特許第6973082号(P6973082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6973082-接着型細胞の培養方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973082
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】接着型細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20211111BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20211111BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
   C12N5/07
   C12N5/071
   !C12M3/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-556046(P2017-556046)
(86)(22)【出願日】2016年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2016086930
(87)【国際公開番号】WO2017104618
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-244753(P2015-244753)
(32)【優先日】2015年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】草開 一樹
(72)【発明者】
【氏名】市村 直也
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−027944(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/093393(WO,A1)
【文献】 特開2008−048653(JP,A)
【文献】 Journal of Colloid and Interface Science (1993) Vol.155, pp.334-339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着型細胞を、細胞と接する底面の水接触角が、85°以上110°以下である脂環構造含有重合体製培養容器内において液体培地中で培養し、タンパク質分解酵素を添加せず、液流によって細胞を培養容器から剥離して、培養された細胞を液体培地中に懸濁することを特徴とする接着型細胞の培養方法。
【請求項2】
前記接着型細胞がCHO細胞である、請求項1記載の接着型細胞の培養方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリプシン等のタンパク質分解酵素を用いず、ピペッティングやボルテックス等の弱い物理作用のみで培養細胞を培地に懸濁することができる接着型細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、接着型細胞の培養においては、細胞がコンフルエントな状態になると、細胞培養容器底面に接着した細胞を、トリプシン等のタンパク質分解酵素を用いて剥離し、別の容器に移動させる操作が採用されている。しかしながら、トリプシンによる細胞へのダメージやトリプシンの由来となる動物等からのウイルス感染等の問題から、タンパク質分解酵素を用いない細胞培養方法が検討されている(特許文献1〜4)。
しかしながら、これらいずれの方法も、細胞へのダメージを低減することはできるものの、新たな培養工程を要する等、生産性に劣るものであった。このほか、スクレイパー等を用いて細胞を物理的に培養容器底面から剥がす方法も行われているが、細胞の受けるストレスが大きすぎることが懸念されている。
【0003】
ところで、特許文献5には、シクロオレフィン樹脂製容器による細胞培養では、ポリスチレン製容器を用いた場合と比べて、細胞の増殖性が向上することが報告されている。実施例においては、抗CD3抗体やレトロネクチン等のタンパク質をコートした環境下で、接着型細胞ではない血球系細胞の増殖性が向上していることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−091872号公報
【特許文献2】特開平5−192138号公報
【特許文献3】特開平7−313151号公報
【特許文献4】特開2012−235764号公報
【特許文献5】特開2008−048653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、トリプシン等のタンパク質分解酵素を用いず、ピペッティングやボルテックス等の弱い物理作用のみで培養細胞を培地に懸濁することができる接着型細胞の培養方法を提供することを目的とする。
法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、より簡便に、培養された接着型細胞を別の容器に移動させることのできる方法を検討した。その結果、培養容器として、脂環構造含有重合体製培養容器を用いると、通常接着型細胞をトリプシン等のタンパク質分解酵素処理後に行っている剥離工程で実施するピペッティング操作のみで、トリプシン等のタンパク質分解酵素処理を行わずに細胞へのダメージを抑制し、細胞を別の容器に移動することができ、しかも、細胞のロスが非常に少ないことも見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、接着型細胞を、脂環構造含有重合体製培養容器内において液体培地中で培養し、タンパク質分解酵素を添加せず、液流によって細胞を培養容器から剥離して、培養された細胞を液体培地中に懸濁することを特徴とする接着型細胞の培養方法が提供される。
本発明においては、前記接着型細胞はCHO細胞であることが好ましい。また、前記脂環構造含有重合体製培養容器の細胞と接する底面の水接触角が、85°以上100°以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、継代2回目を終えた時点での生細胞数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、接着型細胞を、脂環構造含有重合体製培養容器内において液体培地中で培養し、タンパク質分解酵素を添加せず、液流によって細胞を培養容器から剥離して、培養された細胞を液体培地中に懸濁することを特徴とする接着型細胞の培養方法である。
すなわち、本発明の方法は、接着型細胞を、脂環構造含有重合体製容器で培養することで、培養細胞を簡便に別の容器に移動させることができるものである。
【0010】
本発明に係る接着型細胞は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択することができる。本発明において、接着型細胞とは接着型細胞そのものであっても、接着型細胞由来の細胞であってもよい。接着型細胞そのものとは、通常の培養条件において、細胞外基質に接着することで生存及び増殖が可能な細胞のことで、足場依存性細胞とも言われる細胞である。接着型細胞由来の細胞とは、接着型細胞を馴化培養し浮遊状態でも生存と増殖が可能になった細胞等、接着型細胞に何らかの外的要因を与えることで細胞外基質に接着しなくても生存し、かつ増殖が可能な細胞である。
