【文献】
Nanotechnology,2012年,Vol. 23,Article No. 025702, pp. 1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Ba、Sr、Ca、Mg、Al、Pb、Co、及びZnよりなる群から選択される1種以上の元素Aと、Ti、Zr、W、Nb、Hf、及びSnよりなる群から選択される1種以上の元素Mとを含むとともに、前記元素A、前記元素M及び酸素によって構成されるペロブスカイト型結晶相を有する、複合酸化物粒子を製造する方法であって、
少なくとも、前記元素Aを含む前駆体と、前記元素Mを含む前駆体と、を前記ペロブスカイト型結晶相の組成に対して前記元素Aが過剰量となるように混合して反応液を得る第1工程と、
前記反応液をソルボサーマル法に供することで、固形分を含む合成液を得る第2工程と、前記固形分を5質量%未満の酸溶液により処理することにより、複合酸化物粒子を得る第3工程と、を備える、複合酸化物粒子の製造方法であって、
前記第3工程において、前記固形分に対する前記酸の量を、0.05倍以上1.25倍以下とし、
前記複合酸化物粒子全体の組成において、前記元素Aと前記元素Mとのモル比(A/M)が0.85以上1.10以下であり、
前記複合酸化物粒子における前記ペロブスカイト型結晶相の平均結晶子径が7nm以下である、
複合酸化物粒子の製造方法。
前記第3工程において、前記合成液にメタノールを混合した後で固形分を回収し、回収した固形分を前記酸溶液により処理する、請求項1に記載の複合酸化物粒子の製造方法。
前記第3工程において、前記固形分を前記酸溶液により処理して回収した後に、回収した前記固形分をエタノールにより処理する、請求項1又は2に記載の複合酸化物粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に説明する実施形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0020】
1.複合酸化物粒子の製造方法
図1に示す複合酸化物粒子の製造方法(S10)は、Ba、Sr、Ca、Mg、Al、Pb、Co、及びZnよりなる群から選択される1種以上の元素Aと、Ti、Zr、W、Nb、Hf、及びSnよりなる群から選択される1種以上の元素Mとを含むとともに、前記元素A、前記元素M及び酸素によって構成されるペロブスカイト型結晶相を有する、複合酸化物粒子を製造する方法であって、少なくとも、前記元素Aを含む前駆体と、前記元素Mを含む前駆体と、アミン類と、含酸素有機溶媒とを、前記ペロブスカイト型結晶相の組成に対して前記元素Aが過剰量となるように混合して反応液を得る第1工程(S1)と、前記反応液をソルボサーマル法に供することで、固形分を含む合成液を得る第2工程(S2)と、前記固形分を5質量%未満の酸溶液により処理することにより、複合酸化物粒子を得る第3工程(S3)と、を備えている。
【0021】
1.1.第1工程(S1)
第1工程においては、少なくとも、元素Aを含む前駆体と、元素Mを含む前駆体と、を混合して反応液を得る。特に、元素Aを含む前駆体と、元素Mを含む前駆体と、アミン類と、含酸素有機溶媒とを、ペロブスカイト型結晶相の組成に対して元素Aが過剰量となるように混合して反応液を得ることが好ましい。元素Aを過剰量とする理由は以下の通りである。通常、Ba等の元素AよりもTi等の元素Mの方が反応性が高いことから、複合酸化物粒子中に目的とするペロブスカイト型結晶相以外に元素M由来の酸化物(酸化チタン等)が多量に生成し、その後の洗浄操作等によって元素Aが抜け落ち、結果として、元素Aよりも元素Mの比率の方が高くなってしまう。そのため、予め元素Aを過剰量とすることが好ましいと考えられる。
なお、反応液には、上記課題を解決できる範囲で、その他の成分が含有されていてもよい。例えば、必要に応じて、その他の添加剤を含有させてもよい。この場合、含酸素有機溶媒中に、前駆体、アミン類及び添加剤が溶解又は分散した反応液が得られる。
【0022】
1.1.1.元素Aを含む前駆体、及び、元素Mを含む前駆体
前駆体としては、所望の複合酸化物粒子が得られる限り任意の物質を使用することができる。すなわち、所望の複合酸化物粒子を構成する金属元素を含有する金属単体や金属化合物から適切なものを任意に選択して使用することができる。なお、元素A及び元素Mは上述に記載した元素を使用することができるが、後述の方法により元素A/元素Mの比率が1に近い金属酸化物複合粒子を得るために、好ましくは、Ba、Sr、Ca、Mg及びPbよりなる群から選ばれる1種以上であり、さらに好ましくは、元素Aとしてはアルカリ土類金属、すなわち、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれる1種以上であり、なかでも、Baが特に好ましい。一方、元素Mとしては同様の理由により、好ましくは4価をとる金属元素、すなわち、Ti、Zr、Sn及びHfよりなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはTi、Zr及びHfからなる群より選ばれる1種以上であり、さらに好ましくはTi及び/又はZrであり、特に好ましくはTiである。
【0023】
前駆体の例としては、金属塩化物、金属アセテート、金属アルコキシド、金属水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、副生する不純物(例えば塩化物等)を考慮すると、金属アルコキシド、金属アセテート、金属水酸化物が好ましい。なお、これらのなかでも、特段の制限はないが、好ましい前駆体の組み合わせとしては、元素Aを含む金属水酸化物と元素Mを含む金属アルコキシドとの組み合わせが好ましい。
【0024】
元素Aを含む前駆体の好適例としては、バリウムエトキシド、バリウム−2−エチルヘキサノエート、バリウムイソプロポキシド、バリウムメトキシプロポキシド、バリウム−2,4−ペンタンジオネート水和物、バリウム−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート、バリウム−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート水和物、バリウムチタンダブルアルコキシド、バリウムジルコニウムダブルアルコキシド、水酸化バリウム8水和物、
【0025】
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)ストロンチウム水和物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)ストロンチウムテトラグライム付加物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)ストロンチウムトリグライム付加物、ストロンチウムチタンダブルアルコキシド、ストロンチウムジルコニウムダブルアルコキシド、水酸化ストロンチウム、ストロンチウムアセテート、ストロンチウム−2−エチルヘキサノエート、ストロンチウムイソプロポキシド、ストロンチウムメトキシプロポキシド、ストロンチウム−2,4−ペンタンジオネート、ストロンチウム−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート等が挙げられる。
【0026】
上記に挙げたバリウム、ストロンチウム以外の元素についてもアルコキシドや水酸化物が好適例として挙げられる。
【0027】
元素Mを含む前駆体の好適例としては、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウム−ジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタニウム−ジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタニウム−ジイソプロポキシド(ビスエチルアセトアセテート)、チタニウム−2−ヘキソキサイド、チタニウム−n−ブトキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムメトキシプロポキシド、チタニウム−n−ノニロキシド、チタニウムオキシド(ビステトラメチルペンタンジオネート)、チタニウム−n−プロポキシド、チタニウムステアリルオキシド、チタニウムトリイソステアリルイソプロポキシド、チタニウムトリメチルシロキシド、
【0028】
ジルコニウム−n−ブトキシド、ジルコニウム−t−ブトキシド、ジルコニウム−ジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、ジルコニウム−ジ−イソプロポキシド(ビス−2,2,6,6,−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウム−2−エチルヘキサノエート、ジルコニウム−2−エチルヘキソキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウム−2−メチル−2−ブトキシド、ジルコニウム−2,4−ペンタンジオネート、ジルコニウム−n−プロポキシド、ジルコニウム−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート、ジルコニウムトリメチルシロキシド、ジルコニルプロピオネート、
【0029】
ハフニウム−n−ブトキシド、ハフニウム−t−ブトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウム−2,4−ペンタンジオネート、ハフニウムテトラメチルヘプタンジオネート等が挙げられる。
【0030】
上記に挙げたチタン、ジルコニウム、ハフニウム以外の元素についてもアルコキシドが好適例として挙げられる。
【0031】
なお、元素Aを含む前駆体及び元素Mを含む前駆体は、それぞれ1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。また、前駆体は、反応液中においてどのような状態で存在していてもよい。通常、前駆体は、含酸素有機溶媒中に溶解した状態で存在することが多い。
【0032】
第1工程においては、元素Aを含む前駆体と、元素Mを含む前駆体と、アミン類と、含酸素有機溶媒とを、上記ペロブスカイト型結晶相の組成に対して元素Aが過剰量となるように混合して反応液を得ることが好ましい。なお、「ペロブスカイト型結晶相の組成に対して元素Aが過剰量」とは、元素Mに対する元素Aのモル比が1より大きいことを意味するものとする。なかでも、反応液における元素Aと元素Mとのモル比(A/M)は、目的とするペロブスカイト型結晶の組成比にもよるが、例えば、1.05以上10以下とすることが好ましい。下限がより好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上であり、上限がより好ましくは8以下、特に好ましくは4以下である。
【0033】
1.1.2.含酸素有機溶媒
含酸素有機溶媒は、前駆体から複合酸化物粒子を合成する際の反応溶媒として機能するとともに、前駆体に酸素を供給する酸素供給源としても機能する。この含酸素有機溶媒は、分子内に酸素原子を含有する有機溶媒であれば、他に制限はなく任意のものを使用することができる。
