特許第6972969号(P6972969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6972969封止材料及びこれを用いた複層ガラスパネル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972969
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】封止材料及びこれを用いた複層ガラスパネル
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/24 20060101AFI20211111BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20211111BHJP
   E06B 3/66 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C03C8/24
   C03C27/06 101E
   C03C27/06 101Z
   E06B3/66 Z
【請求項の数】18
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-227511(P2017-227511)
(22)【出願日】2017年11月28日
(65)【公開番号】特開2019-94250(P2019-94250A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】立薗 信一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 圭
(72)【発明者】
【氏名】橋場 裕司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 大剛
(72)【発明者】
【氏名】三宅 竜也
(72)【発明者】
【氏名】紺野 哲豊
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/126378(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/092849(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0330309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C8/24
C03C27/06−27/12
E06B3/66−3/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化バナジウム及び酸化テルルを含む無鉛低融点ガラス粒子と、低熱膨張フィラー粒子と、ガラスビーズと、を固形分として含み、
前記固形分中の前記ガラスビーズの体積含有率は、10%以上35%以下であり、
前記固形分中の前記無鉛低融点ガラス粒子の体積含有率は、前記固形分中の前記低熱膨張フィラー粒子の体積含有率より大き
前記ガラスビーズは、平均直径(D50)が50μm以上200μm以下である、封止材料。
【請求項2】
請求項1記載の封止材料であって、
前記固形分中の前記ガラスビーズの体積含有率は、20%以上30%以下である、封止材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の封止材料であって、
前記固形分中の前記無鉛低融点ガラス粒子の体積含有率は、35%以上である、封止材料。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の封止材料であって、
前記無鉛低融点ガラス粒子は、酸化銀を更に含む、封止材料。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の封止材料であって、
前記無鉛低融点ガラス粒子は、酸化タングステン、酸化バリウム、酸化カリウム及び酸化リンのうちの1種類以上を更に含む、封止材料。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の封止材料であって、
前記無鉛低融点ガラス粒子は、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化イットリウム及び酸化ランタンのうちの1種類以上を更に含む、封止材料。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の封止材料であって、
前記低熱膨張フィラー粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウムで形成されている、封止材料。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の封止材料であって、
溶剤と、バインダー樹脂と、を更に含む、封止材料。
【請求項9】
請求項記載の封止材料であって、
前記バインダー樹脂は、エチルセルロース、ニトロセルロース及び脂肪族ポリカーボネートのうちの1種類以上を含む、封止材料。
【請求項10】
請求項又はに記載の封止材料であって、
前記溶剤は、ブチルカルビトールアセテート、テルペン系溶剤及びプロピレンカーボネートのうちの1種類以上を含む、封止材料。
【請求項11】
第1ガラス基板と、
前記第1ガラス基板と所定の間隔をもって対向するように配置された第2ガラス基板と、
前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板との間に挟み込まれ、前記間隔を保つスペーサと、
前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板との間に挟み込まれた封止部と、を備え、
前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板と前記封止部とで囲まれた内部空間を有し、
前記スペーサは、前記内部空間に配置され、
前記封止部は、請求項1乃至のいずれか一項に記載の封止材料を含む、複層ガラスパネル。
【請求項12】
請求項11記載の複層ガラスパネルであって、
前記ガラスビーズの最大直径は、前記間隔以下であり、
前記ガラスビーズの平均直径(D50)は、前記間隔の半分以上である、複層ガラスパネル。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の複層ガラスパネルであって、
前記ガラスビーズは、ソーダライムガラス、ホウケイ酸塩ガラス又は石英ガラスで形成されている、複層ガラスパネル。
【請求項14】
請求項11乃至13のいずれか一項に記載の複層ガラスパネルであって、
前記ガラスビーズの熱膨張係数は、前記第1ガラス基板又は前記第2ガラス基板の熱膨張係数に対して±15×10−7/℃の範囲内である、複層ガラスパネル。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか一項に記載の複層ガラスパネルであって、
前記スペーサは、樹脂を含む、複層ガラスパネル。
【請求項16】
請求項15記載の複層ガラスパネルであって、
前記樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂及びシリコン樹脂のうちの1種類以上を含む、複層ガラスパネル。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の複層ガラスパネルであって、
前記スペーサは、ガラス粒子又はセラミックス粒子を含む、複層ガラスパネル。
【請求項18】
請求項11乃至17のいずれか一項に記載の複層ガラスパネルであって、
前記第1ガラス基板又は前記第2ガラス基板は、風冷強化処理又は化学強化処理が施された強化ガラスで形成されている、複層ガラスパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止材料及びこれを用いた複層ガラスパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の複層ガラス窓より、断熱性が著しく高い窓ガラスが要求されるようになった。これを達成するには、複層ガラス窓の内部の高真空化による高断熱化が必須である。また、世界中に広く普及させていくためには、複層ガラス窓の製造コスト等にも十分に配慮して開発を進める必要がある。
【0003】
複層ガラス窓のパネル内部の高真空化を図ろうとすると、パネルの内部空間を確保するためのスペーサの数を増やす必要がある。スペーサには、円柱状の金属が使われることが一般的である。しかし、金属は熱伝導性が高いため、スペーサ数量が多いと、真空度を上げても断熱性が低下してしまうといった相矛盾した問題が生じるおそれがある。
【0004】
金属より熱伝導性が低いセラミックスやガラスをスペーサに用いることも考えられる。しかし、セラミックスやガラスは、金属よりは硬い材料である。このため、パネルガラスが傷付き、真空断熱複層ガラスパネルが破損するおそれがある。
【0005】
樹脂は、熱伝導性が低い点から、金属、セラミックス及びガラスの代わりに、スペーサに適用することは有効である。しかし、一方で、樹脂は、耐熱性が金属、セラミックス及びガラスより低いため、その耐熱温度以下の低温度で気密封止する必要がある。このため、スペーサに樹脂を用いる場合には、封止温度が高い従来の鉛系低融点ガラスやビスマス系低融点ガラスを適用することは難しいものであった。
