(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリイソプレンのラテックスに、カルボキシル基含有化合物と、重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤と、重量平均分子量が500以上であるアニオン性界面活性剤とを添加し、
前記重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤と、前記重量平均分子量が500以上であるアニオン性界面活性剤との存在下で、前記ポリイソプレンに前記カルボキシル基含有化合物を反応させる変性重合体ラテックスの製造方法であって、
前記重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤が、重量平均分子量が280〜450の範囲にあるアルキルベンゼンスルホン酸塩である変性重合体ラテックスの製造方法。
前記重量平均分子量が500以上であるアニオン性界面活性剤の添加量を、前記ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレン100重量部に対して0.01〜10重量部とする請求項1〜3のいずれかに記載の変性重合体ラテックスの製造方法。
前記重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤の添加量を、前記ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレン100重量部に対して0.01〜10重量部とする請求項1〜5のいずれかに記載の変性重合体ラテックスの製造方法。
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた変性重合体ラテックスを用いて形成される接着剤層を、基材表面に形成する工程を備える接着剤層形成基材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の変性重合体ラテックスの製造方法は、ポリイソプレンのラテックスに、カルボキシル基含有化合物と、重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤と、重量平均分子量が500以上であるアニオン性界面活性剤とを添加し、前記重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤と、前記重量平均分子量が500以上であるアニオン性界面活性剤との存在下で、前記ポリイソプレンに前記カルボキシル基含有化合物を反応させる。
【0012】
本発明の製造方法においては、ポリイソプレンのラテックスとして、合成ポリイソプレンのラテックス、または、蛋白質を除去した天然ゴムのラテックス、を用いることができる。
【0013】
合成ポリイソプレンのラテックス
まず、本発明の製造方法で用いる、合成ポリイソプレンのラテックスについて説明する。
合成ポリイソプレンのラテックスに含まれる合成ポリイソプレンは、イソプレンの単独重合体であってもよいし、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを共重合したものであってもよい。合成ポリイソプレン中のイソプレン単位の含有量は、柔軟で、引張強度に優れるディップ成形体が得られやすいことから、全単量体単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%(イソプレンの単独重合体)である。
【0014】
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、ブタジエン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル(「アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸メチル」の意味であり、以下、(メタ)アクリル酸エチルなども同様。)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;などが挙げられる。これらのイソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、1種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0015】
合成ポリイソプレンは、従来公知の方法、たとえばトリアルキルアルミニウム−四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、不活性重合溶媒中で、イソプレンと、必要に応じて用いられる共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを溶液重合して得ることができる。溶液重合により得られた合成ポリイソプレンの重合体溶液は、そのまま、合成ポリイソプレンのラテックスの製造に用いてもよいが、該重合体溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、有機溶媒に溶解して、合成ポリイソプレンのラテックスの製造に用いることもできる。
この際、合成した後に重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。また、市販の固形の合成ポリイソプレンを用いることもできる。
【0016】
合成ポリイソプレン中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2−ビニル結合単位、3,4−ビニル結合単位の4種類が存在する。得られるディップ成形体の引張強度向上の観点から、合成ポリイソプレンに含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、全イソプレン単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0017】
合成ポリイソプレンの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000〜5,000,000、より好ましくは500,000〜5,000,000、さらに好ましくは800,000〜3,000,000である。合成ポリイソプレンの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、ディップ成形体の引張強度が向上するとともに、合成ポリイソプレンのラテックスが製造しやすくなる傾向がある。
【0018】
また、合成ポリイソプレンのポリマー・ムーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは50〜80、より好ましくは60〜80、さらに好ましくは70〜80である。
【0019】
合成ポリイソプレンのラテックスを得るための方法としては、たとえば、(1)有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンのラテックスを製造する方法、(2)イソプレン単独または、イソプレンとそれと共重合可能なエチレン性不飽和単量体との混合物を、アニオン性界面活性剤の存在下に、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接、合成ポリイソプレンのラテックスを製造する方法、が挙げられるが、イソプレン単位中のシス結合単位の割合が高い合成ポリイソプレンを用いることができ、引張強度等の機械的特性に優れるディップ成形体が得られやすい点から、上記(1)の製造方法が好ましい。
【0020】
上記(1)の製造方法で用いる有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンが特に好ましい。
【0021】
なお、有機溶媒の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは20〜1,500重量部、更に好ましくは500〜1500である。
【0022】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤としては、たとえば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
【0023】
これらアニオン性界面活性剤の中でも、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩が特に好ましい。
