(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹部の底部に配置される第一のリード及び第二のリードを更に備え、少なくとも前記第一のリード及び前記第二のリードが、酸化物または窒化物を含む絶縁部材で覆われている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る発光装置及びその製造方法について、実施の形態及び実施例を用いて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、発光装置及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、発光装置及びその製造方法を以下のものに限定するものではない。
なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜410nmが紫色、410nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。
【0013】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに封止材料中の各成分の含有量は、封止材料中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、封止材料中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
<発光装置>
図1は、第一の実施形態に係る発光装置の概略構成を説明する図である。
図1を参照に本開示の第一の実施形態に係る発光装置1について説明する。
発光装置1は、凹部2を形成する側壁を有するパッケージ3と、凹部2の底面に配置された発光素子4と、発光素子4を被覆する封止部材9、10を備えており、封止部材9、10が、発光素子4を被覆し、フッ化物蛍光体粒子7及びフッ化物蛍光体粒子以外の蛍光体粒子(以下、「他の蛍光体粒子」ともいう)8を含む第一の部位9と、その第一の部位9上に配置され、フッ化物蛍光体粒子7及びフッ化物蛍光体粒子以外の蛍光体粒子8を実質的に含まない第二の部位10とを有しており、フッ化物蛍光体粒子7が、4価のマンガンイオンで付活された、下記一般式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体粒子の内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体粒子を含む。また、他の蛍光体粒子8は、上記フッ化物蛍光体粒子以外の蛍光体粒子である。
A
2[M
1−bMn
4+bF
6] (I)
式中、Aは少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、bは0<b<0.2を満たす。
【0015】
図1に示すように、発光装置1は、凹部2を形成する側壁を有するパッケージ3と、凹部2に配置された発光素子4と、発光素子4を被覆するフッ化物蛍光体粒子7、他の蛍光体粒子8を含む第一の部位9と、第一の部位9上に配置され、蛍光体粒子を実質的に含まない第二の部位10とを有する。
第一の部位9及び第二の部位10は、後述するように、少なくとも結着剤と蛍光体とを含む封止材料を硬化させて形成することができる。
【0016】
発光素子4は、パッケージ3の凹部2の底部に配置された第一のリード5に配置される。発光素子4は、発光素子4の正負極(図示略)と、パッケージ3に固定されている金属製の第一のリード5、第二のリード6とを、ワイヤ11、12で接続される。第一のリード5及び第二のリード6は、パッケージ3の凹部2の底面を構成する。
【0017】
図1に示すように、第一の部位9と第二の部位10は、封止部材としても機能する共通する結着剤を含み、第一の部位9と第二の部位10との界面が明確に区別されている形態に限定されない。
【0018】
[パッケージ]
凹部を形成する側壁を有するパッケージの材料については、特に限定されず、耐光性、耐熱性に優れた電気絶縁性のものが好適に用いられる。パッケージの材料としては、樹脂、セラミックス等を用いることができる。パッケージの材料の樹脂には、例えばポリフタルアミドなどの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ガラスエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0019】
[発光素子]
発光素子は、可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。例えば、青色、緑色の発光素子としては、窒化物系半導体(In
XAl
YGa
1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いたものを用いることができる。
発光素子は、光源(以下、「励起光源」ともいう)として、可視光の短波長領域である380nm〜485nmの波長範囲の光を発するものを使用することが好ましい。光源として好ましくは420nm〜485nmの波長範囲、より好ましくは440nm〜480nmの波長範囲に発光ピーク波長(極大発光波長)を有するものである。これにより、蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができる。また当該波長範囲の励起光源を用いることにより、発光強度が高い発光装置を提供することができる。
励起光源に半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0020】
[第一のリード及び第二のリード]
パッケージ3の凹部2の底部には、第一のリード5、第二のリード6が配置され、第一のリード5及び第二のリード6がパッケージ3の凹部2の底面を構成する。第一のリード5及び第二のリード6をそれぞれ導電部材ともいう。第一のリード5及び第二のリード6は、導電性を備える母材のみからなるものでもよく、母材と、反射膜を含むものであってもよい。第一のリード5及び第二のリード6は、導電性を有する反射膜のみからなるものであってもよい。第一のリード5及び第二のリード6は、母材と反射膜の間に他の部材が介在するものであってもよい。導電部材が、母材と反射膜を備えるものである場合には、反射膜は、発光素子4が載置される側に配置される。
【0021】
(第一のリード及び第二のリードの母材)
第一のリード及び第二のリードの母材が、導電性を備えるものである場合には、例えば銅又は銅合金が挙げられる。その他、第一のリード及び第二のリードの母材に好適な材料としては、セラミックス、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。第一のリード及び第二のリードは、パッケージ3の凹部2の底面を構成し、発光素子4等が載置可能な略板状部材である。
セラミックスは、アルミナ、窒化アルミニウム、ムライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。また、セラミックスの粉体と、樹脂とを混合して得られる材料をシート状に成型して得られるセラミックスグリーンシートを積層させて焼成させたものを用いることができる。
また、エポキシ樹脂を用いた母材としては、例えば、硝子クロス入りのエポキシ樹脂やエポキシ樹脂を半硬化させたプリプレグに銅板を貼り付けて熱硬化させたもの等を用いることができる。
【0022】
(第一のリード及び第二のリードの反射膜)
反射膜は、例えば、銀又はアルミニウムを含む材料を用いることができ、特に反射率の高い銀を含む材料を用いることが好ましい。反射膜には、銅、アルミニウム、金、白銀、タングステン、鉄、ニッケル等の金属、鉄−ニッケル合金、リン青銅、鉄入り銅等を含む材料を用いることができる。
【0023】
[絶縁部材]
発光素子4、第一のリード5、第二のリード6、及びワイヤ11、12は、絶縁部材(図示略)で覆われていることが好ましい。絶縁部材は、発光素子4、第一のリード5、第二のリード6、及びワイヤ11、12の上に連続するように設けられていることが好ましい。ここで、「連続するように設けられる」とは、発光素子4、第一のリード5、第二のリード6、及びワイヤ11、12からなる対象物に対して、層状(膜状)に設けられる状態、或いは、粉末状若しくは針状の絶縁部材が部分的に空隙を有しつつも、発光素子4、第一のリード5、第二のリード6、及びワイヤ11、12に略全体に設けられている状態を含む。絶縁部材によって、発光素子4、第一のリード5、第二のリード6、及びワイヤ11、12を構成する金属、特に第一のリード5及び第二のリード6を構成する銀に対して変質作用を有するガス、水分、蛍光体に含まれるフッ素(F)等を遮断することができる。蛍光体に含まれるフッ素が導電部材等に含まれる銀と反応するとフッ化銀を形成するため、黒色のフッ化銀が発光素子から発生した光を吸収して光出力が低下する場合がある。絶縁部材によって、第一のリード5及び第二のリード6等に含まれる銀の劣化を効率よく抑制することができ、光の出力効率を高めることができる。また、絶縁部材が、パッシベーション膜のように機能し、硫黄(S)や酸素(O)等のガス、水分、蛍光体に含まれるフッ素(F)等を遮断して、第一のリード5及び第二のリード6等に含まれる銀のマイグレーションを抑制することができる。
【0024】
(絶縁部材)
絶縁部材の材料は、透光性のものであることが好ましく、無機化合物を用いることが好ましい。絶縁部材の材料は、具体的には、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2、ZnO
2、Nb
2O
3、MgO、SrO、In
2O
3、TaO
2、HfO、SeO、Y
2O
3等の酸化物や、SiN、AlN、AlON等の窒化物、MgF
2等のフッ化物が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。あるいは、1種又は2種以上の材料を含む絶縁部材を、2層以上積層してもよい。
【0025】
絶縁部材の厚さは、導電部材、絶縁部材、第一の部位9、及び第二の部位10等の各界面での多重反射によって光の損失が起きない程度の厚さであることが好ましい。一方、絶縁部材は、導電部材と、ガス、水分、蛍光体に含まれるフッ素(F)とを反応させないように、ガス、水分、蛍光体に含まれフッ素(F)等を遮断する程度の厚さが必要である。絶縁部材の厚さは、発光装置を構成する各部材の材料等によって多少変化する。絶縁部材の厚さは、好ましくは約1nm〜100nm程度である。絶縁部材の厚さは、より好ましくは1nm〜50nm、さらに好ましくは2nm〜25nm、特に好ましくは3nm〜10nmである。
【0026】
