(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粒子線を照射したシリコン単結晶をPL測定またはCL測定して得られるG線強度およびC線強度と、別に求めた炭素濃度を用いて、前記シリコン単結晶中の酸素濃度を測定する酸素濃度測定方法であって、
前記シリコン単結晶中の酸素濃度を、下記式
酸素濃度=比例定数×炭素濃度×(C線強度/G線強度)…(A)
を用いて測定するとき、
予め、第1の粒子線照射条件における、前記式(A)の前記比例定数である第1の比例定数α1を求めておき、
次に、シリコン単結晶のサンプルを用意し、
前記第1の比例定数α1を求めたときと同じ前記第1の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を行い、G線強度G1およびC線強度C1を求め、かつ、
前記第1の粒子線照射条件とは異なる第2の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を行い、G線強度G2およびC線強度C2を求め、
その後、前記第2の粒子線照射条件における、前記式(A)の前記比例定数である第2の比例定数α2を、下記式
比例定数α2=比例定数α1×{(C線強度C1/G線強度G1)/(C線強度C2/G線強度G2)}…(B)
から決定し、
該決定した比例定数α2を代入した前記式(A)を用いて、前記第2の粒子線照射条件における、前記シリコン単結晶中の酸素濃度の測定を行うことを特徴とする酸素濃度測定方法。
前記第2の粒子線照射条件での粒子線照射量を、前記第1の粒子線照射条件の粒子線照射量の2〜10倍、または0.1〜0.5倍とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酸素濃度測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリコン単結晶中に形成させた複合欠陥の強度を測定することにより、高感度に不純物濃度を測定する方法として低温PL法があるが、前記したように、その多くは炭素濃度測定方法である。この中には、シリコン単結晶に電子線を照射し、生成させたG線とC線の強度比と、シリコン単結晶中の炭素濃度と酸素濃度の濃度比の間で検量線を作成し、シリコン単結晶中の酸素濃度およびG線とC線の強度比から炭素濃度を測定する方法もある(特許文献4)。いずれも炭素濃度が既知で、且つ炭素濃度が異なるシリコン単結晶を複数用意し、複合欠陥のルミネッセンス強度を測定し、炭素濃度との検量線を作成した後に、ようやく測定対象である測定サンプルの複合欠陥のルミネッセンス強度を測定し、これを前記検量線に当てはめることにより、シリコン単結晶中の炭素濃度を定量する方法である。
【0008】
ここで、酸素濃度の測定においても上記のような炭素濃度の測定方法を適用することを本発明者は見出している。このとき、特に、シリコン単結晶中の炭素濃度、G線とC線の強度比(および比例定数)から酸素濃度を測定するにあたって、必要に応じて粒子線の照射量を調整してルミネッセンススペクトルのピーク強度を大きくする場合がある(特願2018−42902)。しかし、このように粒子線照射量を変えた場合においても、改めて炭素濃度および酸素濃度が既知のサンプルを複数用意し、変更した粒子線照射量の下、特願2018−42902のような新しい比例定数を求める煩雑な作業を行った後でないと酸素濃度を求める事ができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、シリコン単結晶中の酸素濃度を簡便に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、粒子線を照射したシリコン単結晶をPL測定またはCL測定して得られるG線強度およびC線強度と、別に求めた炭素濃度を用いて、前記シリコン単結晶中の酸素濃度を測定する酸素濃度測定方法であって、
前記シリコン単結晶中の酸素濃度を、下記式
酸素濃度=比例定数×炭素濃度×(C線強度/G線強度)…(A)
を用いて測定するとき、
予め、第1の粒子線照射条件における、前記式(A)の前記比例定数である第1の比例定数α1を求めておき、
次に、シリコン単結晶のサンプルを用意し、
前記第1の比例定数α1を求めたときと同じ前記第1の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を行い、G線強度G1およびC線強度C1を求め、かつ、
