(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記単位空間において算出した前記単位空間外ロットの特徴量のマハラノビス距離と、前記単位空間において算出した前記単位空間内ロットの特徴量のマハラノビス距離との差が所定値以上となるように、前記単位空間内ロットと前記単位空間外ロットとを区分する、請求項4に記載の状態判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(一実施形態に係る状態判定システム1の概要)
本開示の一実施形態に係る状態判定システム1(
図1参照)又は状態判定装置50(
図1参照)は、製品を製造する工場等に設置される加工装置10(
図1又は
図2参照)の状態を判定する。加工装置10は、製品を製造する少なくとも一部の工程において、受け入れた部材を加工し、加工製品として払い出す。
【0010】
加工装置10は、加工中に故障して停止することがある。この場合、加工中だった加工製品が不良品になる。不良品の発生は、工場の損失となる。また、加工装置10の復旧作業にかかる工数は、加工装置10の保全作業にかかる工数よりも多い。よって、加工装置10の加工中の故障は、工場の損失を増加させる。
【0011】
本開示の一実施形態に係る状態判定システム1又は状態判定装置50は、加工装置10が加工中に故障する前に、故障する可能性を判定して加工装置10の停止又は保全作業を促す。このようにすることで、加工装置10に起因する損失が小さくされ得る。
【0012】
以下、一実施形態に係る状態判定システム1及び状態判定装置50の構成例が説明される。
【0013】
(システムの構成例)
図1に示されるように、一実施形態に係る状態判定システム1は、状態判定装置50と、センサ60とを備える。センサ60は、加工装置10の状態に関する種々のデータを測定し出力する。
【0014】
状態判定装置50は、制御部51と、出力部53と、入力部54とを備える。制御部51は、状態判定装置50の種々の機能を実行するための制御及び処理能力を提供する。制御部51は、後述するように、加工装置10の状態が異常状態であるか判定する。
【0015】
制御部51は、少なくとも1つのプロセッサを含んでよい。プロセッサは、制御部51の種々の機能を実現するプログラムを実行しうる。プロセッサは、単一の集積回路として実現されてよい。集積回路は、IC(Integrated Circuit)とも称される。プロセッサは、複数の通信可能に接続された集積回路及びディスクリート回路として実現されてよい。プロセッサは、他の種々の既知の技術に基づいて実現されてよい。
【0016】
制御部51は、記憶部を備えてよい。記憶部は、磁気ディスク等の電磁記憶媒体を含んでよいし、半導体メモリ又は磁気メモリ等のメモリを含んでもよい。記憶部は、非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体を含んでよい。記憶部は、各種情報及び制御部51で実行されるプログラム等を格納する。記憶部は、制御部51のワークメモリとして機能してよい。記憶部の少なくとも一部は、制御部51とは別体として構成されてもよい。
【0017】
制御部51は、センサ60から測定データを取得する。制御部51は、例えばRS485等の規格に基づいてセンサ60から測定データを取得してよい。制御部51は、例えばLAN(Local Area Network)等の通信インターフェースを介してセンサ60に接続されてよい。制御部51は、上述の例に限られず、種々の方式でセンサ60に接続されてよい。
【0018】
出力部53は、制御部51から取得した情報を出力する。出力部53は、加工装置10のオペレータ又は保全担当者に情報を通知するように出力してよい。出力部53は、表示デバイスを備えてよい。表示デバイスは、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイ又は無機ELディスプレイ等を含んでよいが、これらに限られず、他のデバイスを含んでもよい。出力部53は、制御部51から取得した情報を、表示デバイスに文字又は画像等として表示し、情報を周囲に報知してよい。
【0019】
出力部53は、LED(Light Emission Diode)又はハロゲンランプ等の光源を備えてよい。出力部53は、制御部51から取得した情報に基づいて光源を点灯又は点滅させることによって、周囲にいるオペレータ又は保全担当者等に情報を通知してよい。出力部53は、圧電ブザー若しくは電磁ブザー等のブザー、又は、所定の音声を発するスピーカ等を備えてよい。出力部53は、制御部51から取得した情報に基づいてブザーを鳴動させたりスピーカから音声を発生させたりすることによって、周囲にいるオペレータ又は保全担当者等に情報を通知してよい。
【0020】
出力部53は、情報を加工装置10に出力してもよい。出力部53は、加工装置10と通信可能に接続されるように通信モジュールを備えてもよい。
【0021】
入力部54は、状態判定装置50を管理するオペレータ又は保全担当者等による操作又は入力を受け付けるための入力デバイスを備える。入力デバイスは、例えば、キーボード又は物理キーを含んでもよいし、タッチパネル若しくはタッチセンサ又はマウス等のポインティングデバイスを含んでもよい。入力デバイスは、タッチパネル又はタッチセンサである場合、出力部53のディスプレイと一体に構成されてもよい。入力デバイスは、例えば、音声の入力を受け付けるマイク等を含んでもよい。入力部54は、入力デバイスとして、これらの例に限られず、他の種々のデバイスを含んでもよい。
【0022】
(加工装置10の具体例:ワイヤーソー装置)
本実施形態において、加工装置10は、ワイヤーソー装置であると仮定する。ワイヤーソー装置としての加工装置10は、
図2に示されるように、ワイヤー12を複数のローラ14間に並列かつ往復走行可能に張り渡したワイヤー群16を備える。加工装置10は、ワークWを保持し、ワイヤー群16に対しワークWを押し込む方向に移動させるワーク保持機構18を備える。加工装置10は、ワイヤー群16の、ワークWが押し込まれる領域にスラリーを供給する一対のノズル20を備える。加工装置10は、ワークWをワイヤー群16によって切断する。ワークWは、シリコン等のブロック(ブロック状に切り出された単結晶インゴット)であるとする。加工装置10は、ワークWを切断して得られるシリコン等のスライスドウェーハを加工製品として払い出す。
【0023】
ワイヤー12は、一組のワイヤーリール38A及び38Bに巻き付けられている。ワイヤー12は、一方のワイヤーリール38Aから、ガイドローラ32及びローラ14等を経て他方のワイヤーリール38Bまで張られている。
【0024】
ワイヤーリール38A及び38Bはそれぞれ、駆動モータ36によって回転する。駆動モータ36が駆動してワイヤーリール38A及び38Bを回転させることで、ワイヤー12は、一方のワイヤーリール38Aから繰り出され、ガイドローラ32及びローラ14等を経て他方のワイヤーリール38Bまで走行できる。ワイヤー12は、ダンサアーム33及びダンサローラ34等を含む張力付与手段を経て走行する。ワイヤー12が張力付与手段を経て走行することによって、ワイヤー12に張力が付与される。ワイヤー12は、タッチローラ35を経て走行する。タッチローラ35は、ワイヤーリール38A及び38Bから繰り出されたり、ワイヤーリール38A及び38Bに巻き取られたりする際に移動するワイヤー12の位置に追従する。
【0025】
ワイヤー12は、複数のローラ14を跨って複数回にわたって螺旋状に巻回されている。螺旋状に巻回されたワイヤー12は、ローラ14間でローラ軸方向Xに直交する方向に並列に並ぶワイヤー群16を構成している。ローラ14は、鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂が圧入され、その表面に一定のピッチで溝が切られた構成となっているとする。ワイヤー12がローラ14の表面に切られた溝にはめ込まれることによって、ワイヤー群16は、安定して走行できる。
