(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気流生成器に印加される電圧と前記イオン発生器に印加される電圧は、それぞれ個別に制御されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン検出装置。
前記イオン発生器と前記イオンフィルタとの間に、前記被測定分子のイオン化を促進するための空間を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオン検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「概要」
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、一実施形態に係るイオン検出装置10の概略構成が示されている。
【0010】
このイオン検出装置10は、イオン発生部100、イオンフィルタ部200、検出部600、及び制御部900などを備えている。なお、ここでは、XYZ3次元直交座標系を用い、被測定分子の進行方向を+Z方向とする。
【0011】
イオン発生部100は、被測定分子をイオン化する。イオンフィルタ部200は、イオン発生部100からのイオンを選別する。検出部600は、イオンフィルタ部200で選別されたイオンを検出する。制御部900は、装置全体を制御する。
【0012】
イオン検出装置10の基本的な検出原理について説明する。
【0013】
イオンフィルタ部200は、対向して配置された2つの電極(電極A、電極B)を有している。
【0014】
イオンは、電界Eの環境下では次の(1)式で示される移動速度Vで移動する。ここで、Kは、該イオンの移動度である。
V=K×E ……(1)
【0015】
ところで、イオンの移動度には電界強度依存性がある。そして、この電界強度依存性は、イオンの種類によって異なっている。
図2には、一例として、種類が異なる3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)における移動度の電界強度依存性が示されている。なお、
図2では、分かりやすくするため、各イオンの移動度が電界強度0で等しくなるように正規化されている。
【0016】
3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)の移動度は、電界強度が9kV/cm以下の低電界強度ではほぼ変化なしである。電界強度が約10kV/cmから増すにつれてイオンの種類固有の特性が移動度に現れる。イオンAの移動度は、電界強度が増加するに従って大きく増加し、Emaxで最大となる。イオンBの移動度は、イオンAよりも緩やかに増加する。イオンCの移動度は、緩やかに減少する。このように三者三様の特性を示している。イオンフィルタ部200は、低電界強度での移動度と高電界強度での移動度との違いを利用してイオンの選別を行う。
【0017】
図3には、イオンフィルタ部200の電極間における3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)の移動の軌跡が示されている。なお、ここでは、分かりやすくするため、便宜的に、電極A及び電極Bを導電体でできた平行平板としている。
【0018】
電極Aと電極Bとの間に発生する電界の波形を非対称電界波形とすることによって、任意のイオン(
図3では、イオンB)のみを検出部600に到達させることができる。
【0019】
図4には、電極Aと電極Bとの間に発生させる電界波形の一例が示されている。この電界波形は、正の高電界(Emax)と負の低電界(Emin)を交互に繰り返している。そして、高電界の期間(t1)は低電界の期間(t2)よりも短く、t1とt2の比は1:3〜1:5である。このように電界波形は、上下に関して非対称である。この非対称電界波形は、時間平均電界が零であり、次の(2)式が成り立つように設定されている。
|Emax|×t1=|Emin|×t2 ……(2)
【0020】
すなわち、
図4における領域Aの面積と領域Bの面積が一致するように設定されている。
【0021】
なお、以下では、次の(3)式に示されるように、|Emax|×t1の値、及び|Emin|×t2の値をβとする。
|Emax|×t1=|Emin|×t2=β ……(3)
【0022】
ところで、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度Vupは、次の(4)式で示される。ここで、K(Emax)は、高電界(Emax)のときのイオンの移動度である。
Vup=K(Emax)×|Emax| ……(4)
【0023】
例えば、|Emax|が約10kV/cm以上の場合、3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)では、イオン毎に移動度が異なる(
図2参照)ので、3つのイオンの移動速度Vupは三者三様に異なる。すなわち、
図5に示されるように、高電界の期間(t1)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜は互いに異なっている。
【0024】
そして、高電界の期間(t1)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位yup(
図5参照)は、次の(5)式で示される。
yup=Vup×t1 ……(5)
【0025】
一方、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動する速度Vdownは、次の(6)式で示される。ここで、K(Emin)は、低電界(Emin)のときのイオンの移動度である。
