特許第6973076号(P6973076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973076
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】導電性基板
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20211111BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20211111BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20211111BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   G06F3/041 490
   G06F3/041 495
   G06F3/044 122
   G06F3/044 127
   B32B15/04 Z
   H01B5/14 A
   H01B5/14 B
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-532519(P2017-532519)
(86)(22)【出願日】2016年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2016071891
(87)【国際公開番号】WO2017022573
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-152898(P2015-152898)
(32)【優先日】2015年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智治
【審査官】 木村 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−228986(JP,A)
【文献】 特開2014−219963(JP,A)
【文献】 特開2015−064790(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/064664(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
B32B 15/04
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層と、
前記金属層上に形成された、窒素系有機物を含有する有機物層と、
前記有機物層上に形成された黒化層と、を有しており、
前記金属層は、前記有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を有しており、
前記複数の粒状の突起物の平均高さが8.00nm以上15.0nm以下であり、
前記金属層は、前記有機物層を形成する面に、前記複数の粒状の突起物を70個/10μm以上83個/10μm以下有する導電性基板。
【請求項2】
前記金属層の前記有機物層を形成する面の投影面積S1と、前記金属層の前記有機物層を形成する面の表面積S2とから、以下の式(1)により算出されるSAD(Surface Area Different)値が5%以上20%以下である請求項1に記載の導電性基板。
SAD=100×(S2−S1)/S1 ・・・(1)
【請求項3】
前記窒素系有機物が1,2,3−ベンゾトリアゾール、またはその誘導体を含有する請求項1または2に記載の導電性基板。
【請求項4】
前記絶縁性基材の一方の面上と、前記一方の面と対向する他方の面上とにそれぞれ、
前記金属層と、前記有機物層と、前記黒化層とが、その順に形成された請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基板に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量式タッチパネルは、パネル表面に近接する物体により引き起こされる静電容量の変化を検出することにより、パネル表面上での近接する物体の位置の情報を電気信号に変換する。静電容量式タッチパネルに用いられる導電性基板は、ディスプレイの表面に設置されるため、導電性基板の導電層の材料には反射率が低く、視認されにくいことが要求されている。
【0003】
そこで、静電容量式タッチパネルに用いられる導電層の材料としては、反射率が低く、視認されにくい材料が用いられ、透明基板または透明なフィルム上に配線が形成されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高分子フィルムおよびその上に気相成膜法により設けられた金属酸化物からなる透明導電膜を含む透明導電性フィルムであって、金属酸化物からなる透明導電膜が、第一の金属酸化物からなる透明導電膜およびその上に設けられた第二の金属酸化物からなる透明導電膜からなり、かつ第二の金属酸化物からなる透明導電膜が第一の金属酸化物からなる透明導電膜の成膜条件と異なる条件で形成されていることを特徴とする透明導電性フィルムが開示されている。そして、金属酸化物からなる透明導電膜が酸化インジウム−酸化スズ(ITO)膜であることも開示されている。
【0005】
ところで、近年タッチパネルを備えたディスプレイの大画面化が進んでおり、これに対応してタッチパネル用の導電性基板についても大面積化が求められている。しかし、ITOは電気抵抗値が高く信号の劣化を生じるため、ITOを用いた導電性基板は大型パネルには不向きという問題があった。
【0006】
そこで、導電性基板の電気抵抗を抑制するため、導電層の材料としてITOにかえて銅等の金属を用いることが検討されている。ただし、金属は金属光沢を有しているため、反射によりディスプレイの視認性が低下するという問題がある。このため、銅等の金属と共に、黒色の材料により構成される層を形成した導電性基板が検討されている。
【0007】
例えば特許文献2には、フィルム表面と裏面の透視が必要な部分のそれぞれに、ストライプ状銅配線を備え、表裏の銅配線の視認される側に黒色の酸化銅皮膜を有するフィルム状タッチパネルセンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2003−151358号公報
【特許文献2】日本国特開2013−206315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、導電性基板において、例えば金属層と黒化層とを別の装置で成膜する場合など、金属層を形成後、その上面に黒化層を形成するまでの間に金属層の表面に錆等が生じることを防止することが求められる場合があった。そこで、本発明の発明者らは、金属層表面に有機物層を形成する防錆処理を行い、有機物層を形成することを検討した。
【0010】
しかしながら、金属層の防錆処理を行った面に黒化層を成膜すると、黒化層と金属層との密着性が低下し、黒化層が剥離する場合があるという問題があった。
【0011】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、金属層と黒化層との間に有機物層を形成した導電性基板において、黒化層が剥離することを抑制した導電性基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一側面では、
絶縁性基材と、
前記絶縁性基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層と、
前記金属層上に形成された、窒素系有機物を含有する有機物層と、
前記有機物層上に形成された黒化層と、を有しており、
前記金属層は、前記有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を有しており、
前記複数の粒状の突起物の平均高さが8.00nm以上15.0nm以下であり、
前記金属層は、前記有機物層を形成する面に、前記複数の粒状の突起物を70個/10μm以上83個/10μm以下有する導電性基板を提供する。

【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、金属層と黒化層との間に有機物層を形成した導電性基板において、黒化層が剥離することを抑制した導電性基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明の実施形態に係る導電性基板の断面図。
図1B】本発明の実施形態に係る導電性基板の断面図。
図2A】本発明の実施形態に係る導電性基板の断面図。
図2B】本発明の実施形態に係る導電性基板の断面図。
図3】本発明の実施形態に係るメッシュ状の配線を備えた導電性基板の上面図。
図4A図3のA−A´線における断面図。
図4B図3のA−A´線における断面図。
図5】実施例、比較例における密着性試験を行う際に形成する切込み線の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の導電性基板、及び導電性基板の製造方法の一実施形態について説明する。
