【実施例】
【0075】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施例に限定されることはなく、そのバリエーションを含むものである。
【0076】
本発明の真空断熱複層ガラスパネルを製作するために、先ずはその封止材料ペーストを作製するのに用いた無鉛低融点ガラスを42種類試作した。
【0077】
表1は、試作した無鉛低融点ガラスの組成及び特性を示したものである。
【0078】
【表1】
【0079】
これらの無鉛低融点ガラスG−01〜G−42は、実質的に有害な鉛を含有させない等、環境と安全に配慮したものである。
【0080】
ガラス原料としては、新興化学製V
2O
5、高純度化学研究所製TeO
2、和光純薬製Ag
2O、高純度化学研究所製WO
3、高純度化学研究所製BaCO
3、高純度化学研究所製K
2CO
3、高純度化学研究所製P
2O
5、高純度化学研究所製Al
2O
3、高純度化学研究所製Fe
2O
3、高純度化学研究所製Y
2O
3、高純度化学研究所製La
2O
3及び高純度化学研究所製ZnOの粉末を用いた。
【0081】
ガラス原料を合計で200〜300g程度になるように秤量、配合、混合し、白金ルツボ或いは石英ルツボに投入した。それをガラス溶融炉(電気炉)内に設置し、約10℃/分の昇温速度で750〜950℃まで加熱し、ルツボ内の融液を均一にするためにアルミナ棒で攪拌しながら1時間保持した。その後、ルツボをガラス溶融炉から取り出し、ルツボ内の融液をステンレス鋼板へ流し込み、表1に示す無鉛低融点ガラスG−01〜42をそれぞれ作製した。
【0082】
V
2O
5−TeO
2系無鉛低融点ガラスであるG−01〜G−09には白金ルツボを、V
2O
5−TeO
2−Ag
2O系無鉛低融点ガラスであるG−10〜G−42には石英ルツボを用いた。また、G−01〜G−09は950℃で、G−10〜G−19は850℃で、G−20〜G−42は750℃で溶融した。
【0083】
それぞれ試作した無鉛低融点ガラスG−01〜G−42の密度、特性温度及び熱膨張係数を測定した。特性温度に関しては、ガラス粉末の示差熱分析(DTA)により測定した。ここでは、ガラス特有のDTAカーブの特性点が明確に現れるように、マクロセルタイプを使用した。
【0084】
図9は、代表的なガラスのDTAカーブの一例を示したものである。
【0085】
図9において、第一吸熱ピークの開始温度が転移点T
g、その吸熱ピーク温度が屈伏点M
g、第二吸熱ピーク温度が軟化点T
sである。これらの特性温度は、接線法によって求められることが一般的である。それぞれの特性温度は、ガラスの粘度により定義され、T
gが10
13.3ポイズ、M
gが10
11.0ポイズ及びT
sが10
7.65ポイズに相当する温度である。
【0086】
次に、試作した無鉛低融点ガラスG−01〜G−42を平均粒径(D
50)が1〜3μm程度になるまでジェットミルにて粉砕し、封止材料ペーストに用いた。なお、無鉛低融点ガラスの平均粒径(D
50)は、(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。
【0087】
表2及び表3は、本発明の封止材料ペーストに用いた低熱膨張フィラー粒子と球状のガラスビーズを示したものである。
【0088】
低熱膨張フィラー粒子は、平均粒径(D
50)が5〜15μmのものを用いた。その平均粒径(D
50)は、(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。球状のガラスビーズは、篩を用いて分級し、所望のサイズ範囲とした。その平均直径(D
50)は、(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表1の無鉛低融点ガラスの粒子と、表2の低熱膨張フィラーと、表3の球状ガラスビーズと、樹脂バインダーと、溶剤とを用いて、封止材料ペーストを作製した。
【0092】
樹脂バインダーとしては、無鉛低融点ガラスG−01〜G−09を使用する際にはエチルセルロース或いはニトロセルロース、無鉛低融点ガラスG−10〜G−42を使用する際には脂肪族ポリカーボネートを用いた。溶剤としては、無鉛低融点ガラスG−01〜G−09を使用する際にはブチルカルビトールアセテート、無鉛低融点ガラスG−10〜G−42を使用する際にはプロピレンカーボネートとテルペン系溶剤の両方を用いた。
【0093】
[実施例1]
本実施例では、本発明の真空断熱複層ガラスの封止部を模擬した接合体を本発明の封止材料ペーストを用い作製し、その接合部の信頼性を評価した。具体的には、本発明の封止材料ペーストを用い、2つのガラス基板を接合し、その接合体の接合強度をせん断応力によって評価した。比較例としては、球状のガラスビーズを含まない封止材料ペーストを用い、これを基準にガラスビーズ含有の有効性を確認した。
【0094】
本実施例における接合体の作製方法を
図10A〜11Bに示す。
【0095】
図10Aは、真空断熱複層ガラスパネルの封止部を模擬した接合体の製法の一部である、ガラス基板に封止材料ペースト及びスペーサを設置した状態を示す概略斜視図である。
【0096】
図10Bは、
図10Aのガラス基板にもう1枚のガラス基板を重ねる工程を示す概略斜視図である。
【0097】
図11Aは、
図10Bの工程の後、2枚のガラス基板を押圧する工程を示す概略断面図である。
【0098】
図11Bは、
図11Aの工程が完了した状態を示す概略断面図である。
【0099】
ガラス基板101、102には、厚さが5mmの極一般的なソーダライムガラスを用いた。ガラス基板101には20×20mmの正方形サイズを、ガラス基板102には10×10mmの正方形サイズを用いた。
【0100】
先ずは、
図10Aに示すように、ガラス基板101の上面に封止材料ペースト13を直径5mmで、厚さ500〜600μm程度に塗布した。さらに、高さが220μmの金属製のスペーサ3を4つ設置した。これを150℃で30分間乾燥した後に、
