特許第6973477号(P6973477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973477
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】ポリマ電解質組成物及びポリマ二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20211118BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20211118BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0565
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-513202(P2019-513202)
(86)(22)【出願日】2017年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2017016079
(87)【国際公開番号】WO2018193627
(87)【国際公開日】20181025
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀之
(72)【発明者】
【氏名】三國 紘揮
(72)【発明者】
【氏名】瀬良 祐介
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−049158(JP,A)
【文献】 特開2006−032237(JP,A)
【文献】 Journal of Power Sources,2010年,195(11),p.3668-3675
【文献】 Journal of Power Sources,2009年,188(2),p.558-563
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0565
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、
【化1】

[式(1)中、Xは対アニオンを示す。]
リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、
融点が80〜250℃である溶融塩と、
を含有する、ポリマ電解質組成物。
【請求項2】
前記溶融塩が、N−エチル−N−メチルピロリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである、請求項1に記載のポリマ電解質組成物。
【請求項3】
前記溶融塩の含有量が、組成物全量を基準として、10〜70質量%である、請求項1又は2に記載のポリマ電解質組成物。
【請求項4】
前記電解質塩のアニオンが、PF、BF、N(FSO、N(CFSO、B(C及びClOからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマ電解質組成物。
【請求項5】
前記電解質塩が、リチウム塩である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリマ電解質組成物。
【請求項6】
シート状に形成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリマ電解質組成物。
【請求項7】
正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に設けられた、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリマ電解質組成物を含む電解質層と、
を備える、ポリマ二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマ電解質組成物及びポリマ二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高いエネルギー密度を有するエネルギーデバイスであり、携帯型電子機器及び電気自動車の電源として普及している。例えば、18650型のリチウム二次電池においては、円筒状の電池缶の内部に巻き取り電極体が収容されている。巻き取り電極体は、正極と負極との間に微多孔性のセパレータを挟み込み、これらを渦巻き状に巻き取って構成されており、セパレータには可燃性の電解液が含浸されている。このようなリチウム二次電池では、異常事態に電池の温度が急上昇すると、電解液が気化して内圧が上がり、破裂する可能性がある。また、電池の温度が急上昇すると、電解液が発火する可能性もある。
【0003】
リチウム二次電池が引火又は発火する事態を防止することは、リチウム二次電池の設計において重要である。リチウム二次電池においては、今後さらに高エネルギー密度化及び大型化を図っていく上で、安全性をより一層向上させることが要求されている。
【0004】
リチウム二次電池の安全性を向上させる抜本的な解決手段として、電解液をポリマ電解質又は無機固体電解質に置き換え、構成材料を全て固体にした全固体電池の開発が進められている。特にポリマ電解質は、ポリマ溶液を塗布することによって容易にシートが形成できることから、研究が盛んに行われている。
【0005】
ポリマ電解質で広く研究されている材料は、ポリエチレンオキシド(PEO)である。PEOは、60℃で1×10−4S/cmを超える高いイオン伝導度を示し、一部車載用でも実用化の実績がある(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)。
【0006】
また、イオン伝導度の向上を目的として、ポリマ電解質と組み合わせる非水溶媒の研究も盛んである。非水溶媒としては、イオン伝導度の観点から、ジアルキルカーボネート等の有機溶媒が広く用いられている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−294326号公報
【特許文献2】特開2007−141467号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】P.Hovington et.al.,Nano Lett.2015,15,2671−2678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のPEOを用いたポリマ電解質は、酸化安定性が低いこと、室温以下の低温において、イオン伝導度が顕著に低下すること等の理由から、広く実用化には至っていない。
【0010】
また、特許文献2に記載の有機溶媒と組み合わせたポリマ電解質は、高いイオン伝導性を示すものの、安全性に懸念がある。また、有機溶媒は揮発し易いことから、シート状に形成したときに、その取り扱いが難しく、電池特性の向上に必須である乾燥による水分除去が困難である。また、ポリマ電解質と有機溶媒の種類によっては、ポリマ電解質と有機溶媒とが分離し、ポリマ電解質シートのイオン伝導度及び機械的強度が著しく低下する懸念がある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒を用いなくとも、室温(例えば、25℃)において優れたイオン伝導度を有し、自立性の高いシートを作製することが可能なポリマ電解質組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマと、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩と、融点が250℃以下である溶融塩と、を含有する、ポリマ電解質組成物である。
【0013】
【化1】
[式(1)中、Xは対アニオンを示す。]
【0014】
本発明の第1の態様に係るポリマ電解質組成物によれば、有機溶媒を用いなくとも、室温において優れたイオン伝導度を有し、自立性の高いシートを作製することが可能となる。溶融塩は、乾燥工程(例えば、60℃、1.0×10Pa以下(0.1気圧以下)の減圧下における10時間以上の乾燥)において、ほとんど揮発しないことから、ポリマ電解質組成物は、熱安定性の高い材料となり得る。