絶縁部材は、スパッタや蒸着によって、導電部材、ワイヤ11、12及び発光素子4上に無機化合物からなる膜(層)を形成することが好ましい。また、絶縁部材は、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)により膜(層)を形成することがより好ましい。原子層堆積法は、反応成分の層を1原子層ごとに形成する方法である。原子層堆積法によって、絶縁部材(膜)を形成すると、従来のスパッタや蒸着による方法と異なり、障害物が存在する場合であっても、反応成分が対象に均一に供給され、均一な膜厚及び均一な膜質の良質な保護膜を形成することができる。原子層堆積法によって形成された絶縁部材(膜)は、膜厚が薄く、光の吸収が抑制できるので、初期特性において光出力の高い発光装置を提供することができる。
【0027】
次に、原子層堆積法によって、酸化アルミニウム(Al
2O
3)の絶縁部材(膜)を形成する一例を説明する。
まず、対象物である導電部材、ワイヤ11、12及び発光素子4の表面に、トリメチルアルミニウム(以下、「TMA」ともいう)ガスが導入され、導電部材、ワイヤ11、12及び発光素子4に存在するOH基とTMAガスとを反応させる(第一反応)。次に、余剰ガスを排気する。次に、対象物にH
2Oガスが導入され、第一反応でOH基と反応したTMAとH
2Oとを反応させる(第二反応)。次に、余剰ガスを排気する。その後、第一反応、排気、第二反応、排気を1つのサイクルとして、このサイクルを複数回繰り返すことによって、所望の厚さの酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜が、導電部材、ワイヤ11、12及び発光素子4の表面に形成される。
【0028】
[第一の部位及び第二の部位]
第一の部位9と第二の部位10は、発光素子4を封止する封止部材を構成する。第一の部位9及び第二の部位10は、少なくとも結着剤と、蛍光体とを含む封止材料を用いて形成される。第一の部位9及び第二の部位10は、発光素子4が配置されたパッケージ3の凹部2に、封止材料を注入した後、フッ化物蛍光体粒子7及び他の蛍光体粒子8を発光素子4側に遠心沈降させた後、結着剤を硬化させて、発光素子4を被覆しフッ化物蛍光体粒子7及び他の蛍光体粒子8を含む第一の部位9と、その第一の部位9上に配置され、フッ化物蛍光体粒子7及び他の蛍光体粒子8を実質的に含まない第二の部位10を形成する。
【0029】
第一の部位9は、一般式(I)で表される化学組成を有し、蛍光体粒子の内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体粒子を含む。フッ化物蛍光体粒子を含む蛍光体は、少なくとも結着剤及び蛍光体を含む封止材料中で、十分に分散し、遠心沈降によって、蛍光体が密に詰まり過ぎることなく、蛍光体が発光素子上に堆積し、封止材料が層分離して、硬化する前の第一の部位9及び第二の部位10が形成される。
【0030】
第一の部位9と第二の部位10は、共通する結着剤を含んで構成されるため、発光素子からの発光出力の低下を抑制することができ、発光装置の色度ずれをも抑制できる。また、発光素子4は、フッ化物蛍光体粒子7及び他の蛍光体粒子8に覆われているため、発光素子から発光した光を蛍光体で効率よく波長変換することができ、発光を効率よく放出することができる。
【0031】
従来のMn
4+で付活されたフッ化物蛍光体は、その粒子表面において、フッ化物蛍光体を構成する4価のマンガンイオンが空気中の水分と反応して二酸化マンガンが生成され、粒子表面が黒く着色された結果、色度ずれが生じたり、発光出力が低下したりする場合がある。
本形態の発光装置は、第二の部位10によって形成された発光面とパッケージ3の界面等から侵入する空気中の水分が、第二の部位10によって阻まれる。第二の部位10によって阻まれるため、空気中の水分は、第一の部位9に含まれるフッ化物蛍光体粒子7及び他の蛍光体粒子8まで到達しにくく、第一の部位9に含まれるMn
4+で付活されたフッ化物蛍光体に含まれる4価のマンガンイオンと水分との反応を抑制することができ、二酸化マンガンの生成によって、粒子表面が黒く着色することを抑制することができる。そのため、本形態の発光装置は、発光出力の低下と色度ずれを抑制することができ、長期の信頼性試験において十分な耐久性を達成することができる。
また、本形態の発光装置は、第二の部位10によって、空気中の水分が第一の部位9に含まれるフッ化物蛍光体まで到達するのを抑制することができ、フッ化物蛍光体の劣化を抑制することができる。フッ化物蛍光体が劣化すると、フッ化物蛍光体中に含まれるMn
4+やF
-が溶出し、第一の部位9及び第二の部位10を構成する結着剤が劣化する場合があるが、フッ化物蛍光体の劣化を抑制することができるため、第一の部位9及び第二の部位10の劣化も抑制することができる。
【0032】
第二の部位の厚みは、発光素子の直上において、封止部材全体の厚みの10分の1以上であることが好ましい。発光素子の直上において、第二の部位の厚みが、封止部材全体の厚みの10分の1以上であることによって、蛍光体によって変換された光を効率よく発光装置の外部に放出することができる。
【0033】
第二の部位の厚みは、発光素子の直上において、封止部材全体の厚みの4分の1以上であることが好ましい。発光素子の直上において、第二の部位の厚みが、封止部材全体の厚みの4分の1以上であることによって、空気中の水分が、第二の部位10によって阻まれて、第一の部位に含まれる蛍光体まで到達しにくく、第一の部位に含まれるMn
4+で付活されたフッ化物蛍光体に含まれる4価のマンガンイオンと水分との反応を抑制することができ、二酸化マンガンの生成によって、粒子表面が黒く着色することを効率よく抑制することができる。
【0034】
[封止材料]
第一の部位及び第二の部位を含む封止部材は、硬化によって封止部材を構成する、少なくとも結着剤と、蛍光体とを含む封止材料によって形成される。硬化によって封止部材を構成する封止材料は、体積平均粒径が1μm〜20μmのフィラーをさらに含んでいてもよい。また、封止材料は、一次粒子の平均粒径が5nm〜20nmであるナノフィラーを含んでいてもよい。
【0035】
(結着剤)
封止部材を形成する封止材料に含まれる結着剤としては、発光素子からの光を透過可能な透光性のものであることが好ましい。結着剤には、例えば、ガラス、樹脂等を挙げることができる。結着剤は、樹脂であることが好ましい。樹脂の具体的な例としては、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。樹脂は、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。また、樹脂は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、フッ素樹脂及びこれらの組合せの樹脂であってもよい。中でも、樹脂としては、変性シリコーン樹脂を用いることが好ましく、ポリシロキサンの側鎖の一部にフェニル基を導入したフェニルシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
封止材料中の結着剤が樹脂である場合には、封止材料中の樹脂含有量は、封止材料100質量%に対して、好ましくは5〜95質量%である。封止材料中の樹脂含有量は、封止材料100質量%に対して、より好ましくは35〜85質量%、さらに好ましくは40〜80質量%、特に好ましくは45〜75質量%である。封止材料中の結着剤が樹脂である場合には、樹脂含有量が、封止材料100質量%に対して、5〜95質量%であると、凹部に配置された発光素子等の部材を封止材料が硬化することによって形成された封止部材で安定に保護することができる。また、封止材料中の樹脂の含有量が上記範囲内であると、発光素子を被覆するのに十分な量の蛍光体を第一の部位に含むことができる。
【0037】
(フッ化物蛍光体)
蛍光体は、4価のマンガンイオンで付活された、下記一般式(I)で示される化学組成を有し、内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体粒子を含む。
A
2[M
1−bMn
4+bF
6] (I)
式中、Aは少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンであり、Mは第4族元素及び第14族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、bは0<b<0.2を満たす。
【0038】
一般式(I)で示される化学組成を有し、内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体粒子は、発光スペクトルの半値幅が狭い赤色発光の蛍光体であり、耐湿性に優れ、これを含む本形態の発光装置は、長期の信頼性試験において充分な耐久性を示すことができる。これは例えば、以下のように考えることができる。
一般に、一般式(I)で表されるフッ化物蛍光体においては、その粒子の表面領域において、フッ化物を構成する4価のマンガンイオンが水と反応することで二酸化マンガンが生成して、粒子表面が黒く着色される結果、発光出力が低下したり、色度ずれが生じたりすると考えられている。このため、長期の信頼性試験において充分な耐久性を達成することができず、信頼性を重視する用途に適用することが難しいという課題があった。
しかし、本形態に用いるフッ化物蛍光体は、その粒子の表面領域における4価のマンガンイオンの濃度が、内部領域における濃度よりも低く抑えられている。そのため粒子表面における二酸化マンガンの生成が抑制されて、長期間に渡って発光出力の低下と色度ずれが抑制されると考えられる。これにより優れた長期信頼性を達成することができると考えられる。
【0039】
一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物蛍光体の粒径及び粒度分布は特に制限されないが、発光強度と耐久性の観点から、単一ピークの粒度分布を示すことが好ましく、分布幅の狭い単一ピークの粒度分布であることがより好ましい。また、フッ化物蛍光体の表面積や嵩密度は特に制限されない。
【0040】
フッ化物蛍光体は、Mn
4+で付活された蛍光体であり、可視光の短波長領域の光を吸収して赤色に発光可能である。可視光の短波長領域の光である励起光は、主に青色領域の光であることが好ましい。励起光は、具体的には、強度スペクトルの主ピーク波長が380nm〜500nmの範囲に存在することが好ましく、380nm〜485nmの範囲に存在することがより好ましく、400nm〜485nmの範囲に存在することがさらに好ましく、440nm〜480nmの範囲に存在することが特に好ましい。
【0041】
またフッ化物蛍光体の発光波長は、励起光よりも長波長であって、赤色であれば特に制限されない。フッ化物蛍光体の発光スペクトルは、ピーク波長が610nm〜650nmの範囲に存在することが好ましい。また発光スペクトルの半値幅は、小さいことが好ましく、具体的には10nm以下であることが好ましい。