前記第1の粒子線照射条件とは異なる第2の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を行い、G線強度G2およびC線強度C2を求め、
その後、前記第2の粒子線照射条件における、前記式(A)の前記比例定数である第2の比例定数α2を、下記式
比例定数α2=比例定数α1×{(C線強度C1/G線強度G1)/(C線強度C2/G線強度G2)}…(B)
から決定し、
該決定した比例定数α2を代入した前記式(A)を用いて、前記第2の粒子線照射条件における、前記シリコン単結晶中の酸素濃度の測定を行うことを特徴とする酸素濃度測定方法を提供する。
【0011】
このような酸素濃度測定方法であれば、第2の比例定数α2を決定する際に、特願2018−42902のように、用いるサンプルについて酸素濃度や炭素濃度を求め、さらにPL測定等によるG線強度やC線強度を求めるといった煩雑な作業を行わなくても、第2の粒子線照射条件における第2の比例定数α2を簡便に精度良く求めることができる。
そして、該第2の比例定数α2を用いた式(A)によって、第2の粒子線照射条件における、酸素濃度の測定を簡便かつ高精度で行うことができる。
【0012】
このとき、前記第2の粒子線照射条件を、前記第1の粒子線照射条件から粒子線照射量のみを変えた条件とすることができる。
【0013】
このようにすれば、粒子線照射量以外の条件、例えば粒子線やその加速電圧などは変えないので、より高い精度で第2の比例定数α2を求めることができる。
【0014】
また、前記シリコン単結晶のサンプルとして、
1枚のシリコン単結晶ウェーハから、該シリコン単結晶ウェーハの中心から同じ距離の位置から採取した2つのウェーハ片を用意し、
前記第1の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を前記2つのウェーハ片のうちの一方で行い、
前記第2の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を他方で行うことができる。
【0015】
このようにすれば、上記2つのウェーハ片の炭素濃度、酸素濃度は同一とみなせるので、第2の比例定数α2を決定する際、より確実に、用いたサンプルの炭素濃度、酸素濃度を求めることなく、式(B)により第2の比例定数α2を求めることが出来る。
【0016】
あるいは、前記第2の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定として、
前記第1の粒子線照射条件で粒子線を照射した前記シリコン単結晶のサンプルに、前記第1の粒子線照射条件の粒子線照射量と第2の粒子線照射条件の粒子線照射量の差分を追加照射して行うことができる。
【0017】
このようにすれば、第1の粒子線照射条件と第2の粒子線照射条件で粒子線を照射するサンプルは同じものであるので、第2の比例定数α2を決定する際、より確実に、用いたサンプルの炭素濃度、酸素濃度を求めることなく、式(B)により第2の比例定数α2を求めることが出来る。特に、第1の粒子線照射条件の粒子線照射量よりも第2の粒子線照射条件の粒子線照射量を増やしたい場合は、この方法が有効である。
【0018】
このとき、前記第2の粒子線照射条件での粒子線照射量を、前記第1の粒子線照射条件の粒子線照射量の2〜10倍、または0.1〜0.5倍とすることができる。
【0019】
前述したように、第1の粒子線照射条件の照射量が最適でなかった場合、照射量を増やしたり、減らしたりする必要性が生じる場合がある。第1の粒子線照射条件が通常使用している条件の場合、既に予備実験などである程度適切な条件となっているため、第2の粒子照射条件で例えば照射量を増やす場合は2〜10倍の照射量で十分である。また、逆に照射量を減らす場合も、0.1〜0.5倍の照射量で十分である。
【0020】
また、前記測定するシリコン単結晶中の酸素濃度を、1×10
14atoms/cm
3以上とすることができる。
【0021】
このように本発明の測定方法であれば、1×10
14atoms/cm