【0024】
また、合成ポリイソプレン由来の、微量に残留する重合触媒(特に、アルミニウムとチタニウム)をより効率的に除去でき、ラテックス組成物を製造する際における、凝集物の発生が抑制されることから、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることが好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩と、脂肪酸塩とを併用して用いることが特に好ましい。ここで、脂肪酸塩としては、ロジン酸ナトリウムおよびロジン酸カリウムが好ましく、また、アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸カリウムが好ましい。また、これらの界面活性剤は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0025】
なお、上述したように、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることにより、得られるラテックスが、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを含有するものとなる。
【0026】
また、上記(1)の製造方法においては、アニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を併用してもよく、このようなアニオン性界面活性剤以外の界面活性剤としては、α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性の界面活性剤が挙げられる。
【0027】
さらに、ディップ成形する際に使用する凝固剤による凝固を阻害しない範囲であれば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤も併用してもよい。
【0028】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜30重量部である。なお、2種類以上の界面活性剤を用いる場合においては、これらの合計の使用量を上記範囲とすることが好ましい。すなわち、たとえば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用量の合計を上記範囲とすることが好ましい。アニオン性界面活性剤の使用量が少なすぎると、乳化時に凝集物が多量に発生するおそれがあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、得られるディップ成形体にピンホールが発生する可能性がある。
【0029】
また、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用割合を、「脂肪酸塩」:「アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の合計」の重量比で、1:1〜10:1の範囲とすることが好ましく、1:1〜7:1の範囲とすることがより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の使用割合が多すぎると、合成ポリイソプレンの取り扱い時に泡立ちが激しくなるおそれがあり、これにより、長時間の静置や、消泡剤の添加などの操作が必要になり、作業性の悪化およびコストアップに繋がるおそれがある。
【0030】
上記(1)の製造方法で使用する水の量は、合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液100重量部に対して、好ましくは10〜1,000重量部、より好ましくは30〜500重量部、最も好ましくは50〜100である。使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げられ、軟水、イオン交換水および蒸留水が好ましい。
【0031】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0032】
有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、一般に乳化機または分散機として市販されているものであれば特に限定されず使用できる。合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液に、アニオン性界面活性剤を添加する方法としては、特に限定されず、予め、水もしくは合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液のいずれか、あるいは両方に添加してもよいし、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0033】
乳化装置としては、たとえば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化機;商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、商品名「APVガウリン」(ガウリン社製)等の高圧乳化機;商品名「膜乳化機」(冷化工業社製)等の膜乳化機;商品名「バイブロミキサー」(冷化工業社製)等の振動式乳化機;商品名「超音波ホモジナイザー」(ブランソン社製)等の超音波乳化機;等が挙げられる。なお、乳化装置による乳化操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定すればよい。
【0034】
上記(1)の製造方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去することが望ましい。
乳化物から有機溶媒を除去する方法としては、得られる合成ポリイソプレンのラテックス中における、有機溶媒(好ましくは脂環族炭化水素溶媒)の含有量を500重量ppm以下とすることのできる方法が好ましく、たとえば、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0035】
また、有機溶媒を除去した後、必要に応じ、合成ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよく、特に、合成ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を上げるとともに、合成ポリイソプレンのラテックス中の界面活性剤の残留量を低減することができるという観点より、遠心分離を行うことが好ましい。
【0036】
遠心分離は、たとえば、連続遠心分離機を用いて、遠心力を、好ましくは100〜10,000G、遠心分離前の合成ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を、好ましくは2〜15重量%、遠心分離機に送り込む流速を、好ましくは500〜1700Kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)を、好ましくは0.03〜1.6MPaの条件にて実施することが好ましく、遠心分離後の軽液として、合成ポリイソプレンのラテックスを得ることができる。そして、これにより、合成ポリイソプレンのラテックス中における、界面活性剤の残留量を低減することができる。
【0037】
合成ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%である。固形分濃度が低すぎると、後述するラテックス組成物の固形分濃度が低くなるために、後述するディップ成形体の膜厚が薄くなり破れ易くなる。逆に固形分濃度が高すぎると、合成ポリイソプレンのラテックスの粘度が高くなり、配管での移送や調合タンク内での撹拌が困難になる場合がある。
【0038】
合成ポリイソプレンのラテックスの体積平均粒子径は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.5〜3μm、さらに好ましくは0.5〜2.0μmである。この体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、ラテックス粘度が適度なものとなり取り扱いやすくなるとともに、合成ポリイソプレンのラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することを抑制できる。
【0039】
