(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブレーキダスト量算出部が、動作前の前記ブレーキのブレーキパッドの重量値と動作後の前記ブレーキパッドの重量値とを取得し、取得したこれらの重量値に基づいて前記ブレーキダスト量を算出する、請求項1又は2記載のブレーキ試験システム。
前記サンプリング部は、前記車両の車輪のホイールウェル部、前記ブレーキのブレーキキャリパー部、又は前記車両の周囲から空気をサンプリングする、請求項4記載のブレーキ試験システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年の環境問題に対する意識の高まりから、上記した排ガスの分析のみならず、車両から発生するブレーキダスト量を定量的に評価するためのブレーキ試験を行いたいとの要望が高まっている。
【0005】
本発明はこのような要望に応えるものであり、車両から発生するブレーキダスト量を定量的に評価できるブレーキ試験システム、ブレーキ試験方法及びブレーキ試験システム用のプログラムを提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記要望に応えるため鋭意検討を重ねる中で、ブレーキを動作させることで発生するブレーキダスト量と、当該ブレーキ動作におけるブレーキの仕事量との間には相関関係があることに着眼した。従来、ブレーキの仕事量を算出する試みがなされておらず、前記したような相関関係は把握されていなかった。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、シャシダイナモメータやブレーキダイナモメータ等を用いた台上試験を行うことによってブレーキの仕事量を容易に算出することができ、これによりブレーキダストの発生量とブレーキの仕事量との相関関係を把握でき、ブレーキダスト量を定量的に評価できるようになることを見出し、本発明に至ったのである。
【0007】
すなわち本発明のブレーキ試験システムは、回転体を備える台上を走行する車両のブレーキを試験するブレーキ試験システムであって、前記回転体を所定の回転数で回転するように制御する回転制御部と、前記車両のブレーキが動作することにより前記回転体に生じるトルクを取得するトルク取得部と、前記車両のブレーキが動作している時間を取得する時間取得部と、前記回転制御部が制御する前記回転体の回転数と、前記トルク取得部が取得したトルクと、前記時間取得部が取得した時間とに基づいて、前記ブレーキの仕事量を算出するブレーキ仕事量算出部とを備えることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、車両が載せられる回転体を所定の回転速度で回転させている状態で試験車両にブレーキをかけ、この際に回転体に生じるトルクと、ブレーキをかけている時間(すなわち回転体にトルクが生じている時間)とを取得するだけでブレーキ動作におけるブレーキの仕事量を簡単に算出できる。そのため、例えばこのブレーキ動作時において生じるブレーキダスト量を併せて測定しておけば、ブレーキが行う仕事量に対して発生するブレーキダスト量を知ることができる。
【0009】
ブレーキが動作した際の仕事量と、それにより発生するブレーキダスト量との相関関係を把握できるようにするには、前記したブレーキ試験システムが、前記ブレーキが動作することにより発生するブレーキダスト量を算出するブレーキダスト量算出部と、前記ブレーキダスト量算出部が算出したブレーキダスト量と、前記ブレーキ仕事量算出部が算出した前記ブレーキの仕事量とを関連付けて記憶する記憶部とをさらに備えていればよい。
このようにすれば、例えば車両に搭載されるECUを、ブレーキを踏み込んだ際の速度やブレーキを踏んでいた時間や回数等を記憶する等してブレーキが行った大まかな仕事量の積算値を算出できるように構成しておけば、上記した相関関係を用いることにより、走行中の車両から発生するブレーキダスト量を把握することができる。
【0010】
