(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明は、エチレン由来の構造単位の含有量が20〜60モル%、ケン化度が98モル%以上であり、アニオン性基を有することを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系共重合体であり、かかる樹脂を含むフィルムおよび多層構造体を提供するものである。以下、かかる共重合体について説明する。
【0012】
<アニオン性基含有エチレン−ビニルアルコール系共重合体の説明>
本発明のアニオン性基含有EVOHは、通常、(α)エチレンおよびビニルエステル系モノマーおよびアニオン性基含有モノマーを共重合させた後、これをケン化する方法、または(β)一般の未変性EVOHをアニオン性基含有モノマーを用いてグラフト反応等の後反応をする方法により得られる樹脂である。分子中にエチレン由来の構造単位、アニオン性基含有モノマー由来の構造単位と、ビニルアルコール構造単位と若干量のビニルエステル構造単位からなるものである。
本発明の効果がより効果的に得られる点で、(α)の共重合体が好ましく、すなわちエチレン−ビニルアルコール−アニオン性基含有モノマー共重合体であることが好ましい。
【0013】
かかるEVOHは、アニオン性基を有することで熱分解性が向上し、加熱時に粘度低下するものと推測される。一方でEVOHと水酸基が相互作用し、架橋構造様の結合を形成することで、熱分解性が高まりすぎず、適度な成形性を有するものと推測される。
【0014】
かかるアニオン性基とは、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等、イオン化した際にアニオンとなる官能基を意味する。得られるフィルムのガスバリア性の点で、アニオン性基は可能な限り原子数の少ないもの、すなわち立体的に小さいという点でカルボキシル基が好ましい。
【0015】
上記アニオン性基含有EVOHにおけるエチレン由来の構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で20〜60モル%であり、好ましくは22〜50モル%、特に好ましくは24〜35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿度下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0016】
上記アニオン性基含有EVOHのケン化度JIS K6726(ただし水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)は通常98モル%以上であり、好ましくは98.5〜100モル%、特に好ましくは98.5〜100モル%である。ケン化度が高すぎる場合、溶融成形性が低下するという傾向があり、低すぎる場合、フィルムや多層構造体のガスバリア性が低下する傾向がある。
【0017】
上記アニオン性基含有EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2,160g)は、通常0.5〜100g/10分であり、好ましくは1〜70g/10分、特に好ましくは3〜50g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0018】
上記アニオン性基含有EVOHにおける、アニオン性基含有量は、NMRもしくは灰分中の金属量を測定することで決定することができる。これらの方法で測定した値でエチレン−ビニルアルコール系共重合体の全モノマーユニットに対して通常0.1〜20モル%、好ましくは0.3〜10モル%であり、特に好ましくは0.5〜5%である。かかる含有量が多すぎる場合、得られるフィルムや多層構造体のガスバリア性や耐水性が低下する傾向があり、小さすぎる場合、金属や接着性樹脂層との接着性が低下し、また本発明の効果が低下する傾向がある。
【0019】
本発明に用いるアニオン性基含有EVOHを各種用途に用いるときには、求められる性質に合わせて、エチレン由来の構造単位の含有量、ケン化度、MFR、アニオン性基含有量、また、塩基によりカルボキシル基が中和されたものの中和度等、条件が異なるものを混合して用いても良い。
【0020】
本発明のアニオン性基含有EVOHは、1価金属塩を形成してなるアニオン性基を有することが好ましい。すなわち、アニオン性基が1価金属化合物との塩を形成するか、それに準ずる相互作用を形成しているものが好ましい。かかる1価金属としては、1価アニオン性基含有EVOHの生産性の点で好ましくはアルカリ金属であり、特に好ましくはナトリウムである。かかる1価金属の含有量は、例えば蛍光X線分析(XRF)等にて測定することができる。
【0021】
上記1価金属化合物は、通常は前記1価アニオン性基含有EVOH中で、1価アニオン性基と塩を形成するか、それに準ずる相互作用を形成した状態で存在しているものと推測されるが、その存在状態は特に限定されない。例えば、1価金属の酸化物、水酸化物や、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩等、ホウ酸塩等の無機塩、炭素数2〜11の1価カルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩など)、炭素数2〜11の2価カルボン酸塩(シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩など)、炭素数12以上の1価カルボン酸塩(ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩)、クエン酸などの多価カルボン酸塩等の有機酸塩等の塩として存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
かかる1価金属成分の含有量は、例えば蛍光X線分析(XRF)等にて測定することができる。
【0022】
上記アニオン性基含有EVOHが、1価金属塩を形成してなるアニオン性基を含む場合、その含有量は金属換算の重量基準にて上記EVOHの通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%である。かかる含有量が少なすぎる場合、本発明の効果が低下する傾向があり、多すぎる場合、例えば乾燥工程等で加熱された際に分解されやすい傾向がある。
【0023】
<その他成分>
