な電解質複合体に関し、より詳細には、電気化学素子の正極と負極のそれぞれに異なる固体電解質を適用して電池の容量及び寿命特性を改善し、固体電解質と電極を一体化させ、電解質と電極間の界面抵抗を減少させることができる、リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギー貯蔵技術に対する関心が高まるに従い、携帯電話、タブレット(tablet)、ラップトップ(laptop)及びカムコーダー、さらには電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)のエネルギーまで適用分野が拡大されながら、電気化学素子の研究及び開発が徐々に増大している。電気化学素子は、このような面で最も注目を集めている分野であり、その中でも、充放電が可能なリチウム−硫黄電池などの二次電池の開発は関心の焦点となっており、最近には、このような電池を開発するに当たり、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新しい電極と電池の設計に対する研究開発につながっている。
【0004】
このような電気化学素子、その中でリチウム−硫黄二次電池は高いエネルギー密度を有し、リチウムイオン電池を代替することができる次世代二次電池として脚光を浴びている。しかし、リチウム−硫黄二次電池において、正極物質として用いられる硫黄(sulfur、S)は、中間体である液体状態のポリスルフィド(polysulfide、例示:Li、Li、Li)を経て、固体状態のポリスルフィド(例:Li、LiS)に還元される特徴を有しており、これにより、液状のポリスルフィドは、正極表面で溶け出して分離膜及び負極に移動するようになり、分離膜及び負極表面で固相のLiSに還元される問題がある。
【0005】
すなわち、通常、高容量及び長寿命のリチウム−硫黄二次電池を具現するためには、ポリスルフィドの溶出を容易にする電解質が必要であるが、この場合、溶出された液状のポリスルフィドが負極及び分離膜などに移動し、固相のポリスルフィドに還元されることによって、最終的には負極を非活性化させるだけではなく、分離膜の表面に形成されている気孔を閉塞して、電池の容量及び寿命を減少させる深刻な問題が発生することになる。そこで、当該技術分野では、高容量及び長寿命のリチウム−硫黄二次電池を具現するために、ポリスルフィドの溶出は容易にするが、ポリスルフィドが負極及び分離膜などに移動することは防止することができる電解質の研究開発に拍車をかけている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、電気化学素子の正極と負極のそれぞれに異なる固体電解質を適用して電池の容量と寿命特性を改善させた、リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、固体電解質と電極を一体化させ、電解質と電極間の界面抵抗を減少させることができる、リチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、2種の相分離固体電解質を含み、正極側に介在される第1の電解質及び負極側に介在される第2の電解質が層状構造をなしているリチウム−硫黄電池用電解質複合体を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記電解質複合体と、前記電解質複合体に対向する電極と、を含むリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子を提供する。
【0010】
また、本発明は、(a)30以上の誘電定数を有する有機溶媒にリチウム塩を溶解させて第1の電解質溶液を製造し、前記第1の電解質溶液に架橋モノマー及び無機粒子を順次供給した後、撹拌及び分散させて、第1の電解液ペーストを製造する段階と、(b)20以下の誘電定数を有する有機溶媒にリチウム塩を溶解させて第2の電解質溶液を製造し、前記第2の電解質溶液に架橋モノマー及び無機粒子を順次供給した後、撹拌及び分散させて、第2の電解液ペーストを製造する段階と、(c)正極の表面に前記第1の電解液ペーストを塗布した後、重合させて固体状の第1の電解質を形成する段階と、(d)前記形成された第1の電解質上に前記第2の電解液ペーストを塗布した後、重合させて固体状の第2の電解質を形成する段階と、(e)前記第2の電解質上に負極を付着する段階と、を含むリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るリチウム−硫黄電池用電解質複合体、それを含む電気化学素子及びその製造方法は、電気化学素子の正極と負極のそれぞれに異なる固体電解質を適用して電池の容量及び寿命特性を改善させることができるだけではなく、固体電解質と電極を一体化させ、電解質と電極間の界面抵抗を減少させることもできるという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例に係る電解質複合体を含むリチウム−硫黄電池の側端面の模式図である。
図2】本発明の一実施例に係る電解質複合体の製造工程の模式図である。
図3】本発明の一実施例に基づいて電解質複合体と硫黄電極が一体化された模様を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した画像(A)と、比較例に基づいて単純積層させた電解質複合体を走査電子顕微鏡で観察した画像(B)である。
図4】本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池の容量及び寿命特性を比較対照したグラフである。
