特許第6973552号(P6973552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973552テトラフルオロプロペンの保存方法およびテトラフルオロプロペンの保存容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973552
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】テトラフルオロプロペンの保存方法およびテトラフルオロプロペンの保存容器
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/38 20060101AFI20211118BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   C07C17/38
   C07C21/18
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-68808(P2020-68808)
(22)【出願日】2020年4月7日
(62)【分割の表示】特願2018-227876(P2018-227876)の分割
【原出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2020-105225(P2020-105225A)
(43)【公開日】2020年7月9日
【審査請求日】2020年4月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-103184(P2012-103184)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(72)【発明者】
【氏名】津崎 真彰
(72)【発明者】
【氏名】重松 麻紀
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/157325(WO,A1)
【文献】 特開2011−085360(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098447(WO,A1)
【文献】 特開2011−226728(JP,A)
【文献】 特開2011−016930(JP,A)
【文献】 特開2011−085275(JP,A)
【文献】 AHRI Standard 700 2011 Standard for specifications for Fluorocarbon refrigerants,2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
F25B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相と液相とを有する気液状態のテトラフルオロプロペンが充填され密閉され、前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で3体積ppm以上3000体積ppm未満であるテトラフルオロプロペンの保存容器の製造方法であって、
テトラフルオロプロペンを加圧して液体を生成させ、前記液体を、予め空気を真空脱気し、酸素濃度を温度25℃で3000体積ppm未満に低減させた密閉容器に注入して、前記保存容器を製造し、
前記テトラフルオロプロペンは、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、またはシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、
前記保存容器が、輸送に使用される充填ボンベ、または2次充填ボンベである、保存容器の製造方法。
【請求項2】
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で3体積ppm以上2000体積ppm以下である、請求項1に記載の保存容器の製造方法。
【請求項3】
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満である、請求項1または2に記載の保存容器の製造方法。
【請求項4】
前記保存容器の構成材料が、炭素鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜のいずれか1項に記載の保存容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロプロペンの保存方法および保存容器に係り、特に、貯蔵および輸送等のためにテトラフルオロプロペンを安定に保存する方法、およびテトラフルオロプロペンが安定に保存された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロプロペンの異性体の一つである2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFCF=CHで表される。以下、HFO−1234yfとも記す。)は、オゾン層を破壊する温室効果ガスであるクロロフルオロカーボン類(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC)、およびハイドロフルオロカーボン類(HFC)に代わる新しい冷媒として、近年使用が期待されている。
【0003】
このようなHFO−1234yfは、密閉容器に常温以下の温度で加圧充填され、あるいは冷却下に加圧液化充填されて、貯蔵や輸送がなされている。こうして密閉容器に充填されたHFO−1234yfは、気相と液相とを有する気液状態を呈している。そして、気液状態のHFO−1234yfは、冷媒としての品質の維持や、容器内での不純物(固体)の付着防止などのために、重合等の反応を生じさせることなく安定に保持することが求められている。
【0004】
フルオロオレフィンは、酸素が存在すると、酸素がラジカル源になって重合反応が生起することが知られている。フルオロオレフィンの中でもテトラフルオロエチレンは、1〜数10ppmの微量の酸素存在下で重合し、場合によっては爆発的に重合反応が進行する。例えば、特許文献1には、テトラフルオロエチレンは1.4ppmの酸素濃度で重合が進行してポリテトラフルオロエチレンが生成することが記載されている。このため、フルオロオレフィンを保存する際は酸素を極限まで排除して取り扱うことが重要となる。
しかしながら、酸素を極限まで排除するためには、製造工程において酸素を極限まで除去する工程を新たに設ける等の措置が必要となるため、それに伴うコストが増加してしまう。また、酸素を極限まで除去する工程等を行うことで収率が低くなる場合もあり、製造コストが増加してしまう。