【0015】
溶融塩は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及びN−エチル−N−メチルピロリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0016】
溶融塩の含有量は、組成物全量を基準として、10〜70質量%であってもよい。溶融塩の含有量がこのような範囲にあると、室温において優れたイオン伝導度を有し、自立性の高いシートを作製することがより一層可能となる。
【0017】
電解質塩のアニオンは、PF、BF、N(FSO、N(CFSO、B(C及びClOからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0018】
電解質塩は、リチウム塩であってもよい。
【0019】
ポリマ電解質組成物は、シート状に形成されてもよい。ポリマ電解質組成物を用いて形成されるシートは、基材等がなくともその形を保持できるものとなり得る。なお、本明細書中、シート状に形成されたポリマ電解質組成物を「ポリマ電解質シート」という場合がある。
【0020】
本発明はさらに、上述の組成物のポリマ電解質としての応用又は上述の組成物のポリマ電解質の製造のための応用に関してもよい。
【0021】
本発明の第2の態様は、正極と、負極と、正極及び負極の間に設けられた、上述のポリマ電解質組成物を含む電解質層と、を備える、ポリマ二次電池である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機溶媒を用いなくとも、室温において優れたイオン伝導度を有し、自立性の高いシートを作製することが可能なポリマ電解質組成物が提供される。また、本発明によれば、このようなポリマ電解質組成物を用いたポリマ二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係るポリマ二次電池を示す斜視図である。
図2図1に示したポリマ二次電池における電極群の一実施形態を示す分解斜視図である。
図3図1に示したポリマ二次電池における電極群の一実施形態を示す模式断面図である。
図4】(a)は一実施形態に係るポリマ電解質シートを示す模式断面図であり、(b)は他の実施形態に係るポリマ電解質シートを示す模式断面図である。
図5】第2実施形態に係るポリマ二次電池における電極群の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。各図における構成要素の大きさは概念的なものであり、構成要素間の大きさの相対的な関係は各図に示されたものに限定されない。
【0025】
本明細書における数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0026】
本明細書中、略称として以下を用いる場合がある。
[EMI]:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン
[DEME]:N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムカチオン
[Py12]:N−エチル−N−メチルピロリジニウムカチオン
[Py13]:N−メチル−N−プロピルピロリジニウムカチオン
[PP13]:N−メチル−N−プロピルピペリジニウムカチオン
[FSI]:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン
[TFSI]:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン
[f3C]:トリス(フルオロスルホニル)カルボアニオン
[BOB]:ビスオキサレートボラートアニオン
[P(DADMA)][Cl]:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)クロライド
[P(DADMA)][TFSI]:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
【0027】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係るポリマ二次電池を示す斜視図である。図1に示すように、ポリマ二次電池1は、正極、負極及び電解質層から構成される電極群2と、電極群2を収容する袋状の電池外装体3とを備えている。正極及び負極には、それぞれ正極集電タブ4及び負極集電タブ5が設けられている。正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極及び負極がポリマ二次電池1の外部と電気的に接続可能なように、電池外装体3の内部から外部へ突き出している。
【0028】
電池外装体3は、例えば、ラミネートフィルムで形成されていてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂フィルムと、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等の金属箔と、ポリプロピレン等のシーラント層とがこの順で積層された積層フィルムであってもよい。
【0029】
図2は、図1に示したポリマ二次電池1における電極群2の一実施形態を示す分解斜視図である。図3は、図1に示したポリマ二次電池1における電極群2の一実施形態を示す模式断面図である。図2及び図3に示すように、本実施形態に係る電極群2Aは、正極6と、電解質層7と、負極8とをこの順に備えている。正極6は、正極集電体9と、正極集電体9上に設けられた正極合剤層10とを備えている。正極集電体9には、正極集電タブ4が設けられている。負極8は、負極集電体11と、負極集電体11上に設けられた負極合剤層12とを備えている。負極集電体11には、負極集電タブ5が設けられている。
【0030】
正極集電体9は、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等で形成されていてもよい。正極集電体9は、具体的には、孔径0.1〜10mmの孔を有するアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等であってもよい。正極集電体9は、上記以外にも、電池の使用中に溶解、酸化等の変化を生じないものであれば、任意の材料で形成されていてよく、また、その形状、製造方法等も制限されない。
【0031】
正極集電体9の厚さは、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってもよい。正極集電体9の厚さは、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってもよい。
【0032】
正極合剤層10は、一実施形態において、正極活物質と、導電剤と、バインダと、を含有する。
【0033】
正極活物質は、LiCoO、Li0.3MnO、LiMn12、V、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1.2(Fe0.5Mn0.50.8、Li1.2(Fe0.4Mn0.4Ti0.20.8、Li1+x(Ni0.5Mn0.51−x(ただし、x=0〜1である。)、LiNi0.5Mn1.5、LiMnO、Li0.76Mn0.51Ti0.49、LiNi0.8Co0.15Al0.05、Fe、LiCoPO、LiMnPO、LiMPOF(M=Fe,Mn)、LiMn0.875Fe0.125PO、LiFeSiO、Li2−xMSi1−x(M=Fe,Mn)(ただし、x=0〜1である。)、LiMBO(M=Fe,Mn)、FeF、LiFeF、LiTiF、LiFeS、TiS、MoS、FeS等であってもよい。
【0034】
