【文献】
Biosens. Bioelectron.,2015年,Vol.65,pp.287-294
【文献】
J. Chem. Ecol.,2016年,Vol.42,pp.716-724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記嗅覚受容体が、BmOR1、BmOR3、Or13a、Or56a、Or85b及びPxOR1から選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の匂いセンサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞が配置されるトランジスターの電極を金で形成したり、生体適合物質でコーティングしたりするのは、コストがかかる。そこで、本発明は、コストの低い匂いセンサを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様によれば、アルミニウム又は酸化アルミニウムを含むゲート電極を備えるトランジスターと、ゲート電極上に配置された嗅覚受容体を有する昆虫細胞と、昆虫細胞が匂いに反応した際にトランジスターで生じる電流を検出する検出装置と、を備える、匂いセンサが提供される。
【0008】
また、本発明の態様によれば、アルミニウム又は酸化アルミニウムを含むゲート電極を備えるトランジスターと、トランジスター上に配置された、嗅覚受容体を有する昆虫細胞を入れるためのチャンバーと、ゲート電極上の昆虫細胞が匂いに反応した際にトランジスターで生じる電流を検出する検出装置と、を備える、匂いセンサが提供される。
【0009】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、導入遺伝子によって嗅覚受容体を発現していてもよい。
【0010】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、昆虫の嗅覚受容体を発現していてもよい。
【0011】
上記の匂いセンサにおいて、嗅覚受容体が、イオンチャンネル型受容体であってもよい。
【0012】
上記の匂いセンサにおいて、嗅覚受容体が、BmOR1、BmOR3、Or13a、Or56a、Or85b及びPxOR1から選択されてもよい。
【0013】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、ガ由来の細胞であってもよい。
【0014】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、Sf21、Sf9、High Five及びTni由来細胞から選択されてもよい。
【0015】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、ショウジョウバエ由来の細胞であってもよい。
【0016】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、Drosophila S2細胞であってもよい。
【0017】
上記の匂いセンサにおいて、昆虫細胞が、イオン濃度に応じて蛍光強度が変化する蛍光タンパク質を発現していてもよい。
【0018】
上記の匂いセンサにおいて、トランジスターが、電界効果トランジスターであってもよい。
【0019】
上記の匂いセンサにおいて、ゲート電極が、伸長ゲート電極であってもよい。
【0020】
上記の匂いセンサにおいて、ゲート電極の表面に、アルミニウム又は酸化アルミニウムが露出していてもよい。
【0021】
上記の匂いセンサが、トランジスターを覆うファラデーケージをさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コストの低い匂いセンサを提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0025】
実施形態に係る匂いセンサは、
図1に示すように、アルミニウム又は酸化アルミニウムを含むゲート電極14を備えるトランジスター10と、ゲート電極14上に配置された嗅覚受容体を有する昆虫細胞50と、昆虫細胞50が匂いに反応した際にトランジスター10で生じる電流を検出する検出装置80と、を備える。
【0026】
トランジスター10は、半導体基板11を備える。トランジスター10は、例えば、電界効果トランジスター(FET)であり、MOSFETであってもよい。半導体基板11内の表面近傍には、ソース電極12及びドレイン電極13が、間隔をおいて設けられている。半導体基板11のソース電極12及びドレイン電極13の間の上に、酸化絶縁膜を挟んでゲート電極14が配置されている。ゲート電極14には、伸長(Extended)ゲート電極であってもよい。
【0027】
