特許第6972694号(P6972694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6972694-軸封装置、及び軸封方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972694
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】軸封装置、及び軸封方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/16 20060101AFI20211111BHJP
   F04D 29/08 20060101ALI20211111BHJP
   F04D 29/10 20060101ALI20211111BHJP
   F04D 7/04 20060101ALI20211111BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   F16J15/16 Z
   F04D29/08 C
   F04D29/10 Z
   F04D7/04 L
   F04D29/12 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-120158(P2017-120158)
(22)【出願日】2017年6月20日
(65)【公開番号】特開2019-2548(P2019-2548A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】桐嶋 輝俊
(72)【発明者】
【氏名】永元 良治
(72)【発明者】
【氏名】臼田 恭平
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭52−046303(JP,U)
【文献】 特開2015−129444(JP,A)
【文献】 特開昭58−122398(JP,A)
【文献】 特開2003−222246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16
F16J 15/18
F04D 29/08
F04D 29/10
F04D 7/04
F04D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式製錬プロセスでスラリーを送液するポンプの軸封部にシール水を注入して該軸封部を軸封する軸封装置であって、
前記ポンプのシャフトに巻着されるスリーブと、
前記シャフトに軸支されるエキスペラ及び前記スリーブの一部を覆うカバー部材と、
前記カバー部材の筒状部と前記スリーブとの間のクリアランスを塞ぐ複数段のオイルシールと、
前記筒状部の基端側に形成される前記シール水を注入する注入口の内側に設けられ、前記シール水の注入量を調整するランタンリングと、を備え、
前記筒状部の基端側に形成される前記シール水の排出口が閉塞される構成となっており、
前記シール水として、前記スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、かつ、前記湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液が使用されることを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記オイルシールは、前記ランタンリングに対して前記筒状部の先端側の方が基端側よりも段数が多く設けられることを特徴とする請求項1に記載の軸封装置。
【請求項3】
前記スラリーは、ニッケル・コバルト混合硫化物を含有するスラリーであり、かつ、前記シール水は、ニッケル電解廃液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸封装置。
【請求項4】
湿式製錬プロセスでスラリーを送液するポンプの軸封部にシール水を注入して該軸封部を軸封する軸封方法であって、
前記軸封部は、
前記ポンプのシャフトに巻着されるスリーブと、
前記シャフトに軸支されるエキスペラ及び前記スリーブの一部を覆うカバー部材と、
前記カバー部材の筒状部と前記スリーブとの間のクリアランスを塞ぐ複数段のオイルシールと、を備え、
前記筒状部の基端側に形成される前記シール水の排出口が閉塞される構成となっており、
前記軸封部に注入する前記シール水として、前記スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、かつ、前記湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液を使用することを特徴とする軸封方法。
【請求項5】