また、合成ポリイソプレンのラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
pH調整剤としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法においては、ポリイソプレンのラテックスとして、上述した合成ポリイソプレンのラテックス以外に、蛋白質を除去した天然ゴムのラテックスを用いることもできる。蛋白質を除去した天然ゴムのラテックスとしては、天然ゴムラテックス中の蛋白質を、例えば蛋白質分解酵素や界面活性剤などにより分解し、洗浄や遠心分離などにより除去する方法などの、公知の蛋白質除去法により得られる、いわゆる「脱蛋白質天然ゴムラテックス」として知られているものを用いることができる。
また、蛋白質を除去した天然ゴムのラテックスとしては、上述した合成ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度と同範囲の固形分濃度に調整したものを用いるのが好ましく、同様の添加剤を添加して調製したものを用いてもよい。
【0041】
変性重合体ラテックスの製造方法
本発明の変性重合体ラテックスの製造方法は、上述したポリイソプレンのラテックスに、カルボキシル基含有化合物と、重量平均分子量が500未満であるアニオン性界面活性剤(以下、「低分子量界面活性剤」と称することがある。)と、重量平均分子量が500以上であるアニオン性界面活性剤(以下、「高分子量界面活性剤」と称することがある。)とを添加し、これらの低分子量界面活性剤および高分子量界面活性剤の存在下で、ラテックスに含まれるポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる工程を備える。
【0042】
本発明によれば、ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる際において、低分子量界面活性剤および高分子量界面活性剤の存在下で反応させることによって、ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を高くした状態でも、凝集物(コアギュラム)の発生を抑制することができ、これにより、固形分濃度が高く、しかも、凝集物の発生が抑制された変性重合体ラテックスを製造することが可能となる。そのため、本発明によれば、固形分濃度を高くできることにより、ポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる際における反応効率を向上させることができるとともに、単位時間当たりの変性重合体ラテックスの製造量(製造効率)を向上させることができ、しかも、得られた変性重合体ラテックスについて濃縮により固形分濃度をさらに上げる操作を行う場合に、濃縮により発生する廃棄溶液の量を低減することができ、環境への負荷を少なくすることができる。
【0043】
本発明で用いる低分子量界面活性剤の重量平均分子量は、500未満であればよいが、好ましくは50〜450、より好ましくは200〜400、さらに好ましくは280〜360である。
【0044】
具体的には、低分子量界面活性剤としては、重量平均分子量が500未満のものであればよく、特に限定されないが、たとえば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
【0045】
これらの低分子量界面活性剤の中でも、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムがさらに好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。これらの低分子量界面活性剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
低分子量界面活性剤の添加量は、特に限定されないが、ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を高くした場合においても、凝集物の発生をより有効に抑制することができるという観点より、ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.01〜10.0重量部、より好ましくは0.1〜5.0重量部である。
【0047】
低分子量界面活性剤をポリイソプレンのラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。また、低分子量界面活性剤は、直接、ポリイソプレンのラテックスに添加してもよいし、予め低分子量界面活性剤の水溶液を調製し、調製した低分子量界面活性剤の水溶液をポリイソプレンのラテックスに添加してもよい。
【0048】
また、本発明で用いる高分子量界面活性剤の重量平均分子量は、500以上であればよいが、好ましくは500〜100,000、より好ましくは3,000〜50,000、さらに好ましくは5,000〜30,000である。
【0049】
具体的には、高分子量界面活性剤としては、重量平均分子量が500以上であり、芳香族スルホン酸の誘導体であればよく、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または任意の有機基であり、R
1およびR
2は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【0050】
上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または任意の有機基であり、R
1およびR
2は互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0051】
R
1およびR
2が互いに結合しない場合に、R
1およびR
2となりうる有機基としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などの炭素数1〜30のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの炭素数3〜30のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラニル基などの炭素数6〜30のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、フェノキシ基などの炭素数1〜30のアルコキシ基;などが挙げられる。なお、これらの有機基は、置換基を有していてもよく、該置換基の位置としては、任意の位置とすることができる。
【0052】
また、R
1およびR
2が互いに結合して環構造を形成する場合には、環構造としては、特に限定されないが、芳香族化合物が好ましく、ベンゼン、ナフタレンなどのベンゼン環を有する芳香族化合物がより好ましく、ナフタレンが特に好ましい。なお、これらの環構造は、置換基を有していてもよく、該置換基の位置としては、任意の位置とすることができる。
【0053】
本発明においては、高分子量界面活性剤としては、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、特に好ましいものとして、R
1およびR
2が互いに結合して環構造を形成して、上記一般式(1)においてベンゼン環構造を形成しているものが挙げられる。より具体的には、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を用いることが好ましい。
【化2】
(上記一般式(2)中、R
3は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基である。)
【0054】
上記一般式(2)において、R
3は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であればよく、特に限定されないが、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0055】
また、高分子量界面活性剤としては、上記一般式(2)で表される構造を繰り返して有することが好ましく、上記一般式(2)で表される構造の繰り返し単位数は、特に限定されないが、好ましくは10〜100個、より好ましくは20〜50個である。
【0056】
高分子量界面活性剤の添加量は、特に限定されないが、ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を高くした場合においても、凝集物の発生をより有効に抑制することがでるという観点より、ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0057】