正極活物質は、造粒されていない一次粒子であってもよく、造粒された二次粒子であってもよい。
【0035】
正極活物質の粒径は、正極合剤層10の厚さ以下になるように調整される。正極活物質中に正極合剤層10の厚さ以上の粒径を有する粗粒子がある場合、ふるい分級、風流分級等により粗粒子を予め除去し、正極合剤層10の厚さ以下の粒径を有する正極活物質を選別する。
【0036】
正極活物質の平均粒径は、粒径減少に伴う正極活物質の充填性の悪化を抑制しつつ、かつ、電解質の保持能力を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。正極活物質の平均粒径は、正極活物質全体の体積に対する比率(体積分率)が50%のときの粒径(D50)である。正極活物質の平均粒径(D50)は、レーザー散乱型粒径測定装置(例えば、マイクロトラック)を用いて、レーザー散乱法により水中に正極活物質を懸濁させた懸濁液を測定することで得られる。
【0037】
正極活物質の含有量は、正極活物質、導電剤及びバインダの全量を基準として、80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。正極活物質の含有量は、正極活物質、導電剤及びバインダの全量を基準として、例えば、99質量%以下であってもよい。
【0038】
導電剤は、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック等であってもよい。
【0039】
導電剤の含有量は、正極活物質、導電剤及びバインダの全量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってもよい。導電剤の含有量は、正極6の体積の増加及びそれに伴うポリマ二次電池1のエネルギー密度の低下を抑制する観点から、正極活物質、導電剤及びバインダの全量を基準として、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である。
【0040】
バインダは、正極6の表面で分解しないものであれば制限されないが、例えばポリマである。バインダは、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシル・メチルセルロース、フッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリアクリル酸、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂;これら樹脂を主骨格として有する共重合体の樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)などであってもよい。
【0041】
バインダの含有量は、正極活物質、導電剤及びバインダの全量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってもよい。バインダの含有量は、正極活物質、導電剤及びバインダの全量を基準として、15質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってもよい。
【0042】
正極合剤層10は、必要に応じて、柔粘性結晶、イオン液体等の溶融塩などをさらに含有してもよい。溶融塩は、後述の融点が250℃以下である溶融塩と同様のものを例示することができる。溶融塩の含有量は、正極合剤層全量を基準として、0.01〜20質量%であってもよい。
【0043】
正極合剤層10の厚さは、導電率をさらに向上させる観点から、正極活物質の平均粒径以上の厚さであり、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。正極合剤層10の厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。正極合剤層の厚さを100μm以下とすることにより、正極合剤層10の表面近傍及び正極集電体9の表面近傍の正極活物質の充電レベルのばらつきに起因する充放電の偏りを抑制できる。
【0044】
正極合剤層10の合剤密度は、導電剤と正極活物質とを互いに密着させ、正極合剤層10の電子抵抗を低減する観点から、好ましくは1g/cm以上である。
【0045】
負極集電体11は、銅、ステンレス鋼、チタン、ニッケル等で形成されていてもよい。負極集電体11は、具体的には、圧延銅箔、例えば、孔径0.1〜10mmの孔を有する銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等であってもよい。負極集電体11は、上記以外の任意の材料で形成されていてもよく、また、その形状、製造方法等も制限されない。
【0046】
負極集電体11の厚さは、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってもよい。負極集電体11の厚さは、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってもよい。
【0047】
負極合剤層12は、一実施形態において、負極活物質と、バインダと、を含有する。
【0048】
負極活物質は、二次電池等の通常のエネルギーデバイスの分野の負極活物質として使用されるものを使用することができる。負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属化合物、炭素材料、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。これらの中でも、負極活物質は、炭素材料であることが好ましい。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、非晶質炭素、炭素繊維などが挙げられる。
【0049】
負極活物質の平均粒径(D50)は、粒径減少に伴う不可逆容量の増加を抑制しつつ、かつ、電解質の保持能力を高めたバランスの良い負極8を得る観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは16μm以下である。負極活物質の平均粒径(D50)は、正極活物質の平均粒径(D50)と同様の方法により測定される。
【0050】
負極活物質の含有量は、上述した正極合剤層10における正極活物質の含有量と同様であってもよい。
【0051】
バインダ及びその含有量は、上述した正極合剤層10におけるバインダ及びその含有量と同様であってもよい。
【0052】
負極合剤層12は、負極8の抵抗をさらに低くする観点から、導電剤をさらに含有してもよい。導電剤及びその含有量は、上述した正極合剤層10における導電剤及びその含有量と同様であってもよい。
【0053】
負極合剤層12は、必要に応じて、柔粘性結晶、イオン液体等の溶融塩などをさらに含有していてもよい。溶融塩は、後述の融点が250℃以下である溶融塩と同様のものを例示することができる。溶融塩の含有量は、負極合剤層全量を基準として、0.01〜20質量%であってもよい。
【0054】
負極合剤層12の厚さは、導電率をさらに向上させる観点から、負極活物質の平均粒径以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。負極合剤層12の厚さは、好ましくは50μm以下、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。負極合剤層12の厚さを50μm以下とすることにより、負極合剤層12の表面近傍及び負極集電体11の表面近傍の正極活物質の充電レベルのばらつきに起因する充放電の偏りを抑制できる。
【0055】
負極合剤層12の合剤密度は、導電剤と負極活物質とを互いにを密着させ、負極合剤層12の電子抵抗を低減する観点から、好ましくは1g/cm以上である。
【0056】
電解質層7は、ポリマ電解質組成物から形成することができる。ポリマ電解質組成物は、特定の構造単位を有するポリマと、特定の電解質塩と、特定の溶融塩と、を含有する。