本発明のEVOHには、本発明の効果を阻害しない範囲において、あらかじめ一般にEVOHに配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤などが含有されていてもよい。
【0024】
上記熱安定剤としては、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させる目的で、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ土類金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、周期律表第4周期dブロックに属する金属塩(亜鉛、銅等)などの塩;または、硫酸、亜硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのアルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)、長周期周期律表第4周期dブロックに属する金属塩(亜鉛、銅等)などの塩等の添加剤を添加してもよい。これらのうち、特に、酢酸、リン酸、ホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
【0025】
酢酸を添加する場合、その添加量は、EVOH100重量部に対して通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.01〜0.1重量部である。酢酸の添加量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると厚みや外観が均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0026】
リン酸を添加する場合、その添加量は、EVOH100重量部に対して(硫酸と硝酸で加熱分解してリン酸根を原子吸光度法にて分析)通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部である。リン酸の添加量が少なすぎると、リン酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると厚みや外観が均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0027】
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、EVOH100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると厚みや外観が均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0028】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、EVOH100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部である。かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると得られるフィルムが着色したり臭気が発生したりする傾向がある。尚、EVOHに2種以上の塩を添加する場合は、その総量が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0029】
<製造方法>
本発明のアニオン性基含有EVOHの製造方法について述べる。
本発明の製造方法では、エチレンおよびビニルエステル系モノマーおよびアニオン性基含有モノマーを共重合し、アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体を得る工程、及び前記アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体を塩基性1価金属化合物によりケン化し、1価金属塩を形成してなるアニオン性基含有エチレン−ビニルアルコール系共重合体を得る工程を有する。
【0030】
「エチレンおよびビニルエステル系モノマーおよびアニオン性基含有モノマーを共重合し、アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体を得る工程」について説明する。
上記エチレンは、通常EVOHに用いられるエチレンガスを利用することができる。
上記アニオン性基含有モノマーとは、例えば、カルボキシル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、ホスホン酸基含有モノマーが挙げられる。
【0031】
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー、およびこれらのカルボキシル基が、アルカリ化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等の塩基によって、全体的あるいは部分的に中和されたもの、あるいはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、フマル酸モノメチル、マレイン酸モノメチル等の上記カルボキシル基含有モノマーのモノアルキルエステル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル等、上記カルボキシル基含有モノマーのジアルキルエステル等の、カルボキシル基含有モノマーのエステルが挙げられる。生産性の観点から、カルボキシル基含有モノマーのモノアルキルエステルが好ましい。
これらのカルボキシル基含有モノマーのエステルにおけるアルコキシ基は、経済性と実用性の点から通常炭素数1〜20のアルコキシ基であることが好ましく、さらには炭素数1〜10が好ましく、特には炭素数1〜4が好ましい。
【0032】
スルホン酸基含有モノマーとしては、具体的にはビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、4−スチレンスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、アクリルアミドアルカンスルホン酸類あるいはその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の2−メタクリルアミドアルカンスルホン酸類あるいはその塩、及びこれらのエステル化物、これらのスルホン酸基がアルカリ化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等の塩基によって、全体的あるいは部分的に中和されたもの、等が挙げられる。
