(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性有機モノマー(A)、水膨潤性粘土鉱物(B)、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)、及び水を含有し、粘度が100mPa・s以上である有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物であって、前記水膨潤性粘土鉱物(B)が、ホスホン酸変性ヘクトライト及び変性ベントナイトを含むものであることを特徴とする有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、水溶性有機モノマー(A)、水膨潤性粘土鉱物(B)、重合開始剤(C)、重合促進剤(D)、及び水を含有し、粘度が100mPa・s以上である有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物であって、前記水膨潤性粘土鉱物(B)が、変性ヘクトライト及び変性ベントナイトを含むものである。
【0011】
前記水溶性有機モノマー(A)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマー、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー、ヒドロキシル基を有するアクリルモノマー等が挙げられる。
【0012】
前記(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0013】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマーとしては、例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシメチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート等が挙げられる。
【0014】
前記ヒドロキシル基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、溶解性及び得られる有機無機ヒドロゲルの物性の観点から、(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーを用いることが好ましく、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンを用いることがより好ましく、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンを用いることがさらに好ましく、重合が進行しやすい観点から、N,N−ジメチルアクリルアミドが特に好ましい。
【0016】
なお、上述の水溶性有機モノマー(A)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)は、上記水溶性有機モノマーの重合体とともに三次元網目構造を形成し、有機無機ヒドロゲルの構成要素となるが、本発明の前駆体組成物が水中においても希釈されず、有機無機複合ヒドロゲルを容易に形成する上で、変性ヘクトライト及び変性ベントナイトを含むことが重要である。
【0018】
前記変性ヘクトライトとしては、例えば、ホスホン酸変性ヘクトライト、フッ素変性合成ヘクトライト等が挙げられるが、前記水溶性有機モノマー(A)と混合した際の混合液の保存安定性がより向上することからホスホン酸変性ヘクトライト好ましい。これらの変性ヘクトライトは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記ホスホン酸変性ヘクトライトとしては、例えば、ピロリン酸変性ヘクトライト、エチドロン酸変性ヘクトライト、アレンドロン酸変性ヘクトライト、メチレンジホスホン酸変性ヘクトライト、フィチン酸変性ヘクトライト等を用いることができる。これらのホスホン酸変性ヘクトライトは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記変性ベントナイトとしては、例えば、ナトリウム置換型ベントナイト等が挙げられ、ナトリウム置換型ベントナイトと有機ポリマーとの混合物が好ましい。
【0021】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)は、本願発明の効果を損なわない範囲において、その他の水膨潤性粘土鉱物を含有することもできる。
【0022】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)中の前記変性ヘクトライトは、水中においても、より物性に優れるヒドロゲルが容易に得られることから、30〜90質量%が好ましく、35〜85質量%がより好ましい。
【0023】
また、前記水膨潤性粘土鉱物(B)中の前記変性ベントナイトは、水中においても、より物性に優れるヒドロゲルが容易に得られることから、10〜70質量%が好ましく、15〜65質量がより好ましい。
【0024】
前記重合開始剤(C)としては、特に制限されないが、水溶性の過酸化物、水溶性のアゾ化合物等が挙げられる。
【0025】
前記水溶性の過酸化物としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0026】
前記水溶性のアゾ化合物としては、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、前記水膨潤性粘土鉱物(B)との相互作用の観点から、水溶性の過酸化物を用いることが好ましく、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを用いることがより好ましく、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いることがさらに好ましい。
【0028】
なお、前記重合開始剤(C)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
前記重合促進剤(D)としては、例えば、3級アミン化合物、チオ硫酸塩、アスコルビン酸類等が挙げられる。
【0030】
前記3級アミン化合物としては、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、3−ジメチルアミノプロピオニトリルが挙げられる。
【0031】
前記チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0032】