【0057】
[ポリマ]
ポリマ電解質組成物は、下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリマを含有する。
【0058】
【化2】
【0059】
一般式(1)中、Xは対アニオンを示す。ここで、Xとしては、例えば、BF(テトラフルオロボラートアニオン)、PF(ヘキサフルオロホスファートアニオン)、N(FSO(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、[FSI])、N(CFSO(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、[TFSI])、C(SOF)(トリス(フルオロスルホニル)カルボアニオン、[f3C])、B(C(ビスオキサレートボラートアニオン、[BOB])、BF(CF、BF(C、BF(C、BF(C、C(SOCF、CFSO、CFCOO、RCOO(Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等が挙げられる。これらの中でも、Xは、好ましくはBF、PF、[FSI]、[TFSI]及び[f3C]からなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくは[TFSI]又は[FSI]である。
【0060】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの粘度平均分子量Mv(g・mol−1)は、特に制限されないが、好ましくは1.0×10以上、より好ましくは3.0×10以上である。また、ポリマの粘度平均分子量は、好ましくは5.0×10以下、より好ましくは1.0×10である。粘度平均分子量が1.0×10以上であると、ポリマ電解質シートの自立性がより優れる傾向にある。また、粘度平均分子量が5.0×10以下であると、塗布形成のハンドリング性がより高まる傾向にある。
【0061】
本明細書において、「粘度平均分子量」とは、一般的な測定方法である粘度法によって評価することができ、例えば、JIS K 7367−3:1999に基づいて測定した極限粘度数[η]から算出することができる。
【0062】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、イオン伝導性の観点から、一般式(1)で表される構造単位のみからなるポリマ、すなわちホモポリマであることが好ましい。
【0063】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、下記一般式(2)で表されるポリマであってもよい。
【0064】
【化3】
【0065】
一般式(2)中、nは300〜4000であり、Yは対アニオンを示す。Yは、Xで例示したものと同様のものを用いることができる。
【0066】
nは、300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上である。また、4000以下、好ましくは3500以下、より好ましくは3000以下である。また、nは、300〜4000、好ましくは400〜3500、より好ましくは500〜3000である。nが300以上であると、ポリマ電解質シートの自立性がより優れる傾向にある。nが4000以下であると、ポリマ電解質シートのイオン伝導度がより向上する傾向にある。
【0067】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの製造方法は、特に制限されないが、例えば、Journal of Power Sources 2009,188,558−563に記載の製造方法を用いることができる。
【0068】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマ(X=[TFSI])は、例えば、以下の製造方法によって、得ることができる。
【0069】
まず、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)クロライド([P(DADMA)][Cl])を脱イオン水に溶解し、撹拌して[P(DADMA)][Cl]水溶液を作製する。[P(DADMA)][Cl]は、例えば、市販品をそのまま用いることができる。次いで、別途、Li[TFSI]を脱イオン水に溶解し、Li[TFSI]を含む水溶液を作製する。
【0070】
その後、[P(DADMA)][Cl]に対するLi[TFSI]のモル比(Li[TFSI]のモル数/[P(DADMA)][Cl]のモル数)が1.2〜2.0になるように、2つの水溶液を混合して2〜8時間撹拌し、固体を析出させ、得られた固体をろ過回収する。脱イオン水を用いて固体を洗浄し、12〜48時間真空乾燥することによって、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマ([P(DADMA)][TFSI])を得ることができる。
【0071】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの含有量は、特に制限されないが、組成物全量を基準として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、ポリマの含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。ポリマの含有量が10質量%以上であると、ポリマ電解質シートの強度がより向上する傾向にある。また、ポリマの含有量を80質量%以下とし、他の成分(電解質塩、溶融塩等)の量を増やすことによって、ポリマ電解質シートのイオン伝導度をより向上させることができる。
【0072】
[電解質塩]
ポリマ電解質組成物は、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の電解質塩を含有する。
【0073】
電解質塩は、通常のイオン電池用の電解液の電解質塩として使用されるものを使用することができる。電解質塩のアニオンは、ハロゲン化物イオン(I、Cl、Br等)、SCN、BF、BF(CF、BF(C、BF(C、BF(C、PF、ClO、SbF、[FSI]、[TFSI]、N(CSO、BPh、B(C、[f3C]、C(CFSO、CFCOO、CFSO、CSO、[BOB]、RCOO(Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってもよい。これらの中でも、電解質塩のアニオンは、好ましくはPF、BF、[FSI]、[TFSI]、[BOB]及びClOからなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくは[TFSI]又は[FSI]である。
【0074】
リチウム塩は、LiPF、LiBF、Li[FSI]、Li[TFSI]、Li[f3C]、Li[BOB]、LiClO、LiBF(CF)、LiBF(C)、LiBF(C)、LiBF(C)、LiC(SOCF、LiCFSOO、LiCFCOO、LiRCOO(Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってもよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0075】
ナトリウム塩は、NaPF、NaBF、Na[FSI]、Na[TFSI]、Na[f3C]、Na[BOB]、NaClO、NaBF(CF)、NaBF(C)、NaBF(C)、NaBF(C)、NaC(SOCF、NaCFSOO、NaCFCOO、NaRCOO(Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってもよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0076】
