特許第6973315号(P6973315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUMCOの特許一覧

特許6973315ワークの両面研磨装置および両面研磨方法
<>
  • 特許6973315-ワークの両面研磨装置および両面研磨方法 図000002
  • 特許6973315-ワークの両面研磨装置および両面研磨方法 図000003
  • 特許6973315-ワークの両面研磨装置および両面研磨方法 図000004
  • 特許6973315-ワークの両面研磨装置および両面研磨方法 図000005
  • 特許6973315-ワークの両面研磨装置および両面研磨方法 図000006
  • 特許6973315-ワークの両面研磨装置および両面研磨方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973315
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】ワークの両面研磨装置および両面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/013 20120101AFI20211111BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20211111BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B24B37/013
   B24B49/16
   H01L21/304 622S
   H01L21/304 621A
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-136102(P2018-136102)
(22)【出願日】2018年7月19日
(65)【公開番号】特開2020-11349(P2020-11349A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2020年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】久保田 真美
(72)【発明者】
【氏名】高梨 啓一
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−064835(JP,A)
【文献】 特開2004−209564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/013
B24B 49/16
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨に供するワークを保持する1つ以上の保持孔が形成されたキャリアプレートと、該キャリアプレートを挟み込む一対の上定盤および下定盤と、前記キャリアプレートを回転させる駆動機構と、前記上定盤および下定盤をそれぞれ回転させる一対のモータとを備えるワークの研磨装置において、
前記駆動機構、前記上定盤および下定盤のトルクのうち、少なくとも1つのトルクを測定する測定部と、
前記ワークの両面研磨を制御する制御部とを更に備え、
前記制御部は、前記測定部によって測定された、前記少なくとも1つのトルクにおける、前記キャリアプレートの回転に伴って周期的に変化するトルク成分に基づいて決定された、両面研磨の終了時点を決定するための基準時点から、両面研磨を追加で行う時間であるオフセット時間を次回のバッチについて決定し、前記基準時点から決定した前記オフセット時間が経過した時点でワークの両面研磨を終了し、
前記オフセット時間の決定は、前回以前のバッチにおいて両面研磨されたワークの形状指標の実績値、およびバッチ間のオフセット時間の差から予測される、次回のバッチにおいて両面研磨されるワークの形状指標の予測値に基づいて行うことを特徴とするワークの両面研磨装置。
【請求項2】
前記予測値をY、前記実績値をX、前記オフセット時間の差をX、A、BおよびCを定数として、前記予測値Yは下記の式(1)で与えられる、請求項1に記載のワークの両面研磨装置。
Y=AX+BX+C (1)
【請求項3】
複数回前までのバッチに関するワークの形状指標の実績値の平均値をX、オフセット時間のバッチ間の差の平均値をXとする、請求項2に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項4】
前記基準時点は、前記測定部によって測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項5】
前記基準時点は、前記測定部によって測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点よりも前の時点である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項6】
前記形状指標はGBIRである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【請求項7】
研磨に供するワークを保持する1つ以上の保持孔が形成されたキャリアプレートにワークを保持して上定盤と下定盤とで挟み込み、駆動機構により前記キャリアプレートを回転させるとともに一対のモータにより前記上下定盤を回転させることにより、前記キャリアプレートと前記上下定盤とを相対回転させて、ワークの両面を同時に研磨するワークの両面研磨方法において、