【0006】
さらに、高真空化による破損防止や安全、防犯等のため、パネルガラスには、風冷強化処理等を施した、割れにくい強化ガラスの適用が要求されている。強化ガラスは、表面に圧縮強化層を形成することによって高強度化を図っている。しかし、従来の鉛系低融点ガラスやビスマス系低融点ガラスの強化層は、加熱温度が約320℃以上で徐々に減少し、約400℃以上では消滅してしまう。このため、封止温度が400℃以上である従来の鉛系低融点ガラスやビスマス系低融点ガラスは、強化ガラスをパネルガラスに適用することが難しい。
【0007】
上記のように、真空断熱複層ガラスパネルにおけるパネル内部の高真空化及びパネルの高断熱化には、封止温度の低温化が大変重要となる。
【0008】
特許文献1には、成分を酸化物で表したときに、10〜60質量%のAgOと、5〜65質量%のVと、15〜50質量%のTeOとを含有し、AgOとVとTeOとの合計含有率が75質量%以上100質量%未満であり、残部がP、BaO、KO、WO、Fe、MnO、Sb、及びZnOのうちの1種以上を0質量%超25質量%以下で含有する無鉛低融点ガラス組成物が開示されている。このAgO‐V‐TeO系無鉛低融点ガラスは、軟化点が268〜320℃の温度範囲にあり、従来の鉛系或いはビスマス系低融点ガラスより著しく低温度で軟化流動するものである。
【0009】
特許文献2には、平面型表示装置のガラスパネルの封着材料として適用可能で、かつ、封着工程において失透がなく、高い接合強度が得られる、バナジウム系(V−P系)の低融点ガラス(バナジンリン酸ガラス)と、フィラー粒子と、を含むガラス封着材料が開示されている。このガラス封着材料には、さらに、0.1〜1.0%体積%のガラスビーズが含まれている。ここで、ガラスビーズは、二枚のパネルガラスを等間隔で張り付けるための骨材として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−32255号公報
【特許文献2】特開2007−320822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されているガラス組成物は、320℃以下での低温度での気密封止を可能とする。しかしながら、封止温度の低温化と共に、封止部の機械的強度は低下する傾向がある。したがって、封止部の信頼性について改善の余地がある。
【0012】
特許文献2に開示されているバナジンリン酸ガラスは、軟化点が400℃前後、流動点が450℃〜500℃程度であるため、封止温度の低温化に伴う封止部の機械的強度の向上については検討が十分ではない。
【0013】
本発明の目的は、信頼性の高い複層ガラスパネル及びこれを達成するための封止材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の封止材料は、酸化バナジウム及び酸化テルルを含む無鉛低融点ガラス粒子と、低熱膨張フィラー粒子と、ガラスビーズと、を固形分として含み、固形分中のガラスビーズの体積含有率は、10%以上35%以下であり、固形分中の無鉛低融点ガラス粒子の体積含有率は、固形分中の低熱膨張フィラー体積含有率より大きい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、信頼性の高い複層ガラスパネル及びこれを達成するための封止材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】代表的な真空断熱複層ガラスパネルを示す概略斜視図である。
図1B図1Aの真空断熱複層ガラスパネルの断面図及びその封止部の拡大断面図である。
図2】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの封止部を示す拡大断面図である。
図3A】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの製法の一部である封止材料ペーストの塗布工程を示す概略斜視図である。
図3B図3Aの真空断熱複層ガラスパネルの周縁部を示す拡大断面図である。
図4A】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの製法の一部である熱線反射膜及びスペーサの形成工程を示す概略斜視図である。
図4B図4Aの概略断面図である。
図5A】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの製法の一部である、2枚のガラス基板を重ねた状態を示す概略断面図である。
図5B】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの製法の一部である、2枚のガラス基板を固定した状態を示す概略断面図である。
図6A】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの製法の一部である、真空複層ガラスパネルの内部空間を減圧する工程を示す概略断面図である。
図6B図6Aの封止部近傍の部分拡大断面図である。
図7A】一実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルの製法の一部である、真空複層ガラスパネルの内部空間を封じた状態を示す概略断面図である。
図7B図7Aの封止部近傍の部分拡大断面図である。
図8A】封止材料ペーストのバインダー樹脂を除去する工程における温度プロファイルを示すグラフである。
図8B】真空複層ガラスパネルの内部空間を減圧する工程において封止部を加熱する際の温度プロファイルを示すグラフである。
図9】ガラス特有の代表的な示差熱分析曲線(DTAカーブ)の一例を示すグラフである。
図10A】真空断熱複層ガラスパネルの封止部を模擬した接合体の製法の一部である、ガラス基板に封止材料ペースト及びスペーサを設置した状態を示す概略斜視図である。
図10B図10Aのガラス基板にもう1枚のガラス基板を重ねる工程を示す概略斜視図である。
図11A図10Bの工程の後、2枚のガラス基板を押圧する工程を示す概略断面図である。
図11B図11Aの工程が完了した状態を示す概略断面図である。
図12】真空断熱複層ガラスパネルの封止部を模擬した接合体の接合強度試験装置の一部を示す概略断面図である。
図13】真空断熱複層ガラスパネルの封止部を模擬した接合体の接合強度向上率と封止材料ペーストの固形分中の球状ガラスビーズの体積含有率との関係を示すグラフである。
図14】真空断熱複層ガラスパネルの封止部を模擬した接合体の接合強度向上率と封止材料ペーストの固形分中の球状ガラスビーズの平均粒径(D50)との関係を示すグラフである。
図15】真空断熱複層ガラスパネルの信頼性試験装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0018】
(真空断熱複層ガラスパネル)
建材用窓ガラス等に適用される真空断熱複層ガラスパネル(単に「複層ガラスパネル」ともいう。)は、二枚のガラス基板の間に多数のスペーサを介して内部空間を有する。その内部空間は、真空状態とし、さらに、その真空状態を長期間維持するために、二枚のガラス基板の周縁部が気密に封止されている。その周縁部の気密封止には、低融点ガラスと低熱膨張フィラー粒子とを含む封止材料が適用され、その気密封止部は、低融点ガラス中に低熱膨張フィラーが分散した状態となっている。また、真空断熱複層ガラスパネルでは、二枚のガラス基板の間隔、すなわちスペーサの高さや気密封止部の厚さは、通常100〜300μmの範囲にある。
【0019】
図1Aは、代表的な真空断熱複層ガラスパネルを示す概略斜視図である。
【0020】
図1Bは、図1Aに対応する断面図であり、併せてその気密封止部を拡大して示したものである。
【0021】
図1Aにおいて、真空断熱複層ガラスパネルは、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2並びにこれらの間に挟み込まれたスペーサ3及び封止部4を備えている。封止部4は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2の周縁部に設けられている。
【0022】
また、図1Bに示すように、第1ガラス基板1と第2ガラス基板2と封止部4とで囲まれた領域には、内部空間5が形成されている。第2ガラス基板2の内面には、熱線反射膜6が付設されている。スペーサ3は、複数配置され、第1ガラス基板1と第2ガラス基板2との間の間隔が所定の値となるように、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2を支持している。通常は、当該間隔が一定となるようにすることが望ましい。
【0023】
真空断熱複層ガラスパネルでは、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2には、熱膨張係数が(80〜90)×10−7/℃の範囲にあるソーダライムガラス基板が一般的に使用される。
【0024】
図1Bの拡大図に示すように、封止部4は、低融点ガラス7と低熱膨張フィラー粒子8とを含む。低熱膨張フィラー粒子8は、低融点ガラス7の中に分散されている。封止部4により、内部空間5の真空状態が実現され、長期的に維持されるようになっている。低熱膨張フィラー粒子8は、封止部4の熱膨張係数を第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2の熱膨張係数に合わせるために混合するものである。
