特許第6974585号(P6974585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6974585抗腫瘍剤、抗腫瘍効果増強剤及び抗腫瘍用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974585
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤、抗腫瘍効果増強剤及び抗腫瘍用キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/243 20190101AFI20211118BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211118BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   A61K33/243
   A61K31/7068ZMD
   A61P35/00
   A61K45/00
   A61P35/02
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-506583(P2020-506583)
(86)(22)【出願日】2019年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2019010169
(87)【国際公開番号】WO2019176984
(87)【国際公開日】20190919
【審査請求日】2020年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2018-45430(P2018-45430)
(32)【優先日】2018年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝之
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 和徳
(72)【発明者】
【氏名】植松 礼奈
(72)【発明者】
【氏名】森村 馨
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/043530(WO,A1)
【文献】 ZAJCHOWSKI, D. et al.,Anti-tumor efficacy of the nucleoside analog 1-(2-deoxy-2-fluoro-4-thio-β-D-arabinofuranosyl)cytosi,Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting [オンライン],2004年,Vol.45, p.714, Abstract No.3087,[検索日 2019.04.23],インターネット:<URL:http://cancerres.aacrjournals.org/content/64/7_Supplement/714.3>
【文献】 赤松弘朗ほか,がん薬物治療薬の作用機序 殺細胞性抗悪性腫瘍薬 白金製剤・アルキル化薬・抗がん性抗生物質,日本臨床(増刊) 最新がん薬物療法学,Vol.72, Suppl.2,2014年,pp.124-126
【文献】 MIURA, S. et al.,The antitumor mechanism of 1-(2-deoxy-2-fluoro-4-thio-β-D-arabinofuranosyl)-cytosine: effects of it,Japanese journal of cancer research,2001年,Vol.92, No.5,pp.562-567
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シスプラチンと、
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩とを含む抗腫瘍剤。
【請求項2】
前記腫瘍が、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、胚細胞腫瘍、悪性胸膜中皮腫、胆道癌、結腸癌、直腸癌、小腸癌、悪性リンパ腫、乳癌、膵臓癌、肝癌、腎癌、黒色腫、白血病または多発性骨髄腫である、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
前記腫瘍が、膀胱癌、卵巣癌、胆道癌、乳癌または膵臓癌である、請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
前記胆道癌が胆管癌である、請求項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
シスプラチンと併用される、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む抗腫瘍効果増強剤。
【請求項6】
シスプラチンを含む製剤と、
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む製剤とを含む抗腫瘍用キット。
【請求項7】
シスプラチンと併用される、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤、抗腫瘍効果増強剤及び抗腫瘍用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシン(以下、「化合物A」と称することがある。)は、優れた抗腫瘍活性を有し、抗腫瘍剤として有用であることが知られている(特許文献1)。また化合物Aは、マウスへの経口投与でも強い抗腫瘍活性を有することが知られている(非特許文献1、2)。また化合物Aの塩及びその製造方法についても知られている(特許文献2〜4)。さらに、特定のアシルチオウレア化合物と、抗腫瘍剤(パクリタキセル、ゲムシタビン、ラパニチブ、デカフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、イリノテカン等)とを組み合せることにより抗腫瘍効果が増強された抗腫瘍薬が知られている(特許文献5)。
【0003】
癌化学療法において、抗腫瘍性白金錯体は抗腫瘍剤の代表的薬剤として知られている。また、抗腫瘍性白金錯体を有効成分として含む製剤は、プラチナ製剤(白金製剤)として知られている。代表的な抗腫瘍性白金錯体として、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン及びネダプラチン等を挙げることができ、様々な悪性腫瘍に対する治療に用いられている。しかし、高い腎毒性と耐性がんを誘発しやすいことが臨床の場で問題となっている(非特許文献3)。
【0004】
臨床の場では、各抗腫瘍剤の腫瘍に対する感受性の違いを補い、薬効を増強すること等を目的として、多剤併用療法が行われており、抗腫瘍性白金錯体も、他の抗腫瘍剤との併用療法で使用されることが多い。特に例示すると、パクリタキセル及びドセタキセル等のタキサン類、イリノテカン及びノギテカン等のカンプトテシン類、ゲムシタビン、5‐フルオロウラシル及びカペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカルシウム合剤(S−1)等の核酸代謝拮抗剤、エトポシド及びドキソルビシン等のトポイソメラーゼII阻害剤、等との併用療法が知られており、広範な固形癌の治療剤として用いられている。
例えば、ゲムシタビンとシスプラチンとの併用での膵臓癌患者に対する奏効率は11.5%、生存期間中央値は7.5ヶ月であり(非特許文献4)、ゲムシタビンとオキサリプラチンとの併用では、それぞれ生存期間中央値5.7ヶ月、奏功率9%であり(非特許文献5)、いずれの抗腫瘍性白金錯体との併用療法においても治療効果として十分に高いとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第1997/038001号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2013/146833号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/074484号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2014/027658号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2013/100014号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】キャンサー・レターズ(Cancer Letters)、1999年、第144巻、p177−182
【非特許文献2】オンコロジー・レポーツ(Oncology Reports)、2002年、第9巻、p1319−1322
【非特許文献3】YAKUGAKU ZASSHI、2008年、第128巻、p307−316
【非特許文献4】ジャーナル・オブ・クリニカルオンコロジー(Journal of Clinical Oncology)、2006年、24巻、p3946−3952
