(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記白色部位検出部は、前記画像データの色を規定する色空間において白色又は白色近傍の色値を有する部位を、前記白色部位として検出する請求項1に記載の情報処理装置。
前記情報取得部は、前記対象物が制作されてからの経過年数に代えて、前記対象物が入手されてからの経過年数を示した前記経過年数情報を取得する請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び立体造形システムの実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、及びいわゆる均等の範囲のものが含まれる。以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換、変更、及び組み合わせを行うことができる。
【0012】
<立体造形システム>
本発明の一実施形態に係る立体造形システムについて図面を用いて説明する。
図1は一実施形態に係る立体造形システムの外観図である。立体造形システム1は、立体造形装置50、及びコンピュータ10を備える。
【0013】
コンピュータ10は、例えば、PC(Personal Computer)、又はタブレット等の汎用の情報処理装置、若しくは立体造形装置50専用の情報処理装置である。コンピュータ10は、立体造形装置50に内蔵されていても良い。コンピュータ10は立体造形装置50とケーブルで接続されても良い。また、コンピュータ10はインターネットやイントラネット等のネットワークを介して立体造形装置と通信するサーバ装置であっても良い。コンピュータ10は、上記の接続又は通信により、再現する造形物のデータを立体造形装置50へ送信する。
【0014】
立体造形装置50は、インクジェット方式の造形装置である。立体造形装置50は、再現する造形物のデータに基づいて造形ステージ595上の媒体Pに液体の造形剤Iを吐出する造形ユニット570を備えている。更に、造形ユニット570は、媒体Pに吐出された造形剤Iに光を照射して硬化して、造形層Lを形成する硬化手段572を有する。更に、立体造形装置50は、造形剤Iを造形層L上に吐出して硬化する処理を繰り返すことで立体の造形物を得る。
【0015】
造形剤Iは、立体造形装置50によって吐出可能であり、かつ形状安定性が得られ、硬化手段572の照射する光によって硬化する材料が用いられる。例えば、硬化手段572がUV(Ultra Violet)照射装置である場合、造形剤IとしてはUV硬化インクが用いられる。
【0016】
媒体Pとしては、吐出された造形剤Iが定着する任意の材料が用いられる。媒体Pは、例えば、記録紙等の紙、キャンバス等の布、或いはシート等のプラスチックである。
【0017】
<立体造形装置>
図2は、一実施形態に係る立体造形装置の平面図である。
図3は、一実施形態に係る立体造形装置の側面図である。
図4は、一実施形態に係る立体造形装置の正面図である。内部構造を表すため、
図2において立体造形装置50の筐体の上面が、
図3において筐体の側面が、
図4において筐体の正面が記載されていない。
【0018】
立体造形装置50の筐体の両側の側面590には、ガイド部材591が保持されている。ガイド部材591には、キャリッジ593が移動可能に保持されている。キャリッジ593は、モータによってプーリ及びベルトを介して
図2、4の矢印X方向(以下、単に「X方向」という。Y、Zについても同様とする。)に往復搬送される。なお、X方向を、主走査方向と表す。
【0019】
キャリッジ593には、造形ユニット570がモータによって
図3、4のZ方向に移動可能に保持されている。造形ユニット570には、6種の造形剤のそれぞれを吐出する6つの液体吐出ヘッド571a、571b、571c、571d、571e、571fがX方向に順に配置されている。以下、液体吐出ヘッドを単に「ヘッド」と表す。また、ヘッド571a、571b、571c、571d、571e、571fのうち任意のヘッドをヘッド571と表す。ヘッド571は6つに限られず、造形剤Iの数に応じて1以上の任意の数、配置される。
【0020】