高分子量界面活性剤をポリイソプレンのラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。また、高分子量界面活性剤は、直接、ポリイソプレンのラテックスに添加してもよいし、予め高分子量界面活性剤の水溶液を調製し、調製した高分子量界面活性剤の水溶液をポリイソプレンのラテックスに添加してもよい。
【0058】
本発明で用いるカルボキシル基含有化合物としては、ポリイソプレンと反応可能な化合物であればよく、特に限定されないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル;などが挙げられる。これらのなかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもできる。また、カルボキシル基含有化合物は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0059】
カルボキシル基含有化合物の添加量は、得られる変性重合体ラテックスの粘度を適度なものとすることができるとともに、得られるディップ成形体の引張強度が向上するという観点より、ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.01〜100重量部、より好ましくは0.01〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜20重量部である。
【0060】
カルボキシル基含有化合物をポリイソプレンのラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。また、カルボキシル基含有化合物は、直接、ポリイソプレンのラテックスに添加してもよいし、予めカルボキシル基含有化合物の溶液または分散液を調製し、調製したカルボキシル基含有化合物の溶液または分散液をポリイソプレンのラテックスに添加してもよい。
【0061】
ラテックスに含まれるポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる方法としては、特に限定されず、ポリイソプレンをカルボキシル基含有化合物で変性する反応、ポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物をグラフト重合させる反応などにおける従来公知の方法を用いればよいが、たとえば、ポリイソプレンのラテックスに、カルボキシル基含有化合物と、低分子量界面活性剤と、高分子量界面活性剤とを添加するとともに、有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を添加した後、ポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる方法が好ましい。
【0062】
有機過酸化物としては、特に限定されないが、たとえば、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられるが、得られるディップ成形体の機械的強度向上の観点から、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。これらの有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
有機過酸化物の添加量は、特に限定されないが、ポリイソプレンのラテックスに含まれるポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0064】
還元剤としては、特に限定されないが、たとえば、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
還元剤の添加量は、特に限定されないが、有機過酸化物1重量部に対して0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0066】
有機過酸化物および還元剤の添加方法は、特に限定されず、それぞれ、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を用いることができる。
【0067】
ポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる際の反応温度としては、特に限定されないが、好ましくは5〜70℃、より好ましくは10〜70℃である。ポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる際の反応時間としては、特に限定されないが、好ましくは5〜600分間、より好ましくは10〜180分間である。
【0068】
ポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させる際における、ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度は、特に限定されないが、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%である。本発明によれば、ポリイソプレンに対するカルボキシル基含有化合物の反応を、上記の低分子量界面活性剤および高分子量界面活性剤の存在下で行うことによって、上述したように、ポリイソプレンのラテックスの固形分濃度を高くした場合においても、凝集物の発生を抑制することができ、これにより、固形分濃度が高い変性重合体ラテックスを製造することが可能となる。
【0069】
本発明の変性重合体ラテックスにおいては、変性重合体ラテックスを構成する変性重合体の変性率(すなわち、カルボキシル基含有化合物によるポリイソプレンの変性率)は、変性重合体ラテックスの使用目的に応じて適宜制御すればよいが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上である。なお、変性率は、下記式(i)で表される。
変性率(モル%)=(X/Y)×100 ・・・(i)
なお、上記式(i)においては、Xは、変性重合体中におけるカルボキシル基含有化合物による変性基(=カルボキシル基)の全モル数を、Yは、変性反応に用いたカルボキシル基含有化合物(=反応に際し仕込んだモノマー)の合計モル数をそれぞれ表す。Xは、変性重合体を
1H−NMRで測定することにより求めることができる。また、Yは、反応に際し仕込んだカルボキシ化合物の総重量に基づいて求めることができる。
【0070】
本発明の変性重合体ラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0071】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0072】
また、上述したようにして変性重合体ラテックスを得た後、必要に応じ、変性重合体ラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよいが、変性重合体ラテックス中のアニオン性界面活性剤の残留量を調整することができるという観点より、遠心分離を行うことが好ましい。
【0073】
変性重合体ラテックスを遠心分離機にかける場合、変性重合体ラテックスの機械的安定性の向上のため、予めpH調整剤を添加してラテックスのpHを7以上としておくことが好ましく、pHを9以上としておくことがより好ましい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
なお、ラテックスのpHを調整した際に、変性重合体中のカルボキシル基は、塩の状態になっていてもよい。
【0074】
遠心分離は、たとえば、連続遠心分離機を用いて、遠心力を、好ましくは4,000〜5,000G、遠心分離機に送り込む流速を、好ましくは500〜2000Kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)を、好ましくは0.03〜1.6MPaの条件にて実施することが好ましい。
【0075】
本発明の変性重合体ラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、変性重合体ラテックスを貯蔵した際に重合体粒子が分離してしまうことを抑制することができ、また、変性重合体の粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生してしまうことも抑制することができる。