【0026】
ワイヤー12の走行方向は、駆動モータ36の回転方向によって制御される。ワイヤー12は、一方向に走行するように制御されることも、必要に応じて往復走行するように制御されることもできる。ワイヤー12に付与される張力の大きさは、適宜設定されてよい。ワイヤー12の走行速度は、適宜設定されてよい。
【0027】
ノズル20からワイヤー群16に供給されるスラリーは、スラリータンク40に貯蔵されており、スラリータンク40からスラリーを調温するスラリーチラー42を介してノズル20へと送り込まれる。
【0028】
ワイヤーソー装置から払い出された加工製品としてのスライスドウェーハは、研磨等の工程で更に加工され、最終製品のウェーハとして出荷される。
【0029】
(状態判定装置50の構成例)
以下、状態判定装置50が加工装置10の状態が異常状態か判定するための構成例が説明される。以下の説明において、加工装置10は、ワイヤーソー装置であるとする。
【0030】
<ワイヤーソー装置の異常状態について>
ワイヤーソー装置の異常状態は、ワイヤーソー装置がブロックの切断中に停止してしまう可能性がある程度高くなっている状態に対応する。ワイヤーソー装置は、ワイヤー12が断線して停止することがある。ワイヤーソー装置は、ワイヤー12が断線せずに停止することもある。
【0031】
ワイヤーソー装置が停止に至る原因として、種々の要因が考えられる。既知の要因として例えば以下の要因が考えられる。例えば、スラリーの供給に異常が生じた場合に、ワイヤー12が断線しやすくなることがある。例えば、ワイヤー12の断線を検知するセンサにスラリーが付着することでワイヤーソー装置がワイヤー12の断線を誤検知して停止することがある。例えば、スラリータンク40のスラリーの量又は温度の異常によってワイヤーソー装置が停止することがある。一方で、既知の要因に当てはまらない未知の要因でワイヤーソー装置が停止することもある。
【0032】
状態判定装置50の制御部51は、ワイヤーソー装置から得られる種々のデータ項目の測定値を取得する。ワイヤーソー装置から得られるデータ項目は、例えば、スラリー流量、ワイヤーテンション、又は冷却水流量等を含む。ワイヤーソー装置から得られるデータ項目は、これらの例に限られず、他の種々の項目を含み得る。
【0033】
ワイヤーソー装置は、1つのブロックを切断してスライスドウェーハにする処理を、1ロットの処理として実行する。制御部51は、各データ項目について、1ロットの処理の間に複数の測定値を取得できる。ワイヤーソー装置は、所定の時間をかけて1つのブロックを複数枚のスライスドウェーハに切断する。つまり、1ロットの処理に所定の時間がかかる。制御部51は、1ロットの処理の間に、例えば15秒毎に各データ項目の測定値を取得してよい。そうすると、制御部51は、1ロットの処理の間に、各データ項目について複数の測定値を取得できる。制御部51は、各ロットの処理中に取得された複数の測定値の平均値及び標準偏差を算出する。各ロットの複数の測定値の平均値及び標準偏差は、ロットの特徴量とも称される。各データ項目の測定値に基づいて算出されたロットの特徴量は、単に、各データ項目のロットの特徴量とも称される。
【0034】
制御部51は、ワイヤーソー装置の各データ項目のロットの特徴量に基づいて、ワイヤーソー装置が停止する確率が低い状態であるか、ワイヤーソー装置が停止する可能性が高い状態であるか判定する。ワイヤーソー装置が停止する確率が低い状態は、正常状態とも称される。ワイヤーソー装置が停止する可能性が高い状態は、異常状態とも称される。
【0035】
<MT法(マハラノビス−田口法)について>
ワイヤーソー装置の状態は、1ロットの処理を実行するたびに判定されてよい。ワイヤーソー装置の状態は、ワイヤーソー装置の1つのデータ項目だけに着目して判定されることがある。この場合、1つのデータ項目のロットの特徴量の分布が正規分布に従うという仮定の下で、ワイヤーソー装置でロットを処理した際に得られるロットの特徴量が異常値であるか判定され得る。あるロットの特徴量が異常値であると判定された場合、ワイヤーソー装置は、次のロットの処理中に停止する可能性が高くなっていると判定され得る。つまり、ワイヤーソー装置の状態は、異常状態であると判定され得る。
【0036】
ワイヤーソー装置から得られるデータ項目の数が多い場合、ワイヤーソー装置の状態は、複数のデータ項目に基づいて判定されてよい。この場合、複数のデータ項目それぞれのロットの特徴量の分布は、多変量正規分布に従うとみなされてもよい。制御部51は、多変量解析手法の一つであるMT法(マハラノビス−田口法)に基づいて、各データ項目のロットの特徴量が異常値であるか判定し、ロットの特徴量が異常値である場合にそのロットを処理したときのワイヤーソー装置の状態が異常状態であると判定してよい。
【0037】
制御部51は、ワイヤーソー装置の状態が正常な状態である場合に得られる、複数のデータ項目それぞれのロットの特徴量に基づいて、単位空間を生成する。単位空間は、各データ項目のロットの特徴量の分布を特定する数式として表される。具体的には、制御部51は、各データ項目のロットの特徴量を正規化し、データ項目間の相関係数を要素として含む相関係数行列を生成し、相関係数行列の逆行列を算出することによって、単位空間を表す数式を生成できる。つまり、単位空間は、相関係数行列の逆行列によって特定される。
【0038】
単位空間は、ワイヤーソー装置の状態が正常な状態である場合に処理したロットの特徴量の分布の特徴を表す。単位空間は、ワイヤーソー装置で正常に切断されたロット集団の特徴を表すともいえる。単位空間は、加工装置10で正常に処理されたロット集団の特徴を表すともいえる。制御部51は、単位空間を表す数式に基づいて、ワイヤーソー装置から得られた複数のデータ項目それぞれの特徴量を1組とするデータのマハラノビス距離(Maharanobis Distance:MD)を算出できる。MDは、品質工学の分野で一般的に用いられる概念であり、例えば以下の文献で説明されている。
文献:救仁郷 誠、「マハラノビスの距離入門」、品質工学会学会誌「品質工学」、Vol.9、No.1、p.13-19
【0039】
MDは、ワイヤーソー装置の状態が不明である場合に処理したロットの特徴量が、ワイヤーソー装置の状態が正常な状態である場合に処理したロットの特徴量の分布に対してどの程度近いかを表す指標である。ロットの特徴量から算出されるMDが小さいほど、そのロットの特徴量は、ワイヤーソー装置の状態が正常な状態である場合に処理したロットの特徴量である可能性が高いといえる。逆に、ロットの特徴量から算出されるMDが大きいほど、そのロットの特徴量は、ワイヤーソー装置の状態が異常な状態である場合に処理したロットの特徴量である可能性が高いといえる。
【0040】
したがって、制御部51は、新たに処理したロットの特徴量のMDを単位空間に基づいて算出することによって、そのロットの特徴量が得られたときのワイヤーソー装置の状態が正常であるか異常であるか判定できる。以下、単位空間を生成するために用いられる、過去の所定期間において処理したロットの特徴量を含むワイヤーソー装置のデータは、参照データとも称される。また、ワイヤーソー装置が新たにロットを処理する際に得られるデータであって、そのロットを処理しているときのワイヤーソー装置の状態を判定するために用いられるデータは、判定対象データとも称される。制御部51は、参照データに基づいて生成された単位空間において判定対象データのMDを算出し、ワイヤーソー装置の状態を判定する。制御部51は、参照データに基づいて単位空間を生成してもよいし、外部装置から単位空間に関する情報を取得してもよい。
【0041】
<原因データ項目に基づく単位空間の生成>
ワイヤーソー装置は、上述のとおり、種々の要因で停止に至る。ワイヤーソー装置が停止に至る要因は、ワイヤーソー装置のユーザにとって既知の要因と、未知の要因とを含み得る。既知の要因は、既知の故障モードとして分類されるとする。既知の故障モードは、既知モードとも称される。