【0042】
一般式(I)におけるAは、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンである。Aにおけるカリウムイオンの含有率は特に制限されず、例えば、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。
【0043】
一般式(I)におけるMは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Mは、発光特性の観点から、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)であることがさらに好ましい。
Mがケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含む場合、Si及びGeの少なくとも一方の一部が、Ti、Zr及びHfを含む第4族元素、並びにC及びSnを含む第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。その場合、MにおけるSi及びGeの総含有率は特に制限されず、例えば、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。
【0044】
フッ化物蛍光体粒子は、以下に詳述する第一の工程で形成される内部領域と、内部領域よりも4価のマンガンイオンの濃度が低く、第二の工程及び第三の工程、又は第二’の工程で形成される表面領域とを有する。
【0045】
フッ化物蛍光体粒子の表面領域は、4価のマンガンイオンの濃度が内部領域よりも低濃度となっている。この表面領域は、二層構造のような明確な界面で内部領域と区画されていてもよく、また、明確な界面で内部領域と区画されておらず、表面領域の内側から外側に向けて徐々に4価のマンガンイオンの濃度が低下するような態様であってもよい。
後述する製造方法で得られるフッ化物蛍光体粒子は、粒子全体が4価のマンガンイオンで付活された従来のフッ化物蛍光体を用いた発光装置よりも、画像表示装置の色再現範囲が広いという特性を維持しつつも、フッ化物蛍光体粒子の表面が湿度で溶出した場合であっても、表面領域に4価のマンガンイオンが存在しない、または少ないことから、4価のマンガンイオンに由来する二酸化マンガンの生成が抑制される。これによりフッ化物蛍光体粒子表面の黒色化が抑えられ、発光強度の低下を抑制できる。
【0046】
フッ化物蛍光体粒子の表面領域に存在する4価のマンガンイオンの濃度の平均値は、内部領域の4価のマンガンイオンの濃度の平均値に対して30質量%以下とすることが好ましい。さらに表面領域に存在する4価のマンガンイオンの濃度は、より好ましくは内部領域の4価のマンガンイオンの濃度の25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。その一方で、表面領域の4価のマンガンイオンの濃度を内部領域の0.5質量%以上とすることもできる。上述の通り、4価のマンガンイオンの濃度をゼロに近付けることによって、耐湿性が向上するが、表面領域における4価のマンガンイオンの濃度が少なくなるに従って、フッ化物蛍光体粒子の表面領域において発光に寄与しない領域の割合が増加することとなって、発光強度が低下してしまう傾向があるためである。
【0047】
また表面領域の厚さは、フッ化物蛍光体の粒径にもよるが、平均粒径に対して1/10〜1/50程度とすることが好ましい。例えば、フッ化物蛍光体の全体としての平均粒径が20μm〜40μmの場合、表面領域の厚さは2μm以下とする。
【0048】
フッ化物蛍光体は、フッ化物蛍光体の質量の1〜5倍量の純水中に投入した際の4価のマンガンイオンの溶出量が、25℃において、例えば0.05ppm〜3ppmの範囲となるように調製される。上記条件における4価のマンガンイオンの溶出量は、好ましくは0.1〜2.5ppmの範囲であり、さらに好ましくは0.2〜2.0ppmの範囲である。これは4価のマンガンイオンの溶出量が少なくなるほど耐湿性は向上するが、4価のマンガンイオンが少ない表面領域の割合が大きくなるに従って、上述の通り発光強度が低下する傾向があるためである。なお、マンガンイオンの溶出量は、フッ化物蛍光体の質量の1〜5倍量(好ましくは3倍量)の純水にフッ化物蛍光体を投入し、25℃で1時間攪拌した後に、還元剤を加えて液中にマンガンイオンを溶出させた上澄みを採取し、ICP発光分析による定量分析で測定することができる。
【0049】
フッ化物蛍光体を上記のような構成とすることで、フッ化物蛍光体が水に接した際の4価のマンガンイオンに起因する二酸化マンガンの生成による着色を伴った発光出力の低下と色度ずれを抑制することができるため、耐湿性の高いフッ化物蛍光体が実現できる。
【0050】
フッ化物蛍光体の耐湿性は、プレッシャークッカーテスト(PCT)の変色によって確認することができる。その他に、耐湿性は、例えば、耐水試験後の発光輝度の維持率、すなわち、耐水試験前の発光輝度に対する耐水試験後の発光輝度の比率(%)で評価することができる。耐水試験後の発光輝度の維持率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
ここで、耐水試験は、具体的にはフッ化物蛍光体を、その質量の1〜5倍(好ましくは3倍)量の水に投入し、25℃で1時間撹拌を行って実施する。
【0051】
(フッ化物蛍光体の製造方法)
本形態のフッ化物蛍光体は、一般式(I)で示される化学組成を有し、内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体であり、その製造方法は、内部領域(以下、「コア部」ともいう)を形成する第一の工程と、表面領域を形成する第二の工程及び第三の工程を含む。
【0052】
(第一の工程)
フッ化物蛍光体の製造方法は、一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物蛍光体を準備する工程を含む。この準備する工程は、一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物蛍光体の製造工程を含むことができる。
一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物蛍光体は、フッ化水素を含む液媒体中で、4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンと、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含む第二の錯イオンとを接触させることで製造することができる。
【0053】
一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物蛍光体は、例えば、4価のマンガンを含む第一の錯イオン、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオン、並びにフッ化水素を少なくとも含む溶液aと、少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオン及びフッ化水素を少なくとも含む溶液bとを混合する工程を含む製造方法(以下、「第一のフッ化物蛍光体製造工程」ともいう)で製造することができる。
【0054】
溶液a
溶液aは、4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンとを含む第二の錯イオンとを含むフッ化水素酸溶液である。
【0055】
4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンを形成するマンガン源は、マンガンを含む化合物であれば特に制限はされない。溶液aを構成可能なマンガン源として、具体的には、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を挙げることができる。中でも、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、K
2MnF
6が好ましい。なお、マンガン源のうち、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンを含むものは、溶液bに含まれるカチオン源を兼ねることができる。第一の錯イオンを形成するマンガン源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
溶液aにおける第一の錯イオンの濃度は特に制限されない。溶液aにおける第一の錯イオン濃度の下限値は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、溶液aにおける第一の錯イオン濃度の上限値は、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0057】
第二の錯イオンは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、フッ化ケイ素錯イオンであることがさらに好ましい。
例えば、第二の錯イオンがケイ素(Si)を含む場合、第二の錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第二の錯イオン源として具体的には、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。第二の錯イオン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0058】
溶液aにおける第二の錯イオン濃度の下限値は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、溶液aにおける第二の錯イオン濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0059】
溶液aにおけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、溶液aにおけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0060】
溶液b
溶液bは、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンとフッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。溶液bは、例えば、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンを含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。
