(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリアリーレンスルフィドは、数平均分子量が5,000〜100,000g/molであり、315℃で2.16kgの圧力で測定したメルトマスフローレイトが10〜1,000g/10minである、請求項1または2に記載の導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
前記ポリアリーレンスルフィドは、溶融温度(Tm)が220〜350℃であり、結晶化温度(Tc)が200〜330℃である、請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
前記バインダー樹脂は、混合物の総重量に対して20重量%〜40重量%含まれる、請求項1から4のいずれか一項に記載の導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
前記バインダー樹脂は、重量平均分子量が10,000〜1,000,000g/molである、請求項1から5のいずれか一項に記載の導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
請求項7に記載の導電性高分子フィルム形成用樹脂組成物を、200〜350℃の温度および1〜10MPaの圧力条件下、10秒以上10分以下の時間の間加圧熱処理する段階を含む、導電性高分子フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより具体的に説明する。また、本発明は、多様な変更が加えられて様々な形態を有しうることから、特定の実施例を例示して下記に詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物乃至代替物を含むことが理解されなければならない。
【0015】
また、本発明の明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0016】
以下、発明の具体的な実施形態による導電性高分子フィルム形成用組成物、その製造方法およびこれを用いて製造された導電性高分子フィルムなどについて説明する。
【0017】
発明の一実施形態による導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、
ポリアリーレンスルフィド;および分解温度(Td)が310℃以上のバインダー樹脂の混合物を含み、
前記バインダー樹脂は、混合物の総重量に対して5重量%以上50重量%未満で含まれる。
【0018】
前記のように、本発明では、ポリフェニレンスルフィド(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィドに対するスルホン化工程なしに、分解温度が制御されたバインダーを用いることによって、ポリアリーレンスルフィドに対して電気伝導性を付与すると同時に高温安定性を向上させることができる。
【0019】
具体的には、発明の一実施形態による導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、ポリアリーレンスルフィドは、芳香族環と硫黄原子が結合した構造を繰り返し単位として含む。より具体的には、前記ポリアリーレンスルフィドは、下記化学式1の繰り返し単位を含むポリフェニレンスルフィドであってもよい。
【0021】
前記化学式1において、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、およびフェニル基からなる群より選択され、
mは、0〜4の整数である。
【0022】
また、前記化学式1において、芳香族環に対する硫黄原子(S)の結合は、パラ、メタなどの多様な位置に結合してもよいが、パラ位置に結合することが、より優れた耐熱性および結晶性を示すことができる。
【0023】
また、前記ポリアリーレンスルフィドは、数平均分子量が5,000〜100,000g/mol、より具体的には10,000〜50,000g/molであってもよい。
【0024】
本発明において、ポリアリーレンスルフィドの数平均分子量(Mn)は、高温GPC(High Temperature gel permeation chromatography)で測定した、標準ポリスチレン換算数値を意味する。具体的には、Agilent Technologies 260 Infinity II HT−GPCを用いて測定できる。この時、評価温度は195〜220℃とし、1,2,4−トリクロロベンゼン(TBC)を溶媒として使用することができ、流速は1mL/minとする。また、サンプルは0.0025〜0.001g/mlの濃度に調製した後、100〜200μLの量で供給する。ポリスチレン標準を利用して形成された検定曲線を用いてMnの値を誘導する。ポリスチレン標準品の分子量(g/mol)は、2,000/10,000/30,000/70,000/200,000/700,000/2,000,000/4,000,000/10,000,000の9種を使用する。