HFO−1234yf等のテトラフルオロプロペンが、酸素存在下で自己重合反応に対してどの程度安定であるかについては、不明な点が多い。冷媒としての品質を保持し、安価で、安全かつ安定的に貯蔵および輸送を行うために、HFO−1234yf等のテトラフルオロプロペンに重合反応を生じさせることなく保存する方法が求められている。
【0005】
従来から、ハイドロフルオロプロペンの安定化について、いくつかの提案がなされている。特許文献2には、空気の共存下においてもハイドロフルオロプロペンの安定な状態(酸の形成がない状態)を維持するために、アルキルカテコール類やアルコキシフェノール類のような安定化剤を添加する方法が提案されている。また、特許文献3には、ハイドロフルオロプロペンに、安定化剤として炭素数が1〜4の脂肪族アルコールを添加する安定化方法が示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2および特許文献3の方法は、いずれも、冷凍機油の存在を前提とし、冷媒組成物を安定化することで冷却システム全体を安定化する方法であり、貯蔵や輸送のための容器内での冷媒の安定化とは条件が異なるため、この方法を容器内での冷媒の保存に適用することは難しい。また、安定化剤を添加する方法では、冷媒としての使用の前に安定化剤の除去を必要とし、工程の負荷が大きいばかりでなく、蒸留等の物理的精製法では安定化剤を完全に除去できない場合もあり、品質管理上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特開2008−308480
【特許文献2】WO2010/098451
【特許文献3】WO2010/098447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に対処してなされたものであり、貯蔵や輸送のために容器内に充填されたテトラフルオロプロペンにおいて、重合等の反応を生じさせることなく安価でかつ安定に保存する方法、およびテトラフルオロプロペンが安定に保存された容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法は、テトラフルオロプロペンを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存する方法であって、前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で3体積ppm以上3000体積ppm未満にすることを特徴とする。
【0010】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法においては、前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にすることが好ましい。また、前記テトラフルオロプロペンは、HFO−1234yfであることが好ましい。
【0011】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存容器は、気相と液相とを有する気液状態のテトラフルオロプロペンが充填され密閉された保存容器であり、前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で3体積ppm以上3000体積ppm未満であることを特徴とする。
【0012】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存容器において、前記気相における酸素濃度は、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満であることが好ましい。また、前記テトラフルオロプロペンは、HFO−1234yfであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法、およびテトラフルオロプロペンの保存容器によれば、テトラフルオロプロペンの重合反応等が抑制されるので、テトラフルオロプロペンを高純度および高品質に維持することができる。また、容器内に固体状の重合生成物が生じないので、供給バルブ等の閉塞や冷媒装置への混入のおそれがない。さらに、本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法、およびテトラフルオロプロペンの保存容器によれば、低コストで保存を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明の第1の実施形態は、圧力下で気相と液相とを有する気液状態のテトラフルオロプロペンを、密閉された容器内で保存する方法であり、気相における酸素の濃度を、温度25℃で3体積ppm以上3000体積ppm未満に保持することを特徴とする。なお、密閉容器内でテトラフルオロプロペンは気液状態で保持されているので、気相において、テトラフルオロプロペンは飽和蒸気圧を示している。前記酸素濃度は、テトラフルオロプロペンの気相において、酸素がどれだけ含有されているかを示す含有割合ということもできる。
【0016】
本発明の第2の実施形態であるテトラフルオロプロペンの保存容器は、密閉された容器内に気液状態のテトラフルオロプロペンが充填されたものであり、気相における酸素濃度が、温度25℃で3体積ppm以上3000体積ppm未満に保持されているテトラフルオロプロペン充填容器である。
【0017】
このような本発明の第1および第2の実施形態において、テトラフルオロプロペンとしては、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(E−HFO−1234ze)、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(Z−HFO−1234ze)、トランス−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(E−HFO−1234ye)、シス−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(Z−HFO−1234ye)、1,1,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234zc)、1,1,2,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yc)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)等が挙げられる。特に、新冷媒として近年注目されている2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)が好ましい。