溶液bを構成可能なカリウムイオン源として、具体的には、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等の水溶性カリウム塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHF
2が好ましい。
溶液bを構成可能なナトリウムイオン源として、NaF、NaHF
2、NaOH、NaCl、NaBr、NaI、酢酸ナトリウム、Na
2CO
3等水溶性のナトリウム塩を挙げることができる。
溶液bを構成可能なルビジウムイオン源として、具体的には、RbF、酢酸ルビジウム、Rb
2CO
3等の水溶性ルビジウム塩を挙げることができる。
溶液bを構成可能なセシウムイオン源として、具体的には、CsF、酢酸セシウム、Cs
2CO
3等の水溶性セシウム塩を挙げることができる。
溶液bを構成可能なアンモニウムイオン源として、NH
4F、アンモニア水、NH
4Cl、NH
4Br、NH
4I、酢酸アンモニウム、(NH
4)
2CO
3等水溶性のアンモニウム塩を挙げることができる。溶液bを構成するイオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
溶液bにおけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、溶液bにおけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
また、溶液bにおけるカチオン濃度の下限値は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、溶液bにおける少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオン濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0062】
溶液a及び溶液bの混合方法としては特に制限はなく、溶液bを撹拌しながら溶液aを添加して混合してもよく、溶液aを撹拌しながら溶液bを添加して混合してもよい。また、溶液a及び溶液bをそれぞれ容器に投入して撹拌混合してもよい。
溶液a及び溶液bを混合することにより、所定の割合で第一の錯イオンと、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンと、第二の錯イオンとが反応して目的のフッ化物蛍光体の結晶が析出する。析出した結晶は濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。さらに乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物蛍光体に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
なお、溶液a及び溶液bの混合に際しては、溶液a及び溶液bの仕込み組成と得られるフッ化物蛍光体の組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物蛍光体の組成が目的の組成となるように、溶液a及び溶液bの混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0063】
また、一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物蛍光体の製造工程は、4価のマンガンを含む第一の錯イオン及びフッ化水素を少なくとも含む第一の溶液と、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオン及びフッ化水素を少なくとも含む第二の溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオンを少なくとも含む第三の溶液とを混合する工程を含む製造方法(以下、「第二のフッ化物蛍光体製造工程」ともいう)で製造することもできる。
第一の溶液と、第二の溶液と、第三の溶液とを混合することで、所望の組成を有し、所望の重量メジアン径を有するフッ化物蛍光体を、優れた生産性で簡便に製造することができる。
【0064】
第一の溶液
第一の溶液は、4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンと、フッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第一の溶液は、例えば、4価のマンガン源を含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。マンガン源は、マンガンを含む化合物であれば特に制限はされない。第一の溶液を構成可能なマンガン源として、具体的には、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を挙げることができる。中でも、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、K
2MnF
6が好ましい。なお、マンガン源のうち、少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンを含むものは、第二の溶液に含まれる少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオン源を兼ねることができる。第一の溶液を構成するマンガン源は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0065】
第一の溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、第一の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。フッ化水素濃度が30質量%以上であると、第一の溶液を構成するマンガン源(例えば、K
2MnF
6)の加水分解に対する安定性が向上し、第一の溶液における4価のマンガン濃度の変動が抑制される。これにより得られるフッ化物蛍光体に含まれるマンガン付活量を容易に制御することができ、フッ化物蛍光体における発光効率のバラつき(変動)を抑制することができる傾向がある。またフッ化水素濃度が70質量%以下であると、第一の溶液の沸点の低下が抑制され、フッ化水素ガスの発生を抑制することができる傾向がある。これにより、第一の溶液におけるフッ化水素濃度を容易に制御することができ、得られるフッ化物蛍光体の粒子径のバラつき(変動)を効果的に抑制することができる。
【0066】
第一の溶液における第一の錯イオンの濃度は特に制限されない。第一の溶液における第一の錯イオン濃度の下限値は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、第一の溶液における第一の錯イオン濃度の上限値は、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0067】
第二の溶液
第二の溶液は、少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンとフッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第二の溶液は、例えば、少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンを含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。第二の溶液を構成可能なイオンを含むイオン源として、具体的には、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等のカリウムを含む塩に加えて、NaF、NaHF
2、NaOH、NaCl、NaBr、NaI、酢酸ナトリウム、Na
2CO
3、RbF、酢酸ルビジウム、Rb
2CO
3、CsF、酢酸セシウム、Cs
2CO
3、NH
4F、アンモニア水、NH
4Cl、NH
4Br、NH
4I、酢酸アンモニウム、(NH
4)
2CO
3等の水溶性の塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、少なくともKHF
2を用いることが好ましく、カリウム以外のイオン源としてはNaHF
2が好ましい。第二の溶液を構成するイオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0068】
第二の溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、第二の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
また、第二の溶液における少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンのイオン濃度の下限値は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、第二の溶液における少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンのイオン濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0069】
第三の溶液
第三の溶液は、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種と、フッ素イオンとを含む第二の錯イオンを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第三の溶液は、例えば、以下の第二の錯イオンを含む水溶液として得られる。
第二の錯イオンは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、フッ化ケイ素錯イオンであることがさらに好ましい。
【0070】
例えば、第二の錯イオンがケイ素(Si)を含む場合、第二の錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第二の錯イオン源として具体的には、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。第三の溶液を構成する第二の錯イオン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0071】
第三の溶液における第二の錯イオン濃度の下限値は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、第三の溶液における第二の錯イオン濃度の上限値は、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0072】
