(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記荷電粒子ビーム光学系は、前記検出装置が検出した前記照射位置又はフォーカスの少なくとも一方の変動を補正した後、前記ターゲットに前記荷電粒子ビームを照射する請求項17に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
前記検出装置によって検出した前記ドリフトを補正した後、前記荷電粒子ビーム光学系に前記荷電粒子ビームを前記ターゲットに照射させるように制御する制御部を更に備える請求項21に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
前記反射パターンは、第1方向を周期方向とするライン・アンド・スペースパターンと、前記第1方向と直交する第2方向を周期方向とするライン・アンド・スペースパターンと、を備える請求項2又は12に記載の荷電粒子ビーム照射装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《第1の実施形態》
以下、第1の実施形態について、
図1〜
図8に基づいて、説明する。
図1には、第1の実施形態に係る電子ビーム露光装置100の構成が概略的に示されている。電子ビーム露光装置100は、後述するように電子ビーム光学系を備えているので、以下、電子ビーム光学系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するY軸及びX軸を取って説明する。
【0011】
本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0012】
電子ビーム露光装置100は、真空チャンバ10と、真空チャンバ10によって区画された露光室12の内部に収容された露光システム20とを備えている。
【0013】
露光システム20は、
図1に示されるように、ウエハWを保持して移動可能なステージ22と、電子線用レジスト(感応剤)が塗布されたウエハWに電子ビームを照射する電子ビーム光学系32を有する電子ビーム照射装置30とを備えている。
【0014】
ステージ22は、リニアモータ等を含むステージ駆動系24(
図1では不図示、
図7参照)によって、不図示のベース部材上でX軸方向及びY軸方向に所定ストロークで駆動されるとともに、Z軸方向、X軸回りの回転方向(θx方向)、Y軸回りの回転方向(θy方向)及びZ軸回りの回転方向(θz方向)に微小駆動される。リニアモータ等に起因する磁場変動の影響によって、ウエハWに対する、電子ビーム照射装置30から射出される電子ビームの照射位置が移動(変位)することを可能な限り抑制するため、リニアモータには磁気シールドが施され、リニアモータからウエハ側への磁束漏れが効果的に抑制ないしは防止されている。
【0015】
電子ビーム照射装置30は、
図1に示されるように、鏡筒34を有している。この鏡筒34は、円筒状に形成される。鏡筒34は、電子ビーム射出部34aと、後述する電子銃部及び電磁レンズを収容する本体部34bと、電子ビーム射出部34aと本体部34bとの間に設けられる段部(フランジ部)とを有する。鏡筒34は、円環状の板部材から成るメトロロジーフレーム40によって下方から支持されている。より具体的には、鏡筒34の電子ビーム射出部34aは、本体部34bに比べて直径が小さい小径部で形成されており、その小径部が、メトロロジーフレーム40の円形の開口内に挿入され、段部の底面がメトロロジーフレーム40の上面に当接した状態で、鏡筒34が、メトロロジーフレーム40によって下方から支持されている。
【0016】
メトロロジーフレーム40の外周部には、中心角120度の間隔で、3つの柔構造の連結部材である吊り下げ支持機構50a、50b、50c(ただし、吊り下げ支持機構50cは、
図1では、吊り下げ支持機構50aの奥側に隠れている)の下端がそれぞれ接続されており、この吊り下げ支持機構50a、50b、50cを介して、露光室12を区画する真空チャンバ10の天板(天井壁)から吊り下げ状態で支持されている。すなわち、このようにして、電子ビーム照射装置30は、真空チャンバ10に対して3点で吊り下げ支持されている。
【0017】
3つの吊り下げ支持機構50a、50b、50cは、
図1中で吊り下げ支持機構50bについて代表的に示されるように、それぞれの上端に設けられた受動型の防振パッド52と、防振パッド(防振部)52の下端にそれぞれの一端が接続され、他端がメトロロジーフレーム40に接続された鋼材より成るワイヤ54とを有する。防振パッド52は、真空チャンバ10の天板に固定され、それぞれエアダンパ又はコイルばねを含む。
【0018】
本実施形態では、外部から真空チャンバ10に伝達された床振動などの振動のうちで、電子ビーム光学系32の光軸AXに平行なZ軸方向の振動成分の大部分は防振パッド52によって吸収されるため、電子ビーム光学系32の光軸AXに平行な方向において高い除振性能が得られる。また、吊り下げ支持機構50a、50b、50cの固有振動数は、電子ビーム光学系32の光軸AXに平行な方向よりも光軸AXに垂直な方向で低くなっている。3つの吊り下げ支持機構50a、50b、50cは光軸AXに垂直な方向には振り子のように振動するため、光軸AXに垂直な方向の除振性能(真空チャンバ10に外部から伝達された床振動などの振動が電子ビーム照射装置30に伝わるのを防止する能力)が十分に高くなるように3つの吊り下げ支持機構50a、50b、50cの長さ(ワイヤ54の長さ)を十分に長く設定している。この構造では高い除振性能が得られるとともに機構部の大幅な軽量化が可能であるが、電子ビーム照射装置30と真空チャンバ10との相対位置が比較的低い周波数で変化するおそれがある。そこで、電子ビーム照射装置30と真空チャンバ10との相対位置を所定の状態に維持するために、電子ビーム照射装置30と真空チャンバ10との間に非接触方式の位置決め装置14(
図1では不図示、
図7参照)が設けられている。この位置決め装置14は、例えば国際公開2007/077920などに開示されるように、6軸の加速度センサと、6軸のアクチュエータとを含んで構成することができる。位置決め装置14は、制御装置60によって制御される(
図7参照)。これにより、真空チャンバ10に対する電子ビーム照射装置30のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の相対位置、及びX軸、Y軸、Z軸の回りの相対回転角は、一定の状態(所定の状態)に維持される。