前記駆動機構、前記上定盤および下定盤のトルクのうち、少なくとも1つのトルクを測定し、測定した前記少なくとも1つのトルクにおける、前記キャリアプレートの回転に伴って周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて、両面研磨の終了時点を決定するための基準時点を決定し、
前記基準時点から両面研磨を追加で行う時間であるオフセット時間を次回のバッチについて決定し、前記基準時点から決定した前記オフセット時間が経過した時点でワークの両面研磨を終了させ、
前記オフセット時間の決定は、前回以前のバッチにおいて両面研磨されたワークの形状指標の実績値、およびバッチ間のオフセット時間の差から予測される、次回のバッチにおいて両面研磨されるワークの形状指標の予測値に基づいて行うことを特徴とするワークの両面研磨方法。
【請求項8】
前記予測値をY、前記実績値をX、前記オフセット時間の差をX、A、BおよびCを定数として、前記予測値Yは下記の式(2)で与えられる、請求項7に記載のワークの両面研磨方法。
Y=AX+BX+C (2)
【請求項9】
複数回前までのバッチに関するワークの形状指標の実績値の平均値をX、オフセット時間のバッチ間の差の平均値をXとする、請求項8に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項10】
前記基準時点は、測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点である、請求項7〜9のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項11】
前記基準時点は、測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点よりも前の時点である、請求項7〜9のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【請求項12】
前記形状指標はGBIRである、請求項7〜11のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの両面研磨装置および両面研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研磨に供するワークの典型例であるシリコンウェーハなどの半導体ウェーハの製造において、より高精度なウェーハの平坦度品質や表面粗さ品質を得るために、表裏面を同時に研磨する両面研磨工程が一般的に採用されている。半導体ウェーハに要求される形状(主に全面及び外周の平坦度)は、その用途等によって様々であり、それぞれの要求に応じて、ウェーハの研磨量の目標を決定し、その研磨量を正確に制御することが必要である。
【0003】
特に近年、半導体素子の微細化と、半導体ウェーハの大口径化により、露光時における半導体ウェーハの平坦度要求が厳しくなってきているという背景から、ウェーハの研磨量を適切に制御する手法が強く希求されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ワークの研磨の進行に伴い、ワークの厚みが、ワークを保持するキャリアプレートの厚みと等しくなったときの、定盤を駆動するモータの駆動電流の変化(具体的には電流値の変曲点)を検出して、研磨を終える研磨方法が記載されている。この研磨方法は、モータの駆動電流、すなわち定盤のトルクの変化に基づいて研磨の終了を検知する方法である。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の研磨方法では、ワークがキャリアプレートよりも厚い段階では、定盤に設けられた研磨パッドがキャリアプレートに接触せず、ワークがキャリアプレートと等しい厚みになって初めて研磨パッドがキャリアプレートに接触するような、限定的な装置構成でしか電流値の変曲点を検出できない。
【0006】
また、変曲点を検出できる場合でも、変曲点を検知できるのは電流値が最小になった後、すなわちワークがキャリアプレートと等しい厚みに到達した後であるため、変曲点検知後に研磨を終えたのではワークの研磨過多を防ぐことはできず、ワークの研磨終了の正確性に劣る。また、この研磨方法では、研磨終了前に研磨の進行度合いを把握することはできない。このように、特許文献1に記載の研磨方法では研磨量を高精度に制御することはできない。
【0007】
そこで、特許文献2には、両面研磨の際に、キャリアプレートの駆動機構、上定盤または下定盤のトルクの中に、上定盤および下定盤の中心とワークの中心との距離の周期的な変化(すなわち、キャリアプレートの回転)に同期して周期的に変化するトルク成分があることに着目し(特許文献2の図2参照)、上記トルク成分の振幅に基づいてワークの研磨量を制御する両面研磨装置について記載されている。
【0008】