(導電性基板)
本実施形態の導電性基板は、絶縁性基材と、絶縁性基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層と、金属層上に形成された、窒素系有機物を含有する有機物層と、有機物層上に形成された黒化層と、を有することができる。
そして、金属層は、有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を有することができる。複数の粒状の突起物の平均高さは8.00nm以上とすることができる。また、金属層は、有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を70個/10μm以上有することができる。
【0016】
なお、本実施形態における導電性基板とは、金属層等をパターニングする前の、絶縁性基材の表面に金属層、有機物層、及び黒化層を有する基板と、金属層等をパターン化した基板、すなわち、配線基板と、を含む。
【0017】
ここでまず、導電性基板に含まれる各部材について以下に説明する。
【0018】
絶縁性基材としては特に限定されるものではなく、可視光を透過する樹脂基板(樹脂フィルム)や、ガラス基板等の透明基材を好ましく用いることができる。
【0019】
可視光を透過する樹脂基板の材料としては例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アセチルセルロース系樹脂等の樹脂を好ましく用いることができる。特に、可視光を透過する樹脂基板の材料として、PET(ポリエチレンテレフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、TAC(トリアセチルセルロース)等をより好ましく用いることができる。
【0020】
絶縁性基材の厚さについては特に限定されず、導電性基板とした場合に要求される強度や静電容量、光の透過率等に応じて任意に選択することができる。絶縁性基材の厚さとしては例えば10μm以上200μm以下とすることができる。特にタッチパネルの用途に用いる場合、絶縁性基材の厚さは20μm以上120μm以下とすることが好ましく、20μm以上100μm以下とすることがより好ましい。タッチパネルの用途に用いる場合で、例えば特にディスプレイ全体の厚さを薄くすることが求められる用途においては、絶縁性基材の厚さは20μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0021】
絶縁性基材の全光線透過率は高い方が好ましく、例えば全光線透過率は30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。絶縁性基材の全光線透過率が上記範囲であることにより、例えばタッチパネルの用途に用いた場合にディスプレイの視認性を十分に確保することができる。
【0022】
なお絶縁性基材の全光線透過率はJIS K 7361−1に規定される方法により評価することができる。
【0023】
次に、金属層について説明する。
【0024】
金属層を構成する材料は特に限定されず用途にあった電気伝導率を有する材料を選択できるが、例えば、金属層を構成する材料は、Cuと、Ni,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Mn,Co,Wから選ばれる少なくとも1種以上の金属との銅合金、または銅を含む材料であることが好ましい。また、金属層は銅から構成される銅層とすることもできる。
【0025】
絶縁性基材上に金属層を形成する方法は特に限定されないが、光の透過率を低減させないため、絶縁性基材と金属層との間に接着剤を配置しないことが好ましい。すなわち金属層は、絶縁性基材の少なくとも一方の面上に直接形成されていることが好ましい。なお、後述のように絶縁性基材と金属層との間に密着層を配置する場合には、金属層は密着層の上面に直接形成されていることが好ましい。
【0026】
絶縁性基材の上面に金属層を直接形成するため、金属層は金属薄膜層を有することが好ましい。また、金属層は金属薄膜層と金属めっき層とを有していてもよい。
【0027】
例えば絶縁性基材上に、乾式めっき法により金属薄膜層を形成し該金属薄膜層を金属層とすることができる。これにより、絶縁性基材上に接着剤を介さずに直接金属層を形成できる。なお、乾式めっき法としては、例えばスパッタリング法や蒸着法、イオンプレーティング法等を好ましく用いることができる。
【0028】
また、金属層の膜厚を厚くする場合には、金属薄膜層を給電層として湿式めっき法の一種である電気めっき法により金属めっき層を形成することにより、金属薄膜層と金属めっき層とを有する金属層とすることもできる。金属層が金属薄膜層と金属めっき層とを有することにより、この場合も絶縁性基材上に接着剤を介さずに直接金属層を形成できる。
【0029】
そして、本実施形態の導電性基板は、金属層の有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を有することができる。
【0030】
既述のように、金属層の表面に有機物層を形成し、該有機物層上に黒化層を形成すると、黒化層と、有機物層を形成した金属層との密着性が低下し、黒化層が剥離する場合があった。そこで、本発明の発明者らは、金属層と黒化層との間に有機物層を形成した導電性基板において、黒化層が剥離することを抑制する方法について、鋭意検討を行った。その結果、金属層の有機物層を形成する面に、平均高さが8.00nm以上の複数の粒状の突起物(以下、単に「複数の粒状の突起物」とも記載する)を、70個/10μm以上形成することで、黒化層の有機物層、及び金属層への密着性を高め、剥離を抑制できることを見出した。
【0031】
複数の粒状の突起物の平均高さは、8.0nm以上であることが好ましく、8.5nm以上であることがより好ましい。
【0032】
これは、上述の様に、本発明の発明者らの検討によると、複数の粒状の突起物の平均高さを8.0nm以上とすることで、黒化層が剥離することを抑制できるからである。
【0033】
複数の粒状の突起物の平均高さの上限値は特に限定されないが、15.0nm以下であることが好ましく、14.0nm以下であることがより好ましい。これは、複数の粒状の突起物の平均高さが15.0nmを超えた場合、金属層上に有機物層、及び黒化層を成膜した際に、黒化層の表面の表面粗さが高くなり、黒化層表面の色味に影響を与え、黒化層の機能に影響を与える場合があるためである。
【0034】
金属層の有機物層を形成する面には、複数の粒状の突起物を70個/10μm以上形成することが好ましく、80個/10μm以上形成することがより好ましい。なお、これは、金属層の有機物層を形成する面において、任意の場所で測定した線プロファイルからの粒状の突起物の粒数、すなわち単位長さあたりに含まれる粒状の突起物の数を示している。
【0035】
これは、金属層の有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を70個/10μm以上形成することで、黒化層と、有機物層を形成した金属層との密着性を高め、黒化層が剥離することを抑制できるためである。
【0036】
なお、複数の粒状の突起物の平均高さ、及び単位長さあたりの個数は、例えば金属層の有機物層を形成する面についてAFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定し、測定結果から算出することができる。複数の粒状突起物の平均高さ、及び単位長さあたりの個数の測定、算出に当たっては、まず金属層の有機物層を形成する面の任意の場所で、所定の長さ、例えば長さ10μmの線状にAFMにより表面のプロファイルを測定することができる。そして、測定した線プロファイルの結果から平均高さ、及び該測定範囲内に存在する粒状突起物の数を算出できる。
【0037】
ただし、金属層の有機物層を形成する面における粒状の突起物の平均高さ、及び単位長さあたりの個数の測定、算出は、金属層を成膜後、有機物層を形成する前にAFMにより評価を行おうとすると、金属層の表面が大気中の酸素により酸化され、正確に評価できない恐れがある。このため、金属層を成膜後、さらに有機物層を成膜してからAFMによる測定、評価を行うことが好ましい。有機物層については後述のように、窒素系有機物を含有する液体を金属層上に供給、塗布し、乾燥することで形成することができ、有機物層表面は金属層表面の状態を反映することとなる。このため、有機物層表面での測定結果は、金属層表面での測定結果と一致するためである。
【0038】
従って、上述の複数の粒状の突起物の平均高さ、及び単位長さあたりの個数の測定、算出方法の説明における、金属層の有機物層を形成する面とは、有機物層の表面と読み替えることができる。このように、有機物層の任意の場所で有機物層表面の線プロファイルを測定し、その結果を用いて、複数の粒状突起物の平均高さ、及び単位長さあたりの個数を算出することで、金属層の有機物層を形成する面に存在する複数の粒状突起物の状態を反映した結果を得ることができる。