【0019】
電子ビーム照射装置30は、
図1に示されるように、鏡筒34内に少なくとも一部が設けられ、電子を発生させ加速電源(不図示)により加速し電子ビームEB(
図2参照)を形成する電子銃部36と、鏡筒34内に所定の位置関係で配置され、電子ビームEBのスポットの成形、ウエハWに対する電子ビームEBの照射位置の調整、照射量の調整等を行うための電磁レンズやアパーチャなどの各種電極等から構成された電子ビーム光学系32等を含む。電磁レンズには、フォーカスコイルを有する電磁レンズ(以下、便宜上、フォーカスレンズと称する)及び偏向コイルを有する電磁レンズ(以下、便宜上、偏向レンズと称する)などが含まれる。
【0020】
図1では、電子ビーム光学系32を構成する、フォーカスレンズ32a、偏向レンズ32b等が代表的に示されている。
図7に示されるように、フォーカスレンズ32aは、フォーカス制御部64を介して制御装置60により制御され、偏向レンズ32bは、電子線偏向制御部66を介して制御装置60によって制御される。
【0021】
本実施形態では、電子ビーム光学系32は、個別にオンオフ可能で、かつ偏向可能なn本(nは例えば500)のビームを照射可能なマルチビーム光学系から成る。マルチビーム光学系としては、例えば特開2011−258842号公報、国際公開第2007/017255号などに開示される光学系と同様の構成のものを用いることができる。一例として横方向(X方向)に一列に配列された500本のマルチビームを全てオン状態(電子ビームがウエハWに照射される状態)にしたとき、例えば10μm×20nmの露光領域(X方向に伸びるスリット状の領域)内に等間隔に設定された500点に電子ビームの円形スポットが同時に形成される。すなわち、一つの露光領域は、500点の電子ビームで形成される。なお、電子ビームの円形スポットは、紫外光露光装置の解像限界よりも小さい直径(例えば直径20nm)で形成される。
【0022】
本実施形態では、電子ビーム光学系32が、上述したように多数(n=500)の電子ビームのスポットを円形状に形成し、この円形スポットを露光領域内に配置し、この露光領域に対してウエハWが走査されるようにステージ22を所定方向、例えばY軸方向に所定ストロークで等速移動させながら、かつその多数の電子ビームの円形スポットを偏向しながらオン/オフすることで、ウエハ上の1つのショット領域の一部、すなわち幅10μmの帯状の領域が露光(走査露光)される。そして、その走査露光を、+Y方向と−Y方向に交互に行う交互スキャン動作と、交互スキャンにおけるスキャン方向の変更のためのY軸方向に関するウエハW(ステージ22)の減速及び加速区間で、ウエハW(ステージ22)をX軸方向の一側に露光領域のX軸方向のサイズと同じ距離移動するステッピング動作を、繰り返すことで、ウエハ上のショット領域にパターンが形成される。
【0023】
電子ビーム照射装置30は、後述する反射電子を検出する反射電子検出装置を備えている。電子ビーム照射装置30は、制御装置60によって制御される(
図7参照)。
【0024】
制御装置60は、偏向レンズ32bを制御することにより電子ビームEBを偏向して走査することができる。なお、偏向レンズ32bにより電子ビームEBを走査できる範囲は、偏向レンズ32bの偏向性能によって決めることができる。例えば、電子ビームEBの走査範囲は、少なくとも鏡筒34の半径より小さく設定することができる。
【0025】
電子ビーム露光装置100では、Z軸方向に関して電子ビーム照射装置30(電子ビーム光学系32)の−Z側で且つステージ22に保持されたウエハWの+Z側、すなわち電子ビーム照射装置30の電子ビーム射出側に開口部材16が配置されている。開口部材16は、電子ビーム光学系32の光軸に対して交差する面、例えば、XY平面に平行に配置され、メトロロジーフレーム40に複数(少なくとも3つ)の支持部材42を介して吊り下げられた状態で支持されている。開口部材16は、複数の支持部材42によって支持された状態で平面度を維持できる程度の強度を有している。
【0026】
図2には、
図1の鏡筒34の下端部、メトロロジーフレーム40及び開口部材16が、一部破断した状態でステージ22とともに拡大して示されている。また、
図3(A)及び
図3(B)には、開口部材16の斜め上から見た斜視図及び平面図がそれぞれ示されている。また、
図4には、開口部材16の
図2の円A内の部分が拡大して示され、
図5には、
図4の円B内の部分が拡大して示されている。
【0027】
開口部材16は、
図3(A)及び
図3(B)に示されるようにほぼ正方形の板部材から成り、その中心部に円錐状の凹部16aが形成されている。円錐状の凹部16aは、開口部材16の上面(電子ビーム光学系32)側から下面(ウエハW)側に向かって、徐々に開口の大きさが小さくなるように形成されている。開口部材16の素材としては、例えば誘電体が用いられている。なお、本実施形態では、開口部材16として、誘電体で、かつ低熱膨張率の素材、例えばゼロ膨張セラミックスなどが用いられている。
【0028】
凹部16aの中心部には、
図5に示されるように、例えば直径Dが100μm〜200μm程度の断面円形の掘り込み凹部16bが形成されており、その掘り込み凹部16bの底壁部の中心に微小な矩形スリット(又は円形)状の開口16cが形成されている。開口16cは、露光フィールドより僅かに大きく、30μm程度のサイズである。
【0029】
掘り込み凹部16bの底壁の上面には、金属の反射膜18が設けられ、該反射膜18の上面に反射面18aが形成されている。言い換えると、反射面18aは、開口16cの周囲に設けられている。また、底壁の上面は、電子ビーム光学系32に対向するように設けられている。第1方向(
図5ではY軸方向)に関する開口16cの両側の反射面18aには、第1方向を周期方向とするライン・アンド・スペースパターンから成るキャリブレーションパターンが形成され、第2方向(第1方向と直交する方向であり、
図5ではX軸方向)に関する開口16cの両側の反射面18aには、第2方向を周期方向とするライン・アンド・スペースパターンから成るキャリブレーションパターンCP(
図5等では、Y軸方向を周期方向とするY用キャリブレーションパターンのみが示されている)が形成されている。各キャリブレーションパターンCPは、ライン部とスペース部とで電子ビームの反射率が異なる。
図5等では、キャリブレーションパターンCPは説明の便宜上からその厚さ寸法が実際より格段厚く示されている。
