特許第6974719号(P6974719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6974719
(24)【登録日】2021年11月9日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】光ビームスキャナモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/29 20060101AFI20211118BHJP
【FI】
   G02F1/29
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-239946(P2017-239946)
(22)【出願日】2017年12月14日
(65)【公開番号】特開2019-105811(P2019-105811A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2020年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤毛 勇一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 尊
【審査官】 奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−125439(JP,A)
【文献】 特開昭62−217685(JP,A)
【文献】 特開2008−212690(JP,A)
【文献】 特開2017−203847(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0077147(US,A1)
【文献】 SAKAMOTO et al.,High-speed optical beam scanning using KTN crystal,IEEE CPMT Symposium Japan 2014,米国,IEEE,2014年11月04日,https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=7009638,DOI: 10.1109/ICSJ.2014.7009638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00− 1/125
G02F 1/21− 7/00
H01S 3/00− 4/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な電気光学材料で構成された結晶素子であって、結晶の主成分が周期律表Ia族及びVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ及びタンタルの少なくとも1つを含む結晶素子、または、結晶の主成分が周期律表Ia族及びVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ及びタンタルの少なくとも1つを含み、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族またはIIa族の1または複数種を含結晶素子と、
前記結晶素子上に対向して形成された電極対と、
前記電極対のうちの少なくとも一方の電極に設けられた温度モニタ部であって、前記結晶素子の温度をモニタする温度モニタ部と、
前記少なくとも一方の電極に設けられた温度制御部であって、前記温度モニタ部からモニタ温度がフィードバックされ、当該フィードバックされたモニタ温度が所定の温度となるように前記結晶素子の温度制御をする温度制御部と、
前記結晶素子において、前記電極対が形成された面である電極面以外の光ビームが入射する面に、温度制御された気流を吹き付ける気流吹き付け部と、
を備えたことを特徴とする光ビームスキャナモジュール。
【請求項2】
前記気流吹き付け部は、気流を送出するコンプレッサと、前記コンプレッサから送出された気流を温度制御するためのヒーター付き配管と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の光ビームスキャナモジュール。
【請求項3】
前記結晶素子及び前記電極対を囲うケースであって、前記気流吹き付け部から供給される気流を一定領域に閉じ込め可能に構成されたケースをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ビームスキャナモジュール。
【請求項4】
前記温度制御部は、
ペルチェ素子と、
前記ペルチェ素子に設置されたヒートシンクと、
前記温度モニタ部からモニタ温度がフィードバックされ、当該フィードバックされたモニタ温度が所定の温度となるように前記ペルチェ素子の温度制御を介した前記結晶素子の温度制御をするペルチェコントローラと、
を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光ビームスキャナモジュール。