【0034】
含酸素有機溶媒の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、通常30以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
【0035】
含酸素有機溶媒の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常32以上、好ましくは50以上、より好ましくは70以上、また、通常500以下、好ましくは400以下、より好ましくは300以下である。
【0036】
含酸素有機溶媒の沸点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上、また、通常300℃以下、好ましくは270℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0037】
含酸素有機溶媒は、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエステル系溶媒、ケトン系溶媒、アルデヒド系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、シロキサン系溶媒等に大別されるが、その種類は特に限定されない。また、これらの含酸素有機溶媒の1分子中に含まれる酸素原子の個数は、1個以上であれば特に限定されない。含酸素有機溶媒の具体例としては、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、アセトン、ベンズアルデヒド、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ジフェニルエーテル、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノールが好ましい。なお、含酸素有機溶媒は、1種を単独で使用することができ、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。
【0038】
含酸素有機溶媒の使用量は、特に制限されず、適宜設定することができるが、溶媒に対する複合酸化物前駆体濃度が大きすぎると、得られる複合酸化物粉末の平均結晶子径が大きくなりすぎる場合がある。従って、複合酸化物粉末の平均結晶子径を10nm以下とするには、含酸素有機溶媒中の各複合酸化物前駆体の濃度がそれぞれ0.1mol/L以上1.0mol/L以下となるように、含酸素有機溶媒を用いることが好ましい。より好ましくは0.3mol/L以上、さらに好ましくは0.5mol/L以上であり、また、より好ましくは0.8mol/L以下、さらに好ましくは0.6mol/L以下である。元素Aを含む前駆体と、元素Mを含む前駆体との比率を、上述の範囲となるように調整することが好ましい。
【0039】
1.1.3.アミン類
アミン類としては、1級アミン類、2級アミン類及び3級アミン類のいずれでも用いることができる。但し、アミン類の併用効果や酸化劣化着色等の観点から、1級アミン類及び/又は2級アミン類が好ましく、より好ましくは1級アミン類である。
【0040】
また、アミン類の中でも、脂肪族アミン類が特に好ましい。合成時の粒子安定剤としての作用が高いためである。とりわけ、1級及び/又は2級の脂肪族アミン類は、粒子成長の促進剤或いは抑制剤としての効果が高いという利点があるため、殊に好ましい。
【0041】
アミン類の炭素数は、上記課題を解決できる限り任意であるが、合成時の粒子安定剤としての併用効果及び高温下で変性したアミンの除去性等の観点から、通常8以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、また、通常24以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0042】
アミン類の具体例としては、オレイルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、アニリン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、アミン類は、1種を単独で使用することができ、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。
【0043】
なお、アミン類の使用量は、特に制限されず、適宜設定することができる。得られる複合酸化物粒子の平均結晶子径及び結晶性、不純物の発生等を考慮すると、元素Mを含む前駆体に対するモル比で、0.5倍以上が好ましく、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上であり、また、10倍以下が好ましく、より好ましくは6倍以下、さらに好ましくは4倍以下である。
【0044】
1.1.4.その他の添加剤
反応液には、上述した前駆体、含酸素有機溶媒及びアミン類の他に、添加剤を共存させてもよい。添加剤としては、カルボン酸類、含酸素有機溶媒以外の溶媒、ホスフィン類等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0045】
カルボン酸類は、得られる複合酸化物粒子をカルボン酸類で修飾するためのものである。含酸素有機溶媒中にカルボン酸類を共存させることにより、表面にカルボン酸類を有する複合酸化物粒子が得られるようになる。そのため、用途に応じて、複合酸化物粒子の有機溶媒に対する溶解性を向上させることが可能となる。
【0046】
カルボン酸類の種類は、特に制限はない。複合酸化物粒子に結合できる限り、任意のカルボン酸類を用いることができる。着色抑制の観点からは、脂肪族カルボン酸類が好ましい。
【0047】
カルボン酸類の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、修飾剤としての併用効果及び高温下で変性したカルボン酸の除去性等の観点から、8以上が好ましく、より好ましくは14以上、さらに好ましくは16以上、また、24以下が好ましく、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。
【0048】
カルボン酸類の具体例としては、オレイン酸、カプリル酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、カルボン酸類は、1種を単独で使用することができ、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。
【0049】
カルボン酸類の使用量は、特に制限されず、適宜設定することができる。修飾剤としての併用効果、及び得られる複合酸化物粒子の品質等を考慮すると、複合酸化物前駆体に対するモル比で、0.1倍以上が好ましく、より好ましくは0.75倍以上、さらに好ましくは1.0倍以上、また、5倍以下が好ましく、より好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。
【0050】
アミン類とカルボン酸類とを併用する場合には、カルボン酸類の使用割合は、アミン類に対するモル比で、1/2倍以下が好ましく、より好ましくは1/4倍以下である。
【0051】
反応液には、含酸素有機溶媒以外の溶媒を含有させてもよい。上述した複合酸化物粒子を得ることができる限り、その他の溶媒の種類及び使用量に制限はない。その他の溶媒としては、水等が挙げられる。また、その他の溶媒は、1種を単独で使用することができ、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。
【0052】
1.1.5.反応液を用意する際の操作
反応液を用意する際の具体的操作は任意である。また、上述した前駆体、含酸素有機溶媒及びアミン類並びに必要に応じて用いられる添加剤を混合する順序も任意である。一般的に、前駆体は、空気中の水分と速やかに反応するものが多いため、窒素雰囲気等の不活性ガス中で混合することが好ましい。例えば、含酸素有機溶媒を所定時間窒素バブリングした後、前駆体を所定量混合及び攪拌し、その後、アミン類及び添加剤を所定量混合する方法が挙げられる。
【0053】
1.2.第2工程(S2)
第2工程においては、第1工程にて得られた反応液をソルボサーマル法に供することで、固形分を含む合成液を得る。なお、「ソルボサーマル法」とは、元素Aの前駆体の溶媒及び元素Mの前駆体の溶媒の合成温度における溶媒の圧力下で粒子を製造する方法を意味するものとする。
【0054】
ソルボサーマル法における反応温度(反応液の温度)は、複合酸化物粒子が得られる限り任意である。本方法の一つの特徴として、比較的低い温度で複合酸化物粒子が得られることが挙げられる。かかる観点から、反応温度は、100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上、また、240℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以下である。反応温度が低すぎると結晶性が低下する傾向にあり、反応温度が高すぎると、有機物の分解による副生物の量が多くなり得られる複合酸化物粒子の品質が低下する傾向にあるため、これらのバランスを考慮して反応温度を設定すればよい。
【0055】
なお、反応温度は一定でも変動していてもよい。また、反応液の温度が、上述した反応温度の範囲に継続的に収まっていてもよく、断続的に収まっていてもよい。さらに、反応液内の温度は均一でも不均一でもよい。したがって、上述した複合酸化物粒子が得られる限り、例えば反応液内の一部が上記反応温度の範囲外となっていても構わない。
【0056】
また、ソルボサーマル法における圧力条件も、複合酸化物粒子が得られる限り任意である。通常は、圧力条件は自圧以下である。なお、ここで自圧とは、含酸素有機溶媒の当該温度における蒸気圧を意味する。
【0057】
さらに、ソルボサーマル法における反応時間も、複合酸化物粒子を得ることができる限り任意である。本方法の利点の一つとして、特に、複合酸化物前駆体、含酸素有機溶媒及びアミン類を反応系に共存させることにより、従来よりも短時間で複合酸化物粒子が得られることが挙げられる。反応時間に特段の制限はないが、平均結晶子径を10nm以下とするために、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがさらに好ましく、30分以上であることが特に好ましい。一方、反応時間を長くしすぎると、複合酸化物粒子の平均結晶子径が大きくなりすぎる場合があるため、該平均結晶子径を10nm以下とするために、反応時間は48時間以下が好ましく、より好ましくは24時間以下である。
【0058】
