(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものに
は同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。本発明の実施形態を説明する前に、本発明の原理について説明する。
【0016】
(本発明の原理)
従来の周波数選択板は、単一のLC共振によって周波数特性を決めていた。そのため、帯域幅を狭くするためには、インダクタンス又はキャパシタンスを大きくする必要がある。しかし、上記のように得られるインダクタンス及びキャパシタンスの大きさに限界があるため、得たい周波数特性を実現できない場合がある。
【0017】
本発明は、複数のLC共振を用いることで、同程度のインダクタンス及びキャパシタンスで有っても、減衰傾度の傾きが急峻な(尖鋭度の高い)特性を持つ周波数選択板を実現する。
【0018】
図1は、単一のLC並列共振回路の反射特性と、2つのLC直列共振回路が並列接続された共振回路の反射特性を示す図である。
図1の横軸は周波数[GHz]、縦軸は反射信号強度〔dB〕である。
図1に示す破線は単一のLC並列共振回路の特性、実線は2つのLC直列共振回路が並列接続された共振回路の特性を示す。
【0019】
図1に示すように、2つのLC直列共振回路が並列接続された特性(実線)の通過帯域幅は0.4GHzであり、単一のLC並列共振回路(2.1GHz)よりも狭い。2つのLC直列共振回路が並列接続された特性は、ピーク周波数2.5GHzから±0.6GHzの周波数の反射信号強度は0dB、つまり反射信号強度が1である尖鋭度の高い特性を示す。一方、破線の特性は、ピーク周波数2.5GHzから±0.6GHzの周波数の反射信号強度は−3dB以下であり、半分以上の信号が反射してしまう先鋭度の低い特性である。
【0020】
この理由は、その回路の周波数特性を計算すれば自明である。定性的に述べれば、通過帯域を2つの遮断周波数で挟み込むことで減衰傾度の傾きを大きくできると解釈することもできる。
【0021】
このように、2つのLC直列共振回路が並列接続された等価回路で表せる周波数選択板が作れれば、減衰傾度の傾きを急峻にすることができる。また、等価回路は、3つのLC直列共振回路の並列接続で表せても良い。
【0022】
本発明は、この原理に基づいて、複数のLC直列共振回路が並列接続された等価回路を備えた周波数選択板の構成方法を提案するものである。
【0023】
〔第1実施形態〕
図2は、本発明の第1実施形態に係る周波数選択板の平面図を模式的に示す図である。
図2に示す周波数選択板100は、誘電体基板101の上に、漢字の「田」に似た形状の導電パターンで構成された共振器k
1xyが配列されて構成される。
図2においてx方向を横、y方向を縦と定義する。
【0024】
誘電体基板101は、例えば、ガラスエポキシ基板、ポリミイドフィルム基板等で構成される。誘電体基板101の材質は、誘電体材料であれば何でも構わない。
【0025】
共振器k
1xyは、例えば、x方向とy方向にそれぞれ10個並べられて周波数選択板100を構成する。1つの共振器k
1xyの大きさは、共振周波数の波長に対して1/3程度の大きさである。
【0026】
信号は、周波数選択板100に対して−z方向(裏側)から入力され、z方向(表側)に出力(透過)される。周波数選択板100に電磁波が入力されると、共振器k
1xyが配列されたxy平面に電界が生じ共振現象による電流が流れる。
【0027】
図3は、一つの共振器k
1xyを拡大した平面図である。
図3に示す共振器k
1xyは、誘電体基板101の上に十字状の導電パターンを形成したものであって、十字を形成する横パターン10と縦パターン20は、それぞれの方向に所定の長さ延長され、その所定の長さ延長された先は誘電体基板の上の直交する両方向に更に延長され、更に延長されたそれぞれの先端部分11a,11b,21a,21b,…(他の4箇所は省略)は所定の間隔dを空けて対向する形状である。
【0028】
つまり、横パターン10は、縦パターン20と直交する中心部分からx方向に所定の長さ延長された後、その端辺に沿って両方向(±y方向)に延長される。そして、該延長されたそれぞれは、横パターン10と縦パターン20を収容する四角形の対角線に沿う先端部分11a,11bを形成する。横パターン10の−x方向は、上記のx方向と同様である。
【0029】