【0033】
ホスホン酸基含有モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸ジメチルエステル、ビニルホスホン酸ビス(2−クロロエチル)エステル、ビニリデンジホスホン酸、またはビニリデンジホスホン酸テトライソプロピルエステル及びこれらのエステル化物、これらのホスホン酸基がアルカリ化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等の塩基によって、全体的あるいは部分的に中和されたもの、等が挙げられる。
【0034】
上記アニオン性基含有モノマーとして、カルボキシル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、ホスホン酸基含有モノマーをそれぞれ単独で使用することが可能であり、複数種を同時に用いてもよい。
【0035】
本発明に用いられるビニルエステル系モノマーとしては、特に制限されることなく、経済的な点から、通常炭素数3〜15、さらには3〜10が好ましく、特には4〜6が好ましく、殊には炭素数4の酢酸ビニルが好ましく用いられる。具体的にはギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪族炭化水素ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族炭化水素ビニルエステル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、これらは単独で、もしくは複数種を同時に用いてもよい。
【0036】
本発明で用いるアニオン性基含有EVOHは、上記成分以外の共重合可能な不飽和モノマーを、本発明の趣旨を阻害しない範囲、例えばビニルエステル系モノマーに対して通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下の割合で共重合していてもよく、具体的には例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類や、2−プロペン−1−オール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類や、そのエステル化物である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン(特に、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等)、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等、アシル化物等の誘導体、2−メチレンプロパン−1,3−ジオール、3−メチレンペンタン−1,5−ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチリルオキシ−2−メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類の炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。 さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」を施すことも可能である。
特に側鎖に1級水酸基を有するヒドロキシ基含有EVOHは、成形性や延伸性が良好になる点で好ましい。
【0037】
エチレンおよびビニルエステル系モノマーと、アニオン性基含有モノマーとを共重合するに当たっては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、または乳化重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0038】
重合方式は連続式、回分式等公知の方法が採用可能である。仕込み方法としては、例えば、[1]重合容器にアニオン性基含有モノマー及びビニルエステル系モノマー、重合触媒及び溶媒を仕込み、エチレンを加圧し、これを昇温させて重合を行う方法、[2]重合容器に各モノマー及び溶媒を仕込み、エチレンを加圧し、重合温度に昇温した後、これに重合触媒を供給し重合を行う方法、[3]重合容器に重合触媒及び溶媒を仕込み、これに重合温度に昇温し、各モノマーを別々または一緒に滴下、加圧等して供給し重合を行う方法、[4]重合容器に溶媒と重合触媒および一方のモノマーを仕込み、エチレンを加圧し、重合温度に昇温し、これに他方のモノマーを滴下供給して重合する方法、又は、この際、溶媒の一部及び/又は重合触媒を他方のモノマーと一緒に供給する方法などが挙げられ、上記手法を組み合わせてもよい。エチレン圧は、通常20〜80kg/cm
2程度である。
中でも、[4]重合容器に溶媒と重合触媒および一方のモノマーを仕込み、エチレンを加圧し、重合温度に昇温し、これに他方のモノマーを滴下供給して重合する方法、が好ましく、特には、重合容器に溶媒とビニルエステル系モノマーを仕込み、エチレンを加圧し、重合温度に昇温し、これに重合触媒およびアニオン性基含有モノマーをそれぞれ滴下供給して重合する方法が好ましい。
【0039】
重合で用いられる溶媒としては、上記溶媒としては、アルコール類が好ましいが、その他エチレン、酢酸ビニルおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を溶解し得る有機溶剤(ジメチルスルホキシド等)を用いることができる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜10の脂肪族アルコールを用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらのなかでも特にメタノールが好ましい。
【0040】
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)が通常0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0041】