また、ソルボサーマル法における反応時の雰囲気も、複合酸化物粒子を得ることができる限り任意である。一般的には、反応は不活性雰囲気下で行なうことが好ましい。上記の前駆体は、空気中の水分と速やかに反応するものが多いためである。なお、ここで不活性雰囲気とは、前駆体、含酸素有機溶媒及びアミン類のいずれに対しても不活性な雰囲気であることを意味する。不活性雰囲気を構成する雰囲気ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。なお、不活性雰囲気には、単独の不活性ガスを使用することができ、2種以上の不活性ガスを任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。
【0059】
ソルボサーマル法において、上記の反応条件を満たすためには、例えば、反応液を密閉容器内において上記所定の反応温度に保持するようにすればよい。例えば、反応液を不活性雰囲気下で密閉容器(オートクレーブ容器等)に封入し、当該密閉容器内で加熱して上記所定の反応温度に保持するようにすればよい。
【0060】
なお、反応液の用意と反応の進行とは、一連の工程として行なうことも可能である。例えば、予め所定の反応条件を整えておいた環境で、前駆体、含酸素有機溶媒及びアミン類並びに必要に応じて添加剤を混合すれば、反応液の用意と反応の進行とを、互いに区別しない一連の工程として行なうことが可能となる。
【0061】
1.3.第3工程
第3工程においては、第2工程にて得られた固形分を、5質量%未満の酸溶液により処理することにより、複合酸化物粒子を得る。すなわち、該固形分を5質量%未満の酸溶液により洗浄することで、該固形分から元素Aを含む不純物を除去して、複合酸化物粒子を得る。なお、「5質量%未満の酸溶液」とは、酸成分を含み、かつ酸成分濃度が5質量%未満の溶液を意味するものとする。このような処理を行うことにより、表面アモルファス成分中の過剰なBa等の元素A成分だけを除去することが可能である。そのため、最終的に得られる複合酸化物粒子全体の組成において、元素Aと元素Mとのモル比(A/M)を0.85以上1.20以下とすることができ、且つ、ペロブスカイト型結晶相の平均結晶子径が10nm以下の複合酸化物粒子が得られる。なお、固形分を処理する酸濃度が高すぎると、固形分中の余剰な元素Aが除去されるだけでなく、ペロブスカイト型結晶相を構成する元素Aがイオン化して、除去されてしまい好ましいペロブスカイト型結晶相が得られなくなる場合がある。従って、第3工程においては、5質量%未満の酸溶液を使用することが重要である。なかでも、酸成分の濃度は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましく、一方、2.5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
固形分を5質量%未満の酸溶液により処理する方法は、特段の制限はないが、該固形分に5質量%未満の酸溶液を加えて、該固形分を分散させて、遠心分離を行えばよい。なお、酸処理後の固形分は、遠心分離の沈殿物を回収すればよい。
【0063】
なお、該固形分を酸により処理する場合、該固形分に対する酸の量は、少なすぎると余剰な元素Aを取り除くことが不十分で、多すぎると元素Aの余剰分以上を削除してしまうために、0.05倍以上であることが好ましく、0.1倍以上であることがさらに好ましく、0.15倍以上であることが特に好ましく、一方、1.25倍以下であることがさらに好ましく、0.5倍以下であることが特に好ましい。
【0064】
酸の種類は特段の制限はないが、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、カプリル酸、アクリル酸、又はメタクリル酸が挙げられる。なかでも、水溶性の有機溶媒に溶解し、複合酸化物のA元素と反応し、沈殿を生じない酸が好ましい。さらに複合酸化物の分散に寄与できるカルボン酸の場合、残留成分が複合酸化物の分散剤として寄与できるためため、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、又はカプリル酸が特に好ましい。
【0065】
酸の溶媒は、特段の制限はないが、溶媒として水を使用すると、酸の解離が大きくなり、ペロブスカイト型結晶相中の元素Aの除去に影響を及ぼす場合があるため、溶媒としては水溶性の有機溶媒が好ましい。なかでも、水溶性のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、又はメトキシエタノールが挙げられる。
【0066】
なお、固形分を酸により処理する回数は、特段の制限はなく、第2工程にて得られた固形分の量や、第1工程において反応液に含まれる元素Aと元素Mとのモル比(A/M)等を考慮して、それぞれ適切な回数だけ行えばよい。
【0067】
第3工程においては、複合酸化物粒子を得た後、必要に応じて、溶媒(例えば水溶性のアルコール)を除去する。溶媒の除去は、例えば減圧及び/又は加熱により実施することができる。このように溶媒を除去した複合酸化物粒子を用いて、後述する分散液の調製を実施することができる。或いは、溶媒を除去することなく、そのまま分散液として用いてもよい。例えば、上記の上澄み液をそのまま分散液として用いることもできる。
【0068】
また、合成液中の不純物を取り除くために、第2工程により得られた合成液中の固形分を該酸により処理する前に、該固形分を親水性有機溶媒により処理することが好ましい。具体的には、第2工程において得られた合成液に親水性有機溶媒を添加して混合攪拌し、その後、遠心分離を行えばよい。当該処理後の固形分は、遠心分離により得られる沈殿物を回収すればよい。なお、このような親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが挙げられる。特に、第3工程において、合成液にメタノールを混合した後で固形分を回収し、回収した固形分を前記酸溶液により処理することが好ましい。なお、合成液に対する親水性有機溶媒の添加量は、特段の制限はないが、質量比として、10倍以上であることが好ましく、25以上であることがさらに好ましく、一方、50以下であることが好ましく、100以下であることが特に好ましい。
【0069】
また、第3工程において、酸処理後に残留している微量の、炭酸化合物や凝集した複合酸化物等の元素Aを含む不純物を除去するために、固形分を酸により処理した後に、さらに該固形分を親水性有機溶媒により処理することが好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、炭素数2以上のアルコールが挙げられる。具体的には、エタノールが好ましい。すなわち、第3工程において、固形分を酸溶液により処理して回収した後に、回収した固形分をエタノールにより処理することが好ましい。具体的には、酸処理後の固形分を親水性有機溶媒を添加して混合攪拌することが好ましい。その後、遠心分離等により得られた上澄み液を濃縮して乾燥させることにより、再度、固形分を回収すればよい。なお、該固形分に対する親水性有機溶媒の添加量は、特段の制限はないが、質量比で、10倍以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましく、一方、100以下であることが好ましく、50以下であることがさらに好ましい。このような操作を行うことにより、元素Aと元素Mとのモル比(A/M)をよりペロブスカイト型結晶として理想的な1に近付けることができる。
【0070】
なお、固形分の酸処理工程前後の上記操作の回数については、特に限定されるものではない。第2工程にて得られた固形分の量や、第1工程において反応液に含まれる元素Aと元素Mとのモル比(A/M)等を考慮して、それぞれ適切な回数だけ行えばよい。
【0071】
以上の通り、製造方法S10によれば、所定のソルボサーマル法(S1、S2)によって得られた固形分を5質量%未満の酸溶液により処理することで、元素Aと元素Mとの比(A/M)をペロブスカイト型結晶として理想的な1に近付けることができるとともに、平均結晶子径の極めて小さな複合酸化物粒子が得られる。
【0072】
2.複合酸化物粉末
本実施形態の複合酸化物粉末は、複数の複合酸化物粒子を備える。複合酸化物粒子は、Ba、Sr、Ca、Mg、Al、Pb、Co、及びZnよりなる群から選択される1種以上の元素Aと、Ti、Zr、W、Nb、Hf、及びSnよりなる群から選択される1種以上の元素Mとを含むとともに、前記元素A、前記元素M及び酸素によって構成されるペロブスカイト型結晶相を有する。複合酸化物粉末は、粉末全体の組成において、前記元素Aと前記元素Mとのモル比(A/M)が0.85以上1.20以下であり、ペロブスカイト型結晶相の平均結晶子径が10nm以下であることを特徴とする。
【0073】
元素Aは、Ba、Sr、Ca、Mg、Al、Pb、Co、及びZnよりなる群から選択される1種以上であり、好ましくはBa、Sr、Ca、及びPbよりなる群から選ばれる1種以上である。なお、元素A及び元素Bの好ましい元素としては、上述の「1.1.1.元素Aを含む前駆体、及び、元素Mを含む前駆体」の項目で説明した元素と同じ元素が挙げられる。
【0074】
本実施形態の複合酸化物粉末においては、粉末全体の組成において元素Aと元素Mとのモル比(A/M)が0.85以上1.20以下である点に一つの特徴がある。モル比(A/M)の下限は好ましくは0.90以上であり、上限は好ましくは1.10以下である。
【0075】
本実施形態の複合酸化物粉末において、元素Aと元素Mとのモル比(A/M)が完全に1ではないのは、複合酸化物粒子中のペロブスカイト結晶相が格子欠陥を有する場合のほか、複合酸化物粒子においてペロブスカイト型結晶相以外の異相(アモルファス相を含む)を含む場合を許容する趣旨である。すなわち、本実施形態の複合酸化物粉末において複合酸化物粒子は、必ずしも、ペロブスカイト型結晶相のみからなる必要はない。ただし、言うまでもないが、複合酸化物粒子におけるペロブスカイト型結晶相の割合が大きいほど好ましい。
【0076】
本実施形態の複合酸化物粒子に含まれるペロブスカイト結晶相の組成について、一般式A
xB
yO
3±δで表した場合、x及びyは、ペロブスカイト結晶構造を維持できる限り特に限定されるものではない。例えば、0<x≦1、0<y≦1満たす範囲で適宜決定できる。本実施形態の複合酸化物粉末は、粉末全体の組成としてx/y=1であるABO
3で表されるペロブスカイト型結晶の組成に近いという特徴を有する。例えば、元素AとしてBa、元素MとしてTiを含む複合酸化物粒子の場合、ペロブスカイト型結晶相としてチタン酸バリウム(BaTiO
3)相を有するとともに、粉末全体の組成としてBaとTiとのモル比が0.85以上1.20以下となる。
【0077】
なお、本明細書において、上記の一般式A
xB
yO
3±δは、ペロブスカイト型結晶相における元素Aと元素Mと酸素原子との組み合わせを表すための式である。したがって、これら必須構成元素である元素Aと元素Mと酸素原子を少なくとも含むものである限り、本実施形態の複合酸化物粒子は、元素Aを2種以上含んでいても、元素Mを2種以上含んでいても、これら以外の他の元素(以下、単に「元素D」ともいう。)を含んでいてもよい。また、かかる元素Dは、一般式A
xB
yO
