(54)【発明の名称】ニーマン・ピック病C型の診断を補助する方法、ニーマン・ピック病C型に対する治療効果の判定を補助する方法並びにニーマン・ピック病C型治療薬のスクリーニング方法
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 外来因子フリー難病由来iPS細胞のライブラリー構築とそれを使った疾患モデルと薬剤開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
TOMATSU S. et al.,J Inherit Metab Dis,Vol.33 (2010),p.141-150
【文献】
STRECKER G. et al.,Eur. J. Biochem.,75(1977),p.391-403
【文献】
VRUCHTE D. et al.,J. Biol. Chem.,Vol.279 No.25 (2004),p.26167-26175
【文献】
ELLEDER M. et al.,Acta Neuropathol(Berl),66 (1985),p.325-336
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本実施形態によるライソゾーム病に対する治療効果を判定するためのマーカーについて詳細に説明する。
【0018】
本実施形態によるライソゾーム病に対する治療効果を判定するためのマーカーは、以下に記載の糖鎖より少なくとも1つ選択される糖鎖からなる。
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3、
(Hex)5(HexNAc)4。
【0019】
上記のグリコサミノグリカンについて説明する。なお、本明細書において、グリコサミノグリカンを「GAG」と称する場合がある。
【0020】
「CS−2S4S」は、2位と4位に硫酸修飾を受けたコンドロイチン硫酸構成2糖である。
【0021】
「HS−0S」は硫酸修飾を受けないヘパラン硫酸構成2糖である。
【0022】
「HS−NS」はN位に硫酸修飾を受けたヘパラン硫酸構成2糖である。
【0023】
「HS−2S6S」は2位と6位に硫酸修飾を受けたヘパラン硫酸構成2糖である。
【0024】
上記の遊離オリゴ糖について説明する。なお、本明細書において、遊離オリゴ糖を「fOS」と称する場合がある。
【0025】
(Hex)3(HexNAc)1は、例えば、(Man)3(GlcNAc)1である。
【0026】
(Hex)4(HexNAc)1は、例えば、(Man)4(GlcNAc)1である。
【0027】
(Hex)5(HexNAc)1は、例えば、(Man)5(GlcNAc)1である。
【0028】
(Hex)6(HexNAc)1は、例えば、(Man)6(GlcNAc)1である。
【0029】
(Hex)7(HexNAc)1は、例えば、(Man)7(GlcNAc)1である。
【0030】
(Hex)8(HexNAc)1は、例えば、(Man)8(GlcNAc)1である。
【0031】
(Hex)1(HexNAc)2は、例えば、(Man)1(GlcNAc)2である。
【0032】
(Hex)4(HexNAc)2は、例えば、(Man)4(GlcNAc)2である。
【0033】
(Hex)5(HexNAc)2は、例えば、(Man)5(GlcNAc)2である。
【0034】
(Hex)6(HexNAc)2は、例えば、(Man)6(GlcNAc)2である。
【0035】
「高マンノース型Gn1型の総量」は、高マンノース型でGlcNAc残基が1個の遊離オリゴ糖の総量であり、本明細書において「HM−Gn1」と称する場合がある。
【0036】
「高マンノース型Gn2型の総量」は、高マンノース型でGlcNAc残基が2個の遊離オリゴ糖の総量であり、本明細書において「HM−Gn2」と称する場合がある。
【0037】
「パウチマンノース型Gn2型の総量」は、パウチマンノース型でGlcNAc残基が2個の遊離オリゴ糖の総量であり、本明細書において「PM−Gn2」と称する場合がある。
【0038】
「複合型/ハイブリッド型の総量」は、遊離オリゴ糖の複合型とハイブリッド型とを合わせた総量であり、本明細書において「C/H」と称する場合がある。
【0039】
(Hex)3(HexNAc)3は、例えば、(Gal)1(Man)2(GlcNAc)3である。
【0040】
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1は、例えば、(NeuAc)1(Gal)1(Man)2(GlcNAc)
2である。
【0041】
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1は、例えば、(Fuc)1(Gal)1(Man)3(GlcNAc)2である。
【0042】
(Hex)4(HexNAc)3は、例えば、(Gal)1(Man)3(GlcNAc)3である。
【0043】
(Hex)5(HexNAc)4は、例えば、(Gal)2(Man)3(GlcNAc)4である。
【0044】
ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記の少なくとも1つ選択されるグリコサミノグリカンの発現量が、ライソゾーム病に対する治療前よりも、当該治療後において増加している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の治療後の試料中の上記より少なくとも1つ選択されるグリコサミノグリカンの発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該グリコサミノグリカンの発現量と略同等である場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記より少なくとも1つ選択されるグリコサミノグリカンの発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該グリコサミノグリカンの発現量より減少しており、さらに治療後の該グリコサミノグリカンの発現量が治療前の該グリコサミノグリカンの発現量より増加している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。
【0045】
ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記の少なくとも1つ選択される遊離オリゴ糖の発現量が、ライソゾーム病に対する治療前よりも、当該治療後において減少している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の治療後の試料中の上記より少なくとも1つ選択される遊離オリゴ糖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該遊離オリゴ糖の発現量と略同等である場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記より少なくとも1つ選択される遊離オリゴ糖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該遊離オリゴ糖の発現量より増加しており、さらに治療後の該遊離オリゴ糖の発現量が治療前の該遊離オリゴ糖の発現量より減少している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。
【0046】
ライソゾーム病として、以下が例示される。本実施形態において、ライソゾーム病は、例えば、ニーマン・ピック病C型である。
(1)ゴーシェ(Gaucher)病
(2)ニーマン・ピック(Niemann−Pick)病A型、B型
(3)ニーマン・ピック病C型
(4)GM1ガングリオシドーシス
(5)GM2ガングリオシドーシス(テイ・サックス(Tay−Sachs)病、サンドホフ(Sandhoff)病、AB型)
(6)クラッベ(Krabbe)病
(7)異染性白質ジストロフィー
(8)マルチプルサルファターゼ欠損症
(9)ファーバー(Farber)病(ハーラー/シェイエ(Hurler/Scheie)症候群)
(10)ムコ多糖症I型
(11)ムコ多糖症II型(ハンター(Hunter)症候群)
(12)ムコ多糖症III型(サンフィリポ(Sanfilippo)症候群)
(13)ムコ多糖症IV型(モルキオ(Morquio)症候群)
(14)ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー(Maroteaux−Lamy)症候群)
(15)ムコ多糖症VII型(スライ(Sly)病)
(16)ムコ多糖症IX型(ヒアルロニダーゼ欠損症)
(17)シアリドーシス
(18)ガラクトシアリドーシス
(19)ムコリピドーシスII型、III型
(20)α−マンノシドーシス
(21)β−マンノシドーシス
(22)フコシドーシス
(23)アスパルチルグルコサミン尿症
(24)シンドラー(Schindler)病/神崎病
(25)ポンペ(Pompe)病
(26)酸性リパーゼ欠損症
(27)ダノン(Danon)病
(28)遊離シアル酸蓄積症
(29)セロイドリポフスチノーシス
(30)ファブリー(Fabry)病
(31)シスチン症
【0047】
本明細書において「ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料」とは、例えば、上記に例示されたライソゾーム病に罹患している、ヒトを含む哺乳動物から得られた生体液サンプル(血液、血清、血漿、胃粘液、十二指腸液、膵液、胆汁、腹水、喀痰、気管支肺胞洗浄液等)、組織又は細胞サンプル(胃、十二指腸、大腸、膵臓、胆嚢、胆管、気管支、肺等の癌の組織又は細胞);ライソゾーム病の原因遺伝子をノックアウトさせた細胞の抽出液又は該細胞を培養した培地などである。また、本明細書において「ライソゾーム病に対する治療」とは、ライソゾーム病を治癒させるために又はその症状を軽減若しくは消失させるために行う治療行為全般を表し、例えば、ライソゾーム病を治療するために薬剤を投与すること、ライソゾーム病を治療するために外科的手術を行うこと等を表す。
【0048】
糖鎖の発現量を測定する方法としては、公知の方法が用いられるが、例えば、抗体を用いたELISA法等を挙げることができる。また、上記糖鎖の単独のものをマーカーとして用いてもよく、又は、2以上の糖鎖の組み合わせをマーカーとして用いてもよい。
【0049】
次に、本実施形態によるライソゾーム病に対する治療効果を判定するための方法について詳細に説明する。
【0050】
本実施形態によるライソゾーム病に対する治療効果を判定するための方法は、
ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
からなる群より少なくとも1つ選択される糖鎖の発現量を、ライソゾーム病に対する治療後に測定する工程を含む。
【0051】
上記の糖鎖及びライソゾーム病の詳細については、前述の通りである。
【0052】
ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記の少なくとも1つ選択されるグリコサミノグリカンの発現量が、ライソゾーム病に対する治療前よりも、当該治療後において増加している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の治療後の試料中の上記より少なくとも1つ選択されるグリコサミノグリカンの発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該グリコサミノグリカンの発現量と略同等である場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記より少なくとも1つ選択されるグリコサミノグリカンの発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該グリコサミノグリカンの発現量より減少しており、さらに治療後の該グリコサミノグリカンの発現量が治療前の該グリコサミノグリカンの発現量より増加している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。
【0053】
ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記の少なくとも1つ選択される遊離オリゴ糖の発現量が、ライソゾーム病に対する治療前よりも、当該治療後において減少している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の治療後の試料中の上記より少なくとも1つ選択される遊離オリゴ糖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該遊離オリゴ糖の発現量と略同等である場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。また、ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の上記より少なくとも1つ選択される遊離オリゴ糖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の該遊離オリゴ糖の発現量より増加しており、さらに治療後の該遊離オリゴ糖の発現量が治療前の該遊離オリゴ糖の発現量より減少している場合に、その治療は効果を奏していると判定することができる。
