(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974586
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】超臨界廃液を再使用したシリカエアロゲルブランケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/158 20060101AFI20211118BHJP
C01B 33/16 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
C01B33/158
C01B33/16
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-506733(P2020-506733)
(86)(22)【出願日】2018年8月21日
(65)【公表番号】特表2020-529959(P2020-529959A)
(43)【公表日】2020年10月15日
(86)【国際出願番号】KR2018009618
(87)【国際公開番号】WO2019098504
(87)【国際公開日】20190523
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0154144
(32)【優先日】2017年11月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】オ、キョン−シル
(72)【発明者】
【氏名】イ、チェ−キュン
【審査官】
佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2017−0104914(KR,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0046495(US,A1)
【文献】
特表2003−512277(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2017−0096928(KR,A)
【文献】
特表2018−537311(JP,A)
【文献】
特開2011−190548(JP,A)
【文献】
特開平11−335115(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1434273(KR,B1)
【文献】
特開平05−049910(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2017−0086831(KR,A)
【文献】
特表2018−538224(JP,A)
【文献】
特開2003−176108(JP,A)
【文献】
特表2016−508476(JP,A)
【文献】
特開2005−334871(JP,A)
【文献】
特開2017−081764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカエアロゲルブランケットの製造方法であって、
シリカ湿潤ゲルが含まれた抽出器(extractor)に注入されるCO2の注入温度を0〜30℃として超臨界乾燥工程を行い、
前記超臨界乾燥工程後に回収された超臨界廃液を、ゲル化触媒溶液の製造、熟成、および表面改質からなる群から選択される1つ以上のステップで再使用することを特徴とする、シリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項2】
前記超臨界廃液は、水、有機溶媒、およびアンモニウムイオン(NH4+)を含むことを特徴とする、請求項1に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、ヘキサン、ペンタン、およびイソプロパノールからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項4】
前記CO2の注入温度が10〜30℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項5】
前記CO2の注入圧力が50〜70barであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項6】
前記超臨界乾燥工程の乾燥温度が40〜90℃であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項7】
前記回収された超臨界廃液に含まれているアンモニウムイオンは、200mg/kg以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項8】
前記超臨界廃液は、超臨界乾燥工程で、シリカ湿潤ゲルに含まれている溶媒および超臨界流体のうち1つ以上に、複数の圧力パルスを同時に印加することで得られ、前記複数の圧力パルスの少なくとも2つ以上は、異なる周波数および異なる振幅の1つ以上の特徴を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項9】