【0076】
本発明の変性重合体ラテックスの体積平均粒子径は、0.5〜10μm、好ましくは0.5〜3μm、より好ましくは0.5〜2μmである。この体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、変性重合体ラテックスの粘度がより適度なものとなりポンプで移送する際などに取り扱いやすくなるとともに、変性重合体ラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することをより有効に抑制できる。
【0077】
本発明の変性重合体ラテックスを構成する変性重合体中のカルボキシル基(塩になっているものも含む)の量は、電導度滴定により求められる重合体1g当りの表面酸量(meq/g)で示され、好ましくは0.05〜2.0meq/g、より好ましくは0.05〜1.5meq/g、特に好ましくは0.05〜1.0meq/gである。表面酸量を上記範囲とすることにより、変性重合体ラテックスの粘度がより適度なものとなりポンプで移送する際などに取り扱いやすくなるとともに、得られるディップ成形体の引張強度をより向上させることができる。
なお、上記電導度滴定による表面酸量(meq/g)の測定は、特開2002−53602号に記載された「表面および水相の酸量測定」と同様の方法で測定すれば良い。
【0078】
また、変性重合体ラテックスを構成する変性重合体中におけるカルボキシル基含有化合物に由来の単量体単位の含有割合は、変性重合体を構成する全単量体単位に対して、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.5〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは1〜15重量%である。変性重合体中におけるカルボキシル基含有化合物に由来の単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、変性重合体ラテックスの機械的安定性がより向上し、しかも、得られるディップ成形体の引張強度および引裂強度をより向上させることができるとともに、ディップ成形体を手袋等に用いた際に硬くなりすぎてしまうことをより有効に抑制することができる。
【0079】
ラテックス組成物
本発明のラテックス組成物は、上述した本発明の変性重合体ラテックスに、架橋剤を添加してなるものである。
【0080】
架橋剤としては、たとえば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン・ジスルフィド、アルキルフェノール・ジスルフィド、カプロラクタム・ジスルフィド(N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノン−2))、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。これらのなかでも、硫黄が好ましく使用できる。架橋剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
架橋剤の含有量は、特に限定されないが、変性重合体ラテックスを構成する変性重合体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜3重量部である。架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体の引張強度をより高めることができる。
【0082】
また、本発明のラテックス組成物は、さらに架橋促進剤を含有することが好ましい。
架橋促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられるが、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、2ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。架橋促進剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
架橋促進剤の含有量は、変性重合体ラテックスを構成する変性重合体100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、より好ましくは0.1〜2重量部である。架橋促進剤の含有量を上記範囲とすることにより、得られるディップ成形体の引張強度をより高めることができる。
【0084】
また、本発明のラテックス組成物は、さらに酸化亜鉛を含有することが好ましい。
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されないが、変性重合体ラテックスを構成する変性重合体100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜2重量部である。酸化亜鉛の含有量を上記範囲とすることにより、乳化安定性を良好なものとしながら、得られるディップ成形体の引張強度をより高めることができる。
【0085】
本発明のラテックス組成物には、さらに、老化防止剤、分散剤;カーボンブラック、シリカ、タルク等の補強剤;炭酸カルシウム、クレー等の充填剤;紫外線吸収剤;可塑剤;等の配合剤を必要に応じて配合することができる。
【0086】
本発明のラテックス組成物の調製方法は、特に限定されないが、たとえば、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の分散機を用いて、変性重合体ラテックスに、架橋剤、および必要に応じて配合される各種配合剤を混合する方法や、上記の分散機を用いて、変性重合体ラテックス以外の配合成分の水性分散液を調製した後、該水性分散液を変性重合体ラテックスに混合する方法などが挙げられる。
【0087】
本発明のラテックス組成物は、pHが7以上であることが好ましく、pHが7〜13の範囲であることがより好ましく、pHが8〜12の範囲であることがさらに好ましい。また、ラテックス組成物の固形分濃度は、15〜65重量%の範囲にあることが好ましい。
【0088】
本発明のラテックス組成物は、得られるディップ成形体の機械的特性をより高めるという観点より、ディップ成形に供する前に、熟成(前架橋)させることが好ましい。前架橋する時間は、特に限定されず、前架橋の温度にも依存するが、好ましくは1〜14日間であり、より好ましくは1〜7日間である。なお、前架橋の温度は、好ましくは20〜40℃である。
そして、前架橋した後、ディップ成形に供されるまで、好ましくは10〜30℃の温度で貯蔵することが好ましい。高温のまま貯蔵すると、得られるディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。
【0089】
ディップ成形体
本発明のディップ成形体は、本発明のラテックス組成物をディップ成形して得られる。ディップ成形は、ラテックス組成物に型を浸漬し、型の表面に当該組成物を沈着させ、次に型を当該組成物から引き上げ、その後、型の表面に沈着した当該組成物を乾燥させる方法である。なお、ラテックス組成物に浸漬される前の型は予熱しておいてもよい。また、型をラテックス組成物に浸漬する前、または、型をラテックス組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。
【0090】
凝固剤の使用方法の具体例としては、ラテックス組成物に浸漬する前の型を凝固剤の溶液に浸漬して型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ラテックス組成物を沈着させた型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ないディップ成形体が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0091】
凝固剤の具体例としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;などの水溶性多価金属塩である。なかでも、カルシウム塩が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。これらの水溶性多価金属塩は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0092】