【0025】
また、前記ポリアリーレンスルフィドは、MI(Melt Flow Index)装備を用いて、ASTM d25.4mm規格に合わせて、315℃で2.16kgの圧力で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が10〜10,000g/10min、より具体的には10〜1,000g/10minであってもよい。前記範囲内のMFRを有する時、これを含む樹脂組成物は、優れた加工性およびフィルム形成性を示すことができる。
【0026】
また、前記ポリアリーレンスルフィドは、前記重量平均分子量、分散度およびMFRを満たす条件下、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry;DSC)を用いて熱分析時に測定された溶融温度(melting temperature;Tm)が220〜350℃であり、結晶化温度(crystallization temperature;Tc)が200〜330℃、より具体的には、Tmが240〜330℃であり、Tcが220〜310℃であってもよい。
【0027】
このような物性的要件を同時に満たすポリアリーレンスルフィドは、樹脂組成物の製造時、優れた耐熱性と共に機械的強度および加工性を示すことができる。
【0028】
本発明において、ポリアリーレンスルフィドの溶融温度(Tm)および結晶化温度(Tc)は、具体的には、DSC(Differential Scanning Calorimeter、Q2000、TA社製造)を用いて、測定容器に試料を約0.5mg〜10mg充填し、窒素ガスの流量を10ml/minとし、ポリアリーレンスルフィドの温度を20℃/minの速度で50℃から330℃まで昇温した後、その状態で5分間維持し、次に、330℃から50℃の温度まで20℃/minの速度で冷却時、温度の上昇下降サイクルを構成し、再び20℃/minの速度で前記温度の上昇下降を1回繰り返す。分析に用いたグラフは、2番目の上昇下降したグラフを用い、熱流量(Heat flow)の変化を測定する。測定した熱流量変化曲線において2番目に温度が上昇する区間における加熱曲線のピークを溶融温度とし(Tm)、冷却曲線のピーク、つまり、冷却時の発熱ピーク温度を結晶化温度(Tc)とする。
【0029】
本明細書において、「ピーク」は、前記冷却曲線または加熱曲線の頂点を意味し、例えば、接線の傾きが0の点を表す。ただし、接線の傾きが0である点のうち、前記接線の傾きが0の点を基準として、接線の傾きの符号値が変化しない点、つまり、変曲点は除く。
【0030】
一方、発明の一実施形態によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物において、バインダー樹脂は、ポリアリーレンスルフィド主鎖間芳香族環のπ−π結合によって形成された電子移動区域に電子供与機能を付与して電気伝導性を示すようにするもので、分解温度(Td)が310℃以上であってもよい。
【0031】
分解温度が310℃未満の場合、フィルムの形成時、ポリアリーレンスルフィドの溶融温度付近でバインダー樹脂の熱分解が生じて十分な電気的特性を示しにくく、また、これより低い温度でフィルムを形成する場合、ポリアリーレンスルフィドが十分に溶融せずに粉末状が混在して存在することによって、フィルム形成性および電気伝導度を低下させることがある。より具体的には、前記バインダー樹脂は、分解温度(Td)が310〜500℃、さらにより具体的には350〜400℃であってもよい。
【0032】
本発明において、バインダー樹脂の分解温度(Td)は、熱重量分析装置を用いて測定することができ、具体的には、熱重量分析装置EQC−0220TGA(Mettler toledo)を用いて、測定容器に試料を約0.5mg〜10mg充填し、窒素雰囲気下、常温から500℃まで昇温速度10℃/minに昇温させて熱分解した温度を測定したものである。
【0033】
より具体的には、前記バインダー樹脂は、分子内の芳香族環構造を含み、また、前記芳香族環を構成する炭素原子と直接結合するか、または前記芳香族環を構成する炭素原子でない他の炭素原子と結合した硫黄原子を含むものであってもよい。前記構造的特徴を満たすバインダー樹脂は、ポリアリーレンスルフィドに対して優れた電気伝導性を示すようにすると同時に、優れた混和性(または混練性)を有する。また、これらのバインダー樹脂は、ポリアリーレンスルフィド主鎖と結合せずに単純混合された状態で含まれることによって、ポリアリーレンスルフィド主鎖の架橋(crosslinking)による物性変化の恐れがない。
【0034】
前記バインダー樹脂の具体例として、ポリスチレンスルホネートまたは芳香族スルホネート(aromatic sulfonate)などが挙げられ、これらのうちのいずれか1または2以上の混合物が使用できる。
【0035】