ゲート電極14の表面には、アルミニウム又は酸化アルミニウムが露出している。例えば、ゲート電極14は、アルミニウムからなり、表面近傍に酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる酸化膜が形成されている。表面近傍に酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる酸化膜が形成されていなくてもよい。伸長ゲート電極であるゲート電極14は、昆虫細胞50が配置される領域を有する。昆虫細胞50が配置される領域の大きさは、例えば100μm×100μmであるが、これに限定されない。ゲート電極14に配置される昆虫細胞50の数は、例えば10個以下であるが、これに限定されない。
【0028】
昆虫細胞50は、トランジスター10のゲート電極14上に配置されている。ゲート電極14上に昆虫細胞50を含む溶液を与え、数十分から数時間静置することにより、昆虫細胞50は、ゲート電極14に接着する。昆虫細胞50は、細胞膜に嗅覚受容体を発現している。昆虫細胞50において、嗅覚受容体は天然に発現されていてもよいし、導入遺伝子によって発現されていてもよい。
【0029】
昆虫細胞は、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)及びイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)等のガ由来の細胞であってもよい。ヨトウガ由来の細胞の例としては、Sf21及びSf9が挙げられる。Sf21細胞は、卵巣細胞由来である。Sf21細胞は、無限分裂し、導入した遺伝子を永続的に発現する安定発現系統を樹立することが可能である。また、Sf21細胞は、18℃から40℃の広い温度範囲で生存可能であり、培養液のpHを調整するための二酸化炭素も不要である。Sf21細胞は、本来、嗅覚受容体を有しないが、嗅覚受容体の遺伝子を導入することにより、嗅覚受容体を発現させることが可能である。Sf9細胞は、Sf21のクローンである。イラクサギンウワバ由来の細胞の例としては、High Five及びTniが挙げられる。Tni由来細胞は、卵巣細胞由来である。
【0030】
あるいは、昆虫細胞は、ショウジョウバエ由来の細胞であってもよい。ショウジョウバエ由来の細胞の例としては、Drosophila S2細胞が挙げられる。
【0031】
嗅覚受容体は、Gタンパク質共役型受容体であってもよいし、イオンチャンネル型受容体であってもよい。イオンチャネル型受容体は、匂い分子であるリガンドと相互作用する部位と、イオンが流入する部位と、を有する。昆虫細胞50のイオンチャンネル型受容体がリガンドと結合すると、昆虫細胞50内にナトリウムイオンやカルシウムイオン等の陽イオンが流入する。昆虫細胞50において、イオンの流入は、リガンドの結合から数10ミリ秒程度で生じ得る。流入するイオンの量は多く、1個のリガンドの結合に対し、細胞内に流入するイオンの量は10
7個ともいわれている。
【0032】
一般に、特定の種類の嗅覚受容体は、特定の匂い分子に対する特異性を有する。昆虫細胞50において、1種類の匂い分子に対応する1種類の嗅覚受容体のみを発現させてもよいし、複数種類の匂い分子に対応する複数種類の嗅覚受容体を発現させてもよい。また、発現させる嗅覚受容体の量を調整して、匂いセンサの検出感度を調整してもよい。
【0033】
嗅覚受容体の例としては、カイコガの性フェロモンであるボンビコール(Bombykol)の受容体であるBmOR1、カイコガの性フェロモンであるボンビカール(Bombykal)の受容体であるBmOR3、ショウジョウバエの受容体であって、カビ臭である1−octen−3−olの受容体であるOr13a、ショウジョウバエの受容体であって、カビ臭であるgeosminの受容体であるOr56a、キイロショウジョウバエの一般臭受容体であるOr85b、及びコナガの性フェロモン受容体であるPxOR1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
遺伝子工学的に嗅覚受容体を昆虫細胞50に発現させる場合は、例えば、嗅覚受容体をコードする遺伝子をベクターに組み込み、構築されたベクターを宿主細胞にトランスフェクトさせる。嗅覚受容体をコードする遺伝子は、例えば、昆虫の嗅覚器官からmRNAを抽出し、cDNAを合成して単離することができる。単離されたcDNAから、PCRプライマーを用いて、嗅覚受容体をコードする遺伝子の一部をPCR法にて増幅することが可能である。
【0035】
嗅覚受容体をコードする遺伝子の一部は、合成した二本鎖cDNAを適当なベクターに組み込み、当該ベクターを用いて大腸菌等を形質転換してcDNAライブラリーを作製することによっても取得することができる。cDNAは、制限酵素とリガーゼを用いる通常の方法、例えば、得られたcDNAを制限酵素で切断し、ベクターDNAの制限酵素部位に挿入してベクターに連結する方法によって、ベクターに組込むことができる。
【0036】