【0039】
複数の粒状の突起物の材料は特に限定されるものではないが、金属層と同じ材料により構成することが好ましい。
【0040】
金属層の有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を形成する方法としては特に限定されるものではないが、例えば金属層形成後に金属層表面を表面処理する方法が挙げられる。具体的な例としては、金属層を形成した後、金属層表面に対してエッチング処理や、サンドブラスト処理を施す方法が挙げられる。
【0041】
また、金属層の有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を形成する他の方法として、金属層を成膜する際の成膜条件を調整する方法が挙げられる。例えば、金属めっき層を電気めっき法により成膜する際の電流密度(Dk値)を、金属めっき層の成膜中に変化させる方法が挙げられる。
【0042】
より具体的には例えば、金属めっき層の成膜開始後、所定の電流密度Dk1で金属めっき層の成膜を行い、金属めっき層の成膜終了前の一定時間だけ電流密度Dk2へ低下させることで、金属層の有機物層を形成する面に複数の粒状の突起物を形成できる。なお、Dk1>Dk2の関係にある。
【0043】
金属層が銅層の場合を例に説明すると、まず電流密度Dk1として、金属めっき層である銅めっき層の成膜を行うことができる。そして、銅めっき層の成膜終了前7秒以上30秒以下の所定の時間の間だけ、電流密度を電流密度Dk2に下げて金属めっき層の成膜を行うことで、金属層の表面に複数の粒状の突起物を形成できる。なお、電流密度Dk1は1A/dm以上2A/dm以下であることが好ましい。また、電流密度Dk2は0.1A/dm以上0.2A/dm以下であることが好ましく、0.1A/dm以上0.15A/dm以下であることがより好ましい。
【0044】
これは銅めっき層の成膜終了直前の電流密度Dk2を0.1A/dm以上0.2A/dm以下として、それまで銅めっき層を成膜していた時の電流密度Dk1よりも電流密度を小さくすることで、めっき面に粒状物を析出させることができるためである。
【0045】
ただし、金属めっき層を成膜する間の電流密度を継続してDk2とすると、金属めっき層の密度が低下する場合があり好ましくない。このため、電流密度Dk2として電気めっきを行う時間を、金属めっき層の成膜終了前の30秒以下とすることが好ましい。また、金属層の表面に所望の密度で複数の粒状の突起物を形成するため、電流密度Dk2の範囲により電気めっきを行う時間を、金属めっき層の成膜終了前の7秒以上とすることが好ましい。
【0046】
ここまで説明した金属層の表面に複数の粒状の突起物を形成する方法のうち、金属層を成膜する際の成膜条件を調整することで金属層の表面に複数の粒状の突起物を形成する方法が、導電性基板の製造工程数の増加を抑制する観点から好ましい。中でも、上述した金属めっき層を電気めっき法により成膜する際の電流密度(Dk値)を、金属めっき層の成膜中に変化させる方法によれば、電流密度を変化させるだけで金属層の表面に複数の粒状の突起物を形成できることからより好ましい。
【0047】
また、金属層の有機物層を形成する面の投影面積S1と、金属層の有機物層を形成する面の表面積S2とから、以下の式(1)により算出されるSAD(Surface Area Different)値が5%以上であることが好ましい。
【0048】
SAD=100×(S2−S1)/S1 ・・・(1)
上記式で算出されるSAD値は、金属層の有機物層を形成する面の表面積、すなわち金属層の有機物層を形成する面の実測面積S2と、投影面積S1との差を、投影面積S1で除した値となっている。従って、複数の粒状の突起物の大きさ、及び複数の粒状の突起物の単位面積当たりの個数が増加するのに応じてSAD値は大きくなる。そして、本発明の発明者らの検討によると、SAD値が5%以上の場合には金属層の有機物層を形成する面に形成された複数の粒状の突起物の大きさ、及び単位面積当たりの個数が、黒化層の密着性を高めるために十分な大きさになっており好ましい。
【0049】
SAD値を算出するための金属層の有機物層を形成する面の表面積S2は、例えばAFMを用いて測定することができる。また、投影面積S1については金属層のサイズから算出することができる。
【0050】
SAD値の上限値は特に限定されるものではないが、例えば20%以下であることが好ましい。
【0051】
また、金属層の有機物層を形成する面の表面粗さRaは、20.0nm未満であることが好ましい。既述のように、本実施形態の導電性基板において、金属層の有機物層を形成する面には、複数の粒状の突起物が形成されている。そして、複数の粒状の突起物が形成されていることで、有機物層を設けた場合でも黒化層の剥離を抑制することが可能になる。
【0052】
しかしながら、金属層の有機物層を形成する面の表面粗さが大きくなりすぎると、複数の粒状の突起物を設けた効果が小さくなり、複数の粒状の突起物による黒化層の密着性を高める効果を低減する場合がある。このため、金属層の有機物層を形成する面の表面粗さRaは20.0nm未満であることが好ましい。
【0053】
なお、表面粗さRaはJIS B 0601(2013)に算術平均粗さとして規定されている。表面粗さRaの測定方法としては、触針法もしくは光学的方法等により評価することができ、具体的には例えばAFM(原子間力顕微鏡)により評価することができる。
【0054】
表面粗さRaの下限値は特に限定されるものではないが、例えば15.0nm以上であることが好ましく、18.0nm以上であることがより好ましい。
【0055】
金属層の厚さは特に限定されるものではなく、金属層を配線として用いた場合に、該配線に供給する電流の大きさや配線幅等に応じて任意に選択することができる。
【0056】
ただし、金属層が厚くなると、配線パターンを形成するためにエッチングを行う際にエッチングに時間を要するためサイドエッチが生じ易くなり、細線が形成しにくくなる等の問題を生じる場合がある。このため、金属層の厚さは5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
【0057】
また、特に導電性基板の抵抗値を低くし、十分に電流を供給できるようにする観点から、例えば金属層は厚さが50nm以上であることが好ましく、60nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。
【0058】
なお、金属層が上述のように金属薄膜層と、金属めっき層を有する場合には、金属薄膜層の厚さと、金属めっき層の厚さとの合計が上記範囲であることが好ましい。
【0059】
また、既述のように複数の粒状の突起物は、金属層と同じ材料により構成することができる。そして、複数の粒状の突起物と金属層とが同じ材料により構成される場合、金属層の厚さには、複数の粒状の突起物の高さも含まれる。
【0060】
金属層が金属薄膜層により構成される場合、または金属薄膜層と金属めっき層とを有する場合のいずれの場合でも、金属薄膜層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば50nm以上500nm以下とすることが好ましい。
【0061】
金属層は後述するように例えば所望の配線パターンにパターニングすることにより配線として用いることができる。そして、金属層は従来透明導電膜として用いられていたITOよりも電気抵抗値を低くすることができるから、金属層を設けることにより導電性基板の電気抵抗値を小さくできる。
【0062】
次に有機物層について説明する。
【0063】
有機物層は金属層の後述する黒化層と対向する面に形成することができる。従って、導電性基板とした場合に、金属層と黒化層との間に配置することができる。有機物層は窒素系有機物を含有することができる。
【0064】
有機物層が含む窒素系有機物としては特に限定されるものではなく、窒素を含む有機化合物から任意に選択して用いることができる。窒素系有機物としては例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、またはその誘導体を含有することが好ましい。窒素系有機物として、より具体的には例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾールや、5−メチル−1Hベンゾトリアゾール等を含有することができる。
【0065】
有機物層を形成する方法は特に限定されるものではないが、例えば窒素系有機物を含有する溶液を、金属層の有機物層を形成する面に供給、塗布し、乾燥する方法が挙げられる。
【0066】
窒素系有機物を含有する溶液としては例えば、窒素系有機物を含有する銅用の防錆処理剤を好ましく用いることができる。市販されている銅用の防錆処理剤としては例えばOPCディフェンサー(商品名、奥野製薬工業株式会社)等を好ましく用いることができる。なお、窒素系有機物を含有する溶液としては、例えば窒素系有機物を含有する水溶液を好ましく用いることができる。