前記回収された超臨界廃液は、ゲル化触媒溶液の製造で再使用されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項10】
前記再使用される超臨界廃液の量は、シリカエアロゲルブランケットの製造で用いられる有機溶媒の総重量に対して70〜95重量%であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項11】
シリカエアロゲルブランケットの製造工程中に熟成廃液および表面改質廃液を回収し、熟成ステップおよび表面改質ステップのうち1つ以上のステップで再使用するステップをさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【請求項12】
前記シリカエアロゲルブランケットは、常温熱伝導度が19mW/mK以下であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のシリカエアロゲルブランケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年11月17日付けの韓国特許出願第10‐2017‐0154144号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、超臨界廃液を再使用したシリカエアロゲルブランケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エアロゲル(aerogel)は、ナノ粒子から構成された高多孔性の物質であって、高い気孔率と比表面積、そして低い熱伝導度を有するため、高効率の断熱材、防音材などの用途として注目されている。かかるエアロゲルは、多孔性構造によって非常に低い機械的強度を有するため、既存の断熱繊維である無機繊維または有機繊維などの繊維状ブランケットに、エアロゲルを含浸して結合させたエアロゲル複合体が開発されている。一例として、シリカエアロゲルを用いたシリカエアロゲル含有ブランケットは、シリカゾル製造ステップ、ゲル化ステップ、熟成(Aging)ステップ、表面改質ステップ、および乾燥ステップを経て製造される。特に、従来の技術では、熟成ステップで少量のNH
4OHを使用し、表面改質剤としてヘキサメチルジシラザン(HMDS)を使用しているが、この際、HMDSがトリメチルシラノール(TMS)またはトリメチルエトキシシラノール(TMES)に分解されながらNH
3が生じる。その一部は、超臨界乾燥中に二酸化炭素と反応して炭酸アンモニウム塩を形成し、一部は回収エタノールに残留することになる。
【0004】
一方、前記エアロゲルブランケット(Aerogel Blanket)が既存の断熱材に比べて著しい断熱性能を有するにもかかわらず、その市場が成長していない理由は、高いコストにある。高価の原料と複雑な製造工程、そして製造過程で生じる多量の廃液の処理コストなどにより、製品価格が他の断熱材に比べて相対的に高いためである。
【0005】
前記価格上昇の要因の一つである原料を交替したり、製造工程を変更したりして原価を低減する方法は、製品の品質に直接的な影響を与え得るため、適用が困難である。したがって、最も簡単に原価を下げる方法は、製造過程で生じる廃液を再使用する方法である。
【0006】
しかしながら、前記廃液を再使用する場合、第一に、残留するNH
4+によってエアロゲルブランケットの物性が低下(熱伝導度が増加)し、第二に、前駆体溶液のゲル化時間を調節しにくく、第三に、超臨界乾燥ステップで使用する二酸化炭素と反応して形成された炭酸アンモニウム塩により、超臨界乾燥装備の配管が詰まるという問題が発生し得る。
【0007】
上記の問題を解決するための方法として、蒸留、イオン交換樹脂、または中和滴定を利用する方法が挙げられる。しかし、この方法らは、追加設備投資およびエネルギー投入が必要であるため、追加設備投資およびエネルギー投入なしに超臨界廃液を再使用することができる方法を提供しようとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】CN205145937U
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題を解決するためになされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、超臨界乾燥工程後に生じる超臨界廃液を再使用することで、製造原価を低減することができるとともに、シリカエアロゲルブランケットの断熱性能の低下が防止可能な、シリカエアロゲルブランケットの製造方法を提供することにある。
【0010】
具体的に、本発明は、追加設備投資およびエネルギー投入なしに、超臨界工程条件の調節という簡単な方法により、超臨界乾燥工程後に回収される超臨界廃液中に含まれたアンモニウムイオン(NH