【非特許文献5】ジャーナル・オブ・クリニカルオンコロジー(Journal of Clinical Oncology)、2009年、23巻、p3778−3785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、抗腫瘍剤を単独で投与するのではなく、併用療法が広く行われている。しかしながら、いかなる抗腫瘍剤を組み合わせて使用した場合に、それらの抗腫瘍効果が増強されるのか、あるいは効果が相殺されるのかについてはまったく不明である。
本発明の課題は、ゲムシタビン、抗腫瘍性白金錯体(白金製剤)及びそれらの併用療法と比較して、抗腫瘍効果に優れた抗腫瘍剤及び抗腫瘍用キット、並びに抗腫瘍効果増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者らは、種々の薬剤の併用を検討した結果、抗腫瘍性白金錯体と化合物Aとを併用することにより、顕著な抗腫瘍効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記を提供する。
(1)抗腫瘍性白金錯体と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩とを含む抗腫瘍剤。
(2)上記抗腫瘍性白金錯体が、シスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、(1)に記載の抗腫瘍剤。
(3)上記腫瘍が、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、悪性胸膜中皮腫、胆道癌、結腸癌、直腸癌、小腸癌、悪性リンパ腫、乳癌、膵臓癌、肝癌、腎癌、黒色腫、白血病または多発性骨髄腫である、(1)または(2)に記載の抗腫瘍剤。
(4)上記腫瘍が、膀胱癌、卵巣癌、胆道癌、乳癌または膵臓癌である、(1)〜(3)のいずれか一に記載の抗腫瘍剤。
(5)上記胆道癌が胆管癌である、(4)に記載の抗腫瘍剤。
(6)抗腫瘍性白金錯体と併用される、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む抗腫瘍効果増強剤。
(7)抗腫瘍性白金錯体を含む製剤と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む製剤とを含む抗腫瘍用キット。
(8)抗腫瘍性白金錯体と併用される、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む抗腫瘍剤。
(6−1)上記抗腫瘍性白金錯体がシスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、(6)に記載の抗腫瘍効果増強剤。
(7−1)上記抗腫瘍性白金錯体がシスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、(7)に記載の抗腫瘍用キット。
(8−1)上記抗腫瘍性白金錯体がシスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、(8)に記載の抗腫瘍剤。
(9)抗腫瘍性白金錯体と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩とを、腫瘍の処置に用いるための、膀胱癌、卵巣癌、胆道癌、乳癌または膵臓癌の処置に用いるための方法であって、治療有効用量をそのような処置が必要な対象(ヒトを含む哺乳動物)に投与する工程を含む方法。
(10)1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を併用治療に用いる場合の治療有効用量、及び、抗腫瘍性白金錯体を併用治療に用いる場合の治療有効用量とを組み合わせて、対象に投与することを特徴とする、腫瘍の治療方法。
(11)1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を併用治療に用いる場合の治療有効用量、及び、抗腫瘍性白金錯体を併用治療に用いる場合の治療有効用量を、同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて、対象に投与することを特徴とする、腫瘍の治療方法。
(12)1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩の、抗腫瘍性白金錯体と組み合わせてなる抗腫瘍剤の製造のための使用。
(13)1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩の、抗腫瘍性白金錯体と組み合わせてなる抗腫瘍剤のための使用。
(14)抗腫瘍性白金錯体と、一剤型の製剤形態、または別個の製剤形態として投与することにより腫瘍を治療するための、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩。
(15)1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩の1日当たりの投与量が、20〜200mg/mである、(1)または(2)に記載の抗腫瘍剤。
(16)抗腫瘍性白金錯体がシスプラチンであり、1日当たりの投与量が、1〜100mg/mである、(15)に記載の抗腫瘍剤。
(17)抗腫瘍性白金錯体がカルボプラチンであり、1日当たりの投与量が、50〜1000mg/mである、(15)に記載の抗腫瘍剤。
(18)抗腫瘍性白金錯体がオキサリプラチンであり、1日当たりの投与量が、10〜500mg/mである、(15)に記載の抗腫瘍剤。
【発明の効果】
【0009】
化合物Aまたはその塩は、抗腫瘍性白金錯体と併用することにより、顕著な抗腫瘍効果を奏する。すなわち、本発明の抗腫瘍剤及び抗腫瘍用キットは、ゲムシタビン単剤、抗腫瘍性白金錯体単剤またはゲムシタビンと抗腫瘍性白金錯体との併用と比較して、優れた抗腫瘍効果を有する。本発明の抗腫瘍効果増強剤は、抗腫瘍性白金錯体と組み合わせて併用投与することにより、抗腫瘍効果を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ヒト膵臓癌由来細胞株SUIT−2の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図2図2は、ヒト膵臓癌由来細胞株SUIT−2の細胞生存率に対する化合物A及びオキサリプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図3図3は、ヒト卵巣癌細胞株ES−2の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図4図4は、ヒト卵巣癌細胞株SK−OV−3の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図5図5は、ヒト卵巣癌細胞株SK−OV−3の細胞生存率に対する化合物A及びカルボプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図6図6は、ヒト卵巣癌細胞株ES−2の細胞生存率に対する化合物A及びカルボプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図7図7は、ヒト胆管癌由来細胞株HuCC−T1の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図8図8は、スフェロイド培養下におけるヒト胆管癌由来細胞株TFK−1の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図9図9は、スフェロイド培養下におけるヒト胆管癌由来細胞株HuCC−T1の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
図10図10は、スフェロイド培養下におけるヒト乳癌由来細胞株HCC1954の細胞生存率に対する化合物A及びシスプラチンとの併用効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
また「〜」で表す範囲は、特に記載した場合を除き、両端の値を含む。
「対象」とは、その予防もしくは治療を必要とするヒト、マウス、サル、家畜等の哺乳動物であり、好ましくは、その予防もしくは治療を必要とするヒトである。
「予防」とは、発症の阻害、発症リスクの低減または発症の遅延等を意味する。
「治療」とは、対象となる疾患または状態の改善または進行の抑制(維持または遅延)等を意味する。
「処置」とは、各種疾患に対する予防または治療等を意味する。
「腫瘍」とは、良性腫瘍または悪性腫瘍を意味する。
「良性腫瘍」とは、腫瘍細胞及びその配列がその由来する正常細胞に近い形態をとり、浸潤性または転移性のない腫瘍を意味する。
「悪性腫瘍」とは、腫瘍細胞の形態やその配列がその由来する正常細胞と異なっており、浸潤性または転移性を示す腫瘍を意味する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、抗腫瘍性白金錯体と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシン(化合物A)またはその塩とを含む抗腫瘍剤である。また本発明は、抗腫瘍性白金錯体と、化合物Aまたはその塩とを組み合わせてなる抗腫瘍剤である。
【0013】
