【文献】
B. GRIFFITHS M.SC.,DEVELOPMENTS IN AND APPLICATIONS OF FIBRE OPTIC INTRUSION DETECTON SENSORS.,PROCEEDINGS THE INSTITUTE OF ELECTRICAL AND ENGINEERS. 29TH ANNUAL 1995 INTERNATIONAL CARNAHAN CONFERENCE ON SECURITY TECHNOLOGY,1995年,第325-330頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光ファイバの経路上のマンホールの蓋に対して打撃を加えたときの前記光ファイバからの散乱光の時間変化を前記光ファイバの端部から測定することで前記光ファイバの長手方向の散乱光強度分布の時間変化を取得する第1ステップと、
前記打撃による振動発生を前記散乱光強度分布の各位置における時間変化に基づいて判定することで前記光ファイバ上の打撃位置を特定する第2ステップと、
前記光ファイバ上の前記打撃位置と前記蓋に対して打撃を加えた前記マンホールの地図上の位置とを対応させることで、当該マンホールの前記端部からの光ファイバ長で表された位置を特定する第3ステップと、
を含み、
前記第1ステップでは、前記蓋に対して、前記打撃として、指定した周波数による所定の振動を加え、
前記第2ステップでは、前記散乱光強度分布の各位置における時間変化の信号に対して、包絡線のスペクトルを算出し、該スペクトルにおいて前記指定した周波数のピークを抽出するフィルタ処理を施すことで、前記打撃による振動を検出する、
マンホール位置特定方法。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ通信線路が収容されているマンホール内で作業が必要な場合、地図と
マンホールの名前を参考に作業をするマンホールを特定して作業をする。作業を行う理由
が、管理しているマンホールの名前に基づいた理由、例えば、〜交差点にある〜という名
前のマンホール内でケーブル接続をする、など理由とマンホールの名前が結びついていれ
ば地図とデータベースから作業すべきマンホールの位置を特定できる。また、OTDR(
Optical Time Domain Reflectometory:光時間領域後
方散乱測定法)による遠隔光試験により、光ファイバが格納された光クロージャが水没し
ているかを検知する浸水検知モジュール(非特許文献2)などを遠隔監視するときや光フ
ァイバ線路上の光損失試験を行う場合は、光ファイバ通信経路における、OTDRからの
光ファイバの距離で場所を特定する。例えばどこかのマンホール内が浸水し、光クロージ
ャが水没したことをOTDRで検知した場合、通信ビルからの距離で判断する。このとき
、経路とマンホールの位置が記載されたデータベースを参考に作業すべきマンホールを特
定する。
【0003】
遠隔で光ファイバ上の状態を測定する技術として上記OTDRを応用した振動センサが
ある(非特許文献1)。この振動センサでは、光ファイバに動きがあった場合に、その長
さが微小に変化する時間変化を検知することで光ファイバの振動とそのファイバ長で表し
た位置を測定することが可能である分布型センサである。また、光ファイバの長さの微小
変化による振動を検知する分布型センサとして、OTDRによるもの以外にも干渉計を用
いたものもある(非特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠隔試験では、試験した光ファイバ上の距離でのみ場所を特定する。光ファイバ長で作
業すべきマンホールを特定する場合、経路上のすべてのマンホールの位置が光ファイバ長
としてデータベースに記載されていれば問題ない。しかし、光ファイバ長は、接続部など
での予長の長さで地図上の距離に比べて大きく異なり、また、経路上のケーブルでの分岐
や接続等を追加したりすることにより随時変更される。このため、マンホールの位置を表
す指標としての光ファイバ長は信頼性のある指標ではない。したがって、遠隔試験により
