【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0024】
[エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法]
〔比較例1〕
まず、チョクラルスキー法によって、直胴部の抵抗率が1.0mΩ・cm未満となるようにリンを添加し、中心軸が[100]軸と一致しかつ直径が200mmのシリコン単結晶を製造した。このときの各固化率における570℃±70℃での滞在時間は、
図4に示すように、固化率が約56%までの領域は、約280分から約530分までほぼ直線的に長くなり、これに続く約68%までの領域は、約530分から約40分までほぼ直線的に短くなり、これに続く領域は、約40分から約30分までほぼ直線的に短くなった。また、このときの各固化率における抵抗率は、
図4に示すように、下端に向かうほど低くなった。
なお、固化率とは、最初に坩堝に貯留された融液の初期チャージ重量に対するシリコン単結晶の引上げ重量の割合をいう。
【0025】
このシリコン単結晶をその中心軸に対する直交面ではなく、この直交面に対する傾斜面でスライスし、(100)面が傾斜した面を主表面とし、表1に示すように、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°43′だけ傾斜したシリコンウェーハを取得した。
比較例1のシリコンウェーハは、引き上げ方向上端側をトップ領域、下端側をボトム領域、トップ領域とボトム領域との間をミドル領域とした場合、ボトム領域の中間位置BMから取得した。中間位置BMにおける570℃±70℃での滞在時間は、40分以下であった。比較例1のシリコンウェーハの基板抵抗率は0.8mΩ・cm以上0.9mΩ・cm未満であった。
【0026】
次に、シリコンウェーハに対して、アルゴンアニール工程を行った。この工程は、アルゴンガス雰囲気下において、1200℃の温度で30分の熱処理を行った。
この後、シリコンウェーハに対して、プリベーク工程を行った。この工程は、水素および塩化水素を含むガス雰囲気下において、1190℃の温度で30秒の熱処理を行った。このときの取代は、160nmであった。
【0027】
次に、シリコンウェーハのエッチング面に対して、以下の条件でエピタキシャル膜成長工程を行うことでエピタキシャル膜を成長させて、比較例1のサンプルを得た。
ドーパントガス:フォスフィン(PH
3)ガス
原料ソースガス:トリクロロシラン(SiHCl
3)ガス
キャリアガス:水素ガス
成長温度:1040℃
エピタキシャル膜の厚さ:2μm
エピタキシャル膜の抵抗率:0.2Ω・cm
【0028】
〔比較例2〕
図5に示すように、各固化率における抵抗率が比較例1と比べて低くなるように、リンの添加量を調整したこと以外は、比較例1と同じ条件でシリコン単結晶を製造した。そして、このシリコン単結晶における比較例1と同じボトム領域の中間位置BMから、面方位が比較例1と同じシリコンウェーハを取得した。比較例2のシリコンウェーハの基板抵抗率は、0.7mΩ・cm未満であった。
その後、比較例1と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、比較例2のサンプルを得た。
【0029】
〔比較例3〕
図6に示すように、比較例2で製造したシリコン単結晶におけるミドル領域の中間位置MMから、面方位が比較例1と同じシリコンウェーハを取得した。中間位置MMにおける570℃±70℃での滞在時間は、390分以上であった。比較例3のシリコンウェーハの基板抵抗率は0.7mΩ・cm以上0.8mΩ・cm未満であった。
その後、比較例1と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、比較例3のサンプルを得た。
【0030】
〔比較例4〜7〕
図5に示すような比較例2と同じ条件でシリコン単結晶を製造した。このシリコン単結晶における比較例3と同じ中間位置MMから、その中心軸に対する直交面ではない面でスライスし、(100)面が傾斜した面を主表面とし、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°30′だけ傾斜した比較例4,6のシリコンウェーハを取得した。また、上記中間位置MMから、(100)面が傾斜した面を主表面とし、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°45′だけ傾斜した比較例5,7のシリコンウェーハを取得した。比較例4〜7のシリコンウェーハの基板抵抗率は0.7mΩ・cm以上0.8mΩ・cm未満であった。