Vdown=−K(Emin)×|Emin| ……(6)
【0026】
例えば、|Emin|が約5kV/cm以下の場合、3つのイオン(イオンA、イオンB、イオンC)では、移動度がほぼ同一である(
図2参照)ので、3つのイオンの移動速度Vdownはほぼ同一である。すなわち、
図5に示されるように、低電界の期間(t2)では、3つのイオンの移動軌跡の傾斜はほぼ同じである。
【0027】
そして、低電界の期間(t2)に、イオンがY軸方向に関して移動した距離である変位ydown(
図5参照)は、次の(7)式で示される。
ydown=Vdown×t2 ……(7)
【0028】
非対称電界波形の1周期(T)内では、イオンは、+Z方向に移動しつつ、期間t1の間に+Y方向に移動し、期間t2の間に−Y方向に移動する。
【0029】
そこで、
図5に示されるように、ジグザグ運動を繰り返しながら電極Aに向かうもの(イオンA)と、ジグザグ運動を繰り返しながら電極Bに向かうもの(イオンC)と、+Y方向の変位と−Y方向の変位とが釣り合い、検出部に向かうもの(イオンB)とに分かれることとなる。
【0030】
ところで、非対称電界波形における1周期(T)での、イオンのY軸方向に関する平均変位ΔyRFは、次の(8)式で表される。
ΔyRF=yup+ydown
=K(Emax)×|Emax|×t1−K(Emin)×|Emin|×t2 ……(8)
【0031】
そして、上記(8)式は、上記(3)式を用いて次の(9)式のように表すことができる。
ΔyRF=β{K(Emax)−K(min)} ……(9)
【0032】
ここで、K(Emax)−K(min)をΔKとおくと、上記(9)式は次の(10)式のように表される。
ΔyRF=βΔK ……(10)
【0033】
βは電極Aと電極Bとの間に印加される非対称電界で決まる定数である。そこで、非対称電界波形の1周期(T)あたりのイオンのY軸方向に関する変位は、低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度の差分であるΔKに依存する。
【0034】
キャリアガスだけがイオンをZ軸方向に移送させると仮定すると、イオンが電極Aと電極Bとの間に滞在しているときの、該イオンのY軸方向に関する変位Yは、次の(11)式となる。ここで、tresは、イオンが電極Aと電極Bとの間に滞在している平均時間(平均イオン滞在時間)である。
【数1】
【0035】
平均イオン滞在時間tresは、次の(12)式で表される。ここで、Aはイオンフィルタ部の断面積、LはZ軸方向に関する電極の長さ(電極深さ)(
図5参照)、Qはキャリアガスの容積流量である。Vはイオンフィルタ部の容積(=AL)である。
【数2】
【0036】
上記(11)式は、上記(12)式及び上記(3)を用いて、次の(13)式のように表すことができる。ここで、Dは非対称電界波形のデューティであり、D=t1/Tである。
【数3】
【0037】
非対称電界波形における高電界Emax、イオンフィルタ部の容積V、非対称電界波形のデューティD、及びキャリアガスの容積流量Qについて、すべてのイオン種に対して同一の値を用いると、上記(13)式から、変位Yは、イオン種固有の低電界(Emin)での移動度と高電界(Emax)での移動度との差分ΔKに比例することがわかる。
【0038】
なお、
図5ではイオンBのみが、変位Yが最小であり、検出部600に到達することができるが、デューティDを変化させることによってイオンBとは異なるΔKを有するイオンを検出部600に到達させることができる。さらに、デューティDを小刻みに変化させていくことで、ΔKが異なる様々なイオンの有無や量を検出することができる。
【0039】
また、イオン検出装置10において、ΔKが異なる様々なイオン種を検出する方法として、非対称電界波形に低強度のDC電界を重畳する方法がある。この方法によると、期間t1及び期間t2でのY軸方向に関する変位量を変化させることができる。そこで、電極A又は電極Bに接触せずに検出部600に到達することができるイオン種を連続的に変えることができる。なお、非対称電界波形に重畳するDC電界は補償電圧(CV:compensasion voltages)と呼ばれている。この方法では、補償電圧を掃引してΔKが異なる様々なイオン種の有無や量を検出する。
【0040】
ところで、検出部600に到達する前に電極A又は電極Bに接触したイオンは、中和されてイオンでなくなり検出されない。
【0041】
なお、制御部900は、従来のイオン検出装置における制御部とほぼ同様であるため、ここでは制御部900の動作についての詳細な説明は省略する。
【0042】
「詳細」
イオン検出装置は、気体に含まれる微量な分子の種類及び量を検出する装置である。イオン検出装置は、汎用性が高く、試料中の薬物、化学成分などの分析、環境中の有害ガス、生体ガス、においの分析など広範囲で使われているが、装置が比較的大型であり使用環境が限られている。
【0043】
また、従来のイオン検出装置はポンプなどが必要であり、携帯性の高いものはみられなかった。また、特許文献3では、傾斜電位を利用しフローガスを不要とすることで小型化を図っているが、制御回路が複雑であったり、イオン発生手段が放射性同位元素を使っているため、携帯するには不適であった。
【0044】
<実施例1>
実施例1のイオン検出装置10が、
図6に示されている。このイオン検出装置10では、検出部600が、検出器610及び気流生成器620を有している。そして、気流生成器620は、検出器610の+Z側に配置されている。
【0045】
気流生成器620の一部を拡大した図が
図7に示されている。気流生成器620は、3種類の電極(電極1、電極2、電極3)を、それぞれ複数有している。電極1は、+Z方向の端部(先端)が尖っている。そして、電極1は、Z軸方向に直交する方向(