図1は、特許文献2に記載された両面研磨装置を示している。この図に示した両面研磨装置100は、両面研磨に供するワーク20を保持する1つ以上の保持孔40が形成されたキャリアプレート30と、キャリアプレート30を挟み込む一対の上定盤50aおよび下定盤50bとを備える。モータ90a、90bは、上定盤50a、50bをそれぞれ回転させる。なお、図1では、簡略化のために、インターナルギア80のモータ90cのみが図示されており、サンギア70のモータは図示されていない。キャリアプレート30の保持孔40は、キャリアプレート30の中心に対して偏心しており、サンギア70とインターナルギア80とによって、回転可能に構成されている。また、上下定盤50a、50bの対向面には、それぞれ研磨パッド60a、60bが貼付されている。
【0009】
また、両面研磨装置100は、上定盤50aおよび下定盤50bならびに駆動機構(すなわち、サンギア70および/またはインターナルギア80)のトルクを測定する測定部110と、ワーク20の両面研磨を制御する制御部120とをさらに備えている。
【0010】
上述のように、特許文献2に記載された両面研磨装置100において、測定部110によって測定されたトルクには、キャリアプレート30の回転に同期して周期的に変化するトルク成分が存在する。図2は、測定部110によって測定された、周期的に変化する回転定盤のトルク成分の振幅を示しており、ワーク20の厚みがキャリアプレート30の厚みに近づくにつれて小さくなり、ワーク20の厚みがキャリアプレート30の厚みと一致した段階でゼロとなる。
【0011】
そこで、特許文献2に記載された両面研磨装置100においては、制御部120は、上記キャリアプレート30の周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて両面研磨を終了させるようにワーク20の研磨量を制御する。これにより、平坦度が高く、所望の形状を有するワーク20が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−363181号公報
【特許文献2】特許第5924409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、特許文献2に記載された両面研磨装置100を用いて、周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて研磨量を制御してワーク20、具体的にはシリコンウェーハの両面研磨を行った。その結果、製造直後の平坦度の高いキャリアプレート30を用いて両面研磨を行った場合には、所望の形状のワーク20を得ることができた。しかし、両面研磨を繰り返し行うにつれて、両面研磨後のワーク20の形状が所望の形状から徐々にずれて悪化することが判明した。
【0014】
そこで、本発明の目的は、ワークの両面研磨を繰り返し行った場合にも、所望とする形状でワークの両面研磨を終了させることができるワークの両面研磨装置および両面研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1]研磨に供するワークを保持する1つ以上の保持孔が形成されたキャリアプレートと、該キャリアプレートを挟み込む一対の上定盤および下定盤と、前記キャリアプレートを回転させる駆動機構と、前記上定盤および下定盤をそれぞれ回転させる一対のモータとを備えるワークの研磨装置において、
前記駆動機構、前記上定盤および下定盤のトルクのうち、少なくとも1つのトルクを測定する測定部と、
前記ワークの両面研磨を制御する制御部とを更に備え、
前記制御部は、前記測定部によって測定された、前記少なくとも1つのトルクにおける、前記キャリアプレートの回転に伴って周期的に変化するトルク成分に基づいて決定された、両面研磨の終了時点を決定するための基準時点から、両面研磨を追加で行う時間であるオフセット時間を次回のバッチについて決定し、前記基準時点から決定した前記オフセット時間が経過した時点でワークの両面研磨を終了し、
前記オフセット時間の決定は、前回以前のバッチにおいて両面研磨されたワークの形状指標の実績値、およびバッチ間のオフセット時間の差から予測される、次回のバッチにおいて両面研磨されるワークの形状指標の予測値に基づいて行うことを特徴とするワークの両面研磨装置。
【0016】
[2]前記予測値をY、前記実績値をX1、前記オフセット時間の差をX2、A、BおよびCを定数として、前記予測値Yは下記の式(1)で与えられる、前記[1]に記載のワークの両面研磨装置。
Y=AX1+BX2+C (1)
【0017】
[3]複数回前までのバッチに関するワークの形状指標の実績値の平均値をX1、オフセット時間のバッチ間の差の平均値をX2とする、前記[2]に記載のワークの両面研磨装置。
【0018】
[4]前記基準時点は、前記測定部によって測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点である、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【0019】
[5]前記基準時点は、前記測定部によって測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点よりも前の時点である、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【0020】
[6]前記形状指標はGBIRである、前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載のワークの両面研磨装置。
