(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原料溶融工程におけるCOガス発生レートの最大値をA(mol/h)、前記結晶育成工程中の直胴工程におけるCOガス発生レートの最大値をB(mol/h)として、前記原料溶融工程及び前記結晶育成工程は、A/B≦10を満たす条件下で行う、請求項1に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
前記炉内ガスは、前記ルツボの上方に前記単結晶シリコンインゴットを囲むように設けられた筒状の熱遮蔽体と、前記ルツボとの間の空間から採取する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として使用されるシリコンウェーハは、シリコン単結晶のインゴットを薄くスライスし、平面研削(ラッピング)工程、エッチング工程および鏡面研磨(ポリッシング)工程を経て最終洗浄することにより製造される。そして、300mm以上の大口径のシリコン単結晶は、チョクラルスキー(Czochralski,CZ)法により製造するのが一般的である。
【0003】
図4は、CZ法により単結晶シリコンインゴットを製造する従来のシリコン単結晶引上げ装置400を示している。シリコン単結晶引上げ装置400は、その外郭をチャンバ10で構成され、その中心部にルツボ16が配置される。ルツボ16は二重構造を有しており、内側の石英ルツボ16Aと、外側の黒鉛ルツボ16Bとから構成され、シャフト駆動機構20により回転および昇降が可能なシャフト18の上端部に固定される。
【0004】
ルツボ16の外側には、ルツボ16を囲むように抵抗加熱式の筒状ヒータ24が配設され、その外側には、チャンバ10の内側面に沿って断熱体26が配設される。また、ルツボ16の上方には、種結晶Sを保持するシードチャック28を下端で保持する引上げワイヤ30がシャフト18と同軸上に配置され、ワイヤ昇降機構32が、引上げワイヤ30をシャフト18と逆方向または同一方向に所定の速度で回転させつつ昇降させる。
【0005】
チャンバ10内には、ルツボ16の上方で育成中の単結晶シリコンインゴットIを囲むように筒状の熱遮蔽体22が配置される。この熱遮蔽体22は、育成中のインゴットIに対する、ルツボ16内のシリコン融液Mやヒータ24やルツボ16の側壁からの高温の輻射熱の入射量を調整したり、結晶成長界面近傍の熱の拡散量を調整するものであり、単結晶シリコンインゴットIの中心部および外周部の引上げ軸X方向の温度勾配を制御する役割を担っている。
【0006】
チャンバ10の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ10内に導入するガス導入口12が設けられる。また、チャンバ10の底部には、図示しない真空ポンプの駆動によりチャンバ10内の気体を吸引して排出するガス排出口14が設けられる。ガス導入口12からチャンバ10内に導入された不活性ガスは、育成中の単結晶シリコンインゴットIと熱遮蔽体22との間を下降し、熱遮蔽体22の下端とシリコン融液Mの液面との隙間を流れた後、熱遮蔽体22の外側、さらにはルツボ16の外側に向けて流れ、その後ルツボ16の外側を下降してガス排出口14から排出される。
【0007】
このシリコン単結晶引上げ装置400を用いて、チャンバ10内を減圧下のArガス雰囲気に維持した状態で、ルツボ16内に充填した多結晶シリコンなどのシリコン原料をヒータ24の加熱により溶融させ、シリコン融液Mを形成する。次いで、ワイヤ昇降機構32によって引上げワイヤ30を下降させて、種結晶Sをシリコン融液Mに着液し、ルツボ16および引上げワイヤ30を所定の方向に回転させながら、引上げワイヤ30を上方に引き上げ、種結晶Sの下方にインゴットIを育成する。なお、インゴットIの育成が進行するにつれて、シリコン融液Mの量は減少するが、ルツボ16を上昇させて、融液面のレベルを維持する。
【0008】
チャンバ10の上部の開口部34にはCCDカメラ36が設けられる。CCDカメラ36は、結晶Iと融液Mとの境界部近傍を撮像する。結晶と融液との境界部に形成されるメニスカスは、結晶および融液よりも高輝度で撮像されるため、画像中のメニスカスは、リング状の高輝度帯(以下、「フュージョンリング」と称する。)として顕在化する。このフュージョンリングの間隔を結晶直径と認識して、この結晶直径が所望の一定値となるように、結晶引上げ速度と融液温度を制御する。
【0009】