溶液重合に使用する触媒としては、ラジカル開始剤であれば特に制限なく用いられるが、好ましくは2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4,4−トリメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルイソブチラート)等のアゾ化合物;t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキノエート等のアルキルパーエステル類;ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシ−ジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシ−ジカーボネート、ビス(2−エチルヘキシル)ジ−sec−ブチルパーオキシ−ジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシ−ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;アセチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジデカノイルパーオキシド、ジオクタノイルパーオキシド、ジプロピルパーオキシド等のパーオキシド類等のアゾニトリル系開始剤および有機過酸化物系開始剤等の開始剤を用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
なかでも、重合触媒の半減期が1時間になる温度が、通常10〜90℃、好ましくは30〜80℃、特に好ましくは40〜70℃であるものを用いることが好ましい。
かかる触媒の半減期が1分になる温度は通常80〜130℃であり、半減期が10時間になる温度通常30〜65℃である。また、活性化エネルギーは通常25000〜32000kcalである。かかる半減期および半減期温度は、還元剤としてヨウ化物を用いるヨード滴定法で測定した値である。
【0042】
重合温度は、通常20〜90℃、好ましくは40℃〜70℃である。重合時間は、通常2〜15時間、好ましくは3〜11時間である。連続式重合の場合には重合容器内の平均滞留時間が同程度の時間であることが好ましい。
【0043】
溶液重合の場合、所定の重合率に達したら、重合を停止させる。重合率は、仕込みビニルエステルモノマーに対して、通常10〜90モル%、好ましくは30〜80モル%である。また、重合後の溶液中の樹脂分は、通常5〜85重量%、好ましくは20〜70重量%である。
【0044】
重合の停止は、通常、重合禁止剤を添加することにより行われる。重合禁止剤としては、N,N−ジアルキルヒドロキシルアミン、スチレン誘導体、ハイドロキノン誘導体、キノン誘導体、ピペリジン誘導体、共役ポリエン化合物等を用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらのうち、共役ポリエン化合物が好ましく用いられる。
【0045】
重合禁止剤として用いられる共役ポリエンとしては、例えば、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン等があげられる。なお、1,3−ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。かかるポリエン化合物は2種類以上のものを併用することもできる。これらのうち、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、およびソルビン酸塩は、カルボキシル基を有しており、水との親和性が高いことから特に好ましい。
【0046】
共役ポリエン化合物は、重合に用いた溶媒等に溶解させて共役ポリエン化合物溶液として添加することが、均一拡散の観点から好ましい。
重合禁止剤として共役ポリエンを用いる場合、その添加量は、ビニルエステルモノマーの仕込み量100重量部に対して、通常0.0001〜3重量部、好ましくは0.0005〜1重量部、さらに好ましくは0.001〜0.5重量部である。
【0047】
重合終了後、未反応のエチレンガス、未反応のビニルエステルモノマーおよび未反応のアニオン性基含有モノマーを除去し、アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系樹脂が得られる。
上記未反応のエチレンガスは、例えば、蒸発除去等によって除去することができる。また、アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル共重合体溶液から未反応のビニルエステルモノマーおよびアニオン性基含有モノマーを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から該共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルモノマーおよびアニオン性基含有モノマーとの混合蒸気を流出させ、塔底部よりアニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体溶液を取り出す方法等を採用することができる。ただし、アニオン性基含有モノマーの中にはビニルエステルモノマーやメタノールよりも沸点が高いものが多く、蒸発除去に不適なものがある。そのため、アニオン性基含有モノマーは重合反応で完全に消費されていることが好ましい。
【0048】
次に、「前記アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体を塩基性1価金属化合物によりケン化し、1価金属塩を形成してなるアニオン性基含有エチレン−ビニルアルコール系共重合体を得る工程」について説明する。
【0049】
アニオン性基を有するエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化は、公知の方法により行うことができる。通常、上記で得られた共重合体溶液を用い、ケン化に使用される触媒として塩基性1価金属化合物を用いて行われる。かかる塩基性1価金属化合物としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属アルコキシド類が挙げられ、好適にはアルカリ金属の水酸化物が用いられる。また、溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜4のアルコールが挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。