マグネシウム塩は、Mg(PF、Mg(BF、Mg[FSI]、Mg[TFSI]、Mg[f3C]、Mg[BOB]、Mg(ClO、Mg[BF(CF、Mg[BF(C)]、Mg[BF(C)]、Mg[BF(C)]、Mg[C(SOCF、Mg(CFSOO)、Mg(CFCOO)、Mg(RCOO)(Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってもよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0077】
カルシウム塩は、Ca(PF、Ca(BF、Ca[FSI]、Ca[TFSI]、Ca[f3C]、Ca[BOB]、Ca(ClO、Ca[BF(CF、Ca[BF(C)]、Ca[BF(C)]、Ca[BF(C)]、Ca[C(SOCF、Ca(CFSOO)、Ca(CFCOO)、Ca(RCOO)(Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はナフチル基である。)等であってもよい。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0078】
これらの中でも、解離性及び電気化学的安定性の観点から、好ましくはリチウム塩、より好ましくはLiPF、LiBF、Li[FSI]、Li[TFSI]、Li[f3C]、Li[BOB]及びLiClOからなる群より選ばれる少なくとも1種、さらに好ましくはLi[TFSI]又はLi[FSI]である。
【0079】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマに対する電解質塩の質量比(電解質塩の質量/一般式(1)で表される構造単位を有するポリマの質量)は、特に制限されないが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上である。また、質量比は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。電解質塩の質量比が0.1以上であると、ポリマ電解質シートのイオンキャリア濃度が充分となり、イオン伝導度がより向上する傾向にある。電解質塩の質量比が1.0以下であると、ポリマ電解質シートの機械的強度がより優れる傾向にある。
【0080】
電解質塩の含有量は、特に制限されないが、組成物全量を基準として、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。電解質塩の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。電解質塩の含有量が3質量%以上であると、イオン伝導度がより向上する傾向にある。電解質塩の含有量が30質量%以下であると、ポリマ電解質シートの柔軟性がより向上する傾向にある。
【0081】
[溶融塩]
ポリマ電解質組成物は、融点が250℃以下である溶融塩を含有する。
【0082】
溶融塩は、カチオン成分とアニオン成分とから構成されるものである。溶融塩は、融点が250℃以下であれば、特に制限されずに、通常のイオン液体又は柔粘性結晶(プラスチッククリスタル)を使用することができる。
【0083】
なお、本明細書において、「イオン液体」は、30℃で液体である溶融塩、すなわち、融点が30℃以下である溶融塩を意味し、「柔粘性結晶」は30℃で固体である溶融塩、すなわち、融点が30℃より高い溶融塩を意味する。
【0084】
イオン液体は、30℃で液体である溶融塩であれば、特に制限されることなく、使用することができる。具体的には、カチオン成分として、[EMI]、[DEME]、[Py12]、[Py13]、又は[PP13]と、アニオン成分として、PF、BF、[FSI]、[TFSI]、又は[f3C]とを組み合わせたもので、30℃で液体のものが挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。また、後述の柔粘性結晶と組み合わせて使用してもよい。イオン液体は、イオン伝導度の観点から、[EMI][TFSI](融点:−15℃)又は[DEME][TFSI](融点:−83℃)であることが好ましい。
【0085】
イオン液体の融点は、特に制限されないが、好ましくは25℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。融点が25℃以下であると、室温(例えば、25℃)以下においても、イオン伝導度が低下し難い傾向にある。イオン液体の融点の下限は、特に制限されないが、−150℃以上、−120℃以上、又は−90℃以上であってもよい。
【0086】
柔粘性結晶は、30℃で固体であり、融点が250℃以下である溶融塩であれば、特に制限されることなく、使用することができる。具体的には、カチオン成分として、[EMI]、[DEME]、[Py12]、[Py13]、又は[PP13]と、アニオン成分として、PF、BF、[FSI]、[TFSI]、又は[f3C]との組み合わせたもので、30℃で固体のものが挙げられる。より具体的には、[Py12][TFSI](融点:90℃)、[Py12][FSI](融点:205℃)、[DEME][f3C](融点:69℃)、[Py13][f3C](融点:177℃)、[PP13][f3C](融点:146℃)等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用していてもよい。また、前述のイオン液体と組み合わせて使用してもよい。柔粘性結晶は、融点が80℃以上であると、通常の電池使用時に液漏れをより抑制できる傾向にある。したがって、柔粘性結晶を用いることによって、単一セル内に電極が直列に積層されたバイポーラ電極を有する電池を実現することが可能となり得る。柔粘性結晶は、イオン伝導度の観点から、[Py12][TFSI](融点:90℃)であることが好ましい。
【0087】
柔粘性結晶の融点は、250℃以下であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。融点が250℃以下であると、イオン伝導度が高まる傾向にある。溶融塩の融点の下限は、特に制限されないが、例えば、80℃以上とすることができる。
【0088】
溶融塩の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは10〜70質量%である。溶融塩の含有量は、組成物全量を基準として、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、溶融塩の含有量は、組成物全量を基準として、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。溶融塩の含有量が10質量%以上であると、ポリマ電解質シートのイオン伝導度がより向上する傾向にある。溶融塩の含有量が70質量%以下であると、ポリマ電解質シートの自立性がより優れる傾向にある。
【0089】
[その他の成分]
ポリマ電解質組成物は、必要に応じて、シリカ、アルミナ等の酸化物の粒子又はファイバー、LiLaZr12(LLZ)等の無機固体電解質、ホウ酸エステル、アルミン酸エステル等のリチウム塩解離能を有する添加剤などをさらに含有していてもよい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ポリマ電解質組成物にこれらの成分をさらに含有させる場合、これら成分の含有量は、組成物全量を基準として、0.01〜20質量%であってもよい。
【0090】
ポリマ電解質組成物は、シート状に形成されていてもよい。
【0091】
ポリマ電解質シートの厚さは、電池の構成に合わせて、所望の厚みに調整することができる。ポリマ電解質シートの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。また、ポリマ電解質シートの厚さは、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは70μm以下である。厚さが1μm以上であると、電極間同士の短絡をより抑制できる傾向にある。厚さが200μm以下であると、エネルギー密度をより高められる傾向にある。