4+)の含量を低下させ、次のバッチ(batch)のシリカエアロゲルブランケットの製造で再使用しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、シリカ湿潤ゲルが含まれた抽出器(extractor)に注入されるCO
2の注入温度を0〜30℃として超臨界乾燥工程を行い、前記超臨界乾燥工程後に回収された超臨界廃液を再使用することを特徴とする、シリカエアロゲルブランケットの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリカエアロゲルブランケットの製造方法によると、製造原価を低減することができるとともに、断熱性能の低下が防止可能なシリカエアロゲルブランケットを製造することができる。
【0013】
また、本発明のシリカエアロゲルブランケットの製造方法は、追加設備投資およびエネルギー投入なしに超臨界廃液を再使用することができるため、簡単で、且つ経済的であるという利点がある。
【0014】
本明細書に添付の次の図面は、本発明の具体的な実施形態を例示するためのものであって、上述の発明の内容とともに、本発明の技術思想をより理解させる役割をするものであるため、本発明は、この図面に記載の事項にのみ限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の超臨界廃液を再使用するシリカエアロゲルの製造方法を示す模式図である。
【
図2】実施例および比較例の超臨界乾燥工程の条件による気孔サイズ分布(Pore Size Distribution)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明が容易に理解されるように、本発明をより詳細に説明する。この際、本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0017】
建設または産業現場で断熱材として広く用いられているシリカエアロゲルは、その表面を疎水化させないと、シリカ表面のシラノール基(Si−OH)の親水性により、空気中の水を吸収することとなり、熱伝導率が徐々に高くなるという欠点がある。また、乾燥工程で気孔の崩壊が激しくなり、スプリングバック(spring back)現象を期待しにくいため、メソポア(meso pore)を有する超断熱製品を製造することが困難であるという問題がある。
【0018】
したがって、空気中の水分の吸収を抑え、低い熱伝導率を維持するためには、シリカエアロゲルの表面を疎水性に改質するステップが必須である。通常、シリカエアロゲルは、シリカゾル製造ステップ、ゲル化ステップ、熟成ステップ、表面改質ステップ、および超臨界乾燥ステップを経て製造される。
【0019】
一方、前記表面改質ステップで用いられる表面改質剤は、シリカエアロゲルの表面の疎水化過程でアンモニウムイオン(NH
4+)を形成するが、該アンモニウムイオンを除去せずに一回使用した廃液を再使用する場合、廃液中に含まれているアンモニウムイオンによってシリカゾル溶液のpHが高くなり、ゲル化時間を調節しにくいため、所望の物性の製品を製造することができない。また、後続の超臨界乾燥ステップで二酸化炭素と反応して炭酸アンモニウム塩を形成し、超臨界乾燥装備の配管が詰まる恐れがあり、一部が超臨界廃液に残留し、最終のシリカエアロゲルまたはシリカエアロゲルブランケットの熱伝導度を増加させるなど、断熱性能を低下させる問題を引き起こし得る。
【0020】
そこで、シリカエアロゲルブランケットの製造原価を低減し、且つ最終製品の断熱性能の低下を防止するためには、超臨界廃液を再使用する前に、前記超臨界廃液に含まれている残留アンモニウムイオン(NH
4+)を除去する再生ステップが必須である。
【0021】
しかし、前記超臨界廃液を回収した後、後処理によりアンモニウムイオン(NH
4+)を除去していた従来の再生方法は、追加設備投資およびエネルギー投入が必要であって、製造原価の低減という目的を達成するにおいて助けにならない点があったため、本発明は、簡単な方法により超臨界廃液を再使用することができ、製造原価を低減することができるとともに、シリカエアロゲルブランケットの断熱性能の低下が防止可能な、より効果的なシリカエアロゲルブランケットの製造方法を提供することを目的とする。
【0022】
以下、前記本発明のシリカエアロゲルブランケットの製造方法を詳細に説明する。
【0023】
本発明のシリカエアロゲルブランケットの製造方法は、シリカ湿潤ゲルが含まれた抽出器(extractor)に注入されるCO
2の注入温度を0〜30℃として超臨界乾燥工程を行い、前記超臨界乾燥工程後に回収された超臨界廃液を再使用することを特徴とする。
【0024】
前記本発明の超臨界廃液とは、超臨界乾燥工程後に生じる廃液を意味し、これは、水、有機溶媒、およびアンモニウムイオン(NH
4+)を含み得る。前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、ヘキサン、ペンタン、およびイソプロパノールからなる群から選択される1種以上であり、より具体的に、エタノールであってもよい。