【0067】
窒素系有機物を含有する溶液を有機物層を形成する基材の金属層上に供給、塗布する方法としては、例えばスプレー法や、かけ流し法、浸漬法等が挙げられる。
【0068】
スプレー法とは、スプレーを用いて有機物層を形成する基材の金属層表面に窒素系有機物を含有する溶液を供給する方法である。
【0069】
かけ流し法とは、窒素系有機物を含有する溶液を上方から下方へと流して膜状の流れを形成し、該窒素系有機物を含有する溶液の流れと、有機物層を形成する基材の金属層の表面とが略平行、かつ接するようにして有機物層を形成する基材を搬送する方法を指す。
【0070】
また、浸漬法とは有機物層を形成する基材を、窒素系有機物を含有する溶液に浸漬する方法を指す。なお、ここまでの説明での有機物層を形成する基材とは、透明基材上に金属層、または密着層と金属層とを形成した基材のことを意味する。
【0071】
次に黒化層について説明する。
【0072】
黒化層は、有機物層の上面に形成することができる。
【0073】
黒化層の材料は特に限定されるものではなく、金属層表面における光の反射を抑制できる材料であれば好適に用いることができる。
【0074】
黒化層は例えば、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも1種以上の金属を含むことが好ましい。また、黒化層は、炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。
【0075】
なお、黒化層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金を含んでいてもよい。この場合についても、黒化層は炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。この際、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金としては、Cu−Ti−Fe合金や、Cu−Ni−Fe合金、Ni−Cu合金、Ni−Zn合金、Ni−Ti合金、Ni−W合金、Ni−Cr合金、Ni−Cu−Cr合金を好ましく用いることができる。特にNi−Cr合金、またはNi−Cu合金をより好ましく用いることができる。
【0076】
黒化層の形成方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができ、例えば乾式法、または湿式法により成膜することができる。
【0077】
黒化層を乾式法により成膜する場合、その具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等の乾式めっき法を好ましく用いることができる。黒化層を乾式法により成膜する場合、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、黒化層には上述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
【0078】
反応性スパッタリング法により黒化層を成膜する場合、ターゲットとしては、黒化層を構成する金属種を含むターゲットを用いることができる。黒化層が合金を含む場合には、黒化層に含まれる金属種毎にターゲットを用い、基材等の被成膜体の表面で合金を形成してもよく、予め黒化層に含まれる金属を合金化したターゲットを用いることもできる。
【0079】
また、黒化層に炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素が含まれる場合、これらは黒化層を成膜する際の雰囲気中に添加しておくことにより、黒化層中に添加することができる。例えば、黒化層に炭素を添加する場合には一酸化炭素ガスおよび/または二酸化炭素ガスを、酸素を添加する場合には酸素ガスを、水素を添加する場合には水素ガスおよび/または水を、窒素を添加する場合には窒素ガスを、スパッタリングを行う際の雰囲気中に添加しておくことができる。黒化層を成膜する際の不活性ガス中にこれらのガスを添加することにより、炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を黒化層中に添加することができる。なお、不活性ガスとしてはアルゴンを好ましく用いることができる。
【0080】
黒化層を湿式法により成膜する場合には、黒化層の材料に応じためっき液を用い、例えば電気めっき法により成膜することができる。
【0081】
上述の様に黒化層は、乾式法、湿式法のいずれの方法でも形成することができるが、黒化層を形成する際に、有機物層に含まれる窒素系有機物が、めっき液中に溶けだし、黒化層中に取り込まれることで、黒化層の色調や他の特性に影響を及ぼす恐れがあるため、乾式法により成膜することが好ましい。
【0082】
黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。これは、黒化層の厚さが薄い場合には、金属層表面における光の反射を十分に抑制できない場合があるため、上述のように黒化層の厚さを5nm以上とすることにより金属層表面における光の反射を特に抑制できるように構成することが好ましいためである。
【0083】
黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、黒化層の厚さは50nm以下とすることが好ましく、30nm以下とすることがより好ましい。
【0084】
また、導電性基板は上述の絶縁性基材、金属層、有機物層、黒化層以外に任意の層を設けることもできる。例えば密着層を設けることができる。
【0085】
密着層の構成例について説明する。
【0086】
上述のように金属層は絶縁性基材上に形成することができるが、絶縁性基材上に金属層を直接形成した場合に、絶縁性基材と金属層との密着性が十分ではない場合がある。このため、絶縁性基材の上面に直接金属層を形成した場合、製造過程、または、使用時に絶縁性基材から金属層が剥離する場合がある。
【0087】
そこで、本実施形態の導電性基板においては、絶縁性基材と金属層との密着性を高めるため、絶縁性基材上に密着層を配置することができる。
【0088】
絶縁性基材と金属層との間に密着層を配置することにより、絶縁性基材と金属層との密着性を高め、絶縁性基材から金属層が剥離することを抑制できる。
【0089】
また、密着層は黒化層としても機能させることができる。このため、金属層の下面側、すなわち絶縁性基材側からの光による金属層の光の反射も抑制することが可能になる。
【0090】
密着層を構成する材料は特に限定されるものではなく、絶縁性基材及び金属層との密着力や、要求される金属層表面での光の反射の抑制の程度、また、導電性基板を使用する環境(例えば湿度や、温度)に対する安定性の程度等に応じて任意に選択することができる。
【0091】
密着層は例えば、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも1種以上の金属を含むことが好ましい。また、密着層は炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。
【0092】
なお、密着層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金を含むこともできる。この場合についても、密着層は炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。この際、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金としては、Cu−Ti−Fe合金や、Cu−Ni−Fe合金、Ni−Cu合金、Ni−Zn合金、Ni−Ti合金、Ni−W合金、Ni−Cr合金、Ni−Cu−Cr合金を好ましく用いることができる。特にNi−Cr合金、またはNi−Cu合金をより好ましく用いることができる。
【0093】
密着層の成膜方法は特に限定されるものではないが、乾式めっき法により成膜することが好ましい。乾式めっき法としては例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等を好ましく用いることができる。密着層を乾式法により成膜する場合、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、密着層には上述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
【0094】