図5】本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池の正極表面抵抗値を示したグラフである。
図6】本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池の負極表面をXPSで分析したグラフである。
図7】本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池のイオン伝導特性を比較対照したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る電解質複合体を含むリチウム−硫黄電池の側端面の模式図である。本発明に係るリチウム−硫黄電池用電解質複合体は、図1に示すように、2種の相分離固体電解質を含み、正極(10)側に介在される第1の電解質(20)及び負極(30)側に介在される第2の電解質(40)が層状構造をなしている。
【0014】
前記リチウム−硫黄電池用電解質複合体は、硫黄正極から溶出される液体状態のポリスルフィド(Li、Li、Liなど)が分離膜及び負極などに移動された後、分離膜及び負極の表面で固体状態のポリスルフィド(Li、LiSなど)に還元されることを抑制し、負極の非活性化の現状と分離膜表面の気孔閉塞現象が防止され、これにより、電池の容量及び寿命特性を向上させることができる。また、前記リチウム−硫黄電池用電解質複合体は、高いイオン伝導性のゲル(gel)型を有する有機電解質と無機粒子が均一に複合化された固体状であり、円滑なイオン移動と同時に無機粒子複合化により、固相ポリスルフィドの移動をより効果的に抑制することができる利点を有することができる。
【0015】
前記第1の電解質(20)は、正極(物質)の表面に塗布されるもので、正極である硫黄粒子の表面に第1の電解質が塗布されることにより、ポリスルフィドの溶出を容易にし、電池の容量を最大化することができる。前記第1の電解質(20)は、30以上の高い誘電定数を有する有機溶媒、リチウム塩、架橋モノマー及び無機粒子を含む。
【0016】
前記(30以上の誘電定数を有する)有機溶媒及びリチウム塩は、電池の容量を最大化させるために用いられる成分で、前記有機溶媒としては、エチルメチルスルホン(ethylmethyl sulfone)及びテトラメチレンスルホン(tetramethylene sulfone)などのスルホン系有機溶媒、アセトニトリル(acetonitrile)などのニトリル系有機溶媒、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)などのカーボネート系有機溶媒及びγ−ブチロラクトン(γ-butyrolactone)などを例示することができ、誘電定数が95であるエチルメチルスルホンを用いることが最も好ましい。一方、リチウム−硫黄電池において、ポリスルフィドが溶け出す程度は、有機溶媒の誘電率によって決定され、前記有機溶媒は、30以上の誘電定数、好ましくは30〜200の誘電定数を有してもよい。
【0017】
前記有機溶媒の含有量は、有機溶媒や他の成分の種類によって異なるため、特定することは容易ではないが、例えば、前記第1の電解質の総重量に対して20〜90重量%となることがあり、この場合、前記有機溶媒の含有量が第1の電解質の総重量に対して20重量%未満であれば、イオン伝導が円滑でないおそれがあり、90重量%を超えると、固体状態を維持できない問題が発生することがある。
【0018】
前記リチウム塩は、リチウム金属を含むものであれば特に制限なく用いることができ、有機溶媒に解離してイオンの形態で移動することになる。このようなリチウム塩としては、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI;lithium bis(trifluoromethane sulfonyl)imide)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI;Lithium bis(fluorosulfonyl)imide)、リチウムパークロレート(LiClO;Lithium perchlorate)、リチウムヘキサフルオロアーセネート(LiAsF;Lithium hexafluoroarsenate)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF;Lithium tetrafluoroborate)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF;Lithium hexafluorophosphate)、リチウムヘキサフルオロアンチモネート(LiSbF)、リチウムジフルオロメタンスルホネート(LiCSO)、リチウムアルミネート(LiAlO)、リチウムテトラクロロアルミネート(LiAlCl)、塩化リチウム(LiCl)、ヨウ化リチウム(LiI)、リチウムビスオキサレートボレート(LiB(C)、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)、(ここで、x及びyは自然数である。))、これらの誘導体及びこれらの混合物の中から選ばれる1種以上を例示することができる。
【0019】
前記リチウム塩の含有量は、リチウム塩や他の成分の種類によって異なるため、特定することは容易ではないが、例えば、前記第1の電解質の総重量に対して1〜30重量%とすることができ、この場合、前記リチウム塩の含有量が第1の電解質の総重量に対して1重量%未満であれば、イオン伝導が円滑でないおそれがあり、30重量%を超えると、リチウム塩が溶媒に解離しない問題が発生することがある。