【0025】
一方、本発明の超臨界廃液は、超臨界乾燥ステップで、シリカゲルに含まれた溶媒および超臨界流体のうち1つ以上に、複数の圧力パルスを同時に印加して得られる。
【0026】
前記複数の圧力パルスの少なくとも2つ以上は、異なる周波数および異なる振幅の少なくとも1つ以上の特徴を有し、これにより、シリカゲルに含まれた溶媒を迅速に超臨界流体と交換することで超臨界廃液を迅速に得ることができる。これにより、シリカエアロゲルブランケットの製造時間を著しく短縮させることができる。
【0027】
従来は、蒸留、イオン交換樹脂、または酸を添加して中和させる方法により超臨界廃液を再生して再使用していたが、前記蒸留またはイオン交換樹脂を用いる方法は、追加設備および設備稼動コストの投資が必要であって、経済性、工程性が良くなかった。また、中和反応による方法は、激しい中和反応および中和熱のため安全性に劣り、酸を用いるため、配管および機械装置などの腐食などが起こるという欠点があった。
【0028】
そこで、本発明のシリカエアロゲルの製造方法は、超臨界乾燥工程条件の調節という簡単で且つ安定的であって、経済的な方法により回収される超臨界廃液中に含有されているアンモニウムイオンの含量を減少させることにより、上記のような従来の問題を解決しようとした。
【0029】
従来のように70℃の高温で熱処理してCO
2を注入する場合に比べて、本発明のように、0〜30℃、具体的には10〜30℃、より具体的には10〜20℃の比較的低い温度でCO
2を注入して超臨界乾燥工程を行う場合、超臨界乾燥が行われる抽出器(extractor)内でCO
2とアンモニウムイオンの反応性が高くなり、炭酸アンモニウムの形成を誘導することができることになる。これにより、アンモニウムイオンの含量が低い超臨界廃液を回収することができる。
【0030】
上記の範囲より低い温度でCO
2を注入する場合、CO
2の冷却のために過度なエネルギーが消費されるという問題があり得て、前記範囲より高い温度でCO
2を注入する場合、炭酸アンモニウム形成反応が円滑に誘導されないため、回収された超臨界廃液に、再使用できないほどに過量でアンモニウムイオンが含まれるという問題があり得る。
【0031】
一方、本発明の前記CO
2の注入圧力は、50〜70bar、より具体的には60〜70barであってもよい。上記の範囲より低い圧力で注入される場合には、CO
2が、気相/液相の界面が形成されてブランケットの内部に均一に拡散(Diffusion)されないという問題があり得て、上記の範囲より高い圧力で注入される場合には、後続の超臨界乾燥工程で昇温する時に圧力が上昇しすぎるという問題があり得る。
【0032】
また、本発明は、従来に比べて低い超臨界乾燥温度で行うことを特徴とし、具体的に、40〜90℃、より具体的には40〜70℃の乾燥温度で行うことができる。上記の範囲より低い温度で行う場合には、CO
2のエアロゲル気孔(pore)への拡散が低下し、乾燥効率が低下するため乾燥時間が遅延するという問題があり得て、上記の範囲より高い温度で行う場合には、生成された炭酸アンモニウムがさらに分解されてNH
4+イオンが発生するという問題があり得る。
【0033】
上記のように、超臨界乾燥工程を特定の条件で行うことで、本発明の超臨界乾燥工程後に回収される超臨界廃液は、アンモニウムイオンの含量が少ない。本発明の回収された超臨界廃液に含まれているアンモニウムイオンは、200mg/kg以下、具体的には150mg/kg以下、より具体的には120mg/kg以下であってもよい。アンモニウムイオンが上記の範囲内に含まれる場合、回収された超臨界廃液の再使用時に、シリカエアロゲルの物性が低下することを防止することができる。
【0034】
前記アンモニウムイオンの含量が低減された超臨界廃液は、次のバッチのシリカエアロゲルブランケットの製造方法で再使用されることができる。具体的に、ゲル化触媒溶液の製造、熟成、および表面改質からなる群から選択される1つ以上のステップで再使用されることができ、より具体的に、ゲル化触媒溶液の製造で再使用されることができる。
【0035】
前記回収された超臨界廃液がシリカゾルの製造で再使用されることは、回収された超臨界廃液中に残留している微量のアンモニウムイオンによりゲル化反応が促進され、ゲル化時間の制御および調節が困難となり得るため好ましくない。
【0036】
本発明は、超臨界乾燥工程の条件を調節することで超臨界廃液中のアンモニウムイオンの含量を最小限に減少させることができるが、微量のアンモニウムイオンが含まれ得るため、上記のようにシリカゾルでなく、ゲル化触媒溶液の製造で再使用する場合、微量のアンモニウムイオンによるゲル化時間の制御および調節の妨害を根本的に防ぐことができる利点がある。
【0037】
また、本発明のシリカエアロゲルブランケットの製造方法は、シリカエアロゲルブランケットの製造工程中に熟成廃液および表面改質廃液を回収し、熟成ステップおよび表面改質ステップのうち1つ以上のステップで再使用するステップをさらに含んでもよい。
【0038】