【0054】
次に、本実施形態によるライソゾーム病治療薬のスクリーニング方法について詳細に説明する。
【0055】
本実施形態によるライソゾーム病治療薬のスクリーニング方法は、
(a)ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
からなる群より少なくとも1つ選択される糖鎖の発現量を、候補薬剤存在下及び非存在下で測定する工程と、
(b)前記候補薬剤存在下及び非存在下での前記糖鎖の発現量を比較する工程と、
を含む。
【0056】
上記工程(a)において、上記の糖鎖及びライソゾーム病の詳細については、前述の通りである。また、「ライソゾーム病に罹患している対象由来の上記糖鎖の発現量を、候補薬剤存在下及び非存在下で測定する」とは、例えば、ライソゾーム病の原因遺伝子をノックアウトさせた細胞の培地に候補薬剤を添加して培養した場合(候補薬剤存在下)と候補薬剤を添加しないで培養した場合(候補薬剤非存在下)とで上記糖鎖の発現量を測定する;ライソゾーム病に罹患している哺乳動物に候補薬剤を投与した場合(候補薬剤存在下)と候補薬剤を投与しない場合(候補薬剤非存在下)とで該哺乳動物由来の試料中の上記糖鎖の発現量を測定すること等を表す。
【0057】
上記工程(b)において、候補薬剤存在下及び非存在下での前記糖鎖の発現量を比較して、候補薬剤非存在下に比して候補薬剤存在下でグリコサミノグリカンの発現量が増加している場合、その候補薬剤はライソゾーム病治療薬として有用である可能性があると判断できる。また、候補薬剤非存在下に比して候補薬剤存在下で遊離オリゴ糖の発現量が減少している場合、その候補薬剤はライソゾーム病治療薬として有用である可能性があると判断できる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によるマーカー及び方法によれば、ライソゾーム病に対する治療効果を確実に判定することができる。また、ライソゾーム病治療薬の効率的なスクリーニング方法が提供される。
【0059】
次に、本実施形態によるライソゾーム病の診断マーカーについて詳細に説明する。
【0060】
本実施形態によるライソゾーム病の診断マーカーは、以下に記載の糖鎖より少なくとも1つ選択される糖鎖からなる。
GSL糖鎖である、
(Hex)2、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)2(HexNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)3(HexNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)2、
N−グリカンである、
Man3F、
Man4、
Man4F、
Man5F、
Man5、
Man6、
Man7、
Man8、
Man9、
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2、
(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2、
高マンノース型糖鎖の総量、
ハイブリッド型糖鎖の総量、
複合型糖鎖の総量、
フコシル化とシアリル化の両者を受けた複合型糖鎖の総量、
O−グリカンである、
O−グリカンの総量、
(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)1(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4。
【0061】
GSL糖鎖である、
(Hex)2、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)2(HexNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)3(HexNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)2
については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して増加している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができる。
【0062】
N−グリカンである、
Man3F、
Man4、
Man4F、
Man5F、
Man5、
Man6、
Man7、
Man8、
Man9、
(Hex)2(HexNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2、
高マンノース型糖鎖の総量、
ハイブリッド型糖鎖の総量、
複合型糖鎖の総量、
フコシル化とシアリル化の両者を受けた複合型糖鎖の総量
については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して増加している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができ、
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2
については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して減少している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができる。
【0063】
上記のN−グリカンについて説明する。
【0064】
Man3Fは、パウチマンノース型で、マンノースが3個、フコースが1個のN−グリカンであり、例えば、(Man)3(GlcNAc)2(Fuc)1である。
【0065】
Man4は、パウチマンノース型で、マンノースが4個のN−グリカンであり、例えば、(Man)4(GlcNAc)2である。
【0066】
Man4Fは、パウチマンノース型で、マンノースが4個、フコースが1個のN−グリカンであり、例えば、(Man)4(GlcNAc)2(Fuc)1である。
【0067】