このようなシリコン単結晶引上げ装置を用いた単結晶シリコンインゴットの製造においては、チャンバ内でCOガスが発生することが知られている。その原因の一つとして、シリコン融液から発生したSiOガスと、チャンバ内に存在する黒鉛材(例えば、筒状ヒータ)との反応により、COガスが発生することが挙げられる。このチャンバ内COガスの濃度を測定する技術として、特許文献1がある。
【0010】
特許文献1には、「チョクラルスキー法により原料を加熱溶融した原料融液から単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、前記原料を石英ルツボに収容し、該石英ルツボに収容された原料を加熱溶融しながら原料溶融中に排出される排ガスに含まれる一酸化炭素濃度を測定し、測定された原料溶融中における排ガスに含まれる一酸化炭素濃度測定結果に基づき、原料の溶融が完了したと判定し、その後、前記原料融液から単結晶を引き上げることを特徴とする単結晶の製造方法(請求項6)」が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、従来のシリコン単結晶引上げ装置で製造された単結晶シリコンインゴット中には、その育成過程においてカーボンが混入し、その結果、当該インゴットから作製したシリコンウェーハのカーボン濃度が意図せず高くなってしまうという課題に着目した。シリコンウェーハ中のカーボン濃度が高くなると、デバイス熱処理工程中にキラー欠陥と呼ばれる電気的に活性なカーボン起因の欠陥が発生し、ウェーハのライフタイムを低下させてしまう問題が生じる。また、高濃度のカーボンは酸素析出物の形成を促進させるため、仮に酸素析出物がデバイスの表面に存在した場合はリーク不良が生じ、歩留まり低下の原因となる。このように、単結晶シリコンインゴット中へのカーボンのコンタミは、半導体デバイスの作製工程において悪影響を及ぼす。そのため、単結晶シリコンインゴット中の炭素濃度はデバイスの種類に応じて規格で厳しく制限される。
【0013】
結晶中のカーボン濃度が上昇する理由は、チャンバ内で発生したCOガスがシリコン融液に取り込まれることであると考えられる。特許文献1では、原料溶融工程において原料が全て溶融する時にチャンバ内のガス中のCOガス濃度が最大となることに着目して、COガス濃度を測定し、この測定値に基づいて原料溶融工程の終了(メルト完了)を判定している。しかしながら、特許文献1では、メルト完了の正確な検知によって、プロセスタイムを短縮化することと石英ルツボの変形を防止することに着目しているに過ぎず、COガスのシリコン融液への取り込みや、これに起因する結晶中のカーボン濃度の上昇については、何ら着目していない。
【0014】
上記課題に鑑み、本発明は、カーボン濃度が低い単結晶シリコンインゴットを高い歩留まりで製造することが可能な単結晶シリコンインゴットの製造方法及びシリコン単結晶引上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく本発明者らは、チャンバ内ガス中のCOガス濃度をモニターすることに代えて、COガス発生レート(単位時間当たりのCOガス発生量)をモニターすることを着想した。すなわち、COガスのシリコン融液への取り込み量は、単位時間当たりのCOガスの発生量と正の相関があるものと考えられる。一方で、COガス濃度は、単位時間当たりのCOガス発生量が同じであっても、チャンバ内の不活性ガスの流量が大きい場合には小さくなり、チャンバ内の不活性ガスの流量が小さい場合には大きくなる。実際、原料溶融工程と結晶育成工程では不活性ガスの流量は異なるし、結晶育成工程中においても不活性ガスの流量は変動する。このため、COガス濃度は、COガスのシリコン融液への取り込み量を評価する指標としてモニターするのには適切ではない。本発明者らは、チャンバ内のCOガス濃度を測定し、この測定値に、チャンバ内の不活性ガス流量を乗ずることでCOガス発生レートを算出し、このCOガス発生レートをモニターすることで、COガスのシリコン融液への取り込み量、ひいては結晶中のカーボン濃度を適切に評価できることを見出した。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)不活性ガスを導入するガス導入口を上部に有し、前記不活性ガスを含む炉内ガスを排出するガス排出口を底部に有するチャンバと、
前記チャンバ内に位置するルツボと、
前記チャンバ内で前記ルツボを囲うように位置する筒状のヒータと、
を有するシリコン単結晶引上げ装置を用いて行う単結晶シリコンインゴットの製造方法であって、
