特許第6973359号(P6973359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973359
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】真空断熱機器
(51)【国際特許分類】
   E06B 3/677 20060101AFI20211111BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20211111BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20211111BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20211111BHJP
   A47J 41/02 20060101ALN20211111BHJP
   B65D 81/38 20060101ALN20211111BHJP
   F25D 23/06 20060101ALN20211111BHJP
【FI】
   E06B3/677
   C03C27/06 101J
   B01J20/28 Z
   B01J20/06 C
   !A47J41/02 102B
   !B65D81/38 E
   !F25D23/06 X
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-220209(P2018-220209)
(22)【出願日】2018年11月26日
(65)【公開番号】特開2020-81968(P2020-81968A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2020年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 大剛
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】三宅 竜也
(72)【発明者】
【氏名】青柳 拓也
(72)【発明者】
【氏名】立薗 信一
(72)【発明者】
【氏名】橋場 裕司
(72)【発明者】
【氏名】五十幡 貴弘
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−100655(JP,A)
【文献】 特開2004−305869(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/116715(WO,A1)
【文献】 特開2007−313451(JP,A)
【文献】 特開2016−050136(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0090646(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/017709(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/051788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C03C 27/00−29/00
E06B 3/54−3/88
B01D 53/73、53/86−53/96
A47J 41/00−41/02
B65D 81/00−81/38
F25D 23/00−23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙を有するように対向して配置された一対の基板と、前記一対の基板を接着する封止材料とを備え、
前記間隙に、多孔質金属酸化物と、平均粒径0.5nm以上100nm以下の銀粒子とを含むガス捕捉材が設置されていることを特徴とする真空断熱機器。
【請求項2】
前記銀粒子は、前記多孔質金属酸化物に担持されていることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱機器
【請求項3】
前記銀粒子の含有量が、1質量%以上70質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱機器
【請求項4】
前記多孔質金属酸化物の平均粒径が5nm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱機器
【請求項5】
前記多孔質金属酸化物の比表面積が30m/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱機器
【請求項6】
前記多孔質金属酸化物が酸化セリウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の真空断熱機器
【請求項7】
前記封止材料が低融点ガラスを含むことを特徴とする請求項に記載の真空断熱機器。
【請求項8】
前記低融点ガラスは、酸化バナジウムおよび酸化テルルを含むことを特徴とする請求項に記載の真空断熱機器。
【請求項9】
前記真空断熱機器が、真空断熱複層ガラスパネルであることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の真空断熱機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス捕捉材は、高い断熱性能が要求される真空断熱機器(例えば、建材用窓ガラスや業務用冷蔵庫、冷凍庫の扉、水筒や電気ポットの断熱層、自動車や船舶等の輸送設備用窓材)の断熱性を維持するために使われる。近年、省エネルギー化およびCO排出削減の世界的な潮流により、断熱層の断熱性および耐久性の向上が求められている。
【0003】
真空断熱機器の中でも、法規制等による建造物の省エネルギー化が急速に進んでおり、断熱性能の優れた窓ガラスである真空複層ガラスの需要が高まっている。真空複層ガラスは、対向する板ガラスにより形成される空間(以下、「間隙部」という。)を真空に排気することで気体による伝熱を抑制し、断熱性を高めた構造を有している。一方で、真空複層ガラスの長期使用により、そのガラス板および対向するガラス板を封止する封止材からガスが放出されることにより、間隙部の真空度が低下し、断熱性が低下する課題があった。そこで、従来、ガラス板および封止材からの放出ガスを捕捉し、断熱性を維持する目的で間隙部にガス捕捉材を設置されている。