上記アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体溶液に、アルカリ触媒を添加することによりケン化反応が開始する。ケン化の方式としては、連続式、回分式いずれも可能である。
【0050】
ケン化条件は、使用する触媒、アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体のエチレン含有率、所望のケン化度等により異なるが、例えば、回分式の場合の好適なケン化条件は次の通りである。
ケン化反応温度は通常30〜60℃、ケン化用触媒の使用量は通常0.001〜0.6当量(ビニルエステル基当り)が好ましい。ケン化時間は、ケン化条件、目的とするケン化度に依存するが、通常1〜6時間から選択される。
【0051】
このようにしてアニオン性基含有EVOH溶液が得られる。アニオン性基含有EVOH溶液中の1価アニオン性基含有EVOHの含有率は、10〜50重量%程度とすることが好ましい。このEVOH溶液の溶媒としては、通常、メタノール等のアルコールや水/アルコール混合溶媒が用いられ、好ましくは水/メタノール混合溶媒である。かかる水/メタノール混合溶媒の配合比率は、通常、9/1〜5/5、好ましくは8/2〜6/4である。
【0052】
ケン化工程を実施する方式としては、連続式でもバッチ式でも行うことができ、かかるバッチ式のケン化装置としては、ニーダー、リボンブレンダー等を挙げることができる。
【0053】
以上のようなアニオン性基含有EVOHは、アニオン性基モノマー由来の構造単位、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、必要に応じてケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位が通常含まれる。その他のコモノマーを共重合した場合、当該コモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれる。
【0054】
かかるケン化工程において、ケン化触媒である塩基性1価金属化合物により、アニオン性基含有EVOHが有するアニオン性基の一部もしくは全部が中和され、1価金属塩を形成してなるアニオン性基を有するEVOHが得られる。かかる1価金属塩を形成してなるアニオン性基を有するEVOHは、EVOHの一部もしくは全部のアニオン性基と1価金属とが塩を形成するか、それに準ずる相互作用を形成しているものと推測される。
【0055】
ケン化反応後に得られるアニオン性基含有EVOH溶液は、通常、公知の方法に従って凝固または析出して目的のEVOHを得る。
凝固または析出する方法としては、上記アニオン性基含有EVOH溶液を固浴中に押し出し、冷却固化により得られたEVOHストランドをカットするストランドカット方式、かかる溶液の樹脂分濃度を調整し、加熱して加熱溶融状態のEVOHをダイスから押し出し、溶融状態でカットした後、冷却固化してペレットを作製するホットカット方式、加熱溶融状態のEVOHをダイスから水等の貧溶媒中に押し出し、溶融状態でカットした後、冷却固化してペレットを作製する水中ホットカット方式等があげられる。以上により、1価アニオン性基含有EVOHのペレットが得られる。
【0056】
得られたEVOHペレットは、得られるフィルムおよび多層構造体の外観向上の点から残存する活性重合触媒、重合禁止剤、ケン化触媒の量が少ないことが好ましいので、洗浄することが好ましい。
洗浄に用いる溶媒は、水、およびメタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等の炭素数1〜5のアルコール、または酢酸メチル、酢酸エチル等の炭素数3〜10のエステルが挙げられ、洗浄方法としては特に限定せず、上記EVOHをかかる溶媒中に浸漬させたり、樹脂に溶媒を噴霧、かけ流しをしたりするなど、公知の方法を採用することができる
【0057】
(化学処理)
本発明のEVOHには、上記のとおり、熱安定性や接着性付与等の目的で上述した熱安定剤を配合してもよい。かかる熱安定剤の配合方法は、上記EVOHペレットを用い、溶融混合する方法、溶液混合する方法、熱安定剤の水溶液とEVOHペレットを接触処理する方法などが挙げられる。中でも、生産性の観点から熱安定剤の水溶液と接触処理する方法が好ましい。
かかる接触処理において上述した熱安定剤を均一かつ迅速に含有させるには、EVOHペレットの含水率が20〜80重量%であることが好ましい。そして、かかる熱安定剤の含有量の調整にあたっては、前述の熱安定剤水溶液の水溶液濃度、接触処理時間、接触処理温度、接触処理時の撹拌速度や処理されるEVOHペレットの含水率等を調節することでコントロールすることができる。
【0058】
「アニオン性基含有エチレン−ビニルアルコール系共重合体を乾燥する工程」について説明する。
かかる乾燥においては公知の方法が採用可能である。例えば、上記にて得られたEVOHペレットを、機械的にもしくは熱風により撹拌分散しながら乾燥する流動乾燥や、撹拌、分散等の動的な作用を与えることなく乾燥する静置乾燥、真空条件下で乾燥する真空乾燥があげられる。流動乾燥を行うための乾燥器としては、円筒・溝型撹拌乾燥器、円管乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、振動流動層乾燥器、円錐回転型乾燥器等があげられる。また、静置乾燥を行うための乾燥器として、材料静置型としては回分式箱型乾燥器があげられ、材料移送型としてはバンド乾燥器、トンネル乾燥器、竪型乾燥器等をあげることができる。中でも、EVOHの生産性の観点から好ましくは静置乾燥法が好ましい。
【0059】
乾燥温度としては通常15〜150℃、好ましくは30〜130℃、特に好ましくは30〜120℃である。かかる温度が高すぎる場合、EVOHの分解や架橋といった副反応が起きやすくなる傾向があり、低すぎる場合は乾燥効率が低下する傾向がある。また乾燥時間は通常1〜48時間であり、好ましくは3〜24時間である。かかる時間が長すぎる場合はEVOHの分解や架橋が起こりやすくなる傾向があり、短すぎる場合は乾燥効率が低下する傾向がある。
かかる乾燥の後に、アニオン性基含有EVOHペレットが得られる。
【0060】
本発明のアニオン性基含有EVOHは、1価金属塩を形成してなるアニオン性基を含んでいてもよく、すなわちアニオン性基の一部が1価金属塩を形成してなるEVOHや、アニオン性基の全てが1価金属塩を形成してなるEVOHを含む。アニオン性基含有EVOHのアニオン性基が1価金属と金属塩を形成してなるかどうかは、アニオン性基と1価金属のモル比より推測することが可能である。