前記ブレーキダスト量算出部の態様として、動作前の前記ブレーキのブレーキパッドの重量値と動作後の前記ブレーキパッドの重量値とを取得し、取得したこれらの重量値に基づいて前記ブレーキダスト量を算出するものを挙げることができる。
このようなものであれば、ブレーキ動作によって生じるブレーキダストの量を正確に算出することができる。
【0011】
前記したブレーキダスト量算出部の態様として、ブレーキが動作することで発生するブレーキダストを含む空気をサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング空気を元素分析する元素分析部と、前記元素分析部の元素分析結果に基づいて、前記サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量を算出するブレーキダスト量算出部とを備えるものを挙げることができる。
このようなものであれば、シャシダイナモメータを用いて、車両にブレーキをかけた際のブレーキの仕事量と、ブレーキダスト量とを同時に算出することができる。
【0012】
前記サンプリング部が空気をサンプリングする箇所として、ブレーキのブレーキキャリパー部近傍や、車輪のホイールウェル部近傍や、車両の周囲等を挙げることできる。このうち、発生するブレーキダストのサンプリング漏れを少なくするには、車輪のホイールウェル部から空気をサンプリングすることが好ましい。これにより、ブレーキが動作した際の仕事量と、それにより生じるブレーキダスト量との関係をより正確に知ることができる。
【0013】
また本発明のブレーキ試験方法は、回転体を備える台上を走行する車両のブレーキの性能を試験するものであって、前記回転体を所定の回転数で回転するように制御する回転制御ステップと、前記車両のブレーキが動作することにより前記回転体に生じるトルクを取得するトルク取得ステップと、前記車両のブレーキが動作している時間を取得する時間取得ステップと、前記回転制御ステップで制御する前記回転体の回転数と、前記トルク取得ステップで取得したトルクと、前記時間取得ステップで取得した時間とに基づいて、前記ブレーキの仕事量を算出するブレーキ仕事量算出ステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
前記ブレーキ試験方法は、前記ブレーキが動作することにより発生するブレーキダスト量を算出するブレーキダスト量算出ステップと、前記ブレーキダスト量算出ステップで算出したブレーキダスト量と、前記仕事量算出ステップが算出した前記ブレーキの仕事量とを関連付けて記憶する記憶ステップとをさらに含むことが好ましい。
【0015】
また、前記ブレーキの単位仕事量あたりのブレーキダスト量である単位ブレーキダスト量を算出する単位ブレーキダスト量算出ステップをさらに含むことが好ましい。
【0016】
また本発明のブレーキ試験システム用のプログラムであれば、回転体を備える台上を走行する車両のブレーキの性能を試験するものであって、前記回転体を所定の回転数で回転するように制御する回転制御部としての機能と、前記車両のブレーキが動作することにより前記回転体に生じるトルクを取得するトルク取得部としての機能と、前記車両のブレーキが動作している時間を取得する時間取得部としての機能と、前記回転制御部が制御する前記回転体の回転数と、前記トルク取得部が取得したトルクと、前記時間取得部が取得した時間とに基づいて、前記ブレーキの仕事量を算出するブレーキ仕事量算出部としての機能とをコンピュータに発揮させることを特徴とする。
【0017】
このようなブレーキ試験方法やブレーキ試験システム用のプログラムであれば、上記したブレーキ試験システムと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、シャシダイナモメータを用いて車両のブレーキ性能を試験できるブレーキ試験システム、ブレーキ試験方法及びブレーキ試験システム用のプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るブレーキ試験システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
1.ブレーキ試験システム