昆虫細胞50において、嗅覚受容体とともに蛍光タンパク質が発現されていてもよい。例えば昆虫細胞50において、イオンチャンネル型嗅覚受容体に匂い分子が結合すると、昆虫細胞50内にカルシウムイオン等のイオンが流れる。したがって、イオンに応じて蛍光強度が変化する蛍光タンパク質を発現させる遺伝子を昆虫細胞50に導入することにより、蛍光強度の変化からも、昆虫細胞50が匂い分子を検出しているか否かを確認することが可能となる。蛍光タンパク質の例としては、GCaMP3、GCaMP6s及びエクオリンが挙げられる。
【0037】
実施形態に係る匂いセンサのゲート電極14の少なくとも一部は、チャンバー60中に配置される。チャンバー60には、検出対象となる匂い分子を含む可能性がある溶液70が入れられる。溶液70は、昆虫細胞50の生存に必要な物質を適宜含んでいてもよい。また、チャンバー60内には、溶液70と接触するように、参照電極15が配置される。
【0038】
チャンバー60には、匂い分子を含む可能性のある溶液をチャンバー60内に送り込むための導入口と、チャンバー60内の溶液を排出するための排出口と、が設けられていてもよい。チャンバー60の導入口には、溶液をチャンバー60内に送り込むための導入ポンプが接続される。また、チャンバー60の排出口には、溶液をチャンバー60から排出するための排出ポンプが接続される。導入ポンプ及び排出ポンプとしては、例えば定量送液ポンプが使用可能である。
【0039】
溶液70に、昆虫細胞50が有する嗅覚受容体に対応する匂い分子が存在する場合、昆虫細胞50が匂い分子に反応してゲート電極14のゲート電位が変位し、ソース電極12及びドレイン電極13の間を流れるドレイン電流に変調が生じる。したがって、トランジスター10のドレイン電流の変調を検出することによって、匂い分子の存在を検出することが可能である。
【0040】
検出装置80は、例えば、トランジスター10のソース電極12、ドレイン電極13、バックゲート16、及び参照電極15に接続されており、トランジスター10のドレイン電流の変調を検出する。検出装置80としては、ソースメジャーユニット(SMU)等が使用可能である。検出装置80には、検出された電流を分析したり、ディスプレイに表示したりするためのコンピュータシステム300が接続されていてもよい。
【0041】
昆虫細胞50が匂い分子に反応してゲート電極14のゲート電位が変位する理由としては、昆虫細胞50が匂い分子に反応すると、昆虫細胞50において内向きのイオン流が生じるためと考えられるが、当該理論に拘束されるものではない。
【0042】
実施形態に係る匂いセンサをアレイ状に配置し、個々の匂いセンサの細胞に異なる嗅覚受容体を発現させることにより、異なる匂い分子を検出することも可能である。
【0043】
実施形態に係る匂いセンサは、トランジスター10を覆うファラデーケージを備えていてもよい。ファラデーケージは、電場からトランジスター10を遮蔽するため、匂いセンサにおけるドレイン電流のノイズを低下させることが可能である。
【0044】
従来、アルミニウム及び酸化アルミニウムは、細胞にとって有害と考えられていた。そのため、従来、トランジスターと細胞とを組み合わせた匂いセンサを製造する際には、トランジスターの電極を金で形成したり、生体適合物質でコーティングしたりして、その上に細胞を配置していた。しかし、これらの手法は、コストがかかる。これに対し、本発明者らは、鋭意研究の末、昆虫細胞は、アルミニウム又は酸化アルミニウムが表出する電極の上に配置されても、アルミニウム又は酸化アルミニウムによってダメージを受けず、長期にわたって生存可能であることを見出した。したがって、実施形態によれば、コストの低い匂いセンサを提供可能である。
【0045】
アルミニウム又は酸化アルミニウムを含むゲート電極14上で、昆虫細胞50は、例えば5日以上生存可能である。
【0046】
実施形態に係る匂いセンサは、使用後、洗浄することにより、トランジスター10の部分を繰り返し再使用することが可能である。洗浄方法としては、例えば、トランジスター10の表面に、市販の洗剤を滴下すればよい。
【0047】
(実施例)
(トランジスター等の製造)
アルミニウム伸長ゲート電極を備える、複数のMOSFETが形成された6インチウェハをステルスダイシングで切断し、必要な個数のMOSFETを含むチップを切り出した。さらに、スパッタリング装置を用いて、アルミニウム伸長ゲート電極表面に、イオン感応膜としての酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜を形成した。酸化アルミニウム膜の厚さは、40nmから80nmであった。その後、イオン感応膜が形成されたチップと、プリント回路基板と、をワイヤーボンディングで接続した。さらに、エポキシ樹脂を用いて、
図2に示すように、MOSFETの伸長ゲート電極を含むチップを囲むチャンバーを形成した。
【0048】
(細胞の用意)
