【実施例】
【0052】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に制限されるものではない。
【0053】
(実施例1)
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシン(化合物A)のメタンスルホン酸塩は、国際公開第2013/146833号パンフレットに記載の方法により合成した。
【0054】
(試験例1)
シスプラチン及びオキサリプラチンの併用によるヒト膵臓癌由来細胞株SUIT-2に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン(以下、GemcitabineまたはGemともいう)、シスプラチン(以下、Cisplatinともいう)、オキサリプラチン(以下、Oxaliplatinともいう)及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)及びオキサリプラチン(東京化成工業社製Cat.# O0372)は、無血清培地 RPMI-1640 (Thermo Fisher Scientific Inc.製Cat.# 11875-119)に溶解させたものを用いた。
ヒト膵臓癌細胞株であるSUIT-2細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO
2インキュベータ(37℃、5%CO
2設定、水蒸気飽和)中で行った。15000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、96wellプレートに播種した。翌日、各wellの培養上清を捨て、150 μLの無血清培地で2回洗い、100 μLの無血清培地を添加して3日間培養した。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。Cisplatin及びOxaliplatinを無血清培地に溶解し、Cisplatin溶液 30 μmol/L及びOxaliplatin溶液60 μmol/Lをそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin溶液(30 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(60 μmol/L)で希釈し、最終処理濃度の6倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatinまたはOxaliplatinと組み合わせて使用した。
Cisplatin溶液(30 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(60 μmol/L)で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに20 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0055】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表1及び表2を作成した。
【0056】
Cisplatin 5 μmol/Lとの併用試験結果
【0057】
【表1】
【0058】
Oxaliplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0059】
【表2】
【0060】
さらに、上記表1及び表2から作成したグラフを
図1及び
図2に示す。
【0061】
表1から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は1138.3 nmol/L(nM)であり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は12.9 nmol/Lであった。また、表2から算出したゲムシタビンとオキサリプラチンを併用したときのIC50値は10,000 nmol/L以上であり、化合物Aとオキサリプラチンを併用したときのIC50値は73.4 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチン及びオキサリプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。より詳細な説明は後述する。
【0062】
本発明の併用効果について、併用効果の定量的指標となる併用係数(Combination Index:CI)を用いて評価した結果を示す。CIは、キャンサー・リサーチ、2010年、70巻、440〜446頁に従って、以下の式で算出できる。
すなわち、併用する薬剤を薬剤1及び薬剤2とすると、ある薬剤濃度におけるCIは、
CI={(薬剤1及び薬剤2併用時の細胞生存率)÷100}/{[(薬剤1の細胞生存率)÷100]×[(薬剤2の細胞生存率)÷100]}
CI=1:相加効果
CI>1:拮抗効果
CI<1:相乗効果
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.96であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.36であった。オキサリプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.97であり、オキサリプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.44であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンまたはオキサリプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0063】
(試験例2)
シスプラチン及びカルボプラチンとの併用によるヒト卵巣癌細胞株ES-2及びSK-OV-3に対する抗腫瘍活性の評価
【0064】
さらに、シスプラチン及びカルボプラチンとの併用によるヒト卵巣癌由来細胞株ES-2及びSK-OV-3に対する抗腫瘍活性の評価を試験例1と同様の手法で行った。
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をDMSOに溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)及びカルボプラチン(東京化成工業社製Cat.# C2043)は、1%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地 McCoy's 5a (Thermo Fisher Scientific Inc.製Cat.# 16600-082)に溶解させたものを用いた。
ヒト卵巣癌細胞株であるES-2及びSK-OV-3細胞を10%血清培地で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO
2インキュベータ(37℃、5%CO
2設定、水蒸気飽和)中で行った。ES-2細胞を10,000 cells/well/100 μL、SK-OV-3細胞を15,000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、96wellプレートに播種した。翌日、各wellの培養上清を捨て、150 μLの1%血清培地で2回洗い、100 μLの1%血清培地を添加して3日間培養した。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。Cisplatin及びCarboplatinを1%血清培地に溶解し、Cisplatin溶液 60 μmol/L及びCarboplatin溶液600 μmol/Lをそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin溶液(60 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(600 μmol/L)で希釈し、最終処理濃度の6倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatinまたはOxaliplatinと組み合わせて使用した。
Cisplatin溶液(60 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(600 μmol/L)で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに20 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0065】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表3〜6を作成した。
【0066】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
ES-2細胞
【0067】
【表3】
【0068】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
SK-OV-3細胞
【0069】
【表4】
【0070】
Carboplatin 30 μmol/Lとの併用試験結果
SK-OV-3細胞
【0071】
【表5】
【0072】
Carboplatin 100 μmol/Lとの併用試験結果
ES-2細胞
【表6】
【0073】
さらに、上記表3〜6から作成したグラフを
図3〜6に示す。
【0074】
ES-2細胞において表3から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は算出不能であり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は63.2 nmol/Lであった。また、SK-OV-3細胞において表4から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は3797.2 nmol/Lであり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は82.2 nmol/Lであった。