立体造形装置50には、タンク装着部560が設けられている。タンク装着部560には、第1の造形剤、第2の造形剤、第3の造形剤、第4の造形剤、第5の造形剤、第6の造形剤の各々を収容した複数のタンク561が装着されている。各造形剤は、6つの供給チューブ562を介して各ヘッド571に供給される。各ヘッド571は、ノズル又はノズル列を有しており、タンク561から供給された造形剤を吐出する。一実施形態において、ヘッド571a、571b、571c、571d、571e、571fは、ノズルから、それぞれ第1の造形剤、第2の造形剤、第3の造形剤、第4の造形剤、第5の造形剤、第6の造形剤を吐出する。
【0021】
造形ユニット570における、6つのヘッド571の両側にはそれぞれ硬化手段572が配置されている。硬化手段572は、ヘッド571から媒体Pへ吐出された造形剤を硬化する。硬化手段572としては、造形剤Iを硬化させることが可能であれば特に限定されないが、紫外線(UV)照射ランプ、電子線照射ランプ等のランプが挙げられる。ランプの種類としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド等が挙げられる。超高圧水銀灯は点光源であるが、光学系と組み合わせて光利用効率を高くしたUVランプは、短波長領域の照射が可能である。メタルハライドは、波長領域が広いため有効である。メタルハライドには、造形剤に含まれる光開始剤の吸収スペクトルに応じてPb、Sn、Feなどの金属のハロゲン化物が用いられる。硬化手段572には、紫外線等の照射により発生するオゾンを除去する機構が具備されていることが好ましい。なお、硬化手段572の数は2つに限られず、例えば、造形ユニット570を往復させて造形するか等に応じて、任意の数設けられる。また、2つの硬化手段572のうち1つだけ稼働させても良い。
【0022】
立体造形装置50においてX方向の一方側には、ヘッド571の維持回復を行うメンテナンス機構580が配置されている。メンテナンス機構580は、キャップ582、及びワイパ583を有する。キャップ582は、ヘッド571のノズル面(ノズルが形成された面)に密着する。この状態で、メンテナンス機構580がノズル内の造形剤Iを吸引することで、ノズルに詰まった高粘度化した造形剤Iが排出される。その後、ノズルのメニスカス形成のため、ノズル面をワイパ583でワイピング(払拭)する。また、メンテナンス機構580は、造形剤Iの吐出が行われない場合に、ヘッド571のノズル面をキャップ582で覆い、造形剤Iが乾燥することを防止する。
【0023】
造形ステージ595は、2つのガイド部材592に移動可能に保持されたスライダ部を有する。これにより、造形ステージ595は、モータによってプーリ及びベルトを介してX方向と直交するY方向(副走査方向)に往復搬送される。
【0024】
<造形液>
本実施形態において、上記の第1の造形剤はキープレートとしてのブラックのUV硬化インク(K)、第2の造形剤はシアンのUV硬化インク(C)、第3の造形剤はマゼンタのUV硬化インク(M)、第4の造形剤はイエローのUV硬化インク(Y)、第5の造形剤はクリアのUV硬化インク(CL)、第6の造形剤はホワイトのUV硬化インク(W)である。なお、造形剤は6つに限られず、画像再現上、必要な色の種類に応じて1以上の任意の数であれば良い。なお、造形剤の数が7以上である場合、立体造形装置50に追加のヘッド571を設けても良く、造形剤の数が5以下である場合、いずれかのヘッド571を稼働させないか、設けなくても良い。
【0025】
<制御部>
次に、
図5を用いて立体造形装置50の制御に関するハードウェア構成について説明する。
図5は立体造形装置50のハードウェア構成図である。
【0026】
立体造形装置50は、立体造形装置50の処理、及び動作を制御するための制御部500を有する。制御部500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)504、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)505、I/F(Interface)506、I/O(Input/Output)507を有する。
【0027】
CPU501は、立体造形装置50の処理、及び動作の全体を制御する。ROM502は、CPU501に立体造形動作を制御するためのプログラム、その他の固定データを格納する。RAM503は、再現する造形物のデータ等を一時格納する。CPU501、ROM502、及びRAM503によって、上記プログラムに従った処理を実行する主制御部500Aが構築される。