本実施形態のブレーキ試験システム100は、ブレーキBを有する完成車両たる試験車両Vをシャシダイナモメータ2上で走行させて、この試験車両VのブレーキBの性能を試験するものである。具体的には、シャシダイナモメータ2上で試験車両Vを走行させている状態でブレーキBを動作させた際にブレーキBが行う仕事量を算出するとともに、ブレーキBから発生するブレーキダストの量を算出するものである。
【0022】
具体的にこのブレーキ試験システム100は、
図1に示すように、試験車両Vが配置されるチャンバー1と、試験車両Vの車輪を載せて回転するシャシローラ21(本発明の“回転体”に相当する。以下、単にローラともいう。)を備えるシャシダイナモメータ2と、ローラ21の回転軸にかかるトルクを取得するトルク取得部3と、チャンバー1内の空気をサンプリングするサンプリング部5と、サンプリング部5によりサンプリングされたサンプリング空気を分析する元素分析部6と、ブレーキBの仕事量やブレーキダストの量を算出する演算装置7とを備える。
【0023】
チャンバー1は、例えば試験車両Vが配置される実質的に密閉された密閉空間1Sを有しており、試験車両Vから排出される排ガスをチャンバー1外に排出する排出機構11を有している。排出機構11は、試験車両Vの排気管とチャンバー1外部とを連通する配管である。
【0024】
シャシダイナモメータ2は、回転体たるローラ21と、ローラ21に接続されてこれを回転させる図示しないモータとを備えている。ローラ21は、具体的には例えば回転ドラムや無端ベルト(フラットベルト)等である。ここでは、試験車両Vの前輪及び後輪それぞれに対してローラ21が設けられているが、前輪又は後輪の一方のみに対してローラ21が設けられていてもよい。
【0025】
本実施形態のシャシダイナモメータ2は、ローラ21が所定の回転数で回転するように制御する回転制御部22を備えている。回転制御部22は、CPU、メモリ、A/Dコンバータ及びD/Aコンバータ等を備えたものである。そして、当該メモリの所定領域に格納されたプログラムに従ってCPUや周辺機器が協働することにより、モータの出力を制御して、ローラ21を所定の回転数で回転させる。本実施形態の回転制御部22は、前記ローラ21が一定の回転数で回転し続けるようにモータの出力を制御するように構成されている。
【0026】
トルク取得部3は、具体的にはローラ21の回転軸に取り付けられたトルクセンサである。このトルクセンサはひずみゲージを利用したものである。トルク取得部3は、ローラ21の回転軸にかかるトルク値を連続的に取得するように構成されている。ここでは、少なくともローラ21上で試験車両Vが走行している間において、ローラ21の回転軸にかかるトルク値を連続的に取得するように構成されている。
【0027】
サンプリング部5は、チャンバー1内の空気をサンプリングするものである。具体的にこのサンプリング部5は、チャンバー1内に一端部(採取ポート51P)が開口する採取管と、採取管に設けられて採取ポート51Pから空気を吸引するための吸引ポンプ52が設けられている。そして採取管には、採取ポート51Pによりサンプリングされた空気中に含まれるブレーキダストを捕集するための捕集フィルタ54と、採取管を流れる空気の流量を測定する流量センサ53とが設けられている。
【0028】
採取管の採取ポート51Pは、試験車両Vの後輪のホイールウェル部近傍に開口するように構成されている。なお採取ポート51Pは、ブレーキキャリパー部の近傍や、チャンバー1内の試験車両Vの周囲に開口するように構成されていてもよい。なお、車速風を模擬するための車速ファンがチャンバー1内に設置されている場合には、採取ポート51Pは、ブレーキBよりも後方において、前方に向かって開口するように構成されていることが好ましい。車速ファンからの風により発生したブレーキダストが後方に流されやすくなるため、採取ポート51Pをこのように構成すればサンプリング漏れを低減できる。
【0029】
捕集フィルタ54は、サンプリングされた空気中の粒子を捕集するものであり、1枚1枚が分離された分離式ものであってもよいし、供給ロール及び巻き取りロールを用いた巻き取り式のものであってもよい。捕集フィルタ54の材質としては、例えばPTFEコーティングガラス繊維又はPTFE等が挙げられる。