本発明において、「組み合わせ」とは、化合物を併用して用いるための組み合わせを意味し、別々の物質を投与時に併用する形態、及び混合物(配合剤)としての形態の両方を含む。本発明において、「併用」とは、本発明の化合物と抗腫瘍性白金錯体との投与時期が完全同一であることのみを意味するものではない。1つの投与スケジュールの中に本発明の化合物と、抗腫瘍性白金錯体とを投与する態様が含まれている限り、これらを同時にまたは別々に投与する形態は「併用」を意味する。別々に投与する場合、本発明の化合物を先に投与した後に抗腫瘍性白金錯体を投与してもよい。また、抗腫瘍性白金錯体を先に投与した後に本発明の化合物を投与してもよい。
【0014】
まず、化合物Aまたはその塩について説明する。
塩としては、薬学的に許容される塩が挙げられ、具体的には、鉱酸塩、有機カルボン酸塩及びスルホン酸塩が挙げられる。好ましい塩としては、鉱酸塩及びスルホン酸塩が挙げられる。
【0015】
鉱酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩及び硫酸塩が挙げられ、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩または硫酸塩が好ましく、塩酸塩がより好ましい。有機カルボン酸塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、アスパラギン酸塩、トリクロロ酢酸塩及びトリフルオロ酢酸塩が挙げられる。スルホン酸塩としては、例えば、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メシチレンスルホン酸塩及びナフタレンスルホン酸塩が挙げられ、メタンスルホン酸塩が好ましい。
【0016】
化合物Aの塩は、無水物、水和物または溶媒和物であってもよい。本明細書で単に「塩」というとき、その形態は、無水物、水和物または溶媒和物であり得る。本明細書で「無水物」というときは、特に記載した場合を除き、水和物でも溶媒和物でもない状態にある場合をいう。元来、水和物または溶媒和物を形成しない物質であっても、結晶水、水和水及び相互作用する溶媒を持たない化合物Aの塩は、本発明でいう「無水物」に含まれる。無水物は、「無水和物」ということもある。化合物Aの塩が水和物であるとき、水和水の数は特に限られず、一水和物、二水和物等であり得る。溶媒和物の例としては、メタノール和物、エタノール和物、プロパノール和物及び2−プロパノール和物が挙げられる。
【0017】
特に好ましい化合物Aの塩の具体的な例は、下記である。
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンのメタンスルホン酸塩;
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンの塩酸塩;
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンの1/2硫酸塩;
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンの硝酸塩;及び
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンのヨウ化水素酸塩;ならびに上記の塩のいずれかの無水物。
【0018】
本発明において、化合物Aまたはその塩は、一種のみを用いてもよく、または二種以上を含有してもよい。
【0019】
次に、化合物Aまたはその塩の製造法について説明する。化合物Aは、例えば、特許文献1及びジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー、1999年、第64巻、7912〜7920頁に記載の方法で製造することができる。化合物Aの塩またはその水和物もしくは溶媒和物は、例えば、特許文献4に記載の方法で製造することができる。
本発明にかかる化合物Aまたはその塩は、抗腫瘍剤として、また医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0020】
(抗腫瘍性白金錯体)
本発明において、抗腫瘍性白金錯体(抗腫瘍作用を有する白金錯体)は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、ゼニプラチン、エンロプラチン、オルマプラチン、ロボプラチン、セブリプラチン、ロバプラチン、ミボプラチンまたはスピロプラチン等が挙げられる。
本発明の抗腫瘍性白金錯体としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンまたはネダプラチンが好ましく、シスプラチン、カルボプラチンまたはオキサリプラチンがより好ましい。
これらの抗腫瘍性白金錯体は、公知の方法で製造できる。
また、これらの抗腫瘍性白金錯体は、市販品を購入することによって入手することもできる。例えば、シスプラチンは、日本化薬株式会社からRanda(登録商標)、ファイザー株式会社からPlatosin(登録商標)、メルク株式会社からCisplamerck(登録商標)及びブリストル・マイヤーズ株式会社からBriplatin(登録商標)として市販されている。カルボプラチンは、ブリストル・マイヤーズ株式会社からParaplatin(登録商標)及びメルク株式会社からCarbomerck(登録商標)として市販されている。オキサリプラチンは、ヤクルト本社からElplat(登録商標)またはEloxatin(登録商標)として市販されている。ネダプラチンは日医工株式会社からAqupla(登録商標)として市販されている。ミボプラチンは、中外製薬からミボプラチン塩酸塩またはLobaplatin(登録商標)として市販されている。
【0021】
本発明において、抗腫瘍性白金錯体は、酸または塩基と薬学的に許容される塩(以下、「その塩」ということがある)を形成する場合もある。本発明の抗腫瘍性白金錯体は、これらの薬学的に許容される塩をも包含する。抗腫瘍性白金錯体は、一種のみを用いてもよく、または二種以上を含有してもよい。抗腫瘍性白金錯体としては、抗腫瘍性白金錯体またはその塩以外に、それらを含む組成物でもよい。
塩としては、薬学的に許容される塩が挙げられ、具体的には、通常知られているアミノ基等の塩基性基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基等の酸性基における塩を挙げることができる。
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸及び硫酸等の鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸等の有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等のスルホン酸との塩が挙げられる。
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N、N−ジメチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、1−エフェナミン及びN、N'−ジベンジルエチレンジアミン等の含窒素有機塩基との塩が挙げられる。
【0022】
化合物Aは、優れたDNA合成阻害作用を有する、抗腫瘍剤である。化合物Aを抗腫瘍性白金錯体と併用した場合に、顕著な毒性の増悪を示すことなく、抗腫瘍性白金錯体の抗腫瘍効果を増強する作用を有することが予想される。
【0023】
(抗腫瘍剤)
本発明によれば、
抗腫瘍性白金錯体と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩とを含む抗腫瘍剤;並びに
抗腫瘍性白金錯体と併用される、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む抗腫瘍剤:
が提供される。
【0024】
本発明の抗腫瘍剤は、通常、製剤化に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤及び吸収促進剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0025】
抗腫瘍性白金錯体と化合物Aまたはその塩とを含む本発明の抗腫瘍剤は、抗腫瘍性白金錯体と化合物Aまたはその塩とを含む1剤型の製剤であっても、抗腫瘍性白金錯体と化合物Aまたはその塩とを含む2剤型の製剤であってもよい。好ましくは、抗腫瘍性白金錯体と化合物Aまたはその塩とを別個の製剤とする2剤型の製剤である。
抗腫瘍性白金錯体と、化合物Aまたはその塩とが別個の製剤として用いる場合、各製剤は、同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて対象に投与することができる。また、抗腫瘍性白金錯体を含む組成物の投与手段と、化合物Aを含む組成物の投与手段は同一であってもよいし、相違していてもよい(例えば、経口投与と注射)。
【0026】
本発明の抗腫瘍剤の投与経路としては、静脈内、動脈内、直腸内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内または膀胱内注射する方法、経口投与、経皮投与及び/または坐剤等の方法が挙げられる。