密着層が炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を含む場合には、密着層を成膜する際の雰囲気中に炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を含有するガスを添加しておくことにより、密着層中に添加することができる。例えば、密着層に炭素を添加する場合には一酸化炭素ガスおよび/または二酸化炭素ガスを、酸素を添加する場合には酸素ガスを、水素を添加する場合には水素ガスおよび/または水を、窒素を添加する場合には窒素ガスを、乾式めっきを行う際の雰囲気中に添加しておくことができる。
【0095】
炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を含有するガスは、不活性ガスに添加し、乾式めっきの際の雰囲気ガスとすることが好ましい。不活性ガスとしては特に限定されないが、例えばアルゴンを好ましく用いることができる。
【0096】
密着層を上述のように乾式めっき法により成膜することにより、絶縁性基材と密着層との密着性を高めることができる。そして、密着層は例えば金属を主成分として含むことができるため金属層との密着性も高い。このため、絶縁性基材と金属層との間に密着層を配置することにより、金属層の剥離を抑制することができる。
【0097】
密着層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば5nm以上50nm以下とすることが好ましく、5nm以上35nm以下とすることがより好ましく、5nm以上33nm以下とすることがさらに好ましい。
【0098】
密着層についても黒化層として機能させる場合、すなわち金属層における光の反射を抑制する場合、密着層の厚さを上述のように5nm以上とすることが好ましい。
【0099】
密着層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、密着層の厚さは上述のように50nm以下とすることが好ましく、35nm以下とすることがより好ましく、33nm以下とすることがさらに好ましい。
【0100】
次に、導電性基板の構成例について説明する。
【0101】
上述のように、本実施形態の導電性基板は絶縁性基材と、金属層と、有機物層と、黒化層と、を有することができる。また、任意に密着層等の層を設けることもできる。
【0102】
具体的な構成例について、図1A図1B図2A図2Bを用いて以下に説明する。図1A図1B図2A図2Bは、本実施形態の導電性基板の、絶縁性基材、金属層、有機物層、黒化層の積層方向と平行な面における断面図の例を示している。
【0103】
本実施形態の導電性基板は、例えば絶縁性基材の少なくとも一方の面上に、絶縁性基材側から金属層と、有機物層と、黒化層とがその順に積層された構造を有することができる。
【0104】
具体的には例えば、図1Aに示した導電性基板10Aのように、絶縁性基材11の一方の面11a側に金属層12と、有機物層13と、黒化層14と、を一層ずつその順に積層することができる。
【0105】
また、本実施形態の導電性基板については、絶縁性基材の一方の面上と、一方の面と対向する他方の面上とにそれぞれ、金属層と、有機物層と、黒化層とがその順に形成された構成とすることもできる。具体的には例えば、図1Bや、後述する図2Bのように構成することができる。例えば図1Bに示した導電性基板10Bの場合であれば、絶縁性基材11の一方の面11a上と、一方の面11aと対向する、すなわち反対側に位置するもう一方の面(他方の面)11b上と、にそれぞれ金属層12A、12Bと、有機物層13A、13Bと、黒化層14A、14Bと、をその順に積層することができる。なお、金属層、有機物層、黒化層は、例えば図1Bに示したように一層ずつ形成することができる。
【0106】
また、さらに任意の層として、例えば密着層を設けた構成とすることもできる。この場合例えば、絶縁性基材の少なくとも一方の面上に、絶縁性基材側から密着層と、金属層と、有機物層と、黒化層とがその順に形成された構造とすることができる。
【0107】
具体的には例えば図2Aに示した導電性基板20Aのように、絶縁性基材11の一方の面11a側に、密着層15と、金属層12と、有機物層13と、黒化層14と、をその順に積層することができる。
【0108】
この場合も絶縁性基材11の両面に密着層、金属層、有機物層、黒化層を積層した構成とすることもできる。具体的には図2Bに示した導電性基板20Bのように、絶縁性基材11の一方の面11a側と、他方の面11b側と、にそれぞれ密着層15A、15Bと、金属層12A、12Bと、有機物層13A、13Bと、黒化層14A、14Bとをその順に積層できる。
【0109】
なお、図1B図2Bにおいて、絶縁性基材の両面に金属層、有機物層、黒化層等を積層した場合において、絶縁性基材11を対称面として絶縁性基材11の上下に積層した層が対称になるように配置した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、図2Bにおいて、絶縁性基材11の一方の面11a側の構成を図1Bの構成と同様に、密着層15Aを設けずに金属層12Aと、有機物層13Aと、黒化層14Aとをその順に積層した形態とし、絶縁性基材11の上下に積層した層を非対称な構成としてもよい。
【0110】
ところで、本実施形態の導電性基板においては、絶縁性基材上に金属層と、有機物層と、黒化層とを設けることで、金属層による光の反射を抑制し、導電性基板の反射率を抑制することができる。
【0111】
本実施形態の導電性基板の反射率の程度については特に限定されるものではないが、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合のディスプレイの視認性を高めるためには、反射率は低い方が良い。例えば、波長400nm以上700nm以下の光の平均反射率が20%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましく、15%以下であることが特に好ましい。
【0112】
反射率の測定は、導電性基板の黒化層に光を照射するようにして測定を行うことができる。具体的には例えば図1Aのように絶縁性基材11の一方の面11a側に金属層12、有機物層13、黒化層14の順に積層した場合、黒化層14に光を照射するように黒化層14の表面Aに対して光を照射し、測定できる。測定に当たっては波長400nm以上700nm以下の光を例えば波長1nm間隔で上述のように導電性基板の黒化層14に対して照射し、測定した値の平均値を該導電性基板の反射率とすることができる。
【0113】
本実施形態の導電性基板はタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。この場合導電性基板はメッシュ状の配線を備えた構成とすることができる。
【0114】
メッシュ状の配線を備えた導電性基板は、ここまで説明した本実施形態の導電性基板の金属層、有機物層、及び黒化層をエッチングすることにより得ることができる。
【0115】
例えば、二層の配線によりメッシュ状の配線とすることができる。具体的な構成例を図3に示す。図3はメッシュ状の配線を備えた導電性基板30を金属層等の積層方向の上面側から見た図を示しており、配線パターンが分かり易いように、絶縁性基材11、及び金属層をパターニングして形成した配線31A、31B以外の層は記載を省略している。また、絶縁性基材11を透過して見える配線31Bも示している。
【0116】
図3に示した導電性基板30は、絶縁性基材11と、図中Y軸方向に平行な複数の配線31Aと、X軸方向に平行な配線31Bとを有している。なお、配線31A、31Bは金属層をエッチングして形成されており、該配線31A、31Bの上面および/または下面には図示しない有機物層、及び黒化層が形成されている。また、有機物層、及び黒化層は配線31A、31Bと同じ形状にエッチングされている。
【0117】
絶縁性基材11と配線31A、31Bとの配置は特に限定されない。絶縁性基材11と配線との配置の構成例を図4A図4Bに示す。図4A図4B図3のA−A´線での断面図に当たる。
【0118】
まず、図4Aに示したように、絶縁性基材11の上下面にそれぞれ配線31A、31Bが配置されていてもよい。なお、図4Aでは配線31Aの上面、及び31Bの下面には、配線と同じ形状にエッチングされた有機物層32A、32B、黒化層33A、33Bが配置されている。
【0119】
また、図4Bに示したように、1組の絶縁性基材11を用い、一方の絶縁性基材11を挟んで上下面に配線31A、31Bを配置し、かつ、一方の配線31Bは絶縁性基材11間に配置されてもよい。この場合も、配線31A、31Bの上面には配線と同じ形状にエッチングされた有機物層32A、32B、黒化層33A、33Bが配置されている。なお、既述のように、金属層、有機物層、黒化層以外に密着層を設けることもできる。このため、図4A図4Bいずれの場合でも、例えば配線31Aおよび/または配線31Bと絶縁性基材11との間に密着層を設けることもできる。密着層を設ける場合、密着層も配線31A、31Bと同じ形状にエッチングされていることが好ましい。
【0120】