【0025】
熱線反射膜6は、真空断熱複層ガラスパネルが建材用窓ガラスに適用される場合に有用であり、一般に用いられている。
【0026】
このような真空断熱複層ガラスパネルでは、封止温度は、封止部4に用いる低融点ガラス7の加熱温度による軟化流動特性によってほぼ決定される。すなわち、軟化点の低い低融点ガラス7を用いるほど、封止温度を低温化できることになる。しかし、一方で、軟化点の低い低融点ガラス7を用いるほど、機械的強度が低下する傾向がある。また、この場合、熱膨張係数は大きくなる傾向がある。その対策のためには、封止部4に含まれる低熱膨張フィラー粒子8の体積含有率を増やす必要がある。
【0027】
図2は、一実施形態に係る代表的な真空断熱複層ガラスパネルの封止部の断面を拡大して示したものである。
【0028】
図2において図1Bの拡大図と異なる点は、低融点ガラス7の中に球状のガラスビーズ9も分散されている点である。
【0029】
低融点ガラス7(無鉛低融点ガラス)は、酸化バナジウム(V)及び酸化テルル(TeO)を含む。この組成により、封止温度を400℃未満とすることができる。
【0030】
ガラスビーズ9の体積含有率は、10%以上35%以下である。低融点ガラス7の体積含有率は、低熱膨張フィラー粒子8の体積含有率より大きい。
【0031】
ガラスビーズ9について上記の体積含有率とすることにより、封止部4における凝集破壊を防止し、機械的強度を向上できる。これにより、真空断熱複層ガラスパネルの信頼性を確保できる。ガラスビーズ9の体積含有率が10%未満であると、機械的強度の向上はほとんど見られず、一方、35%を超えると、封止部4が第1ガラス基板1や第2ガラス基板2の界面から剥離しやすくなってしまう。なお、ガラスビーズ9の体積含有率は、20%以上30%以下であることが更に好ましい。
【0032】
さらに、低融点ガラス7が酸化銀(AgO)を含む場合は、封止温度を320℃未満とすることができる。これによって、スペーサ3に熱伝導性が低い樹脂が適用できる。さらに、第1ガラス基板1や第2ガラス基板2に風冷強化処理や化学強化処理を施した強化ガラスが適用できるようになる。また、封止温度の低温化により、真空断熱複層ガラスパネルの量産性を向上でき、かつ、量産設備投資を削減でき、製造コストの低減に貢献できる。
【0033】
ガラスビーズ9のサイズに関しては、その最大直径が第1ガラス基板1と第2ガラス基板2との間隔以下であることが必要である。また、その平均直径(D50)がその間隔の半分以上であることが好ましい。ここで、平均直径(D50)は、メジアン径であり、「平均粒径」ともいう。ガラスビーズ9の平均粒径(D50)は、例えば、篩で分級した後に、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定できる。
【0034】
ガラスビーズ9は、第1ガラス基板1や第2ガラス基板2と同一或いは類似のガラス系であることが好ましい。これは、熱膨張特性が同一或いは近いためであり、これにより封止部の機械的強度を安定的に向上させることが可能となる。
【0035】
具体的には、ソーダライムガラス(SiO−NaO−CaO系ガラス)、ホウケイ酸塩ガラス(SiO−B−NaO系ガラス)、石英ガラス(SiO)等のガラスビーズを用いることが好ましい。
【0036】
なお、本明細書においてガラスビーズとは、略球状のガラスと定義する。また、真空断熱複層ガラスパネルにおいて、低熱膨張フィラー粒子8は、封止部4の熱膨張を第1ガラス基板1や第2ガラス基板2の熱膨張に合わせるために導入されるが、上記の低融点ガラス7の体積含有率以上であると、加熱封止時の低融点ガラス7の軟化流動性が低下し、気密な封止が難しくなる。このため、低融点ガラス7の体積含有率を低熱膨張フィラー粒子8の体積含有率より大きくする必要がある。更に好ましくは、低融点ガラス7の体積含有率は35%以上とすることが有効である。また、低融点ガラス7の体積含有率は72%以下であることが好ましい。
【0037】
低融点ガラス7は、さらに、ガラス成分として、酸化タングステン(WO)、酸化バリウム(BaO)、酸化カリウム(KO)及び酸化リン(P)のうちいずれか1種以上を含む場合には、ガラス作製時のガラス化を容易とすることができる。このような組成により、作製した低融点ガラス7の結晶化傾向を小さくできる。低融点ガラス7の結晶化傾向が大きいと、加熱封止時に結晶化が発生し、良好な軟化流動特性が得られず、封止部4には高い気密性が得られないといった問題が発生する。
【0038】
また、さらに、ガラス成分として、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(Fe)、酸化イットリウム(Y)及び酸化ランタン(La)のいずれか1種以上を含むことが有効である。これらの成分は、少量であっても、結晶化の防止或いは著しい抑制に寄与する。これにより、気密性の高い封止部4が得られる。
【0039】
低熱膨張フィラー粒子8には、例えば、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)、石英ガラス、β−ユークリプタイト又はコージェライトで形成されたものを使用することができる。
【0040】
これらのなかでも、リン酸タングステン酸ジルコニウムが有効である。リン酸タングステン酸ジルコニウムは、大きなマイナスの熱膨張を有し、熱膨張係数は−40×10−7/℃である。さらに、この低熱膨張フィラー粒子8は、上記の低融点ガラス7とのぬれ性や密着性が良好なため、低熱膨張化の効果が大きく、封止部4の熱膨張をガラス基板の熱膨張に合わせやすいという特徴が得られる。低熱膨張フィラーの平均粒径(D50)は、3μm以上20μm以下であることが好ましい。3μm以上20μm以下とすることにより、界面でのクラックの発生を抑制でき、かつ、熱膨張係数調整の効果を得ることができる。なお、低熱膨張フィラーの平均粒径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定できる。
【0041】
特に、封止部に酸化バナジウム(V)と酸化テルル(TeO)と酸化銀(AgO)とを含む無鉛低融点ガラスを用いると、封止温度を低温化できるため、上記のスペーサ3には、熱伝導性が低い樹脂が適用できる。具体的な樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂及びシリコン樹脂が挙げられる。
【0042】
一般に、樹脂は、金属、セラミックス及びガラスよりは柔らかいため、スペーサ3に使用した場合には、第1ガラス基板1や第2ガラス基板2を傷付け、破損させるようなことはない。また、スペーサ3として硬さが要求される場合には、充填材としてガラス粒子やセラミックス粒子を樹脂中に分散させればよい。
【0043】
本実施形態に係る真空断熱複層ガラスパネルは、断熱性、量産性及び信頼性に優れるため、特に建材用窓ガラスへの適用が有効である。しかも、世界中の住宅・建築分野等へ広く普及させやすい。これによって、エネルギー使用量の削減によるCO排出量を低減し、地球温暖化対策に貢献できるものである。また、この真空断熱複層ガラスパネルは、建材用窓ガラス以外にも適用可能であり、たとえば車両用窓ガラス、業務用冷蔵庫や冷凍庫の扉等、断熱性が要求される箇所や製品へ広く適用することも可能である。
【0044】
(封止材料ペースト)
図2に示す真空断熱複層ガラスパネルの封止部4は、封止材料ペーストを用いて形成されることが一般的である。封止材料ペーストは、酸化バナジウム(V)及び酸化テルル(TeO)を含む低融点ガラス7の粒子と、低熱膨張フィラー粒子8と、ガラスビーズ9と、バインダー樹脂と、溶剤と、を含む。
【0045】
なお、本明細書においては、これらの封止材料ペーストの構成要素のうち、固形分は、低融点ガラス7、低熱膨張フィラー粒子8及びガラスビーズ9の3つである、として説明する。バインダー樹脂及び溶剤は、乾燥・焼成の際に、気化し、完成した封止部4には実質的に含まれないからである。
【0046】
また、固形分中の体積含有率については、上記3つの固形分の構成要素の真の体積の合計を基準(分母)として算出している。封止部4は、実質的に空隙を含まないと考えられるからである。本明細書においては、「固形分」に関する「体積含有率」の記載は、単に「体積含有率」と記載されている場合であっても、「固形分中の体積含有率」を表している。体積含有率は、体積基準の含有率であり、単位は体積%である。なお、本明細書においては、体積%を単に「%」と表記する場合もある。
【0047】
固形分中のガラスビーズ9の体積含有率は、10%以上35%以下である。また、固形分中の低融点ガラス7の粒子の体積含有率は、固形分中の低熱膨張フィラー粒子8の体積含有率より大きいことが望ましい。
【0048】
さらに、固形分中のガラスビーズ9のサイズは、真空断熱複層ガラスパネルの第1ガラス基板1と第2ガラス基板2との間隔、すなわちスペーサ3の高さや封止部4の厚さを考慮すると、ガラスビーズ9の平均直径(D50)が50μm以上200μm以下であることが適切である。通常では、真空断熱複層ガラスパネルの第1ガラス基板1と第2ガラス基板2との間隔、すなわちスペーサ3の高さや封止部4の厚さは、通常100〜300μmの範囲にあるためである。
【0049】