これらの中でも、基本骨格構造に他の化合物と電荷移動錯体を形成可能なペンダント(pendent)基としてスルホネート基を含むことによって、ポリアリーレンスルフィドとの混和性および電気伝導性の改善効果に優れ、高温、特にポリアリーレンスルフィドのTd以上の温度でも優れた熱的安定性を示して、フィルム形成のための高温加圧時に離脱の恐れがないポリスチレンスルホネート(polystyrene sulfonate;PSS)であってもよいし、さらにより具体的には、下記化学式2で表される繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0037】
前記化学式2において、
R
2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、
pは、0〜4の整数である。
【0038】
また、前記ポリスチレンスルホネートは、重量平均分子量(Mw)が10,000〜1,000,000g/mol、より具体的には20,000〜100,000g/mol、さらにより具体的には35,000〜70,000g/molであってもよい。ポリスチレンスルホネートが前記範囲の重量平均分子量を有する時、ポリアリーレンスルフィドに対してより優れた混和性を示すことができ、その結果、これを含む樹脂組成物は、優れた高温安定性と共に機械的特性を示すことができる。
【0039】
本発明において、ポリスチレンスルホネートの重量平均分子量(Mw)は、高温GPC(High Temperature gel permeation chromatography)で測定した、標準ポリスチレン換算数値を意味する。具体的には、Agilent Technologies 260 Infinity II HT−GPCを用いて測定できる。この時、評価温度は195〜220℃とし、1,2,4−トリクロロベンゼン(TBC)を溶媒として使用することができ、流速は1mL/minとする。また、サンプルは0.0025〜0.001g/mlの濃度に調整した後、100〜200μLの量で供給する。ポリスチレン標準を利用して形成された検定曲線を用いてMwの値を誘導する。ポリスチレン標準品の分子量(g/mol)は、2,000/10,000/30,000/70,000/200,000/700,000/2,000,000/4,000,000/10,000,000の9種を使用する。
【0040】
前記バインダー樹脂は、前記ポリアリーレンスルフィドおよびバインダー樹脂を含む混合物の総重量に対して5重量%以上50重量%未満の含有量で含まれる。
【0041】
バインダー樹脂の含有量が5重量%未満であれば、電気伝導性の改善効果がわずかであり、50重量%を超える場合、ポリアリーレンスルフィドとの均一な混合が難しく、これにより、高温加圧によるフィルムの形成時、ポリスチレンスルホネートの離脱が発生することがあり、また、混練性の低下によってフィルムの機械的強度が大きく減少して、外力発生時に区画をなして割れが発生することがある。混合物中のポリスチレンスルホネートの含有量制御による樹脂組成物およびフィルムの電気伝導性およびフィルム形成性の改善効果に優れていることを考慮する時、前記ポリスチレンスルホネートは、20重量%以上50重量%未満、さらにより具体的には20〜40重量%の含有量で含まれる。
【0042】
一方、発明の一実施形態によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、樹脂組成物の用途に応じた物性改善のために、カップリング剤、充填剤、耐衝撃付与剤、強化剤、離型剤、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、潤滑剤、または結晶核剤などのようなその他の添加剤を1種以上さらに含んでもよい。
【0043】
具体的には、カップリング剤をさらに含む場合、前記カップリング剤としては、シラン系、またはチタニウム系カップリング剤が使用可能であり、より具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどのヒドロキシ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられ、これらのうちのいずれか1または2以上の混合物が使用可能である。
【0044】
前記カップリング剤は、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総重量に対して10重量%以下、より具体的には0.01〜5重量%以下の含有量で含まれる。前記含有量範囲内に含まれる時、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械的強度特性を改善させ、また、粘度を増加させて優れた成形性を付与できる。
【0045】