【請求項5】
前記気流吹き付け部における気流の制御温度と、前記温度制御部における前記結晶素子の制御温度は等しいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光ビームスキャナモジュール。
【請求項6】
前記温度モニタ部は、サーミスタであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光ビームスキャナモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームスキャナモジュールに関し、より詳細には、偏向したビームの照射位置の安定性や再現性の向上を図るために電気光学材料からなる結晶素子によって実現された光ビームスキャナモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ビームの照射位置を走査する光ビームスキャナとして広く利用されているガルバノスキャナ等では、機械的にミラーを動かすことによってビーム走査をしており、動作速度が機械制御速度に制限される。
【0003】
それに対し、電気光学材料としてKTN結晶を利用するKTN光ビームスキャナでは、電圧制御によってビーム走査を実現していることを大きな特徴としている。KTN結晶は、二次のEO効果であるカー効果が大きいという特徴をもち、その効果を利用した偏向特性の応用が期待されている。KTN光ビームスキャナは、200kHzを超える高速な動作速度を実現できることから、一般に利用されているガルバノビームスキャナなどの動作速度が数kHzである他のスキャナに比べて高速なビーム走査が可能であり、実用化に向けた検討に期待が寄せられている。
【0004】
また、ガルバノスキャナなどのミラーを使った反射型のビームスキャナでは、光路を折り返すような複雑な構成が必要であるため、スキャナの光路設計が難しいことや、小型化が困難であることなどの問題があった。一方で、KTN光ビームスキャナは、透過型のスキャナであるため、光路設計が容易でスキャナや装置の小型化に有利であること、レーザ加工などの応用においてスループットの向上に有利であることなどから、その利用が期待されている。
【0005】
以上のようなKTN光ビームスキャナの特徴から、昨今、盛んにKTN光ビームスキャナの応用検討が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−195916号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「光偏向器の適用領域及び技術情報(Application and technical information of optical deflectors)」、一般財団法人産業技術振興協会、2017年3月、OITDA/TP 27/AA:2017、第1版、p.1−19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1は、KTN光ビームスキャナにおける、KTN結晶素子が出力する光の光路と電極の位置との関係を概略的に示す。図1には、KTN結晶素子1と、KTN結晶素子1に電圧を印加するようにX軸及びZ軸で構成されるXZ平面上においてKTN結晶素子1上に対向して形成された電極対2と、を備えたKTN光ビームスキャナモジュールにおいて、KTN結晶素子1から出射された光がスクリーン3に照射される様子が示されている。
【0009】
図1に示すように、KTN光ビームスキャナモジュールにおいては、X軸方向にKTN結晶素子1の光入出射面が構成され、Y軸方向にKTN結晶素子1において電極対2を形成する電極面(以下、KTN結晶素子において電極対が形成されている面を電極面とする。)が構成されている。KTN光ビームスキャナモジュールでは、電極対2により光の進行方向に垂直に電圧を印加することにより、KTN結晶素子1を透過して偏向した光ビームのスクリーン3上での照射位置についてのY軸方向の走査を実現している。
【0010】
KTN光ビームスキャナモジュールにおいてスクリーン上での光ビームの照射位置の安定性・再現性が高いことは、例えば、レーザ加工の場合においては加工精度や加工バラツキに直接影響し、トレパリングによる穴あけ加工の場合においては加工できる最小穴径をさらに小さくすること、およびレーザによる溶断加工の場合においては加工断面の直線性を向上することに寄与するため、光ビームスキャナとして利用する上で基本的且つ非常に重要な特性である。
【0011】
ここで、KTN結晶は、結晶温度に応じて誘電率の変化を示す光学結晶であり、光ビームが透過する際、KTN結晶素子の温度が偏向特性に影響を及ぼすことがわかっている。また、KTN光ビームスキャナモジュールは、KTN結晶素子の温度制御に加え、KTN結晶素子への電圧印加により光が透過する際のKTN結晶素子の誘電率を制御することで偏向特性の制御を実現するものであるため、光ビームの照射位置の安定性・再現性の向上のためには、結晶温度の安定性と、外部から与える電圧信号の安定性とが非常に重要なパラメータとなる。