3という低濃度の酸素濃度であっても簡便に精度良く求めることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の酸素濃度測定方法であれば、第2の比例定数を決定する際に、特願2018−42902のような、用いるサンプルの炭素濃度と酸素濃度の測定など煩雑な作業を行わなくても、第2の粒子線照射条件における第2の比例定数α2を簡便に精度良く求めることができる。そして、該第2の比例定数α2を用いた式(A)を用いることで、第2の粒子線照射条件における、酸素濃度の測定を簡便かつ高精度で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述したように、式(A)、すなわち、
酸素濃度=比例定数×炭素濃度×(C線強度/G線強度)…(A)
を用いて酸素濃度を求める際に、予め比例定数を決定する必要があり、様々な条件を検討して粒子線の種類やその照射量を決定し、決定した条件で酸素濃度及び炭素濃度の異なるサンプルに粒子線を照射し、得られたG線強度、C線強度及び各サンプルの炭素濃度、酸素濃度から式(A)の比例定数を決定していた。
【0025】
このように、式(A)を用いてシリコン単結晶中の酸素濃度を求めていく中で、G線、C線のどちらか一方、または両方のピークが弱く、照射量を増やしてピーク強度を大きくする必要性が生じる場合がある。逆に、決定した照射量が強すぎて、シリコン単結晶の構造が乱れてピークが弱くなっている場合もあり、この場合は照射量を減らしてピーク強度を大きくする必要性が生じる場合がある。
【0026】
しかし、粒子線の照射量を変えると、式(A)において、照射量変更前に用いていた比例定数を用いることができなくなり、新たな比例定数を決定するために、照射量変更前の比例定数を決定したときと同様の煩雑な作業を必要としていた。
【0027】
そこで本発明者は鋭意研究を行ったところ、粒子線照射量変更前における比例定数(第1の粒子線照射条件における第1の比例定数α1)と、照射量変更後における比例定数(第2の粒子線照射条件における第2の比例定数α2)との関係式を用いることにより、特願2018−42902のような煩雑な作業を行わなくても、精度の高い第2の粒子線照射条件における第2の比例定数α2を求めることができることを見出した。なお、本発明者が導き出したその関係式は以下の通りである。
比例定数α2=比例定数α1×{(C線強度C1/G線強度G1)/(C線強度C2/G線強度G2)}…(B)
そして、さらにこの第2の比例定数α2を用いた式(A)により、第2の粒子線照射条件における酸素濃度の測定を簡単に行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0028】
図1に本発明の酸素濃度測定方法の工程の一例を示す。
(工程1:第1の比例定数α1の決定)
まず、粒子線(電子線やイオンビーム)を照射したシリコン単結晶の比例定数決定用サンプルをPL測定して得られるG線強度[a.u.]、C線強度[a.u.]、および別に求めた炭素濃度[atoms/cm
3]、酸素濃度[ppma−JEITA]を用いて、
酸素濃度=比例定数×炭素濃度×(C線強度/G線強度)…(A)
となる比例定数をあらかじめ求めておく。
なお、本発明の酸素濃度測定方法の工程を説明するにあたってPL法を用いる例を挙げるが、代わりにCL(カソードルミネッセンス)法を用いることもできる。
【0029】
具体的には、炭素濃度、および酸素濃度が異なるシリコン単結晶基板(比例定数決定用サンプル)を15水準用意する。このとき、導出される比例定数の精度を上げる為、5水準以上用意することが好ましい。
そして、これらのサンプルの炭素濃度、および酸素濃度をSIMS法(あるいはFT−IR法など)で測定する。その後、電子線照射装置により各シリコン単結晶基板に2MVの加速電圧で1.0×10
15electrons/cm
2の電子線を照射する。これらの条件を第1の粒子線照射条件とする。こうして、シリコン単結晶基板にG線、およびC線を形成させ、それらのピーク強度をPL法で測定する。なお、このときのサンプル温度は液体ヘリウム温度とする。
【0030】
これらシリコン単結晶基板において、得られた炭素濃度、酸素濃度、G線強度、およびC線強度を上記の式(A)に代入し、得られた比例定数の平均値を第1の比例定数α1とする。このようにして、第1の比例定数α1として2.25×10
−15ppma/(atoms/cm
3)が得られた。
なお、上記の第1の粒子線照射条件および第1の比例定数α1は一例であって、当然、これらの条件や数値に限定されるものではなく、適宜決定することができる。