【0004】
従来のガス捕捉材として、特許文献1には、無機材料の繊維あるいは多孔質体で形成された基材と、前記基材に付着されたゲッタを含む液体とから形成される、ガス吸着体が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、第1ガラス板、第2ガラス板、シール材、およびゲッター材を含む組立体を組み立てる工程と、組立体を搬送する搬送台を加熱炉内に搬入する工程と、加熱炉内の減圧空間において、組立体を加熱してシール材を溶融させると共にゲッター材を活性化させた後、シール材を固化させて第1ガラス板と第2ガラス板とをシール材で接合すると共に第1ガラス板と第2ガラス板との間に形成される減圧空間をゲッター材を含んだ状態でシール材で封止し、ゲッター材に減圧空間内のガスを吸着させる工程と、を有する真空複層ガラスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/051788号
【特許文献2】国際公開第2016/017709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、複層ガラスの2枚の板ガラスと、2枚の板ガラスの聞に形成された間隙部と、間隙部に配置されたガス捕捉材とを備え、このガス捕捉材は、吸着物質を溶媒に溶かして得られた溶液を一方の板ガラスに塗布し乾燥させることで形成されている。この製法では、精度よく所望の形状(幅)を有するガス捕捉材を形成するために、溶液の粘度調整が必要となる。そのため、この製法では、常温で揮発しにくい溶媒が用いられる。さらに、溶媒には、ガス捕捉材のガス捕捉能力を低下させにくいことが求められるため、溶媒の選択肢は多くない。また、ガス捕捉材が所望の形状にならない場合や、ガス捕捉材の準備、塗布、乾燥等の工程数が多いことがあり、生産性に課題がある。
【0008】
特許文献2に記載の発明は、対向ガラスで形成された間隙部側のガラス板の凹部にゲッター材を配置する方法が開示されているが、ガラス板に予め凹部を形成する手間や、凹部を形成したことによるガラス板の耐久性低下の問題がある。
【0009】
そこで、生産性が高く、設置が容易なガス捕捉材が望まれている。設置するガス捕捉材としては、一般的に非蒸発型ガス捕捉材が用いられ、具体的には、Ti、Zr、Hf、V、Fe、AI、Cr、Nb、Ta、W、Mo、Ni、Mn、Yの内の1種類以上の金属または合金からなる多孔質焼結体などが用いられる。これらのガス捕捉材は局所加熱等により活性化する必要があり、その温度が350℃以上である。しかしながら、高真空化による破損防止や安全、防犯等のため、パネルガラスには風冷強化処理等を施した、割れにくい強化ガラスの適用が要求されており、それらの強化ガラスは、表面に圧縮強化層を形成することによって高強度化を図っているが、その強化層が約320℃以上の加熱温度で徐々に減少し、約400℃以上の加熱温度で消滅してしまう。このため、ガラスパネルの封止温度は300℃以下が望ましく、かつガス捕捉材の活性化もガラスの封止と同時に行えることが製造効率の観点から望ましく、ガラスの封止温度に合わせてガス捕捉材の活性化も300℃以下でできることが望まれている。
【0010】
また、ガラスの封止工程は、ガラスパネルの対となるガラス板の一方に封止用のガラスペーストを塗布乾燥し、その後、対となるガラス板と重ね合わせて一対のガラスパネルとして、仮焼成、本焼成の2段階で真空排気しながら封止する。この際、真空排気の減圧下では、大気圧下よりも温度上昇および冷却に時間を要し、製造効率の観点から好ましくなく、仮焼成は大気雰囲気下で実施することが製造効率向上の観点から望ましい。しかしながら、現行のガス捕捉材は、仮焼成過程を大気雰囲気にした場合、温度上昇とともに活性化され、大気中のガス成分を捕捉し、封止後のパネル内の放出ガスを捕捉することが困難になる恐れがある。
【0011】
したがって、封止工程の低温化及び大気雰囲気での焼成工程を経ても活性を維持できるガス捕捉材の実現は、急熱急冷が難しい真空断熱真空断熱複層ガラスパネル製造等において、その製造タクトを短縮でき、しかも量産設備の導入投資費も削減できることから、ガス捕捉材を含むガラスパネルを安価に製造できるようになり、世界中に普及しやすくなる。これによって、CO排出量を低減し、地球温暖化対策に貢献できることが期待される。
【0012】
以上より、真空断熱真空断熱複層ガラスパネル等の真空断熱機器では、高真空化による高断熱化と封止温度の低温化と大気雰囲気を含む封止工程に合わせて活性を維持できるガス捕捉材が強く要求されている。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、300℃以下の低温で活性化でき、かつ、大気雰囲気での焼成または封止工程におけるガス放出があっても、高いガス捕捉特性を維持することで生産効率を向上できる真空断熱機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、間隙を有するように対向して配置された一対の基板と、前記一対の基板を接着する封止材料とを備え、前記間隙に、多孔質金属酸化物と、平均粒径0.5nm以上100nm以下の銀粒子とを含むガス捕捉材が設置されていることを特徴とする真空断熱機器である。
【0016】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、300℃以下の低温で活性化でき、かつ、大気雰囲気での焼成または封止工程における間隙部からのガス放出があっても、高いガス捕捉特性を維持することで生産効率を向上できる真空断熱機器を提供することができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの概略斜視図
図1B図1AのA−A線断面図およびその封止部の拡大断面図
図2】本発明の一実施形態の真空断熱複層ガラスパネルの封止部周辺の断面図
