特許第6973695号(P6973695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973695リチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973695
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物、及びリチウムイオン二次電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/443 20210101AFI20211118BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20211118BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20211118BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20211118BHJP
【FI】
   H01M50/443 B
   H01M50/403 D
   H01M50/42
   H01M50/443 E
   H01M50/449
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2021-534363(P2021-534363)
(86)(22)【出願日】2020年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2020042183
(87)【国際公開番号】WO2021106589
(87)【国際公開日】20210603
【審査請求日】2021年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2019-214242(P2019-214242)
(32)【優先日】2019年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】梶川 正浩
【審査官】 佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/043200(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146515(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/141140(WO,A1)
【文献】 特開2019−179698(JP,A)
【文献】 特開2011−134649(JP,A)
【文献】 特開平11−167921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40−50/497
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(a1)からなるコア部及び重合体(a2)からなるシェル部を有するコアシェル型粒子(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物であって、前記重合体(a1)の原料中の重合開始剤が、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であり、前記重合体(a2)の原料中の重合開始剤が、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であり、前記重合体(a1)の単量体原料中のスチレンが60質量%以上であり、前記重合体(a2)の単量体原料中のメチルメタアクリレートが45〜97.5質量%であり、炭素原子数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが2〜40質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記重合体(a1)と前記重合体(a2)との質量比(a1/a2)が100/3〜100/200である請求項1記載のリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物を用いて得られた接着層を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池セパレータのバインダーに使用可能な水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の製造に使用するセパレータとしては、一般に、ポリオレフィン樹脂等を用いて得られる多孔体を使用することが多い。リチウムイオン二次電池は、通常、電解液中のイオンがセパレータを構成する孔を介して移動することによって、電池としての機能を発揮する。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池の出力が増大するなかで、リチウムイオン二次電池には、異常発熱に起因した発火等を引き起こす可能性があるという問題が懸念されている。前記発火等を防止する方法としては、例えばリチウムイオン二次電池が発熱した際に、セパレータの微多孔がその熱の影響によって無孔化し得るセパレータを使用する方法が知られている。
【0004】
しかし、このセパレータは、その熱の影響によって著しい収縮を引き起こし、その結果、電解液内におけるイオンの伝導を停止することができず、リチウムイオン二次電池の短絡(ショート)を引き起こす可能性を有していた。
【0005】
これに対し、熱収縮を低減し得るセパレータとして、ポリオレフィン樹脂等を用いて得られる多孔体の表面に、耐熱層を設けたものや、さらにこの耐熱層を有するセパレータと電極との密着性を向上させるため、特定の組成を有するコアシェル型粒子と水性媒体からなる水性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この水性樹脂組成物は、低温造膜性が不十分であるという問題があった。
【0006】