凝固剤は、好ましくは水溶液の状態で使用する。この水溶液は、さらにメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒やノニオン性界面活性剤を含有していてもよい。凝固剤の濃度は、水溶性多価金属塩の種類によっても異なるが、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0093】
型をラテックス組成物から引き上げた後、通常、加熱して型上に形成された沈着物を乾燥させる。乾燥条件は適宜選択すればよい。
【0094】
次いで、加熱して、型上に形成された沈着物を架橋させる。
架橋時の加熱条件は、特に限定されないが、好ましくは60〜150℃、より好ましくは100〜130℃の加熱温度で、好ましくは10〜120分の加熱時間である。
加熱の方法は、特に限定されないが、オーブンの中で温風で加熱する方法、赤外線を照射して加熱する方法などがある。
【0095】
また、ラテックス組成物を沈着させた型を加熱する前あるいは加熱した後に、水溶性不純物(たとえば、余剰の界面活性剤や凝固剤)を除去するために、型を水または温水で洗浄することが好ましい。用いる温水としては好ましくは40℃〜80℃であり、より好ましくは50℃〜70℃である。
【0096】
架橋後のディップ成形体は、型から脱着される。脱着方法の具体例は、手で型から剥がす方法、水圧または圧縮空気圧力により剥がす方法等が挙げられる。架橋途中のディップ成形体が脱着に対する十分な強度を有していれば、架橋途中で脱着し、引き続き、その後の架橋を継続してもよい。
【0097】
本発明のディップ成形体は、上記本発明の製造方法により得られる変性重合体ラテックスを用いて得られるものであるため、単位時間当たりの製造量(製造効率)を向上させることができ、しかも、変性重合体ラテックスを濃縮する際の廃棄溶液の量を低減することができることから、環境への負荷を少なくすることができる。本発明のディップ成形体は、たとえば、手袋として特に好適に用いることができる。ディップ成形体が手袋である場合、ディップ成形体同士の接触面における密着を防止し、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウムなどの無機微粒子または澱粉粒子などの有機微粒子を手袋表面に散布したり、微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
【0098】
また、本発明のディップ成形体は、上記手袋の他にも、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;指サックなどにも用いることができる。
【0099】
接着剤層形成基材
本発明の接着剤層形成基材は、本発明の変性重合体ラテックスまたは接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を、基材表面に形成して得られる。
【0100】
基材としては、特に限定されないが、たとえば繊維基材を用いることができる。繊維基材を構成する繊維の種類は、特に限定されず、たとえば、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)等のポリアミド繊維、ガラス繊維、綿、レーヨン等が挙げられる。これらは、その用途に応じて、適宜選定することができる。繊維基材の形状は特に限定されず、たとえば、ステープル、フィラメント、コード状、ロープ状、織布(帆布等)等を挙げることができ、その用途に応じて適宜選定することができる。たとえば、接着剤層形成基材は、接着剤層を介して、ゴムと接着することにより、基材−ゴム複合体として用いることができる。基材−ゴム複合体としては、特に限定されないが、たとえば、繊維基材としてコード状のものを用いた芯線入りのゴム製歯付きベルト、帆布等の基布状の繊維基材を用いたゴム製歯付きベルト等が挙げられる。
【0101】
基材−ゴム複合体を得る方法としては、特に限定されないが、たとえば、浸漬処理等により接着剤組成物を基材に付着させて接着剤層形成基材を得て、接着剤層形成基材をゴム上に載置し、これを加熱および加圧する方法が挙げられる。加圧は、圧縮(プレス)成形機、金属ロール、射出成形機等を用いて行なうことができる。加圧の圧力は、好ましくは0.5〜20MPa、より好ましくは2〜10MPaである。加熱の温度は、好ましくは130〜300℃、より好ましくは150〜250℃である。加熱および加圧の処理時間は、好ましくは1〜180分、より好ましくは5〜120分である。加熱および加圧する方法により、ゴムの成形、および接着剤層形成基材とゴムとの接着を、同時に行なうことができるようになる。なお、加圧に用いる圧縮機の型の内面やロールの表面には、目的とする基材−ゴム複合体のゴムに所望の表面形状を付与するための型を形成させておくことが好ましい。
【0102】
また、基材−ゴム複合体の一態様として、基材−ゴム−基材複合体を挙げることができる。基材−ゴム−基材複合体は、たとえば、基材(2種以上の基材の複合体であってもよい。)と基材−ゴム複合体とを組み合わせて形成することができる。具体的には、基材としての芯線、ゴムおよび基材としての基布を重ね(このとき、芯線および基布には、接着剤組成物を適宜付着させて接着剤層形成基材としておく)、加熱しながら加圧することにより、基材−ゴム−基材複合体を得ることができる。
【0103】
本発明の接着剤層形成基材を用いて得られる基材−ゴム複合体は、機械的強度、耐摩耗性および耐水性に優れたものであり、そのため、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、丸ベルト、角ベルト、歯付ベルト等のベルトとして好適に用いることができる。また、本発明の接着剤層形成基材を用いて得られる基材−ゴム複合体は、耐油性に優れ、油中ベルトとして好適に用いることができる。さらに、本発明の接着剤層形成基材を用いて得られる基材−ゴム複合体は、ホース、チューブ、ダイアフラム等にも好適に使用できる。ホースとしては、単管ゴムホース、多層ゴムホース、編上式補強ホース、布巻式補強ホース等が挙げられる。ダイアフラムとしては、平形ダイアフラム、転動形ダイアフラム等が挙げられる。
【0104】
本発明の接着剤層形成基材を用いて得られる基材−ゴム複合体は、上記の用途以外にも、シール、ゴムロール等の工業用製品として用いることができる。シールとしては、回転用、揺動用、往復動等の運動部位シールと固定部位シールが挙げられる。運動部位シールとしては、オイルシール、ピストンシール、メカニカルシール、ブーツ、ダストカバー、ダイアフラム、アキュムレータ等が挙げられる。固定部位シールとしては、Oリング、各種ガスケット等が挙げられる。ゴムロールとしては、印刷機器、コピー機器等のOA機器の部品であるロール;紡糸用延伸ロール、紡績用ドラフトロール等の繊維加工用ロール;ブライドルロール、スナバロール、ステアリングロール等の製鉄用ロール;等が挙げられる。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。なお、以下の「%」および「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。なお、各種の物性は以下のように測定された。
【0106】
重量平均分子量(Mw)
試料を固形分濃度が0.1重量%となるように、テトラヒドロフランで希釈し、この溶液について、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析を行い、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0107】
固形分濃度
アルミ皿(重量:X1)に試料2gを精秤し(重量:X2)、これを105℃の熱風乾燥器内で2時間乾燥させた。次いで、デシケーター内で冷却した後、アルミ皿ごと重量を測定し(重量:X3)、下記の計算式にしたがって、固形分濃度を算出した。
固形分濃度(重量%)=(X3−X1)×100/X2
【0108】
アニオン性界面活性剤の含有量
合成ポリイソプレンのラテックスを0.15g精秤して超純水2mlに添加した後、アセトニトリルを添加することで、溶液を10mlに調整した。次いで、上澄み液を、孔径0.2μmのディスクフィルターでろ過した後、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記の条件で測定した。
カラム:商品名「ZORBOX XDB−C18 1.8μ」(アジレント・テクノロジー社製)
カラム温度:40℃
流速:0.75 ml/min.
