【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1は、KTN光ビームスキャナにおける、KTN結晶素子が出力する光の光路と電極の位置との関係を概略的に示す。
図1には、KTN結晶素子1と、KTN結晶素子1に電圧を印加するようにX軸及びZ軸で構成されるXZ平面上においてKTN結晶素子1上に対向して形成された電極対2と、を備えたKTN光ビームスキャナモジュールにおいて、KTN結晶素子1から出射された光がスクリーン3に照射される様子が示されている。
【0009】
図1に示すように、KTN光ビームスキャナモジュールにおいては、X軸方向にKTN結晶素子1の光入出射面が構成され、Y軸方向にKTN結晶素子1において電極対2を形成する電極面(以下、KTN結晶素子において電極対が形成されている面を電極面とする。)が構成されている。KTN光ビームスキャナモジュールでは、電極対2により光の進行方向に垂直に電圧を印加することにより、KTN結晶素子1を透過して偏向した光ビームのスクリーン3上での照射位置についてのY軸方向の走査を実現している。
【0010】
KTN光ビームスキャナモジュールにおいてスクリーン上での光ビームの照射位置の安定性・再現性が高いことは、例えば、レーザ加工の場合においては加工精度や加工バラツキに直接影響し、トレパリングによる穴あけ加工の場合においては加工できる最小穴径をさらに小さくすること、およびレーザによる溶断加工の場合においては加工断面の直線性を向上することに寄与するため、光ビームスキャナとして利用する上で基本的且つ非常に重要な特性である。
【0011】
ここで、KTN結晶は、結晶温度に応じて誘電率の変化を示す光学結晶であり、光ビームが透過する際、KTN結晶素子の温度が偏向特性に影響を及ぼすことがわかっている。また、KTN光ビームスキャナモジュールは、KTN結晶素子の温度制御に加え、KTN結晶素子への電圧印加により光が透過する際のKTN結晶素子の誘電率を制御することで偏向特性の制御を実現するものであるため、光ビームの照射位置の安定性・再現性の向上のためには、結晶温度の安定性と、外部から与える電圧信号の安定性とが非常に重要なパラメータとなる。
【0012】
図2は、従来のKTN光ビームスキャナモジュールの構成例を示す。
図2には、KTN結晶素子11と、KTN結晶素子11上に対向して形成された電極対12と、電極対12のうちの一方の電極に設けられた温度モニタ部13と、電極対12のうちの一方の電極に設けられた温度制御部14と、を備えたKTN光ビームスキャナモジュールが示されている。
【0013】
また、
図3は、従来のKTN光ビームスキャナモジュールの他の構成例を示す。
図3に示すKTN光ビームスキャナモジュールでは、KTN結晶素子11上に対向して形成された電極対12及び12’を挟み込むように2つの温度制御部14及び14’をそれぞれ設け、温度モニタ部13及び13’を電極対12及び12’にそれぞれ設けている。
【0014】
温度モニタ部13は、電極対12の温度をモニタするように電極対12に設けられており、そのモニタ温度を温度制御部14にフィードバックする。温度モニタ部13は、例えば、サーミスタや熱電対などの温度モニタを行う部品とすることができる。
【0015】
温度制御部14は、例えば、ペルチェ素子やヒーター、ヒートシンクなどの温度制御を行う部品を組合せて構成され、温度モニタ部13からフィードバックされるモニタ温度が温度制御部14におけるKTN結晶素子11の制御温度で一定となるようにKTN結晶素子11の温度を制御する。
【0016】
以下、温度制御部14としてペルチェ素子及びペルチェ素子の温度制御を介してKTN結晶素子の温度制御を行うペルチェコントローラを用いた構成を例に説明する。
図2及び
図3に示すような従来のKTN光ビームスキャナモジュールにおいて、KTN結晶素子の温度は、KTN結晶素子11に電気的に接続している電極対12に設けられた温度モニタ部13によってモニタされている。従来のKTN光ビームスキャナモジュールでは、そのモニタ温度をペルチェコントローラにフィードバックし、KTN結晶素子11の偏向動作に最適な温度で利用するためにモニタ温度がKTN結晶素子11の制御温度で一定となるようにペルチェ素子を温度制御することで、ペルチェ素子に接触した電極対12を介してKTN結晶素子11の温度を調整している(例えば特許文献1参照)。
【0017】
しかしながら、従来のKTN光ビームスキャナモジュールでは、フィードバック制御自体の時間的な遅延に起因してKTN結晶素子11の制御温度の時間的な遅延が生じるため、KTN結晶素子11の温度揺らぎを完全になくすことは不可能である。
【0018】
また、KTN結晶素子においては、電極に接する部分はKTN結晶素子の制御温度で安定する一方で、電極から離れるに従って当該制御温度からズレが生じていた。特に、KTN結晶素子自体の熱伝導特性が悪く、KTN結晶素子がペルチェ素子による電極を介した温度制御に比べて周辺温度の影響を強く受けるため、電極から離れた位置にある光の入出射部において温度揺らぎが生じ、その結果、偏向特性が揺らぐことがわかってきた。例えば、KTN結晶素子の相転移温度が周辺温度よりも高い場合、KTN結晶素子の温度は制御温度よりも周辺温度に影響を受け、光の入出射部において温度揺らぎが生じる。
【0019】
図4(a)はKTN結晶素子の制御温度を室温よりも約30℃高く設定した場合におけるKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅の測定結果を示し、
図4(b)はKTN結晶素子の制御温度を室温よりも約10℃高く設定した場合におけるKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅の測定結果を示す。
図4では、KTN結晶素子において光が伝搬する中央部分の温度を測定した。
【0020】
図4(a)に示すようにKTN結晶素子の制御温度を室温よりも約30℃高く設定した場合、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅は0.006℃であり、
図4(b)に示すように、KTN結晶素子の制御温度を室温よりも約10℃高く設定した場合、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅は0.002℃である。従って、KTN結晶素子の制御温度が室温から離れるのに伴い、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅が大きくなっている。
【0021】
また、温度揺らぎ幅がビーム位置の揺らぎ幅に与える影響を見積もるために、従来のKTN光ビームスキャナモジュールにおけるKTN結晶素子の制御温度に対するKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅及び偏向したビーム位置の揺らぎ幅を評価した。
図5(a)はKTN結晶素子の制御温度に対するKTN結晶素子の中央部分の温度の揺らぎ幅の評価結果を示し、
図5(b)はKTN結晶素子の制御温度に対する偏向ビームの照射位置の揺らぎ幅の評価結果を示す。
【0022】
図5(b)に示す偏向ビームの照射位置評価では、KTN結晶素子にAC電圧を印加し、一定の電圧が印加されるタイミングでレーザ光を入射して、偏向したビームの照射位置をKTN結晶素子から約10cm離れたCCDカメラで5分間評価し、5分間のうちにCCD上で偏向したビームの照射位置がどの程度揺らぐかを測定した。
【0023】
図5(a)及び
図5(b)に示されるように、KTN結晶素子の制御温度が室温(約20℃)から高くなるにしたがってKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅が大きくなり、それに比例するようにKTN結晶素子によって偏向したビームの照射位置の揺らぎ幅が大きくなっている様子がわかる。これらの結果より、KTN結晶素子の制御温度と室温の差が大きいと偏向特性が不安定になり、偏向ビームの位置精度が劣化することがわかる。
【0024】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶素子の温度制御精度を向上し、偏向特性の安定性を高めることが可能な光ビームスキャナモジュールを提供することである。