【0092】
続いて、上述したポリマ二次電池1の製造方法について説明する。本実施形態に係るポリマ二次電池1の製造方法は、正極集電体9上に正極合剤層10を形成して正極6を得る第1の工程と、負極集電体11上に負極合剤層12を形成して負極8を得る第2の工程と、正極6と負極8との間に電解質層7を設ける第3の工程と、を備える。
【0093】
第1の工程では、正極6は、例えば、正極合剤層に用いる材料を混練機、分散機等を用いて分散媒に分散させてスラリ状の正極合剤を得た後、この正極合剤をドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等により正極集電体9上に塗布し、その後分散媒を揮発させることにより得られる。分散媒を揮発させた後、必要に応じて、ロールプレスによる圧縮成型工程が設けられてもよい。正極合剤層10は、上述した正極合剤の塗布から分散媒の揮発までの工程を複数回行うことにより、多層構造の正極合剤層として形成されてもよい。
【0094】
第1の工程において用いられる分散媒は、水、1−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう。)等であってもよい。
【0095】
第2の工程において、負極集電体11に負極合剤層12を形成する方法は、上述した第1の工程と同様の方法であってもよい。
【0096】
第3の工程では、一実施形態において、電解質層7は、例えば、基材上に上述のポリマ電解質組成物を含むポリマ電解質シートを作製することにより形成される。図4(a)は、一実施形態に係るポリマ電解質シートを示す模式断面図である。図4(a)に示すように、ポリマ電解質シート13Aは、基材14と、基材14上に設けられた電解質層7とを有する。
【0097】
ポリマ電解質シート13Aは、例えば、電解質層7に用いるポリマ電解質組成物を分散媒に分散させてスラリを得た後、これを基材14上に塗布してから分散媒を揮発させることにより作製される。電解質層7に用いるポリマ電解質組成物を分散させる分散媒は、例えば、アセトン、エチルメチルケトン、γ−ブチロラクトン等であってもよい。
【0098】
基材14は、分散媒を揮発させる際の加熱に耐え得る耐熱性を有するものであって、ポリマ電解質組成物と反応せず、ポリマ電解質組成物により膨潤しないものであれば制限されないが、例えば、金属箔、樹脂からなるフィルム等である。基材14は、具体的には、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔等の金属箔、ポリエチレンテレフタレート、ポリ4フッ化エチレン、ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン等の樹脂(汎用のエンジニアプラスチック)からなるフィルムなどであってもよい。
【0099】
基材14として樹脂からなるフィルムを用いる場合、基材14の耐熱温度は、電解質層7に用いられる分散媒との適応性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは150℃以上、また、例えば400℃以下であってもよい。上記の耐熱温度を有する基材を使用すれば、上述したような分散媒を好適に使用できる。なお、樹脂からなるフィルムを用いる場合の基材14の耐熱温度は、樹脂の融点又は分解温度を示す。
【0100】
基材14の厚さは、塗布装置での引張り力に耐え得る強度を維持しつつ、可能な限り薄いことが好ましい。基材14の厚さは、ポリマ電解質シート13全体の体積を小さくしつつ、ポリマ電解質組成物を基材14に塗布する際に強度を確保する観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは25μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。
【0101】
ポリマ電解質シートは、ロール状に巻き取りながら連続的に製造することもできる。その場合には、電解質層7の表面が基材14の背面に接触して電解質層7の一部が基材14に貼りつくことにより、電解質層7が破損することがある。このような事態を防ぐために、ポリマ電解質シートは他の実施形態として、電解質層7の基材14と反対側に保護材を設けたものであってもよい。図4(b)は、他の実施形態に係るポリマ電解質シートを示す模式断面図である。図4(b)に示すように、ポリマ電解質シート13Bは、電解質層7の基材14と反対側に保護材15をさらに備えている。
【0102】
保護材15は、電解質層7から容易に剥離可能なものであればよく、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4フッ化エチレン等の無極性の樹脂フィルムである。無極性の樹脂フィルムを用いると、電解質層7と保護材15とが互いに貼りつかず、保護材15を容易に剥離することができる。
【0103】
保護材15の厚さは、ポリマ電解質シート13B全体の体積を小さくしつつ、強度を確保する観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。
【0104】
保護材15の耐熱温度は、低温環境での劣化を抑制するとともに、高温環境下での軟化を抑制する観点から、好ましくは−30℃以上、より好ましくは0℃以上、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下である。保護材15を設ける場合、上述した分散媒の揮発工程を必須としないため、耐熱温度を高くする必要がない。
【0105】
ポリマ電解質シート13Aを用いて正極6と負極8との間に電解質層7を設ける方法は、例えば、ポリマ電解質シート13Aから基材14を剥離し、正極6、電解質層7及び負極8を、ラミネートにより積層することでポリマ二次電池1が得られる。このとき、電解質層7が、正極6の正極合剤層10側かつ負極8の負極合剤層12側に位置するように、すなわち、正極集電体9、正極合剤層10、電解質層7、負極合剤層12及び負極集電体11がこの順で配置されるように積層する。
【0106】
第3の工程では、他の実施形態において、電解質層7は、正極6の正極合剤層10側及び負極8の負極合剤層12側の少なくともいずれか一方に塗布により形成され、好ましくは正極6の正極合剤層10側及び負極8の負極合剤層12側の両方に塗布により形成される。この場合、例えば、電解質層7が設けられた正極6と、電解質層7が設けられた負極8とを、電解質層7同士が接するように例えばラミネートにより積層することで、ポリマ二次電池1が得られる。
【0107】
正極合剤層10上に電解質層7を塗布により形成する方法は、例えば、電解質層7に用いるポリマ電解質組成物を分散媒に分散させてスラリを得た後、ポリマ電解質組成物を正極合剤層10上にアプリケータを用いて塗布する方法である。電解質層7に用いるポリマ電解質組成物を分散させる分散媒は、アセトン、エチルメチルケトン、γ−ブチロラクトン等であってもよい。
【0108】
負極合剤層12上に電解質層7を塗布により形成する方法は、正極合剤層10上に電解質層7を塗布により形成する方法と同様の方法であってもよい。
【0109】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るポリマ二次電池について説明する。図5は、第2実施形態に係るポリマ二次電池における電極群の一実施形態を示す模式断面図である。図5に示すように、第2実施形態におけるポリマ二次電池が第1実施形態におけるポリマ二次電池と異なる点は、電極群2Bが、バイポーラ電極16を備えている点である。すなわち、電極群2Bは、正極6と、第1の電解質層7と、バイポーラ電極16と、第2の電解質層7と、負極8とをこの順に備えている。