カイコガの触角cDNA由来の、共受容体であるBmOrcoの遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを、以下の遺伝子特異的な配列を含むプライマーで増幅し、BmOrco遺伝子(ORFの完全長)を得た。得られたBmOrco遺伝子を、pIBベクター(Invitrogen社製)のマルチクローニングサイトに挿入し、pIB−BmOrcoベクターを構築した。
BmOrco:
フォワード:5'-ATGATGACCAAGGTCAAGACGC-3'
リバース:5'-CTACTTCAGTTGGATCAACACC-3'
【0049】
PCRによる遺伝子の増幅は、各100pmol/Lの濃度のフォワードプライマー及びリバースプライマー、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ(株)R010A)、当該ポリメラーゼに添付の反応バッファー、並びにdNTPを使用し、ポリメラーゼに添付のプロトコールに従って行った。PCRの温度条件は、94℃で1分間のステップ、次に、98℃で10秒間、55℃で15秒間、72℃で1.5分間の温度サイクルを30サイクル繰り返すステップ、その後、72℃で5分間のステップとした。
【0050】
同様に、カイコガの触角cDNA由来の、受容体であるBmOR3の遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを、以下の遺伝子特異的な配列を含むプライマーで増幅し、BmOR3遺伝子(ORFの完全長)を得た。得られたBmOR3遺伝子を、pIBベクターのマルチクローニングサイトに挿入し、pIB−BmOR3ベクターを構築した。
BmOR3:
フォワード:5'-ATGATATTCGTCGACGATGCTG-3'
リバース:5'-TCATTCGGACACGGTACG-3'
【0051】
次に、pIB−BmOR3ベクターのタンパク質発現カセット(OpIE2プロモーター(P(OpIE2))、BmOR3、OpIE2ポリA付加シグナル(OpIE2pA)と連なる部分)を増幅し、pIB−BmOrcoベクターのBspH1部位に、増幅されたタンパク質発現カセットを挿入し、デュアル発現ベクターpIB−BmOR3−BmOrcoを構築した。
【0052】
構築したデュアル発現ベクターを、リポフェクション法(CellfectinII;Invitrogen社製)により、CellfectinIIの添付のマニュアルに従って、Sf21細胞に導入した。これにより、BmOR3受容体及び共受容体BmOrcoを発現しているSf21細胞を得た。また、同様の手法により、Or13a受容体及び共受容体DmOrcoを発現しているSf21細胞を得た。
【0053】
(匂いセンサの製造)
上述したように、BmOR3受容体及び共受容体BmOrcoを発現しているSf21細胞と、Or13a受容体及び共受容体DmOrcoを発現しているSf21細胞と、を用意した。それぞれのSf21細胞を、1日から3日間、継代した。その後、Sf21細胞をアッセイバッファーに分散させ、セルカウンターを用いて、溶液中の細胞濃度を1.0×10
6細胞/mLから1.5×10
6細胞/mLに調整した。アッセイバッファーの組成は、140mmol/L NaCl、5.6mmol/L KCl、 4.5mmol/L CaCl
2、11.26mmol/L MgCl
2、11.32mmol/L MgSO
4、9.4mmol/L D−glucose、及び5mmol/L HEPESであり、アッセイバッファーのpHは7.2であった。
【0054】
次に、200μLのSf21細胞を含む溶液を、MOSFETの伸長ゲート電極を囲むチャンバーに滴下することにより、Sf21細胞を伸長ゲート電極上に播種した。その後、30分間静置して、
図3及び
図4に示すように、Sf21細胞を伸長ゲート電極上に接着させた。なお、
図3に示す匂いセンサは、アルミニウム(Al)伸長ゲート電極を備える。また、
図4に示す匂いセンサは、イオン感応膜として、アルミニウム伸長ゲート電極上にスパッタリングによって形成した、酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜を備える。
【0055】
(匂い物質含有液の調製)
BmOR3受容体に結合する匂い分子であるボンビカール(Bombykal)と、BmOR1受容体に結合する匂い分子であるボンビコール(Bombykol)と、Or13a受容体に結合する匂い分子である1−octen−3−ol(シグマアルドリッチ)と、を用意した。ボンビカール及びボンビコールは、筑波大学の松山茂博士にご提供いただいた。用意した匂い分子を、それぞれ、1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシド(049−07213、和光純薬工業)を含むアッセイバッファーに溶解させた。ボンビコールとボンビカールの化学式は、
図5に示すとおりであり、非常に類似する化学構造を有する。1−octen−3−olの化学式は、
図6に示すとおりである。
【0056】
(匂いセンサのセットアップ)
チャンバー内の溶液に接触するように参照電極を設置した。また、
図7から