前記オイルシールは、前記筒状部の基端側に形成される前記シール水を注入する注入口の内側に設けられ、前記シール水の注入量を調整するランタンリングに対して前記筒状部の先端側の方が基端側よりも段数が多く設けられることを特徴とする請求項に記載の軸封方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー移送用ポンプの軸封部を軸封する軸封装置、及び当該ポンプの軸封部にシール水を注入する軸封方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラリー状の流体(以下、単にスラリーという。)は、湿式製錬プラント、紙パルププラント、廃棄物処理プラント等の各種プラントで中間品、又は製品として取り扱われ、移送時には、スラリー移送用ポンプが使用されるのが一般的である。また、配管の閉塞や処理能力の低下といった中間品の移送上の弊害、又は固形分濃度の変動に起因する製品品質上の弊害を避けるために、その固形分濃度(以下、スラリー濃度ということがある。)は、所定の範囲に管理されている場合が多い。
【0003】
かかるスラリーを移送するスラリー移送用ポンプの軸封装置では、ケーシング内でインペラによって昇圧された被送流体が軸の周囲から外部に漏れるのを防止するため、軸封部にグランドパッキン、メカニカルシール、オイルシール等のシール部材が使用されている。メカニカルシールやオイルシールのようなシール水によるシール方式が採用されたスラリー移送用ポンプの場合、固形物粒子を含む磨耗性の被送流体による軸封部の摩耗の影響を避けるために、シール水として別系統の清水の注入が必要となる。また、シール部材には、メカニカルシール又はオイルシールが使用されるが、メカニカルシールは、シール性が良いものの、高価であり、メカニカルシールの摺動面の精度が非常に高いため、現地での交換作業に熟練を要するという問題があるため、オイルシールが一般的に使用されている。
【0004】
一方、プロセス全体の水の出入りバランス(以下、単に水バランスという。)の維持及び調整が必要な湿式製錬プロセスにおいては、スラリー移送用ポンプにシール水を注入する場合、前述したスラリー濃度に留意するだけでなく、水バランスを崩すことなくシール水を注入する必要がある。すなわち、水バランスが崩れると、例えば、貯留槽のサイズ等の湿式製錬プロセス全体の規模に影響を与えるだけでなく、スラリーの液体成分に含まれる有価金属の濃度も変化するため、プラントとして要求された生産量、品質、生産コスト等を維持することができなくなる虞があるため、水バランスを維持することは重要である。
【0005】
従来、シール水としては、主として工業用水、地下水、水道水等の清水が用いられているが、貴重な清水を使用しているため、水資源の浪費につながるという問題がある。また、軸封部が破損し被送流体がシール水側へ混入する可能性があるため、環境への悪影響を回避するために、使用後のシール水に排水処理が必要となり、ランニングコストが嵩むという欠点がある。また、オイルシールは、シール水が被送流体側へ流入することで軸封部をシールする構造であるため、プロセス内へ清水が流入することによって水バランスが悪化し、スラリー液体成分中の有価物濃度が低下するという問題点がある。また、シール水の使用量を低減するために、シール水の出口バルブを閉止する方法があるが、シール水の水圧が高くなり過ぎるので、シール部材の寿命が短くなり、本来のシール機能が損なわれ、シール水が外部へ漏洩する可能性が増大するという問題点がある。
【0006】
水資源や排水処理問題等の対策として、例えば、特許文献1には、グランドパッキンで構成される軸封部に清水でなく抄紙工程のクリヤー白水を供給し、出口バルブを介してサクションポンプ吸入側へ当該クリヤー白水を循環せしめることを特徴とする技術が開示されている。また、特許文献2には、被送流体の漏洩を防止するために、ストップリングとオイルシールを組み合わせて使用する軸封装置に関する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、水バランスを維持するために、スラリー移送用ポンプの出口スラリーの一部をろ過し、ろ過後の液体をシール水として使用し、使用したシール水をポンプの吸込み側に戻し入れることを特徴とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−164192号公報
【特許文献2】特開2003−222245号公報
【特許文献3】特開2015−129444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、被送流体が非スラリー状流体であり、また、水バランス維持及びスラリー液体成分中の有価物濃度の維持に係る技術や、クリヤー白水の使用量削減という課題、クリヤー白水の軸封部から外部への漏洩の問題や解決策については、開示されていない。一方、特許文献2では、被送流体のシール水への漏洩抑制に係る技術に関して記載されているものの、シール水の外部への漏洩抑制に係る技術に関して記載されてなく、また、多段のストップリングと加圧流体を供給するランタンリングとオイルシールを設けた複雑な構造となるので、装置の維持管理に手間が掛かることが課題となる。
【0009】