第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液の混合方法としては特に制限はなく、第一の溶液を撹拌しながら第二の溶液及び第三の溶液を添加して混合してもよく、第三の溶液を撹拌しながら第一溶液及び第二の溶液を添加して混合してもよい。また、第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液をそれぞれ容器に投入して撹拌混合してもよい。
【0073】
第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液を混合することにより、所定の割合で第一の錯イオンと、少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでもよいカチオンと、第二の錯イオンとが反応して目的の一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物の結晶が析出する。析出した結晶は濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。さらに乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物の結晶に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
【0074】
なお、第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液の混合に際しては、第一〜第三の溶液の仕込み組成と得られるフッ化物の組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物蛍光体の組成が目的の組成となるように、第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0075】
(第二の工程)
第二の工程では、第一の工程で得られたフッ化物の結晶を含む分散物に還元剤を添加する。還元剤を添加することで、分散物に含まれる第一の錯イオンに含まれる4価のマンガンイオンの少なくとも一部が2価のマンガンイオンに還元されることが好ましい。第二の工程では第一の錯イオンに含まれる4価のマンガンイオンの90モル%以上が還元されることが好ましく、95モル%以上が還元されることがより好ましい。
【0076】
還元剤は、第一の錯イオンを還元可能であれば特に制限はない。還元剤として具体的には、過酸化水素、シュウ酸等を挙げることができる。
これらの中でも、フッ化物の結晶を溶解する等のフッ化物の結晶に対する影響が少なく第一の錯イオンを還元することができ、最終的に水と酸素に分解することから、製造工程上利用しやすく、環境負荷が少ない点から、過酸化水素が好ましい。
【0077】
還元剤の添加量は特に制限されない。還元剤の添加量は、例えば、分散物に含まれる第一の錯イオンの含有量等に応じて適宜選択することができるが、分散物中のフッ化水素濃度の変動が少ない添加量であることが好ましい。還元剤の添加量は具体的には、分散物中のフッ化物の結晶以外に含まれる第一の錯イオンの含有量に対して3当量%以上とすることが好ましく、5当量%以上であることがより好ましい。
ここで、1当量とは、1モルの第一の錯イオンに含まれる4価のマンガンイオンを2価のマンガンイオンに還元するのに要する還元剤のモル数を意味する。
【0078】
第二の工程は、前記分散物に還元剤を添加した後に混合することを含んでいてもよい。分散物と還元剤とを混合する混合手段は反応容器等に応じて、通常用いられる混合手段から適宜選択することができる。
第二の工程における温度は特に制限されない。例えば15〜40℃の温度範囲で還元剤の添加を行うことができ、23〜28℃の温度範囲であることが好ましい。
また第二の工程における雰囲気も特に制限されない。通常の大気中で還元剤を添加してもよく、また窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
また、第二の工程における反応時間は、特に制限されない。例えば1〜30分、より好ましくは3〜15分である。
【0079】
(第三の工程)
第三の工程では、還元剤が添加された分散物中のフッ化物の結晶に、フッ化水素の存在下で、第二の錯イオン及び少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンを接触させてフッ化物蛍光体を得る。フッ化水素の存在下で、フッ化物の結晶と第二の錯イオン及び少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンとを接触させることで、例えば、フッ化物の結晶の表面上に、第二の錯イオンに含まれる第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素と少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンとを含むフッ化物の結晶が析出して、所望のフッ化物蛍光体が得られる。
【0080】
第三の工程は、第二の工程の後に独立して行ってもよく、第二の工程の開始後であってその終了前に第三の工程を開始して、第二の工程と第三の工程を一部並行して行ってもよい。
【0081】
第三の工程で得られるフッ化物蛍光体粒子は、一般式(I)で表されるフッ化物粒子と第二の錯イオン及び少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンとが接触して形成されることから、内部領域の4価マンガンイオン濃度よりも、4価マンガンイオン濃度が低い表面領域を有し、表面領域は下記一般式(II)で表される組成を有することが好ましい。式中、Aは、少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、aは0<a<bを満たす。
A
2[M
1−aMn
4+aF
6] (II)
【0082】
a及びbは、0<a<bを満たす限り特に制限されない。aの値は、目的とする発光特性及び耐湿性等に応じて適宜選択することができる。また、aの値は、例えば、第三の工程における第二の錯イオン及び少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンのフッ化物の結晶に対する接触量を調整することで制御することができる。
【0083】
第三の工程において、還元剤が添加された分散物中のフッ化物の結晶と、第二の錯イオン及び少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンとを接触させる方法は特に制限されない。例えば、還元剤が添加された分散物と、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンを含む溶液及び第二の錯イオンを含む溶液の少なくとも一方とを混合する方法であることが好ましく、還元剤が添加された分散物と、前記第二の溶液及び第三の溶液の少なくとも一方とを混合する方法であることがより好ましく、還元剤が添加された分散物と、前記第二の溶液と、第三の溶液とを混合する方法であることがさらに好ましい。ここで第二の溶液及び第三の溶液の好ましい態様は既述の通りである。
なお、分散物と、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンを含む溶液及び第二の錯イオンを含む溶液の一方とを混合する場合、そのカチオン及び第二の錯イオンのうち混合する溶液に含まれない他方のイオンは、分散物中に第三の工程に必要な含有量で含まれていればよい。
第三の工程における第二の溶液及び第三の溶液は、第一の工程における第二の溶液及び第三の溶液と同じ組成であっても異なる組成であってもよい。
【0084】
第三の工程が、還元剤が添加された分散物と、少なくともカリウム(K
+)を含み、リチウム(Li
+)、ナトリウム(Na
+)、ルビジウム(Rb
+)、セシウム(Cs
+)及びアンモニウム(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンを含む溶液及び第二の錯イオンを含む溶液の少なくとも一方とを混合することを含む場合、混合手段は反応容器等に応じて、通常用いられる混合手段から適宜選択することができる。
第三の工程における温度は特に制限されない。例えば15〜40℃の温度範囲で行うことができ、23〜28℃の温度範囲であることが好ましい。
また第三の工程における雰囲気も特に制限されない。通常の大気中で行ってもよく、また窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
また、第三の工程における反応させる時間は、特に制限されない。例えば1〜60分、より好ましくは5〜30分である。
【0085】
第三の工程が、還元剤が添加された分散物と、少なくともカリウムイオン(K
+)を含み、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンを含む溶液及び第二の錯イオンを含む溶液の少なくとも一方とを混合することを含む場合、還元剤が添加された分散物中のフッ化物粒子に対する第二の錯イオンを含む溶液及び上記カチオンを含む溶液の添加量は、目的とするフッ化物蛍光体の発光特性及び耐湿性等に応じて適宜選択することができる。例えば、フッ化物粒子に対する第二の錯イオンの添加量を、1モル%〜40モル%とすることができ、5モル%〜30モル%とすることが好ましい。
【0086】
一般式(I)で示される化学組成を有し、内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体粒子は、コア部を形成する第一の工程の後に、前記第二の工程及び第三の工程とは異なる、第二’の工程を含む方法によって、表面領域を形成してもよい。
【0087】
(第二’の工程)
第二’の工程では、第一の工程で得られたフッ化物の結晶をアルカリ土類金属イオン及び還元剤を含む水溶液に投入する。フッ化物の結晶は、アルカリ土類金属イオンを含む水溶液に投入すると、フッ化物の結晶の溶解反応が起こり、フッ化物の結晶を構成する金属のイオン及びフッ素イオンが生成する。ここで、フッ素イオンは、アルカリ土類金属イオンと反応して、フッ化物の結晶の表面にアルカリ土類金属フッ化物が生成し、内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を形成することができる。
フッ化物蛍光体粒子の表面領域に含まれるアルカリ土類金属フッ化物は、フッ化物蛍光体のさらなる溶解反応を抑制することができる。また、4価のマンガンイオンは、還元剤の存在により、2価のマンガンイオンに還元されることから、二酸化マンガンの生成が抑制される。