前記アスコルビン酸類としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウムが挙げられる。
【0033】
これらのうち、水膨潤性粘土鉱物との親和性及び相互作用の観点から、3級アミン化合物を用いることが好ましく、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを用いることがより好ましい。
【0034】
なお、前記重合促進剤(D)は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中の前記水溶性有機モノマー(A)の含有量は、1〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。前記水溶性有機モノマー(A)の含有量が1質量%以上であると、力学物性に優れるヒドロゲルを得ることができることから好ましい。一方、水溶性有機モノマーの含有量が50質量%以下であると、組成物の調製が容易にできることから好ましい。
【0036】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中の前記水膨潤性粘土鉱物(B)の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。水膨潤性粘土鉱物の含有量が1質量%以上であると、力学物性に優れるヒドロゲルを合成できることから好ましい。一方、水膨潤性粘土鉱物の含有量が20質量%以下であると、前駆体組成物の調製が容易にできることから好ましい。
【0037】
前記水溶性有機モノマー(A)に対する前記重合開始剤(C)のモル比[(C)/(A)]は、水中や空気雰囲気下においても、前記水溶性有機モノマー(a1)の重合を十分に進行させることができることから、0.01〜0.1の範囲であることが重要であり、好ましくは、0.01〜0.05の範囲である。
【0038】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中の前記重合促進剤(D)の含有量は、0.01〜1質量%であることが好ましく、0.05〜0.5質量%であることがより好ましい。0.01質量%以上であると、得られるヒドロゲルの有機モノマーの合成を効率よく促進できることから好ましい。一方、1質量%以下であると、分散液が重合前に凝集せずに使用することができて、取扱性が向上することから好ましい。
【0039】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物の粘度は、水中においても、希釈、分散されず、有機無機複合ヒドロゲルが得られることから、100mPa・s以上であることが重要であるが、150mPa・s以上であることがより好ましい。なお、本発明における粘度は、B型粘度計(25℃)で測定した値である。
【0040】
また、本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物の比重は、水中での沈降がより早く、容易に有機無機複合ヒドロゲルが得られることから、1.025以上であることが好ましく、1.027以上であることがより好ましい。
【0041】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、前記水溶性有機モノマー(A)、前記水膨潤性粘土鉱物(B)、前記重合開始剤(C)、前記重合促進剤(D)、及び水を含有するが、必要に応じて、有機溶媒、有機架橋剤、防腐剤、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。
【0042】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール等のアルコール化合物;エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル化合物;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物などが挙げられる。
【0043】
これらの中でも、前記ホスホン酸ヘクトライト(a2)との親和性の観点から、アルコール化合物を用いることが好ましく、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールを用いることがより好ましく、メタノール、エタノールを用いることがさらに好ましい。
【0044】
なお、これらの有機溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物の調製方法は、例えば、前記水溶性有機モノマー(A)、前記水膨潤性粘土鉱物(B)、前記重合開始剤(C)、前記重合促進剤(D)、水等を一括で混合する方法;前記水溶性有機モノマー(A)を含有する分散液と前記重合開始剤(C)を含有する溶液とを別の分散液又は溶液として調製し、使用直前に混合する多液混合方法等が挙げられるが、分散性、保存安定性、粘度制御等の観点から、多液混合方法が好ましい。
【0046】
前記水溶性有機モノマー(A)を含有する溶液としては、例えば、前記水溶性有機モノマー(A)、前記水膨潤性粘土鉱物(B)及び水を混合した溶液等が挙げられる。
【0047】
前記重合開始剤(C)を含有する溶液としては、例えば、前記重合開始剤(C)と前記重合促進剤(D)と水とを混合した水溶液等が挙げられる
【0048】
本発明の有機無機複合ヒドロゲルは、前記有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物中の前記水溶性有機モノマー(A)を重合することにより得られる。
【0049】
重合温度としては、10〜80℃であることが好ましく、20〜80℃であることがより好ましい。重合温度が10℃以上であると、ラジカル反応が連鎖的に進行できることから好ましい。一方、重合温度が80℃以下であると、分散液中に含まれる水が沸騰せずに重合できることから好ましい。
【0050】
重合時間としては、前記重合開始剤(C)や前記重合促進剤(D)の種類によって異なるが、数十秒〜24時間の間で実施される。特に、加熱やレドックスを利用するラジカル重合の場合は、1〜24時間であることが好ましく、5〜24時間であることがより好ましい。重合時間が1時間以上であると、前記水膨潤性粘土鉱物(B)と前記水溶性有機モノマー(A)の重合物が三次元網目を形成できることから好ましい。一方、重合反応は24時間以内にほぼ完了するので、重合時間は24時間以下が好ましい。
【0051】
また、本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、粘度が高く、窒素雰囲気下以外でも重合することから、水中に前記有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物を流し込み、水中で重合させることもできる。