Man5Fは、パウチマンノース型で、マンノースが5個、フコースが1個のN−グリカンであり、例えば、(Man)5(GlcNAc)2(Fuc)1である。
【0068】
Man5は、パウチマンノース型で、マンノースが5個のN−グリカンであり、例えば、(Man)5(GlcNAc)2である。
【0069】
Man6は、パウチマンノース型で、マンノースが6個のN−グリカンであり、例えば、(Man)6(GlcNAc)2である。
【0070】
Man7は、パウチマンノース型で、マンノースが7個のN−グリカンであり、例えば、(Man)7(GlcNAc)2である。
【0071】
Man8は、パウチマンノース型であり、マンノースが8個のN−グリカンであり、例えば、(Man)8(GlcNAc)2である。
【0072】
Man9は、パウチマンノース型で、マンノースが8個のN−グリカンであり、例えば、(Man)9(GlcNAc)2である。
【0073】
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)1(GlcNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0074】
(Hex)2(HexNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)2(GlcNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0075】
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)2(GlcNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0076】
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)3(GlcNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0077】
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)4(GlcNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0078】
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)1(GlcNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0079】
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)2(GlcNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0080】
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)3(GlcNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0081】
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2は、例えば、(Gal)4(GlcNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2である。
【0082】
「高マンノース型糖鎖の総量」は、N−グリカンの高マンノース型糖鎖の総量であり、本明細書において「HM」と称する場合がある。
【0083】
「ハイブリッド型糖鎖の総量」は、N−グリカンのハイブリッド型糖鎖の総量であり、本明細書において「Hyb」と称する場合がある。
【0084】
「複合型糖鎖の総量」は、N−グリカンの複合型糖鎖の総量であり、本明細書において「Com」と称する場合がある。
【0085】
「フコシル化とシアリル化の両者を受けた複合型糖鎖の総量」は、本明細書において「Com Fuc(+)Sia(+)」と称する場合がある。
【0086】
O−グリカンである「O−グリカンの総量」及び「(Hex)1(HexNAc)1(Neu5Ac)1」については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して増加している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができ、「(HexNAc)1(Neu5Ac)1」については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して減少している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができる。
【0087】
以下、O−グリカンについて説明する。
【0088】
(HexNAc)1(Neu5Ac)1は、例えば、Neu5Acα2−6GalNAc、シアリル−Tnである。
【0089】
(Hex)1(HexNAc)1(Neu5Ac)1は、例えば、Neu5Acα2−3Galβ1−3GalNAc、シアリル−Tである。
【0090】
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S
については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して減少している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができる。
【0091】
グリコサミノグリカンの各糖鎖の詳細については、前述同様である。
【0092】
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
については、被験対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量が、ライソゾーム病に罹患していない対象由来の試料中の上記糖鎖の発現量に比して増加している場合、該被験対象はライソゾーム病に罹患していると診断することができる。
【0093】
遊離オリゴ糖の各糖鎖の詳細については、前述同様である。
【0094】
以上説明したように、本実施形態による診断マーカーによれば、ライソゾーム病の診断を確実に行うことができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