【0031】
(工程2:第2の比例定数α2の決定)
上記のようにして第1の粒子線照射条件における第1の比例定数α1を決定した後は、通常、実際の酸素濃度測定対象のシリコン単結晶に対して第1の粒子線照射条件で粒子線を照射して得たG線強度、C線強度、別に求めた炭素濃度、第1の比例定数α1を式(A)に代入して酸素濃度を求めることができる。
【0032】
しかしながら、前述したように、第1の粒子線照射条件でのC線などの強度測定において粒子線の照射量を調整する必要が生じる場合がある。粒子線の照射量を増やせば、もしくは減らせば、より低濃度の酸素濃度を定量することができる場合がある。この場合、特願2018−42902のように、粒子線の照射量を変えた比例定数決定用サンプルを用意し、上記と同様の煩雑な方法を行えば、照射量変更後の条件に対応する比例定数を求めることが出来るが、サンプルの炭素濃度や酸素濃度を求める必要がある。
【0033】
しかし、比例定数決定用サンプルの炭素濃度と酸素濃度が第1の粒子線照射条件と第2の粒子線照射条件で等しい場合、式(A)をより詳細に検討した結果、次のことが明らかとなった。
第1の粒子線照射条件におけるG線強度、C線強度を、G1、C1とし、第2の粒子線照射条件におけるG線強度、C線強度を、G2、C2とすると、
酸素濃度=比例定数α1×炭素濃度×(C線強度C1/G線強度G1)
=比例定数α2×炭素濃度×(C線強度C2/G線強度G2)
であり、比例定数α2について解くと、下記式(B)となる。
比例定数α2=比例定数α1×{(C線強度C1/G線強度G1)/(C線強度C2/G線強度G2)…(B)
即ち、式(B)には炭素濃度、酸素濃度が含まれていないため、比例定数α1が分かっている場合には、特願2018−42902のように、比例定数決定用のサンプルを用意し、該比例定数決定用サンプルの炭素濃度や酸素濃度をわざわざ測定することなく、比例定数α2を求めることが出来る。新たな第2の粒子線照射条件の下における新たな第2の比例定数α2を得る際に、従来のような煩雑な作業をなくして簡単かつ高精度に比例定数α2を求めることができる。
【0034】
以下、この第2の比例定数α2を決定する具体的な手順についてさらに詳述する。
シリコン単結晶のサンプルを用意し、第1の比例定数α1を求めたときと同じ第1の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を行い、G線強度G1およびC線強度C1を求める。また、第1の粒子線照射条件とは異なる第2の粒子線照射条件でのPL測定またはCL測定を行い、G線強度G2およびC線強度C2を求める。
【0035】
第1の粒子線照射条件や第2の粒子線照射条件自体は特に限定されず、適宜決定することができる。このとき、第2の粒子線照射条件は、第1の粒子線照射条件と、例えば粒子線の種類、加速電圧、照射量、入射角度が異なっていれば良い。
また、第1の粒子線照射条件は、先に挙げた例の他、通常行っている酸素濃度測定時と同様の条件とすることができる。
さらに、第2の粒子線照射条件は、第1の粒子線照射条件とは粒子線照射量のみが異なっていることがより好ましい。ここで第1の粒子線照射条件は、通常は既に予備実験などである程度適切な条件となっているため、特に第2の粒子線照射条件として第1の粒子線照射量のみを変更する場合は、第1の粒子線照射条件からの微調整であり、照射量を増やす場合は2〜10倍の照射量から選べば十分である。照射量を減らす場合も同様で、0.1〜0.5倍の照射量から選べば十分である。
例えば、先に挙げた例のように第1の粒子線照射条件として1×10
15electrons/cm
2の電子線を照射したとき、C線強度のピークが弱かった場合は、第2の粒子線照射条件として、電子線照射量を5×10
15electrons/cm
2とすることができる。
【0036】
このように、第2の粒子線照射条件として、第1の粒子線照射条件から粒子線照射量のみを変えた条件とすれば、粒子線照射量以外の条件、例えば粒子線やその加速電圧などは変えないので、より高い精度で第2の比例定数α2を求めることができる。
【0037】
ここで、シリコン単結晶の比例定数決定用サンプルの用意の仕方と、第1の粒子線照射条件や第2の粒子線照射条件下でのPL測定等の仕方の例を挙げる。