投与経路としては、非経口投与が好ましい。例えば、点滴等の静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、眼内注射及び/または髄腔内注射を挙げることができる。投与方法としては、シリンジまたは点滴による投与が挙げられる。
【0027】
化合物Aまたはその塩の投与量及び投与方法は、1日あたり1〜2000 mg/mを1回から数回に分割して投与することができる。しかし、これらの投与量及び投与方法に制限されるものではない。
【0028】
化合物Aまたはその塩の1日当たりの投与量は、20mg/m以上であり、好ましくは40mg/m以上であり、好ましくは60mg/m以上であり、好ましくは80mg/m以上である。1日当たりの投与量の上限値は、200mg/mであり、好ましくは150mg/mであり、さらに好ましくは120mg/mであり、特に好ましくは100mg/mである。1日当たりの投与量は、より好ましくは40〜200mg/mであり、さらに好ましくは40〜150mg/mであり、よりさらに好ましくは80〜150mg/mであり、さらに一層好ましくは80〜120mg/mである。
また、別の態様として、1日当たりの投与量は、好ましくは20〜120mg/mであり、より好ましくは40〜120mg/mであり、さらに好ましくは40〜100mg/mであり、よりさらに好ましくは60〜100mg/mである。
このような投与量の範囲とすることで、副作用を最小限として抗腫瘍剤としての治療効果を最大化することができる。
【0029】
化合物Aまたはその塩の投与方法としては、1回の投与量が20〜200mg/mとし、週1回の投与を3週間行った後に4週目は休薬するコースを複数回繰り返すことができる。この場合、1回の投与量は、上記の1日当たりの投与量と同様であるが、好ましくは40〜200mg/mであり、より好ましくは40〜150mg/mであり、さらに好ましくは80〜150mg/mである。また、別の態様として、1回の投与量は、好ましくは20〜120mg/mであり、より好ましくは40〜120mg/mであり、さらに好ましくは40〜100mg/mである。
【0030】
抗腫瘍性白金錯体は、既知の臨床実践に従って投与することができる。投与量及び投与計画は、特定の疾病症状及び患者の全症状にしたがって変更することができる。例えば、成人に対しては、経口または非経口(例えば、注射、点滴及び直腸部位への投与)投与により、通常成人1日あたり1〜2000 mg/mを1回から数回に分割して投与することができる。特に制限されないが、例えば、1〜2000mg/m、好ましくは10〜2000mg/m、より好ましくは50〜1000mg/m、さらに好ましくは100〜500mg/mであり、これを通常1日1〜3回に分けて投与することができる。患者が過度の毒性を経験した場合は、投与量の減少が必要となる。投与量及び投与計画は、本発明の併用療法に加えて、1またはそれ以上の追加の化学療法剤が使用される場合に変更してもよい。投与計画は、特定の患者を治療している医師により決定することができる。
【0031】
本発明の抗腫瘍剤に含まれる抗腫瘍性白金錯体と化合物Aまたはその塩との投与量または配合量は、抗腫瘍効果の増強効果を奏する範囲であれば特に制限されない。
使用する本発明の化合物Aの量は、抗腫瘍性白金錯体との個々の組み合わせによって異なるが、例えば、抗腫瘍性白金錯体の約0.0001〜10000倍(重量比)であり、好ましくは約0.001〜1000倍(重量比)である。
【0032】
より具体的には、化合物Aとシスプラチンとを組み合わせる場合、特に限定されないが、例えば、本発明の化合物Aの投与量を、成人1日あたり、20〜200mg/m、好ましくは40〜200mg/m、より好ましくは40〜150mg/m、さらに好ましくは80〜150mg/mとし、シスプラチンの投与量を、成人1日あたり、1〜2000mg/m、好ましくは10〜2000mg/m、好ましくは50〜1000mg/m、さらに好ましくは100〜500mg/mとし、さらに、本発明の化合物の投与量を、シスプラチンの約0.0001〜10000倍(重量比)、好ましくは約0.001〜1000倍(重量比)となるようにする。
また、別の態様としては、例えば、シスプラチンの投与量を、成人1日あたり、1〜100mg/m、好ましくは5〜50mg/m、より好ましくは10〜50mg/m、さらに好ましくは10〜30mg/mとし、さらに、本発明の化合物の投与量を、シスプラチンの約0.2〜200倍(重量比)、好ましくは約1.6〜15倍(重量比)となるようにする。
【0033】
また、本発明の化合物とカルボプラチンとを組み合わせる場合、特に限定されないが、例えば、本発明の化合物Aの投与量を、成人1日あたり、20〜200mg/m、好ましくは40〜200mg/m、より好ましくは40〜150mg/m、さらに好ましくは80〜150mg/mとし、カルボプラチンの投与量を、成人1日あたり、10〜2000mg/m、好ましくは50〜1000mg/m、さらに好ましくは100〜500mg/mとし、さらに、本発明の化合物の投与量を、カルボプラチンの約0.0001〜10000倍(重量比)、好ましくは約0.001〜1000倍(重量比)、より好ましくは約0.01〜20倍(重量比)、さらに好ましくは約0.16〜1.5倍(重量比)となるようにする。
【0034】
また、本発明の化合物とオキサリプラチンとを組み合わせる場合、特に限定されないが、例えば、本発明の化合物Aの投与量を、成人1日あたり、20〜200mg/m、好ましくは40〜200mg/m、より好ましくは40〜150mg/m、さらに好ましくは80〜150mg/mとし、オキサリプラチンの投与量を、成人1日あたり、10〜2000mg/m、好ましくは50〜1000mg/m、さらに好ましくは100〜500mg/mとし、さらに、本発明の化合物の投与量を、オキサリプラチンの約0.0001〜10000倍(重量比)、好ましくは約0.001〜1000倍(重量比)となるようにする。
また、別の態様としては、オキサリプラチンの投与量を、成人1日あたり、10〜500mg/m、好ましくは50〜500mg/m、さらに好ましくは50〜150mg/mとし、さらに、本発明の化合物の投与量を、オキサリプラチンの約0.04〜20倍(重量比)、好ましくは約0.53〜3倍(重量比)となるようにする。
【0035】
本発明の抗腫瘍剤の剤形の例としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、貼付剤、軟膏剤及び注射剤が挙げられるが、注射剤が好ましい。これらの投与剤形は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0036】
本発明の抗腫瘍剤は、好ましくは抗悪性腫瘍剤であり、抗がん剤として使用することができる。
本発明の抗腫瘍剤は、例えば、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、悪性胸膜中皮腫、胆道癌、結腸癌、直腸癌、小腸癌、悪性リンパ腫、乳癌、膵臓癌、肝癌、腎癌、黒色腫、白血病、多発性骨髄腫またはその他の器官の腫瘍を包含する多様なタイプの腫瘍の処置に有効に使用できる。このうち、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、悪性胸膜中皮腫、胆道癌、結腸癌、直腸癌、悪性リンパ腫、乳癌、膵臓癌が好ましく、膀胱癌、卵巣癌、胆道癌、乳癌または膵臓癌がより好ましく、胆道癌がさらに好ましく、特に胆管癌の処置に有効である。
【0037】
(抗腫瘍効果増強剤)
本発明はまた、癌患者に対する抗腫瘍性白金錯体の抗腫瘍効果を増強するための化合物Aまたはその塩を含む抗腫瘍効果増強剤に関する。
すなわち、本発明によれば、
抗腫瘍性白金錯体と併用される、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む抗腫瘍効果増強剤を提供される。
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、通常、製剤化に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤及び吸収促進剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、抗腫瘍性白金錯体と同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて対象に投与することができる。
【0039】
本発明の抗腫瘍効果増強剤の投与経路としては、非経口投与が好ましい。例えば、点滴等の静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、眼内注射及び髄腔内注射を挙げることができる。投与方法としては、シリンジまたは点滴による投与が挙げられる。
【0040】
本発明の抗腫瘍効果増強剤に含まれる化合物Aまたはその塩の投与量または配合量は、抗腫瘍効果の増強効果を奏する範囲であれば特に制限されない。
使用する本発明の化合物Aの量は、抗腫瘍性白金錯体との個々の組み合わせによって異なるが、例えば、抗腫瘍性白金錯体の約0.0001〜10000倍(重量比)であり、好ましくは約0.001〜1000倍(重量比)である。
【0041】