ライソゾーム病の一つであるニーマン・ピック病C型の遺伝子を欠損した細胞を作製し、ニーマン・ピック病C型の治療薬である2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)を用いて、ニーマン・ピック病C型の治療効果を判定することのできる糖鎖マーカーを探索した。
【0097】
(細胞の調製)
以下3種類の細胞を用意した。
・WT(−):野生型Chinese Hamster Ovary cells(CHO)細胞(以下、「野生型CHO細胞」と称する)
・NPC(−):ニーマン・ピック病C型の原因遺伝子であるNpc1をノックアウトさせたCHO細胞(以下、「Npc1 KO CHO細胞」と称する)
・NPC(+):Npc1 KO CHO細胞にニーマン・ピック病C型の治療薬である2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)(日本食品化工社)で処理した細胞
【0098】
「WT(−)」(野生型CHO細胞)及び「NPC(−)」(Npc1 KO CHO細胞)は、鳥取大学より提供を受けた。CHO細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコ変性イーグル培地/栄養混合物F−12(シグマ−アルドリッチ社)中で培養した。「NPC(+)」(Npc1 KO CHO細胞をHPBCD処理)については、Npc1 KO CHO細胞を1mM HPBCDの存在下で4日間培養した。
【0099】
「WT(−)」(野生型CHO細胞)、「NPC(−)」(Npc1 KO CHO細胞)及び「NPC(+)」(Npc1 KO CHO細胞をHPBCD処理)について、各々、グライコブロッティングにより網羅的糖鎖解析を行った。
【0100】
(細胞糖タンパク質及び遊離オリゴ糖の抽出)
N−グリカン及びfOSの分析のために、糖タンパク質及びfOSを、Fujitani,N.;Furukawa,J.−i.;Araki,K.;Fujioka,T.;Takegawa,Y.;Piao,J.;Nishioka,T.;Tamura,T.; Nikaido,T.;Ito,M.;Nakamura,Y.;Shinohara,Y.Proc Natl Acad Sci USA.2013,110,2105−2110.に記載の方法で抽出した。2%ラウリル硫酸ナトリウムを含む100mM Tris−酢酸緩衝液(pH7.4)100μL中に約1×10
6細胞を懸濁し、超音波ホモジナイザー(タイテック社)を用いて均質化した。細胞タンパク質の還元的アミノ化を行い、4倍量の氷冷エタノールの存在下でタンパク質を沈殿させた。約2.5×10
5細胞タンパク質と等量の沈殿物を乾燥させ、100mM重炭酸アンモニウム中に溶解させ、トリプシンで消化した。2UのPNGase Fを添加することで、脱グリコシル化を行った。細胞fOSを含む上清を遠心エバポレーターを用いて脱水し、脱イオン水に溶解させた。サンプルを直接、グライコブロッティングに供した。
【0101】
(GSL及びGAGの抽出)
GSL及びGAGの抽出は、Kannan,R.;Tjiong,H.B.;Debuch,H.;Wiedemann,H.R.Unusual glycolipids in brain cortex of a visceral lipidosis(Niemann−Pick disease?).Hoppe Seylers Z.Physiol.Chem.1974,355,551−556.に記載の方法で行った。細胞ペレットにクロロホルム/メタノール(C/M)溶液(2/1、v/v)450μLを添加して脱脂質を行い、N−グリカン及び糖タンパク質で記載したように、室温で超音波処理を行った。その後、メタノール(150μL)を加えて、C/M=1/1(v/v)の溶媒組成物を作製し、サンプルを超音波処理した。その後、メタノール(300μL)を加え(C/M=1/2(v/v))、サンプルを再度、超音波処理した。得られた抽出物を10分間、20,000×gで遠心分離し、上清及びペレットを各々、GSL糖鎖及びGAGの分析に供した。GSL糖鎖の分析のために、粗製の細胞脂質を含む上清を遠心エバポレーターを用いて乾燥させた。粗製の細胞脂質を0.2%Triton X−100(シグマ−アルドリッチ社)を含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)50μLに懸濁させ、25mUのEGCaseIを添加して、GSLからインタクトなグリカンを離脱させた。GAGの分析のために、10mM CaCl
2を含む50mM Tris−酢酸緩衝液(pH7.5)中のプロナーゼ100μgを添加することで、ペレットを37℃で非特異的なプロテアーゼ消化に一晩供した。GAG鎖に結合したペプチドを沈殿させるために、エタノール沈殿を糖タンパク質及びfOSの抽出で記載した方法で行った。エタノール沈殿のサンプルをヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、ヒアルロニダーゼSD及びコンドロイチナーゼABCの各々5mUの混合物を用いて二糖GAGに消化した。サンプル及び酵素を5mM酢酸カルシウムを含む100mM 酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.5)100μL中で37℃で一晩インキュベートした。消化されたサンプルを遠心分離し、上清を収集し、遠心エバポレーターを用いて乾燥させて、内部標準であるイソマルトトリオース(シグマ−アルドリッチ社)50pmolを含む脱イオン水25μL中に溶解させた。サンプルを直接、グライコブロッティングに供した。
【0102】
(細胞O−グライコミクス)
タンパク質のペレットを、糖タンパク質及びfOSの抽出で記載された方法と同様に、約1×10
6細胞から調製した。エタノール沈殿させたタンパク質をO−グライコミクス分析に供した。タンパク質をアミコンウルトラ遠心式フィルターユニット(分子量カットオフ、3000Da)(ミリポア社)を用いて濃縮した。濃縮されたタンパク質を、Monowave300マイクロ波リアクターを用いたマイクロ波BEP反応に供した。BEP反応後、bis−PMPラベル化GN4を外部標準として加え、混合物を1.0M塩酸で中和した。クロロホルムを加えて、混合物を攪拌した。クロロホルム層を除き、水層のPMPラベル化グリカンを、Fujitani,N.;Furukawa,J.−i.;Araki,K.;Fujioka,T.;Takegawa,Y.;Piao,J.;Nishioka,T.;Tamura,T.;Nikaido,T.;Ito,M.;Nakamura,Y.;Shinohara,Y.Proc Natl Acad Sci USA.2013,110,2105−2110.に記載の方法で、グラファイトカーボンカラム及びイアトロビーズカラムを用いて精製した。