【0012】
図2は、従来のKTN光ビームスキャナモジュールの構成例を示す。図2には、KTN結晶素子11と、KTN結晶素子11上に対向して形成された電極対12と、電極対12のうちの一方の電極に設けられた温度モニタ部13と、電極対12のうちの一方の電極に設けられた温度制御部14と、を備えたKTN光ビームスキャナモジュールが示されている。
【0013】
また、図3は、従来のKTN光ビームスキャナモジュールの他の構成例を示す。図3に示すKTN光ビームスキャナモジュールでは、KTN結晶素子11上に対向して形成された電極対12及び12’を挟み込むように2つの温度制御部14及び14’をそれぞれ設け、温度モニタ部13及び13’を電極対12及び12’にそれぞれ設けている。
【0014】
温度モニタ部13は、電極対12の温度をモニタするように電極対12に設けられており、そのモニタ温度を温度制御部14にフィードバックする。温度モニタ部13は、例えば、サーミスタや熱電対などの温度モニタを行う部品とすることができる。
【0015】
温度制御部14は、例えば、ペルチェ素子やヒーター、ヒートシンクなどの温度制御を行う部品を組合せて構成され、温度モニタ部13からフィードバックされるモニタ温度が温度制御部14におけるKTN結晶素子11の制御温度で一定となるようにKTN結晶素子11の温度を制御する。
【0016】
以下、温度制御部14としてペルチェ素子及びペルチェ素子の温度制御を介してKTN結晶素子の温度制御を行うペルチェコントローラを用いた構成を例に説明する。図2及び図3に示すような従来のKTN光ビームスキャナモジュールにおいて、KTN結晶素子の温度は、KTN結晶素子11に電気的に接続している電極対12に設けられた温度モニタ部13によってモニタされている。従来のKTN光ビームスキャナモジュールでは、そのモニタ温度をペルチェコントローラにフィードバックし、KTN結晶素子11の偏向動作に最適な温度で利用するためにモニタ温度がKTN結晶素子11の制御温度で一定となるようにペルチェ素子を温度制御することで、ペルチェ素子に接触した電極対12を介してKTN結晶素子11の温度を調整している(例えば特許文献1参照)。
【0017】
しかしながら、従来のKTN光ビームスキャナモジュールでは、フィードバック制御自体の時間的な遅延に起因してKTN結晶素子11の制御温度の時間的な遅延が生じるため、KTN結晶素子11の温度揺らぎを完全になくすことは不可能である。
【0018】
また、KTN結晶素子においては、電極に接する部分はKTN結晶素子の制御温度で安定する一方で、電極から離れるに従って当該制御温度からズレが生じていた。特に、KTN結晶素子自体の熱伝導特性が悪く、KTN結晶素子がペルチェ素子による電極を介した温度制御に比べて周辺温度の影響を強く受けるため、電極から離れた位置にある光の入出射部において温度揺らぎが生じ、その結果、偏向特性が揺らぐことがわかってきた。例えば、KTN結晶素子の相転移温度が周辺温度よりも高い場合、KTN結晶素子の温度は制御温度よりも周辺温度に影響を受け、光の入出射部において温度揺らぎが生じる。
【0019】
図4(a)はKTN結晶素子の制御温度を室温よりも約30℃高く設定した場合におけるKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅の測定結果を示し、図4(b)はKTN結晶素子の制御温度を室温よりも約10℃高く設定した場合におけるKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅の測定結果を示す。図4では、KTN結晶素子において光が伝搬する中央部分の温度を測定した。
【0020】
図4(a)に示すようにKTN結晶素子の制御温度を室温よりも約30℃高く設定した場合、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅は0.006℃であり、図4(b)に示すように、KTN結晶素子の制御温度を室温よりも約10℃高く設定した場合、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅は0.002℃である。従って、KTN結晶素子の制御温度が室温から離れるのに伴い、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅が大きくなっている。
【0021】
また、温度揺らぎ幅がビーム位置の揺らぎ幅に与える影響を見積もるために、従来のKTN光ビームスキャナモジュールにおけるKTN結晶素子の制御温度に対するKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅及び偏向したビーム位置の揺らぎ幅を評価した。図5(a)はKTN結晶素子の制御温度に対するKTN結晶素子の中央部分の温度の揺らぎ幅の評価結果を示し、図5(b)はKTN結晶素子の制御温度に対する偏向ビームの照射位置の揺らぎ幅の評価結果を示す。