図3及び図4Aに示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は例えば、図1Bのように絶縁性基材11の両面に金属層12A、12Bと、有機物層13A、13Bと、黒化層14A、14Bとを備えた導電性基板から形成することができる。
【0121】
図1Bの導電性基板を用いて形成した場合を例に説明すると、まず、絶縁性基材11の一方の面11a側の金属層12A、有機物層13A、及び黒化層14Aを、図1B中Y軸方向に平行な複数の線状のパターンがX軸方向に沿って所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。なお、図1B中のX軸方向は、各層の幅方向と平行な方向を意味している。また、図1B中のY軸方向とは、図1B中の紙面と垂直な方向を意味している。
【0122】
そして、絶縁性基材11の他方の面11b側の金属層12B、有機物層13B、及び黒化層14Bを図1B中X軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけてY軸方向に沿って配置されるようにエッチングを行う。
【0123】
以上の操作により図3図4Aに示したメッシュ状の配線を有する導電性基板を形成することができる。なお、絶縁性基材11の両面のエッチングは同時に行うこともできる。すなわち、金属層12A、12B、有機物層13A、13B、黒化層14A、14Bのエッチングは同時に行ってもよい。また、図4Aにおいて、配線31A、31Bと、絶縁性基材11との間にさらに配線31A、31Bと同じ形状にパターニングされた密着層を有する導電性基板は、図2Bに示した導電性基板を用いて同様にエッチングを行うことで作製できる。
【0124】
図3に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は、図1Aまたは図2Aに示した導電性基板を2枚用いることにより形成することもできる。図1Aの導電性基板を2枚用いて形成した場合を例に説明すると、図1Aに示した導電性基板2枚についてそれぞれ、金属層12、有機物層13、及び黒化層14を、X軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけてY軸方向に沿って配置されるようにエッチングを行う。そして、上記エッチング処理により各導電性基板に形成した線状のパターンが互いに交差するように向きをあわせて2枚の導電性基板を貼り合せることによりメッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。2枚の導電性基板を貼り合せる際に貼り合せる面は特に限定されるものではない。例えば、金属層12等が積層された図1Aにおける表面Aと、金属層12等が積層されていない図1Aにおける他方の面11bとを貼り合せて、図4Bに示した構造となるようにすることもできる。
【0125】
また、例えば絶縁性基材11の金属層12等が積層されていない図1Aにおける他方の面11b同士を貼り合せて断面が図4Aに示した構造となるようにすることもできる。
【0126】
なお、図4A図4Bにおいて、配線31A、31Bと、絶縁性基材11との間にさらに配線31A、31Bと同じ形状にパターニングされた密着層を有する導電性基板は、図1Aに示した導電性基板にかえて図2Aに示した導電性基板を用いることで作製できる。
【0127】
図3図4A図4Bに示したメッシュ状の配線を有する導電性基板における配線の幅や、配線間の距離は特に限定されるものではなく、例えば、配線に流す電流量等に応じて選択することができる。
【0128】
また、図3図4A図4Bにおいては、直線形状の配線を組み合わせてメッシュ状の配線(配線パターン)を形成した例を示しているが、係る形態に限定されるものではなく、配線パターンを構成する配線は任意の形状とすることができる。例えばディスプレイの画像との間でモアレ(干渉縞)が発生しないようメッシュ状の配線パターンを構成する配線の形状をそれぞれ、ぎざぎざに屈曲した線(ジグザグ直線)等の各種形状にすることもできる。
【0129】
このように2層の配線から構成されるメッシュ状の配線を有する導電性基板は、例えば投影型静電容量方式のタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。
【0130】
以上の本実施形態の導電性基板によれば、絶縁性基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層上に、窒素系有機物を含有する有機物層と、黒化層と、を積層した構造を有している。そして、金属層の有機物層を形成する面には、所定の平均高さを有する複数の粒状の突起物が、単位長さ当たりに所定の個数となるように形成されている。このため、有機物層を形成した場合でも黒化層が剥離することを抑制することができ、高い品質安定性を有する導電性基板とすることができる。
【0131】
さらに、本実施形態の導電性基板においては剥離することを抑制した黒化層を設けているため、金属層表面における光の反射をより確実に抑制し、反射率を抑制した導電性基板とすることができる。このため、例えばタッチパネル等の用途に用いた場合にディスプレイの視認性を高めることができる。
(導電性基板の製造方法)
次に本実施形態の導電性基板の製造方法の一構成例について説明する。
【0132】
本実施形態の導電性基板の製造方法は、以下の工程を有することができる。
絶縁性基材の少なくとも一方の面上に金属層を形成する金属層形成工程。
金属層上に窒素系有機物を含有する有機物層を形成する有機物層形成工程。
有機物層上に黒化層を形成する黒化層形成工程。
【0133】
金属層形成工程で形成した金属層は、有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を有することができる。そして、複数の粒状の突起物の平均高さは8.00nm以上とすることができる。また、金属層は、有機物層を形成する面に、複数の粒状の突起物を70個/10μm以上有することができる。
【0134】
以下に本実施形態の導電性基板の製造方法について具体的に説明する。
【0135】
なお、本実施形態の導電性基板の製造方法により上述の導電性基板を好適に製造することができる。このため、以下に説明する点以外については上述の導電性基板の場合と同様の構成とすることができるため説明を一部省略する。
【0136】
金属層形成工程に供する絶縁性基材は予め準備しておくことができる。用いる絶縁性基材の種類は特に限定されるものではないが、既述のように可視光を透過する樹脂基板(樹脂フィルム)や、ガラス基板等の透明基材を好ましく用いることができる。絶縁性基材は必要に応じて予め任意のサイズに切断等行っておくこともできる。
【0137】
そして、金属層は既述のように、金属薄膜層を有することが好ましい。また、金属層は金属薄膜層と金属めっき層とを有することもできる。このため、金属層形成工程は、例えば乾式めっき法により金属薄膜層を形成する工程を有することができる。また、金属層形成工程は、乾式めっき法により金属薄膜層を形成する工程と、該金属薄膜層を給電層として、湿式めっき法の一種である電気めっき法により金属めっき層を形成する工程と、を有していてもよい。
【0138】
金属薄膜層を形成する工程で用いる乾式めっき法としては、特に限定されるものではなく、例えば、蒸着法、スパッタリング法、又はイオンプレーティング法等を用いることができる。なお、蒸着法としては真空蒸着法を好ましく用いることができる。金属薄膜層を形成する工程で用いる乾式めっき法としては、特に膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0139】
次に金属めっき層を形成する工程について説明する。湿式めっき法により金属めっき層を形成する工程における条件、すなわち、電気めっき処理の条件は、特に限定されるものではなく、常法による諸条件を採用すればよい。例えば、金属めっき液を入れためっき槽に金属薄膜層を形成した基材を供給し、電流密度や、基材の搬送速度を制御することによって、金属めっき層を形成できる。
【0140】
本実施形態の導電性基板については、金属層の有機物層を形成する面に複数の粒状の突起物を有することができる。
【0141】
金属層の有機物層を形成する面に係る複数の粒状の突起物を形成する方法としては特に限定されるものではないが、例えば金属層形成後に金属層表面を表面処理する方法が挙げられる。具体的な例としては、金属層を形成した後、金属層表面に対してエッチング処理や、サンドブラスト処理を施す方法が挙げられる。このため、金属薄膜層、または金属薄膜層と金属めっき層とを形成した後、金属層の有機物層を形成する面についてエッチング処理や、サンドブラスト処理を施す工程を設けることもできる。
【0142】