3±δで表されるペロブスカイト型結晶構造のAサイト及び/又はBサイトの元素と置換されてもいてもよい。結晶構造の安定化、酸素欠陥による電荷の移動を抑制する等の目的に応じて、元素Dとして公知の元素を用いることができる。例えば、Aサイトに置換する元素D1としては、La、Bi、Y、Ce、Li、Na、Ag、K、Fe等が挙げられ、Bサイトに置換する元素D2としては、Ta、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が挙げられる。複合酸化物粒子が元素Dを含む場合、Aサイトに置換する元素D1の含有量は、元素Aに対して0.001モル%以上1モル%以下が好ましく、0.01モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。また、Bサイトに置換する元素D2の含有量は、元素Mに対して0.001モル%以上1モル%以下が好ましく、0.01モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0078】
上述した一般式A
xB
yO
3±δで表されるペロブスカイト型結晶相の好ましい例(代表組成式)を以下に示す。なお、以下の代表組成式において、0<x<1、0<y<1である。
チタン酸バリウム[BaTiO
3]、
チタン酸ストロンチウム[SrTiO
3]、
チタン酸バリウムストロンチウム[(Ba
xSr
1−x)TiO
3]、
チタン酸カルシウム[CaTiO
3]、
チタン酸ジルコニウム酸バリウム[Ba(Ti
yZr
1−y)O
3]、
チタン酸ジルコニウム酸鉛[Pb(Ti
yZr
1−y)O
3]、
チタン酸ジルコニウム酸バリウムストロンチウム[(Ba
xSr
1−x)(Ti
yZr
1−y)O
3]、
チタン酸ジルコニウム酸バリウムカルシウム[(Ba
xCa
1−x)(Ti
yZr
1−y)O
3]、
ジルコン酸バリウム[BaZrO
3]、
ジルコン酸ストロンチウム[SrZrO
3]、
スズ酸バリウム[BaSnO
3]、
スズ酸ストロンチウム[SrSnO
3]等。
【0079】
複合酸化物粒子のペロブスカイト型結晶相は、粉末X線回折測定で得られるX線回折プロファイルから確認することができる。例えばペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウム(BaTiO
3)では、粉末X線回折測定において、(100)面、(110)面、(111)面、(200)面、(210)面、(211)面、(220)面、(300)面、(310)面等に起因するX線回折パターンが得られる。
【0080】
本実施形態の複合酸化物粉末は、平均結晶子径が10nm以下であることにもう一つの特徴を有する。平均結晶子径の下限は特に限定されないが、通常1nm以上である。平均結晶子径は、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、また、より好ましくは8nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。平均結晶子径が上記好ましい範囲内にあると、例えば、サイズ効果が低減されて有機成分との屈折率差をより大きくでき高い屈折率付与効果が得られ易い傾向にあるとともに、レイリー散乱が抑制されて高い透明性が得られ易い傾向にある。また、複合酸化物粉末における平均結晶子径を上記の範囲内とすることで、誘電体層を薄膜化することができる。そのため、複数の誘電体層を積層させた積層コンデンサにおいても、小型化かつ大容量化を達成することができる。
【0081】
なお、複合酸化物粉末における平均結晶子径は、粉末X線回折法により得られる結晶性ピークの半値幅から、以下のScherrerの式から求めることができる。
〔Scherrer式〕 結晶子サイズ(D)=K・λ/(β・cosθ)
【0082】
ここで、KはScherrer定数でK=0.9であり、X線(CuKα1)波長(λ)=1.54056Å(1Å=1×10
−10m)である。また、より精度を上げるために、CuKα1線由来のブラッグ角(θ)及び半値幅(βo)はプロファイルフィッティング法(Peason−VII関数)を用いて算出することが好ましい。計算に用いる半値幅βは、予め標準Siにより求めておいた装置由来の半値幅βiから下記式を用いて補正することが好ましい。
【0084】
本実施形態の複合酸化物粉末は、平均分散粒子径が50nm以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、通常1nm以上である。好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。「平均分散粒子径」とは、複合酸化物粉末を溶媒に分散させた分散液において、動的光散乱式粒度測定装置を用いて測定される、分散粒子の体積基準のメジアン径(D50)を意味する。なお、分散液としては、2−メトキシエタノール含有溶媒を用いるものとする。
【0085】
さらに、本実施形態の複合酸化物粉末は、光触媒活性を有することが好ましい。酸化チタンは光触媒活性があることが知られている。そのため、複合酸化物粉末の粒子表面に酸化チタンが存在する場合には、光触媒作用が確認できる。
【0086】
また、本実施形態の複合酸化物粉末は、透明性に優れる光学材料を得る等の観点からは、溶媒に複合酸化物含有量10質量%で分散した際に、測定波長550nm、及び光路長1cmにおいて50%以上の透過率を有することが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。
【0087】
ここで、高屈折率材料は、さらなる高屈折率化が求められているが、ハイブリッド材料による高屈折率化には、有機材料よりも屈折率が高い複合酸化物の含有量を多くすることが必要である。ハイブリッド化の方法としては、例えば、有機材料に直接、複合酸化物粉末を添加して分散させる方法と、あらかじめ溶媒に複合酸化物粉末を分散させた溶媒分散液を、有機材料中で分散させる方法等が挙げられるが、後者の方法、すなわち溶媒分散液を使用した方法の方が高透明な分散液が得られ易い傾向にある。そのため高屈折率なハイブリッド材料を得るためには、溶媒分散液は複合酸化物粉末の含有量が多い方が、少量の溶媒分散液でハイブリッド材料中に目的の量の複合酸化物粉末を含有させることができる。また、溶媒分散液中の複合酸化物粉末の量が多いことで相対的に溶媒量が少なくなるため、ハイブリッド材料を得るための溶媒除去工程が短縮できるため有利である。よって溶媒に分散した複合酸化物粉末の含有量は10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。一方、その上限は特に限定されないが、通常は50質量%超含有させると、溶媒中でゲル化が生じ易くなる傾向にある。
【0088】
3.分散液
本実施形態の分散液は、上述した複合酸化物粉末と溶媒とを含むものである。複合酸化物粉末については上述したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0089】
3.1.溶媒
分散液の溶媒は、上述した複合酸化物粉末を分散可能である限り、その種類は特に限定されないが、上述した複合酸化物粉末の分散性等の観点から、有機溶媒が好ましく用いられる。好適な有機溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、グリコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエステル系溶媒等が挙げられる。
【0090】
芳香族炭化水素系溶媒としてはトルエン、キシレン等、脂肪族炭化水素系溶媒としては、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン等、アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール、セカンダリーブタノール、1,3−ブタンジオール、1,4,−ブタンジオール、2−エチル−1−ヘキサノール、ベンジルアルコール等、エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等、エーテル系溶媒としては、1,4−ジオキサン、イソプロピルエーテル、ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等、グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ジヒドロキシプロパン等、グリコールエーテル系溶媒としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−tert−ブトキシエタノール、2−イソブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールメチルエーテル等、グリコールエステル系溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等、その他の特殊溶媒としてはテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、シメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも複合酸化物粒子の合成時に使用し得る含酸素有機溶媒がよく、特にアルコール系溶媒およびグリコールエーテル系溶媒が好ましい。なお、これらは、1種を単独で使用することができ、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。
【0091】
分散液は、上述した複合酸化物粉末及び溶媒を少なくとも含むものである限り、その配合組成は特に限定されない。例えば光学用途においては、分散液は、光学材料(成形体)を構成するための前駆物質(例えばマトリックス樹脂或いはモノマー類)、重合開始剤や重合促進剤、重合禁止剤、硬化剤等を含有していてもよい。また、分散液は、当業界で公知の各種添加剤、例えば分散剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。以下、これらの任意成分について詳述する。
【0092】
3.2.樹脂/モノマー
樹脂/モノマーは、各種公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。光学材料として用いる場合には、紫外領域から近赤外領域において透明性を有する樹脂が好ましい。例えば、放射線や熱等でラジカル重合が可能な官能基(以下「重合性官能基」ともいう。)を有するモノマーを、必要に応じて重合開始剤を用いて、重合又は共重合
させた樹脂を、好適に用いることができる。また、生産性等の観点からは、放射線により重合可能な硬化性モノマー(以下、「放射線硬化性モノマー」ともいう。)を、必要に応じて重合開始剤を用いて、重合又は共重合させた樹脂が好ましい。放射線硬化性モノマーの種類は、特に限定されないが、生産性等の観点からは、紫外線硬化性モノマーが好ましい。
【0093】