図3】本発明の一実施形態のガス捕捉材のSEM観察写真
図4A】本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの製造工程中の構成の概略斜視図
図4B図4Aの真空断熱複層ガラスパネルの周縁部の拡大断面図
図5A】本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの製造工程中の構成の概略斜視図
図5B図5Aの断面図
図6A】本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの製造工程中の構成の概略断面図
図6B図6Aに続く工程の断面図
図7A図6Bに続く工程の断面図
図7B図7Aの封止部付近の拡大断面図
図8A図7Aに続く工程の断面図
図8B図8Aの封止部付近の拡大断面図
図9A】封止材料ペーストのバインダー樹脂を除去する工程における熱処理の温度プロファイルを示すグラフ
図9B】真空断熱複層ガラスパネルの内部空間を減圧する工程において封止部を加熱する際の温度プロファイルを示すグラフ
図10】一般的なガラス組成物のDTA曲線
図11】実施例1のガス捕捉材のXRDパターン図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0021】
まず始めに、ガス捕捉材が設置される真空断熱機器の一例について説明する。図1Aは本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの第1の例の概略斜視図であり、図1B図1AのA−A線断面図およびその封止部の拡大断面図である。図1Aおよび図1Bに示すように、真空断熱複層ガラスパネル100は、第1の基板(ガラス基板)1と、第1の基板1と空間を隔てて対向するように配置された第2の基板(ガラス基板)2と、第1の基板1と第2の基板2の間に形成される間隙部5の周縁に設けられた封止部4と、間隙部5に配置されたガス捕捉材7とを備える。第1の基板1と第2の基板2と封止部4により形成される間隙部5は真空状態である。なお、本明細書において真空状態とは、大気圧よりも減圧された状態をいう。間隙部5には複数のスペーサー3が配置されている。真空断熱複層ガラスパネル100の間隙部5は真空状態になっているため、大気圧と間隙部5内の圧力差が生じるが、スペーサー3を配置することにより、間隙部5を維持することができる。
【0022】
間隙部5にガス捕捉材7を配置することにより、各部材から放出されるCOガスや水分等を捕捉できる。その結果、間隙部5内の高真空を維持でき、真空断熱複層ガラスパネル100の断熱性を維持できる。
【0023】
図1Bの拡大図に示すように、封止部4は、一般的に、低融点ガラス8と低熱膨張フィラー粒子9とを含む。低熱膨張フィラー粒子9は、低融点ガラス8の中に分散されている。封止部4により、間隙部5の真空状態が実現され、長期的に維持されるようになっている。低熱膨張フィラー粒子9は、封止部4の熱膨張係数を第1のガラス基板1及び第2のガラス基板2の熱膨張係数に合わせるために混合するものである。
【0024】
第2の基板2の間隙部5側の表面には、遮熱機能を有する熱線反射膜6が設けられている。熱線反射膜6は、真空断熱複層ガラスパネル100が建材用窓ガラスに適用される場合に有用であり、一般に用いられている。
【0025】
このような真空断熱複層ガラスパネル100では、封止温度は、封止部4に用いる低融点ガラス8の加熱温度による軟化流動特性によってほぼ決定される。すなわち、軟化点の低い低融点ガラス8を用いるほど、封止温度を低温化できることになる。しかし、一方で、軟化点の低い低融点ガラス8を用いるほど、機械的強度が低下する傾向がある。また、この場合、熱膨張係数は大きくなる傾向がある。その対策のためには、封止部4に含まれる低熱膨張フィラー粒子9の体積含有率を増やす必要がある。
【0026】
図2は本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの他の例の概略斜視図であり、封止部4の周辺を拡大した図である。図2において図1Bの拡大図と異なる点は、低融点ガラス8の中に球状のガラスビーズ10も分散されている点である。低融点ガラス8(無鉛低融点ガラス)は、酸化バナジウム(V)および酸化テルル(TeO)を含む。この組成により、封止温度を400℃未満とすることができる。
【0027】
ガラスビーズ10の体積含有率は、10%以上35%以下である。低融点ガラス8の体積含有率は、低熱膨張フィラー粒子9の体積含有率より大きい。
【0028】
ガラスビーズ10を上記の体積含有率とすることにより、封止部4における凝集破壊を防止し、機械的強度を向上できる。これにより、真空断熱複層ガラスパネル100の信頼性を確保できる。ガラスビーズ10の体積含有率が10%未満であると、機械的強度の向上はほとんど見られず、一方、35%を超えると、封止部4が第1のガラス基板1や第2のガラス基板2の界面から剥離しやすくなってしまう。なお、ガラスビーズ10の体積含有率は、20%以上30%以下であることが更に好ましい。
【0029】
ガラスビーズ10のサイズに関しては、その最大直径が第1の基板1と第2基板2との間隔以下であることが必要である。また、その平均直径(D50)がその間隔の半分以上であることが好ましい。ここで、平均直径(D50)は、メジアン径であり、「平均粒径」ともいう。なお、本発明では、先ずはガラスビーズ10を篩で分級した後に、堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用い、平均直径(D50)を測定した。
【0030】
ガラスビーズ10は、第1の基板1や第2の基板2と同一または類似のガラス系であることが好ましい。これは、熱膨張特性が同一或いは近いためであり、これにより封止部の機械的強度を安定的に向上させることが可能となる。具体的には、ソーダライムガラス(SiO−NaO−CaO系ガラス)、ホウケイ酸塩ガラス(SiO−B−NaO系ガラス)、石英ガラス(SiO)等のガラスビーズを用いることが好ましい。
【0031】