まず、シリコン単結晶の比例定数決定用サンプルとして、1枚のシリコン単結晶ウェーハから、該シリコン単結晶ウェーハの中心から同じ距離の位置から採取した2つのウェーハ片を用意する。そして、第1の粒子線照射条件でのPL測定を2つのウェーハ片のうちの一方で行い、G線強度G1とC線強度C1を求める。そして、第2の粒子線照射条件でのPL測定を他方で行い、G線強度G2とC線強度C2を求める。
この方法であれば、用意した2つのウェーハ片の炭素濃度、酸素濃度は同一とみなすことができ、より確実に、式(B)により第2の比例定数α2を簡単に求めることができる。第2の比例定数α2を求める際に、特願2018−42902のようにサンプルの炭素濃度および酸素濃度を別途測定する必要もないので簡便である。
【0038】
別の例としては、シリコン単結晶のサンプルを1つ用意し、これに第1の粒子線照射条件で粒子線を照射してPL測定を行い、G線強度G1とC線強度C1を求める。次に、この第1の粒子線照射条件で粒子線を照射したシリコン単結晶のサンプルに、第1の粒子線照射条件の粒子線照射量と第2の粒子線照射条件の粒子線照射量の差分を追加照射してPL測定を行い、G線強度G2とC線強度C2を求める。
このような方法であれば、同一のサンプル使用のため、当然、炭素濃度および酸素濃度は同じであり、式(B)を用いて第2の比例定数α2を簡単に求めることができる。特に、第1の粒子線照射条件の粒子線照射量よりも第2の粒子線照射条件の粒子線照射量を増やしたい場合に有効な方法である。
逆に、第1の粒子線照射条件の粒子線照射量よりも第2の粒子線照射条件の粒子線照射量を減らしたい場合は、先に第2の粒子線照射条件でPL測定を行い、次に第1の粒子線照射条件と第2の粒子線照射条件との粒子線照射量の差分を追加で照射し、この第1の粒子線照射条件の下、PL測定を行えば良い。
【0039】
これらの他には、過去のデータから炭素濃度と酸素濃度が同じであることが分かっているシリコン単結晶のサンプルを、第1の粒子線照射条件用と第2の粒子線照射条件用として各々用意することもできる。
あるいは、1枚のシリコン単結晶ウェーハ内において、互いに隣接する箇所から採取した2つのサンプルとすることもできる。
いずれの方法でも、第1の粒子線照射条件と第2の粒子線照射条件のサンプルの炭素濃度と酸素濃度は同一であるか、あるいは、同一とみなすことが出来る。したがって、式(B)を利用することができる。
そして式(B)に第1の比例定数α1、G線強度G1、C線強度C1、G線強度G2、C線強度C2を代入して、簡単に第2の比例定数α2を得ることができる。
【0040】
(工程3:第2の粒子線照射条件における酸素濃度測定)
第2の比例定数α2を代入した式(A)を用いて、第2の粒子線照射条件における、シリコン単結晶中の酸素濃度の測定を行う。すなわち、測定するシリコン単結晶の、別に求めた炭素濃度と、第2の粒子線照射条件におけるG線強度G2やC線強度C2を式(A)にさらに代入することで、シリコン単結晶中の酸素濃度を得ることができる。
【0041】
このような本発明の測定方法であれば、第1の粒子線照射条件から、より適切な測定条件である第2の粒子線照射条件へと最適化することにより、1×10
14atoms/cm
3以上という低濃度の酸素濃度を簡便に精度良く求めることが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
上記したように、粒子線照射条件が、2MVの加速電圧で電子線(EB)照射量が1×10
15electrons/cm
2(第1の粒子線照射条件)で、PL測定時のサンプル温度が液体ヘリウム温度の場合における、式(A)の第1の比例定数α1は2.25×10
−15ppma/(atoms/cm
3)と求められている。
【0043】
次に、EB照射量を5×10
15electrons/cm
2とした時(第2の粒子線照射条件)の第2の比例定数α2を求めるために、1枚のシリコンウェーハから、その中心部から同じ距離の位置から3つのサンプルを切り出した。これらの3つのサンプルは、互いに炭素濃度および酸素濃度が同一であるとみなせる。
その内の1つ目には第1の粒子線照射条件である1×10
15electrons/cm
2の照射量で電子線を照射した。2つ目には第2の照射条件である5×10
15electrons/cm
2の照射量で電子線を照射した。いずれも、電子線の加速電圧は2MVとした。次に、それぞれのサンプルを液体ヘリウム温度でPL測定を行い、第1の粒子線照射条件におけるG線強度G1およびC線強度C1と、第2の粒子線照射条件におけるG線強度G2およびC線強度C2を得た。