【0020】
前記架橋モノマーは、光重合又は熱重合反応などにより正極と電解質を架橋させ、高分子マトリックスを形成するためのものであり、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(Trimethylolpropane ethoxylate triacrylate)、ポリエチレングリコールジアクリレート(Polyethyleneglycol diacrylate)、トリエチレングリコールジアクリレート(Triethyleneglycol diacrylate)、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(Trimethylopropaneethoxylate triacrylate)、ビスフェノールAエトキシレートジメタクリレート(Bisphenol A ethoxylate dimethacrylate)、これらの誘導体及びこれらの混合物の中から選ばれる1種以上を例示することができる。
【0021】
前記架橋モノマーの含有量は、前記第1の電解質の総重量に対して1〜40重量%、好ましくは5〜20重量%であり、前記架橋モノマーの含有量が第1の電解質の総重量に対して1重量%未満である場合には、架橋が不十分で、第1の電解質が固体状態を維持できず流れるおそれがあり、40重量%を超える場合には、電解質複合体内に高分子の割合が高くなることによりイオン伝導度が顕著に低くなり、円滑なイオン伝導が難しいことがある。
【0022】
前記無機粒子は、電解質複合体内に均一に分散され、支持体なくフィルム状態を維持することができる(self−standing)機械的強度を確保するために用いられる成分として、アルミナ(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、バリウムチタン酸(BaTiO)、酸化リチウム(LiO)、フッ化リチウム(LiF)、水酸化リチウム(LiOH)、窒化リチウム(LiN)、酸化バリウム(BaO)、酸化ナトリウム(NaO)、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、リチウムアルミネート(LiAlO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スズ(SnO)、酸化セリウム(CeO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、炭化ケイ素(SiC)、これらの誘導体及びこれらの混合物の中から選ばれる1種以上を例示することができる。
【0023】
前記無機粒子の平均粒度に特別な制限はないが、1,000nm以下が好ましく、前記無機粒子の平均粒度が過度に大きい場合には、有機電解質に均一に分散されないことがある。一方、最終製造された電解質には有機溶媒が含まれ、固体である無機粒子の種類は無機物の種類及び大きさによって異なるため、前記無機粒子の含有量を特定することは容易ではない。但し、例えば、前記第1の電解質100重量部に対して30〜90重量部で含まれてもよい。
【0024】
一方、前記第1の電解質(20)は、硫黄粒子それぞれの表面に塗布されることもあり、硫黄粒子の集合体の表面のみに塗布されることもあるなど、正極からポリスルフィドの溶出を可能にするのであれば、どのような部位に塗布されるのかについては特別な制限がない。また、前記第1の電解質(20)の厚さは、イオン伝達性能と密接な関連を有し、正極粒子の大きさや目的とする電池の容量などによって変更することができ、100μm以下が好ましい(すなわち、薄いほどよい)。
【0025】
次に、前記第2の電解質(40)は、前記第1の電解質(20)と負極(30)との間に介在される、すなわち、負極(30)の表面(正極と対向する面)に塗布され、第1の電解質(20)に対応するように位置するもので、前記第1の電解質(20)との誘電率(誘電定数)の差によって硫黄正極から移動されるポリスルフィドが負極や分離膜まで到達することを抑制し、これにより、電池の容量及び寿命特性を改善させることができる。
【0026】
前記第2の電解質(40)は、20以下の低い誘電定数を有する有機溶媒、リチウム塩、架橋モノマー及び無機粒子を含む。前記(20以下の誘電定数を有する)有機溶媒は、ポリスルフィドの移動を抑制するために用いられる成分として、テトラエチレングリコールエーテル(tetraethylene glycol ether)、トリエチレングリコールエーテル(triethylene glycol ether)、ジエチレングリコールエーテル(diethylene glycol ether)などのエーテル系有機溶媒、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)及びジオキソラン(dioxolane)などを例示することができ、誘電定数が7.7であるテトラエチレングリコールエーテルを用いることが最も好ましい。一方、前記第2の電解質(40)は、100μm以下の厚さで塗布することができ、これを超える場合には、イオン伝達経路の抵抗要素となり、電極への円滑なイオン供給が困難である。
【0027】
その他に、前記第2の電解質(40)に含まれるリチウム塩、架橋モノマー及び無機粒子のそれぞれの定義、種類及び含有量などに関する説明は、第1の電解質(20)に含まれるリチウム塩、架橋モノマー及び無機粒子に関する説明を準用する(但し、第2の電解質に含まれる架橋モノマーは、光重合反応によって負極と電解質を架橋させ、高分子マトリックスを形成するためのものである。)。