【0110】
バイポーラ電極16は、バイポーラ電極集電体17と、バイポーラ電極集電体17の負極8側の面に設けられた正極合剤層10と、バイポーラ電極集電体17の正極6側の面に設けられた負極合剤層12とを備えている。
【0111】
バイポーラ電極集電体17は、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン等で形成されていてもよい。バイポーラ電極集電体17は、具体的には、孔径0.1〜10mmの孔を有するアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等であってもよい。バイポーラ電極集電体17は、上記以外にも、電池の使用中に溶解、酸化等の変化を生じないものであれば、任意の材料で形成されていてよく、また、その形状、製造方法等も制限されない。
【0112】
バイポーラ電極集電体17の厚さは、10μm以上、15μm以上、又は20μm以上であってもよい。バイポーラ電極集電体17の厚さは、100μm以下、80μm以下、又は60μm以下であってもよい。
【0113】
続いて、第2実施形態に係る二次電池の製造方法について説明する。本実施形態に係る二次電池の製造方法は、正極集電体9上に正極合剤層10を形成して正極6を得る第1の工程と、負極集電体11上に負極合剤層12を形成して負極8を得る第2の工程と、バイポーラ電極集電体17の一方の面に正極合剤層10を形成し、他方の面に負極合剤層12を形成してバイポーラ電極16を得る第3の工程と、正極6とバイポーラ電極16との間及び負極8とバイポーラ電極16との間に電解質層7を設ける第4の工程と、を有する。
【0114】
第1の工程及び第2の工程は、第1実施形態における第1の工程及び第2の工程と同様の方法であってもよい。
【0115】
第3の工程において、バイポーラ電極集電体17の一方の面に正極合剤層10を形成する方法は、第1実施形態における第1の工程と同様の方法であってもよい。バイポーラ電極集電体17の他方の面に負極合剤層12を形成する方法は、第1実施形態における第2の工程と同様の方法であってもよい。
【0116】
第4の工程のうち正極6とバイポーラ電極16との間に電解質層7を設ける方法としては、一実施形態において、電解質層7は、例えば、基材上にポリマ電解質組成物を含むポリマ電解質シートを製造することにより形成される。ポリマ電解質シートの製造方法は、第1実施形態におけるポリマ電解質シート13A,13Bの製造方法と同様の方法であってもよい。
【0117】
第4の工程において、負極8とバイポーラ電極16との間に電解質層7を設ける方法は、上述した正極6とバイポーラ電極16との間に電解質層7を設ける方法と同様の方法であってもよい。
【0118】
正極6の正極合剤層10上及びバイポーラ電極16の負極合剤層12上に電解質層7を塗布により形成する方法は、第1実施形態における第3工程の一実施形態に係る、正極合剤層10上に電解質層7を塗布により形成する方法及び負極合剤層12上に電解質層7を塗布により形成する方法と同様の方法であってもよい。
【0119】
第4の工程のうち正極6とバイポーラ電極16との間に電解質層7を設ける方法としては、他の実施形態において、電解質層7は、正極6の正極合剤層10側及びバイポーラ電極16の負極合剤層12側の少なくともいずれか一方に塗布により形成され、好ましくは正極6の正極合剤層10側及びバイポーラ電極16の負極合剤層12側の両方に塗布により形成される。この場合、例えば、電解質層7が設けられた正極6と、電解質層7が設けられたバイポーラ電極16とを、電解質層7同士が接するようにラミネートにより積層する。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0121】
[ポリマの合成]
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマは、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)クロライドの対アニオンClを[TFSI]に変換することによって合成した。
【0122】
まず、[P(DADMA)][Cl]水溶液(20質量%水溶液、Aldrich社製)100質量部を、蒸留水500質量部で希釈し、希釈ポリマ水溶液を作製した。次に、Li[TFSI](キシダ化学株式会社製)43質量部を水100質量部に溶解し、Li[TFSI]水溶液を作製した。これを希釈ポリマ水溶液に滴下し、2時間撹拌することによって白色析出物を得た。析出物をろ過によって分離し、400質量部の蒸留水で洗浄後、再度ろ過を行った。洗浄及びろ過は5回繰り返した。その後、105℃の真空乾燥によって水分を蒸発させ、[P(DADMA)][TFSI]を得た。[P(DADMA)][TFSI]の粘度平均分子量は、2.11×10g・mol−1であった。
【0123】
粘度平均分子量Mvは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を標準物質として用いて、ウベローデ粘度計を使用して25℃におけるポリマの粘度[η]を測定した後、[η]=KMv(ここで、Kは拡張因子を示し、その値は、温度、ポリマ、及び溶媒性質に依存する。)に基づき、算出した。
【0124】
(実施例1)
[ポリマ電解質シートの調製]
表1に示すように、得られたポリマ8質量部に対して、電解質塩としてLi[TFSI]を2質量部、溶融塩として[Py12][TFSI](関東化学株式会社製、融点:90℃)を10質量部(組成物中の溶融塩の含有量:50質量%)、及び分散媒としてアセトンを16質量部加えて撹拌し、スラリを調製した。スラリをドクターブレード法にて、ギャップ100μmでアルミニウム箔上に塗布し、40℃で2時間乾燥させ、アセトンを揮発させた。その後、60℃で1.0×10Pa以下(0.1気圧以下)の減圧下で10時間乾燥し、厚さ28μmのポリマ電解質シートを得た。
【0125】
[質量残存率の測定]
60℃の減圧乾燥(1.0×10Pa以下(0.1気圧以下)の減圧下で10時間)前後のポリマ電解質シートの質量変化を測定し、ポリマ電解質シートの質量残存率を算出した。質量残存率は下記式に基づき算出した。結果を表2に示す。
質量残存率[質量%]=[乾燥後のポリマ電解質組成物の質量[g]/(乾燥前のポリマ電解質組成物の質量[g]−乾燥前のポリマ電解質組成物に含まれる揮発成分(分散媒)の質量[g])]×100
【0126】
乾燥前のポリマ電解質組成物には、アセトン、水等の揮発成分がポリマに残存している可能性があるため、上記測定においては、乾燥前のポリマ電解質組成物の質量からポリマに残存するアセトン、水等の揮発成分の質量を差し引いたものを基準として、質量残存率を求めた。上記「乾燥前のポリマ電解質組成物に含まれる揮発成分(分散媒)の質量」は、溶融塩を用いなかった以外は実施例1と同様にして作製したポリマ電解質組成物について、60℃の減圧乾燥を行い、その前後の質量変化から求めた。
【0127】
[自立シート形成性の評価]
実施例1で得られたアルミニウム箔上に形成されたポリマ電解質シートを、アルミニウム箔から剥離してポリマ電解質シートの自立性を検証した。評価には、20cm角のアルミニウム箔に形成されたポリマ電解質シートを用いた。ポリマ電解質シートを、10cm角より大きなサイズで剥離できたものをA、5cm角〜10cm角のサイズで剥離できたものをB、5cm角未満のサイズで剥離できたものをCと評価した。結果を表2に示す。
【0128】
[イオン伝導度の測定]
実施例1で得られたポリマ電解質シートをアルミニウム箔で挟み、φ16mmに打ち抜いてイオン伝導度測定用試料を作製した。この試料を、2極式の密閉セル(HSセル、宝泉株式会社製)内に配置し、交流インピーダンス測定装置(1260型、Solartron社製)を用いて測定した。恒温槽中にて−5℃〜70℃まで15℃間隔で調整し、10mVで1Hz〜2MHzの範囲で交流インピーダンスを測定した。ナイキストプロットの実軸との交点から抵抗値を算出し、抵抗値からイオン伝導度を算出した。25℃又は55℃におけるイオン伝導度の結果を表2に示す。なお、密閉セルへの試料の配置は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0129】