図10で示す実施例では、チャンバーの導入口と、排出口と、のそれぞれに、ペリスタルティックチューブポンプ(MP−2010:東京理化器械株式会社)を接続した。その後、
図7から
図9では、導入口及び排出口における流速が140μL/分となるように設定し、1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーをチャンバー内に流した。
図10では、導入口及び排出口における流速が250μL/分となるように設定した。
図15から
図18で示す実施例では、ぺリスタ・バイオミニポンプ(AC−2120:ATTO)を、チャンバーの導入口と、排出口と、のそれぞれに接続した。その後、導入口及び排出口における流速が670μL/分と1500μL/分になるように設定し、1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーをチャンバー内に流した。
【0057】
MOSFETのソース電極、ドレイン電極、バックゲート及び参照電極を、ソースメジャーユニット(SMU、B2902A、キーサイト・テクノロジー)に接続し、SMUを用いて、ドレイン電極に2.5V、ソース電極に―2.5V、参照電極に0Vの電圧を加えた。その後、SMUで検出されるドレイン電流が安定するまで、500秒から1000秒ほど静置した。
【0058】
(酸化アルミニウム上のBmOR3受容体を発現している細胞を用いた匂い検出)
BmOR3受容体を発現しているSf21細胞を備える匂いセンサのチャンバーに、上記の1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーを流し、次に、30μmol/Lの濃度でボンビコールを含むアッセイバッファーを100秒間流し、その後、30μmol/Lの濃度でボンビカールを含むアッセイバッファーを100秒間流した。上述したように、ボンビコールは他の受容体に特異的に結合し、ボンビカールがBmOR3受容体に結合する。
【0059】
その結果、
図7に示すように、匂い分子を含まないアッセイバッファーを流している間、及びボンビコールを流している間は、ドレイン電流には、バックグラウンドノイズを上回る変調は見られなかった。これに対し、ボンビカールを流すと、ドレイン電流が0.5μA上昇した。上述したように、ボンビコールと、ボンビカールと、は、類似する化学構造を有し、分子量の差も近いが、実施例に係る匂いセンサが、ボンビカールを特異的に検出可能であることが示された。
【0060】
(酸化アルミニウム上のOr13a受容体を発現している細胞を用いた匂い検出)
Or13a受容体を発現しているSf21細胞を備える匂いセンサのチャンバーに、上記の1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーを流し、次に、30μmol/Lの濃度でボンビカールを含むアッセイバッファーを120秒間流し、その後、30μmol/Lの濃度で1−octen−3−olを含むアッセイバッファーを120秒間流した。上述したように、ボンビカールは他の受容体に特異的に結合し、1−octen−3−olがOr13a受容体に結合する。
【0061】
その結果、
図8に示すように、匂い分子を含まないアッセイバッファーを流している間、及びボンビカールを流している間は、ドレイン電流には、バックグラウンドノイズを上回る変調は見られなかった。これに対し、1−octen−3−olを流すと、ドレイン電流が0.1μA上昇した。
【0062】
(匂いセンサの洗浄)
ホワイト7−AL(アルカリ性、無泡性、ユーアイ化成株式会社)を超純水(milliQ)で2%に希釈し、洗浄液を作製した。匂いセンサのチャンバー内に、1mLの洗浄液を入れ、ピペッティングし、ピペッティング後の洗浄液を廃棄した。当該洗浄を5回繰り返した。次に、チャンバー内に1mLの超純水を入れ、ピペッティングし、ピペッティング後の水を廃棄した。当該洗浄を3回繰り返した。その後、エアーブローを用いて伸長ゲート電極を乾燥させた。
【0063】
MOSFETに細胞をBmOR3受容体を発現している播種し、匂いを検出することと、MOSFETを洗浄することと、を4回繰り返したところ、
図9に示すように、複数回洗浄を繰り返しても、匂いセンサは、ボンビカールに特異的に反応することが確認された。
【0064】
(アルミニウム上のOr13a受容体を発現している細胞を用いた匂い検出)
伸長ゲート電極表面が、酸化アルミニウム(Al
2O
3)ではなくアルミニウムである以外は、上記と同様である、Or13a受容体を発現しているSf21細胞を備える匂いセンサを製造した。当該センサのチャンバーに、上記の1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーを流し、次に、100μmol/Lの濃度でデカノールを含むアッセイバッファーを120秒間流し、その後、100μmol/Lの濃度で1−octen−3−olを含むアッセイバッファーを120秒間流した。