なお、ここで用いる樹脂は、重合性官能基が1つのモノマー(以下、「単官能モノマー」ともいう。)を重合して得られた樹脂でもよく、重合性官能基が2つ以上のモノマー(以下、「多官能モノマー」ともいう。)を重合して得られた樹脂のいずれでもでもよいが、柔軟性の制御がし易い等の観点から、重合性官能基の数が異なる2種類以上のモノマーを共重合して得られた樹脂が好ましい。好ましい樹脂としては、透明性、屈折率、及び生産性等の観点からは、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0094】
これらの樹脂は、1種を単独で使用することができ、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用することもできる。2種類以上の樹脂を用いる場合、組み合わせる樹脂の種類及び比率は任意である。柔軟性の制御のし易さ等の観点から、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂の少なくとも一方を主成分とするのが好ましい。なお、主成分とは50質量%以上を占める成分を意味する。樹脂の組み合わせの具体例としては、アクリル樹脂とメタクリル樹脂との組み合わせ、主成分としてのアクリル樹脂及びメタクリル樹脂の少なくとも一方と、副成分としてのエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、又はエポキシ樹脂及びシリコーン樹脂との組み合わせ、等が挙げられる。
【0095】
これらの中でも、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂の少なくとも一方を含むことが好ましく、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂の少なくとも一方を共重合して得られた樹脂が最も好ましい。
【0096】
上記樹脂成分を構成するモノマーとしては、放射線によりラジカル重合が可能な官能基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、及び/又はエポキシ基等を有するモノマーが好適に用いられる。
【0097】
以下、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂を構成するモノマーとして好適に用いられるモノマー、必要に応じて使用される重合開始剤及び硬化剤をそれぞれ例示する。
【0098】
(i)アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂を構成するモノマーと重合開始剤
[モノマー]
アクリル樹脂及びメタクリル樹脂を構成するモノマーとして、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有するモノマーが好適に用いられる。アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有するモノマーは、単官能又は多官能のいずれでもよく、脂肪族(脂環式を含む。)又は芳香族のいずれでもよい。なお、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタクリレート」の一方又は双方を意味する。「(メタ)アクリル」についても同様である。単官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、単官能脂肪族(脂環式を含む)(メタ)アクリレート系モノマー、及び単官能芳香族(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。多官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2官能(メタ)アクリレート系モノマー及び3官能以上の(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。2官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2官能脂肪族(脂環式を含む)(メタ)アクリレート系モノマー及び2官能芳香族(メタ)アクリレート系モノマーが挙げられる。3官能以上の(メタ)アクリレート系モノマーとしては、多官能脂肪族(脂環式を含む)(メタ)アクリレート系モノマー及び多官能芳香族(メタ)アクリレート系
モノマーが挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのモノマーとして、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0099】
<単官能脂肪族(脂環式を含む)(メタ)アクリレート系モノマー>
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メタリル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、2−ブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、末端水酸基ポリエステルモノ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、アリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートモノエステル、(メタ)アクリル酸、カルビトール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、単官能ウレタン(メタ)アクリレート、単官能エポキシ(メタ)アクリレート、単官能ポリエステル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン等。
【0100】
これらの中でも、直鎖状の脂肪族(メタ)アクリレート類、エチレングリコール鎖又はプロピレングリコール鎖を有する(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアクリレート類、ホスフェート基含有アクリレート類が好ましく用いられる。
【0101】
<単官能芳香族(メタ)アクリレート系モノマー>
フェニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシー2−メチルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、4−フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3−(2−フェニルフェニル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性p−クミルフェノールの(メタ)アクリレート、2−ブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4−ジブロモフェノキシエチル(メタ)ア
クリレート、2,4,6−トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(n=2)(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキサイド変性(n=2.5)(メタ)アクリレート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、o−フェニルフェノールグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート等のフタル酸誘導体のハーフ(メタ)アクリレート、フルオレン骨格含有単官能性(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル化o−フェニルフェノール(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート等。
【0102】
これらの中でも、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシアクリレート類、フルオレン骨格含有単官能性(メタ)アクリレート類が好ましく用いられる。
【0103】
<2官能脂肪族(脂環式を含む)(メタ)アクリレート系モノマー>
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2官能ウレタン(メタ)アクリレート、2官能エポキシ(メタ)アクリレート、2官能ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのカプロラクトン変性ジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸グリセリンモノ(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイロキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート等。
【0104】
<2官能芳香族(メタ)アクリレート系モノマー>
ビスフェノールAのEO(エポキシ)付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、フルオレン骨格含有二官能性(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAの(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAの(メタ)アクリレート、ビスフェノールAとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応で得られるエポキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応で得られるエポキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応で得られるエポキシ(メタ)アクリレート等。
【0105】
<3官能以上の脂肪族(メタ)アクリレート系モノマー>
ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能エポキシ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(
メタ)アクリレート、トリス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレート、トリス[2−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル]イソシアヌレート、2,4,6−トリス((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−1,3,5−トリアジン等。
【0106】
<3官能以上の芳香族(メタ)アクリレート系モノマー>
フルオレン骨格含有多官能性(メタ)アクリレート、2,4,6−トリス((メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)−1,3,5−トリアジン等。
【0107】