また、金属層の有機物層を形成する面に係る複数の粒状の突起物を形成する他の方法として、金属層を成膜する際の成膜条件を調整する方法が挙げられる。例えば金属めっき層を電気めっき法により成膜する際の電流密度(Dk値)を、金属めっき層の成膜中に変化させる方法が挙げられる。このため、係る方法により金属層の有機物層を形成する面に複数の粒状の突起物を形成する場合には、金属めっき層を形成する工程において電流密度を変化させることができる。電流密度の具体的な制御例については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0143】
次に、有機物層形成工程について説明する。
【0144】
有機物層形成工程においては、金属層上に窒素系有機物を含有する有機物層を形成することができる。
【0145】
有機物層の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば窒素系有機物を含有する溶液、例えば窒素系有機物を含有する水溶液を金属層上に供給、塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0146】
金属層上に窒素系有機物を含有する溶液を供給、塗布する方法としては特に限定されるものではなく、任意の方法を用いることができる。例えばスプレー法や、かけ流し法、浸漬法等が挙げられる。それぞれの方法については既述のため、説明を省略する。
【0147】
なお、窒素系有機物溶液を塗布後、付着した余剰の窒素系有機物溶液を除去するため、窒素系有機物溶液を塗布した基材を水により洗浄する水洗を実施することもできる。
【0148】
次に、黒化層形成工程について説明する。
【0149】
黒化層形成工程において、黒化層を形成する方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができる。
【0150】
黒化層形成工程において黒化層を成膜する方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等の乾式めっき法を好ましく用いることができる。特に、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、黒化層には既述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
【0151】
また、既述のように黒化層は電気めっき法等の湿式法により成膜することもできる。
【0152】
ただし、黒化層を形成する際に、有機物層に含まれる窒素系有機物が、めっき液中に溶けだし、黒化層中に取り込まれることで、黒化層の色調や他の特性に影響を及ぼす恐れがあるため、乾式法により成膜することが好ましい。
【0153】
本実施形態の導電性基板の製造方法においては、上述の工程に加えてさらに任意の工程を実施することもできる。
【0154】
例えば絶縁性基材と金属層との間に密着層を形成する場合、絶縁性基材の金属層を形成する面上に密着層を形成する密着層形成工程を実施することができる。密着層形成工程を実施する場合、金属層形成工程は、密着層形成工程の後に実施することができ、金属層形成工程では、本工程で絶縁性基材上に密着層を形成した基材に金属薄膜層を形成できる。
【0155】
密着層形成工程において、密着層の成膜方法は特に限定されるものではないが、乾式めっき法により成膜することが好ましい。乾式めっき法としては例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等を好ましく用いることができる。密着層を乾式法により成膜する場合、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、密着層には既述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
【0156】
本実施形態の導電性基板の製造方法で得られる導電性基板は例えばタッチパネル等の各種用途に用いることができる。そして、各種用途に用いる場合には、本実施形態の導電性基板に含まれる金属層、有機物層、及び黒化層がパターン化されていることが好ましい。なお、密着層を設ける場合は、密着層についてもパターン化されていることが好ましい。金属層、有機物層、及び黒化層、場合によってはさらに密着層は、例えば所望の配線パターンにあわせてパターン化することができ、金属層、有機物層、及び黒化層、場合によってはさらに密着層は同じ形状にパターン化されていることが好ましい。
【0157】
このため、本実施形態の導電性基板の製造方法は、金属層、有機物層及び黒化層をパターニングするパターニング工程を有することができる。なお、密着層を形成した場合には、パターニング工程は、密着層、金属層、有機物層、及び黒化層をパターニングする工程とすることができる。
【0158】
パターニング工程の具体的手順は特に限定されるものではなく、任意の手順により実施することができる。例えば図1Aのように絶縁性基材11上に金属層12、有機物層13、黒化層14が積層された導電性基板10Aの場合、まず黒化層14上の表面Aに所望のパターンを有するマスクを配置するマスク配置ステップを実施することができる。次いで、黒化層14の上の表面A、すなわち、マスクを配置した面側にエッチング液を供給するエッチングステップを実施できる。
【0159】
エッチングステップにおいて用いるエッチング液は特に限定されるものではなく、エッチングを行う層を構成する材料に応じて任意に選択することができる。例えば、層毎にエッチング液を変えることもでき、また、同じエッチング液により同時に金属層、有機物層、及び黒化層、場合によってはさらに密着層をエッチングすることもできる。
【0160】
また、図1Bのように絶縁性基材11の一方の面11a、他方の面11bに金属層12A、12B、有機物層13A、13B、黒化層14A、14Bを積層した導電性基板10Bについてもパターニングするパターニング工程を実施できる。この場合例えば黒化層14A、14B上の表面A、及び表面Bに所望のパターンを有するマスクを配置するマスク配置ステップを実施できる。次いで、黒化層14A、14B上の表面A、及び表面B、すなわち、マスクを配置した面側にエッチング液を供給するエッチングステップを実施できる。
【0161】
エッチングステップで形成するパターンについては特に限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。例えば図1Aに示した導電性基板10Aの場合、既述のように金属層12、有機物層13、及び黒化層14を複数の直線や、ぎざぎざに屈曲した線(ジグザグ直線)を含むようにパターンを形成することができる。
【0162】
また、図1Bに示した導電性基板10Bの場合、金属層12Aと、金属層12Bとでメッシュ状の配線となるようにパターンを形成することができる。この場合、有機物層13A、及び黒化層14Aは、金属層12Aと同様の形状に、有機物層13B、及び黒化層14Bは金属層12Bと同様の形状になるようにそれぞれパターニングを行うことが好ましい。
【0163】
また、例えばパターニング工程で上述の導電性基板10Aについて金属層12等をパターン化した後、パターン化した2枚以上の導電性基板を積層する積層工程を実施することもできる。積層する際、例えば各導電性基板の金属層のパターンが交差するように積層することにより、メッシュ状の配線を備えた積層導電性基板を得ることもできる。
【0164】
積層した2枚以上の導電性基板を固定する方法は特に限定されるものではないが、例えば接着剤等により固定することができる。
【0165】
以上の本実施形態の導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、絶縁性基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層上に、窒素系有機物を含有する有機物層と、黒化層と、を積層した構造を有している。そして、金属層の有機物層を形成する面には、所定の平均高さを有する複数の粒状の突起物が、単位長さ当たりに所定の個数となるように形成されている。このため、有機物層を形成した場合でも黒化層が剥離することを抑制することができ、高い品質安定性を有する導電性基板とすることができる。
【0166】
さらに、本実施形態の導電性基板の製造方法により得られる導電性基板においては剥離することを抑制した黒化層を設けているため、金属層表面における光の反射をより確実に抑制し、反射率を抑制した導電性基板とすることができる。このため、例えばタッチパネル等の用途に用いた場合にディスプレイの視認性を高めることができる。
【実施例】
【0167】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、得られた導電性基板の評価方法について説明する。
(1)粒状の突起物の平均高さ、線プロファイルからの粒状の突起物の粒数、金属層表面の表面粗さ、SAD値