【0030】
反射膜18及びキャリブレーションパターンCPが形成された掘り込み凹部16bの底壁(反射膜18の厚さを含む)の厚さtは、薄ければ薄いほど望ましい。本実施形態では、掘り込み凹部16bの底壁の厚さは、一例として10μm〜50μm程度に設定されている。
【0031】
なお、本実施形態では、反射面18aが、XY平面に平行な平面であるとしているが、これに限らず、電子ビーム光学系32の光軸上に中心を有する側面視円弧状の曲面、あるいはこれに対応する傾斜面であっても良い。また、反射面18aは、第1方向(Y軸方向)及び第2方向(X軸方向)とで分離して形成されていても良い。
【0032】
説明は前後したが、鏡筒34の内部には、
図6に示されるように、電子ビーム光学系32の偏向レンズ32bの下部近傍に、複数の反射電子検出装置38が設けられている。言い換えると、複数の反射電子検出装置38は、偏向レンズ32bの射出側であって、かつ荷電粒子ビームの周囲に配置されている。なお、荷電粒子ビームの周囲とは、前述したように、偏向レンズ32bにより電子ビームEBを走査できる範囲である。
【0033】
複数の反射電子検出装置38のそれぞれは、例えば半導体検出器によって構成され、検出した反射電子に対応する検出信号を信号処理装置62(
図7参照)に送る。信号処理装置62は、複数の反射電子検出装置38の検出信号を不図示のアンプにより増幅した後に信号処理を行い、その処理結果を制御装置60に送る(
図7参照)。
【0034】
複数の反射電子検出装置38は、
図6に示されるように、開口部材16の掘り込み凹部16bの内部空間及び開口16cを介してウエハW上のアライメントマークAMに電子ビームEBが照射された際にアライメントマークAMで発生し、開口16c及び掘り込み凹部16bの内部空間を介して鏡筒34内に入射する反射電子を検出可能な位置にそれぞれ設けられている。ウエハWに形成されたアライメントマークAMは、Y軸方向(第1方向)を周期方向とするライン・アンド・スペースパターン及びX軸方向(第2方向)を周期方向とするライン・アンド・スペースパターンを含む2次元マークで形成されている。
図6では、ウエハW上のアライメントマークAMからYZ平面内で光軸に対して傾斜した方向に生じる反射電子を検出する一対の反射電子検出装置38
y1、38
y2のみが示されているが、実際には、アライメントマークAMからXZ平面内で光軸に対して傾斜した方向に生じる反射電子を検出する一対の反射電子検出装置38
x1、38
x2も設けられている(
図7参照)。本実施形態では、反射電子検出装置38
x1,38
x2、38
y1、38
y2は、後述するビーム位置のキャリブレーションの際にも用いられる。
【0035】
ステージ22の位置情報は、エンコーダシステム28(
図7参照)によって計測されている。エンコーダシステム28は、
図2に示されるように、開口部材16の下面(−Z側の面)の凹部16aの裏面側の部分以外の領域に形成され、X軸方向及びY軸方向を周期方向とする反射型2次元格子から成るグレーティングRGと、グレーティングRGに対向してステージ22の4隅の部分にそれぞれ設けられた4つのヘッド26(以下、便宜上ヘッド26
1〜26
4と表記する)とから成る。
【0036】
反射型2次元格子としては、それぞれの周期方向について、ピッチが例えば1μmの反射型の回折格子が用いられている。なお、例えば米国特許出願公開第2011/0053061号明細書等に開示されるように、グレーティングRGとして、4つのヘッド26が個別に対向可能な4つの部分から構成されたグレーティングを用いても良い。
【0037】
ステージ22の2つの対角線のうち、一方の対角線上に位置する2つの角部の近傍にX軸方向及びZ軸方向を計測方向とするヘッド26
1、26
3が設けられ、他方の対角線上に位置する2つの角部の近傍にY軸方向及びZ軸方向を計測方向とするヘッド26
2、26
4が設けられている。4つのヘッド26
1〜26
4は、平面視で同一の正方形又は長方形の各頂点の位置に配置されている。
図2においては、4つのヘッドのうちの2つのヘッド26
1、26
2のみが図示されている。
【0038】
ヘッド26
1、26
3は、それぞれグレーティングRGにビームを照射してステージ22のX軸方向及びZ軸方向の位置情報を計測する2軸リニアエンコーダ28
1、28
3を構成する。また、ヘッド26
2、26
4は、それぞれグレーティングRGにビームを照射してステージ22のY軸方向及びZ軸方向の位置情報を計測する2軸リニアエンコーダ28
2、28
4を構成する。
【0039】
ヘッド26
1〜26
4のそれぞれとしては、例えば米国特許第7,561,280号明細書に開示される変位計測センサヘッドと同様の構成のエンコーダヘッドを用いることができる。
【0040】
上述した4つの2軸リニアエンコーダ28
1〜28
4、すなわちグレーティングRGをそれぞれ用いてステージ22の位置情報を計測する4つのヘッド26
1〜26
4によって、エンコーダシステム28が構成されている。エンコーダシステム28で計測される位置情報は、制御装置60に供給される(
図7参照)。
【0041】
エンコーダシステム28では、ステージ22がウエハWに対する露光及びアライメントを行う領域にあるときには、4つのヘッド26
1〜26
4のうち少なくとも3つがグレーティングRGに常に対向するので、制御装置60は、エンコーダシステム28で計測される情報に基づいて、6自由度方向(X軸、Y軸、Z軸、θx、θy及びθzの各方向)に関してステージ22(ウエハW)の位置を計測可能である。
【0042】
図7には、電子ビーム露光装置100の制御系を構成する制御装置60の入出力関係がブロック図にて示されている。制御装置60は、マイクロコンピュータ等を含み、
図7に示される各部を含む電子ビーム露光装置100の構成各部を、統括的に制御する。
【0043】
上述のようにして構成された電子ビーム露光装置100では、制御装置60が所定のパターンデータ及び予め決められた各描画パラメータに従って、電子ビーム光学系32から射出される電子ビームEB及びステージ22を制御し、ウエハWに対する露光(パターン描画)を行う。
【0044】
ところで、半導体素子等のマイクロデバイスが完成するまでには、複数層のパターンをウエハ上に重ね合わせて形成する必要があり、下地層のパターンと描画されるパターンとの重ね合わせは重要である。
【0045】