【0028】
NVRAM504は、立体造形装置50の電源が遮断されている間もデータを保持する。ASIC505は、造形物のデータに対する各種信号処理等を行う画像処理やその他、立体造形装置50全体を制御するための入出力信号を処理する。
【0029】
I/F506は、外部のコンピュータ10に接続され、コンピュータ10との間でデータ及び信号を送受信する。コンピュータ10から送られてくるデータには、再現する造形物のデータが含まれる。I/F506は外部のコンピュータ10に直接接続されるのではなくインターネットやイントラネット等のネットワークに接続されても良い。
【0030】
I/O507は、各種のセンサ525に接続され、センサ525から検知信号を入力する。
【0031】
また、制御部500には、立体造形装置50に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル524が接続されている。
【0032】
更に、制御部500は、CPU501又はASIC505の命令によって動作するヘッド駆動部511、モータ駆動部512、及びメンテナンス駆動部513を有する。
【0033】
ヘッド駆動部511は、造形ユニット570のヘッド571へ画像信号と駆動電圧を出力することにより、ヘッド571による造形剤Iの吐出を制御する。この場合、ヘッド駆動部511は、例えば、ヘッド571内で造形剤Iを貯留するサブタンクの負圧を形成する機構、及び押圧を制御する機構へ駆動電圧を出力する。なお、ヘッド571にも、基板が搭載されており、この基板で画像信号等により駆動電圧をマスクすることで駆動信号を生成しても良い。
【0034】
モータ駆動部512は、造形ユニット570のキャリッジ593をX方向(主走査方向)に移動させるX方向走査機構596のモータへ駆動信号を出力することにより、モータを駆動する。また、モータ駆動部512は、造形ステージ595をY方向(副走査方向)に移動させるY方向走査機構597のモータへ駆動電圧を出力することにより、該モータを駆動する。更に、モータ駆動部512は、造形ユニット570をZ方向に移動させるZ方向走査機構598のモータへ駆動電圧を出力することにより、該モータを駆動する。
【0035】
メンテナンス駆動部513は、メンテナンス機構580へ駆動信号を出力することにより、メンテナンス機構580を駆動する。上記各部は、アドレスバスやデータバス等により相互に電気的に接続されている。
【0036】
<情報処理装置>
次に、
図6を用いて本実施形態の情報処理装置であるコンピュータ10の制御に関するハードウェア構成について説明する。
図6は、一実施形態に係るコンピュータ10のハードウェア構成図である。
【0037】
コンピュータ10は、CPU101、ROM102、RAM103、記憶部104、表示部105、操作部106、I/F107を有する。上記各部は、アドレスバスやデータバス等により相互に電気的に接続されている。
【0038】
CPU101は、コンピュータ10の処理、及び動作の全体を制御する。ROM102は、CPU101が実行するためのプログラム、その他の固定データを格納する。RAM103は、コンピュータ10の主記憶装置であり、CPU101のワークスペースとして機能する。記憶部104は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置であり、コンピュータ10のオペレーティングシステム、CPU101が実行するためのプログラム、その他の固定データを格納する。
【0039】
表示部105は、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示デバイスによって構成され、CPU101からの表示信号に基づいて各種情報を表示する。操作部106は、キーボードやマウス等の入力デバイスによって構成され、ユーザ操作を受け付ける。
【0040】
I/F107は、立体造形装置50等の外部装置に接続され、外部装置との間でデータ及び信号を送受信する。I/F107は立体造形装置50に直接接続されるのではなくインターネットやイントラネット等のネットワークに接続されても良い。
【0041】
本実施形態のコンピュータ10は、複製の対象となる対象物を表した後述する造形データを立体造形装置50に入力することで、対象物を模した造形物を立体造形装置50に造形させる。以下では、複製対象の対象物を油絵の絵画とした例について説明する。