【0042】
ワイヤーソー装置が停止する確率が高くなっている場合、停止を引き起こす要因に対応するデータ項目のロットの特徴量が異常値となっていることがある。制御部51は、ワイヤーソー装置の停止を引き起こす要因に対応するデータ項目のロットの特徴量が異常値であるか判定することで、ワイヤーソー装置の停止の可能性が高いか判定できる。ワイヤーソー装置の停止を引き起こす要因は、停止要因とも称される。停止要因に対応するデータ項目は、原因データ項目とも称される。ワイヤーソー装置の停止を引き起こす要因は、複数存在し得る。したがって、複数の停止要因それぞれに対応する原因データ項目が存在する。
【0043】
制御部51は、原因データ項目のロットの特徴量が異常値であるか判定するために、原因データ項目のロットの特徴量に基づく単位空間を生成してよい。単位空間は、外部装置で生成されてもよい。具体的には、制御部51は、参照データとして、ワイヤーソー装置が稼働を開始してから停止するまでに処理したロット毎に、複数のデータ項目それぞれの測定値を取得し、その測定値に基づいてロットの特徴量を算出する。制御部51は、取得した参照データのうち、ワイヤーソー装置の状態が正常であることが判明しているときに処理したロットの特徴量に基づいて単位空間を生成する。
【0044】
制御部51は、ワイヤーソー装置の状態を判定するために、判定対象データとして、ワイヤーソー装置が新たに処理したロットの、複数のデータ項目それぞれの測定値を取得し、その測定値に基づいてロットの特徴量を算出する。制御部51は、あらかじめ原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成した単位空間において、判定対象データとして取得したデータのうち原因データ項目のロットの特徴量のMDを、停止要因毎に算出する。制御部51は、算出したMDに基づいて、原因データ項目のロットの特徴量が異常値であるか判定できる。原因データ項目のロットの特徴量が異常値である場合、ワイヤーソー装置は次のロットの処理中に停止する可能性が高くなっていると判定され得る。つまり、判定対象データを取得した対象のロットを処理したときのワイヤーソー装置の状態は、異常状態であると判定され得る。
【0045】
ここで、単位空間が原因データ項目以外の、停止要因に対応しないデータ項目のロットの特徴量にも基づいて生成されると仮定する。停止要因に対応しないデータ項目は、非原因データ項目とも称される。単位空間が原因データ項目のロットの特徴量だけでなく非原因データ項目のロットの特徴量にも基づいて生成されている場合、その単位空間は、ワイヤーソー装置の停止に関係のない傾向も表すことになる。上述したとおり、単位空間は、各データ項目のロットの特徴量の相関関係に基づいて生成されている。そうすると、非原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成される単位空間は、原因データ項目のロットの特徴量だけに基づいて生成される単位空間に比べて、相関が小さい関係も含み、冗長である。冗長な単位空間において算出されるMDは、非原因データ項目のロットの特徴量の影響によって、原因データ項目のロットの特徴量の変化に対して鈍感となる。逆に言えば、原因データ項目だけに基づいて単位空間が生成されることで、制御部51は、その単位空間においてMDを算出することによって、原因データ項目のロットの特徴量の変化を高感度で検出できる。
【0046】
制御部51は、判定対象データとして、ワイヤーソー装置が1ロットを処理した際にそのロットの各データ項目の測定値を取得し、その測定値に基づいてロットの特徴量を算出する。制御部51は、生成した単位空間において、判定対象データに含まれる、原因データ項目のロットの特徴量のMDを算出する。制御部51は、算出したMDが閾値未満であった場合、ワイヤーソー装置が1ロットを処理した際の状態が正常状態であったと判定する。制御部51は、算出したMDが閾値以上であった場合、ワイヤーソー装置が1ロットを処理した際の状態が異常状態であったと判定する。
【0047】
<既知モードに対応する単位空間の生成>
ワイヤーソー装置の停止を引き起こす故障モードは、既知の故障モードを含んでもよいし、未知の故障モードを含んでもよい。以下、ワイヤーソー装置の停止を引き起こす故障モードは、少なくとも2つの既知モードを含むと仮定する。制御部51は、各既知モードに対応する原因データ項目に基づいて単位空間を生成する。単位空間は、既知モード毎に生成されてよい。単位空間は、既知モード毎に生成される場合、各既知モードに対応づけられる。
【0048】
制御部51は、各既知モードに対応する単位空間において、ワイヤーソー装置が1ロットを処理した際に得られる判定対象データに含まれる、各既知モードに対応する原因データ項目のロットの特徴量のMDを算出する。制御部51は、ある既知モードについて算出したMDが所定の閾値以上である場合、ワイヤーソー装置が次のロットを処理する際にその既知モードで停止する可能性が高いと判定する。所定の閾値は、各既知モードで同じ値に設定されてよいし、異なる値に設定されてもよい。
【0049】
ワイヤーソー装置の停止を引き起こす少なくとも2つの既知モードは、第1既知モードと第2既知モードとを含むとする。既知モードは、第1既知モード及び第2既知モードの2つだけに限られず、例えば第3既知モードを含んでもよい。また、「第1」及び「第2」等の識別子は、既知モードの優劣を表すものではないことに留意されたい。ワイヤーソー装置が第1既知モードで停止する要因に対応するデータ項目は、第1原因データ項目とも称される。制御部51は、第1原因データ項目のロットの特徴量に基づいて単位空間を生成する。第1原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成された単位空間は、第1単位空間とも称される。ワイヤーソー装置が第2既知モードで停止する要因に対応するデータ項目は、第2原因データ項目とも称される。制御部51は、第2原因データ項目のロットの特徴量に基づいて単位空間を生成する。第2原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成された単位空間は、第2単位空間とも称される。原因データ項目は、第1原因データ項目及び第2原因データ項目の2つだけに限られず、例えば第3既知モードで停止する要因に対応する第3原因データ項目を含んでもよい。単位空間は、第1単位空間及び第2単位空間の2つだけに限られず、例えば第3原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成された第3単位空間を含んでもよい。また、「第1」及び「第2」等の識別子は、原因データ項目又は単位空間の優劣を表すものではない。
【0050】
制御部51は、第1単位空間において、ワイヤーソー装置が1ロットを処理した際に得られる判定対象データに含まれる第1原因データ項目のロットの特徴量のMDを算出する。制御部51は、第2単位空間において、判定対象データに含まれる第2原因データ項目のロットの特徴量のMDを算出する。制御部51は、第1単位空間において算出したMDが所定の閾値以上であった場合、ワイヤーソー装置が第1既知モードで停止する可能性が高くなっていると判定してよい。制御部51は、第2単位空間において算出したMDが所定の閾値以上であった場合、ワイヤーソー装置が第2既知モードで停止する可能性が高くなっていると判定してよい。制御部51は、第1既知モード及び第2既知モードの一方のモードで停止する可能性が高くなっていると判定した場合、他方のモードについて判定しなくてもよい。制御部51は、少なくとも1つのモードで停止する可能性が高いと判定された場合でも、他のモードで停止する可能性が高くなっているか判定してもよい。仮に複数の故障モードで停止する可能性が高くなっていると判定された場合、ユーザは、対象となる故障モードについてまとめて保全作業を実施することができる。
【0051】