なお、3つ目については実施例1では使用せず、後述する比較例1で使用した。
【0044】
上記の2つのサンプルに対するPL測定を、炭素濃度、酸素濃度が異なると予想される19水準のサンプルに対して行い、{(C線強度C1/G線強度G1)/(C線強度C2/G線強度G2)}の平均値を求めたところ、0.779であった。
図2に(C線強度C1/G線強度G1)と(C線強度C2/G線強度G2)の関係をプロットで示す。なお、参考として、
図2に傾き1のグラフ((C線強度C1/G線強度G1)=(C線強度C2/G線強度G2))を実線で引いている。
従って、第2の比例定数α2は、第1の比例定数α1と上記平均値を式(B)に代入し、即ち、2.25×10
−15×0.779により、1.75×10
−15ppma/(atoms/cm
3)と求まった。
【0045】
次に、上記19水準のサンプルについて、別に求めた炭素濃度と、G線強度G2、C線強度C2を、上記第2の比例定数α2を代入した式(A)に対して代入した。これにより、第2の粒子線照射条件における酸素濃度を求めることができた。
ここで、同様にして第1の粒子線照射条件(第1の比例定数α1)における酸素濃度も求め、該第1の粒子線照射条件から求めた酸素濃度と、第2の粒子線照射条件から求めた酸素濃度を
図3にプロットで示し、比較した。なお、参考として、傾き1のグラフ(第1の粒子線照射条件から求めた酸素濃度=第2の粒子線照射条件から求めた酸素濃度)を実線で引いている。
図3に示すように、両者は非常に良く一致した。すなわち、第2の比例定数α2が、特願2018−42902と同様にして煩雑な作業を行って求めた第1の比例定数α1と同程度に高精度であることが分かる。しかも、第2の比例定数α2を求めるにあたって、特願2018−42902のような煩雑な作業が必要ないため、簡単である。
【0046】
(実施例2)
実施例1において、第1の粒子線照射条件(加速電圧2MV、照射量1×10
15electrons/cm
2)で電子線を照射して液体ヘリウム温度にてPL測定(G線強度G1、C線強度C1)を行ったサンプルに対して、加速電圧2MVにて4×10
15electrons/cm
2の電子線照射を追加して行い、合わせて5×10
15electrons/cm
2の電子線照射を行ったサンプルを用意した。これの液体ヘリウム温度におけるG線強度G2およびC線強度C2を求めた。
【0047】
上記19水準のサンプルの、(C線強度C1/G線強度G1)/(C線強度C2/G線強度G2)の平均値を求めたところ、0.779であった。
従って、第2の比例定数α2は、第1の比例定数α1と上記平均値を式(B)に代入し、即ち、2.25×10
−15×0.779により、1.75×10
−15ppma/(atoms/cm
3)と求まった。このように実施例1と同様の数値になった。
【0048】
次に、上記19水準のサンプルについて、第1の粒子線照射条件から求めた酸素濃度(第1の比例定数α1を代入した式(A)使用)と、第2の粒子線照射条件から求めた酸素濃度(上記のようにして求めた第2の比例定数α2を代入した式(A)使用)を比較したところ、実施例1と同様に
図3のような結果となり、両者は非常に良く一致した。
【0049】
(比較例1)
実施例1で切り出したサンプルの内、何も処理をしていない残りの1つのサンプル(すなわち、1つ×19水準分)を用いて、これをさらに3分割して、それぞれの炭素濃度をSIMS法により、酸素濃度をFT−IR法により求めた。その後、加速電圧2MVにて5×10
15electrons/cm
2の電子線照射を行った。次に液体ヘリウム温度にてPL測定を行い、G線強度およびC線強度を得た。
【0050】
それぞれのサンプルにおいて、炭素濃度、酸素濃度、G線強度、C線強度を、式(A)
に代入して比例定数を求めた。これの19水準のサンプルの平均値は1.75×10
−15ppma/(atoms/cm
3)であった(比例定数βとする)。
図4に各サンプルから求めた比例定数βと酸素濃度との関係を示す。この数値は、実施例1および実施例2の第2の比例定数α2と同一の値であるものの、これを得るために各サンプルの炭素濃度、酸素濃度を求めたために、多大なる時間が掛かった。
【0051】