光ファイバ長で作業すべき位置がわかっても、マンホールの名前が分からないため、現場
で道路等の通行を止めて、蓋を開けて水没等の作業すべきマンホールを確認するしかなく
、大きな時間と労力がかかってしまい、またそのような大きな稼働をかけて蓋を開けて確
認しても作業すべきマンホールではない可能性も高く、何度もこのような大きな稼働のか
かる作業を繰り返さなければならない。
【0006】
また、光ファイバ振動センシングと振動付与を用いた振動位置特定技術において、測定結果のSNR(signal-to-noise ratio:信号対雑音比)が低いため、振動位置を特定することは困難なことがあった。
【0007】
本発明では、従来技術の上記問題を鑑み、蓋を開けずに、光ファイバ長とマンホールの
位置を対応づけて、作業すべきマンホールの位置の特定、マンホールの光ファイバ長での
位置特定によって地図上のルートを明確にすること、データベース上で光ファイバ長によ
るマンホールの位置の管理を可能とすることを目的とする。
【0008】
また、光ファイバ振動センシングと振動付与を用いた振動位置特定技術において、測定結果に信号処理を施し振動位置の特定を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するため、本発明のマンホール位置特定方法の第1の態様は、光ファイバの経路上のマンホールの蓋に対して打撃を加えたときの前記光ファイバからの散乱光の時間変化を前記光ファイバの端部から測定することで前記光ファイバの長手方向の散乱光強度分布の時間変化を取得する第1ステップと、前記打撃による振動発生を前記散乱光強度分布の各位置における時間変化に基づいて判定することで前記光ファイバ上の打撃位置を特定する第2ステップと、前記光ファイバ上の前記打撃位置と前記蓋に対して打撃を加えた前記マンホールの地図上の位置とを対応させることで、当該マンホールの前記端部からの光ファイバ長で表された位置を特定する第3ステップと、を含
み、前記第1ステップでは、前記蓋に対して、前記打撃として、指定した周波数による所定の振動を加え、前記第2ステップでは、前記散乱光強度分布の各位置における時間変化の信号に対して、包絡線のスペクトルを算出し、該スペクトルにおいて前記指定した周波数のピークを抽出するフィルタ処理を施すことで、前記打撃による振動を検出する。
【0012】
マンホール位置特定方法の第
2の態様は、第1の態
様に、前記第1ステップでは、前記打撃と前記散乱光の時間変化の測定とを通信用インターフェースを用いて同期させる。
【0013】
マンホール位置特定方法の第
3の態様は、第1の態様
又は第
2の態
様に、前記第1ステップでは、前記散乱光の時間変化の測定に光パルスを入射して発生
する後方散乱光を測定する光時間領域後方散乱測定法を用い、前記打撃の周波数を前記光パルスが前記光ファイバを往復する時間よりも周期が長い周波数とする。
【0014】
マンホール位置特定方法の第
4の態様は、第1の態様乃至第
3の態様のうち一態様に、前記第1ステップでは、前記光ファイバに対して、両端から光干渉計を用いることで前記散乱光の時間変化を測定する方法を用いる。
【0015】
マンホール位置特定システムの第
5の態様は、光ファイバの端部に接続され、前記光ファイバの経路上のマンホールの位置を特定するマンホール位置特定システムにおいて、前記マンホールの蓋に対して打撃が加えられたときの前記光ファイバからの散乱光の時間変化を前記端部から測定することで前記光ファイバの長手方向の散乱光強度分布の時間変化を取得する光測定器と、
前記蓋に対して、前記打撃として、指定した周波数による所定の振動を加える振動機構と、前記打撃による振動発生を前記散乱光強度分布の各位置における時間変化に基づいて判定することで前記光ファイバ上の打撃位置を特定し、前記光ファイバ上の前記打撃位置と前記蓋に対して打撃を加えられた前記マンホールの地図上の位置とを対応させることで、当該マンホールの前記端部からの光ファイバ長で表された位置を特定する信号処理部と、を備え