第二’の工程を経て得られたフッ化物蛍光体は、その表面領域にアルカリ土類金属フッ化物が含まれており、かつ還元剤の存在により、表面における二酸化マンガンの生成が抑制されているため、発光強度が高く、長期間に渡って発光出力の低下と色度ずれが抑制されると考えられる。これにより優れた長期信頼性を達成することができると考えられる。
【0088】
アルカリ土類金属イオンを含む溶液は、アルカリ土類金属イオン、対イオン及び水を少なくとも含む。アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン(Mg
2+)、カルシウムイオン(Ca
2+)、及びストロンチウムイオン(Sr
2+)が挙げられる。
中でも、色度ずれや発光出力の低下の抑制及び耐湿性の観点から、アルカリ土類金属イオンが、カルシウムイオンを含むのが好ましい。
【0089】
アルカリ土類金属イオンを含む溶液は、アルカリ土類金属を含む化合物の水溶液として得られ、必要に応じてその他成分(例えば、メタノール及びエタノール等のアルコール)を含んでいてもよい。アルカリ土類金属を含む化合物として、例えば、アルカリ土類金属の硝酸塩(例えば、Mg(NO
3)
2、Ca(NO
3)
2、Sr(NO
3)
2)、酢酸塩(例えば、Mg(CH
3CO
2)
2、Ca(CH
3CO
2)
2、Sr(CH
3CO
2)
2)、塩化物(例えば、MgCl
2、CaCl
2、SrCl
2)、ヨウ化物(例えば、MgI
2、CaI
2、SrI
2)、及び臭化物(例えば、MgBr
2、CaBr
2、SrBr
2)が挙げられる。
アルカリ土類金属を含む化合物は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0090】
アルカリ土類金属イオンを含む溶液におけるアルカリ土類金属イオンの濃度は特に限定されない。アルカリ土類金属イオンを含む溶液におけるアルカリ土類金属イオンの濃度の下限値は、例えば、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、アルカリ土類金属イオンを含む溶液におけるアルカリ土類金属イオンの濃度の上限値は、例えば5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0091】
フッ化物の結晶100質量部に対して、アルカリ土類金属イオンを含む溶液は、100〜3000質量部であるのが好ましく、200〜2000質量部であるのがより好ましい。このようなアルカリ土類金属イオンを含む溶液の量であれは、耐湿性がさらに向上する。
【0092】
還元剤の存在により、フッ化物の結晶及びアルカリ土類金属イオンを含む溶液との反応により生じる4価のマンガンイオンの少なくとも一部が2価のマンガンイオンに還元される。具体的には、還元剤の添加により、フッ化物の結晶及びアルカリ土類金属イオンを含む溶液との反応により生じる4価のマンガンイオンの90モル%以上が還元されることが好ましく、95モル%以上が還元されることがより好ましい。
【0093】
還元剤は、4価マンガンイオンを還元可能であれば、特に限定されない。還元剤として具体的には、過酸化水素、シュウ酸等が挙げられる。これらのうち、過酸化水素は、フッ化物の結晶を溶解させる等、フッ化物の結晶の母体に悪影響を及ぼすことなくマンガンを還元でき、また、最終的に無害な水と酸素に分解するため、製造工程上利用しやすく、環境負荷が少ない点で好ましい。
【0094】
還元剤の添加量は、特に制限されない。還元剤の添加量は、例えば、フッ化物の結晶に含まれるマンガンの含有量に応じて適宜選択することができるが、フッ化物の結晶の母体に悪影響を及ぼすことがない添加量であることが好ましい。還元剤の添加量は具体的には、フッ化物の結晶に含まれるマンガンの含有量に対して、1当量%以上とすることが好ましく、3当量%以上であることがより好ましい。
【0095】
ここで、1当量とは、1モルの4価のマンガンイオンを2価のマンガンイオンに還元するのに要する還元剤のモル数を意味する。
【0096】
また、アルカリ土類金属イオンを含む溶液に対して、還元剤の濃度の下限値は、例えば、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、アルカリ土類金属イオンを含む溶液に対して、還元剤の濃度の上限値は、例えば5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0097】
接触方法
還元剤の存在下で、フッ化物粒子とアルカリ土類金属イオンを含む溶液とを接触させる方法は特に制限されない。例えば、還元剤、フッ化物粒子及びアルカリ土類金属イオンを含む溶液を混合する方法等を挙げることができる。
【0098】
接触時間
また、還元剤の存在下で、フッ化物の結晶とアルカリ土類金属イオンを含む溶液との接触時間は、フッ化物の結晶の表面にアルカリ土類金属フッ化物が形成される時間であれば特に限定されない。例えば10分〜10時間とすることができ、30分〜5時間であることが好ましい。
【0099】
反応温度
還元剤、フッ化物の結晶及びアルカリ土類金属イオンを含む溶液を混合する際の温度は特に制限されない。例えば15〜40℃の温度範囲で混合を行うことができ、23〜28℃の温度範囲であることが好ましい。
また混合の際の雰囲気も特に制限されない。通常の大気中で混合を行ってもよく、また窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で混合を行ってもよい。
【0100】
[その他の工程]
フッ化物蛍光体の製造方法は、必要に応じてその他の工程をさらに含んでいてもよい。例えば、第三の工程で生成したフッ化物蛍光体の結晶を濾過等により固液分離して回収することができる。またフッ化物蛍光体の結晶をエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。さらに乾燥処理を行ってもよく、その場合、例えば50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物蛍光体の結晶に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
【0101】
(他の蛍光体)
発光装置は、フッ化物蛍光体に加えて、他の蛍光体をさらに含むことが好ましい。他の蛍光体は、光源からの光を吸収し、異なる波長の光に波長変換するものであればよい。他の蛍光体は、例えば、前記フッ化物蛍光体と同様に封止材料に含有させて発光装置を構成することができる。
他の蛍光体としては例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、サイアロン系蛍光体;Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩;Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩;及びEu等のランタノイド系元素で主に付活される有機及び有機錯体等からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
他の蛍光体として具体的には例えば、(Ca,Sr,Ba)
2SiO
4:Eu、(Y,Gd)
3(Ga,Al)
5O
12:Ce、(Si,Al)
6(O,N)
8:Eu(β−サイアロン)、SrGa
2S
4:Eu、(Ca,Sr)
2Si
5N
8:Eu、CaAlSiN
3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu、Lu
3Al
5O
12:Ce、(Ca,Sr,Ba,Zn)
8MgSi
4O
16(F,Cl,Br,I)
2:Eu等が挙げられる。
他の蛍光体を含むことにより、種々の色調の発光装置を提供することができる。
発光装置が他の蛍光体をさらに含む場合、その含有量は特に制限されず、所望の発光特性が得られるように適宜調整すればよい。
【0102】
発光装置が他の蛍光体をさらに含む場合、緑色から黄色に発光する蛍光体を含むことが好ましく、380nm〜485nmの波長範囲の光を吸収し。495nm〜590nmの範囲に発光ピーク波長を有する緑色から黄色に発光する蛍光体を含むことがより好ましい。発光装置が緑色から黄色に発光する蛍光体を含むことで、液晶表示装置に、より好適に適用することができる。
【0103】
緑色から黄色に発光する蛍光体は、組成式が(Si,Al)
6(O,N)
8:Euで表されるβ−サイアロン、組成式がSrGa
2S
4:Euで表されるチオガレート、組成式が(Ca,Sr,Ba,Zn)
8MgSi
4O
16(F,Cl,Br,I)
2:Euで表されるハロシリケート、または、組成式が(Y,Lu)
3(Al,Ga)
5O
12:Ceで示される希土類アルミン酸塩蛍光体からなる群より選ばれる少なくとも1種の蛍光体であることが好ましい。緑色から黄色には発光する蛍光体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
(封止材料の蛍光体の含有量)
封止材料の蛍光体の含有量は、結着剤100質量部に対して、10〜200質量部の蛍光体を含むことが好ましい。結着剤100質量部に対して、蛍光体は、より好ましく20〜180質量部であり、さらに好ましくは30〜120質量部であり、特に好ましくは40〜100質量部であり、最も好ましくは40〜80質量部である。封止材料の蛍光体の含有量が上記範囲であると、発光素子を十分に被覆することができ、発光素子から発光した光を蛍光体で効率よく波長変換することができ、効率よく発光することができる。また、封止材料中の蛍光体の含有量が、結着剤100質量部に対して、10〜200質量部であると、均一な厚さで発光素子4を被覆する蛍光体7、8を含む第一の部位9と、発光素子4の直上において封止部材の全体の厚みの10分の1以上の厚みを有する第二の部位10を形成することができる。
【0105】
(第一の部位の蛍光体の含有量)
第一の部位の蛍光体の含有量は、第一の部位中の結着剤100質量部に対して、好ましくは20〜400質量部、より好ましくは25〜380質量部、さらに好ましくは30〜350質量部、特に好ましくは35〜300質量部である。第一の部位中に含まれる蛍光体の含有量が上記範囲であると、均一な厚さの蛍光体で発光素子を被覆することができ、発光素子からの光を蛍光体で効率よく波長変換することができる。
【0106】
(緑色から黄色に発光する蛍光体と赤色蛍光体の質量比)