さらに、特許文献3では、ろ過装置に目詰まり等の不具合が生じ、軸封部にスラリー流体が流入し破損に至る虞があるという問題点があり、移送対象液の軸封部から外部への漏洩の問題や解決策については開示されていない。このように、スラリー移送用ポンプの軸封部にシール水を注入する際に、水バランスを維持するために、新たな清水を使用しないで、スラリー液体成分中の有価物濃度を維持した上で、シール水の外部への漏洩を抑制することが望まれる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スラリー移送用ポンプの軸封部にシール水を注入する際に、余分な排水処理を必要とせずに、スラリー液体成分中の有価物濃度を維持した上で、シール水の外部への漏洩を抑制することの可能な、新規かつ改良された軸封装置、及び軸封方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、湿式製錬プロセスでスラリーを送液するポンプの軸封部にシール水を注入して該軸封部を軸封する軸封装置であって、前記ポンプのシャフトに巻着されるスリーブと、前記シャフトに軸支されるエキスペラ及び前記スリーブの一部を覆うカバー部材と、前記カバー部材の筒状部と前記スリーブとの間のクリアランスを塞ぐ複数段のオイルシールと、前記筒状部の基端側に形成される前記シール水を注入する注入口の内側に設けられ、前記シール水の注入量を調整するランタンリングと、を備え、前記筒状部の基端側に形成される前記シール水の排出口が閉塞される構成となっており、前記シール水として、前記スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、かつ、前記湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液が使用されることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様によれば、湿式製錬プロセス内で生じる水溶液を軸封装置のシール水として利用するので、プロセス全体の水バランスを維持した上で、被送流体の成分の変動を抑制することができる。また、このようにすれば、軸封部内でのシール水が高圧に保たれるので、より確実なシール効果が得られ、ポンプによる被送流体であるスラリーの軸封部側への逆流による漏れを抑制できる。
【0013】
このとき、本発明の一態様では、前記オイルシールは、前記ランタンリングに対して前記筒状部の先端側の方が基端側よりも段数が多く設けられることとしてもよい。
【0014】
このようにすれば、オイルシールの押圧力が強い筒状部の先端側の方のオイルシールの段数を基端側より多くすることによって、シール水として用いた非スラリー性の水溶液が被送流体であるスラリー側に漏れ込むことがあっても、外部に漏洩し難い構造とすることができる。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記スラリーは、ニッケル・コバルト混合硫化物を含有するスラリーであり、かつ、前記シール水は、ニッケル電解廃液であることとしてもよい。
【0018】
このようにすれば、湿式製錬プロセス内で生じるニッケル電解廃液を軸封装置のシール水として利用するので、プロセス全体の水バランスを維持した上で、被送流体となるスラリーの成分の変動を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の他の態様は、湿式製錬プロセスでスラリーを送液するポンプの軸封部にシール水を注入して該軸封部を軸封する軸封方法であって、前記軸封部は、前記ポンプのシャフトに巻着されるスリーブと、前記シャフトに軸支されるエキスペラ及び前記スリーブの一部を覆うカバー部材と、前記カバー部材の筒状部と前記スリーブとの間のクリアランスを塞ぐ複数段のオイルシールと、を備え、前記筒状部の基端側に形成される前記シール水の排出口が閉塞される構成となっており、前記軸封部に注入する前記シール水として、前記スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、かつ、前記湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液を使用することを特徴とする。
【0020】
本発明の他の態様によれば、湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液を軸封装置のシール水として利用するので、プロセス全体の水バランスを維持した上で、被送流体の成分の変動を抑制することができる。また、このようにすれば、軸封部内でのシール水が高圧に保たれるので、より確実なシール効果が得られ、ポンプによる被送流体であるスラリーの軸封部側への逆流による漏れを抑制できる。
【0021】
このとき、本発明の他の態様では、前記オイルシールは、前記筒状部の基端側に形成される前記シール水を注入する注入口の内側に設けられ、前記シール水の注入量を調整するランタンリングに対して前記筒状部の先端側の方が基端側よりも段数が多く設けられることとしてもよい。
【0022】
このようにすれば、オイルシールの押圧力が強い筒状部の先端側の方のオイルシールの段数を基端側より多くすることによって、シール水として用いた非スラリー性の水溶液が被送流体であるスラリー側に漏れ込むことがあっても、外部に漏洩し難い構造とすることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、スラリー移送用ポンプの軸封部にシール水を注入する際に、新たな水を使用しないことから排水処理を必要としない上で、スラリー液体成分中の有価物濃度を維持しつつ、シール水の外部への漏洩を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る軸封装置の概略構成を説明する断面図である。