【0022】
図5(b)に示す偏向ビームの照射位置評価では、KTN結晶素子にAC電圧を印加し、一定の電圧が印加されるタイミングでレーザ光を入射して、偏向したビームの照射位置をKTN結晶素子から約10cm離れたCCDカメラで5分間評価し、5分間のうちにCCD上で偏向したビームの照射位置がどの程度揺らぐかを測定した。
【0023】
図5(a)及び図5(b)に示されるように、KTN結晶素子の制御温度が室温(約20℃)から高くなるにしたがってKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅が大きくなり、それに比例するようにKTN結晶素子によって偏向したビームの照射位置の揺らぎ幅が大きくなっている様子がわかる。これらの結果より、KTN結晶素子の制御温度と室温の差が大きいと偏向特性が不安定になり、偏向ビームの位置精度が劣化することがわかる。
【0024】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶素子の温度制御精度を向上し、偏向特性の安定性を高めることが可能な光ビームスキャナモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様に係る光ビームスキャナモジュールは、透明な電気光学材料で構成された結晶素子であって、結晶の主成分が周期律表Ia族及びVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ及びタンタルの少なくとも1つを含む結晶素子、または、結晶の主成分が周期律表Ia族及びVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ及びタンタルの少なくとも1つを含み、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族またはIIa族の1または複数種を含む結晶素子と、前記結晶素子上に対向して形成された電極対と、前記電極対のうちの少なくとも一方の電極に設けられた温度モニタ部であって、前記結晶素子の温度をモニタする温度モニタ部と、前記少なくとも一方の電極に設けられた温度制御部であって、前記温度モニタ部からモニタ温度がフィードバックされ、当該フィードバックされたモニタ温度が所定の温度となるように前記結晶素子の温度制御をする温度制御部と、前記結晶素子において、前記電極対が形成された面である電極面以外の光ビームが入射する面に、温度制御された気流を吹き付ける気流吹き付け部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、光ビームスキャナモジュールにおける結晶素子の温度制御精度を向上し、偏向特性の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】KTN光ビームスキャナにおける、KTN結晶素子が出力する光の光路と電極の位置との関係を概略的に示す図である。
図2】従来のKTN光ビームスキャナモジュールの構成例を示す。
図3】従来のKTN光ビームスキャナモジュールの構成の他の例を示す。
図4】従来のKTN光ビームスキャナモジュールにおける、KTN結晶素子の制御温度に対するKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅の測定結果を示す図である。
図5】従来のKTN光ビームスキャナモジュールにおける、KTN結晶素子の制御温度に対するKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅及び偏向ビームの照射位置の揺らぎ幅の評価結果を示す図である。
図6】本発明の実施例1に係る光ビームスキャナモジュールの構成を概略的に示す図である。
図7】本発明の実施例2に係る光ビームスキャナモジュールの構成を概略的に示す図である。
図8】本発明の実施例2に係る光ビームスキャナモジュールにおけるKTN結晶素子の温度の安定性を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施例1)
図6は、本発明の実施例1に係る光ビームスキャナモジュールの構成を概略的に示す。図6には、KTN結晶素子110と、KTN結晶素子110上に対向して形成された電極対120と、電極対120のうちの一方の電極に設けられた温度モニタ部130と、電極対120の一方の電極に設けられた温度制御部140と、温度制御された気流をKTN結晶素子110に吹き付ける気流吹き付け部150と、を備えた光ビームスキャナモジュールが示されている。
【0029】
温度モニタ部130は、電極対120の温度をモニタするように電極対120に設けられており、そのモニタ温度を温度制御部140にフィードバックする。温度モニタ部130は、例えば、サーミスタや熱電対などの温度モニタを行う部品とすることができる。