なお、本明細書においてガラスビーズとは、略球状のガラスと定義する。また、真空断熱複層ガラスパネルにおいて、低熱膨張フィラー粒子9は、封止部4の熱膨張を第1の基板1や第2の基板2の熱膨張に合わせるために導入されるが、上記の低融点ガラス8の体積含有率以上であると、加熱封止時の低融点ガラス8の軟化流動性が低下し、気密な封止が難しくなる。このため、低融点ガラス8の体積含有率を低熱膨張フィラー粒子9の体積含有率より大きくする必要がある。更に好ましくは、低融点ガラス8の体積含有率は35%以上とすることが有効である。また、低融点ガラス8の体積含有率は72%以下であることが好ましい。
【0032】
本実施形態の真空断熱複層ガラスパネル100は、断熱性、量産性および信頼性に優れるため、特に建材用窓ガラスへの適用が有効である。しかも、世界中の住宅・建築分野等へ広く普及させやすい。これによって、エネルギー使用量の削減によるCO2排出量を低減し、地球温暖化対策に貢献できるものである。また、この真空断熱真空断熱複層ガラスパネルは、建材用窓ガラス以外にも適用可能であり、たとえば車両用窓ガラス、業務用冷蔵庫や冷凍庫の扉等、断熱性が要求される箇所や製品へ広く適用することも可能である。
【0033】
次に、本発明の実施形態の真空断熱機器を構成する基板、スペーサー、封止部およびガス捕捉材について詳述する。
【0034】
<第1の基板及び第2の基板>
真空断熱複層ガラスパネル100の第1の基板1および第2の基板2には、フロート板ガラス、型板ガラス、擦りガラス、強化ガラス、網入板ガラスおよび線入板ガラス等を用いることができる。これらを風冷強化処理あるいは化学強化処理してもよい。風冷強化処理あるいは化学強化処理された強化ガラスを用いることにより、スペーサー3の数を低減することができる。熱伝導率の高い材料からなるスペーサー3を用いる場合は、スペーサー3の数を低減することにより、断熱性が向上する。ガラスの種類として、安価なソーダライムガラスを用いることが好ましい。
【0035】
<スペーサー>
スペーサー3は、第1の基板1と第2の基板2との間の空間を維持するために用いられる。スペーサー3は、第1の基板1と第2の基板2に比べ硬度が低く、かつ適切な圧縮強さを有する材料であれば特に限定されない。例えば、ガラス、金属、合金、鉄鋼、セラミックスおよびプラスチック等を用いることができる。断熱性の観点からは熱伝導率の低い材料を用いることが好ましい。
【0036】
スペーサー3の形状は特に限定されないが、例えば、円柱状、球状、線状および網状のスペーサーを用いることができる。
【0037】
スペーサー3の大きさは、第1の基板1と第2の基板2との間の空間の厚みに合わせて選択することができる。例えば、2枚のガラス基板の間隔を200μmとしたい場合には、スペーサー3には直径200μm程度のスペーサーを用いればよい。球状、線状または網状のスぺーサの配設する間隔は、200mm以下、好ましくは10mm以上100mm以下とする。スぺーサー3の配設は、前述した間隔の範囲内であれば、規則的でも不規則的でも可能である。
【0038】
また、真空状態を有する適切な厚みの空間部を得るためには、スペーサー3や封止部4に粒径が整った球状ビーズ等を導入することが有効である。
【0039】
<封止部>
封止部4は、低融点ガラスを含む封止材料により形成されている。封止材料には、低融点ガラスの他に、低熱膨張フィラー粒子や金属粒子等を含んでいても良い。これらの材料と溶剤とを混合したペースト状の材料を第1の基板1または第2の基板2の周縁にディスペンサー等で塗布し、乾燥後、仮焼成して用いることができる。また、このペースト状の材料をリボン状の箔の両面に塗布し、乾燥後、仮焼成した材料を封止材料として用いることもできる。
【0040】
低融点ガラスとしては、酸化バナジウム(V)と酸化テルル(TeO)を含む無鉛の低融点ガラスを用いることができる。酸化バナジウムと酸化テルルを含むガラスは軟化点が低く、低温での気密封止が可能となるためである。なお、鉛系低融点ガラスは、RoHS指令の禁止物質に指定された鉛を多く含むために、環境上、真空断熱複層ガラスパネル等へ適用することは好ましくはない。
【0041】
また、無鉛低融点ガラスは、さらに酸化銀(AgO)を含むことが好ましい。酸化バナジウムと酸化テルルに加え、さらに酸化銀を含む無鉛ガラスはより軟化点が低い。そのため、より低温で気密封止することができる。封止温度の低温化は、急熱急冷が難しい真空断熱複層ガラスパネル等にとっては、製造タクトを短縮でき、しかも量産設備の導入投資費も削減できることから、安価に製造できるという利点がある。また、第1の基板1と第2の基板2に強化ガラスを適用できる利点もある。なお、本明細書において、低融点ガラスとは、軟化点が400℃以下であるガラスをいう。
【0042】
低融点ガラス中のVとTeOの合計量は、50モル%以上80モル%以下であることが好ましい。さらに、AgOを含む場合は、VとTeOとAgOの合計量は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上98モル%以下であることがより好ましい。
【0043】
の含有量は、15モル%以上45モル%以下であることが好ましく、TeOの含有量は15モル%以上45モル%以下が好ましく、AgOの含有量は10モル%以上50モル%以下であることが好ましい。また、TeOの含有量はVに対してモル比で1〜2倍であることが好ましく、AgOの含有量はVに対してモル比で2倍以下であることが好ましい。
【0044】
低融点ガラスには、LiO、KO、BaO、WO、MoO及びPのうちいずれか一種以上を30モル%以下で含んでいても良い。LiO、K2O、BaO、WO、MoOおよびPのうちいずれか1種以上は、20モル%以下で含むことが好ましい。低融点ガラスには、さらに、追加成分としてFe、Al、Ga、In、Y、La、CeO、ErおよびYbのうちいずれか1種以上を含んでも良い。これらの追加成分の含有量は、5モル%以下であることが好ましく、0.1以上3モル%以下であることが好ましい。
【0045】
封止材料中の無鉛低融点ガラスの含有量は、40体積%以上であることが好ましい。また、低融点ガラスは、封止後は非晶質を維持している必要はなく、結晶化していてもよい。
【0046】