本発明の抗腫瘍効果増強剤に含まれる化合物Aまたはその塩の投与量及び投与方法は、1日あたり、1〜2000 mg/mを1回から数回に分割して投与することができる。しかし、これらの投与量及び投与方法に制限されるものではない。
【0042】
化合物Aまたはその塩の1日当たりの投与量は、20mg/m以上であり、好ましくは40mg/m以上であり、好ましくは60mg/m以上であり、好ましくは80mg/m以上である。1日当たりの投与量の上限値は、200mg/mであり、好ましくは150mg/mであり、さらに好ましくは120mg/mであり、特に好ましくは100mg/mである。1日当たりの投与量は、より好ましくは40〜200mg/mであり、さらに好ましくは40〜150mg/mであり、さらに好ましくは80〜150mg/mであり、さらに一層好ましくは80〜120mg/mである。
また、別の態様として、1日当たりの投与量は、好ましくは20〜120mg/mであり、より好ましくは40〜120mg/mであり、さらに好ましくは40〜100mg/mであり、よりさらに好ましくは60〜100mg/mである。
このような投与量の範囲とすることで、副作用を最小限として抗腫瘍剤としての治療効果を最大化することができる。
【0043】
化合物Aまたはその塩の投与方法としては、1回の投与量が20〜200mg/mとし、週1回の投与を3週間行った後に4週目は休薬するコースを複数回繰り返すことができる。この場合、1回の投与量は、上記の1日当たりの投与量と同様であるが、好ましくは40〜200mg/mであり、より好ましくは40〜150mg/mであり、さらに好ましくは80〜150mg/mである。また、別の態様として、1回の投与量は、好ましくは20〜120mg/mであり、より好ましくは40〜120mg/mであり、さらに好ましくは40〜100mg/mである。
【0044】
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、好ましくは抗悪性腫瘍効果増強剤であり、抗がん効果増強剤として使用することができる。
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、悪性胸膜中皮腫、胆道癌、結腸癌、直腸癌、小腸癌、悪性リンパ腫、乳癌、膵臓癌、肝癌、腎癌、黒色腫、白血病、多発性骨髄腫またはその他の器官の腫瘍を包含する多様なタイプの腫瘍の処置に有効に使用できる。このうち、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌、卵巣癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、胃癌、骨肉腫、胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)、悪性胸膜中皮腫、胆道癌、結腸癌、直腸癌、悪性リンパ腫、乳癌、膵臓癌が好ましく、膀胱癌、卵巣癌、胆道癌、乳癌または膵臓癌がより好ましく、胆道癌がさらに好ましく、特に胆管癌の処置に有効である。
【0045】
(抗腫瘍用キット)
本発明によれば、
抗腫瘍性白金錯体を含む製剤と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を含む製剤とを含む抗腫瘍用キットが提供される。
本発明の抗腫瘍用キットは、(a)抗腫瘍性白金錯体及び(b)化合物Aまたはその塩の組み合わせを含むキットである。
また、上記キットでは、(a)抗腫瘍性白金錯体及び(b)化合物Aまたはその塩は各々公知の各種の製剤形態とすることができ、その製剤形態に応じて、通常用いられる各種の容器に収容される。
さらに、上記キットでは、(a)抗腫瘍性白金錯体及び(b)化合物Aまたはその塩は各々別の容器に収容されてもよいし、混合されて同じ容器に収容されてもよい。(a)抗腫瘍性白金錯体及び(b)化合物Aまたはその塩が各々別の容器に収容されていることが好ましい。
【0046】
本発明は、抗腫瘍性白金錯体と、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩とを、腫瘍の処置に用いるための、好ましくは膀胱癌、卵巣癌、胆道癌、乳癌または膵臓癌の処置に用いるための方法であって、治療有効用量をそのような処置が必要な対象(ヒトを含む哺乳動物)に投与する工程を含む方法を提供する。
【0047】
また、本発明は1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を併用治療に用いる場合の治療有効用量、及び、抗腫瘍性白金錯体を併用治療に用いる場合の治療有効用量とを組み合わせて、対象に投与することを特徴とする、腫瘍の治療方法を提供する。
【0048】
さらに、本発明は1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を併用治療に用いる場合の治療有効用量、及び、抗腫瘍性白金錯体を併用治療に用いる場合の治療有効用量を、同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて、対象に投与することを特徴とする、腫瘍の治療方法を提供する。
【0049】
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩の、抗腫瘍性白金錯体と組み合わせてなる抗腫瘍剤製造のために使用できる。
【0050】
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩の、抗腫瘍性白金錯体と組み合わせてなる抗腫瘍剤のための使用に使用できる。
【0051】
本発明により、抗腫瘍性白金錯体と、一剤型の製剤形態、または別個の製剤形態として投与することにより腫瘍を治療するための、1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシンまたはその塩を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に制限されるものではない。
【0053】
(実施例1)
1−(2−デオキシ−2−フルオロ−4−チオ−β−D−アラビノフラノシル)シトシン(化合物A)のメタンスルホン酸塩は、国際公開第2013/146833号パンフレットに記載の方法により合成した。
【0054】
(試験例1)
シスプラチン及びオキサリプラチンの併用によるヒト膵臓癌由来細胞株SUIT-2に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン(以下、GemcitabineまたはGemともいう)、シスプラチン(以下、Cisplatinともいう)、オキサリプラチン(以下、Oxaliplatinともいう)及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)及びオキサリプラチン(東京化成工業社製Cat.# O0372)は、無血清培地 RPMI-1640 (Thermo Fisher Scientific Inc.製Cat.# 11875-119)に溶解させたものを用いた。
ヒト膵臓癌細胞株であるSUIT-2細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO2インキュベータ(37℃、5%CO2設定、水蒸気飽和)中で行った。15000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、96wellプレートに播種した。翌日、各wellの培養上清を捨て、150 μLの無血清培地で2回洗い、100 μLの無血清培地を添加して3日間培養した。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。Cisplatin及びOxaliplatinを無血清培地に溶解し、Cisplatin溶液 30 μmol/L及びOxaliplatin溶液60 μmol/Lをそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin溶液(30 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(60 μmol/L)で希釈し、最終処理濃度の6倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatinまたはOxaliplatinと組み合わせて使用した。
Cisplatin溶液(30 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(60 μmol/L)で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに20 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0055】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表1及び表2を作成した。
【0056】
Cisplatin 5 μmol/Lとの併用試験結果
【0057】
【表1】
【0058】
Oxaliplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0059】
【表2】
【0060】
さらに、上記表1及び表2から作成したグラフを図1及び図2に示す。
【0061】