これらの(メタ)アクリレート系モノマーのうち、耐熱性向上の観点からは、単官能芳香族(メタ)アクリレート系モノマーが好ましい。すなわち、樹脂の分子構造内に芳香環を導入することは、耐熱性の向上に有効である。芳香環を導入したアクリレート系モノマーの中でも、高い耐熱性を有するものとしては、ナフタレン構造やフルオレン構造、ビスフェノールA構造等を有するものが挙げられる。
【0108】
また、(メタ)アクリレート系モノマーのうち、ウレタン(メタ)アクリレートやウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等のウレタン(メタ)アクリレート類は、得られる無機有機ハイブリッド材料に柔軟性を付与するための成分として有効である。なお、(メタ)アクリレート系モノマー中に極性官能基を有するモノマーは、複合酸化物粒子の表面処理剤として使用することができる。このようなモノマーとしては、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート等のフタル酸誘導体のハーフ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0109】
[重合開始剤]
これらのモノマーを重合するための重合開始剤の種類は、各種の重合反応を行えるものであれば特に制限はないが、ラジカル重合反応を行えるラジカル重合開始剤が好ましい。例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾインエーテル類、ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキシド類、ジアゾニウムカチオンオニウム塩、ヨードニウムカチオンオニウム塩、スルホニウムカチオンオニウム塩等の重合開始剤を、硬化性モノマーの種類に応じて、適宜用いることができる。
【0110】
具体的には、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−メチルチオ]フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー、イソプロピルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、ベンゾフェノン、エチルアントラキノン、ベンゾフェノンアンモニウム塩、チオキサントンアンモニウム塩、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4,4’
−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、1,4−ジベンゾイルベンゼン、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラキス(3,4,5−トリメトキシフェニル)−1,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルジフェニルエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、ジベンゾイル、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、o−メチルベンゾイルベンゾエート、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエチルエステル、活性ターシャリアミン、カルバゾール・フェノン系光重合開始剤、アクリジン系光重合開始剤、トリアジン系光重合開始剤、ベンゾイル、トリアリルスルフォニウム、ヘキサフルオロフォスフェート塩、6フッ化リン系芳香族スルホニウム塩、6フッ化アンチモン系芳香族スルホニウム塩、6フッ化アンチモン系芳香族スルホニウム塩、6フッ化アンチモン系芳香族スルホニウム塩、トリアリルスルフォニウム、ヘキサフルオロアンチモン、4−メチルフェニル−[4−(2−メチルプロピル)フェニル]−ヘキサフルオロフォスフェート(1−)、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート、(9−オキソ9H−キサンテン−2−イル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−n−アルキル(C10〜13)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス[4−n−アルキル(C10〜13)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモン、トリフェニルスルホニムトリフルオロスルホネート、トリフェニルスルホニウムビシクロ[2,2,1]ヘプタン−1−メタンスルフォネート、(9−オキソ9H−キサンテン−2−イル)フェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−アジドベンズアルデヒド、p−アジドアセトフェノン、p−アジド安息香酸、p−アジドベンズアルデヒド−2−スルホン酸Na塩、p−アジドベンザルアセトフェノン、4,4’−ジアジドカルコン、4,4’−ジアジドジフェニルスルフィド、3,3’−ジアジドジフェニルスルフィド、2,6−ビス−(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサン、1,3−ビス−(4’−アジドベンザル)−プロパノン、4,4’−ジアジドカルコン−2−スルホン酸Na塩、4,4’−ジアジドスチルベン−2,2’−ジスルホン酸Na塩、1,3’−ビス−(4’−アジドベンザル)−2’−ジスルホン酸Na塩−2−プロパノン、2,6−ビス−(4’−アジドベンザル)−2’−スルホン酸(Na塩)シクロヘキサノン、2,6−ビス−(4’−アジドベンザル)−2’−スルホン酸(Na塩)4−メチル−シクロヘキサノン、α−シアノ−4,4’−ジベンゾスチルベン、2,5−ビス−(4’−アジドベンザルスルホン酸Na塩)シクロペンタノン、3−スルホニルアジド安息香酸、4−スルホニルアジド安息香酸、シンナミン酸、α−シアノシンナミリデンアセトン酸、p−アジド−α−シアノシンナミン酸、p−フェニレンジアクリル酸、p−フェニレンジアクリル酸ジエチルエステル、ポリビニルシンナメート、ポリフェノキシ−イソプロピルシンナミリデンアセテート、ポリフェノキシ−イソプロピルα−シアノシンナミリデンアセテート、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−4−スルホン酸Na塩、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸Na塩、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル(I)、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル(II)、ナフトキノン(1,2)ジアジド(2)−4−スルホン酸塩、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノントリ(ナフトキノンジアジドスルホン酸)エステル、ナフトキノン−1,2,5−(トリヒドロキシベンゾフェノン)トリエステル、1,4−イミノキノン−ジアジド(4)−2−スルフォアミド(I)、1−ジアゾ−2,5−ジエトキシ−4−p−トリメルカプトベンゼン塩、5−ニトロアセナフテン、N−アセチルアミノ−4−ニトロナフタレン、有機ホウ素化合物、これら以外の、光によりカチオンを発生する光酸発生剤、光によりアニオンを発生する光塩基発生剤等が挙げられるが、これらに限定されない。これらは、所望の硬化物の特性に応じて、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
(ii)エポキシ樹脂を構成するモノマーと重合開始剤
[モノマー]
エポキシ樹脂を構成するモノマーとしては、エポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシモノマー」ともいう。)が好適に用いられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシモノマー、ビスフェノールF型エポキシモノマー、フェノールノボラック型エポキシモノマー、クレゾールノボラック型エポキシモノマー等のノボラック型エポキシモノマー、脂環式エポキシモノマー、トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントインエポキシモノマー等の含窒素環エポキシモノマー、水素添加ビスフェノールA型エポキシモノマー、水素添加ビスフェノールF型エポキシモノマー、脂肪族系エポキシモノマー、グリシジルエーテル型エポキシモノマー、ビスフェノールS型エポキシモノマー、ビフェニル型エポキシモノマー、ジシクロ環型エポキシモノマー、ナフタレン型エポキシモノマー等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
なお、モノマーとしてエポキシモノマーのみを用いても、前記エポキシモノマーと重合可能な官能基を有する他の種類のモノマーとを併用してもよいが、エポキシモノマーと重合可能な官能基を有する他の種類のモノマーとの併用が好ましい。エポキシモノマーのみを用いる場合には、エポキシモノマーとして単官能のモノマーと多官能のモノマーとの併用が好ましい。エポキシモノマーと重合可能な他の種類のモノマーと併用する場合には、エポキシモノマーとして単官能のモノマー及び多官能のモノマーのいずれか一方のみを用いてもよい。
【0113】
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とエポキシ基のいずれも有するモノマーは、便宜的に(メタ)アクリレート系モノマーと称する。
【0114】
[硬化剤]
上記エポキシモノマーの硬化剤としては、アミン系硬化剤や酸無水物系硬化剤等の公知の硬化剤を使用できる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸等が挙げられる。硬化剤は、所望の硬化物の特性に応じて、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0115】
(iii)シリコーン樹脂を構成するモノマーと重合開始剤
[モノマー]
シリコーン樹脂を構成するモノマーとしては、重合性シリコーンモノマーが好適に用いられる。例えば、モノマー中に重縮合やヒドロシリル化等が可能な官能基を有するシリコーンモノマーや、放射線硬化性シリコーンモノマー等が挙げられる。具体的には、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、アミノ基含有シリコーン、カルボキシ基含有シリコーン、カルビノール基含有シリコーン、フェニル基含有シリコーン、オルガノハイドロジェンシリコーン、多環式炭化水素含有シリコーン、芳香環炭化水素含有シリコーン、フェニルシルセスキオキサン等のシリコーンモノマー等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、放射線硬化性のシリコーンモノマーが好ましい。
【0116】