低熱膨張フィラーとしては、負の熱膨張係数を有するものが好ましい。低熱膨張フィラー粒子を含むことによって、第1の基板1、封止部4、第2の基板2の熱膨張差を低減し、より接合強度が高い封止部を得ることができる。負の熱膨張係数を有する低熱膨張フィラー粒子としては、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)、酸化ニオブ(Nb)、β−ユークリプタイト(LiAlSiO)、石英ガラス(SiO)等を用いることができる。これらの低熱膨張フィラーの中でもリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)が好ましい。リン酸タングステン酸ジルコニウムは、酸化バナジウムと酸化テルルを含む無鉛低融点ガラスとのぬれ性が良好であるためである。気密性と接合強度の両立の観点から、封止材料中の低熱膨張フィラー粒子の含有量は10体積%以上45体積%以下であることが好ましい。
【0047】
金属粒子は、融点が300℃以下の低融点金属であることが好ましい。低融点金属としては、例えば、錫や錫系合金を用いることができる。錫系合金としては、銀、銅、亜鉛、アンチモンのいずれかを含む合金を好ましく用いることができる。断熱性と接合強度の観点から封止材料中の金属粒子の割合は10体積%以上70体積%以下であることが好ましい。
【0048】
封止材料として、低融点ガラスを含むペーストをリボン状の箔の両面に塗布し、仮焼成した材料を用いる場合、リボン状の箔としては、金属箔を用いることができる。リボン状の箔の両面に低融点ガラスを含むペーストを塗布した材料を封止材料として用いることにより、封止材料に用いる低融点ガラスの量を低減することができる。その結果、低融点ガラスから放出されるガスの量を低減し、真空度を向上できる。
【0049】
リボン状の金属箔としては、例えば、鉄−ニッケル系合金、鉄−ニッケル−クロム系合金、アルミニウム金属、アルミニウム系合金、及びこれらのクラッド材を用いることができる。
【0050】
<ガス捕捉材>
図3は本発明の一実施形態のガス捕捉材のSEM観察写真である本実施形態のガス捕捉材300は、封止材および基板からのガス排出を伴うガラスパネル封止工程においても、ガラスパネル封止後にそのガス捕捉特性を維持し、さらに300℃以下の低温で活性ができ、かつ基板への設置が容易な薄膜状の構造を有しているものである。
【0051】
図3に示すように、ガス捕捉材300は、多数の気孔303を有する多孔質金属酸化物301と、多孔質金属酸化物301に担持された銀粒子302とを含む。多孔質金属酸化物301は、多孔質であれば良く、具体的には、Al、SiO、TiO、ZrO、SnO、CoO、CuO、Y、ZnO、WO、MoO、V、Ta、Nb、MnO、Fe、NiO、GeO、TeO、Bi、Laおよびゼオライト等を用いることができる。この中でも特に酸化セリウム(CeO)が好ましい。
【0052】
ガス捕捉材において、銀粒子302がガス捕捉能を有するものであるが、銀粒子302が多孔質金属酸化物301に担持されることで比表面積が増大し、銀粒子302のガス捕捉特性を向上できる。
【0053】
また、銀粒子302が多孔質金属酸化物301に接触していることで、多孔質金属酸化物301の電子状態が銀粒子302の電子状態に影響を及ぼし、種々のガスを捕捉できる状態にすることで、ガス捕捉特性を向上できると考えられる。
【0054】
銀粒子302は、封止の際の構成部材からのガス放出および大気雰囲気下での焼成によって表面は酸化状態になるが、約200℃以上に熱せられることで、熱還元され、表面の酸化層が除去されることで、封止後のガス捕捉特性を維持することができる。このように銀粒子302は熱還元性を有するため、多孔質金属酸化物301に担持させるガス捕捉特性を有する材料として特に好ましい。なお、上記記載の材料以外でも、同等の比表面積および電子状態であれば同様の効果を得ることができる。銀粒子はナノオーダで微粒子化することで、その表面は負に帯電し、その負電荷により種々のガス分子を吸着すると推測される。
【0055】
ガス捕捉材の形状は特に限定されないが、設置の容易さから粉末状または薄膜状であることが好ましい。薄膜の場合、その形状は、円盤状、短冊状等、特に限定はされない。また、ガス捕捉材の厚みや大きさは、対向する一対の基板により形成される間隙部に収まればよく、特に限定されるものではないが、窓ガラスとして使用する場合は、サッシに隠れる程度の大きさが好ましい。またその際、真空断熱複層ガラスパネルに用いる各種部材から放出されるガスを十分に捕捉できる量のガス捕捉材を設置することが必要となる。
【0056】
ガス捕捉材300に含まれる多孔質金属酸化物301および銀粒子302の含有比率は、銀粒子302の比表面積が大きいことがガス捕捉特性向上に効果的であるため、多孔質金属酸化物301の含有比率が高いことが好ましい。一方で、多孔質金属酸化物301の含有比率が高すぎると、銀粒子302の割合が減少して所望のガス捕捉特性を得られない恐れがある。また、多孔質金属酸化物301の含有比率が低すぎると、銀粒子302が粗大になることで比表面積が減少し、所望のガス捕捉特性を得られない恐れがある。したがって、銀粒子302の含有比率が、多孔質金属酸化物301と銀粒子302の合計重量に対して1質量%以上70質量%以下が好ましく、5質量%以上、50質量%以下がより好ましい。
【0057】
本発明の多孔質金属酸化物301の粒子径は、5nm以上200μm以下が好ましく、10nm以上100μm以下がより好ましい。粒子が5nmよりも小さいと、粒子の気孔が減少し、多孔質金属酸化物301に含まれる銀粒子302の比表面積が減少し、所望のガス捕捉特性を得られない恐れがある。また、200μmよりも大きいと、気孔が多くなり過ぎ、多孔質金属酸化物301に銀粒子302が埋もれてしまい、多孔質金属酸化物301の表面に銀粒子302が現れず、所望のガス捕捉特性を得られない恐れがある。
【0058】
銀粒子302の粒子は、0.5nm以上100nm以下が好ましく、1nm以上50nm以下がより好ましい。粒子が0.5nmよりも小さいと、ガス捕捉材に含まれる多孔質金属酸化物301の電子状態の影響により所望のガス捕捉特性が得られない恐れがある。また、100nmよりも大きいと、銀粒子302の比表面積が小さく、所望のガス捕捉特性が得られない恐れがある。