、前記信号処理部は、前記散乱光強度分布の各位置における時間変化の信号に対して、包絡線のスペクトルを算出し、該スペクトルにおいて前記指定した周波数のピークを抽出するフィルタ処理を施すことで、前記打撃による振動を検出する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の技術を用いることにより、遠隔試験などで測定される光ファイバ長で表される
マンホールの位置を、マンホールを開けることなく、現場で蓋に打撃を加えるだけで、光
ファイバ長と地図上の場所の対応付けが可能となる。これにより光ファイバ線路運用時に
おける作業対象マンホールの位置特定や、光ファイバ長で表された位置データをデータベ
ース化し、保守時などのルート確定などに貢献することができる。
【0019】
光ファイバ振動センシングと振動付与を用いた振動位置特定技術において、測定された信号のSNR(信号対雑音比:signal-to-noise ratio)が極めて低い場合であっても、打撃による振動を容易に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のマンホール位置特定システム及びマンホール位置特定方法の形態について、図を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定されず、本明細書等において開示する発明の趣旨から逸脱することなく形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者にとって自明である。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を用い、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0022】
本発明に係る第一の実施形態のシステムの構成を
図1〜2に示す。
図1にマンホールの
蓋に対して打撃を与えられ、マンホール1−n(nは、1以上の整数)に設置されている
光ファイバ3に振動を印加され、その振動の長手方向分布を測定し、測定から得られた結
果から、光通信集約ビル4からの光ファイバ長でのみ指定されたマンホール1−nの位置
を特定する振動センサ2を有するマンホール位置特定システムを説明する。本実施形態で
は、振動センサ2は、光通信集約ビル4内に設置されている。振動センサ2は、その振動
の長手方向分布を測定する光測定器5aと、その測定から得られた結果からマンホールの
位置を特定する信号処理部5bとを有する。なお、本実施形態では、その測定の方法は、
光時間領域後方散乱測定法である。後述のしきい値判定やフィルタ処理等は信号処理部5
b内の計算機(コンピュータ)によって実施する。通信インターフェースも信号処理部5
bに内蔵されている。
【0023】
浸水検知モジュールなどにより作業をすべきマンホールの光ファイバ長で表した位置が
分かっているマンホールを1−1とする。このとき、マンホール1−1の周りには、対象
外のマンホール1−2〜1−n(nは2以上の整数)までいくつもあるとする。マンホー
ル付近には作業員がいるが、ファイバ長でしか作業すべきマンホールが分かっていない状
態である。このときに、作業員は従来であれば一つ一つマンホールを開けることになるが
、道路を通行止めにしたり、安全対策をしたりしながら開けることになり、また開けても
作業すべきマンホールではない可能性も高い。
【0024】
本発明ではこの蓋を開ける作業をする前に、通信ビル内の光ファイバの振動センサ2で
特定したいマンホールを通っている光ファイバ3を測定する。そして、その測定と同時に
作業員は蓋を開けず、マンホールに打撃を加える。マンホールに打撃が加わると、マンホ
ールの筐体全体に振動が伝搬することにより、その振動がマンホール内の光ケーブルも振
動させ、その振動を光ファイバの振動センサ2によって検知し、光ファイバ長で表した位
置と、現場で作業するときの地図上のマンホールの位置を対応付けることができる。この
対応付けを1−1〜1−nのマンホールで順次行っていき、あらかじめ作業すべきマンホ