【0042】
<積層造形>
次に、
図7を用いて立体造形装置50によって形成される積層造形について説明する。
図7は、立体造形装置50によって形成される積層造形の断面を模式的に示した図である。
【0043】
図7に示すように、積層造形は、土台L1の上に形成される。土台L1は、例えば、記録紙等の紙、キャンバス等の布、樹脂板等の平板であり、
図1に示した媒体Pに対応する。なお、土台L1は、UV硬化インクと密着性が良く、変形等しない剛性を有するものであることが好ましい。
【0044】
立体造形装置50は、ヘッド571からUV硬化インクK1を吐出する平面印刷を繰り返し行うことで、土台L1上に積層造形(積層構造)を形成する。立体造形装置50は、吐出するUV硬化インクK1の滴量にもよるが、一層当たり数μm〜30μm程度の厚みを保った層を形成する。
【0045】
積層構造は、土台L1を最下層として含めると、造形層L2、白色下地層L3、着色層L4、クリア層L5(最表層)の5段階の層に分けられる。造形層L2は、繰り返しの平面印刷によって形成された凹凸形状そのものを表す層であり、最も厚い層となる。立体造形装置50は、平面印刷を繰り返し行うことで、立体データの凹凸形状に合わせた造形層L2を形成する。立体造形装置50は、造形層L2の積層数を調整することで、油絵の絵画に特徴的なインクの盛り上がりを再現する。なお、造形層L2は、基本的に表に露出しないため、白色や透明等、何色のUV硬化インクK1を使用しても良い。また、造形層L2を白色のUV硬化インクK1で形成する場合、造形層L2は白色下地層L3を兼ねても良い。
【0046】
白色下地層L3は、造形層L2の色味の影響を無くすために形成される層である。具体的には、白色下地層L3は、着色層L4の発色に影響しない白色のUV硬化インクK1で形成される。これにより、着色層L4の発色を際立たせることができる。なお、造形層L2の色味を消すため、白色下地層L3は必要に応じて何層重ねても良い。
【0047】
着色層L4は、絵画の色彩を表現するための層である。着色層L4は、2次元のフルカラー印刷と同様に、CMYKの4原色に様々な特色(ライトシアン、ライトマゼンダ、グレー、オレンジ、グリーン、バイオレット等)を混色させたUV硬化インクK1を用いて、オリジナルと同様の発色となるよう形成される。なお、着色層L4は、単層に限らず多層としても良い。多層とすることで、厚み方向にも様々なブレンドが可能になるため、上記した特色だけでなく、白や透明のUV硬化インクを使った様々な表現が可能となる。
【0048】
クリア層L5は、光沢感を表現するための層である。透明のUV硬化インクK1を用いてクリア層L5を形成することで、複製した造形物の表面に光沢感を与えることができる。また、クリア層L5の形成条件を変えることで、造形物表面の光沢感を変えることができる。
【0049】
<クリア層>
次に、
図8、
図9を用いてクリア層L5の形成方法について説明する。
図8、
図9は、
図7で説明したクリア層L5の形成方法を説明するための図である。
【0050】
図8及び
図9において、層L14は、上述した土台L1、造形層L2、白色下地層L3、及び着色層L4を簡略化して表したものである。UV硬化インクK1は、一般的な平面印刷用インクジェットインク(水性、油性)と比べて、高い粘度を有している。ヘッド571からUV硬化インクK1を吐出する際には、加温により一旦粘度下げてから吐出されるが、飛翔中の空冷や被記録物(層L14)との接触により熱を奪われ、着滴後は高い粘度と表面張力によって層L14上で広がらず、ドーム状に盛り上がった形状でとどまる。
【0051】
例えば、
図8(a)に示すように、記録解像度ぎりぎりのドーム径となる小滴(例えば、2〜3ピクセル)でヘッド571からUV硬化インクK1を吐出すると、隣接する着滴(UV硬化インクK1)同士は癒着せず、
図8(b)に示すように、表面に凹凸を残したまま硬化することになる。硬貨後のUV硬化インクK1はクリア層L5を形成する。クリア層L5の表面に細かい凹凸が存在すると、入射した光が表面で乱反射するため、光沢感の低い表面状態となる。
【0052】
これに対して、
図9(a)に示すように、記録解像度に対して十分に大きい滴(例えば、10ピクセル以上)でヘッド571からUV硬化インクK1を吐出すると、隣接した打滴位置をも包含する大きなドームとなる。このため、隣接する着滴(UV硬化インクK1)同士が癒着しやすく、厚く均一な癒着合一面を形成しやすくなる。この癒着合一は時間とともに進行するため、着滴同士がなじむ時間(レべリング時間)を長くとることで、