【0028】
続いて、本発明に係るリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子について説明すると、前記リチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子は、前述したリチウム−硫黄電池用電解質複合体及び前記電解質複合体に対向する電極を含み、必要に応じて、前記電解質複合体及び電極が一体化することができ、この場合、電解質複合体と電極の間の界面抵抗を更に減少させることができる。
【0029】
次に、本発明に係るリチウム−硫黄電池用電解質複合体を含む電気化学素子の製造方法について説明する。図2は、本発明の一実施例に係る電解質複合体の製造工程の模式図であり、図1及び2を参照して説明すると、前記電気化学素子、好ましくはリチウム−硫黄電池の製造方法は、(a)30以上の高い誘電定数を有する有機溶媒にリチウム塩を溶解させて第1の電解質溶液を製造し、前記第1の電解質溶液に架橋モノマー及び無機粒子を順次供給した後、撹拌及び分散させて第1の電解液ペーストを製造する段階、(b)20未満の低い誘電定数を有する有機溶媒にリチウム塩を溶解させて第2の電解質溶液を製造し、前記第2の電解質溶液に架橋モノマー及び無機粒子を順次供給した後、撹拌及び分散させて第2の電解液ペーストを製造する段階、(c)正極の表面に前記第1の電解液ペーストを塗布した後、重合させて固体状の第1の電解質を形成する段階と、(d)前記形成された第1の電解質上に前記第2の電解液ペーストを塗布した後、重合させて固体状の第2の電解質を形成する段階、及び(e)前記第2の電解質上に負極を付着する段階を含む。
【0030】
前記(a)段階において、有機溶媒とリチウム塩の使用含有量には特別な制限がなく、架橋モノマーの使用含有量は、前記有機溶媒及びリチウム塩を含む第1の電解質溶液100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部であり、無機粒子の使用含有量は、無機粒子の種類や大きさによって異なるため、特別な制限はないが、300nmの粒子大きさを有するアルミナを用いる場合には、有機溶媒、リチウム塩及び架橋モノマーの総含有量100重量部に対して、100〜200重量部で用いることができる。
【0031】
また、前記(a)段階において、電解質溶液に架橋モノマーを供給した後、撹拌させる工程は、電解質溶液と架橋モノマーがよく混合することができる方法であれば特に限定されないが、常温で5〜30分間行うことができ、続く無機粒子を供給した後、分散させる工程は、無機粒子がよく分散することができる方法であれば特に限定しないが、ボールミル方式、ボールタック方式又はプラネタリーミキサー方式により2〜30分間行うことができる。
【0032】
前記(b)段階において、有機溶媒とリチウム塩の使用含有量には特別な制限がなく、架橋モノマーの使用含有量は、前記有機溶媒及びリチウム塩を含む第2の電解質溶液100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部であり、無機粒子の使用含有量は、無機粒子の種類や大きさによって異なるため、特別な制限はないが、300nmの粒子大きさを有するアルミナを用いる場合には、有機溶媒、リチウム塩及び架橋モノマーの総含有量100重量部に対して、100〜200重量部で用いることができる。
【0033】
また、前記(b)段階において、電解質溶液に架橋モノマーを供給した後、撹拌させる工程は、電解質溶液と架橋モノマーがよく混合することができる方法であれば特に限定されないが、常温で5〜30分間行うことができ、続く無機粒子を供給した後、分散させる工程は、無機粒子がよく分散することができる方法であれば特に限定しないが、ボールミル方式、ボールタック方式又はプラネタリーミキサー方式により2〜30分間行うことができる。
【0034】
その他に、前記(a)及び(b)段階で用いられた化合物のそれぞれの定義及び種類などに関する説明は、前記リチウム−硫黄電池用電解質複合体の項目において説明した内容を準用する。一方、前記製造方法において、第1の電解液ペーストをまず製造した後、第2の電解液ペーストを製造すると記載しているが、これは説明の便宜のためのもので、その順序には特別な制限がない。
【0035】
前記(c)及び(d)段階において、第1及び第2の電解液ペーストがそれぞれ塗布される方式としては、均一な塗布を行うことができる方法であれば特に限定しないが、ドクターブレード方式などを例示することができる。また、第1及び第2の電解液ペーストがそれぞれ塗布される量は、リチウム−硫黄電池の容量などによって変更することができるもので特別な制限はないが、100μm以下の厚さで塗布することが好ましい。
【0036】
一方、前記第1の電解液ペーストは、硫黄粒子のそれぞれの表面にコーティングされることもあり、硫黄粒子の集合体の表面のみにコーティングされることもあるなど、正極からポリスルフィドの溶出を可能にするのであれば、どのような部位にコーティングされるのかについては特別な制限がない。その他に、前記(c)及び(d)段階の重合(反応)は、コーティングされた第1及び第2の電解液ペーストを硬化させるための工程であり、UV、ハロゲン及びLEDなど、通常の光重合光源を10〜600秒間照射して行うことができる。また、前記重合としては、光重合(光架橋)及び熱重合(熱架橋)などを例示することができるが、特に制限はない。一方、前記第1の電解質の厚さは、円滑なイオン伝導の役割のために、100μm以下が好ましい。