【0021】
[7]研磨に供するワークを保持する1つ以上の保持孔が形成されたキャリアプレートにワークを保持して上定盤と下定盤とで挟み込み、駆動機構により前記キャリアプレートを回転させるとともに一対のモータにより前記上下定盤を回転させることにより、前記キャリアプレートと前記上下定盤とを相対回転させて、ワークの両面を同時に研磨するワークの両面研磨方法において、
前記駆動機構、前記上定盤および下定盤のトルクのうち、少なくとも1つのトルクを測定し、測定した前記少なくとも1つのトルクにおける、前記キャリアプレートの回転に伴って周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて、両面研磨の終了時点を決定するための基準時点を決定し、
前記基準時点から両面研磨を追加で行う時間であるオフセット時間を次回のバッチについて決定し、前記基準時点から決定した前記オフセット時間が経過した時点でワークの両面研磨を終了させ、
前記オフセット時間の決定は、前回以前のバッチにおいて両面研磨されたワークの形状指標の実績値、およびバッチ間のオフセット時間の差から予測される、次回のバッチにおいて両面研磨されるワークの形状指標の予測値に基づいて行うことを特徴とするワークの両面研磨方法。
【0022】
[8]前記予測値をY、前記実績値をX1、前記オフセット時間の差をX2、A、BおよびCを定数として、前記予測値Yは下記の式(2)で与えられる、前記[7]に記載のワークの両面研磨方法。
Y=AX1+BX2+C (2)
【0023】
[9]複数回前までのバッチに関するワークの形状指標の実績値の平均値をX1、オフセット時間のバッチ間の差の平均値をX2とする、前記[8]に記載のワークの両面研磨方法。
【0024】
[10]前記基準時点は、前記測定部によって測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点である、前記[7]〜[9]のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【0025】
[11]前記基準時点は、前記測定部によって測定された前記少なくとも1つのトルクのうちの1つの振幅がゼロとなる時点よりも前の時点である、前記[7]〜[9]のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【0026】
[12]前記形状指標はGBIRである、前記[7]〜[11]のいずれか一項に記載のワークの両面研磨方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ワークの両面研磨を繰り返し行った場合にも、所望とする形状でワークの両面研磨を終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】特許文献2に記載された両面研磨装置を示す図である。
図2】両面研磨の初期におけるトルクの振幅を示す図である。
図3】ワークの両面研磨を繰り返し行うことによって、キャリアプレートおよびワークの断面形状が変化する様子を説明する図である。
図4】本発明におけるオフセット時間を説明する図である。
図5】本発明による両面研磨装置の一例を示す図である。
図6】従来例および発明例に関するシリコンウェーハのGBIRの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(両面研磨装置)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。上述のように、図1に示した特許文献2に記載された両面研磨装置100においては、キャリアプレート30の駆動機構(サンギア70および/またはインターナルギア80)、上定盤50aまたは下定盤50bのトルクにおける周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて、ワーク20の両面研磨の研磨量の制御を行っている。本発明者らの検討によれば、製造直後の平坦度の高いキャリアプレート30を用いてワーク20の両面研磨を開始し、両面研磨の繰り返し回数(すなわち、バッチ数)が少ない段階では、ワーク20の形状が所望の形状となった段階で両面研磨を終了させることができる。しかしながら、両面研磨の繰り返し回数(すなわち、バッチ数)が増えていくと、両面研磨後のワーク20の形状が所望の形状から徐々にずれて悪化することが判明した。
【0030】
すなわち、製造直後のキャリアプレート30を用いてワーク20の両面研磨を行う場合には、図3(a)に示すように、周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて決定された時点、例えば振幅がゼロとなる時点で両面研磨を終了することにより、平坦度が高く、所望の形状を有するワーク20を得ることができる。
【0031】
しかし、ワーク20の両面研磨を繰り返し行うにつれて、研磨パッド60a、60bによってキャリアプレート30の外周部がキャリア内外周の走行量の差により、内周部より多く研磨されて平坦度が悪化する。こうした平坦度が悪化したキャリアプレート30を用いてワーク20の両面研磨を行い、測定されたトルクにおける周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて決定された時点、例えば振幅がゼロとなる時点で両面研磨を終了すると、図3(b)に示すように、ワーク20の形状が凸状となり、平坦度が悪化して所望の形状のワーク20を得ることができない。