【0030】
温度制御部140は、例えば、ペルチェ素子やヒーター、ヒートシンクなどの温度制御を行う部品を組合せて構成され、温度モニタ部130からフィードバックされるモニタ温度が温度制御部140におけるKTN結晶素子110の制御温度で一定となるようにKTN結晶素子110の温度を制御する。
【0031】
気流吹き付け部150は、例えば、気流の吹き出しノズルや配管を組み合わせたものを熱制御することでそこを通る気流の温度調節を行い、当該温度調節された気流をKTN結晶素子110に吹き付けることができる。気流吹き付け部150では、例えば、吹き出しノズルや配管の一部にヒーターを巻きつけたり、チラーで制御された水中に配管の一部を通すことで気流の温度調整が可能である。本発明に係る光ビームスキャナモジュールは、気流吹き付け部150を有する点で従来の光ビームスキャナモジュールと異なる。
【0032】
前述のように、KTN結晶素子の偏向特性の安定性を向上するために、KTN結晶素子の温度を安定化することは非常に重要であり、光ビームが伝搬するKTN結晶素子の光入射面から光出射面にかけての領域の温度の安定化がポイントである。
【0033】
従来、KTN光ビームスキャナモジュールにおいては光の入出射面と温度制御を積極的に行う面は区別されてきた。図2及び図3に示すような従来のKTN光ビームスキャナモジュールでは、光の入出射面に垂直な電極面側からKTN結晶素子の温度制御がなされている。しかし、電極面以外の面(光の入出射面及び図6中Z軸方向の面。)については、光路の確保や電極対からKTN結晶素子に効率的に電気信号を印加するための電気的な絶縁の確保の観点から、KTN結晶素子の積極的な温度制御は考慮されてこなかった。
【0034】
そのため、本発明に係る光ビームスキャナモジュールでは、温度制御部140による電極面からの温度制御に加え、気流吹き付け部150によりKTN結晶素子110に温度制御された空気を吹き付けることにより、KTN結晶素子110の温度が素子全域で一定となるように制御している。
【0035】
本発明に係る光ビームスキャナモジュールによると、気流吹き付け部150によりKTN結晶素子110に温度制御された空気を吹き付けることにより、KTN結晶素子110の温度が一定となるように制御しているため、光ビームスキャナモジュールにおける結晶素子の温度制御精度を向上し、偏向特性の安定性を高めることができる。
【0036】
気流吹き付け部150における気流の制御温度は、温度制御部140におけるKTN結晶素子110の制御温度と等しくすることが好ましい。ただし、気流吹き付け部150における気流の制御温度は、温度制御部140におけるKTN結晶素子110の制御温度と近ければよく、ペルチェ素子などの温度制御部140の性能やサーミスタなどの温度モニタ部130とペルチェ素子との間の距離などに応じて調整してもよい。
【0037】
ここで、図6に示す例では、気流吹き付け部150により、KTN結晶素子110の入射面のみに気流を吹き付けている構成を示しているが、これに限定されず、電極面以外の4つの面の1又は複数にそれぞれ気流を吹き付けるように構成してもよい。複数の面に気流を吹き付けるように構成した場合、温度制御の安定性をさらに向上させることができる。
【0038】
また、図6に示すようにKTN結晶素子110の入射面に気流を吹き付ける場合には、光ビームの入射点が最も発熱が高いことが想定されるため、気流吹き付け部150から気流を吹き付けるポイントは、光ビームの入射点に合わせることが好ましい。
【0039】
なお、本発明に係る光ビームスキャナモジュールにおいては、温度制御部140による温度制御はKTN結晶素子110の温度を目標温度とすることが目的であるためフィードバック制御し、気流吹き付け部150による温度制御はKTN結晶素子の温度揺らぎを極小化することが目的であるため大雑把な温度制御のみでよく、フィードバック制御の必要はない。しかし、ビームの位置制御精度が求められる応用などの精細な温度制御の必要がある場合やハイパワーのレーザ光が入射することによりKTN結晶素子の表面の温度上昇が見込まれる場合などでは、気流吹き付け部150による温度制御においても温度制御部でのモニタ温度を利用してフィードバック制御を行ってもよい。
【0040】
本実施例では、電気光学材料としてKTNを使用したKTN結晶素子を例として説明したが、これに限定されず、本発明が対象とする電気光学材料については、結晶の主成分が周期律表Ia族及びVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ及びタンタルの少なくとも1つを含むことができ、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。以下の実施例でも同様である。
【0041】
また、本実施例では、温度モニタ部及び温度制御部を電極対の一方の電極にそれぞれ設けた構成を例示しているが、電極対の両方の電極に温度モニタ部及び温度制御部を設けてもよい。以下の実施例でも同様である。