ールの位置としてわかっていた光ファイバ長と同じファイバ長に光存在するマンホールを
特定する。
【0025】
これにより、作業すべきマンホールの位置を間違えずに蓋を開けることができ、作業の
効率を大きく上げることができる。
【0026】
打撃と測定のタイミングについては、打撃を加える作業員と通信ビル内でセンサでの測
定をする作業員の二人がいる場合は電話等であわせればよい。もし打撃を加える作業員し
かいなかったとしても、光ファイバの振動センサ2にイーサネット(登録商標)端子やI
P制御機能などの通信インターフェースを備えさせて、打撃する作業員がスマートフォン
などのようなモバイル端末を用いて遠隔通信により操作することでタイミングを合わせる
ことは可能である。光ファイバの振動センサ2の信号処理部5bに通信用インターフェー
スを付与し、マンホールでの打撃の際に打撃とその光ファイバの振動センサ2での測定を
その通信用インターフェースを用いた同期を行うことにより、打撃と測定をマンホールの
打撃者一人で同時に行い波形を測定することで、打撃の振動を検出する。また、振動セン
サ2による測定をし続ける状態にしておいて、その間に打撃をするという方法でもよい。
【0027】
測定波形も通信ビル内で測定する作業員が確認する方法でもよいし、上記の通信手段に
より、打撃する作業員に遠隔で測定結果を送信し確認する方法でもよい。
【0028】
しかし、一般的にマンホールの上は車や人の通行、雨や風などの外乱が大きく、作業員
が打撃を加えなくても、この外乱により、マンホールは振動をしており、マンホール内の
光ファイバも振動をしている。外乱に対して簡単に打撃を抽出するために、大きく振動さ
せるという方法もあるが、大きな振動を加えるために大きな装置などを使うのであれば、
蓋を開けてマンホールを特定することと稼働が変わらなくなり、簡単にマンホール位置を
特定するという目的に合わない。したがって、蓋を開けずにマンホールを特定する打撃は
交通を止めることなく、簡単なものでなければならない。このため、簡単な小さな打撃で
も、この外乱に対して特定することが必要である。
【0029】
また、打撃による波形は、光ファイバ中の特定の位置から散乱光の時間変化を測定する
という形で検出される。振動センサで振動を分布測定する際の分解能は、マンホール位置
を特定することを考えると数m程度以下であることが必要で、このときマンホールを探す
ファイバ長で表す範囲が例えば100mくらいだとすると、数十個の波形を見る必要があ
り、その波形を打撃しながら探すことになる。測定される波形群のイメージを
図3に示す
。
【0030】
これらの条件を踏まえてマンホール位置を特定する流れを説明する。本実施形態のマン
ホール位置特定方法は、以下のステップ(S1)〜(S3)を含んでいる。光通信集約ビ
ル4において、振動センサ2により、光ファイバ3の経路上のマンホールの蓋に対して打
撃を加えたときの光ファイバ3の各地点からの散乱光の時間変化波形を測定することで光
ファイバ3の振動位置を分布的に測定する(S1)。次に、光ファイバの振動センサ2に
よる測定結果における光ファイバ3の各地点からの散乱光の時間変化波形において、打撃
による振動発生を散乱光変化の大きさのしきい値により判定することで打撃位置を測定す
る(S2)。次に、測定された散乱光の時間変化波形上の光ファイバ長で表された打撃位
置と、蓋に対して打撃を加えたマンホールの地図上の位置とを対応させることで、光通信
集約ビルからの光ファイバ長でのみ指定されたマンホールの位置を特定する(S3)。すなわち、本実施形態のマンホール位置特定方法は、光ファイバ3の経路上のマンホール1−nの蓋に対して打撃を加えたときの光ファイバ3からの散乱光の時間変化を光ファイバ3の端部から測定することで光ファイバ3の長手方向の散乱光強度分布の時間変化を取得する第1ステップと、打撃による振動発生を散乱光強度分布の各位置における時間変化に基づいて判定することで光ファイバ3上の打撃位置を特定する第2ステップと、光ファイバ3上の打撃位置と蓋に対して打撃を加えたマンホール1−nの地図上の位置とを対応させることで、当該マンホールの端部からの光ファイバ長で表された位置を特定する第3ステップと、を含む。