第1原因データ項目及び第2原因データ項目はそれぞれ、複数のデータ項目を含む。第1原因データ項目及び第2原因データ項目は、両方とも、他方の原因データ項目に含まれないデータ項目を含む。言い換えれば、第1原因データ項目と第2原因データ項目とは、互いに包含関係にならない。また、第1原因データ項目に含まれるデータ項目と、第2原因データ項目に含まれるデータ項目とは、完全同一とはならない。仮に、第1原因データ項目と第2原因データ項目とが包含関係にあったり完全同一になったりする場合、第1既知モードと第2既知モードとは、互いに独立な故障モードではなく、互いに関連する同種の故障モードであるともいえる。第1原因データ項目及び第2原因データ項目が両方とも他方の原因データ項目に含まれないデータ項目を含むことによって、制御部51は、互いに独立に発生する少なくとも2つの既知モードそれぞれを高精度で検出し得る。
【0052】
<単位空間の生成に用いられるデータ>
上述のとおり、制御部51は、参照データのうちワイヤーソー装置の状態が正常であった期間に処理したロットの原因データ項目のロットの特徴量に基づいて単位空間を生成する。以下、参照データに含まれるデータの一例が説明される。
【0053】
ワイヤーソー装置の状態は、ワイヤーソー装置の部品交換作業又は分解組み立て作業若しくは清掃作業等が行われた後に稼働を開始した後の数ロットから十数ロットの処理において、交換した部品又は組み立てた部品がまだスムーズに動作していない不安定な状態になり得る。その後、ワイヤーソー装置の状態は、部品がスムーズに動作し始めて、数十ロットから数百ロットの処理において安定な状態になり得る。さらに、ワイヤーソー装置の状態は、部品の劣化又はスラリーの堆積等による清掃状態の悪化によって故障確率が高まり、故障までの数ロットから数十ロットの処理において、不安定な状態になり得る。
【0054】
制御部51は、ワイヤーソー装置が稼働を開始してから停止するまでに処理した各ロットにおける各データ項目の測定値を取得し、その測定値に基づいて各ロットの特徴量を参照データとして算出する。各ロットの特徴量は、D1からDNまでのN個のデータ項目の測定値それぞれに基づいて算出される。
【0055】
図3の表に例示されるように、参照データとして算出されるロットの特徴量は、ロット及びデータ項目に対応づけられる。
図3の表の列は、D1からDNまでのN個のデータ項目を表す。
図3の表の行は、ロットを表す。ロットは、処理された時期に基づいてP1、P2及びP3の3つの期間に更に分けられる。P1は、ワイヤーソー装置の稼働再開後に処理したM1個のロットに対応する。P3は、ワイヤーソー装置が停止したロットの直前に処理したM3個のロットに対応する。P2は、P1及びP3に含まれないM2個のロットに対応する。P2は、ワイヤーソー装置の状態が安定な状態である間に処理したロットに対応するともいえる。
【0056】
制御部51は、期間P1において、M1個のロットそれぞれのデータ項目D1の測定値に基づいて、D1P1_1からD1P1_M1までのM1個のロットの特徴量を算出する。制御部51は、期間P1において、M1個のロットそれぞれのデータ項目DNの測定値に基づいて、DNP1_1からDNP1_M1までのM1個のロットの特徴量を算出する。制御部51は、期間P2において、M2個のロットそれぞれのデータ項目D1の測定値に基づいて、D1P2_1からD1P2_M2までのM2個のロットの特徴量を算出する。制御部51は、期間P2において、M2個のロットそれぞれのデータ項目DNの測定値に基づいて、DNP2_1からDNP2_M2までのM2個のロットの特徴量を算出する。制御部51は、期間P3において、M3個のロットそれぞれのデータ項目D1の測定値に基づいて、D1P3_1からD1P3_M3までのM3個のロットの特徴量を算出する。制御部51は、期間P3において、M3個のロットそれぞれのデータ項目DNの測定値に基づいて、DNP3_1からDNP3_M3までのM3個のロットの特徴量を算出する。
【0057】
図3の表に例示される参照データを取得する対象となったワイヤーソー装置は、期間P3の後のロットの処理中に既知モードで停止したとする。言い換えれば、期間P3のロットは、ワイヤーソー装置が既知モードで停止する前にワイヤーソー装置で処理された最後のM3個のロットに対応する。
【0058】
制御部51は、取得した参照データに含まれるロットの特徴量のうち、ワイヤーソー装置の状態が安定な状態になっている期間P2のロットの特徴量に基づいて単位空間を生成する。ここで、単位空間を生成するために用いられる期間P2の各ロットの特徴量から一部のロットの特徴量が除外されるとする。一部のロットの特徴量が除外される理由は後述される。生成された単位空間は、既知モードに対応づけられる。
【0059】
<MDに基づくワイヤーソー装置の状態判定>
制御部51は、ワイヤーソー装置のロット処理時の各データ項目のロットの特徴量を判定対象データとして取得し、あらかじめ参照データに基づいて生成しておいた単位空間において、判定対象データとして取得したロットの特徴量のMDを算出する。
【0060】
<<単位空間の妥当性の検証>>
ここで、単位空間は、ロットの特徴量のMDに基づいて、ワイヤーソー装置が安定な状態であるか、故障する可能性が高くなっている状態であるかを状態判定装置50が判定できるように生成される必要がある。つまり、ワイヤーソー装置が停止する可能性が高くなっている状態におけるロットの特徴量のMDが所定の閾値以上になるように、かつ、ワイヤーソー装置が安定な状態におけるロットの特徴量のMDが所定の閾値未満になるように、単位空間が生成される必要がある。
【0061】
生成した単位空間が上述の条件を満たすか確認するために、
図3に例示される参照データに含まれる各ロットの特徴量についてMDが算出された。
図4に、参照データに含まれる各ロットの特徴量について算出したMDの値を、ワイヤーソー装置で処理した順に並べた棒グラフが示される。各ロットの特徴量について算出したMDは、各ロットのMDとも称される。横軸は、ロットを表す。縦軸は、各ロットのMDの値を表す。横軸に沿って、ワイヤーソー装置の状態に基づいて分けられた期間P1、P2及びP3それぞれに含まれるロットの範囲が表示されている。期間P1に含まれるロットの数(M1)、期間P2に含まれるロットの数(M2)及び期間P3に含まれるロットの数(M3)は、それぞれ10ロット、143ロット及び40ロットである。期間P1、P2及びP3それぞれに含まれるロット数の比率は、全体のロット数に対して、約5%、約75%及び約20%となっている。各期間に含まれるロット数の比率は、この例に限られず、適宜変更されてよい。
【0062】
図4の最も右に示されている棒グラフは、ワイヤーソー装置が停止したときに処理していた停止ロット71のMDを表している。
図4のグラフにおいて、所定の閾値は、MD_Tで表されている。各ロットのMDの値を表す縦棒がMD_Tの値を表す破線より上まで伸びる場合、MDが所定の閾値より大きい。制御部51は、期間P2に含まれる各ロットのMDがMD_T未満となり、かつ、期間P3に含まれる少なくとも1つのロットのMDがMD_T以上となるようにMD_Tの値を設定する。MDがMD_T以上になったロットは、異常検出ロット72として表される。制御部51は、MD_Tをこのように設定することで、ワイヤーソー装置がロット処理中に停止して損失を発生させる前に、ワイヤーソー装置の状態が異常な状態であると判定できる。
【0063】
期間P2に含まれるロットのMDは、期間P1及びP3に含まれるロットのMDよりも小さくなる傾向にある。このようになる理由は、単位空間が期間P2に含まれるロットの特徴量に基づいて生成されているからである。単位空間を生成するために用いられる各ロットの特徴量は、各ロットの特徴量自身に合わせて単位空間を広げるように作用する。よって、ある単位空間において、その単位空間を生成するために用いられたロットの特徴量のMDを算出した場合、算出されたMDは、自然と小さい値になる。逆に、ある単位空間において、その単位空間を生成するために用いられていないロットの特徴量のMDを算出した場合、算出されたMDは、大きい値になる可能性が高くなる。言い換えれば、単位空間を生成するために用いられるロットの特徴量の分布が広いほど、生成される単位空間において算出されるMDが小さくなる。