このため、本実施形態では、ウエハに対するパターン描画(ウエハの露光)に先立って、制御装置60では、電子線偏向制御部66を介して偏向レンズ32bを制御することで、ウエハ上に予め形成されている2つ以上のアライメントマークAM(
図6参照)に対して電子ビームEBを順次走査し、その時にアライメントマークAMから発生した反射電子を反射電子検出装置38により検出する。アライメントマークAMに対する走査時には、電子ビームEBの加速電圧は、露光時(パターン描画時)と同じ加速電圧に設定される。
【0046】
図6には、一例として、光軸に平行な光路(図中の実線の光路)に沿ってアライメントマークAMに対して照射された電子ビームEBによるアライメントマークAMから反射電子検出装置38
y1、38
y2に向かう反射電子REが示されている。制御装置60は、電子線偏向制御部66から得られる電子線の偏向情報(偏向角度、偏向方向等の情報を含む)と信号処理装置62から得られるマークの検出信号の処理結果とに基づいて、アライメントマークAMの位置を特定し、その位置と検出時のエンコーダシステム28から得られるステージ座標情報とに基づいて、ステージ座標系上におけるアライメントマークAMの位置を求める。このようにして求めた2つ以上のアライメントマークのステージ座標系上における位置に基づいて、ウエハ上のショット領域を露光位置(電子ビームの基準状態における照射位置、すなわち電子ビームEBが光軸AX上の
図6中の実線の光路に沿って照射された際の電子ビームEBのウエハW上の照射位置)に位置させるための目標位置情報を求めることができる。そして、制御装置60は、ウエハの露光時(ウエハに対するパターンの描画時)に、その取得した目標位置情報に基づいて、ウエハ(ステージ22)を移動させつつパターンを描画する。このようにアライメントマークAMを基準とすることにより、常に、パターンを所望の位置に描画することができ、既にウエハWに形成されたパターンに対して、新たに描画するパターンが良好に重ね合わされる。
【0047】
しかるに、電子ビーム露光装置100の使用中、例えば、電子ビーム光学系32を収容する鏡筒34の熱膨張等に起因して、電子ビームEBの位置が基準状態、例えば電子ビームEBの光路が電子ビーム光学系32の光軸AXに一致する状態からドリフトすると、上述したようにアライメントマークAMを基準として電子ビームEBによるウエハ対する露光(パターンの描画)を行っても、そのドリフトに起因してパターンを所望の位置に描画することができなくなる。また、電子ビームEBのフォーカスのドリフトも露光不良の原因となる。
【0048】
そこで、本実施形態では、制御装置60は、露光開始前のアライメント計測時に、アライメントマークAMのマーク位置情報の計測に先立って、電子ビームEBのドリフト(位置及びフォーカス)のキャリブレーションのための初期設定を行う。
【0049】
制御装置60は、ウエハWのZ軸方向の位置を露光時と同一位置に設定し、フォーカス制御部64を介して前述のフォーカスレンズ32aが有するフォーカスコイルの電流を変化させて焦点位置を変化させながら、アライメントマークAMを走査し、反射電子REを検出した反射電子検出装置38(38
x1、38
x2、38
y1、38
y2のうちの所定の1つ)の検出信号の変化から、変化が最も先鋭であるときを最適な焦点位置として求め、その最適な焦点位置に対応する電流を以後フォーカスコイルに供給する。
【0050】
次いで、制御装置60は、反射面18a上の4つのキャリブレーションパターンCPに対して電子ビームEBを偏向して走査し、それぞれのキャリブレーションパターンCPからの反射電子を反射電子検出装置38
x1、38
x2、38
y1、38
y2を用いて検出し、電子線偏向制御部66から得られる電子ビームEBの偏向情報と信号処理装置62から得られるキャリブレーションパターンCPの検出信号の処理結果の情報とに基づいて、基準状態における電子ビームEBの位置を基準とするキャリブレーションパターンCPの位置(以下、キャリブレーションパターンCPの位置情報と称する)、すなわち電子ビームEBを基準状態からX方向及びY方向にそれぞれ何度あるいはどの方向に偏向すればそれぞれのキャリブレーションパターンCPの中心位置に電子ビームEBが照射されるようになるかの情報を求めておく。
図8には、一例として、開口16cの+Y側に位置する反射面上のキャリブレーションパターンCPの位置情報を求めるに際し、反射電子検出装置38
y1を用いて反射電子REを検出している状態が示されている。ここで、上述のキャリブレーションパターンCPの位置情報の定義から明らかなように、後にキャリブレーションパターンの位置情報がこの初期設定時における位置情報から変化した場合は、その変化量に応じて電子ビームの位置がドリフトしていることを意味する。ドリフトには、偏向角度度のずれ、偏向方向のずれ、光軸AXに対するずれ等が含まれる。また、制御装置60は、ドリフトを検出する検出装置として機能する。
【0051】
このとき、制御装置60は、キャリブレーションパターンCPからの反射電子を検出した所定の1つの反射電子検出器、例えば反射電子検出装置38
y1の検出信号の変化の状態を内部メモリに記憶する。これは、後に、この検出信号の変化の状態を基準として、電子ビームEBのフォーカスのドリフトを検出するためである。なお、全ての反射電子検出装置で、検出信号の変化の状態を内部メモリに記憶しておいても良い。
【0052】
これにより、電子ビームEBのドリフト(位置及びフォーカス)のキャリブレーションのための初期設定が終了する。
【0053】
この後、前述したアライメントマークAMのマーク位置情報の計測(アライメント計測)を行う。
【0054】
そして、制御装置60は、このアライメント計測の結果に基づいて、前述の如く、ウエハ上のショット領域を露光位置に位置させるための目標位置情報を求め、ウエハの露光時(ウエハに対するパターンの描画時)に、その取得した目標位置情報に基づいて、ウエハ(ステージ22)を移動させつつパターンを描画する。このウエハの露光(パターンの描画)は、前述したように、ウエハの走査露光を、+Y方向と−Y方向を交互に走査方向として行う交互スキャン動作と、+Y方向の走査(プラススキャン)と−Y方向の走査(マイナススキャン)との間のY軸方向に関するウエハの減速及び加速中に、ウエハをX軸方向の一側に露光領域のX軸方向の幅分移動する動作(ステッピング動作)とを、繰り返すことで、行われる。
【0055】