【0030】
元素分析部6は、サンプリング部5によりサンプリングされた空気を元素分析するものである。具体的に元素分析部6は、捕集フィルタ54に捕集された粒子を元素分析するものである。この元素分析部6は、具体的には蛍光X線分析装置であり、試料にX線を照射して、発生する蛍光X線を検出して金属元素の分析を行う装置である。前記試料は、粒子を捕集した捕集フィルタ54である。本実施形態の元素分析部6は、捕集フィルタ54に捕集された粒子に含まれる元素の濃度(例えば質量濃度(%))や質量(g)を定量分析できるものである。なお、捕集フィルタ54が分離式のものであれば、捕集フィルタ54をサンプリング部5から取り外して元素分析部6にセットして元素分析を行う。また、捕集フィルタ54が巻き取り式のものであれば、元素分析部6が捕集フィルタ54の近傍に設置されて、捕集フィルタ54をサンプリング部5から取り外すことなく元素分析を行う。この場合、巻き取り式の捕集フィルタ54と元素分析部6とが一体構成された装置(フィルタ54付きの元素分析装置)としてもよい。
【0031】
演算装置7は、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、A/Dコンバータ等を備えた専用又は汎用のコンピュータである。そしてこの演算装置7は、内部メモリに格納されたブレーキ試験システム100用のプログラムに基づき、CPU及び周辺機器が協働することによって、
図2に示すように、第1受付部71、ブレーキ仕事量算出部72、第2受付部73、元素含有情報格納部74、ブレーキダスト量算出部75、ブレーキ性能データ生成部76、ブレーキ性能情報格納部77(本発明の記憶部に相当する)としての機能を発揮する。以下、各部について説明する。
【0032】
第1受付部71は、回転制御部22が制御するローラ21の回転数データを受け付けるとともに、これをブレーキ仕事量算出部72に送信する。
【0033】
また第1受付部71は、トルク取得部3が取得したトルクデータを受け付け、これに基づいて試験車両VのブレーキBが動作している時間であるブレーキ時間を取得する。すなわち本実施形態では、第1受付部71は時間取得部としての機能を備えている。ブレーキ時間とは、例えばテストドライバーが試験車両VのブレーキBを踏むことにより、ローラ21の回転軸に通常走行時(ブレーキBを踏んでいない時)より高いトルクがかかっている時間を意味する。第1受付部71は、具体的には演算装置7内に組み込まれたタイマー機能を備えており、トルク取得部3から受け付けるトルク値が所定値を超えてから当該所定値を下回るまでの間の時間を、ブレーキ時間として取得するように構成されている。そして第1受付部71は、ブレーキ時間を示すブレーキ時間データと、当該ブレーキ時間におけるトルク値を示すブレーキ時トルクデータを、ブレーキ仕事量算出部72に送信する。なお、本実施形態ではブレーキ時間におけるトルク値を当該ブレーキ時間内において取得されるトルク値の平均値としている。
【0034】
ブレーキ仕事量算出部72は、第1受付部71から受信した回転数データとブレーキ時トルクデータとブレーキ時間データに基づいて、ブレーキBの仕事量を算出するものである。具体的にブレーキ仕事量算出部72は、回転数データが示すローラ21の回転数をR(rpm)、ブレーキ時トルクデータが示すローラ21の回転軸にかかるトルク値をT(N・m)、ブレーキ時間データが示す時間をt
B(s)として、ブレーキ動作時におけるブレーキBの仕事率P(kW)及び仕事量W(kJ)を以下の式により算出する。そしてブレーキ仕事量算出部72は、算出した仕事量Wをブレーキ性能データ生成部76に送信する。
【0035】
<ブレーキの仕事率(P)>
P=2π×T×R/(60×1000)
【0036】
<ブレーキの仕事量(W)>
W=P×t
B
=2π×T×R×t
B/(60×1000)
【0037】