図10Bに示すように、ガラス基板102を合わせた。
【0101】
そして、
図11Aに示すように、ガラス基板102の上から3Nの荷重をかけながら、
図8Aに示す温度プロファイルで接合した。その際に、
図11Bに示すように、4つのスペーサ3により接合厚が220μmになるように調整した。この過程で、封止材料ペースト13は、封止材料14に変化する。
【0102】
図12は、上記の作製方法により得られた接合体の接合強度を測定する装置の構成を示したものである。
【0103】
本図に示すように、ガラス基板101、102と、これらの間に挟み込まれた封止材料14及びスペーサ3と、で構成されている接合体を、接合体固定ジグ52に固定する。そして、ガラス基板102をせん断ジグ51により横方向に外力を加える。この際、せん断ジグ51の下端部は、ガラス基板101の上面から500μm離れた位置になるようにする。また、せん断ジグ51の移動速度は、34μm/秒とする。
【0104】
実施例及び比較例ともに、各5個ずつの接合体を作製し、上記の条件で測定したそれぞれの接合体の接合強度を用いて、平均値(平均接合強度)を算出した。その平均値を比較することにより、封止材料ペーストの優位性を評価した。
【0105】
本実施例で使用した封止材料ペーストは、固形分として、表1に示す無鉛低融点ガラスG−01〜G−42、表2に示す低熱膨張フィラー粒子F−01、及び表3に示す球状ガラスビーズB−14を含む。固形分中の無鉛低融点ガラスG−01〜G−42及び低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は、ガラス基板101、102で使用したソーダライムガラスの熱膨張を考慮して決定した。また、固形分中の球状ガラスビーズB−14の体積含有率は、20〜30体積%とした。このようにして、実施例の接合体を各5個ずつ作製し、平均接合強度を求めた。
【0106】
表4は、封止材料ペーストの固形分の体積含有率及びその接合条件並びに作製した接合体の接合強度向上率を示したものである。
【0107】
なお、接合体A−01〜A−42の接合強度向上率は、固形分のうち球状ガラスビーズB−14を含有しないものを基準とした値である。すなわち、比較例の接合体の平均接合強度を分母とし、実施例の接合体の平均接合強度から比較例の接合体の平均接合強度を引いたものを分子として算出した値である。比較例の接合体の場合、すなわち球状ガラスビーズB−14を含まない場合には、どの接合体においてもせん断応力でおおよそ10〜20MPaの平均接合強度を有していた。また、その範囲内で平均接合強度は、軟化点T
sが高い無鉛低融点ガラスを使用するほど大きくなる傾向を示した。
【0108】
【表4】
【0109】
本表から、球状ガラスビーズB−14を含有する実施例の接合体A−01〜A−42については、どの接合体においても、比較例に対し平均接合強度が向上することがわかる。
【0110】
比較例の接合体の破壊箇所を観察すると、どの接合体においても、
図12に示す封止材料14が上下に分断されている状態、すなわち220μmの接合厚のほぼ中央部で破損する場合がほとんどあった。これに対し、球状ガラスビーズB−14を含有する実施例の接合体A−01〜A−42の破壊された箇所を観察すると、どの接合体においても、球状ガラスビーズB−14の存在により、封止材料14におけるクラックの進展が抑制されている様子が認められた。これが、接合強度が向上した理由であると考えられる。
【0111】
このことから、封止材料やそのペーストに球状のガラスビーズを導入することは、接合体の強度向上、すなわち信頼性向上に有効であることが分かった。これは、真空断熱複層ガラスの低温度での気密封止に有効に適用できることは言うまでもない。
【0112】
[実施例2]
本実施例では、封止材料ペーストにおいて固形分中の球状ガラスビーズの体積含有率が接合強度に与える影響について、実施例1と同様にして
図11Bの接合体を作製し、その平均接合強度を評価することによって調べた。無鉛低融点ガラスには表1のG−08、G−10、G−25、G−36及びG−42、低熱膨張フィラー粒子には表2のF−01、球状のガラスビーズには表3のB−14を用いて、封止材料ペーストを作製した。
【0113】
なお、無鉛低融点ガラスG−08、G−10、G−25、G−36及びG−42並びに低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率の割合は、実施例1と同様に、ガラス基板101、102の熱膨張を考慮した上で一定とし、球状ガラスビーズB−14の体積含有率を変化させた。無鉛低融点ガラスG−25、G−36及びG−42は、G−08とG−10より熱膨張係数が大きいために、ガラス基板101、102の熱膨張に合わせるために、無鉛低融点ガラスの体積含有率を減らす一方、低熱膨張フィラー粒子の体積含有率を増やす必要がある。
【0114】
図13は、接合体の接合強度向上率と封止材料ペーストの固形分中における球状ガラスビーズB−14の体積含有率との関係を示すグラフである。
【0115】
本図に示すように、どの無鉛低融点ガラスを用いた場合においても、球状ガラスビーズB−14の体積含有率が10体積%未満では、接合強度向上の効果がほとんど認められない。このガラスビーズの体積含有率が10〜20体積%では、体積含有率の増加に伴って接合強度が高くなり、20〜30体積%の範囲で極大値を有する。30体積%を超えると、接合強度は低下する。なお、30体積%を超えても35体積%までは、接合強度向上率は正であり、接合強度は、球状ガラスビーズB−14を含有しない場合よりも高かった。
【0116】