しかるに、電子ビーム露光装置100の露光領域の非走査方向(X軸方向)のサイズは、例えば、50μm程度であるため、1枚のウエハあるいは1つの露光領域を露光するためには、交互スキャン動作を何回も繰り返す必要があり、紫外線露光装置などと比べて格段時間が掛かる。このため、1枚のウエハの露光中にも、電子ビームEBのドリフト(位置、フォーカス)のキャリブレーションを行う必要がある。
【0056】
そこで、電子ビーム露光装置100では、制御装置60が、前述のステッピング動作が行われる度に、そのステッピング動作中に、前述のキャリブレーションのための初期設定時と同様に、反射面18a上の4つのキャリブレーションパターンCPに対して電子ビームEBを偏向して走査し、それぞれ発生した反射電子REを反射電子検出装置38
x1、38
x2、38
y1、38
y2を用いて検出する。そして、制御装置60は、電子線偏向制御部66から得られる電子線の偏向情報と信号処理部から得られるキャリブレーションパターンCPの検出信号の処理結果の情報とに基づいてキャリブレーションパターンCPの位置情報を求め、その情報をメモリに蓄積する。
【0057】
そして、制御装置60は、N回(Nは自然数、例えば10回)分のキャリブレーションパターンCPの位置情報に基づいて、予め定められた手順に従ってキャリブレーションパターンCPの位置を算出する。例えば、10回のうち、初期設定時からの変化が最大と最小の位置を除いた残りの位置情報の平均、初期設定時からの変化が最大の位置情報、あるいは10回分の平均を、キャリブレーションパターンCPの位置として求める。そして、制御装置は、その算出した位置と上述した初期設定時におけるキャリブレーションパターンCPの位置情報とを比較することで電子ビームEBの位置のドリフト量を求める。なお、制御装置60は、10回分の平均に代えて、10回より少ない回数の移動平均を求めても良い。
【0058】
そして、制御装置60は、電子ビームEBの位置のドリフト量を求める度にそのドリフトをキャリブレーションする、あるいはドリフト量が閾値を超える場合のみそのドリフトをキャリブレーションする。
【0059】
また、制御装置60は、N回に1回の割合で、所定のキャリブレーションパターンCPからの反射電子REの検出信号の変化の状態を取得し、取得した変化の状態を初期設定時にメモリに記憶した対応する検出信号の変化の状態と比較して、電子ビームのフォーカスのドリフト量を検出する。そして、制御装置60は、電子ビームEBのフォーカスのドリフト量を求める度にフォーカスコイルに供給する電流を調整してそのドリフトをキャリブレーションする、あるいはドリフト量が閾値を超える場合のみそのドリフトをキャリブレーションする。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係る電子ビーム露光装置100によると、電子ビーム光学系32の光軸AX方向(Z軸方向)に関するウエハW側にウエハWに所定の隙間を介して対向して配置され、電子ビーム光学系32からの電子ビームEBが通過する開口16cが形成された板状の開口部材16を備えていることから、開口部材16を備えていない場合と比べて、電子ビームEBの照射によりウエハWに帯電した電荷が電子ビームEBの照射位置に与える悪影響を抑制することができる。また、特に本実施形態では開口部材16が誘電体(ゼロ膨張セラミックス)によって形成されているので、電子ビームEBの照射によりウエハWに帯電した電荷が電子ビームEBの照射位置に与える悪影響をより効果的に抑制することができる。
【0061】
また、
図6からも明らかなように、ウエハW上のアライメントマークAMからの反射電子を反射電子検出装置38で検出する際、開口部材16の開口16cを通過可能な取り出し角度の高い反射電子REのみを検出し、低エネルギの反射電子、あるいは露光室12内のステージ22の近傍に散乱した反射電子を検出することがなくなるので、結果的に反射電子の検出に際してのS/N比を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る電子ビーム露光装置100では、開口部材16の掘り込み凹部の内部底面に形成された反射面18a上のキャリブレーションパターンCPに対して電子ビームEBを偏向して走査し、キャリブレーションパターンCPで発生する反射電子REを反射電子検出装置38で検出することで、電子ビームEBの位置のドリフトを検出する。このため、ウエハ上のアライメントマークなどを用いることなく、電子ビームEBの位置のドリフトを検出することが可能になる。また、電子ビーム露光装置100では、制御装置60が、ウエハの露光動作におけるプラススキャンとマイナススキャンとの間のステッピング動作中(走査方向に関する減速及び加速期間中)に電子ビームEBの位置のドリフトを検出する。このため、スループットを低下させること無く、電子ビームEBの位置のドリフトを検出し、そのドリフトのキャリブレーションを行うことが可能である。
【0063】
また、電子ビーム露光装置100では、電子ビームEBの位置のドリフトの検出と併せて、電子ビームEBの位置のドリフトの検出のために取得したキャリブレーションパターンからの反射電子の検出信号の変化に基づいて電子ビームのフォーカスのドリフト量を検出し、必要に応じて、電子ビームEBのフォーカスのドリフトのキャリブレーションを行うことが可能である。
【0064】
なお、本実施形態では、電子ビームEBのドリフト(位置及びフォーカス)のキャリブレーションのための初期設定に際して、ウエハW上に形成されたアライメントマークを電子ビームで走査する場合について、説明したが、これに限らず、ステージ22上に設けられた基準マークを電子ビームで走査することとしても良い。かかる場合には、ウエハW上塗布された電子線レジストの影響、及びアライメントマークの形状不良の影響などを受けるおそれがなくなる。この場合には、アライメントマークと基準マークとの位置関係を計測するための計測装置、例えば顕微鏡等が必要になる。
【0065】
《変形例》
次に、第1の実施形態に係る電子ビーム露光装置の変形例について説明する。本変形例に係る電子ビーム露光装置は、
図9に示されるように、開口部材16の反射面18a上にキャリブレーションパターンが形成されていない点が、前述の第1の実施形態と相違するが、その他の部分の構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0066】
本変形例に係る電子ビーム露光装置では、