図2】比較例となる従来の軸封装置の概略構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0028】
まず、本発明の一実施形態に係る軸封装置及び当該軸封装置を用いた軸封方法について、図面を使用しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る軸封装置の概略構成を説明する断面図である。
【0029】
本発明の一実施形態に係る軸封装置100は、主に湿式製錬プロセスでスラリー移送用の遠心式ポンプに適用され、被送流体となるスラリーを送液する際に、高圧になったスラリーの逆流による外部への漏洩を抑制するために、ポンプの軸封部102にシール水を注入して当該軸封部102を軸封する機能を有する。
【0030】
具体的には、軸封装置100は、遠心式ポンプのインペラの裏側に取り付けたエキスペラの回転による遠心力によって、スラリーをケーシング内に押し戻す力を作用させて、ポンプ運転中にスラリーが軸封部102に浸入することを抑制するシール機構となっている。そして、本実施形態の軸封装置100は、ポンプのインペラ(不図示)とエキスペラ108が軸支されるシャフト104に巻着されたスリーブ106とカバー部材110の筒状部110aとの間に有するクリアランスに、封止手段となるオイルシール112を介在させて構成される軸封部102に対して、シール水を注入して封止することによって、高圧になった被送流体であるスラリーの逆流による外部への漏洩を抑制している。
【0031】
本実施形態では、軸封装置100は、図1に示すように、スリーブ106と、カバー部材110と、オイルシール112と、ランタンリング114とを備える。スリーブ106は、略円筒形状の部材であり、シャフト104に巻着される。カバー部材110は、シャフト104に軸支されるエキスペラ108及びスリーブ106の一部を覆うポンプケーシングであり、シャフト104に巻着されたスリーブ106を覆う筒状部110aと、エキスペラ108を覆うフランジ部110bとを備える。
【0032】
オイルシール112は、断面が略C形状の環状の弾性部材から構成され、カバー部材110の筒状部110aの内周面側に複数段取り付けられ、その先端側がシャフト104に巻着されたスリーブ106の外周面に摺動可能に接することで、スリーブ106を弾性的に締め付けている。このようにして、オイルシール112は、筒状部110aとスリーブ106との間のクリアランスを塞いている。
【0033】
ランタンリング114は、外周に不図示のリング状の溝を持ち、内周壁に不図示の複数の吹出孔が略均等な間隔で設けられた金属環であり、筒状部110aの基端側に形成されるシール水を注入する注入口110cの内側に設けられて、軸封部102の全周に亘って均等にシール水を供給できるようになっている。このため、注入口110cから注入されたシール水は、ランタンリング114を介して、その注入量が調整される。このように、注入口110cからランタンリング114を介して軸封部102に注入されたシール水によって、オイルシール112が加圧されて、スリーブ106と筒状部110aとの間がオイルシール112により液密にシールされるようになる。
【0034】
本実施形態の軸封装置100及び軸封方法では、軸封部102に注入するシール水として、スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、かつ、湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液が使用されることを特徴とする。
【0035】
本発明者らは、前述した本発明の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、シール水として、スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液を使用し、かつ、スラリー移送用ポンプの軸封部の構造を改善することによって、当該軸封部にシール水を注入する際に、新たな水を使用せず、すなわち、余分な排水処理を必要とせずに、スラリー液体成分中の有価物濃度を維持した上で、シール水の外部への漏洩を抑制できることを見出した。そして、これらの知見に基づいて、更に研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0036】
このため、本実施形態では、湿式製錬プロセスで生じるスラリーがニッケル・コバルト混合硫化物を含有するスラリーであることから、シール水として、当該スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液であるニッケル電解廃液を使用する。
【0037】