表1から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は1138.3 nmol/L(nM)であり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は12.9 nmol/Lであった。また、表2から算出したゲムシタビンとオキサリプラチンを併用したときのIC50値は10,000 nmol/L以上であり、化合物Aとオキサリプラチンを併用したときのIC50値は73.4 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチン及びオキサリプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。より詳細な説明は後述する。
【0062】
本発明の併用効果について、併用効果の定量的指標となる併用係数(Combination Index:CI)を用いて評価した結果を示す。CIは、キャンサー・リサーチ、2010年、70巻、440〜446頁に従って、以下の式で算出できる。
すなわち、併用する薬剤を薬剤1及び薬剤2とすると、ある薬剤濃度におけるCIは、
CI={(薬剤1及び薬剤2併用時の細胞生存率)÷100}/{[(薬剤1の細胞生存率)÷100]×[(薬剤2の細胞生存率)÷100]}
CI=1:相加効果
CI>1:拮抗効果
CI<1:相乗効果
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.96であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.36であった。オキサリプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.97であり、オキサリプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.44であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンまたはオキサリプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0063】
(試験例2)
シスプラチン及びカルボプラチンとの併用によるヒト卵巣癌細胞株ES-2及びSK-OV-3に対する抗腫瘍活性の評価
【0064】
さらに、シスプラチン及びカルボプラチンとの併用によるヒト卵巣癌由来細胞株ES-2及びSK-OV-3に対する抗腫瘍活性の評価を試験例1と同様の手法で行った。
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をDMSOに溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)及びカルボプラチン(東京化成工業社製Cat.# C2043)は、1%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地 McCoy's 5a (Thermo Fisher Scientific Inc.製Cat.# 16600-082)に溶解させたものを用いた。
ヒト卵巣癌細胞株であるES-2及びSK-OV-3細胞を10%血清培地で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO2インキュベータ(37℃、5%CO2設定、水蒸気飽和)中で行った。ES-2細胞を10,000 cells/well/100 μL、SK-OV-3細胞を15,000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、96wellプレートに播種した。翌日、各wellの培養上清を捨て、150 μLの1%血清培地で2回洗い、100 μLの1%血清培地を添加して3日間培養した。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。Cisplatin及びCarboplatinを1%血清培地に溶解し、Cisplatin溶液 60 μmol/L及びCarboplatin溶液600 μmol/Lをそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin溶液(60 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(600 μmol/L)で希釈し、最終処理濃度の6倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatinまたはOxaliplatinと組み合わせて使用した。
Cisplatin溶液(60 μmol/L)またはOxaliplatin溶液(600 μmol/L)で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに20 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0065】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表3〜6を作成した。
【0066】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
ES-2細胞
【0067】
【表3】
【0068】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
SK-OV-3細胞
【0069】
【表4】
【0070】
Carboplatin 30 μmol/Lとの併用試験結果
SK-OV-3細胞
【0071】
【表5】
【0072】
Carboplatin 100 μmol/Lとの併用試験結果
ES-2細胞
【表6】
【0073】
さらに、上記表3〜6から作成したグラフを図3〜6に示す。
【0074】
ES-2細胞において表3から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は算出不能であり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は63.2 nmol/Lであった。また、SK-OV-3細胞において表4から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は3797.2 nmol/Lであり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は82.2 nmol/Lであった。
【0075】
SK-OV-3細胞において表5から算出したゲムシタビンとカルボプラチンを併用したときのIC50値は算出不能であり、化合物Aとカルボプラチンを併用したときのIC50値は676.5 nmol/Lであった。また、ES-2細胞において表6から算出したゲムシタビンとカルボプラチンを併用したときのIC50値は10,000 nmol/L以上であり、化合物Aとカルボプラチンを併用したときのIC50値は46.0 nmol/Lであった。
【0076】
表3〜6からCIを算出し、一覧にまとめ表7を作成した。
【0077】
【表7】
【0078】
CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンまたはカルボプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
それぞれの評価において化合物Aは、シスプラチンまたはカルボプラチンとの併用による相乗効果が認められ、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える結果を得た。
【0079】
(試験例3)
シスプラチンとの併用によるヒト胆管癌由来細胞株HuCC-T1に対する抗腫瘍活性の評価
【0080】
さらに、シスプラチンとの併用によるヒト胆管癌由来細胞株HuCC-T1に対する抗腫瘍活性の評価を試験例1と同様の手法で行った。
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をDMSOに溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、無血清培地 RPMI-1640 (Thermo Fisher Scientific Inc.製Cat.# 11875-119)に溶解させたものを用いた。
ヒト胆管癌細胞株であるHuCC-T1細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO2インキュベータ(37℃、5%CO2設定、水蒸気飽和)中で行った。15000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、96wellプレートに播種した。翌日、各wellの培養上清を捨て、150 μLの無血清培地で2回洗い、100 μLの無血清培地を添加して3日間培養した。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。Cisplatinを無血清培地に溶解し、Cisplatin溶液 60 μmol/Lを調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin溶液(60 μmol/L)で希釈し、最終処理濃度の6倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatinと組み合わせて使用した。