40体積%での接合強度は、無鉛低融点ガラスG−08又はG−10を使用した場合には、球状ガラスビーズB−14を含有しない場合とほぼ同等であり、無鉛低融点ガラスG−25、G−36及びG−10を使用した場合には、球状ガラスビーズB−14を含有しない場合よりも低くなった。また、40体積%を超えても、接合強度は低下する一方であった。これは、ガラス基板101や102及び球状ガラスビーズ間の接合に当たり、無鉛低融点ガラスの体積含有率が不十分であることが原因であることが考えられる。また、このために、無鉛低融点ガラスにG−08やG−10を使用する場合より、G−25、G−36又はG−42を使用する場合の方が無鉛低融点ガラスの体積含有率が少なく、球状ガラスビーズB−14が35体積%を超える体積含有率では、接合強度の低下率が大きかったものと考えられる。封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスの体積含有率は、少なくとも35体積%以上は必要であると考えられる。
【0117】
以上のとおり、封止材料ペーストにおいては、ガラスビーズの体積含有率が10〜35体積%が好ましく、特に20〜30体積%が有効である。また、無鉛低融点ガラスの体積含有率は、35体積%以上が好ましい。また、この結果は、真空断熱複層ガラスパネルの低温気密封止への適用に当たり、有効に反映されることは容易に推察されるものである。
【0118】
さらに、本実施例においては、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01以外のF−02〜F−04についても、上記と同様な接合体を作製し、評価・検討を行った。
【0119】
表2に示すように、低熱膨張フィラー粒子F−01及びF−03は、マイナスの大きな熱膨張係数を有する。また、低熱膨張フィラーF−02及びF−04はゼロに近い熱膨張係数を有する。通常、低熱膨張フィラー粒子は、熱膨張係数が小さいほどガラス基板101、102の熱膨張係数に合わせやすい。そして、このような場合、無鉛低融点ガラスの体積含有率を増やすことができるため有効である。このように考えると、表2の中で最も熱膨張係数が小さいF−03が最も有効な低熱膨張フィラー粒子となる。
【0120】
しかし、F−03は、低熱膨張フィラー粒子F−01に比べると、表1に示すV
2O
5−TeO
2系及びV
2O
5−TeO
2−Ag
2O系の無鉛低融点ガラスG−01〜G−42のすべてと濡れ性が不十分であるため、緻密な接合部が得られにくい。また、所望の低熱膨張係数とすることが難しい。このため、球状ガラスビーズを導入しても、期待通りの接合強度向上の効果が得られにくい。
【0121】
低熱膨張フィラー粒子F−04についても検討した結果、熱膨張係数は低熱膨張フィラー粒子F−03ほど小さくはないが、同様な結果となった。低熱膨張フィラー粒子F−03やF−04を使用する場合は、表1に示すようなV
2O
5−TeO
2系無鉛低融点ガラスやV
2O
5−TeO
2−Ag
2O系無鉛低融点ガラスとの濡れ性を改善するような表面処理をフィラー粒子の表面に施す必要があると考えられる。
【0122】
低熱膨張フィラー粒子F−02は、低熱膨張フィラー粒子F−03やF−04に比べると、V
2O
5−TeO
2系無鉛低融点ガラスやV
2O
5−TeO
2−Ag
2O系無鉛低融点ガラスとの濡れ性は良好であった。ただし、F−02は、低熱膨張フィラー粒子としては熱膨張係数がそれほど小さいわけではない。
【0123】
熱膨張係数が非常に大きいV
2O
5−TeO
2−Ag
2O系無鉛低融点ガラスを封止材料ペーストに使用する場合には、表2に示す低熱膨張フィラー粒子の中では、熱膨張係数がマイナスの低熱膨張フィラー粒子F−01を使用することが有効であった。このような結果であっても、真空断熱複層ガラスパネルの低温気密封止へ有効に適用できることは言うまでもない。
【0124】
[実施例3]
本実施例では、封止材料ペーストにおいて固形分中の球状ガラスビーズの平均粒径(D
50)が接合強度に与える影響について、実施例1と同様にして、
図11Bに示すような接合体を作製し、その接合体の平均接合強度を評価した。ただし、
図11Bに示すスペーサ3としては、高さ250μmの金属製を用いた。また、それに合わせ、封止材料ペースト13の塗布厚も増やし、600μm強とした。
【0125】
無鉛低融点ガラスには表1のG−07、G−12、G−24、G−34及びG−39、低熱膨張フィラー粒子には表2のF−01、球状のガラスビーズには表3のB−11〜B−15を用いて、封止材料ペーストを作製した。なお、無鉛低融点ガラスG−07、G−12、G−24、G−34及びG−39及び低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率の割合は、実施例1と同様に、ガラス基板101、102の熱膨張を考慮した上で決定した。
【0126】
球状ガラスビーズB−11〜B−15は、表3に示すとおり、どれもガラス基板101、102と同じ素材のソーダライムガラスである。それらの平均粒径(D
50)は、B−11で46μm、B−12で88μm、B−13で125μm、B−14で143μm、B−15で184μmであった。スペーサ3の高さ250μmは、球状ガラスビーズの最大粒径、具体的には平均粒径(D
50)が最も大きいB−15の最大粒径を考慮して決めた。また、球状ガラスビーズB−11〜B−15の体積含有率は、無鉛低融点ガラスG−07又はG−24を使用する場合には30体積%、G−12を使用する場合には25体積%、G−34又はG−39を使用する場合には20体積%とした。
【0127】
図14は、接合体の接合強度向上率と封止材料ペーストに含まれる球状ガラスビーズの平均粒径(D
50)との関係を示すグラフである。図中の[]内は、球状ガラスビーズの体積基準の含有率を表す。
【0128】
どの無鉛低融点ガラスを用いた場合においても、球状ガラスビーズの平均粒径(D
50)が100μm未満では、接合強度向上の効果は少ない。一方、D
50が125μm以上の場合は、大きな接合強度向上の効果が得られた。
【0129】
接合体の破壊箇所を観察すると、球状ガラスビーズの平均粒径(D
50)が100μm未満では、
図12に示す封止材料14が上下に破損されている状態、すなわち250μmの接合厚のほぼ中央部から破損する場合がほとんどあった。これに対し、球状ガラスビーズの平均粒径(D