蛍光体が赤色蛍光体(すなわち、フッ化物蛍光体)と緑色から黄色に発光する蛍光体を含む場合、緑色から黄色に発光する蛍光体と赤色蛍光体の質量比(緑色から黄色に発光する蛍光体:赤色蛍光体)は、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは10:90〜90:10、さらに好ましくは20:80〜80:20、特に好ましくは30:70〜70:30である。蛍光体が赤色蛍光体と緑色から黄色に発光する蛍光体を上記範囲で含む場合には、赤色蛍光体が、一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物を含むため、赤色蛍光体の発光スペクトルの半値幅が狭く、緑色から黄色に発光する発光スペクトルのピークとの隙間が大きく、発光素子からの光を吸収して、色再現範囲が広くかつ輝度の高い光を発することができる。
【0107】
(フィラー)
封止材料は、フィラーを含んでいてもよい。フィラーは、無機フィラーであることが好ましい。無機フィラーは、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタン酸バリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、タルク、炭酸マグネシウム、窒化ホウ素、グラスファイバー等を挙げることができる。中でも、フィラーは、アルミナ、シリカ、ジルコニアであることが好ましい。フィラーの形状は、球状、鱗片状、塊を粉砕した多形状のものが挙げられるが、球状のものが好ましい。フィラーは、レーザー回折散乱式粒度分布計で測定した体積平均粒径(メジアン径:d50)が1μm〜100μmのものが好ましい。フィラーは、レーザー回折散乱式粒度分布計で測定した体積平均粒径(メジアン径:d50)が、より好ましくは2μm〜80μmであり、さらに好ましくは2μm〜60μmであり、特に好ましくは2〜50μmである。
【0108】
封止材料のフィラーの含有量は、特に限定されない。封止材料中のフィラーの含有量は、結着剤100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜20質量部、特に好ましくは5〜15質量部である。結着剤100質量部に対して、5〜15質量部のフィラーを含むことにより、分散性が向上し、例えば赤色蛍光体と、さらに緑色から黄色に発光する蛍光体を含む場合には、封止材料中で赤色蛍光体と緑色から黄色に発光する蛍光体を均一に分散させることができる。封止材料にフィラーを含んでいる場合には、発光素子を蛍光体で均一に被覆するように蛍光体を遠心沈降により堆積させて、第一の部位を形成することができる。緑色から黄色に発光する蛍光体と赤色蛍光体が均一に分散した状態で第一の部位で発光素子を被覆することによって、色ずれが改善され、蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができる。
フィラーは、蛍光体とともに第一の部位に含まれてもよく、第二の部位に含まれていてもよい。
【0109】
(ナノフィラー)
封止部材を構成する硬化前の封止材料は、ナノフィラーを含んでいてもよい。ナノフィラーは、レーザー回折散乱式粒度分布計で測定した二次粒子の体積平均粒径(メジアン径:d50)が、5nm〜1000nm、好ましくは10nm〜200nm、より好ましくは20nm〜180nm、さらに好ましくは30nm〜150nm、特に好ましくは40nm〜120nm、最も好ましくは50nm〜100nmのナノフィラーであることが好ましい。
ナノフィラーの材料としては、例えば無機酸化物、金属窒化物、金属炭化物、炭素化合物及び硫化物の群から選ばれる少なくとも1種類の無機材料を用いることができる。無機酸化物には、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化シリコン、酸化アルミニウム等を挙げることができる。また、これらの複合無機酸化物を用いることができる。金属窒化物には、窒化シリコン等を挙げることができる。金属炭化物には、炭化シリコン等を挙げることができる。炭素化合物には、炭素単体であるが、ダイヤモンド又はダイヤモンド・ライク・カーボン等の透光性を有する無機材料等を挙げることができる。硫化物には、硫化銅又は硫化スズ等が挙げられる。中でも、ナノフィラーの材料は、酸化シリコンであることが好ましい。
ナノフィラーは、蛍光体とともに第一の部位に含まれてもよく、第二の部位に含まれていてもよい。
【0110】
封止材料中のナノフィラーの含有量は、特に限定されない。封止材料中のナノフィラーの含有量は、結着剤100質量部に対して、好ましくは0.1〜5.0質量部、より好ましくは0.2〜4.0質量部、さらに好ましくは0.3〜3.0質量部、特に好ましくは0.4〜2.0質量部である。結着剤100質量部に対して、0.1〜5.0質量部のナノフィラーを含むことにより、ナノフィラーが蛍光体の周囲に配置される。
従来のMn
4+で付活されたフッ化物蛍光体は、その粒子表面において、フッ化物蛍光体を構成する4価のマンガンイオンが空気中の水分と反応して二酸化マンガンが生成され、粒子表面が黒く着色された結果、輝度が低下する虞がある。
封止材料がナノフィラーを含む場合には、ナノフィラーがMn
4+で付活されたフッ化物蛍光体の周囲に付着し、4価のマンガンイオンと水分との反応をさらに抑制することができ、二酸化マンガンの生成によって、粒子表面が黒く着色することを抑制することができると考えられる。そのため、本形態の発光装置は、発光出力の低下と色度ずれを更に抑制することができ、長期の信頼性試験においてより優れた耐久性を達成することができる。
【0111】
封止材料中がナノフィラーを含んでいると、蛍光体、必要に応じてフィラー及びナノフィラーを結着剤中により均一に分散させておくことができ、パッケージの凹部に封止部材となる封止材料を注入する前、注入時において、蛍光体、必要に応じてフィラー及びナノフィラーを各パッケージの凹部にほぼ均等な量を注入することができ、各パッケージで色調にばらつきのない発光装置を形成することができる。
【0112】
(その他の材料)
封止部材を構成する硬化前の封止材料は、少なくとも結着剤と、蛍光体とを含み、必要に応じてフィラー及びナノフィラーの他に、結着剤が樹脂である場合には、樹脂を硬化させる硬化剤等を含んでいてもよい。また、封止材料中には、染料や顔料等を含んでいてもよい。封止部材の信頼性に悪影響を与えない程度に、光を拡散させるための空隙(ボイド)をある程度含んでいてもよい。
【0113】
(封止材料の製造方法)
封止材料の製造方法は、特に限定されず、材料等の混合順序も特に限定されない。
封止材料の製造方法としては、所定量の各材料を同時に混合する方法が、所定量の各材料を順次混合する方法等を挙げることができる。封止材料は、好ましくは、蛍光体、必要に応じてフィラー、必要に応じてナノフィラー、結着剤、その他の材料をこの順序で容器内に投入し、撹拌して製造することが好ましい。
【0114】
[発光装置の製造方法]
本形態の発光装置の製造方法は、凹部を形成する側壁を有するパッケージを準備する工程と、前記凹部の底面に発光素子を配置する工程と、下記一般式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体粒子の内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有するフッ化物蛍光体粒子と、結着剤とを含む封止材料をパッケージの凹部に注入する工程と、前記フッ化物蛍光体粒子を前記凹部の底面側に遠心沈降させた後、前記パッケージの凹部に注入された封止材料によって、前記発光素子を被覆しフッ化物蛍光体粒子を含む第一の部位と、この第一の部位上に配置され、フッ化物蛍光体粒子を実質的に含まない第二の部位とを含む硬化前の封止部材を形成する工程と、前記封止材料を硬化させ封止部材を形成する工程と、を含む発光装置の製造方法である。
A
2[M
1−bMn
4+bF
6] (I)
式中、Aは少なくともK
+を含み、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよいカチオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、bは0<b<0.2を満たす。
以下、
図1を参照に、発光装置の製造方法について説明する。
【0115】
(パッケージの準備工程)
凹部2を形成する側壁を有するパッケージ3を準備する。パッケージ3は、凹部2の底面に、第一のリード5及び第二のリード6を一体的に成形する。
【0116】
(発光素子の配置工程)
パッケージ3の凹部の底面を構成する第一のリード5の上に、発光素子4を配置し、ダイボンディングにより接着する。発光素子4の正負の電極(図示せず)は、それぞれワイヤ11、12により第一のリード5及び第二のリード6に接続する。また、本形態の発光装置の製造方法は、必要に応じて、発光素子4、第一のリード5、第二のリード6、及びワイヤ11、12は、絶縁部材(図示略)で覆う工程を含んでいてもよい。絶縁部材は、スパッタや蒸着によって、第一のリード5及び第二のリード6(導電部材)、ワイヤ11、12及び発光素子4上に無機化合物からなる膜(層)を形成することが好ましい。また、絶縁部材は、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)により膜(層)を形成することがより好ましい。
【0117】
(封止材料の注入工程)
次に、パッケージ3の凹部2に、少なくとも樹脂及び蛍光体7、8を含む封止材料を注入し、凹部2に封止材料を充填する。封止材料は、複数配置されたパッケージ3の複数の凹部2にシリンジ等で注入することが好ましい。封止材料は、必要に応じて、フィラー、ナノフィラー又はその他の材料を含んでいてもよい。
【0118】
(蛍光体の遠心沈降)
凹部2に封止材料を充填したパッケージ3は、強制的な遠心力を付加し、封止材料中のフッ化物蛍光体粒子7及び他の蛍光体粒子8を、発光素子4を被覆するように遠心沈降させた後、封止材料によって、発光素子を被覆し上記蛍光体粒子を含む第一の部位9と、その第一の部位9上に配置され、蛍光体粒子を実質的に含まない第二の部位10とを含む封止部材を形成する。凹部2に封止材料を充填したパッケージ3は、マガジンに入れて遠心機で十分に沈降するまで回転させ、蛍光体粒子を遠心沈降させることが好ましい。
【0119】
蛍光体粒子の遠心沈降は、遠心力と重力との合力の方向を、発光素子を配置するパッケージの底面に垂直な方向と一致させることにより行う。ここで、パッケージの底面とは、発光素子が載置された第一のリード5と、第二のリード6を含む。蛍光体粒子の遠心沈降は、遠心力と重力の合力の方向を、発光素子を配置するパッケージの底面の垂直方向と一致させることにより、封止材料中に分散されていた蛍光体粒子が、発光素子上及びパッケージの底面に均一な厚さで沈降し、均一な厚さの第一の部位9を形成することができる。
【0120】
蛍光体の遠心沈降は、発光素子4の直上において、第二の部位10の厚みが、封止材料全体の厚みの10分の1以上となるように行うことが好ましい。遠心沈降の条件、封止材料中の結着剤の種類や量、蛍光体粒子の種類や量を適宜調整することによって、第二の部位10の厚みを調整することができる。条件を設定して蛍光体粒子を遠心沈降することによって、第二の部位の厚みが、封止材料全体の厚みの10分の1以上となるように蛍光体粒子を遠心沈降させることができる。