【0064】
上述したように、単位空間を生成するために用いられる期間P2のロットの特徴量から一部のロットの特徴量が除外される。単位空間を生成するために用いられる特徴量を算出するために用いられる測定値を得たロットは、単位空間内ロット73と称されるとする。単位空間を生成するために用いられなかった特徴量を算出するために用いられる測定値を得たロットは、単位空間外ロット74と称されるとする。言い換えれば、単位空間は、単位空間内ロット73のロットの特徴量に基づいて、かつ、単位空間外ロット74のロットの特徴量に基づかずに生成される。上述したように単位空間を生成するために用いられたロットのMDは、自然と小さい値で算出される。よって、単位空間外ロット74のMDは、単位空間内ロット73のMDよりも大きい値になる傾向にある。
【0065】
ここで、単位空間外ロット74は、その測定値に基づいて算出された特徴量が単位空間を生成するために用いられていないものの、ワイヤーソー装置の状態が正常である期間P2に処理されたロットである。よって、単位空間外ロット74のMDが所定の閾値未満になるように、所定の閾値が設定される。仮に、単位空間外ロット74のMDが所定の閾値以上となるように設定された場合、ワイヤーソー装置の状態が正常状態であっても誤って異常状態と判定されやすくなる。したがって、制御部51は、所定の閾値を、単位空間外ロット74のMDより大きい値に設定することで、後述するワイヤーソー装置の状態判定において、ワイヤーソー装置の状態が正常であるにもかかわらず異常と判定してしまうことを避けやすくなる。また、既に閾値が設定されている場合には、単位空間から外したロット(単位空間外ロット74)のMDの値に基づいて、単位空間が適切に設定されているかが検証されることができる。
【0066】
以上述べてきたように、制御部51は、過去の所定期間においてワイヤーソー装置の稼働開始から停止までに処理した各ロットの特徴量に基づいて単位空間を生成する。つまり、制御部51は、ワイヤーソー装置が停止するタイミングが分かっている過去の処理ロットの特徴量を参照データとして取得し、参照データに基づいて単位空間を生成する。このようにして生成された単位空間において、制御部51は、ワイヤーソー装置で新たに処理したロットの特徴量を判定対象データとして取得し、そのロットのMDを算出し、ワイヤーソー装置の状態を判定できる。
【0067】
<<データ項目の選択の比較例>>
上述した妥当性の検証の対象となった単位空間は、既知モードに対する寄与度が大きいことがわかっている原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成された。ここで、比較例として、既知モードで停止するまでに処理したロットの各データ項目のうち、既知モードにほとんど寄与しない又は寄与度が小さいことがわかっている非原因データ項目に基づいて生成された単位空間において算出されたMDの値の例が説明される。
図5に、非原因データ項目に基づいて生成された単位空間において、各ロットのMDの値をワイヤーソー装置で処理した順に並べた棒グラフが示される。横軸及び縦軸の意味、並びに、期間P1、P2及びP3の意味に関する説明は、
図4と同じであり省略される。
【0068】
図5に例示される各ロットのMDの値を比較すると、期間P2における単位空間外ロット74のMDと、期間P3における各ロットのMDとの差が小さい。所定の閾値を表すMD_Tが低めに設定される場合、ワイヤーソー装置の状態が正常状態であるのに異常状態であると誤って判定される可能性が高まる。MD_Tが高めに設定される場合、ワイヤーソー装置が停止する可能性が高い異常状態であるにもかかわらず、異常状態であると判定されない可能性が高まる。ワイヤーソー装置の状態が異常状態であるにもかかわらず異常状態であると判定されなかった場合、ワイヤーソー装置が予防的に停止される機会を失い、ロット処理中に故障して停止してしまう可能性が高まる。
図5の例において、MD_Tがどのように設定されても、ワイヤーソー装置の状態を誤って判定する可能性が高まる。
【0069】
図4及び
図5の例に鑑みれば、期間P3における少なくとも一部のロットのMDから期間P2における単位空間外ロット74のMDを引いた値が所定値以上になることによって、ワイヤーソー装置の状態の判定精度が高められ得る。所定値は、適宜定められてよい。制御部51は、期間P2及びP3に含まれるロットのMDが上述の条件を満たすように、複数のデータ項目から原因データ項目を適宜選択し、原因データ項目に基づいて単位空間を生成できる。制御部51は、所定の閾値を、期間P3における少なくとも一部のロットのMDより小さく、かつ、期間P2における単位空間外ロット74のMDの最大値より大きい値に設定する。これによって、制御部51は、ワイヤーソー装置の状態が正常であるにもかかわらず異常と判定してしまうことを避けやすくなる。
【0070】
仮に、状態判定装置50が全てのデータ項目に基づく単位空間を生成する場合、その単位空間は、ワイヤーソー装置が停止する要因としてほとんど寄与しない又は寄与度が低い非原因データ項目にも基づいて生成されることになる。そうすると、全てのデータ項目に基づいて生成した単位空間において算出したロットのMDの値は、ワイヤーソー装置の状態の変化を反映しにくくなる。したがって、全てのデータ項目に基づいて生成した単位空間において算出したロットのMDの値に基づいてワイヤーソー装置の状態を判定する場合、判定精度は、
図5の例と同様に低くなり得る。
【0071】
<<生成された単位空間及び閾値に基づくワイヤーソー装置の状態判定>>
制御部51は、停止するタイミングが不明なワイヤーソー装置について、その装置がロットを処理する際に得られる測定値に基づいて算出される特徴量を判定対象データとして取得し、判定対象データに基づいてワイヤーソー装置が停止する可能性が高くなっているか判定する。
【0072】
具体的には、制御部51は、過去の処理ロットの特徴量に基づいて生成した単位空間において、新たに処理したロットのMDを算出する。制御部51は、算出したMDの値に基づいて、そのロットの次のロット以降の処理においてワイヤーソー装置が停止する可能性が高くなっているか判定する。
【0073】
制御部51は、MDが所定の閾値未満である場合、ワイヤーソー装置が停止する可能性が低い、つまり、そのロットの処理時におけるワイヤーソー装置の状態が正常状態であると判定する。制御部51は、MDが所定の閾値以上である場合、ワイヤーソー装置が停止する可能性が高い、つまり、そのロットの処理時におけるワイヤーソー装置の状態が異常状態であると判定する。
【0074】
制御部51は、ワイヤーソー装置の状態が異常状態であることを、出力部53に表示させたり音声で出力させたりしてユーザに通知してよい。ユーザは、通知に基づいてワイヤーソー装置に次のロットを処理させず、予防的に停止して保全作業を実施してよい。制御部51は、ワイヤーソー装置の状態が異常状態であることをワイヤーソー装置に出力してワイヤーソー装置を予防的に停止させてよい。
【0075】
<<既知モードに基づく異常状態の判定>>
制御部51は、ワイヤーソー装置が既知モードで停止したことが判明している場合において稼働開始から停止に至るまでに処理したロットの特徴量を参照データとして取得してよい。既知モードで停止するまでに処理したロットの特徴量を含むデータは、既知モードデータとも称される。制御部51は、既知モードデータに基づいて単位空間を生成してよい。既知モードデータに基づく単位空間は、既知モード単位空間とも称される。
【0076】
制御部51は、状態が不明のワイヤーソー装置が処理したロットのMDを、既知モード単位空間において算出する。制御部51は、既知モード単位空間において算出したロットのMDが所定の閾値以上である場合、ワイヤーソー装置が既知モードで停止する可能性が高くなっている異常状態であると判定してよい。ワイヤーソー装置が既知モードで停止する可能性が高くなっている異常状態は、既知モードに基づく異常状態とも称される。