【0065】
その結果、
図10に示すように、匂い分子を含まないアッセイバッファーを流している間、及びデカノールを流している間は、ドレイン電流には、バックグラウンドノイズを上回る変調は見られなかった。これに対し、1−octen−3−olを流すと、ドレイン電流が1.2μA上昇した。
【0066】
(アルミニウム基板上における細胞の生存割合)
スパッタリング装置によって、シリコン基板の表面に膜厚500nmのアルミニウム膜を形成し、アルミニウム基板を得た。また、嗅覚受容体を導入していない、ワイルドタイプのSf21細胞を用意した。
【0067】
図11に示すように、Sf21細胞をアルミニウム基板上に播種してから5日間、毎日、アルミニウム基板上のSf21細胞の生死判定を行った。生死判定には、トリパンブルー(和光純薬)を用いた色素排除試験法を用いた。色素排除試験法によれば、死細胞は色素によって青く染色されるため、顕微鏡観察により、生存細胞の割合を求めることが可能である。
【0068】
その結果、
図12に示すように、5日間にわたって、97%以上のSf21細胞が、アルミニウム基板上で生存していることが確認された。さらに、
図11に示した顕微鏡観察の結果から、Sf21細胞は、アルミニウム基板上でも成長し、細胞密度が増加したことが確認された。
【0069】
次に、ヒト胎児腎由来のHEK293T細胞を用意した。
図13に示すように、HEK293T細胞をアルミニウム基板上に播種してから5日間、毎日、アルミニウム基板上のHEK293T細胞の生死判定を行った。生死判定には、トリパンブルー(和光純薬)を用いた色素排除試験法を用いた。その結果、HEK293T細胞は、アルミニウム基板上では時間が経っても細胞成長が遅く、アルミニウム基板の腐食により細胞が死滅する場合も観察された。
【0070】
アルミニウム基板上におけるSf21細胞とHEK293T細胞の増加曲線を
図14に示す。Sf21細胞は、アルミニウム基板上で成長することが確認された。これに対し、HEK293T細胞は、アルミニウム基板上で数が増減し、細胞数が安定しなかった。
【0071】
以上の結果は、昆虫細胞は、アルミニウム基板に対する適合性を有するが、哺乳類細胞は、アルミニウム基板に対する適合性を有しないことを示していた。
【0072】
(ファラデーケージを用いた匂い検出)
酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜を形成したMOSFETの周囲にファラデーケージを設置した場合のドレイン電流のノイズレベルと、MOSFETの周囲にファラデーケージを設置しなかった場合のドレイン電流のノイズレベルと、を測定した。その結果、
図15及び
図16に示すように、ファラデーケージを設置すると、ドレイン電流のノイズレベルがおおよそ1/3まで有意に減少することが確認された。
【0073】
(匂い検出における流量の影響の評価)
BmOR3受容体を発現しているSf21細胞を備える匂いセンサのチャンバーに、上記の1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーを流し、次に、10μmol/Lの濃度でボンビカールを含むアッセイバッファーを流量670μL/分で約60秒間又は1500μL/分で約30秒間流した。上述したように、ボンビカールはBmOR3受容体に結合する。なお、匂いセンサは卓上除振台上に配置した。また、匂いセンサは、ファラデーケージを備えていた。
【0074】
その結果、
図17に示すように、流量が約670μL/分のときは、ボンビカールの応答検出の後にドレイン電流が基底値に戻らなかった。これに対し、流量が約1500μL/分のときは、ボンビカールの応答検出の後にドレイン電流が基底値に戻った。なお、適当な流量は、匂いセンサの大きさ、形状、及び感度等に応じて変動しうる。したがって、適当な流量は、匂いセンサの大きさ、形状、及び感度等に応じて、適宜設定されればよい。
【0075】
(酸化アルミニウム上のBmOR3受容体を発現している細胞を用いた繰り返し匂い検出)
BmOR3受容体を発現しているSf21細胞を備える匂いセンサのチャンバーに、1v/v%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含むアッセイバッファーを流し、コントロールとして流している溶液と同じアッセイバッファーを約30秒間流した。次に、10nmol/Lの濃度でボンビカールを含むアッセイバッファーを約30秒間流した。その後、匂い分子を含まないアッセイバッファーを流し、匂い分子を匂いセンサから脱離させ、ドレイン電流を基底値に戻した。さらにその後、100nmol/Lの濃度でボンビカールを含むアッセイバッファーを約30秒間流した。この時の溶液の流量は約1500μL/分となるように設定した。なお、匂いセンサは卓上除振台上に配置した。また、匂いセンサは、ファラデーケージを備えていた。その結果、
図18に示すように、匂い分子を繰り返し検出可能であることが示された。