そして、上記19水準のサンプルについて、第1の粒子線照射条件から求めた酸素濃度(第1の比例定数α1を代入した式(A)使用)と、第2の粒子線照射条件から求めた酸素濃度(上記のようにして求めた第2の粒子線照射条件における比例定数βを代入した式(A)使用)を比較したところ、両者は非常に良く一致した。しかしながら、上述したように、第2の粒子線照射条件における比例定数βを求めるために多大な時間がかかったため、測定全体として時間が多大になってしまった。
【0052】
(実施例3)
シリコン単結晶から採取したサンプル(直径200mm、FZ結晶、固化率=20%の位置)を用意し、実施例1と同様の第1の粒子線照射条件の下、液体ヘリウム温度にてPL測定を行った。この結果、第1の粒子線照射条件ではG線は十分なピーク強度が得られたが、C線ピークが弱く、酸素濃度を定量できなかった。
このサンプルに隣接するサンプルを用意し、これに実施例1と同様の第2の粒子線照射条件でEB照射を行い、液体ヘリウム温度でPL測定を行った。この結果、G線、C線ともに十分なピーク強度を得られた。
そこで、実施例1で求めた、第2の粒子線照射条件における第2の比例定数α2(1.75×10
−15)を代入した式(A)を用い、別に求めた炭素濃度、先に求めた第2の粒子線照射条件のPL測定でのG線強度、C線強度を代入することによって、第2の粒子線照射条件における酸素濃度を求めたところ、1.0×10
14atoms/cm
3(すなわち、0.002ppma(JEITA))と求めることが出来た。
【0053】
(実施例4)
シリコン単結晶から採取したサンプル(直径200mm、FZ結晶、固化率=20%の位置)(実施例3と同様のサンプル)を用意し、実施例1と同様の第1の粒子線照射条件の下、液体ヘリウム温度にてPL測定を行った。この結果、第1の粒子線照射条件ではG線は十分なピーク強度が得られたが、C線ピークが弱く、酸素濃度を定量できなかった。
このサンプルについて、第1の粒子線照射条件でEB照射を行ったサンプルそのものに、追加で加速電圧2MVにて4×10
15electrons/cm
2の電子線照射を行い、合わせて5×10
15electrons/cm
2の電子線照射を行ったサンプルを用意した。これを、液体ヘリウム温度でPL測定を行った。この結果、G線、C線ともに十分なピーク強度を得られた。
そこで、実施例2で求めた第2の粒子線照射条件における第2の比例定数α2(1.75×10
−15)を代入した式(A)を用い、別に求めた炭素濃度、先に求めた第2の粒子線照射条件のPL測定でのG線強度、C線強度を代入することによって、第2の粒子線照射条件における酸素濃度を求めたところ、1.0×10
14atoms/cm
3(すなわち、0.002ppma(JEITA))と求めることが出来た。
【0054】
(比較例2)
シリコン単結晶から採取したサンプル(直径200mm、FZ結晶、固化率=20%の位置)(実施例3と同様のサンプル)を用意し、実施例1と同様の第1の粒子線照射条件の下、液体ヘリウム温度にてPL測定を行った。この結果、第1の粒子線照射条件ではG線は十分なピーク強度が得られたが、C線ピークが弱く、酸素濃度を定量できなかった。
このサンプルに隣接するサンプルを用意し、これに比較例1と同様の粒子線照射条件でEB照射を行い、液体ヘリウム温度でPL測定を行った。この結果、G線、C線ともに十分なピーク強度を得られた。
そこで、比較例1で多大な時間をかけて求めた比例定数β(1.75×10
−15)を代入した式(A)を用い、別に求めた炭素濃度、先に求めた比較例1と同様の粒子線照射条件のPL測定でのG線強度、C線強度を代入することによって、比較例1と同様の粒子線照射条件における酸素濃度を求めたところ、1.0×10
14atoms/cm
3(すなわち、0.002ppma(JEITA))と求めることが出来た。
【0055】
このように、本発明による実施例1、2や実施例3、4は、各々、特願2018−42902の方法による比較例1や比較例2と少なくとも同程度に高精度で酸素濃度を測定することができた。また、第2の粒子線照射条件を調整すれば、より低濃度の酸素濃度も測定可能となる。しかも、実施例1−4では、比較例1−2において行ったような煩雑な作業をなくし、従来法よりも時間をかけずに簡便に測定を行うことができた。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。