前記チャンバ内を減圧下で前記不活性ガスの雰囲気に維持しつつ、前記ルツボ内に投入したシリコン原料を前記ヒータにより加熱、溶融させて前記ルツボ内にシリコン融液を形成する原料溶融工程と、
引き続き、前記チャンバ内を減圧下で前記不活性ガスの雰囲気に維持しつつ、前記シリコン融液を前記ヒータにより加熱、維持して、前記シリコン融液から単結晶シリコンインゴットを引き上げる結晶育成工程と、
を有し、前記原料溶融工程及び前記結晶育成工程において、
前記炉内ガスを採取し、
前記採取したガス中のCOガス濃度をガス分析装置により間欠的に測定し、
測定したCOガス濃度に、前記チャンバ内に供給する不活性ガスの流量を乗ずることにより、COガス発生レートを算出し、
算出した前記COガス発生レートをモニターすることを特徴とする単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0017】
(2)前記原料溶融工程におけるCOガス発生レートの最大値をA(mol/h)、前記結晶育成工程中の直胴工程におけるCOガス発生レートの最大値をB(mol/h)として、前記原料溶融工程及び前記結晶育成工程は、A/B≦10を満たす条件下で行う、上記(1)に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0018】
(3)前記炉内ガスの採取は、前記ガス排出口から延びる排気配管を介して行う、上記(1)又は(2)に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0019】
(4)前記炉内ガスは、前記ルツボの上方に前記単結晶シリコンインゴットを囲むように設けられた筒状の熱遮蔽体と、前記ルツボとの間の空間から採取する、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0020】
(5)前記ガス分析装置が四重極型質量分析装置である、上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0021】
(6)不活性ガスを導入するガス導入口を上部に有し、前記不活性ガスを含む炉内ガスを排出するガス排出口を底部に有するチャンバと、
前記チャンバ内に位置し、シリコン融液を収容するルツボと、
前記ルツボの上方に、前記シリコン融液から引き上げられる単結晶シリコンインゴットを囲むように設けられた筒状の熱遮蔽体と、
前記チャンバ内で前記ルツボを囲うように位置し、前記シリコン融液を加熱する筒状のヒータと、
前記ガス排出口から延びる排気配管と、
前記排気配管に接続され、前記チャンバ内を減圧するとともに、前記炉内ガスを前記排気配管へと吸引するメインポンプと、
前記排気配管に設けられ、前記チャンバ内を減圧する際に開となるメインバルブと、
前記排気配管の前記メインバルブよりも上流の部位、及び、前記熱遮蔽体と前記ルツボとの間の空間、の一方又は両方に設けられたガス採取口と、
前記ガス採取口から延び、前記排気配管の前記メインバルブより下流の部位に連結されるサブ配管と、
前記サブ配管に設けられ、前記炉内ガスを前記サブ配管へと吸引するサブポンプと、
前記サブ配管の前記サブポンプより上流に設けられ、前記サブ配管に吸引されたガス中のCOガス濃度を間欠的に測定するガス分析装置と、
前記サブ配管の前記ガス分析装置より上流に設けられ、前記ガス分析装置に供給するガスの流量を調整する流量調整バルブと、
前記サブ配管の前記流量調整バルブより上流に設けられ、前記サブ配管に吸引されたガス中のSiO粉を除去するフィルタと、
前記サブ配管の前記ガス採取口の近傍に設けられ、前記炉内ガスを前記サブ配管へと吸引する際に開となる取り込みバルブと、
を有し、さらに、
前記ガス分析装置により測定したCOガス濃度に、前記チャンバ内に供給する不活性ガスの流量を乗ずることにより、COガス発生レートを算出する演算部と、
算出した前記COガス発生レートを出力する出力装置と、
を有することを特徴とするシリコン単結晶引上げ装置。
【0022】
(7)前記ガス採取口が、前記排気配管の前記メインバルブよりも上流の部位に設けられた、上記(6)に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
【0023】
(8)前記ガス採取口が、前記熱遮蔽体と前記ルツボとの間の空間に位置する、上記(6)又は(7)に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
【0024】