【0075】
SK-OV-3細胞において表5から算出したゲムシタビンとカルボプラチンを併用したときのIC50値は算出不能であり、化合物Aとカルボプラチンを併用したときのIC50値は676.5 nmol/Lであった。また、ES-2細胞において表6から算出したゲムシタビンとカルボプラチンを併用したときのIC50値は10,000 nmol/L以上であり、化合物Aとカルボプラチンを併用したときのIC50値は46.0 nmol/Lであった。
【0076】
表3〜6からCIを算出し、一覧にまとめ表7を作成した。
【0077】
【表7】
【0078】
CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンまたはカルボプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
それぞれの評価において化合物Aは、シスプラチンまたはカルボプラチンとの併用による相乗効果が認められ、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える結果を得た。
【0079】
(試験例3)
シスプラチンとの併用によるヒト胆管癌由来細胞株HuCC-T1に対する抗腫瘍活性の評価
【0080】
さらに、シスプラチンとの併用によるヒト胆管癌由来細胞株HuCC-T1に対する抗腫瘍活性の評価を試験例1と同様の手法で行った。
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をDMSOに溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、無血清培地 RPMI-1640 (Thermo Fisher Scientific Inc.製Cat.# 11875-119)に溶解させたものを用いた。
ヒト胆管癌細胞株であるHuCC-T1細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO
2インキュベータ(37℃、5%CO
2設定、水蒸気飽和)中で行った。15000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、96wellプレートに播種した。翌日、各wellの培養上清を捨て、150 μLの無血清培地で2回洗い、100 μLの無血清培地を添加して3日間培養した。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。Cisplatinを無血清培地に溶解し、Cisplatin溶液 60 μmol/Lを調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin溶液(60 μmol/L)で希釈し、最終処理濃度の6倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatinと組み合わせて使用した。
Cisplatin溶液(60 μmol/L)で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに20 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0081】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表8を作成した。
【0082】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0083】
【表8】
【0084】
さらに上記表8から作成したグラフを
図7に示す。
【0085】
表8から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は10,000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は261.0 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0086】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.90であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.34であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0087】
(試験例4)
スフェロイド培養下におけるシスプラチンの併用による胆管癌細胞株TFK-1に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、DMSOに溶解させたものを用いた。
ヒト胆管癌細胞株であるTFK-1細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO
2インキュベータ(37℃、5%CO
2設定、水蒸気飽和)中で行った。5000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、Ultra-Low 付着性96wellプレート(Corning製Cat.# 7007)に播種した。4日間培養し、スフェロイドを形成させた。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、10 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。CisplatinをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液を調製した。DMSOで希釈し、最終処理濃度の5000倍濃度のDMSO溶液を調製した。さらにCisplatinのDMSO溶液を10%血清培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度のCisplatin含有培地を調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin含有培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatin(10 μmol/L)と組み合わせて使用した。
Cisplatin含有培地で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに10 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0088】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表9を作成した。
【0089】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0090】
【表9】
【0091】
さらに、上記表9から作成したグラフを
図8に示す。
【0092】
スフェロイド培養下においてゲムシタビンとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は10000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチン(5 μmol/L)を併用したときのIC50値は469.3 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0093】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.78であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.13であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0094】
(試験例5)
スフェロイド培養下におけるシスプラチンの併用による胆管癌細胞株HuCC-T1に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、DMSOに溶解させたものを用いた。
胆管癌細胞株であるHuCC-T1細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO
2インキュベータ(37℃、5%CO
2設定、水蒸気飽和)中で行った。5000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、Ultra-Low 付着性96wellプレート(Corning製Cat.# 7007)に播種した。4日間培養し、スフェロイドを形成させた。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、10 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。CisplatinをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液を調製した。DMSOで希釈し、最終処理濃度の5000倍濃度のDMSO溶液を調製した。さらにCisplatinのDMSO溶液を10%血清培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度のCisplatin含有培地を調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin含有培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatin(10 μmol/L)と組み合わせて使用した。
Cisplatin含有培地で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに10 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0095】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表10を作成した。