また、充填剤をさらに含む場合、前記充填剤としては、具体的には、ニッケル、銅、金、銀、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、クロム、白金、パラジウム、タングステン、モリブデンなどの金属材料、これらの合金、混合体または金属間化合物;または人造黒鉛、天然黒鉛、ガラス状カーボン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素系物質などが使用可能であり、これらのうちのいずれか1または2以上の混合物が使用可能である。なお、前記充填剤は、ポリアリーレンスルフィドとの混和性を高めるために、シラノール基を含む化合物などによって表面処理されてもよい。
【0046】
前記充填剤は、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総重量に対して10重量%以下、より具体的には1〜5重量%以下の含有量で含まれる。前記含有量範囲内に含まれる時、成形性低下の恐れなくポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械的強度特性および伝導性を改善させることができる。
【0047】
また、耐衝撃付与剤をさらに含む場合、前記耐衝撃付与剤としては、具体的には、α−オレフィン類とビニル重合性化合物とを共重合して得られた熱可塑性エラストマーなどが使用できる。前記α−オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜8のα−オレフィン類などが挙げられ、前記ビニル重合性化合物としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのα,β−不飽和カルボン酸類およびそのアルキルエステル類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのα,β−不飽和ジカルボン酸およびその誘導体;またはグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0048】
前記耐衝撃付与剤は、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総重量に対して20重量%以下、より具体的には5〜10重量%以下の含有量で含まれる。前記含有量範囲内に含まれる時、優れた耐衝撃性および引張強度特性と共に優れた成形性および離型性を示すことができる。
【0049】
また、強化剤をさらに含む場合、前記強化剤としては、具体的には、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、窒化ホウ素、タルク、ケイ酸塩(アルミナシリケートなど)、塩化ケイ素、炭化ケイ素、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなど)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなど)、または硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)などが挙げられ、これらのうちのいずれか1または2以上の混合物が使用できる。
【0050】
前記強化剤は、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の総重量に対して10重量%以下、より具体的には1〜7重量%以下の含有量で含まれる。前記含有量範囲内に含まれる時、樹脂組成物の強度、剛性、耐熱性、寸法安定性などを向上させることができる。
【0051】
その他にも、発明の一実施形態による導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、前記成分と共に、用途に応じて、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマーなどの合成樹脂、またはフッ素ゴムなどのエラストマーなどをさらに含んでもよい。これらその他の高分子樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲内で樹脂組成物の用途に応じて適切にその使用量が決定可能である。
【0052】
発明の一実施形態による導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィドと共に、前記ポリアリーレンスルフィドに対して電気伝導性を付与でき、高い分解温度を有するバインダー樹脂を含むことによって、優れた電気伝導性と共に顕著に改善された熱安定性を示すことができる。さらに、前記ポリアリーレンスルフィドに対してポリスチレンスルホネートがドーピングされるか、または反応して反応物を形成するのではなく、単純混合された状態で樹脂組成物内に含まれ、また、前記ポリアリーレンスルフィドに対するポリスチレンスルホネートの優れた混和性によって均質混合物を形成することによって、混練前後の熱的挙動の変化なく優れた熱安定性を示すことができる。これにより、前記樹脂組成物は、高温加圧による導電性高分子フィルムの形成時に優れたフィルム形成性を示すことができる。