50)が接合厚250μmの半分以上である125μm以上では、球状ガラスビーズによって封止材料14におけるクラックの進展が抑制されている状態が認められた。
【0130】
以上より、接合体の接合強度向上には、球状ガラスビーズの平均粒径(D
50)を接合厚の半分以上にすることが有効であることが分かった。また、この結果は、真空断熱複層ガラスパネルの低温気密封止への適用に当たり、有効に反映されることは容易に推察されるものである。真空断熱複層ガラスパネルでは、二枚のガラス基板の間隔、すなわちスペーサの高さや封止部の厚さは、通常100〜300μmの範囲にあることから、球状ガラスビーズの平均直径(D
50)は50μm以上200μm以下ぐらいであることが適切である。
【0131】
[実施例4]
本実施例では、封止材料ペーストにおいて固形分中の球状ガラスビーズの素材の違いが接合強度に与える影響について、実施例1と同様にして、
図11Bの接合体を作製し、その平均接合強度を評価した。
【0132】
無鉛低融点ガラスには表1のG−05、G−17、G−33及びG−40、低熱膨張フィラー粒子には表2のF−01、球状のガラスビーズには表3のB−14、B−21及びB−31を用いて、封止材料ペーストを作製した。球状ガラスビーズB−14、B−21及びB−31は、表3に示すとおり、素材は異なるが、いずれも同じ篩を用いて分級し、粒径が75μm以上212μm未満のサイズとした。それぞれの球状ガラスビーズの素材は、B−14がソーダライムガラス、B−21がホウケイ酸塩ガラス、B−31が石英ガラスである。このように素材が異なると、粒径の範囲が同一であっても、密度や熱膨張係数等の物性値が異なってくる。球状ガラスビーズの熱膨張係数が異なるため、本実施例では、それも考慮して、ガラス基板101、102の熱膨張に合わせ、封止材料ペーストにおける各固形分の体積含有率を決定した。
【0133】
表5は、封止材料ペーストの固形分の体積含有率及びその接合条件並びに作製した接合体の接合強度向上率を示したものである。なお、接合体A−05a〜A−05c、A−17a〜A−17c、A−33a〜A−33c及びA−40a〜A−40cの接合強度向上率は、固形分として球状ガラスビーズを含有しない比較例である、無鉛低融点ガラスG−05、G−17、G−33又はG−40と、低熱膨張フィラー粒子F−01とを含む封止材料ペーストを用いて作製した接合体の平均接合強度を基準とした値である。無鉛低融点ガラス及び低熱膨張フィラー粒子の体積含有率は、ガラス基板101、102に使用したソーダライムガラスの熱膨張を考慮して決定した。
【0134】
【表5】
【0135】
接合体A−05a〜A−05c、A−17a〜A−17c、A−33a〜A−33c及びA−40a〜A−40cのどの接合体においても、無鉛低融点ガラスの種類が同一の場合には、ソーダライムガラス製の球状ガラスビーズB−14の含有が接着強度向上にもたらす効果が最も大きかった。次に効果があるのは、ホウケイ酸塩ガラス製の球状ガラスビーズB−21の含有であった。
【0136】
石英ガラス製の球状ガラスビーズB−31の含有は、接合体A−5c及びA−17cでは、強度向上の効果はほとんど認められず、また、接合体A−33c及びA−40cでは、逆に接合強度が減少する結果となった。
【0137】
この原因を究明するために、接合強度試験前の接合体の接合部断面を電子顕微鏡にて観察した。その結果、接合後に石英ガラス製の球状ガラスビーズB−31の界面近傍部の無鉛低融点ガラスに既にクラックが発生していたことが判明した。これは、石英ガラス製の球状ガラスビーズB−31の熱膨張が非常に小さく、無鉛低融点ガラスとの熱膨張差が非常に大きいために、クラックが発生したものと考えられる。
【0138】
低熱膨張フィラー粒子のように粒径が非常に小さい場合には、このようなクラックの発生は認められない。このことから、球状ガラスビーズの導入に当たっては、被接合材であるガラス基板101、102の熱膨張だけでなく、球状ガラスビーズとの熱膨張差も考慮しなければならないことが分かった。
【0139】
以上より、封止材料ペースト中の球状ガラスビーズは、ガラス基板101、102と同一のガラス系素材であることが接合体の接合強度向上に最も有効である。それに続いて、類似のガラス系素材でも接合強度向上の効果があることが分かった。これは、ガラス基板101、102と球状ガラスビーズとの熱膨張の整合性によるものである。封止材料ペースト中の球状ガラスビーズの熱膨張係数をガラス基板101、102の熱膨張係数に対して±15×10
−7/℃の範囲内とすることが有効であるということを示唆した結果でもある。本実施例の結果は、真空断熱複層ガラスの低温気密封止に有効に適用できることは言うまでもない。
【0140】
[実施例5]
本実施例では、上記実施例1〜4の検討結果をもとに、表1の無鉛低融点ガラスと、表2の低熱膨張フィラー粒子と、表3の球状ガラスビーズとを含む封止材料ペーストによって、
図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例として、表3の球状ガラスビーズを含まない封止材料ペーストを用いて、上記と同様にして、
図1に示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。なお、本実施例及びその比較例ともに、
図3A〜7Bに示す真空断熱複層ガラスパネルの製法並びに
図8A及び8Bに示す温度プロファイルに従って、真空断熱複層ガラスパネルを製作した。
【0141】
本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいては、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に300×300×3mmのサイズのソーダライムガラス基板、スペーサ3に、高さ200μm、外径500μmの金属製スペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。本実施例で使用した封止材料ペーストは、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とを固形分として含有する。その固形分中のそれぞれの体積含有率は、48:27:25(体積%)である。