(9)前記ガス分析装置が四重極型質量分析装置である、上記(6)〜(8)のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明の単結晶シリコンインゴットの製造方法及びシリコン単結晶引上げ装置によれば、カーボン濃度が低い単結晶シリコンインゴットを高い歩留まりで製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(シリコン単結晶引上げ装置)
図1〜3を参照して、本発明の実施形態によるシリコン単結晶引上げ装置100,200,300に共通する基本的構成について説明する。なお、これらの共通する基本的構成については、
図1〜3において同一の符号を付している。
【0028】
シリコン単結晶引上げ装置100,200,300は、チャンバ10、ルツボ16、シャフト18、シャフト駆動機構20、筒状の熱遮蔽体22、筒状のヒータ24、筒状の断熱体26、シードチャック28、引上げワイヤ30、ワイヤ昇降機構32、CCDカメラ36、排気配管40、およびメインポンプ42を有する。
【0029】
チャンバ10の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ10内に導入するガス導入口12が設けられる。また、チャンバ10の底部には、メインポンプ42(真空ポンプ)の駆動によりチャンバ10内の気体(以下、「炉内ガス」と称する。)を吸引して排出するガス排出口14が設けられる。
【0030】
ルツボ16は、チャンバ10の中心部に配置され、シリコン融液Mを収容する。ルツボ16は、石英ルツボ16Aと黒鉛ルツボ16Bの二重構造を有する。石英ルツボ16Aは、シリコン融液Mを内面で直接支持する。黒鉛ルツボ16Bは、石英ルツボ16Aの外側で石英ルツボ16Aを支持する。
図1〜3に示すように、石英ルツボ16Aの上端は黒鉛ルツボ16Bの上端よりも高くなっており、すなわち、石英ルツボ16Aの上端部は黒鉛ルツボ16Bの上端から突出している。
【0031】
シャフト18は、チャンバ10の底部を鉛直方向に貫通して、ルツボ16を上端で支持する。そして、シャフト駆動機構20は、シャフト18を介してルツボ16を回転させつつ昇降させる。
【0032】
熱遮蔽体22は、ルツボ16の上方に、シリコン融液Mから引き上げられる単結晶シリコンインゴットIを囲むように設けられる。具体的には、熱遮蔽体22は、逆円錐台形状のシールド本体22Aと、このシールド本体22Aの下端部から引上げ軸X側(内側)に向かって水平方向に延設された内側フランジ部22Bと、シールド本体22Aの上端部からチャンバ側(外側)に向かって水平方向に延設された外側フランジ部22Cとを有し、外側フランジ部22Cは断熱体26に固定されている。熱遮蔽体22の機能は背景技術の欄において説明したとおりである。
【0033】
筒状のヒータ24は、チャンバ10内でルツボ16を囲うように位置する。ヒータ24は、カーボンを素材とする抵抗加熱式ヒータであり、ルツボ16内に投入されるシリコン原料を溶融してシリコン融液Mを形成し、さらに、形成したシリコン融液Mを維持するための加熱を行う。
【0034】
筒状の断熱体26は、熱遮蔽体22の上端よりも下方で、チャンバ10の内側面に沿って設けられる。本実施形態では、さらに、チャンバ内の底部にも断熱体が配置される。これらの断熱体を構成する断熱材は特に限定されないが、例えばカーボン、アルミナ、及びジルコニアを挙げることができる。断熱体26は、チャンバ10内の特に熱遮蔽体22よりも下方の領域に保熱効果を付与し、ルツボ16内のシリコン融液Mを維持しやすくする機能を有する。断熱体26の厚さは、特に限定されず、従来と同等の一般的な厚さとすることができ、直径300mmの結晶を育成する引上げ装置においては30〜90mm程度、直径450mmの結晶を育成する引上げ装置においては45〜100mm程度とすることができる。
【0035】
ルツボ16の上方には、種結晶Sを保持するシードチャック28を下端で保持する引上げワイヤ30がシャフト18と同軸上に配置され、ワイヤ昇降機構32が、引上げワイヤ30をシャフト18と逆方向または同一方向に所定の速度で回転させつつ昇降させる。
【0036】
チャンバ10の上部の開口部34にはCCDカメラ36が設けられる。CCDカメラ36は、結晶Iと融液Mとの境界部近傍を撮像する。得られる画像中のフュージョンリングの間隔を結晶直径として、この結晶直径が所望の一定値となるように、結晶引上げ速度と融液温度を制御する。
【0037】