【0031】
まず、探したい範囲において、交通がほとんどない地域など、外乱がほとんどない場合
を考える。この場合、外乱に対して振動による波形が強く出るため、打撃振動による波形
の揺れをしきい値により判定すれば、光ファイバ中の探したい位置範囲の中の多数の時間
波形の中からそのしきい値を超えた動きのあった位置を検出すれば容易に打撃位置と光フ
ァイバ長が対応づけられる。また、このときに作業員は打撃を任意の方法で与えればよい
。例えば、片手で持てる大きさのハンマーで叩いたり、蓋の上で飛び跳ねるなどのような
非常に簡易な方法で、しかも打撃の大きさやリズム、周波数なども任意でよい。基本的に
外乱がないため、しきい値判定により、振動を検出できるため、打撃方法に制限はなく、
振動位置も自動的に検出できる。
【0032】
次に、外乱が大きいため、ハンマーで叩くなどの簡単な方法の打撃では振動の検出がし
きい値判定という簡易な方法では難しい場合を説明する。この場合は、打撃による振動の
様々なパラメータを用いて抽出する。例えば打撃する方法として、振動スピーカーである
エキサイターや、スピーカー(振動を起こす機構)を使って、加える振動に対してパラメ
ータをコントロールする。具体的には、振動の周波数や、振動を付与するタイミング、振
動波形6に対するパルス化などの強度変調など、振動波形6に対して既知となる符号化を
実施して、打撃する。そして、探したい範囲の多数の波形において、その既知の符号化を
検出するフィルタ処理を信号処理部5bで行う。例えば各地点の散乱光の時間変化波形7
に対して既知の周波数の正弦波を乗算する、その周波数が含まれている範囲でバンドパス
フィルタをかける(周波数フィルタを用いて、固定の周波数の成分を抽出する)、パルス
化波形や打撃タイミングと同期したフィルタ処理をする、などして各地点について比較す
る。このフィルタ処理をすることで、マンホールに加わる種々の雑音の中から故意に打撃
することで発生した振動を光測定器5aで検出する。次いで、信号処理部5bで、その光
ファイバの振動センサで検知されたセンサ波形上の光ファイバ長で表された位置と、実際
の打撃を加えたマンホールの地図上の位置を対応させることで、その光通信集約ビルから
の光ファイバ長でのみ指定されたマンホールの位置を特定する。一般に外乱は多数の周波
数が混在した広帯域な振動のため、このような既知の符号化の振動はフィルタ処理により
抽出できるため、その波形が存在している距離から振動位置が検出できる。この処理によ
り、自動的に振動位置の検出が可能である。
【0033】
次に、振動位置を分布測定する光ファイバの振動センサについて説明する。
【0034】
センサの方式としてOTDRを用いる場合を説明する。OTDRで振動を検出する場合
、パルスを光ファイバの片端から入射するため、往復の時間を待つ必要がある。光ファイ
バ通信線路のファイバ長を10km程度とすると、その往復時間は、光ファイバ中の光速
を2×10
8m/sとすると、100μsとなる。100μsで各地点からの散乱光が1
点ずつ測定されるため、各地点での時間変化波形は100μsで1点、つまり、10kS
ample/sとなる。したがって、サンプリング定理より、10kmの光ファイバに対
するOTDRでの振動測定は最高5kHzまでの振動が測定できることになる。このため
、上記の打撃で加える周波数は5kHz以下の可聴域に相当する低い周波数の振動でなけ
ればならない。実際、低周波数振動の方が減衰が小さく振動が伝搬しやすいため、マンホ
ールの筐体全体を振動させるためには都合がよい。このことを踏まえて、上記のエキサイ
ターやスピーカーの周波数を設定する。このとき、kHzオーダーの振動は可聴域のちょ
うど耳障りな周波数に相当するため、更に低周波数、100Hz程度以下にすると、耳に
残りにくく振動させることができる。
【0035】
本実施形態では、浸水検知モジュールなどで作業しなければいけないマンホールが発生
した場合を想定している。浸水検知モジュールはマンホール内の光クロージャが水没した