【0037】
一方、本発明は、電気化学素子(リチウム−硫黄電池)を単位セルで含む電池モジュール及びそれを含む電池パックの提供も可能である。前記電池モジュール又は電池パックは、パワーツール(Power tool);電気自動車(Electric vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug−in hybrid electric vehicle、PHEV)を含む電気自動車;または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイスの電源として用いることができる。
【0038】
以下、本発明に係る電解質複合体を含む電気化学素子(リチウム−硫黄電池)に適用される正極、負極、及び分離膜に関する説明を付加する。
【0039】
正極
本発明に用いられる正極について説明すると、正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極組成物を製造した後、これを所定の溶媒(分散媒)に希釈して製造されたスラリーを正極集電体上に直接コーティング及び乾燥することにより、正極層を形成することができる。または、前記スラリーを別の支持体上にキャスティングした後、前記支持体から剥離して得たフィルムを正極集電体上にラミネートして正極層を製造することができる。これに加えて、当該技術分野において通常の知識を有する技術者に広く知られている方法を用いて、様々な方式で正極を製造することができる。
【0040】
前記導電材(Conducting material)は、正極集電体から電子が正極活物質に移動する経路の役割をし、電子伝導性を付与するだけではなく、電解質と正極活物質を電気的に接続させ、電解質内のリチウムイオン(Li)が硫黄まで移動して反応させる経路の役割を同時にする。したがって、導電材の量が不十分で役割を適切に行うことができない場合、電極内の硫黄のうち反応できない部分が増加することになり、結局は容量の減少を引き起こす。また、高レート放電特性と充放電サイクル寿命にも悪影響を及ぼすので、適切な導電材の添加が必要である。前記導電材の含有量は、正極組成物の総重量を基準として0.01〜30重量%の範囲内で適切に添加することが好ましい。
【0041】
前記導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、グラファイト;デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサマーブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム及びニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛とチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などを用いることができる。市販されている導電材の具体的な例としては、アセチレンブラック(シェブロンケミカルカンパニー(Chevron Chemical Company)製)やデンカブラック(Denka Singapore Private Limited製)、ガルフオイルカンパニー(Gulf Oil Company)製、ケッチェンブラック(Ketjenblack)、EC系(アルマックカンパニー(Armak Company)製)、バルカン(Vulcan)XC−72(キャボットカンパニー(Cabot Company)製)及びスーパーP(Super−P;Timcal社製)などを用いることができる。
【0042】
前記バインダーは、正極活物質を集電体によく付着させるためのものであり、溶媒によく溶解されなければならず、正極活物質と導電材との導電ネットワークをよく構成しなければならないだけでなく、電解液の含浸性も適当に有さなければならない。前記バインダーは、当該業界において公知の全てのバインダーが挙げられ、具体的には、ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidene fluoride、PVdF)、又はポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダー;スチレンーブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴムを含むゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダー;ポリアルコール系バインダー;ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダー;ポリイミド系バインダー、ポリエステル系バインダー、シラン系バインダー;からなる群より選ばれる1種以上の混合物または共重合体であってもよいが、これらに限定されない。
【0043】
前記バインダーの含有量は、正極組成物の総重量を基準として0.5〜30重量%であってもよいが、これに限定されるものではない。前記バインダー樹脂の含有量が0.5重量%未満である場合には、正極の物理的性質が低下して正極活物質と導電材が脱落することがあり、30重量%を超える場合には、正極で活物質と導電材の割合が相対的に減少して電池容量が減少することがあり、抵抗要素として作用して効率が低下することがある。
【0044】