排気配管40は、ガス排出口14から延びる。メインポンプ42は、例えばドライポンプ等の真空ポンプとすることができ、排気配管40に接続され、チャンバ10内を5〜100Torr程度に減圧するとともに、炉内ガスを排気配管40へと吸引する役割を果たす。メインバルブ44は、排気配管40に設けられ、チャンバ10内の圧力を常圧および減圧に切り替える役割を果たす。すなわち、チャンバ10内を大気開放する際や、チャンバ10内の構造物を設置・交換する際など、チャンバ10内が常圧となる時には、メインバルブ44は閉となる。一方、原料溶融工程および結晶育成工程を含むチャンバ10内が減圧となる時には、メインバルブ44は開となる。
【0038】
ここで、原料溶融工程および結晶育成工程では、チャンバ10内でCOガスが発生する。その第1の原因は、以下のとおりである。すなわち、ルツボ16内のシリコン融液Mからは、シリコン融液Mが石英ルツボ16A内面と反応することでSiOガスが発生する。SiOガスは、不活性ガスの流れに乗ってヒータ24に到達し、以下の反応式に示すように、ヒータの素材であるカーボンとの反応によりCOガスが発生する。
SiO(g) + 2C(s) → CO(g) + SiC(s)
なお、副生成物として生成するSiCはヒータ24の表面に析出する。
【0039】
第2の原因は、以下のとおりである。すなわち、互いに接触する石英ルツボ16Aと黒鉛ルツボ16Bとが反応することにより、COガスが発生する。
SiO
2(s) + 3C(s) → 2CO(g) + SiC(s)
なお、副生成物として生成するSiCは、石英ルツボ16Aの外周面と黒鉛ルツボ16Bの内周面との間に析出する。
【0040】
本発明の各実施形態は、上記のようにしてチャンバ10内に発生したCOガスに関して、その単位時間当たりの発生量(すなわち、COガス発生レート)をモニターするものである。以下、そのための装置構成を説明する。
【0041】
[第1の実施形態]
図1を参照して、本実施形態では、排気配管40のメインバルブ44よりも上流の部位から分岐して、メインバルブ44よりも下流の部位に連結されたサブ配管52を有する。すなわち、ガス採取口46は、排気配管40のメインバルブ44よりも上流の部位に設けられる。サブ配管52には、その上流から順に、取り込みバルブ54、フィルタ58、流量調整バルブ60、ガス分析装置62、及びサブポンプ64が取り付けられている。なお、本明細書において、排気配管40及びサブ配管52の「上流」及び「下流」とは、各配管内を通過するガスの流れに関するものとする。
【0042】
サブポンプ64は、サブ配管52に設けられ、炉内ガス(厳密には、排気配管に吸引されたガス)を、ガス採取口46を介してサブ配管52へと吸引する。サブポンプ64は、例えばロータリーポンプとターボ分子ポンプを組み合わせた真空ポンプ装置により構成することができる。既述のとおり、チャンバ10内は5〜100Torr程度の減圧雰囲気であり、この減圧雰囲気からサブ配管52にガスを吸引するためには、より低い減圧雰囲気をサブ配管52内に作る必要がある。この観点から、サブポンプ64の駆動により、サブ配管52内の圧力(フィルタ58よりも上流の箇所)を1Torr以下とすることが好ましい。
【0043】
ガス分析装置62は、サブ配管52のサブポンプ64より上流に設けられ、サブ配管に吸引されたガス中のCOガス濃度を間欠的に測定する。ガス分析装置62としては、四重極型質量分析装置及びガスクロマトグラフィー装置を挙げることができる。四重極型質量分析装置の場合、COガス濃度の測定間隔は1秒程度と短い。一方、現在市販されているガスクロマトグラフィー装置の場合、COガス濃度の測定間隔は最短でも15分程度である。よって、本実施形態では、四重極型質量分析装置を用いることが好ましい。
【0044】
流量調整バルブ60は、サブ配管52のガス分析装置62より上流に設けられ、開閉度の調整により、ガス分析装置62に供給するガスの流量を調整する役割を果たす。これにより、適当な流量の炉内ガスをガス分析装置62に供給することができる。ガス分析装置62に供給するガスの流量は4×10
-1〜4×10
-4Pa・L/分とすることが好ましい。
【0045】
フィルタ58は、サブ配管52の流量調整バルブ60より上流に設けられ、サブ配管52に吸引されたガス中のSiO粉を除去する役割を果たす。当該ガス中には、シリコン融液Mから発生するSiOガスが冷却されて、固化して形成されるSiO粉が含まれる。
図6に、一般的なチャンバ内から採取したガス中のSiO粉末の粒度分布を示すグラフを示す。