【0059】
多孔質金属酸化物301および銀粒子302の粒径は、ガス捕捉材300を電子顕微鏡等の観察手段で観察した場合の平面像から測定することができる。また、所定の倍率の観察写真において表示される所定の個数の多孔質金属酸化物301または銀粒子302の粒径を平均した値(平均粒径)であってもよい。
【0060】
ガス捕捉材に含まれる多孔質金属酸化物301の比表面積は、ガス吸着の反応速度及び容量に関わることから30m/g以上であることが好ましく、より好ましくは100m/g以上、さらに好ましくは200m/g以上である。気孔303は、ガスの気孔303内への拡散を促進することおよびガス捕捉材300の有効熱伝導率を低下させることから、0.01cm/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.05cm/g以上である。多孔質金属酸化物301の比表面積は、ガス吸着法による分析装置によって測定することができる。
【0061】
上述した構成を有するガス捕捉材300の調製方法としては特に限定は無く、例えば、固相法(混練法など)、含浸法および液相法(ゾルゲル法、共沈法等)を用いることができる。上述したようにガス捕捉材300は、銀粒子302がガスを捕捉する機能を有するため、多孔質金属酸化物301の表面に担持されて露出しているものであることが好ましい。
【0062】
混練法を用いる場合には、例えば、多孔質金属酸化物301の原料に銀粒子302の原料を混合して湿式混合し、乾燥・焼成してガス捕捉材300を得ることができる。
【0063】
本実施形態のガス捕捉材300は、主にO、COおよび水分を捕捉することを目的としているが、例えば、CO、N、H、NOおよびNO等の放出ガスを捕捉する場合は、適宜、放出ガスに合わせたガス捕捉材を本発明のガス捕捉材と合わせて真空断熱機器の間隙部5に設置することができる。本発明のガス捕捉材300と合わせて設置可能なガス捕捉材としては、例えば、Zr(ジルコニウム)とV(バナジウム)、Fe(鉄)等を含む合金、Ag(銀)、Li(リチウム)、Mg(マグネシウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Ti(チタン)、ゼオライト、NaTiO、LiTiO、NaZrO、LiZrOおよびCeO等が挙げられる。これらは、設置する種類の制限はなく、2種類以上合わせて設置しても良い。
【0064】
ガス捕捉材300は、その構造を維持するためまたは間隙部5への設置を容易にするために、基材上にガス捕捉材300を積層して成形しても良い。基材に特に制限はないが、封止温度である300℃以下で融解しない材料が好ましく、例えば、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Au(金)、Ag(銀)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)およびNi(ニッケル)等が挙げられる。
【0065】
ガス捕捉材300は、使用前に活性化のための処理が必要となる。活性化方法としては熱処理が挙げられる。熱処理温度は銀が熱還元される温度以上であればよく、特に制限はない。なお、銀粒子が熱還元されることで清浄な金属面が露出し、各種ガス成分に対してガス捕捉特性を発現することができる。活性化の際の雰囲気にも特に制限はなく、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気および減圧雰囲気等で活性化して良い。真空断熱複層ガラスパネル100の封止の際の熱処理と同時に活性化することで、製造効率を上げることができる。
【0066】
ガス捕捉材300の構造および組成は、オージェ電子分光法、X線光電子分光法、蛍光X線分析、X線回折分析または電子顕微鏡観察等によって確認することができる。
【0067】
ガス捕捉材は、通常、大気中において酸化物や窒化物等で表面が覆われているため、常温ではガス捕捉特性は生じないが、そのガス捕捉材料を加熱すると表面に形成された酸化物や窒化物等が分解して、ガス捕捉材表面に大気に暴露されていない清浄な表面が露出することで真空中の気体分子を表面に取り込むことができ、ガス捕捉特性が生じることが知られている。一方で、ガラスパネルの製造タクト向上の観点から、前述のようにガラスパネル封止工程でガス捕捉材の活性化を同時に行う場合、加熱時に封止材に用いるガラスペースト及びガラス板から排出されるガス成分、または大気焼成工程を経る場合は大気中のガス成分をガス捕捉材が捕捉してしまうため、真空封止時にガス捕捉特性を発揮できない課題がある。
【0068】
本発明のガス捕捉材は、封止材、及びガラス板からのガス排出を伴うガラスパネル封止工程においても、ガラスパネル封止後にそのガス捕捉特性を維持し、さらに300℃以下の低温で活性ができ、かつガラス板への設置が容易な薄膜状の構造を有しているものである。
【0069】
<真空断熱複層ガラスパネルの製造方法>
次に、本発明が適用される真空断熱機器の製造方法について説明する。以下の説明では、いわゆる「排気管方式」でガラス基板を真空封止する例について説明する。
【0070】
図4Aは本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの製造工程中の構成の概略斜視図であり、図4B図4Aの真空断熱複層ガラスパネルの周縁部の拡大断面図である。先ずは、図4Aに示すように、排気穴13と排気管14とを設けた第1のガラス基板1の周縁部に、ディスペンサー15を用いて封止材料ペースト16を塗布する。そして、ホットプレート上にて150℃程度で30分間乾燥して、封止材料ペースト16の溶剤を蒸発させ、除去する。
【0071】
図9Aは封止材料ペーストのバインダー樹脂を除去する工程における熱処理の温度プロファイルを示すグラフである。図4Aに示す工程の後、図9Aに示す温度プロファイルにより、封止材料ペーストのバインダー樹脂を分解・除去する。その後、焼成して封止材料ペースト16中に含まれる低融点ガラス8の粒子を軟化流動させることによって、封止材料17を第1のガラス基板1上に形成する。
【0072】