そこで、低温乾燥時においても、セパレータ及び電極との密着性に優れた接着層を形成する材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/043200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低温造膜性に優れ、セパレータを構成する多孔体及び電極との密着性に優れるバインダーが得られる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の重合体を有するコアシェル型粒子と、水性媒体とを含有する水性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、重合体(a1)からなるコア部及び重合体(a2)からなるシェル部を有するコアシェル型粒子(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物であって、前記重合体(a1)の原料中の重合開始剤が、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であり、前記重合体(a2)の原料中の重合開始剤が、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であり、前記重合体(a1)の単量体原料中のスチレンが60質量%以上であり、前記重合体(a2)の単量体原料中のメチルメタアクリレートが45〜97.5質量%であり、炭素原子数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが2〜40質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物は、低温造膜性に優れ、セパレータ及び電極への密着性に優れることから、リチウムイオン二次電池のバインダーに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物は、重合体(a1)からなるコア部及び重合体(a2)からなるシェル部を有するコアシェル型粒子(A)と、水性媒体(B)とを含有するリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物であって、前記重合体(a1)の原料中の重合開始剤が、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であり、前記重合体(a2)の原料中の重合開始剤が、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であり、前記重合体(a1)の単量体原料中のスチレンが60質量%以上であり、前記重合体(a2)の単量体原料中のメチルメタアクリレートが45〜97.5質量%であり、炭素原子数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが2〜40質量%であるものである。
【0013】
まず、前記コアシェル型粒子(A)について説明する。前記コアシェル型粒子(A)は、前記重合体(a1)が粒子のコア部を構成し、前記重合体(a2)が粒子のシェル部を構成する複層構造を有するものであるが、前記水性媒体(B)中に安定に存在できる限り、前記重合体(a1)がシェル部の一部を構成し、前記重合体(a2)がコア部の一部を構成していてもよい。
【0014】
前記重合体(a1)の単量体原料中のスチレンは、60質量%以上であるが、接着層の形状保持の観点から、80質量%以上であることが好ましい。
【0015】
前記重合体(a1)の単量体原料としては、スチレン以外の単量体を使用でき、例えば、前記重合体(a2)の単量体原料として後述する各種の単量体が使用できる
【0016】
前記重合体(a2)の単量体原料中のメチルメタアクリレートは、45〜97.5質量%であるが、リチウムイオン透過性と耐熱性のバランスがより向上することから、55〜95質量%が好ましい。
【0017】
前記重合体(a2)の単量体原料中の炭素原子数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、2〜40質量%であるが、密着性がより向上することから、4〜20質量%が好ましい。
【0018】
前記炭素原子数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0019】
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルとメタクリロイル基の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの一方又は両方をいう。
【0020】
前記重合体(a2)の単量体原料としては、メチルメタアクリレート、前記炭素原子数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート以外の単量体を使用することができるが、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート等の炭素原子数3以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、末端に水酸基を有するラクトン変性(メタ)アクリレート等の水酸基を有する単量体;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシメチルアミド基を有する単量体;N−ブトキシメチルアクリルアミド等のN−アルコキシメチルアミド基を有する単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリレート;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する単量体;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸(無水物)、マレイン酸(無水物)、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル等のビニル単量体;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0021】
前記重合体(a1)の原料中の重合開始剤は、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であるが、低温造膜性がより向上することから、0.02〜0.15質量部が好ましく、0.04〜0.08質量部がより好ましい。
【0022】
前記重合体(a2)の原料中の重合開始剤は、単量体100質量部に対し、0.01〜0.2質量部であるが、低温造膜性がより向上することから、0.02〜0.15質量部が好ましく、0.04〜0.08質量部がより好ましい。
【0023】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物;tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物などが挙げられる。なお、これらの重合体開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0024】