【0077】
既知モードが第1既知モード又は第2既知モード等の複数の故障モードを含む場合、制御部51は、各故障モードで停止するまでに処理したロットのデータを含む参照データに基づいて、各故障モードに対応する単位空間を生成してよい。例えば、制御部51は、第1既知モードに対応する第1単位空間、又は、第2既知モードに対応する第2単位空間を生成してよい。制御部51は、各故障モードに対応する単位空間において、ワイヤーソー装置が処理したロットのMDを算出してよい。制御部51は、各故障モードに対応する単位空間において算出したロットのMDが所定の閾値以上である場合、ワイヤーソー装置が、MDが所定の閾値以上となった故障モードで停止する可能性が高くなっている異常な状態であると判定してよい。第1単位空間及び第2単位空間のMDの値を判定するための閾値は、それぞれ第1閾値及び第2閾値とも称される。第1閾値と第2閾値とは、互いに異なる値であってもよいし、互いに同一の値であってもよい。ワイヤーソー装置が第1既知モード及び第2既知モードで停止する可能性が高い状態は、それぞれ第1異常状態及び第2異常状態とも称される。閾値は、第1閾値及び第2閾値の2つだけに限られず、例えば第3単位空間のMDを判定するために設定される第3閾値を含んでもよい。異常状態は、第1異常状態及び第2異常状態の2つだけに限られず、例えば第3既知モードで停止する可能性が高い状態に対応する第3異常状態を含んでもよい。また、「第1」及び「第2」等の識別子は、閾値又は異常状態の優劣を表すものではないことに留意されたい。
【0078】
制御部51は、ワイヤーソー装置の状態が既知モードに基づく異常状態であるか又は第1異常状態若しくは第2異常状態であるか判定し、判定した結果を出力部53に出力させてよい。制御部51は、ワイヤーソー装置のオペレータ又は保全担当者等のユーザに、判定結果を通知してよい。ユーザは、通知された判定結果に基づいて、ワイヤーソー装置の点検作業、部品交換作業、又は修理作業等の種々の作業を実行する。これによって、ワイヤーソー装置がロット処理中に故障しないように、ユーザは、ワイヤーソー装置を適切に保全できる。
【0079】
<<原因不明の停止可能性の判定>>
制御部51は、ワイヤーソー装置が原因不明で停止した場合において稼働開始から停止に至るまでに処理したロットの特徴量を参照データとして取得してよい。原因不明で停止するまでに処理したロットの特徴量を含むデータは、原因不明データとも称される。制御部51は、原因不明データに基づいて単位空間を生成してよい。原因不明データに基づく単位空間は、原因不明単位空間とも称される。制御部51は、ワイヤーソー装置から得られる全てのデータ項目を選択して原因不明単位空間を生成してもよいし、一部のデータ項目を選択して原因不明単位空間を生成してもよい。
【0080】
制御部51は、状態が不明のワイヤーソー装置が処理したロットのMDを、原因不明単位空間において算出する。制御部51は、原因不明単位空間において算出したロットのMDが所定の閾値以上である場合、ワイヤーソー装置が原因不明で停止する可能性が高くなっている異常な状態であると判定してよい。原因不明単位空間において算出したロットのMDの値を判定するための閾値は、原因不明閾値とも称される。原因不明閾値は、既知モード単位空間において算出したロットのMDの値を判定するために用いられる所定の閾値、又は、第1閾値若しくは第2閾値等と同じ値に設定されるとするが、異なる値に設定されてもよい。
【0081】
制御部51は、ワイヤーソー装置が原因不明で停止する可能性が高くなっていると判定した場合、更に有効性解析を実行することによって、ワイヤーソー装置が停止する要因を絞り込んでよい。有効性解析は、原因単位空間を生成するために用いられたデータ項目のうちどのデータ項目がMDの値に大きく影響を及ぼしたかを解析することに対応する。制御部51は、有効性解析を、種々の手法で実行し得る。制御部51は、有効性解析によって、原因不明単位空間において算出されたロットのMDの値を大きくするデータ項目を決定できる。原因不明単位空間において算出されたロットのMDの値を大きくするデータ項目は、原因候補項目とも称される。有効性解析による原因候補項目の決定方法の具体例は後述される。
【0082】
制御部51は、原因候補項目を決定し、出力部53に出力させることによって、ワイヤーソー装置のオペレータ又は保全担当者等のユーザに原因候補項目を通知してよい。ユーザは、原因候補項目として決定されたデータ項目に基づいて、ワイヤーソー装置の点検作業、部品交換作業、又は修理作業等の種々の作業を実行する。これによって、ワイヤーソー装置がロット処理中に故障する前に、適切に保全され得る。
【0083】
<小括>
以上述べてきたように、本実施形態に係る状態判定システム1及び状態判定装置50によれば、ワイヤーソー装置等の加工装置10が故障する前に、加工装置10が故障する可能性が高まった異常状態であるか判定できる。このようにすることで、加工装置10が加工処理中に故障しにくくなる。加工装置10が加工処理中に故障した場合、大きな損失が生じる。加工装置10が加工処理中に故障しにくくなることによって、損失が低減され得る。
【0084】
(状態判定方法の手順例)
状態判定装置50の制御部51は、例えば
図6及び
図7に例示されるフローチャートの手順を含む状態判定方法を実行してよい。制御部51は、例示される状態判定方法を実行することによって、ワイヤーソー装置の状態が異常状態であるか判定できる。状態判定方法は、制御部51に実行させる状態判定プログラムとして実現されてもよい。
図6及び
図7に示される手順は一例であり、適宜変更されてよい。
【0085】
制御部51は、単位空間を生成する(ステップS1)。制御部51は、ワイヤーソー装置の参照データに基づいて単位空間を生成する。制御部51は、ワイヤーソー装置が既知モードで停止した場合に、停止するまでに処理したロットのデータとして得られる参照データに基づいて、その既知モードに対応する単位空間を生成してよい。制御部51は、ワイヤーソー装置が不明な原因で停止した場合に、停止するまでに処理したロットのデータとして得られる参照データに基づいて、原因不明の場合に対応する単位空間を生成してよい。
図7にサブルーチンとして、単位空間を生成する手順の一例が示されている。
【0086】
制御部51は、参照データを取得する(
図7のステップS11)。参照データは、ワイヤーソー装置が過去に停止するまで稼働したときに処理した各ロットの測定値に基づいて算出された特徴量を含む。制御部51は、ワイヤーソー装置が第1既知モード又は第2既知モード等の既知モードで停止するまでに処理したロットの特徴量を参照データとして取得してもよい。制御部51は、ワイヤーソー装置が不明な原因で停止するまでに処理したロットの特徴量を参照データとして取得してもよい。
【0087】
制御部51は、参照データの中から原因データ項目を選択する(ステップS12)。参照データは、ワイヤーソー装置から取得できる複数のデータ項目を含む。制御部51は、ワイヤーソー装置が停止した要因である所定の故障モードに対応するデータ項目を、原因データ項目として選択してよい。制御部51は、例えば、第1既知モード及び第2既知モードに対応するデータ項目を、それぞれ第1原因データ項目及び第2原因データ項目として選択してよい。制御部51は、ワイヤーソー装置が不明な原因で停止するまでに処理したロットの特徴量を参照データとして取得した場合、全ての原因データ項目を選択してもよい。
【0088】
制御部51は、参照データを、単位空間内ロット73のデータである単位空間内データと、単位空間外ロット74のデータである単位空間外データとに区分する(ステップS13)。
【0089】
制御部51は、単位空間内データに基づいて単位空間を生成する(ステップS14)。制御部51は、第1単位空間若しくは第2単位空間、又は、原因不明単位空間等を単位空間として生成してよい。