図6に示すように、SiO粉の一般的な平均粒径は13μm程度であり、一般的な最小粒径は1μmである。よって、本実施形態では、粒径1μm以上の粒子を99質量%以上除去できる、ナノメートルオーダーのメッシュサイズを有するガスフィルタを用いることが好ましい。このようなガスフィルタとしては、日本インテグリス株式会社製 ウェハーガード IISF インラインガスフィルター、日本精線株式会社 NAS Cleanプロセスガスライン用小流量フィルター等を挙げることができる。フィルタ58が流量調整バルブ60より上流に設けられることにより、SiO粉に起因する流量調整バルブ60の開閉不具合が回避され、また、SiO粉がガス分析装置62内に混入することも回避される。
【0046】
取り込みバルブ54は、サブ配管52のガス採取口46の近傍に設けられ、炉内ガスをサブ配管52へと吸引する際に開となる。本実施形態では、原料溶融工程および結晶育成工程中に常にCOガス濃度の測定及びCOガス発生レートのモニターを行うので、取り込みバルブ54は常に開となる。これにより、排気配管に吸引されたガスは、その一部がサブ配管52に取り込まれる。
【0047】
演算部66は、ガス分析装置62により測定したCOガス濃度に、チャンバ10内に供給する不活性ガスの流量を乗ずることにより、COガス発生レートを算出する。演算部66は、一般的な中央演算処理装置(CPU)やマイクロ処理ユニット(MPU)により構成することができる。なお、チャンバ10内に供給する不活性ガスの流量としては、ガス流量設定値を用いればよい。
【0048】
出力装置68は、演算部66により算出されたCOガス発生レートを出力する。出力装置68は、一般的なディスプレイ、プロジェクタ、プリンタ、スピーカー等により構成することができる。
【0049】
本実施形態では、上記の構成により、炉内ガスのCOガス濃度に代えて、炉内ガスのCOガス発生レートを、リアルタイムでモニターすることができる。このように、その場(in-situ)でCOガス発生レートをモニターすることで、COガスのシリコン融液への取り込み量、ひいては結晶中のカーボン濃度を適切に評価できる。
【0050】
[第2の実施形態]
図2を参照して、本実施形態では、ガス採取口48が、熱遮蔽体22とルツボ16との間の空間に位置するものである。すなわち、チャンバ10の上部からサンプリング管50を垂らして、その先端のガス採取口48を、熱遮蔽体22とルツボ16との間の空間に位置させる。サンプリング管50は、チャンバ10の外部でサブ配管52と連結する。取り込みバルブ56は、サブ配管52の上流側先端の近傍に設けられる。
【0051】
第1の実施形態では、排気配管52を介して炉内ガスを採取するのに対して、本実施形態は、熱遮蔽体22とルツボ16との間の空間から炉内ガスを採取するものである。サブ配管52に設置されたフィルタ58、流量調整バルブ60、ガス分析装置62、及びサブポンプ64、並びに演算部66及び出力装置68については、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、炉内ガスを石英ルツボの上縁から直接採取する。そのため、石英ルツボとカーボンルツボとの反応で生成するCOガスを直接採取することができる。その結果、COガス発生レートをより高精度にモニターすることができる。
【0053】
[第3の実施形態]
図3を参照して、本実施形態は、第1の実施形態の構成と第2の実施形態の構成とを組み合わせたものである。すなわち、炉内ガスの採取は、排気配管52を介して行い、かつ、熱遮蔽体22とルツボ16との間の空間からも行う。
【0054】
本実施形態では、サブ配管52は、第1サブ配管52B、第2サブ配管52C、及び第3サブ配管52Dからなる。第1サブ配管52Bは、排気配管40のメインバルブ44よりも上流の部位から分岐する。第2サブ配管52Cは、サンプリング管50の上端と連結し、チャンバの上部から延在する。第3サブ配管52Dは、第1サブ配管52Bと第2サブ配管52Cとが合流してなる。サンプリング管50及び取り込みバルブについては、第2の実施形態と同様である。サブ配管52Cに設置されたフィルタ58、流量調整バルブ60、ガス分析装置62、及びサブポンプ64、並びに演算部66及び出力装置68については、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
本実施形態では、取り込みバルブ54と取り込みバルブ56とを適当なタイミングで切り替えてCOガス濃度を測定することで、COガス発生の位置依存性を確認することができる。具体的には、各々の位置で測定したCO濃度の差分をとることで、石英ルツボと黒鉛ルツボとの反応で発生するCOガス濃度と、SiOガスと黒鉛との反応で発生するCOガス濃度とを切り分けられる。