【0061】
上記の様に得られた本発明のEVOHには、本発明の目的を阻害しない範囲において、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン等)等の滑剤、無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、可塑剤(例えばエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤[例えば還元鉄粉類、さらにこれに吸水性物質や電解質等を加えたもの、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等の無機系酸素吸収剤;アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩等、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス−サリチルアルデヒド−イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト−シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン−コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等の有機化合物系酸素吸収剤;窒素含有樹脂と遷移金属との配位結合体(例えばMXDナイロンとコバルトの組合せ)、三級水素含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリプロピレンとコバルトの組合せ)、炭素−炭素不飽和結合含有樹脂と遷移金属とのブレンド物(例えばポリブタジエンとコバルトの組合せ)、光酸化崩壊性樹脂(例えばポリケトン)、アントラキノン重合体(例えばポリビニルアントラキノン)等や、さらにこれらの配合物に光開始剤(ベンゾフェノン等)や過酸化物捕捉剤(市販の酸化防止剤等)や消臭剤(活性炭等)を添加したもの等の高分子系酸素吸収剤]、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填材(例えば無機フィラー等)、他樹脂(例えばポリオレフィン、ポリアミド等)等を配合してもよい。これらの化合物は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0062】
このようにして得られた本発明のEVOHは、ペレット、あるいは粉末や液体、繊維といった、さまざまな形態で、各種の成形物の成形材料として提供される。このとき、本発明のEVOHに、EVOH以外の公知の熱可塑性樹脂を配合することも可能である。
そして、かかる成形物としては、本発明のEVOHを含むフィルムおよび多層構造体として実用に供することが好ましい。
【0063】
<フィルムの製造方法>
上記のようにして得られた本発明のEVOHは、溶液成形法、溶融成形法等公知の手法を用いてフィルムを製造することができる。溶液成形法としては例えば、該EVOHの溶液(コート剤)を調製し、該溶液を基材に塗工(コート)して乾燥することにより基材上にコート膜を得る方法が挙げられる。かかるコート膜は基材から剥離し、単層にて各種用途に用いてもよいが、剥離することなく、コート膜を有する多層構造体として各種用途に用いてもよい。
【0064】
かかる溶液(コート剤)を調製するにあたっては、本発明のEVOHを良溶媒に溶解させればよい。かかる溶液(コート剤)中のEVOHの樹脂分固形分濃度は通常1〜60重量%、さらには3〜30重量%、特には5〜20重量%とすることが好ましく、かかる濃度が低すぎる場合は十分な厚みのコート膜が形成できないことがあり、また塗工性が低下することがあり、高すぎる場合は混合操作や保存安定性に問題が生ずる傾向がある。なお、かかる溶液(コート剤)の溶媒は、通常、水、および水と相溶する有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の炭素数1〜4の低級アルコール)を併用するものであり、好ましくは水/炭素数1〜4の低級アルコール(体積比)にて通常2/8〜8/2、好ましくは3/7〜7/3である。
【0065】
また、かかる溶液には、本発明の目的を阻害しない範囲において、水膨潤性の無機層状化合物(フェロケイ酸、クレー等)、架橋剤(ジアルデヒド化合物、ジアミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、ビスオキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、ジルコニウム塩、多価金属塩等)や溶剤(アセトン、トルエン、キシレン等)を添加してもよい。
【0066】
本発明の多層構造体は、EVOH以外の一般的な熱可塑性樹脂層を有することが好ましい。かかる熱可塑性樹脂とは、例えば直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどの広義のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、共重合ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリケトン等が挙げられる。これらの層は延伸されていても、未延伸でもよい。なお、フィルム表面にコロナ放電処理を施したり、アクリル樹脂やウレタン樹脂などを用いてプライマー処理を施したりしてもよい。
かかる基材の厚みとしては、通常0.1〜1000μmであり、好ましくは1〜500μmであり、特に好ましくは5〜100μmである。
【0067】
溶液成形法においては、上記熱可塑性樹脂からなるフィルムやシートを基材として用いることが可能である。上記溶液を基材に塗工するにあたっては、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーロールコーティング、リップコーティングなどの公知の方法を用いることがきる。得られた塗工層は常法にて乾燥する。かかる乾燥温度は通常70〜200℃、好ましくは、70℃〜180℃程度である。乾燥時間は通常30秒〜30分であり、好ましくは1〜15分である。
【0068】