接着型細胞としては、CHO(チャイニーズハムスタ−の卵巣;Chinese Hamster Ovary)細胞、VERO細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞等に代表される、遺伝子操作の宿主細胞や、ワクチン製剤や遺伝子導入用製剤のためのウイルスの増殖回収及び生産用の細胞や、各種幹細胞や幹細胞から分化誘導された非血球系細胞等が挙げられる。
【0011】
また、本発明においては、これらの接着型細胞に、ファージやプラスミドのベクター等を用いた形質導入等によって、外来遺伝子を発現することのできる様になった接着型細胞であってもよい。
ここで外来遺伝子は、目的に応じて任意に選択することができる。具体的には、エリスロポエチン(以下、「EPO」という)、インターフェロン(α、β、γ)、顆粒球コロニー刺激因子G−CSF、インターロイキン、顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子GM−CSF、人成長ホルモン、インスリン、グルカゴンHGF、血液凝固第VIII因子、ヒト型抗体等のサイトカインやホルモンのような生理活性タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
これらの接着型細胞のなかでも、本発明のより優れた効果が得られる観点から、CHO細胞が好ましい。
【0012】
本発明において、細胞を培養する際には液体培地が用いられる。
液体培地としては、通常、pH緩衝作用があり、浸透圧が細胞に好適なものであり、細胞の栄養成分を含み、かつ、細胞に対して毒性がないものが用いられる。
液体培地にpH緩衝作用を付与する成分としては、トリス塩酸塩、各種リン酸塩、各種炭酸塩等が挙げられる。
液体培地の浸透圧調整は、通常、細胞の浸透圧とほぼ同じになるように、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、グルコース等の濃度を調整した水溶液を用いて行われる。かかる水溶液としては、具体的には、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等の生理食塩水;乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等のリンゲル液;等が挙げられる。
細胞の栄養成分としては、アミノ酸、核酸、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
液体培地としては、RPMI−1640、HAM、α−MEM、DMEM、EMEM、
F−12、F−10、M−199等の各種市販品を利用することができる。
【0013】
液体培地には、添加剤を配合することもできる。
用いる添加剤としては、タンパク質等の誘導因子;分化誘導活性を有する低分子化合物;ペプチド;ミネラル;金属;ビタミン成分;細胞表面の受容体に作用する、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト;核内受容体の、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト;コラーゲンやファイブネクチン等の細胞外マトリックス;細胞外マトリックスの一部分あるいは、細胞外マトリックスを模擬した化合物;細胞内の情報伝達経路に関わるタンパク質に作用する成分;細胞内の1次代謝又は2次代謝の酵素に作用する成分;細胞内の核内又はミトコンドリア内の遺伝子の発現に影響を与える成分;ウィルスベクター等と組み合わせて細胞内に導入することができるDNAやRNA;等が挙げられる。
これらの添加剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
細胞の培養条件は特に限定されず、用いる細胞や目的に応じて適宜決定することができる。例えば、二酸化炭素濃度が5%程度で、温度が20℃〜37℃の範囲で一定に維持された、加湿された恒温器を用いて細胞を培養することができる。
【0015】
本発明に用いる脂環構造含有重合体製培養容器は、脂環構造含有重合体を任意の形状に成形してなるものである。
脂環構造含有重合体は、主鎖及び/又は側鎖に脂環構造を有する樹脂であり、機械的強度、耐熱性等の観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましい。
【0016】
前記脂環構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造等が挙げられるが、機械的強度、耐熱性等の観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0017】
脂環構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。脂環構造を構成する炭素原子数がこの範囲内であるときに、機械的強度、耐熱性、及び成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0018】
脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%である。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0019】
脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、及び、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体が好ましい。
【0020】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0021】
開環重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、並びにこれらの水素化物等が挙げられる。
付加重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の付加重合体及びノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体等が挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体、及び当該付加重合体の水素添加物等の飽和ノルボルネン系重合体が、耐熱性、機械的強度等の観点から好ましく、細胞の剥離のしやすさから、とりわけ極性基を有しないものが好ましい。ここで、極性基とは、極性のある原子団のことをいう。極性基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基等が挙げられる。
【0022】
ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環式単量体;トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、2−メチルジシクロペンタジエン、2,3−ジメチルジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の3環式単量体;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8,9−ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチル−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−エチリデン−9−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4−メタノ−8−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−クロロ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−8−ブロモ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン等の4環式単量体;等が挙げられる。
【0023】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,4−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,5−シクロデカジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、1,5,9,13−シクロヘキサデカテトラエン等の単環のシクロオレフィン系単量体が挙げられる。
これらの単量体は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0024】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜20のα−オレフィン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンとも言う)等のシクロオレフィン系単量体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ジエン系単量体;等が挙げられる。
これらの中でも、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、α−オレフィン系単量体が好ましく、エチレンがより好ましい。
これらの単量体は、置換基を1種又は2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0025】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0026】
ノルボルネン系単量体の付加重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、単量体成分を、公知の付加重合触媒の存在下で重合して得ることができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0027】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体等が挙げられる。
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系単量体を1,2−又は1,4−付加重合した重合体及びその水素化物等が挙げられる。
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;等が挙げられる。
ビニル脂環式炭化水素重合体は、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
これらの脂環構造含有重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
脂環構造含有重合体の分子量に格別な制限はないが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは8,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜100,000である。重量平均分子量がこの範囲内であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0029】
脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50〜300℃、好ましくは100〜280℃、特に好ましくは115〜250℃、さらに好ましくは130〜200℃である。ガラス転移温度がこの範囲内であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
本発明においてガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
【0030】
脂環構造含有重合体には、熱可塑性樹脂材料で通常用いられている配合剤、例えば、軟質重合体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤等の配合剤を、通常採用される量、添加することができる。
また、脂環構造含有重合体には、軟質重合体以外のその他の重合体(以下、単に「その他の重合体」という)を混合しても良い。脂環構造含有重合体に混合されるその他の重合体の量は、脂環構造含有重合体100重量部に対して、通常200重量部以下、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。
脂環構造含有重合体に対して配合する各種配合剤やその他の重合体の割合が多すぎると細胞が浮遊し難くなるため、いずれも脂環構造含有重合体の性質を損なわない範囲で配合することが好ましい。
【0031】
脂環構造含有重合体と、配合剤やその他の重合体との混合方法は、ポリマー中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合順序に格別な制限はない。混合方法としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機等を用いて樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させた後、凝固法、キャスト法、又は直接乾燥法により溶剤を除去する方法等が挙げられる。二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
【0032】
脂環構造含有重合体製培養容器の成形方法は、培養容器の形状に応じて任意に選択することができる。成形方法の具体例としては、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形法、圧縮成形法、回転成形法、カレンダー成形法、圧延成形法、切削成形法、紡糸等が挙げられ、これらの成形法を組み合わせたり、成形後必要に応じて延伸等の後処理をすることもできる。