【0052】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物は、水中や空気雰囲気下においても、簡易に有機無機複合ヒドロゲルを製造できることから、土木工事現場や建築工事現場等の現場施工用途においても、好適に使用できる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。なお、組成物の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製「TV−22」、25℃)で測定した値であり、比重は、JIS K6901のピクノメータ法により測定した値である。
【0054】
(調製例1:重合開始剤混合液(1)の調製)
平底ガラス容器に、水5mL、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)40μLを入れて撹拌し、均一な重合促進剤溶液を調製した。ここに過硫酸ナトリウム(NPS)0.25gを入れて撹拌し、重合開始剤混合液(1)を得た。
【0055】
(実施例1:有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)の製造)
平底ガラス容器に、純水100g、ホスホン酸変性ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「ラポナイトS−482」)4.8g、ジメチルアクリルアミド(DMAA)20gを入れて、撹拌により均一透明な水溶液を調製した。この水溶液124.8gに変性ベントナイト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「OPTIGEL LX」)2gを添加し、25℃で3時間撹拌し、水溶性有機モノマーと水膨潤性粘土鉱物との混合液を得た。この混合液55gに、上記で得た重合開始剤混合液(1)を全量加え、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)を得た。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(1)の粘度は740mPa・sであり、比重は1.033であった。
【0056】
(実施例2:有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(2)の製造)
使用する変性ベントナイトを、「OPTIGEL WM」(ビックケミー・ジャパン株式会社製の変性ベントナイト)に変更し、変性ベントナイト添加後の撹拌時間を3時間から2時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(2)を得た。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(2)の粘度は167mPa・sであり、比重は1.033であった。
【0057】
(実施例3:有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(3)の製造)
使用する変性ベントナイトを、「OPTIGEL WX」(ビックケミー・ジャパン株式会社製の変性ベントナイト)に変更し、変性ベントナイト添加後の撹拌時間を3時間から4時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(3)を得た。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(3)の粘度は700mPa・sであり、比重は1.031であった。
【0058】
(実施例4:有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(4)の製造)
使用する変性ベントナイト及びその添加量を、「OPTIGEL W724」(ビックケミー・ジャパン株式会社製の変性ベントナイト)1gに変更した以外は、実施例1と同様にして、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(4)を得た。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(4)の粘度は1740mPa・sであり、比重は1.028であった。
【0059】
(比較例1:有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(R1)の製造)
平底ガラス容器に、純水100g、合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン株式会社製「ラポナイトRD」)4.8g、ジメチルアクリルアミド(DMAA)20gを入れて、撹拌により均一透明な水溶液を調製した。この水溶液55gに、重合開始剤混合液(1)を全量加え、有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(R1)を得た。この有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物(R1)の粘度は3.9mPa・sであり、比重は1.023であった。
【0060】
[ゲル化時間の測定]
JISK6901 5.10.1(A法)に準拠し、空気中の前駆体組成物がゲル化する時間を測定した。
【0061】
[水中でのゲル形成性の評価]
上記で得られた有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物20gを、23℃の水100gを入れた200mlのガラスビーカーに静かに流し込み、上記で測定したゲル化時間経過時にゲルの形成状態を確認し、下記評価基準に従って評価した。なお、得られたヒドロゲルは、ガラス棒で押しても破壊されなかった。
◎:組成物が速やかに沈降し、ヒドロゲルを形成した。
○:組成物の一部は水に分散したが、沈降したものはヒドロゲルを形成した。
×:組成物が水中に分散、希釈され、ヒドロゲルが得られなかった。
【0062】
上記で得られた評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
本発明の有機無機複合ヒドロゲル前駆体組成物である実施例1〜4のものは、ゲル形成性が優れることが確認された。
【0065】
一方、比較例1は、本発明の必須成分である変性ヘクトライト及び変性ベントナイトを含有せず、粘度が100mPa・s未満であった例であるが、組成物が水中に分散、希釈され、ヒドロゲルが得られなかった。