【0053】
そこで、本発明のさらに他の実施形態によれば、前記導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含む導電性高分子フィルム形成用組成物、そしてこれを用いた電気伝導性高分子フィルムおよびその製造方法が提供される。
【0054】
前記導電性高分子フィルム形成用組成物は、前記導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を含み、必要に応じてフィルム形成性を高めることができる溶媒およびその他の添加剤をさらに含んでもよい。
【0055】
また、前記導電性高分子フィルムは、前記導電性高分子フィルム形成用組成物を用いることを除けば、通常のフィルム形成方法により製造できる。
【0056】
一例として、前記導電性高分子フィルムは、前記導電性高分子フィルム形成用組成物をフィルム形成装置に投入後、高温加圧することによって製造される。
【0057】
また、前記導電性高分子フィルム形成用組成物の投入は、最終的に製造されるフィルムの厚さ、具体的には、最終的に製造されるフィルムの厚さが0.01〜1mmとなるように行われる。
【0058】
次に、導電性高分子フィルム形成用組成物または塗膜に対する高温加圧下熱処理工程が行われる。
【0059】
具体的には、前記高温加圧下熱処理工程は、200〜350℃の温度および1〜10MPaの圧力条件下、10秒以上10分以下の時間の間行われる。
【0060】
高温加圧条件下、熱処理時の温度が200℃未満であるか、圧力が1MPa未満である場合、フィルムが作られなかったり、または2つの高分子が十分に混用されない恐れがあり、350℃を超えるか、10MPaを超える場合、高分子の変色または高分子鎖の架橋が起こり、高分子自体の物理的物性に変性が生じる恐れがある。
【0061】
また、前記条件下、熱処理工程が10分を超える場合、多数の気孔が発生し、高分子が褐色または濃褐色に変色する恐れがあり、10秒未満で行われる場合、フィルムが作られなかったり、または2つの高分子が十分に混用されない恐れがある。
【0062】
これにより、高温加圧工程時の温度、圧力および処理時間の同時制御によるフィルムの形成性および物性制御の効果を考慮する時、より具体的には、290〜310℃の温度および5〜7MPaの圧力条件下、30秒以上5分未満、あるいは30秒以上2分以下の時間の間行われる。
【0063】
前記方法によって製造された導電性高分子フィルムは、優れた電気伝導性と共に熱安定性を有して、多様な分野に適用可能である。
【0064】
具体的には、前記導電性高分子フィルムは、ポリアリーレンスルフィド、および分解温度(Td)が310℃以上のバインダー樹脂を95:5以上50:50未満の重量比で含み、厚さが0.1〜0.2mmであり、10
9〜10
12Ω/□の面抵抗値を有するものであってもよいし、より具体的には、ポリアリーレンスルフィド、および分解温度(Td)が310℃以上のバインダー樹脂を80:20以上60:40未満の重量比で含み、厚さが0.1〜0.2mmであり、10
9〜10
10Ω/□の面抵抗値を有するものであってもよい。この時、前記ポリアリーレンスルフィドおよびバインダー樹脂は、先に説明した通りである。
【0065】
以下、発明の具体的な実施例を通じて発明の作用、効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の例として提示されたものであり、これによって発明の権利範囲がいかなる意味でも限定されるものではない。
【0066】
以下、実施例および比較例で使用した物質は、次の通りである:
PPS:ポリフェニレンスルフィド(Mn:18,000g/mol、MFR:821g/10min(at315℃、2.16kg)、溶融粘度:41.52Pa.s、収率91%、Tm:280.65℃、Tc:238℃)
PSS−1:ポリスチレンスルホネート(Mw:70,000g/mol、Td:400℃)
PSS−2:ポリスチレンスルホネート(Mw:35,000g/mol、Td:320℃)
PSS−3:ポリスチレンスルホネート(Mw:10,000g/mol、Td:250℃)
DDQ:2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(Td:250〜280℃、Mw:227g/mol)
【0067】
実施例1
PPS95重量%と、バインダー樹脂としてPSS−1 5重量%とを混合して導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造した。製造した組成物を導電性高分子フィルム形成用組成物として高温プレス装置に投入した後、300℃、7MPaの条件下、1分間維持してフィルム化した(フィルム厚さ:0.14mm)。フィルムに使用したPSS−1の分子量はMw70,000g/molであり、フィルムの製造時、別途のクラック現象は発生しなかった。
【0068】
実施例2〜5