元素含有情報格納部74は、ブレーキBに含まれる1又は複数の元素の含有情報を格納する。この含有情報はデジタルデータであり、ブレーキBに含まれる1又は複数の元素の既知濃度(例えば質量濃度(%))だけでなく、それら1又は複数の元素の組成比又は含有割合などを含んでいてもよい。また含有情報は、予めユーザなどによって入力されたものであってもよいし、インターネットを介してサーバなどから送信されたものであってもよい。本実施形態の元素含有情報格納部74は、ブレーキパッドに含まれる1又は複数の元素の含有情報を格納している。
【0038】
第2受付部73は、元素分析部6により得られた元素分析情報を受け付ける。この元素分析情報は、捕集フィルタ54に捕集された粒子に含まれる複数の元素の測定濃度(例えば質量濃度(%))だけでなく、それら複数の元素の組成比又は含有割合等を含んでいてもよい。また第2受付部73は、流量センサ53により得られた採取管を流れる空気の流量データを受け付ける。そして、第2受付部73は受け付けた元素分析情報及び流量データをブレーキダスト量算出部75に送信する。
【0039】
ブレーキダスト量算出部75は、第2受付部73が受け付けた元素分析情報及び流量データと、元素含有情報格納部74に格納された含有情報とに基づいて、サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量を算出するものである。
【0040】
具体的にブレーキダスト量算出部75は、元素分析情報から、チタン(Ti)の重量(g・m/s
2)を計測する(チタン:M
Ti)。なお、各成分の重量の計測方法としては、捕集前後の捕集フィルタ54の重量差を算出し、当該重量差に対して元素分析装置を用いて求めた各成分の含有割合を掛け合わせることや、捕集後の捕集フィルタ54に対して例えばβ線を照射して得られるβ線の透過強度から捕集重量を求め、当該捕集重量に対して元素分析装置を用いて求めた各成分の含有割合を掛け合わせることが考えられる。
【0041】
予めブレーキパッドのチタンの含有割合を元素分析装置を用いて重量百分率(%)を計測しておく(チタン:R
Ti%)。なお、このチタンの含有割合が、含有情報として元素含有情報に格納されている。
【0042】
また、採取部51によるサンプリング流量(流量センサ53の流量データ)をX(m
3/min)とし、採取部51によるサンプリング時間をt
S(min)とする。
【0043】
このとき、ブレーキダスト量算出部75は、以下の式により、サンプリングされた空気に含まれるブレーキダスト量(g・m/s
2)を算出する。なおブレーキBが動作することによるブレーキパッドの摩耗量はブレーキロータの摩耗量より遥かに大きいため、本実施形態では、ブレーキパッドからのダスト発生量をブレーキ全体から発生するブレーキダスト量とみなしている。
【0044】
<ブレーキダスト量(m
B)>
m
B=(M
Ti/R
Ti)×t
S
【0045】
上記のブレーキダスト量は、サンプリングされた空気に含まれる量であり、サンプリングされない空気に含まれるブレーキダスト量は含まない。このため、ブレーキダスト量算出部75は、以下の方法により、チャンバー1の容積(V
C)とサンプリング空気の積算流量(Q
S)とに基づいて、サンプリング空気に含まれるブレーキダスト量(m
B)からブレーキBから発生するブレーキダストの全量(m
TOTAL)を算出することもできる。そしてブレーキダスト量算出部75は、算出したブレーキダストの全量m
TOTALを、ブレーキ性能データ生成部76に送信する。
【0046】
<ブレーキから発生するブレーキダストの全量(m
TOTAL)>
m
TOTAL=m
B×V
C/Q
S
【0047】
ブレーキ性能データ生成部76は、ブレーキ仕事量算出部72が算出したブレーキBの仕事量と、前記ブレーキダスト量算出部75が算出したブレーキダストの全量とを受け付けて、これらを関連付けて1組のブレーキ性能データを生成する。ここでブレーキ性能データ生成部76は、所定時間の間にブレーキBが行う仕事量と、同所定時間の間に発生するブレーキダストの全量と、を関連付け、これを1組のブレーキ性能データとして生成する。ブレーキ性能データ生成部76は、試験車両Vを試験走行させる毎に新たな1組のブレーキ性能データを生成するように構成されている。そして1組のブレーキ性能データを生成する度に、これをブレーキ性能情報格納部77に送信する。