固形分中のガラスビーズ9の体積含有率は、封止部4の強度向上の観点から、20%以上30%以下であることが特に有効である。また、固形分中の低融点ガラス7の粒子の体積含有率は、特に35%以上であることが有効である。さらに、低融点ガラス7の粒子の体積含有率は、72%以下であることが好ましい。
【0050】
封止材料ペーストに含まれるバインダー樹脂としては、上記の低融点ガラス7への軟化流動特性や結晶化等の影響に配慮すると、エチルセルロース、ニトロセルロース及び脂肪族ポリカーボネートのうちいずれか1種以上であることが好ましい。また、溶剤は、同様に、低融点ガラス7への影響に配慮すると、ブチルカルビトールアセテート、テルペン系溶剤及びプロピレンカーボネートのうちいずれか1種以上であることが好ましい。
【0051】
上記の封止材料ペーストを真空断熱複層ガラスパネルの封止部4へ適用することによって、封止温度を低温化でき、しかも高い気密性と封止強度が得られる。さらに、スペーサ3に樹脂が、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に強化ガラスが適用できることから、真空断熱複層ガラスパネルの断熱性、量産性及び信頼性を向上できる。
【0052】
(真空断熱複層ガラスパネルの製法)
図3A〜7Bを用いて、代表的な真空複層ガラスパネルの一連の製法の一例である排気管方式について説明する。
【0053】
図3Aは、封止材料ペーストの塗布工程を示す斜視図である。
【0054】
図3Bは、図3Aの部分拡大断面図である。
【0055】
図4Aは、熱線反射膜及びスペーサを形成した状態を示す斜視図である。
【0056】
図4Bは、図4Aの断面図である。
【0057】
図5Aは、2枚のガラス基板を組み合わせた状態を示す断面図である。
【0058】
図5Bは、2枚のガラス基板を固定した状態を示す断面図である。
【0059】
図6Aは、真空複層ガラスパネルの内部空間を減圧する工程を示す断面図である。
【0060】
図6Bは、図6Aの部分拡大断面図である。
【0061】
図7Aは、真空複層ガラスパネルの内部空間を封じた状態を示す断面図である。
【0062】
図7Bは、図7Aの部分拡大断面図である。
【0063】
図8Aは、封止材料ペーストのバインダー樹脂を除去する工程における温度プロファイルを示すグラフである。
【0064】
図8Bは、真空複層ガラスパネルの内部空間を減圧する工程において封止部を加熱する際の温度プロファイルを示すグラフである。
【0065】
先ずは、図3Aに示すように、排気穴10と排気管11とを設けた第1ガラス基板1の周縁部に、ディスペンサー12を用いて封止材料ペースト13を塗布する。そして、ホットプレート上にて150℃程度で30分間乾燥して、封止材料ペースト13の溶剤を蒸発させ、除去する。
【0066】
その後、図8Aに示す温度プロファイルにより、封止材料ペーストのバインダー樹脂を分解・除去する。その後、封止材料ペースト13中に含まれる低融点ガラス7の粒子を軟化流動させることによって、封止材料14を第1ガラス基板1上で焼成する。
【0067】
その焼成条件は、図8Aに示すように、大気中にて昇温速度及び降温速度を2℃/分とする。昇温過程においては、低融点ガラス7の屈伏点Mと軟化点Tとの間の一定温度Tで一旦30分程度保持することにより、バインダー樹脂を分解・除去する。その後、再度昇温させ、軟化点Tより20〜40℃ほど高い一定温度Tで30分間程度保持することにより、封止材料14を第1ガラス基板1の周縁部に形成する。
【0068】
上記のような工程を経て、封止材料ペースト13が封止材料14に変化する。
【0069】
一方、第2ガラス基板2には、図4A及び図4Bに示すように、片面全体に蒸着法により熱線反射膜6を形成する。そして、その熱線反射膜6の表面上に多数のスペーサ3を付設する。
【0070】
つぎに、図5Aに示すように、上記の工程で作製した第1ガラス基板1と第2ガラス基板2とを対向するように合わせる。そして、図5Bに示すように、耐熱クリップ15等で固定する。
【0071】
これを図6Aに示すように真空排気炉16の内部に設置し、排気管11に電熱ヒーター17を取り付け、排気管11を真空ポンプ18に接続する。
【0072】
これを、図8Bに示す封止温度プロファイルで、先ずは大気圧で、封止材料14に含まれる低融点ガラス7の屈伏点Mと軟化点Tとの間の一定温度Tまで加熱し、30分間程度保持する。その後、図6A及び図6Bに示す排気穴10及び排気管11から内部空間5を排気しながら、軟化点Tより10〜30℃ほど高い温度Tまで加熱する。これにより、封止材料14によって周縁部に封止部4を形成するとともに、内部空間5を真空状態とする。
【0073】
次に、図7A及び図7Bに示すように、冷却時或いは冷却後に排気管11を電熱ヒーター17により焼き切ることにより、内部空間5の真空状態を維持できるようにする。
【0074】
以上のようにして、真空断熱複層ガラスパネルは作製される。
【実施例】
【0075】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施例に限定されることはなく、そのバリエーションを含むものである。
【0076】
本発明の真空断熱複層ガラスパネルを製作するために、先ずはその封止材料ペーストを作製するのに用いた無鉛低融点ガラスを42種類試作した。
【0077】
表1は、試作した無鉛低融点ガラスの組成及び特性を示したものである。
【0078】
【表1】
【0079】
これらの無鉛低融点ガラスG−01〜G−42は、実質的に有害な鉛を含有させない等、環境と安全に配慮したものである。
【0080】
ガラス原料としては、新興化学製V、高純度化学研究所製TeO、和光純薬製AgO、高純度化学研究所製WO、高純度化学研究所製BaCO、高純度化学研究所製KCO、高純度化学研究所製P、高純度化学研究所製Al、高純度化学研究所製Fe、高純度化学研究所製Y、高純度化学研究所製La及び高純度化学研究所製ZnOの粉末を用いた。
【0081】
ガラス原料を合計で200〜300g程度になるように秤量、配合、混合し、白金ルツボ或いは石英ルツボに投入した。それをガラス溶融炉(電気炉)内に設置し、約10℃/分の昇温速度で750〜950℃まで加熱し、ルツボ内の融液を均一にするためにアルミナ棒で攪拌しながら1時間保持した。その後、ルツボをガラス溶融炉から取り出し、ルツボ内の融液をステンレス鋼板へ流し込み、表1に示す無鉛低融点ガラスG−01〜42をそれぞれ作製した。
【0082】
−TeO系無鉛低融点ガラスであるG−01〜G−09には白金ルツボを、V−TeO−AgO系無鉛低融点ガラスであるG−10〜G−42には石英ルツボを用いた。また、G−01〜G−09は950℃で、G−10〜G−19は850℃で、G−20〜G−42は750℃で溶融した。
【0083】
それぞれ試作した無鉛低融点ガラスG−01〜G−42の密度、特性温度及び熱膨張係数を測定した。特性温度に関しては、ガラス粉末の示差熱分析(DTA)により測定した。ここでは、ガラス特有のDTAカーブの特性点が明確に現れるように、マクロセルタイプを使用した。
【0084】
図9は、代表的なガラスのDTAカーブの一例を示したものである。
【0085】
図9において、第一吸熱ピークの開始温度が転移点T、その吸熱ピーク温度が屈伏点M、第二吸熱ピーク温度が軟化点Tである。これらの特性温度は、接線法によって求められることが一般的である。それぞれの特性温度は、ガラスの粘度により定義され、Tが1013.3ポイズ、Mが1011.0ポイズ及びTが107.65ポイズに相当する温度である。
【0086】
次に、試作した無鉛低融点ガラスG−01〜G−42を平均粒径(D50)が1〜3μm程度になるまでジェットミルにて粉砕し、封止材料ペーストに用いた。なお、無鉛低融点ガラスの平均粒径(D50)は、(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。
【0087】
表2及び表3は、本発明の封止材料ペーストに用いた低熱膨張フィラー粒子と球状のガラスビーズを示したものである。
【0088】
低熱膨張フィラー粒子は、平均粒径(D50)が5〜15μmのものを用いた。その平均粒径(D50)は、(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。球状のガラスビーズは、篩を用いて分級し、所望のサイズ範囲とした。その平均直径(D50)は、(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて測定した。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表1の無鉛低融点ガラスの粒子と、表2の低熱膨張フィラーと、表3の球状ガラスビーズと、樹脂バインダーと、溶剤とを用いて、封止材料ペーストを作製した。
【0092】
樹脂バインダーとしては、無鉛低融点ガラスG−01〜G−09を使用する際にはエチルセルロース或いはニトロセルロース、無鉛低融点ガラスG−10〜G−42を使用する際には脂肪族ポリカーボネートを用いた。溶剤としては、無鉛低融点ガラスG−01〜G−09を使用する際にはブチルカルビトールアセテート、無鉛低融点ガラスG−10〜G−42を使用する際にはプロピレンカーボネートとテルペン系溶剤の両方を用いた。
【0093】
[実施例1]
本実施例では、本発明の真空断熱複層ガラスの封止部を模擬した接合体を本発明の封止材料ペーストを用い作製し、その接合部の信頼性を評価した。具体的には、本発明の封止材料ペーストを用い、2つのガラス基板を接合し、その接合体の接合強度をせん断応力によって評価した。比較例としては、球状のガラスビーズを含まない封止材料ペーストを用い、これを基準にガラスビーズ含有の有効性を確認した。