換言すれば、熟成ステップおよび表面改質ステップを経て回収された熟成廃液および表面改質廃液も回収し、次のバッチのシリカエアロゲルブランケットの製造で再使用可能であり、具体的に、熟成ステップおよび表面改質ステップのうち1つ以上のステップで再使用することができる。前記熟成ステップおよび表面改質ステップで再使用される熟成廃液および表面改質廃液は、多量のアンモニウムイオンが含まれていても、シリカエアロゲルブランケットの断熱性能の低下を引き起こさないため、別の処理なしに再使用して、製造原価をさらに低減することができる。
【0039】
しかし、前記熟成廃液および表面改質廃液のみを再使用するだけでは、シリカエアロゲルブランケットの製造において必要な有機溶媒の総重量の約70重量%しか再使用できないため、本発明は、超臨界廃液から超臨界乾燥工程の条件の調節によりアンモニウムイオンを低減させた有機溶媒を得て、ゲル化触媒溶液の製造でも使用し、シリカエアロゲルブランケットの製造で最初に使用される有機溶媒の量を減少させることにより、製造原価を極力低減することを目的とする。
【0040】
そこで、前記再使用される超臨界廃液の量は、シリカエアロゲルブランケットの製造で用いられる有機溶媒の総重量に対して70〜95重量%、具体的には70〜90重量%、より具体的には80〜90重量%であってもよい。
【0041】
上記の範囲未満で再使用する場合には、製造原価の低減効果が高くなく、上記の範囲を超えて再使用する場合には、シリカエアロゲルブランケットの物性低下の防止を担保できないという問題があり得る。
【0042】
一方、ゲル化触媒溶液の製造では、ゲル化触媒溶液の製造において必要な溶媒の100重量%まで、本発明の回収された超臨界廃液を使用することができる。
【0043】
一方、最初に使用する有機溶媒のみを使用して製造されるシリカエアロゲルブランケットに比べて同等または類似のレベルの外観および物性を有するシリカエアロゲルブランケットが製造可能であれば、再使用回数は特に限定されない。
【0044】
前記本発明のシリカエアロゲルブランケットの製造方法により、超臨界廃液を再使用して製造したシリカエアロゲルブランケットは、常温(25℃)熱伝導度が19mW/mK以下である断熱性能を実現することができ、これは、最初に使用する有機溶媒(fresh ethanol)のみを使用して製造した場合と同等または類似のレベルに該当する。
【0045】
このように、本発明は、追加設備投資およびエネルギー投入なしに、簡単に超臨界乾燥工程の条件を調節することで、超臨界乾燥工程後に回収される超臨界廃液中に含まれているアンモニウムイオン(NH
4+)の含量を低めて再使用することで、製造原価を低減することができるとともに、シリカエアロゲルブランケットの断熱性能の低下が防止可能な、シリカエアロゲルブランケットを製造することができる。
【0046】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0047】
(実施例1)
(1)廃液の回収
75%水和されたテトラエチルオルトシリケート(HTEOS)(シリカ濃度19〜20重量%)、エタノール、および水を1:2.25:0.35の重量比で混合してシリカゾルを製造した。前記シリカゾルに、エタノール:アンモニア水=210:1の重量比で混合した塩基触媒溶液を、前記HTEOSに対して0.44重量%添加した後、ガラス繊維(Glass Fiber)に含浸させてゲル化を誘導した。ゲル化が完了した後、シリカゾルの体積に対して80〜90%のアンモニア溶液(2〜3vol%)を用いて50〜70℃の温度で1時間放置して熟成させた後、シリカゾルの体積に対して80〜90%のヘキサメチルジシラザン(HMDS)溶液(2〜10vol%)を用いて50〜70℃の温度で4時間放置して疎水化反応を進行することで、疎水性エアロゲルブランケットロール(Aerogel Blanket Roll)を製造した。一方、前記熟成および表面改質ステップで発生した熟成廃液および表面改質廃液は、再使用のために保管しておいた。
【0048】
表面改質済みのエアロゲルブランケットロールを超臨界乾燥のために抽出器(extractor)に投入した後、20℃でCO
2を注入した。CO
2の注入が完了した時に、抽出器の温度および圧力は20℃、60barであった。次に、40℃まで昇温すると圧力が150barとなり、40℃、150barで超臨界乾燥を行った。超臨界乾燥の完了後に回収したエタノールに含有されているNH
4+の量は90mg/kgであった。
【0049】
(2)廃液の再使用
前記回収されたエタノールを、触媒タンクにて、HTEOS:回収されたエタノール(recycled EtOH):Fresh EtOH:NH
4OH:H
2O=1:2.15:0.34:0.018:0.12の重量比で混合してゲル化触媒溶液を製造した。シリカゾルは、前駆体タンクにて、部分水和されたTEOSとFreshエタノールを1:0.41の重量比で混合して製造した(Target density(TD)41kg/m