図9(b)に示すように、平滑なクリア層L5を形成することができる。平滑なクリア層L5は、正反射成分が大きくなり、高い光沢感を得られる。
【0053】
<造形データの作成>
次に、
図10を用いて、立体造形装置50で使用する造形データの作成方法について説明する。
図10は、立体造形装置50で使用する造形データの作成方法を説明するための図である。
【0054】
立体造形装置50で造形物を造形する際には、造形元(複製元)の対象物(油絵の絵画)を表した造形データが必要となる。造形データは、対象物の色彩を示す色データと、対象物の凹凸形状を示す立体データとで構成される。
【0055】
図10(a)は、色データの一例を示す図である。色データは、造形物を平面的に撮影又はスキャニングした画像データの各位置(画素位置)に、色値をマッピングしたものである。色値は、RGBやCIELAB(CIE 1976 L*a*b*)等の色空間において、色を規定するデータ値であり、例えば、RGB値やL*a*b*値等で表される。
図10(a)では、位置P1の色値を、8bitのRGB値を用いて表した例を示している。なお、色データの代わりに、対象物を撮像又はスキャンしたカラーの画像データを用いても良い。
【0056】
図10(b)は、立体データの一例を示す図である。立体データは、画像データ各位置に、基準面(絵画のキャンバス表面)からの高さを示す高さ情報をマッピングしたものである。立体データは、例えば、3Dスキャナやレーザー測長機等の専用の計測器を用いて造形物表面の凹凸状態を実測する第1の方法と、2次元の色データから表面の凹凸状態を推定する第2の方法との、何れかを用いて取得することができる。なお、
図10(b)では、
図10(a)に示した位置P1(x、y)の高さ情報(z)を示している。
【0057】
また、対象物を複製する際には、上記した色彩や凹凸形状だけでなく、その対象物表面の光沢感(光沢/非光沢)も再現することが重量である。例えば、油絵の絵画では、表面にニスが塗布される場合があり、ニスの塗布状態(ニスの有無等)によって光沢感が異なる。ニスの塗布は、表現上の工夫というよりも、保存性を目的として行われることが一般的である。絵画の表面にニスを塗布することで、カビの発生や乾燥による絵具のひび割れを防止できるため、作品的又は古典的価値の高い絵画ほどニスが塗布されているものが多い。
【0058】
ニスの塗布状態(ニスの有無、厚く塗られているのか、薄く塗られているのか等)は、例えば、偏向光源と偏向フィルタとを組み合わせた専用の光沢測定器を使用することで測定することができる。この場合、光沢測定器で得られた測定結果を基に、光沢感を形成するための形成条件、つまりクリア層L5の形成条件を適切に設定することで、複製元の絵画の表面の光沢感を再現することができる。
【0059】
しかしながら、作品的又は古典的に価値の高い絵画は、美術館等の施設で管理されることが一般的であるため、ニスの塗布状態を容易に確認することはできない。また、立体データについても上記した第1の方法を用いて取得することは困難である。そのため、このような絵画を複製する場合には、オリジナルの絵画を撮影した画像(画像データ)を用いて複製品を造形することになるが、画像データから目視によってニスの塗布状態を判別するのは困難であり、光沢感の形成条件を適切に設定できない可能性がある。
【0060】
そこで、本実施形態の立体造形システム1(コンピュータ10)では、オリジナルの実測値を取得できない場合であっても、光沢感の形成条件を適切に設定することが可能な構成を有している。以下、係る構成について説明する。
【0061】
<情報処理装置の機能構成>
図11は、一実施形態に係るコンピュータ10の機能構成図である。
図11に示すように、コンピュータ10は、造形データ生成部111と、白色部位検出部112と、情報取得部113と、条件決定部114とを備える。これらの機能部は、例えば、コンピュータ10のCPU101によって実現される、より詳細には、コンピュータ10のCPU101が、ROM102又は記憶部104に記憶されたプログラム読み出して実行することで実現される。
【0062】