前記正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極組成物は、所定の溶媒に希釈され、正極集電体上に、当業界において知られている通常の方法を用いてコーティングすることができる。まず、正極集電体を準備する。前記正極集電体は、一般的に3〜500μmの厚さを用いる。このような正極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどを用いることができる。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態が可能である。
【0045】
次に、前記正極集電体上に正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極組成物を溶媒に希釈したスラリーを塗布する。前述した正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極組成物を所定の溶媒と混合してスラリーで製造することができる。このとき、溶媒は乾燥が容易でなければならず、バインダーをよく溶解させることができるが、正極活物質及び導電材は溶融させることなく分散状態で維持させることができるものが最も好ましい。溶媒が正極活物質を溶解させる場合には、スラリーで硫黄の比重(D=2.07)が高いため、硫黄がスラリーで沈殿し、コーティング時、集電体に硫黄が集まって導電ネットワークに問題が生じ、電池の作動に問題が発生する傾向がある。前記溶媒(分散媒)は、水または有機溶媒が可能であり、前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、イソプロピルアルコールまたはアセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン群から選ばれる1種以上であってもよい。
【0046】
続いて、前記スラリー状態の正極組成物を塗布する方法には、特別な制限はなく、例えば、ドクターブレードコーティング(Doctor blade coating)、ディップコーティング(Dip coating)、グラビアコーティング(Gravure coating)、スリットダイコーティング(Slit die coating)、スピンコーティング(Spin coating)、コンマコーティング(Comma coating)、バーコーティング(Bar coating)、リバースロールコーティング(Reverse roll coating)、スクリーンコーティング(Screen coating)、キャップコーティング(Cap coating)方法などを行って製造することができる。このようなコーティング過程を経た正極組成物は、後に乾燥過程を経て溶媒(分散媒)の蒸発、コーティング膜の粗密性及びコーティング膜と集電体との接着などがなされる。このとき、乾燥は通常の方法によって行われ、これを特に制限しない。
【0047】
負極
負極としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができるものを全て用いることができ、例えば、リチウム金属、リチウム合金などの金属材と、低結晶炭素、高結晶性炭素などの炭素材を例示することができる。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(Soft carbon)及びハードカーボン(Hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、天然黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(Pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(Mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(Meso−carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(Petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。この他に、シリコンが含まれたアロイ系やLiTi12などの酸化物もよく知られている負極である。
【0048】
このとき、負極はバインダーを含んでもよく、バインダーとしては、ポリビニリデンフルオライド(polyvinylidenefluoride、PVDF)、ポリビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF−co―HFP)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(Polymethylmethacrylate)、スチレンーブタジエンゴム(SBR)など、様々な種類のバインダー高分子を用いてもよい。
【0049】
前記負極は、前記負極活物質及びバインダーを含む負極活性層の支持のための負極集電体を選択的に更に含んでもよい。前記負極集電体は、具体的に、銅、ステンレス鋼、チタン、銀、パラジウム、ニッケル、これらの合金及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれてもよい。前記ステンレス鋼は、カーボン、ニッケル、チタン又は銀で表面処理することができ、前記合金としては、アルミニウム−カドミウム合金を用いることができる。その他にも、焼成炭素、導電剤で表面処理された非導電性高分子、又は導電性高分子などを用いてもよい。
【0050】