検出器:DAD(ダイオードアレイ検出器)
注入量:2μL
【0109】
残留金属量
変性重合体ラテックス中の残留金属量(アルミニウム原子とチタン原子の合計含有量)は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)(商品名「SPS−5100」、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、下記のようにして測定を行った。
変性重合体ラテックス0.15gを白金るつぼに秤量した。これを加熱して水分を蒸発させた後、硫酸0.2mlを添加して煙が出なくなるまで加熱した。これを550℃の電気炉に2時間入れて灰化させた後、硫酸0.5mlと超純水5mlを添加してさらに加熱して溶解させた。これに硝酸0.2mlを添加した後、超純水で全量20mlとなるように希釈し、これを測定用サンプルとした。
【0110】
変性率
変性重合体ラテックスを構成する変性重合体を
1H−NMRで測定することにより、変性重合体中におけるカルボキシル基含有化合物による変性基(=カルボキシル基)の全モル数を求めた。次いで、求めた変性基の全モル数に基づいて、下記式(i)にしたがって、カルボキシル基含有化合物による変性率を求めた。
変性率(モル%)=(X/Y)×100 ・・・(i)
なお、上記式(i)においては、Xは、変性重合体中におけるカルボキシル基含有化合物による変性基(=カルボキシル基)の全モル数を、Yは、変性反応に用いたカルボキシル基含有化合物(=反応に際し仕込んだモノマー)の合計モル数をそれぞれ表す。
【0111】
凝集物含有割合
上記した方法に従って、変性重合体ラテックスの固形分濃度を測定し、その変性重合体ラテックス100gを精秤した後、重量既知の200メッシュのSUS製金網でろ過し、金網上の凝集物を数回水洗して、変性重合体ラテックスを除去した。これを、105℃で2時間以上乾燥させた後、その乾燥重量を測定し、下記式に基づいて凝集物含有割合(単位:重量%)を求めた。
凝集物含有割合(重量%)={(α−β)/(γ×Δ)}×10,000
ここで、αは乾燥後の金網及び乾燥凝集物の重量、βは金網の重量、γは変性重合体ラテックスの重量、Δは変性重合体ラテックスの全固形分の重量をそれぞれ示す。
【0112】
反応容器への凝集物付着
攪拌機付き反応容器内で変性重合体ラテックスの製造を行った後、反応容器内を目視にて観察し、反応容器および攪拌機への凝集物の付着量を、以下の基準で評価した。
1:反応容器および攪拌機のいずれにも、凝集物付着が観察されなかった。
2:反応容器および攪拌機の双方に凝集物付着が観察されたが、付着量はわずかであった。
3:反応容器および攪拌機の双方に凝集物付着が観察された。
4:反応容器および攪拌機の双方に多量の凝集物付着が観察された。
【0113】
実施例1
合成ポリイソプレンのラテックスの製造
重量平均分子量が1,300,000である合成ポリイソプレン(商品名「NIPOL IR2200L」、日本ゼオン社製、イソプレンの単独重合体、シス結合単位量98%)をシクロヘキサンと混合し、攪拌しながら温度を60℃に昇温して溶解し、B形粘度計で測定した粘度が12,000mPa・sのポリイソプレンのシクロヘキサン溶液(a)を調整した(固形分濃度8重量%)。
【0114】
一方、ロジン酸ナトリウム20部を水に添加し、温度を60℃に昇温して溶解し、濃度1.5重量%のアニオン性界面活性剤水溶液(b)を調整した。
【0115】
次に、上記シクロヘキサン溶液(a)と、上記アニオン性界面活性剤水溶液(b)とを、重量比で1:1.5となるように、ミキサー(商品名「マルチラインミキサーMS26−MMR−5.5L」、佐竹化学機械工業社製)を用いて混合し、続いて、乳化装置(商品名「マイルダーMDN310」、太平洋機工社製)を用いて、回転数4100rpmで混合及び乳化して、乳化液(c)を得た。なお、その際、シクロヘキサン溶液(a)とアニオン性界面活性剤水溶液(b)の合計のフィード流速は2,000kg/hr、温度は60℃、背圧(ゲージ圧)は0.5MPaとした。
【0116】
次いで、乳化液(c)を、−0.01〜−0.09MPa(ゲージ圧)の減圧下で80℃に加温し、シクロヘキサンを留去し、合成ポリイソプレンの水分散液(d)を得た。その際、消泡剤(商品名「SM5515」、東レ・ダウコーニング社製)を、乳化液(c)中の合成ポリイソプレンに対して300重量ppmの量になるよう、噴霧しながら連続添加した。なお、シクロヘキサンを留去する際には、乳化液(c)がタンクの容積の70体積%以下になるように調整し、かつ、攪拌翼として3段の傾斜パドル翼を用い、60rpmでゆっくり攪拌を実施した。
【0117】
そして、シクロヘキサンの留去が完了した後、得られた合成ポリイソプレンの水分散液(d)を、連続遠心分離機(商品名「SRG510」、アルファラバル社製)を用いて、4,000〜5,000Gで遠心分離し、軽液としての固形分濃度56重量%の合成ポリイソプレンのラテックス(e)を得た。なお、遠心分離の条件は、遠心分離前の水分散液(d)の固形分濃度10重量%、連続遠心分離時の流速は1300kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)は1.5MPaとした。
【0118】
得られた合成ポリイソプレンのラテックス(e)は、固形分濃度が56重量%、体積平均粒子径が1.0μm、pHが10、B形粘度計で測定した粘度が120mPa・s、アニオン性界面活性剤の合計含有量が合成ポリイソプレン100部あたり3.0部であった。また、合成ポリイソプレンのラテックス(e)中の凝集物は観察されず、ラテックス(e)中の残留金属量(アルミニウム原子とチタン原子の合計含有量)は、250重量ppmであった。
【0119】
変性重合体ラテックスの製造
上述したようにして得られた合成ポリイソプレンのラテックス(e)を、合成ポリイソプレン100部に対して130部の蒸留水により希釈した。次いで、合成ポリイソプレンのラテックス(e)に、合成ポリイソプレン100部に対して、低分子量界面活性剤(A−1)としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:348)1.0部を添加し、さらに、高分子量界面活性剤(B−1)としてのβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールT−45」、重量平均分子量:7,000、花王社製)1.1部を合成ポリイソプレン100部に対し4部の蒸留水で希釈したものを5分間かけて添加した。次いで、これらの低分子量界面活性剤(A−1)および高分子量界面活性剤(B−1)を添加した合成ポリイソプレンのラテックス(e)を、窒素置換された攪拌機付き反応容器に仕込み、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。また、別の容器を用い、カルボキシル基含有化合物としてのメタクリル酸5部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調整した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した反応容器内に、30分間かけて添加した。
【0120】