前記実施例1において、PPSとPSS−1との混合物中、PSS−1の含有量を10重量%、20重量%、30重量%、および40重量%にそれぞれ変化させたことを除けば、前記実施例1と同様の方法で行って、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および導電性高分子フィルムを製造した(フィルム厚さ:0.14mm)。フィルムに使用したPSS−1の分子量はMw70,000g/molであり、フィルムの製造時、別途のクラック現象は発生しなかった。
【0069】
実施例6
PPS95重量%と、バインダー樹脂としてPSS−2 5重量%とを混合して導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造した。製造した組成物を導電性高分子フィルム形成用組成物として高温プレス装置に投入した後、300℃、7MPaの条件下、1分間維持してフィルム化した(フィルム厚さ:0.14mm)。フィルムに使用したPSS−2の分子量はMw35,000g/molであり、フィルムの製造時、別途のクラック現象は発生しなかった。
【0070】
比較例1
前記実施例1において、バインダー樹脂のPSSを用いないことを除けば、前記実施例1と同様の方法で行って、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物および導電性高分子フィルムを製造した(フィルム厚さ:0.14mm)。フィルムの製造時、別途のクラック現象は発生しなかった。
【0071】
比較例2
前記実施例1において、PPSとPSSとの混合物中、PSS−1の含有量を50重量%に変化させたことを除けば、前記実施例1と同様の方法で行って、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造し、また、これを用いて同様の方法で導電性高分子フィルムを製造しようとしたが、過剰のPSSによってフィルム形成がなされず離型する現象が発生した。一方、前記フィルムに使用したPSS−1の分子量はMw70,000g/molである。
【0072】
比較例3
前記実施例1において、バインダー樹脂のPSS−1の代わりにTdが280℃以下のDDQを用いることを除けば、前記実施例1と同様の方法で行って、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造した。
【0073】
前記製造したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の方法で導電性高分子フィルムを製造しようとしたが、DDQの低いTdによってPPSの溶融温度の280℃以上に昇温時、DDQが分解され、その結果、導電性高分子フィルムを製造することができなかった。
【0074】
比較例4
前記比較例3において、DDQを20重量%用いることを除けば、前記比較例3と同様の方法で導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造した。この後、これを用いて導電性高分子フィルムを製造しようとしたが、DDQの低いTdによって導電性高分子フィルムを製造することができなかった。
【0075】
比較例5
PPS95重量%と、バインダー樹脂としてPSS−3 5重量%とを混合して導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造した。製造した組成物を導電性高分子フィルム形成用組成物として高温プレス装置に投入した後、300℃、7MPaの条件下、1分間維持してフィルム化を試みた。フィルムに使用したPSS−3の分子量はMw10,000g/molであり、フィルムの製造時、多数の気孔およびフィルムの濃褐色、黒色の色変化が起こった。最終的にフィルムは形成されなかった。
【0076】
比較例6
PPS95重量%と、バインダー樹脂としてPSS−3 5重量%とを混合して導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造した。製造した組成物を導電性高分子フィルム形成用組成物として高温プレス装置に投入した後、300℃、7MPaの条件下、30秒間維持してフィルム化を試みた。フィルムに使用したPSS−3の分子量はMw10,000g/molであり、フィルムの製造時、多数の気孔およびフィルムの濃褐色の色変化が起こった。最終的にフィルムは形成されなかった。
【0077】
試験例1
前記実施例1で製造した樹脂組成物および導電性高分子フィルムに対して示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry;DSC)を用いて熱分析を行った。その結果を
図1に示し、参考のために、PPS単独のTmおよびTcを測定したDSC分析結果を
図2に示した。
【0078】