また、前記重合体(a1)と前記重合体(a2)との質量比(a1/a2)は、接着層の形状保持とイオン透過性のバランスがより向上することから、100/3〜100/200が好ましく、100/5〜100/150がより好ましい。
【0025】
前記コアシェル型粒子(A)の製造方法としては、各種の方法が挙げられるが、簡便に前記コアシェル型粒子(A)を得られることから、乳化重合法が好ましい。
【0026】
乳化重合法により、前記コアシェル型粒子(A)を得る方法としては、例えば、前記重合体(a1)の原料となる単量体を、水性媒体中で、乳化剤及び重合開始剤存在下、50〜100℃の温度でラジカル重合することによって、前記重合体(a1)を得た後、さらに、前記重合体(a2)の原料となる単量体を添加し、これらを重合する方法が挙げられる。
【0027】
前記乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンア
ルキルエーテルの硫酸ハーフエステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等の陰イオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレンジオール系等の非イオン性乳化剤;アルキルアンモニウム塩等の陽イオン性乳化剤;アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド等の両イオン性乳化剤などが挙げられる。なお、これらの乳化剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの乳化剤は、重合体の原料となる単量体の合計に対して、0.5〜5.0質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0028】
前記コアシェル型粒子(A)の分散安定性がより向上することから、塩基性化合物及び/又は酸性化合物により、pHを調整することが好ましく、前記塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−アミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール等の有機アミン;アンモニア(水)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドの四級アンモニウムハイドロオキサイドなどが挙げられる。これらの中でも有機アミンおよびアンモニア(水)を使用することが好ましい。なお、これらの塩基性化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0029】
前記酸性化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸または乳酸等のカルボン酸化合物;燐酸モノメチルエステル、燐酸ジメチルエステル等の燐酸のモノエステルまたはジエステル;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸化合物;塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸などである。これらの中でも、カルボン酸化合物が好ましい。なお、これらの酸性化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0030】
前記水性媒体(B)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみを使用することが特に好ましい。
【0031】
前記水性媒体(B)は、前記コアシェル型粒子(A)を乳化重合法により製造する際に使用される水性媒体をそのまま使用することが、簡便であり好ましい。
【0032】
本発明のリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物は、前記コアシェル型粒子(A)、及び、水性媒体(B)を含有するものであるが、乳化重合法により得られたコアシェル型粒子(A)が水性媒体(B)に分散したものであることが好ましい。
【0033】
また、必要に応じて脱溶剤工程を経ることにより、本発明の水性樹脂組成物中の有機溶剤量を低減することができる。
【0034】
前記方法で得られた本発明の水性樹脂組成物は、塗工作業性がより向上することから、水性樹脂組成物の全量に対して前記コアシェル型粒子(A)を5〜60質量%の範囲で含有するものが好ましく、10〜50質量%の範囲で含有するものがより好ましい。
【0035】
また、本発明の水性樹脂組成物は、塗工作業性がより向上することから、水性樹脂組成物の全量に対して前記水性媒体(B)を95〜40質量%の範囲で含有するものが好ましく、90〜50質量%の範囲で含有するものがより好ましい。
【0036】
本発明の水性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、潤滑剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤等の添加剤、pH調整剤、レベリング剤、ゲル化防止剤、分散安定剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、耐熱性付与剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、補強剤、触媒、抗菌剤、防カビ剤、防錆剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、顔料を併用することができる。
【0037】
本発明の水性樹脂組成物は、セパレータ及び電極への密着性に優れることから、リチウムイオン二次電池のバインダーとして好適に用いることができる。
【0038】
また、本発明の水性樹脂組成物に、ガラス転移温度の低いポリマーエマルジョン(以下、「低Tgポリマーエマルジョン」と略記する。)を添加することで、低温造膜性がより向上する。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。尚、ガラス転移温度(Tg)の算出方法は、測定試料10mgをアルミパンに計量し、示差熱分析測定装置(TA Instulments製「QA−100」)にて、リファレンスとして空のアルミパンを用い、測定温度範囲−100℃〜500℃の間で、昇温速度10℃/minで、常温常湿下で、DSC曲線を測定した。この昇温過程で、微分信号(DDSC)が0.05mW/min/mg以上となるDSC曲線の吸熱ピークが出る直前のベースラインと、吸熱ピーク後に最初に現れる変曲点でのDSC曲線の接線との交点を、ガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0040】