3)。前記シリカゾルと触媒溶液を混合してガラス繊維に含浸させ、10分間放置しゲル化させることで、湿潤ゲル複合体を形成した。前記湿潤ゲル複合体を、前記保管しておいた熟成廃液にアンモニア水のみを追加して50〜70℃で1時間熟成(aging)した。前記熟成された湿潤ゲル複合体を、前記保管しておいた表面改質廃液にヘキサメチルジシラザン(HMDS)のみを追加して50〜70℃で4時間表面改質させた。この際、シリカエアロゲルブランケットの製造において必要な有機溶媒の総重量に対する、再使用した溶媒の割合は90重量%であった。
【0050】
その後、前記表面改質した湿潤ゲルを、前記超臨界乾燥条件と同様に20℃でCO
2を注入した後、40℃および150barの条件でCO
2を用いて6時間超臨界乾燥した。その後、150℃および常圧条件で1時間さらに乾燥することで、シリカエアロゲルブランケットを完成した
【0051】
(実施例2〜4)
前記実施例1において、超臨界乾燥条件(CO
2の注入温度、超臨界乾燥温度)を下記表1に記載の温度条件として行ったことを除き、実施例1と同様の方法によりシリカエアロゲルブランケットを製造した。
【0052】
(比較例1)
前記実施例1において、回収された超臨界廃液を再使用する代わりに、fresh ethanolのみを使用したことを除き、実施例1と同様の方法によりシリカエアロゲルブランケットを製造した。
【0053】
(比較例2)
前記実施例1において、超臨界乾燥工程時にCO
2の注入温度を40℃としたことを除き、実施例1と同様の方法によりシリカエアロゲルブランケットを製造した。
【0054】
(比較例3〜5)
前記実施例1において、CO
2の注入温度および超臨界乾燥温度を下記表1に記載の温度として行ったことを除き、実施例1と同様の方法によりシリカエアロゲルブランケットを製造した。
【0055】
(実験例1)
前記実施例および比較例で回収された超臨界廃液に含有されているNH
4+の含量、ならびに実施例および比較例で回収された超臨界廃液を再使用して製造されたシリカエアロゲルブランケットの各物性を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0056】
1)回収されたエタノールに含有されているNH
4+(mg/kg)
実施例および比較例で回収された超臨界廃液に含有されているNH
4+の含量をイオンクロマトグラフィーにより分析した。
【0057】
2)厚さ(mm)および常温熱伝導度(mW/mK、25℃)
実施例および比較例で回収された超臨界廃液を再使用して製造したシリカエアロゲルブランケットの厚さおよび常温熱伝導度を、NETZSCH社のHFM436装置を用いて測定した。
【0059】
前記表1に示されたように、実施例1〜4と比較例1を比較すると、本発明に従って超臨界廃液を再使用した実施例のシリカエアロゲルブランケットは、超臨界廃液を再使用せずにfresh ethanolのみを使用した比較例1のシリカエアロゲルブランケットと同等または類似のレベルの常温熱伝導度を有しており、このことから、本発明に従って超臨界廃液を再使用する場合、製造原価を低減することができるとともに、シリカエアロゲルブランケットの断熱性能の低下を防止することができることが分かった。
【0060】
一方、実施例1〜4と比較例2〜5を比較すると、CO
2の注入温度を低く調節して超臨界乾燥を行ってから回収した実施例の超臨界廃液は、CO
2を実施例より高温で注入して超臨界乾燥を行ってから回収した比較例の超臨界廃液に比べて、少ない含量のアンモニウムイオンを含有していることを確認することができた。
【0061】
また、熱伝導度を比較すると、実施例のシリカエアロゲルブランケットは、比較例に比べて断熱性能に優れていることを確認することができた。
【0062】
このことから、本発明に従って超臨界廃液を回収した後に再使用する場合、製造原価を低減することができるとともに、シリカエアロゲルブランケットの断熱性能の低下を防止することができることが分かった。
【0063】
(実験例2)
前記実施例および比較例で回収された超臨界廃液を再使用して製造されたシリカエアロゲルブランケットに含まれているエアロゲルの気孔サイズ分布(Pore Size Distribution)を、BET装備(Micromeritics 3Flex)を用いて測定し、その結果を
図2に示した。
【0064】
図2に示されたように、CO
2の注入温度を低く調節して超臨界乾燥を行ってから回収した超臨界廃液を再使用した実施例は、CO
2を熱処理して高温で注入して超臨界乾燥を行ってから回収した超臨界廃液を再使用した比較例に比べて、形成されたエアロゲルの気孔サイズが均一であることを確認することができた。
【0065】
上述の本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須的特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるであろう。したがって、上述の実施例は全ての点で例示的なものであり、限定的ではないことを理解すべきである。