【0048】
ブレーキ性能情報格納部77は、ブレーキ性能データ生成部76から受け付けたブレーキ性能データを格納する。ブレーキ性能情報格納部77は、ブレーキ性能データ生成部76から受け付けるブレーキ性能データを、蓄積して格納するように構成されている。すなわち、新たな1組のブレーキ性能データを受け付けると、これを以前に受け付けたブレーキ性能データとは異なるデータとして格納する。
【0049】
2.ブレーキ試験方法
以下、上記したブレーキ試験システム100を用いたブレーキ試験方法について、
図3を参照して説明する。
【0050】
まず、ブレーキBを備える試験車両Vをシャシダイナモメータ2上に設置する(ステップS1)。
【0051】
次いで、試験車両Vのギアをニュートラルにした状態で、シャシローラ21が一定の回転数で回転するようにモータを出力する(ステップS2)。ここでは、試験車両Vの車速が20km/hになるように、シャシローラ21の回転数を制御する。シャシローラ21上に載っている試験車両Vの車輪は、シャシローラ21の回転に合わせた回転数で回転する。なおここで、シャシローラ21を回転させるのと同時に、サンプリング部5によりチャンバー1内の空気のサンプリングを開始する。
【0052】
シャシローラ21が所定の回転数で回転している状態で、テストドライバーが試験車両VのブレーキBを踏む(ステップS3)。すると、タイヤとシャシローラ21との間に制動力が働くが、シャシローラ21は一定の回転数Rで回転し続けるため、シャシローラ21の回転軸にかかるトルクが増加する。ここでテストドライバーは、
図4に示すように、所定の時間に亘って試験のブレーキBを連続的に踏み続ける。なお、試験車両VのブレーキBをポンピングするように断続的に踏むようにしてもよい。
【0053】
テストドライバーによってブレーキBが踏まれている間、シャシローラ21の回転軸にかかるトルク値がトルクセンサによって取得され、これに基づいてブレーキ時間が演算装置7によって取得される(ステップS4)。
【0054】
上記ステップS3を及びステップS4を所定回数繰り返した後、ブレーキ仕事量算出部72によって、ローラ21の回転数と、ブレーキBの動作時にローラ21の回転軸にかかるトルク値と、ブレーキBが動作している時間とを乗じることにより、上記した試験走行におけるトータルのブレーキBの仕事量が算出される。またブレーキダスト量算出部75によって、上記した試験走行において生じるトータルのブレーキダスト量が算出される(ステップS5)。
【0055】
最後に、ブレーキ性能データ生成部76が、ブレーキBの仕事量と、当該試験走行において発生したブレーキダスト量とを関連付けたブレーキ性能データを生成し、これをブレーキ性能情報格納部77に格納する(ステップS6)。
【0056】
そして、シャシローラ21の回転数やブレーキBを動作させる時間を変更して、算出されるブレーキ仕事量Wが異なるようにして上記したステップS2〜S6を複数回繰り返す。具体的には、例えば、試験車両Vの車速を10km/h刻みで10km/h〜100km/hまで変更し、各車速においてブレーキBを所定時間動作させ、このブレーキ動作におけるブレーキ仕事量及びブレーキダスト量を算出し、これらを関連付けたブレーキ性能データを生成してこれをブレーキ性能情報格納部77に格納する。あるいは、例えば試験車両Vの車速を20km/hのままにし、ブレーキBを動作させる時間を変更するようにしてもよい。
【0057】
上記したブレーキ試験システム100及びブレーキ試験方法により得られるブレーキBの仕事量とブレーキダスト量との関係を
図6の(a)〜(c)に示す。
図6の(a)はブレーキキャリパー部近傍からサンプリングした結果、(b)は、ホイールウェル部近傍からサンプリングした結果、(c)は、車速ファンよりも前方側の大気からサンプリングした結果をそれぞれ示すグラフである。これらの図から、ブレーキBの仕事量に比例して、発生するブレーキダストの量が大きくなることが分かる。車輪のホイールウェル部近傍からサンプリングする場合(