また、本実施形態では、オイルシール112をランタンリング114に対して筒状部110aの先端側の方が基端側よりも段数を多く設けている。すなわち、本実施形態では、図1に示すように、被送流体側のオイルシール112の設置数を1つに減らし、大気側のオイルシール112を2つと多段になるようにしている。このように、オイルシール112の押圧力が強い筒状部110aの先端側の方のオイルシール112の段数を基端側より多くすることによって、シール水として用いた非スラリー性の水溶液が被送流体であるスラリー側に漏れ込むことがあっても、外部に漏洩し難い構造とすることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、ランタンリング114より大気側のオイルシール112を2つ、被送流体側のオイルシール112を1つとしているが、オイルシール112の設置数は、かかる個数に限定されない。すなわち、大気側の方のオイルシール112を被送流体側のオイルシール112より多段に設けられていればよいので、オイルシール112の段数は、大気側で2つ、被送流体側で1つの場合に限定されない。
【0039】
さらに、本実施形態では、筒状部110aの基端側に形成されるシール水の排出口110dが閉塞される構成となっている。具体的には、軸封装置100の筒状部110aの基端側に設けられているシール水の排出口110dが閉止プラグ116によって閉塞されている。このため、軸封部102に注入されたシール水が高圧に保たれるので、より確実なシール効果が得られ、ポンプによる被送流体であるスラリーの軸封部側への逆流による漏れを抑制できる。また、シール水量は、スラリー側への漏れ込み量のみになるので、シール水の使用量が極僅かになる。なお、本実施形態では、筒状部110aの基端側に形成されるシール水の排出口110dを閉止プラグ116で閉塞しているが、排出口110dを他の態様で閉塞してもよく、また、筒状部110aに排出口110dを最初から設けない構成としてもよい。
【0040】
このように、本発明の一実施形態に係る軸封装置100及び軸封方法では、オイルシール112からのシール水のプロセス内への流入に対して、湿式製錬プロセス内で生じる水溶液をシール水として利用するので、プロセス全体の水バランスが維持されるようになる。また、シール水がスラリー液体中の有価物と同様の元素を含むため、オイルシール112から微量のシール水が被送流体側に流入して軸封部102をシールする際に、ポンプの被送流体となるスラリーの成分の変動を抑制することができる。
【0041】
特に、湿式製錬プロセスでは、有価物を含んだ固体原料から有価物を水相へ浸出させ、電解採取法等にて純金属を取り出すプロセスであるため、例えば、電解採取後の非スラリー性水溶液(以下、電解廃液という。)が多量に発生する。電解廃液は、浸出工程等の上工程に繰返され、プロセス水として再利用される。このため、本実施形態では、電解廃液をシール水として利用することで、スラリー液体成分中の有価物と同様の元素を含有する水溶液を新たに用意する必要がなく、低コストでプロセス全体の水バランスを維持した上で、被送流体の成分の変動を抑制できるようになる。
【0042】
また、ニッケル・コバルトの湿式製錬プロセスでは、例えば、ニッケル・コバルト混合硫化物(Mixed Sulfide:以下、MSという。)が粉砕されてスラリーにされ、塩素浸出を利用したニッケル・コバルト湿式製錬の原料として使用されている。その際に、MS中のニッケルやコバルトは、塩素浸出によって水相に溶解した後に、不純物としての他金属の除去工程を経て電解採取法にて純金属として製品化される。その際に、本実施形態では、電解採取法にて大量に生じる電解廃液をシール水として用いることによって、スラリー液体成分中の有価物と同様の元素を含有する水溶液を新たに用意する必要がなく、低コストでシール水を供給することが可能となる。
【0043】
特に、ニッケル・コバルトの湿式製錬プロセスにおける塩素浸出工程においては、複数段の塩素浸出槽で徐々に浸出を進行させながら、ニッケル・コバルトの回収率を高める操作が行われるため、各段の塩素浸出槽で得られた浸出後のスラリーにおいては、良好な移送性、スラリー液体成分中のニッケル・コバルト濃度の維持が大変に重要となることから、本実施形態における軸封装置100及び軸封方法を好適に適用できる。
【0044】
また、前述したように、本実施形態では、シール水としてスラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液を利用するため、シール水の被送流体への流入の影響が少ないものとなる。
【0045】
しかしながら、本実施形態では、シール水の排出口110dを閉止しているため、軸封部102内のシール水が高圧となるので、オイルシール112の断面が略C形状であることから、ランタンリング114より大気側のオイルシール112は、高圧となったシール水の押圧力を受けて、摩耗し易くなる。このため、シール水が外部へ漏洩した場合、外部環境へ悪影響が生ずる虞がある。これに対して、ランタンリング114より被送溶液側に設けられるオイルシール112は、その先端部から高圧となったシール水が被送流体側に抜けるので、大気側に設けられるオイルシール112と比べて、オイルシール112の押圧力がエキスペラ108側のポンプ内圧となることから、オイルシール112とスリーブ106との接触による摩擦が弱いため、摩耗し難い。
【0046】