【0056】
(単結晶シリコンインゴットの製造方法)
本発明の実施形態による単結晶シリコンインゴットの製造方法は、上記で説明したシリコン単結晶引上げ装置100,200,300を用いて好適に実施することができる。そこで、
図1〜3を参照しつつ、本発明の一実施形態による単結晶シリコンインゴットの製造方法を説明する。まず、ルツボ16内に多結晶シリコンナゲットなどのシリコン原料を充填し、メインバルブ44が開の状態でメインポンプ42を駆動してチャンバ10内を減圧下でArガス等の不活性ガス雰囲気に維持する。この時、ルツボ16は、シリコン原料が熱遮蔽体22に接触しないようにチャンバ10内の下方に位置する。その後、ルツボ16内のシリコン原料をヒータ24で加熱し溶融し、シリコン融液Mを形成する。その後、ルツボ16を引き上げ開始位置まで上昇させる。本明細書において「原料溶融工程」は、ヒータ24による加熱を開始した時点から、ルツボの上昇が完了した時点までの期間と定義する。原料溶融工程において、不活性ガスの流量は10〜400L/分とすることが好ましい。
【0057】
次いで、ワイヤ昇降機構32によって引上げワイヤ30を下降させて、種結晶Sをシリコン融液Mに着液する。その後、ルツボ16および引上げワイヤ30を所定の方向に回転させながら、引上げワイヤ30を上方に引き上げ、種結晶Sの下方にインゴットIを育成する。なお、インゴットIの育成が進行するにつれて、シリコン融液Mの量は減少するが、ルツボ16を上昇させて、融液面のレベルを維持する。本明細書において「結晶育成工程」は、引上げワイヤ30の下降を開始した時点から、インゴットIの育成(引上げワイヤ30の上昇)が完了した時点までの期間と定義する。
【0058】
結晶育成工程では、まず単結晶を無転位化するためダッシュ法によるシード絞り(ネッキング)を行い、ネック部I
nを形成する。次に、必要な直径のインゴットを得るためにショルダー部I
sを育成し、シリコン単結晶が所望の直径になったところで直径を一定にして直胴部I
bを育成する。直胴部I
bを所定の長さまで育成した後、無転位の状態で単結晶をシリコン融液Mから切り離すためにテール絞り(テール部の形成)を行なう。本明細書において、直胴部I
bの育成期間を「直胴工程」と称する。
【0059】
結晶育成工程において、不活性ガスの流量は50〜300L/分とすることが好ましい。なお、結晶育成工程において、不可性ガスの流量は、上記範囲内で経時的に増減(変動)させている。
【0060】
本実施形態では、原料溶融工程及び結晶育成工程において、以下の工程を行うことを特徴とする。まず、炉内ガスを採取する。この工程は、
図1〜3に示すように、ガス採取口46及びガス採取口48の一方又は両方から、炉内ガスをサブ配管52へと吸引することにより行う。
【0061】
次に、採取したガス中のCOガス濃度をガス分析装置62により間欠的に測定する。そして、演算部66が、測定したCOガス濃度に、チャンバ10内に供給する不活性ガスの流量を乗ずることにより、COガス発生レートを算出する。そして、出力装置68が、算出したCOガス発生レートを出力する。本実施形態では、炉内ガスのCOガス濃度に代えて、炉内ガスのCOガス発生レートを、リアルタイムでモニターすることができる。このように、その場(in-situ)でCOガス発生レートをモニターすることで、COガスのシリコン融液への取り込み量、ひいては結晶中のカーボン濃度を適切に評価できる。なお、既述のとおり、チャンバ10内に供給する不活性ガスの流量は、原料溶融工程と結晶育成工程とで異なり、また、結晶育成工程中においても変動するが、モニター時のガス流量設定値を用いればよい。
【0062】
本実施形態では、原料溶融工程におけるCOガス発生レートの最大値をA(mol/h)、結晶育成工程中の直胴工程におけるCOガス発生レートの最大値をB(mol/h)として、原料溶融工程及び結晶育成工程は、A/B≦10を満たす条件下で行うことが好ましい。A/B≦10を満たす条件下では、結晶固化率が0.75以下の全部位においてカーボン濃度(Cs)が2×10
15atoms/cm
3以下となる単結晶シリコンインゴットを製造することができる。すなわち、カーボン濃度が低い単結晶シリコンインゴットを高い歩留まりで製造することができる。なお、結晶固化率(%)は、引上げ中の結晶質量/原料の仕込み質量の百分率で定義される。なお、原料溶融工程のうち最初の10時間は、チャンバ内パーツからの脱ガスが原因でCOガス発生レートが安定しない。そこで、本明細書では、原料溶融工程のうち初期の10時間を除いた期間の最大値をAとして採用する。