【0031】
その後、比較例4,5のシリコンウェーハに対し、エピタキシャル膜成長工程における成長温度を1100℃にしたこと以外は、比較例1と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、比較例4,5のサンプルを得た。また、比較例6,7のシリコンウェーハに対し、アルゴンアニール工程において1220℃の温度で60分の熱処理を行ったこと、プリベーク工程における処理時間を90秒にしたこと以外は、比較例4と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、比較例6,7のサンプルを得た。
【0032】
〔実施例1〕
図4に示すような比較例1と同じ条件でシリコン単結晶を製造した。このシリコン単結晶におけるボトム領域の中間位置BMから、その中心軸に対する直交面ではない面でスライスし、(100)面が傾斜した面を主表面とし、表1に示すように、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°15′だけ傾斜したシリコンウェーハを取得した。実施例1のシリコンウェーハの基板抵抗率は0.8mΩ・cm以上0.9mΩ・cm未満であった。
【0033】
次に、シリコンウェーハに対して、温度を1220℃、時間を60分にしたこと以外は、比較例1と同じ条件でアルゴンアニール工程を行った。
この後、シリコンウェーハに対して、温度を1190℃、時間を90秒、取代を500nmとしたこと以外は、比較例1と同じ条件でプリベーク工程を行った。
そして、シリコンウェーハのエッチング面に対して、温度を1100℃にしたこと以外は、比較例1と同じ条件でエピタキシャル膜成長工程を行い、実施例1のサンプルを得た。
【0034】
〔実施例2,3〕
図5に示すような比較例2と同じ条件でシリコン単結晶を製造し、このシリコン単結晶における比較例2,3と同じ中間位置BM,MMから、面方位が実施例1と同じ実施例2,3のシリコンウェーハを取得した。実施例2のシリコンウェーハの基板抵抗率は、0.7mΩ・cm未満であり、実施例3のシリコンウェーハの基板抵抗率は、0.7mΩ・cm以上0.8mΩ・cm未満であった。
その後、実施例1と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、実施例2,3のサンプルを得た。
【0035】
〔実施例4〜8〕
図5に示すような比較例2と同じ条件でシリコン単結晶を製造した。このシリコン単結晶における比較例3と同じ中間位置MMから、その中心軸に対する直交面ではない面でスライスし、(100)面が傾斜した面を主表面とし、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°5′だけ傾斜した実施例4,7のシリコンウェーハを取得した。また、上記中間位置MMから、(100)面が傾斜した面を主表面とし、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°15′だけ傾斜した実施例5のシリコンウェーハを取得した。さらに、上記中間位置MMから、(100)面が傾斜した面を主表面とし、(100)面に垂直な[100]軸が主表面に直交する軸に対して[010]方向に0°25′だけ傾斜した実施例6,8のシリコンウェーハを取得した。実施例4〜8のシリコンウェーハの基板抵抗率は0.7mΩ・cm以上0.8mΩ・cm未満であった。
【0036】
その後、実施例4〜6のシリコンウェーハに対し、比較例4と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、実施例4〜6のサンプルを得た。また、実施例7,8のシリコンウェーハに対し、比較例6と同じ条件で、アルゴンアニール工程、プリベーク工程、エピタキシャル膜成長工程を行い、実施例7,8のサンプルを得た。
【0037】
[評価]
〔エピタキシャル膜表面の評価〕
表面検査装置(KLA−Tencor社製SP−1、DCNモード)を用いて、比較例1〜3、実施例1〜3のエピタキシャル膜表面で観察される90nmサイズ以上のLPDをカウントし、単位面積あたりの個数(密度)を評価した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
比較例1〜3、実施例1〜8を比較すると、LPDの密度に大きな差はなかった。一方、比較例1〜3と比較例4〜7とを比較すると、比較例4〜7のLPDの密度は比較例1〜3と比べて高かった。