【0090】
制御部51は、生成した単位空間が妥当か判定する(ステップS15)。具体的には、制御部51は、生成した単位空間において、単位空間内ロット73のMDと単位空間外ロット74のMDとをそれぞれ算出する。制御部51は、例えば、単位空間内ロット73のMDと単位空間外ロット74のMDとの差が所定値以下である場合、生成した単位空間が妥当であると判定してよい。制御部51は、生成した単位空間が妥当ではないと判定した場合(ステップS15:NO)、ステップS13の手順に戻る。制御部51は、ステップS12の手順に戻ってもよい。制御部51は、生成した単位空間が妥当であると判定した場合(ステップS15:YES)、
図7に例示されるサブルーチン処理を終了して、
図6のステップS2の手順に戻る。
【0091】
制御部51は、
図7に例示される単位空間の生成手順のサブルーチン処理において、複数の既知モードに対応する単位空間を生成してよい。制御部51は、原因不明の停止に対応する原因不明単位空間を生成してもよい。
【0092】
図6のステップS1の手順として実行される
図7のサブルーチン処理から戻って、制御部51は、判定対象データを取得する(
図6のステップS2)。
【0093】
制御部51は、判定対象データに含まれるロットのMDを算出する(ステップS3)。制御部51は、ステップS1の手順で生成した複数の単位空間それぞれについて、判定対象データに含まれるロットのMDを算出してよい。制御部51は、第1単位空間において判定対象データに含まれるロットのMDを算出してよい。第1単位空間において算出された判定対象データに含まれるロットのMDは、第1単位空間のMDとも称される。制御部51は、第2単位空間において判定対象データに含まれるロットのMDを算出してよい。第2単位空間において算出された判定対象データに含まれるロットのMDは、第2単位空間のMDとも称される。制御部51は、原因不明単位空間において判定対象データに含まれるロットのMDを算出してよい。原因不明単位空間において算出された判定対象データに含まれるロットのMDは、原因不明単位空間のMDとも称される。
【0094】
制御部51は、第1単位空間のMDが第1閾値以上であるか判定する(ステップS4)。制御部51は、例えばステップS1の手順において第1単位空間を生成する際に、第1閾値を設定しておいてよい。第1閾値は、ワイヤーソー装置の状態が第1既知モードに基づく異常状態になっていることを検出しつつ、ワイヤーソー装置の状態が正常である場合に異常であると誤って検出されないように設定され得る。
【0095】
制御部51は、第1単位空間のMDが第1閾値以上である場合(ステップS4:YES)、ステップS8の手順に進む。制御部51は、第1単位空間のMDが第1閾値以上でない場合(ステップS4:NO)、つまり第1単位空間のMDが第1閾値未満である場合、第2単位空間のMDが第2閾値以上であるか判定する(ステップS5)。制御部51は、例えばステップS1の手順において第2単位空間を生成する際に、第2閾値を設定しておいてよい。第2閾値は、ワイヤーソー装置の状態が第2既知モードに基づく異常状態になっていることを検出しつつ、ワイヤーソー装置の状態が正常である場合に異常であると誤って検出されないように設定され得る。
【0096】
制御部51は、第2単位空間のMDが第2閾値以上である場合(ステップS5:YES)、ステップS8の手順に進む。制御部51は、第2単位空間のMDが第2閾値以上でない場合(ステップS5:NO)、つまり第2単位空間のMDが第2閾値未満である場合、原因不明単位空間のMDが原因不明閾値以上であるか判定する(ステップS6)。制御部51は、例えばステップS1の手順において原因不明単位空間を生成する際に、原因不明閾値を設定しておいてよい。原因不明閾値は、ワイヤーソー装置の状態が原因不明の異常状態になっていることを検出しつつ、ワイヤーソー装置の状態が正常状態である場合に異常状態であると誤って検出されないように設定され得る。
【0097】
制御部51は、原因不明単位空間のMDが原因不明閾値以上でない場合(ステップS6:NO)、つまり原因不明単位空間のMDが原因不明閾値未満である場合、
図6のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0098】
制御部51は、原因不明単位空間のMDが原因不明閾値以上である場合(ステップS6:YES)、ワイヤーソー装置が停止する可能性を高めている要因に対応するデータ項目である原因候補項目を決定する(ステップS7)。制御部51は、有効性解析によって原因候補項目を決定してよい。有効性解析の具体例は後述される。
【0099】
制御部51は、ステップS7の手順の後に、又は、ステップS4又はS5の手順においてMDが閾値以上であると判定された場合に、ワイヤーソー装置を予防的に停止させる(ステップS8)。このようにすることで、加工装置10としてのワイヤーソー装置は、故障して停止する前に点検作業、部品交換作業、又は修理作業等によって保全され得る。
【0100】
以上述べてきた状態判定方法によれば、加工装置10としてのワイヤーソー装置が故障する前に、ワイヤーソー装置の状態が異常状態であるか判定できる。このようにすることで、加工装置10としてのワイヤーソー装置がロット処理中に故障して停止にくくなる。加工装置10がロット処理中に故障した場合、処理中のロットが廃棄処分になる等の大きな損失が生じる。加工装置10がロット処理中に故障して停止しにくくなることによって、損失が低減され得る。
【0101】
(他の実施形態)
以下、他の実施形態として、上述してきた実施形態の少なくとも一部の構成に関する変形例、又は、追加若しくは削除され得る構成例が説明される。
【0102】
<単位空間の生成のためのデータ項目の選択>
上述したように、ワイヤーソー装置の停止の要因としてほとんど寄与しない又は寄与度が低い非原因データ項目のロットの特徴量に基づいて単位空間が生成される場合、その単位空間において算出されるロットのMDとワイヤーソー装置の停止の可能性との間の相関が低くなる。つまり、このような単位空間は、ワイヤーソー装置の停止の要因としての寄与度が高い原因データ項目のロットの特徴量に基づいて生成された単位空間に比べて冗長なものとなっている。冗長な単位空間で算出されるMDは、停止の要因と関係が深い原因データ項目のロットの特徴量の変化に対して鈍感となる。逆に言えば、状態判定装置50の制御部51は、停止の各要因と関係が深い原因データ項目のロットの特徴量に基づいて単位空間を生成することで、その単位空間で算出するロットのMDに基づいて、原因データ項目のロットの特徴量の変化を高感度で検出できる。制御部51は、原因データ項目のロットの特徴量の変化を高感度で検出することによって、ワイヤーソー装置の状態を高精度で判定できる。
【0103】
制御部51は、ワイヤーソー装置の停止の要因としての寄与度が高い原因データ項目を、ユーザが入力部54から入力する内容に基づいて、複数のデータ項目の中から選択してもよい。
【0104】
制御部51は、参照データの複数のデータ項目の中から種々の組み合わせでデータ項目を選択して、選択したデータ項目のロットの特徴量に基づく仮の単位空間を生成してもよい。制御部51は、仮の単位空間において参照データの各ロットのMDを算出する。制御部51は、参照データの期間P3のロットのMDと期間P2のロットのMDとの差が所定値以上であるか判定する。制御部51は、期間P3のロットのMDと期間P2のロットのMDとの差が所定値以上である場合、仮の単位空間を、ワイヤーソー装置の状態を判定するための単位空間として採用してよい。制御部51は、データ項目の種々の組み合わせで期間P3のロットのMDと期間P2のロットのMDとの差を算出し、差が最大になる場合のデータ項目の組み合わせを原因データ項目として、その原因データ項目に基づいて単位空間を生成してもよい。
【0105】
<有効性解析による原因候補項目の決定>
制御部51は、例えば以下に説明される処理を実行することによって、原因候補項目を決定してよい。
【0106】