【0142】
また、比較例で使用した封止材料ペーストには、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01とを固形分として含有する。その固形分中のそれぞれの体積含有率は、64:36(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−08及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0143】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、熱貫流率がともに0.7W/m
2・K程度であり、良好であった。
【0144】
図15は、真空断熱複層ガラスパネルの信頼性を評価するために用いた試験装置を示したものである。
【0145】
本図に示す試験装置は、四角形のフッ素樹脂容器19(PTFE:ポリテトラフロロエチレン等で形成されている。)にシリコンゴムパッキン20を介して真空断熱複層ガラスパネルを設置し、試験をすることができる構成を有している。フッ素樹脂容器19の外部には、温風機及び冷風機が設置されている。これらのいずれかからは、φ10mmのフッ素樹脂管21(PTFE等で形成されている。)を介して、温度が大きく異なる2種類の空気をフッ素樹脂容器19内に送ることができるようになっている。空気の温度は、自動開閉弁により切り替え可能となっている。
【0146】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルについては、80℃の温風及び−50℃の冷風を交互に30L/分の流速で15分間パネルへ吹き付けた。温風及び冷風を1回ずつ吹き付けた場合を1サイクルとし、これを1000回繰り返した。そして、1000回後に熱貫流率の測定等をすることにより、封止部の破損状態を評価した。
【0147】
上記のサイクルを経過した後、比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、破損しているようには見えなかったが、どこかでリークしており、断熱性はまったく得られなかった。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。
【0148】
[実施例6]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08の代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−12を用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とである。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0149】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、本実施例のスペーサ3に、高さ200μm、外径500μmのポリイミド樹脂製のスペーサを用いた点である。比較例のスペーサ3においては、実施例5と同様に、同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0150】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−12、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−13の体積含有率は、46:29:25(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−12、及び低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は、61:39(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−12及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0151】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.7W/m
2・K程度であったのに対し、本実施例では0.5W/m
2・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0152】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの信頼性は、実施例5と同様にして評価した。
【0153】
実施例5と同様のサイクルを経過した後、比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、破損しているようには見えなかったが、リークが発生しており、断熱性は大きく劣化していた。これに対し、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。
【0154】