その焼成条件は、図9Aに示すように、大気中にて昇温速度および降温速度を2℃/minとする。昇温過程においては、低融点ガラス8の屈伏点Mと軟化点Tとの間の一定温度Tで一旦30分程度保持することにより、バインダー樹脂を分解・除去する。その後、再度昇温させ、軟化点Tより20〜40℃ほど高い一定温度Tで30分間程度保持することにより、封止材料17を第1のガラス基板1の周縁部に形成する。
【0073】
ここで、低融点ガラスの特性温度について説明する。図10は一般的なガラス組成物のDTA曲線である。一般的に、ガラスのDTA(Differential Thermal Analysis)は、粒径が数十μm程度のガラス粒子を用い、さらに標準試料として高純度のアルミナ(α‐Al)粒子を用いて、大気中5℃/minの昇温速度で測定される。図10に示すように、第一吸熱ピークの開始温度またはガラスから過冷却液体に移り変わる温度を転移点をT、その吸熱ピーク温度またはガラスの膨張が停止する点を屈伏点M、第二吸熱ピーク温度または軟化し始める温度を軟化点T、ガラスが焼結体となる温度を焼結点Tsint、ガラスが融け出す温度を流動点T、溶融ガラスの成形に適した温度を作業点T、結晶化による発熱ピークの開始温度を結晶化開始温度Tcryという。なお、それぞれの特性温度は、接線法によって求められる。
【0074】
また、T、M及びTs等の特性温度は、ガラスの粘度によって定義され、Tは1013.3poise、Mは1011.0poise、Tは107.65poise、Tsintは10poise、Tは10poise、Tは10poiseに相当する温度である。
【0075】
上記のような工程を経て、封止材料ペースト16が封止材料17に変化する。
【0076】
図5Aは本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの製造工程中の構成の概略斜視図であり。図5B図5Aの断面図である。第2のガラス基板2には、図5Aおよび図5Bに示すように、片面全体に蒸着法により熱線反射膜6を形成する。そして、その熱線反射膜6の表面上に多数のスペーサー3を設ける。
【0077】
図6Aは本発明が適用される真空断熱複層ガラスパネルの製造工程中の構成の概略断面図であり、図6B図6Aに続く工程の断面図である。図6Aに示すように、上記の工程で作製した第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを対向するように合わせる。そして、図6Bに示すように、耐熱クリップ18等で固定する。これを図7Aに示すように真空排気炉19の内部に設置し、排気管14に電熱ヒーター20を取り付け、排気管14を真空ポンプ21に接続する。
【0078】
図7A図6Bに続く工程の断面図であり、図7B図7Aの封止部付近の拡大断面図である。図9Bは真空断熱複層ガラスパネルの内部空間を減圧する工程において、封止部を加熱する際の温度プロファイルを示すグラフである。図9Bに示すように、先ずは大気圧で、封止材料17に含まれる低融点ガラス8の屈伏点Mと軟化点Tとの間の一定温度Tまで加熱し、30分間程度保持する。その後、図7A及び図7Bに示す排気穴13及び排気管14から間隙部5を排気しながら、軟化点Tより10〜30℃ほど高い温度Tまで加熱する。これにより、封止材料17によって周縁部に封止部4を形成するとともに、間隙部5を真空状態とする。
【0079】
図8A図7Aに続く工程の断面図であり、図8B図8Aの封止部付近の拡大断面図である。図8Aおよび図8Bに示すように、冷却時或いは冷却後に排気管14を電熱ヒーターにより焼き切ることにより、間隙部5の真空状態を維持できるようにする。
【0080】
以上のようにして、真空断熱複層ガラスパネルは作製される。
【実施例】
【0081】
次に、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。実施例1〜13および比較例1〜3のガス捕捉材を備える真空断熱複層ガラスパネルを作製し、内部の真空度(温度変化ΔT)を評価した。
【0082】
[実施例1]
<ガス捕捉材>
硝酸銀粉末と酸化セリウム粉末とを銀粒子の含有量が5質量%、となるように秤量し、純水に分散させた後、エバポレーターで撹拌しつつ、80℃、減圧下で乾燥し、混合粉末を得た。その後、石英ボートに約0.6gの前記混合粉末を入れ、大気雰囲気下、400℃、2時間保持することでガス捕捉材を製造した。このガス捕捉材のガス捕捉特性を評価用のガラスパネル内に設置し、ガス捕捉特性を評価した。
【0083】
<ガス捕捉材を含む真空断熱複層ガラスパネル>
直方体型のソーダライムガラス2枚をそれぞれ第1の基板、第2の基板として用いて複層ガラスを作製した。第1の基板上に封止材料を外周が90mm×90mmの正方形となるようにディスペンサーを用いて塗布した。封止材料は、ガラス、フィラー材およびガラスビーズを56:14:30の体積比で混合して作製した。ガラスには低融点ガラス用い、その特性温度は転移点Tが203℃、屈伏点Mが221℃、軟化点Tが258℃、焼結点Tsintが267℃、流動点Tが282℃、作業点Tが288℃、結晶化開始温度Tcryが349℃であった。この封止材料を塗布、乾燥後、封止材料の内側にガス捕捉材を、エタノールと混合した状態で塗布、乾燥した。
【0084】
その後、金属スペーサー(φ200μm)を封止材料の内側に均等に設置した後、第1の基板の上部に第2の基板を乗せて対面構造とした。さらにクリップを用いて第1の基板と第2の基板の4辺を固定化した。これを真空排気炉19の内部に設置し、第2の基板の排気管に電熱ヒーター20を取り付け、排気管を真空ポンプに接続した後、図9Bに示す封止温度プロファイルで、はじめに大気圧で、前述の低融点ガラスの屈伏点Mと軟化点Tとの間の一定温度Tまで加熱し、30分間程度保持した。その後、排気管から間隙部を排気しながら、軟化点Tより30℃高い温度Tまで加熱した。冷却した後、排気管を電熱ヒーターにより焼き切って、真空断熱複層ガラスパネルを製造した。
【0085】
<ガス捕捉材のガス捕捉特性評価>