重合性シリコーンモノマーのみ用いても、重合性シリコーンモノマーと重合可能な他の種類のモノマーを併用してもよいが、重合性シリコーンモノマーと重合可能な他の種類の
モノマーとの併用が好ましい。
【0117】
重合性シリコーンモノマーのみを用いる場合には、単官能の重合性シリコーンモノマーと多官能の重合性シリコーンモノマーとの併用が好ましい。重合性シリコーンモノマーと重合可能な他の種類のモノマーとを併用する場合には、単官能の重合性シリコーンモノマー及び多官能の重合性シリコーンモノマーのいずれか一方のみを用いてもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンは、便宜的に重合性シリコーンモノマーと称する。
【0118】
[重合開始剤]
モノマーの種類に応じて、重縮合反応触媒、ヒドロシリル化反応触媒、放射線硬化用重合開始剤等を用いることができる。重縮合反応触媒としては、公知の触媒を用いることができる。ヒドロシリル化反応触媒としては、アルミニウム化合物、白金化合物、ロジウム化合物、パラジウム化合物等が挙げられる。放射線硬化用重合開始剤としては、前記(メタ)アクリレート系モノマーの重合に用いる重合開始剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
また、上記のモノマー以外に、ビニル基、アクリルアミド基等の官能基を持つ放射線硬化性モノマーを含んでもよい。
【0120】
3.3.分散剤
分散液は、必要に応じて、複合酸化物粉末等を分散するための分散剤を含有していてもよい。分散液は、本発明の効果を著しく損なわない限り、既知の分散剤の1種又は2種以上を含んでもよい。ここで用いる分散剤としては、複合酸化物粉末の分散性を高める観点からは、複合酸化物粉末に吸着するための吸着部位(力ルボキシル基、リン含有オキソ酸基、硫黄含有オキソ酸基等)を有していることが好ましい。また、屈折率や透明性を低下させない観点からは、分散剤自体が高屈折率であり透明であることが好ましい。このような分散剤としては、重合性官能基(重合性基)及び吸着部位(吸着性基)を有する分散剤が挙げられる。例えば、WO2013/047786等に記載の重合性無機粒子分散剤が好ましく用いられる。WO2013/047786に記載のすべての内容は、ここに参照として引用される。
【0121】
3.4.酸化防止剤
分散液は、耐候性付与等の観点から、窒素系或いはリン系等の公知の酸化防止剤を含有していてもよい。その場合、分散液中の酸化防止剤の含有量は、複合酸化物粉末に対して0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上であり、また、5質量%以下が好ましく、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。分散液中の酸化防止剤の含有量が上記好ましい数値範囲内にあることで、長期間、着色や劣化が抑制され易い傾向にあるとともに、透明性や屈折率の低下等も抑制され易い傾向にある。
【0122】
3.5.重合禁止剤
分散液は、複合酸化物粉末の重合防止等の観点から、重合禁止剤を含有していてもよい。その場合、分散液中の重合禁止剤の含有量は、複合酸化物粉末に対して0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。分散液中の重合禁止剤の含有量が上記好ましい数値範囲内にあることで、長期間、分散剤中でのゲル化が防止され易い傾向にあるとともに、透明性や屈折率の低下等も抑制され易い傾向にある。
【0123】
3.6.その他
分散液は、さらに、粘度やハンドリング性を改善する等の観点から、粘度調整剤やレペリング剤等を含んでいてもよい。この場合、複合酸化物粉末との相溶性に優れるものが好ましく用いられる。
【0124】
3.7.分散液の各種態様
本実施形態の分散液は、上述した複合酸化物粉末が溶媒中に分散されたものであれば、その態様に制限はない。具体的態様としては、上述した複合酸化物粉末を溶媒中に含有する分散剤、上述した複合酸化物粉末と樹脂/モノマーとを溶媒中に含有する分散剤、上述した複合酸化物粉末と樹脂/モノマーと重合開始剤等の任意成分とを溶媒中に含有する分散剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0125】
3.8.分散液の物性
本実施形態の分散液は、透明性に優れる光学材料を得る等の観点からは、測定波長550nm、及び光路長1cmで、50%以上の透過率を有することが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。ここで本明細書において、透過率は、複合酸化物粉末の固形分濃度が10質量%以上に調製された分散液を用いたときの値とする。
【0126】
3.9.分散液の製造方法
本実施形態の分散液は、上述した複合酸化物粉末と溶媒とを、必要に応じてさらに上述した任意成分を加えて、混合することで容易に得ることができる。本実施形態の複合酸化物粉末は、高い分散性能を持つため、複合酸化物粉末が均一に分散した透明分散液を作製することが容易である。必要に応じて上述した分散剤を加えることで、さらに均一な分散状態にすることもできる。ここで、混合後に、必要に応じて超音波分散等の分散工程を行い、複合酸化物粉末をより均一に分散させてもよい。なお、分散剤の混合方法は、複合酸化物粉末と分散剤とをあらかじめ混合した後で溶媒に加えても、複合酸化物粉末と溶媒の混合液に分散剤を加えてもよい。
【0127】
分散液中の複合酸化物粉末の含有割合は、特に限定されないが、複合酸化物粉末の固形分濃度で、0.1質量%以上90質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上50質量%以下である。複合酸化物粉末の固形分濃度を上記好ましい数値範囲内にすることで、屈折率付与効果が高く、複合酸化物粉末の分散安定性が高く、透明性に優れる分散液が得られ易い傾向にある。
【0128】
4.ハイブリッド複合粒子
本実施形態のハイブリッド複合粒子は、上述した複合酸化物粉末と、その粒子表面に付着した上述した分散剤とを少なくとも含有するものである。このように微細な複合酸化物粉末の粒子表面を分散剤で表面修飾することにより、高い分散性を有する複合酸化物粉末が得られる。このハイブリッド複合粒子は、例えば、溶媒中に複合酸化物粉末と分散剤とを含む分散液から、溶媒を除去することで容易に得ることができる。また、複合酸化物粉末に、分散剤を含む液を噴霧塗布し、溶媒を乾燥させることによっても容易に得ることができる。
【0129】
5.ハイブリッド複合材
本実施形態のハイブリッド複合材は、上述した複合酸化物粉末と、マトリックス樹脂又は該マトリックス樹脂の前駆物質(モノマー)とを少なくとも含有する。ここで用いるマトリックス樹脂及びその前駆物質としては、分散液の項において述べた樹脂/モノマー類を好適に用いることができる。また、ハイブリッド複合材は、分散液の項において述べた任意成分を含んでいてもよい。上述した複合酸化物粉末は、マトリックス樹脂又はその前駆物質に混合可能であり、このように複合酸化物粉末を混合することによってその樹脂や前駆物質の屈折率を容易に高めることができる。
【0130】
ハイブリッド複合材中のマトリックス樹脂及びその前駆物質の含有割合は、特に限定されないが、屈折率改善効果を高めるとともに、得られるハイブリッド複合材の機械的物性を高める等の観点から、複合酸化物粒子に対する固形分換算で、10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、また、80質量%以下が好ましい。
【0131】
上述したハイブリッド複合材の製造方法は、特に限定されない。例えば、複合酸化物粉末をマトリックス樹脂及びその前駆物質中に、必要に応じてさらに上述した任意成分を加えて、混合することで容易に得ることができる。本実施形態の複合酸化物粉末は、高い分散性能を持つため、容易にハイブリッド複合材を得ることが可能である。また、混合後に必要に応じて、混練工程を行い、複合酸化物粉末をより均一に分散させてもよい。さらに、必要に応じて上述した分散剤を加えることで、さらに均一な分散状態にすることもできる。
【0132】
ハイブリッド複合材の好ましい製造方法としては、湿式法が挙げられる。ここでいう湿式法とは、例えば、前述の方法により複合酸化物粉末とマトリックス樹脂又はその前駆物質とを溶媒中に分散させた分散液に、所望のマトリックス樹脂を混合し、最後に溶媒を除去するような方法である。このような湿式法によれば、複合酸化物粉末の粒子表面に均一にマトリックス樹脂又はその前駆物質を作用させることができるため、例えばナノサイズの複合酸化物粉末の凝集が抑制されるとともに、透明分散状態の安定化を図ることも可能である。
【0133】
上述したハイブリッド複合材は、任意の形状に成形加工することができる。所定形状のハイブリッド複合材硬化物を得るには、例えば、前述の重合開始剤や硬化剤を用いることができる。このとき、重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、屈折率、機械強度、硬化性、相溶性、着色抑制等の観点から、ハイブリッド複合材中の複合酸化物粉末以外の固形分に対する固形分換算で、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、また、20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0134】
ハイブリッド複合材の成形においては、各種公知の成形方法が適用可能である。例えば、フィルム状又はシート状に成形、硬化させる場合、スピンコート、バーコート、スプレーコート、ロールコート等の既知の製膜方法を用いて製膜した後、紫外線、熱、電子線等を照射して重合させて硬化させることができる。また、ディスペンサー等を用いて所望の部位に直接流し込んだ後、紫外線等で重合させてもよい。硬化方法は、特に限定されないが、紫外線(UV)照射による硬化が好適である。UV照射による場合、紫外線ランプは、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、UV−LED等を用い、紫外線の照度としては、屈折率、機械強度、硬化性、相溶性、着色抑制等の観点から、30〜3000mW/cm
2、積算光量は10〜10000mJ/cm
2で照射して硬化させることが好ましい。このとき、これらの光照射又は電子線照射と、赤外線照射、熱風印加、高周波加熱等を併用してもよい。
【0135】
6.複合酸化物粉末の用途