制御部51は、複数のデータ項目の中から評価対象とするデータ項目を決定する。評価対象とするデータ項目は、評価対象項目とも称される。制御部51は、評価対象項目を含まないデータ項目のロットの特徴量に基づく単位空間を生成する。評価対象項目を含まないデータ項目のロットの特徴量に基づく単位空間は、評価対象単位空間とも称される。制御部51は、評価対象単位空間においてロットのMDを算出する。制御部51は、原因不明単位空間において算出したロットのMDと評価対象単位空間において算出したロットのMDとの差を、評価対象項目のMD貢献度として算出する。MD貢献度は、評価対象項目がMDに及ぼす影響の大きさを表す。
【0107】
制御部51は、評価対象項目のMD貢献度が所定値以上である場合に、その評価対象項目を、原因候補項目として決定してよい。制御部51は、複数のデータ項目それぞれを評価対象項目としてMD貢献度を算出し、各データ項目をMD貢献度の順に並べた場合に上位になるデータ項目を、原因候補項目として決定してもよい。制御部51は、上位から数えて所定数のデータ項目を原因候補項目として決定してもよい。所定数は、1個以上の種々の数値に設定されてよい。
【0108】
上述の例において、制御部51は、評価対象項目のMD貢献度を、原因不明単位空間において算出したロットのMDと評価対象単位空間において算出したロットのMDとの差として算出した。制御部51は、原因不明単位空間において算出したロットのMDの代わりに、少なくとも評価対象項目を含むデータ項目のロットの特徴量に基づいて生成した単位空間において算出したロットのMDを用いてもよい。
【0109】
具体的には、制御部51は、評価対象項目と少なくとも1つの他のデータ項目とそれぞれのロットの特徴量に基づく比較対象単位空間を生成してよい。制御部51は、比較対象単位空間において算出したロットのMDと評価対象単位空間において算出したロットのMDとの差を、評価対象項目のMD貢献度として算出してよい。制御部51は、複数のデータ項目を評価対象項目に決定する場合、評価対象項目だけのロットの特徴量に基づく比較対象単位空間を生成してもよい。
【0110】
また、制御部51は、1つのデータ項目を評価対象項目に決定する場合、評価対象項目のロットの特徴量の出現確率が正規分布に従うと仮定してよい。制御部51は、ワイヤーソー装置が原因不明で停止する可能性が高いと判定されたロットについて、そのロットのデータ項目を1つずつ評価対象項目として、各評価対象項目のロットの特徴量の出現確率を正規分布の確率に基づいて算出してよい。制御部51は、算出した出現確率が所定値未満となる評価対象項目を原因候補項目として決定してもよい。制御部51は、算出した出現確率が最も低いデータ項目を原因候補項目として決定してもよい。制御部51は、算出した出現確率が低い方から数えて所定数のデータ項目を原因候補項目として決定してもよい。所定数は、1個以上の種々の数値に設定されてよい。
【0111】
以上述べてきたように、状態判定装置50は、ワイヤーソー装置が原因不明で停止する可能性が高くなっていると判定された場合に有効性解析を実行することによって、原因不明ながらも要因を絞り込むことができる。その結果、ワイヤーソー装置のオペレータ又は保全担当者等のユーザは、ワイヤーソー装置に対する保全作業を実施しやすくなる。
【0112】
<データ数に関する制限>
制御部51は、ワイヤーソー装置が原因不明で停止した場合に、停止するまでに処理したロットのデータを参照データとして取得した場合、その参照データの全てのデータ項目を選択して単位空間を生成してよい。全てのデータ項目を選択する理由は、ワイヤーソー装置の停止の原因が不明であることによって原因データ項目を特定できないからである。制御部51は、原因データ項目を特定できない場合、各データ項目を広く監視するために、全てのデータ項目を選択して単位空間を生成する必要がある。
【0113】
ワイヤーソー装置から得られる各データ項目の特徴量は、各ロットに1つだけに限られない。ワイヤーソー装置がブロックの切断を進めた距離によって更に区分されることによって、各区分における特徴量が取得され得る。例えば、各データ項目は、ワイヤーソー装置がブロックの切断を開始してから中央にまで達するまでの区間と、中央を超えて切断を終了するまでの区間とそれぞれにおいて取得され得る。この場合、制御部51は、ワイヤーソー装置が1ロットを処理する際に各データ項目の特徴量を区分の数だけ取得できる。よって、単位空間を生成するために用いる特徴量の総数は、データ項目の数と、ブロックの切断距離に基づく区分の数との積で表される。
【0114】
例えばワイヤーソー装置のデータ項目の数が40個であるとする。仮に、ワイヤーソー装置が直径300ミリメートルのブロックを切断する場合に、切断した距離を60ミリメートルごとに区分した5の区分それぞれにおいて各データ項目の特徴量が取得されるとする。この場合、1ロットの処理で得られる特徴量の総数は、200個(40×5)となる。また、仮に、ワイヤーソー装置が直径300ミリメートルのブロックを切断する場合に、切断した距離を10ミリメートルごとに区分した30の区分それぞれにおいて各データ項目の特徴量が取得されるとする。この場合、1ロットの処理で得られる特徴量の総数は、1200個(40×30)となる。
【0115】
ここで、複数のロットそれぞれのデータ項目の測定値に基づいて特徴量を算出し、算出した特徴量に基づいて単位空間を生成する場合、1ロットの処理で得られる特徴量の総数より多い数のロットのデータを参照データとして取得する必要がある。参照データとしての特徴量を算出するための測定値を取得するロットの数が1ロットの処理で得られる特徴量の総数よりも多いことが、単位空間を表す数式に含まれる相関係数行列の逆行列が存在するための条件となっているからである。言い換えれば、参照データとしての特徴量を算出するための測定値を取得するロットの数が1ロットの処理で得られる特徴量の総数以下である場合、相関係数行列の逆行列が存在しないからである。相関係数行列の逆行列の存在条件について、上述の文献(「マハラノビスの距離入門」)の19頁の4.2.2項の記載が参照され得る。
【0116】
原因不明単位空間を、ワイヤーソー装置から得られる全てのデータ項目に基づいて生成する場合、各データ項目の1ロットの処理中のデータの区分数は、相関係数行列の逆行列の存在条件に基づいて、ロット数に応じて減らされる必要がある。1ロットの処理中のデータの区分数が減らされることによって、ロット処理中の測定値に基づいて算出される特徴量の変化の監視分解能が低下するといえる。一方で、全てのデータ項目を選択することによって、ワイヤーソー装置の停止につながる要因を広く監視することができるといえる。
【0117】
一方、既知モード単位空間を生成するために一部のデータ項目である原因データ項目を選択することによって、1ロットの処理中のデータの区分数を増やすことができる。1ロットの処理中のデータの区分数が増やされることによって、ロット処理中の測定値に基づいて算出される特徴量の変化の監視分解能が高まるといえる。
【0118】
(ワイヤーソー装置以外の装置への適用)
上述してきた実施形態において、状態判定装置50が加工装置10としてのワイヤーソー装置の状態を判定する構成が説明されてきた。状態判定装置50は、加工装置10として、ワイヤーソー装置に限られず、研磨装置等の他の装置の状態を判定してもよい。
【0119】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態について装置を中心に説明してきたが、本開示に係る実施形態は装置の各構成部が実行するステップを含む方法としても実現し得るものである。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行される方法、プログラム、又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0120】
本開示に含まれるグラフは、模式的なものである。スケールなどは、現実のものと必ずしも一致しない。