[低Tgポリマーエマルジョン(1)の合成]
攪拌機、温度計および冷却器を取り付けた2Lの反応容器中に、イオン交換水を180質量部仕込み80℃まで加熱し、これにスチレン(以下、「ST」と略記する。)21質量部、n−ブチルアクリレート(以下、「BA」と略記する。)75質量部、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する。)4質量部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ3質量部と過硫酸アンモニウム0.5質量部のイオン交換水40質量部溶解液により乳化した乳化液を2時間滴下し、乳化重合を行なった後、2時間ホールド後40℃以下に冷却し、アンモニア水にてpHを7−8、イオン交換水にて不揮発分を40−42%に調整をした。得られた低Tgポリマーエマルジョン(1)は不揮発分40.0%、粘度23mPa・s、pH7.4、Tg−25℃であった。
【0041】
[多孔膜用スラリー(1)の調製]
耐熱無機成分としてアルミナ(昭和電工株式会社製「AL−163」)99質量部、分散成分としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学株式会社製「DN−800H」)1質量部、水150質量部をビーズミルにて分散させて、固形分40質量%のアルミナ分散体を調製した。その後、本アルミナ分散体100質量部と上記で得た低Tgポリマーエマルジョン(1)5質量部をディスパーで撹拌混合し、多孔膜用スラリー(1)を得た。
【0042】
(実施例1:リチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)の調製及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器を取り付けた2Lの反応容器中に、イオン交換水300質量部を仕込み80℃まで加熱し、これにST 85質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(以下、「2EHA」と略記する。)13質量部、及びメタクリル酸(以下、「MAA」と略記する。)2質量部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ3質量部と過硫酸アンモニウム0.05質量部とのイオン交換水40質量部溶解液により乳化した乳化液を、2時間滴下し、乳化重合を行なった後、過硫酸アンモニウム0.01質量部を投入したのち、MMA 15.8質量部、2EHA 3質量部、MAA 1質量部、及びエチレングリコールジメタクリレート(以下、「EDM」と略記する。)0.2質量部の混合物をさらに1時間滴下し、重合を行い、2時間ホールド後40℃以下に冷却し、アンモニア水にてpHを7−8、イオン交換水にて不揮発分を24−26%に調整をした。得られたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)は不揮発分25.1%、粘度4mPa・s、pH7.7であった。
【0043】
[接着層用配合液の調製]
上記で得られたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)99.6質量部と、上記で得た低Tgポリマーエマルジョン(1)5質量部とを混合することにより、接着層用配合液(1)を調製した。
【0044】
[セパレータの製造]
ポリエチレン製の有機多孔基材(厚さ16μm、ガーレー値210s/100cc)をセパレータ基材として用意した。用意したセパレータ基材の両面に、上記で得た多孔膜用スラリー(1)を塗布し、50℃で3分間乾燥させて、セパレータ基材の両面に多孔膜を形成した。多孔膜の1層当たりの厚さは、3μmであった。次いで、各多孔膜の上に、上記で得た接着層用配合液(1)をスプレーコート法により塗布し、60℃で10分間乾燥させた。これにより、1層当たりの厚さが2μmの接着層を多孔膜上に設けて、セパレータ(1)を得た。
【0045】
[低温造膜性の評価]
上記で得たセパレータ(1)を黒い布で100g/cmの圧力にて往復10回ラビングを行い、接着層の黒い布へのはがれ状態から、下記の基準により低温造膜性を評価した。
○:剥がれなし
△:部分的に剥がれあり
×:全面剥がれあり
【0046】
[正極の製造]
正極活物質としてLiCoOを95質量部用意し、これに、正極用結着剤としてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン;呉羽化学社製「KF−1100」)を固形分換算量で3質量部となるように加え、さらに、アセチレンブラック2質量部、及びN−メチルピロリドン20質量部を加えて、これらをプラネタリーミキサーで混合して、正極用スラリーを得た。この正極用スラリーを、厚さ18μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、120℃で3時間乾燥した。その後、ロールプレスして、厚さが100μmの正極合剤層を有する正極を得た。
【0047】
[負極の製造]
負極活物質として粒径20μm、比表面積4.2m/gのグラファイトを98質量部用意した。これと、負極用結着剤としてSBR(スチレン−ブタジエンゴム、ガラス転移点が−10℃)を固形分換算量で1質量部混合した。この混合物にさらにカルボキシメチルセルロースを1.0質量部加えて、これらをプラネタリーミキサーで混合して、負極用スラリーを調製した。この負極用スラリーを厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、120℃で3時間乾燥した。その後、ロールプレスして、厚さが100μmの負極合剤層を有する負極を得た。
【0048】
[電極及びセパレータを備える積層体の製造]
上記で得た正極を直径13mmの円形に切り抜いて、円形の正極を得た。また、上記で得た負極を直径14mmの円形に切り抜いて、円形の負極を得た。さらに、上記で得たセパレータを直径18mmの円形に切り抜いて、円形のセパレータを得た。また、円形のセパレータの片面に、負極又は正極を、電極活物質層側の面でセパレータに接触する向きにして沿わせた。その後、温度80℃、圧力0.5MPaで10秒間、加熱プレス処理を施して、正極及び負極をセパレータに圧着して、正極及びセパレータを備える積層体、並びに、負極及びセパレータを備える積層体を得た。
【0049】
[密着性の評価]