[実施例7]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表3の球状ガラスビーズB−13との代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−24と、表3の球状ガラスビーズB−12とを用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01である。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0155】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に風冷強化ソーダライムガラス基板を用いた点、及び本実施例のスペーサ3に、高さ150μm、外径300μmのポリアミド樹脂製のスペーサを用いた点である。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0156】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−24、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−12の体積含有率は、46:34:20(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−24、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は57:43(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−12及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0157】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.8W/m
2・K程度であったのに対し、本実施例では0.6W/m
2・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0158】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの信頼性は、実施例5と同様にして評価した。
【0159】
実施例5と同様のサイクルを経過した後、比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所が認められ、断熱性は大きく劣化していた。これに対し、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。さらに、ガラス基板には、風冷強化ガラスが有効に適用できることが分かった。
【0160】
[実施例8]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表3の球状ガラスビーズB−13との代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−25と、表3の球状ガラスビーズB−15とを用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01である。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0161】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に化学強化ソーダライムガラス基板を用いた点、及び本実施例のスペーサ3に、高さ250μm、外径500μmのセラミックス粒子含有フッ素樹脂製のスペーサを用いた点である。ここで、セラミックス粒子は、Al
2O
3粒子である。このセラミックス粒子は、気密封止時に樹脂製のスペーサが変形しないようにするために、樹脂製のスペーサ中に分散した。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0162】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−25、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−15の体積含有率は、40:30:30(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−25、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は57:43(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−25及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0163】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.7W/m
2・K程度であったのに対し、本実施例では0.4W/m
2・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0164】
比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所がいくつか認められ、断熱性が大きく劣化していた。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、セラミックス粒子を分散した樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。さらに、ガラス基板には、化学強化ガラスが有効に適用できることが分かった。
【0165】
[実施例9]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08の代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−22を用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とである。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルをスペーサ3の材質を変えて2種類製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例5の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0166】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、本実施例のスペーサ3に、高さ200μm、外径500μmのガラス粒子含有エポキシ樹脂製又はガラス粒子含有フェノキシ樹脂製の2種類のスペーサを用いた点である。ここで、ガラス粒子は、SiO