造形データ生成部111は、複製元の対象物(絵画)を表した画像データに対し所定の画像処理を施すことで、造形データ(色データ、立体データ)を生成する。ここで、画像データは、例えばデジタルカメラやスキャナ装置等で取得されるものであって、複製元の絵画を表した画像データである。
【0063】
具体的には、造形データ生成部111は、画像データの各位置(画素位置)に、その色値をマッピングすることで色データを生成する。また、造形データ生成部111は、画像データの各位置(画素位置)に、当該位置の色調や明暗状態等に基づき推定した高さ情報をマッピングすることで立体データを生成する。なお、3Dスキャナ等の計測機を用いて対象物の凹凸状態を測定可能な場合には、造形データ生成部111は、計測器の測定結果に基づき立体データを生成しても良い。また、画像データが奥行き情報(高さ情報)を含んだ距離画像である場合には、造形データ生成部111は、奥行き情報に基づき立体データを生成しても良い。
【0064】
白色部位検出部112は、造形データ生成部111で生成された色データから高白色部位を検出し、その検出結果を条件決定部114に出力する。以下、白色部位検出部112の動作を
図12を用いて説明する。
【0065】
図12は、一実施形態に係る色データの例を示す図である。
図12(a)は、非光沢の絵画を撮影した画像データから得られた色データを示しており、
図12(b)は、光沢を有する絵画を撮影した画像データから得られた色データを示している。
【0066】
デジタルカメラ等で撮像された画像データの場合、理想的な白色はR=255、G=255、B=255(8ビットのRGB値の場合)となる。ところが、非光沢の絵画を撮影した画像データでは、どんなに白い部位を探してもR、G、Bの各色は240以下程度となり、上限値の255に至ることはない。これは、絵画を撮影する際、自動で行われるホワイトバランス調整によって、周囲の光源に合わせて理想白色(R=255、G=255、B=255)が設定されるためである。これにより、絵画の表面で光の拡散/吸収が行われる非光沢の絵画では、最終的にデジタルカメラに入ってくる反射光も弱くなり、最白色部といえども理想白色に至らない「すこし暗い白」として撮影されることになる。そのため、非光沢の絵画を撮影した画像データから得られる色データには、
図12(a)に示すように白色(R=255、G=255、B=255)の部位(白色部位)は存在しない。
【0067】
これに対して、ニスが厚く塗布された高い光沢性を有する絵画を撮影した場合、
図12(b)に示すような、光源の全反射による白色部位W1が画像上の何れかに出現する。白色部位W1は、元々の絵画が何色で描かれていたかに関わらず、最高レベルの白色として撮像される。すなわち、色データ上に白色部位が存在する場合には、オリジナルの絵画の表面にニスが厚く塗布されていると推定できる。
【0068】
そこで、白色部位検出部112は、色データから白色部位を検出し、その検出結果を条件決定部114に出力する。これにより、条件決定部114は、白色部位検出部112の検出結果に基づき、複製対象の絵画にニスが厚く塗布されているか否かを判断することができる。
【0069】
なお、本実施形態では、白色領域は、画像データ(色データ)の色を規定する色空間において白色(理想白色)の色値(例えば、R=255、G=255、B=255)を有する部位であるとするが、白色近傍の色値(R、G、Bの値が241〜254)を有する部位を白色領域に含めても良い。この場合、近傍値として許容する範囲は、非光沢の絵画を撮影した画像データから得られる最白色の色値よりも高い値であるとする。また、色値を表す指標は8ビットのRGBに限らず、16ビットや32ビット、L*a*b*値等の他の色空間の指標を用いて表しても良い。
【0070】
ところで、白色部位検出部112において白色部位が検出されない場合、複製元の絵画にニスが「厚く」塗布されていないことは判別できるが、ニスが「薄く」塗布されているのか、或いはニス自体が塗布されていないのかまでを判別することは困難である。そこで、情報取得部113は、ニスの塗布状態の更なる判別を行うため、複製元の絵画が制作されてからの経過年数を示した経過年数情報を取得する。
【0071】
具体的には、情報取得部113は操作部106等を介して入力された経過年数を経過年数情報として取得する。なお、情報取得部113は、経過年数を入力するためのユーザインタフェースを表示部105に表示させることで、ユーザに入力を促す構成としても良い。また、この場合、情報取得部113は、白色部位検出部112で白色部位が検出されなかったことを条件に、ユーザインタフェースを表示させる構成としても良い。