【0032】
そして、こうした平坦度が悪化したキャリアプレート30を用いて両面研磨をさらに繰り返し行うと、図3(c)に示すように、キャリアプレート30の平坦度はさらに悪化し、ワーク20の形状もさらに悪化する。
【0033】
このように、キャリアプレート30の駆動機構(サンギア70および/またはインターナルギア80)、上定盤50aまたは下定盤50bのトルクにおける周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて決定された時点で両面研磨を終了すると、ワーク20の両面研磨を繰り返し行うにつれて、ワーク20の形状が所望とする形状となった段階で両面研磨を終了させることができない。そのため、ワーク20の形状を所望の形状とするために、所定の時間だけ両面研磨をさらに行う必要がある。以下、図4に示すように、周期的に変化するトルク成分の振幅がゼロとなる時点を基準時点とし、この基準時点から両面研磨を追加で行う時間を「オフセット時間」と呼ぶ。
【0034】
本発明者らは、上記オフセット時間をどのように決定すれば、ワーク20の形状が所望の形状となった段階で両面研磨を終了させることができるかについて鋭意検討した。そのために、様々なオフセット時間について、オフセット時間と両面研磨後のワーク20の形状指標(具体的には、GBIR)との関係について詳細に調査した。その結果、前回以前の過去のバッチにおいて両面研磨されたワーク20の形状指標の実績値、およびバッチ間のオフセット時間の差(次回のバッチ(N+1)におけるオフセット時間と前回のバッチ(N)におけるオフセット時間との差)から、次回のバッチにおいて両面研磨されるワーク20の形状指標の値を予測できることを見出した。
【0035】
上述のように、ワーク20の両面研磨を繰り返し行うにつれて、研磨パッド60a、60bによってキャリアプレート30の外周部がキャリア内外周の走行量の差により、内周部より多く研磨されて平坦度が悪化する。本発明者らは、こうした刻一刻と変化するキャリアプレート30の形状を予測するためには、パラメータとしてオフセット時間の変化量、すなわち差を用いることが肝要と考えた。そして、前回以前の過去のバッチにおいて両面研磨されたワーク20の形状指標の実績値およびバッチ間のオフセット時間の差を用いることにより、次回のバッチにおいて両面研磨されるワーク20の形状指標の値を予測できることを見出したのである。
【0036】
そこで、本発明者らは、上記オフセット時間を、前回以前のバッチにおいて両面研磨されたワーク20の形状指標の実績値およびバッチ間のオフセット時間の差から予測される、次回のバッチにおいて両面研磨されるワーク20の形状指標の予測値に基づいて決定することに想到し、本発明を完成させたのである。
【0037】
図5は、本発明による両面研磨装置の一例を示している。なお、図5において、図1に示した両面研磨装置100の構成と同じ構成には同じ符号が付されている。図1に示した特許文献2に記載された両面研磨装置100と、図5に示した本発明による両面研磨装置200との相違点は、制御部120、220の構成である。具体的には、特許文献2に記載された両面研磨装置100においては、制御部120は、キャリアプレート30の駆動機構(サンギア70および/またはインターナルギア80)、上定盤50aまたは下定盤50bのトルクにおける周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて決定された時点で両面研磨を終了させるように構成されている。
【0038】
これに対して、本発明による両面研磨装置200においては、制御部220は、上記両面研磨装置100の制御部120において決定された基準時間から、上述のように決定されたオフセット時間が経過した時点でワーク20の両面研磨を終了させるように構成されている。これにより、ワーク20の両面研磨を繰り返し行った場合にも、所望とする形状でワーク20の両面研磨を終了させることができる。
【0039】
測定部110により得られる上定盤50aや下定盤50b、駆動機構のトルクの実測値の中には、キャリアプレート30の回転に伴う周期的に変化するトルク成分のほかに、両面研磨装置200を動作させるための作動電流やノイズなどの背景負荷も含まれている。こうしたトルクの実測値から、以下のように周期的に変化するトルク成分を抽出することができる。すなわち、検出したトルク信号を、その検出時のキャリアプレート30の回転角度によって整理した後に、その振動波形を算出することにより、上記トルク成分を抽出することができる。その際、振動波形の算出は、例えば最小二乗法等による三角関数への近似法を用いたり、例えばキャリアプレート30の回転角度ごとの平均化、FFT(Fast Fourier Transform)等による周波数解析等の手法を用いたりすることができる。
【0040】
さらに、本発明では、駆動機構、上定盤50aおよび下定盤50bのうちの複数のトルクを測定し、複数のトルクを用いてワーク20の研磨量を制御してもよい。例えば、上定盤50aのトルク測定値から得られるトルク成分の振幅と、下定盤50bのトルク測定値から得られる振幅との平均値を用いて測定誤差を低減することにより、ワーク20の研磨量の制御をより高精度に行うことができる。これに加えて、駆動機構のトルク成分を用いてワーク20の研磨量を制御してもよい。