さらに、別の容器を用い、蒸留水7部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.32部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.01部からなる溶液(f)を調整した。この溶液(f)を反応容器内に移した後、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)0.5部を添加して30℃で1時間反応させることで、変性重合体ラテックスを得た。なお、反応後の変性重合体ラテックスの固形分濃度は40重量%であった。そして、得られた変性重合体ラテックスについて、上記方法にしたがって、変性率、凝集物含有割合、および反応容器への凝集物付着の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
実施例2
高分子量界面活性剤(B−1)に代えて、高分子量界面活性剤(B−2)としての特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤(商品名「デモールP」、重量平均分子量:12,000、花王社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして変性重合体ラテックスの製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
実施例3
高分子量界面活性剤(B−1)に代えて、高分子量界面活性剤(B−3)としてのβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」、重量平均分子量:2,500、花王社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして変性重合体ラテックスの製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
実施例4
高分子量界面活性剤(B−1)に代えて、高分子量界面活性剤(B−4)としてのアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(商品名「ペレックスSS−H」、重量平均分子量:529、花王社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして変性重合体ラテックスの製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
実施例5
メタクリル酸希釈液として、メタクリル酸5部と蒸留水16部とを混合したものに代えて、メタクリル酸3部と蒸留水16部とを混合したものを用いた以外は、実施例1と同様にして変性重合体ラテックスの製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
比較例1
まず、実施例1と同様に、合成ポリイソプレンのラテックス(e)を調製した。次いで、合成ポリイソプレンのラテックス(e)に、合成ポリイソプレン100部に対して、低分子量界面活性剤(A−1)としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を添加し、さらに蒸留水130部を添加して希釈した。そして、この低分子量界面活性剤(A−1)を添加した合成ポリイソプレンのラテックス(e)を、窒素置換された攪拌機付き反応容器に仕込み、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。また、別の容器を用い、メタクリル酸5部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調整した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した反応容器内に、30分間かけて添加した。
【0126】
さらに、別の容器を用い、蒸留水7部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.32部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.01部からなる溶液(f)を調整した。この溶液(f)を反応容器内に移した後、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)0.5部を添加して30℃で1時間反応させることで、変性重合体ラテックスを得た。なお、反応後の変性重合体ラテックスの固形分濃度は40重量%であった。そして、得られた変性重合体ラテックスについて、上記方法にしたがって、変性率、凝集物含有割合、および反応容器への凝集物付着の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
比較例2
まず、実施例1と同様に、合成ポリイソプレンのラテックス(e)を調製した。次いで、合成ポリイソプレンのラテックス(e)に、合成ポリイソプレン100部に対して、高分子量界面活性剤(B−1)としてのβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールT−45」花王社製)1.1部を合成ポリイソプレン100部に対し4部の蒸留水で希釈したものを5分間かけて添加した。次いで、この高分子量界面活性剤(B−1)を添加した合成ポリイソプレンのラテックス(e)を、蒸留水130部により希釈した後、窒素置換された攪拌機付き反応容器に仕込み、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。また、別の容器を用い、メタクリル酸5部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調整した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した反応容器内に、30分間かけて添加した。メタクリル酸希釈液の添加を終了した後、反応容器内を目視にて確認したところ、凝集物が大量に発生していたため、反応を中止させた。
【0128】
【表1】
【0129】
表1より、ポリイソプレンのラテックスに、カルボキシル基含有化合物と、低分子量界面活性剤と、高分子量界面活性剤とを添加し、これらの低分子量界面活性剤および高分子量界面活性剤の存在下で、ラテックスに含まれるポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させて変性重合体ラテックスを製造した場合には、反応前のラテックスの固形分濃度(反応容器に仕込んだラテックスの固形分濃度)を40重量%と高くしても、凝集物含有割合が小さく、また、反応容器への凝集物付着も抑制された(実施例1〜5)。
【0130】
一方、高分子量界面活性剤を使用せずに、ラテックスに含まれるポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させて変性重合体ラテックスを製造した場合には、反応前のラテックスの固形分濃度(反応容器に仕込んだラテックスの固形分濃度)を40重量%と高くすると、凝集物含有割合が大きくなってしまい、また、反応容器への凝集物付着も多くなってしまった(比較例1)。
また、低分子量界面活性剤を使用せずに、ラテックスに含まれるポリイソプレンにカルボキシル基含有化合物を反応させて変性重合体ラテックスを製造した場合には、反応前のラテックスの固形分濃度(反応容器に仕込んだラテックスの固形分濃度)を40重量%と高くすると、反応容器内に凝集物が大量に発生してしまい、反応を続けることができなかった(比較例2)。