溶融成形法の場合、公知の溶融成形法が採用可能であり、単軸押出機や二軸押出機を用いてキャスト成形、射出成形、チューブラー成形、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出成形等を採用可能である。
【0069】
本発明のEVOHを含むフィルムの厚みは通常0.1〜100μmであり、好ましくは1〜50μm、特に好ましくは2〜30μmとすることが好ましく、かかる厚みが薄すぎる場合はガスバリア性が低くなる傾向があり、厚すぎる場合には得られるフィルムの弾性が低下する傾向がある。
【0070】
なお、上記フィルムを必要に応じて熱処理することも可能である。熱処理温度としては通常120℃以上、さらには150〜200℃、特には180〜200℃が好ましい。このときの処理時間としては通常10〜360秒である。
【0071】
溶液成形法により得られたフィルムは、基材から剥離して単層フィルムとして各種用途に用いることが可能であるが、さらに他の基材を積層した多層構造体とすることも好ましい。
【0072】
<多層構造体>
以下、本発明のEVOHを含む層を有する多層構造体について説明する。
本発明の多層構造体を製造するにあたっては、本発明のEVOHを含む層の片面または両面に、他の基材(熱可塑性樹脂等)を積層する。積層方法としては、例えば、本発明のEVOHを用いて成形されたフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に本発明のEVOHを溶融押出ラミネートまたは溶液コートする方法、本発明のEVOHと他の基材とを共押出または共射出する方法、本発明のEVOHを用いてなるフィルム、シート等(層)と他の基材(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法等があげられる。上記の溶融押出時の溶融成形温度は、150〜300℃の範囲から選ぶことが多い。
【0073】
かかる他の基材としては、熱可塑性樹脂が有用である。具体的には、上述したEVOH以外の一般的な熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0074】
さらに、本発明のEVOHを用いて成形されたフィルムやシート等の成形物に、他の基材のフィルム、シート等を、接着剤を用いてラミネートする場合、かかる基材としては、前記の熱可塑性樹脂以外に、任意の基材(紙、金属箔、一軸または二軸延伸プラスチックフィルムまたはシートおよびその無機物蒸着物、織布、不織布、金属綿状、木質等)も使用可能である。
【0075】
本発明の多層構造体の層構成は、本発明のEVOHを含む層をa(a1、a2、・・・)、他の基材、例えば熱可塑性樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、かかるa層を最内層とする構成で、[内側]a/b[外側](以下同様)の二層構造のみならず、例えば、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、a1/b1/a2/b2、a1/b1/b2/a2/b2/b1等任意の組み合わせが可能であり、さらには、本発明のEVOH等と多層構造体の端材を含むリサイクル層をRとするとき、例えば、a/R/b、a/R/a/b、a/b/R/a/R/b、a/b/a/R/a/b、a/b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。
【0076】
なお、上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を設けることができる。かかる接着性樹脂としては、種々のものを使用することができるが、延伸性に優れた多層構造体が得られる点において、例えば不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系重合体(上述の広義のポリオレフィン系樹脂)に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られる、カルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体をあげることができる。
【0077】
具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種または2種以上の混合物が好適なものとしてあげられる。このときの、接着性樹脂に含有される不飽和カルボン酸またはその無水物の量は、0.001〜3重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.03〜0.5重量%である。該変性
物中の変性量が少なすぎると接着性が低下する傾向があり、逆に多すぎると架橋反応を起こし、成形性が低下する傾向がある。
【0078】
また、これらの接着性樹脂には、本発明のEVOHに由来するEVOH、他のEVOH、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらにはb層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂をブレンドすることにより、接着性が向上することがあり有用である。
【0079】
多層構造体の各層の厚みは、層構成、b層の種類、用途や成形物の形態、要求される物性等により一概にいえないが、通常は、a層は5〜500μm、好ましくは10〜200μm、b層は10〜5000μm、好ましくは30〜1000μm、接着性樹脂層は5〜400μm、好ましくは10〜150μm程度の範囲から選択される。
【0080】
多層構造体は、そのまま各種形状のものに使用されるが、上記多層構造体の物性を改善するためには加熱延伸処理を施すことも好ましい。ここで、「加熱延伸処理」とは、熱的に均一に加熱されたフィルム、シート、パリソン状の積層体をチャック、プラグ、真空力、圧空力、ブロー等の成形手段により、カップ、トレイ、チューブ、フィルム状に均一に成形する操作を意味する。そして、かかる延伸については、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、できるだけ高倍率の延伸を行ったほうが物性的に良好で、延伸時にピンホールやクラック、延伸ムラや偏肉、層間剥離等の生じない、ガスバリア性に優れた延伸成形物が得られる。
【0081】