図6(b))に、その傾向は最も顕著になることが分かる。これより、ブレーキキャリパー部近傍や試験車両V周りの密閉空間1Sからサンプリングするよりも、ホイールウェル部近傍でサンプリングする方が、発生するブレーキダストのサンプリング漏れが少なく、ブレーキBの仕事量と発生するブレーキダスト量との相関関係をより正確に知ることができることが分かる。
【0058】
このように構成した本実施形態のブレーキ試験システム100によれば、完成車両たる試験車両Vが載せられるシャシローラ21を所定の回転速度で回転させている状態で試験車両VにブレーキBをかけ、この際にシャシローラ21に生じるトルクと、ブレーキBをかけている時間とを取得するだけでブレーキ動作におけるブレーキBの仕事量を簡単に算出することができる。
【0059】
また、元素分析部6を設けて、ブレーキB仕事量を算出するのとともにブレーキダスト量を算出し、これらを関連付けて記憶するようにしているので、ブレーキBが動作した際の仕事量と、それにより生じるブレーキダスト量との相関関係を知ることができる。そのため、例えば車両に搭載されるECUを、ブレーキBを踏み込んだ際の速度やブレーキBを踏んでいた時間や回数等を記憶する等してブレーキBが行った大まかな仕事量の積算値を把握できるように構成しておけば、上記したブレーキBの仕事量と発生するブレーキダスト量との相関関係を用いることにより、走行中の車両から発生しているブレーキダスト量を把握することができる。
【0060】
また、元素分析部6に導入されるサンプリング空気を、車輪のホイールウェル部近傍からサンプリングするようにしているので、ブレーキダストのサンプリング漏れを少なく、ブレーキBが動作した際の仕事量と、それにより生じるブレーキダスト量との関係をより正確に知ることができる。
【0061】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0062】
他の実施形態のブレーキ試験方法では、ステップS3において、
図5に示すように、ブレーキBを動作させた後ブレーキBを離し、ブレーキBの温度が所定値以下まで低下した後に再度ブレーキBを動作させるようにしてもよい。このようにすれば、ブレーキBの温度が過度に上昇することを防ぐことができる。
【0063】
前記実施形態では、回転制御部22はローラ21が一定の回転数で回転し続けるようにモータの出力を制御していたがこれに限らない。他の実施形態では、ローラ21の回転数が走行試験中に変動するようにモータの出力を制御するように構成してもよい。
【0064】
前記実施形態のブレーキ仕事量算出部72は、ブレーキBが動作しているブレーキ時間と、当該ブレーキ時間内に取得されるトルク値の平均値を用いてブレーキBの仕事量を算出していたがこれに限らない。例えば、下記の式に示すように、ローラ21の回転軸にかかるトルク値Tとローラ21の回転数Rとの積をブレーキ時間t
Bに亘って時間で積分することにより仕事量Wを算出してもよい。
【0066】
ここで、T(t)は時刻tにおけるローラ21の回転軸にかかるトルク値であり、R(t)は時刻tにおけるローラ21の回転数であり、t
0はブレーキを動作させ始める時刻である。
【0067】
前記実施形態では、トルク取得部3が取得したトルク値が所定値を上回ってから所定を下回るまでの時間をブレーキBが動作している時間としたがこれに限定されない。他の実施形態では、試験車両Vの運転を自動運転ロボットにより行わせ、この自動運転ロボットに予め組み込んだ、ブレーキBを踏むためのプログラムに基づいてブレーキBが動作している時間を決定してもよい。また、テストドライバーが、走行試験中にブレーキBを踏んでいる合計時間をストップウォッチ等で計測し、この計測した時間を演算装置7に入力することにより、ブレーキBが動作している時間が取得されてもよい。また、ブレーキBが動作する時間を予め決定しておき、これを演算装置7に予め入力しておいてもよい。この場合には、走行試験においてテストドライバーは、予め決定された時間ブレーキBを動作させるようにすればよい。
【0068】