【0041】
本発明者らは、次回のバッチに関するワーク20の形状指標の予測値Yは、前回のバッチに関するワーク20の形状指標(例えば、GBIR)の実績値をX1、次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間との差をX2、A、BおよびCを定数とすると、下記の式(3)で与えられることを見出した。
Y=AX1+BX2+C (3)
【0042】
上記式(3)は、前回のバッチに関するワーク20の形状指標の実績値X1、および次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間との差X2を説明変数とすることにより、目的変数である、次回のバッチに関するワーク20の形状指標の予測値Yを重回帰分析で求めることができることを示している。
【0043】
上記式(3)から、次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間との差X2、すなわち、次回のバッチにおいて、オフセット時間を前回のバッチに比べてどの程度増やすかを決定しさえすれば、次回のバッチにおいて両面研磨された後のワーク20の形状指標の値を予測することができる。
【0044】
換言すれば、次回のバッチにおける目標の形状指標を決定して式(3)の左辺のYに入力すれば、両面研磨後のワーク20の形状指標が目標の形状指標となるような、次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間との差X2を求めることができ、次回のバッチにおけるオフセット時間を求めることができる。そして、基準時間経過後、オフセット時間だけ追加の両面研磨を行うことによって、目標の形状指標を有するワーク20を得ることができる。
【0045】
なお、上記式(3)から次回のバッチにおけるオフセット時間を求める際、上記式(3)から得られた、次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間との差X2に係数α(0<α≦1)を掛け合わせることによって、ワーク20の形状指標の実績値の測定誤差の影響を低減するようにしてもよい。上記αの値は、例えば0.2とすることができる。
【0046】
また、本発明者らの検討によれば、上記式(3)において、前回の1バッチだけでなく、前回以前の複数のバッチに基づいてX1およびX2のそれぞれを平均化することによって、オフセット時間とワーク20の形状指標の値との間のばらつきの影響を低減して、次回のバッチにおけるワーク20の形状指標の予測値Yをより高精度に予測できることが分かった。
【0047】
すなわち、上記式(3)におけるX1を、前回以前の複数のバッチに関する形状指標の実績値の平均値、X2を前回以前の複数のバッチに関する隣接するバッチ間のオフセット時間の差の平均値とすることによって、次回のバッチに関するワーク20の形状指標をより高精度に予測することができるのである。
【0048】
上記平均化に用いるバッチの数は、研磨装置自体や研磨条件等に依存するため、一意に決定することはできないが、例えば後述する実施例に使用した研磨装置および研磨条件においては、3つのバッチについて平均化した場合に次回のバッチに関するワーク20の形状指標の予測値Yを最も高精度に予測することができた。
【0049】
平均化に用いるバッチの数が3つの場合、具体的には、上記式(3)において、3回前までの3バッチに関する形状指標の実績値の平均値をX1、バッチ間のオフセット時間の差の平均値をX2とする。例えば、3回前、2回前、前回のバッチにおけるワーク20の形状指標、例えばGBIRの値が、それぞれ80nm、70nm、60nmであり、3回前、2回前、前回、次回のバッチにおけるオフセット時間が50秒、60秒、80秒、X秒であったとする。
【0050】
このような場合、式(3)におけるX1をX1=(80+70+60)/3=70秒とする。また、X2=((60−50)+(80−60)+(X−80))/3=(X−50)/3秒とする。これらX1およびX2を式(3)の右辺に入力し、次回のバッチでの目標とするGBIRをYに入力することによって、次回のバッチにおけるオフセット時間Xを決定することができる。
【0051】
以上の説明においては、両面研磨の終了時点を決定するための基準時点として、周期的に変化するトルク成分の振幅がゼロとなる時点としているが、本発明の特徴は、基準時点からのオフセット時間の決定方法に特徴を有している。そのため、基準時間自体を上述の周期的に変化するトルク成分の振幅がゼロとなる時点に固定する必要はなく、周期的に変化するトルク成分の振幅がゼロとなるよりも前の時点とすることができる。
【0052】
この場合には、決定した、周期的に変化するトルク成分の振幅がゼロとなる前の時点を基準時点として、様々なオフセット時間についてワーク20の形状指標のデータを測定しておく。そして、重回帰分析によって、上記式(3)に対応する式を求め、得られた式を用いて、次回のバッチに関するワーク20の形状指標の予測値を求めればよい。
【0053】
(両面研磨方法)