[電池の作製]
LiFePO(正極活物質)90質量部、アセチレンブラック(導電剤、商品名:HS−100、平均粒径48nm(製造元カタログ値)、電気化学工業株式会社)5質量部、ポリフッ化ビニリデン溶液(バインダ、商品名:クレハKFポリマ#7305、固形分5質量%、株式会社クレハ)100質量部及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)28質量部を混合して正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストを正極集電体(厚さ20μmのアルミニウム箔)上の両面に塗布し、120℃で乾燥後圧延して、片面厚さ91μm、片面塗布量50g/m、合剤密度1.8g/cmの正極活物質層を形成し、正極を作製した。正極は試験用のコイン型電池作製のため、φ15mmに打ち抜いたものを用意した。
【0130】
負極として、リチウム箔をφ16mmに打ち抜いたものを準備した。正極、ポリマ電解質シート、リチウム箔の順に重ね、CR2032型のコインセル容器内に配置した。このとき、リチウム箔が負極活物質として、コインセル容器のステンレス鋼が負極集電体として作用する。絶縁性のガスケットを介して電池容器上部をかしめて密閉することによって、リチウムポリマ二次電池を得た。
【0131】
[電池性能の評価]
上記の方法で作製したリチウムポリマ二次電池を用いて、電池性能の評価を行った。充放電装置(東洋システム株式会社、商品名:TOSCAT−3200)を用いて、25℃又は55℃において、0.05Cで充放電測定を実施し、3サイクル目の放電容量について、下記式に基づき、設計容量比を算出した。結果を表2に示す。なお、Cは「電流値[A]/設計理論容量[Ah]」を意味し、1Cは電池を1時間で満充電又は満放電するための電流値を示す。
設計容量比[%]=(放電容量[mAh]/電池設計容量[mAh])×100
【0132】
(実施例2)
溶融塩の含有量を10質量部から4.3質量部(組成物中の溶融塩の含有量:30質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0133】
(実施例3)
溶融塩の含有量を10質量部から2.5質量部(組成物中の溶融塩の含有量:20質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0134】
(実施例4)
溶融塩の含有量を10質量部から1.1質量部(組成物中の溶融塩の含有量:10質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0135】
(実施例5)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[EMI][TFSI](関東化学株式会社製、融点:−15℃)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0136】
(実施例6)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[EMI][TFSI]に変更した以外は、実施例2と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0137】
(実施例7)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[EMI][TFSI]に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0138】
(実施例8)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[EMI][TFSI]に変更した以外は、実施例4と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0139】
(実施例9)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[DEME][TFSI](関東化学株式会社製、融点:−83℃)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0140】
(実施例10)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[DEME][TFSI]に変更した以外は、実施例2と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0141】
(実施例11)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[DEME][TFSI]に変更した以外は、実施例3と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0142】
(実施例12)
溶融塩を[Py12][TFSI]から[DEME][TFSI]に変更した以外は、実施例4と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0143】
(比較例1)
溶融塩である[Py12][TFSI]から有機溶媒であるジメチルカーボネート(DMC)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0144】
(比較例2)
ポリマを用いなかった以外は実施例1と同様にしてポリマ電解質シートを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
一般式(1)で表される構造単位を有するポリマ及び融点が250℃以下である溶融塩を含有する実施例1〜12のポリマ電解質組成物は、室温においても優れた高いイオン伝導度を有し、基材等がなくともシート自身でその形を保持することが可能であった。また、実施例1〜12のポリマ電解質組成物は、60℃で1.0×10Pa以下(0.1気圧以下)の減圧下で10時間乾燥しても、質量がほとんど減少せず、熱安定性の高い材料であることが判明した。これに対して、DMCを用いた比較例1のポリマ電解質組成物は、60℃で1.0×10Pa以下(0.1気圧以下)の減圧下で10時間乾燥すると、大部分のDMCが揮発し、イオン伝導度が大きく低下した。また、一般式(1)で表される構造単位を有するポリマを有しない比較例2のポリマ電解質組成物は、実施例と比較して、シートの自立性の点において、充分ではなかった。なお、比較例2では、シートの自立性が充分でないことから、イオン伝導度の測定及び電池性能の評価は行わなかった。これらの結果から、本発明のポリマ電解質組成物が、室温においても優れた高いイオン伝導度を有し、自立性の高いシートを作製することが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明によれば、有機溶媒を用いなくとも、室温において優れたイオン伝導度を有し、基材等がなくともシート自身でその形を保持することができる自立性の高いシートを作製することが可能なポリマ電解質組成物が提供される。また、本発明によれば、このようなポリマ電解質組成物を用いたポリマ二次電池が提供される。
【符号の説明】
【0149】
1…ポリマ二次電池、2,2A,2B…電極群、3…電池外装体、4…正極集電タブ、5…負極集電タブ、6…正極、7…電解質層、8…負極、9…正極集電体、10…正極合剤層、11…負極集電体、12…負極合剤層、13A,13B…ポリマ電解質シート、14…基材、15…保護材、16…バイポーラ電極、17…バイポーラ電極集電体。
図1
図2
図3
図4
図5