他の実施形態では、ブレーキ性能データ生成部76は、受け付けたブレーキ仕事量とブレーキダスト量とに基づいて、ブレーキBの単位仕事量(すなわち1kJ)あたりのブレーキダスト量である単位ブレーキダスト量を算出し、これをブレーキ性能データとしてブレーキ性能情報格納部77に格納するように構成されていてもよい。
【0069】
他の実施形態では、
図7に示すように、演算装置7がブレーキBが動作している間のブレーキBの温度を取得する温度取得部78を更に備えていてよい。この温度取得部73は、例えば図示しない放射温度計等の温度計からブレーキパッドの温度を取得するとともに、この取得した温度を、ブレーキ仕事量算出部72が算出した仕事量及びブレーキダスト量算出部75が算出したブレーキダスト量と紐づけてブレーキ性能情報格納部77に格納する。これにより、ブレーキ(例えばブレーキパッド)の温度と、ブレーキBの仕事量及びブレーキダスト量との関係を知ることができる。
【0070】
前記実施形態では、チタンの計測重量から換算してブレーキダスト量を算出していたがこれに限らない。例えば銅(Cu)などの他の金属元素の計測重量から換算してブレーキダスト量を算出してもよい。また、次の式に示すように、複数の金属元素(例えばチタン及び銅)の計測重量から換算したブレーキパッドのダスト量を平均して、ブレーキダスト量を算出するようにしてもよい。
m
B=[(M
Ti/R
Ti)と(M
Cu/R
Cu)]×t
S
【0071】
また
図7に示すように、ブレーキダスト量算出部75は、ブレーキBが動作する前(すなわち走行試験前)のブレーキパッドの重量と、ブレーキが動作した後の(すなわち走行試験後)のブレーキパッドの重量値を取得し、これらの値を用いてブレーキダスト量を算出してもよい。具体的には、走行試験前のブレーキBの重量値から走行試験後のブレーキBの重量値を引いた値を、ブレーキダスト量としてもよい。この場合、走行試験前後のブレーキBの重量値は、オペレータにより重量計を用いて直接測定され、第2受付部73に直接入力されるように構成されてもよい。またこれに加えて、前記したように前記したようにチャンバー1内の空気をサンプリングして、これを分析することでブレーキダスト量を算出してもよい。
【0072】
前記実施形態のシャシダイナモメータ2上で走行する試験車両Vから排出される排ガスを排ガスサンプリング装置により採取して、排ガス分析装置により当該排ガス中に含まれる所定成分を分析するシステムと組み合わせてもよい。
【0073】
ブレーキダスト量は、前記実施形態では、ブレーキパットのみのブレーキダストを計測するものであったが、ブレーキパット及びブレーキロータの両方を計測するものであってもよい。また、ブレーキBの形式としては、ディスクブレーキの他に、ドラムブレーキであっても良い。この場合、格納部には、ブレーキシューの元素の含有情報及び/又はブレーキドラムの元素の含有情報が格納されている。
【0074】
前記実施形態では、チャンバー1からの空気を一段サンプリングするものであったが、二段サンプリングするものであってもよい。
【0075】
なおチャンバー1は、後述するサンプリング部5のサンプリングによる密閉空間1Sの気圧変動を吸収する図示しない気圧変動吸収機構を備えている。この気圧変動吸収機構は、例えば密閉空間1Sの気圧変動に応じて伸縮する弾性体等を有する構成であってよい。
【0076】
前記実施形態では、四輪自動車のブレーキを試験するものであったが、二輪自動車のブレーキを試験するものであってもよい。
【0077】
前記実施形態では車両Vは完成車両であったが、これに限らず完成車両の一部であってもよい。
【0078】
前記実施形態では、シャシダイナモメータ2上で車両Vを走行させてブレーキBの仕事量を算出するものであったが、これに限らずブレーキダイナモメータにブレーキBをセットして、ブレーキBの仕事量を算出するようにしてもよい。この場合には、ブレーキダイナモが備えるフライホイールの回転軸(本発明の“回転体”に相当)に係るトルク、フライホイールの回転軸の回転数、ブレーキBが動作する時間を用いて、前記した方法と同様にしてブレーキBの仕事量を算出することができる。
【0079】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。