【0042】
さらに、本実施例では、気流吹き付け部がKTN結晶素子に吹き付ける気体を空気(大気)としたが、熱交換効率を高めるためにHeなど分子量の軽い気体としてもよく、また金属部の酸化などが進まないようにNなどの不活性ガスを利用してもよい。以下の実施例でも同様である。
【0043】
(実施例2)
図7は、本発明の実施例2に係る光ビームスキャナモジュールの構成を示す。図7には、KTN結晶素子210と、KTN結晶素子210上に対向して形成された電極対220と、電極対220のうちの一方の電極に埋め込まれたサーミスタ230と、電極対220のうちの一方の電極に設けられた温度制御部240と、温度制御された気流をKTN結晶素子210に吹き付ける気流吹き付け部250と、を備えた光ビームスキャナモジュールが示されている。
【0044】
サーミスタ230は、KTN結晶素子210の温度をモニタすることができ、当該モニタ温度を温度制御部240にフィードバックする。
【0045】
温度制御部240は、ペルチェ素子241と、ペルチェ素子241に設置されたヒートシンクと、サーミスタ230とペルチェ素子241とに接続されたペルチェコントローラ243と、を含む。ペルチェコントローラ243は、サーミスタ230からモニタ温度がフィードバックされ、フィードバックされたモニタ温度が所定の温度となるようにペルチェ素子241の温度制御を介してKTN結晶素子210の温度制御をする。
【0046】
気流吹き付け部250は、気流を送出するコンプレッサ251と、コンプレッサ251から送出された気流を温度制御するためのヒーター付き配管252と、コンプレッサ251からヒーター付き配管252を通して送出された気流を閉じ込めるためのケース253と、を含む。コンプレッサ251には供給する気流の量を制御するためのマスフローコントローラ(不図示)が接続されている。
【0047】
気流吹き付け部250では、コンプレッサ251からヒーター付き配管252を通して供給される温度制御された気流(例えば大気など)をKTN結晶素子210に吹き付けている。コンプレッサ251から吹き付けられる前の気流は、ヒーター付き配管252を通る間に設定温度になるように温度調整される。その結果、KTN結晶素子210は、周辺の環境温度にかかわらずモジュール全体が一定の温度になるように制御されるため、KTN結晶素子210の温度揺らぎを小さくすることができる。
【0048】
本実施例2では、周辺環境からのホコリ等が付着することを防止するため、エアーの吹付け効率を高めるため、および外部からのホコリ等が舞い込むことを抑制するために、気流吹き付け部250から供給される気流を一定領域に閉じ込め可能に構成されたケース253によりKTN結晶素子210及び電極対220を囲っている。また、ケース253は、気流吹き付け部250から供給される気流をKTN結晶素子210に吹き付けることが可能なように、気流吹き付け部と連結した流入口を有する。外部から空気やホコリなどの流入を防ぐため、ケース253内が陽圧となるように気流の流量が調整されている。
【0049】
特にハイパワー応用では、KTN結晶素子210をケース253で囲うことにより、KTN結晶素子210の電極面以外の面に大気中のホコリが焼き付くことを防ぐ効果も期待できる。
【0050】
KTN結晶素子210に吹き付ける気流に湿度やホコリが含まれると問題となることから、気流吹き付け部250に除湿剤やフィルターを設けることにより、除湿剤やフィルターを通した気流を吹き付けるとよい。これにより、周辺大気に含まれる水分等による入射光の損失が抑制される効果も期待できる。
【0051】
尚、レーザ加工では、レーザ光によって溶かした材料や蒸発した材料の再付着を防止するためにレーザ光が照射される領域にエアーを吹き付ける装置があるため、気流吹き付け部250において、そのエアーの一部をKTN結晶素子の温度制御用に流用してもよい。
【0052】
図8は、本発明の実施例2に係る光ビームスキャナモジュールにおけるKTN結晶素子の温度の安定性を評価した結果を示す。本評価においては、KTN結晶素子210に吹き付けるエアーの設定温度を温度制御部240におけるKTN結晶素子210の制御温度とし、KTN結晶素子210の中央部分の温度を測定した。
【0053】
図8に示されるように、本発明の実施例2に係る光ビームスキャナモジュールでは、ペルチェ素子の制御温度は室温よりも約30℃高いにも関わらず、KTN結晶素子の温度の揺らぎ幅が0.002℃であって、図4に示す従来の光ビームスキャナモジュールのKTN結晶素子の温度の揺らぎ幅である0.006℃と比較して、大幅に小さいことがわかる。このことから、本発明の実施例2に係る光ビームスキャナモジュールによると、KTN結晶素子210の制御温度が室温と大きく異なった場合にも、KTN結晶素子の温度安定化が達成できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8