2粒子である。このガラス粒子は、気密封止時に樹脂製のスペーサが変形しないようにするために、樹脂製のスペーサ中に分散した。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0167】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−22、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−13の体積含有率は、42:38:20(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−22、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は53:47(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−22及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0168】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.8W/m
2・K程度であったのに対し、本実施例では2種類とも0.5W/m
2・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0169】
比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所がいくつか認められ、断熱性が大きく劣化していた。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、ガラス粒子を分散した樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。
【0170】
[実施例10]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08の代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−42を用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とである。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、
図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0171】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に風冷強化ソーダライムガラス基板を用いた点、及び本実施例のスペーサ3に、高さ200μm、外径500μmのガラス粒子含有シリコン樹脂製のスペーサを用いた点である。ここで、ガラス粒子は、SiO
2粒子である。このガラス粒子は、気密封止時に樹脂製のスペーサが変形しないようにするために、樹脂製のスペーサ中に分散した。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0172】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−42、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−13の体積含有率は、43:32:25(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−42、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は57:43(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−42及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0173】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.7W/m
2・K程度であったのに対し、本実施例では0.4W/m
2・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0174】
比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所が認められ、断熱性が大きく劣化していた。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、ガラス粒子を分散した樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。さらに、ガラス基板には、風冷強化ガラスが有効に適用できることが分かった。
【0175】
以上の実施例1〜実施例10より、本発明の真空断熱複層ガラスパネルは、低温度での気密封止を達成できることから、量産性に優れたものである。しかも、スペーサに低熱伝導の樹脂を使うことができることから、断熱性にも優れたものである。さらに、封止部の接合強度を向上できることから、信頼性にも優れたものである。これら量産性、断熱性及び信頼性は、本発明の封止材料ペーストによって実現できたものである。
【0176】
このように、本発明の封止材料ペーストを適用した本発明の真空断熱複層ガラスパネルは、世界中の住宅・建築分野等へ広く普及させていくことが可能であり、エネルギー使用量の削減によるCO
2排出量を低減し、地球温暖化対策に大きく貢献できるものである。