縦パターン20は、横パターン10と直交する中心部分からy方向に所定の長さ延長された後、その端辺に沿って両方向(±x方向)に延長される。そして、該延長されたそれぞれは、縦パターン20と横パターン10と収容する四角形の対角線に沿う先端部分21a,21bを形成する。縦パターン20の−y方向は、上記のy方向と同様である。
【0030】
横パターン10の先端部分11aは、上記の対角線上に間隔dを空けて縦パターン20の先端部分21bと対向する。この両者の先端部分11aと21bは、静電容量を形成する。間隔dの大きさは、共振器k
1xyの大きさに対して1/10以下程度が好ましい。なお、間隔dの大きさは、横パターン10と縦パターン20のそれぞれの先端部分で静電容量が形成できればいくつでも構わない。
【0031】
つまり、共振器k
1xyは、横パターン10と縦パターン20とが、4つの静電容量で横パターン10と縦パターン20とが結合することで、2つの共振電流が流れる共振パスを作ることができる。
【0032】
図4は、
図3に示した共振器k
1xyで構成した周波数選択板100の等価回路を示す図である。
図4に示すように、本実施形態に係る周波数選択板100を構成する共振器k
1xyは、LC直列共振回路1とLC直列共振回路2を並列に接続した等価回路を備える。
図4に示すZ
0は、空間インピーダンスを表す。空間インピーダンスZ
0は、真空の誘電率と透磁率から決まるインピーダンスである。
【0033】
図5は、共振器k
1xyに流れる2つの共振電流の流れる共振パスを模式的に示す図である。
図5に示すようにルートAとルートBの2つの共振パスが形成される。
【0034】
(比較例)
図6は、比較例の周波数選択板500を構成する共振器k
5xyの平面図を模式的に示す図である。
図6に示す共振器k
5xyは、
図3に示した共振器k
1xyと対応するものである。共振器k
5xyは、xy平面上に配列されてリングスロット型の周波数選択板500(図示せず)を構成する。リングスロット型の周波数選択板500の等価回路は、1つのLC並列共振回路で表せる(図示せず)。
【0035】
図7は、周波数選択板100と周波数選択板500の反射特性を示す図である。
図7に示す実線は周波数選択板100の反射特性であり、破線は周波数選択板500の反射特性を示す。横軸と縦軸の関係は
図1と同じである。
【0036】
周波数選択板500のリング間の隙間は、極めて狭く形成した例を示す。その間隔は、例えば0.2mmである。
【0037】
本実施形態に係る周波数選択板100の間隔dは、例えば0.5mmである。また、導電パターンの線幅は0.5mm以上である。
【0038】
図7に示すように、本実施形態に係る周波数選択板100のピーク周波数は3.2GHz、帯域幅は1.2GHzであり、比較例(周波数選択板500)のそれは3.2Hz、1.2GHzである。
【0039】
このように、本実施形態に係る周波数選択板100は、間隔dが大きくても、リング間の間隔の狭い周波数選択板500と同等の帯域幅が得られる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る周波数選択板100は、同一形状の共振器k
1xyを、誘電体基板101の上に周期的に配列した構造の周波数選択板において、共振器k
1xyは、LC直列共振回路を2つ以上並列に接続した等価回路を備える。また、共振器k
1xyは、誘電体基板101の上に十字状の導電パターンを形成したものであって、十字を形成する横パターン10と縦パターン20は、それぞれの方向に所定の長さ延長され、その所定の長さ延長された先は直交する誘電体基板101上の両方向に更に延長され、更に延長されたそれぞれの先端部分は所定の間隔dを空けて対向する形状である。
【0041】
これにより、導電パターンの線幅を細く又はパターン間隔を狭くすることなく、減衰傾度の傾きが急峻な(尖鋭度の高い)特性を持つ周波数選択板を提供することができる。
【0042】
〔第2実施形態〕
図8は、本発明の第2実施形態に係る周波数選択板200(図示せず)を構成する共振器k
2xyの外観を模式的に示す斜視図である。
【0043】
共振器k
2xyは、第1誘電体基板30の表面上に形成された十字状の導電パターン31と、第2誘電体基板40の表面上に形成された導電パターン31と異なる形状の十字状の導電パターン41とを備え、第1誘電体基板30と第2誘電体基板40は重ねて配置される。
【0044】
導電パターン31は例えばエルサレムスロス型であり、導電パターンは例えばクロス型である。第1誘電体基板30と第2誘電体基板40は密着され、導電パターン31と導電パターン41とが容量結合する位置に配置されるので有れば、それぞれの基板の厚さは限定されない。また、導電パターン31,41の形状も限定されない。