【0072】
ここで、経過年数を判別材料としたのは以下の理由によるものである。一般的に、油絵の絵画を構成するキャンバス、油絵具(インク)、ニス(保護ニス)の寿命は、キャンバスが100年、インクが300〜500年、保護ニスが10年と言われている。保護ニスを塗布していない絵画では、カビの発生や、表面乾燥による亀裂等が発生しやすく、古い絵画ほど劣化が酷くなる。長い年月の間、品質状態を保たれてきた絵画は、相応の保護処理、すなわち保護ニスが塗布されていると考えられる。そこで、経過年数を指標に保護ニスが塗布されているか否かを推定することができる。例えば絵画が制作されてからの経過年数が所定値以上(例えば10年以上)であれば、保護ニスが塗布されていると推定できる。そして、この推定結果に、白色部位検出部112の検出結果を加味することで、ニスが「薄く」塗布されているのか、ニスが塗布されていないのかを判別することができる。
【0073】
なお、制作されてからの経過年数が不明の場合には、「情報なし」としても良い。また、絵画が制作されてからの経過年数の代わりに、絵画が入手されてからの経過年数(例えば、美術館等の施設に収容されてからの経過年数)を取得する構成としても良い。入手後の経過年数についても上記と同様の傾向があると考えられるため、制作後の経過年数tp同様判別材料とすることができる。
【0074】
条件決定部114は、白色部位検出部112による検出結果と、情報取得部113で取得された経年情報とに基づいて、ニスの塗布状態を判別する。そして、条件決定部114は、判別したニスの塗布状態に基づいて、複製対象の対象物表面の光沢感を再現するクリア層L5の形成条件を決定する。
【0075】
具体的には、条件決定部114は、表1に示した判別テーブルを参照して、白色部位の検出結果及び経年情報の条件に該当するニスの塗布状態を判別する。ここで、表1は、白色部位の有無及び経過年数の条件と、ニスの塗布状態との関係を示すテーブルデータである。
【0077】
例えば、白色部位検出部112の検出結果が白色部位の「有り」を示す場合、条件決定部114は、表1の判別テーブルに基づき、ニスが厚く塗布されていると判断する。また、例えば、白色部位検出部112の検出結果が白色部位の「無し」を示し、情報取得部113で取得された経年情報が10年以上の値を示す場合、条件決定部114は、表1の判別テーブルに基づき、ニスが薄く塗布されていると判断する。また、例えば、白色部位検出部112の検出結果が白色部位の「無し」を示し、情報取得部113で取得された経年情報が10年未満の値を示す場合、条件決定部114は、表1の判別テーブルに基づき、ニスが塗布されていないと判断する。
【0078】
そして、条件決定部114は、表1の判別テーブルに基づき判別(判断)したニスの塗布状態に基づいて、クリア層L5の形成に係る条件を決定する。例えば、条件決定部114は、ニスが厚く塗布されていると判断した場合、クリア層L5を形成するUV硬化インクの吐出量が、記録解像度に対して十分に大きい滴(
図9の状態)となるよう、クリア層L5の形成条件を決定する。また、例えば、条件決定部114は、ニスが薄く塗布されていると判断した場合には、クリア層L5を形成するUV硬化インクの吐出量が、記録解像度ぎりぎりの小滴(
図8の状態)となるよう、クリア層L5の形成条件を決定する。また、例えば、条件決定部114は、ニスが塗布されていないと判断した場合には、クリア層L5を形成しないことを、クリア層L5の形成条件として決定する。
【0079】
条件決定部114によって決定された形成条件は、CPU101の制御のもと、造形データとともに立体造形装置50に送信される。立体造形装置50の制御部500は、造形データ及び形成条件を受信すると、造形ユニット570等を制御することで、造形データに応じた造形物が造形する。そして、立体造形装置50の制御部500は、受信した形成条件に基づいて造形物の表面にクリア層L5を形成することで、複製元となった対象物(絵画)の色彩、凹凸形状、光沢感を再現する。
【0080】