【0121】
蛍光体粒子の遠心沈降は、さらに、発光素子4の直上において、第二の部位10の厚みが、封止材料全体の厚みの4分の1以上となるように行うことが好ましい。遠心沈降の条件、封止材料中の結着剤の種類や量、蛍光体粒子の種類や量を適宜調整することによって、第二の部位10の厚みを調整することができる。条件を設定して蛍光体粒子を遠心沈降することによって、第二の部位の厚みが、封止材料全体の厚みの4分の1以上となるように蛍光体粒子を遠心沈降させることができる。
【0122】
(封止材料の硬化工程)
そして、蛍光体粒子を遠心沈降させた後、結着剤を硬化させ、パッケージ3の凹部2に注入された封止材料によって、蛍光体を含み発光素子を被覆する第一の部位と、この第一の部位上に配置され、蛍光体粒子を実質的に含まない第二の部位とを含む封止部材が形成された発光装置を得ることができる。結着剤の硬化方法は、特に限定されず、結着剤の種類に応じて、硬化方法を適宜選択できる。
【0123】
<画像表示装置>
画像表示装置は、前記発光装置の少なくとも1つを備える。画像表示装置は、発光装置を備えるものであれば特に制限されず、従来公知の画像表示装置から適宜選択することができる。画像表示装置は例えば、前記発光装置に加えて、カラーフィルター部材、光透過制御部材等を備えて構成される。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0125】
(フッ化物蛍光体の製造例1)
表1に示す仕込み組成比となるように、K
2MnF
6を21.66g秤量し、55質量%のHF水溶液800gに溶解した後、40質量%のH
2SiF
6水溶液400gを加えて溶液Aを調製した。一方でKHF
2を260.14g秤量し、それを55質量%のHF水溶液450gに溶解させて溶液Bを調製した。また、40質量%のH
2SiF
6水溶液200gを秤量したものを溶液Cとした。
次に室温(23〜28℃)で、溶液Aを撹拌しながら溶液Bと溶液Cとを同時に滴下していくことで蛍光体結晶(フッ化物粒子)を析出させていき、表2に示すように、溶液Bと溶液Cのそれぞれ75重量%の滴下が終了した段階で一旦滴下を停止した(第一の工程)。
還元剤として15gを秤量した30質量%のH
2O
2水溶液を溶液Aに添加した(第二の工程)後、溶液Bと溶液Cの滴下を再開した(第三の工程)。溶液Bと溶液Cの滴下が終了後、得られた沈殿物を分離、IPA(イソプロピルアルコール)洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することで製造例1のフッ化物蛍光体(K
2[Si
0.97Mn
4+0.03F
6])を作製した。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
(実施例1)
(封止材料の製造)
赤色蛍光体として、製造例1のフッ化物蛍光体を使用した。緑色から黄色に発光する蛍光体として、(Si,Al)
6(O,N)
8:Eu(β−sialon)を使用した。緑色から黄色に発光する蛍光体と赤色蛍光体は、緑色から黄色に発光する蛍光体と赤色蛍光体の質量比(緑色から黄色に発光する蛍光体:赤色蛍光体)で、27:73となるように配合した。結着剤は樹脂であり、樹脂は、フェニルシリコーン(Dow Corning(登録商標OE−6630)を使用した。フィラーは、レーザー回折散乱式粒度分布計(MALVERN社製MASTER SIZER 2000)で測定した体積平均粒径(メジアン径:d50)が11μmのシリカを使用した。ナノフィラーは、レーザー回折散乱式粒度分布計(MALVERN社製MASTER、SIZER 2000)で測定した二次粒子の体積平均粒(メジアン径:d50)が12nmである、酸化シリコン(AEROSIL(登録商標))を使用した。各成分の配合は、以下のとおりである。封止材料100質量%中、樹脂の含有量は91.1質量%である。
撹拌容器に、蛍光体(赤色蛍光体及び緑色から黄色に発光する蛍光体)を投入し、次に、フィラー及びナノフィラーを投入し、最後に樹脂及び硬化剤を投入し、5分程度撹拌して、封止材料1を得た。
【0129】
(封止材料)
結着剤(シリコーン樹脂 主剤) 100質量部
赤色蛍光体(製造例1) 31.57質量部(43.25質量部×0.73)
緑色から黄色に発光する蛍光体(β−サイアロン) 11.68質量部(43.25質量
部×0.27)
フィラー(酸化シリコン) 5質量部
ナノフィラー(酸化シリコン:SiO
2) 0.4質量部
硬化剤(液状シリコーン樹脂) 400質量部
【0130】
(発光装置の製造方法)
凹部を形成する側壁を有するパッケージを準備し、凹部に発光素子を配置した後、封止材料1をパッケージの凹部にシリンジを用いて注入した。発光素子は、380nm〜485nmの範囲に発光ピーク波長を有するものを用いた。
次いで、凹部2に封止材料を充填したパッケージ3は、マガジンに入れて遠心機で十分に回転させ、蛍光体を遠心沈降させた後、パッケージの凹部に注入された封止材料によって、蛍光体を含み、発光素子を被覆する第一の部位と、その第一の部位上に配置され、蛍光体を実質的に含まない第二の部位とを形成した。硬化前の第二の部位の厚みが、発光素子の直上において、封止材料の全体の厚みの4分の1以上であった。具体的には、発光素子の直上において、封止部材の厚みが410μmであり、第一の部位の厚みが150μmであり、第二の部位の厚みが260μmであった。
蛍光体を遠心沈降させる工程において、遠心力と重力との合力の方向を、発光素子を配置するパッケージの底面の垂直方向と一致させて、蛍光体の遠心沈降を行った。
その後、封止材料を硬化し、蛍光体を含み、発光素子を被覆する第一の部位と、その第一の部位上に配置され、蛍光体を実質的に含まない第二の部位を含む封止部材を形成し、実施例1の発光装置を得た。
【0131】
図2は、実施例1の発光装置の断面を蛍光顕微鏡で撮影した20倍の写真である。
図2に示すように、実施例1の発光装置1は、蛍光体を含み、発光素子4を被覆する第一の部位9と、第一の部位9上に配置され、蛍光体を実質的に含まない第二の部位10が形成されていることが確認できた。
【0132】
(比較例1)
実施例1において、封止材料中の蛍光体を遠心沈降させることなく、第一の部位及び第二の部位を含む封止部材を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の発光装置を得た。比較例1の発光装置は、封止部材中に、蛍光体がほぼ均一に分散されていた。
【0133】
(PCT(Pressure Cooker Test))
実施例1及び比較例1に係る発光装置について、121℃、湿度100%、2気圧(atm)でプレッシャークッカーテスト(PCT)を行った。結果を
図3に示す。
【0134】
図3(a)に示すように、本開示の実施例1は、PCT200時間経過後も、発光装置の表面において変色は確認できなかった。
一方、
図3(b)に示すように、比較例1は、PCT4時間で、発光装置の表面に変色が確認できた。
図3(c)に示すように、比較例1は、PCT100時間で発光装置の表面の変色はさらに進み、
図3(d)に示すように、比較例1は、PCT200時間で発光装置の表面の変色がさらに進んでいた。このような変色を起こすことにより、その変色個所に光が吸収され、発光装置の色ずれや光出力の低下が起こると考えられる。
図3に示す結果から、本開示の実施例1の発光装置は、耐久性に優れることが分かる。
【0135】
(実施例2〜4、比較例2〜4及び参考例)
表3に示す赤色蛍光体及び緑色から黄色に発光する蛍光体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして発光装置を製造した。また、参考例に係るは発光装置として、蛍光体はYAGを使用した。参考例、実施例2〜4及び比較例2〜4の発光装置は、いずれも蛍光体を含み、発光素子を被覆する第一の部位と、その第一の部位上に配置され、蛍光体を実質的に含まない第二の部位を有する封止部材を有する。
【0136】
(NTSC比)
参考例、実施例2〜4及び比較例2〜4の発光装置を画像表示装置に組み込んだ。これらの画像表示装置のNTSC比を測定した。
NTSC比とは、アメリカテレビジョン標準化委員会(National Television Standards Committee)によりCIE1931 XYZ表色系の色度(x,y)にて定められた標準方式の3原色、赤(0.670,0.330)、緑(0.210,0.710)、青(0.140,0.080)を結ぶ三角形を基準として、画像表示装置の赤・緑・青単色の色度を結んで得られる三角形を比較した面積比のことである。この面積比が即ち色再現範囲として定義され、その比率が高いほど色再現性が高いと判定される。
画像表示装置は、CIE1931色度図上において、色再現範囲が、NTSC比70%以上であることが好ましい。
【0137】
(sRGB)
参考例、実施例2〜4及び比較例2〜4の発光装置を画像表示装置に組み込んだ。これらの画像表示装置のsRGBを測定した。
sRGB比とは、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)によりCIE1931 XYZ表色系の色度(x,y)にて定められた標準方式の3原色、赤(0.640,0.330)、緑(0.300,0.600)、青(0.150,0.060)を結ぶ三角形を基準として、画像表示装置の赤・緑・青単色の色度を結んで得られる三角形を比較した面積比のことである。この面積比が即ち色再現範囲として定義され、その比率が高いほど色再現性が高いと判定される。
【0138】
(相対光束:Relative Flux(LED))
参考例、実施例2〜4及び比較例2〜4の発光装置について、積分球を用いて光束を測定し、参考例の光束を基準とした相対光束を算出した。
【0139】
参考例、実施例2〜4、比較例2〜4の発光装置のNTSC比、sRGB、相対光束(LED)の測定の結果を表3に示す。表3中の蛍光体においてかっこ内に示した数値は、各蛍光体の発光スペクトルにおけるピークトップの波長(発光ピーク波長)を示す。
【0140】
【表3】
【0141】
表3に示すように、製造例1の蛍光体を使った実施例2〜4の発光装置は、製造例1の蛍光体以外の蛍光体を使った比較例2〜4の発光装置と比較して、NTSC比、sRGB、相対光束(LED)のいずれもが優れた数値を示しており、色再現性、相対光束(LED)のいずれもが改善された。参考例の発光装置の相対光束100に対して、比較例2〜4の発光装置の相対光束は58、64、68と低下していたが、これらの比較例2〜4の発光装置に対して、実施例2〜4の発光装置の相対光束は87、82、75と改善された。