このため、本実施形態では、図1に示すように、被送溶液側のオイルシール112の設置数を減らし、大気側のオイルシール112を多段に増やすことによって、効果的にオイルシール112を利用して、軸封部の長寿命化を図っている。すなわち、本実施形態では、被送溶液側よりも大気側のオイルシール112の設置数を増やすことによって、シール水として用いた非スラリー性の水溶液が被送流体であるスラリー側に漏れ込むことがあっても、外部に漏洩し難い構造としている。
【0047】
また、本実施形態では、シール水の排出口110dを閉止するため、軸封部102内のシール水が高圧に保たれるので、スラリーのシール水側への漏れ込みを抑制できる。また、シール水として使用する電解廃液量がスラリー側への漏れ込み量のみになるので、シール水の使用量が極僅かとなる。さらに、スラリー側へ漏れ込んだシール水も電解廃液であり、スラリー液体成分中の有価物と同様の元素を含有しているので、スラリーの濃度の低下、すなわち、スラリーの生産性の低下を抑制できる。また、大気側のオイルシール112を多段としているため、軸封部102から外部への電解廃液の漏れ出しも生じ難い。
【0048】
このように、本実施形態では、シール水として、スラリーに含まれる有価物と同様の元素を含有し、湿式製錬プロセス内で生じる固形物を含まない非スラリー性の水溶液を使用しているので、軸封部102にシール水を注入する際に、従来のように新たな清水を使用しないので、余分な排水処理を必要とせずに、スラリー液体成分中の有価物濃度を維持できる。また、スラリー移送用ポンプの軸封部102の構造を改善することによって、スラリー液体成分中の有価物濃度を維持した上で、シール水の外部への漏洩を抑制できるので、極めて大きな工業的価値を有する。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の一実施形態に係る軸封装置及び軸封方法について、実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、当該実施例に限定されるものではない。
【0050】
まず、本発明の一実施形態に係る軸封装置及び軸封方法の実施例と比較例の共通の条件に関しては、以下の内容とした。
原料スラリー:MSスラリー
スラリー濃度:0.35kg/L
液比重 :1.2kg/L
pH :2
液温 :55〜60℃
流量 :約800L/min
【0051】
(実施例1)
上記原料スラリーをスラリー移送ポンプで移送する際に、図1に示す本発明の一実施形態に係る軸封装置100及び軸封方法を適用した。このときのシール水(電解廃液)の原料スラリーへの流入量は、3.5L/minであった。その後、操業を継続したところ、シール水の大気側への漏洩は、約1400時間の操業中に1回であった。
【0052】
(比較例1)
上記原料スラリーを、スラリー移送ポンプで移送する際に、本発明の一実施形態に係る軸封装置及び軸封方法を適用せず、図2に示すような従来の軸封装置1を用いた。具体的には、比較例1で使用する軸封装置1は、カバー部材10の筒状部10aとシャフト4に巻着されたスリーブ6との間に介在させるオイルシール12をランタンリング14より被送溶液側で2枚、大気側で1枚とし、注入口10cから注入するシール水として清水を用いた。このときのシール水(清水)の原料スラリーへの流入量は、2L/minであり、シール水の排出口10dから排出されるシール水は、18L/minであった。その後、操業を継続したところ、シール水の大気側への漏洩は、約700時間の操業中に1回であった。
【0053】
このことから、本発明の一実施形態に係る軸封装置100及び軸封方法を適用した実施例1では、比較例1と比べて、シール水の外部への漏洩頻度が大幅に減少させられることが分かった。また、比較例1の結果より、シール水の原料スラリーへの流入量が2L/minであり、その分、水バランスが維持されずに崩れていることが分かった。さらに、シール水の排出口10dから排出されるシール水は、18L/minであり、そのシール水については、排水処理が必要であった。
【0054】
すなわち、シール水として新たな清水を使用しないで、電解廃液を使用して、かつ、スラリー移送用ポンプの軸封部102の構造を改善することによって、プロセス全体の水バランスを維持した上でシール水の外部への漏洩を大幅に減少させられることが分かった。また、本発明の一実施形態に係る軸封装置及び軸封方法を適用した実施例1では、新たな水を使用しないことから、排水処理を必要としないので、水資源の浪費を抑制でき、かつ、環境への負荷を低減できることが分かった。
【0055】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0056】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、軸封装置の構成、動作も本発明の一実施形態及び実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0057】
100 軸封装置、102 軸封部、104 シャフト、106 スリーブ、108 エキスペラ、110 カバー部材、110a 筒状部、110b フランジ部、110c 注入口、110d 排出口、112 オイルシール、114 ランタンリング、116 閉止プラグ
図1
図2