【0103】
(グライコブロッティング)
N−グリカン、fOS、GAG及びGSL糖鎖をグライコブロッティングに供した。グライコブロッティングは、Fujitani,N.;Furukawa,J.−i.;Araki,K.;Fujioka,T.;Takegawa,Y.;Piao,J.;Nishioka,T.;Tamura,T.;Nikaido,T.;Ito,M.;Nakamura,Y.;Shinohara,Y.Proc Natl Acad Sci USA.2013,110,2105−2110.及びFurukawa,J.;Shinohara,Y.;Kuramoto,H.;Miura,Y.;Shimaoka,H.;Kurogochi,M.;Nakano,M.;Nishimura,S.Comprehensive approach to structural and functional glycomics based on chemoselective glycoblotting and sequential tag conversion.Anal.Chem.2008,80,1094−1101.に記載の方法で行った。
【0104】
(MALDI−TOF/TOF MS分析)
精製されたN−グリカン、O−グリカン、fOS及びGSL糖鎖溶液に、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(30%アセトニトリル中10mg/mL)を加え、Fujitani,N.;Furukawa,J.−i.;Araki,K.;Fujioka,T.;Takegawa,Y.;Piao,J.;Nishioka,T.;Tamura,T.;Nikaido,T.;Ito,M.;Nakamura,Y.;Shinohara,Y.Proc Natl Acad Sci USA.2013,110,2105−2110.に記載の方法でMALDI−TOF MS分析に供した。測定は、リフレクターを備えたUltraflex II TOF/TOFマススペクトロメーターを用いて行われ、付属のプロトコルに従ってFlexControl 3.0ソフトウェアパッケージ(ブルカーダルトニクスGmbH)により制御された。スペクトルを、加速電圧25kV、反射電圧26.3kV及びポジティブイオンモードでの16nsのpulsed ion extractionで、リフレクトロンモードにおいて得た。質量を、FlexAnalysis 3.0 ソフトウェアパッケージを用いてアノテートした。GlycoSuiteDB(http://glycosuitedb.expasy.org/glycosuite/glycodb)及びSphinGOMAP(http://www.sphingomap.org/)のオンラインデータベースをGSL糖鎖の構造決定に用いた。絶対定量を、各グリカン由来のMSシグナルの領域と10pmolの内部標準であるNeuAc2Gal2GlcNAc2+Man3GlcNAcl(A2GNl)(グライコブロッティングの前にサンプル溶液に加えられた)との間の比較分析により行った。フラグメントイオン分析に対するTOF/TOFモード測定値を得るために、プリーカーサイオンを8kVに加速し、イオンゲートにおいて選択した。プリーカーサのレーザーによる分解によって生成されたフラグメントイオンをさらに、LIFTセルにおいて19kVまで加速した。フラグメントイオン質量をイオンリフレクターによるイオン通過後に分析した。
【0105】
(結果)
(1.GSL糖鎖)
GSL糖鎖の解析結果を
図1に示す。以下のGSL糖鎖については、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が増加することが示された(
図1(a)−(j))。したがって、以下のGSL糖鎖は、ニーマン・ピック病C型の疾患マーカー(診断マーカー)として有用であることが示唆された。
・(Hex)2:
図1(a)
・(Hex)3(HexNAc)1:
図1(b)
・(Hex)2(HexNAc)2:
図1(c)
・(Hex)2(HexNAc)1(Neu5Ac)1:
図1(d)
・(Hex)4(HexNAc)1:
図1(e)
・(Hex)3(HexNAc)2:
図1(f)
・(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)1:
図1(g)
・(Hex)4(HexNAc)2:
図1(h)
・(Hex)5(HexNAc)2:
図1(i)
・(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)2:
図1(j)
【0106】
(2.N−グリカン)
N−グリカンの解析結果を
図2に示す。以下のN−グリカンについては、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が増加することが示された(
図2(a)−(i)、(k)、(m)−(s))。したがって、以下のN−グリカンは、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であることが示唆された。
・Man3F((Man)3(GlcNAc)2(Fuc)1):
図2(a)
・Man4((Man)4(GlcNAc)2):
図2(b)
・Man4F((Man)4(GlcNAc)2(Fuc)1):
図2(c)
・Man5F((Man)5(GlcNAc)2(Fuc)1):
図2(d)
・Man5((Man)5(GlcNAc)2):
図2(e)
・Man6((Man)6(GlcNAc)2):
図2(f)
・Man7((Man)7(GlcNAc)2):
図2(g)
・Man8((Man)8(GlcNAc)2):
図2(h)
・Man9((Man)9(GlcNAc)2):
図2(i)
・(Hex)2(HexNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)2(GlcNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(k)
・(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)2(GlcNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(m)