本実施形態の複合酸化物粉末は、高い屈折率を有するのみならず、易分散である。そのため、これを用いた分散液、ハイブリッド複合粒子、ハイブリッド複合材及び光学材料においては、高い屈折率を有する複合酸化物粒子を容易に多量に含有させることができ、複合酸化物粉末の含有量を変化させることも可能である。したがって、本実施形態の複合酸化物粉末は、可視光域で用いられる光学部材、各種光学特性を組み合わせて一つの光学系を設計するようなレンズ用途、膜用途、光回路、光導路等、広範囲な屈折率制御が求められる各種用途等において好適に用いることができる。とりわけ、本実施形態の複合酸化物粉末は、幅広い波長領域で透明性が高く、しかも高い屈折率が要求される各種の光学用部材として最適な素材の1つとなる。すなわち、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(EL)、表面電界ディスプレイ(SED)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の表示部に用いられる前方散乱、反射、集光等の機能性フィルムに最適である。また、光ファイバー、導光シート、マイクロアレイレンズシート、プリズムシート、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等の光伝送部材、レンズシート、拡散フィルム、ホログラフィック基板、調光フィルム等においても適用可能である。
【0136】
さらに、本実施形態の複合酸化物粉末は、高い誘電率を有することから、例えば、コンデンサ用誘電体として好適である。コンデンサ用誘電体の具体的な態様については、当業者にとって公知(例えば、特開2017−50346号公報等)である。すなわち、本実施形態の複合酸化物粉末は、例えば、積層セラミックコンデンサの誘電体層に適用することができる。
【実施例】
【0137】
以下、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
1.複合酸化物粒子(複合酸化物粉末)および分散液の製造
(実施例1)
第1工程:窒素置換したフラスコに水酸化バリウム8水和物(元素Aを含む前駆体)288.4g(0.91mol)と2−メトキシエタノール(含酸素有機溶媒)を1253ml加えて10分間撹拌した。次に、1251mlのベンジルアルコール(含酸素有機溶媒)とチタニウムイソプロポキシド(元素Mを含む前駆体)166.5g(0.59mol)を溶解した液を添加し、10分間撹拌した。次いで、オレイルアミン(アミン類)157g(0.59mol)を添加して10分間撹拌して反応液を得た。
【0139】
第2工程:得られた反応液を、オートクレーブに移液し、室温から105分かけて160℃まで加熱し、固形分を含む乳白色スラリー状の合成液を得た。
【0140】
第3工程:得られた乳白色スラリー状の合成液に当該合成液の2.2倍量(質量比)のメタノールを添加し、混合撹拌した。メタノールを混合した液を遠心分離し、沈殿物として固形分(1)を得た。得られた固形分(1)に、再度、上記合成液の2.2倍量(質量比)のメタノールを添加し、分散させた後、遠心分離を行い、沈殿物として固形分(2)を得た。この固形分(2)に0.3質量%のアクリル酸を含有するメタノール溶液(酸溶液)を加えて、該固形分(2)を分散させた後に、遠心分離を行い、チタン酸バリウムを含む固形分(3)を得た。次に、チタン酸バリウムを含む固形分(3)の濃度が5質量%となるように、該固形分(3)にエタノールを添加して分散洗浄を行い、遠心分離を行い、沈殿物を除去した。得られた上澄み液を濃縮し、70℃で乾燥することにより実施例1の複合酸化物粉末(ペロブスカイト型結晶構造をもつチタン酸バリウムの粉末)を得た。
また、上澄み液を調整した後に、チタン酸バリウムの粉末の固形分濃度が5質量%になるように、調整後の上澄み液に2−メトキシエタノールを加えて分散液(2−メトキシエタノールを10質量%含有するエタノール分散液)を作製し、平均分散粒子径を測定した。
【0141】
(比較例1)
第1工程:15mlの2−メトキシエタノール(含酸素有機溶媒)をフラスコに入れ、窒素バブリングしながら、3.45g(10.94mmol)の水酸化バリウム8水和物(元素Aを含む前駆体)を添加して10分間攪拌して溶解させた。別に15mlのベンジルアルコール(含酸素有機溶媒)に1.995g(7.0mmol)のチタニウムイソプロポキシド(元素Mを含む前駆体)を溶解した液を調製しておき、水酸化バリウムの2−メトキシエタノール溶液に添加し、1時間攪拌した。次いで、オレイルアミン25g(アミン類:94mmol)を添加して2時間攪拌して、反応液を得た。
【0142】
第2工程:得られた反応液をテフロン(登録商標)製の内筒を有するステンレス製密閉容器に封入し、105分かけて室温から160℃まで加熱し、固形分1を含む乳白色スラリー状の合成液を得た。
【0143】
第3工程:得られた乳白色スラリー状の合成液25gにメタノール55gを添加し、30分撹拌した。生成した沈殿を遠心分離して固形分(11)を得た。得られた固形分(11)にさらにメタノール55gを添加し固形分(11)を分散させた後、さらに遠心分離を行い、固形分(12)を得た。この固形分(12)に5質量%の酢酸溶液(溶媒:アセトン/水=1/1(質量比))55gを加えて分散洗浄した後、遠心分離を行い、固形分(13)を得た。その後、固形分(13)にアセトン27.5gを加えて分散し、遠心分離を行う操作を2回繰り返した。遠心分離で得られた固形分(14)を120℃2時間乾燥することにより、比較例1の複合酸化物粉末(ペロブスカイト型結晶構造をもつチタン酸バリウム粉末)を得た。
また、遠心分離で得られた固形分(14)に、チタン酸バリウムの固形分濃度が10質量%になるように2−メトキシエタノールを加えて分散液を作製し、平均分散粒子径を測定した。
【0144】
(比較例2)
第1工程:窒素置換したフラスコに水酸化バリウム8水和物(元素Aを含む前駆体)162.3g(514mmol)と2−メトキシエタノール(含酸素有機溶媒)を705.1ml加えて10分間撹拌した。次に、704.3mlのベンジルアルコール(含酸素有機溶媒)とチタニウムイソプロポキシド(元素Mを含む前駆体)93.4g(329mmol)を溶解した液を添加し、10分間撹拌した。次いで、オレイルアミン(アミン類)1179g(4407mmol)を添加して10分間撹拌して、反応液を得た。
【0145】
第2工程:得られた反応液をオートクレーブに移液し、室温から105分かけて160℃まで加熱して5時間保持し、固形分を含む乳白色スラリー状の合成液を得た
【0146】
第3工程:得られた乳白色スラリー状の合成液に反応終了液の2.2倍(質量比)量のメタノールを添加し、混合撹拌した。メタノールを混合した液を遠心分離し、得られた固形分(21)にさらに反応終了液の2.2倍(質量比)量のメタノールを添加し、分散させた後、さらに遠心分離を行い、固形分(22)を得た。この固形分(22)に5質量%のアクリル酸溶液(溶媒:アセトン/水=1/1(質量比))を合成液の2.2倍(質量比)量を加えて分散洗浄した後、遠心分離を行い、固形分(23)を得た。その後、固形分(23)に反応終了液と同量のアセトンを加えて分散し、遠心分離を行う操作を2回繰り返した。遠心分離で得られた固形分(24)を65℃で2時間乾燥することにより、比較例2の複合酸化物粉末(ペロブスカイト型結晶構造をもつチタン酸バリウムの粉末)を得た。
また、遠心分離で得られた固形分(24)に、チタン酸バリウムの固形分濃度が10質量%になるように2−メトキシエタノールを加えて分散液を作製し、平均分散粒子径を測定した。
【0147】
2.複合酸化物粉末の評価
得られた複合酸化物粉末について、ICPによる元素分析、平均結晶子径の測定を行った。それぞれの測定条件及び評価方法は、以下のとおりである。
【0148】
2.1.ICPによる元素分析
複合酸化物粉末に、フッ酸を含む酸の水溶液を加えて溶解し、希釈後に誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、CAP7600 Du 0)を用いて測定を行った。得られた元素分析結果から、BaとTiのモル比を算出した。なお、実施例1においては、複合酸化物粉末が上記水溶液に溶解しにくかったために、酸の水溶液を加える前に乾式灰化処理を行って溶解液を作成した。
【0149】
2.2.平均結晶子径
複合酸化物粉末の平均結晶子径を、粉末X線回折測定(XRD測定)で得られる結晶性ピークの半値幅から、上述したScherrer式から算出した。尚、粉末X線回折測定の装置の仕様や測定条件は下記表1、2に示す通りである。
【0150】
【表1】
【0151】
【表2】
【0152】
<平均分散粒子径D50>
得られた分散液に対して、動的光散乱式粒子径分布測定装置(SZ−100、堀場製作所製)を用いて、平均分散粒子径を測定した。
ホルダ温度 :25℃
試料屈折率 :2.40(チタン酸バリウム)
【0153】
評価結果を下記表3に示す。また、
図2〜6に各複合酸化物粉末について粉末X線回折測定結果を示す。
【0154】
【表3】
【0155】
表3に示す結果から明らかなように、所定のソルボサーマル法によって固形分を得た後、当該固形分に対して5質量%未満の酸溶液を用いた処理を行った実施例1においては、最終的に得られる複合酸化物粉末における元素Aと元素Mとのモル比(A/M)を、ペロブスカイト型結晶として理想的な1により近付けることができた。この理由としては、5質量%未満の酸溶液により洗浄することで、固形分から元素Aを含む不純物(例えば、BaCO
3)を適切に除去できたためと考えられる。また、
図2に示す結果から明らかなように、実施例1においては、複合酸化物粉末にペロブスカイト型結晶相が含まれていた。ペロブスカイト型結晶相の平均結晶子径は、いずれも10nm以下と極めて小さなものであった。
一方、所定のソルボサーマル法によって固形分を得た後、当該固形分に対して5質量%の酸溶液により酸洗を行った比較例1、2においては、最終的に得られる複合酸化物粒子における元素Aと元素Mとのモル比(A/M)が、ペロブスカイト型結晶として理想的な1を大きく下回った。この理由としては、酸溶液の酸成分濃度が大きすぎたために、酸洗によって、固形分から元素Aを含む不純物だけでなく、ペロブスカイト型結晶相を構成する元素Aまでもが溶出したためと考えられる。尚、
図3、4に示す結果から明らかなように、比較例1、2においても、複合酸化物粉末にペロブスカイト型結晶相が含まれていた。ペロブスカイト型結晶相の平均結晶子径は、いずれも10nm以下と極めて小さなものであった。
【0156】
尚、反応液の仕込み段階で元素Aと元素Mとの比(A/M)を1としたとしても、最終的に得られる複合酸化物粒子におけるモル比(A/M)は1を大きく下回る。すなわち、元素Aよりも元素Mの方が反応性が高いことから、複合酸化物粒子中に目的とするペロブスカイト型結晶相以外に元素M由来の酸化物(酸化チタン等)が多量に生成し、その後の洗浄操作等によって元素Aが抜け落ち、結果として、元素Aよりも元素Mの比率の方が高くなってしまう。このように、初期の元素Aと元素Mとの仕込みにより、最終的に得られる粒子中のモル比(A/M)を理想的な1に近付けることは極めて困難である。
【0157】
尚、上記実施例では、元素AとしてBa、元素MとしてTiを用いた複合酸化物粒子を示したが、本開示の技術は、元素AとしてBa以外の元素を用いた場合や、元素MとしてTi以外の元素を用いた場合においても、反応性の観点から、同様の効果を発揮するものと考えられる。例えば、元素Aとして、Ba、Sr、Ca、Mg、Al、Pb、Co、及びZnよりなる群から選択される1種以上、元素Bとして、Ti、Zr、W、Nb、Hf、及びSnよりなる群から選択される1種以上を採用した場合に、同様の効果を発揮するものと考えられる。