以下の実施例、比較例において、絶縁性基材上に、密着層、金属層、及び有機物層を形成後、有機物層表面についてAFM(Bruker AXS社製 商品名:Dimension Icon,nanoScope V)を用いて、有機物層を形成後の金属層表面状態の測定を行った。なお、測定は、有機物層形成直後に、有機物層表面の任意の場所において、長さ10μmの線状に表面のプロファイルを測定し、測定値から、金属層表面の複数の粒状の突起物の平均高さ、線プロファイルからの粒状の突起物の粒数、金属層表面の表面粗さを算出した。また、AFMを用いた測定結果からSAD値についても算出した。
【0168】
なお、SAD値は以下の式(1)により算出しており、金属層の有機物層を形成する面の表面積S2として、AFMにより測定した値を用いた。
【0169】
SAD=100×(S2−S1)/S1 ・・・(1)
金属層の有機物層を形成する面の投影面積:S1
金属層の有機物層を形成する面の表面積:S2
(2)黒化層の密着性試験
黒化層の密着性試験はASTM D3359に基づいて、具体的には以下の手順に従って実施した。
【0170】
図5に示すように、黒化層まで形成した導電性基板の黒化層に対して、切込み工具(Precision Gate&Tool Company社製 Cross Cut Kit 1.0MM)を用いて、長さ20mmの縦切り込み線51aを1.0mm間隔で互いに平行になるように11本形成する。
【0171】
次いで同じ切込み工具を用いて、先に形成した縦切込み線51aと直交するように、長さ20mmの横切り込み線51bを1.0mm間隔で互いに平行になるように11本形成する。
【0172】
以上の工程により、図5に示すように黒化層に縦方向、横方向それぞれ11本の切込み線により、格子状の切込みが形成される。
【0173】
次いで、格子状の切込みを覆うように密着力評価用テープ(エルコメーター社製 Elcometer99テープ)を貼り付けた後、十分に擦り付ける。
【0174】
密着力評価用テープを貼り付けてから30秒経過後に測定面に対して可能な限り180°の方向に素早く密着力評価用テープを剥がす。
【0175】
密着力評価用テープを剥がした後、格子状の縦切込み線51a、及び横切込み線51bとで囲まれた、図5中の評価領域52内で黒化層の下に形成した金属層(有機物層)が露出した面積により密着性の評価を行った。
【0176】
評価領域内の金属層の露出面積が0%の場合を5B、0%より多く5%未満の場合を4B、5%以上15%未満の場合を3B、15%以上35%未満の場合を2B、35%以上65%未満の場合を1B、65%以上の場合を0Bと評価した。係る評価について0Bが最も黒化層の密着性が低く、5Bが黒化層の密着性が最も高くなる。
【0177】
密着性試験の結果、5Bの場合について密着性の評価を〇とし、それ以外の場合には×と評価した。
(試料の作製条件)
実施例、比較例として、以下に説明する条件で導電性基板を作製し、上述の評価方法により評価を行った。
[実施例1]
(密着層形成工程)
縦500mm×横500mm、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)製の絶縁性基材の一方の面上に密着層を成膜した。なお、絶縁性基材として用いたポリエチレンテレフタレート樹脂製の絶縁性基材について、全光線透過率をJIS K 7361−1に規定された方法により評価を行ったところ97%であった。
【0178】
密着層形成工程では、Ni−17重量%Cu合金のターゲットを装着したスパッタリング装置により、密着層として酸素を含有するNi−Cu合金層を成膜した。以下に密着層の成膜手順について説明する。
【0179】
予め60℃まで加熱して水分を除去した上述の絶縁性基材を、スパッタリング装置のチャンバー内に設置した。
【0180】
次に、チャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスと酸素ガスとを導入し、チャンバー内の圧力を1.3Paとした。なお、この際チャンバー内の雰囲気は体積比で30%が酸素、残部がアルゴンとしている。
【0181】
そして係る雰囲気下でターゲットに電力を供給し、絶縁性基材の一方の面上に密着層を厚さが20nmになるように成膜した。
(金属層形成工程)
金属層形成工程では、金属薄膜層形成工程と、金属めっき層形成工程と、を実施した。
【0182】
まず、金属薄膜層形成工程について説明する。
【0183】
金属薄膜層形成工程では、基材として密着層形成工程で絶縁性基材上に密着層を成膜したものを用い、密着層上に金属薄膜層として銅薄膜層を形成した。
【0184】
金属薄膜層は、銅のターゲットを用いた点と、基材をセットしたチャンバー内を排気した後、アルゴンガスを供給してアルゴン雰囲気とした点以外は、密着層の場合と同様にしてスパッタリング装置により成膜した。
【0185】
金属薄膜層である銅薄膜層は膜厚が80nmとなるように成膜した。
【0186】
次に、金属めっき層形成工程においては、金属めっき層として銅めっき層を形成した。銅めっき層は、電気めっき法により銅めっき層の厚さが0.5μmになるように成膜した。
【0187】
金属めっき層形成工程においては、金属めっき層形成工程開始時には電流密度(Dk値)を1A/dmとし、金属めっき層形成工程終了前の7秒間については電流密度(Dk値)を0.1A/dmとした。なお、金属層形成工程終了前のめっき時間については以下、最終のめっき時間と記載する。
(有機物層形成工程)
有機物層形成工程では、絶縁性基材上に、密着層と、金属層とが形成された積層体の金属層上に有機物層を形成した。
【0188】
有機物層形成工程ではまず、上述の積層体を窒素系有機物として1,2,3−ベンゾトリアゾールを含有するOPCディフューザー(奥野製薬工業株式会社製)溶液に7秒間浸漬した。なお、用いたOPCディフューザー溶液は、1,2,3−ベンゾトリアゾールの濃度が3mL/Lとなるように予め調整して用いた。
【0189】
そして、金属層の上面以外、すなわち金属層の密着層と対向する面と反対側の面以外に付着した溶液を除去した後、乾燥することで、金属層上に有機物層を形成した。
【0190】
有機物層形成後、粒状の突起物の平均高さ、線プロファイルからの粒状の突起物の粒数、金属層表面の表面粗さ、SAD値の評価を実施した。
(黒化層形成工程)
黒化層形成工程では、有機物層形成工程で形成した有機物層上に、スパッタリング法により黒化層としてNi−Cu層を形成した。
【0191】
黒化層形成工程では、Ni−35重量%Cu合金のターゲットを装着したスパッタリング装置により、黒化層としてNi−Cu合金層を成膜した。以下に黒化層の成膜手順について説明する。
【0192】
まず、絶縁性基材上に、密着層と、金属層と、有機物層と、を積層した積層体をスパッタリング装置のチャンバー内にセットした。
【0193】
次にチャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスを導入し、チャンバー内の圧力を1.3Paとした。
【0194】
そして係る雰囲気下でターゲットに電力を供給し、有機物層上に厚さ20nmになるように黒化層を成膜した。
【0195】
以上の工程により、金属層の上面、すなわち、金属層の密着層と対向する面と反対側の面に有機物層を介して黒化層を形成し、絶縁性基材上に、密着層、金属層、有機物層、黒化層がその順で積層された導電性基板が得られた。
【0196】
得られた導電性基板について、上述の密着性試験を実施した。
【0197】
結果を表1に示す。
[実施例2、実施例3]
最終のめっき時間を表1に示した時間とした点以外は実施例1と同様にして導電性基板の作製、評価を行った。
【0198】
結果を表1に示す。
[比較例1、2]
最終のめっき時間を表1に示した時間とした点以外は実施例1と同様にして導電性基板の作製、評価を行った。
【0199】
結果を表1に示す。
【0200】
【表1】
表1に示した結果によると、金属層表面に形成した複数の粒状の突起物の平均高さが8.00nm以上であり、金属層の有機物層を形成する面における、線プロファイルからの粒状の突起物の粒数が70個/10μm以上である実施例1〜3は密着性試験の評価が〇になることを確認できた。
【0201】
これに対して、金属層の表面に形成した複数の粒状の突起物の平均高さ、および/または線プロファイルからの粒状の突起物の粒数が上記範囲を満たさない比較例1、2については、密着性試験の評価が×となり、黒化層の剥離が観察されることが確認できた。
【0202】
以上に導電性基板を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0203】
本出願は、2015年7月31日に日本国特許庁に出願された特願2015−152898号に基づく優先権を主張するものであり、特願2015−152898号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0204】
10A、10B、20A、20B、30 導電性基板
11 絶縁性基材
12、12A、12B 金属層
13、13A、13B、32A、32B 有機物層
14、14A、14B、33A、33B 黒化層
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5