・(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)3(GlcNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(n)
・(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)4(GlcNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(o)
・(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)1(GlcNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(p)
・(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2(GlcNAc)2((Gal)2(GlcNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(q)
・(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2(GlcNAc)2((Gal)3(GlcNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(r)
・(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)4(GlcNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(s)
【0107】
また、以下のN−グリカンについては、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が減少することが示された(
図2(j)、(l))。したがって、以下のN−グリカンは、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であることが示唆された。
・(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2((Gal)1(GlcNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2):
図2(j)
・(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2:
図2(l)
【0108】
N−グリカンのグループの解析結果を
図3に示す。以下のN−グリカンのグループについては、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が増加することが示された(
図3(a)、(f))。したがって、以下のN−グリカンのグループは、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であることが示唆された。
・高マンノース型(HM):
図3(a)
・ハイブリッド型(Hyb):
図3(a)
・複合型(Com):
図3(a)
・フコシル化とシアリル化の両者を受けた複合型(Com Fuc(+)Sia(+)):
図3(f)
【0109】
(3.O−グリカン)
O−グリカンの解析結果を
図4に示す。
【0110】
O−グリカンの総量について、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が増加することが示された(
図3(a))。したがって、O−グリカンは、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であることが示唆された。
【0111】
また、(HexNAc)1(Neu5Ac)1(Neu5Acα2−6GalNAc、シアリル−Tn)については、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が減少することが示された(
図4(b))。したがって、(HexNAc)1(Neu5Ac)1は、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であることが示唆された。
【0112】
また、(Hex)1(HexNAc)1(Neu5Ac)1(Neu5Acα2−3Galβ1−3GalNAc、シアリル−T)については、WT(−)に比してNPC(−)で有意に発現が増加することが示された(
図4(c))。したがって、(Hex)1(HexNAc)1(Neu5Ac)1は、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であることが示唆された。
【0113】
(4.グリコサミノグリカン)
グリコサミノグリカンの解析結果を
図5に示す。以下については、WT(−)に比してNPC(−)で発現が減少し、HPBCD処理されたNPC(+)でNPC(−)に比して発現が増加することが示された(
図5(a)、(b))。したがって、以下については、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であるとともに、ニーマン・ピック病C型に対する治療効果を判定するマーカーとしても有用であることが示唆された。
・CS−2S4S(2位と4位に硫酸修飾を受けたコンドロイチン硫酸構成2糖):
図5(a)
・HS−0S(硫酸修飾を受けないヘパラン硫酸構成2糖):
図5(b)
・HS−NS(N位に硫酸修飾を受けたヘパラン硫酸構成2糖):
図5(b)
・HS−2S6S(2位と6位に硫酸修飾を受けたヘパラン硫酸構成2糖):
図5(b)
【0114】
(5.遊離オリゴ糖(fOS))
fOSの解析結果を
図6に示す。以下については、WT(−)に比してNPC(−)で発現が増加し、HPBCD処理されたNPC(+)でNPC(−)に比して発現が減少することが示された(
図6(a)−(j))。したがって、以下については、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であるとともに、ニーマン・ピック病C型に対する治療効果を判定するマーカーとしても有用であることが示唆された。
・(Hex)3(HexNAc)1((Man)3(GlcNAc)1):
図6(a)
・(Hex)4(HexNAc)1((Man)4(GlcNAc)1):
図6(b)
・(Hex)5(HexNAc)1((Man)5(GlcNAc)1):
図6(c)
・(Hex)6(HexNAc)1((Man)6(GlcNAc)1):