【0063】
A/Bの値は、主に原料溶融工程におけるヒータ24の電力量を制御することにより調整することができる。一般的に、結晶育成工程においては、シリコン融液Mを維持するために必要なヒータ24の電力量は自ずと所定範囲の値に決定され、当該特定の電力量でヒータを駆動してシリコン融液Mを維持する。そのため、結晶育成工程におけるCOガス発生レートは、比較的低く、かつ安定している(大きな変動がない)。これに対して、原料溶融工程では、シリコン原料を溶融させるために大きな電力量でヒータ24を駆動する必要があり、COガス発生レートは、比較的高く、かつ安定しない(大きく変動する)。特に、原料溶融工程の終期(メルト完了時)に、COガス発生レートが大きくなる傾向がある。そこで、原料溶融工程におけるヒータ24の電力量を制御してCOガス発生レートの最大値Aを抑制することで、A/B≦10を実現することができる。ただし、AやBの値は、ヒータ24の電力量によって一義的に決まるものではなく、チャンバ10内の断熱性(すなわち、チャンバの構造、断熱体の量や配置)にも依存するものである。
【0064】
A/Bは1以上とすることが好ましい。A/Bを1未満にすると、シリコン融液が固化してしまい、結晶育成が成立しないおそれがあるからである。
【実施例】
【0065】
(実験例1)
図1に示す構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いて、表1に示す4水準で単結晶シリコンインゴットの製造を行った。各水準とも、シリコン原料のチャージ量は320kg、インゴットの直径は300mm、直胴長は1800mm、育成速度は1.0mm/分、原料溶融工程においてチャンバ内に供給するArガスの流量は100L/分とした。粒径1μm以上の粒子を99質量%以上除去できる、ナノメートルオーダーのメッシュサイズを有するガスフィルタを用いた。原料溶融工程及び結晶育成工程でのヒータ電力量は、表1に示す値とした。
【0066】
ガス分析装置としては四重極型質量分析装置を用いて、原料溶融工程及び結晶育成工程の全過程で、COガス発生レートをモニターした。原料溶融工程におけるCOガス発生レートの最大値A及び直胴工程におけるCOガス発生レートの最大値Bを、表1に示す。また、全水準を代表して、水準No.1でモニターしたCOガス発生レートの推移を、
図5に示す。
【0067】
各水準において、表1に示す「低カーボン結晶歩留まり」を以下の手順で求めた。まず、各水準で製造した単結晶シリコンインゴットの直胴部から切り出し、加工して多数枚のシリコンウェーハを製造した。各ウェーハの中心1点において、FT−IR装置を用いて、シリコンの結晶位置に置換されたカーボンの濃度(Cs濃度)を測定した。育成した結晶長を分母に、Cs≦2×10
15atoms/cm
3以下を満たす結晶長を分子にとって結晶歩留まりを求め、「低カーボン結晶歩留まり」とした。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から明らかなとおり、A/B≦10を満たす条件下で行った水準No.1〜4では、低カーボン結晶歩留まりが75%以上と高位であったのに対し、A/B=11の条件下で行った水準No.5では、低カーボン結晶歩留まりが25%と著しく低下した。
【0070】
(実験例2)
ガスフィルタの性能や有無に依存して、サブ配管(具体的には、流量調整バルブや、流量調整バルブとガス分析装置との間)が詰まらずにCOガス発生レートのモニターが連続して可能な時間を計測した。単結晶シリコンインゴットの製造条件は、フィルタ以外は実験例1と同様とした。
【0071】
水準1として、実験例1と同様に、粒径1μm以上の粒子を99質量%以上除去できる、ナノメートルオーダーのメッシュサイズを有するガスフィルタを用いた。この水準1では、連続して100時間以上、COガス発生レートのモニターが可能であった。
【0072】
水準2として、粒径10μm以上の粒子を99質量%以上除去できるメッシュサイズを有するガスフィルタを用いた。この水準2では、連続して70時間、COガス発生レートのモニターを行ったところでサブ配管が詰まり、モニター不可となった。
【0073】
水準3として、ガスフィルタを用いなかった。この水準2では、連続して20時間、COガス発生レートのモニターを行ったところでサブ配管が詰まり、モニター不可となった。