前記バインダーは、負極活物質のペースト化、活物質間の相互接着、活物質と集電体との接着、活物質の膨張及び収縮に対する緩衝効果などの役割をする。具体的に、前記バインダーは、前記正極のバインダーにおいて説明したことと同様である。また、前記負極は、リチウム金属又はリチウム合金であってもよい。非限定的な例として、負極はリチウム金属の薄膜であってもよく、リチウムとNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Al及びSnからなる群より選ばれる1種以上の金属との合金であってもよい。
【0051】
分離膜
正極と負極の間には、通常の分離膜が介在されてもよい。前記分離膜は、電極を物理的に分離する機能を有する物理的な分離膜であり、通常の分離膜として用いられるものであれば特に制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解質の含湿能力に優れたものが好ましい。また、前記分離膜は、正極と負極を分離又は絶縁させながら正極と負極との間にリチウムイオンの輸送を可能にする。このような分離膜は多孔性であり、非導電性又は絶縁性である物質からなってもよい。前記分離膜は、フィルムのような独立した部材であるか、または正極及び負極のいずれか一つ以上に付加されたコーティング層であってもよい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムを単独で、又はこれらを積層して用いることができ、又は通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0052】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は、本発明を例示したに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属するのも当然である。
【0053】
[実施例1]電解質複合体の製造
誘電定数が95であるエチルメチルスルホンに1モルのLiTFSIを溶解させ、第1の電解質溶液を製造した後、ここに、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(架橋モノマー)を供給し、常温で20分間撹拌させ、次いで、平均粒度300nmの大きさを有するアルミナ(無機粒子)を供給し、ボールミリング方式(THINKY SUPER MIXER、ARE−310、THINKY CORPORATION社、JAPAN)で10分間分散させ、第1の電解液ペーストを製造した。このとき、第1の電解質溶液:架橋モノマーの重量比は85:15とし、(第1の電解質溶液+架橋モノマー):無機粒子の重量比は1:1.5とした。
【0054】
次に、誘電定数が7.7であるテトラエチレングリコールエーテルとLiTFSIを1:1のモル比で混合して溶媒にLiTFSIを溶解させ、第2の電解質溶液を製造した後、ここに、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(架橋モノマー)を供給し、常温で20分間撹拌させ、次いで、アルミナ(無機粒子)を供給してボールミリング方式で10分間分散させ、第2の電解液ペーストを製造した。このとき、第2の電解質溶液:架橋モノマーの重量比は85:15とし、(第2の電解質溶液+架橋モノマー):無機粒子の重量比は1:1.5とした。
【0055】
続いて、用意された硫黄正極上に第1の電解液ペーストを塗布した後、ここに、UV光源を30秒間照射し、50μmの厚さを有するフィルム形態の第1の電解質が形成され、次いで、第1の電解質上に第2の電解液ペーストを塗布した後、ここに、UV光源を30秒間照射し、50μmの厚さを有するフィルム形態の第2の電解質が形成され、層状構造を有する固体状の電解質複合体を製造した。
【0056】
[実施例2]電解質複合体の製造
誘電定数が64.97であるプロピレンカーボネートに5モルのLiTFSIを溶解させ、第1の電解質溶液を製造した後、ここに、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート(架橋モノマー)を供給し、常温で20分間撹拌させ、続いて、平均粒径300nmの大きさを有するアルミナ(無機粒子)を供給し、ボールミリング方式(THINKY SUPER MIXER、ARE−310、THINKY CORPORATION社、JAPAN)で10分間分散させ、第1の電解液ペーストを製造した。このとき、第1の電解質溶液:架橋モノマーの重量比は85:15とし、(第1の電解質溶液+架橋モノマー):無機粒子の重量比は1:1.5とした。
【0057】
次に、誘電定数が7.0であるジオキソランとLiTFSIを1:1のモル比で混合して溶媒にLiTFSIを溶解させ、第2の電解質溶液を製造した後、ここに、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリルレート(架橋モノマー)を供給し、常温で20分間撹拌させ、次いで、アルミナ(無機粒子)を供給してボールミリング方式で10分間分散させ、第2の電解液ペーストを製造した。このとき、第2の電解質溶液:架橋モノマーの重量比は85:15とし、(第2の電解質溶液+架橋モノマー):無機粒子の重量比は1:1.5とした。
【0058】
続いて、用意された硫黄正極上に第1の電解液ペーストを塗布した後、ここに、UV光源を30秒間照射し、50μmの厚さを有するフィルム形態の第1の電解質が形成され、次いで、第1の電解質上に第2の電解液ペーストを塗布した後、ここに、UV光源を30秒間照射し、50μmの厚さを有するフィルム形態の第2の電解質が形成され、層状構造を有する固体状の電解質複合体を製造した。