図9に示されるように、制御装置60が、電子線偏向制御部66を介して電子ビームEBを開口との境界部分(反射面18aのエッジ)を含む範囲で反射面18aに対して走査する。これにより、制御装置60は、前述のキャリブレーションパターンCPの位置情報の検出と同様に、反射面18aからの反射電子を反射電子検出装置38
x1、38
x2、38
y1、38
y2を用いて検出し、電子線偏向制御部66から得られる電子ビームEBの偏向情報と信号処理装置62から得られる反射面18aの検出信号の処理結果の情報とに基づいて、電子ビームEBの位置を基準とする反射面18aのエッジの位置を検出することができる。
【0067】
したがって、本変形例では、反射面18aのエッジの位置を上記実施形態におけるキャリブレーションパターンCPの位置と同様に取り扱うことで、上記実施形態と同様の手法により電子ビームEBの位置のドリフトの検出及びそのキャリレーションを行うことが可能になる。本変形例では、初期設定及びステッピング動作中のいずれにおいても、
図9に示されるように、制御装置60により、電子線偏向制御部66を介して電子ビームEBが反射面18aのエッジを含む範囲で反射面18aに対して走査される。
【0068】
また、反射面18aに対して電子ビームEBを走査することで、エッジを含む反射面18aからの反射電子の検出信号が得られるので、この検出信号の変化に基づいて電子ビームのフォーカスのドリフト量を検出し、必要に応じて、電子ビームEBのフォーカスのドリフトのキャリブレーションを行うことが可能になる。
【0069】
なお、上記第1の実施形態及び変形例では、開口部材16の掘り込み凹部16bの底壁の上面に反射面18aが形成されているものとしたが、反射面を形成すること無く、凹部16bの底壁の上面にその上面と電子ビームEBに対する反射率が異なる反射パターンを形成しても良い。この場合には、その反射パターンを上記実施形態のキャリレーションパターンと同様に取り扱うことで、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
なお、上記実施形態では、開口部材16が、電子ビーム光学系32を内部に有する鏡筒34(電子ビーム照射装置30)が支持されるメトロロジーフレーム40に支持されているが、熱の影響やその他の影響で、開口部材16とメトロロジーフレーム40との位置関係が変化することがあり得る。そこで、例えば、
図7に点線(破線)のブロックで示されるように、メトロロジーフレーム40と開口部材16との相対位置を計測する計測装置90をさら設け、この計測装置の計測情報に基づいて、制御装置60が、電子ビームEBの位置を補正しても良い。
【0071】
なお、上記実施形態では、開口部材16が、電子ビーム光学系32を内部に有する鏡筒34(電子ビーム照射装置30)が支持されるメトロロジーフレーム40に支持されている場合について説明したが、これに限らず、開口部材16は、サーボ制御により、電子ビーム光学系32(鏡筒34)との位置関係が一定に維持されていても良い。この場合おいて、上記の計測装置90を設け、制御装置60あるいは別のコントローラが、不図示のアクチュエータを制御することで、メトロロジーフレーム40に対して開口部材16を駆動し、メトロロジーフレーム40に支持された電子ビーム光学系32(鏡筒34)と開口部材16との位置関係を一定に維持することとしても良い。
【0072】
また、上記実施形態では、開口部材16の下面(−Z側の面)にグレーティングRGが形成され、これに対向してステージ22の上面の四隅に4つのヘッド26が設けられたエンコーダシステム28によって、ステージ22の位置情報が計測される場合について例示したが、これに限らず、ステージ22に格子部(グレーティング)を設け、この格子部に対向可能にステージ22の外部にヘッドが設けられたエンコーダシステムにより、ステージ22の位置情報を計測することとしても良い。
【0073】
また、ステージ22の位置情報を計測する位置計測装置は、エンコーダシステムに限らず、レーザ干渉計システムなどを用いても良い。
【0074】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態について
図10に基づいて説明する。ここで、前述した第1の実施形態に係る電子ビーム露光装置100と同一若しくは同等の構成部分については、同一の符号を用いるとともに、その説明を簡略にし、若しくは省略する。
【0075】
図10には、本第2の実施形態に係る露光装置が備える鏡筒34の下端部、メトロロジーフレーム40及び開口部材16A、並びにステージ22が拡大して示されている。本第2の実施形態に係る電子ビーム露光装置では、前述の開口部材16に代えて開口部材16Aが設けられるとともに、エンコーダシステム28に代えて、レーザ干渉計システム128が設けられ、レーザ干渉計システム128によってウエハWを保持するステージ22のXY平面内の3自由度又は6自由度方向に関する位置情報が計測されるようになっている。その他の部分の構成は、前述した第1の実施形態に係る電子ビーム露光装置100と同様になっている。
【0076】
開口部材16Aは、基本的には、前述の開口部材16と同様に構成されているが、次の点が相違する。すなわち、開口部材16Aでは、ウエハWに対向する面(下面、−Z側の面)にグレーティングRGが形成されていないとともに、例えば赤外線センサから成る複数の温度センサ70がXY二次元方向にアレイ状に配置されている。複数の温度センサは、その下面が開口部材16Aの下面とほぼ同一面に位置する状態で、開口部材16Aに埋め込まれている。
【0077】
そして、制御装置60が、ウエハWの露光動作中に、複数の温度センサ70によって計測された温度情報に基づいて、電子ビームEBのウエハWに対する照射位置を制御する。
【0078】
本第2の実施形態に係る電子ビーム露光装置によると、前述した第1の実施形態と同等の効果を得られる他、制御装置60は、露光動作を中断すること無く、複数の温度センサによって計測されるウエハWの温度情報に基づいて、電子ビームEBのウエハWに対する照射位置を制御できるので、電子ビームEBの照射により、ウエハに非線形な熱膨張が生じた場合にそのウエハの非線形な熱膨張に起因するパターンの描画誤差を小さくすることができる。
【0079】
《第3の実施形態》
次に、第3の実施形態について
図11に基づいて説明する。ここで、前述した第1、第2の実施形態に係る電子ビーム露光装置と同一若しくは同等の構成部分については、同一の符号を用いるとともに、その説明を簡略にし、若しくは省略する。