【0096】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0097】
【表10】
【0098】
さらに、表10から作成したグラフを
図9に示す。
【0099】
スフェロイド培養下においてゲムシタビンとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は10000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は164.6 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0100】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.79であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.42であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0101】
(試験例6)
スフェロイド培養下におけるシスプラチンの併用による乳癌由来細胞株HCC1954に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、DMSOに溶解させたものを用いた。
ヒト乳癌細胞株であるHCC1954細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO
2インキュベータ(37℃、5%CO
2設定、水蒸気飽和)中で行った。5000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、Ultra-Low 付着性96wellプレート(Corning製Cat.# 7007)に播種した。4日間培養し、スフェロイドを形成させた。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、10 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。CisplatinをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液を調製した。DMSOで希釈し、最終処理濃度の5000倍濃度のDMSO溶液を調製した。さらにCisplatinのDMSO溶液を10%血清培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度のCisplatin含有培地を調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin含有培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatin(10 μmol/L、5 μmol/L)と組み合わせて使用した。
Cisplatin含有培地で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに10 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0102】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表11を作成した。
【0103】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0104】
【表11】
【0105】
さらに、表11から作成したグラフを
図10に示す。
【0106】
スフェロイド培養下においてゲムシタビンとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は10000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は49.4 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0107】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.60であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.03であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0108】
(試験例7)
胆管癌細胞株の皮下移植担がんモデルマウスにおける併用効果試験
被験物質として、ゲムシタビン、及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いる。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(TEVA社製)を生理食塩水に溶解させたものを用い、シスプラチンは、シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)を生理食塩水に溶解させたものを用いる。
ヒト胆管癌細胞株であるTFK-1細胞またはHuCCT-1細胞を生後5〜6週齢の雌性BALB/cA Jcl-nuマウスの後部横腹に皮下注射する。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)及び短径(mm)を測定し、腫瘍体積(tumor volume:TV)を算出する。各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、この群分けを実施した日をday 1とする。
シスプラチンの投与量はインタビューフォーム及びキャンサー・ゲノミクス・アンド・プロテオミクス(CANCER GENOMICS&PROTEOMICS)、2012年、9巻、p77〜92頁(非特許文献6)を参考に設定し、ゲムシタビン及び化合物Aの投与量は非特許文献6及びザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・エクスペリメンタル・セラピューティクス(The journal of pharmacology and experimental therapeutics)、2018年、366巻、125〜135頁(非特許文献7)を参考に設定する。シスプラチン単独群の被験液は、投与用量として1〜10 mg/kg/dayとなるよう調製する。また化合物A単独群の被験液は、30〜240 mg/kg/dayとなるよう調製する。化合物Aはday 1から1週間に1度、計3回マウス尾静脈より投与し、シスプラチンはday 1から1週間に1度、計3回マウス腹腔内投与により投与する。併用投与群では、化合物Aを30〜240 mg/kg/dayとシスプラチンを1〜10 mg/kg/dayで投与する。
比較実験として、対照薬としてゲムシタビンを用いる。ゲムシタビン単独群の被験液は、30〜240 mg/kg/dayとなるよう調製する。ゲムシタビンはday 1から1週間に1度、計3回マウス尾静脈より投与し、併用投与群では、ゲムシタビンを30〜240 mg/kg/dayとシスプラチンを1〜10 mg/kg/dayで投与する。
本試験では、化合物A及びゲムシタビンの用量設定は、各薬剤のMTDを用いる。シスプラチンは、各薬剤との併用において耐用可能な最大用量を用いる。抗腫瘍剤は最大薬効を示す用量と毒性発現用量が極めて近く、その薬剤が持つ最大抗腫瘍効果を動物モデルで評価するためにはMTD近傍において評価することが一般的であり、本試験例においては、MTDと最大効果発揮用量はほぼ同義である。
【0109】
抗腫瘍効果の指標として、各薬剤投与群におけるTVを測定し、下記式により、day 1に対する相対腫瘍体積(relative tumor volume:RTV)、及びT/C(%)を算出して抗腫瘍効果を評価する。併用効果の評価判定は、併用投与群の平均RTV値が個々の単独投与群の平均RTV値より統計学的に有意(Welch’s IUT, over all maximum p<0.05)に小さい場合に併用効果ありとして判定する。
TV(mm
3)=(長径×短径
2)/2
RTV=(腫瘍測定日におけるTV)/(Day 1におけるTV)
T/C(%)=[(被験液投与群の平均RTV値)/(対照群の平均RTV値)]×100
【0110】
(試験例8)
癌患者における化合物Aと抗腫瘍性白金錯体との併用効果試験
<液状医薬組成物の調製>
化合物Aのメタンスルホン酸塩を適量の注射用水に溶かし、1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを調整する。化合物Aの濃度が20 mg/mLとなるように適量の注射用水を加えて混合する。
また1.5質量%の濃度になるようにグリセリン(メルク社製、分子量92)を添加する。この液状医薬製剤のpHは2.9であり、この液をメンブランフィルター(0.22 μm)を用いてろ過し、液状医薬製剤を得ることができる。
【0111】
<投与及び治療効果の判定>
がん患者に対して、第1週目〜第2週目までは週1回、化合物Aとシスプラチンを静脈注射により投与し、第3週目は投薬しないという投薬サイクルを繰り返す。具体的には、21日間を1サイクルとして、第1日目、第8日目に化合物Aとシスプラチンを投与し、この21日間からなるサイクルを繰り返す。化合物Aの1回の投与当たりの投与量は、8〜135 mg/m
2とし、シスプラチンの投与量は10〜50 mg/m
2とする。
【0112】
治療の効果は、以下の基準で判定することができる。
MRI(核磁気共鳴画像法;magnetic resonance imaging)による画像診断により評価対象を確認し、以下の基準で判定した。
CR(Complete Response):腫瘍が完全に消失した状態
PR(Partial Response):腫瘍の大きさの和が30%以上減少した状態
SD(Stable Disease):腫瘍の大きさが変化しない状態
PD(Progressive Disease):腫瘍の大きさの和が20%以上増加かつ絶対値でも5 mm以上増加した状態、あるいは新病変が出現した状態