なお、造形層L2〜着色層L4については、立体造形装置50が有する制御部500(主制御部500A)の制御により形成されるものとするが、これらの層の形成条件についてもコンピュータ10から送信する構成としても良い。また、光沢測定器により絵画表面の光沢度を実測可能な場合には、条件決定部114は、実測された光沢度(光沢情報)に基づいてニス塗りの状態を判別し、クリア層L5の形成条件を決定するものとする。
【0081】
<情報処理装置の動作説明>
次に、
図13を参照して、コンピュータ10の動作について説明する。
図13は、一実施形態に係るコンピュータ10で実行される造形データ生成処理を示すフローチャートである。なお、本処理では、複写対象の対象物(油絵の絵画)を表す2次元の画像データから、造形データを生成する例について説明する。
【0082】
まず、デジタルカメラ又はスキャナ装置で取得された、複製対象の対象物(絵画)を表す画像データがI/F107等を介してコンピュータ10に入力される(ステップS11)。造形データ生成部111は、入力された画像データから、色データ及び立体データを生成する(ステップS12、ステップS13)。
【0083】
白色部位検出部112は、ステップS12で生成された色データから、白色部位を検出する(ステップS14)。また、情報取得部113は、操作部106等を介して、複製対象の対象物が制作又は入手されてからの経過年数を示した経過年数情報を取得する(ステップS15)。なお、ステップS14で白色部位が検出された場合には、ステップS15をスキップし、ステップS16に移行する構成としても良い。
【0084】
続いて、条件決定部114は、白色部位の検出結果及び経過年数情報の条件と、表1の判別テーブルとに基づいて、複製対象の対象物のニスの塗布状態を判別する。白色部位検出部112の検出結果が白色部位の存在を示す場合(ステップS16;Yes)、条件決定部114は、ニスが厚く塗布されていると判断し(ステップS17)、ステップS21に移行する。
【0085】
また、ステップS16において、白色部位検出部112の検出結果が、白色部位が存在しないことを示す場合(ステップS16;No)、条件決定部114は、経過年数情報が示す経過年数が所定値(例えば10年)以上か否かを判定する(ステップS18)。ここで、経過年数が所定値以上の場合(ステップS18;Yes)、条件決定部114は、ニスが薄く塗布されていると判断し(ステップS19)、ステップS21に移行する。また、経過年数が所定値未満の場合には(ステップS18;No)、条件決定部114は、ニスが塗布されていないと判断し(ステップS20)、ステップS21に移行する。
【0086】
続いて、条件決定部114は、ステップS17、S19又はS20の判断結果に基づいて、クリア層L5の形成条件を決定する(ステップS21)。そして、コンピュータ10のCPU101は、ステップS12、S13で生成された造形データ(色データ及び立体データ)と、ステップS21で決定された形成条件とを立体造形装置50に出力し(ステップS22)、本処理を終了する。
【0087】
上記のように、立体造形システム1(コンピュータ10)によれば、複製対象の対象物を撮像した画像データから検出した白色部位の検出結果と、対象物が制作されてからの経過年数とに基づいて、対象物表面のニスの塗布状態を判別する。そして、立体造形システム1(コンピュータ10)は、判別したニスの塗布状態に基づいて、クリア層L5の形成条件を決定する。これにより、立体造形システム1(コンピュータ10)では、ニスの塗布状態に適した形成条件を決定することができるため、複製対象の対象物(絵画)の光沢感を再現することができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図するものではない。この新規な実施形態はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更、及び組み合わせを行うことができる。この実施形態及びその変形は発明の範囲及び要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0089】
例えば、上記実施形態では、コンピュータ10を情報処理装置としたが、これに限らず、立体造形装置50の制御部500(主制御部500A)を情報処理装置とする構成としても良い。この場合、立体造形装置50が情報処理装置として機能し、造形データ生成部111、白色部位検出部112、情報取得部113、及び条件決定部114の機能構成が、制御部500(主制御部500A)によって実現される。