次に、本発明によるワークの両面研磨方法について説明する。本発明によるワークの両面研磨方法は、キャリアプレートの保持孔にワークを保持して上定盤と下定盤とで挟み込み、駆動機構によりキャリアプレートを回転させるとともに一対のモータにより上下定盤を回転させることにより、キャリアプレートと上下定盤とを相対回転させて、ワークの両面を同時に研磨する。そして、駆動機構、上定盤および下定盤のトルクのうち、少なくとも1つのトルクを測定し、測定した少なくとも1つのトルクにおける、キャリアプレートの回転に伴って周期的に変化するトルク成分の振幅に基づいて、両面研磨の終了時点を決定するための基準時点を決定し、この基準時点から両面研磨を追加で行う時間であるオフセット時間を次回のバッチについて決定し、基準時点から決定したオフセット時間が経過した時点でワークの両面研磨を終了させる。その際、オフセット時間の決定は、以前のバッチにおいて両面研磨されたワークの形状指標の実績値、およびバッチ間のオフセット時間の差から予測される、次回のバッチにおいて両面研磨されるワークの形状指標の予測値に基づいて行うことを特徴とする。これにより、ワークの両面研磨を繰り返し行った場合にも、所望とする形状でワークの両面研磨を終了させることができる。
【0054】
次回のバッチに関するワーク20の形状指標の予測値Yは、前回のバッチに関するワーク20の形状指標(例えば、GBIR)の実績値をX1、次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間との差をX2、A、BおよびCを定数とすると、下記の式(4)で与えられることは既述の通りである。
Y=AX1+BX2+C (4)
【0055】
また、上記式(4)において、次回のバッチに関するワーク20の形状指標の予測値Yは、3回前までの3つのバッチに関するワーク20の形状指標の実績値の平均値をX1、オフセット時間のバッチ間の差の平均値をX2とすることにより、最も高い精度で予測できることも既述の通りである。
【0056】
上記基準時点は、測定されたトルクにおける周期的に変化するトルク成分の振幅がゼロとなる時点とすることも、振幅がゼロとなる時点よりも前の時点とすることもできる。また、ワーク20の形状指標としては、GBIRを用いることができ、ワーク20の中心部が外周部よりも高さが低く、ワーク20が凹形状を有する場合にはマイナスの値、ワーク20の中心部が外周部よりも高さが高く、ワーク20が凸形状を有する場合にはプラスの値を有する。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
(従来例)
図1に示した両面研磨装置100を用いて、直径300mmのシリコンウェーハ100枚を両面研磨した。具体的には、GBIRの目標値(固定値)に対し、実際に測定されたGBIR(X1)から、次回のバッチのオフセット時間の差(X2)を決定し、全バッチのオフセット時間から、次回のバッチのオフセット時間をオペレータ(作業者)が経験の基づいて決定した。その結果、両面研磨後のシリコンウェーハについて、GBIRの平均値は112nm、分散は40nmだった。
【0059】
(発明例)
まず、様々なオフセット時間について両面研磨後のシリコンウェーハのGBIRの実績値を求め、前回のバッチに関するGBIRの実績値、および次回のバッチにおけるオフセット時間と前回のバッチにおけるオフセット時間の差を目的変数、次回のバッチに関するGBIRの予測値を説明変数として、重回帰分析により、式(3)の定数A、BおよびCを求めた。その際、3バッチ前までの実績値を用いた。その結果、式(3)の係数は、A=0.972、B=−0.0000848、C=0.0204538だった。
【0060】
次に、図5に示した両面研磨装置200を用いて、直径300mmのシリコンウェーハ100枚を両面研磨した。具体的には、GBIRの目標値(固定値)に対し、実際に測定されたGBIR(X1)から、次回のバッチのオフセット時間の差(X2)を決定し、前バッチのオフセット時間から、式(3)を用いて次回のバッチのオフセット時間を決定した。その際、制御部220は、前回のバッチの実績値のみを用いてオフセット時間を設定した。両面研磨後のシリコンウェーハについて、GBIRの平均値は81nm、分散は25nmだった。
【0061】
図6は、従来例および発明例に関するシリコンウェーハのGBIRの分布を示している。図6から明らかなように、GBIRの平均値および分散ともに、発明例の法が小さいことが分かる。発明例のGBIRの平均値は、従来例に比べて31nmも小さく、また分散も15nm小さいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、ワークの両面研磨を繰り返し行っても、所望とする形状でワークの両面研磨を終了することができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。
【符号の説明】
【0063】
20 ワーク
30 キャリアプレート
40 保持孔
50a 上定盤
50b 下定盤
60a,60b 研磨パッド
70 サンギア
80 インターナルギア
90a,90b,90c モータ
110 測定部
120,220 制御部
100,200 両面研磨装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6