Cisplatin溶液(60 μmol/L)で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに20 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0081】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表8を作成した。
【0082】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0083】
【表8】
【0084】
さらに上記表8から作成したグラフを図7に示す。
【0085】
表8から算出したゲムシタビンとシスプラチンを併用したときのIC50値は10,000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチンを併用したときのIC50値は261.0 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0086】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.90であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.34であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0087】
(試験例4)
スフェロイド培養下におけるシスプラチンの併用による胆管癌細胞株TFK-1に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、DMSOに溶解させたものを用いた。
ヒト胆管癌細胞株であるTFK-1細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO2インキュベータ(37℃、5%CO2設定、水蒸気飽和)中で行った。5000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、Ultra-Low 付着性96wellプレート(Corning製Cat.# 7007)に播種した。4日間培養し、スフェロイドを形成させた。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、10 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。CisplatinをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液を調製した。DMSOで希釈し、最終処理濃度の5000倍濃度のDMSO溶液を調製した。さらにCisplatinのDMSO溶液を10%血清培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度のCisplatin含有培地を調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin含有培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatin(10 μmol/L)と組み合わせて使用した。
Cisplatin含有培地で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに10 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0088】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表9を作成した。
【0089】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0090】
【表9】
【0091】
さらに、上記表9から作成したグラフを図8に示す。
【0092】
スフェロイド培養下においてゲムシタビンとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は10000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチン(5 μmol/L)を併用したときのIC50値は469.3 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0093】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.78であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.13であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0094】
(試験例5)
スフェロイド培養下におけるシスプラチンの併用による胆管癌細胞株HuCC-T1に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、DMSOに溶解させたものを用いた。
胆管癌細胞株であるHuCC-T1細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO2インキュベータ(37℃、5%CO2設定、水蒸気飽和)中で行った。5000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、Ultra-Low 付着性96wellプレート(Corning製Cat.# 7007)に播種した。4日間培養し、スフェロイドを形成させた。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、10 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。CisplatinをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液を調製した。DMSOで希釈し、最終処理濃度の5000倍濃度のDMSO溶液を調製した。さらにCisplatinのDMSO溶液を10%血清培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度のCisplatin含有培地を調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin含有培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatin(10 μmol/L)と組み合わせて使用した。
Cisplatin含有培地で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに10 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0095】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表10を作成した。
【0096】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0097】
【表10】
【0098】
さらに、表10から作成したグラフを図9に示す。
【0099】
スフェロイド培養下においてゲムシタビンとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は10000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は164.6 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0100】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.79であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.42であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0101】
(試験例6)
スフェロイド培養下におけるシスプラチンの併用による乳癌由来細胞株HCC1954に対する抗腫瘍活性の評価
被験物質として、ゲムシタビン、シスプラチン及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いた。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(Plantex社製)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させたものを用いた。シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)は、DMSOに溶解させたものを用いた。