【0094】
本実施例における接合体の作製方法を図10A〜11Bに示す。
【0095】
図10Aは、真空断熱複層ガラスパネルの封止部を模擬した接合体の製法の一部である、ガラス基板に封止材料ペースト及びスペーサを設置した状態を示す概略斜視図である。
【0096】
図10Bは、図10Aのガラス基板にもう1枚のガラス基板を重ねる工程を示す概略斜視図である。
【0097】
図11Aは、図10Bの工程の後、2枚のガラス基板を押圧する工程を示す概略断面図である。
【0098】
図11Bは、図11Aの工程が完了した状態を示す概略断面図である。
【0099】
ガラス基板101、102には、厚さが5mmの極一般的なソーダライムガラスを用いた。ガラス基板101には20×20mmの正方形サイズを、ガラス基板102には10×10mmの正方形サイズを用いた。
【0100】
先ずは、図10Aに示すように、ガラス基板101の上面に封止材料ペースト13を直径5mmで、厚さ500〜600μm程度に塗布した。さらに、高さが220μmの金属製のスペーサ3を4つ設置した。これを150℃で30分間乾燥した後に、図10Bに示すように、ガラス基板102を合わせた。
【0101】
そして、図11Aに示すように、ガラス基板102の上から3Nの荷重をかけながら、図8Aに示す温度プロファイルで接合した。その際に、図11Bに示すように、4つのスペーサ3により接合厚が220μmになるように調整した。この過程で、封止材料ペースト13は、封止材料14に変化する。
【0102】
図12は、上記の作製方法により得られた接合体の接合強度を測定する装置の構成を示したものである。
【0103】
本図に示すように、ガラス基板101、102と、これらの間に挟み込まれた封止材料14及びスペーサ3と、で構成されている接合体を、接合体固定ジグ52に固定する。そして、ガラス基板102をせん断ジグ51により横方向に外力を加える。この際、せん断ジグ51の下端部は、ガラス基板101の上面から500μm離れた位置になるようにする。また、せん断ジグ51の移動速度は、34μm/秒とする。
【0104】
実施例及び比較例ともに、各5個ずつの接合体を作製し、上記の条件で測定したそれぞれの接合体の接合強度を用いて、平均値(平均接合強度)を算出した。その平均値を比較することにより、封止材料ペーストの優位性を評価した。
【0105】
本実施例で使用した封止材料ペーストは、固形分として、表1に示す無鉛低融点ガラスG−01〜G−42、表2に示す低熱膨張フィラー粒子F−01、及び表3に示す球状ガラスビーズB−14を含む。固形分中の無鉛低融点ガラスG−01〜G−42及び低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は、ガラス基板101、102で使用したソーダライムガラスの熱膨張を考慮して決定した。また、固形分中の球状ガラスビーズB−14の体積含有率は、20〜30体積%とした。このようにして、実施例の接合体を各5個ずつ作製し、平均接合強度を求めた。
【0106】
表4は、封止材料ペーストの固形分の体積含有率及びその接合条件並びに作製した接合体の接合強度向上率を示したものである。
【0107】
なお、接合体A−01〜A−42の接合強度向上率は、固形分のうち球状ガラスビーズB−14を含有しないものを基準とした値である。すなわち、比較例の接合体の平均接合強度を分母とし、実施例の接合体の平均接合強度から比較例の接合体の平均接合強度を引いたものを分子として算出した値である。比較例の接合体の場合、すなわち球状ガラスビーズB−14を含まない場合には、どの接合体においてもせん断応力でおおよそ10〜20MPaの平均接合強度を有していた。また、その範囲内で平均接合強度は、軟化点Tが高い無鉛低融点ガラスを使用するほど大きくなる傾向を示した。
【0108】
【表4】
【0109】
本表から、球状ガラスビーズB−14を含有する実施例の接合体A−01〜A−42については、どの接合体においても、比較例に対し平均接合強度が向上することがわかる。
【0110】
比較例の接合体の破壊箇所を観察すると、どの接合体においても、図12に示す封止材料14が上下に分断されている状態、すなわち220μmの接合厚のほぼ中央部で破損する場合がほとんどあった。これに対し、球状ガラスビーズB−14を含有する実施例の接合体A−01〜A−42の破壊された箇所を観察すると、どの接合体においても、球状ガラスビーズB−14の存在により、封止材料14におけるクラックの進展が抑制されている様子が認められた。これが、接合強度が向上した理由であると考えられる。
【0111】
このことから、封止材料やそのペーストに球状のガラスビーズを導入することは、接合体の強度向上、すなわち信頼性向上に有効であることが分かった。これは、真空断熱複層ガラスの低温度での気密封止に有効に適用できることは言うまでもない。
【0112】
[実施例2]
本実施例では、封止材料ペーストにおいて固形分中の球状ガラスビーズの体積含有率が接合強度に与える影響について、実施例1と同様にして図11Bの接合体を作製し、その平均接合強度を評価することによって調べた。無鉛低融点ガラスには表1のG−08、G−10、G−25、G−36及びG−42、低熱膨張フィラー粒子には表2のF−01、球状のガラスビーズには表3のB−14を用いて、封止材料ペーストを作製した。
【0113】
なお、無鉛低融点ガラスG−08、G−10、G−25、G−36及びG−42並びに低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率の割合は、実施例1と同様に、ガラス基板101、102の熱膨張を考慮した上で一定とし、球状ガラスビーズB−14の体積含有率を変化させた。無鉛低融点ガラスG−25、G−36及びG−42は、G−08とG−10より熱膨張係数が大きいために、ガラス基板101、102の熱膨張に合わせるために、無鉛低融点ガラスの体積含有率を減らす一方、低熱膨張フィラー粒子の体積含有率を増やす必要がある。
【0114】
図13は、接合体の接合強度向上率と封止材料ペーストの固形分中における球状ガラスビーズB−14の体積含有率との関係を示すグラフである。
【0115】
本図に示すように、どの無鉛低融点ガラスを用いた場合においても、球状ガラスビーズB−14の体積含有率が10体積%未満では、接合強度向上の効果がほとんど認められない。このガラスビーズの体積含有率が10〜20体積%では、体積含有率の増加に伴って接合強度が高くなり、20〜30体積%の範囲で極大値を有する。30体積%を超えると、接合強度は低下する。なお、30体積%を超えても35体積%までは、接合強度向上率は正であり、接合強度は、球状ガラスビーズB−14を含有しない場合よりも高かった。
【0116】
40体積%での接合強度は、無鉛低融点ガラスG−08又はG−10を使用した場合には、球状ガラスビーズB−14を含有しない場合とほぼ同等であり、無鉛低融点ガラスG−25、G−36及びG−10を使用した場合には、球状ガラスビーズB−14を含有しない場合よりも低くなった。また、40体積%を超えても、接合強度は低下する一方であった。これは、ガラス基板101や102及び球状ガラスビーズ間の接合に当たり、無鉛低融点ガラスの体積含有率が不十分であることが原因であることが考えられる。また、このために、無鉛低融点ガラスにG−08やG−10を使用する場合より、G−25、G−36又はG−42を使用する場合の方が無鉛低融点ガラスの体積含有率が少なく、球状ガラスビーズB−14が35体積%を超える体積含有率では、接合強度の低下率が大きかったものと考えられる。封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスの体積含有率は、少なくとも35体積%以上は必要であると考えられる。
【0117】
以上のとおり、封止材料ペーストにおいては、ガラスビーズの体積含有率が10〜35体積%が好ましく、特に20〜30体積%が有効である。また、無鉛低融点ガラスの体積含有率は、35体積%以上が好ましい。また、この結果は、真空断熱複層ガラスパネルの低温気密封止への適用に当たり、有効に反映されることは容易に推察されるものである。
【0118】
さらに、本実施例においては、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01以外のF−02〜F−04についても、上記と同様な接合体を作製し、評価・検討を行った。
【0119】
表2に示すように、低熱膨張フィラー粒子F−01及びF−03は、マイナスの大きな熱膨張係数を有する。また、低熱膨張フィラーF−02及びF−04はゼロに近い熱膨張係数を有する。通常、低熱膨張フィラー粒子は、熱膨張係数が小さいほどガラス基板101、102の熱膨張係数に合わせやすい。そして、このような場合、無鉛低融点ガラスの体積含有率を増やすことができるため有効である。このように考えると、表2の中で最も熱膨張係数が小さいF−03が最も有効な低熱膨張フィラー粒子となる。
【0120】
しかし、F−03は、低熱膨張フィラー粒子F−01に比べると、表1に示すV−TeO系及びV−TeO−AgO系の無鉛低融点ガラスG−01〜G−42のすべてと濡れ性が不十分であるため、緻密な接合部が得られにくい。また、所望の低熱膨張係数とすることが難しい。このため、球状ガラスビーズを導入しても、期待通りの接合強度向上の効果が得られにくい。