【0080】
図11には、
図10と同様に、本第3の実施形態に係る電子ビーム露光装置が備える鏡筒34の下端部、メトロロジーフレーム40及び開口部材16B、並びにステージ22が拡大して示されている。本第3の実施形態に係る電子ビーム露光装置では、前述の開口部材16Aに代えて開口部材16Bが設けられるとともに、開口部材16Bが、該開口部材16Bを光軸AXに平行な方向(Z軸方向)に駆動可能な複数の駆動装置80を介してメトロロジーフレーム40に吊り下げ支持されている点が、前述の第2の実施形態に係る電子ビーム露光装置と相違する。その他の部分の構成は、前述した第2の実施形態に係る電子ビーム露光装置と同様になっている。
【0081】
開口部材16Bは、開口部材16Aと同様に構成され、同様に、複数の温度センサ70を有している他、開口部材16B自身を冷却可能な構成が採用されている。例えば、開口部材16Bの内部に液体流路を形成し、この液体流路内に冷却液を流して開口部材16B自身を冷却する構成などを採用することができる。例えば、冷却液を真空チャンバの外部に配置された冷却器で冷却し、その冷却した冷却液を配管を介して液体流路内に流し、液体流路内を流れた冷却液を配管を介して冷却器に戻す、循環系を採用しても良い。
【0082】
真空チャンバの内部は、空気が存在しないため、空気を介した熱伝導(伝導、対流)は生じないが、開口部材16Bにより、該開口部材16Bに対向するウエハWを、輻射(放射)により冷却することは可能である。また、輻射による受熱量は、熱源からの距離の二乗に反比例する。本第3の実施形態の場合、開口部材16BとウエハWとの距離の二乗にウエハの温度上昇率が反比例する。
【0083】
そこで、本第3の実施形態では、上記の輻射による熱伝導の性質に従い、制御装置60が、温度センサ70の検出結果に基づいて、駆動装置80を制御して開口部材16BをウエハWに対して所望の距離まで近づけて、ウエハWを所定温度まで冷却する。かかるウエハWの冷却は、制御装置60が、例えばウエハの露光動作における所定回数置きのステッピング動作中(走査方向に関する減速及び加速期間中)に実行することとすることができる。ただし、この場合に、前述した第1の実施形態に係る電子ビーム露光装置100と同様の電子ビームEBのドリフトの検出及びキャリブレーションを行うものとすると、ウエハWの冷却が行われるステッピング動作時には、開口部材16BのZ位置が、初期設定時とは変化するため、前述したキャリブレーションパターンCPからの反射電子の検出を行ってもその反射電子の検出結果を、電子ビームEBのドリフトの検出のために用いることができない。したがって、ウエハWの冷却が行われるステッピング動作時には、電子ビームEBのドリフトの検出のための処理を行わず、ウエハWの冷却が行われないステッピング動作時、すなわち開口部材16BのZ位置を初期設定時の位置に設定することが可能なステッピング動作時に電子ビームEBのドリフトの検出のための処理を行う必要がある。
【0084】
なお、上記第3の実施形態では、電子ビームEBの照射によるウエハWの温度上昇は、予めシミュレーション等で求めることができるので、このシミュレーション結果に基づいて、ウエハWの冷却のため、前述したステッピング動作中に駆動装置80を制御することも可能である。かかる場合には、必ずしも温度センサを設けなくても良い。ここでの説明からわかるように、本第3の実施形態では、温度センサを1つ、又は数個設けても良い。
【0085】
また、本第3の実施形態において温度センサを設けない場合には、開口部材16Bに代えて、前述した開口部材16を用いるとともに、レーザ干渉計システム128に代えて、エンコーダシステム28を採用しても良い。
【0086】
なお、上記第2及び第3の実施形態では、掘り込み凹部16bの内部低壁の上面に反射面18a及びキャリブレーションパターンCPが設けられた開口部材16A、16Bを用いるものとしたが、これに限らず、掘り込み凹部16bの内部低壁の上面に反射面及びキャリブレーションパターンの一方又は両方を有さず、開口16cのみが形成された開口部材を用いても良い。すなわち、電子ビーム光学系32のほぼ光軸上に開口16cが形成され、ウエハWに対向する面に温度センサ70を有する開口部材を用いても良い。
【0087】
なお、上記各実施形態において、開口部材16、16A、16Bに代えて、凹部16aを含む中心部と、残りの部分とを別部材によって構成しても良い。この場合、例えば中心部を、上面の中央に前述の凹部16a、反射面18a及びキャリブレーションパターンCPの少なくとも一方が形成された掘り込み凹部16b、並びに開口16cと同様の部分を有する円盤状の部材で構成することができる。
【0088】
また、上記各実施形態において、開口部材16、16A、16Bが、電子ビームEBのドリフトをキャリブレーションするために用いられることから、この開口部材をキャリブレーション部材と言い換えることもできる。また、開口部材16、16A、16Bに反射面18aが形成されていることから、反射部材と言い換えることもできる。さらに、開口部材16、16A、16BにキャリブレーションパターンCPが形成されていることから、パターン部材と言い換えることもできる。
【0089】
なお、上記各実施形態では、開口部材16に形成されたキャリブレーションパターンCPに対して電子ビームEBを偏向して走査し、キャリブレーションパターンCPで発生する反射電子REを反射電子検出装置38により検出することで、電子ビームEBの位置等のドリフトを検出する場合について説明したが、電子ビームEBの位置等のドリフトを検出する構成は、かかる構成に限定されるものではない。例えば、反射電子検出装置38の代わりに、電子ビームEBを直接検出する荷電粒子検出器を用いても良い。この場合、前述した開口部材16のうち、キャリブレーションパターンCPが形成された位置に、キャリブレーションパターンCPに代えて荷電粒子検出器を配置すれば良い。
【0090】
ここで、荷電粒子検出器としては、例えば、電子を光に変換するシンチレータ部と、シンチレータ部の発した光を電気信号に変換する光電変換素子の組を複数配列した構成の第1の荷電粒子検出器を用いることができる。なお、シンチレータ部と光電変換素子との間に、シンチレータ部の発した光を光電変換素子に導くライトガイドを設けても良い。
【0091】