ヒト乳癌細胞株であるHCC1954細胞を10%血清(Thermo Fisher Scientific Inc. 製 Cat.# 10437-028)培地RPMI-1640で継代培養を行った。本試験中、すべての細胞培養はCO2インキュベータ(37℃、5%CO2設定、水蒸気飽和)中で行った。5000 cells/well/100 μLとなるように10%血清培地で希釈し、Ultra-Low 付着性96wellプレート(Corning製Cat.# 7007)に播種した。4日間培養し、スフェロイドを形成させた。
化合物Aのメタンスルホン酸塩及びGemcitabineをDMSOに溶解し、10 mmol/L DMSO溶液をそれぞれ調製した。順次DMSOで希釈し、最終処理濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製した。CisplatinをDMSOに溶解し、100 mmol/L DMSO溶液を調製した。DMSOで希釈し、最終処理濃度の5000倍濃度のDMSO溶液を調製した。さらにCisplatinのDMSO溶液を10%血清培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度のCisplatin含有培地を調製した。化合物A及びGemcitabineのDMSO希釈溶液を、Cisplatin含有培地で希釈し、最終処理濃度の10倍濃度の処理液をそれぞれ調製した。化合物A及びGemcitabineは最高濃度を10 μmol/Lとし、公比1/3で9濃度をCisplatin(10 μmol/L、5 μmol/L)と組み合わせて使用した。
Cisplatin含有培地で希釈した化合物AまたはGemcitabineを各wellに10 μLを添加した。この他、細胞を播種したwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陽性対照群)、培地のみを入れたwellに薬剤の入っていない溶媒のみを添加した群(陰性対照群)を設けた。全てn=3 wellとした。
薬剤を添加後3日間培養し、細胞内のATP量を指標にCellTiter Glo(登録商標)Reagent(PROMEGA Co.製Cat.# G7570)を用いて細胞生存率を評価した。細胞生存率を50%阻害する濃度(IC50値)はXLFitソフトウエアVer.3(登録商標)(CTC社製)を用いて算出した。
【0102】
陰性対照群の発光シグナル量を細胞生存率0%、陽性対照群の発光シグナル量を細胞生存率100%として、各ウェルの細胞生存率を求めた。各処理群の細胞生存率の平均値及び標準偏差を算出し、表11を作成した。
【0103】
Cisplatin 10 μmol/Lとの併用試験結果
【0104】
【表11】
【0105】
さらに、表11から作成したグラフを図10に示す。
【0106】
スフェロイド培養下においてゲムシタビンとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は10000 nmol/L以上であり、化合物Aとシスプラチン(10 μmol/L)を併用したときのIC50値は49.4 nmol/Lであった。このように、化合物Aは、シスプラチンの抗腫瘍効果を顕著に増強した。その効果は、既存薬であるゲムシタビンよりも大きいと考えられた。
【0107】
シスプラチンとゲムシタビンを併用したときのCIは0.60であり、シスプラチンと化合物Aを併用したときのCIは0.03であった。CI<1であるから、化合物Aとシスプラチンとの併用による相乗効果が認められた。また、CI値が小さいほど相乗効果が高いと推察されることから、化合物Aの相乗効果は、既存薬であるゲムシタビンよりもより顕著であると言える。
【0108】
(試験例7)
胆管癌細胞株の皮下移植担がんモデルマウスにおける併用効果試験
被験物質として、ゲムシタビン、及び化合物Aのメタンスルホン酸塩を用いる。
ゲムシタビンは、ゲムシタビン塩酸塩(TEVA社製)を生理食塩水に溶解させたものを用い、シスプラチンは、シスプラチン(和光純薬工業社製Cat.# 039-20091)を生理食塩水に溶解させたものを用いる。
ヒト胆管癌細胞株であるTFK-1細胞またはHuCCT-1細胞を生後5〜6週齢の雌性BALB/cA Jcl-nuマウスの後部横腹に皮下注射する。腫瘍移植後に腫瘍の長径(mm)及び短径(mm)を測定し、腫瘍体積(tumor volume:TV)を算出する。各群の平均TVが均等になるように各群にマウスを割り付け、この群分けを実施した日をday 1とする。
シスプラチンの投与量はインタビューフォーム及びキャンサー・ゲノミクス・アンド・プロテオミクス(CANCER GENOMICS&PROTEOMICS)、2012年、9巻、p77〜92頁(非特許文献6)を参考に設定し、ゲムシタビン及び化合物Aの投与量は非特許文献6及びザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・エクスペリメンタル・セラピューティクス(The journal of pharmacology and experimental therapeutics)、2018年、366巻、125〜135頁(非特許文献7)を参考に設定する。シスプラチン単独群の被験液は、投与用量として1〜10 mg/kg/dayとなるよう調製する。また化合物A単独群の被験液は、30〜240 mg/kg/dayとなるよう調製する。化合物Aはday 1から1週間に1度、計3回マウス尾静脈より投与し、シスプラチンはday 1から1週間に1度、計3回マウス腹腔内投与により投与する。併用投与群では、化合物Aを30〜240 mg/kg/dayとシスプラチンを1〜10 mg/kg/dayで投与する。
比較実験として、対照薬としてゲムシタビンを用いる。ゲムシタビン単独群の被験液は、30〜240 mg/kg/dayとなるよう調製する。ゲムシタビンはday 1から1週間に1度、計3回マウス尾静脈より投与し、併用投与群では、ゲムシタビンを30〜240 mg/kg/dayとシスプラチンを1〜10 mg/kg/dayで投与する。
本試験では、化合物A及びゲムシタビンの用量設定は、各薬剤のMTDを用いる。シスプラチンは、各薬剤との併用において耐用可能な最大用量を用いる。抗腫瘍剤は最大薬効を示す用量と毒性発現用量が極めて近く、その薬剤が持つ最大抗腫瘍効果を動物モデルで評価するためにはMTD近傍において評価することが一般的であり、本試験例においては、MTDと最大効果発揮用量はほぼ同義である。
【0109】
抗腫瘍効果の指標として、各薬剤投与群におけるTVを測定し、下記式により、day 1に対する相対腫瘍体積(relative tumor volume:RTV)、及びT/C(%)を算出して抗腫瘍効果を評価する。併用効果の評価判定は、併用投与群の平均RTV値が個々の単独投与群の平均RTV値より統計学的に有意(Welch’s IUT, over all maximum p<0.05)に小さい場合に併用効果ありとして判定する。
TV(mm3)=(長径×短径)/2
RTV=(腫瘍測定日におけるTV)/(Day 1におけるTV)
T/C(%)=[(被験液投与群の平均RTV値)/(対照群の平均RTV値)]×100
【0110】
(試験例8)
癌患者における化合物Aと抗腫瘍性白金錯体との併用効果試験
<液状医薬組成物の調製>
化合物Aのメタンスルホン酸塩を適量の注射用水に溶かし、1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを調整する。化合物Aの濃度が20 mg/mLとなるように適量の注射用水を加えて混合する。
また1.5質量%の濃度になるようにグリセリン(メルク社製、分子量92)を添加する。この液状医薬製剤のpHは2.9であり、この液をメンブランフィルター(0.22 μm)を用いてろ過し、液状医薬製剤を得ることができる。
【0111】
<投与及び治療効果の判定>
がん患者に対して、第1週目〜第2週目までは週1回、化合物Aとシスプラチンを静脈注射により投与し、第3週目は投薬しないという投薬サイクルを繰り返す。具体的には、21日間を1サイクルとして、第1日目、第8日目に化合物Aとシスプラチンを投与し、この21日間からなるサイクルを繰り返す。化合物Aの1回の投与当たりの投与量は、8〜135 mg/m2とし、シスプラチンの投与量は10〜50 mg/m2とする。
【0112】
治療の効果は、以下の基準で判定することができる。
MRI(核磁気共鳴画像法;magnetic resonance imaging)による画像診断により評価対象を確認し、以下の基準で判定した。
CR(Complete Response):腫瘍が完全に消失した状態
PR(Partial Response):腫瘍の大きさの和が30%以上減少した状態
SD(Stable Disease):腫瘍の大きさが変化しない状態
PD(Progressive Disease):腫瘍の大きさの和が20%以上増加かつ絶対値でも5 mm以上増加した状態、あるいは新病変が出現した状態
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、顕著な抗腫瘍効果を示す抗腫瘍剤及び抗腫瘍用キット、並びに抗腫瘍効果増強剤として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10