【0121】
低熱膨張フィラー粒子F−04についても検討した結果、熱膨張係数は低熱膨張フィラー粒子F−03ほど小さくはないが、同様な結果となった。低熱膨張フィラー粒子F−03やF−04を使用する場合は、表1に示すようなV−TeO系無鉛低融点ガラスやV−TeO−AgO系無鉛低融点ガラスとの濡れ性を改善するような表面処理をフィラー粒子の表面に施す必要があると考えられる。
【0122】
低熱膨張フィラー粒子F−02は、低熱膨張フィラー粒子F−03やF−04に比べると、V−TeO系無鉛低融点ガラスやV−TeO−AgO系無鉛低融点ガラスとの濡れ性は良好であった。ただし、F−02は、低熱膨張フィラー粒子としては熱膨張係数がそれほど小さいわけではない。
【0123】
熱膨張係数が非常に大きいV−TeO−AgO系無鉛低融点ガラスを封止材料ペーストに使用する場合には、表2に示す低熱膨張フィラー粒子の中では、熱膨張係数がマイナスの低熱膨張フィラー粒子F−01を使用することが有効であった。このような結果であっても、真空断熱複層ガラスパネルの低温気密封止へ有効に適用できることは言うまでもない。
【0124】
[実施例3]
本実施例では、封止材料ペーストにおいて固形分中の球状ガラスビーズの平均粒径(D50)が接合強度に与える影響について、実施例1と同様にして、図11Bに示すような接合体を作製し、その接合体の平均接合強度を評価した。ただし、図11Bに示すスペーサ3としては、高さ250μmの金属製を用いた。また、それに合わせ、封止材料ペースト13の塗布厚も増やし、600μm強とした。
【0125】
無鉛低融点ガラスには表1のG−07、G−12、G−24、G−34及びG−39、低熱膨張フィラー粒子には表2のF−01、球状のガラスビーズには表3のB−11〜B−15を用いて、封止材料ペーストを作製した。なお、無鉛低融点ガラスG−07、G−12、G−24、G−34及びG−39及び低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率の割合は、実施例1と同様に、ガラス基板101、102の熱膨張を考慮した上で決定した。
【0126】
球状ガラスビーズB−11〜B−15は、表3に示すとおり、どれもガラス基板101、102と同じ素材のソーダライムガラスである。それらの平均粒径(D50)は、B−11で46μm、B−12で88μm、B−13で125μm、B−14で143μm、B−15で184μmであった。スペーサ3の高さ250μmは、球状ガラスビーズの最大粒径、具体的には平均粒径(D50)が最も大きいB−15の最大粒径を考慮して決めた。また、球状ガラスビーズB−11〜B−15の体積含有率は、無鉛低融点ガラスG−07又はG−24を使用する場合には30体積%、G−12を使用する場合には25体積%、G−34又はG−39を使用する場合には20体積%とした。
【0127】
図14は、接合体の接合強度向上率と封止材料ペーストに含まれる球状ガラスビーズの平均粒径(D50)との関係を示すグラフである。図中の[]内は、球状ガラスビーズの体積基準の含有率を表す。
【0128】
どの無鉛低融点ガラスを用いた場合においても、球状ガラスビーズの平均粒径(D50)が100μm未満では、接合強度向上の効果は少ない。一方、D50が125μm以上の場合は、大きな接合強度向上の効果が得られた。
【0129】
接合体の破壊箇所を観察すると、球状ガラスビーズの平均粒径(D50)が100μm未満では、図12に示す封止材料14が上下に破損されている状態、すなわち250μmの接合厚のほぼ中央部から破損する場合がほとんどあった。これに対し、球状ガラスビーズの平均粒径(D50)が接合厚250μmの半分以上である125μm以上では、球状ガラスビーズによって封止材料14におけるクラックの進展が抑制されている状態が認められた。
【0130】
以上より、接合体の接合強度向上には、球状ガラスビーズの平均粒径(D50)を接合厚の半分以上にすることが有効であることが分かった。また、この結果は、真空断熱複層ガラスパネルの低温気密封止への適用に当たり、有効に反映されることは容易に推察されるものである。真空断熱複層ガラスパネルでは、二枚のガラス基板の間隔、すなわちスペーサの高さや封止部の厚さは、通常100〜300μmの範囲にあることから、球状ガラスビーズの平均直径(D50)は50μm以上200μm以下ぐらいであることが適切である。
【0131】
[実施例4]
本実施例では、封止材料ペーストにおいて固形分中の球状ガラスビーズの素材の違いが接合強度に与える影響について、実施例1と同様にして、図11Bの接合体を作製し、その平均接合強度を評価した。
【0132】
無鉛低融点ガラスには表1のG−05、G−17、G−33及びG−40、低熱膨張フィラー粒子には表2のF−01、球状のガラスビーズには表3のB−14、B−21及びB−31を用いて、封止材料ペーストを作製した。球状ガラスビーズB−14、B−21及びB−31は、表3に示すとおり、素材は異なるが、いずれも同じ篩を用いて分級し、粒径が75μm以上212μm未満のサイズとした。それぞれの球状ガラスビーズの素材は、B−14がソーダライムガラス、B−21がホウケイ酸塩ガラス、B−31が石英ガラスである。このように素材が異なると、粒径の範囲が同一であっても、密度や熱膨張係数等の物性値が異なってくる。球状ガラスビーズの熱膨張係数が異なるため、本実施例では、それも考慮して、ガラス基板101、102の熱膨張に合わせ、封止材料ペーストにおける各固形分の体積含有率を決定した。
【0133】
表5は、封止材料ペーストの固形分の体積含有率及びその接合条件並びに作製した接合体の接合強度向上率を示したものである。なお、接合体A−05a〜A−05c、A−17a〜A−17c、A−33a〜A−33c及びA−40a〜A−40cの接合強度向上率は、固形分として球状ガラスビーズを含有しない比較例である、無鉛低融点ガラスG−05、G−17、G−33又はG−40と、低熱膨張フィラー粒子F−01とを含む封止材料ペーストを用いて作製した接合体の平均接合強度を基準とした値である。無鉛低融点ガラス及び低熱膨張フィラー粒子の体積含有率は、ガラス基板101、102に使用したソーダライムガラスの熱膨張を考慮して決定した。
【0134】
【表5】
【0135】
接合体A−05a〜A−05c、A−17a〜A−17c、A−33a〜A−33c及びA−40a〜A−40cのどの接合体においても、無鉛低融点ガラスの種類が同一の場合には、ソーダライムガラス製の球状ガラスビーズB−14の含有が接着強度向上にもたらす効果が最も大きかった。次に効果があるのは、ホウケイ酸塩ガラス製の球状ガラスビーズB−21の含有であった。
【0136】
石英ガラス製の球状ガラスビーズB−31の含有は、接合体A−5c及びA−17cでは、強度向上の効果はほとんど認められず、また、接合体A−33c及びA−40cでは、逆に接合強度が減少する結果となった。
【0137】
この原因を究明するために、接合強度試験前の接合体の接合部断面を電子顕微鏡にて観察した。その結果、接合後に石英ガラス製の球状ガラスビーズB−31の界面近傍部の無鉛低融点ガラスに既にクラックが発生していたことが判明した。これは、石英ガラス製の球状ガラスビーズB−31の熱膨張が非常に小さく、無鉛低融点ガラスとの熱膨張差が非常に大きいために、クラックが発生したものと考えられる。
【0138】
低熱膨張フィラー粒子のように粒径が非常に小さい場合には、このようなクラックの発生は認められない。このことから、球状ガラスビーズの導入に当たっては、被接合材であるガラス基板101、102の熱膨張だけでなく、球状ガラスビーズとの熱膨張差も考慮しなければならないことが分かった。
【0139】
以上より、封止材料ペースト中の球状ガラスビーズは、ガラス基板101、102と同一のガラス系素材であることが接合体の接合強度向上に最も有効である。それに続いて、類似のガラス系素材でも接合強度向上の効果があることが分かった。これは、ガラス基板101、102と球状ガラスビーズとの熱膨張の整合性によるものである。封止材料ペースト中の球状ガラスビーズの熱膨張係数をガラス基板101、102の熱膨張係数に対して±15×10−7/℃の範囲内とすることが有効であるということを示唆した結果でもある。本実施例の結果は、真空断熱複層ガラスの低温気密封止に有効に適用できることは言うまでもない。
【0140】
[実施例5]
本実施例では、上記実施例1〜4の検討結果をもとに、表1の無鉛低融点ガラスと、表2の低熱膨張フィラー粒子と、表3の球状ガラスビーズとを含む封止材料ペーストによって、図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例として、表3の球状ガラスビーズを含まない封止材料ペーストを用いて、上記と同様にして、図1に示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。なお、本実施例及びその比較例ともに、図3A〜7Bに示す真空断熱複層ガラスパネルの製法並びに図8A及び8Bに示す温度プロファイルに従って、真空断熱複層ガラスパネルを製作した。
【0141】