図6(d)
・(Hex)7(HexNAc)1((Man)7(GlcNAc)1):
図6(e)
・(Hex)8(HexNAc)1((Man)8(GlcNAc)1):
図6(f)
・(Hex)1(HexNAc)2((Man)1(GlcNAc)2):
図6(g)
・(Hex)4(HexNAc)2((Man)4(GlcNAc)2):
図6(h)
・(Hex)5(HexNAc)2((Man)5(GlcNAc)2):
図6(i)
・(Hex)6(HexNAc)2((Man)6(GlcNAc)2):
図6(j)
【0115】
fOSの解析結果を
図7に示す。以下については、WT(−)に比してNPC(−)で発現が増加し、HPBCD処理されたNPC(+)でNPC(−)に比して発現が減少することが示された(
図7(a)−(f))。したがって、以下については、ニーマン・ピック病C型の診断マーカーとして有用であるとともに、ニーマン・ピック病C型に対する治療効果を判定するマーカーとしても有用であることが示唆された。
・高マンノース型Gn1型の総量(HM−Gn1):
図7(a)
・パウチマンノース型Gn2型の総量(PM−Gn2):
図7(a)
・高マンノース型Gn2型の総量(HM−Gn2):
図7(a)
・複合型/ハイブリッド型の総量(C/H):
図7(a)
・(Hex)3(HexNAc)3((Gal)1(Man)2(GlcNAc)3):
図7(b)
・(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1((NeuAc)1(Gal)1(Man)2(GlcNAc)
2):
図7(c)
・(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1((Fuc)1(Gal)1(Man)3(GlcNAc)2):
図7(d)
・(Hex)4(HexNAc)3((Gal)1(Man)3(GlcNAc)3):
図7(e)
・(Hex)5(HexNAc)4((Gal)2(Man)3(GlcNAc)4):
図7(f)
【0116】
(付記項)
(付記項1)
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
からなる群より少なくとも1つ選択される糖鎖からなるライソゾーム病に対する治療効果を判定するためのマーカー。
【0117】
(付記項2)
ライソゾーム病は、ニーマン・ピック病C型である、
ことを特徴とする付記1に記載のマーカー。
【0118】
(付記項3)
ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
からなる群より少なくとも1つ選択される糖鎖の発現量を、ライソゾーム病に対する治療後に測定する工程を含む、
ことを特徴とするライソゾーム病に対する治療効果を判定するための方法。
【0119】
(付記項4)
ライソゾーム病は、ニーマン・ピック病C型である、
ことを特徴とする付記3に記載の方法。
【0120】
(付記項5)
(a)ライソゾーム病に罹患している対象由来の試料中の
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
からなる群より少なくとも1つ選択される糖鎖の発現量を、候補薬剤存在下及び非存在下で測定する工程と、
(b)前記候補薬剤存在下及び非存在下での前記糖鎖の発現量を比較する工程と、
を含むライソゾーム病治療薬のスクリーニング方法。
【0121】
(付記項6)
ライソゾーム病は、ニーマン・ピック病C型である、
ことを特徴とする付記5に記載のスクリーニング方法。
【0122】
(付記項7)
GSL糖鎖である、
(Hex)2、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)2(HexNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)3(HexNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)1(Neu5Ac)2、
N−グリカンである、
Man3F、
Man4、
Man4F、
Man5F、
Man5、
Man6、
Man7、
Man8、
Man9、
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2+(Man)3(GlcNAc)2、
(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)1(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)2(HexNAc)2(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)3(HexNAc)3(Fuc)1(NeuAc)1+(Man)3(GlcNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)4(Fuc)1(NeuAc)2+(Man)3(GlcNAc)2、
高マンノース型、
ハイブリッド型、
複合型、
フコシル化とシアリル化の両者を受けた複合型、
O−グリカンである、
O−グリカンの総量、
(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
(Hex)1(HexNAc)1(Neu5Ac)1、
グリコサミノグリカンである、
CS−2S4S、
HS−0S、
HS−NS、
HS−2S6S、
遊離オリゴ糖である、
(Hex)3(HexNAc)1、
(Hex)4(HexNAc)1、
(Hex)5(HexNAc)1、
(Hex)6(HexNAc)1、
(Hex)7(HexNAc)1、
(Hex)8(HexNAc)1、
(Hex)1(HexNAc)2、
(Hex)4(HexNAc)2、
(Hex)5(HexNAc)2、
(Hex)6(HexNAc)2、
高マンノース型Gn1型の総量、
パウチマンノース型Gn2型の総量、
高マンノース型Gn2型の総量、
複合型/ハイブリッド型の総量、
(Hex)3(HexNAc)3、
(Hex)3(HexNAc)2(NeuAc)1、
(Hex)4(HexNAc)2(Fuc)1、
(Hex)4(HexNAc)3及び
(Hex)5(HexNAc)4
からなる群より少なくとも1つ選択される糖鎖からなるライソゾーム病の診断マーカー。
【0123】
(付記項8)
ライソゾーム病は、ニーマン・ピック病C型である、
ことを特徴とする付記7に記載のマーカー。