上記で製造した、正極及びセパレータを備える積層体、並びに、負極及びセパレータを備える積層体を、それぞれ10mm幅に切り出して、試験片を得た。この試験片を電解液中に60℃で3日間浸漬した。この際、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びビニレンカーボネート(VC)の混合溶媒(体積混合比EC/DEC/VC=68.5/30/1.5;SP値12.7(cal/cm1/2)に支持電解質としてLiPFを溶媒に対し1mol/Lの濃度で溶かしたものを用いた。
その後、試験片を取り出し、表面に付着した電解液を拭き取った。その後、この試験片を、電極(正極又は負極)の表面を下にして、電極の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは水平な試験台に固定しておいた。その後、セパレータの一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を、正極及びセパレータを備える積層体並びに負極及びセパレータを備える積層体でそれぞれ3回、合計6回行い、応力の平均値を求めて、当該平均値をピール強度とし、密着性を評価した。
【0050】
(実施例2:リチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(2)の調製及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器を取り付けた2Lの反応容器中に、イオン交換水300質量部を仕込み80℃まで加熱し、これにST 85質量部、BA 13質量部、及びMAA 2質量部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ3質量部と過硫酸アンモニウム0.05質量部とのイオン交換水40質量部溶解液により乳化した乳化液を、2時間滴下し、乳化重合を行なった後、過硫酸アンモニウム0.01質量部を投入したのち、MMA 15.8質量部、BA 3質量部、MAA 1質量部、及びEDM 0.2質量部の混合物をさらに1時間滴下し、重合を行い、2時間ホールド後40℃以下に冷却し、アンモニア水にてpHを7−8、イオン交換水にて不揮発分を24−26%に調整をした。得られたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)は不揮発分25.3%、粘度5mPa・s、pH7.4であった。
【0051】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)をリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(2)に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、接着層用配合液(2)を調製した後、セパレータ(2)を作製し、低温造膜性及び密着性を評価した。
【0052】
(比較例1:リチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(R1)の調製及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器を取り付けた2Lの反応容器中に、イオン交換水300質量部を仕込み80℃まで加熱し、これにST 85質量部、2EHA 13質量部、及びMAA 2質量部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ3質量部と過硫酸アンモニウム0.4質量部とのイオン交換水40質量部溶解液により乳化した乳化液を、2時間滴下し、乳化重合を行なった後、過硫酸アンモニウム0.2質量部を投入したのち、MMA 15.8質量部、2EHA 3質量部、MAA 1質量部、及びEDM 0.2質量部の混合物をさらに1時間滴下し、重合を行い、2時間ホールド後40℃以下に冷却し、アンモニア水にてpHを7−8、イオン交換水にて不揮発分を24−26%に調整をした。得られたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(R1)は不揮発分25.4%、粘度5mPa・s、pH7.4であった。
【0053】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)をリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(R1)に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、接着層用配合液(R1)を調製した後、セパレータ(R1)を作製し、低温造膜性及び密着性を評価した。
【0054】
(比較例2:リチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(R2)の調製及び評価)
攪拌機、温度計および冷却器を取り付けた2Lの反応容器中に、イオン交換水300質量部を仕込み80℃まで加熱し、これにST 85質量部、MMA 13質量部、及びMAA 2質量部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ3質量部と過硫酸アンモニウム0.4質量部とのイオン交換水40質量部溶解液により乳化した乳化液を、2時間滴下し、乳化重合を行なった後、過硫酸アンモニウム0.2質量部を投入したのち、MMA 15.8質量部、BA 3質量部、MAA 1質量部、及びEDM 0.2質量部の混合物をさらに1時間滴下し、重合を行い、2時間ホールド後40℃以下に冷却し、アンモニア水にてpHを7−8、イオン交換水にて不揮発分を24−26%に調整をした。得られたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(R2)は不揮発分25.0%、粘度4mPa・s、pH7.6であった。
【0055】
実施例1で用いたリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(1)をリチウムイオン二次電池バインダー用水性樹脂組成物(R2)に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、接着層用配合液(R2)を調製した後、セパレータ(R2)を作製し、低温造膜性及び密着性を評価した。
【0056】
上記の実施例1〜2及び比較例1〜2の評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
本発明の水性樹脂組成物である実施例1及び2のものは、低温造膜性及び密着性に優れることが確認された。
【0059】
一方、比較例1及び2は、重合体(a1)の原料中の重合開始剤の量及び重合体(a2)の原料中の重合開始剤の量が、本願発明の上限より多い例であるが、ピール強度が不十分であることが確認された。