本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいては、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に300×300×3mmのサイズのソーダライムガラス基板、スペーサ3に、高さ200μm、外径500μmの金属製スペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。本実施例で使用した封止材料ペーストは、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とを固形分として含有する。その固形分中のそれぞれの体積含有率は、48:27:25(体積%)である。
【0142】
また、比較例で使用した封止材料ペーストには、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01とを固形分として含有する。その固形分中のそれぞれの体積含有率は、64:36(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−08及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0143】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、熱貫流率がともに0.7W/m・K程度であり、良好であった。
【0144】
図15は、真空断熱複層ガラスパネルの信頼性を評価するために用いた試験装置を示したものである。
【0145】
本図に示す試験装置は、四角形のフッ素樹脂容器19(PTFE:ポリテトラフロロエチレン等で形成されている。)にシリコンゴムパッキン20を介して真空断熱複層ガラスパネルを設置し、試験をすることができる構成を有している。フッ素樹脂容器19の外部には、温風機及び冷風機が設置されている。これらのいずれかからは、φ10mmのフッ素樹脂管21(PTFE等で形成されている。)を介して、温度が大きく異なる2種類の空気をフッ素樹脂容器19内に送ることができるようになっている。空気の温度は、自動開閉弁により切り替え可能となっている。
【0146】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルについては、80℃の温風及び−50℃の冷風を交互に30L/分の流速で15分間パネルへ吹き付けた。温風及び冷風を1回ずつ吹き付けた場合を1サイクルとし、これを1000回繰り返した。そして、1000回後に熱貫流率の測定等をすることにより、封止部の破損状態を評価した。
【0147】
上記のサイクルを経過した後、比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、破損しているようには見えなかったが、どこかでリークしており、断熱性はまったく得られなかった。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。
【0148】
[実施例6]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08の代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−12を用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とである。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0149】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、本実施例のスペーサ3に、高さ200μm、外径500μmのポリイミド樹脂製のスペーサを用いた点である。比較例のスペーサ3においては、実施例5と同様に、同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0150】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−12、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−13の体積含有率は、46:29:25(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−12、及び低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は、61:39(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−12及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0151】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.7W/m・K程度であったのに対し、本実施例では0.5W/m・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0152】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの信頼性は、実施例5と同様にして評価した。
【0153】
実施例5と同様のサイクルを経過した後、比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、破損しているようには見えなかったが、リークが発生しており、断熱性は大きく劣化していた。これに対し、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。
【0154】
[実施例7]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表3の球状ガラスビーズB−13との代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−24と、表3の球状ガラスビーズB−12とを用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01である。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0155】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に風冷強化ソーダライムガラス基板を用いた点、及び本実施例のスペーサ3に、高さ150μm、外径300μmのポリアミド樹脂製のスペーサを用いた点である。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0156】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−24、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−12の体積含有率は、46:34:20(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−24、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は57:43(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−12及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0157】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.8W/m・K程度であったのに対し、本実施例では0.6W/m・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0158】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの信頼性は、実施例5と同様にして評価した。
【0159】
実施例5と同様のサイクルを経過した後、比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所が認められ、断熱性は大きく劣化していた。これに対し、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。さらに、ガラス基板には、風冷強化ガラスが有効に適用できることが分かった。
【0160】