上記多層構造体の延伸方法としては、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸温度は60〜170℃、好ましくは80〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸が終了した後、熱固定を行うことも好ましい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、上記延伸フィルムを、緊張状態を保ちながら80〜170℃、好ましくは100〜160℃で2〜600秒間程度熱処理することによって、熱固定を行うことができる。
【0082】
また、生肉、加工肉、チーズ等の熱収縮包装用途に用いる場合には、延伸後の熱固定は行わずに製品フィルムとし、上記の生肉、加工肉、チーズ等を該フィルムに収納した後、50〜130℃、好ましくは70〜120℃で、2〜300秒程度の熱処理を行って、該フィルムを熱収縮させて密着包装をする。
【0083】
このようにして得られる多層構造体の形状としては、任意のものであってよく、フィルム、シート、テープ、異型断面押出物等が例示される。また、上記多層構造体は、必要に応じて、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0084】
上記のように、本発明のアニオン性基含有EVOHは溶融成形時に粘度低下するため、かかるEVOHを含むフィルムおよび多層構造体は、加熱時に粘度低下するという効果を有する。したがって本発明のEVOHを含むフィルムおよび多層構造体は、食品・医薬品・農薬・化粧品などの包装材等の用途に適用される。
また、本発明の製造方法によれば、アニオン性基含有EVOHを生産性良く得ることができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」とあるのは重量基準である。
【0086】
[実施例1]
<エチレンおよびビニルエステルモノマーおよびアニオン性基含有モノマーを共重合し、アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体を得る工程>
反応容器に、酢酸ビニルを909部、メタノールを188部、クエン酸0.03部を仕込み、反応系内を攪拌しながら、系内を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧3.2MPaとし、温度67℃に昇温した。この反応系にt−ブチルペルオキシネオデカノエートを2部含むメタノール溶液を99mL/hrの速度で連続的に4時間滴下した。同時に、マレイン酸モノメチルを12部含むメタノール溶液を268mL/hrの速度で連続的に4時間滴下した。滴下終了後反応を終了し、ペースト状の反応物を採取した。
【0087】
得られたペーストを84℃の水浴中で撹拌し、次いでメタノールを追加しながら蒸留し、未反応酢酸ビニルを除去した。そして、エチレン−酢酸ビニル−マレイン酸モノメチル共重合体のメタノール溶液を得た。かかる溶液はペースト状であった。
【0088】
<アニオン性基含有エチレン−ビニルエステル系共重合体を塩基性1価金属化合物によりケン化し、1価金属塩を形成してなるアニオン性基含有エチレン−ビニルアルコール系共重合体を得る工程>
得られたエチレン−酢酸ビニル−マレイン酸モノメチル共重合体のメタノール溶液、メタノール、および塩基性1価金属化合物として水酸化ナトリウムを用い、エチレン−酢酸ビニル−マレイン酸モノメチル共重合体濃度が25.3重量%であり、水酸化ナトリウム濃度が0.5重量%の溶液を作製した。
かかる溶液を84℃で20分間撹拌し、さらに溶液100部に対して0.5部の水酸化ナトリウムを添加し、溶媒量が一定になるように加温しておいたメタノールを随時追加しつつ該エチレン−酢酸ビニル−マレイン酸モノメチル共重合体をケン化した。そして、エチレン−ビニルアルコール−マレイン酸モノメチル共重合体のメタノール溶液を得た。
【0089】
上記溶液に水/メタノール混合溶媒(体積比にて水/メタノール=7/3)を20部添加し、95℃で1時間撹拌して溶媒を蒸発させ、濃度30重量%のエチレン−ビニルアルコール−マレイン酸モノメチル共重合体溶液を得た。かかる溶液は粘度が高くペースト状であった。該ペーストを厚み3mmの板状に成形し、氷水に浸漬して冷却固化した後に切断し、3mm角の直方体ペレットを得た。上記ペレットを水洗した。
【0090】
<アニオン性基を有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体を乾燥する工程>
得られたペレットを窒素ガス雰囲気下で120℃で16時間加熱乾燥し、エチレン−ビニルアルコール−マレイン酸モノメチル共重合体の乾燥ペレットを得た。上記の操作で得られたエチレン−ビニルアルコール−マレイン酸モノメチル共重合体の組成を1H−NMRで測定した結果、エチレン:25.5モル%、ビニルアルコール:72.8モル%、マレイン酸モノメチル:1.7モル%で、ケン化度は99.9モル%であった。また、蛍光X線分析法にて樹脂中の金属成分量を測定したところ、ナトリウムの金属換算含有量は0.17重量%であった。
【0091】
すなわち、得られたエチレン−ビニルアルコール−マレイン酸モノメチル共重合体はカルボキシル基を3.4モル%有するエチレン−ビニルアルコール共重合体である。また、ナトリウムを上記量にて有することから、かかるエチレン−ビニルアルコール共重合体はナトリウム塩を形成してなるカルボキシル基を有するものである。
【0092】
[粘度特性評価]
EVOHを5mg用い、熱重量測定装置(Pyris 1 TGA、Perkin Elmer社製)により、窒素ガス雰囲気下、気流速度:20mL/分、温度条件:10℃/分で550℃まで昇温した際の、EVOHの重量が5%減少した時点での温度を測定した。重量減少温度が低い場合、EVOHが分解する温度が低いことを意味しており、EVOHの粘度が低下する傾向にあることを意味する。結果を表1に示す。
【0093】
[比較例1]
エチレン構造単位の含有量25モル%、ケン化度99.7モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体ペレットを用い、実施例1と同様の評価を行った。なお、かかるペレットについて蛍光X線分析法にて樹脂中の金属成分量を測定したところ、ナトリウムの含有量は0.00重量%であった。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
従って、本発明のアニオン性基含有EVOHを含むフィルムおよび多層構造体は、低い温度で分解するため、溶融成形時に粘度低下することが明らかである。