【0045】
図9は、周波数選択板200と周波数選択板500の反射特性を示す図である。
図9に示す実線は周波数選択板200の反射特性であり、破線は周波数選択板500の反射特性を示す。横軸と縦軸の関係は
図7と同じである。
【0046】
図9に示すように、本実施形態に係る周波数選択板200のピーク周波数は3.2GHz、帯域幅は0.5GHzであり、比較例(周波数選択板500)のそれは3.2Hz、1.2GHzである。なお、周波数選択板200のピーク周波数における反射信号強度は、約−22dBと十分小さくないが、これは最適化されていない為である。最適化することで、反射信号強度を周波数選択板500と同程度にすることは可能である。
【0047】
このように誘電体基板を重ねてz方向に、2つ以上のLC直列共振回路を備えるようにしても減衰傾度の傾きが急峻な特性を持つ周波数選択板を実現できる。なお、
図8は、エルサレムクロス型とクロス型の導電パターンを重ねる例を示したが、この導電パターンの形状に限定されない。
【0048】
例えば、クロス型とリング型(図示せず)の導電パターンを重ねて共振器k
2xyを構成するようにしても良い。つまり、共振器k
2xyは、第1誘電体基板30の上に形成された第1導電パターン31と、第2誘電体基板40の上に形成された第1導電パターン31と異なる形状の第2導電パターン41とを備え、第1誘電体基板30と第2誘電体基板40は重ねて配置される。これにより、減衰傾度の傾きが急峻な特性を持つ周波数選択板を実現できる。
【0049】
〔第3実施形態〕
図10は、本発明の第3実施形態に係る周波数選択板300(図示せず)を構成する共振器k
3xyの外観を模式的に示す斜視図である。
【0050】
共振器k
3xyは、誘電体基板101の一方の面上(表面上)に形成された十字を形成する第1導電パターン51と、誘電体基板101の他方の面上(裏面上)に第1導電パターンと異なる形状の第2導電パターン61を形成したものであって、第2導電パターン61は、十字の形状を含むものであって、該十字を形成する横パターン10と縦パターン20は、それぞれの方向に所定の長さ延長され、その所定の長さ延長された先は誘電体基板101の上の直交する両方向に更に延長され、更に延長されたそれぞれの先端部分は所定の間隔dを空けて対向する形状である。
【0051】
導電パターン61は、
図3に示した共振器k
1xyと同じ形状である。よって、誘電体基板101の裏面上に形成される周波数選択板(図示せず)は、2つのLC直列共振回路が並列に接続された等価回路で表せる。
【0052】
一方、誘電体基板101の表面上に形成される周波数選択板(図示せず)は、1つのLC直列共振回路の等価回路で表せる。誘電体基板101の表面上に形成される導電パターン51と、その裏面上に形成される導電パターン61とは誘電体基板101を挟んで静電容量で結合する。
【0053】
したがって、周波数選択板300の等価回路は、3つのLC直列共振回路を並列に接続したものになる。
【0054】
図11は、周波数選択板300の透過特性を示す図である。
図11の横軸は周波数[GHz]、縦軸は透過信号強度〔dB〕である。この例の周波数選択板300は、2.3GHzと約3GHzの2つのバンドストップ特性を備える。この例では約3GHzのバンドストップ特性は意図したものではない。
【0055】
図11に示すように、ピーク周波数2.3GHzのバンドストップ特性の帯域幅は0.4GHzと、上記の実施形態よりも減衰傾度の傾きが急峻な特性が得られる。このように、3つのLC直列共振回路を並列に接続した等価回路で表せる周波数選択板300は、バンドパス特性に挟まれた急峻なバンドストップ特性を実現することができる。
【0056】
以上説明したように本実施形態に係る周波数選択板100,200,300によれば、導電パターンの線幅を細く又はパターン間隔を狭くすることなく、減衰傾度の傾きが急峻な特性を持つ周波数選択板を提供することができる。なお、上記の実施形態の説明において、導電パターンの形状はクロス型、エルサレムクロス型、及びエルサレムクロスの変形型(
図3)の例で説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0057】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。