具体的には、DSC(Differential Scanning Calorimeter、Q2000、TA社製造)を用いて、測定容器に試料を約0.5mg〜10mg充填し、窒素ガスの流量を10ml/minとし、ポリアリーレンスルフィドの温度を20℃/minの速度で50℃から330℃まで昇温した後、その状態で5分間維持し、次に、330℃から50℃の温度まで20℃/minの速度で冷却時、温度の上昇下降サイクルを構成し、再び20℃/minの速度で前記温度の上昇下降を1回繰り返して、熱流量(Heat flow)の変化を測定した。
【0079】
その結果、導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の場合、Tm、Tcなどの熱的挙動を示す値の変化がなく、新しい反応物として推定されるピークも発見されなかった。これから、樹脂組成物内のPPSとPSSの両高分子が単純混合された状態で含まれていることを確認できる。
【0080】
一方、前記導電性高分子フィルムのDSC熱分析の結果、
図1に示されるように、フィルムのTmは混練後に281℃を示して、
図2に示されるように、PPS単独のTm値である281℃で変化がなかった。また、フィルムのTcはPPS単独値250℃で(
図2参照)混練後、251℃に(
図1参照)変化し、混練前後を比較する時、大きな変化はない。また、混練後、98℃でPSSのTgを確認でき、230℃の区間でPSSのショルダーピークが現れることを確認できる。ドーピングされるか、または互いに反応して反応物を形成する時に現れるTm、Tc値の大きい移動およびグラフ概形の変化は、DSC分析結果確認できなかった。この結果から、PPSとPSSは単純混合をなしていることが分かる。
【0081】
試験例2:樹脂組成物の高温安定性評価
前記実施例1および比較例1で製造した導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に対して、300℃、7MPaの条件下、1分間維持して組成物の変化を観察した。
【0082】
その結果を
図3および
図4にそれぞれ示した。
【0083】
図3は、比較例1の導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の高温安定性を観察した結果であり、
図4は、実施例1の導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の高温安定性を観察した結果である。
【0084】
図3および
図4に示されるように、高温で長時間維持しても、実施例1の樹脂組成物において変色などの変化は観察されなかった。この結果から、PSSがさらに混合された実施例1の樹脂組成物が優れた高温安定性を有することを確認できる。
【0085】
試験例3:フィルム製造条件の確認
前記実施例1で製造した導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いたフィルムの形成時、フィルムの製造条件を確認するために、下記表1に記載されるような条件でそれぞれ処理し、組成物の変化を観察した。その結果を
図5Aおよび5Bにそれぞれ示した。
【0087】
図5Aおよび5Bに示されるように、条件2のように、310℃で5分間維持した場合、組成物内に含まれているPPSの架橋結合によって変色が発生した。これから、本発明による導電性ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いたフィルムの製造時、高温加圧工程の最適化が必要であることが分かる。
【0088】
試験例4
前記実施例1〜6、および比較例1〜6で製造した導電性高分子フィルムに対して、4−探針プローブを用いて面抵抗を測定した。その結果を下記表2に示した。
【0090】
実験結果、実施例1〜6の場合、バインダー樹脂の含有量が増加するに伴ってフィルムの面抵抗値が減少し、特に、バインダー樹脂の含有量20重量%以上50重量%未満で帯電防止可能な面抵抗値、10
9Ω/□を有することを確認できる。
【0091】
一方、バインダー樹脂なしにPSSのみを用いた比較例1の場合、フィルムは製作されたが、導電性を有しない不導体のPPSのみで構成されることによって、抵抗値が測定されなかった。
【0092】
また、実施例1と同一のバインダー樹脂を使用したが、過剰に使用した比較例2の場合、PPS高分子とPSS高分子との混練性の低下で、フィルム形態で外力によって元の形態を失って割れる現象が発生した。これにより、面抵抗の測定が不可能であった。
【0093】
さらに、本発明におけるバインダー樹脂の分解温度条件を満たさないバインダーを用いた比較例3および4の場合、面抵抗値を確認できなかった。これは、バインダーであるDDQの含有量に関係なく、フィルムの製造過程でバインダーの分解が生じてフィルムが製造されなかった。また、バインダー樹脂として実施例1と同一のPSSを使用しても、Mwの差によって分解温度条件を満たさないPSS−3(Td:250℃)を用いた比較例5および6の場合にも、フィルムの製造時、多様な条件での実施にもかかわらず、多数の気孔が発生し、フィルムの色が濃褐色に変化し、結果的にフィルムが形成されなかった。