場合に光ファイバに曲げを作りわざと光損失を起こすことによって水没を検知する。光フ
ァイバ通信線路での光ケーブルには、保守用心線という両端が通信ビルにある、ループ状
の光ファイバが含まれており、浸水検知モジュールは、この保守用心線に設置されている
。浸水により、保守用心線に光損失が発生し、一方の端部からの測定が困難となった場合
でも、OTDRであれば片端で振動が測定できるため、同じ通信ビル内にある他方の端部
から測定を行うことにより、問題なくマンホール位置特定が可能である。光ファイバの振
動センサとして光パルスを入射して発生する後方散乱光を測定するOTDRを用い、光フ
ァイバの光通信集約ビルの片側からのみの入射で、測定対象の光ファイバを光パルスが進
む往復時間よりも周期が長い振動を測定して、打撃の振動を検出できる。また、マンホー
ルに加える打撃の周波数を光パルスの往復時間よりも周期が長い周波数にする振動を検出
できる。
【0036】
また、もちろん保守用心線だけでなく、通常の通信用光ファイバを通してでも打撃の測
定により対象のマンホールを通信ビルからの光ファイバ長により特定することは可能であ
る。
【0037】
信号処理部5bはコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒
体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0038】
本実施形態では、設備を管理するデータベース上にマンホールの位置を通信ビルからの
ファイバ長で管理できるようデータを加えることを想定する。この場合も実施形態1と同
じように、マンホールの位置を通信ビルからの光ファイバ長により特定可能である。この
とき、保守用心線は、実施形態1と異なり、水没などによる光損失はないため、両端を問
題なく使うことができる。したがって、この場合は、センサの方式として干渉計を用いる
ことも可能である。本実施形態では、光測定器5aは、OTDR又は光干渉計である。干
渉計は、光ファイバの両端から、パルスではなく連続光を入射するため、往復時間等の待
ち時間は発生しないため、測定振動周波数に原理的な制限はない。打撃するときの振動周
波数も任意のものでよい。ただし実施形態1にも記載した通り、周囲への影響やマンホー
ルへの伝搬を考えると低周波数が望ましい。
【0039】
このように測定された光ファイバ長で表されるマンホール位置は地図上でも位置が確定
するため、この光ファイバ長に合わせて順序づければ光ファイバの地図上の経路も確定す
ることができる。例えば、地図上のMH経路において分岐がどこにあるかが分かるように
なり、分岐や折り返しなどの複雑な地下配線を確実に特定することができる。この配線ル
ートのデータベースの整備により、浸水等の異常時のマンホール作業をする際に、作業時
ごとの位置特定作業が不要となり、より効率的な作業が実現できる。
【0040】
光ファイバ振動センシングと振動付与を用いた振動位置特定技術において、
図4に示すように、測定結果のSNR(signal-to-noise ratio:信号対雑音比)が低いため、振動位置を特定することは困難なことがあった。
図4の縦軸は距離(m)、横軸は時間(s)を示す。
【0041】
本実施形態では、マンホールの蓋に対して、打撃として、指定した周波数による所定の振動を加え、取得した散乱光強度分布の各位置における時間変化の信号に対して、包絡線のスペクトルを算出し、該スペクトルにおいて指定した周波数のピークを抽出するフィルタ処理を施すことで、打撃による振動を検出する。
【0042】
マンホールの蓋に既知の振動を付与し、マンホール蓋の下にある光ファイバ403を振動させ、光ファイバ403の振動を通信ビル内に設置された光ファイバ振動センシング装置402で検出することで、光計測上のマンホールの位置を特定する。
【0043】
図5には、マンホール1−nの蓋をたたいた時に生じる信号の波形も示す(i)。縦軸は振動の強度、横軸は時間を示す。
図5には、マンホール401−nの蓋をたたいた時の光ファイバ403の振動波形も示す(ii)。縦軸は振動の強度、横軸は時間を示す。蓋をたたいた時の振動のピークが現れている。