【0059】
[比較例1]単層構造を有する電解質の製造
エチルメチルスルホンに1モルのLiTFSIを溶解させて電解質溶液を製造した後、これを硫黄正極とリチウム負極との間に供給し、UV光源を30秒間照射し、単層構造を有する電解質を製造した。
【0060】
[比較例2]単層構造を有する電解質の製造
テトラエチレングリコールエーテルとLiTFSIを1:1のモル比で混合し、溶媒にLiTFSIを溶解させて電解質溶液を製造した後、これを硫黄正極とリチウム負極との間に供給し、UV光源を30秒間照射し、単層構造を有する電解質を製造した。
【0061】
[比較例3]単層構造をラミネートした電解質複合体の製造
比較例1及び比較例2に係る単層構造の電解質をそれぞれ製造した後、二つの電解質を単に重ねて電解質複合体を製造した。
【0062】
[実施例1及び2、比較例1乃至3]リチウム−硫黄電池の製造
前記実施例1及び2で製造された電解質複合体のうち第2の電解質上にリチウム金属(負極)を取り付け、第1の電解質と第2の電解質との間に分離膜を設置し、電解質複合体を含むコイン形状のリチウム−硫黄電池(コインセル)を製造した。また、前記比較例1乃至3で製造されたそれぞれの電解質に分離膜を設置し、コイン形状のリチウム−硫黄電池(コインセル)を製造した。一方、図3は、本発明の一実施例に基づいて電解質複合体と硫黄電極が一体化した模様を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した画像(A)と、比較例に基づいて、単純積層させた電解質複合体を走査型電子顕微鏡で観察した画像(B)であり、図3のAは前記実施例1に該当し、図3のBは前記比較例3に相当する。
【0063】
[実験例1]リチウム−硫黄電池の容量及び寿命特性の評価
前記実施例1、比較例1及び2により製造されたリチウム−硫黄電池の充放電電流レートを0.2C/0.2Cに設定した後、充放電特性を観察した。図4は、本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池の容量及び寿命特性を比較対照したグラフである。スルホン系有機溶媒を含む電解質を用いた比較例1の場合、図4に示すように、硫黄溶出特性に優れ、高い電池容量を実装するが、ポリスルフィドの移動現象(シャトル現象)により、リチウム負極表面の非活性化及び分離膜気孔構造の閉塞現象が発生し、サイクル寿命特性は非常に短くなることを確認した。また、グライム系有機溶媒を含む電解質を用いた比較例2の場合、硫黄溶出特性が悪いため、電池の容量は低くなるが、ポリスルフィドの移動現象は抑制され、優れたサイクル特性を示した。
【0064】
反面、電解質複合体を適用した実施例1の場合には、硫黄正極上に形成され、ポリスルフィドの溶出を容易にする第1の電解質、リチウム負極上に形成され、ポリスルフィドの溶出及び移動を抑制する第2の電解質により、比較例1及び2とは異なり、電池の高容量と優れたサイクル寿命特性を同時に具現することが可能であった。一方、前記実施例2で製造された電池も前記実施例1と同様の結果を示した。
【0065】
[実験例2]リチウム−硫黄電池の正極及び負極表面の評価
前記実施例1、比較例1及び2により製造されたリチウム−硫黄電池の充放電電流レートを0.2C/0.2Cに設定し、前記実験例1と同様の充放電特性を観察した後、硫黄正極表面の抵抗値及びリチウム負極表面に存在するポリスルフィドの量を観察した。図5は、本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池の正極表面抵抗値を示したグラフであり、図6は、本発明の一実施例及び比較例に係るリチウム−硫黄電池の負極表面をXPSで分析したグラフである。
【0066】
まず、各電池を200サイクル充放電寿命特性の分析後、インピーダンスにより硫黄正極の表面を分析した結果、図5に示すように、ポリスルフィドの移動現象(シャトル現象)の抑制を通じて、比較例1及び2に比べて実施例1の表面抵抗が小さいことを確認することができた。また、各電池を200サイクル充放電寿命特性の分析後、リチウム負極の表面をXPSで分析した結果、図6に示すように、ポリスルフィドの移動抑制特性により、実施例1の負極表面には、固体状態のポリスルフィド(Li、LiS)がほとんど観察されなかった。以上の結果から、本発明に係るリチウム−硫黄電池用電解質複合体を用いると、電池の容量及び寿命特性が顕著に改善されることが分かる。一方、前記実施例2で製造された電池も前記実施例1と同様の結果を示した。
【0067】
[実験例3]リチウム−硫黄電池のイオン伝導特性の評価
図7は、本発明の一実施例(実施例1)及び比較例(比較例3)に係るリチウム−硫黄電池のイオン伝導特性を比較対照したグラフである。前記実施例1及び比較例3により製造されたリチウム−硫黄電池のイオン伝導度を実験した結果、図7に示すように、実施例1のイオン伝導度が比較例3に比べて優れたことを確認することができた。これは、実施例1の電解質複合体が、第1の電解質上に第2の電解質を直接塗布したのに対し、比較例3の電解質は、単層構造を単に積層させたことに起因したものであり、比較例3の場合、二つの電解質間に空隙が発生し、電解質の間の界面抵抗が大きく、空隙が発生しないか、又は最小化された実施例1の場合には、二つの電解質間の界面抵抗が小さいため、イオン伝導度に優れることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7