【0018】
テトラフルオロプロペンの保存容器としては、内部圧力下で気液混合物を封入することができる密閉容器であれば、特別な構造または構成材料を必要とせず、広い範囲の形態および機能を有することができる。例えば、固定した保存容器である貯蔵タンク、輸送に使用される充填ボンベ、2次充填ボンベ(サービス缶)等の耐圧容器等が挙げられる。また、保存容器の構成材料としては、例えば、炭素鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼その他の低合金鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、等を用いることができる。
【0019】
気相における酸素濃度は、温度25℃で3体積ppm以上3000体積ppm未満である。気相における酸素濃度が3000体積ppm未満であれば、液相および気相のテトラフルオロプロペンの重合等の反応を十分に防止することができる。また、本発明者らがテトラフルオロプロペンの酸素濃度と重合の進行との関係について鋭意検討を行った結果、テトラフルオロプロペンは気相における酸素濃度が0〜3体積ppmにおいては、テトラフルオロプロペンの重合が進行しないことを見出した。この知見に基づき、気相における酸素濃度を3体積ppm以上とすることで、酸素濃度を0体積ppm近くの極限まで排除する必要がなくなり、これによって製造コスト等を抑えることができる。気相におけるより好ましい酸素濃度は、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満であり、最も好ましくは6体積ppm以上500体積ppm以下である。
【0020】
気相における酸素濃度は、テトラフルオロプロペンを加圧して液体を生成させ、この液体を、予め空気を真空脱気し、酸素濃度を温度25℃で3000体積ppm未満に低減させた密閉容器に注入することにより実施することができる。テトラフルオロプロペンの液体を容器に注入すると、容器内の空間は、液体からの蒸気によって速やかに飽和される。そして、このようにテトラフルオロプロペンの飽和蒸気により満たされた気相における酸素の濃度は3体積ppm以上3000体積ppm未満(温度25℃)となる。
なお、密閉容器を真空脱気する際には、酸素とともに窒素等の非凝縮性気体も除外されるが、非凝縮性気体の含有量の合計は、温度25.0℃で1.5体積%(15000体積ppm)を超えない量となるようにする。
【0021】
このような本発明のテトラフルオロプロペンの保存方法によれば、気液状態で密閉容器内に充填されたテトラフルオロプロペンに重合等の反応が生じることがないので、テトラフルオロプロペンの純度および冷媒等としての高品質を維持することができる。また、密閉容器内に例えば固体状の重合生成物が生じることがないので、バルブ等の閉塞や冷媒システムへの異物混入が生じるおそれがない。また、低コストでテトラフルオロプロペンを保存することができる。
【0022】
本発明の保存方法の評価は、例えば、密閉容器内に所定量の酸素とともに気液状態のテトラフルオロプロペンを封入し、全体を所定温度に加熱し恒温状態で所定の時間保持した後、テトラフルオロプロペンの液相中の反応生成物を同定し、分析することにより行う。この評価は、熱負荷をかけた加速試験に相当する。加熱温度は、恒温槽の設定温度範囲である−70〜300℃の範囲に設定できる。また、加熱処理時間は任意に設定できる。反応生成物の同定・分析は、例えば、後述する実施例に記載の方法により実施することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1〜6は実施例であり、例7〜10は比較例である。
【0024】
[例1〜10]
内容積200ccのSUS316製耐圧容器(最高使用温度300℃、最高使用圧力20MPa)内に、予め重量を計測したパイレックス(登録商標)製の内挿管を挿入し、耐圧容器を密閉した後、容器内の真空排気を行った。なお、内挿管は耐圧試験容器内での重合物の生成の有無を確認するために挿入した。
【0025】
次に、前記耐圧容器内に所定量の酸素を封入した後、液化された純度99.5%以上のテトラフルオロプロペン100gを充填し、気相の酸素濃度が25℃で表1に示す値となるようにした。なお、テトラフルオロプロペンとしては、HFO−1234yfを使用した。
【0026】
次いで、このように所定濃度の酸素とともにHFO−1234yfが封入された耐圧容器を、熱風循環型恒温槽内に設置し、60℃の恒温状態で20日間放置した。
【0027】
20日間経過後、恒温槽から耐圧容器を取り出し、HFO−1234yfを放出した。そして、内挿管内の固形物質生成の有無を肉眼で調べるとともに、固形物の生成量を内挿管の試験前後における重量変化として調べた。結果を表1に示す。表1において、◎は「固形物質なし」を、○は「若干固形物質生成が認められるが実用上問題なし」を、×は「固形物質あり」をそれぞれ示す。
【0028】
次に、肉眼で固形物質が観察された例7〜10において、内挿管内の固形物質を採取し、重水素化アセトンに溶解してH−NMR、13C−NMRおよび19F−NMRの各スペクトルを測定した。測定されたNMRスペクトルのピーク帰属により固形物質を同定したところ、テトラフルオロプロペンのホモポリマーであった。これは、HFO−1234yfの重合により生成したものであると推測される。
【0029】
【表1】
【0030】
表1から、例1〜6では、液相に実用上問題となる固形生成物であるテトラフルオロプロピレンホモポリマーが観察されず、特に例1〜4では、前記固形生成物は観察されず、HFO−1234yfの重合反応が生起していないことがわかる。それに対して、例7〜10では、テトラフルオロプロペンのホモポリマーの生成が見られる。このことから、本発明の方法は、長期に亘り重合反応を生起させない安定的な保存方法として有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の保存方法および保存容器によれば、テトラフルオロプロペンに重合等の反応が生じることがないので、テトラフルオロプロペンの高品質を維持しつつ、貯蔵および輸送等に供することができる。
【0032】
なお、2012年4月27日に出願された日本特許出願2012−103184号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。