真空断熱複層ガラスパネル中におけるガス捕捉特性は、以下の方法で断熱性能を測定することにより評価した。第2の基板の表面中央部に60℃に加熱、保持した円柱状ヒーターを接触させ、反対側の第1の基板の表面中央部に温度計を接触させる。温度計よって、10分間の温度変化を計測した。その温度上昇が少ないほど、内部空間の断熱性が高く、ガス捕捉特性が高いと判断した。
【0086】
[実施例2]
銀粒子の含有量を10質量%としたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0087】
[実施例3]
銀粒子の含有量を20質量%としたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0088】
[実施例4]
銀粒子の含有量を30質量%としたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0089】
[実施例5]
銀粒子の含有量が40質量%としたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0090】
[実施例6]
銀粒子の含有量が50質量%としたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0091】
[実施例7]
銀粒子の含有量が60質量%となるようにしたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0092】
[実施例8]
銀粒子の含有量が70質量%となるようにしたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0093】
[実施例9]
多孔質金属酸化物として、酸化セリウムを酸化アルミニウム(Al)に変えたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0094】
[実施例10]
多孔質金属酸化物として、酸化セリウムを酸化ケイ素(SiO)に変えたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0095】
[実施例11]
多孔質金属酸化物として、酸化セリウムを酸化チタン(TiO)に変えたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0096】
[実施例12]
多孔質金属酸化物として、酸化セリウムを酸化ジルコニウム(ZrO)に変えたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0097】
[実施例13]
多孔質金属酸化物として、酸化セリウムを酸化イットリウム(Y)に変えたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0098】
[比較例1]
ガス捕捉材をZr系合金としたことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0099】
[比較例2]
酸化セリウムを加えなかったことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0100】
[比較例3]
ガス捕捉材を設置しなかったことを除いて実施例1と同様の手順で真空断熱複層ガラスパネルを作製し、ガス捕捉特性評価を実施した。
【0101】
図11は実施例1のガス捕捉材のXRDパターン図である。X線回折測定の測定条件は、測定範囲:2θ=10〜80°、測定幅:0.02°、管電圧:48kV、管電流:25mAとした。図11から、2θ=28.5、33.1、47.8、56.5、59.1、69.4、76.7および79.0°付近に酸化セリウムに由来するピーク、2θ=38.2°付近に金属銀に由来するブロードなピークが確認された。このことから、ガス捕捉材は酸化セリウムと金属銀を含むことが証明された。
【0102】
表1に、実施例1〜13および比較例1〜3のガス捕捉材の構成およびガス捕捉特性評価結果を示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示すように、比較例1〜3では、温度変化ΔTが19.5〜20℃であるのに対し、実施例1〜13のΔTは、10〜13℃であり、比較例と比べ著しく低い。このことから、実施例のガス捕捉材は比較例のガス捕捉材に比べて高い断熱性を有していることが明らかとなった。これは、実施例に用いた―ガス捕捉材を用いることで、真空断熱複層ガラスパネル内のガスが捕捉され、比較例に比べ空隙部の真空度が向上したことに起因していると考えられる。比較例1では大気雰囲気下での熱処理でガス捕捉効果が消失していると考えられる。比較例2の結果から、銀単独では効果がなく、酸化セリウムに銀が含まれていることで高いガス捕捉特性を有することが証明された。
【0105】
また、実施例1と実施例9〜13の結果から、多孔質金属酸化物として、酸化セリウム以外にも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化イットリウムでも酸化セリウムと同様の効果を発揮することが示された。
【0106】
以上、説明したように、本発明によれば、300℃以下の低温で活性化でき、かつ、大気雰囲気での焼成または封止工程におけるガス放出があっても、高いガス捕捉特性を維持することで生産効率を向上できる真空機器用ガス捕捉材および真空機器を提供することができることが示された。
【0107】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加や削除または置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…第1の基板、2…第2の基板、3…スペーサー、4…封止部、5…間隙部、6…熱線反射膜、7,300…ガス捕捉材、8…低融点ガラス、9…低熱膨張フィラー粒子、10…ガラスビーズ、13…排気穴、14…排気管、15…ディスペンサー、16…封止材料ペースト、17…封止材料、18…耐熱クリップ、19…真空排気炉、20…電熱ヒーター、21…真空ポンプ、301…多孔質金属酸化物、302…銀粒子、303…気孔。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11