図7では、Y軸方向)に関して、2つの電極2に挟まれている。電極3は、電極2の+Z側に配置されている。なお、電極3は、絶縁コートされている。また、気流生成器620は、各電極と接続されている単一電源621を有している。
【0046】
図8は、コロナ放電による基本的な気流の発生メカニズムを説明するための図である。電極1と電極3との間の電圧を上げることで、電極1の先端部を中心に電界が広がり、
図8に示されるように電気力線が発生し、電極1の先端付近の電界強度が約4×10
7Vmを越えると、電極1の先端付近よりイオンが発生し、発生したイオンが電気力線に従い移動をするため、イオンガスが周辺気体を押し出すように気流が発生する。この気流をイオン風あるいは、単に風と呼んでいる。
【0047】
気流生成器620では、コロナ放電によりイオンが発生し、+イオン同士の反発と電極1と電極2の電界及び電気力線により、電気力線に沿ってイオンが移動する。そして、そのイオンの移動により、周辺の気体も押されるように移動し気流が発生する(
図9及び
図10参照)。
【0048】
この場合は、安全にイオン風を生み出すことができる。また、イオンの発生と風の生成とを同時に単一電源621で実現することができる。その結果、携帯に適した小型で安全で制御が簡単なイオン検出装置を実現することができる。
【0049】
なお、ここでは、気流生成器620は、検出器610へのイオンの流れを逆流させないために、発生させるイオンの極性をイオン発生部100とは逆の極性とし、あまり電界の影響が及ばない位置に設けられている。
【0050】
また、本実施例では、気流生成器620は検出部600の一部として構成されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、気流生成器620が、検出部600の機能と隔離して構成されていても良い。さらに、本実施例では、気流生成器620は検出器610の後段に設けられている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本実施例の効果を実現できる構成であれば、気流生成器620の設置位置は問わない。
【0051】
<実施例2>
実施例2のイオン検出装置10が、
図11に示されている。このイオン検出装置10は、実施例1のイオン検出装置10に対して、気流生成器620に印加される電圧が可変であることに特徴を有する。この場合は、実施例1のイオン検出装置10と同様な効果が得られるとともに、イオン風の流量を変えることができる。
【0052】
<実施例3>
実施例3のイオン検出装置10が、
図12に示されている。このイオン検出装置10は、実施例1のイオン検出装置10に対して、気流生成器620が、イオン発生部100を兼ねていることに特徴を有する。
【0053】
実施例3のイオン検出装置10では、気流生成器620は、イオンフィルタ部200の−Z側に配置されている。
【0054】
この場合は、実施例1のイオン検出装置10と同様な効果が得られるとともに、さらに小型化を図ることができる。
【0055】
ところで、イオン発生部100及び気流生成器620を構成する電極の数、又は印加電圧を調整することにより、イオン検出量を調整することができる。また、イオン発生部100に印加する極性を変化させた場合においても気流生成器620はプラスイオンでもマイナスイオンでも同じ方向にイオン風を発生させることができる。
【0056】
<実施例4>
実施例4のイオン検出装置10が、
図13に示されている。このイオン検出装置10は、実施例1のイオン検出装置10に対して、Z軸方向に関するイオン発生部100とイオンフィルタ部200との距離が長いことに特徴を有する。
【0057】
イオン発生部100で生成されたイオンに含まれる窒素や酸素のイオンが多く、他の分子がイオン化されるのに時間がかかるおそれがある場合には、実施例4のイオン検出装置10のように、イオン発生部100とイオンフィルタ部200との距離を長くして時間を稼ぎ、他の分子が確実にイオン化されるようにすることが好ましい。この場合も、実施例1のイオン検出装置10と同様な効果が得られる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係るイオン検出装置10は、イオン発生部100、イオンフィルタ部200、検出部600、及び制御部900などを備えている。
【0059】
そして、検出部600は、コロナ放電によりイオン風を生成させることができる気流生成器620を有している。気流生成器620は、3種類の電極(電極1、電極2、電極3)を、それぞれ複数有している。また、気流生成器620は、+Z方向に貫通した流路も有している。
【0060】
このイオン検出装置10は、安全にイオン風を生み出すことができるとともに、イオンの発生と風の生成を同時に単一電源で実現することができる。その結果、携帯に適した小型で安全で制御が簡単なイオン検出装置を実現することができる。
【0061】
さらに、実施例2のイオン検出装置10では、気流生成器620におけるコロナ放電の際の電圧が可変である。
【0062】
また、実施例3のイオン検出装置10では、気流生成器620が、イオン発生部100を兼ねている。
【0063】
また、実施例4のイオン検出装置10では、イオン発生部100とイオンフィルタ部200との間に、被測定分子のイオン化を促進するための空間を有している。
【0064】
なお、上記実施形態では、イオン発生部100が複数の電極を有する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、イオン発生部100が、1個の電極を有していても良い。