[実施例8]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08と、表3の球状ガラスビーズB−13との代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−25と、表3の球状ガラスビーズB−15とを用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01である。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0161】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に化学強化ソーダライムガラス基板を用いた点、及び本実施例のスペーサ3に、高さ250μm、外径500μmのセラミックス粒子含有フッ素樹脂製のスペーサを用いた点である。ここで、セラミックス粒子は、Al粒子である。このセラミックス粒子は、気密封止時に樹脂製のスペーサが変形しないようにするために、樹脂製のスペーサ中に分散した。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0162】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−25、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−15の体積含有率は、40:30:30(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−25、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は57:43(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−25及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0163】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.7W/m・K程度であったのに対し、本実施例では0.4W/m・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0164】
比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所がいくつか認められ、断熱性が大きく劣化していた。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、セラミックス粒子を分散した樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。さらに、ガラス基板には、化学強化ガラスが有効に適用できることが分かった。
【0165】
[実施例9]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08の代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−22を用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とである。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルをスペーサ3の材質を変えて2種類製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例5の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0166】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、本実施例のスペーサ3に、高さ200μm、外径500μmのガラス粒子含有エポキシ樹脂製又はガラス粒子含有フェノキシ樹脂製の2種類のスペーサを用いた点である。ここで、ガラス粒子は、SiO粒子である。このガラス粒子は、気密封止時に樹脂製のスペーサが変形しないようにするために、樹脂製のスペーサ中に分散した。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0167】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−22、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−13の体積含有率は、42:38:20(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−22、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は53:47(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−22及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0168】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.8W/m・K程度であったのに対し、本実施例では2種類とも0.5W/m・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0169】
比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所がいくつか認められ、断熱性が大きく劣化していた。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、ガラス粒子を分散した樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。
【0170】
[実施例10]
本実施例では、実施例5の固形分のうち、表1の無鉛低融点ガラスG−08の代わりに、表1の無鉛低融点ガラスG−42を用いた。固形分の他の構成要素は、表2の低熱膨張フィラー粒子F−01と、表3の球状ガラスビーズB−13とである。これらの固形分を含む封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す本発明に係る真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性を評価した。また、比較例としては、本実施例の固形分のうち、表3の球状ガラスビーズを除いた封止材料ペーストを用いて、図1Aに示す真空断熱複層ガラスパネルを製作し、その断熱性及び信頼性について評価した。比較例は、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルとの比較に用いた。
【0171】
このほか、本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルにおいて実施例5と異なる点は、第1ガラス基板1及び第2ガラス基板2に風冷強化ソーダライムガラス基板を用いた点、及び本実施例のスペーサ3に、高さ200μm、外径500μmのガラス粒子含有シリコン樹脂製のスペーサを用いた点である。ここで、ガラス粒子は、SiO粒子である。このガラス粒子は、気密封止時に樹脂製のスペーサが変形しないようにするために、樹脂製のスペーサ中に分散した。比較例のスペーサ3においては、本実施例と同形状の金属製のスペーサ(ステンレス鋼製)を用いた。
【0172】
本実施例で使用した封止材料ペーストの固形分中における無鉛低融点ガラスG−42、低熱膨張フィラー粒子F−01及び球状ガラスビーズB−13の体積含有率は、43:32:25(体積%)である。また、比較例で使用した封止材料ペーストでは、固形分中の無鉛低融点ガラスG−42、低熱膨張フィラー粒子F−01の体積含有率は57:43(体積%)である。比較例の無鉛低融点ガラスG−42及び低熱膨張フィラー粒子F−01の含有比率は、本実施例と同等である。
【0173】
製作した本実施例及びその比較例の真空断熱複層ガラスパネルの断熱性は、比較例の熱貫流率が0.7W/m・K程度であったのに対し、本実施例では0.4W/m・K程度であった。すなわち、本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの方が比較例の真空断熱複層ガラスパネルより優れた断熱性を示した。これは、スペーサ3に金属より熱伝導率が著しく低い樹脂を使用したためである。
【0174】
比較例の真空断熱複層ガラスパネルでは、封止部は、外観上、剥離している箇所が認められ、断熱性が大きく劣化していた。これに対し、実施例の真空断熱複層ガラスパネルでは、初期の断熱性が維持されており、封止部は破損されていないことが確認できた。このことより、球状のガラスビーズを封止部に導入することが有効であることが判明した。また、ガラス粒子を分散した樹脂製のスペーサの有効性が確認できた。さらに、ガラス基板には、風冷強化ガラスが有効に適用できることが分かった。
【0175】
以上の実施例1〜実施例10より、本発明の真空断熱複層ガラスパネルは、低温度での気密封止を達成できることから、量産性に優れたものである。しかも、スペーサに低熱伝導の樹脂を使うことができることから、断熱性にも優れたものである。さらに、封止部の接合強度を向上できることから、信頼性にも優れたものである。これら量産性、断熱性及び信頼性は、本発明の封止材料ペーストによって実現できたものである。
【0176】
このように、本発明の封止材料ペーストを適用した本発明の真空断熱複層ガラスパネルは、世界中の住宅・建築分野等へ広く普及させていくことが可能であり、エネルギー使用量の削減によるCO排出量を低減し、地球温暖化対策に大きく貢献できるものである。
【符号の説明】
【0177】
1:第1ガラス基板、2:第2ガラス基板、3:スペーサ、4:封止部、5:内部空間、6:熱線反射膜、7:低融点ガラス、8:低熱膨張フィラー粒子、9:ガラスビーズ、10:排気穴、11:排気管、12:ディスペンサー、13:封止材料ペースト、14:封止材料、15:耐熱クリップ、16:真空排気炉、17:電熱ヒーター、18:真空ポンプ、19:フッ素樹脂容器、20:シリコンゴムパッキン、21:フッ素樹脂管、51:せん断ジグ、52:接合体固定ジグ、101、102:ガラス基板。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15