図5には、マンホール401−nの蓋をたたいていない時の光ファイバ403の振動波形も示す(iii)。縦軸は振動の強度、横軸は時間を示す。蓋をたたいた時の振動のピークが現れている。
【0044】
図6に、振動位置特定の装置である光ファイバ振動センシング装置402の構成図を示す。光ファイバ振動センシング装置402は、光ファイバ403の振動を計測する光ファイバ反射計測部501と、時間変化の信号に対するファイバの振動波形とスペクトル解析部504及びスペクトルピーク解析部505で得られたデータとを保存するデータ保存部502と、各位置における包絡線を算出する包絡線解析部503と、光ファイバの各位置における振動波形の包絡線に対してスペクトルを解析するスペクトル解析部504と、マンホールを叩いた周波数において、ピークが得られる位置がマンホールを叩いた位置と特定マンホールを叩いた周波数でピークを持つ位置を特定するスペクトルピーク解析部505と、を備えている。
【0045】
本実施形態では、光ファイバ振動センシング結果に対して、包絡線解析とスペクトル解析を用いることで、叩いたマンホールの位置を特定する。以下に本実施形態の処理手順を
図7を用いて示す。
図8は、包絡線解析とスペクトル解析の結果を示す。
【0046】
マンホール401−nのふたを特定の周波数で叩く(手順11)。信号処理で検出できるように既知の信号(対照信号)を与える。本実施形態では、マンホール401−nを叩く周波数を既知としている。
【0047】
光ファイバ振動センシングと振動付与を用いた振動位置特定技術において、
図4に示すように、測定結果のSNRが低いため、振動位置を特定することは困難なことがあった。そこで、振動位置特定技術において、振動位置の特定を容易にするために
図4の測定結果に信号処理を施す。
【0048】
光ファイバ振動センシングで光ファイバの各距離における振動波形(距離−時間領域の振動波形)を測定する(手順12)。手順11と同時に光ファイバ振動センシングで光ファイバ長手方向に沿った各位置における振動波形を測定する。測定された各距離における振動波形は、
図8(a)となる。なお、
図4は、
図8(a)の拡大図である。
【0049】
各位置における振動波形に対して包絡線を算出する(手順13)。手順12で得られた光ファイバの各位置における振動波形の包絡線を算出する。包絡線の算出の結果は、
図8(b)に示す。
図8(b)の縦軸は距離(m)、横軸は時間(s)を示す。距離が1817mの時の振動波形を
図8(c)に示す。振動が付与された位置の包絡線は、マンホール401−nの蓋を叩いた周波数と一致する繰り返し周波数を持つパルス列となる。一方、振動が付与されていない位置の包絡線は、平坦なものとなる。
【0050】
各位置の包絡線に対してスペクトル(距離−時間領域の振動波形)を解析する(手順14)。手順13で得られた光ファイバの各位置における振動波形の包絡線に対してスペクトルを
図6のスペクトル解析部504で解析する。マンホール401−nを叩いた位置のスペクトルは、マンホール401−nを叩いた周波数でピークを持つが、マンホールを叩いていない位置のスペクトルはピークを持たない。
【0051】
マンホール401−nを叩いた周波数において、ピークが得られる位置がマンホールを叩いた位置と特定マンホールを叩いた周波数でピークを持つ位置を特定する(手順15.)。この工程は、
図6のスペクトルピーク解析部505でフィルタ処理を行い、打撃による振動を検出する。
【0052】
本実施形態では、マンホールの蓋に対して、打撃として、指定した周波数による所定の振動を加え、取得した散乱光強度分布の各位置における時間変化の信号に対して、包絡線のスペクトルを算出し、該スペクトルにおいて指定した周波数のピークを抽出するフィルタ処理を施すことで、打撃による振動を検出することができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種種の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。