【0033】
本発明に用いる脂環構造含有重合体製培養容器は、少なくとも細胞が接触する面が脂環構造含有重合体で形成されたものであればよく、全体が脂環構造含有重合体で形成されたものでなくてもよい。また、脂環構造含有重合体を構成部材の一部として含む容器であってもよいし、脂環構造含有重合体で全体が構成された容器であってもよいし、脂環構造含有重合体成形体と他の重合体成形体との積層体で構成された容器であってもよい。
【0034】
細胞が接触する脂環構造含有重合体製培養容器の形状に格別な制限はなく、板状、シート状等が挙げられ、また、その表面は平らであっても、凹凸形状を有していてもよい。具体的な容器の形状としては、ディッシュ、プレート、バッグ、チューブ、スキャホールド、カップ、ジャー・ファーメンター等が挙げられる。
【0035】
本発明においては、脂環構造含有重合体製培養容器は、滅菌処理されたものであることが好ましい。
滅菌処理の方法に格別な制限はなく、高圧蒸気法や乾熱法等の加熱法、γ線や電子線等の放射線を照射する放射線法、高周波を照射する照射法、酸化エチレンガス(EOG)等のガスを接触させるガス法、滅菌フィルタを用いる濾過法等、医療分野で一般的に採用される方法から、成形体の形状や用いる細胞に応じて、選択することができる。なかでも、表面状態の変化が少ないことから、ガス法が好ましい。
【0036】
また、これらの成形体表面は、プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理、紫外線照射処理等の、培養容器に対して一般的に施す滅菌目的以外の処理を行うこともできる。ただし、これらの表面処理操作を施すことにより発生する費用を抑えることができることや、表面処理に伴う形成体表面の部分分解により清浄性が損なわれるおそれがあること、細胞の剥離性が低下するおそれがあること等の理由から、脂環構造含有重合体製培養容器の細胞と接する底面の水接触角は、85°以上110°以下であることが好ましく、85°以上105°以下であることがより好ましく、85°以上100°以下であることが特に好ましい。ここで、水接触角は、公知の全自動接触角計(例えば、協和界面科学社製「LCD−400S」)を用い、ディッシュ底面をφ30mmのサークルカッターで切り取って試料の中心と、そこを中央とする1辺20mmの正方形の頂点4か所、計5か所を測定点とし、液滴の半径rと高さhを求め、tanθ1=h/r、θ=2arctan(h/r)で求められるθである(θ/2法)。
【0037】
培養された細胞を液体培地中に懸濁させるためには、培養容器に接着している細胞を剥離することを要する。脂環構造含有重合体製培養容器で培養された接着型細胞は、ポリスチレン製容器で培養された接着型細胞のように伸展した状態で接着しているのではなく、比較的球形を保った状態で接着しているため、小さな力を加えることで容易に剥離することができる。従って、本発明において細胞の剥離は、液流のみを用いて行う。細胞を剥離するに当たっては、タンパク質分解酵素も、細胞に直接力を与えるスクレイパー等の器具も必要としない。
【0038】
液流は、液体培地又は液体培地を構成する液体を運動させることにより培養された細胞に加えられる作用によって発生させることができる。具体的には、ピペッティング操作等による吸入と吐出、ボルテックス操作や超音波処理等による振動や攪拌、小型ポンプ等を利用した循環等、意図的に細胞容器内の液体に力を加える方法が挙げられる。
【0039】
液流をおこすための液体は、培養に用いている培養容器内の液体培地に限らず、生理食塩水や新たな培地、培養に用いているのとは異なる培地や、緩衝液や緩衝液に培地の一部の成分を溶解したもの等培地を構成する液体成分であっても良い。培養に用いている培養容器内の液体培地以外のものを用いる場合、培養容器に存在している元々の培地の一部又は全部を除去してもよいし、もちろん元々の培地存在下に追加してもよい。
【0040】
本発明の方法は、自動分注装置のマルチチャンネルヘッドを用いての複数チャンネル、あるいは、単一チャンネルでピペッティングによる液体操作を行うことに適用してもよく、アーム型ロボットやヒト型ロボットでのピペッティング操作での液体操作に適用することができる。また、細胞培養用のアイソレーター装置内での細胞培養の操作に適用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
脂環構造含有重合体として、ノルボルネン系開環重合体水素化物〔ゼオノア(登録商標)1060R(日本ゼオン社製)を用いて、射出形成法により、直径35mmのシャーレ状の培養容器を得た(以下、この培養容器を「1060R製ディッシュ」という)。
次いで、1060R製ディッシュのエチレンオキサイド滅菌処理を行った。1060R製ディッシュの底面(細胞と接触する側)の水接触角は、90°であった。
培養容器として1060R製ディッシュを使用し、液体培地として10%牛胎児血清を含むHam培地を使用して、CHO細胞を2.878×10cells/mLで播種して、5%CO雰囲気37℃の条件でコンフルエントな状態になるまで培養した。この細胞を回収し、同じ条件で3日ごとに2回継代培養を行った。継代に当たっては、培養容器内の培養液を30回(0.5mL)ピペッティングして、培養容器底面全体に液流による力を与え細胞を剥離した。細胞が懸濁している培養液を、10倍に希釈して継代した。希釈はHam培地を用いた。
継代を2回行い3日培養した時点で、培養液を30回(0.5mL)ピペッティングして細胞を剥離し、以下の方法により、細胞数を計測した。
(細胞数の計測)
浮遊状態にある細胞については、培養上清を試料とし、試料をトリパンブルー染色することで生細胞と死滅細胞を区別して、細胞数を計測した。
一方、1060R製ディッシュ底面に接着している細胞は、生理食塩水で洗浄後、トリプシン処理により、1060R製ディッシュから細胞を剥離した後、これらをトリパンブルー染色して生細胞と死細胞を区別して、細胞数を計測した。
【0043】
〔参考例1〕
790R製ディッシュに代えて、ポリスチレン製ディッシュ〔ファルコン(登録商標)ディッシュ(ベクトンデッキンソン社製、型番353001)〕を使用し、ピペッティング前にトリプシン処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして培養を行い、細胞数を計測した。
【0044】
参考例1のポリスチレン製ディッシュの生細胞の合計数を1としたとき、実施例1の1060R製ディッシュの生細胞の合計数を図1に示す。
この結果から、1060R製ディッシュで培養したCHO細胞は、ピペッティングにより培養容器から容易に剥がれるため、継代により細胞が順調に増加し、通常の方法、即ちポリスチレン製ディッシュで培養し、トリプシン処理で細胞を剥離して継代する方法と同等の継代培養ができることが分かる。
【0045】
〔比較例1〕
1060R製ディッシュに代えて、ポリスチレン製ディッシュを使用したことを除き、実施例1と同様にして継代培養を行ったが、ピペッティングによっては殆ど細胞が剥離せず、1回目の継代で殆ど細胞を確保できず、2回目の継代では生細胞が確認できなかった。
図1