このことから、シリコンウェーハの[100]軸の傾け角度が0°25′を超える場合、エピタキシャル膜成長工程における成長温度が1100℃以上になるとLPDの密度が高くなり、1100℃未満になるとLPDの密度が低くなることが確認できた。
また、シリコンウェーハの[100]軸の傾け角度が0°5′以上0°25′以下の場合、エピタキシャル膜成長工程における成長温度が1100℃以上であっても、LPDの密度が低くなることが確認できた。
【0040】
〔エピタキシャル膜内部の評価〕
比較例1〜7、実施例1〜8の厚さが2μmのエピタキシャル膜に対し、上述のM−Dash液を用いて1μmの選択エッチングを行った。そして、エッチング面を光学顕微鏡(NIKON、OPTIPHOT88)で観察し、エピタキシャルシリコンウェーハの中心から外縁に向かう直線状の複数箇所において、1.4μmサイズ以上の欠陥をカウントした。その単位面積あたりの個数(密度)を
図7に示す。
【0041】
図7に示すように、比較例1,4〜7、実施例1〜8では、欠陥が検出されなかった。一方、比較例2,3では、欠陥が検出された。比較例3では、観察領域の全域において1600個/cm
2以上の欠陥が検出された。比較例2では、エピタキシャルシリコンウェーハの中心では148個/cm
2であったものの、外縁に向かうにしたがって徐々に増え、外縁では比較例3とほぼ同じレベルになっていた。
そして、比較例2,3で検出された欠陥をTEMで観察したところ、
図1A,
図1Bに示すような(100)面が傾斜した面を主表面とし、[011]方向、[0−1−1]方向、[0−11]方向および[01−1]方向のいずれかの方向に結晶方位性を有する転位欠陥DFであった。このことから、比較例2,3のエピタキシャル膜には、結晶方位性を有し、全体がエピタキシャル膜内部に位置する転位線が存在していることがわかった。
【0042】
比較例1と実施例1とを比較すると、シリコン単結晶における570℃±70℃の滞在時間が同じ部位から取得したシリコンウェーハを用いているにもかかわらず、基板抵抗率が低い比較例2に転位線が発生し、基板抵抗率が高い比較例1に転位線が発生していなかった。
このことから、シリコンウェーハの基板抵抗率は、エピタキシャル膜内部における転位線の発生に影響を及ぼすことが確認できた。
【0043】
さらに、比較例2と比較例3とを比較すると、同じシリコン単結晶から取得したシリコンウェーハを用いているにもかかわらず、570℃±70℃の滞在時間が長い比較例3の方が転位線が多く発生していた。
このことから、シリコン単結晶における570℃±70℃の滞在時間は、エピタキシャル膜内部における転位線の発生に影響を及ぼすことが確認できた。
【0044】
また、比較例3は、比較例2よりも基板抵抗率が高いにもかかわらず、比較例2よりも転位線が多く発生していた。
このことから、シリコン単結晶における570℃±70℃の滞在時間は、基板抵抗率よりもエピタキシャル膜内部における転位線の発生に及ぼす影響が大きいことが確認できた。
【0045】
また、比較例4〜7は、比較例3と570℃±70℃の滞在時間および基板抵抗率が同じであるにもかかわらず、転位線が発生していなかった。
このことから、エピタキシャル膜成長工程の成長温度は、エピタキシャル膜内部における転位線の発生に及ぼす影響が大きいことが確認できた。
【0046】
一方、実施例1、実施例2、実施例3〜8では、比較例1、比較例2、比較例3のそれぞれと570℃±70℃の滞在時間および基板抵抗率が同じであるにもかかわらず、転位線が発生していなかった。
このことから、[100]軸の傾け角度を所定の値に設定することで、すなわちシリコンウェーハの面方位を所定の方位に設定することで、転位線の発生抑制できることがわかった。
【0047】
また、主表面に直交する軸に対する[100]軸の傾き方向が実施例1〜8とは逆方向([0−10]方向)や直交する方向([001]、[00−1])、あるいはこれらの間の任意の一方向に傾斜した場合にも、実施例1〜8と同様の結果が得られると推測できる。その理由は、(100)面に現れる転位面である(111)面のStep数は結晶軸傾け方向には依存しないからである。
さらに、[100]軸の傾け角度が0°5′以上0°25′以下のいずれの角度であっても、実施例1〜8と同様の結果が得られると推測できる。その理由は、エピタキシャル膜成長時の温度によってTerrace上で核形成が始まるか否かが決まるので、0°5′以上0°25′以下の範囲であれば、成長温度を1100℃以上で適切に選択することにより、Terrace上に留まったシリコンを核とした異常成長によるヒロック欠陥を抑制できると推定される。