第1の荷電粒子検出器では、シンチレータ部は、開口部材16の開口16cの周囲に設けられ、第1方向又は第2方向を周期方向として配列された複数のシンチレータを備えており、複数のシンチレータの各々は光電変換素子に接続されている。光電変換素子として、例えばフォトダイオードあるいは光電子増倍管等を用いても良い。
【0092】
さらに、電子ビームEBを直接検出する別の検出器(第2の荷電粒子検出器)としては、シリコン(Si)薄膜とフォトダイオードとを層状に重ねた二層構造を有する検出器を用いることができる。Si薄膜には、第1方向又は第2方向を周期方向とする複数のスリットを形成し、Si薄膜の各スリットに対向してフォトダイオードを設け、各々のスリットを通過した電子ビームEBを検出することができる。
【0093】
また、ウエハW等のターゲットに電子ビームEBを照射することにより、開口部材16に電荷が帯電する現象が起こる場合がある。すなわち、レジスト等に由来する有機物が開口部材16に付着し、この有機物に電荷が蓄積する場合がある。このように開口部材16に電荷が蓄積すると、蓄積した電荷によって生じる電場の影響で、ウエハWに照射される電子ビームEBの位置が変動する。そこで、開口部材16に対する電荷の蓄積を防ぐために、開口部材16の表面に導電性のコートを施し、このコートとアース線を接続する構成を採用しても良い。導電性のコートは、開口部材16のウエハWに対向する面(下面)、あるいは電子ビーム光学系32に対向する面(上面)に施される。コートとアース線は、電子ビームEBへの影響を避けるため、開口16cから離れたところで接続することが好ましい。この構成により、開口部材16に有機物が付着しても、電荷は有機物に蓄積されず、コートを通じてアース線に流れるので、電子ビームEBへの影響を減らすことができる。
【0094】
なお、導電性のコートを開口部材16の表面に設ける代わりに、開口部材16を電子ビーム光学系32の光軸と直交する方向において第1部分と第2部分とに分離可能に構成し、第1部分と第2部分との間に導電性物質を挟んだ状態で、第1部分と第2部分とを連結することにより、導電性物質層を開口部材16に内蔵することが可能になる。そして、アース線に導電性物質層を接続することにより、開口部材16表面の有機物に電荷が付いても、導電性物質層を通じてアース線に流れるので、開口部材16に電荷は蓄積されない。
【0095】
開口部材16への電荷の蓄積を防止するため、開口部材16に付着した有機物をクリーニングする構成を採用しても良い。開口部材16に付着した有機物と反応するオゾン等の気体を開口部材16に吹きかけて反応させることで開口部材16をクリーニングすることができる。例えば、ステージ22を開口部材16の下方から移動(退避)させた後、開口部材16の表面に気体を吹き付ける給気口と、吹き付けられた気体を回収する回収口とを有するクリーニング装置を開口部材16の下方に配置すれば良い。
【0096】
なお、電子ビーム光学系32の外部磁場が開口部材16を介して電子ビームEBに影響することを抑制(防止)するため、開口部材16に外部磁場の影響を抑制する構成を採用することが望ましい。例えば、開口部材16の外周をパーマロイなどの高透磁率材料で囲み、磁気シールドとする構成を採用しても良い。この構成においては、シールドの材料は開口部材16の材料より透磁率が高いため、外部からの磁気の殆どがシールド内を通過し開口部材16を迂回する。そこで開口部材16は外部磁場から遮蔽された状態となり、電子ビームEBに外部磁場が影響することを防ぐことができる。
【0097】
なお、上記各実施形態では、シングルカラムタイプの電子ビーム光学系32を用いる場合について例示したが、これに限らず、前述したマルチビーム光学系から成る光学系カラムを複数有するマルチカラムタイプの電子ビーム光学系を用いても良い。また、開口部材16、16A、16Bそれぞれの上面に前述した凹部16a、掘り込み凹部16b及び開口16cを、複数の光学系カラムに対応した配置で形成すれば良い。また、電子ビーム照射装置として、電子線を成形アパーチャと呼ばれる矩形の穴を何段か通すことにより電子線形状を矩形に変える可変成形ビーム(矩形ビーム)を用いる方式の電子ビーム照射装置を用いても良い。
【0098】
なお、上記各実施形態では、真空チャンバ10の内部に、露光システム20の全体が収容された場合について説明したが、これに限らず、露光システム20のうち、電子ビーム照射装置30の鏡筒34の下端部を除く部分を、真空チャンバ10の外部に露出させても良い。
【0099】
なお、上記各実施形態では、電子ビーム照射装置30がメトロロジーフレーム40と一体で、3つの吊り下げ支持機構50a、50b、50cを介して真空チャンバの天板(天井壁)から吊り下げ支持されるものとしたが、これに限らず、電子ビーム照射装置30は、床置きタイプのボディによって支持されても良い。また、ステージ22に対して、電子ビーム照射装置30が移動可能な構成を採用しても良い。
【0100】
なお、上記各実施形態では、ターゲットが半導体素子製造用のウエハである場合について説明したが、各実施形態に係る電子ビーム露光装置は、ガラス基板上に微細なパターンを形成してマスクを製造する際にも好適に適用できる。また、上記各実施形態では、荷電粒子線として電子ビームを使用する電子ビーム露光装置について説明したが、露光用の荷電粒子線としてイオンビーム等を用いる露光装置にも上記実施形態を適用することができる。
【0101】
半導体素子などの電子デバイス(マイクロデバイス)は、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、シリコン材料からウエハを製作するステップ、前述した実施形態又は変形例の電子ビーム露光装置及びその露光方法によりウエハに対する露光(設計されたパターンデータに従ったパターンの描画)を行うリソグラフィステップ、露光されたウエハを現像する現像ステップ、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト除去ステップ、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程を含む)、検査ステップ等を経て製造される。この場合、リソグラフィステップで、上記実施形態の露光装置を用いて前述の露光方法が実行され、ウエハ上にデバイスパターンが形成されるので、高集積度のマイクロデバイスを生産性良く製造することができる。
【0102】
なお、上記実施形態で引用した露光装置などに関する全ての公報、国際公開、米国特許出願公開明細書及び米国特許明細書の開示を援用して本明細書の記載の一部とする。